楽しく働きたいので

武馬 慎(平成12年入省)
情報通信政策局セキュリティ対策室調整係長
電子署名・認証業務に関する認定制度の運用担当


  誰でも人間というものは、何か新しいことに取り組むときには心機一転して張り切ったり、いろんな決意をしたりするものだと思う。小学生や中学生の頃、「来年は1年間日記をつけるぞ」と決意して新しい日記帳を買ってきたり、新しいノートを使い始める度に「このノートは最後まできれいな字で丁寧に書き続けるぞ」と決意してみたりなんていうのは、誰にでも心当たりのあることではないだろうか。こういう傾向は「就職」という人生の一大イベントの時にはなおさら顕著になるもので、私も総務省(当時は郵政省)への入省を直前に控えて、バリバリ仕事してやるぞとか、自分がこの国を動かすんだとか、そういう決意やら使命感やら勘違いで満ちあふれていた。

  ところがそういう高尚な決意をいきなり挫いてくれる人がいた。大学の修了式の後に開かれた謝恩会で、ある先生がスピーチをされたのだが、その中でこんなお言葉を頂戴した。
  「仕事は60%の力でするのがいいです。100%の力でやろうなんて思わないで下さい。いざという時に100%の力を出して下さい。」
  正確には覚えていないが、だいたいこんな感じだったと思う。ショックである。何を仰るやら。手を抜いていいはずなんてありえない。常に自分の持てる力を発揮してこその社会人だ。今まさに希望の光にあふれて社会へと羽ばたこうとしている我々にはふさわしくないお言葉である。と心の中で反論していたら、はたと気づいた。果たして自分は常に100%の力を出し続けることなんてできるのだろうか。思い返してみれば、新しいノートを1冊通してきれいに書き続けたことなんてなかったし、日記にいたっては長続きしないのがはじめからわかっていたから買いに行こうと思い立ったことすらなかった。この言葉に込められているのは、手を抜けということではなく、適度に肩の力を抜いて余裕を持って仕事をしなさいということなのだ、そう理解した。三日坊主症候群の私にとって、この言葉は非常にありがたいものだった。

  その後入省してからは、この国のため、社会のためとかいう高尚な目標は心の中に大切にしまっておいて、とりあえずは自分のために仕事をしようと思うようになった。まあさすがに60%というのは行き過ぎかもしれないと思うが、変に力を入れすぎることなく、好きで選んだ就職先なのだから楽しむくらいの気持ちで仕事をしようと。そしてその結果として、この国に対して何かしらかの貢献ができていればうれしい。こういう状態が私の理想である。

  最後に蛇足ながら、「普段は肩の力を抜いて、いざという時には100%の力で」という教えを守っていても、なかなか心安らかに余裕を持って仕事ができるわけではないということを指摘しておきたいと思う。何せこの「いざという時」はかなり頻繁にやってくるし、周りには2年くらいずっと「いざという時」状態に見舞われている人もいたりするので。決して他人事ではない。



武馬 慎・執筆者近影
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武馬 慎・執務風景
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武馬 慎・職場の風景
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