国際広報って面白い

荻野 美智代(昭和63年入省)
総合通信基盤局 国際部 国際政策課 国際広報係長
情報通信政策に関する国際広報


  私は、自称、ワーキング・バックパッカー。私の旅のスタイルは「自由きまま」。格安往復航空券、パスポート、ビザ(必要な時のみ)、数万円分の旅行小切手(現地通貨)、日本円(予備として)、クレジットカード(お守りとして)、カメラ、衣類、数日間分の食料と飲料水、それから最新のガイドブックをバックに詰め込んだら、シュラフ(寝袋)背負って空港へ出発!後は飛行機に乗ってから、ガイドブックと睨めっこしつつ、大まかな旅程を組む。そう、私は往路の機上で、訪問先での移動ルートに移動手段、宿泊先(たいていはユースホステル)、観光する場所、食べたいもの等をザッと決める。旅程を決めたところで、ひたすら寝る。そして、飛行機が目的の空港に着陸した瞬間から、後は野となれ山となれ、私の「冒険」が始まる。トラブルは望むところ。何故なら、窮地に追い込まれた時こそ、自分を試すことができるから。そしてそのトラブルを自分の力で乗り越えたときに最高の、「生きる喜び」みたいなものを感じる。これぞ、まさに「自分探しの旅」。

  このようなエキサイティングな旅で、私が訪れた国数は19か国。訪問した順に列挙すると、アメリカ、イギリス、オーストラリア、韓国、シンガポール、マレーシア、カナダ、スイス、ドイツ、オーストリア、イタリア、フランス、スペイン、オランダ、デンマーク、ノールウェー、スウェーデン、フィンランド及びニュー・ジーランド。これ全部、私が公務員になってから夏季休暇等をフル活用して旅したところ。「それで、あなたが一番好きな国はどこ?」―これは、私の旅の話を聞いた人がほぼ必ず抱く疑問。今、これを読んでいるあなたもそうだろうか?それに対する私の答えは明白だ。「日本が一番に決まっているじゃない!」 よく世間では、「外国に滞在していると日本の良さが実感できる」と言われているが、私も例に漏れず、そう実感している一人だ。

  そんな、「愛国者」である私が現在の職場で日々従事している仕事は、国際広報。情報通信分野における各種国際会議等の審議において、我が国の情報通信政策が十分反映されるべく、また、その結果、我が国を中心とした世界の情報通信産業の発展を目指すべく、世界に向けて積極的に我が国の情報通信の現状等に関する情報を発信するというものである。ま、早い話がグローバルな「根回し」。その「根回し」のために行っている作業は、至って単純。総務省の英文ウェブサイトに報道資料等の英語版を掲載し、広報誌「MPHPT Communications News」(英文。隔週発行)を諸外国政府等にメール配信し、また、我が国の情報通信の概況に関する小冊子(英文)等を作成し国際会議等の場において会議等の参加者に配布している。その他には、世界中の政府関係者や電気通信・放送事業者等からの、日本市場への参入条件等に関する照会対応がある。これらの活動をこなしていると、毎日が結構忙しく経過する。

  しかし、一方で、私はその実態に不満を感じている―「たったそれだけの活動で『グローバルな根回し』なんて効果的にできるわけがない。何故って?上述の活動は全て先方主導の「受身的」なものであり、こちら(日本)から日本の情報通信政策を「売り込む」というような面が一切ないからだ。世界の発展のために、いや、日本の国益のためにも、もっと外国の新聞社等と連携して、パブリシティ活動を積極的に展開する義務が、国際広報に携わる私にあると思う。その義務を果たすため、私は今後どう動くべきか…。まさに今、私の新たな「冒険」が始まったのだ。

  人間は窮地に追い込まれたとき、これまでの記憶がどっと甦ってくるという話は本当かもしれない。私の場合、今の職務についてから、その「冒険」への対処方について悩み始めて1週間程眠れぬ時を過ごした頃、遠い記憶がふと甦った―「そうだ、私、子供の頃抱いていた将来の夢はジャーナリストだった」―と。「だったら、今、その夢を間接的に実現させるチャンスかもしれない。もし、自分が情報通信分野専門の外国のジャーナリストだったら、どんなことに興味を持ち、どんな風に取材したいのか…」。そう考えたら、もう「冒険」に対する迷いは綺麗にふっ飛び、逆に、そこには今の状況を楽しみ始めている自分がいることに気づいた。

  そんなこんなで、私がもしジャーナリストだったらと仮定した上で、今、総務省の施策について何か書きたいと思った場合に何が問題となり得るのかを考えてみた。すると、次の3点がぼんやりと頭に浮かんできた。
  1) 総務省と外国新聞社等の間の関係が薄すぎる。
2) 英語による情報提供は、日本語による場合に比べ迅速に行われないだけでなく、その内容も希薄なことが多い。
3) 総務省の国際広報ビジョンが見えない。

  まず、1)については、「記者クラブ」の問題が大きく起因していると私は思う。外国新聞社等は、「記者クラブ」がある国内新聞社と比べると、どうしても取材のタイミングを逸しやすい。今、世間ではこの不平等を是正しようと、この「記者クラブ」を廃止するという動きが出ている模様だが、私の考えは違う。今の「記者クラブ」を「勉強会」という性質のものに発展させ、その所属メンバーに外国新聞社等も加えるという形で公平化を促進させればよいのではなかろうか等と個人的に私は思うのだが…あなたの意見はどうだろう?ま、もし「記者クラブ」が廃止されたとしても、適宜「勉強会」を発足させればよいのかもしれない。

  次に2)についてだが、「これは翻訳作業上の問題だ」とあなたは思うかもしれない。そう思うことは至極当然だ。ただ、その背景には、社会のグローバル化が生み出す「情報弱者」―諸外国の政策担当者もこのカテゴリーに入る可能性があるが―に対する我々の認識が不足しているという隠れた問題があることに、あなたは気づいているだろうか?いくらウェブサイト上で、日本語による詳細な情報を提供したところで、その情報の受け手が日本語を解さなければ、その情報はただの文字の羅列。そこには情報としての価値が全くない。昨今のグローバル化の促進やインターネットの性質を鑑みれば、世界の共通語である英語による情報提供の必要性が、おのずと見えてきてもおかしくないはずなのに、何故その点のケアが不足しているのか。答えは簡単。我々、情報発信側における国際感覚の欠如が大きな原因だ。

  そして3)の問題。これは難問だ。総務省として、今何に力を入れ、何を国内外の人々にアピールしたいと考えているのかという、総務省の国際広報ビジョンが見えない。この原因は一体何なのか。私が思うに、国際広報戦略は政策そのものの国際戦略と表裏一体の関係にあるもの。その考えの下に、その原因の在りかを探るとしたら、それはズバリ、国際広報担当者の勉強不足にある。つまり、有効な国際広報を行うためには、その担当者が関連する政策の内情に精通していること及びその政策に関わるトップの意向を十分理解していることが必要不可欠ではなかろうか?

  以上、3点の問題は、そっくりそのまま、国際広報担当者である私自身に与えられた課題である。1)から3)のどれをとっても、即改善できるものとは到底思えないが、そこは私の腕の見せどころ。今が、自分を試すチャンスなのだ。しかも、仕事に携わりながら昔の夢を疑似体験できる場面が多いのだから、一石二鳥だ。こんな楽しい仕事に巡り合えて私はなんてラッキーなのだろうと嬉しく思うそんな私の今後の活動に、乞うご期待!



荻野 美智代・執筆者近影
執筆者近景
荻野 美智代・執務風景
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荻野 美智代・職場の風景
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