補助金戦線異状なし

宮崎 敦夫(平成13年入省)
情報通信政策局 地域通信振興課 地方情報化推進室 振興係
地方公共団体等に対する補助金執行業務


  私の部署では、主に地方公共団体に対する補助金業務を取り扱っています。自治体が「今度うちで、県下にこんなネットワークを作ります。行政のIT化や学校での高速インターネットができるようになるんですよ」などという補助金の申請文書を出してくると、その事業内容を審査して一定額の補助金を交付する、という仕事です。
  しかし中央官庁がバラまく補助金というと、何やら怪しい臭いが漂ってきそうな感じですね。想像の翼を広げると、
地方「大臣。私どもの地元に、是非補助金をお願いします」
大臣「ぶはははは、任せたまえ。おい〇〇君、ひとつ宜しく頼むよ」
課長「お任せを。その代わり私の天下り先の件については…」
などという黒いやり取りが行われているのではないか、と思われる人がいるのかもしれません。もちろんそんなことは決してありません…と思いますよ…多分…きっとそうさ!
  と、それはさておき。私個人としては、せっかく「若手行政官コラム」という発言の場を頂いたことですし、この場を借りて、ある日の私の業務について書かせて頂こうと思います。行政の最前線に身を置く一兵士の実情をお知らせできれば幸いです。

【1】○月×日(月)9時30分 ―Mission1 質問に答えよ―
  一週間の始まりの日です。今日の仕事はそんなに多くないしな、今日は早く帰れるかも…などと期待に胸を膨らませつつメールを開くと…ぬうう、やっかいな。先週各地方局にお願いした会計検査院関係の調書作成依頼について、早速何通か質問のメールが届いています。無視して自分の仕事を強行したいところですが、そうして回答が遅れると地方局の作業が滞るし、かといっていい加減に答えると、後々本省VS地方局のバトルになりかねません。双方の平和と友好のためには、ここはさっさと調べて回答しなければならないようです。

【2】同日 11時30分 ―Mission2 議員会館行き宅急便―
  作業要綱や昨年度の回答を読み直し、前任者への聞き込みまでしてようやく質問に答えた頃には、もうお昼前でした。でも、時は金なり。残り30分を有効活用すべく、早速予定の仕事に取りかかるとしましょう!
「あ、宮崎君。この書類、今日の内容に直してすぐに見せて」
  …今度は上司からの直接命令です。何でも、国会議員の先生にお渡しする資料を作ってくれとのこと。そういえば今日は、補助金の交付決定先が報道発表される日だったっけ。いわゆる情報提供ってヤツですね。そうと分かれば早速日付を直して、内容を更新して…よし、1158分。午後から予定の仕事を始められるな。係長、出来ました! 
「うん。じゃあ必要部数コピーして午後イチで届けに行っといて」
  …官用車の予約票、どこにあったかな…。

【3】同日 14時30分 ―Mission3 間違いを探せ!―
  午後。衆院第一、第二会館、参院会館を回って資料を配り終え、職場に戻ってきました。もう新たな仕事を頼まれることもなく、ようやく本来の仕事に取り掛かれそうです。
  今日予定していた仕事は、地方局から新たに提出される補助金申請文書の調整です。相手が送ってきた申請文書の案を眺めつつ…文書の題名、よし。事業の目的、OK。事業額と補助額…あれ? この補助率だと、補助金の額がおかしいぞ!?
  慌てて他の資料と比較したところ、そこだけの表記ミスだったので一安心です。早速地方局に連絡して、他のミスと合わせて修正、再提出をお願いします。部署によっては「ここをあと5mmミリメートル右にずらして再提出して下さい」なんてダメ出しをする人もいます。キビシイですが、公文書には一字一句の表記ミスや文字ずれも許されないので、この辺の仕事には非常に神経を使います。この辺りのことについては、私も元上司と全く同感ですが、今そんなことを言っても仕方ありません。官僚の仕事は文書のやり取りが基本。たかが文書、されど文書なのです。

【4】同日 17時00分 ―Mission4 データの整備―
  予定していた仕事は意外にもあっさり終わり、今日は時間に余裕ができました。そこでこの時間を利用して、データベースの整理をしておくとしましょう。今日、新たに補助金の交付決定を行ったので、過去どこにどれだけ補助金を交付したかがまとめられたデータベースの方も更新しておかなくてはなりません。そうしておかないと、急な調査依頼などに対応できないのです。地味な仕事ですが、こういう日々の積み重ねを欠くと、後で泣きを見ること請け合いです。RPGでも、レベルアップを怠るとボスに勝てず先に進めませんよね? それと同じです、普段からの積み重ねが大事という点では…。

【5】同日 19時00分 ―Mission5 コピーで増やせ―
   そろそろお腹が減ってきました。夕食に行こうと席を立つと、向こうの係が会議の資料をコピーしているのが見えます。明日は地方局の部長さんが一堂に会する部長会議があるので、その会議に提出する資料のようです。それはいいのですが、何やらコピーの量が尋常ではありません。会議の取りまとめ課でもないのに、作業机一面に資料が山積みになっています。一体何部刷ってるの?
「ウチの資料だけで123ページあって、それを55部持ち込みなので…」
  全部で6,765枚ですね。普通のコピー機だと2時間近くかかる計算になります。でも会議の資料としては、これでも珍しくないのだからたまりません。ちなみに1枚10円で計算すると、その会議3回で私の給料は吹っ飛んでしまいます。こういうコスト意識も、忘れないでおいた方がいいでしょうね。業務には直接役立ちませんが。
「そうだ。宮崎さん、暇なら資料組むの手伝って下さいよ。こういうのは人海戦術でいった方が早いですからね」
  作業を見ていたら、後輩に手伝わされるハメになってしまいました。食堂、開いてるうちに食べに行けるかな…?

【6】同日 21時00分 ―Mission6 ―
  ん、財務省に出かけていたA係長が戻ってきたみたいですね。何やら上司と話し込んでいます。ちょっと聞き耳を立ててみましょう。
A係長「ええい、今年の財務省主査のハードルは化け物か!」
  何やらワケの分からないことを言っているようですが、どうやら財務省との予算折衝が上手くいかなかったみたいです。各省庁は毎年財務省に「来年はこんな施策をやるからこれだけ予算を下さい」と説明して予算を確保するのですが、政府の財布を預かる彼らがそう簡単にOKを出してくれるわけがなく、資料の追加や再説明などで膨大な時間を取られるのが通例になります。中でも特に補助金モノは世間の関心も高い分、財務省からのプレッシャーも相当なものになるようです。
「だが、まだだ…まだ終わらんよ!」
  気色ばみ再戦に望みを託す係長を尻目に、今日は帰らせて頂くことにしましょう。またモタモタして作業を振られるのもやっかいですし。皆さん、お先に失礼しまーす!

(注)この内容は一部フィクションです。実際の出来事に相応の修正が加えられている可能性があることをご承知下さい…。m(_ _)m



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宮崎 敦夫・執務風景
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