諮問第55号の答申 :工業統計調査の変更について

府統委第123号
平成25年9月27日


総務大臣
新藤 義孝 殿

統計委員会委員長   
樋口  美雄


諮問第55号の答申
工業統計調査の変更について


 本委員会は、諮問第55号による工業統計調査の変更について審議した結果、下記のとおり結論を得たので、答申する。



1 本調査計画の変更
(1)承認の適否
 平成25年7月11日付け20130708統第1号により経済産業大臣から「基幹統計調査の変更について(申請)」について審査した結果、以下のとおり、統計法(平成19年法律第53号)第10条各号の各要件のいずれにも適合しているため、「工業統計調査」(基幹統計調査)(以下「本調査」という。)の変更を承認して差し支えない。

(2)理由等
 本調査の報告を求めるために用いる方法について、経済産業省の申請では、調査客体及び実施主体の実査時の混乱回避の観点から、現行の調査系統については維持しつつ、対応する調査対象を一部変更する計画である(図参照)。
 当該変更は、調査員調査及び郵送調査の対象事業所の範囲を変更するものであり、これにより、一部事業所については、調査方法が変更されることになる(調査員調査から郵送調査又は郵送調査から調査員調査)。
図 矢印
注(注は米印)1 上表の1(1は丸の中に数字)から3(3は丸の中に数字)までは次の調査系統を表している。
 1(1は丸の中に数字):都道府県等を経由した調査員調査
 2(2は丸の中に数字):民間委託事業者を経由した郵送調査
 3(3は丸の中に数字):民間委託事業者を経由した郵送調査(本社が傘下事業所分を一括で回答する方法)
注(注は米印)2 「単独事業所」とは、1事業所のみを有する企業の事業所をいう。
注(注は米印)3 「複数事業所」とは、複数の事業所を有する企業の事業所をいう。
注(注は米印)4 調査方法3(3は丸の中に数字)は、複数事業所のうち、経済産業大臣が指定する企業の事業所を対象とする。

 これについては、実査時の混乱が回避されるのみならず、調査員調査の対象事業所数が減少し、地方公共団体の負担軽減にもつながることから、望ましい変更であり、また、調査の円滑な実施に必要な対応措置がなされることとされていることから、おおむね適当である。
 ただし、郵送調査から調査員調査へと変更となる従業者200人以上の規模の大きい単独事業所については、新たに調査を担当する都道府県にとっては、負担増につながることから、経済産業省は、調査の円滑な実施に向けて、事前に都道府県と連携を図り、必要に応じて情報提供等を行う必要がある。
 また、民間委託による調査対象事業所を拡大させることに伴う結果について、結果精度の維持及び回収率確保の観点から、今後の課題として後述3(1)のとおり、検討する必要がある。

2 諮問第319号の答申「工業統計調査の改正について」(平成19年5月11日付け統審議第6号)における今後の課題等への対応について
(1)平成24年7月承認(軽微)時の検討課題
 平成24年7月承認(軽微)時の課題として、『調査の効率化・簡素化及び統計の正確性の確保等を図る観点から、今後、経済センサス-活動調査の回答状況を検証した上で、調査票を一枚化することについて、平成25年度末を目途に検討の上、報告すること。』と指摘されている。
 これについて、経済産業省は、調査票を一枚化するメリット及びデメリットを検討し、次のとおり結論付けている。
○ 本調査においては、調査票の一枚化によるメリット(調査票の甲乙別の配り分けの必要がなくなること等)よりもデメリット(調査関係用品が厚くなり、調査回答への負担感が増す等)の影響の方が大きいと考えられる。昨今の調査環境が厳しくなっている中において、負担感の増加は、調査拒否につながりかねず、ひいては結果精度の低下に至ることが懸念されることから、現行のとおり、甲乙別の調査票で調査を実施する。

 これについては、報告者負担の観点から、現行のとおり、甲乙別の調査票で調査を実施することは、適当である。

(2)諮問第319号の答申「工業統計調査の改正について」(平成19年5月11日付け統審議第6号)における今後の課題
ア 「常用労働者」に関する範囲・概念と用語についての見直し
 諮問第319号の答申において、『「常用労働者」として調査されている従業者については、他の統計調査との整合性を考慮しつつ、その範囲・概念と用語について見直すこと。』と指摘されている。
 これについて、経済産業省は、他の統計調査との整合性について検討し、次のとおり結論付けている。
 1(1は丸の中に数字) 従業者数の調査項目については、経済センサス-活動調査の調査項目から本調査の従業者数を算出できるように整合を図り、対応すべきところは対応できている。
 2(2は丸の中に数字) 従業上の地位に係る分類の在り方については、統計委員会基本計画部会において引き続き議論されているところであり、「常用労働者」の用語の扱いについても、その審議状況等を踏まえ、対応を検討することとする。

 これについては、他の統計調査との整合性を考慮した対応という観点から、適当である。
 ただし、「常用労働者」の用語の扱いについては、今般取りまとめられる「平成24年度統計法施行状況に関する審議結果」を踏まえたその後の対応状況を注視していく必要がある。

イ 労働生産性に係るデータ等の整備について
 諮問第319号の答申において、『工業統計調査の結果から二次的に作成される「労働生産性に係るデータ(従業員1人当たり付加価値額等)」については、生産労働と非生産(管理)労働に区分して把握することに対する強い利用者ニーズがあることを踏まえ、従業者を生産労働と非生産(管理)労働に区分して把握することの実査可能性等も検証しつつ、労働生産性に係るデータの整備を図ること。』と指摘されている。
 これについて、経済産業省は、製造事業所への確認を通じ、生産労働と非生産(管理)労働に区分して把握することについて検討し、次のとおり結論付けている。
 1(1は丸の中に数字) 事業所側の報告者負担が増大することにより、実際の調査を行った際に回答率や結果精度の低下につながることが懸念される。
 2(2は丸の中に数字) 実際の調査に当たって統計調査員がこれらの変更に十分に対応可能であるかなど運用面での課題も挙げられる。

 これについては、従業者を生産労働と非生産(管理)労働に区分して把握することにより、利用者ニーズは満たすものの、報告者負担の増加及び結果精度の低下等を招くおそれもあることから、実施を困難と判断することはやむを得ない。

ウ 製造品出荷額等に占める直接輸出額の割合について
 諮問第319号の答申において、『「製造品出荷額等に占める直接輸出額の割合」については、付加価値額の算出に当たって必要となる重要なデータであることから、「製造品出荷額」、「加工賃収入額」及び「その他収入額」の区分ごとに把握するとともに、それぞれの公表を行うこと。』と指摘されている。
 これについて、経済産業省では、製造事業所への確認を通じ、製造品出荷額と製造品出荷額以外の収入についての実査可能性について検討し、次のとおり結論付けている。
○ 本調査においては、製造事業所において、それぞれの輸出額の割合を記入することはできるが、相当の手間が掛かるとの回答が多いことから、報告者負担の増大による記入率の低下により、結果精度の低下が懸念されるため、区分ごとに輸出額の割合を把握することは困難と判断する。

 これについては、報告者負担の観点から、現行のとおり、「製造品出荷額等に占める直接輸出額の割合」で把握することは、適当である。

エ 経年的な変化が少ない調査事項の簡素化又は周期化
 諮問第319号の答申において、『工業統計調査は、統計調査の中でも報告者負担が重いものであるため、経年的な変化が少ない工業用地、工業用水等の調査事項については、報告者負担の軽減を図る観点から、その簡素化又は周期化を図ること。』と指摘されている。
 これについて、経済産業省では、次の1(1は丸の中に数字)及び2(2は丸の中に数字)の検討を踏まえ、次のとおり結論付けている。
1(1は丸の中に数字) 地方自治体等による調査票情報の二次利用申請において複数年のデータ利用を必要とする場合がある。
2(2は丸の中に数字) 前年数値を参照できなくなると、かえって報告者負担が増える可能性があり、さらに、結果精度の低下につながることが危惧される。
 以上の利活用及び結果精度の観点から、現時点では毎年調査を実施する。
 これについては、現行のとおりの調査事項及び周期で把握することは、適当である。

3 今後の課題
 今後の課題は、以下のとおりである。
(1)調査方法の変更に関する検証について
 経済産業省は、民間委託による調査対象事業所を拡大させることに伴う結果について、結果精度の維持及び回収率確保の観点から、検証を行う必要がある。その上で、当該検証結果から、結果精度の維持への影響が大きいことが確認された場合は、調査方法の変更に関する検討を行う必要がある。

(2)報告者負担の軽減方策(プレプリント事項の拡大)について
 経済産業省は、報告者負担の軽減、国が把握している統計データの報告者への還元等の観点から、大勢において変化のない項目については、情報の機密保護を考慮しつつ、更なるプレプリント事項の拡大の可能性について、検討を行う必要がある。