意見書

平成9年10月17日

電気通信審議会
 電気通信事業部会長 殿

会社名  U S WEST international
住 所 9785 Maroon Circle, Suite 210
Englewood, CO 80112
the United States
名 前 Martin Taschdjian
Exective Director, International Public Policy



 電気通信審議会議事規則第5条の2及び接続に関する議事手続細則第2条の規定により、平成9年9月26日付け郵通議第64号で公開された郵政省令案「指定電気通信設備接続会計規則及び指定電気通信設備の接続料に関する原価算定規則の制定案に係る関係資料の送付について」に関し、別紙のとおり意見を提出します。



(別 紙)

拝啓

 貴省より発表された相互接続原価算定の会計規則を拝見させていただき、USウェストインターナショナルは、以下の通り意見を謹んで述べさせていただきます。

 NTTのような電気通信ネットワークは本質的に単一のシステムであると考えます。したがって、すべてのサービスが呼の伝送においてネットワークの多くの部分を共用しているので、費用配賦の基準は恣意的になります。コストが恣意的であれば、それに依存して決まる利益の計算も同様に恣意的になります。

 このような事を我々が書いている目的はこのような方法自体を否定しているわけではなく、むしろそのような方法の適用を、そのような方法が必要でかつ有効な分野に限定するべきであるということを主張するためです。所得税の計算などはその例です。しかし総括原価の方法が市場に悪影響を与えるような分野には適用するべきではないと考えます。相互接続会計の場合は特に危険です。

 我々は多くの国で既存事業者と規制当局が「相互接続サービス」に、アクセスの赤字負担やユニバーサルサービス負担として、恣意的に高い費用を配賦しているのを見てきました。そのような負担は総括原価による恣意的な配賦により算定されてました。その結果高くなった相互接続料金は競争を抑圧し、参入のシグナルを歪め、規制組織や、法廷、あるいは通商委員会において終わりのない論争を引き起こしました。

 このようなマイナスの結果を避けるために、再度貴省に弊社の考えを申し上げたいと思います。


 ABC方式の目的は事業の活動とそれを支援する機能との間の因果関係をできるだけ事実に近づけることであります。弊社はこの目的が達成されるならば大変喜ばしいことだと考えます。しかし、弊社の見解ではこのような目的を達成するには費用発生原因にもとづき接続費用を直接計算する方法−すなわち長期増分費用方式−を導入するほうがよいと考えています。
 また、配賦しなければならない帰属不可能な固定費の比率を減らすという意味において、ABC手法は総括原価方式の改善された形ではありますが、その費用の少なくない割合を、恣意的に配賦しなければならないという総括原価方式固有の問題点は依然として残ります。税金の計算や内部会計をおこなう場合であればこのような問題点は障害とはならないのですが、日本の利用者が競争的通信市場においてそれなしには通話ができない着信足回りの価格設定に用いられると致命的な欠点となります。弊社は、貴省が相互接続政策の変更によりそのような危機的で不安定な状況となることを避けるよう、謹んでお願いいたします。そのためには、相互接続料金の算定の基準となる透明性の高い長期増分費用を発展させる研究会を、すべての事業者が参加できるような形で、1999年には実施できるようすぐに開催していただくことがもっともよい方法であると考えます。
 この方法は、世界貿易機構(WTO)のサービス貿易に関する付託書(Reference paper)に対する日本の合意とも一致すると思われます。付託書が意味する要件についての弊社の見解を述べた資料を、ご参考までに添付させていただきます。

結論
 弊社は貴省に対して、この重要な発議に対して弊社の意見を述べさせていただく機会をいただけたことに感謝の意を表したいと思います。弊社は、先に述べました研究会が望ましい結論に到達するために、弊社の経験や資源を提供する準備があります。弊社が新しい電気通信市場による利益が日本の人々にもたらされることを真剣に望んでいることの証として、弊社の参加の要望が受け入れられることを望んでおります。

敬具





 貿易に関するWTO合意の電話サービスへの適用 

GATS付託書の要件


US WEST インターナショナル
1997年8月12日


行政手続きの要約

 1997年2月15日にWTOの付託書(Reference Paper)が65カ国で(全文あるいは部分的に)受け入れられたということは、電気通信の基本サービスについて規定のある「サービス貿易に関する総則(GATS)」という付属書を含んだ、画期的なWTO協定にとって大変重要な出来事であったと考えられる。
 この交渉の場において市場アクセスに関する公約の合意をえようとするWTOのメンバー国がこの付託書を受け入れたことは、次のような認識が広がっていることを示している。

 付託書において述べられた基本電気通信サービス規制の枠組みにおける定義と原則は、単に外国や国内の投資家に対する法的な参入障壁を低くすることや市場圧力にのみ信頼を置くことでは、改革としては不十分だということが世界的に合意されているという事実を反映している。

 しかし、競争的な電気通信市場を創造するという目標を達成する方法は国によって異なっている。GATS協定の目的は、ひとつのモデルをすべての国に強いるのではなく、むしろ通信市場の競争への道をそれぞれの国がどのようにとろうとも、規制当局が、利用者と新規参入事業者を既存の事業者の支配的な地位の濫用から公正な方法で守ることであり、また、たとえ競争的な環境であっても、市民がお互いに通信する権利がそこなわれないことを保証することである。その実現のために、次のような原則が、規制当局の役割と範囲として規定されなければならない。
 なによりも、規制当局はかれらの決定が投資家に対してシグナルを送っていることを理解するべきである。

 GATS協定の付託書は決してアメリカの通信政策を採用するように拘束しているわけではない。国際的な投資の流れを促進するような開放された制度により、すべての事業者が公正に取り扱われ、支配的な地位の濫用からまもられ、社会的な義務が公正に課されることを保証するような制度環境の創造を促進しているのである。

 付託書はこれらを実現するために必要なものとして、定義と原則を述べているのである。
 この小論の目的は、この世界的な合意の理解を深めるために、解説をおこなうことであり、以下章ごとに逐次解説を加える。
 付託書の本文は太字により表記され、その解説が平文でかかれている。

定義
ユーザー: サービスの消費者及び事業者
不可欠設備: 公衆電気通信伝送ネットワークあるはサービスの設備で
(a) 単一あるいは限られた数の事業者により排他的あるいは独占的に提供され、
(b) サービスを提供するために実行上あるいはは経済的に代替することができないものをいう。
利用者: 利用者に事業者も含めていることは、事業者が他の事業者から伝送設備や他の通信サービスを購入している場合や、単純な再販の場合や情報処理の提供による付加価値サービスの提供やエンドユーザーへの販売のためにその他の機能の提供を受けている場合でも、事業者は顧客とみなされるべきとの認識を示している。
顧客として彼らは公正な価格により提供をうける権利があり、その関係はまさしく売り主と顧客の関係である。

不可欠設備: アメリカ法(MCIvsATT 708 F.2nd 1081 at 1132)によれば、不可欠設備の原理は、独占の状態あるいは独占しようとする行為を禁止するシャーマン反トラスト法違反のなかで、「扱いの拒絶」という種類の違反にあたる。
この原理はある企業が、潜在的競争者にとってアクセスすることが必須であるような特定の資産あるいは希少な資源に対して、市場独占力を保持している場合に適用される。
不可欠であるためには、その資源がその競争相手に対して、ただ有用であるだけでは不十分で必須でなければならない。アメリカ法によると、その要件は次の通りである。

  1. 不可欠設備を独占企業がコントロールしていること
  2. 競争相手が不可欠設備を実際上あるいは理論上複製することが不可能であるこ
  3. 競争相手へ設備利用を拒絶することができること
  4. 設備を競争相手へ提供することが最適と考えられること
 利用者への通話の着信足回りは他の競争相手の複製不可能性の古典的な例である。
 もし規制当局の参入規制がなく、新規参入事業者が加入者回線と伝送ネットワークを建設したとしても、基本サービスを提供するために、通話を完成させるためには他の事業者に依存しなければならない。

支配的事業者: 支配的事業者とは、不可欠設備をコントロールすることにより、あるいはその市場の価格をつり上げたり、生産量を制限する力を行使することにより、市場を支配する地位にある事業者をいう。

 市場シェアだけが、ある企業が市場支配力をもっているかどうかを判断する唯一の要素ではなく、需要と供給の弾力性や参入の条件や他の市場の条件を調査する必要がある。しかし競争が導入されたばかりの市場におけるほとんどの既存事業者は、競争が機能するまでは明らかに市場支配力を持っている。

1.競争の保護
1.1 通信市場における反競争行為防止
 支配的事業者が単独であるいは共同で反競争的行為をおこなう、あるいはとり続けることを防止するために適切な措置が講じられなければならない。

1.2 防衛策
 上で反競争行為と呼ばれた行為は次のようなものを含む。


  (a) 反競争的な内部補助

反競争的は内部補助の防止: 電気通信市場への新規参入事業者からは、2種類の反競争的内部補助がしばしば指摘される。一番目は独占的な市場の価格を上げ、競争的市場の価格を下げる形態である。このような場合、競争的な市場での価格をコストに近づけるというリバランシングが求められる。しかし、合計収入を変化させずに、長距離とローカルのサービスの価格をリバランシングしようとする場合、新規事業者そのようなリバランシングは反競争的な内部補助であると主張する。

 二番目は競争的な市街地域とあまり競争的でないあるいは全く競争のない地方の市場との間においておこる。既存事業者が都市部と地方と平均化されていない料金を個々に設定することは、新規事業者に反競争的な内部補助と主張される。しかし、価格リバランシング、狙い撃ち料金、サービスの一本化提供、そして価格の非平均化はそれ自体は反競争的な行為ではない。そのような行為が反競争的になるには、独占力が存在してなければならない。競争的市場では一本化パッケージ化サービス、大口割引、特別契約などは期待されており、また促進されるべきものである。

 競争法では、反競争的内部補助があるかの判断は別の方法が普通とられる。もし、競争的市場のサービスや商品が長期増分費用を下回っており、それによる損失を独占的市場の料金を長期増分費用よりも高く設定することにより補填していれば、反競争的内部補助がおこなわれていると判断される。

 歴史的にはさまざまな方法がとられてきた。提供されているものがサービスの場合、構造的な分離や会計的分離が用いられてきた。地域的内部補助の場合、多くの国で支配的事業者に対して全地域均一価格を義務づける方法がとられている。3つめは新規参入事業者の事業が安定するまで一時的な制約を支配的な事業者に課す方法である。(しかし、このような「温室的」あるいは幼稚産業保護はその恩恵を受ける地位に安住する傾向があるため、必要以上にその期間が長引く傾向がある。そしてそのような場合、それが誤っていてもそれを正す事が出来ないような政府の市場への恣意的な関与をうむ余地もある。) どの方法がとられても、信頼できる手続きが必要である。それは規制当局が必要と判断した場合データの提供を強制でき、一時的な監査ができる権限をもつことを意味する。上記のような方法がとられてきたのは長期増分費用は算定するのが困難なためである。また、支配的事業者が抱き合わせ販売により、非競争的市場の市場支配力を競争的市場においても行使することを防止する政策も行う必要がある。

  (b) 反競争的な方法により競争相手から得た情報の活用

情報の保護: すべての事業者は相互接続のために他の事業者から知り得たすべての情報を財産権として扱うことが必要である。保護の対象は、接続の提供により得られた、例えば競争事業者の事業計画や営業計画、トランクの利用形態、最繁時呼量、ネットワークアーキテクチャー、設備の種類なども保護されるべきである。

  (c) 不可欠設備に関する技術情報や、サービス提供に必要となる営業上の関連情報を他のサービス提供事業者に速やかに開示しないこと

速やかな技術的あるいは営業情報の開示: 支配的事業者は、他の事業者のサービス提供に必要な技術情報、営業上の関連情報を速やかに開示する必要がある。このように、支配的事業者は、相互接続や番号計画の協定の締結に影響するすべての情報を詳細に、そして必要なネットワークの改造が可能なように時間的余裕をもって開示しなければならない。

2.相互接続

2.1 この章は公衆ネットワークや公衆サービスを提供している事業者の利用者が、他の事業者の加入者との通話や、他のサービス提供事業者が提供するサービスへのアクセスが可能となるための相互接続で、特別なコミットメントがなされている場合に対して 適用される。

2.2 確保されなければならない相互接続
支配的事業者は、ネットワークのあらゆる技術的に可能な点において相互接続を可能にしなければならなない。そのような相互接続は以下の条件で提供されなければならない。:


  (a) 期間や提供条件(技術標準や技術仕様を含む)や料金において差別的な取り扱いをしないこと、また、自らのサービスや出資会社、子会社への提供している品質以下で提供しないこと

 これらの条文は、たとえ競争的な電気通信市場であっても、「誰とでも話せる」ことを保証することは、公衆の利益に必須との考えを示している。一つのネットワークの加入者が他のネットワークのどの加入者とも通話できるようにするために、すべての公衆ネットワーク事業者に相互接続の義務を課すことは、競争を促進させるための前提条件となる。

 しかしながら、これらの条文はその設備やサービスが上記の定義による不可欠設備と規制当局により指定された場合でなければ、他の事業者への設備やネットワーク要素を、費用にもとづいた料金により提供する義務を課すものではない。新規参入事業者が複製不可能な設備やサービスのみ、費用にもとづいた料金で提供する義務を課すべきである。複数の供給事業者がいる場合や、自ら建設することが可能な設備やサービスに関しては市場価格で提供されるべきである。

期間や提供条件(技術標準や技術仕様を含む)や料金において差別的な取り扱いをしな いこと: 新規の公衆サービス提供事業者がサービスを提供するためには、彼らの加入者から、通話を受けとらなければならず、また競争的な地域事業者あるいは長距離事業者の場合、他の電気通信事業者の加入者へ通話を着信させなければならない。ほとんどの国では、発信足回りを提供する代替的な地域事業者がいないので、支配的事業者が全国的なネットワークインフラを独占しているので、長距離事業者やその他の事業者は、支配的事業者の地域網が自らの加入者からアクセスされるための第一の手段になっている。支配的事業者が発信足回りを長距離事業者や他のサービス提供事業者に差別のない条件での提供の保証は適切かつ公正な競争のためには不可欠である。

 しかしながら、このことは国が利用者に優先的に接続する長距離事業者の事前選択を強制することを意味してはいない。利用者はそうすることを望むかもしれないが、そのような手続きを命令することはこのような方式が採用された市場のみを分離させる結果となる。(ア メリカではこのような方法が、ベルシステムへの命令の一環として行われた)イギリスのいくつかの研究において、イコールアクセス政策の費用はその利得をはるかに上回ることが証明されてる。

 支配的事業者に、「あらゆる技術的に可能な個所」で他の事業者との相互接続を義務づけることは、他の事業者がサービスを開始するために必要な設備やネットワーク要素を自前で調達するか、支配的事業者から差別のない料金で提供を受けるか選ぶ権利があることを意味している。

非差別的な技術標準と技術仕様: 非差別的な条件のもとでの相互接続を義務づけるということは、双方の合意してる場合でなければ、支配的事業者自身のトラフィックに対して提供する場合と同等の機能が提供されるような、公開され、標準化されたオープンなインターフェースにより相互接続し運用される必要がある。

非差別的な料金:すべての類似した形態の接続料金は、支配的事業者の関連会社や子会社に対する接続料金と同じでなければならない。同様に非差別的という原則は、その提供されるサービスや接続する事業者の性格にかかわらず同じような接続協定には同じ料金が適用されなければならないことを意味している。

非差別的な品質:支配的事業者によって接続事業者に提供されている相互接続の品質は、特定のバリエーションが合意されているのでなければ、自分自身のサービスに適用されている品質を下回ってはならない。

非差別的な最終利用者へのアクセス:ある事業者の加入者が他の事業者の加入者とシームレスに通話可能にするならば、番号体系と発番手順は非差別的でなければならない。番号体系は全ての現存する利用者あるいは潜在的な利用者も含めて、その地域事業者や中継事業者がどこであろうと、またどのような技術が使われていようと、他の利用者とシームレスに通話可能でなければならない。

  (b) 期間や条件(技術標準や技術仕様を含む)が速やかで現況に即していること、料金が経済的に妥当であり、透明性がありかつ合理的な、費用にもとづいたものであること、事業者がサービス提供に必要のないネットワーク要素や設備に対して支払をしなくてもよいよう十分にアンバンドルされていること

相互接続の速やかな提供:世界中の実例が示すように、支配的事業者は他の事業者への相互接続の提供を遅延させる機会が数多くある。このような結果を避けるために、交渉の進展のための厳格な時間表が必要である。

費用に基づく料金:料金設定の場合、規制の原則は可能な限り最大限、市場に料金設定を委ねることとすべきであり、規制の介入は市場力が十分でないような場合に限るべきである。競争的な電気通信市場の利用者は、多くの競争的なインフラを構築しているサービス提供事業者から発信事業者を選ぶことができるので、利用者(上で定義した通り事業者も含む)に対する料金は可能な限り最大限市場に委ねるべきである。

 先に述べた通り、支配的な事業者が独占市場の利用者料金を高くし、競争的な市場での料金を低くすることによりその地位の濫用を行なえることは、略奪的な内部補助の効果を持つだろう。しかし、このような戦略の成功は一時的であり、独占市場に新規事業者が参入してくれば、このような支配は崩れるだろう。

 利用者料金の過度な規制は、地域のインフラベースの競争の進展を防げる可能性がある。新規事業者は発信足回りは自ら建設するか購入するかの決定ができるので、もし規制当局が発信足回りの料金を過度に安くするならば、新規事業者は自ら設備を建設するインセンティブが失われる。一方高く設定しすぎるならば利用者は必要以上に高い料金を支払わなければならない。バランスが必要である。しかし、どのようなレベルが選ばれようとも、発信足回り料金は、決定権のある主体に向けられた料金であり、その性質は小売価格であることに注意しなければならない。伝統的なプライスキャップ規制方式はこのような料金を規制する一つの方法である。

 着信足回り料金は違う。これらは決定権のない主体に対する料金である。公衆サービスを提供している全ての事業者はその通話を、たいていの場合他のネットワークに着信させなければならないので、着信足回りの料金は着信足回りの効率的な提供にかかるコストを十分にそして公正に償う、可能な限り低いレベルの料金でなければならない。

 この問題に関しては、WTOの付託書を受け入れた国は、事業者のなかで意見が大きく分かれることを認識しなければならない。

 また支配的事業者が競争的あるいは潜在的に競争的な市場でサービスを提供しており、かつ支配的事業者が他事業者に提供している不可欠設備をそのサービスの提供において利用する場合、その提供価格はその競争的サービスの最低価格(Price floor)の一部(不可欠設備部分)でなければならない。

アンバンドリング: アンバンドリングは物理的なネットワーク要素を、部品の集合に分解することである。事業者の間でも、アンバンドリングの目的や水準に関しては議論がある。先進的な消費者や新規サービス提供事業者、競争的長距離事業者にとってアンバンドリングは、建設する必要のない、あるいは余分な設備を購入する負担を少なくする。また支配的事業者の反競争的な抱合せ販売の危険からまもってくれる。

 しかしながら、ネットワークのアンバンドリングはサービスと設備の違いをあいまいにする傾向がある。複数のサービスが通常同じ設備により提供されている。例えば発信における加入サービス(ダイヤルトーン)と着信における加入サービス(相互接続)とは通常同じ設備により提供されている。しかしこれらのサービスの経済学的な性質は著しく異なっている。前者は非常に競争的であるが、後者は本質的に違った特色を備えている。長距離事業者は、例えば、利用者までの加入者回線をみずから建設するか、あるいは他の事業者の加入者回線を利用して間接的にアクセスするか選ぶことができる。したがって購入するか建設するかの判断が可能である。しかし、通話は世界のどこかに着信しなければならず、それは発信した利用者と同じネットワークの利用者に対してではないかもしれないのである。

  (c) 多くの相互接続事業者に対して提供しているネットワークの終端点に加えて、要求する個所で、必要な追加設備の建設費用に応じた利用料金をはらうことにより、接続できること

規制当局の直接規制による場合も関係者同士の交渉による場合も、相互接続の料金は含まれる費用を十分に補うものでなければならない。

2.3相互接続の交渉手続きの公開

    支配的な事業者に対する相互接続の手続きは公開されなければならない

相互接続の手続きの公開: 相互接続協定締結の過程は、すべての関係事業者が相互接続を行う場合の権利と義務について事前に把握できるよう明確に規定されなければならない。

 政府は、相互接続の技術的あるいは営業的条件についての業界標準を作成するため、独立した規制当局のサポートのもと業界による研究会の活用も検討されるべきである。そのような研究会はアメリカのいくつかの州において成功を収めており、またイギリスでも成功している。

2.4相互接続協定の透明性

    支配的事業者は、接続協定か他の事業者からの接続要求書を公開することを義務づけられなければならない。

 支配的事業者のネットワークやサービスへの相互接続のための料金や接続条件を公開することは非差別的な取り扱いを促進する。しかしながら、相互接続協定を締結する過程で知り得た情報は同意がなく公表されないように、厳罰にもって、特に強く保護する必要がある。

2.5相互接続: 紛争の調停

    支配的事業者との接続を要求するサービス提供事業者は、
(a) いつでも、あるいは
(b) 公に定められた合理的な期間の後に
独立した国内組織によって、それは5章で言及する独立規制組織となるだろうが、合理的な期間内に、前例がない場合はその程度に応じた期間内に適切な、接続条件および料金に関する紛争が解決されるような手段があたえられなければならない。

調停の手段: 独立した仲裁者による紛争の迅速な解決は、既存事業者が新規参入事業者に対して相互接続を不合理に遅らすといった威嚇がおこなわれないよう保証するために不可欠である。

独立した規制当局の必要性: 裁判が紛争の解決に習慣的なあるいは迅速な手段とはなっていない国においては、独立した規制当局は不可欠である。規制当局はデータを提出させ、自らの主導により介入を行う権限を持ち、利用者の利益や競争による社会の便益に対して、明確な責任をもつべきである。また、必要ならば正当な手続きを経たのちに免許の見直しを行う等の、制裁を科す権限が与えられるべきである。

3.ユニバーサルサービス

    すべての参加国は、維持するのに望ましいユニバーサルサービス義務の種類を、自らの国で定義する権利がある。
それらの義務が透明で非差別的で、競争に対して中立的な方法で施行されのであり、またその定義に対して事業者が必要以上に負担をおうのでなければ、そのような義務はそれ自体が反競争的とみなされるべきではない。

 社会的な義務が遂行されることを保証する最良の方法は、提供されるサービスの費用を細分化するような政策をとることである。事業者に、最新の有線や無線の技術の採用の促進させることによって、競争を促進する政策は有力な方法である。他の方策はプライスキャップのようなインセンティブ規制を使うことである。(プライスキャップは既存事業者の費用削減を促しつつ支配的な地位の過渡的な濫用をも防ぐ一石二鳥の方法である)

 規制当局はユニバーサルサービス義務のコストを評価するために、総括原価を用いるべきではない。費用の配賦の恣意性はその利益と損失について、無限の適切な解をしめすことができるのである。いかなるユニバーサルサービス義務であっても、利用者(あるいはある階層の利用者)が負担可能な額と、決められた水準のサービスを効率的に提供する費用との差分のみを負担すべきである。そして、決められた基本的な水準のサービスの費用を負担できない利用者のみ補助を受け取るようにするべきである。このような対象を絞った補助は、その資格があればどの事業者の加入者であっても受け取れるようにすべきであり、もし可能であれば、運用コストを最小にするために既存の政府の福祉配分システムを利用すべきである。

 独占状態に最適なユニバーサルサービス提供システムであっても、競争環境下では最適とは限らない。特に加入者回線の赤字分、これは総括原価方式で発生し、レートリバランシングと結びつくが、これをユニバーサルサービスの費用とみなしてはならない。

4.事業免許基準の公開

    事業免許が必要となる分野においては、次のことが公開されてなければならない。

(a) すべての免許基準と、免許の申請に対する決定が下されるまでの通常必要な期間
(b) 個々の事業免許に必要な要件

事業免許申請の却下の理由は、要望があれば申請者に対して明らかにしなければならない。

 免許の申請を恣意的な基準により却下されるような事態を防ぐために、免許付与のすべての基準の公開、申請手続き自体の公開、決定までの期間の明示など、手続きの透明化が必要である。免許の許可もしくは却下は、許可された場合も却下された場合もその理由を添付した文書により行われるべきである。

5.独立した規制組織

    規制組織は基本通信サービスの事業者とは分離されなければならず、利害関係があってはならない。規制組織による決定や手続きはすべての市場参加者に対して公平でなければならない。

独立した規制機関: 規制当局は公共の利益にもとづき紛争を解決しなければならないので当事者と利害関係が実際にあってはならないし、またそのように見えてもいけない。
既存事業者から独立していることは市場の支配的な事業者との利害関係をもたないようにするために必要であることは明白であるが、政府からの独立の必要性というのはあまり明確ではない。

 確かに、規制当局は政府組織となるだろう。その法的地位はそれぞれの国の法的あるいは制度的構造に依存して異なってくるだろう。しかし、どのような場合でも必要なのは、オープンアクセスの原則と公平な決定が、短期的な政治的な判断により不当に妥協することがないように、明確な権威付けと権力をもつことである。既存事業者の株式が大蔵省により所有されている場合や民営化が国の財政改革のプログラムの一部の場合、政治的な介入の危険性が特に深刻である。信頼できる規制当局が力のある個人によって構成されている場合、その交代によって力がそがれる。もっとよい方法は、安定した明確な責任と、一連の標準化された手続きによって規制が行われることである。そのような要件が満たされているのであれば、規制当局が(インドのように)大臣のもとに組織されようと、(アメリカやイギリスのように)独立した団体であろうと重要ではない。

経済的な投資の指標の保証: 事業者に対する取り扱いの公平性という付託書の要件にかかわらず、規制当局のおこなう行為は必然的に投資家に対するシグナルとなるので、そのことは留意しなければならない。例えば、ある市場のサービスの価格を人為的に低く押さえると、そこへの新しい投資はおこなわれず、そのかわりもっと利潤の得られる市場や他国への直接投資へと向かうだろう。同様に、相互接続の料金は、他の事業者が自前で建設するか他事業者から購入するかの決定を下す基準となる。相互接続の要素を(着信足回りのように)自前で建設することが不可能でなければ、高い価格を設定することは自前の建設を促進し、低い価格を設定することは設備借りを促進する。イギリス型とアメリカ型の違いが示すように、投資家が自前の建設をするか設備借りをするかの意思決定と、電気通信インフラの発展との関係は決してささいなことではない。

 ベル電話会社の分割後のアメリカの競争政策は、発信足回りと着信足回りを同じように扱ったため、引込線は結局1本しかないという結果になった。
発信足回り料金は長距離事業者のバイパス(すなわち自前の設備の建設)を防止するために着実に値引きされた。その結果アメリカでは地域サービスではインフラベースの競争がほとんとおこらなかった。しかし、長距離市場ではたくさんの事業者が参入した。

 それに対して、1990年の複占政策の見直し後、イギリスの規制は代替的な地域通信インフラの発展を促進した。考慮された、着実な速度でレートリバランシングを行い、ケーブルテレビ事業者による電話サービスの提供を奨励し、セルラー、PCN、あるいは固定加入者無線の事業免許が許可され、外国からの投資も奨励された。その結果、イギリスはダイナミックで活気に満ちた発信足回り市場ができ、多くの家庭で複数の地域通信事業者から選択することができ、かつそのようにできる家庭の比率は着実に増加している。長距離市場は、多くの事業者が免許を獲得したにもかかわらず、アメリカとは対照的に競争は進展していない。

6.希少な資源の配分と利用

    電波や番号、空間の利用権などの希少な資源の配分と利用のための手続きはすべて、客観的で、タイムリーに、透明で非差別的に行わなければならない。
周波数帯域の割り当ての現状は公開しなければならない。ただし政府による特定の利用のために割り当てられた周波数の詳細な利用状況については、その必要はない。

周波数の割り当て: 公衆網サービスあるいは専用サービスのために周波数を利用する権利は他の免許と同様に透明なルールのもとで与えられるべきである。

電話番号: 電話番号は利用者が「検索し検索される」ための重要な機能の一部である。もしこのような機能が損なわれるならば、シームレスな「誰とでも話せる」ネットワークからえられる圧倒的な公共の利益は犠牲になる。番号資源は、業界のすべての分野の代表がその構成委員に入っている中立な団体による、公正な番号計画により、公正な、差別のない方法で管理されなければならない。

 番号ポータビリティは電話サービス事業者を変更するさいに利用者が直面する障害を減ずる。おなじ番号を引き続き所有できないということは、利用者の事業者間移動の障害となるので全国的な支配的事業者が競争上有利になる。

土地使用の権利: ほとんどの場合、国営の電話事業者が設備を構築したさいに、政府の代理人としてその事業をおこなった。このことは純粋民間事業者が通常では得られない条件で公有あるいは市有の土地を使用できたことを意味する。しかし、新規事業者が、鉄塔、公用地の利用、歩道、ビルへのアクセス、電柱などの利用を制約されていることは、競争の大きな障害となる。規制当局は、公用地の利用権を免許をもつすべての事業者が差別なく利用できるようすることにより、過去の独占による支配的事業者の特権が決して新規事業者のネットワーク建設の障害になってないことを保証するべきである。

 不可欠設備と指定される基準となる土地の利用権の独占が、新しい競争の障害となることは避けるべきであり、支配的事業者が独占している利用権を、新しい事業者が合理的な条件で利用できることは保証されるべきである。しかし、新たな私有財産に対する利用権の場合は、新規事業者による利用は交渉により行われるべきである。






APPENDIX: THE GATS REFERENCE PAPER

Scope

The following are definitions and principles on the regulatory framework for the basic telecommunications services.

"Definitions

Users mean service consumers and service suppliers.

Essential facilities mean facilities of a public telecommunications transport network or service that

  (a)  are exclusively or predominantly provided by a single or limited number of suppliers; and

  (b)  cannot feasibly be economically or technically substituted in order to provide a service.

   A major supplier is a supplier which has the ability to materially affect the terms of participation (having regard to price and supply) in the relevant market for basic telecommunications services as a result of

  (a)  control over essential facilities; or

  (b)  use of its position in the market."

"1. Competitive safeguards

1.1  Prevention of anti-competitive practices in telecommunications

   Appropriate measures shall be maintained for the purpose of preventing suppliers who, alone or together, are a major supplier from engaging in or continuing anti-competitive practices.

1.2  Safeguards The anti-competitive practices referred to above shall include in particular:

(a)  engaging in anti-competitive cross-subsidization;

(b)  using information obtained from competitors with anti-competitive results; and

(c)  not making available to other services suppliers on a timely basis technical information about essential facilities and commercially relevant information which are necessary for them to provide services.

"2. Interconnection

2.1  This section applies to linking with suppliers providing public telecommunications transport networks or services in order to allow the users of one supplier to communicate with users of another supplier and to access services provided by another supplier, where specific commitments are undertaken.

2.2  Interconnection to be ensured

Interconnection with a major supplier will be ensured at any technically feasible point in the network. Such interconnection is provided.

(a)  under non-discriminatory terms, conditions (including technical standards and specifications) and rates and of a quality no less favourable than that provided for its own like services or for like services of non-affiliated service suppliers or for its subsidiaries or other affiliates;

(b)  in a timely fashion, on terms, conditions (including technical standards and specifications) and cost-oriented rates that are transparent, reasonable, having regard to economic feasibility, and sufficiently unbundled so that the supplier need not pay for network components or facilities that it does not require for the service to be provided; and

(c)  upon request, at points in addition to the network termination points offered to the majority of users, subject to charges that reflect the cost of construction of necessary additional facilities.

2.3  Public availability of the procedures for interconnection negotiations

The procedures applicable for interconnection to a major supplier will be made publicly available.

2.4  Transparency of interconnection arrangements

It is ensured that a major supplier will make publicly available either its interconnection agreements or a reference interconnection offer.

2.5  Interconnection: dispute settlement

A service supplier requesting interconnection with a major supplier will have recourse, either:

(a)  at any time or
(b)  after a reasonable period of time which has been made publicly known

to an independent domestic body, which may be a regulatory body as referred to in paragraph 5 below, to resolve disputes regarding appropriate terms, conditions and rates for interconnection within a reasonable period of time, to the extent that these have not been established previously.

3.  Universal service

Any Member has the right to define the kind of universal service obligation it wishes to maintain. Such obligations will not be regarded as anti-competitive per se, provided they are administered in a transparent, non-discriminatory and competitively neutral manner and are not more burdensome than necessary for the kind of universal service defined by the Member.


(a)  all the licensing criteria and the period of time normally required to reach a decision concerning an application for a licence and
(b)  the terms and conditions of individual licences.
The reasons for the denial of a licence will be made known to the applicant upon request.

5.  Independent regulators

The regulatory body is separate from, and not accountable to, any supplier of basic telecommunications services. The decisions of and the procedures used by regulators shall be impartial with respect to all market participants.

6.  Allocation and use of scarce resources

Any procedures for the allocation and use of scarce resources, including frequencies, numbers and rights of way, will be carried out in an objective, timely, transparent and non-discriminatory manner. The current state of allocated frequency bands will be made publicly available, but detailed identification of frequencies allocated for specific government uses is not required.






著者について

 マーティ・タシジャンはUSウェスト・メディアグループの組織であるUSウェスト・インターナショナルの国際公共政策担当のExecutive Directorである。彼は世界各国にあるUS-ウェストインターナショナルが出資している無線あるいは有線のベンチャー企業の、通信政策の立案を援助している。かれの専門分野は、新しく自由化された電気通信市場における競争促進のための免許、料金政策、ユニバーサルサービス、相互接続、競争ルールである。彼はジョージワシントン大学で経済学博士を取得しており、デンバー大学で通信政策の講義を行っている。

コメントや質問は下記へ:

Martin Taschdjian
Exective Director, International Public policy
U S WEST International
9785 Maroon Circle, Suite 210
Englewood, CO 80112

tel: 303 792-4722
e-mail: mtaschdj@du.edu
fax: 303 689-4618