総務省トップ > 組織案内 > 審議会・委員会・会議等 > 独立行政法人評価制度委員会 > 第19回独立行政法人評価制度委員会 議事録

第19回独立行政法人評価制度委員会 議事録

日時

平成31年2月15日(金)15時から17時まで

場所

中央合同庁舎4号館12階 1214特別会議室

出席者

(委員)野路國夫委員長、樫谷隆夫委員長代理、天野玲子委員、梶川融委員、
栗原美津枝委員、高橋伸子委員、浜野京委員、原田久委員

(事務局等)吉開官房審議官、辻管理官他

議事

  1. 平成31年度から中(長)期目標期間が始まる法人の新たな目標案について
  2. 指針の改定状況について(報告)
  3. 法人活性化事例について
 
配布資料 

議事録

【野路委員長】 それでは、定刻となりましたので、ただいまから第19回独立行政法人評価制度委員会を開会いたします。なお、本日御出席予定の浜野委員におかれましては、御都合により、遅れて到着するとのことです。
 それでは、議題1、平成31年度から次の目標期間が始まる法人の新たな目標案について審議を行います。
 では、これまでの評価部会における審議の状況について、評価部会より、御報告をお願いいたします。
【樫谷委員】 1月28日に評価部会を開催いたしまして、これまで委員会で指摘してきました視点に立ちまして、目標案を点検いたしました。目標案の概要及び評価部会の審議の状況につきましては、事務局より御報告していただきたいと思います。
【辻管理官】 それでは、平成31年度から次の目標期間が始まる13法人の新目標案の概要について、御説明させていただきます。
 個別法人の説明に入る前に、まず、これまでの委員会において、目標策定に当たり留意すべきとした事項につきまして、御確認をさせていただきたいと存じます。
 関連して、参考資料1から3を提出させていただいております。
 まず、参考資料3、昨年11月29日の委員会で取りまとめられた意見です。この中で示された留意事項でございますけれども、目標策定の際に、法人の使命を明確化するとともに、法人の現状や直面する課題、取り巻く環境の変化の的確な把握分析が重要であることから、各法人の目標の冒頭に、これらについて記載を求めることとしております。
 また、平成29年12月4日及び平成30年11月29日の委員会決定において、各法人に共通する留意事項といたしまして、例えば、地域を支援する役割を積極的に担うこと、府省の枠を超えて、他の団体との協働体制を確立・強化すること、人材の戦略的育成、いわゆるプロセスマネジメントの重視、法人のトップマネジメントについての取組を促すことなどについて、目標に盛り込むことを求めております。
 それでは、個別法人ごとの説明をさせていただきますが、時間も限られていますので、ポイントを絞って説明させていただきます。
 資料1−1が各府省から提出されました新目標案でございますけれども、今回は、資料1−2としまして、各法人の中期目標案の概要資料を作成させていただきました。これまでの委員会の審議等を踏まえ、各法人に共通して記載していただくこととしました、使命、環境変化及び現状分析について整理した上で、これを踏まえて、特に法人が取り組むべき内容として、目標の概要を記載する形でまとめさせていただいております。
 1月28日の評価部会の時点では、冒頭の使命、環境変化、現状分析の記載が必ずしも十分でない法人、欠けている法人もございましたが、最終案では、全ての法人に、各要素について記載していただいているところです。
 また、資料1−3でございますけれども、委員会から指摘しました個別法人ごとの留意事項の反映状況について、整理をさせていただいております。個別法人の目標案については、お手元の概要資料と資料1−3の指摘の反映状況の資料を適宜参照しながら、御説明させていただきます。
 まず、文部科学省関係の4法人です。
 お手元の概要資料1−2を御覧ください。一つ目が、日本学生支援機構です。当法人は、我が国の大学等における学生支援の中核機関として、奨学金の貸与・支給や留学生交流の推進など、日本人学生及び外国人留学生に対する支援施策を総合的に行うことを使命としております。近年の環境変化として、給付型奨学金の大幅拡充など、高等教育無償化に係る施策が2020年4月から実施予定であることや、昨年6月に閣議決定された「第3期教育振興基本計画」を受け、意欲と能力のある日本人学生の留学支援や優秀な外国人留学生の受入れ推進などが求められていることなどを挙げております。こうした中で、機構は、学生支援に関する事業を包括的に実施してきた機関として、役割を果たしていくことが期待されていると分析をされているところです。
 これを受けた目標の内容について、資料1−3の対比表を御覧ください。委員会からは、給付型奨学金の拡充を控え、奨学金の給付及び貸与の効果の把握・検証のための具体的方策の検討を行うことなど、二点の指摘をしており、目標に反映していただいているところです。
 次に、海洋研究開発機構です。当法人は、海洋に関する基盤的研究開発と海洋に関する学術研究に関する協力等の業務を総合的に行うことにより、海洋科学技術の水準の向上を図るとともに、学術研究の発展に資することを使命としております。近年の環境変化として、昨年5月に閣議決定された「第3期海洋基本計画」において、海洋状況把握(MDA)体制の確立や「北極政策」の推進、また、海洋分野におけるSociety5.0の実現に向けた研究開発、さらには、国際的にも、海洋・海洋資源の管理、保全及び持続可能な利用が重要とされていることなどが挙げられています。こうした中で、機構は、複数の研究船や探査機等を保有・運用している強みをいかし、我が国の海洋科学技術の中核的機関としての役割を果たしていくことが求められていると分析されています。
 これを受けた目標の内容について、委員会からは、大学、法人、地方公共団体、民間企業等の関係機関と連携・協働しながら、オールジャパンで海洋調査、研究開発、人材育成等の取組を推進することなど、二点の指摘をしており、資料に記載のとおり、目標に反映されているところです。
 次に、国立高等専門学校機構です。当法人は、現在、全国で51の国立高等専門学校を設置し、職業に必要な実践的かつ専門的な知識や技術を有する人材を育成することを使命としております。近年の環境変化として、15歳人口の減少やSociety5.0で実現する社会・経済構造の変化、技術の高度化、ニーズの変化等を踏まえた人材育成の必要性や、海外における「日本型高等専門学校教育制度(KOSEN)」の導入ニーズへの対応などが挙げられているところです。こうした中で、国立高等専門学校は、産業界に創造力ある実践的技術者を継続的に送り出してきた実績も踏まえつつ、高専の本来の魅力を一層高める必要があると分析されています。
 これを受けた目標の内容について、委員会からは、地域の各団体と連携・協働し、地域課題の解決などの実践的教育を通じて、地域の産業、ひいては我が国全体の産業を支える人材を育成する役割を担うことなど、三点の指摘をしておりまして、資料に記載のとおり、反映していただいているところです。
 それから、大学改革支援・学位授与機構です。当法人は、大学以外で学位を授与する我が国唯一の機関であり、また、国立大学等への施設費の貸付・交付や大学の認証評価等、高等教育に係る社会的要請の高い課題に取り組むことを使命としております。近年の環境変化として、Society5.0実現に向け、産業・社会構造の変化に対応する人材育成のための大学改革が急務であること、グローバル化の進展で、学生の国境を越えた流動性が高まる中、学習履歴や学位等の国際通用性の確保の必要性、さらには、生涯のあらゆる段階で学び直せる環境の整備などが挙げられているところです。こうした中で、機構は、大学等に関する様々な情報の蓄積や、内外の関係機関とのネットワークを有しているという特色をいかした取組が期待されるとともに、平成28年に二つの機関が統合したことによる相乗効果を発揮させ、大学改革を強力に支援していくことが求められていると分析されています。
 これを受けた目標の内容ですが、委員会からは、評価を受ける側の大学等が、自ら変革する組織となるような評価の在り方の検討など、三点指摘をしておりまして、資料のとおり、目標に記載していただいています。
 続いて、厚生労働省関係の4法人です。
 まず、労働者健康安全機構です。労災病院や産業保健総合支援センター、労働安全衛生総合研究所等の施設を持っている法人でございまして、労働者健康安全機構法第3条に基づき、労働者の業務上の負傷又は疾病に関する療養の向上及び労働者の健康の保持増進に関する措置の実施とともに、職場における労働者の健康及び安全の確保などを使命としております。近年の環境変化として、少子高齢化の進展に伴い、労働災害防止対策等の在り方が変化していることや、働き方改革関連法において、「治療と仕事の両立等」が規定されたことなどが挙げられております。こうした中で、機構は、労働災害防止について、研究機能と病院の臨床研究機能を併せ持つ国内唯一の法人ということで、先導的な取組を実施することや、各施設の協働により、予防・治療及び職場復帰支援の総合的な実施を図ることなどが求められていると分析しております。
 目標の内容について、委員会からは、働き方改革の実現に向けた両立支援について、専門性や人材面での強みをいかし、総合的な取組を行うことなど、二点の指摘をしておりまして、資料に記載のとおり、目標に書いていただいているところです。
 続いて、国立病院機構です。全国141の病院を一つの法人として運営しておりまして、医療の提供、調査研究、技術者の研修等の業務を行うことにより、公衆衛生の向上及び増進に寄与することを使命としております。近年の環境変化として、超高齢社会の中での地域包括ケアシステムづくりや、各都道府県での地域医療構想の実現、在宅医療ニーズの増加・多様化などが挙げられます。こうした中で、機構は、全国的な病院ネットワークを活用しながら、他の主体では実施されないおそれがあるセーフティネット分野の医療や、危機管理対応、地域医療への貢献等とあわせて、医療サービスの生産性向上やタスク・シフティングを担う人材育成など、我が国の課題解決に資する取組が求められていると分析しているところです。
 これを受けた目標ですが、委員会からは、セーフティネット分野の医療について、機構が持つ専門性・人材面での強みをいかし、中心的な役割を担うことなど、三点の指摘をしております。いずれも資料の形で目標に反映していただいています。
 次に、医薬品医療機器総合機構です。当法人は、医薬品の副作用等による健康被害に対する救済、医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の承認審査、市販後における安全対策を行い、国民保健の向上に資することを使命としております。近年の環境変化として、AI技術やゲノム情報等の活用によるイノベーションの急速な進展や、グローバル化による企業間の国際競争の激化などの中で、革新的な医薬品等を患者により早く提供すること、安全対策の充実・強化、健康被害の迅速な救済の必要性などが挙げられております。こうした中で、科学的な判断に基づく根拠を提供する機構の役割が非常に重要になっていると分析されているところです。
 これを受けた目標ですが、医薬品等の審査に当たっての安全対策の向上など、三点の指摘をしておりまして、資料に記載のとおり、目標に反映していただいているところです。
 厚生労働省関係の最後の地域医療機能推進機構です。当法人は、旧社会保険病院など57の病院や、老健施設等の運営を行い、地域において必要とされる医療及び介護を提供する機能の確保を図り、公衆衛生の向上・増進や住民福祉の増進に寄与することを使命としております。近年の環境変化として、超高齢社会を迎える中、医療ニーズや介護ニーズが変化してきていることなどが挙げられています。こうした中で、機構は、全国に病院を展開し、幅広い医療機能を有し、また、約半数の病院に老健施設が併設されているという特徴をいかし、地域医療・地域包括ケアの要として、予防・医療・介護をシームレスに提供していくことが求められていると分析されているところです。
 目標の内容について、委員会からは一点、各施設の人的・物的資源を活用し、地域包括ケアシステムの構築に貢献することについて指摘をしておりまして、これらに対応する目標案について、診療事業、介護事業の双方の項目に記載されているところです。
 なお、厚生労働省関係の法人につきましては、1月28日の評価部会において、委員から、例えば、共同購入に関する記載について、一方の法人に記載があるのに、相手方の法人には記載がないケースなど、全体として平仄がとれていない部分があるのではないかといった指摘をいただきました。この点については、改めて厚生労働省で精査をしていただきまして、今回の目標案では、病院関係の3法人について、全て共同購入について記載を設けるなど、できるだけ平仄を合わせるように見直しをしていただいたところです。
 続いて、経済産業省関係の2法人です。
 まず、日本貿易振興機構です。当法人は、貿易の振興に関する事業を総合的かつ効率的に実施すること、アジア地域との経済等に係る基礎的かつ総合的な調査研究等を行い、貿易の拡大や経済協力を促進することを使命としております。近年の環境変化として、我が国が少子高齢化による人口減少に直面する中で、海外需要を獲得する必要性が高いことや、TPP等が発効し、農林水産・食品事業者の海外市場獲得の可能性が高まっていること、さらには、第4次産業革命によるデジタル経済の拡大に伴い、スタートアップ振興により、イノベーションによる経済成長を実現しようとする各国政府の動きなどが挙げられているところです。こうした中で、日本貿易振興機構は、自身の強みやリソースを分析し、取捨選択して伸ばしながら、日本と海外との間の経済的資源を双方向で効果的・効率的につなげ、日本経済の成長と競争力強化に貢献する役割を果たすことが求められていると分析しております。
 これを受けた目標ですが、委員会からは、質を重視した対日投資を促進し、イノベーションに貢献することなど、三点の指摘をしておりまして、目標に記載していただいているところです。
 次に、中小企業基盤整備機構です。当法人は、中小企業者等の事業活動の活性化のための基盤整備を目的とし、我が国唯一の、中小企業・小規模事業者政策全般にわたる総合的・中核的な支援・実施機関として、様々な支援を行うことを使命としております。近年の環境変化として、経営者の高齢化、労働人口減少による人手不足、国内市場の縮小という三つの構造変化に直面しており、生産性革命の強化など、支援ニーズが増大していることなどが挙げられています。こうした中で、機構は、これまでの専門的な知見と経験、ネットワーク等をいかし、総合的支援を実施していくとともに、支援の届く範囲を広げるため、間接的な支援の強化やAI・ITの活用による支援対象の拡大やサービスの質の向上等を進めていくことが課題であると分析しております。
 これに対応する目標ですが、委員会からは、第4次産業革命や人口減少等の政策課題に対し、イノベーションや地域経済の活性化等の観点から、中小企業等を支援する具体的な取組など、三点指摘をしておりまして、記載のとおり、目標に反映していただいているところです。
 次に、国土交通省関係の2法人です。
 一つ目が都市再生機構です。当法人は、市街地の整備改善など都市の再生や賃貸住宅の管理など、良好な居住環境を備えた賃貸住宅の安定的な確保を図り、都市の健全な発展と国民生活の安定向上に寄与することを使命としております。近年の環境変化として、高齢化の進行、特に地方における人口減少や、東京一極集中、切迫する巨大地震や気象災害の頻発・激甚化への懸念の増大などが挙げられています。こうした中で、機構は、専門性や人材面の強みをいかして、様々な取組を実施している現状について分析を行っているところです。
 これを受けた目標の内容について、委員会からは、大都市の国際競争力強化やコンパクトシティの実現、安全・安心なまちづくりについて地域の取組を支援することなど、三点の指摘をしておりまして、資料のとおり、目標に反映をしていただいているところです。
 次に、奄美群島振興開発基金です。当法人の設置根拠法である奄美群島振興開発特別措置法は、五年の時限立法です。現行の法律は平成30年度末で失効することとなりますが、現在、政府において、当該特別措置法の期限を五年延長する法案を国会に提出しているところです。国会における審議は未了ですが、法律が成立した場合に、奄美基金が遅滞なく、新たな中期目標の下で中期計画を策定し、業務が実施できるよう、その準備のために、あらかじめ、独立行政法人通則法第29条第3項に基づき、主務大臣から委員会に諮問することとされたものです。
 法人の目標ですが、まず、使命につきましては、当法人は、奄美群島振興開発特別措置法に基づき、本土との格差の克服や地域の自立的発展の促進を図るため、振興開発計画に基づく事業に必要な資金を供給することなどにより、一般の金融機関が行う金融を補完し、又は奨励することを使命としています。奄美群島をめぐる近年の状況として、世界自然遺産登録に向けた動きやLCCの就航などの影響で観光客が増えており、民間の経済活動も活発になっている一方、宿泊施設の不足などの課題が挙げられております。こうした中で、機構は、奄美群島の振興開発を金融面から支える唯一の専門機関として、コンサルティング機能の充実を図ることや、地元自治体等との分担と協働が重要であることなどの分析を行っているところです。
 当法人に対しては、委員会から個別に指摘した事項はございません。
 最後に、環境省関係、環境再生保全機構です。当法人は、公害、石綿健康被害、廃棄物処理等、社会問題化した環境に係る諸課題への対応と、民間団体が行う環境保全に関する活動の支援や環境政策に資する研究・技術開発等を一体的に担い、我が国が直面する環境、経済、社会に関わる複合的な危機や課題の解決に寄与することを使命としております。近年の環境変化として、こうした複合的な危機や課題に直面していることや、SDGsの採択やパリ協定の発効を受け、脱炭素社会に向けた時代の転換点が到来していることなどが挙げられています。こうした中で、機構は、環境政策の実施機関としての豊富な経験やノウハウ、データ等を蓄積しており、様々なステークホルダーからの信頼を獲得、維持してきたことを強みとして認識し、これからの成長の「牽引役」となっていくことが今後の課題であると分析しています。
 これを受けた目標の内容ですが、委員会からは、一点、環境研究総合推進費業務について、研究成果の社会実装を推進する観点から、研究課題の公募、審査・採択、評価、進捗管理を行うことについて指摘しており、対応する目標案について、資料のとおり記載していただいております。
 13法人の新目標案の概要については以上ですけれども、資料1−3で御説明しましたとおり、委員会から指摘しました法人ごとの個別の留意事項につきましては、全て反映をしていただいているところです。
【樫谷委員】 ありがとうございました。ただいまの辻管理官からの報告のとおり、評価部会において目標案を点検した結果、これまで委員会からお示ししました個別の留意事項や、前回の評価部会での各委員の御意見等につきましては、概ね対応していただいており、当部会としては、目標案について、「意見なし」とする旨の結論に至りました。
 ただ、今後の取組に期待する意味で、幾つか留意していただきたい点について、述べさせていただきます。
 まず一点目ですが、昨年11月の委員会で示しましたように、各法人の「使命」を明らかにし、法人を取り巻く環境変化を分析し、法人が有するリソースや強み、課題等を分析することは、社会が求める方向に沿った適切な目標を作成するに当たって、不可欠なことと考えております。
 二つ目です。今回初めて、各府省において、こうした観点に立った記述を盛り込んでいただいたことにつきましては、一定の評価をしたいと考えておりますが、より適切な目標を策定していただくためには、今申し上げた観点からの分析等を、広い視野をもって、より多角的に行っていただいた上で、個々の目標項目がそれらの分析とどのように関連しているのか、一般の国民の方が目標を御覧になったときに、なぜそうした目標がその法人に与えられているのかについて、「なるほど」と納得していただけるように、論理的かつ分かりやすい記述をいただくことが望ましいと考えております。
 2月1日にシンポジウムがあり、梶川委員が司会者になって、野路委員長にも出ていただきました。梶川委員から、単なる情報提供ではなく、国民に「なるほど」と理解してもらってはじめて説明責任を果たしたと言えるというお言葉がありました。まさにそのとおりだと思いますので、ぜひ、そのような記述をしていただくようお願いいたします。
 この点、今回の目標案は、委員の皆様が理想としている姿と比べると、まだ物足りないところがあるかと思います。現在、こうした考え方を踏まえまして、指針の改定を検討していただいているところでありますけれども、次年度以降は、新たな指針を踏まえて、更に目標の内容を充実させていただくことを期待しております。
 
【野路委員長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの樫谷部会長の報告について、御意見等がございましたら、よろしくお願いします。天野委員。
【天野委員】 ありがとうございました。樫谷部会長のおっしゃっていることに賛同いたしますが、あえて少し、注文をつけさせていただきたいと思います。
 目標についてはこれで良いと思いますが、中身については、各法人で出来不出来のばらつきが若干あるようです。それは良いとしても、問題は、成果、これからやっていただく中身だと思います。来年度からは新しい事業報告書の対象になりますので、新しい事業報告書をお作りいただくのは再来年度ということになると思いますが、ここには理事長の方針に基づいた非財務情報がしっかりと盛り込まれることになるはずです。ですので、この目標を初年度から具体化して、理事長の方針の下に、非財務情報もしっかり盛り込むように、ぜひ行っていただきたいと希望します。
 もう一点、いろいろ法人を見させていただいていますが、新しい理事長が、新しい目標の考え方や新しい報告書を一度に理解するのはなかなか大変だと思いますので、各主務省の方が、新しい理事長にしっかり趣旨を伝えていただけるようにお願いしたいと思います。また、どこかで我々委員もそれをのぞけるような場面があると良いと思っています。
【野路委員長】 原田委員。
【原田委員】 私も樫谷部会長のまとめの御意見に全面的に賛同するのですが、資料1−2について、少しコメントいたします。
 今回、中(長)期目標案の概要という形で、このような資料を各省がお作りになったということで、我々委員にとりましても、非常に分かりやすい資料だったと思います。例えば、環境変化というのは組織の外側で、現状分析は組織の内側と考えますと、現状分析について一番詳しいのは各法人であり、環境変化については、法人はもちろんですけれども、主務省側がより詳しい可能性があります。ぜひ、主務省と法人の間で意見を交換してほしいと申し上げてまいりましたのは、このような内側の現状分析と、法人が100%は認識できていないかもしれない外側の環境変化というものについて、意見交換をして情報を共有してほしい、その上で目標を作成してほしいという趣旨だったからであります。
 樫谷部会長からの話もありましたように、中(長)期目標について、「なるほど」と思っていただけることが理想であります。資料1−2では、特に現状分析の中で、強みあるいはリソースというのはあるのですが、弱みをお書きになるのは、抵抗があるのではないかという気もいたします。しかし、弱みというものを、例えば、他の団体、法人や地方自治体が先行して取り組んでいることと捉えるのであれば、そのような団体と連携するようなロジックで、この中(長)期目標をつくっていくことは、今後もあり得るのではないかという気がいたします。
 我々委員がずっと主張してきたところですけれども、他の法人や地方自治体と連携してほしいというのは、法人自らが持っている弱み、他の法人や他の団体が優れているようなところについては連携するということを導き出すロジックであると、この場を通じて、改めて申し上げます。
【野路委員長】 栗原委員。
【栗原委員】 見直しに関しまして、今までのコメントを踏まえて、最終の修正も含め御対応いただき、ありがとうございます。
 先ほどコメントがありました厚生労働省の関係で、共同購入だけでなく、むしろ、デジタルデータの整備・共有・利活用について、病院を持つ3つの法人、そして医薬品医療機器総合機構が連携していくことが、国民経済にとって非常に重要だと思いますので、その点について書き込んでいただいたと思っております。
 一方で、今回の中(長)期目標の中に、各法人の業務運営に関する事項が入っており、その中で、組織運営の効率化あるいは人材育成という項目があります。ここについては、項目立てだけではなく、これから様々なデジタル技術が進展していく中で、業務運営の環境も変わっていますので、IT人材を育成・活用し、生産性を上げるような取組にも活かしていただき、より深掘りしていただければと思います。
【野路委員長】 高橋委員。
【高橋委員】 中(長)期目標案そのものについては、意見なしであり、留意事項、樫谷部会長が述べられたことも全く同感です。その上で、他の委員の御発言と重なるところもありますが、一言申し上げたいと思います。
 今回、環境変化をしっかり分析するということで中(長)期目標ができており、以前と比べても、非常にブラッシュアップした印象であります。
 しかしながら、一方で、社会ニーズや経営環境というのは目まぐるしく変化しているものですので、中(長)期目標を達成すれば良いということではなく、そのような変化に、どのようにスピード感を持って対応していくかということが、これからは求められているのではないかと思います。具体的には、例えばITの発達によって、経営改革のスピードについては、民間企業でも非常に意識されているところでございますし、自然災害をはじめ、迅速に対応を迫られる部分が出てくるのではないかと思います。柔軟性が重要で、新しく対応しなければならないことが出てきた場合に、目標に書かれていることであってもやめなければならないことはあると思います。中(長)期目標というのは、これをこのままやっていけば良いということではなく、御承知のこととは思いますが、新しいことや対応すべきことが出てきたときに、何をやめるかということも、経営としては非常に重要なことではないかと思っております。そして、中(長)期目標にはなかなか書きにくいところだとは思いますが、それをしっかり行うのは、法人の長のリーダーシップとプロセスマネジメントだと思います。官と民のそれぞれの良いところをうまく取り入れて経営するのが、今の法人に国民から求められていることだと思いますので、そのために、他の委員の御発言もありましたように、主務省と法人でコミュニケーションをとっていただきたいと思います。
 また、人材育成のお話もありましたが、法人の長も公募制で選ばれています。これがうまく機能することが大事だと思いますが、公募制に関しても、公平性をしっかり保っていただきたいと思います。昨年、コーポレートガバナンスコードが改定されまして、上場企業においては、特にトップの選任やトップのための人材育成の重要性が求められているところです。今回、奄美群島振興開発基金に関しては、今、国会審議中ということで、まだ先行きが明確になっていないというお話でした。私も、現地に入って理事長とお話をして、非常に良い経営をしていらっしゃると思いましたし、次の理事長は自分では決められないけれども、職員についてはしっかり育成しているというお話を聞き、安心したところではあります。しかしながら、やはり、トップのリーダーシップやマネジメントというところについては、どのようなトップが選ばれるのかというのは非常に重要なことですので、中(長)期目標をしっかり理解してもらった上で、ふさわしい方を選任していただきたいと思います。
【野路委員長】 浜野委員。
【浜野委員】 私も幾つかの視察においていろいろ御意見を拝聴しました。私をはじめ、委員の皆様のコメントを反映して、中(長)期目標をお作りいただきまして、ありがとうございます。これに関して異議はございません。
 他の委員のおっしゃったとおりですけれども、やはり、グローバル化が進んでくると、どのように外の活力を取り入れて、日本経済と日本社会に貢献していくかということが問われます。中(長)期目標が決まっていても、それを見直しながら、変化を取り込んでいくような、チャレンジをするような目標に変えていただきたいということが一点です。
 どのようにそれを行うかということにつきましては、トップのリーダーシップが非常に問われるわけですが、それとともに、リーダーシップを発揮していただきながら、職員に専門性を持っていただくような、また、現場の職員の声を吸収するような場を、組織内で今まで以上に持っていただきたいと思います。現場の様々な声を反映することが非常に重要になってきますので、そういったところも、お願いしたいと思います。
 あわせまして、法人の皆様のお力で、地方の自治体や機関と連携しながら、地方創生も進めていただきたいと思います。
 それぞれの目標のところで、連携ということがうたわれています。連携するということは素晴らしいことではございますが、やはり、個々の組織において中心となるミッションがあり、業務が広がり過ぎてしまうという傾向もありますので、選択と集中を行い、専門性を高めていただきたいと考えます。
【野路委員長】 それでは、採決に入る前に、昨年6月の委員会で御報告しましたとおり、浜野委員は、これまでの御経歴を踏まえまして、日本貿易振興機構に関わる議決については回避したいとのことですので、申し合わせに従い、そのように取り扱いをさせていただきます。
 それでは、本件について、当委員会としては、意見なしとさせていただくことに御異議ございませんでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【野路委員長】 ありがとうございました。それでは、御異議なしということで、そのように取り扱わせていただきます。
 最後に、本日の議論を踏まえまして、私から一言お話をしたいと思います。まず、各府省において、目標策定に当たりまして、委員会からの指摘を踏まえて法人の現状について的確に分析を行い、目標に盛り込んでいただいた努力に感謝を申し上げたいと思います。
 しかしながら、今、民間ではどのような考えでイノベーションを進めているかについて、少しお話ししたいと思います。イノベーションとは何かというと、私の会社では、社会的な課題を解決することをいいます。今日の資料には、狭義の意味での技術革新ということでイノベーションと書いていますが、私の会社では、イノベーションとは社会的な課題を解決すること、あるいは、お客様に対する新しい価値を創造することだと考えます。そこが非常に求心力を持つことになります。独立行政法人は、一つの社会的課題の一端を担っているところがありますので、先ほど委員の皆様からあったように、連携は非常に難しいかと思いますが、ぜひ、そのような観点も入れていただくことが必要ではないかと思います。
 二つ目は、特に昨今、AIやIoT等の技術革新は、すさまじいものがあります。今こそ、シーズが発展していますので、大きな変革を起こせるような時代になったということです。GAFA等、様々なプラットフォームビジネスが出ておりますが、法人は、得意なところは伸ばし、苦手なところ、例えば、ICTや通信技術を持っていないのであれば、それについては大学や国立研究開発法人等に頼み、その技術を導入し、法人の強みと抱き合わせにすることによって、様々な解決を図るというようにしていただきたいと思います。何もかも自前でやるという時代はもう終わりました。脱自前主義、オープンイノベーションというような考え方で、様々なシーズ、技術を使って社会的な課題を解決していただくことが、これからは重要ではないかと思います。
 委員の皆様からは、変化への対応や選択と集中など、様々な御意見がございましたが、これは理事長のリーダーシップで、それぞれの法人の中のマンパワーを見ながら、絞るところは絞るということを、ぜひお願いしたいと思います。
 私からは以上ですが、現在、総務省において、委員会の意見を踏まえまして、「指針」の改定を検討していただいているところです。次年度以降は、新たな「指針」の下で、各府省において、実際にどのような分析がなされ、どのような戦略をもって、法人が運営されるかなどについて、より深く調査審議をしていきたいと考えております。事務局におきましては、このことを各府省によくお伝えいただくとありがたいと思います。
 それでは、議題2の「指針の改定状況について」、事務局から御報告をお願いします。
【辻管理官】 指針の改定状況です。「独立行政法人の目標の策定に関する指針」及び「独立行政法人の評価に関する指針」の二つの指針につきまして、昨年11月に委員会から、見直しの必要性や方向性等について御意見をいただいたことを受けまして、現在、総務省において、指針の改定内容について検討を行っているところです。
 お手元の資料2でございますけれども、今申し上げました二つの指針について、委員会の御意見等を踏まえて検討中の改定内容の骨子を取りまとめたものでございまして、先週8日から、この骨子により、パブリックコメントを実施しているところです。
 今後、パブリックコメントの結果等も踏まえて、総務省において指針の改定案を固めまして、2月下旬を目途に、総務大臣から当委員会に諮問をさせていただくことを予定しております。指針の改定案については、次回の委員会で御審議いただくことを予定しておりますので、本日は中身の説明については省かせていただきます。
【野路委員長】 それでは、次の議題3につきまして、今まで定例で行っておりますが、法人活性化の取組の参考事例として、本日は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の取組について、久間理事長からお話しいただきます。それでは、久間理事長、お願いいたします。
【農研機構 久間理事長】 農業・食品産業技術総合研究機構の理事長の久間です。資料に添って、農研機構の改革について、説明させていただきます。
 今日は、農研機構の概要、組織目標の策定、Society5.0実現に向けた戦略、研究開発力強化策という順番で説明させていただきます。
 まず、農研機構の概要から説明いたします。役員が15名、そのうち12名が理事です。常勤の職員が約3,300名、そのうち研究職員が2,000名弱で、75%が博士の学位を持っています。特徴としては、研究職員も含め、職員の20%が女性であり、ダイバーシティが非常に進んでいる研究所です。年間予算は、900億円程度です。本部はつくばですが、北海道から九州、沖縄に至るまでセンター等の拠点があります。60%程度の職員がつくばにおり、40%程度が地域にいる構成です。
 次は、農研機構の統合の歴史です。2001年から、何段階かにわたって統合されてきました。最終的に今の農研機構になったのは2016年4月であり、ちょうど3年経とうとしている状況です。全体として、各地域のセンターやつくばの研究部門等の独立的な意識がまだ高く、そこをどのように一体化していくかが一つのポイントになります。
 4ページに役員の体制があります。色を分けておりますが、赤い欄は、私を含めて3名が産業界出身、黄色の2名が農林水産省からの出向者その他7名が農研機構の出身です。実は、去年の3月までは産業界出身者はほとんどいなかったのですが、去年の4月から、このようにバランスの良い体制になっています。
 次に、研究組織と研究開発の業務内容について説明します。それぞれの地域のセンター、つくばにある研究部門等がどのようなことをやっているのかについて、その一部を説明します。
 農研機構の主力は、米、麦、大豆、芋等の品種開発であり、それぞれ、歴史的に非常に大きな成果を出しております。
 同じように、果樹、野菜、花、茶に関しても、大きな成果を出しています。例えば、果樹では、リンゴの「ふじ」、ナシの「幸水」、ブドウの「シャインマスカット」、最近では、イチゴの「恋みのり」等、知名度の高い品種を開発してきました。
農研機構は、単に農作物を作るだけではなく、それを加工して流通させる技術も持っておりまして、その典型的なものが、米粉のパンであり、小麦アレルギーの人が食べられるようなベーカリーの技術も開発しております。
 次に、バイオテクノロジーについても、非常に強い技術を持っています。例えば、イネゲノムについては、世界各国の協力の下、日本が中心になって、解読を進めましたが、日本の中でも農研機構が中心になりました。農研機構は、その解読結果を品種開発に活かし、病気に強いイネ、気候変動・干ばつに強いイネ、あるいはカドミウムを吸収しにくいイネ等の品種開発を進めています。
 先端基盤技術については、無人のロボットトラクターや農業をスマート化するためのデータベース等を、特にSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)で開発してきました。
 農業基盤技術でも、ため池防災支援システムや、農業生物資源ジーンバンク等の良い成果があります。農業生物資源ジーンバンクは、全部で22万点の遺伝資源を持っており、この数は世界で第5位です。このような農業の基盤となる技術についても、農研機構はしっかりしています。
 私が昨年の4月に農研機構の理事長になって、まず安心したのは、立派な研究者が多くいることです。一方、これまで農業・食品産業分野で大きな成果を十分に出しているにも関わらず知名度が低いというのが、最初に感じたことでした。それで、組織を変えていくことが必要だと思いました。
 その前に、農業・食品産業の課題とあるべき姿に遡って考えてみようと思いました。まず、国内では、担い手不足、超高齢化、人口減少、地方衰退、市場の縮小といった問題があります。グローバルでは、人口増加に伴う食料不足の問題があります。そのような中で、我が国の農業・食品産業のあるべき姿を実現するのがSociety5.0です。Society5.0によって、育種、農業生産、加工・流通、消費の四つの分野を改革していかなくてはなりません。まず、最も重要なのは、農業生産分野で、農家の所得を上げる、地方を再生させる、生産性を上げるといったことです。加工・流通分野では、輸出を拡大する、フードロスをなくす、付加価値を高めるといったことがあり、消費分野では、健康・長寿社会を実現するための食料はどうあるべきかを考えることがあります。このような考えの中で、農研機構の組織目標を昨年の4月につくりました。「農業を強い産業として育成し、海外市場で農産物・食料のマーケットシェアを伸ばし、政府の経済成長戦略であるGDP600兆円実現に貢献することを目標として、科学技術イノベーションを創出し、「農業の産業としての自立を牽引する」を組織目標にしました。
 この目標は、農研機構の中長期目標、政府の未来投資戦略、農林水産省の農林水産研究基本計画、CSTIの科学技術イノベーション総合戦略等の施策とベクトルを完全に合わせて設定しました。
 このような組織目標を基にして、農研機構のどの分野を改革すればより良い組織になるのかといったことを考え、特に重要な点を五点ここに示しました。
 農研機構では、多くの研究所あるいは研究センターが一つに統合されて間もないので、組織全体を指揮する司令塔機能が弱いことが課題です。このため、本部の司令塔機能をいかに強くするかが、重要な点の一つ目になります。
 二つ目は、研究成果を早く社会実装する風土を醸成することです。
 三つ目は、AI、データ、ロボット等のICTを徹底的に強化することです。
 四つ目は、機構内外での連携強化です。農研機構も含めて、国立研究開発法人の研究者は一人で研究して論文を書きたいという風土があり、そこを変えなければなりません。農研機構の中で連携することや、他の国立研究開発法人と組織ベースで連携する、あるいは産業界とも連携するといったことを、徹底的に強化することが必要だと思います。
 五つ目は、農研機構には非常に優れた研究者も多くいますし、良い成果を出しているのだから、より知名度を上げることが重要です。
具体的な研究開発強化策としては、八項目あります。一つ目は、研究開発成果をスピーディに実用化することです。そのために、実は2018年4月以降、農研機構の研究開発ロードマップを全て作り直しました。作り直したポイントは、それぞれのロードマップで研究開発の目標スペックと実用化時期を明確にしたことです。さらに、政府が目指すSociety5.0の実現に沿って、我々機構の研究もSociety5.0に向かってロードマップを作り直すことも実施しました。現在、ようやくそれが整った状況です。
 二つ目は、予算や人的リソースなどの研究資源の最適配分を行うことです。これは、短期、中期、長期の時間軸別に適切に配分されているかということと、育種、栽培、生産、加工・流通等の分野別にバランス良く国の戦略に沿った配分がなされているかということです。これらをしっかり見ていかなければならないと思っていますが、これは道半ばです。
 三つ目は、先ほど言いましたように、産学官連携強化です。産業界との連携や農業界との連携を徹底的に行うことです。これまで、農研機構は産業界との連携は非常に弱く、これを強化しなければならないのが一つです。それから、農業界との連携は、ある程度はできてはいますが、やはり、目的とするところは農家の隅々にまで開発した技術を浸透させることであり、そのためにはどうすれば良いのか考える必要があります。
 四つ目は、人工知能、データ連携基盤の開発拠点を構築することです。
 五つ目は、知的財産権活動と国際標準化活動の徹底的な強化です。
 六つ目は、広報活動の強化、七つ目が人材力の強化、八つ目が「倫理・遵法」、「安全衛生」、「環境保全」の徹底です。
 以上が改革のポイントです。
 次にSociety5.0実現に向けた戦略について説明します。
 Society5.0実現に向けて、Society5.0の農業・食品版をスピーディに実現する計画をつくっています。具体的には、六項目あります。スマート農業、スマート育種システム、スマートフードチェーンや、生物機能の活用や食のヘルスケア、農業基盤技術、ICT等の先端基盤技術を徹底的に強化することを重点的な施策としました。
 スマートフードチェーンについて説明します。我々機構は、スマートフードチェーン全体を最適化するにはどうすれば良いかという課題にチャレンジしていきます。その目的は、スマートフードチェーン全体の生産性向上、無駄の排除、トータルコストの削減、農作物・食品の高付加価値化、ニーズとシーズのマッチング等の実現を目標としたシステムを考えることです。電機産業や自動車産業のサプライチェーンと同じように、農業でも、設計のとおりに生産でき、それから加工、流通、消費につながることを今から目指すべきであると考えています。これが、スマートフードチェーンというものです。そのとき、重要なことは、それぞれの品種開発や生産はもちろん重要ですが、人工知能とデータをいかに使うかが決め手になると思います。
 特に、スマート育種、スマート農業、スマート加工・流通等を含むスマートフードチェーン全体はあまりにも対象が大きく、具体的に何をすれば良いのか分からなくなります。このため、全体も考えつつ、育種、生産、加工・流通等のそれぞれの過程も最適化するという考え方で研究を進めていきます。
 次に、スマート農業についてビデオをつくっていますので、御覧ください。
(映像上映)
【農研機構 久間理事長】 ビデオのスマート農機は主に第1期SIPの成果で、かなり良いところまで来ているのですが、産業界出身の視点で見ると、まだまだといったところです。比較的環境の良いところで無人トラクターが動くというのは当たり前です。これをいかに環境が悪いところで動くようにするかが実証実験の一つの大きなターゲットになります。そこで、農林水産省と農研機構が中心になり、「第1期SIP」で開発したスマート農業技術を全国のスマート農業実証農場で二年間かけて実証し、これを本物にしていくといったプロジェクトを開始します。収集したデータをもとにした技術面・経営面からの分析・解析によって、ロボット農機等を使うと本当に生産性が上がる、農家の所得が上がるのか等について、定量的に実証することが最も大きな目的です。一方で、それを実証したからといって、普及するわけではありません。普及させるには、社会実装のところで、ロボット農機等をはじめとする設備や維持費の価格をいかに安くするかが大きな決め手になります。もう一つは、現場の農家の方々が使えるか、インターフェースが使いやすいか、何か故障が起こったときのメンテナンス体制が整っているかといったところも重要です。さらに、いろいろな法規制や標準化の対応を一緒に行っていかないと実用化されないと思います。実証実験でうまくいったけれども、それで終わりということにならないように、社会実装をしっかりと行っていかなくてはいけないと思います。
 このSIPプロジェクトのおかげで、かなり良いところまで来ているので、これを何とかしたいということで、2019年3月末から、平成30年度補正予算と平成31年度通常予算の両方でプロジェクトを行う計画です。 次に、スマートフードチェーンを今からしっかり進めなくてはいけないということで、重点プロジェクトとして、九州沖縄経済圏でスマートフードチェーン研究会を立ち上げました。この地域では、全体で約2兆円の農業産出額があります。国全体が約9兆円ですから、20%強です。アジアに近いということで、ここをスマートフードチェーンのベースに、アジアへの輸出拡大を目的としています。産学官で連携したプロジェクトを今年の1月10日にキックオフしました。九州経済連合会、JA、農業法人のほか、産業界、大学、公設試験研究機関、金融機関のほとんど全てが参加しております。このような場を使って、農業をベースとした地域の活性化、地域創生にもつながるロールモデルを作りたいと考えています。九州沖縄経済圏スマートフードチェーン研究会のキックオフフォーラムは、参加者数が250名ということで、非常に良い雰囲気でスタートしました。数か月で良いテーマを複数選んで、プロジェクトを本格的にスタートする計画です。
 次に、国家プロジェクトを活用したイノベーション創出モデルについて話します。第1期SIPで開発した成果は、大きな圃場でのスマート農業であり、中山間や園芸等の小さい圃場向けの技術は開発課題要素がまだ多くあります。第2期SIPでは、開発要素が残っている小さい圃場向けの技術開発を進めます。一方、第1期SIPで開発した大圃場向けのスマート農業技術については、農林水産省と農研機構が実証プロジェクトとして引継ぎ、本格的に普及させる取組を進めます。このように府省庁間で国家プロジェクトをつないで、開発技術の本格的普及を実現するロールモデルを作りたいと思います。
 同じように、第2期SIPでは、スマートフードチェーンの研究を行いますが、これも同じような形で国家プロジェクトをつないで実用化したいと思います。そのときに、スマート農業にしても、スマートフードチェーンにしても、データベースが非常に重要です。我々は農業に関するデータベース「WAGRI」を第1期SIPで開発しましたが、今年の4月に本格的に稼働させ、皆さんにオープンにするとともに、より良いデータベースに進化させるつもりです。
 最後に、研究開発強化策について述べます。
 農業情報研究センターを昨年10月1日に開設しました。AI研究は非常に重要なため、理事長直属の組織としました。このセンターでは、農業・食品産業に関するAI研究をしっかり行うとともに、先ほど言いましたデータベースを運用します。農業情報研究センターのAI研究は、農業や食品産業の課題を解決するアプリケーション指向の研究開発に特化してスタートしております。農業情報研究センターでは、このようなAI研究とともに、AIを中心としたICT人材を育成することも目的としています。農研機構の約2,000人の研究者のうち、最低1割程度(約200名)は人工知能を使えるように人材育成を進めております。
実際には、農業情報研究センターにAI研究者を外部から招聘するとともに、農業に熟知した農研機構研究者を北海道から九州沖縄までの研究センター等から集めて、彼らが一緒になって、AI研究を進めています。例えば、スマート育種、スマート病害虫防除、ロボットトラクターの無人制御等の研究を進めて、農業・食品分野における課題を解決し、課題を解決したら各地域の研究センター等に戻り、また別の研究者が来るといった仕組みです。もちろん、その際、データベース「WAGRI」のデータを徹底的に使いこなすとともに、WAGRIに対してこのようなデータも集めてほしいといったリクエストも出す仕組みとしています。現在、30名規模でスタートしましたが、今年の4月には50名強まで増える計画です。
 次に、産業界・農業界・学術界との連携強化策についてです。特に産業界との連携が弱いということで、ビジネスコーディネーター制度というものをつくっております。まず、農業界との連携強化ということで、農業技術コミュニケーターという制度を徹底的に強化します。これは先ほど申し上げましたように、我々機構が開発した成果を農業界の隅々まで徹底的に浸透させるための制度ですが、当然、我々機構だけで成果を普及できるわけではありません。このため、農業技術コミュニケーターは、県の公設試験研究機関や普及員と協力して、技術を普及していきます。
 次に、私が三菱電機時代につくったシステムについてお話しします。当時は三菱電機の研究所も、事業部から象牙の塔と思われていました。それではいけないということで、ここでいうビジネスコーディネーター制度を作りました。農研機構の場合には、電機会社、機械会社、土木会社、食品会社、種苗会社等、まわりに様々な業界があります。ビジネスコーディネーター制度は、これらの業界のニーズとのマッチングを行うものです。シーズを売り、それから、ニーズを探る、それによって連携を強化します。その結果、具体的な共同研究を行い、とことん産業界が必要とする技術を作り上げていく仕組みです。私の経験からして重要なことは、ビジネスコーディネーターの質です。外部から、主に産業界出身の方々を採用していますが、採用面接の採択率をそれほど高くしていません。この人ならいけるという人を絞り込んで、採用者の質を高めて、スタートしています。
 次に、知財・国際標準化、広報活動の強化ということで、新たに知的財産部、広報部を昨年10月1日に設置しました。知的財産部には、新たに知的財産戦略室、国際標準化推進室を作りました。さらに、新たに広報部をつくり、広報戦略室と広報課をつくっています。このように、組織自体は既に構築しましたが、特に、知財の専門家及び国際標準化の専門家については、今年4月に機構外からキーマンを招聘して、体制を充実させます。 このようにして、理事長就任以来の九か月、できるところから改革を進めてきました。更に現在実施している改革項目としましては、一つ目として、戦略・企画機能の強化ということで、本部の司令塔機能の強化とシンクタンクの設立を進めています。
 二つ目が、ファンディング部門の強化です。農研機構は、生研支援センターというファンディング部門を持っています。このファンディング部門と機構内の研究部門とのシナジーをいかに出すかが課題となっており、現在、利益相反が起こらないようにしながら、シナジーを創出する方策を検討中です。
 三つ目は、海外拠点の構築です。海外に対するアクティビティーが弱いのも課題と考えています。このため、農業・食品、バイオテクノロジー、ICT研究力の強化、農林水産省が大きな目標に掲げている輸出拡大の支援強化等を目的とした海外拠点の構築を検討しています。
 四つ目に、今あるものを使い切るのではなく、将来の種もしっかりとまかなくてはいけないので、基礎研究のあるべき姿、人材育成のあるべき姿について検討しております。特に人材の流動化や海外で研究する機会の増大について検討しています。これらのことを、4月あるいは5月に向けて実行していきたいと考えています。
以上です。
【野路委員長】 久間理事長、ありがとうございました。それでは、ただいまの御説明について、御質問、御意見等がございましたらお願いします。天野委員。
【天野委員】 ありがとうございました。久しぶりにいろいろお話を聞かせていただいて、非常に感銘を受けました。
 私も国立研究開発法人に幾つか関わっており、組織や戦略化ということを考えたときに、体制はある程度イメージできるものの、やはり、どのように人を配置して人材育成していくか、外部から連れてくるというのもありますが、どの法人も非常に苦労しているところだと思います。ぜひお聞きしたいのは、久間理事長が今回のスマートフードチェーンのような全体構想の中で、研究員の方が中心と思いますが、皆さんに理解していただいて、流れに乗っていただく上で、どのようなことに苦労されたのか、どのようなことをなさっているのかということです。もう一つあります。Society5.0についても、今、日本国内全体で進めなければいけない話だと思います。SIPで、せっかくプラットフォームができても、国全体でどのような形でSociety5.0を形づくっていくのかというところが、私自身理解できておりません。農業分野でのSociety5.0を形づくる上での拠点づくりについてお話されていましたが、それについての今の理事長のお考えをお聞かせいただければ幸いです。
【農研機構 久間理事長】 まず、私が行うべきことは、農研機構の中の末端の研究者あるいは技術支援者まで、農研機構の改革の考え方を浸透させることです。農研機構の組織の階層構造は、先ほど説明した理事、その下に各研究所の所長やセンター長がいて、企画部長がいます。その下に、領域長、ユニット長、研究者がいるという構造です。まず、理事の役割が、私が理事長になる前までは、あまり明確ではなく、所長の方が強い等、いろいろな問題がありました。そこで、理事の役割を明確にし権限を与える、その代わりに責任もとってもらうという仕組みにしました。それぞれの理事の下に、所長やセンター長あるいはプログラムディレクターがいる、その指示系統を明確にしました。さらに、これまでは、全国の地域研究センター等から所長やプログラムディレクターが集まる会議が、数カ月に一度の頻度でしか開催されていませんでしたが、これを頻繁(毎月)に行うことによって、所長あるいは企画部長までは、私の考え方が浸透したと思います。問題は、若い人たちにどう伝えるかです。現在のところ、時間的な都合もあり、私が方針説明や組織を変えるごとにビデオを撮ってもらって、そのビデオを各地域で見てもらうようにしています。あるいは、つくばの講堂で何か行うときは、それをネットワークで全国に流すようにしています。しかし、それでは足りないので、今年からは北海道から九州まで、視察をするときに、若い人たちにも集まってもらい、直接コミュニケーションを図る機会をつくろうと思います。こうして組織全体のモチベーションを上げたいと思います。また、当然のことながら、モチベーションを上げるだけではなく、人事評価システムを連動させなくてはなりません。ただ、人事評価の仕組みというのは、非常にデリケートですので、今はまだ検討段階で、様々な人の意見を聞きながら変えていきたいと考えています。具体的に言いますと、現状では論文一辺倒の評価のシステムになっていますので、社会実装や、それを支援することも重視する多様な評価軸をつくっていきたいと思います。以上が最初の御質問に対する答えです。
 それから、Society5.0というのは、簡単に言うと、AI、データ、ロボットといったICTを徹底的に活用して日本の経済を成長させることと、日本が抱える社会的課題を解決すること、そしてこれらを両立させることによって、国民一人一人が豊かで活力のある生活を行う社会を作るという概念です。抽象的な概念ですが、先ずはそれぞれの領域で、Society5.0を目指すことが良いのではないかと思います。例えば、農業では、営農者の所得を上げること、きつい仕事を楽にすることによって地域を活性化する、活性化すれば、当然のことながら、財政が豊かになるので、それを活用して地域の人たちの生活を豊かにする、元気な社会をつくっていくという考えです。このような考え方の具体的な取組のモデルをつくれば良いと思います。我々は、九州、沖縄の広範囲な経済圏を対象にしたスマートフードチェーンプロジェクトや、高知県、茨城県等の個別の県とのプロジェクトを推進しています。もちろん、農業、畜産業で地方創生を目指すのですが、例えば、エネルギーと農業を一体化していくということもあり得ると思います。一体化がスムーズにできるように、今から分野間のデータフォーマットやデータ粒度の統一を進めることが大切で、国としての戦略を作り推進しています。我々は、そのような目的で農業データ連携基盤を開発しています。他の分野でも同じようにデータ連携基盤を開発しているので、将来これらの融合が進んで、より大きなデータベースが出来ると思います。
【野路委員長】 浜野委員。
【浜野委員】 様々なチャレンジングな仕組みを御説明いただき、ありがとうございました。
 産業界の御出身の理事長でいらっしゃるので、輸出拡大に貢献したいというところも大きくうたわれていますが、スマート農業など素晴らしい技術の開発が輸出にどのくらい貢献していくか期待しております。また、グローバルGAPやHACCAPなど国際認証を取って輸出しやすくすることも重要です。私は、日本貿易振興機構時代にミラノ万博の担当役員を務めましたが、館内で様々な日本食をご提供することになり、ジェノバ港まで運んだものの、なかなか通関できませんでした。当時はかつおぶしなど、日本の食材でHACCAP対応できていないものがあって、引っ掛かったからです。今は、鹿児島県がヨーロッパ域内に生産設備を作って供給するまでになるなど改善しましたが、日本全体ではまだまだ生産・製造の現場で国際認証を取ってないところ多く、中国やベトナムの10%以下ともいわれております。素晴らしい農産品をどのように輸出で稼げるようにつないでいくかという一つのキーポイントは、農林水産省でも行っていますが、国際標準、国際認証とうまくすり合わせていくことだと思います。国際的に通用するような研究に加えて、国際認証や知財をもう少しリンクしていただくと良いと思いました。
また、ビジネスコーディネーターの質が課題だとおっしゃっていましたが、私は日本人に限らなくても良いと思います。国際ビジネスに長けた外国人でも良いのではないでしょうか。日本の農産品は、質は非常に高いけれども、供給力が少ない場合が多いのです。高く売れば良いのですが、高く売るために必要な高品質を証明する成分のエビデンスを持っていないことが多いこれでは、海外ビジネスでは戦えないのです。例えば、先日、フランスのパスツール研究所出身のバイオ企業のビジネスマンと話しておりましたら、沖縄のウコンは、インド産の安いウコンよりも、ずっと機能に優れ、成分がよいそうですが、沖縄の生産者はインドと比較したエビデンスを持っていないので、ビジネスチャンスを逃しているというのです。ですから、そういったベースのところを農研機構の研究事業等とうまくタイアップさせて、輸出拡大に向けてチャレンジしていただきたいと思います。
【農研機構 久間理事長】 おっしゃるとおりです。弱いところを強化するために、国際標準化推進室をつくりました。具体的には始まっているのですが、成果を出すのはこれからだと思います。日本は、例えば、農産物の安全性も食品加工技術も、素晴らしいものがあります。しかし、残念なことに、日本の食料は良いと言われているだけで、これをいかにビジネスにつなげるかのモデルが欠けています。ですので、何としてもそこを改善したいと思います。当然、認証や標準化活動は、本省と連携して戦略的に行っていきたいと考えています。今、そのための人材も集めているところです。
 それから、ビジネスコーディネーターについてもおっしゃるとおりで、今集めているメンバーには、在日の外国人も既に入っています。食品の話もそうですが、日本の産業界は、日本で人気のある商品は海外に持っていけば売れるはずだと考えているところがあります。しかし、そうではなく、ロボットトラクターにしても、テレビにしても、それぞれの国のニーズに沿ったものを開発しなくてはいけません。そこは日本の産業界全体の問題点であると思います。農業においても、例えばナシの「幸水」は日本では非常に人気があり、40%のシェアを持っているものの、海外では売れません。やはり、海外のニーズと少し違っているためです。ですので、そういったところまで分析した品種開発を行わなくてはいけないと思います。
【野路委員長】 高橋委員。
【高橋委員】 御説明ありがとうございました。非常に興味深くお聞きしました。
 冒頭の二つ、知名度を上げていくということと、組織を変える必要性を強く感じていらっしゃるということが印象に残っております。まず、知名度がないということについて、素朴に、誰に知ってもらおうとしているのかについて教えてください。また、知名度を上げるとどのような良いことがあるのか、誰に何をどのように伝えて何を得ようとしているのか、その辺りのアウトカムはどのように考えていらっしゃるのかということを教えていただきたいです。
 また、組織を変える必要というのは、知財のことと、おそらくその関連で、広報活動の強化ということを考えておられると思います。ここに新設ということで、新たな取組を考えていらっしゃいますが、これが全てうまくいくためには、人繰りが重要であると思います。知財の専門人材や広報の専門人材等、これから経営されていく上で、専門的な人を採用するに当たり、何かネックになっていることやうまくいっていることがあれば、教えていただきたいと思います。
【農研機構 久間理事長】 まず、知名度について、国民全体に農研機構を知っていただきたいと考えています。知名度を上げる一番のメリットは、農研機構で働く人たちのモチベーションの向上です。意識が非常に高くなると思います。なぜ知名度が低いかについては、日本の農業の歴史に関係すると考えています。国が質の高い食品を、国民に供給しなくてはいけないというところから始まっています。国の研究所が開発した技術や品種を無償で産業界や農業界に供給するのは当たり前であると、今でも思っているわけです。ですので、技術は供与するけれども、マーケットに出る食品や農産物には、「農研機構」の記載がないのです。皆様が食べているものの中で、農研機構が開発したものはかなり多いと思いますが、「農研機構」とは書いていないということです。せめて、農研機構の名称だけでも書いてほしいと思います。そうすれば、農研機構がどのような組織なのか、国民にも興味を持っていただけるのではないでしょうか。そういったところも検討したいと考えています。
 次に、組織を変える最も重要なところは、指揮命令系統を明確にすることです。つまり、それぞれの立場の職員の役割を明確にし、それに相応した権限を与え、その結果に対する責任はしっかり持ってもらうということです。これが組織の本質だと思います。一方で、ハードルが高い分野もありますし、比較的簡単に達成できることもあります。それを評価するのが組織の長です。産業界ではそのような仕組みができていると思いますが、当たり前のことを国立研究開発法人でも行うべきと思います。その際、それができる職員を配置するということが、やはり、トップの役割でもあります。現在は、そのような能力を持った人をできるだけ配置し、年齢は関係なく、足りないところは産業界から、あるいは公募をかけて、他の研究分野からも採用するようにしています。
【高橋委員】 ありがとうございます。ホームページも拝見させていただきましたが、例えば、今までの取組の中で、農研機構広報戦略というものを2017年6月1日に制定していらっしゃいます。今お話されたようなこととかなり重なっているので、前任者の時代のときに、これがなかなかできなかったのか、あるいは道半ばということで引き取られたのではないかと思います。ホームページの改訂等、いろいろ書いてあり、幾つかは実現してきていると思います。一方で、非常にもったいないと感じるのは、サイトマップのところを見ると、農研機構の旬の話題や農業政策で注目されている研究成果、社会にインパクトのあった研究成果等の項目をクリックすると、良いコンテンツが出てくるのですが、ホームページに普通に入っただけではそれが見られません。これはなぜなのかと考えていまして、ホームページに引きつけていく工夫が、これから必要なのではないかと思いました。ホームページを見に来てもらい、興味をもってもらえれば、ここで勉強できることは多くあります。それは職員もですが、未来の子供たちも、ここから様々な知恵を得て、国の将来のために働こうという気がしてくるのではないか、農業の活性化にも役立つのではないかと、全体を拝見すると思います。やはり、その一歩目がなかなか難しく、おそらく、機構の名前だけの問題ではないような気がします。その辺りについて、今後の課題として十分認識されているとは思いますが、もったいないと思います。収入だけではなく、ここで働きたいというモチベーションが高い方が来てくださるようになると思いますので、期待を込めて、少し厳しいことも申し上げましたが、よろしくお願いいたします。
【野路委員長】 私もそのとおりと思います。せっかく理事もいらっしゃいますので、一言お願いいたします。
【農研機構 勝田理事】 貴重な御意見ありがとうございます。戦略というネーミングを付けた新設の組織を今年はたくさん作っております。やはり今まで、広報にしても、知財にしても、事務処理的な部分から入っていくアプローチしかできなかったところに、戦略という名前のついた部署をつくったことで、企画力を持った組織にしたい、また、そこで司令塔機能を働かせたいという考え方で進めています。まだ道半ばというところもありますし、ホームページの改良も順次進めてはいるのですが、我々機構の弱みに気づいて、手当てを始めたところと御理解いただければと思います。
【農研機構 久間理事長】 ホームページは非常に重要なので、常に改訂を続け、より良いホームページにしていきたいと思います。
【野路委員長】 樫谷委員。
【樫谷委員】 非常に感心しながら聞かせていただきました。
 農業というと、機構そのものもそうかもしれませんが、産業界も含めて、少し古い体質を持っているような気がします。また、何度も合併した中で、活性化というテーマで取り組んでいただいたのは、非常に評価できると思います。使命のところから、現状分析、環境分析も含めてしっかりしていただいて、特に機構内部だけではなく、外側も含めて体系化していただいているのは、非常に素晴らしいと感じました。そして、組織改革もされているということで、まだ道半ばとおっしゃっていましたが、強力に進めていただきたいと思います。
 我々独立行政法人評価制度委員会は、制度の紹介もしております。もともとパブリックセクターはやりづらいところがたくさんある一方で、理事長が民間からいらっしゃって、むしろこのように変えてもらった方が、より改革が進むのではないかと感じるようなところがあれば、教えていただきたいと思います。
【農研機構 久間理事長】 独立行政法人評価制度委員会も大きく変わってきていると思います。かつての委員会では、業務の効率化のウエイトが非常に高かったように思います。それはもちろん重要ですが、研究開発の成果の最大化がより重要です。そのような方向に委員会もシフトしているのは非常に嬉しく思いますので、バランスよくそれぞれを正しく評価する委員会にしていただきたいと思います。
 また、国立研究開発法人も、それぞれ役割が違いますので、それぞれの役割に応じた評価をしていただきたいと思います。研究中心の法人もあれば、出口中心の法人もあります。一つの評価軸ではなく、多様な評価軸で、それぞれを評価してもらいたいと思います。
 それから、今度の研究開発力強化法等で、フレキシビリティーが増え、我々農研機構も、ベンチャー企業に出資できるようになりました。その際、出資の自由度も与えていただきたいと思います。一方で、それに対して、それぞれの理事長が正しい判断をしているか、判断のプロセスがどうかといったところも、正しく評価してもらいたいと思います。
【樫谷委員】 おっしゃるとおり、前向きに行っているというところをどのように評価するのかについては、悩みどころです。ノウハウも貯まってきてはいるのですが、ぜひ、今後ともいろいろ教えていただいて、我々委員会も正しい評価をしなければいけないと思います。
より活性化していただけるような評価をしたいと思っておりまして、ぜひ御指摘いただけたらと思います。
【野路委員長】 栗原委員。
【栗原委員】 アグリテックの進展に向けて期待しておりますが、ビジネス化という観点で拝見し、二点述べたいと思います。
一つは、産学のマッチングやニーズの取り込みのために、今回、ビジネスコーディネーターを置かれていますが、ここがうまく機能を発揮していくかどうかについて、今後もモニタリングしながら、是非教えていただきたいと思います。もう一つは、生産や加工に留まらず、その後の流通も非常に重要だと思います。流通といってもいろいろとありますが、特に物流面での今後の産業界との連携、あるいはいろいろな基盤作りにおいて、そのような視点を取り入れても良いのではないかと思います。
【農研機構 久間理事長】 ありがとうございます。産業界での経験として、例えば、A社と共同研究することになり、そのために我々機構はこのような技術開発をします、あるいはビジネスについてここまで足を踏み込みますという契約をします。A社も、それでは我々も人を出しますとか、提供する予算も決めて行います。そのときに、三菱電機時代の私の経験からすると、その仕事を担当する数人の研究者だけで取り組むのではだめなわけです。特に大きなテーマに関しては、中心となる研究者、その研究者が所属する研究部門、研究部門をまたいだ複数の研究者が束になって、A社がやりたいことを徹底的に一緒にやり、組織としてしっかりと成果を出していく、この姿勢が大切だと思います。私が三菱電機の研究所長時代、最初はこのような研究所に依頼研究費は出せないと製作所から言われました。しかし、例えば、B製作所から研究ニーズをもらう、そのときに、所長が自ら全ての部門長と部長を集めて、B製作所の開発課題やトラブルを伝え、知恵を出し合ってそれを解決する。そのような対応を繰り返すと、信頼が高まっていって、最後は、研究所が提案する新製品開発をぜひ中心に進めてほしいというところに結びつきました。一人、二人の研究者が産業界と連携するのではなく、農研機構として産業界と連携する、こういった仕組み、風土をつくっていきたいと思います。
 また、流通に関しては、まさにおっしゃるとおりで、今、我々農研機構ができることは、例えば、いかに鮮度を保って何日間運ぶことが可能かという研究や、レギュラトリーサイエンスのような研究です。これらも重要ですが、流通コストや無駄の排除など流通全体を最適化する必要があります。しかし、これらの最適化は非常に難しいので、今後、産業界の方々とも一緒に勉強しながら進めていきたいと考えています。
【野路委員長】 久間理事長のリーダーシップで、ぜひ、将来、若い人にとって魅力ある農業にしていただきたいと思います。本日は、長い時間にわたり、ありがとうございました。
 このような他法人の参考となる取組などについて、今後も、継続して紹介していただきたいと思います。
 最後に、事務局から次回の日程等について説明をお願いします。
【辻管理官】 次回の委員会でございますが、先ほど申し上げましたとおり、指針の改定案について御議論いただきたいと考えております。日程については、別途、御連絡を差し上げます。
【野路委員長】 それでは、以上をもちまして、第19回独立行政法人評価制度委員会を閉会いたします。皆様、本日はお忙しい中ありがとうございました。
 
 

ページトップへ戻る