Policy Reports 郵政省

目次線 電気通信審議会

「日本電信電話(株)の指定電気通信設備に係わる接続約款の変更案」に関する意見書

1998年12月18日
ブリティシュ・テレコミュニケーションズ(BT)株式会社


はじめに

日本BTでは、NTTが相互接続料の改訂に関し意見を述べさせていただく機会を得られた ことを感謝いたします。

日本BTは、前回の意見書で言及したとおり、日本の電気通信市場にとって、接続料金を 現行の高い水準から引き下げ、諸外国と同レベルの接続手続きを導入する措置を直ちに講 ずることが最重要課題と考えます。経済効率の良い接続制度が継続的に存在する必要があ ります。これを確立することではじめて、日本の消費者に、電気通信市場における健全な 自由競争による恩恵がもたらされます。

弊社では今回の変更案は、十分な改善がなされるべきだと考えます。当該内容につきまし ては、その諾否を問う前に、MPTによるさらなる吟味がなされるものと確信しておりま す。相互接続料金算定に関する問題は、NTTに対する既存および新規の競合電気通信事 業者にとっても非常に重要となります。本意見者は、以下の4点を中心に言及したもので す。

  1. NTTのPSTN相互接続料金が高すぎる点について

    1.1 はじめに

    10月に提出した、接続料の算定に関する貴省の研究会の報告書に対する意見書の中で、 日本BTは、Ovumが定期的に実施している相互接続料金の比較調査の最新結果をもとに、 NTTとEUベンチマークの比較を行いました。弊社は、この比較表をさらに更新し、 NTTが提案するPSTN相互接続料金と以下の報告書の内容を反映させました。


    1.2 EUの勧告

    EUは、固定電気通信サービスにおける「現状における現実的で最適な(ベスト・カレン ト・プラクティス)」相互接続料金に関する勧告を発行しています。この接続料金は、EU の中でもコストが最も低い3国の料金に基づいて算定されています。この勧告は以下に適 用されます。

    また、3つの一般的な接続タイプもこれに含まれます。

    12月1日付けの「加盟各国における相互接続料」に関する勧告で更新された最新のEUガ イドラインは以下の通りです。

    相互接続のタイプ 1998年度ベストカレントプラクティス 着信通話料
    (ECU セント/分)
    1999年度ベストカレントプラクティス着信通話料
    (ECU セント/分)
    市内相互接続 0.6 - 1.0 0.5 - 1.0
    シングルトランジット接続 0.9 - 1.8 0.8 - 1.6
    ダブルトランジット接続 1.5 - 2.6 1.5 - 2.3

    上記表の作成に用いた方法はとても簡単です。EU諸国の各料金体系のうち、市内、シン グルトランジット、ダブルトランジットの内容と同等のものを、これら3つの接続サービ スタイプと対照させました。3分通話における1分あたりのコストを計算し、標準の為替 レートを使ってECUに変換しました。さらに、コストが最も低い国の料金に基づいて優 待料金ガイドラインを作成しています。各国ごとに割り出された最終的な料金表は別紙1 をご参照ください。

    1.3 日本の料金の算定方法

    EUのベンチマーク調査では日本の料金は考慮されていません。NTT接続料とEUガイド ラインの比較には、EUの調査で用いたサービスタイプに相当する料金を割り出す必要が あり、そのために2段階方式を採用しています。

    A.  NTTが発行している接続料を採用し、3分通話に基づくピーク時料金の市内、シング ルトランジット、ダブルトランジットの1分あたりの料金 (ペンス) を割り出します。
    以下の図はNTTの最新の接続料です。

    NTT接続料
    1日の時間帯による料金格差がないため、上記はピーク時の料金でもあります。これを 以下のように3種類のEU接続サービスに変換しました。

    サービス チャージ セットアップ
    (円/呼)
    通話時間
    (円/秒)
    3分通話:円/分
    市内 GC接続(市内) 0.99 .0268 1.94
    シングルトランジット ZC接続 (市内交換 + タンデム交換 + トランク伝送) 1.27 .0595 3.99
    ダブルトランジット シングルトランジット + タンデム交換+ トランク伝送回線(160 kms) 2.06 .0956 6.42

    ただし、上記はNTTの接続料を可能なかぎり低く設定している点に留意してください。 以下はその例です。

    • 市内交換局の接続サービスに2番目の市内交換局を介した交換が必要になる場合が あります。そのような通話には、市内交換と市内伝送の追加料金が加算され、コス トが倍以上に膨らみます。
    • この試算料金には、ISM交換機能は含まれていません。日本だけが唯一、ISDNトラ フィックに異なる接続料を設定しているのです(3を参照のこと)。NTTのISDNの シングルトランジット料は、ISDN接続料の水準が引き下げられた現在でも、同等の PSTNの50 * 100 %以上に上ります。
    • ダブルトランジット料は、160kmトランク伝送回線料金を使って設定されていま す。しかしEUにおける調査では、英国 200km+ダブルタンデム料金を採用してい ます。「160km以上」対応のトランク伝送回線料金を使用すれば、NTTのダブル トランジット料は、ほぼ80%高くなります。

    A.  これらの料金を1分あたりのECUセントに変換

    最新のEUガイドラインでは、引き続き1998年5月の為替レートを採用しています。 この為替レートは、ニューヨークの連邦準備銀行が発表した1998年5月の月次レート と非常に近い数字です(誤差1%未満)。連邦銀行が発表した11月の為替レートでは、 ECU/円は 1ECU=140.5円で、他のヨーロッパ通貨の為替レートは、誤差1%未満で 6%高くなります。以下の表は、NTTの接続料を5月と11月の為替レートを用いて、 1分あたりのECUセントに換算したものです。
    サービス 円/分 ECUセント/分1
    ECU=149.7円
    ECUセント/分 @ 1
    ECU=140.5円
    市内  1.94  1.29 1.38
    シングルトランジット 3.99 2.67 2.84
    ダブルトランジット 6.42 4.29 4.57


    1.4 EUガイドラインとの比較

    NTT料金と最新の1998年度版EUガイドラインとの比較:
    比較表
    5月の為替レートを採用した結果、NTTの料金は、EU勧告範囲の最高値より30〜65% 割高で、EU勧告範囲の中間値より60〜100%割高です。場合によっては、EU勧告範囲 の最低値の2倍以上にもなります。
    最近の11月の為替レートを採用した場合、さらに顕著な結果が出ています。

    つまり、NTTの相互接続料金を可能なかぎり低く設定しているにも拘らず、NTTの料金 はEU勧告よりかなり割高であるという結論に達します。NTTの料金表をできるだけ低め に設定したほか、他の電気通信事業者のピーク時料金表とも比較しています。ピーク時は、 24時間平均の料金より高いですが、NTTの料金が24時間平均なのは、1日の時間帯で料 金格差がないためです。すべてのトラフィックがピーク時に搬送されているわけではない ことを反映させたどの比較においても、NTT料金は他の電気通信事業者より高い水準に あることを示しています。

    以下の図1は、EUの調査で検討されたEU諸国の料金とNTTの料金がどのように比較さ れるかを示したものです。
    MPTでは、NTTが提案するシングルトランジット料金が現在でもなお、他のEU諸国に 比べ割高である点に言及すると考えられます。さらに、NTTが提案するダブルトラン ジット料金も、ポルトガルを除く他のEU諸国に比べ割高である点を検討いただく必要が あります(ポルトガルのダブルトランジット料金は1997年に設定された料金の中でも破 格であり、移動電気通信事業者にのみ適用されています)。日本BTが10月に提出した前 回の意見書に記載されているグラフと上記の結果を比較しても、NTTの接続料はEU諸国 の料金に比べかなりの違いが見られます。

    1.5 Ovumの調査

    Ovumは定期的に接続料を比較検討していますが、主要な着呼サービスにとくに重点を 置いています。これらの比較は、電気通信事業者間で異なる相互接続料を標準化するため の実証済み方法に基づいたものです。この比較のために用いられた方法はEUが採用した 方法より複雑ですが、以下の点をさらに反映させたもので、より信頼性が高いと言えます。

    したがって、Ovumのベンチマークは、新規電気通信事業者が各国で実際に支払う相対 価格をより明確に反映させています。

    Ovumの最新の比較調査の結果は、1998年10月に発表されています。NTTに関する比 較結果は、現在NTTが提案している新料金ではなく、現行の接続料に基づいています。 そのため、弊社では、Ovumが採用している比較方法を用いて、NTTが提案している PSTNの新料金を比較し、主要各国を対象としたOvumの調査報告にこれを反映しました。 その結果が以下の図です。

    呼の着信料
    OvumとEUの調査結果を比較すると若干順位は異なるものの、「NTTの料金は高い」と いう同じ結論が得られました。特に、以下の点で顕著に現れています。

    この比較結果で、NTTの料金が相対的に低い順位に位置付けられているのには、いくつ か理由があります。

    これらの料金変更がOvumの分析結果に反映された場合、NTTの平均接続料が最高値の 部類の一つとなることは容易に想像できます。NTTのISDN料金を加味しなかったとして も、上位に位置付けられることは明らかです。

    上記の比較的単純な調査の結果得られた「NTTの接続料が高い」という結論も、Ovum の調査によって実証されている点に配慮が必要です。また、NTTの料金水準が他の国々 の水準に比べさらに高くなっていくことも実証されています。この論拠として、前回の Ovumの調査結果と、Ovumの現在の順位表で上位に位置付けられている国々の中で最 近、接続料の大幅引き下げを敢行している国が相次いでいる点が挙げられます。

    1.6 相互接続料料金の格差について

    日本における相互接続料がコストベースであるならば、世界中のもっとも安価な国の1つ に位置付けられて然るべきです。人口密度は先進国の中でもとりわけ高く、電気通信事業 者の提供する交換回線も膨大な数にのぼっています。したがって、電気通信伝送網や交換 網において、相互接続料金の大幅削減が実現可能である電気通信事業者の中でも、NTT は優位に立っていると言えます。この件に関しては、1.5をご参照ください。

    弊社には、NTTのコスト配分体系を知る手段がないため、NTTの相互接続料が比較的高 い理由は理解不可能です。ただし、現実的に考えられる理由を挙げると2つあるように思 われます。

    したがって、日本BTでは、NTT料金が非常に高い理由を理解するために、MPTにて、 以下の点を調査いただくことを要請いたします。

    NTTの平均給与体系をはじめとする、効率水準
    NTTのコスト配分体系と算定方法

    電気通信市場は国際化が進み、各国市場において海外の通信事業者との相互の競争が激化 しつつあります。日本市場のNTTを含む、すべての通信事業者は、同様の条件の下で事 業を行う必要があります。

    別表1各接続サービスタイプの全EUの結果とある条件で算出したNTT料金

    市内接続料
    シングルトランジット接続料
    ダブルトランジット接続料

  2. NTTのPSTN相互接続料金の引き下げが早く行われいない点について

    Ovumの分析によれば、NTTが提案するPSTNの平均相互接続料金では、現行水準の 6.6%引き下げが実現されることになります。

    1999年度を見越したEUのベンチマークでは、1998年に比べ平均値は7〜9%下回ると 予測されています。相互接続料金がコストベースであると仮定すると、接続料は各社のユ ニットコストを割り出す目安と考えられます。つまり、1999年度版と1998年度版のベ ンチマークの差は、ベンチマークの対象となった電気通信事業者が、単価原価の低減や効 率の向上を図った結果として、相互接続料金の引き下げが期待されることを示しています。 事実、EUのシングルおよびダブルトランジットサービスに関するベンチマークでは、11 〜12%の引き下げが予測されています。つまり、現在、相互接続料金がベンチマークの 上位に位置付けられている国々では、効率の改善が急務であることを示しています。相互 接続料が推奨範囲を超えている国は、格差をこれ以上広げないためにも、次年度までに 11〜12%以上の引き下げを実現する必要があります。

    相互接続料がEUの推奨範囲内に収まっていない場合、圧力が加えられることも事実です。 これは、イタリア、アイルランド、スペインの例を見れば明らかです。これらの国々の相 互接続料はEUベンチマークで上位に位置付けられていましたが、最近、各国とも大幅な 引き下げを敢行しました。その内容は以下の表のとおりです(各々ピーク時の料金を ECUセント/分で表わしたもの)。

    EU告示日時 市内    シングル
    トランジット
    ダブル
    トランジット
    イタリア
     1998年7月29日
    引下げ率
    1.51
    1.00
    -34%
    2.47
    1.80
    -27%
    n/a
    2.60
    スペイン
     1998年7月28日
     1998年12月1日
    引下げ率
    1.49
    0.98
    -34%
    1.49
    1.58
    6%
    4.17
    3.04
    -27%
    アイルランド
     1998年7月29日
     1998年12月1日
    引下げ率
    2.20
    1.54
    -30%
    4.15
    2.38
    -43%
    5.18
    3.57
    -31%

    NTTの相互接続料はEU推奨範囲を超えています。NTT料金とEU推奨値との格差の拡大 を抑えるためには、最低でも11〜12%のNTT料金の引き下げが必要となります。この ままでは、格差がさらに拡大していくことは前節の結論からも明白です。格差の拡大を抑 えるだけでなく、さらなる格差縮小を実施するために、貴省で何らかの対策を講じていた だければと存じます。

    弊社は、日本市場の成長率は相対的に低いと考えています。さまざまな論議を呼ぶと想像 されますが、相互接続料金の引き下げに着目するならば、日本は他の国に比べ制約が多い と言わざるをえません。しかしながら弊社は、以下の2つの理由からこの見解には賛同し ていません。

    最後に弊社では、提案されているタンデム交換接続料が現行料金より高くなっている点に ついて納得がいきません。前出の英国の例にもあるように、発着呼のルーティング仲介料 を企業向けと個人利用者向けで個別に設定した場合、タンデム交換接続への需要には特に 大きな影響を及ぼします。英国では、タンデム交換接続への需要が急速に高まり、それに 付随して他のネットワーク・コンポーネントへの需要も高まったため、結果として大幅な ユニットコストの低減が実現されたのです(BTの「財務報告書 Financial Statements for Businesses」をご参照ください)。

  3. 妥当でないISDN料金

    NTTのISDN相互接続料は、同社のPSTN接続料に比べてもかなり高く設定されています。 引き下げを提案しているにも拘らず、ISDN ZC相互接続された場合の3分間の通話料金 はPSTNの場合に比べ49%割高です。CG相互接続された場合と比べると、101%割高 です。ZCおよびGC ISDN相互接続された発着呼の設定料金は、PSTNの場合に比べ 100%以上高くなります。ISDNとPSTNの企業向け料金の格差は、たんにISM交換機能 のコストの差です。

    日本BTは、この格差を理解できません。ISM交換機能とは何か、なぜこのように大きな 較差が生まれるのかが理解できないためです。この2点が、弊社が料金格差について困惑 している理由です。

  4. NTTのISDN相互接続料金と最終ユーザーの料金の連動性について

    日本BTは、NTTのISDN相互接続料金と最終ユーザーの利用料金を比較しました。相互 接続料金が最終ユーザーの利用料金に比べて高いものがいくつかありました。これは、特 に短距離のISDN通話の場合に顕著です。他社等のコメントのなかにも、同様の指摘が見 られます。

    英国では、BTの個人利用者向け料金は、いわゆる「スタック・テスト」に合格しなけれ ばなりません。このテストでは、差別待遇がないことが検証されます。テストのルールは、 BTのライセンスのCondition 24Fに規定されています。この基準を満たすためには、適 切な顧客割引を行った個人利用者向け料金が、ネットワーク・コスト(相互接続料金は一 律)と適正な個人利用者向けコストの合計を上回っていなければなりません。基準を満た していない場合は、個人利用者向け料金を引き上げるか、ネットワークコスト(相互接続 料金)を引き下げる必要があります。

    弊社は、NTTの料金でも類似のテストを実施した方が良いと考えています。

  5. 結論

    この意見書は、NTTが提案する相互接続料に関する日本BTの見解を記述したものです。 弊社の見解は、以下の3点に要約することができます。

    弊社は、NTTのコスト配分体系におけるコストやその他の詳細まで調査したわけではあ りません。しかし、この意見書を通じて弊社が確信をもって強調するのは、NTTのコス ト配分体系は再検討されてもようだろうということです。貴省において、NTTのコスト 配分体系の調査とネットワークの運用効率の評価を実施されることを期待します。


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