次世代に向けて

品川 健一(平成17年入省)
総合通信基盤局事業政策課企画係
次世代ネットワークの検討


 本稿が上梓されるであろう2006年12月頃、時をほぼ同じくしてひとつのプロジェクトが開始されるはずである。NGNフィールドトライアル。NGN、つまり次世代ネットワークが今後情報通信分野におけるキーワードとなっていくのか、それとも単なるバズワードで終わるのか、本稿執筆時点において予断を許さない状況だ。次世代ネットワークに関しては多種多様な関係者の思惑が入り混じり期待と訝しさが交々する中、この場をお借りして次世代ネットワークの検討に携わる立場をご紹介するとともに、一個人としての見解を述べさせていただきたい。

 次世代ネットワーク(NGN)とは
 ITU-Tの勧告(注)を思い切って簡単にまとめると、NGNとは、通信事業者の基幹通信網(トランスポート)における、IPベース、広帯域かつ品質制御可能なネットワークのことである。これだけでは何がメリットなのか見えづらいが、1)固定電話網(端的には交換機)の置換えとコスト削減、2)映像などのマルチメディアサービスの提供、3)固定電話と携帯電話の融合(FMC)、4)品質保証、安全性や信頼性の確保5)課金、認証などのプラットフォーム機能の提供、6)以上の新しい機能を生かした何らかの新しいアプリケーションサービスの実現、7)関連機器やプラットフォームの国際標準獲得、などのメリットがある。特に、固定電話網の赤字が増え交換機の耐用年数が迫る中、電話会社はある意味切実だ。次世代ネットワークを利用した新しいサービスにも期待が高まる。
 一方で、次世代ネットワークについて解決すべき課題も存在する。1)先に述べた電話、FMC、映像サービス以外に、次世代ネットワークを利用する新たなサービスとはいったい何なのか、そもそも需要があるのか2)既存のインターネットで十分ではないか、3)これまで情報通信分野では、ボトルネック設備であるアクセス網を他の事業者にも開放するよう総務省にてルールを定め、その結果サービス競争が機能してきたが、次世代ネットワークでは独占への回帰にならないか、競争を機能させるためにはルールをどうするか、4)現実に日本は次世代ネットワークの国際標準を獲得することができるのか。逆に海外勢に標準を取られた場合、日本の国益を損なうことにならないか、などなど。
 品質保証、セキュリティ保証、プラットフォーム機能などは通信事業者による一定の管理が必要な反面、他の企業もそれらの機能を活かし、自由に新しいサービスを実現できることが望ましい。インターネットが単純な転送機能に徹したために端末やアプリケーションレベルでは自由かつ爆発的な発展を遂げている。競争ルール、いわゆるオープン化は特に重要な論点の1つとなっている。

 日々の業務
 次世代ネットワークを利用したサービスとは何か、競争ルールの在り方とは、など解の出にくい、比較的大きなテーマについて考えることもあれば、事業者からのヒアリング、技術動向や諸外国の情報収集もあり、事業者を巻き込んだ場のセッティング、学識経験者を交えた議論の場の運営など、入省前に想像していた以上に役所の仕事は幅広い。議論の場では「次世代ネットワークでは我が国も国際標準を獲得し、日本の国際競争力を強化すべきだ」「ITUなどの国際標準化機関は欧州の勢力が強く、現実的に日本が標準を取ることは困難」「国際協力という観点から戦略を策定できないか」「実際に海外に進出する際には、現地のニーズに合わせることが必要」など、関係者からはさまざまな意見が出される。次世代ネットワークに関する論点は上記「次世代ネットワークとは」でも一部記したように多岐に及ぶ。
 関係者の議論の場を設け、課題、論点、意見を整理し、議論を舵取りしながら、具体策を考える。構造的に事業者間の利害相反予想される点もあるが、それでもどこかに解を見つけなければならない。アンテナを高く張り情報収集もする。仕事は時折泥臭く、地味でもあり、また上司も世間も青二才の無鉄砲を許すほど甘くはない。つらいことも多々あるが、それでも次世代の社会基盤の構築という稀有なプロジェクトの一端にリアルタイムで携わることができ、社会に貢献できることを嬉しく思う。

 固い話が続いたが、職場環境が案外和気藹々としていることの紹介もいくつか。
 私が偶々執筆者に選ばれたのも、本欄担当の某課長補佐との属人的な関係に負うところが多い。
 (某月某日電話にて)「あ、品川君、若手行政官コラムの執筆お願いね」「いや、S田さん、2年めの人間が異動して3ヶ月で若手行政官コラム書くのはきついですよ。それに私でなくとも他に適任がいっぱいいますし・・・」「人はさまざまなステップを乗り越えて成長するものだ。これも君のためだ。ではよろしく(ガチャ)」「・・・」
 隣の課とフットサルの試合をし、そして負けたがために坊主になってみたり、局内のソフトボール大会(開催されたのは日曜日。念のため)にて上司ともども筋肉痛になりながらいつになく白球をめぐって興奮したりと、時折はめを外すこともかろうじて許される?ある意味居心地のいい職場でもある。

 私自身、学生自体には本欄を見ては未だ見ぬ職場に思いをはせていた。だいぶ身分不相応なことも偉そうに書いたが、特に志望者の皆様にとって、拙著が何らかの参考になれば望外の幸せである。

注:ITU: International Telecommunication Unionとは、電気通信に関する国際標準の策定を目的とする国際連合の下部機関。ITU-TはITUの中の電気通信標準化部門。ITUが行う勧告は、公的な国際標準としての強制力を持つ。


品川 健一