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第2章 電気通信サービスにおけるプライバシーをめぐる諸問題

第1節 携帯電話・PHS事業者間での不払い者情報の交換

1 検討の背景

   携帯電話は、平成6年(1994年)4月の端末機の自由化、新規事業者の
  参入により、料金の低廉化、選択肢の拡大、サービス内容の向上があいまっ
  て、利用者が飛躍的に増加し、またPHSも平成7年(1995年)7月に
  サービスを開始して以来、その端末の先進性、経済性、利便性により急速な普
  及を見ている。その結果、携帯電話・PHSの加入者数は、平成10年(19
  98年)9月末現在で4200万人を超え、今や未成年者も含め国民の約3人
  に1人がこれらのサービスを利用するまでに発展している。

  <携帯電話・PHSの加入者数の推移>
携帯電話・PHSの加入者数の推移グラフ

                           (単位:台 千台未満四捨五入)
携帯電話・PHSの加入者数の推移表

   このように加入者数が飛躍的に増大する一方で、毎月の利用料金を支払わず
  に放置する加入者の数も増加している。携帯電話・PHS事業者では、こうし
  た料金不払い者に対しては、督促等必要な手順を踏んだ上で、利用契約の解除
  (強制解約)を行うこととしているが、近年は、料金を支払わずに放置するの
  みならず、強制解約となっても別の携帯電話・PHS事業者に加入して、また
  同様の行為を繰り返す、いわゆる「渡り」と呼ばれる事例が多発しており、こ
  れによる料金回収費用や貸し倒れリスクの増大が大きな経営問題となってい
  る。また、こうした「渡り」を放置することは、結局は、一部の不良ユーザー
  の債務を善良なユーザーの負担でカバーすることとなり公平性を害するとの意
  見もある。
 <強制解約の状況(平成10年(1998年)2月郵政省調査>
    強制解約数  156,036件(1ヶ月:全社計)
         1,881,672件(1年間:全社計)
    被害総額      840億円(1年間:全社計)
  1) 加入期間別件数比率状況(156,036件の状況)
加入期間別件数比率状況表
  2) 滞納金額別件数比率状況(156,036件の状況)
滞納金額別件数比率状況表

   そこで、こうした事態に対処するため、強制解約となった不払い者情報を携
  帯電話・PHS事業者間で交換することにより、契約申込み受け付けの際の加
  入審査に活用してはどうかとの意見があり、現在、携帯電話・PHS事業者の
  間で検討が行われている。
<関連図>
関連図
2 参考となるスキーム  (1) アメリカの全米消費者通信データ交換機構(NCTDE)   1) 1997年(平成9年)9月、全米の長距離通信事業者等が発起人とな    り、加入者情報の交換を目的とした全米消費者通信データ交換機構(NCTDE:    National Consumer Telecommunications Data Exchange)が設立された。    (発起人は、AT&T、ベルサウス、フロンティア、IXC、MCI、NY    NEX、スプリント、ワールドコム)   2) NCTDEは、過去の料金不払い者のデータベースを構築することによ    り、会員電話会社が加入審査を行う際に必要なデータを提供する。データ    ベース構築・管理会社には、エクイファックス(EQUIFAX)社が選定された。   3) 消費者通信勘定(accounts)をもつ全ての通信会社が会員となることが可    能である。エクイファックス社のデータベースは、NCTDEの会員のみが    使用可能となっている。   4) 会員電話会社は、新たな申込者をデータベースと照合することにより、こ    れらの勘定を確定する。これにより、会員は未払い金を回収したり、適正な    デポジットを取ることが可能となる。  <関連図> 関連図  (2) 銀行、貸金業、クレジット業界における個人信用情報機関   1) 銀行、貸金業、クレジット業界においては、全国銀行協会連合会、全国信    用情報センター連合会、(社)日本クレジット産業協会が、多重債務・過剰与    信の防止と健全な消費者信用の発展を目的とし、それぞれ個人信用情報機関    を設立している。    ア)全国銀行協会連合会 …………… 全国銀行個人信用情報センター    イ)全国信用情報センター連合会 … 全国信用情報センター連合会加盟の情                     報センター    ウ)(社)日本クレジット産業協会 … (株)シー・アイ・シー   2) 個人信用情報の相互流通システム(CRIN)     昭和58年(1983年)に、全国銀行協会連合会、全国信用情報セン    ター連合会、(社)日本クレジット産業協会の三者、及び三者と密接な関係を    有する個人信用情報機関(全国銀行個人信用情報センター、(株)日本情報セ    ンター、(株)シー・アイ・シー)によって設立された三者協議会により、こ    れらの業界の信用情報機関が保有する情報をそれぞれの会員が共通に利用す    ることを目的に、昭和62年(1987年)から個人信用情報の相互流通シ    ステム、CRIN(Credit Information Network)が実施されている。 3 検討  (1) 不払い者情報交換の可否    個人信用情報機関は、物的担保によらずに専ら顧客の信用(返済能力)を担   保として信用供与を行う事業者を会員とし、信用供与にとって不可欠な顧客の   信用に関する情報を収集・蓄積し、会員の求めに応じて与信の判断の材料とし   て提供することを業務とし、これを通じて過剰貸付の防止、多重債務者の発生   の未然の防止等を図り、消費者保護と消費者信用市場の健全な発展に資すると   いう役割を果たしている。    これと比較した場合、電話サービスにおいては、一般的にいって、過剰貸付   の防止や多重債務による自己破産等の未然の防止といった要請があるとは言い   がたい。しかし、多重債務の発生の防止等の理由は、消費者信用取引におい   て、信用情報の交換を積極的に進めるべき理由とされているに過ぎず、その必   要条件とされているわけではない。電話サービスは、先にサービスを受け取   り、料金の支払いを後にするという点では一種の消費者信用取引と言うことが   でき、与信のために不払い者の情報(他の携帯電話・PHS事業者に対して支   払いを怠り強制解約となった事実)を交換・利用するニーズは高い。そして、   料金を支払わずに放置するのみならず、強制解約となっても別の携帯電話・P   HS事業者と契約する「渡り」と呼ばれるケースが多発し、事業経営上看過し   得ない状態になっているとともに利用者間の公平をも害していること、固定電   話と違って設置場所により利用者を把握することが困難な事情があること等か   らすると、利用者のプライバシーに配慮した上で、必要最小限の範囲で上記の   情報を交換し、加入時の審査に利用することは許されると解される。    しかし、以上のような事情だけでは、不払い者の個人情報を交換することを   正当化できず、多重債務の発生防止に代わる根拠が必要であるとの見解もあ   る。この点については、第一種電気通信事業者は、正当な理由がなければ、そ   の業務区域における電気通信役務の提供を拒んではならないとされており(電   気通信事業法第34条)、加入の申込みを受けた場合にも基本的にはこれを承   諾しなければならないことの代償措置として、最小限の不払い者情報の交換に   より、経営リスクを軽減することは許されると考えられる。    一方で、不払い者の増加は、無理な営業活動にも問題があり、その解決の方   が先決ではないかという意見もある。携帯電話・PHS事業における営業活動   にも改善すべき点がないわけではなく、営業活動の適正化を進めていく必要が   あるとしても、そのことと不払い者情報の交換とは切り離して論ずべき問題で   ある。    なお、郵政省が実施した平成10年度電気通信サービスモニターに対する第   1回アンケート調査結果(以下「モニターアンケート結果」という。)によれ   ば、不払い者情報の交換について、積極的に行うべきと回答した者が62.9%   となっているのに対し、プライバシー保護の観点から一切認められないと回答   した者は、1.8%にとどまっており、不払い者情報の交換に対する一般利用者   の意識は、概して肯定的である(本調査実施結果については、参考資料96頁   を参照)。  (2) 情報交換をする場合の法的根拠    上記の銀行、貸金業、クレジット業界の場合においては、個人信用情報機関   を設置すること及び当該情報を信用調査以外の目的に使用してはならないこと   等について、法律(「貸金業の規制等に関する法律」「割賦販売法」)又は通   達(昭和61年3月4日付大蔵銀第300号「金融機関等が信用情報機関を設   置又は利用する場合の信用情報の取扱い等について」)等によって規定が設け   られている。    これに対し、携帯電話・PHS事業者による不払い者情報の交換は、とくに   根拠となるものがなく、当該携帯電話・PHS事業者が自主的に定める運用ガ   イドラインに基づいて実施されることが想定されており、不適当ではないかと   の意見がある。    上記の3分野における信用情報機関に法的根拠があると言っても、法律の規   定としては、「貸金業の規制等に関する法律」及び「割賦販売法」で個人信用   情報機関の設置及び個人信用情報の目的外使用の禁止を定めている(罰則はな   し)に過ぎず、実際の運営は、各個人信用情報機関が定める規則や要綱等によ   っている。しかも、これらの法律は、それぞれ昭和58年(1983年)及び   昭和59年(1984年)に制定又は改正されたもので、もともと法的根拠は   なかった。また、個人信用情報機関の運営や個人信用情報の取扱い等の基本事   項について定めた前述の大蔵省通達は、通達行政廃止の流れに沿い、平成10   年(1998年)6月8日に廃止された。    これらのことから、不払い者情報の交換は、必ずしも法律等の法的根拠がな   ければできないというものではないと考えられるが、プライバシー保護のため   のルールを明確化し、それをオープンにした上で実施することは最低限必要で   ある。プライバシー保護のためのルールとしては、さしあたり郵政省電気通信   局の個人情報保護ガイドラインということになる。電気通信事業法第4条第2   項の「通信に関して知り得た他人の秘密」に利用者の個人情報が広く含まれる   とすれば、これが根拠となるとも考えられるが、これは、公衆電気通信法当時   からある規定であり、一般に「通信の秘密」に該当するもののほかに通信当事   者の人相、服装、言葉のなまり等の特徴が含まれるのみであり、違反に対する   罰則もないと解されており、これを一般的な個人情報保護の根拠規定とみるこ   とはできない。    不払い者情報の交換のように利用者のプライバシーをある程度広く利用する   に当たっては、その侵害のおそれも高まることから、ルール違反があった場合   に実効性のある是正措置をとることができるよう電気通信事業者の個人情報保   護義務を規定する等の法的措置を講じることも考慮に値する。特に、大蔵省と   通産省とが共同で開催した「情報保護・利用の在り方に関する懇談会」報告書   (平成10年(1998年)6月)では、個人信用情報を扱う信用情報機関及   びその会員たる与信業者等に対する規制等の法制化を提言しており、それとの   関係で何らかの法的措置が必要となってくる可能性もある。  (3) 利用者のプライバシー保護のため必要な措置    不払い者情報の交換を実施することとした場合、利用者のプライバシーの保   護の観点から、最低限以下のような措置が必要である。   1) 交換する情報の範囲(種類)の制限    交換する情報の範囲につき、必要最小限のものとするという観点から、滞納   がある者の氏名、生年月日、住所等の本人を識別する情報だけとし、滞納金額   は交換の対象としないという考えもあり得る。しかし、その場合には滞納額の   多寡(悪質性)にかかわらず、他社で不払いがあったという事実のみをもって   加入を拒否することとなり、かえって対象者の不利益となるおそれがある。ま   た、こうした形で加入拒否をすることは、提供義務との関係で問題となるおそ   れもある。さらに、他社への滞納をもって一律に加入拒否するということを不   払い者情報交換の仕組み全体の中でとらえた場合、ある携帯電話・PHS事業   者に対して滞納がある者を業界全体で排除したり、あるいはそのことを背景に   利用者に対して携帯電話・PHS事業者に対する支払いを強いることになり、   不当であるとの指摘もある。    したがって、滞納額をも考慮した上で(なお、不払い者の平均滞納額は4万   5000円と言われている。)携帯電話・PHS事業者にとって真に対処が必   要と思われる一定の悪質なユーザーの情報に限って交換の対象とする、あるい   は担保等を要求するというように抑制的に運用していくことが現実的である。    具体的な方策としては、例えば、(a)一定額以上の多額の滞納者に関する情報   のみを交換の対象とし、そうした者については各携帯電話・PHS事業者の判   断で加入拒否することができるものとする、(b)全ての滞納者の情報を交換の対   象とするが、加入拒否できるのは一定額以上の多額の滞納者あるいは複数の滞   納のある者のみとし、それ未満の滞納者については預託金の活用、クレジット   カードの使用、使用金額の制限等で対処すること等が考えられる。また、不払   いについて紛争がある場合には交換の対象から除外したり、交換情報にコメン   トを付すなどの措置をとり、申込みを受けた事業者の方で加入審査の参考とす   る(申込みを受け入れる方向で)ということも検討すべきである。   2) 加入者の同意の取得    加入者の同意については、契約約款に規定することで同意(承諾)とみなす   ことが考えられる。この点に対しては、約款に記載があることをもって直ちに   同意とみなすことはできないとの指摘もあるが、上記1)に述べるような形で実   施することが合理性を有すると認められれば、附合契約として契約者を拘束す   ると解することができると考えられる。    ただし、内容について加入者の了解を得ることが望ましいことはいうまでも   なく、改めて申込書に特記欄を設けるなどの措置をとることが必要である。ま   た、口頭での説明もできる限り行う方向で努力すべきである。    なお、約款への記載をもって既に契約済みの加入者にも効力を及ぼしてよい   かということも問題となるが、契約約款は、一般的には、加入者に不利益に変   更されても全ての契約者を拘束すると考えられる。ただし、プライバシーに関   する同意についてもそのように解することができるかについては慎重な意見も   あるところであり、少なくとも、対象となる不払いを交換実施以降のものとす   るなどの措置が必要である(前述のCRINで個人信用情報の相互流通を開始   したときは、既存の契約者の情報も含めて相互流通の対象とした)。   3) 加入者等への周知    加入者等への仕組みの周知については、OECD8原則にいう公開の原則の   観点からも重要であり、前述のモニターアンケート結果においても、不払い者   情報の交換を行う際に必要な措置として、情報交換の仕組み等について利用者   に十分周知することを挙げた者が最も多かった(本調査実施結果については、   参考資料97頁を参照)。    周知の方法としては、当面、販売店等の窓口への周知文の配備、毎月の請求   書等での周知、催告書に約款の内容を記載すること等が考えられる。この際、   加入者等への分かりやすさを心掛けた周知が重要である。    また、周知期間については、強制解約の流れ等を考慮すれば、最低でも2か   ら3か月は必要である。   4) 情報交換に関するセキュリティの確保    携帯電話・PHS事業者間における不払い者情報の交換では、当面、毎月フ   ロッピー・ディスクや磁気テープ等の磁気媒体を交換する形で行い、提供を受   けた各携帯電話・PHS事業者において、データの全面更新を行う(上書き方   式)ことを想定しており、データの同一性は確保できると考えられる。ただ   し、加入者からの申請等により訂正・削除した情報については、その都度訂正   等することから、その場合の正確性の確保につき更に検討する必要がある。    また、不払い者情報の交換では、膨大な情報が流通することになるので、情   報の漏洩等の危険に対するセキュリティをどうするか(例えば、宅配便に任せ   るのか、自社の社員が責任をもって他社まで届けるのか、交換したデータ保存   やアクセスに関する取扱いはどうするのか等)が大きな問題となる。    こうしたセキュリティ確保の点については、実施・運用に際しての最も大き   な問題と言うこともできる(前述のモニターアンケート結果でも、交換を行う   際に必要な措置としてセキュリティ確保を挙げる者は、利用者等への周知を挙   げる者に次いで多かった。(本調査実施結果については、参考資料97頁を参   照))。そのため、少なくとも実施前にデータのセキュリティに関するガイド   ラインを策定する等適切な保護措置を講ずるべきである。    なお、情報交換の方式については、各社がお互いに交換するという方式では   情報が拡散し、プライバシー侵害のおそれが高くなるから、金融機関等で行わ   れているように、信用情報機関を設置して、情報を一元的に管理すべきという   意見もある。実際の運用状況により、必要であれば、将来的に信用情報機関方   式に移行することも検討すべきである。   5) 苦情等への対応(情報の開示、訂正・削除の請求への対応)    交換の対象となった利用者からの苦情や問い合わせ等への対応は、各携帯電   話・PHS事業者で責任をもって行う必要がある。この点、苦情を受け付ける   ための第三者機関を設置すべきとの意見もあるが、これについては、その位置   づけが必ずしも明確でないこと、及び直ちに設置するということは困難である   ことから、今後の検討に委ねることとする。    具体的な対応としては、交換の仕組み自体に対する苦情その他の意見につい   ては、各社に専門の窓口を設置し、電話番号も周知するとともに、交換の対象   となっていることに対する苦情についても、「たらい回し」とならないよう、   苦情を受けた各社において滞納情報が登録されている事実及び当該情報を登録   した携帯電話・PHS事業者の連絡場所を通知し、当該携帯電話・PHS事業   者において責任をもって対応する必要がある。この場合、料金の支払い等に関   するトラブルについて当該携帯電話・PHS事業者との間で解決できない場合   は、通常どおり、郵政省の電気通信消費者相談センターや消費生活センター等   の公的苦情・相談窓口に申し出をすることになると考えられる。こうしたトラ   ブルをスムーズに解決するため、消費生活センター等と携帯電話・PHS事業   者の苦情受付窓口との間で情報交換する機会を設けることも検討すべきであ   る。   6) 制度の見直し等    不払い者情報の交換を実施した後も、連絡会のようなものを設け、定期的に   運用状況をチェックし、必要があれば改善を図っていくことも必要である。   7) 債権管理組合との関係    債権管理組合とは、カード会社、信用保証会社、リース会社、信販会社、百   貨店、通信販売会社、電気通信事業者等が各自の債権を共同で管理することを   目的として設立した民法上の任意組合をいう。携帯電話・PHS事業者の多く   も、この組合員となっており、料金滞納者のうち、強制解約後も料金を支払わ   ない者や所在不明等で回収対応が難しい者に対する債権の回収や管理を委託し   ている。この際、債権管理組合と提携する信用情報機関が債務者の現住所や残   高の確認等債権管理に必要な情報を調査するとともに、この調査により得られ   た客観的事実に基づく情報を同機関のデータベースに登録し、組合員その他の   会員企業がその与信判断等のためにこれを利用できることとなっているため、   こうした形で利用者の個人情報が外部提供されるのは、個人情報保護の観点か   ら問題であるとの意見がある。    これについては、電気通信事業者であるからという理由で、これらの信用情   報機関に登録することができないことにはならず、また、電気通信事業者にと   ってこうした個人信用情報は、被登録者に対し利用料金が高額になる前に請求   する(随時請求)こと等に活用し、ひいては不払いを未然に防止するといった   必要性も認められ、直ちに個人情報保護の観点から不適当であるとは思われな   い。ただし、登録に当たっては、上記の銀行、貸金業、クレジット業界におけ   る個人信用情報機関に準じた個人信用情報保護の取扱いを行っていると認めら   れる機関を選定する必要がある。 第2節 通信履歴の取扱い 1 通信履歴の意義   通信履歴(ログ)とは、利用者が電気通信を利用した日時、当該通信の相手方  その他の利用者の通信に係る情報であって通信内容以外のものをいう。電気通信  事業者(以下「事業者」という。)は、こうした通信履歴を課金や利用者からの  問い合わせに応じるため等の目的で記録・保存したり、利用明細書の作成に利用  したりしているが、通信履歴は「通信の秘密」に属する事項であることから、そ  の取扱いには慎重な配慮が必要となる。 2 事業者による通信履歴の記録・保存の現状  (1) 第一種電気通信事業者(電話サービス等の提供事業者の場合)    本研究会が第一種電気通信事業者21社を対象にして行った顧客個人情報等   の取扱いに関する調査によると、多くの事業者が、通信履歴(ログ)について   は、利用者の明示的同意がなく、あるいは削除の申出があったとしても、記   録・保存を行っている。ただし、その保有(保存)期間については、各社ごと   に異なっており、短いところで1〜2か月、長いところで1年以上となってい   る(本調査実施結果については、参考資料72頁を参照)。  (2) 一般第二種電気通信事業者(インターネット接続サービス等の提供事業者の   場合)    インターネット接続サービス等を提供する事業者(以下「プロバイダー」と   いう。)の多くも、そのサービス提供に関し、通信履歴を記録・保存している   が、各プロバイダーが提供するサービスの種類や、システムの設定等により、   その保存の態様は一律ではない。本研究会において、プロバイダー(一般第二   種電気通信事業者のみ)を対象にして行った通信履歴の取扱いに関する調査に   よると、以下のような傾向が見られる(本調査実施結果については、参考資料   81頁を参照)。    1) 通信履歴を一切記録していないプロバイダーも数社見受けられる。    2) 記録している場合も、その保存期間は、第一種電気通信事業者に比して、    概して短い。    3) 通信履歴の保存を義務づけることについては、「莫大なコストがかかるも    のと予想され、業務の運営にも支障を生じる可能性が高い」と回答した者    と、「ある程度のコストがかかるものと予想されるが、業務の運営に支障を    きたすほどのものとは思われない」と回答した者が過半を占める。    4) 企業等に対して専用線接続サービスを提供しているプロバイダーのほとん    どは、当該企業等が自ら設置するメールサーバやWWWサーバへのアクセス    履歴を把握していない(又は把握することができない)のが現状である。    5) 捜査機関から、刑事訴訟法第197条第2項に基づく捜査関係事項照会書    による照会がある場合、「ログ内容について回答する」と回答した者と「わ    からない」と回答した者が非常に多い。 3 利用明細書の発行の現状   上記の第一種電気通信事業者に対する調査によると、その多くが、希望があっ  た加入者に対してのみ利用明細書を発行しており、通話明細書への記載事項も必  要最小限のものとしている。また、利用明細書の開示先についても、原則として  加入者となっている。 4 通信履歴の取扱いに関する諸外国の状況  (1) アメリカ   1) 捜査機関からの要請によるログ等の保存義務     プロバイダー等に対し、一般的に通信履歴(ログ)の保存を義務づける法律    は存在しないが、合衆国法典第18編第2703条により、プロバイダー等は、政府    機関の要請を受けたときは、裁判所の命令その他の令状が発付されるまで、記    録その他の証拠を保存する義務が課される。保存すべき期間は、90日間であ    るが、政府機関の再度の要請があれば、更に90日間保存しなければならない    ものとされている。     この規定は、捜査のための通信傍受並びに蓄積された有線及び電子的通信へ    のアクセス等を定めた1986年電子通信プライバシー法によって改正された連邦    刑事法典に、1995年包括的テロ防止法によりさらに追加されたものである。   2) 事業者による犯罪捜査協力のための政府補償     合衆国法典第47編第1002条により、事業者は、犯罪捜査のための通信傍受の    ための設備を設置する義務を負うが、当該設備の設置に要した費用について    は、政府から補償を受けることができる旨が定められている(捜査のための通    信傍受への事業者の協力を得るために費用を補償する旨を定めた1995年通信事    業者捜査支援法の一部)。  (2) 欧州連合(EU)     前述のEU電気通信個人データ保護指令において、通信履歴(ログ)の取扱    いについて規定されている。すなわち、トラフィック・データは、(a)加入者    への課金、及び(b)相互接続料金の支払いを目的とする場合を除いて、通信の    終了後、遅滞なく消去され、又は、匿名にされなければならないものとされて    いる(第6条)。また、加入者は、利用明細の記載されていない請求書を受け    取る権利を有する(第7条)。  (3) イギリス     貿易産業省(DTI)が、EU電気通信個人データ保護指令をイギリス国内    で実施するために公表した規則案において、トラフィック・データの扱いにつ    いて以下のように規定されている。    (a) トラフィック・データは、原則として、当該通信の終了の時点で消去さ     れ、又は、匿名にされなければならない(第5条第2項)。    (b) トラフィック・データの処理は、課金のための運用、顧客からの問い合わ     せ、不正行為の探知、又は関連する者による電気通信サービスのマーケティ     ングの場合に限定される(第8条第2項及び第3項)。    (c) その他例外として、紛争処理のための権限を有する者にトラフィック・     データを提供することは許される(第9条第1項及び第2項)。    (d) 電気通信サービス提供者は、加入者から請求があった場合には、利用明細     の記載されていない請求書を交付しなければならない(第26条)。    (e) この規則の規定は、犯罪の捜査又は防止、刑事手続、裁判所の令状への対     応等のために必要であれば、事業者に対し、いかなること(データ処理を含     む)もさせ、又は、させない義務を課すものではない(第30条) 。   (なお、刑事法令においても、犯罪捜査のために例外的に長期間保存を認める    旨の規定は存在しない模様である。)  (4) ドイツ   1) 電気通信顧客保護令     1996年電気通信法第41条において、連邦政府が利用者及び消費者保護のため    の令(Verordnung)を公布すべきこと等が定められた。これを受けて、199    7年(平成9年)12月11日、電気通信顧客保護令(TKV)が制定された    (1998年(平成10年)1月1日施行)。     同令においては、(a)加入者が利用明細書を請求した場合には、事業者は、   技術的に可能な範囲で、かつ、データ保護法の規定の枠内で、利用明細書を作   成しなければならないこと、利用明細書は、料金算定のチェックが可能である   ように、料金の詳細が示されていなければならないこと、及び、利用明細書の   標準書式が無料で提供されなければならないことが定められている(第14   条)。また、(b)利用明細の開示に際しては、共同利用者の保護を考慮すべきこ   ととされ(第16条(1))、(c)利用データが保存されなかった場合、あるい   は、顧客の希望に基づき、又は法的義務に基づき、保存された利用データが   抹消された場合、事業者は、個別のサービス利用に関する立証義務を負わない   ものとされている(第16条(2))。     なお、上記(a)でいう無料で提供されるべき利用明細書の標準書式につき、   1998年(平成10年)9月16日、電気通信規制庁は、通話の日付、相手   方電話番号(一部省略された電話番号。ただし、加入者が要求した場合には全   桁記載)、通話開始・終了時刻又は接続継続時間のうち2つ、料金単位又は   個々の通話の料金のうち1つを記載事項とする旨の官報を発表している。   2) 電気通信事業者データ保護令     1996年電気通信法第89条を受けて制定された電気通信事業者データ保護令    (TDSV)において、事業者は、通信終了後、電話番号、移動電話の場合の    場所コード、通信開始・終了の日時等の接続データのうち、課金に必要なデー    タを確認するとともに、課金に不要なデータは遅滞なく削除すべきこと、課金    データは、料金の正当性証明のため電話番号を短縮の上、最大80日間保存す    ることが許されること、及び加入者の要求があった場合には、前記の電話番号    を短縮せずに保存すること等が定められている(第5条及び第6条)。   3) テレサービスにおけるデータ保護に関する法律     テレサービスにおけるデータ保護に関する法律において、サービス提供者    は、課金データを除き、通信終了後できるだけ速やかに(遅くとも各回の利用    が終了した直後に)削除しなければならないこと、課金データも、不要となっ    たときは削除しなければならないこと、及び利用明細を作成するために保存す    る課金データは、当該請求明細の発行後、遅くとも80日目までには削除しな    ければならないこと(ただし、支払請求がこの期間内に紛争の原因となり、又    は支払いを請求したにもかかわらず支払いがない場合には、この限りではな    い。)等が定められている(第6条)。   4) 犯罪捜査への協力     1996年電気通信法第88条において、捜査機関による通信傍受のための設備    の設置については、事業者の負担によるものと定められた。     なお、犯罪捜査のために例外的に長期間、通信履歴の保存を認める旨の規定    は見当たらない。  (5) フランス     ネットワーク事業者及びアクセス事業者には、捜査機関に提出するために通    信履歴を保存しておく義務はない。 5 通信履歴の記録・保存と「通信の秘密」との関係    電気通信事業法第4条第1項で保護される「通信の秘密」には、通信内容の   みならず、通信当事者の住所・氏名、発受信地、通信年月日等、通信そのもの   の構成要素であり、これらの事項を知られることによって特定の通信の意味内   容が推知されるような事項も含まれると解されていることから、通信履歴(発   受信地、通信年月日等)を記録することは「通信の秘密」の侵害になると考え   られる。    しかし、こうした通信履歴は、料金計算のために必要な情報と考えられるか   ら、事業者がこれを記録すること自体は、正当業務行為として、違法性が阻却   されるものと考えられるし、また、利用者保護の観点からも、ある程度の期間   は必要であると考えることができる。さらに、いつ誰がどこに通信を行ったか   という通信履歴については、料金計算だけでなく、明細書発行や料金等に関す   る利用者からの問い合わせに対応するため、及び、自己の管理する情報あるい   はシステムの安全性の確保(セキュリティ対策)のためにも必要であり、それ   らも正当な業務ということができるから、そうした業務に必要かつ相当な範囲   で保存することも許されるものと考えられる。    しかし、「通信の秘密」を保護する趣旨が、憲法の保障を受け、通信におけ   るプライバシーを特に保護しようとすることにあるとするならば、こうしたプ   ライバシーに属する情報は、本来、正当な業務上の必要がなくなった時点で削   除すべきものである。    現行の個人情報保護ガイドラインにおいて「個人情報については、原則とし   てその保存期間を定め、保存期間を超えたものは遅滞なく消去するものとす   る。また、利用の目的を達成した場合においては遅滞なく消去するものとす   る」と規定されているのも、このような考えに基づいている。 6 ハイテク犯罪捜査への協力の在り方(通信履歴の保存)  (1) 背景    情報通信社会に向けて、コンピュータ及び電気通信技術を使用したハイテク   犯罪を防止していくことが求められており、その一環としてサミット等の国際   会議の場において、産業界(プロバイダー、コモンキャリア等)との協力が唱   えられている。1998年(平成10年)5月に開催されたバーミンガム・サ   ミットのコミュニケでも、「我々は、プライバシーの保護を維持しつつ、証拠   として電子データを取得し、提示し、保存するための法的な枠組みについて合   意するため、産業界との緊密な協力を呼びかける。」との言及がなされてい   る。    ハイテク犯罪の事前の抑止及び事後の捜査の観点からは、通信履歴をできる   限り長期間保存しておくことが望ましいが、他方、通信履歴は「通信の秘密」   に含まれる情報として、プロバイダー等はサービスの提供上必要な限度におい   てのみ保存すべきものと考えられてきた。そこで、ハイテク犯罪対策のため法   執行機関への協力として通信履歴を保存しておくことがどこまで許されるかが   問題となる。  (2) 検討    通信履歴の保存については、事業者のコスト負担の面での問題もあるが、こ   こでは主に「通信の秘密」ないしプライバシー保護の観点からの許容性につい   て検討する。    前述のとおり、通信履歴は、「通信の秘密」に含まれるものとして保護され   るが、これを事業の遂行上必要かつ相当な範囲で保存することは、正当業務行   為として許されると考えられる。事業の遂行上保存が必要とされる期間は、提   供するサービスの種類、課金方法等により、各事業者ごとに、また、通信履歴   の種類ごとに異なるものと考えられる。したがって、一律に保存期間を定め、   それを義務づけるのは、事業者による事業運営の自主性を阻害するとともに、   事業者によっては通信履歴の保存に要するコストの負担が過大となるという問   題もあり、適当でない。    事業者が、こうした業務の遂行上必要かつ相当な範囲を超えて、不要となっ   た通信履歴をいつまでも残しておくことは、「通信の秘密」及びプライバシー   保護の観点から問題がある。各事業者においては、原則として、事業の遂行上   必要とされる保存期間を定め、保存期間を過ぎた場合には、遅滞なく削除又は   個人が識別できない状態にする必要がある。    しかし、特定の犯罪等につき、捜査機関等から適式の手続により、令状請求   の予定がある等その必要性を示した上で、特定の通信履歴を保全しておいても   らいたい旨の要請があった場合に、一定期間これに応じるようにすることは可   能であると思われる。この場合、こうした保全の要請が、現行法上、どのよう   な手続でなされるべきであるかは必ずしも明確でないため、その点につき速や   かに法的な整備を図ることが望ましい。    なお、いわゆるログには、他人の通信を媒介する過程で入手する他人の通信   履歴のほかに、事業者が管理するデータあるいはシステム自体へのアクセス履   歴もあるが、後者については、自己の管理する情報あるいはシステムの安全性   を確保するために、特に制限なく保存し得るものと考えられる。 7 利用明細の取扱い  (1) 利用明細の記録・保存について    利用明細の記録・保存は、事業者にとっては、料金請求の根拠を示すことに   なり、加入者にとっては、料金を確認することを可能とするので、双方にとっ   て重要な意味を持つものである。    一方で、利用明細の内容は、通信履歴にほぼ等しく、その取扱いについて   は、「通信の秘密」やプライバシー保護に関する配慮が必要となる(例えば、   NTTでは、通話明細の記録に先立ち、加入者に対し個別に1)記録を希望す   る、2)相手先電話番号の下4ケタを消去した記録を希望する、3)記録を希望し   ない、のいずれを選択するかの意向照会を行い、これに沿った措置をとること   としている(回答のない加入者については、下4ケタ消去の扱い)。)。    前述の通信履歴の記録・保存についての一般的な考えからすれば、こうした   利用明細記録は料金請求の前提となる情報であり、また、加入者からの問い合   わせに対応するためにも必要な情報と言うことができ、事業者が記録するのに   必ずしも加入者の同意が必要とまでは言えない(ただし、市内通話や特定の局   番内であれば料金が変わらないとすれば、下4ケタまでとっておく必要はない   とも言える。)。むしろ、消費者保護の観点からすれば、料金を請求する前提   として当然記録しておくべき情報と言えなくもない。    以上を前提に検討するに、事業者が利用明細を記録・保存することは、料金   請求の根拠を示し得るようにし、また、加入者からの苦情や問い合わせに対応   するために、債権者たる事業者の当然の権利であり義務でもあると考えられる   から、必要な限度で記録・保存することは正当業務として許されるものと考え   られる。    しかし、事業者としては、「通信の秘密」に関する事項の取扱いについて、   可能な限り明確にしておく必要があるものと考えられる。また、加入者が、通   信履歴を記録しないことを特に望んだ場合には、事業者はこれに従って記録し   ない(もちろん、課金情報を得るために一旦は記録するが、保存しないで速や   かに消去することになるものと思われる。)扱いをすることが可能である。こ   の場合には、当該加入者は、信義則上、料金の明細について争うことはできな   くなるものと考えられる。  (2) 利用明細の閲覧・交付等について    事業者において、利用明細を記録することとしたとして、それを誰に対して   閲覧又は交付するか(例えば、加入者と利用者が異なる場合の加入者への交付   の可否、加入者の配偶者からの問い合わせに対する対応等)、どの範囲まで記   載すべきかといった問題がある。    利用明細の閲覧・交付先については、通常、事業者としては、恒常的利用者   を把握する手段はなく、基本的には加入者を情報主体とみなして利用明細を閲   覧・交付すれば足りる。    しかし、加入者からの申告その他により加入者とは別に恒常的利用者がいる   ことが判明する場合もある。この場合においては、恒常的利用者が情報主体で   ある以上、これに対して開示すべきである(ただし、事業者としては、リスク   ヘッジの観点から加入者の同意を得ておくことも考えられる。)。さらに、こ   の場合において情報主体ではない加入者が開示を求めてきた場合は、恒常的利   用者の同意を得てもらうという扱いが必要である。このような場合において   も、加入者が料金支払い者となっており、利用明細を閲覧することにつき正当   の利益を有していると認められる場合には、同意がなくとも閲覧・交付に応じ   てよいと考えられる。    なお、利用明細の代理人への閲覧・交付については、任意代理人は、契約者   の同意(承諾)を得ていると考えられるから、これに対する閲覧・交付は許さ   れるものと考えられる。また、法定代理人についても、当然に加入者の同意が   あるものとは解されないため、委任状等を条件とする等、任意代理人と同様の   扱いとするのが適当である。利用明細は「通信の秘密」に直接関わる事項であ   ることから、一般の個人情報にも増して慎重な取扱いが求められ、例えば、親   権者が家出をした未成年者の所在を探索するため携帯電話の利用明細を見たい   と言ってきたような場合も、未成年者の生命・身体に危難が迫っているといっ   た特別の事情がない限り、応じるべきではないと考えられる。    利用明細書に記載する事項としては、料金の支払いに際して、加入者が利用   したことが確認できるための最低限の情報は必要であり、通話開始日時、通話   時間、相手先電話番号、個々の通話の金額等の記載が考えられる。なお、加入   者の希望があれば、相手先電話番号の一部を省略する等の措置をとることも可   能であると考えるべきである。他方、不必要に通信の相手方のプライバシーを   侵害するような情報については記載すべきではなく、例えば、相手方が携帯電   話・PHSを利用している場合の着信地域の表示は、これらの料金体系が距離   段階で設定されていることから、料金請求の根拠の一つとして必要な情報であ   り、料金単位区域程度を表示することは許されるが、それ以上に詳細な着信地   情報は不当に通信の相手方のプライバシーを侵害するおそれがあり不適当であ   る。    なお、最近利用者が増えているクレジットカードを使った割引制度におい   て、当該制度を利用するとプライバシー保護を理由として利用明細が発行され   なくなる扱いが一部で見られるが、クレジットカード会社から利用明細が発行   されないのは当然としても、事業者も発行しなくなるというのは合理的な理由   がない。したがって、少なくとも利用者から請求があれば、発行すべきであ   る。 第3節 電話番号情報の取扱い 1 電話番号情報の意義    電話番号情報とは、事業者が電話加入契約締結に伴って知り得る電話加入者   に関する情報のうち、電話帳に掲載されることになる電話番号、設置場所、契   約者名(職業)等に関する情報をいう。電話番号情報は、電話帳への掲載のほ   か、電話番号案内(104番)という形で公開されることが前提となってお   り、個人情報でありながら外部提供が要請されている点に特徴を有する。    電話番号情報の取扱いについても、近時の電気通信サービスの高度化・多様   化や個人情報保護の意識の高まり等により、電話帳のCD−ROM化の是非等   様々な問題点が生じてきており、議論を整理する必要がある。 2 諸外国の状況  (1) アメリカ   1) 加入者リスト情報(Subscriber List Information)     アメリカでは、1996年電気通信法により1934年通信法(合衆国法典第47編)    に第222条(顧客情報のプライバシー)が追加された。同条(e)は、加入者リス    ト情報につき、事業者は、いかなる形式であれ番号簿を出版する目的のために    要請があれば、非差別的で妥当な料金その他の条件によりいかなる者にも提供    しなければならないとしている。FCCによれば、これは、利用者のプライバ    シー保護の要請よりも、番号情報を利用したサービスの競争による利用者の利    便の向上を選択した結果であるとのことである(FCC Second Report and    Order(98/02/19))。   2) 事業者による利用者の意向確認方法     電話帳への掲載に関する利用者の意向確認の方法については、事業者ごとに    様々であるが、地域事業者であるBell Atlantic及びUS Westの例では、以下の    方法により、利用者の意向確認を行っている。   (a) Listed(電話帳掲載を認める(外部への情報販売も認める))   (b) Non-Published(電話帳掲載を認めない)     電話帳掲載を認めると、原則的には、外部への情報販売も認めたこととなる    ので、外部への情報販売を認めない場合には、利用者は、その旨を事業者へ通    知する必要がある(こうした電話帳掲載は認めるが、外部への情報販売は認め    ない扱いをNon-Listedという)。     なお、Bell Atlanticでは、外部への情報販売を開始する際に、既加入者に    対して、料金請求書にサービス開始の案内と外部への情報販売を認めない場合    は、事業者へ通知する旨のお知らせ文を同封するとともに(1回限り)、新規    加入者に対しては、その都度、外部への情報販売を認めない場合は事業者へ通    知する旨のお知らせ文を郵送するという扱いを行っている。   3) CD−ROM電話帳     Bell Atlantic及びUS WestにおけるCD−ROM電話帳の発行については、    両社とも、紙媒体の電話帳の掲載者をCD−ROM電話帳にも掲載しており、    意向確認は、紙の電話帳への掲載についてのみとしている。逆検索機能につい    ては、Bell Atlanticは不可、US Westは可能となっている。  (2) イギリス     1998年(平成10年)9月に、電気通信規制庁(OFTEL)が電話番    号情報サービスと電話帳の提供("Provision of Directory Information    Services and Products")に関する提案を公表し、現在これに対するパブリッ    ク・コメントを受付中である(1998年(平成10年)11月6日まで)。     この提案は、利用者のプライバシーと利用者がより多くの選択の機会が得ら    れるための競争的枠組みとのバランスの確保が目的であり、この中で、紙ない    し電磁媒体による電話帳を発行する者は、   1) 住所の一部を削除して掲載すること   2) 電話帳に掲載された個人情報をDMに用いられることを許諾しない者につい    ては、電話帳にその旨がわかる目印を設けること   3) OFTELが策定しているプライバシー保護のための実施コード(Code of    Practice)を遵守し、また、情報提供を受けた者に遵守させることを事業者の    免許条件に追加すること   4) 電話番号情報を提供する場合には、情報提供を受ける者が番号案内サービス    を行うに際して、当該加入者が掲載省略を希望している者であることを確認で    きるよう、掲載省略者の氏名及び住所も、提供しなければならないこと    等を明らかにしている。  (3) ドイツ     1996年電気通信法第89条により、連邦政府は、ドイツ議会の承認を得て電気    通信に係る個人情報保護について法的拘束力を有する令(Verordnung)を公布    することとされており、これを受けて、1996年(平成8年)6月、電気通    信事業者データ保護令(TDSV)が制定された。同令によれば、事業者は、    加入者に対し、紙又は電磁媒体の電話帳を作成して配付することができる(第    10条(1))。また、案内窓口を通じて電話番号情報を提供するか、若しくは第    三者を通じて提供(電話番号案内)しなければならず(第11条(1))、加入者    が同意した場合には、電話番号以外の情報についても電話帳に記載することが    できる(第11条(3))。     また、1996年電気通信法第41条は、連邦政府に対し、顧客保護のための令を    制定すべきことを定めており、これを受けて1997年(平成9年)12月に    制定された電気通信顧客保護令(TKV)においても電話帳に関する規定が定    められている。すなわち、加入者は、事業者に対して、電話帳への登録、登録    内容のチェック、訂正、抹消を要求することができ(第21条(1))、電話帳に    は、少なくとも、電話番号、氏名、住所を掲載するとされる(ただし、公開が    許可されている場合に限る。)(第21条(2))。また、電気通信法に基づき電    話帳の発行を義務付けられている者は、事業者に対して加入者情報を要求する    ことができ、このために発生する料金は、効率的なサービス提供に必要な経費    に基づき決定される(第21条(4))。そして、これらの規定は、電話番号案内    サービスの場合にも適用される(第21条(5))。  (4) 欧州連合(EU)     EU電気通信個人データ保護指令(Directive97/66/EC)の第11条が電話番    号情報について規定しており、同条では、加入者は、要請すれば紙又は電磁媒    体の電話帳への掲載を削除すること、自らの個人データがDMのために用いら    れることのないようにすること、住所の一部を削除することができること等が    定められている。 3 電話帳のCD−ROM化  (1) 従来の経緯     電話帳には、50音別電話帳(ハローページ(NTT):加入者を50音順    に掲載)と職業別電話帳(タウンページ(NTT):職業ごとに区分掲載)と    がある。このうち、タウンページについては、もともと加入者がその顧客獲得    等のための広告を兼ね、広く自らの電話番号を宣伝する趣旨で掲載し、個人情    報として保護されるべき内容も多くないと考えられることから、電子データで    の提供も許されるとされており、NTTでは、平成2年(1990年)から磁    気テープ等の媒体での提供を、さらに平成8年(1996年)からはインター    ネットのホームページ上での提供を開始している。     これに対し、ハローページのCD−ROM化については、個人情報保護の観    点から検討すべき問題が多く、過去の研究会においても何度か議論がなされて    いるが、未だどのような条件でこれを認めるべきかの結論は出ていない。     すなわち、電気通信ネットワークの発展に伴う番号の在り方に関する研究会    「電話加入者情報分科会中間報告書」(昭和62年(1987年)7月)にお    いては、ハローページ情報については、その情報が公開されることによって社    会的に拡散し、集積されるようになった場合、加入者が悪質勧誘等の迷惑電話    の被害を受けるおそれがあるとして、出版以外の公開の形式及びコンピュータ    による処理を可能とする方法により外部に公開(提供)することについては慎    重な検討が必要であるとし、ハローページのCD−ROM化については消極的    であった。     「電気通信事業における個人情報保護に関する研究会報告書」(平成3年    (1991年)8月)も、ハローページと異なる記載方法を取る場合において    は、その電話番号情報に関連する加入者全てに個別に意向確認を行い、同意を    得ることを必要とするとしていた。     しかし、「電気通信と消費者保護に関する研究会報告書」(平成7年(19    95年)8月)では、電話帳のCD−ROM化に一歩踏み込み、最近の状況の    変化、諸外国の状況及びCDーROM電話帳の利点を考えると、今後、電話帳    のCDーROM化の実現に向けて検討することが必要とした上で、プライバ    シー保護の観点から更に検討すべき事項として、NTTがCD-ROM電話帳    を商品化する場合に、掲載の有無について加入者に照会する必要があるか、そ    の照会方法、電話番号や住所から加入者を検索する機能(いわゆる「逆検索機    能」)を認めるか、発行されたCD-ROM電話帳の内容に誤りがあった場合    の措置、第三者がCD-ROM電話帳を二次利用した場合のプライバシー問題    を挙げている。  (2) 現在の状況     上記のような郵政省の研究会における議論の結果を踏まえ、現在、NTTで    は、ハローページについては、紙媒体での発行しかしていない(ただし、試行    版として、東京都内の事業所の情報に限定したCD−ROM版ハローページは    存在する。)。     しかし、NTT以外の者によって、ハローページ情報等を基に作成されたC    D−ROM電話帳が市販されているのが現状である。また、こうしたCD−R    OM電話帳等の大半が、電話番号や住所から加入者を検索する機能(いわゆる    「逆検索」機能)を有しており、さらに、ナンバー・ディスプレイ・サービス    と連動させることにより、電話がかかると同時に、発信者の名前・住所・電話    番号をパソコン上に表示する機能を組み込むものもある。  (3) 検討     ハローページのCD−ROM化については、情報化社会の進展やコンピュー    タ利用の普及等に伴い利用者のニーズが高まっており、紙資源の節約や省ス    ペースの実現等の観点からも、基本的には認める方向で検討すべきである。す    なわち、電話帳のCD−ROM化により、全国の電話帳が数枚のCD−ROM    に収まり、検索も容易になる、紙の電話帳と異なり保管場所もとらない等利用    者の利便性が向上し、また、紙を使わないので環境保護に適しており(NTT    の電話帳による紙の消費量は、我が国の紙の消費量の約0.5%を占めると言    われている。)、輸送・配達にかかるエネルギーの省力化にも資する。     他方、ハローページのCD−ROM化については、プライバシー保護の観点    からの懸念もあることは、前述したとおりである。利用者にとって、媒体がC    D−ROMとなった場合の最も大きな懸念は、電子データとなることにより情    報の加工・処理が容易となり不当な二次利用をされるおそれがあるということ    ではないかと思われる(郵政省が行った平成10年度電気通信サービスモニ    ターに対する第1回アンケート調査結果によれば、ハローページについては従    来の紙媒体のままでいいと答えた者が46.3%となっているが、その理由と    しては、「これまで特に不都合がなかったから」、「電磁媒体は個人情報の不    当な二次利用等プライバシー侵害のおそれが高いから」及び「電磁媒体で提供    されても使いこなせないから」とする回答がほぼ同数となっている。(本調査    実施結果については、参考資料92頁を参照))。データのダウンロードの禁    止等これらに対する対策が講じられるならば、新たな同意をとらなくてもCD    −ROM電話帳を発行することも可能とも考えられる。     しかし、利用者の意識は未だ不明確な点もあるため(上記モニターアンケー    ト調査結果によれば、CD−ROM化する際に付するべき条件としては、「改    めて利用者の意向を確認すべきである」とする意見が最も多いが、「逆検索を    禁止すべきである」 「情報を容易にコピーできないようにすべきである」とする    意見も相当数ある。(本調査実施結果については、参考資料93頁を参照))、    CD−ROM電話帳への掲載の可否について個別に照会することが適当である    との考えもある。したがって、利用者への意向確認の要否については、ヨーロ    ッパ各国その他諸外国の動向にも注意しつつ、社会的コンセンサスの有無を判    断していく必要がある。     いずれにせよ、少なくとも逆検索の機能を付加する場合には新たに利用者の    同意を得る必要があると考えるべきである。電話番号情報が個人情報でありな    がら公開が要請されるのは、ある特定の人に電話をかけたいというときに電話    番号が分からなければコミュニケーションをすることができないことから、こ    れを成立させるという目的によるものと解されるとすれば、特定の人の電話番    号を調べるという機能で十分であり、この電話番号の者は誰かといった逆検索    に使うのは目的外の使用と言えるからである。     NTT以外の者により既に発行されているCD−ROM電話帳等について    は、法的にどのように扱われるべきであるか明確でないまま市販されているの    が現状である。これに対しては、例えば、NTTから電話帳情報を提供する代    わりに、データのダウンロードや逆検索を禁止することにより、一定の規律を    及ぼす方法が考えられる。また、電話帳に掲載した場合、結果的に二次利用さ    れるおそれもあるということを周知する方法も考えられるが、かえって掲載省    略が増えて、電話帳あるいは番号案内の機能が低下するという懸念もある。そ    こで、番号掲載率の維持のため、住所の一部を削除して電話帳に掲載するとい    うオプションを設けることも検討していく必要がある。また、イギリス等にお    いて行われているテレホン・プレファレンス・サービス(TPS)ように、紙    あるいはCD−ROM電話帳に掲載された個人情報をDM、電話勧誘等に用い    られることを欲しない者について、電話帳にその旨がわかる目印を付けるとい    うオプションを設け、当該加入者に対しては電話勧誘等を行わないよう義務づ    ける等の制度についても、その導入の可否を将来的に検討していく余地があ    る。 4 電話番号情報の他事業者への提供  (1) 提供の現状   1) 番号案内目的(NTT以外の事業者による番号案内サービス)     現在、NTT以外で携帯電話の利用者向けに番号案内サービスを提供してい    る番号案内事業者があるが、同社では、NTTのエンジェル・ラインを用いい    る。すなわち、センターにパソコン端末を設置し、携帯電話・PHSの利用者    からの問い合わせがあった場合、オペレーターがパソコン端末からエンジェ    ル・ラインへアクセスして番号を検索し、利用者に番号を案内している。  <関連図> 関連図     この場合、エンジェル・ラインでは、電話帳への番号掲載の省略を希望した    加入者については、番号を検索することができないため、利用者から、これら    の非掲載電話番号に関する問い合わせがあった場合、当該番号案内センターの    オペレータは、パソコン端末から当該番号を引き出すことができないのみなら    ず、それが、非掲載電話番号ゆえに引き出せないのか、あるいは、オペレータ    の検索操作のミスによるものかがわからないため、何度も同じ番号を検索して    確認する必要がある。これは、コスト面で非効率であるとともに、サービスの    面においても、利用者にとって大きなデメリットとなっている。     そこで、当該番号案内事業者としては、エンジェル・ラインで検索する際、    非掲載電話番号についても、「電話帳への番号掲載の省略を希望しているた    め、案内できない」旨の表示まで出してもらいたいとの要望がある。他方、電    話帳への番号掲載の省略を希望した加入者は、所在自体も他人に知られたくな    いという意思を有しているとも考えられるため、上記の情報を外部提供するこ    とは、プライバシー保護の点で問題となり得る。   2) 50音別電話帳(NTT以外の者による電話帳発行)     ハローページ情報の電話帳の作成・発行目的での他事業者への提供について    は、前述の研究会(昭和62年(1987年)及び平成3年(1991年))    の検討結果を受けて、紙媒体によるハードコピーによる場合又は流通している    電話帳の使用許諾の場合に限定されている。     しかし、電話帳発行事業者からは、電磁媒体での提供の要望があり、これを    認めるべきか、認めるとしていかなる条件が必要かが問題となる。  (2) 検討     タウンページ情報については、事業用加入者にとっては、その電話番号が広    く知られることはむしろ望ましいと考えられるばかりでなく、個人情報保護の    問題もあまりないので、電子データでの提供は可能である(現在すでに実施さ    れている)。     また、ハローページについても、NTTの電話帳に載せることを承諾すると    いうことは、電話帳として電話番号情報が公開されることを承諾するというこ    とであり、公開の態様が同等である限り、主体がNTTであるかそれ以外の者    であるかで区別する合理的な理由はないと考えられる。したがって、NTTが    他社に対し、NTTの電話帳と同等の形での電話帳の作成・出版ないしは番号    案内業務実施の目的でハローページ情報を提供することは可能であると考える    のが適当である。また、この場合、その手段として、電磁媒体による提供も可    能であると考えるが、被提供者に対し、情報の利用を電話帳発行事業又は番号    案内事業に限定させること、NTTの電話帳と同等の形態を維持すること(C    D−ROM化したり、逆検索等の新たな機能付加しない)、情報の流出防止の    ための措置を講ずること等の情報の取扱いに関する協定等を必ず締結すること    が必要である。     また、電話番号情報の外部提供に当たっては、電話番号情報の公開の公共性    にかんがみ、番号情報を所持する電気通信事業者等(提供者)は、公平な条件    かつ妥当な料金でこれを提供する必要がある。 第4節 携帯電話・PHS等の位置情報の取扱い 1 位置登録情報    位置登録情報とは、事業者が移動体端末(以下「端末」という。)の所在を   把握しておくため、予め定められた位置登録エリアを端末が移動するごとに、   端末からの位置登録要求に基づき作成され、サービス制御局に登録される位置   情報(端末のIDとそれに対応する位置登録エリアの情報)をいう。端末が位   置登録エリアを移動したことを認識するために、基地局からは、位置登録エリ   アを示すエリア番号が無線回線で端末に常時報知されており、端末は定期的に   自端末内に記憶されたエリア番号と現在報知されているエリア番号とを照合   し、不一致になった場合に位置登録を更新するための要求をすることになる。  <関連図>(例:PHS)
関連図

2 位置情報サービス

 (1) 位置情報サービス
   位置情報サービスは、位置情報サービス提供者が、端末(主にPHS端末)
  の所持者の所在地情報又は所在地に関連するその他の情報を依頼者に開示する
  サービスであり、例えば、保護者が徘徊老人の所在地を容易に知ることができ
  るサービス、配達員や旅行者が所在地周辺の地図情報を入手できるサービス
  等、移動体通信、特にPHSの特徴を有効に活用した有望なサービスとして、
  その普及・進展が見込まれている。
   しかしながら、一方で、位置情報サービスは、端末所持者の所在地というプ
  ライバシーの中でも特に保護の必要性の高い情報を取り扱うサービスであるこ
  とから、プライバシー保護のための適切な措置を講じておく必要がある。

 (2) 位置情報サービスの仕組み
   現在、提供されている位置情報サービスにおいては、通信役務提供の過程で
  取得される位置登録情報を使っているわけではなく、ポーリング方式(ホスト
  が各端末に送るべきデータがあるかどうかを順々に問い合わせ、もし端末が送
  るべきデータを持っていたならば、それを受け取るという方式)等により収集
  した基地局情報(CS-ID)を使っている(このためには、端末が要求に応じ
  て基地局情報を送出する仕様になっている必要がある。)。
   位置情報サービスを提供する携帯電話・PHS事業者は、この基地局情報と
  基地局設置場所データを照合することにより得た端末所持者の所在情報を位置
  情報サービスセンター内のサーバを経由して、位置情報利用者からの要求に応
  じて提供することになる。
   また、位置情報サービス提供者は、必ずしも携帯電話・PHS事業者とは限
  らない。この場合は、利用者からの要求を受けた当該位置情報サービス提供者
  が、端末に対して基地局情報の送出を要求し、これにより収集した基地局情報
  と携帯電話・PHS事業者から入手した基地局設置場所データとを照合するこ
  とにより得られた端末所持者の所在地情報を利用者に提供することになる。
   なお、位置情報の要求主体(位置情報利用者)についても、端末所持者に限
  っている場合と第三者(保護者や管理者等)の利用も認める形態とがあり、前
  者の場合には、プライバシー侵害の問題は生じないと考えられる。
   携帯電話・PHS事業者以外の位置情報サービス提供者が、第三者からの請
  求に応じて、端末所持者の位置に関する情報を提供する場合を図解すると、以
  下のようになる。

 <関連図>
関連図

+--                           --+
| 注:端末が捕捉している基地局の情報(CS−ID)に加え |
|  て、端末設備がGPSを利用して測定した緯度・経度を用 |
|  いる場合もある。                   |
+--                           --+

 (3) 位置情報サービスに係る利用者保護のための措置
   位置情報サービスは、非常に有用なサービスとして期待されている反面、端
  末の所持者のプライバシーに関わる面もあることから、郵政省では、事業者に
  対して以下の措置を講じるよう指導しているところである。
  1) 端末所持者の範囲を限定して運用することを約款に規定すること
  2) 加入者の義務として端末所持者の同意を求めるよう約款に規定すること
  3) 前二項に反したために問題が発生したとき、事業者が当該サービスの提供を
   停止する旨を約款に規定すること
  4) 端末に、任意に位置情報の送出の可否を選択できる機能を有しない場合に
   は、当該サービスを提供しない旨を約款に規定すること
  (参考)その他の利用者保護策として実施する事業者の施策
   ・ 端末に位置情報の送出を行える端末である旨の表示を行う。
   ・ 位置情報の送出時に送出を行っている旨の表示を行う。

 (4) 今後の対応
   今後位置情報サービスが普及するためには、端末所持者の十分なプライバ
  シー保護が不可欠である。そのための措置としては、当面上記(3)の措置が考え
  られる。ただし、新たな応用サービス等が出現する可能性は十分に考えられる
  ことから、その都度、利用者のプライバシー保護措置について適宜見直してい
  く必要がある。


3 位置情報と「通信の秘密」

 (1) 位置情報の種類
   位置情報を「端末所持者の位置を示す情報」と考えた場合、以下の3つの場
  面で問題になると思われるが、「通信の秘密」との関係もそれぞれについて区
  別して論ずる必要がある。
  1) 個々の通話とは関係なく、端末から基地局経由でサービス制御局に送られ記
   録される位置登録情報
  2) 課金、料金請求等のため、個々の通話に関連して記録される位置情報
  3) 位置情報サービスのため端末から収集・記録される基地局情報

 (2) 位置登録情報と「通信の秘密」
   通話時以外に端末から基地局経由で位置登録情報を送ることも「通信」であ
  り、これを途中でタッピングする等して傍受した場合には「通信の秘密」を侵
  害することになるという意見もある。
   しかし、位置登録情報は、少なくとも事業者に到達した後は、端末所持者の
  「通信の秘密」として保護されるものとは言えないと考えられる。これについ
  ては、(a)位置登録情報は、端末所持者が携帯電話・PHS事業者に対して端末
  の所在位置を示す情報を自ら送信しているのであり、携帯電話・PHS事業者
  は通信の一方当事者としてこれを受け取って制御局に蓄積したのであって、こ
  の蓄積情報は、携帯電話・PHS事業者が通信の一方当事者という立場で保有
  しているものであるから、事業者の取扱い中に係る「通信の秘密」ではなく、
  プライバシーとして保護される情報と捉える考え方や、(b)位置登録情報の送信
  は、端末所持者が意識的に発信しているものではなく、また当該情報を送信す
  るかしないかを端末所持者の意思に委ねているものではないので、端末所持者
  を発信者と捉えて、その発信場所を当該端末所持者の「通信の秘密」と解する
  ことはできない(携帯電話・PHS事業者の業務用通信。したがって、事業者
  の「通信の秘密」ではあるが、事業者がこれを第三者に提供したとしても、自
  己の「通信の秘密」であるので「通信の秘密」の侵害にはならない。)が、端
  末所持者の所在場所を示す情報ではあるので、プライバシーとして保護される
  情報(ただし、「通信の秘密」と密接に関わり、要保護性が高い。)と捉える
  考え方がある。

 (3) 個々の通話に関連した位置情報と「通信の秘密」
   個々の通話に関連した位置情報は、発信場所を示す情報であり、通信の構成
  要素として「通信の秘密」として保護される情報と考えられる(まさに通信履
  歴の一種)。
   この点につき、発信場所(実務上は、これに対応した電話番号)が「通信の
  秘密」として保護されると言われてきたのは、これにより発信者が推測され得
  ることを根拠とするものであり、移動体通信の場合の発信場所からは必ずしも
  発信者が推知されるわけではないので、直ちには「通信の秘密」として保護さ
  れるとは言えないとの見解もある。しかし、公衆電話から電話をかけている場
  合も、その電話番号(所在場所)は「通信の秘密」として保護されると解され
  ている。この場合も、それだけでは誰が通信したかを特定することは困難であ
  るものの、他の情報と合わせることにより、その点が推察され得るからにほか
  ならない。そうであるならば、移動体通信の場合の発信場所も、他の情報を加
  味することによって発信者、ひいては通信内容を推知させることになるから、
  「通信の秘密」として保護されるべきものであると考えられる。

 (4) 位置情報サービスセンターに記録される位置情報と「通信の秘密」
   当該情報は、位置情報サービス提供者からの要請に応じて端末から位置情報
  サービスセンター等に対して自動的に送出される。この情報は、サービス制御
  局に登録される位置登録情報とは異なり、電気通信役務の提供の必要により取
  得されるものではないので、上記(2)の(b)のような携帯電話・PHS事業者の
  業務用通信とは言えない。
   すなわち、この場合の端末から位置情報サービスセンター等への基地局情報
  の送信は、端末所持者から位置情報サービス提供者への通常の通信であり、通
  信が終わった後に位置情報サービスセンター等に蓄積された位置情報は、位置
  情報サービス提供者が通信の一方当事者として取得したものであることから、
  上記(2)の(a)の場合と同様の考え方により、もはや「通信の秘密」としての保
  護の対象ではなく、ただ、その内容が端末所持者の所在地であることからプラ
  イバシーとして保護されるということになると考えられる。

4 外部提供(捜査機関等からの照会への対応)の在り方

  1) 位置情報については、上述のように、「通信の秘密」として保護される場合
   のほか、端末所持者のプライバシーとして保護されるべき場合もある。「通信
   の秘密」に該当しなくても、ある人がどこにいるかという情報は、プライバ
  シーの中でも特に保護の必要性が高い情報と考えられる上に、「通信の秘密」に
   属する場合との区別が容易でない場合も多いことから、事業者の実務的取扱い
   としては、「通信の秘密」に準じて扱うのが適切である。
  2) したがって、例えば、捜査機関等から、刑事訴訟法第197条第2項に基づ
   く照会があっただけでは、当該位置情報について回答することは適当ではな
   く、裁判官の発付した令状に従う場合(強制捜査)のほか、電話を利用して脅
   迫の罪を現に侵している者がある場合において被害者及び捜査機関からの要請
   により逆探知を行うとき、その他違法性阻却事由があるときに限り、回答でき
   るものとすることが適当である。

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