3 地方財政健全化の推進

(1) 地方公共団体の財政の健全化に関する法律等

 地方公共団体の財政再建制度については、地方財政再建促進特別措置法(昭和30年法律第195号。以下「再建法」という。)による赤字の地方公共団体に対する財政再建制度と地方公営企業法(昭和27年法律第292号)による赤字企業に対する財政再建制度が設けられていたところである。地方分権を進める中で、この再建制度のあり方を検討するため、平成18年8月、「新しい地方財政再生制度研究会」が設置され、平成18年12月、その検討結果が「新しい地方財政再生制度研究会報告書」としてまとめられた。この中でこれまでの制度については、分かりやすい財政情報の開示や早期是正機能がない等の課題が指摘され、財政指標を整備してその公表の仕組みを設けるとともに、財政の早期健全化及び再生のための新たな制度を整備することが提言された。

 これを踏まえ、政府は第166回国会に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律案」を提出し、同法案は国会審議を経て平成19年6月22日に公布された(平成19年6月22日法律第94号。以下「地方公共団体財政健全化法」という。)。また、法律で政省令事項とされた財政指標の算定方法の細目や財政の早期健全化・再生の基準等については、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律施行令」(平成19年12月28日政令第397号)及び「地方公共団体の財政の健全化に関する法律施行規則」(平成20年2月5日総務省令第8号)により定められた。

 地方公共団体財政健全化法の概要は、以下のとおりである。

ア 健全化判断比率の公表等

・財政指標として次の4つの健全化判断比率を規定している。

(1) 実質赤字比率(当該地方公共団体の一般会計等を対象とした実質赤字の標準財政規模に対する比率)

(2) 連結実質赤字比率(当該地方公共団体の全会計を対象とした実質赤字又は資金の不足額の標準財政規模に対する比率)

(3) 実質公債費比率(当該地方公共団体の一般会計等が負担する元利償還金及び準元利償還金の標準財政規模を基本とした額(※)に対する比率)

(4) 将来負担比率(地方公社や損失補償を行っている第三セクターに係るものも含め、当該地方公共団体の一般会計等が将来負担すべき実質的な負債の標準財政規模を基本とした額(※)に対する比率)

 ※標準財政規模から元利償還金等に係る基準財政需要額算入額を控除した額

(健全化判断比率の概要)

・一般会計等の実質赤字額:

 一般会計及び特別会計のうち普通会計に相当する会計における実質赤字の額

・実質赤字の額=繰上充用額+(支払繰延額+事業繰越額)

・連結実質赤字額:イとロの合計額がハとニの合計額を超える場合の当該超える額

イ 一般会計及び公営企業(地方公営企業法適用企業・非適用企業)以外の特別会計のうち、実質赤字を生じた会計の実質赤字の合計額

ロ 公営企業の特別会計のうち、資金の不足額を生じた会計の資金の不足額の合計額

ハ 一般会計及び公営企業以外の特別会計のうち、実質黒字を生じた会計の実質黒字の合計額

ニ 公営企業の特別会計のうち、資金の剰余額を生じた会計の資金の剰余額の合計額

・準元利償還金:イからホまでの合計額

イ 満期一括償還地方債について、償還期間を30年とする元金均等年賦償還とした場合における1年当たりの元金償還金相当額

ロ 一般会計等から一般会計等以外の特別会計への繰出金のうち、公営企業債の償還の財源に充てたと認められるもの

ハ 組合・地方開発事業団(組合等)への負担金・補助金のうち、組合等が起こした地方債の償還の財源に充てたと認められるもの

ニ 債務負担行為に基づく支出のうち公債費に準ずるもの

ホ 一時借入金の利子

・将来負担額:イからチまでの合計額

イ 一般会計等の当該年度の前年度末における地方債現在高

ロ 債務負担行為に基づく支出予定額(地方財政法第5条各号の経費等に係るもの)

ハ 一般会計等以外の会計の地方債の元金償還に充てる一般会計等からの負担等見込額

ニ 当該団体が加入する組合等の地方債の元金償還に充てる当該団体からの負担等見込額

ホ 退職手当支給予定額(全職員に対する期末要支給額)のうち、一般会計等の負担見込額

ヘ 地方公共団体が設立した一定の法人の負債の額、その者のために債務を負担している場合の当該債務の額のうち、当該法人等の財務・経営状況を勘案した一般会計等の負担見込額

ト 連結実質赤字額

チ 組合等の連結実質赤字額相当額のうち一般会計等の負担見込額

・充当可能基金額:イからヘまでの償還額等に充てることができる地方自治法第241条の基金

・地方公共団体(都道府県、市町村及び特別区)は、毎年度、健全化判断比率をその算定資料とともに監査委員の審査に付した上で議会に報告し、公表しなければならない。

イ 財政の早期健全化

・地方公共団体は、健全化判断比率のうちいずれかが早期健全化基準以上の場合には、当該健全化判断比率を公表した年度の末日までに、財政健全化計画を定めなければならない。

・財政健全化計画は、議会の議決を経て定め、速やかに公表するとともに、総務大臣・都道府県知事へ報告しなければならない。当該地方公共団体は、毎年度、その実施状況を議会に報告し、公表するとともに、総務大臣・都道府県知事に報告しなければならない。

・財政健全化計画の実施状況を踏まえ、財政の早期健全化が著しく困難であると認められるときは、総務大臣又は都道府県知事は、必要な勧告をすることができる。

ウ 財政の再生

・地方公共団体は、再生判断比率(健全化判断比率のうちの将来負担比率を除いた3つの比率)のいずれかが財政再生基準以上の場合には、当該再生判断比率を公表した年度の末日までに、議会の議決を経て、財政再生計画を定めなければならない。

・財政再生計画は、総務大臣に協議し、その同意を求めることができる。財政再生計画に総務大臣の同意を得ている場合でなければ、災害復旧事業費の財源とする場合等を除き、地方債の起債ができない。財政再生計画に同意を得た財政再生団体は、収支不足額を振り替えるため、地方財政法第5条の規定にかかわらず、総務大臣の許可を受けて、償還年限が財政再生計画の計画期間内である地方債(再生振替特例債)を起こすことができる。

・財政再生計画を定めている地方公共団体(財政再生団体)は、毎年度、その実施状況を議会に報告し、公表するとともに、総務大臣へ報告しなければならない。

・財政再生団体の財政の運営が計画に適合しないと認められる場合等においては、総務大臣は、予算の変更、財政再生計画の変更等必要な措置を講ずることを勧告できる。

・再生振替特例債の資金に対する配慮等、財政再生計画の円滑な実施について国及び他の地方公共団体は適切な配慮を行う。

エ 公営企業の経営の健全化

・公営企業を経営する地方公共団体は、毎年度、公営企業ごとに資金不足比率(資金の不足額の事業の規模に対する比率)を監査委員の審査に付した上で議会に報告し、公表しなければならない。これが経営健全化基準以上となった場合には、経営健全化計画を定めなければならない。

(資金不足比率の概要)

・資金の不足額:

資金の不足額(法適用企業)=

(流動負債+建設改良費等以外の経費の財源に充てるために起こした地方債の現在高−流動資産)−解消可能資金不足額

資金の不足額(法非適用企業)=

(繰上充用額+支払繰延額・事業繰越額+建設改良費等以外の経費の財源に充てるために起こした地方債の現在高)−解消可能資金不足額

※解消可能資金不足額:事業の性質上、事業開始後一定期間に構造的に資金の不足額が生じる等の事情がある場合において、資金の不足額から控除する一定の額。

※宅地造成事業を行う公営企業については、土地の評価に係る流動資産の算定等に関する特例がある。

・事業の規模:

事業の規模(法適用企業) =営業収益の額−受託工事収益の額

事業の規模(法非適用企業)=営業収益に相当する収入の額−受託工事収益に相当する収入の額

※指定管理者制度(利用料金制)を導入している公営企業については、営業収益の額に関する特例がある。

※宅地造成事業のみを行う公営企業の事業の規模については、「事業経営のための財源規模」(調達した資金規模)を示す資本及び負債の合計額とする。

オ 施行等

・財政健全化計画、財政再生計画又は経営健全化計画を定めなければならない地方公共団体の長は、個別外部監査契約に基づく監査を求めなければならない。

・健全化判断比率の公表は、平成19年度決算から適用し、他の義務付け規定については、平成20年度決算に基づく措置から適用する。

 法律で政省令事項とされた財政指標の算定方法の細目や早期健全化基準等については、法案審議の際の国会附帯決議等において、画一的な指標・基準とせず、地方六団体の意見が十分に反映されるようにすることなどについて指摘がなされた。このため、政省令の整備に当たっては、地方公共団体との間で累次にわたる意見交換や意見照会等が行われ、地方公共団体からの意見・要望等で合理性の認められるものについては、これに反映されている。その主なものは以下のとおりである。

(1) 連結実質赤字比率や資金不足比率の算定において、上下水道、地下鉄など事業の性質上、構造的に資金不足が生じる事由がある公営企業については、将来解消が見込まれる「解消可能資金不足額」を資金不足額から控除することとした。

(2) 実質赤字比率や連結実質赤字比率の早期健全化基準について、地方公共団体の財政規模等を考慮した。また、将来負担比率について、都道府県・政令市と市町村の早期健全化基準を区分した。

(3) 実質公債費比率や将来負担比率の算定において、都市計画税を算入することとした。

(4) 宅地造成事業に係る資金不足額の算定において、販売用土地の収入見込額を反映することとした。

(5) 連結実質赤字比率は、本法で導入された新しい指標であることや、制度導入期には、早期健全化の取組を行う機会がなく再生段階が適用される団体がありえることから、財政再生基準に限り、制度導入期の3年間、基準を10%〜5%引き上げることとした。

 早期健全化基準、財政再生基準及び経営健全化基準については、以下のとおりである。

 実質質赤字比率については、財政再生基準は、財政規律を確保する上で事実上の規範として定着している現行再建法の起債制限の基準(市町村2.5%〜10%、都道府県2.5%)を用い、早期健全化基準は、現行の地方債協議・許可制度における許可制移行基準と財政再生基準との中間の値をとって、市町村は財政規模に応じ11.25%〜15%、都道府県は3.75%としている。

 連結実質赤字比率については、早期健全化基準は、実質赤字比率の早期健全化基準に公営企業会計等における経営健全化等を踏まえ5%を加算し、市町村は財政規模に応じ16.25%〜20%、都道府県は8.75%としている。同様に財政再生基準については、実質赤字比率の財政再生基準に10%加算し、市町村は30%、都道府県は15%としている。なお、前述のとおり、連結実質赤字比率の財政再生基準については、制度導入期の3年間は市町村は40%〜35%、都道府県は25%〜20%の経過的な基準が適用される。

 実質公債費比率の早期健全化基準については、市町村・都道府県とも、現行の地方債協議・許可制度において一般単独事業の許可が制限される基準である25%とし、財政再生基準は、市町村・都道府県とも、現行の地方債協議・許可制度において、公共事業等の許可が制限される基準である35%としている。

 将来負担比率については、実質公債費比率の早期健全化基準に相当する将来負担額の水準と平均的な地方債の償還年数を勘案し、市町村は350%、都道府県及び政令市は400%を早期健全化基準としている。

 資金不足比率については、経営健全化基準(早期健全化基準に相当する基準)は、現行の地方債協議・許可制度における許可制移行基準の2倍である20%(営業収益/年の5%程度の合理化努力の4年分に相当するもの)としている。

(2) 地方公会計改革と情報開示の推進

ア 地方公会計改革の推進

 地方公共団体における資産・債務の適切な管理や現金主義では見えにくい費用や資産に関する財務情報の開示といった観点から、発生主義を活用し複式簿記の考え方を導入した公会計の整備は重要な課題である。

 近年、地方公共団体は決算統計の数値に基づく貸借対照表や行政コスト計算書の作成に取り組んで来たところであるが、「行政改革推進法」第62条第2項において、「政府は、地方公共団体に対し、(中略)企業会計の慣行を参考とした貸借対照表その他の財務書類の整備に関し必要な情報の提供、助言その他の協力を行うものとする」と規定されたこと等に見られるように、国同様、地方公共団体に対しても発生主義を活用した財務書類の整備が求められているところである。

 総務省では、平成18年5月18日に地方公共団体が参考とすべき財務書類のモデルである基準モデルと総務省方式改訂モデルを提示し、平成19年10月17日には2つのモデルを活用し財務書類を作成する場合に必要となる資産評価の要領や連結の原則、仕訳例等を公表したところであり、この2つのモデルを活用し地方公共団体は早急に財務書類の整備に着手することが重要である。

 特に、「地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針の策定について」(平成18年8月31日付け総務事務次官通知)により資産・債務改革の方向性と具体的な施策を平成21年度までに策定することを地方公共団体に対して要請しており、また、「地方公共団体財政健全化法」により平成20年度決算に基づく健全化判断比率の状況によっては平成21年度に財政健全化計画等の策定が義務付けられることを踏まえると、平成21年度までに一定の資産評価を行った上で財務書類を整備することが重要である。

 公会計の整備を通じて、地方公共団体の財政状況の透明性が一層向上することが期待されるが、開示対象者にとって理解されるものでなければならず、財務書類の公表に当たっては、住民等に分かりやすい内容での公表に留意すべきであり、「公会計の整備推進について(通知)」(平成19年10月17日付け総務省自治財政局長通知)において、簡潔に全体を示す財務書類の形を示したところである。

イ 情報開示の推進

 地方公共団体の適正な財政運営に資するため、また、行政の透明性の向上や住民参加の促進などを図るため、財政状況の情報については、的確かつ分かりやすく住民に開示することが求められている。

 財政状況の情報開示については、これまでにも次のような取組を行ってきたところである。

 平成13年度以降の決算について、全都道府県及び市町村(一部事務組合等を除く。以下、この項において同じ。)の決算収支の状況や主要財政指標等を取りまとめた「決算カード」を総務省ホームページ上で公表し、個別の地方公共団体の財政状況が一目で分かるよう配意している。さらに、平成16年度決算からは、態様の類似する地方公共団体間で容易に主要財政指標等の比較分析を行うことができる「財政比較分析表」を全都道府県及び市町村において作成し、総務省のホームページを通じて公表している。

 また、地方公共団体におけるバランスシート等の整備状況については、平成19年3月31日現在、平成17年度版の普通会計バランスシートを作成済みの団体が、都道府県47団体(全団体)、大都市15団体(全団体)、大都市を除く市町村1,098団体(全体の60.6%)、平成17年度版行政コスト計算書を作成済みの団体が、都道府県47団体(全団体)、大都市15団体(全団体)、大都市を除く市町村710団体(全体の39.2%)となっている。

 地方独立行政法人、一部事務組合等、地方三公社(土地開発公社、地方住宅供給公社、地方道路公社)及び第三セクターを含めた連結バランスシートについては、平成16年度版よりすべての都道府県及び大都市で作成・公表を行っているところであるが、大都市を除く市町村では、平成17年度版においてもわずか102団体(全体の5.6%)にとどまっている。

 なお、財務書類の整備については、上述のとおり発生主義を活用した公会計の整備が求められているところであり、連結バランスシートを作成していない団体については、その作業負荷を十分見極め早期の整備着手が必要である。

 これらに加え、平成18年度決算からは、「歳出比較分析表」を全都道府県及び市町村において作成し、総務省のホームページを通じて公表することとしている。

 これは、各地方公共団体がそれぞれの歳出状況を態様の類似する団体と比較の上、住民に分かりやすく提示するものであり、地方公共団体の歳出削減が厳しく求められている中、効果的な歳出削減に活用されていくことが期待されている。

 同分析表においては、効率的な分析や歳出削減への寄与の観点から、経常収支比率及びその内訳(人件費、物件費、扶助費、補助費等、公債費、公債費以外の合計、その他)について、類似団体の平均値とともに、分かりやすくグラフを用いて時系列で示し、さらに歳出全体に占める割合が特に大きい経費(人件費、公債費、普通建設事業費)の詳細について、類似団体の平均値とともに、分かりやすくグラフや表を用いて示すこととしている。

 このほか、「地方公共団体財政健全化法」の成立により、各地方公共団体に対して、健全化判断比率の毎年度の公表が義務づけられたところであり、これらに関係する情報も含め、地方公共団体においては今後とも住民への分かりやすい情報開示に努めていくことが求められている。

(3) 公立病院改革

 公立病院改革については、「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月19日閣議決定。以下「基本方針2007」という。)において、社会保障改革の一環として公立病院改革に取り組むことが明記され、「総務省は、平成19年内に各自治体に対しガイドラインを示し、経営指標に関する数値目標を設定した改革プランを策定するよう促す」こととされた。

 これを受け、平成19年7月、総務省に「公立病院改革懇談会」を設けて有識者の意見を伺いつつ諸課題について検討を行い、平成19年12月、「公立病院改革ガイドライン」を策定・公表したところである。

 同ガイドラインの概要は、以下のとおりである。

ア 公立病院改革の必要性

 公立病院をはじめとする公的医療機関の果たすべき役割は、地域において提供されることが必要な医療のうち、採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供することにあるが、近年、多くの公立病院において、損益収支をはじめとする経営状況が悪化するとともに、医師不足に伴い診療体制の縮小を余儀なくされるなど、その経営環境や医療提供体制の維持が極めて厳しい状況になっている。

 このような状況を踏まえれば、公立病院が今後とも地域において必要な医療を安定的かつ継続的に提供していくためには、多くの公立病院において、抜本的な改革の実施が避けて通れない課題となっている。

イ 地方公共団体における公立病院改革プランの策定

 病院事業を設置する地方公共団体は、平成20年度内に以下により公立病院改革プラン(以下「改革プラン」という。)を策定し、病院事業経営の改革に総合的に取り組むものとする。

(ア) 当該病院の果たすべき役割及び一般会計負担の考え方

 当該公立病院が地域医療の確保のため果たすべき役割を明らかにし、これに対応して一般会計等が負担すべき経費の範囲について記載する。

(イ) 経営の効率化

a 財務の改善関係(経常収支比率、職員給与費対医業収益比率、病床利用率等)、公立病院として提供すべき医療機能の確保関係等の経営指標に係る数値目標を設定する。

b 上記数値目標の設定に当たっては、一般会計等からの所定の繰出しが行われれば「経常黒字」が達成される状態を想定して、これに対応した水準で各指標の目標数値が定められるべきである。なお、同一地域に民間病院が立地している公立病院にあっては、「民間病院並みの効率性」の達成を目途として、設定することが望ましい。

c 一般病床及び療養病床の病床利用率がおおむね過去3年間連続して70%未満となっている病院については、病床数の削減、診療所化等の抜本的な見直しを行うことが適当である。

(ウ) 再編・ネットワーク化

a 都道府県は、医療法に基づく医療計画の見直しとの整合を図りながら、平成20年度までに都道府県内の公立病院等の再編・ネットワーク化に関する計画等を策定し、その実現に向けて主体的に参画することが強く求められる。

b 二次医療圏内の公立病院間の連携を強化し、ネットワーク化の実を上げるためには、これらの公立病院の経営主体を統合し、統一的な経営判断の下、医療資源の適正配分を図ることが望ましい。

c 基幹病院にその他の病院・診療所に対する医師派遣等の拠点機能が整備されるよう特に留意すべきであり、また、病院間での機能の重複・競合を避け、相互に適切な機能分担が図られるよう、診療科目等の再編成に取り組むこととするとともに、特に、都市部にあっては、必要な場合、他の医療機関との統合・再編や事業譲渡等にも踏み込んだ大胆な改革案についても検討の対象とすべきである。

(エ) 経営形態の見直し

a 経営形態の見直しに関し、考えられる選択肢として、地方公営企業法の全部適用、地方独立行政法人化(非公務員型)、指定管理者制度の導入、民間譲渡が挙げられる。

b 人事・予算等に係る実質的な権限が新たな経営責任者に付与され、その結果に関する評価及び責任は経営責任者に帰することとするなど、経営に関する権限と責任が明確に一体化する運用が担保される必要がある。

c 病院事業の診療所化や老人保健施設、高齢者住宅事業等への転換なども含め、事業形態自体も幅広く見直しの対象とし、その地域において最適な保健福祉サービスが提供されるよう総合的な検討が行われることが望ましい。

(オ) 改革プランの対象期間

 経営効率化に係る部分については3年程度、再編・ネットワーク化及び経営形態の見直しに係る部分については5年程度の期間を対象として策定することを標準とする。

ウ 公立病院改革プランの実施状況の点検・評価・公表

a 関係地方公表団体は、策定した改革プランを住民に対して速やかに公表するとともに、その実施状況をおおむね年1回以上点検・評価を行うこととし、評価の過程においては例えば有識者や地域住民等の参加を得て設置した委員会等に諮問するなどにより、評価の客観性を確保する必要がある。

b 関係地方公共団体は、遅くとも2年間が経過した時点において、数値目標の達成が著しく困難であると認めるときは、改革プランの全体を抜本的に見直し、経営形態の更なる見直しも含め、その全面的な改定を行うことが適当である。

c 総務省は改革プランの策定状況及び実施状況をおおむね年1回以上全国調査し、その結果を公表する。

エ 財政支援措置等

 総務省は、改革の実施に伴い必要となる、改革プランの策定に要する経費、再編・ネットワーク化に伴う新たな医療機能の整備に要する経費、及び再編・ネットワーク化や経営形態の見直し等に伴う清算等に要する経費について、財政上の支援措置を講じることとする。

 特に、医師不足等により近年経営が急激に悪化している地方公共団体が、不良債務の計画的な解消に取り組むことができるよう、平成20年度に限り「公立病院特例債」を創設することとする。

 また、公立病院に関する既存の地方財政措置について、公的医療機関に関する地方財政措置の充実を図るとともに、公立病院に関する地方財政措置の重点化を検討するなど、見直しを行うこととする。

(4) 公的資金補償金免除繰上償還

 高金利の公的資金の地方債について金利負担の軽減を求める地方公共団体の要望等を踏まえ、地方公共団体の公債費負担の軽減を図るため、平成19年度から3年間で5兆円程度の公的資金の補償金免除繰上償還を講ずることとしたところである。

 具体的には、平成19年度の地方財政対策において、平成21年度までの3年間で、徹底した総人件費の削減等を内容とする「財政健全化計画」又は「公営企業経営健全化計画」を策定し、行政改革・経営改革を行う地方公共団体を対象に、公営企業借換債と合わせて5兆円程度の年利5%以上の公的資金(旧資金運用部資金3兆3,000億円程度以内、旧簡易生命保険資金5,000億円程度以内、公営企業金融公庫資金1兆2,000億円程度)の補償金免除繰上償還を行い、高金利の地方債の公債費負担を軽減する措置を講ずることを決定したところである。

 対象となる地方債は、地方財政法(昭和23年法律第109号)附則第33条の9第1項及び地方交付税法等の一部を改正する法律(平成19年法律第24号)附則第5条において、旧資金運用部資金及び旧簡易生命保険資金については、平成4年5月31日までに貸し付けられたもの、公営企業金融公庫資金については、平成5年8月31日までに貸し付けられたもののうち年利5%以上のものとされ、具体的には「平成19年度公的資金補償金免除繰上償還等実施要綱について」(平成19年8月7日付け総務省自治財政局長通知)により、普通会計に属する地方債、また、公営企業会計のうち、上水道事業(地方財政法施行令第37条の簡易水道事業を含む。)、工業用水道事業、都市高速鉄道事業(地方公営企業法第2条に定める軌道事業及び鉄道事業をいう。)、下水道事業又は病院事業に係る特別会計に属する地方債のうち、残債の年利段階(5%以上、6%以上、7%以上)に応じて、市町村合併の有無、実質公債費比率、経常収支比率、財政力指数、資本費の多寡等に基づき段階的に設定した要件に該当するものとしている。ただし、同要綱において、旧資金運用部資金又は旧簡易生命保険資金については、財政力指数が1.0以上の地方公共団体は対象としないこととしている。

 これらに基づき、各地方公共団体から総務大臣及び財務大臣に「財政健全化計画」又は「公営企業経営健全化計画」が提出され、それらの内容が当該地方公共団体の行財政改革に相当程度資するものであり、かつ、当該計画の円滑な実施のため地方債の金利に係る負担の軽減が必要であると認めたものについては、その旨を平成19年12月22日付けで当該地方公共団体に対して通知したところである。この結果、平成19年度において通知した地方公共団体の総数は平成19年9月4日に通知した夕張市も含め1,524団体となり、当該地方公共団体の計画に計上された繰上償還希望額の合計は、旧資金運用部資金が約3兆1,000億円、旧簡易生命保険資金が約6,500億円、公営企業金融公庫資金が約1兆2,800億円となったところである。

 なお、平成21年度までの3年間における各地方公共団体の補償金免除繰上償還額の総額が、それぞれ旧資金運用部資金で3兆3,000億円程度、旧簡易生命保険資金で5,000億円程度、公営企業金融公庫資金で1兆2,000億円程度を超える時は、各地方公共団体の繰上償還の対象となる地方債の額を調整して減額することがある。

(5) 第三セクター改革

 第三セクター等の改革に関しては、「第三セクターに関する指針」(平成15年12月12日付け自治財政局長通知)の趣旨を踏まえた積極的な取組を地方公共団体に要請してきたところであるが、「基本方針2007」においても、地方公共団体が「地方公共団体財政健全化法」に基づき、財政健全化を促進するに際し、第三セクター等の経営再生に取り組むこととされたところである。

 一方、平成19年1月、総務省に設置された「債務調整等に関する調査研究会」において、地方公共団体に係る債務のうち、特に、第三セクター等に係るものに関し、当該第三セクター等が金融機関から地方公共団体の損失補償の下に資金調達して行っている事業は民間企業類似の事業であるにもかかわらず、地方公共団体が損失補償等を行っているために、結果として民間企業と同様の市場規律やガバナンスが働かない場合も多いことから、まずこれらの問題について検討が進められた。その結果、平成19年10月に「第三セクター等の資金調達に関する損失補償のあり方について(中間まとめ)」がとりまとめられたところである。

 この中で、第三セクター等の資金調達に関する損失補償のあり方について、「地方公共団体の財政規律を強化する観点から、第三セクター等の資金調達に関し地方公共団体が行う損失補償について、規律の強化を図るために新たな仕組みを設けることが必要」であり、「当面、地方公共団体の自主性を尊重しつつ、第三セクター等に係る財政規律の確保を図るための方策として、まずは総務省から地方公共団体に対しガイドライン等として一定の考え方を提示し、これを踏まえて、地方公共団体が自ら損失補償についての自己規制ルールを策定するよう要請することが適当である」こととされている。

 この「中間まとめ」を踏まえ、今後、総務省において、新たにガイドライン等を策定し、第三セクター等の資金調達に係る損失補償について、住民への情報開示の徹底、損失補償契約を締結しようとする際の手続面の厳格化を求めることとしている。

 さらに、上記「中間まとめ」は、総務省において第三セクター等の存廃も含めた改革を年限を区切って進めるための方策を示すべきであるとしており、これを踏まえ、累積債務等により経営が著しく悪化した第三セクター等について、平成20年度までに外部専門家等で構成される「経営検討委員会」(仮称)を設置し、評価検討を行うとともに、その検討結果を踏まえ、平成21年度までに「改革プラン」(仮称)を策定するなど、地方公共団体において集中的な取組を行うよう要請することを予定している。

 なお、内閣府において、地域の中規模企業や第三セクターの事業再生の支援と面的再生に向けた取組を地域金融機関や地方公共団体等の理解・協力を得つつ行うことを目的とする地域力再生機構(仮称)の創設に向けて準備が進められており、平成20年2月1日、「株式会社地域力再生機構法案」が閣議決定されたところである。「地域力再生機構(仮称)研究会最終報告書」(平成19年12月20日)では、「3セクの再生・処理は、地方財政の健全化の観点から重要な課題であり、機構として3セクの再生・処理に積極的に取り組んでいくべきである。その際、個別の3セクに対し一定の関与がある地方公共団体においては、当該3セクと共に取り組んでいくことが極めて重要であることから、地方公共団体の協力を促すため、現行の「第三セクターに関する指針」を補完する位置づけで、累積債務等により経営が著しく悪化している3セク」に関し、新たに、総務省が、「地方公共団体において、累積債務等により経営が著しく悪化し、特に改革が必要と判断する第3セクター等について、その存廃も含め、平成20年度までに外部専門家等で構成される評価検討を行うための委員会(経営検討委員会(仮称))を設置し、その検討結果を踏まえ、21年度までに「改革プラン(仮称)」を策定するよう助言する」内容のガイドラインを策定・通知することが適当であるとされている(平成20年2月19日現在の状況)。