資料7 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002

第1部 構造改革の推進と我が国経済社会の活性化

 この1年、政府は「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(平成13年6月26日閣議決定)」(以下、「基本方針」という)を起点として広範な構造改革を推進するとともに、景気・雇用情勢に適切に対応してきた。こうした取組みにより悪化傾向を続ける経済と財政のトレンドに、一定の歯止めをかけることに成功した。

 この1年の成果の上に立ち、経済と財政の改善傾向をさらに確実なものとするとともに、国民が将来を安心できる確固とした経済社会を構築するために、新たな段階に歩を進める。

 先ず第1に、税制改革や地方行財政改革、社会保障制度改革などを着実に推し進め、「経済社会の活力」を高めるとともに、「全ての人が参画し負担し合う公正な社会」を構築していく。

 第2に、「負担に値する質の高い小さな政府」を実現するために、歳出改革を加速する。

 第3に、この一両年の経済運営における最重要課題である「デフレの克服」を目指し、政府・日本銀行が一体となって強力かつ総合的な取組みを行うとともに、構造改革特区の創設などからなる「経済活性化戦略」を推進する。こうした取組みにより、日本経済を強い産業競争力に裏打ちされた「民間需要主導の本格的な回復軌道」に乗せる。

 改革第2段階においては、これまでの1年を上回るさらに困難な諸課題に、官民挙げて取り組んでいくことが求められている。本方針は改革第2段階における「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」を明らかにするもの(いわば「基本方針第2弾」)である。

1.構造改革の推進

 政府は、昨年6月、構造改革の基本戦略である「基本方針」を決定した。その内容は、経済社会の活性化を目指した「7つの改革プログラム」、社会資本整備・社会保障制度・地方行財政の構造改革など広範かつ抜本的なものである。「基本方針」は「改革なくして成長なし」、「民間でできることは民間に、地方でできることは地方に」の考え方の下、長期にわたり低迷を続ける経済、金融機関の不良債権問題、大幅な財政赤字と膨張する政府債務など、経済財政全般の諸問題を構造改革を推進することによって克服することを目指す方針を示した。

 その後、財政面では、同8月に、14年度概算要求基準において改革断行予算の枠組みを示すとともに、同12月には、我が国経済の現状及び見通し等を踏まえた14年度予算の基本方針と主要分野毎の方針等を内容とする「予算編成の基本方針」を策定した。そして、こうした改革への取組みを具体的に反映した14年度予算が編成された。

 また、「基本方針」で示した諸改革を早急に推進するため、改革工程表(同9月)によって、500以上の事項について、具体的なスケジュールを示した。

 さらに、本年1月には、「構造改革と経済財政の中期展望」(以下、「改革と展望」という)を決定し、構造改革を推進することにより中期的に実現を目指す経済社会の姿(2004年度以降、実質11/2(1と2分の1)%程度以上、名目21/2(1と2分の1)%程度以上の成長が可能等)と、財政健全化の道筋(「政府の大きさは現在の水準を上回らない」、「2010年代初頭にはプライマリーバランスが黒字化」等)を示した。

2.経済の現状と課題

 政府は、構造改革を推進する中で、昨年9月の米国同時多発テロ事件等による景気の悪化、我が国経済のデフレの進行、失業率上昇などを受けて、同10月には、雇用・中小企業等に係るセーフティネットの充実を中心とした「改革先行プログラム」を、また、同12月には構造改革を更に加速するとともに、デフレスパイラルを回避するため「緊急対応プログラム」をそれぞれ決定し、着実に実施している。また、本年2月には、デフレ状況が続く中で、不良債権処理の促進、金融システムの安定など金融面での対応を内容とする「早急に取り組むべきデフレ対応策」をとりまとめた。

 現在、我が国の景気は、依然厳しい状況にあるが、在庫調整の進展や海外経済の回復傾向のなか、上記両プログラムに伴う2回の補正予算編成を含め各般の措置を講じてきたこともあって、ようやく底入れを迎えた。しかし、雇用・所得環境は依然厳しく、不良債権問題の正常化やデフレの解消に向けた取組みが引き続き重要な課題である。また、大幅な財政赤字の存在は、内外から我が国経済に対する不安を惹起している。

 今後、この1年の成果の上に立ち、改革第2段階では、経済と財政の改善傾向を確実なものとするため、これらの諸課題に取り組んで行かなければならない。

3.経済社会の活性化に向けて

 経済財政諮問会議は、本年初より、「改革と展望」が示す持続可能で活力ある経済社会の構築を目指して、(1)経済・産業の再生に向けた「経済活性化戦略」、(2)転機を迎えている経済社会の活力を引き出す「税制改革の基本方針」、(3)歳出を厳しく抑制し「負担に値する小さな政府」を目指す「歳出構造の改革」及び(4)15年度財政運営について審議してきた。

 第1に、経済の活性化戦略について、特に、産業競争力再生の観点から6つの戦略(技術力、人間力、経営力、産業発掘、地域力、グローバルの6戦略)と計30の具体的行動計画を提示した(第2部)。これは、これまで示された「基本方針」、「改革と展望」などと併せて、構造改革の一部となるものである。この活性化戦略のポイントは、(1)高い技術力や知識力を活かし、経営資源と技術資源の「選択と集中」を行うことが、産業競争力を強化し、(2)規制改革を通じた「民業拡大」が新たな市場を創造し、消費者の潜在需要を実現することである。この「選択と集中」、「民業拡大」が戦略の基本思想である。

 第2に、税制改革である(第3部)。今回の税制改革では、21世紀にふさわしい包括的かつ抜本的な改革を行い、広く、薄く、簡素な税制を構築することなどを目指す。この改革は、(1)日本経済の活力の回復を最重視する、(2)多様なライフスタイルの下で、国民の一人一人が個性と能力を十分に発揮する、(3)歳出改革と一体として進める、(4)社会保障制度改革と整合性をとって進める、(5)地方行財政制度の改革と一体として進める、(6)すべての人・企業が公正に負担すると同時に、真に必要な場合には、低所得層等に配慮する、という6つの視点に立って、検討を行うものである。

 第3に、歳出構造の改革である(第4部)。歳出構造の改革は、経済の活性化や大幅な財政赤字への対応において必要不可欠である。具体的には、(1)公共投資の配分の重点化・効率化等の観点からの社会資本整備の見直し、(2)「生涯現役社会」や「男女共同参画社会」など社会の変化に対応した社会保障制度への変革、世代間・世代内の公平、給付と負担のバランス等の課題を踏まえた持続可能な制度の構築、(3)国の関与の縮減と地方の権限と責任の拡大等の観点から地方行財政改革を強力かつ一体的に実施すること、さらに、(4)食料産業の全体を視野に入れた改革、民間委託・PFI等を通じた公的部門の生産性向上・効率化、「官から民へ」の促進、等である。

 第4に、本年1月の「改革と展望」を踏まえ、上記第1から第3の改革を前提に中期的な経済財政運営の方針を示すとともに、経済状況とそれへの対応及び当面の経済財政運営の考え方を示す(第5部)。「改革と展望」で示した中期的な歳出改革(質の改善と歳出抑制)を加速するとともに、「経済活性化戦略」、経済社会の活力を引き出す包括的かつ抜本的な「税制改革」を三位一体で推進することなどにより、中期的に民間需要主導の着実な経済成長を実現する。

 また、底入れしている景気の下で構造改革を進め、デフレを克服しながら民間需要主導の持続的な経済成長につなげていくことにより、経済の活力を再生する。

 15年度予算は、活力ある経済社会と持続的で安心できる財政構造の実現に向けての試金石となる。総額は厳しく抑制しつつも、経済の活性化戦略に沿った「選択と集中」による大胆な資源配分を行うため、歳出を「根元」から変革する必要がある。

第2部 経済活性化戦略

1.経済活性化戦略の基本的考え方

(産業競争力低下の原因)

 日本の経済社会は今、大きな転換点にある。産業競争力は、90年代初と比べて大幅に低下した。その原因は、経営力の面での効率性や透明性が低いこと、基礎的科学技術の研究・開発の成果が産業化に結び付いていないこと、平等主義、年功序列といった硬直的な仕組みや慣習の中で個性や能力のある人材を十分に活かしきれていないことにある。

 一方で、新たな需要を創造する力も低下しており、消費者の国民生活に対する満足度も低い。また、国の過度な関与と地方の個性の喪失の中で、地域の活力も失われつつある。

 グローバル化への対応も遅れている。ITの著しい進歩とアジア諸国の発展は日本経済をとりまく環境をも大きく変えた。ITの進歩は、企業経営を含む社会経済活動のあり方を大きく変革させるだけでなく、世界的なレベルで競争力の地殻変動を生み出している。つい昨日まで日本でつくられていたモノが中国をはじめとするアジアの国々にその産業立地を移しつつある。

 21世紀の新しいフロンティアの拡大と生産資源のダイナミックな再配分を通じた産業競争力の再構築なしには、豊かな国民生活を維持することはできない。

(経済活性化に向けて取るべき戦略)

 問題を抱えながらも日本経済の潜在的な力量は依然として高い。高度成長を生み出した日本人経営者の勇敢な行動と決断、傾斜生産方式にみられる選択と集中、品質と消費者志向を誇る日本の技術力といった特質を活かせば日本は必ず甦る。既に企業活動の面では、大胆な事業・企業組織の再編、産学官での連携など新たな動きが現れ始めており、国民生活の面でも、医療・社会福祉、教育の分野でも利用者の選択肢の幅が拡がりつつある。

 薄明かりが見えつつある新世紀への突破口を、今着手している構造改革を徹底化・迅速化することにより、大きく広げなければならない。特に人間力を高め、一人一人の能力が十分に発揮されることが重要である。また、新しい技術と潜在的需要(ウォンツ)の出会いを促進し、政策資源のダイナミックな再配分を国民経済レベルで行い、持続的な経済成長を生み出す。日本社会の再設計(ソーシャル・リエンジニアリング)としての「構造改革」の意義はここにある。

 その際、第1に、「民間ができることは、できるだけ民間に委ねる」との原則の下に、民営化や規制改革を通じて、経済活動の主体を「官」から「民」へ移し、民業を拡大する。第2に、政府の役割を、市場活動を邪魔しないよう裁量型から事後監視型に変える。その際、司法制度改革を総合的かつ集中的に推進し、社会的インフラとしての司法機能を充実・強化する。一方で、政府は、地球規模の環境問題への対応や技術基盤の強化など「市場の失敗」を補完する必要がある。グローバル化した世界経済の中で、企業活動にとっていかに魅力ある環境を整備できるか、この点で政府もまた企業と並んで国際競争にさらされているといえる。第3に、消費者・利用者を起点とした多様な選択肢のある経済社会を構築することである。このためには、市場競争を促進するとともに、消費者・利用者が適切な選択を行えるよう、情報と評価を公開する。第4に、グローバル化の流れの中で活力を取り込むため、FTAを推進するなど、多くの国・地域との経済連携を深める。

 産業競争力を再構築し、もって経済を活性化する戦略として、具体的には人間力、技術力、経営力、産業発掘、地域力、グローバル化といった6つの重点課題に着目し、日本の強みを伸ばし、弱みを克服するための戦略を構築する。人間力、技術力、経営力は、産業競争力を強化し、供給力を強化する「成長」戦略である。産業発掘、地域力、グローバル化は、市場を開拓し、我が国の豊富な貯蓄を投資と消費の好循環に向ける「市場創造」戦略である。これら6つの戦略の下で具体的な30のアクションプログラムを実施し、経済を活性化する。

 その際、(1)技術と市場の好循環、(2)製造業とサービス業の好循環、(3)日本とアジアの好循環、という「3つの好循環」を梃子に、相乗的かつ加速的に経済活性化を達成していくことが重要である。

(日本の経済社会の何が変わるか)

 経済活性化戦略により日本の経済社会はどのように変わるのか。経済活性化により、豊かな自然環境、医療・介護サービス、子育て支援、安全・安心で美しい街並みや高品質な住宅、多様な情報・知識の入手など消費者の潜在需要を実現する財・サービスが新事業として発展していく。こうした新事業が次々と誕生する中で、企業の競争力が市場での成否を左右する。企業はワンセット主義から、選択と集中による企業戦略に転換する。経営者も年功序列の閉じた会社組織の中で選ばれるのではなく、外部評価などを通じて選ばれるようになる。

 大学教員は、競争的環境の下で研究費を獲得し、経済社会との連携を深める。教育でも、年齢のみを基準とするのではなく、能力や個性に応じた多様な選択肢が拡がる。結果の平等主義から機会の平等が実現され、一人一人が何度も挑戦できる仕組みとなる。

 空洞化への懸念に対しては、産業の保護ではなく国際競争の中で企業努力によってグローバル化をチャンスに変える。地方レベルでは、地域の特性を伸ばして産業の裾野を広げていく。

 我々は時代の流れ、世界経済の変化を機敏にとらえ、以下に掲げるような具体的な経済活性化戦略を迅速かつ徹底して実行し、次の世代にも残せる豊かな経済社会を築いていかなければならない。

2.6つの戦略、30のアクションプログラム

(1) 人間力戦略

 経済成長も、社会の安定も結局は「人」に依存する。能力と個性を磨き、人と人の交流・連携の中で相互に啓発されることを通じて、一人一人の持つ人間力が伸び伸びと発揮され、活力あふれる日本が再生する。人間力向上のために、一人一人の基礎的能力を引き上げるとともに、世界に誇る専門性、多様性ある人材を育成し、国としての知識創造力を向上させる。また、職場、地域社会等での交流や対話を深め、人を育む豊かな社会を構築する。

(大学改革)

 「知」の世紀をリードする大学の教育研究機能を高度化するため、国公私立を通じた大学改革を推進する。国立大学を早期に非公務員型法人に移行させるとともに、大学や教員・事務職員等を競争的環境に置き、能力主義を徹底し、大学の国際競争力、教育研究能力を高める。

・文部科学省は国立大学の法人化と教員・事務職員等の非公務員化を平成16年度を目途に開始する。

・文部科学省は国立大学の法人化を待たず、平成15年度より、大学・大学院、学部・学科の設置規制を柔軟化し、教育機関間の競争を活性化する。

・文部科学省は、国立大学の法人化後の大学・事務局運営における関与を極力行わない。

・国立大学の法人化後の大学運営について、複数の民間機関等により評価を実施する。

・文部科学省は平成14年度から、大学事務局幹部職員を含め、経営専門家等民間からの採用、大学事務の外部発注を促進する。

・文部科学省は、国立大学の法人化を待たず、平成15年度から、弾力的な勤務形態(例えば週20時間勤務)による教官の任用を進め、兼業・起業を促進する。

・文部科学省は、研究は競争的環境を原則として、強化する。教育については、適正な受益者負担を求めつつ、大学への補助を一層重点的・競争的なものとするとともに、奨学金を充実する。

(時代の要請する人材育成)

 科学技術の進展や経済社会システムの変革に応じて必要となる人材の育成が急務である。

・関係府省は、ITやライフサイエンス等、高度な知識を要する分野での人材供給を平成14年度から強化することを通じて新分野人材育成を倍増する。

・文部科学省は、教員人事の流動性・多様性を高めるため、国立大学の法人化後の各大学において、公開公募制・任期制の積極的導入や他大学出身者・経験者の登用などについて、具体的目標を定め推進する。

・文部科学省、司法制度改革推進本部は、経営、法律、技術経営等の実務に携わる高度専門職業人養成を行う法科大学院などの専門職大学院(仮称)について平成16年度までに学生受入れに向けて制度を整備する。また、大学、大学院、専修学校等における実践的な職業教育を行うなど社会人の再教育等に柔軟に応える機能(いわゆるコミュニティ・カレッジ)を強化する。

・関係府省は、平成14年度から、旧国立研究所など公務員型独立行政法人について、その業務の内容により非公務員型独立行政法人化を進める。

・文部科学省は、外国の高等教育機関の対日進出を促す環境整備をする。

(個性ある人間教育)

 学校や教員の個性と競争を通じて、基礎学力の維持・向上を図るとともに、地域や現場の判断により、個性や創造性の涵養を図る。また家庭や地域が教育の現場として果たす役割も大きい。

・文部科学省は、義務教育における学校選択制度を推進するとともに、平成14年度からコミュニティ・スクールの導入に向けた実践研究を推進する。

・文部科学省は、IT国民皆教育戦略として、義務教育におけるITを活用した情報教育を平成14年度から推進する。また総務省及び文部科学省は、平成17年度までに公立小中高等学校等の全教室がインターネットに接続できるようにするなど、学校のIT環境の整備を進める。

・文部科学省は、総務省、経済産業省と協力し、ネットワークを活用した教育用コンテンツの開発・充実、流通促進を通じ、教育の多様化・活性化を図る。

・文部科学省は、確かな学力を育成するため、平成14年度から習熟度別少人数指導、学力向上フロンティア事業、科学技術・理科大好きプランによる理科教育の充実等を推進する。また、社会人の活用等による心の教育の充実、家庭の教育力の向上等を推進する。

・文部科学省は、「英語が使える日本人」の育成を目指し、平成14年度中に英語教育の改善のための行動計画をとりまとめる。平成15年度から外国人の優秀な外国語指導助手の正規教員等への採用を促進する。

・文部科学省は、早期に新たな教員評価制度の導入を促進する。また、教員の一律処遇から、やる気と能力に応じた処遇をするシステムに転換する。

・文部科学省は、関係府省と連携し、平成14年度から学校内外を通じた奉仕活動・体験活動等を推進するための協議会等を整備するとともに、これらの活動を学校において単位認定する等の取組みを奨励する。

(高齢者、女性、若者等が、ともに社会を支える制度の整備)

 能力に応じた賃金・就業体系の導入、NPOの役割の拡大等働き方を多様化・弾力化し、生涯現役でいられる社会の仕組みに変える。男女共同参画社会を構築し、女性が働くことが不利にならない制度設計にする。さらに、青少年期からの人間力の涵養のため、早い時期からの職業体験機会の充実等を図ること等を通じ、若年者雇用対策に万全を期する。

・厚生労働省は、有期労働契約や裁量労働制の見直し、派遣労働法制における対象範囲拡大、募集・採用における年齢制限廃止努力の徹底、有料職業紹介の規制緩和等労働制度を引き続き見直す。また、解雇の基準やルールについて、立法で明示することを検討する。

・厚生労働省は、雇用保険3事業について、平成15年度から、雇入助成の縮減、雇用維持支援から労働移動・能力開発支援への重点化等により、抜本的合理化を図る。

・厚生労働省は、年金をはじめとする社会保障制度について、持続可能で公平な制度の構築に向け、給付と負担のあり方等を抜本的に見直すほか、年金のポータブル化の拡充、短時間労働者に対する社会保険の適用拡大、第3号被保険者制度のあり方について見直す。

・厚生労働省は、平成14年度から、「働らコール」事業(全国の就職支援機関についての情報を提供する電話サービス)への支援、「ハローワーク・インターネットサービス」への求人企業名の掲載等を通じて就労等に関する多面的情報提供を充実する。

・厚生労働省は、民間活用によるキャリアカウンセリングを促進する。

・NPO活動促進のための、現行NPO税制の認定要件の見直しを検討する。

・厚生労働省、農林水産省、環境省及び関係府省は、若年者トライアル雇用、インターンシップ、「緑の雇用」の活用などによる職業体験機会の充実等を通じて、青少年等の職業理解を促進し、職業意識を醸成させる。

・厚生労働省、文部科学省は、若年者雇用を促進するため、学校と職業安定機関が緊密に連携しつつ、学校における就職支援体制の強化を図るとともに、不安定就労若年者等に対する効果的なカウンセリングの実施や職業訓練の一層の推進を図る。

・厚生労働省、関係府省は、長期連続休暇制度の導入促進に努める。

(健康寿命の増進)

 長寿社会は、単に長寿であるというだけでなく、社会の支え手として元気に働き、生活を享受することができる期間が長いという健康寿命の増進が重要である。

・厚生労働省、経済産業省は、平成14年度から、ITの活用による医療・健康情報の提供や健康づくり支援産業育成のための環境整備をする。

・厚生労働省は、平成14年度から「21世紀における国民健康づくり運動」を一層推進する。

・関係府省は、健康に対する食の重要性に鑑み、いわゆる「食育」を充実する。

・関係府省は、平成15年度から健康寿命の増進のための医療、健康、バイオテクノロジーの科学技術予算等の重点化を図る。

(挑戦者支援)

 結果の平等主義から脱却し、男女ともに新たな挑戦や再挑戦がしやすい社会を構築するとともに、努力が報われるような仕組みを構築する。また、国民が世界の中で活躍する。

・文部科学省は、社会人を含む学生への奨学金を重視する。厚生労働省は、職業訓練については民間を活用するとともに、個人の能力開発については給付の重点化、貸付の積極的な活用により意欲の高い個人を対象とした効果的・効率的な支援制度とする。

・男女共同参画会議は、女性の個性や能力が活用されるようなチャレンジ支援策を平成14年度中にとりまとめ、企業等における女性の能力発揮のための積極的取組みの推進等を図る。

・経済産業省は、関係府省と協力して、平成14年度に、挑戦することの社会的認知向上のための企業改革賞等を創設する。

・関係府省は、平成14年度から、障害者等がそれぞれの能力を発揮して然るべき報酬がもらえる仕組みの検討、使いやすい情報通信機器・サービスの開発・普及などによる情報バリアフリー環境の整備、電子政府の構築等の面で政府が障害者をパイロット的に雇用する事業の創設等、障害者の自立を支援する政策を具体化する。

・総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省は連携して、平成14年度から、情報通信環境の高度化、地域コミュニティ形成、ビジネス環境整備、就業条件の確保等を通じて、テレワーク・SOHOなど多様な働き方を支援する。

・厚生労働省は、企業による離職者の再就職援助システム(企業の再就職あっせんや教育訓練に対する支援)や官民による労働力需給調整機能の強化など、離職者の再就職インフラを強化する。

(2) 技術力戦略

 ナノテクノロジー、IT、バイオテクノロジー、環境をはじめとする先端分野で欧米と伍して競争できる技術基盤を強化・保護し、「世界の第1走者」たり続けることを目指す。民間主導の原則を踏まえ、民間活力を引き出すために、政府は、府省間の非効率や重複を排除しつつ、技術基盤の強化、制度の見直し等で重要な役割を担う。

(戦略分野への選択と集中)

 重点分野ごとの割合が固定化するといったことがないよう、既存プロジェクトの見直しを進め、科学技術予算について、技術の革新性、産業への波及性と発展性、事業実施可能性(民間資金の有無等)を踏まえた戦略により、資源配分する。また、研究開発等にかかる制度整備を図る。

・総合科学技術会議は、「平成15年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」においてライフサイエンス等の重点4分野へのメリハリのある重点化を図る。

・総合科学技術会議は、関係府省と協力して、基礎研究を重視するとともに、科学研究費補助金等の競争的資金の割合を拡大する。また、競争的資金の成果について厳正な評価を行うなど、制度改革を推進する。

・関係府省は、財務省との協議の上で、平成15年度から科学研究費補助金等の研究開発資金を年度を越える個別の研究開発の進捗に合わせて柔軟に執行できるよう対応する。

・試験研究税制、IT・環境投資促進税制措置の見直しを検討する。

(新しい産学官連携の推進)

 総合科学技術会議の定めた方針等を踏まえ、組織的な産学官の新しい連携を推進する。連携は大学と企業の相互作用であり、双方向的に実施する。

・文部科学省は、平成14年度中に、研究成果物、知的財産権等の取扱いについて、産学官連携における大学のルールを整備する。

・経済産業省は、平成14年度中に国有特許を民間へ譲渡する場合の価格決定ルールを設定する。また、平成14年度中に産業活力再生特別措置法に基づく委託研究先への特許権の帰属について、原則、関係府省全研究委託費への拡大を図る。

・文部科学省、経済産業省及び関係府省は、事業化支援や起業家育成(インキュベーション)事業の充実等により「大学発ベンチャー1000社計画」を推進する(平成14年度以降3カ年)。

・文部科学省、経済産業省は、平成14年度以降も引き続き、民間人の大学への登用、産学におけるワンストップ窓口の整備など、大学等における連携推進体制を構築する。

・文部科学省、厚生労働省は、基礎研究の臨床への橋渡し研究の拡充や実験成果の共有等の内容を含む全国治験活性化3ヶ年計画を平成14年度中に策定し、産学官連携を推進するための基盤を整備する。

(産業化支援)

 国家プロジェクト、政府調達等を通じて、「実用化段階」の研究開発に対して、リスク負担を軽減する。

・総合科学技術会議は、関係府省と協力し、高信頼ソフトウェア基盤開発プログラム、次世代半導体技術等次代の産業基盤を構築するプロジェクトベースの研究開発を推進する。

・総合科学技術会議、関係府省が協力して、半導体微細加工技術、燃料電池やマイクロ電池、超微細製造技術、光技術等ナノテク、ITなどを応用した基盤的技術の開発や普及を産学官で重点的に推進する。

・内閣府は、平成14年度、潜在性のある科学技術を軸にした技術革新やビジネスモデルが拓く新しい産業の可能性や将来性を検討する「動け!日本」緊急産学官プロジェクトを推進する。

・経済産業省は、平成15年度から、中小企業技術革新制度(SBIR)について、関係府省による一層積極的な活用を促すため、統一運用の策定等を行うとともに、同制度を通じて開発された製品の利用促進を図るため、関連情報の提供を一層充実させる。

・文部科学省、経済産業省は平成14年度から、大学発ベンチャーの育成、公設試験機関や企業の有する基礎研究の実用化等の観点から、マッチング事業等を推進する。

(産業力強化のためのIT化推進)

 欧米の後追いを続けるだけでは、産業競争力は強くならない。IT戦略本部が取りまとめた「e-Japan重点計画-2002」に基づきIT政策を推進する。また、日本の特徴を生かした移動型(モバイル)、どこでも型(ユビキタス)のIT社会を構築する。

・総務省及び関係府省は、平成17年度までに世界最高水準の高度情報通信ネットワークを形成し、安全性・信頼性を確保する。

・総務省及び関係府省は、第4世代移動通信システムなど、どこでも型、移動型の次世代ITの産学官研究開発を推進する。

・経済産業省は、平成15年度中に中小企業のおおむね半数程度がインターネットを活用して電子商取引等を実施できるようになるとの目標のもと、「中小企業IT化推進計画」を着実に実施するとともに、製造・配送・販売三層全体での経営の最適化を推進し、企業連携の革新を促進する。

・経済産業省は、平成14年度から高度IT人材育成のため、IT技能に関する標準を整備するとともに、経営とITの双方に通じ、経営者の立場に立って経営戦略を支援できる人材(ITコーディネーター)を引き続き育成する。

・IT投資促進税制措置の見直しを検討する。

(知的財産権の保護・活用)

 我が国の国際競争力を強化し、経済を活性化していくために、知的財産戦略会議が取りまとめる知的財産戦略大綱に基づき、平成17年度までに、関係府省は、迅速かつ的確な特許審査や司法制度のあり方、知的財産の創造・流通・活用の促進、知的財産権侵害品に対する国境措置の強化等の課題について、集中的・計画的に取り組む。

(3) 経営力戦略

 東アジア諸国の産業競争力が向上する中で、これまでの製造業の強みを活かしながら、スリムな経営体質に変え、競争力のある分野を選択し、資源を集中する。特に、企業の浮沈は経営者の能力次第で決まる。経営者には高い経営能力や倫理観、企業文化の構築が求められる。

 政府は、起業や企業経営の刷新を図る制度整備やリスクマネー供給の円滑化をはじめとする市場環境整備を迅速に行う。一方、民間金融機関においては、プロジェクト・ファイナンス、債権流動化等、リスク管理手法の多様化に取り組む。

(起業の促進・廃業における障害の除去)

 起業に伴うハードルとリスクを低くし、起業活動を活性化することにより、経済の新陳代謝を活発にする。

・法務省において、債務不履行の場合の取立て範囲について、検討、見直しを進めるとともに、関係府省において、起業の促進・廃業における障害の除去という目的実現の観点から個人保証のあり方の検討、見直しを進める。

・法務省、経済産業省は、平成14年度から、起業コストの見直しの観点に基づき、一定の要件を満たした会社の設立について最低資本金制度の特例を設けるなど会社設立や事業再編の際のコストや手続きを見直す。

・総務省、経済産業省、国土交通省は、協力して、平成14年度から、全国規模での創業・起業のため、経営、技術、法律等の専門知識、行政関連情報等がインターネットの活用によりワンストップで提供されるとともに、企業相互の情報交流を促進する情報サイト等の拡充・創設を図る。また、経済産業省は、平成15年度から、創業・ベンチャー及び中小企業のニーズに合わせ、大企業や国の研究機関OB等の高度人材が有する経営ノウハウ・技術をマッチングさせる仕組みを検討する。

・経済産業省は、企業組合を創業に活用しやすい制度とするための組合員や組合事業に関する要件を平成14年度から見直す。

・関係府省は、平成14年度から、サービスフランチャイズシステムにかかる環境を整備する。

・民間投資家に係る創業支援制度の整備を行う。

(企業・産業の再編、経営のあり方)

 環境変化や製造や製品の特性に応じて、企業再編、海外生産、ダウンサイジング等経営体制のあり方を変えていく必要がある。

・経済産業省は、企業の壁を越えた大胆な事業再編や産業再編を促進するために、産業活力再生特別措置法を平成14年度中に抜本強化に向けて見直す。その際、あわせて時限的に設備廃棄・雇用調整等の円滑化、企業組織再編の円滑化、分離独立による再生等を通じた産業再編の促進を図る。

・金融庁は、今後の我が国金融システムをより強固なものとするため、主として地域金融機関を念頭において、合併等を促進する施策を早急に取りまとめ、これにより、収益性の改善等による経営基盤の一層の強化及び中小企業金融の円滑化を図る。

・金融庁は、平成14年度、取引所等を通じ証券市場の退出基準を厳格化する。

・法務省は、平成15年中に破産法、平成14年中に会社更生法等の倒産法制を見直す。

・関係府省は、中堅企業等の徹底した経営改革を推進するため、事業再生を進める融資制度を整備する。

・公正取引委員会は、グローバル競争の視点を踏まえて、企業結合審査を一層、迅速化し明確化する。

・公正取引委員会は、新たな環境変化に対応し、平成14年度から、知的財産権、電子商取引等に関する独占禁止法上の考え方の明確化を一層進める。

・内閣官房は、平成14年中に事業活動の電子化を妨げる規制について総点検を行う。

・経済産業研究所は、平成14年度に「失われた10年」の間でも成功した日本企業の要因を明らかにする「動け!日本」日本の優秀企業研究により、競争力の低下している企業に今後の企業経営のヒントを与える。

・連結税制を整備する。

・企業や業界が消費者への対応等にかかる自主行動基準を策定し、遵守していくよう、内閣府は、関係各省と協力し、自主行動基準の指針の策定、第3者の評価組織の育成、企業、業界及び消費者への普及・啓発活動等を平成14年度から推進する。

(中小企業の革新と再生)

 創造力、柔軟性、意欲に富んだ中小企業の新事業への挑戦や事業再生を積極的に支援する。

・経済産業省は、平成14年度から、売掛債権担保等保証の推進、中小企業信用リスク情報データベース(CRD)の活用、中小企業金融におけるミドルリスクマネー供給の円滑化等により資金供給を多様化する。

・経済産業省は、平成14年度から、政府系研究所と中小企業との連携強化等を推進することにより、新分野に挑戦する中小企業の戦略的技術開発を支援する。

・経済産業省は、平成14年度から、経営自己診断システムや経営相談等により、事業再構築、事業売却、廃業等の見極めを早期に行い、円滑に進めるための環境を整備する。

・経済産業省は、平成14年度から、創造力や意欲に富んだ中小企業の事業再生を促進するため、円滑な資金供給等のセーフティーネットを確保する。

(直接金融市場の整備)

 企業活動における変革を支え、起業・創業を活発化させるためには、リスクマネーを供給する直接金融市場の活性化が不可欠である。また、直接金融市場を通じた投資家のガバナンスが、優れた経営者を選ぶ力となり、企業の経営刷新力を拡大する。

・公的金融を見直す。

・金融庁は、四半期開示に向けた取組みを強化するとの観点から、取引所等に対し、その進め方等を明らかにする行動計画の策定を、6月中に要請する。

・金融庁は、株式投資単位の引下げについて取引所等を通じ企業側に一層の推進努力を求める。

・金融庁は、平成15年度から、株式公開前の資金調達円滑化のため、適格機関投資家の範囲の拡大等を行うことにより、私募市場を活性化する。

・金融資産課税の見直しを検討する。

(規制改革や政府活動の効率化を通じた高コスト構造の是正)

 我が国の産業の競争力を高めるため、運輸、流通、エネルギー、IT分野等の規制改革等を通じて競争環境を整備する。

・経済産業省は、引き続き電力・ガスの公正かつ透明性の高い供給システムを実現するため、小売の自由化範囲の拡大などの規制改革の徹底を図る。また、経済産業省及び公正取引委員会は引き続き協力して公正な競争環境の整備を図る。

・関係府省は、平成14年度、電力会社、鉄道事業者、国、地方自治体が保有する未利用光ファイバーの一層の開放を促し、より自由な設備やサービスの提供を行えるよう環境整備をする。

・総務省は、電気通信事業者の多様な事業展開を促すため、電気通信事業法における一種・二種の事業区分を廃止する等競争の枠組みについて見直し、平成14年度中に結論を得る。

・関係府省は、主要港湾における24時間フルオープン化の早期実現に向け行政を含めた関係者の取組みを平成14年度より、一層促進するとともに、港湾物流の迅速化等についても引き続き推進する。

・関係府省は、上下水道業務の民間委託、公営ガスの民営化を推進する。また、ケアハウス、保育所及び学校等にPFIを活用する。

(4) 産業発掘戦略

 豊かな自然環境、医療・介護サービス、子育て支援、街並みや高品質な住宅など国民の潜在的需要に応えることで需要創造型の生活産業を創出する。その際、21世紀の生活を革新する技術、新サービス、文化や娯楽などが梃子になる。

(技術革新が拓く21世紀の新たな需要)

・関係本部・会議及び府省は、環境・エネルギー(省エネ総合サービスの抜本的普及、燃料電池等の環境配慮型技術・製品の普及、リサイクルの一層の促進等)、情報家電・ブロードバンド・IT、健康・バイオテクノロジー、ナノテクノロジー・材料の4分野の技術開発、知的財産・標準化、市場化等を内容とする戦略を平成14年に策定し、内閣官房がこれをとりまとめる。

・総務省、関係府省は、情報開示の推進等を含め電子政府・電子自治体を推進し、原則すべての国民との間の手続きの電子化を平成15年度中に実施する。また、関係府省は、ITS、GISの本格的普及、医療や防災等の公共分野におけるIT化加速、電子商取引等を推進するとともに、電子入札を積極的に進める。

・総務省は、平成14年度から、家庭のIT革命を支える基盤である放送のデジタル化を推進し、家庭から簡便に利用できるテレビ連動型電子商取引等様々なITビジネスの創出を促進する。

(ライフスタイルの変化が引き出す潜在需要の顕在化)

 高齢化・生涯現役時代の到来、女性の社会進出、休暇の長期連続化など働き方、暮らし方の変化、少子化の進展、循環型社会の構築に伴い、これらライフスタイルの変化による人々の潜在需要(ウォンツ)を掘り起こし、具体的なサービスや商品として実現する需要創造型の生活産業を創出する。その際、民営化や規制改革を通じて民業を拡大し、政府は市場活動を阻害しないよう事後監視型の役割に変わる。特に技術革新や医療ニーズの多様化の中で、医療・健康サービスは豊かな生活をもたらす重要な産業として発展する可能性が高い。規制改革を進め、患者の選択による保険外診療の併用を拡大(特定療養費制度の活用)するとともに、根拠に基づく医療(EBM)を推進するなど、医療の発展を図る。

・内閣府は、関係各省と協力して、サービス産業を中心とする530万人雇用創出に向けた規制改革と広報・普及活動を平成14年度から推進する。

・厚生労働省、国土交通省は平成14年度、安心ハウス構想を推進する。

・厚生労働省はPFIの活用等を通じてケアハウス、生活支援ハウス等を整備する。

・国土交通省は平成14年度、共同自家用運転手産業ともいうべき生活支援輸送サービスの振興を図る。

・文部科学省、厚生労働省は、ネットワーク型子育て支援ビジネスモデルの実施の支援や「保育所待機児童ゼロ作戦」の推進、「預かり保育」の推進等を通じて、子育て支援を推進・拡充する。

・農林水産省は、関係府省と協力して、平成14年度から、都市と農山漁村を双方向で行き交うライフスタイル(デュアルライフ)の実現に向け、国民運動として民間の取組みの拡大を図るとともに、特区手法を含め、都市と農山漁村の共生・対流を推進する。

・国土交通省は平成14年度、住宅流通市場整備のための既存住宅に係る検査・評価制度を構築する。

(環境産業の活性化)

 地球温暖化対策の実施、循環型社会の構築等による安心と魅力に満ちた環境の創造を通じて、民間の技術・製品開発の活性化、新たなビジネスモデルの形成、新規需要や雇用の創出が図られる。さらに、我が国の優位性を活かした世界をリードする環境関連産業が、経済社会システムの抜本的改革の牽引的役割を果たしていく。

・「循環型社会形成推進基本計画」を平成14年度末までに策定し、関係府省は、循環型社会に対応した新たなライフスタイル、ビジネススタイルの普及を推進すること等により、静脈産業の育成、グリーン物品の市場拡大等を図る。

・関係府省は、廃棄物・リサイクル処理などの環境技術の実用化に向けた研究開発等を進めることにより、経済活動の環境への負荷を低減し、環境セクターを創出し、拡大する。また、関係府省は、自動車リサイクル制度の創設や、各種リサイクル法の着実な実施など循環型社会の構築に向けた取組みを推進する。

・関係府省は、協力して、消費者・利用者が環境に優しい製品選択を拡大する観点から、平成14年度からエコマーク、環境JIS、省エネラベリング制度等による消費者選択への誘因の充実強化を図る。

・関係府省は、地球温暖化対策を進める観点から、低公害車、環境配慮型の住宅、建築物及び機器等の開発・普及に係る民間企業の取組みを促進し、新たな需要や産業の創出を円滑化する。また、国土交通省は、平成14年度から利用運送事業者等の取組みを促進するための参入規制の見直し等により環境負荷低減型物流への転換を進める。

・燃料電池については、内閣官房及び関係府省は、平成17年を目途に安全性の確保を前提としつつ、包括的な規制の再点検を行う。また、関係府省は、燃料電池自動車、住宅用燃料電池の開発・普及を推進する。

・環境投資促進税制措置の見直しを検討する。

(観光産業の活性化・休暇の長期連続化)

 内外の人々にとって魅力ある日本を構築し、観光産業を活性化する。その際、場所と場所を結ぶ「輸送」の発想から、「経験し、楽しむ」産業へと変わる必要がある。

・国土交通省は、関係府省と協力して、平成14年度から、外国人旅行者の訪日を促進するグローバル観光戦略を構築し、個性ある日本の文化、自然環境などの国際PRや、地域の特性、創意工夫を活かした観光地づくりを推進する。

・国土交通省は、平成14年度から、自治体のイニシアティブ、地域コミュニティーの協力、ITの積極的導入等を通じて、地域特性を活かす経験型・目的達成型の観光産業を育成し、内外に発信する。

・国土交通省は、平成14年度から観光地の魅力度の分析、診断、公表の仕組みを構築することにより、観光地の地域間競争を促進させ、地域自らの努力を喚起し、地域独自の取組みを促す。

・厚生労働省、国土交通省等の関係府省は協力して、平成14年度から、学校の夏休みの一部を秋休みに移行したり、長期休暇を地域ごとにずらすなどの休暇の分散化を推奨するとともに、年休計画表の作成の一層の促進等を通じ、休暇の長期連続化や休暇取得時期の多様化を推奨する。文部科学省は、必要に応じ協力する。

・外務省、国土交通省は協力して平成14年度から、観光客誘致のためのビザ発行の規制緩和を行う。

・外務省、国土交通省は協力して平成14年度、日韓で共通に使える公共交通機関のパスを発行するための環境整備に着手する。

(食料産業の活性化)

 「食」に対する国民の信頼を回復するために、真に「消費者」を基点とした食料産業と農林水産業に再生する。

・農林水産省及び関係府省は、「安全で安心」な食品を供給するため、牛肉、野菜等がいつ、どこで、どのように生産・流通されたのかについて把握できる仕組み(トレーサビリティシステム)を、平成15年度から導入する。

・農林水産省は、平成14年度から産地ごとに、消費者の評価を踏まえた「ブランド・ニッポン」戦略の産学官による策定を推進し、戦略に基づく農水産物の供給体制を確立する。農地法の見直し等により国際競争力のある効率的な農業経営を推進する。

・農林水産省は、平成14年度から、我が国の農林水産生産構造の中核となるような農林水産業者・企業に対して施策を集中化すること等により、農林水産業の構造改革を加速化する。

・農林水産省は、需要に応じた生産の推進等を図る観点から、米の生産調整や水田農業関連施策の改革方向を平成14年度中に策定する。

・農林水産省は、平成14年度から食料産業の成長を促進するため、食料産業の高付価値化を支える遺伝子情報等を活用した健康志向型食品等に関する技術開発等を推進するとともに、生産・流通を通じた高コスト構造の是正を図る。

・平成14年度から、食品表示制度を含めた食品安全行政の抜本的な改革に着手し、消費者に信頼される食の安全安心体制を構築する。特に、内閣官房は関係府省と協力して、食品の安全に関するリスク評価を行う食品安全委員会(仮称)を新たに設置するための法案及び消費者の保護を基本とした包括的な食品の安全を確保するための食品安全基本法案(仮称)を平成15年の通常国会に提出するとともに、農林水産省等は、リスク管理部門を産業振興部門から分離・強化する等所要の見直しを図る。

・公正取引委員会は、一般消費者を誤認させる不当表示の現行規制の見直しを行い、平成15年度までに、消費者の適切な評価・選択のための環境を整備する。

(文化・スポーツ・健康等の産業化)

 健康、スポーツ、ファッション、娯楽、音楽といった分野は今後世界規模で市場が拡大すると見込まれ、その産業化を推進する。

・厚生労働省、経済産業省は、平成14年度から、ITを活用し、医療・健康情報の提供や健康づくり支援産業育成のための環境整備をする。

・文部科学省、経済産業省は、関係府省と協力して、平成14年度、日本の文化の産業化を推進する。

・関係府省は、平成14年度から、人材育成、映像やコンテンツの流通市場の構築、知的財産権保護等の推進を通じて、ゲームソフト、アニメーション、放送ソフト等コンテンツ産業を育成する。

・文部科学省は、文化芸術振興における団体に着眼した支援から事業に着眼した支援への転換を進める。

(聖域を排した民業拡大)

・総務省及び関係府省は、国・地方の行政サービスのアウトソーシングの実施について、行政の効率化・簡素化等の観点から、これを計画的かつ積極的に推進することとし、これにより民業拡大を進める。

・関係府省は、国民の利益の観点にたち、徹底した行政改革を行い、特殊法人等や国営施設の見直し、民営化を推進する。

・文部科学省、厚生労働省は、医療・介護、保育、労働、教育等の社会的規制分野において、民間による良質で効率的なサービス提供を推進する。

・関係府省は、公共投資・政府調達等において、平成14年度より競争を制限するような過度な地域要件等の撤廃により、入札条件の適正化を推進する。

・関係府省は、引き続き、業法における事前規制の撤廃・緩和、ノーアクションレター制度の充実等により、事後監視型へルールを変更する。

・総務省及び関係府省は、平成15年度より、ニーズの乏しい統計を廃止するとともに、雇用や環境、新サービス産業や観光などの新成長分野等ニーズのある統計を抜本的に整備する。また、総務省が中心となって、政府が保有する統計情報をインターネット上で高度に利活用できる仕組みを構築する。

(5) 地域力戦略

 大都市が国際競争力を持ち、地方では個性ある発展を遂げるよう、各地域の潜在的な経済力を最大限に発揮させ、知恵と工夫の競争により地域経済を活性化する。このためには、国と地方の役割分担を見直し、地方でできることは地方にまかせることが重要である。

(構造改革特区の導入等)

・進展の遅い分野の規制改革を地域の自発性を最大限尊重する形で進めるため、「構造改革特区」の導入を図る。こうした地域限定の構造改革を行うことで、地域の特性が顕在化したり、特定地域に新たな産業が集積するなど、地域の活性化にもつながる。構造改革特区については、多くの府省に関係する新たな手法の施策でもあり、内閣官房に推進のための組織を設け、総合規制改革会議等の意見を聴きつつ、地方公共団体の具体的な提案等を踏まえて制度改革の内容等の具体化を推進する。

・国土交通省は、6月1日に施行された都市再生特別措置法に基づき、都市再生緊急整備地域の指定を踏まえ、都市再生特別地区の積極活用を図る。

(国際競争力のある大都市の再生)

 世界への情報発信力、交流・物流のハブ、文化芸術、国際的資金仲介力といった機能を兼ね備え、また、生活空間として質の高い環境を有する、国際競争力のある東京など大都市を再生する。大都市の再生等により、土地の流動化・有効利用、地価の下落の歯止めに資する。

・財源について関係府省で見通しをつけた上で、国土交通省は、羽田空港を再拡張し、2000年代後半までに国際定期便の就航を図る。

・国土交通省は、国際港湾機能を強化するため、ITを活用した航行規制の効率化によるノンストップ航行を平成15年度以降順次実現化するなど、規制・制度や運用面での改革を推進し、関係府省は連携して、平成15年度のできる限り早期に輸出入・港湾関連手続きのワンストップサービス(シングルウィンドウ化)を実現する。

・警察庁、国土交通省は、地方自治体と協力し、徹底した渋滞解消を図るための施策を推進する。このため、自治体レベルでの渋滞解消計画の策定が求められるほか、首都圏中央連絡道路等の三大都市圏環状道路の早期完成、無断駐車への迅速な対応、道路周辺工事・街路樹剪定の夜間化、自動車交通量の調整を図る交通需要マネジメント施策の展開等を進める。

・国土交通省は、航空機の運航の安全を確保した上で、ライトアップ等都市美観との調和を図る観点からビルの航空障害灯等に係る航空法にかかる規制緩和を推進する。

・国土交通省は、職住近接型の街づくりを推進する。また、堤防上の土地利用の規制を緩和し水辺都市再生を促進する。

・文部科学省は、平成14年度から国立博物館等の夜間開館、企業等の多様な用途での利用、文化ボランティアとの積極的連携協力や外国語解説の拡大等、外国人向けサービスの充実など活発な文化芸術活動の推進を図る。

(特色ある地方都市の再生)

 地方の個性ある発展なくして、地域活性化はない。特色ある地方の大学や研究所を核として、地域経済を支え、世界に通用する特色ある事業を拡大する。また、広域圏の経済産業連携を強化する。

・文部科学省、経済産業省は、関係府省と協力し、平成14年度から、バイオ、IT等地域に蓄積した知的資産を活用し、知的クラスター創成事業や産業クラスター計画を相互に連携しつつ推進する。

・関係府省は、地元自治体と協力し、道路等利用を含め、イベントやロケ等通じて、商店街の活性化及び地域の観光振興を推進する。

・総務省、文部科学省、関係府省は、地方自治体と国立大学等との連携の強化を図る。

・寄附税制の見直しの検討、ネーミングライツ等多様な住民参加手法の導入を通じて、関係府省は、地域の文化や科学技術を振興する。

・総務省及び関係府省は、市町村合併を促進し、目途を立てて速やかな市町村の再編を促す。

(地域産業の活性化)

 地方が、「自助と自立の精神」の下、多様な資源を生かし、知恵と工夫の競争を通じて、個性ある地域、特色ある地域産業を形成する。その際、IT、バイオ、環境、高齢化対応への取組みは、産業誘致や生活向上の面でも地域発展の基礎となり、地方間の競争力を大きく左右する。

・農林水産省、環境省、関係府省は協力して、動植物、微生物や有機性廃棄物からエネルギー源や製品を得るバイオマスの利活用の推進について具体策を平成14年度中にとりまとめる等、計画的に取り組む。

・総務省は、平成14年度から、地方自治体のITを活用した業務の共同化やアウトソーシングの推進により、地元関連産業の活性化を図るとともに、安全な地域づくりのため、情報システム、人材育成等の消防防災基盤整備を推進する。

・関係府省は、ITを利用した無医地区をはじめとする医療ネットワークの整備を引き続き推進する。

・総務省、文部科学省は、公立大学について、国立大学の動向も踏まえつつ改革を進めながら、平成15年度から、研究施設の共同利用、大学院社会人コースの拡充等、地域経済の活性化に資するような積極的な活用を推進する。

・総務省は、平成14年度から、ハード・ソフトの施策の集中展開を通じ、魅力的なITビジネス環境の先行的実現(ITビジネスモデル地区構想)により、IT産業集積を通じた地域経済活性化を推進する。

・総務省は、平成14年度から、地方公共団体が行う光ファイバ網等の整備に対して支援を行い、地理的要因による情報格差を是正することによって、新たな産業の振興など地域産業の活性化を図る。

・農林水産省は、規制改革による林業への民間事業体の新規参入、事業再編の促進、木材の品質向上・供給ロットの拡大等による経営力の強化を通じ、林業や地域産業の活性化、雇用拡大、並びに森林整備保全、地球温暖化防止を図る。また、関係府省は、森林の果たす公益的機能や森林管理に果たす地域の役割の重要性等を踏まえ、適正な森林管理のあり方を検討する。

(6) グローバル戦略

 市場が世界に開かれることなくして我が国の成長はありえず、外国資本の参入、産業の再編、人材の交流を活発化させ、競争力を強化していく必要がある。また、東アジア諸国の産業競争力が向上する中で、我が国企業は、同一水準の製品を作っていては生き残れない。技術や経営の革新を進め、国際競争力を強化することが重要である。一方で、WTO新ラウンド交渉を推進しつつ、FTAを推進するなど、多くの国・地域との経済連携を深めることは、財・サービス需要や資金需要を始め経済活動のフィールドを拡大させ、多くのビジネス機会を新たに生むとともに、製品コストの低下に資する。

(グローバルに開かれた市場の構築)

 自由貿易のメリットが最大限活用できる「グローバルに開かれた市場」を構築することによってしか貿易立国日本の未来はない。

・関係府省は、FTAなど経済連携を推進・強化することとし、これに必要な課題の克服に取り組む。

・関係府省は、各種障壁を撤廃し、制度の共通化・統一化を進めた「東アジア自由ビジネス圏」の創設に向け、平成14年度から環境整備を行う。

・司法制度改革推進本部は、弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働を積極的に推進する見地から、特定共同事業の要件緩和等を行うため、平成15年を目途に法案を提出する。

・関係府省は協力して、平成14年度、世界で活躍する日本製品や日本人、個性ある日本の自然環境や文化をアピールするグローバル戦略を構築する。在外公館の活用や国際PR、わかりやすい標識や情報拠点の整備等を推進する。

(対内直接投資・頭脳流入の拡大)

 対内直接投資の増大は、雇用の創出、競争促進等を通じた経済の活性化に加え、先進技術や経営ノウハウの拡散効果をもたらす。阻害要因を計画的に是正し、対内直接投資を促進し、頭脳流入を拡大する。

・対内直接投資阻害要因を除去する。このため、関係府省は、国境を越えた合併・買収に関する制度整備、政府関係情報のワン・ストップ・サービスの推進、地方の特色を活かした企業誘致施策、規制業種への対内投資促進、外国人医師の受入れ拡充や二国間社会保障協定締結の促進を推進する。

・関係府省は、海外の高度人材を活用する観点から、戦略的分野の技術者の入国、就労、勉学、研修、居住等に係る環境を改善する。

・内閣府は、経済産業省等関係各省と協力して、上記の内容を含め、対内直接投資、頭脳流入の拡大を目指した具体策を平成14年度中を目途にとりまとめ、各省と協力し、計画的な実施を図る。

(グローバル化の中での積極的貢献)

 日本製品や日本文化に対する世界の関心が低下しつつある。世界への積極的な貢献を通じて、グローバル化を牽引し、魅力ある日本をアピールする。新たなビジネス機会の創造にもつながる。また、日本は途上国の貧困問題、環境問題、紛争処理、平和構築など国際的な課題に積極的に貢献し、世界の中でプレゼンスを高めていく。

・関係府省は、引き続き、電子商取引、知的財産保護や標準化、競争政策や投資にかかるルール作り等、国際的ルール作りへ積極的な貢献を行う。

・文部科学省は、留学生交流、外国人留学生に対する支援を推進する。外務省及び文部科学省は、文化芸術分野での受入れ・派遣を促進する。

・外務省は、青年海外協力隊やシニア海外ボランティアの推進など、国境を越えた活躍の場を拡大すると共に、途上国での国際協力体験を大学及び大学院の単位として認定する等の形で、国際協力に対する人材育成を図る。

・総務省及び関係府省は、平成14年度中にアジア地域におけるブロードバンド環境整備の目標を明確化した「アジア・ブロードバンド計画」を策定するとともに、アジア諸国との協働体制を立ち上げ、官民の役割分担等について検討を行い、具体的な措置を盛り込んだアクションプランを策定する。

3.経済活性化戦略の進め方

 経済活性化戦略においては、政策の実施主体・実施時期をできるだけ具体的に明示したところであり、経済財政諮問会議は、今後、IT戦略本部、総合科学技術会議、総合規制改革会議等関係本部会議等とも連携し、関係府省における経済活性化戦略の具体的推進状況等についてフォローアップを行う。

第3部 税制改革の基本方針

〈はじめに〉

 少子化・高齢化、IT革命、激化する国際競争の中で、日本経済が活力を取り戻し、国内に質の高い雇用を確保していくためには、経済・社会の基盤である税制を幅広く見直していくことが不可欠である。

 21世紀にふさわしい包括的かつ抜本的な改革を行い、広く、薄く、簡素な税制を構築する。税制改革に当たっては、第1に、グローバル化する経済の中で日本の競争力の強化をめざす。第2に、すべての人が参画し、負担し合う公正な社会にすることをめざす。第3に、納税者側の視点に立って、わかりやすく簡素な税をめざす。

 また、税制改革は、聖域なき歳出改革と一体となって行うこととする。国・地方の歳出をさらに徹底的に見直し、簡素で効率的な政府を実現する。

1.税制改革の必要性

(1) 低迷する日本経済と税制改革

 かつて驚異的な成長を成し遂げた日本経済だが、長期にわたって低迷を続けている。潜在力を覚醒させ、創意と挑戦の意欲を喚起して、世界経済における日本の強みを再構築せねばならない。そのためには、税制が常に時代の変化に対応し、企業と個人の活力を支えることが必要である。

 構造改革がめざすのは、「人」を重視する国である。これまで、税制をはじめとする諸制度は、均一化された家族やライフスタイルを前提としがちであった。個人が選択するライフスタイルが多様化する中、一人ひとりの多彩な個性と能力が尊重されるよう、税制もまた変革を迫られている。

 それぞれの地域が魅力的になることで、人々の生活は豊かになる。最近の地方分権の努力は、地域の個性と自律性を再生しようとするものだが、財政面では、まだ国への依存度が高い。地方自治体が権限と財源、責任をもち、住民の参加と選択の下、自らの力で財政運営を行うようになって、名実ともに地方分権が確立する。

 日本の人口は2007年から減少に転じ、急速に高齢化が進む。しかし、財政や社会保障制度はそれに対応しきれておらず、人々は確かな生活設計を描けずにいる。更に、国・地方政府が巨額の財政赤字を抱える中で、財政の現状を放置すると、日本の財政の持続性に対する危機から、長期金利の上昇による投資の抑制などの経済のダウンサイド・リスクが高まる。徹底した歳出面の改革とあわせ、長期に持続可能な財政構造と社会保障制度を構築することによって、将来に安心感をもてる社会を創らなければならない。

 以上の大きな変化を考えると、いま、包括的かつ抜本的な税制改革が求められている。これからの経済社会にふさわしい経済の活力を支える新しい税のデザインを行う時期を迎えている。

(2) 税制の現状認識

 経済社会の劇的な変化や、ライフスタイルの多様化が進む中、現在の税制について様々な問題が指摘されている。経済の活力を阻害し、また、個人や企業の選択に歪みをもたらしているのではないか、複雑で納税者にとって分りにくいものとなっている、租税回避行動がおきているのではないか、課税ベースが浸食されており、また、納税者意識が希薄になりやすいのではないか等の指摘である。さらに、現在の財政は、極めて不十分な歳入構造になっており、巨額の歳入・歳出ギャップが存在しているのが現状である。

2.目指すべき経済社会と税制改革

(1) 目指すべき経済社会の姿

 税制を考えることは、将来の社会のあり方を考えることでもある。どのような経済社会を目指すかによって、税制改革の方向も変わってくる。今回の税制改革が実現を目指すのは、「改革と展望」で示した経済社会の姿である。

 民間需要が主導する持続的経済成長を実現する。「人」を何よりも重視し、多様なライフスタイルの下で、国民一人一人が個性と能力を十分に発揮する。高齢化等の問題に積極的に挑戦し、長期にわたる安心を確保する。地方が、それぞれの地域の魅力、個性を発揮し、自立し、活力をもつ。また、簡素で効率的な政府の実現に向け歳出面の改革を推進しつつ税制改革を進める中で、国民の負担に対する理解が深まることが期待される。

(2) 税制の3原則

 望ましい税制の条件として掲げられるのは、「公平・中立・簡素」の3原則である。今回の税制改革では、時代の要請に応じて、この3原則を「公正・活力・簡素」と理解することとする。

(1) 公正──自立と再挑戦を支えるセーフティネットを構築した上で、「公正」を追求し、“結果の平等”より“機会の平等”を重視する。

(2) 活力──人々や企業の選択を歪めず、経済社会の「活力」を最大限発揮させる。

(3) 簡素──納税者にとって「簡素」かつ透明で分かりやすい税制を構築し、納税者の信頼と理解を得る。

3.税制改革の視点

 税制改革の検討は、次のような視点に立って行うこととする。

(1) 第1に、日本経済の活力の回復を最重視する。課税ベースを広くし税率を低く抑えることを基本とすることで、企業や個人の活力を支える。また、法人に対する課税においては、国際的視野にたって検討し、競争力を強化するための改革を行う。

(2) 第2に、多様なライフスタイルの下で、国民一人一人が個性と能力を十分に発揮する。男女共同参画社会の実現が重要な課題であり、仕事と育児の両立のための環境整備を進めるとともに、女性の就業を始めとするライフスタイルの選択に中立的な社会制度の構築を進める。

(3) 第3に、歳出改革と一体として進める。税制改革は徹底した歳出削減とともに行い、簡素で効率的な政府をつくる。「改革と展望」に基づき、財政収支を中期的に改善していく。

(4) 第4に、社会保障制度改革と整合性をとって進める。社会保障負担と税負担を総合的にとらえた改革を行い、持続可能な財政構造と社会保障制度を構築する。今後、高齢化が進展するにつれて国民負担率は上昇することが見込まれるが、国民に提供するサービスとそれに見合う国民負担のバランスを再検討しつつ、可能な限り国民負担率の上昇の抑制をめざし、世代間の受益と負担の公平を図る。

(5) 第5に、地方行財政制度の改革と一体として進める。地方分権を推進するために、地方の行財政と税制の本格的な改革を行う。歳出・歳入の両面で、国の関与を最小限に抑え、地方自治体が権限と責任をもつことを目指す。

(6) 第6に、すべての人・企業が公正に負担すると同時に、真に必要な場合には、低所得層等に配慮する。

4.税制改革の進め方

(1) 〈はじめに〉で述べた理念に基づく今次税制改革は、2003年度に着手し、“広く薄く”等の理念の下、本格的かつ構造的な税制改革に取り組むとの考え方に立ち、可能なものから順次実施し、「改革と展望」の期間内(〜2006年度)に完了させることを目指す。なお、時限的な政策税制を行う場合も、税制改革全体との整合性を保つことが重要である。

(2) また、現在の厳しい財政状況をふまえて、税制改革は「改革と展望」に基づき、財政規律を重視しながら行うこととし、税制改革の財源は、原則として国債には依存しない。

(3) 「改革と展望」の期間内に、国と地方双方が歳出削減努力を積み重ねつつ必要な行政サービス、歳出水準を見極め、また経済活性化の進展状況および財政事情を踏まえ、必要な税制上の措置を判断する。

(4) 「改革と展望」に基づき、2010年代初頭に国と地方を合わせたプライマリーバランスを黒字化させることを目指す。

 そして、将来にわたって国民負担率の上昇を抑制することを目指す。

5.税制改革及びそれに関連する検討項目

 「めざすべき経済社会の姿」を実現するために、今後の税制改革及びそれに関連する検討項目は以下のとおり。

(1) 持続的な経済成長を実現するために

 「広く薄く簡素に」の観点から、所得税・住民税・法人に対する課税の負担構造を検討する。法人に対する課税については、その実効税率の引下げと課税ベースの拡大を検討する。その一環として、法人事業税の外形標準課税について、「改革と展望」に示した考え方に沿って検討する。研究開発投資やIT投資等を税制でも促進できるよう検討する。金融資産課税の見直しと有効利用を促す土地税制を検討する。

(2) 多様なライフスタイルのために

 就労などの選択に歪みを与えないよう、配偶者に関する控除等に関し検討する。検討に当たっては、社会保障制度見直しとの関連にも十分配慮する。相続と生前贈与の選択を歪めない税制を検討する。また、寄附等に対する課税の見直しを検討する。

(3) 長期にわたる安心の確保のために

 急速な人口高齢化等に対応するため、安定的な歳入構造をつくる。公的年金をはじめとする社会保障制度を抜本的に見直し、世代間・世代内の公平を重視して長期に持続可能なものにするとともに、年金課税の見直しを検討する。また、道路等の特定財源については長期計画や今次税制改革と一体的にそのあり方を見直す。地球環境に配慮した税制を検討する。

(4) 地方の自立と活力のために

 『第4部 歳出の主要分野における構造改革 3.国と地方』に述べる考え方に沿って検討を進める。

(5) 負担に対する国民の理解のために

 IT化に対応した申告・徴収を進める。サラリーマンの申告納税の拡大・納税者ID制度等の検討によって、より信頼できる徴税と納税の環境を整える。消費者の理解を得るために、消費税の免税点制度等の見直しを検討する。

第4部 歳出の主要分野における構造改革

1.社会資本整備のあり方について

 社会資本整備については、「基本方針」に基づき、事業の重点化、硬直性の打破、効率性・透明性の向上などに向けた改革を進めてきた。また、こうした取組みを反映した14年度予算を策定した。さらに「改革と展望」では、中長期の持続的経済成長、持続可能な財政と整合的な公共投資のあり方を示した。

 しかしながら、「国から地方へ、官から民へ」という考え方の下での社会資本整備の改革、公共事業の実効ある重点化や効率化など、さらに取り組むべき課題は多い。また、今年度で終了する多数の公共事業関係計画のあり方を抜本的に見直す必要がある。14年度は、この1年の成果の上に立って、改革をさらに本格化する極めて重要な年である。

(1) 国から地方へ、官から民へ

 個性と活力のある「地方」の構築、真に必要性の高い事業の厳選などの観点から、国の関与する事業は限定し、地方の主体性を生かした社会資本整備に転換する必要がある。このため、国庫補助負担事業の廃止・縮減について、内閣総理大臣の主導の下、各大臣が責任を持って検討し、年内を目途に結論を出す。また、地方交付税の事業費補正については14年度から見直しが実施されるが、これを引き続き行っていく必要がある。

 簡素で効率的な政府の実現、地域の活性化の観点から、公共投資に関する設計、建設、維持、管理、運営など各段階において民間委託を進めることやPFIを推進することが極めて重要であり、強力かつ計画的に推進する。

(2) 公共投資の実効ある重点化、効率化

(実効ある重点化の実現)

 第5部の「予算編成プロセスと手法」で述べているように、公共投資についても真に必要性の高い事業への重点化を進めるために、トップダウンの意思決定(分野間の優先順位、分野毎のメリハリなど)とボトムアップの選択(事業評価に基づく個別事業の選択、個所付け)の双方について改革に取り組む。

 重点的に配分すべき分野については、経済活性化効果等の観点から、具体化、絞込みの必要がある。また、「平成14年度予算編成の基本方針」で示した厳しい見直しを行うべき分野について、より明確に予算に反映する。

 公共事業から公共事業以外の政策手段への転換(ハードからソフトへの転換)の努力をさらに進める。

 また、地域間の予算配分が合理的なものとなるよう、整備状況を踏まえて弾力的な配分を行う。

(実効ある効率化の実現)

 公共事業の効率化のため、さらに厳格な事業評価を行い、その結果を予算編成に十分反映する必要がある。このため、事前評価に同種事業の事後評価の結果を確実に反映する仕組みを構築する。また、第3者による評価内容のチェック機能の強化、関連情報を含めた情報公開の徹底、国民に対する説明責任の明確化を実現する。

 公共投資のコストは民間事業に比べ相当割高になっているという批判もある。コストの縮減、PFIの一層の活用、既存ストックの有効活用、一般競争入札の拡大等競争性の向上、過度の入札制限の見直し、事業の時間管理などについて具体的な取組みを進める。

(3) 既存プロジェクトの見直し

 時代の変化に伴い必要性の低下した事業を中止するなど、既存プロジェクトの見直しを進める必要がある。このため、実質的な着工に至っていない大規模事業、長期間中断されている事業、採択時に想定した利用率やコストに大きな見込み違いが生じた事業などについて、費用対効果や実施可能性を厳しく検証し、実施の当否などを判断する。また、代替手段のあるものについては、費用対効果の観点から最も適切なものを選択する。

(4) 公共事業関係計画のあり方の見直し

 各計画の必要性そのものについて厳しく見直しを行う。仮に計画を策定することが必要と判断される場合でも、以下のような抜本的な見直しが不可欠である。

○ 関連の強い計画間の関係を十分に見直すべきである。

○ 整備の進捗状況、経済社会状況の変化等を踏まえ、分野によって新規事業全体を終了する時期を明確にする必要がある。

○ 国から地方へ、官から民へ(民間委託等)の改革を踏まえたものとする必要がある。

○ 地方単独事業は、計画の目標とは位置付けるべきではない。

○ 計画策定の重点を、その分野の特性を踏まえつつ、従来の「事業量」から計画によって達成することを目指す成果にすべきである。

○ 計画と個別事業の関係はより緩やかなものとすべきである。すなわち、計画の策定過程において想定された事業であっても、それを全て実施するのではなく、さらに厳選すべきである。

2.社会保障制度

(1) 社会保障制度改革の現状

 「基本方針」の閣議決定以降、医療制度改革を推進してきた。今後も医療制度改革を継続するとともに、物価動向等を反映した社会保障給付の見直しや年金制度の改革をはじめとする次の社会保障制度の改革に取り組むこととする。

(2) 社会保障給付費の増大と国民負担率

 社会保障給付費は高齢化の進展に伴って増大し、現行制度がそのまま維持された場合には、社会保障に係る負担の国民所得比が大きく上昇するとともに、国民負担率は相当に高くなる。

 このため、社会保障制度の改革に積極的に取り組み、世代間・世代内の公平を図るとともに、適切な給付と負担の水準を確保し、そのバランスを図りつつ、社会保障制度が経済と調和し将来にわたり持続可能で安心できるものとなるように再構築し、国民負担率の上昇を極力抑制していく必要がある。

(3) 今後の社会保障制度改革の基本方針

(i) 次世代育成支援対策(少子化対策)の強化

 世界的にみても際立って、急速かつ著しい少子高齢化の進行が予測される我が国の状況にかんがみ、少子化の流れを変えるため、これまでの保育所待機児童ゼロ作戦などの推進に加え、子育て世代、子育て家庭を職場や地域など社会全体で支援するとともに、子どもが自立することを支援することにより子どもを持つことへの不安を解消するという視点に立って、幅広く次世代支援に関する取組みを強化していくこととする。

(ii) 年金制度の改革

 年金制度については、予測を超えた少子高齢化の進行によって、累次の改正を余儀なくされたことにより、国民の将来不安が生じ、国民の年金不信が強まっている。

 年金制度は、現役時代の所得喪失に対する備え・補填を基本的目的としており、何十年もの期間にわたる保障を確実に提供することが求められるが故に国自ら運営しているものである。国が運営する制度として、国民から信頼される、持続可能なものにしていかなければならない。

 したがって、年金制度の改革に当たっては、次のような視点に立って行うべきである。

(1) 長期にわたって持続可能で安定した制度とするため、楽観を排した将来予測を前提としていくことが必要であり、国民が将来に向けて年金制度への不安を持つことがないよう、頻繁に制度改正を繰り返す必要のない恒久的な改革を目指し、国民的議論を十分に行うことが重要である。

(2) 少子高齢化の進行に伴って、年金保険料の引上げは避けられないが、その上昇をできるだけ抑え、国民負担率の上昇を極力抑制していくとともに、現在から将来にわたる負担を明示し国民的合意を得ることが重要である。

(3) 年金制度は社会のあり方と密接に関わるものであり、21世紀の我が国社会が目指している「生涯現役社会」や「男女共同参画社会」の理念とも合致した年金制度を構築していくものでなければならない。

(4) 国民に広がる年金不信を払拭するため、個人個人の年金に関する情報提供がきちんと行われる仕組みを作り、わかりやすい年金制度とするとともに、年金をはじめとする社会保険実務の効率化を進める。

 このような視点に立って、平成16年に予定される年金制度の改革に向けて、世代間・世代内の公平、給付と負担の水準とそのバランス、平成12年改正法附則(安定した財源を確保し、基礎年金の国庫負担の1/2への引上げ)への対応など、年金制度改革の基本的な方向について、早急に議論を始め、その改革に積極的に取り組んでいく。

 また、制度の厳正な運用に取り組む観点から、保険料徴収の推進など国民年金の未加入・未納者に対する徹底的な対策に取り組む。

(iii) 医療制度の改革

 医療制度については、持続可能な制度へと再構築するため、保健医療システム、診療報酬体系、医療保険制度のすべてにわたって改革を継続する。さらに、今後の一層の高齢化の進行に備え、医療制度の安定的な運営を確保するため、今年度中に、保険者の統合・再編を含む医療保険制度の体系のあり方、新しい高齢者医療制度の創設、診療報酬体系の見直しについて、基本方針を策定する。また、公的医療機関のあり方等医療提供体制についても見直しを行う。

(iv) 介護保険制度の推進

 介護保険制度の施行から2年余を経て介護サービスの利用が大幅に伸びているが、さらに一層の定着を図っていくことが必要である。また、平成15年度は市町村の介護保険事業計画・保険料率の見直しが行われる年であり、これとあわせ、介護保険サービスの利用状況や介護事業者の経営状況、サービス間のバランスなどを踏まえ、介護保険制度がより効率的に運営されるよう適切に介護報酬の見直しを行う。

(4) 健康寿命の増進と社会保障制度の改革

 我が国社会は、人類史上初めての長寿社会を実現しているが、これは単に寿命が長いということにとどまらず、社会の支え手として元気に働き、生活を享受する期間が長いという、健康寿命の増進が図られるものでなければならない。したがって、医療、介護、年金などの社会保障制度は、健康で長生きできるよう生活を支えるものでなければならないとともに、健康で働ける者が働き、社会保障と組み合わせて豊かな生活ができるようにする必要がある。今後ともこのような視点に立って、持続可能で安心できるものとしていかなければならない。

3.国と地方

(1) 地方行財政改革については、これを強力かつ一体的に推進する必要がある。先ず、国の関与を縮小し、地方の権限と責任を大幅に拡大する。地方分権改革推進会議の調査審議も踏まえつつ、福祉、教育、社会資本などを含めた国庫補助負担事業の廃止・縮減について、内閣総理大臣の主導の下、各大臣が責任を持って検討し、年内を目途に結論を出す。

(2) これを踏まえ、国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討し、それらの望ましい姿とそこに至る具体的な改革工程を含む改革案を、今後一年以内を目途にとりまとめる。

 この改革案においては、国庫補助負担金について、「改革と展望」の期間中に、数兆円規模の削減を目指す。同時に地方交付税の改革を行う。9割以上の自治体が交付団体となっている現状を大胆に是正していく必要がある。このため、この改革の中で、交付税の財源保障機能全般について見直し、「改革と展望」の期間中に縮小していく。他方、地方公共団体間の財政力格差を是正することはなお必要であり、それをどの程度、また、どのように行うかについて議論を進め、上記の改革案に盛り込む。これらの改革とともに、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては、移譲の所要額を精査の上、地方の自主財源として移譲する。

 現在、地方においては約14兆円の財源不足が生じている。歳出削減や地方税の充実など様々な努力により、できるだけ早期にこれを解消し、その後は、交付税による財源保障への依存体質から脱却し、真の地方財政の自立を目指す。

(3) 改革の受け皿となる自治体の行財政基盤の強化が不可欠であり、市町村合併へのさらに積極的な取組みを促進する。

 また、今後の地方行政体制のあり方について、地方分権や市町村合併の進展に応じた都道府県や市町村のあり方、団体規模等に応じた事務や責任の配分(例えば、人口30万以上の自治体には一層の仕事と責任を付与、小規模町村の場合は仕事と責任を小さくし都道府県などが肩代わり等)など、地方制度調査会における調査審議を踏まえ、幅広く検討する。

 また、今後は国の関与に代わり、住民自ら地方行財政を監視できるよう、バランスシート等の作成や情報公開、電子自治体の実現など、地方行財政の透明性向上と説明責任の徹底が必要である。

4.その他

(1) 食料産業の改革

ア.食料産業の改革

 我が国の将来の食料供給に対しては、国民の相当程度が不安を有している。さらにBSE問題等を契機に「食」の安心・安全性への国民の不信が高まっている。

 こうした中で、我が国農業は零細な生産構造を抱え、食料自給率の低下にも歯止めがかからず、担い手の高齢化、農地の遊休化、流通面での高コスト構造の存在等、農業・農村をめぐる厳しい環境が長期的に継続している。

 他方、食品産業は地域経済において重要性が高く、ライフスタイルの変化の中で外食・中食産業の急成長が見られる。また安全な「食」に対する国民のニーズが強まっている。このような状況の下で、農業の構造改革と食品産業等の持続的な発展を如何に実現するかが喫緊の課題となっている。

 農業、食品産業等のいわゆる「食料産業」は国民経済上も重要な産業であり、今後は食料産業全体を視野に入れた政策運営を通じて、国民の期待に応えうる食料産業の活性化と農業の構造改革を推進する必要がある。このため、以下の基本戦略の下で改革を着実に推進することが重要である。

イ.食料産業の改革の基本戦略

(1) 真に消費者を基点とした行政への転換

 「食」に対する国民の不信を払拭し、「健全な食料産業の発展」と「安心した食生活」を実現するため、真に「消費者」を基点とした行政に転換を図り、我が国の特徴を生かした高付加価値で多様な農産物・食品が全国で提供されるよう、食料産業の新たな将来展望を切り拓く。

(2) 多様な農業経営の展開による産業としての農業の再構築

 グローバル化の進展に対応して、農業が産業としての競争力を発揮するために、構造改革特区などの手法の活用を含め、農業経営の株式会社化等効率的な企業的農業経営が展開するための制度改革等の条件整備を行う。

(3) 農業経営者の意欲と個性が発揮できる政策の枠組みへの転換

 農業者全体を対象とした一律的な政策の見直しを行い、意欲と能力のある経営体に施策を集中化する枠組みへの転換を進める。また、米政策については、需要に応じた生産の推進、生産構造の変革等の観点に立って抜本的に見直す。

(4) 「食」の安全・安心体制の確立と流通改革の推進

 「食」の安全・安心に対する国民の不信を払拭するため、政府全体として信頼回復に向けた万全の体制を可及的速やかに確立するとともに、生産・流通・消費の各段階を通じ一貫して「安全で安心」な食品の供給を担保するシステムを導入する。

 また、高コスト構造の是正を図るため、卸売市場等の流通段階で競争条件を導入するとともに、併せて抜本的な農協改革を促進する。

(5) 農林水産資源の活用に向けたバイオマス戦略等の推進

 農林水産資源を活用したバイオマス産業等を国際競争力のある新たな戦略産業として育成する。このため、規制改革、融資・補助制度、バイオマス生産・エネルギー活用等の技術開発等の政策手段を活用し、農林水産業を環境保全やバイオマス生産の場として再活性化させる施策を関係府省一体となって推進する。

ウ.構造改革を推進する上で特に重視すべき事項

(1) 政策の選択と集中化

 これまでの政策を厳しく見直し、食品産業、消費者対策等も含めた食料産業全体を視野に入れた政策への大胆な転換を進め、生産・流通・消費の各段階を通じる一貫した政策運営を通じて、食料産業の活性化に資する効率的かつ効果的な政策の選択を行う。

 特に、効率的で安定的な経営体が生産の大部分を担う構造を確立するため、農業者全体を対象とした一律的な政策の見直しを行い、意欲と能力のある経営体に施策を集中化する。

 さらに、農地・森林の有する環境保全等の機能に留意しつつ政策を推進する。

(2) 構造改革に向けた時間軸の明確化

 「食料産業」に対する国民意識は「食の安全・安心」への不信を通じて極めて高いものとなっていることから、構造改革を進めるに当たっては、改革の具体的内容、推進する上での課題、その実現に向けたスケジュール等を広く国民に示し、国民的な議論の下で進める。

(2) 特定財源のあり方の見直し

 道路等の「特定財源」については、長期計画や今次税制改革と一体的に、そのあり方を見直し、可能なものは平成15年度から具体化する。なお、特定財源制度は受益と負担の関係に基づくものであるが、これら諸税の税率については、これらの税が有する種々の環境改善効果などにも十分配慮し、決定する。

(3) 公的部門の効率化

 納税者の視点に立ち、公的部門の無駄を排除する。この観点から、以下の新しい行政手法に公的部門全体で取り組む。

(1) 民間委託(アウトソーシング)やPFI等の活用

 従来公的部門が直接行ってきた事務事業で民間委託やPFI等を積極的に活用する。各府省は一定範囲の事務事業について、民間委託やPFI等の活用の適否を検討し結果を公表する。こうした方式を、当面試験的に導入する。

(2) 調達の改善

 国や地方の調達について、手続の透明化、競争性の確保の観点から、関係府省は公正・厳正・経済的な調達を進める。公共事業においては、入札関連情報の公開、一般競争入札の拡大等競争性の向上、入札条件の適正化等を推進する。情報システムにおいては、調達方式の改善を一層着実に実行するとともに、ソフトウェア開発の効率化、高度な外部専門家の活用等による調達側の能力向上等を図るため、民間有識者の意見も参考にしつつ府省横断的に検討を進める。

(3) 電子政府等の推進

 国民の利便向上の観点から電子政府・電子自治体等公的部門の電子化を推進する際には、同時に事務を合理化する。また、複数の地方自治体が事務を標準化し、共同で民間委託することにより、大幅なコスト削減を実現する。

(4) 新しい手法

 効率的な事例を基準に効率化・生産性向上に努める手法(ベンチマーキング)や、業務に要するコストを明確にする手法の一つである活動基準原価計算(ABC)などの手法の導入について研究を開始する。地方についても、これらの手法の導入について研究を開始するよう要請する。

第5部 経済財政の姿と15年度経済財政運営の基本的考え方

1.経済財政運営の基本的考え方

(1) 中期的な経済財政運営

 本年1月に閣議決定した「改革と展望」では、この1両年の集中調整期間において、デフレの克服を最重要の課題とし、政府・日本銀行は一体となって取り組むこと、政府は財政構造改革、規制改革、不良債権処理等を促進することを明確にした。財政運営については、財政健全化の道筋を明らかにした。すなわち、厳しい経済財政状況を踏まえ、歳出の質の改善と歳出抑制に取り組み、「期間中の政府の大きさ(一般政府の支出規模のGDP比)は現在の水準を上回らない程度とすることを目指す」という基本方針とともに公共投資等主要歳出の抑制に関する方針を明確にし、その後の財政収支改善努力や民間需要主導の着実な経済成長の継続の下で、2010年代初頭にプライマリーバランスが黒字化するとの展望を示した。

 その後、新人口推計が公表され、予想を上回る少子化・高齢化の進展により、現行制度を維持する場合、国民負担率は従来の予想以上に上昇するとの試算が公表された。国民負担率の上昇を極力抑制する観点から、社会保障制度改革を含め、「改革と展望」で示した中期的な歳出改革(質の改善と歳出抑制)を加速することが必要である。

 また、本方針では、税制改革や社会保障制度改革を通じて、「全ての人が参画し負担し合う公正な社会」をつくるという基本的な考え方を明らかにしているが、そのためにも歳出改革を加速し、「負担に値する質の高い小さな政府」を早期に実現する必要がある。

(2) 中期的な経済財政の姿

 「改革と展望」では、集中調整期間中の成長率はゼロ近傍とならざるを得ないが、2004年度以降はデフレが克服され、構造改革の効果も顕在化することから、実質11/2(1と2分の1)%程度あるいはそれ以上、名目21/2(1と2分の1)%程度あるいはそれ以上の成長が見込まれるとしている。

 歳出改革の加速、とりわけ、歳出削減は、それ自体短期的には、景気に対してマイナスの効果を持ち得る。しかし、経済活性化効果が高く、新規需要や雇用を創出する効果の高い分野に歳出をシフトするなど「歳出の質の改善」を同時に進めるとともに、第2部で示した「経済活性化戦略」、第3部で示した包括的かつ抜本的な「税制改革」をその他の構造改革と併せて推進することにより、「改革と展望」で示した程度の経済成長を達成することは可能と考えられる。

(3) 構造改革の推進と今後の検討について

 経済活性化戦略については可能なものから速やかに実施に移し、平成15年度予算編成に反映する。府省間の調整が必要とされるものについては、内閣官房と内閣府が関係各省と一体となって速やかに推進する。

 税制改革については、本方針の下、政府税制調査会等において具体的に検討され、経済財政諮問会議においては、経済と税制、歳出と歳入の整合性等の観点からの検討を行いつつ、改革の進捗状況についてフォローアップを行う。

 歳出の構造改革は、15年度予算はもとより今後の予算編成などにおける基本的考え方となる。

 政策推進のためには国民の理解と協力が不可欠であり、タウンミーティングの開催、政府広報、「動け!日本」、インターネットなどを通じた国民参加型の政策推進を図る。

 経済財政諮問会議は、今後、教育・人材・雇用を中心とする「人間力戦略」、地方行財政改革及び社会保障制度改革について、関係機関との連携を図りつつ、その基本方針を審議していく。また、主要歳出分野の構造改革や15年度の財政運営のあり方についても引き続き検討を行っていく。

2.平成14年度及び15年度の我が国経済

(1) 当面の景気動向と平成14年度及び15年度経済

 我が国経済は、現在、米国やアジア経済の急回復や在庫調整の進展を受けて、循環面では底入れしている。しかし、企業の設備投資は低調であり、企業部門の雇用調整などにより、雇用・所得環境は引き続き厳しい状況にあり、家計消費の回復は遅れ、横ばいで推移している。また、金融機関の不良債権問題、企業の過剰債務問題への対応が続く中で、依然デフレ傾向にある。

 年度後半には、企業収益の回復が見込まれ、設備投資が増加に向かうと期待されるものの、回復に向けての足取りは全般に緩やかなものとなり、14年度の経済成長(実質)はほぼ横ばいにとどまると見込まれる。

 15年度については、政府部門の支出は厳しく抑制される一方、世界経済が好調に推移することが期待され、また、14年度後半からの企業収益の回復を受けて、設備投資も緩やかな増勢に向かうことが期待される。このように、15年度の我が国経済は全般的には回復過程にあると期待されるものの、ぜい弱な側面を有していることから、経済動向を十分注視していく必要がある。

 構造改革の実行や、デフレ対応策などによる経済・金融への不安感の払拭が遅れれば、企業の設備投資の回復はもとより雇用・所得環境の改善は緩やかなものにとどまり、消費の伸びも低いものとなる可能性がある。また、政策効果の発現もあって実物面から見れば、物価は下落から安定化に向かうことが期待されるが、その動きは適切な金融政策にも大きく影響されよう。

 我が国経済に課された今後の課題は、経済活性化戦略など構造改革の着実な実施を通じて、歳出改革を進めていくなかにあって、循環面で底入れしている状況を構造改革面から強力に補強し、中期的に持続的な経済成長につなげていくことである。

(2) デフレ対応をはじめとする当面の経済財政運営

ア.不良債権処理等、金融面での課題

 「基本方針」以降、銀行を経由する間接金融の健全化に向けて、不良債権の最終処理と企業再生を促進するため、特別検査やRCCによる不良債権の時価買取り等の施策を講じてきた。不良債権処理については、市場規律や厳格な資産査定の下、オフバランス化の具体的な処理目標(原則1年以内に5割、2年以内に8割目途)、信託を含むRCCの機能の積極的な活用をはじめとして、「より強固な金融システムの構築に向けた施策」(4月12日)を推進するなど、累次にわたる施策に則った処理を一層徹底する。こうした不良債権処理の状況を的確に把握するとともに、債権等の流動化や証券化の促進を図る。なお、中小企業等の経営実態に応じた検査の運用確保の観点から、金融検査マニュアルの具体的な運用例を早急に公表する。

 また、金融機関の不良債権問題と企業・産業の過剰債務問題とは一体的解決が図られなければならない。このため、企業の再建・整理、産業再編等による産業サイドの構造改革を進める。

 これらの取組みにより、構造改革の集中調整期間終了後の平成16年度には不良債権問題の正常化を図る。

 さらに、金融機関の競争力・収益性の向上等を促す観点から地域金融機関の合併の促進等を図るとともに、本年4月のペイオフ解禁を踏まえ、引き続き、適切な監督等を行うことを通じ、預金者に信頼される金融システムの安定の確保に万全を期す。

 他方、預貯金中心の貯蓄優遇から株式・投信などへの投資優遇への金融のあり方の転換を踏まえた直接金融へのシフトに向けて、個人投資家の証券市場への信頼向上のためのインフラ整備など、証券市場の構造改革を一層推進していく。

 活性化された経済を支える活力ある金融システムの確立に向けた金融の将来像を展望する観点から、金融庁において中期ビジョンを早急にとりまとめる。同ビジョンの検討においては、我が国金融業の経営基盤の強化や経済を支える健全な中小企業に対する資金供給の円滑化についても留意する。

 また、公的金融の見直しの検討を進める。

 さらに、物価動向を適切に把握する等の観点から、物価連動債を含む新たな方法等についての検討を進める。

 金融政策に関しては、政府と日本銀行はデフレ克服の重要性の認識を共有しており、日本銀行においても実効性ある金融政策運営を期待する。

イ.構造面からの課題

 これまでの我が国の景気回復の姿をみると、輸出の回復に伴って設備投資の力強い回復がみられることが多かった。しかし、今日、既存債務の存在や中国の台頭やグローバル化の進展による競争の激化など、企業を取り巻く環境はかってなく厳しい。企業の収益回復基調が明らかになってくる中で、構造改革を通じて、その動きをいかにして設備投資の拡大、新しい事業の展開や産業の生産性の向上につなげていくかが問われている。グローバル化やITの進歩などの環境変化の下で、我が国の高コスト構造、非効率的で硬直的な財政支出と新しい時代に適合しない規制の存在は、我が国の生産性を長期にわたり低下させ、企業や人々の様々な創造的活動の妨げともなっている。

 また、構造改革を進める中で、企業収益の改善や新規事業の拡大を通じた雇用の維持・創出が図られ、さらに所得の向上を通じて消費の拡大につながる回復を後押しできるかが課題である。財政の大幅な赤字とともに、急速な高齢化・少子化の進展による社会保障制度への不安が、経済・財政の持続可能性に対し懸念を抱かせ、心理面から国民の投資・消費意欲や活力を抑制させないことが重要である。

ウ.当面の経済財政運営等

 構造改革の成果の発現を促し、底入れしている景気の動きをさらに確実なものとすることにより、デフレを克服しながら持続的な経済成長へと確実に結びつける。このため、当面の経済動向を注意深く見守りつつ経済財政運営に努め、不良債権処理など金融面での取組みを引き続き着実に実施するとともに、経済活性化戦略、税制改革、歳出構造改革などを推進する。さらに、本方針の中で早急に実施できる事項を検討し、可能な限り早期に実施する。

 14年度財政投融資については、都市再生、中小企業金融など真に必要な資金需要には的確に対応するとともに、その事業等について、13年度の実績を上回る事業・貸付規模を確保しているところであり、今後、その事業等が円滑かつ順調に実施されるよう努める。

 また、景気動向の把握がより迅速かつ的確に行えるようGDP統計及び関連する一次統計の精度・速報性を向上させる。

3.平成15年度財政運営のあり方

(1) 基本的な考え方

(1) 平成15年度予算編成は、「改革と展望」の策定後、税制改革を始めとする諸改革に本格的に取り組む初年度の予算編成である。このような中にあって、歳出に対する国民の信認を確保するための真摯な取組みが一層求められている。

 まず、第1の課題は、裁量的な支出の効率化・削減にとどまらず、予算の過半を占める非裁量的な、いわゆる制度予算・義務的経費を見直していくことである。「国民の負担に値する制度」に向けて、地方行財政制度、社会保障制度等の諸制度の改革を進めていく。

 そして、少子・高齢化の進展により従来の予想以上に上昇する国民負担率を抑制する観点から、「改革と展望」で示した中期的な歳出改革(質の改善と歳出抑制)を加速する。

 第2の課題は、特殊法人等・公益法人の改革に加え、中央・地方政府の一段の行政改革を行い、予算の削減、組織の減量化によって簡素で効率的な政府を実現する。その際、厳格な目標管理の下、国家公務員の定員の一層の削減及びメリハリのある定員の再配置の実現を図る。

 このように歳出改革と行政改革を加速させることにより、「負担に値する質の高い小さな政府」を早期に実現する。

 第3の課題として、内閣総理大臣主導による意思決定システムを強化するために、平成15年度の予算編成のプロセスと手法の改革をさらに進めることが重要である。経済財政諮問会議を活用しつつ、内閣総理大臣が基本方針を示した上で、各大臣が責任を持って各省庁の政策・歳出を「根元」から変革する。

(2) 予算編成に当たっては、経済と財政、歳出と歳入の整合性をとりながら行う。また、中期的な展望に基づいて行うことが必要である。具体的には、「改革と展望」を十分に踏まえつつ歳出改革を加速する。

 予算編成は、そのスタート段階から、歳出の見積もり、重点分野への予算配分、予算の背景にある制度改革の基本設計など、全体像を明らかにしつつ行う必要がある。

(2) 歳出改革の加速

 平成14年度に続き、財政構造改革を断行する。「改革と展望」に示された「政府の大きさ(一般政府の支出規模のGDP比)は現在の水準を上回らない程度とすることを目指す」との方針を踏まえ、一般歳出及び一般会計歳出全体について実質的に平成14年度の水準以下に抑制することを目標とする。

 また、国債発行額についても、平成14年度の「国債発行30兆円以下」の基本精神を受け継ぎ、「30兆円」からの乖離をできる限り小さくする。

 このため、非裁量的(制度・義務的)予算については、それぞれの制度が今後の日本の経済社会で果たすべき役割及びその必要性を抜本的に考え直し、大胆な改革を行う。裁量的経費については、その緊要性や政策効果等につき「根元」から洗い直す。

 その際、一層効果的な資源配分を実現するため、

(1) 民に任せることはできないか、規制改革や民営化の方向に照らして適切か、

(2) 地方に任せることはできないか、地方分権や地方行財政改革の方向に照らして適切か、

(3) 最適な政策手段を選択していることの説明責任が果たされているか、

(4) 府省間の重複が排除され、かつ関係府省間の効率的な協力関係が構築されているか、

の視点に立ち、無駄を徹底的に排除する。一方で、制度改革と一体になって実施されるものには留意する。

(3) 重点的に推進すべき分野・効率化の考え方

 経済の活性化を念頭に置きつつ、これまで以上に無駄を大胆に排除し、効率的な財政を実現しなければならない。

 平成14年度における「5兆円削減し、2兆円を重点7分野に再配分する」との精神を受け継ぎ、「経済活性化戦略」を重視しつつ、その考え方に沿って、新たに以下の「活力ある社会・経済の実現に向けた新重点4分野」へ施策を集中する。その際、政策効果が最大限発現するよう重点分野の中においても施策の絞込み(重点化・効率化)を行う。

(1) 人間力の向上・発揮―教育・文化、科学技術、IT

【重点化・効率化の考え方】

(教育・文化)

・大学教育に対する公的支援については、競争原理を導入し、世界最高水準の大学を育成

・意欲・能力がある個人を支援

・IT・ライフサイエンス等新分野の人材育成を重視

・学校や教員の個性と競争を通じて、児童・生徒の基礎学力の維持・向上、心の豊かさや創造性の涵養を図る

・文化芸術振興については、心豊かな活力ある社会の形成及び地域社会の活性化を念頭に置いた振興、事業に着眼した支援に重点化

(科学技術)

・重点4分野(ライフサイエンス、情報通信(IT)、環境、ナノテクノロジー・材料)への更なる集中と戦略的重点化

・経済活性化の観点からの新規プロジェクトの厳選と既存プロジェクトの見直し

・質の高い基礎研究への重点化と研究の評価システムの構築

・民間主導による産学官連携に重点

(IT)

・「e-Japan重点計画-2002」を踏まえ、電子政府・電子自治体等公的部門の電子化、基盤的技術開発等に重点化

・基盤的技術開発については、成果の検証等による既存プロジェクトの見直し

・既存の施策を含めた施策間の重複排除と緊密な連携の確保

(2) 魅力ある都市・個性と工夫に満ちた地域社会

【重点化・効率化の考え方】

(魅力ある都市)

・都市再生プロジェクトとして都市再生本部が決定した事業

・自然との共生を含む都市の魅力及び国際競争力の向上に高い効果が期待されるもの

(個性と工夫に満ちた地域社会)

・「地方の自立」を促す観点から、効果的な市町村合併支援のほか、国・地方の関係にふさわしい考え方により、地域の経済活性化などについての地域の主体的な取組みを支援するもの

・NPOとの連携施策や国際観光振興など特徴的なまちづくり・安全な地域づくり

(3) 公平で安心な高齢化社会・少子化対策

【重点化・効率化の考え方】

・保育所待機児童ゼロ作戦の推進などに加え、地域・職場など社会全体で子育てを支援

・介護サービス供給体制の整備等

・輸入食品の安全対策の充実やトレーサビリティシステム(生産流通履歴情報把握システム)の整備等消費者に信頼される食の安全安心体制の構築

・公共施設、公共交通のバリアフリー化

(4) 循環型社会の構築・地球環境問題への対応

【重点化・効率化の考え方】

・廃棄物処理、リサイクル等いわゆる3Rの着実な実施、バイオマスの利活用

・地球温暖化についての研究開発、我が国の温室効果ガスの削減・吸収、多様で健全な森林の育成など自然生態系の保全・再生に直接つながる事業

(4) その他の歳出分野

(1) 公共投資については、「改革と展望」を踏まえつつ、一層の重点化・効率化を推進し、入札手続の改善やコストの縮減、透明性の向上等を図る。こうした取組みにより民間需要や雇用を創出する効果を高める。また、公共事業から公共事業以外の政策手段への転換(ハードからソフトへの転換)の努力を更に進める。

(2) 社会保障については、物価動向等を反映した年金等の給付の見直しに取り組むほか、雇用保険の給付のあり方・水準の見直し、給付の効率化・重点化など制度の改革を行い、歳出全体の見直しを行う。

(3) 地方財政については、第4部で述べた国・地方関係の抜本的見直しを見据えながら、歳出を徹底して見直し、改革を加速するという国の方針と歩調を合わせつつ、地方歳出を徹底して見直し、地方財政計画の規模の抑制に努めるとともに、引き続き交付税の算定方法を見直す。

(4) 農林水産関係分野については、意欲と能力のある経営体への施策の集中を行うとともに、米の生産調整や水田農業関連施策の改革方向を策定し、構造改革を推進する。

(5) ODAについては、援助対象分野等の更なる戦略化・効率化、執行の透明性向上等を図り、国際情勢を踏まえて我が国の国際的責任の十全かつ適切な遂行に努めつつ、予算規模を見直す。

(6) 防衛、治安については、経費の特質にも十分配意し、また、既存施策の一層の効率化を図りつつ、国民の安全、安心を確保する。

(7) 国庫補助負担金については、第4部で述べた抜本的な改革案の検討を見据えつつ、国・地方を通じた行政のスリム化を実現する観点から廃止・縮減を目指す。「国庫負担金」「国庫補助金」の区分に応じた体系的な整理合理化を推進する。

(8) 総人件費の抑制については、徹底した増員の抑制と一層の定員の削減に努めるとともに、勤務実態を踏まえつつ、地域毎の公務員給与と民間給与の関係を比較方法を明示した上で国民に分りやすく示す。人事院や地方公共団体の人事委員会等は、地域毎の実態を踏まえて給与制度の仕組みを早急に見直すなどの取組みを行う必要がある。

 また、その他の一般歳出(物件費等)についても、聖域なく徹底した見直しを行う。

(5) 予算編成プロセスと手法

(1) 予算編成プロセスの改革の必要性

 真に必要性の高い歳出への重点化を進めるために、歳出の「根元」からの見直しが必要不可欠である。これを実現するためには、トップダウンの意思決定(予算の背景にある制度の改革方針、施策の集中と分野間の優先順位、分野毎のメリハリ)とボトムアップの選択(事業評価に基づく個別事業の選択、個所付け)の双方が必要である。

 トップダウンの意思決定を強化するために、経済財政諮問会議を活用しつつ、内閣総理大臣が基本方針を示した上で、各大臣が責任を持って各省庁の政策・歳出を「根元」から変革する。また、ボトムアップの選択について、透明性が低い、効果の低い事業を排除できていない、などの種々の問題点を解決するため、予算の編成・執行の両面で事業評価に基づく個別事業の選択などの「新しい行政手法」の導入を含めた改革に取り組む。こうした取組みにより、国民から見て分かりやすい予算編成を実現する。

(2) 目的・効果の分かりやすい予算

 予算の目的、効果等を分かりやすく示すため、厳格な政策評価、事業評価を行い、これを予算編成過程に反映しなければならない。また、事前評価に同種事業の事後評価の結果を確実に反映する必要がある。

 それぞれの重点分野に対応する予算を府省を通じて整理する手法、すなわちタテ(府省)ヨコ(重点分野)双方向から検討する手法(マトリックス型の手法)を用いるべきである。また、こうした手法を用いて、平成14年度予算における重点7分野について評価を行う。