「国際交渉⇔内政干渉」

尾形 将行(平成13年入省)
総合通信基盤局国際部国際経済課北米経済係長
日米、日加、日豪、北欧諸国、イタリア 等との二国間関係業務


  現在総合通信基盤局国際経済課というところで、北米や欧州の国々と情報通信分野に関係する貿易障壁の排除のための交渉や、協力促進のための対話などを行っています。

  国際部なんて名前が付いていますが、国際経済課のメンバーの仕事に対する姿勢は誰よりも愛国心にあふれています。関係ないですが、国際部の海外出張が初めての海外なんて人がいたりします。

  私も、むしろ国際部に来てからますます日本の文化に興味が湧くようになりました。国際部に来る以前は、休みを利用してよく海外旅行に出かけていたのですが、昨年の夏は、休みを利用して鎌倉の円覚寺に1週間程「座禅修行」に行ってきました。興味の有る方はJR北鎌倉の駅までどうぞ。

  さて、仕事の話ですが、私のいる国際経済課では、毎年米国などから日本の電気通信の規制が非競争的であるとか、周波数の割当が競争的じゃないとか、様々な要望が出てきます。ぱっと見ではこれは内政干渉じゃないかというようなものが多いです。

  しかし、果たしてこれらの要望は内政干渉でしょうか。彼らは自国のメーカーや電気通信事業者が日本国内で競争力を得ることを最大化するために、産業界の後押しを受けてこのような要望を出してきているのであって、むしろ、国際交渉の最も有効な攻撃手段です。

  海外の電気通信事業者・メーカーは、大きな成功を収めているか否かは別にして、日本市場に積極的に参入し、事業展開の障壁と考えられるものについては積極的に声を上げています。逆に日本の事業者は進出する数も少なく、仮に進出しても相手国の規制を所与のものとして事業を行う方々が多いように思われます。

  これも日本的な発想なのかもしれませんが、双方向の国際交渉の場では、相手にも要求をたたきつける必要があります。そのためには、事業者の積極的な海外進出を期待し、支援するとともに、行政としてはその準備として、常に国内規制と国外規制の相違を理解し、積極的に国内の長所を売り込み、国外の長所を取り入れることが重要です。

  例えば、現在、日本はブロードバンドの安さ・速さでは世界一の水準なのですから、こういう分野では日本の規制の考え方を他の国に売り込んでいく「輸出」みたいなことが必要です。(米国に出張してもダイアルアップの余りの遅さや電話音質の余りの低さに辟易することが多いです。)

  その一方で、情報通信分野の産業は非常に変化が早く、いつの間にか他の国に置いて行かれる可能性だって十分にあります。最近では、米国や欧州の新しい有線、無線の技術やその分野の規制を研究して、逆に総務省の中での規制の考え方に少しでも参考になるように技術や規制の「輸入」を促そうと日々頭を捻っているところです。

  市場に目を向けてみると、情報通信分野の面白いところは、サービスが瞬時に国境を越える性質を持っていながら、一方で一つの国で成功したサービスと全く同じサービスを別の国で提供してもうまく行かないことがあるってことです。日本の中でも、インターネットに接続され、複雑な機能が付加された携帯電話が売れている一方で、液晶すらも取っ払った携帯電話がそれ以上に売れたりするくらいですからね。ましてや、他国で成功したからって日本で成功するのは当然だとか、技術がこんなに進んでいるから他の国でも絶対に売れるはずだとか、そういう視点は通用しません。

  これからの情報通信分野においては、先進的な技術を持つ国の一つである日本が、同じアジア内の韓国や、米国、欧州の国々と一緒に、世界を引っ張っていく立場に立たされています。そんな中で、ますます、その国の消費者が求めるのは何か、という視点が重要です。

  このような視点は、企業だけでなく、総務省の職員である自分達にも欠かすことができないものです。そのためには、できるだけ安く、質の高いサービスが自分を含めた消費者に提供されるように、企業間の競争環境を整えていく必要があります。競争が無いところに良いサービスは生まれません。例えば総務省内のお昼休みにはお弁当屋さんが4社以上も訪れて競争している結果、400円〜500円のバリエーションに富んだメニューを選ぶことができます。少しでも質の手を抜いた企業のお弁当の売り上げは如実に落ちていくのがわかります。

  規制や技術の輸出入を積極的に繰り返し、競争環境を整えることにより、いつか情報通信の世界も総務省のお弁当屋さんのように誰もが質の良いサービスを手に入れることになるでしょう。


尾形 将行・自室風景
執筆者自室風景