資料2 経済財政改革の基本方針2007〜「美しい国」へのシナリオ〜

第1章 新しい日本の国づくりに挑む

(新しい経済成長の姿に向かって)

 今、我々は、バブル崩壊後の長い低迷から脱却し、新しい成長の姿を確立していく重要な時期にある。

 人口減少というこれまで経験したことのない状況の中で、経済成長を持続させ、生活の質を高くしていくことが、今後の日本経済の最も重要な課題である。そのためには、人口増加を前提としたこれまでの諸制度を根本から見直し、人口減少という現実に対応したものに変革しなくてはならない。人口減少下で何より重要なことは、一人当たり生産性の向上である。年齢や性別にかかわらず、働く意欲を持つ人々が働く機会を得て、より多くの価値を生み出せるような環境がつくられれば、人口減少を恐れることはない。

 しかし、戦後の持続的な人口増加と高い経済成長を前提としてきた我が国の経済制度や構造は、人口高齢化や急速なグローバル化、世界的なIT化に十分に対応しきれておらず、制度疲労を起こしている。

 新しい成長軌道の確立に向けて、人口減少下でもイノベーションを積極的に引き出し、またグローバル化をむしろ成長力の向上に結びつけるような経済構造に変革し、一人当たり生産性を上げていかなければならない。成長力強化はすべての経済政策の基本である。成長力強化と財政健全化を車の両輪として一体的に改革を進めていくことが課題である。


 そのためには、第1に、生産性を上昇させるための包括的な取組が必要である。現在の日本経済が抱えている“弱み”を克服し、“強み”を伸ばしていくためには、非効率の残るサービス産業をつぶさに点検して生産性向上のための環境整備を行うこと、十分にいかされていない人材が能力発揮できるよう教育訓練の機会を用意すること、中小企業の生産性向上に取組むこと、活力ある地域社会に向けて企業・金融機関・自治体が一体となって地域力を高める仕組みをつくること、など経済システム全般にわたるプログラムが必要である。また、成長力の礎となる優れた人材をつくるための大学改革や、成長分野へのリスクマネー供給が必要である。そのため、「成長力加速プログラム」1を取りまとめ、今後5年間のうちに労働生産性の伸び、すなわち一人当たり時間当たりの生産性伸び率が5割増に高まることを目指している2

1 「成長力加速プログラム」(平成19年4月25日)

2 労働生産性の伸び率の過去10年間(平成8年度から平成17年度)の平均は1.6%であり、これが平成23年度には5割増の2.4%程度に高まることを目指す。生産性の低いサービス産業については、第2章1.の「II サービス革新戦略」参照。


 第2に、日本経済のオープン化を促進することが必要である。世界的な競争は激しさを増しているが、資源が乏しい日本は、世界市場に積極的に参入し、グローバル化の恩恵を享受し得る経済システムを構築する以外に道はない。グローバル化の進展は脅威でもあるが、成長力を高める絶好の機会でもある。世界最大の成長センターであるアジアに位置する日本は、積極的なオープン化により大きな成長可能性を得ることになる。世界的な自由貿易体制を維持・発展させるとともにアジアを始めとして経済連携を加速させること、航空等の自由化やアクセスを飛躍的に向上させること、ニューヨークやロンドンに比肩する金融・資本市場にすること、など広範な経済システムの整備に着手しなければならない。


 第3に、行政・財政システムの革新が必要である。民間と異なり、競争にさらされていない行政は、最も経済社会の環境変化に立ち後れた分野でもある。変化に対応して政府機能を根本から見直すこと、これからの時代にふさわしい公務員像へと転換を図ること、道州制を視野に入れた本格的な地方分権を進めること、などまさに戦後レジームから脱却するための取組が必要である。

 また、財政健全化は喫緊の課題である。経済成長なくして財政健全化がないように、財政再建がなければ持続的な経済成長も実現しない。財政健全化の第一ステップとして、「基本方針2006」3において、まずは2011年度には基礎的財政収支を黒字化させるなど、歳出・歳入一体改革の時間軸と目標等が策定された。これに沿って、歳出・歳入一体改革のプログラムを確実に実行する必要がある。歳出削減は厳しい道程ではあるが、これを継続的に断行しない限り、我が国の財政再建はない。

3 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(平成18年7月7日閣議決定)


 第4に、将来の生活を安心して展望できるような土台づくりが必要である。人類全体の課題である地球環境保全については、優れた環境技術を持つ我が国が全世界的な枠組みの構築に貢献していくことが求められている。また、教育を再生して教育新時代を切り開いていくことや、包括的な少子化対策など、「美しい国」の人づくりに社会総がかりで取り組むことが重要である。

 生活の土台となる社会保障については、人口減少下において安心かつ持続可能な制度にすることとあわせて、サービスの質向上と効率化の両立を図ることや、加入者が給付・負担の情報を容易に把握し管理できる仕組みの導入を目指すこと、などによって信頼性と安定性の高い制度へと改革することが不可欠である。

 また、世界一の治安の良さを誇れる国に再びなること、自然災害等に対して強靭な社会をつくること、など安全の土台をつくることが必要である。


(「美しい国」づくりに向けて)

 政府は、「美しい国」づくりに向けて歩み始めている。経済システムもまた、「美しい国」にふさわしく、我が国の文化、伝統や自然に根ざした強みをいかして、日本ならではの競争力あるものに変革されなくてはならない。「美しい国」の経済とは、自由と規律と持続可能性という3つの要素を兼ね備えたものである。

 まず、「自由な経済」とは、新しいものが生み出される若々しさと柔軟さをもった経済である。異質なものがぶつかり合う中からイノベーションが生まれる。多様性を受け入れるオープンなシステムや、人や資金の円滑な移動を妨げない仕組み、リスクへの挑戦が促される仕組みなどの環境づくりが求められる。

 自由な経済システムを保つには、「規律ある経済」が不可欠である。ルールが確立し、事後的なガバナンスが十分に機能する健全な市場経済を形成する必要がある。

 「持続ある経済」とは、子どもや孫の世代への責任を果たし得る経済である。我々は、次の世代に自信を持って引き継げる経済社会をつくらなくてはならない。地球環境はもとより、国内の財政や社会保障においても、現在の世代が将来世代の選択肢を狭めることがないよう、ほかの世代に過度に頼らない「世代自立」の社会構造を目指すことが必要である。

 これら3つの要素を兼ね備えた経済システムの構築は、決して容易なことではない。しかし、90年代以降の長い低迷を乗り越えた今、新たな挑戦を始める環境は整っている。戦後の日本経済を支えてきた優れた人材、イノベーションの力、地域の活力は、脈々として生きている。新しい経済社会のパラダイムが構築されれば、その下で人間力・創造力・地域力が再びよみがえることになろう。そのために、これまでの改革を加速するためのシナリオ、そして新たな改革への一歩を示すのが、「基本方針2007」である。


第2章 成長力の強化

 人口減少社会というこれまでにない局面の中で、成長力を強化して経済成長を持続させることが、我が国の喫緊の課題である4

4 経済の将来展望については、「日本経済の進路と戦略」(平成19年1月25日閣議決定。以下、「進路と戦略」という。)において示されている。

 そのためには、(1)成長力強化のカギとなる生産性を向上させ、我が国の高い潜在力をいかんなく発揮するとともに、(2)より自由なヒト、モノ、カネの流れを実現し、グローバルな市場の活力を我が国の成長に取り込むこと5、(3)意欲と能力をいかせる環境の整備による人材の活用や就業率の向上を進めることが不可欠である。また、地域社会が潜在的な力を発揮できるようにすることが重要である。

5 経済財政諮問会議「グローバル化改革専門調査会第1次報告」(平成19年5月8日)


 以上の目的を達成するため、オープンやイノベーションの観点から本格的な成長力強化策に着手する。その中核となる「成長力加速プログラム」では、低い水準にとどまっている我が国の労働生産性を引き上げるための3つの政策パッケージを実行する。第1は、人材と中小企業という経済の“基礎力”を高めるためのパッケージである(成長力底上げ戦略)。第2は、特に非効率が残り生産性が低水準にあるサービス産業を対象に、“効率”を高めるためのパッケージである(サービス革新戦略)。第3は、これからの成長分野を伸ばし、我が国の“創造力”を高めるためのパッケージである(成長可能性拡大戦略)。このプログラムを貫く基本的視点は、(1)生産性向上の阻害要因を徹底的に除去すること、(2)消費者やユーザーの立場に立って供給側の大胆な改革を行うこと、の2点である。


 また、平成18年に策定された「経済成長戦略大綱」6について、世界で最も優れた産業競争力インフラを構築し、民需主導の経済成長を実現するため、以下の点を重視しつつ施策を強化して改定し、推進する。第1に、研究開発成果の迅速な市場化のための環境整備や、イノベーション創出に向けた研究開発・人材育成・IT等民間投資の加速を図る。第2に、ITとサービス産業の革新により生産性向上を図る。第3に、IT化やシニア人材の活力をいかす施策等により地域・中小企業を活性化する。第4に、経済連携に向けた取組の加速やアジアワイドでの事業環境の整備を図る。第5に、経済成長・エネルギー安全保障・気候変動の一体的解決を図る。

6 「経済成長戦略大綱」(平成19年6月19日改定)


 さらに、「アジア・ゲートウェイ構想」7、「長期戦略指針『イノベーション25』」8を推進することを通じて、政府一丸となって成長力強化に取り組む。このような成長力強化の取組により、我が国の労働生産性の伸び率、すなわち一人が1時間働いて生み出す付加価値の伸び率を5年間で5割増にすることを目指す。

7 「アジア・ゲートウェイ構想」(平成19年5月16日)

8 「長期戦略指針『イノベーション25』」(平成19年6月1日閣議決定。以下、「イノベーション25」という。)


 なお、以上のような施策の推進に当たっては、成果目標、政策手段等を明確に掲げ、PDCAサイクルを着実に実施していく。


1.成長力加速プログラム

I 成長力底上げ戦略

 成長の基盤となる人材、中小企業への投資により、成長力の底上げを図る。働く人全体の所得・生活水準を引き上げることで、格差の固定化を防止し、人材の労働市場への参加や生産性向上を目指す。

【改革のポイント】

1.人材能力戦略:誰でもどこでも職業能力形成に参加でき、能力を発揮できる社会の実現のため、「ジョブ・カード」制度を導入する。

2.就労支援戦略:公的扶助受給者等を対象に、セーフティネットを確保しつつ、可能な限り就労による自立・生活の向上が図られるよう福祉・雇用両面にわたる支援を行う。

3.中小企業底上げ戦略:働く人の賃金の底上げを図る観点から、中小企業等の生産性の向上とともに、最低賃金を引き上げるための施策を推進する。

4.本戦略は、政労使が参加する国・地方の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」で合意形成を図りつつ、原則として3年間(平成19年度〜21年度)で集中的に推進する。

【具体的手段】

(1)人材能力戦略

 (1) 「職業能力形成システム」(通称:『ジョブ・カード制度』)の構築

 フリーター等の就職困難者や新卒者に対し、協力企業等において職業能力形成プログラムを提供し、履修実績等を記載した「ジョブ・カード」を交付する。

 (2) 大学・専門学校等を活用した「実践型教育システム」の構築

 就職困難者や新卒者等に対し大学・専門学校等の教育プログラムを開放し、「実践型教育プログラム」を提供する。

 (3) 官民共同推進組織の設置

 平成19年5月に設置した「ジョブ・カード構想委員会」において具体的構想の検討を進め、平成20年度に本格実施する。平成22年度以降、実施状況を検証しながら拡充する。

(2)就労支援戦略

 (1)「『福祉から雇用へ』推進5か年計画」の策定

 厚生労働省を中心に、母子家庭、生活保護世帯、障害者等の就労移行について、5年後の具体的目標を平成19年内に策定する。平成19年度〜21年度を目標実現の集中戦略期間として、就労支援体制の全国展開、ハローワークを中心としたチーム支援、関係者の意識改革のための情報提供・支援のネットワークづくり等を推進する。

 (2)「工賃倍増5か年計画」による福祉的就労の底上げ

 授産施設等で働く障害者の工賃水準を現在の2倍以上に引き上げること及び一般雇用への移行準備を進めることを内容とする5か年計画を平成19年度中に全都道府県で策定し、推進する。

(3)中小企業底上げ戦略

 (1) 「生産性向上と最低賃金引上げ」に関する合意形成

 中小企業等の生産性の向上と最低賃金の引上げの基本方針について、円卓会議で検討を進め、政労使の合意形成を図る。

 (2) 「中小企業生産性向上プロジェクト」の推進による賃金の底上げ

 中小企業庁を中心に関係省庁において、以下を柱とする「中小企業生産性向上プロジェクト」を平成21年度までの3年間集中的に実施する。


(業種横断的な共通基盤対策)

・下請適正取引等の推進(業種ごとのガイドライン策定・遵守・普及、「独占禁止法」9・「下請法」10による取締り強化等)

9 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号)

10 「下請代金支払遅延等防止法」(昭和31年法律第120号)

・IT化・機械化・経営改善(コンサルティング・資金支援、流動資産担保融資保証制度・電子記録債権制度の推進、「生産性向上特別指導員」による経営指導、データベースの構築や連携・共同事業化の推進等小規模企業の強化、省エネ推進等)

・中小企業の再生(「地域中小企業再生ネットワーク」の創設)

・人材能力の向上、創業・起業支援、事業承継の円滑化


(重点業種・重点地域に対する活性化策)

・小売業、建設業、対個人・事業所サービス業、繊維業、食品加工業等の生産性が低い業種、経営基盤が脆弱な地場産業、賃金水準が低い地域に対する対策の展開(「中小企業地域資源活用プログラム」の推進、地域の中小企業を支援する雇用・労働施策の活用、個別業種に対する指導・支援等)


 (3) 最低賃金制度の充実

 最低賃金の周知徹底や「最低賃金法」11の改正(生活保護との整合性の考慮、罰則強化等)を行うとともに、上記(1)の政労使合意を踏まえ最低賃金の中長期的な引上げに関して産業政策と雇用政策の一体運用を図る。

11 「最低賃金法」(昭和34年法律第137号)


II サービス革新戦略

 生産性水準の低いサービス産業の改革のため、ITの本格活用への環境整備や規制改革を進める。また、地域経済全体の活力強化を行う。


【改革のポイント】

1.IT革新:ITの本格的活用のため、社会横断的なIT基盤を整える。

2.地域経済の成長力向上:地域経済の一体的な再生・強化の支援を目的とする「地域力再生機構」(仮称。以下同じ。)の創設に向けて具体的な検討を進める。

3.規制の集中改革プログラム:官製市場を始めとする分野の規制改革を集中的に実施し、生活に密着した産業の創造や公共サービスの効率化・質の向上等を実現する。

4.サービス・イノベーション:産官学の連携の下に、「科学的・工学的手法」によるサービスの開発・導入とサービス産業の品質の向上・人材の育成に取り組む。


【具体的手段】

(1)IT革新

 以下の取組など、「IT新改革戦略政策パッケージ」12、「重点計画-2007」(仮称)を着実に実施する。

12 「IT新改革戦略政策パッケージ」(平成19年4月5日)


 (1) ITによる生産性向上

 IT投資の選択と集中に向け、業種・製品ごとのソフトの標準化・共同開発、ソフト部品産業の競争力強化を行うとともに、ASP13、SaaS14の普及促進など中小企業のIT化の基盤を整備する。また、産業横断的な合意形成の場を平成19年内に設定し、平成22年度までに、国際的な標準と調和した電子商取引や電子タグ利用等の共通基盤を業種横断的に構築する。

13 ASP(Application Service Provider)

14 SaaS(Software as a Service)


 (2) ICT産業の国際競争力強化

 「ユビキタス特区」を平成19年度内を目途に創設し、世界最先端ICTサービスが開発・利用できる環境の整備、電波の二次取引の拡大への取組を進めるなど、「ICT改革促進プログラム」15に基づき、通信・放送分野の改革を加速化するとともに、ICT産業の国際競争力を強化する。

15 「ICT改革促進プログラム」(平成19年4月20日)


 (3) 世界最先端の電子政府の実現

 5年以内を目途に国民に使い勝手の良い世界最先端の電子政府を実現するべく、ユーザーの視点に立った利便性の向上等を念頭に置き、紙をベースとした既存の手続を根本的に見直し、業務・システムの最適化等の施策を講ずる。また、電子政府システムの設計・構築・運用の各段階を政府内で横断的・一体的に管理する体制の構築を検討するとともに、

 各府省庁のシステム担当者の拡充を図る。


 (4) テレワーク人口倍増の実現

 「テレワーク人口倍増アクションプラン」16を着実に推進するなど、テレワーク普及に向けた総合的な支援環境の整備を図り、平成22年までにテレワーク人口倍増を実現する。

16 「テレワーク人口倍増アクションプラン」(平成19年5月29日)


 (5) 情報セキュリティの向上

 情報セキュリティの向上に向け、電子政府のセキュリティの企画・設計段階からの確保、業界横断的な人材の育成支援、各国との連携・協力等を推進する。


(2)地域経済の成長力向上

 (1) 「地域力再生機構」の創設

 地域の企業、地域金融機関、地域全体の一体的な再生・強化を、自治体と連携しつつ支援することを目的とする「地域力再生機構」の創設に向けて、他施策との役割分担・連携等も踏まえ具体的な検討を進める。


 (2) 地域金融機関の収益基盤強化

 金融庁は、地域密着型金融の一層の推進に向けた取組を平成19年度に監督指針に盛り込むとともに、地域金融機関における自らの収益基盤強化のための新たなプランや目標の策定を推進する。また、金融機関の取組の効果を総合的に把握して、年1回実績を公表する。


 (3) 第三セクターの経営再生

 地方公共団体については、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」17に基づき、地方の自己規律による財政健全化を促進する。その際、地方公共団体の資産債務等について、公会計の整備を促進し、国の取組に準じて、公共性を踏まえた公正な評価を行いつつ、第三セクター等については市場価格に基づく適正な評価を行い、経営再生に取り組む。債務調整について地方分権改革と一体的に整理する。

17 「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(平成19年6月15日成立)


(3)「規制の集中改革プログラム」の策定・実行

 消費者の潜在ニーズを満たし、生産性を向上させるための「規制の集中改革プログラム」18のうち、「成長力加速プログラム」で示した9分野について、以下のような取組を進める。これ以外の事項についても更なる検討を進め、遅くとも平成19年中に一定の結論を得る。

18 「規制の集中改革プログラム」(平成19年5月30日)


 (1) 医療分野

 レセプトオンライン請求について、請求システムの標準化、互換性等の環境整備を図りつつ、期限内に確実に達成するとともに、オンライン化の進展に合わせて、社会保険診療報酬支払基金の業務フローの抜本的な見直しを前提とした効率化等、審査・支払業務の見直しを進める。また、医師と他の医療従事者の間の役割分担の見直し(業務範囲、責任の所在等)について、平成19年中に一定の結論を得る。


 (2) 福祉分野

 育児休業の再度の取得が可能となる要件の見直しを検討し、速やかに結論を得る。


 (3) 国家公務員採用試験

 再チャレンジを支援する観点から、人事院において、国家公務員採用試験の受験年齢上限を引き上げるための検討を平成19年中に行うよう、要請する。


 (4) 農業分野

 農業の高付加価値化、需要創出に向け、機能性米等の農産品に関連する表示の制度・運用の見直しについて、平成19年度中に結論を得る。


 (5) 安全・安心分野

 安全・安心な住環境の整備、都市機能の発揮に向け、老朽マンション等の建替え・改修の促進につながる規制の見直し及び道路上部空間の有効活用に資する規制の在り方の検討を平成19年以降順次実施する。


 (6) 貿易・港湾

 貿易関連手続について、真に利便性の高い「次世代シングルウィンドウ」を構築する(平成20年10月稼動予定)とともに、稼動後できるだけ早期に港湾関連手続の書式の統一化・簡素化及び「次世代シングルウィンドウ」への一元化を図る。


 (7) 官の事務・事業の見直し、民間開放

 独立行政法人改革と歩調を合わせ、規模の大きな独立行政法人等を順次、個別に取り上げ、事務・事業の見直し、民間開放を推進する。


(4)サービス・イノベーション

 平成19年度中にサービス工学の研究拠点を整備し、顧客満足度指数を平成20年度から導入する等、「サービス産業生産性協議会」を活用し、サービス・イノベーションを促進する。

III 成長可能性拡大戦略―イノベーション等

 未来への投資を拡大していくため、社会システムの改革と技術革新を一体的に推進し、イノベーションの創出を加速するとともに、環境変化にそぐわない制度や障害を除去し、知識創造を支える研究と人材育成、リスクマネーの潤沢な供給を実現する。


【改革のポイント】

1.政策イノベーション:リスクが高い分野への政策支援を改革する。また、成長分野を阻害しない政策へと改革する。

2.大学・大学院改革:競争力の基盤となる数多くの優れた人材の育成、社会において指導的役割を果たすリーダーとなる人材の育成、イノベーションを生み出す世界トップレベルの教育研究拠点の形成の視点から、徹底した改革を行う。

効率化を図りつつ、適正な評価に基づき、真に実効性のある分野への「選択と集中」により必要な予算を確保する。基盤的経費の確実な措置、基盤的経費と競争的資金の適切な組合せ、評価に基づくより効率的な資金配分を図る。

3.「貯蓄から投資へ」の加速:家計の金融資産が成長分野に活用されるための環境整備を行う。

4.イノベーションの加速:「イノベーション25」等に基づき、イノベーション立国の実現を目指して、社会システムの改革と技術革新を一体的に推進する。


【具体的手段】

(1)政策イノベーション

 (1) 最先端分野への政策支援(SBIR制度19)の革新

19 SBIR(Small Business Innovation Research)

・革新的でリスクの高い研究開発を行うベンチャー企業等を対象とする段階ごとの質の高い競争選抜による新しい制度を平成20年度から順次導入する。各府省においてなされた資源配分の適正さや選抜の妥当性については総合科学技術会議等において政府横断的な事後評価を行う。

・政府調達における情報開示、申請手続の簡素化等の徹底を図る。


 (2) 革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略

 研究資金の集中投入、ベンチャー企業育成、医療クラスターの形成や再生医療拠点の形成等の臨床研究・治験環境の整備、アジアとの連携、新薬の上市までの期間を2.5年短縮する等の審査の迅速化・質の向上、革新的新薬の適切な評価と後発品の使用促進のための薬価制度の改革や医療機器の評価の適正化等を内容とする「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」20を着実に推進する。

20 「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」(平成19年4月26日)


 (3) 世界最先端のデジタルコンテンツ流通促進法制の整備

 デジタル化、ネットワーク化の特質に応じて、著作権等の保護や利用の在り方に関する新たな法制度や契約ルールの検討を進め、世界最先端のデジタルコンテンツ流通促進の法制度等を2年以内に整備する。


(2)大学・大学院改革

 以下の改革を含め、「教育再生会議第二次報告」21に基づき、重点的に取り組む。

21 「教育再生会議第二次報告」(平成19年6月1日)


 (1) 教育の質の保証

・大学(大学院を含む。以下同じ。)が行う卒業認定の厳格化、外部評価の推進、ボランティア活動体験の導入などカリキュラム改革等を強力に支援するための措置を平成20年度から講ずる。

・「教育再生会議」は、必要に応じ、関係会議と適宜連携し、大学入試の多様化、弾力化等抜本的な改革について検討する。その際、初等中等教育に与える影響も考慮する。(大学入学年齢の弾力化、国立大学の入試日の分散、複数合格等)

・優秀で意欲ある学生に対する奨学金を拡充するための措置を平成20年度から講ずる。


 (2) 国際化・多様化を通じた大学改革

・教員の国際公募、外国人教員比率の増、英語による授業、国家戦略としての留学生政策を平成20年度から推進する。

・大学の4月入学原則を平成19年度中に弾力化する。国立大学について、大学の取組を支援し、全国立大学での9月入学枠の設定を実現する。私立大学においても、9月入学枠設定を促進する。

・文部科学省は、「大学グローバル化プラン」(仮称)を平成19年内に策定し、アジアを含めた国際的な大学間の相互連携プログラムを促進する(単位互換、ダブル・ディグリー等)。また、各大学等による国際化に関する評価の充実を平成20年度に図る。

・平成20年度から、現地での募集・選考体制の強化、渡日前の入学許可、奨学金支給決定を行い、留学生受入れ拡大を図る。日本人学生の短期留学等の機会を拡充する。

・企業・行政機関との人事交流等大学と企業・社会との連携を強化する。

・高等専門学校が地域と連携して行う実践的な専門教育の取組を支援するための措置を平成20年度から講ずる。


 (3) 世界トップレベルを目指す大学院教育の改革

・平成20年度から、世界最高水準の大学院形成、優れた大学院生への経済的支援を充実する。

・学部3年修了時から大学院に進学する早期卒業制度を活用するとともに、博士前期課程3年、後期課程2年とする等制度を平成19年内に弾力化する。


 (4) 国公私立大学の連携による地方の大学教育の充実

・自主性・自律性をもって、大学が行う社会の変化や時代の要請に応じた学部学科の再編、他大学との連携協力、組織運営改善等の取組を支援する。

・国公私を通じ、複数の大学が大学院研究科等を共同で設置できる仕組みを平成20年度中に創設することを目指す。

・国公私を通じた地方の「大学地域コンソーシアム」の形成を支援するための措置を平成20年度から講ずる。


 (5) 時代や社会の要請にこたえる国立大学の更なる改革

・国立大学の大胆な再編統合、学部の再編や学部入学定員の縮減、一つの国立大学法人が複数の大学を設置管理できる仕組みづくり等国立大学の自主的な取組を促進する。

・文部科学省は、国立大学の大学事務局の改革による経営効率化を推進する。


 (6) 競争的資金の拡充と効率的な配分

・研究と教育の両面における競争的資金を拡充するとともに、間接経費を充実する。競争的資金の審査システムを公正性、透明性、国際性の観点から高度化する。若手研究者への配慮等評価手法を改革する。


 (7) 大学による自助努力を可能とするシステム改革

・企業や個人等からの寄付金、共同研究費等民間からの資金の活用について、各大学の自助努力を後押しするための税制を含む環境整備等を検討する。


 (8) 国立大学法人運営費交付金の改革

・文部科学省は、国立大学法人運営費交付金については、次期中期目標・計画(平成22年度〜)に向け、各大学の努力と成果を踏まえたものとなるよう、新たな配分の在り方の具体的検討に早期に着手し、平成19年度内を目途に見直しの方向性を明らかにする。

・文部科学省は、運営費交付金の配分については、(1)教育・研究面、(2)大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき適切な配分を実現する。その際、国立大学法人評価の結果を活用する。


 「教育再生会議」において、経済財政諮問会議、総合科学技術会議等関係会議とも連携し、上記改革の推進・検討状況のフォローアップを行い、改革を着実に前進させるものとする。

(1) 大学の教育システムの改革、グローバル化推進については、文部科学省において、平成19年度中に結論を得ることを目指し、具体化に向けて検討を進め、結論の得られたものから直ちに実施に移す。

(2) 研究システムの改革については、総合科学技術会議を中心に、必要に応じ、関係会議等とも連携しつつ具体化に向けた検討を進め、平成19年度内に結論を得るとともに、可能なものから直ちに実施に移す。

(3) 予算面については、第3章の「1.歳出・歳入一体改革の実現」と整合性を取りつつ、効率化を徹底しながら、メリハリをつけて、教育再生に真に必要な予算について財源を確保するとの方針に沿って、「教育再生会議」及び経済財政諮問会議等における議論も踏まえつつ、検討する。

 大学改革についての残された課題(大学入試、大学入学年齢の弾力化など)については、「教育再生会議」において、必要に応じ関係会議と適宜連携し、検討を進める。


(3)「貯蓄から投資へ」の加速

 (1) 確定拠出年金の改革

 「成長力加速プログラム」を踏まえ、投資促進の観点から、確定拠出年金における拠出の在り方の見直しを検討する。


 (2) ベンチャー企業へのリスクマネーの供給促進

 「成長力加速プログラム」を踏まえ、ベンチャー企業にとって重要な初期段階での資金供給の促進及びベンチャー企業への投資を通じた新成長のフロントライン拡大のため、税制を含む環境整備等について検討する。


(4)イノベーションの加速

 (1) 社会システムの改革戦略(「イノベーション25」)の推進

 イノベーションが次々と生み出される社会環境を構築するため、おおむね今後3年間で、若手研究者向け資金や理数教育など次世代投資の充実と強化、環境・エネルギー技術など優れた技術を活かした成長と国際貢献、国際競争力強化を目指した大学改革、新しいサービスの構築・実証を通じた規制の見直しなどイノベーション創出・促進に向けた社会環境整備に取り組む。


 (2) 技術革新戦略ロードマップ(「イノベーション25」)に基づく政策の推進

 イノベーションの創出を加速化させるため、「第3期科学技術基本計画」22を踏まえ、社会還元を加速するプロジェクト、分野別の戦略的な研究開発、イノベーションの種となる多様な基礎研究を推進するとともに、イノベーションを担う研究開発体制を強化する。

22 「第3期科学技術基本計画」(平成18年3月28日閣議決定)


 (3) 知的財産戦略(「知的財産推進計画2007」23)の推進

23 「知的財産推進計画2007」(平成19年5月31日)

・「模倣品・海賊版拡散防止条約」(仮称)の早期実現に向け関係各国との議論をリードする。また、国際標準化活動のリーダー育成24など「国際標準総合戦略」25を着実に実行するとともに、今後重要となる技術分野についての分野別知財戦略を平成19年中に策定する。

24 育成目標:国際会議でリーダーシップをとれる専門家を平成21年度までの3年間でまず100人育成する。

25 「国際標準総合戦略」(平成18年12月6日)

・世界最高水準の特許審査に向け、審査の一層の迅速化26を図る。また、特許制度の国際調和や国際審査協力を推進する。

26 迅速化の目標:平成20年における特許審査順番待ち期間を29か月台に止める。


 (4) 産学官連携の推進

 次世代環境航空機等の戦略的分野の研究開発プロジェクト、産学双方向の対話(「産学人材育成パートナーシップ」)等を推進する。


(5)市場経済を支えるルールの整備

 改正後の「独占禁止法」に基づき執行の強化を図るとともに、課徴金に係る制度の在り方、優越的地位の濫用、不当廉売などの不公正な取引方法に対する措置の在り方、審判手続の在り方等の課題について速やかに結論を得て、法改正の必要性を検討する。


2.グローバル化改革

 オープンな国づくりに向けて「アジア・ゲートウェイ構想」を推進する。あわせて、グローバル化のメリットを最大限活用し、アジアの活力を成長に取り込む。そのため、経済連携の強化、金融・資本市場の改革、航空自由化等に包括的に取り組む。


【改革のポイント】

1.WTO交渉の年内妥結に向けて交渉全体の流れに即して柔軟に対応し、世界第二の経済大国としてふさわしい貢献を行う。EPAについて締結国数、質ともに充実させる。

2.金融・資本市場の競争力強化のため、(1)取引所等の市場インフラ(フィールド)、(2)金融機関や機関投資家(プレーヤー)、(3)市場監視(審判)を包括する総合的な改革プランを策定する。あわせて、国際金融センターとしての都市機能の高度化を進める。

3.オープンな経済社会の構築の中核的な構想として、「アジア・ゲートウェイ構想」を推進する。

4.特に、アメリカ流のいわゆるオープンスカイではない、国際的にそん色のない航空自由化(アジア・オープンスカイ)を、スピード感を持って戦略的に推進する。まず、中国を始めとするアジアの各国との自由化交渉を進める(アジアを優先)。羽田空港の更なる国際化・大都市圏国際空港27の24時間化を実現する。

27 首都圏空港(成田空港、羽田空港)、関西国際空港及び中部国際空港


【具体的手段】

(1)WTO、EPAの取組強化

 (1) WTOドーハ・ラウンドへの積極的取組

 WTOドーハ・ラウンドの平成19年中の妥結に向けて積極的に取り組む。


 (2) EPA交渉の取組強化

 EPA工程表(別表)にしたがって交渉を積極的に推進する。その結果、平成21年初めにはEPA締結国が少なくとも3倍増超(12か国以上)になることが期待される。世界では、大経済圏を含む各国間でFTA交渉が活発化しつつあるが、米国・EUを含め、大市場国、投資先国等については、諸外国の動向、これまでの我が国との経済関係及び各々の経済規模等を念頭におきつつ、将来の課題として検討していく。可能な国・地域から準備を進めていく。また、ASEAN+628の経済連携構想を含め、広域経済連携の研究を推進する。

28 ASEAN、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド


 (3) 質の高いEPAの締結

 EPAの内容に関しては、貿易自由化の度合いに加えて、サービス・投資・知的財産等幅広い分野で、質の高いEPA締結を目指す。


 (4) 国境措置

 WTO、EPA交渉の中で、国境措置の対象品目の絞り込みや関税率の引下げにおいて交渉のイニシアティブを発揮していくとともに、差額関税制度の在り方について検討する。国内農林水産業等の体質強化の進ちょくに留意する。妥結内容によって影響が発生する場合があれば、構造改革に資するものに限定して、計画的な措置を講ずる。


(2)「金融・資本市場競争力強化プラン」(仮称。以下同じ。)の策定

 「金融・資本市場競争力強化プラン」を平成19年内を目途に金融庁が取りまとめ、政府一体として推進する。その際、以下の施策については特に重点的に取り組む。


 (1) 取引所の競争力の強化

 取引所において株式、債券、金融先物、商品先物など総合的に幅広い品揃えを可能とするための具体策等を検討し、結論を得る。


 (2) 銀行と証券に係るファイアーウォール規制の見直し

 優越的地位の濫用や利益相反の防止などの措置を講じた上で、銀行・証券に係るファイアーウォール規制の見直しを行う。


 (3) 準司法機能の強化による市場監視体制の整備

 平成20年度の早期に、課徴金制度の適用範囲拡大、金額引上げを実現する。あわせて、証券取引等監視委員会の体制強化に関し具体策を検討する。


 (4) 競争力強化に向けた総合的な取組

 規制監督の透明性・予見可能性の向上等、競争力強化に向けた環境整備について総合的に引き続き検討を行う。あわせて、国際金融センターとしての都市機能の高度化に向けて都市再生の取組を進める。


(3)航空自由化(アジア・オープンスカイ)

 「アジア・ゲートウェイ構想」の航空自由化工程表を策定し、これを着実に推進する。


 (1) 航空自由化の推進

 関西国際空港・中部国際空港について、国際拠点空港として、ふさわしい路線の開設や増便ができるよう、アジア各国との間で互いに、旅客分野、貨物分野の双方について、事業会社、乗入地点、便数の制約を無くす航空自由化を二国間交渉により推進する。あわせて、国際競争力の強化のための施策を推進する。地方空港についても、観光振興等を推進するため、自由化交渉を加速化する。首都圏空港については当面、戦略的に活用するとともに、将来の容量拡大等をにらみ、さらに自由化について検討する。


 (2) 羽田空港の更なる国際化・大都市圏国際空港の24時間化

 大都市圏国際空港の24時間化を促進し、最大限有効活用する。とりわけ、羽田空港については、深夜早朝時間帯(23時〜6時)において、欧米便を含め国際チャーター便(定期的なものも含む)を推進する。特定時間帯(20時30分〜23時の出発及び6時〜8時30分の到着)についても国際チャーター便の実現を図る。あわせて、深夜早朝のアクセスの改善等24時間化に向けての可能な限りの施策を推進する。また、昼間の発着枠についても拡大等を図り、上海虹橋とのチャーター便、北京オリンピック期間中の国際臨時チャーター便等を実現する。新国際線ターミナルと国内線ターミナルの間の乗り継ぎの利便性にできる限り配慮する。平成22年以降の昼間は、供用開始時に国際旅客定期便を3万回就航させる。路線については、距離の基準だけでなく、需要や路線の重要性も判断し、羽田にふさわしい路線を、近いところから検討し、今後の航空交渉で確定する。深夜・早朝についても、騒音問題等に配慮しつつ、国際定期便の就航(欧米便も可能)を推進する。あわせて、首都圏空港(成田空港・羽田空港)の容量拡大に向けて、可能な限りの施策を検討する。


(4)アジアのゲートウェイを目指した取組

 (1) 「貿易手続改革プログラム」29の着実な実施等

29 「貿易手続改革プログラム」(平成19年5月14日)

 国際物流機能の強化に向け、「貿易手続改革プログラム」に基づき、輸出におけるいわゆる保税搬入原則を始めとする現行の保税・通関制度等の見直し、特定輸出申告制度の利用拡大、港湾手続の統一化・簡素化、港湾の深夜早朝利用の推進による24時間利用の支援、港湾行政の広域連携等を推進するとともに、官民でフォローアップを行い、平成21年度末まで、毎年度、同プログラムの改訂を行う。また、スーパー中枢港湾等を始め陸海空のシームレスなネットワーク整備の促進、アジア全体の物流圏の構築の推進、安定的な国際海上輸送の確保を図るための制度的枠組みの構築に向けて取り組む。


 (2) アジア高度人材ネットワークのハブを目指した留学生政策の再構築

 留学生受入れシェアの確保、日本人の海外学習機会の拡大、産学連携等の推進、海外現地機能の強化など、「アジア・ゲートウェイ構想」の基本方針を踏まえ、今後の取組を早急に具体化し、新たな留学生戦略を策定する。


 (3) アジア・ゲートウェイ構造改革特区(仮称)の創設

 構造改革特区制度を活用し、アジアとの交流拡大を目指す地域独自の取組を重点的に支援する。あわせて、地方が必要とするハード・ソフトの総合的な取組について、国としても重点的な支援を検討する。


 (4) 「日本文化産業戦略」30に基づく具体的な政策の推進

30 「日本文化産業戦略」(平成19年5月16日)

 日本の魅力の向上・発信に貢献した者等への総理表彰制度の構築、今の日本の魅力を世界に発信する拠点(ジャパン・クリエイティブ・センター)の海外での設立、感性価値創造の推進及びコンテンツグローバル戦略の策定等、文化産業の国際競争力や情報発信力を強化する。


 (5) 観光立国の推進

 平成19年夏までに観光立国推進基本計画を策定するとともに、平成22年外国人旅行者1000万人の達成、魅力ある観光地の形成等、観光立国の実現に向けた諸施策を推進する。


 (6) 主要な国際会議開催件数5割増への取組の推進

 「美しい国、日本」を発信し、国際交流の拡大を図るため、国際会議の開催・誘致推進のためのアクションプランに基づき、官民を挙げた取組を推進する。


(5)総合的な外交力

 国益の増進に資する世界戦略を展開するため、経済連携の推進、戦略的な援助の充実、対外発信力の発揮、資源・エネルギーの確保などの政府の対外的機能について、在外公館、マンパワー等の外交実施体制を中核とし、総合的な外交力を強化する。


(6)地球規模の課題等に対するリーダーシップの発揮

 来年、G8北海道洞爺湖サミットやアフリカ開発会議を主催することにかんがみ、地球規模の課題への対応に関して国際社会でリーダーシップを発揮する。また、アジアの共通課題に取り組むため、「東アジア・アセアン経済研究センター」を創設する。


3.労働市場改革

 人口減少下で貴重な人材がいかされるには、すべての人が働きがいと意欲を持ち、自らの希望に基づいて安心して働けることが重要である。その観点から、複線型でフェアな働き方の実現に向けた労働市場改革に取り組む。


【改革のポイント】

1.働き方の改革の第一弾として、仕事と家庭・地域生活の両立が可能なワーク・ライフ・バランスの実現に向け、「ワーク・ライフ・バランス憲章」(仮称。以下、「憲章」という。)及び「働き方を変える、日本を変える行動指針」(仮称。以下、「行動指針」という。)を策定する。

2.労働市場改革について引き続き検討を進める。


【具体的手段】

(1)「憲章」及び「行動指針」の策定

 経済財政諮問会議「労働市場改革専門調査会」(以下、「専門調査会」という。)、男女共同参画会議「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会」、「『子どもと家族を応援する日本』重点戦略検討会議」の提言31等を踏まえ、関係府省の連携の下に、平成19年内を目途に「憲章」及び以下の内容を含めた「行動指針」を策定する。経済財政諮問会議は、策定作業の進ちょく状況について報告を受け、議論を行う。

31 経済財政諮問会議「労働市場改革専門調査会第1次報告」(平成19年4月6日)
 男女共同参画会議「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会中間報告」(平成19年5月24日)
 「『子どもと家族を応援する日本』重点戦略検討会議中間報告」(平成19年6月1日)

・就業率向上や労働時間短縮などの数値目標

・ワーク・ライフ・バランス社会の実現度を把握するための指標の在り方

・ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた支援施策、制度改革等に関する政府の横断的な政策方針

・経済界・労働界を含む国民運動の推進に向けた取組方針


(2)労働市場改革についての検討

 専門調査会において、冒頭の趣旨を踏まえて労働市場改革をめぐる課題について引き続き検討を進め、その報告等を踏まえ、経済財政諮問会議で議論を行う。


4.地域活性化

 「地域の活力なくして国の活力なし」―地域経済の離陸のため、総合的な活性化政策を展開し、「魅力ある地域」に生まれ変わるよう支援する。また、耕作放棄地の増大、従事者の急速な高齢化、それらによる生産の長期低落などの危機的状況を乗り切り、競争力ある強い農林水産業への第一歩を踏み出し、農山漁村地域を活性化する。


【改革のポイント】

1.「地域力発掘支援新戦略」32に基づき、総合的な地域活性化政策として、施策の体系化・全国への情報発信、「頑張る地方応援プログラム」、横断的制度基盤の強化・活用等により、地域の取組を支援する。

32 「地域活性化政策体系〜『魅力ある地域』への変革に向けて〜」(平成19 年2月5日)

2.農林水産業の潜在能力を最大限発揮させ、強い農林水産業を目指す。

(1)「21世紀新農政2007」33を着実に実施する。強い経営意欲を有する農業経営者の活躍や小規模農家も参加する集落営農の組織化、新規参入の促進等により、産業として飛躍する農業の実現、流通の合理化・効率化を目指して改革を進める。都市農業の一層の振興を図る。また、新たな基本計画34に基づき、林業・木材産業と山村の再生、力強い水産業と活力ある漁村の確立を目指した構造改革を推進する。

33 「21世紀新農政2007」(平成19年4月4日)

34 「森林・林業基本計画」(平成18年9月8日閣議決定)
 「水産基本計画」(平成19年3月20日閣議決定)

(2)農地の「所有」と「利用」の分離:農業の生産性を高め強い農業を目指すには、農地の集約化、規模拡大が不可欠である。このため、農地について「所有」から「利用」へ大転換を図り、徹底的に有効活用する。


【具体的手段】

(1)総合的な地域活性化政策(「地域力発掘支援新戦略」)の展開

 (1) 施策の体系化・全国への情報発信

 地域のやる気を引き出す「地域活性化応援隊」を派遣するとともに、「地域再生総合プログラム」35に示された施策の着実な実施、地域の担い手のネットワーク(ソーシャル・キャピタル)の充実のための枠組み整備を図る。

35 「地域再生総合プログラム」(平成19年2月28日)


 (2) 「頑張る地方応援プログラム」の展開

 地方独自のプロジェクトを自ら考え、前向きに取り組む地方公共団体に対し、地方交付税等の支援措置を講ずる。


 (3) 横断的制度基盤の強化・活用等

・都市再生、中心市街地活性化、構造改革特区、地域再生などの取組を強化・活用する。また、都市部における地籍整備を推進する。

・広域的地域(ブロック)の自立・活性化のための公共施設等の整備、地域の強みを活かした企業立地促進、地域公共交通の活性化・再生、農山漁村における定住等及び地域間交流の促進等を図る。


(2)農地改革案の取りまとめ

 農地の「所有」から「利用」を促すため、下記の点について検討を進め、農林水産省が平成19年秋までに取りまとめる農地に関する改革案と工程表に含める。

(1) 5年程度を目途に、農業上重要な地域を中心に耕作放棄地ゼロを目指す。

(2) 農地リースの加速:定期借地権的制度、農地利用料における市場の需給の反映、農地の一般企業への賃貸促進等を通じて、農業経営者への農地の集積を促進する。

(3) 法人経営の促進:経営の多角化や資本の充実等の観点から、農業生産法人の要件を見直す。農地の権利の設定・移転をしやすい仕組みをオプションとして用意する。


(3)農業の構造改革の全体像と工程表

 農地を含めた農業改革の全体像と工程表について、農林水産省は、経済財政諮問会議で議論も行い、平成19年秋までに取りまとめ、改革を順次具体化する。


(4)林業、水産業の活性化

 「緑の雇用」の活用、森林作業の集約化、生産・流通の改善による国産材安定供給体制の確立、間伐材等の活用による国産材利用拡大を行う。また、漁船漁業構造改革対策の推進、新しい経営安定対策の導入を行う。

第3章 21世紀型行財政システムの構築

 戦後レジームから脱却するために最も重要な課題は行政システム、財政システムの改革である。官主導、中央集権型の政府からの脱却を図り、人口減少やグローバル化に対応した21世紀型の行財政システムを構築しなければならない。

 そのため、第1に、後世代に負担を先送りしないために、財政健全化の一里塚として「基本方針2006」で示された歳出・歳入一体改革を確実に実現する。第2に、基本哲学を踏まえ、抜本的な税制改革を行う。第3に、予算編成を戦略的かつ効果的なものとするための予算制度改革を行う。第4に、公務員制度を根本から改革し、公務員が誇りと意欲を持ち、かつ国民から信頼される制度にする。第5に、21世紀にふさわしい行政機構の抜本的な改革、再編に向け、行政のスリム化を進めるとともに、政府の機能全体を見直す。その第一歩として、独立行政法人の整理・合理化や政府資産債務改革を行う。第6に、道州制を含む本格的な地方分権改革を行う。


 1.歳出・歳入一体改革の実現

 「成長なくして財政健全化なし」の理念の下、経済成長を維持しつつ、国民負担の最小化を第一の目標に、歳出改革に取り組む。それでも対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定財源を確保し、将来世代への負担の先送りを行わないようにする。こうした取組を進め、2011年度における基礎的財政収支の黒字化や、2010年代半ばに向けての債務残高GDP比の安定的な引下げなど、「進路と戦略」に定められた中期的な財政健全化の目標36を確実に達成する。

36  「まずは2011年度には、国・地方の基礎的財政収支を確実に黒字化させる。財政状況の厳しい国の基礎的財政収支についても、できる限り均衡を回復させることを目指し、国・地方間のバランスを確保しつつ、財政再建を進める。地方については、国と歩調を合わせた抑制ペースを基本として歳出削減を行いつつ、歳入面では一般財源の所要総額を確保することにより、黒字基調を維持する。
  2010年代半ばにかけては、基礎的財政収支の黒字化を達成した後も、国、地方を通じ収支改善努力を継続し、一定の黒字幅を確保する。その際、安定的な経済成長を維持しつつ、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを確保する。国についても、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを目指す。」

 その際、「進路と戦略」に沿って、各年度の予算が財政健全化の中期目標の確実な達成と整合的であるかどうかを点検する。また、税制や社会保障制度等の改革に当たっては、世代間・世代内各層への影響について点検する。


 【改革のポイント】

1.真に必要なニーズにこたえるための財源の重点配分を行いつつ、「基本方針2006」で示された5年間の歳出改革を実現する。そのため、主要な分野について制度改革等の道筋やその取組を示す。

2.平成20年度予算は、この歳出改革を軌道に乗せる上で極めて重要な予算であることから、歳出全般にわたって、これまで行ってきた歳出改革の努力を決して緩めることなく、国、地方を通じ、引き続き「基本方針2006」に則り、最大限の削減を行う。

3.「進路と戦略」で示した予算編成の原則に沿って、「新たに必要な歳出を行う際は、原則として他の経費の削減で対応する」、「税の自然増収は安易な歳出等に振り向けず、将来の国民負担の軽減に向ける」など、規律ある財政運営を行う。

4.こうした歳出改革の取組を行って、なお対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定財源を確保し、将来世代への負担の先送りは行わない。


【具体的手段】

 歳出削減を一段と進め、財政の無駄を無くすとの基本方針を堅持し、真に必要なニーズにこたえるための財源の重点配分を行いつつ、歳出改革を着実かつ計画的に実施する。

 平成20年度予算においては、歳出全般にわたって、これまで行ってきた歳出改革の努力を決して緩めることなく、国、地方を通じ、引き続き「基本方針2006」に則り、最大限の削減を行う。

 これらの観点に立って、主要な分野については、以下の取組を行う。


(1)公共投資改革

 (1) 更なる重点化、効率化の推進

 地域の自立・活性化、我が国の成長力強化、防災・減災等による安全・安心の確保等の観点から、真に必要な公共投資を選別するとともに、入札・契約制度改革の推進、コスト縮減などを通じ、更なる重点化・効率化を推進する。


 (2) 公共投資に関する基本的考え方

 人口の減少、厳しい財政状況、地方分権の必要性、環境制約の強まりなど、我が国が直面している構造変化を踏まえ、公共投資は以下のような基本的考え方に沿って行う。

i)過去に作られた様々な計画や目標については、経済成長の動向や出生率の低下等を踏まえ、必要な見直しを行っていく。

ii)投資に当たっては、整備状況を踏まえ、既存資本の維持・長寿命化を重視する。

iii)公共投資に関する計画においては、これまでの改革の方向性に沿って、アウトカム(成果)目標を重視する。

iv)事業評価に関する第三者機関の機能を拡充することなどにより、真に必要な公共投資の選別を推進する。

v)実績が事前の評価を下回る公共投資の事例等を十分に把握し、予算の重点化に活用する。

vi)公共投資に関する国と地方の明確な役割分担の下、引き続き補助事業・直轄事業の見直しを進める。


 (3) 入札談合の廃絶

 入札談合を廃絶し、公共事業に対する国民の不信感を払拭する。一般競争入札が原則との原点に立って、国、地方を通じ、その適用範囲を計画的に拡大していく。また、入札談合等不正行為を行った場合のペナルティーについては、十分な抑止力を持つよう強化する。さらに、予定価格・落札内容に関する情報を、より詳細かつ分かりやすく公表する。


 (4) コスト縮減の継続

 「公共事業コスト構造改革プログラム」37を確実に実行する。平成20年度以降も新たなコスト縮減計画を策定し、取組を継続する。同時に、PFIを一層活用し、民間の知見・資金を活用する。

37 「公共事業コスト構造改革プログラム」(平成15年9月18日)


(2)社会保障改革

 (1) 医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム

 医療・介護サービスについて、質の維持向上を図りつつ、効率化等により供給コストの低減を図る。このため、以下の取組を盛り込んだ平成20年度から24年度までの5年間を基本とする「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」38等を推進する。

38 「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」(平成19年5月15日)

生活習慣病対策39・介護予防40の推進、平均在院日数の短縮41、在宅医療・在宅介護の推進と住宅政策との連携、診療所と病院の役割の明確化42、EBM43の推進と医療の標準化、重複・不要検査の是正、後発医薬品の使用促進44、不正な保険医療機関や介護サービス事業者等への指導・監査の強化45、医師・看護師等の医療従事者等の役割分担の見直し、診療報酬・介護報酬の見直し、包括払いの促進46、IT化の推進(原則レセプト完全オンライン化47、健康ITカード(仮称)導入に向けた検討)、地域医療提供体制の整備、医療情報の提供、医療・介護の安全体制の確保等

39 平成27年度までに、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の該当者及び予備群を平成20年度比で25%以上減少(平成24年度までに10%以上減少)させる。

40 平成17年から26年までの10年間で、要介護者を「7人に1人」から「10人に1人」にする。

41 全国平均と最短の県との差を平成24年度までに3分の1短縮し、27年度までに半分にする。

42 平成20年度中に、地域連携クリティカルパスを全国実施する。

43 EBM(Evidence-based-Medicine):根拠に基づく医療

44 平成24 年度までに、数量シェアを30%(現状から倍増)以上にする。

45 保険医療機関の個別指導数について毎年8000か所を目指す等

46 平成24年度までに、DPC(1日当たり包括払い)支払い対象病院数を当面1000(現状3倍増)にする。

47 平成22年4月までに8割以上、23年4月までに原則すべてのレセプトオンライン化を行う。


 (2) 同プログラムの強化と検証

 同プログラムに定めた目標の実現に向けて、実効性のある改革の取組を進め、平成20年度予算から順次反映させる。また、厚生労働省は、同プログラムの実施状況を検証した上で、経済財政諮問会議に適宜報告する。これに基づき、必要に応じてプログラムの見直しを行い、PDCAサイクルを貫徹する。


 (3) 公立病院改革

 総務省は、平成19年内に各自治体に対しガイドラインを示し、経営指標に関する数値目標を設定した改革プランを策定するよう促す。

 なお、上記のプログラムを踏まえ、平成19年内に「基本方針2006」を達成するための道筋を示す。


(3)公務員人件費改革

 国・地方を通じた行政改革地方分権改革の推進、地域の民間給与のより一層の反映等を通じ、公務員人件費について、「基本方針2006」で示された歳出削減(2.6兆円程度)を上回る削減を目指し、改革を具体化する。公務員給与について、特に民間事業者と比べて水準が高いとの指摘のある地方の技能労務職員を始めとして、地域の民間給与をより一層反映させることとし、可能なものは平成20年度からの実施に取り組む。

 なお、「基本方針2006」に示されたとおり、平成23年度までの5年間に実施すべき歳出改革の内容は、機械的に5年間均等に歳出削減を行うことを想定したものではない。それぞれの分野が抱える特殊事情や既に決まっている制度改革時期とも連動させ、また、歳入改革もにらみながら、5年間の間に必要な対応を行うという性格のものである。


2.税制改革の基本哲学

 21世紀の我が国にふさわしい税制を構築するため、所得税、消費税、法人税など税制全般について、「納税者の立場に立つ」「経済社会の変化に対応する」「省庁の縦割りを超え、受益と負担の両面から総合的に検討する」という3つの視点で点検し、税体系の抜本的改革を実現する。


 平成19年秋以降、税制改革の本格的な議論を行い、平成19年度を目途に、社会保障給付や少子化対策に要する費用の見通しなどを踏まえつつ、その費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく、取り組む。その際、「基本方針2006」で示された歳入改革の基本的考え方や与党税制改正大綱を踏まえることとする。


【実現すべき6つの柱】

(1)イノベーションとオープンな経済システムによる経済成長の加速

・成長力強化、生産性向上に向けて、税制を含めた総合的取組を行う。

・生産活動や就労への意欲を阻害しないよう、「広く薄く」の観点も踏まえ、課税の在り方を検討する。

・リスクへの挑戦を促す観点から、金融所得課税等の在り方を検討する。


(2)多様なライフスタイルや経済活動の確保

・就業、結婚、出産などにおける各人の選択に対して、歪みをもたらさないよう、税制の在り方を検討する。

・投資等の経済活動に対して、税が歪みをもたらさないよう、また租税回避行動による不公平や資源のロスが生じないよう制度を検討する。

・効率的な政府を目指す中で、「公」の分野における国民や企業の多様な活動の展開を促すよう、寄付金税制等の在り方を検討する。


(3)世代間・世代内の公平の確保

・受益と負担の双方を含めた制度全体の検討を通じ、真に必要な人に必要な対応がなされるようにするとともに、世代を超えた格差の固定化を防ぐ。


(4)税と社会保障の一体的設計による持続可能で安心できる仕組みの構築

・社会保障や少子化対策については、国民の受益と負担の水準についての複数の選択肢など、幅広い観点から検討を進める。

・歳出改革によっても対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定財源を確保し、将来世代への負担の先送りを行わないようにする。


(5)真の地方分権の確立

・財源における地方の自立性を高めるため、国・地方の財政状況を踏まえつつ、国庫補助負担金、地方交付税、税源移譲を含めた税源配分の見直しの一体的な改革に向け地方債を含め検討する。

・法人二税を中心に税源が偏在するなど地方公共団体間で財政力に格差があることを踏まえ、地方税の在り方や国と地方の間の税目・税源配分(地方交付税財源を含む)の見直しなど、地方間の税源の偏在を是正する方策について検討し、その格差の縮小を目指す。


(6)納税者の信頼確保と公平・効率的な徴収体制の構築

・納税者番号の導入に向けて、社会保障番号との関係の整理等を含め具体的な検討を進める。

・税制を簡素化するとともに、電子申告を促進し、徴収方法を効率化する。


3.予算制度改革

 歳出・歳入を一体的にとらえ、予算を戦略的かつ効果的なものとするため、以下の改革を推進する。


【改革のポイント】

1.「予算の全体像」の策定等を通じ、予算の戦略性、総合性を強化する。

2.各年度の予算と財政健全化の中期目標との整合性を確保する。

3.明確な原則の下で予算編成を行う。

4.政策評価を予算の効率化等に適切に反映する。


【具体的手段】

(1)「予算の全体像」の策定等を通じた戦略的かつ効果的な予算編成

 「予算の全体像」の策定に当たっては、府省の縦割りを超え、戦略的かつ効果的な予算編成を行う観点から、毎年度の「基本方針」に沿って、歳出・歳入を一体的にとらえるとともに、マクロ経済との整合性など幅広い観点から検討を行う。


(2)中期目標との整合性

 「進路と戦略」に沿って、各年度の予算が財政健全化の中期目標と整合的であるかどうかを、「予算の全体像」策定時など、予算編成の要所において確認する。

 また、公共事業等の各種中期計画については、「進路と戦略」や毎年度の「基本方針」と整合的なものとする必要がある。


(3)予算編成の原則

 予算編成は以下の原則に基づいて行う。

原則1:民間需要主導の経済成長を目指し、景気を支えるために、政府が需要を積み増す政策はとらない。

原則2:税の自然増収は安易な歳出等に振り向けず、将来の国民負担の軽減に向ける。

原則3:経済成長と財政健全化を両立させるため、中期的な視点を重視する。すなわち、税収の増える好況期に健全化のペースを速める一方、税収の落ち込む不況期にはペースを抑制するなど、柔軟に健全化に取り組む。

原則4:新たに必要な歳出を行う際は、原則として他の経費の削減で対応する。

原則5:国民への説明責任を徹底する。


(4)政策評価の機能の発揮

 平成19年末から次の方法で経済財政諮問会議と総務省・各府省の政策評価に関する連携を強化することにより、評価結果を活用し、予算の効率化等国の政策に適切に反映する。

(1) 総務大臣は、各府省の評価の実施状況に関する「政策評価・独立行政法人評価委員会」の調査審議を踏まえ、毎年末、経済財政諮問会議に、重要対象分野の選定等について意見を述べる。

(2) これに対し、経済財政諮問会議は、政策評価の重要対象分野等を提示する。総務大臣は当該提示を踏まえた評価の実施を推進する。


(5)予算書・決算書の見直し

 政策ごとに予算と決算を結び付け、予算とその成果を評価できるように、予算書・決算書の表示科目の単位(項・事項)と政策評価の単位とを対応させる等の見直しを行い、平成20年度予算から実施する。


(6)「年次報告書」の充実

 各府省が平成18年度から公表している財務情報等の「年次報告書」が、国民に予算のPDCAを説明するものとなるよう、更なる充実を図る。


4.公務員制度改革

 戦後レジームからの脱却の中核的な改革として取り組み、21世紀にふさわしい行政システムを支える公務員像を実現する。


【改革のポイント】

1.能力・実績主義を導入し、採用試験の種類や年次にとらわれず、官民を問わずオープンに優秀な人材をいかす仕組みとする。

2.再就職規制に取り組み、押し付け的あっせんなど国民の信頼を損なう不透明性を排除する。

3.採用から退職までの公務員の人事制度全般の課題について、パッケージとしての改革を進める。

4.改革の全体像を念頭に置きながら、実現できる改革から迅速に実現し、公務員制度改革を前進させる。


【具体的手段】

 「公務員制度改革について」48に基づき、以下の改革に取り組む。

48 「公務員制度改革について」(平成19年4月24日閣議決定)


(1)国家公務員法等改正法案に盛り込まれた改革の実施

 (1) 能力・実績主義

 能力本位の任用制度の確立等を図る。


 (2) 再就職規制

 各府省による職員又は職員であった者の再就職あっせんを禁止し、官民人材交流センター(以下、「センター」という。)に一元化する。センターは平成20年中に設置することとし、一元化実施時期は、センター設置後3年以内とする。センターの制度設計については、官房長官の下に置く有識者懇談会での意見を踏まえ、内閣において検討する。再就職等監視委員会の準備室を早急に立ち上げる。


(2)パッケージとしての改革の推進

 総理の下に有識者からなる検討の場を設け、公務員の採用の在り方や退職までの人事管理の在り方など、これまで経済財政諮問会議において議論されてきた論点49も踏まえつつ、下記の課題を含む公務員の人事制度全般の課題について総合的・整合的な検討を進める。

49 幹部公務員の人事管理の在り方、国際機関の幹部候補者育成のための仕組み等


(1) 専門スタッフ職の早期導入

(2) 他府省及び民間を含めた公募制の導入

(3) 官民交流の抜本的拡大

(4) 定年延長


(3)労働基本権の在り方の検討

 労働基本権については、「行政改革推進本部専門調査会」における審議(平成19年秋を目途に結論)を踏まえ、改革の方向で見直す。


(4)「国家公務員制度改革基本法案」(仮称)の提出

 公務員制度の総合的な改革を推進するための基本方針を盛り込んだ法案を次期通常国会に向けて立案し、提出する。


5.独立行政法人等の改革

 政府が果たすべき機能の見直しの第一弾として、独立行政法人の改革を行う。現行の独立行政法人が制度本来の目的にかなっているか、制度創設後の様々な改革と整合的なものとなっているか等について、原点に立ち返って見直す。また、平成19年10月からの郵政民営化及び平成20年10月からの政策金融機関の新体制への移行を円滑・確実に実施する。


【改革のポイント】

 すべての独立行政法人(101法人)について、民営化や民間委託の是非を検討し、「独立行政法人整理合理化計画」を策定する。また、郵政民営化及び政策金融改革を円滑・確実に実施する。


【具体的手段】

(1)独立行政法人見直しの3原則

 「行政改革推進本部」は、総務省と連携して、次の原則に基づき、101全法人を対象に見直しを行う。

原則1:「官から民へ」原則:民間にゆだねた場合には実施されないおそれがある法人及び事務・事業に限定する。それ以外は、民営化・廃止又は事務・事業の民間委託・廃止を行う。

原則2:競争原則:法人による業務独占については、民間開放できない法人及び事務・事業に限定する。それ以外は、民営化・廃止又は事務・事業の民間委託・廃止を行う。

原則3:整合性原則:他の改革(公務員制度改革、政策金融改革、国の随意契約の見直し、国の資産債務改革)との整合性を確保する。


(2)「独立行政法人整理合理化計画」の策定

 上記の見直しの結果を踏まえ、平成19年内を目途に「独立行政法人整理合理化計画」を策定する。


(3)独立行政法人の不断の見直し

 存続する法人については、そのすべての事務・事業について市場化テスト導入の検討対象とする。


(4)見直しの進め方

 (1)の3原則を踏まえ、政府としての整理合理化計画の具体的な策定方針を速やかに決定し、各主務大臣はその方針に沿って所管する全法人についてそれぞれの整理合理化案を平成19年8月末を目途に策定する。

 これに合わせ、中期目標期間終了時の見直しについて、平成19年度に見直す23法人に加え、平成20年度に見直す12法人についても前倒しで対象とする。

 各主務大臣の作成した整理合理化案については、「行政減量・効率化有識者会議」と「政策評価・独立行政法人評価委員会」、「規制改革会議」、「官民競争入札等監理委員会」(以下、「監理委員会」という。)及び「資産債務改革の実行等に関する専門調査会」とが連携を図りつつ議論を行い、「行政減量・効率化有識者会議」においてそれらの議論を集約・検討した上で、平成19年内を目途に「行政改革推進本部」において整理合理化の内容を取りまとめ、政府として「独立行政法人整理合理化計画」を策定する。


(5)郵政民営化の確実な実施

 「郵政民営化法」50の基本理念に従い、平成19年10月からの郵政民営化を円滑・確実に実施する。

50 「郵政民営化法」(平成17年法律第97号)


(6)政策金融改革の確実な実施

 平成20年10月から政策金融機関を確実に新体制に移行させるとともに、平成20年度末における政策金融の貸付残高の対GDP比を平成16年度末に比べて半減させる。


6.資産債務改革

 ストック面から政府の効率化を促し、資産・債務の両面のリスクを縮小するとともに、資産の売却・有効活用により地域経済の活性化を図り、成長力の強化につなげる。


【改革のポイント】

1.国の資産規模について、平成27年度末に対GDP比の半減を目指し、「工程表」に沿って着実に圧縮する。経済財政諮問会議に置かれた専門調査会51がチェック・フォローを行い、改革を具体化する。

51 「資産債務改革の実行等に関する専門調査会」

2.独立行政法人、国立大学法人や地方公共団体等について、それぞれ国の取組を踏まえつつ目標を明確にし、改革を推進する必要がある。

3.特別会計改革や公会計改革を資産債務改革と並行して進め、相乗効果を得る。


【具体的手段】

(1)民間の知恵をいかした国の資産規模の圧縮

 国の資産規模の圧縮に当たり、実物資産については、類型ごとの処分方針の明確化や売却等における民間提案をいかす仕組みについて平成19年内を目途に具体化を行う。また、金融資産については、財政融資資金の新規融資の一層の重点化・効率化を進めるとともに、メリットとコストの考え方を整理しつつ民間の知見をいかした証券化を推進する。


(2)独立行政法人、国立大学法人における資産債務改革の推進

 独立行政法人における資産債務改革を独立行政法人改革及びその改革工程と整合性を取りつつ推進する。国立大学法人についても、大学改革との整合性を取りながら、同様に改革を推進する。その際、民間の知見を活用しつつ、最も有効な処分を行う観点から、担当組織の設置を検討する。


(3)地方の資産債務改革の推進

 地方公共団体は、地方公社、第三セクターを含む資産債務改革について、国の取組を踏まえつつ目標を明確にし、改革を推進するとともに、前出の「地域力再生機構」との連携を含め、民間の知見や人材を活用する方策を検討する必要がある。


(4)特別会計改革の加速

 特別会計改革については、「行政改革推進法」52及び「特別会計に関する法律」53に沿って、特別会計の統廃合、財政健全化への寄与(20兆円程度)等を確実に実行する。特別会計の更なる統廃合に向けた検討や、実質的な歳出(平成19年度予算で11.6兆円)の更なる縮減を中心に改革を加速する。

52 「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年法律第47号)

53 「特別会計に関する法律」(平成19年法律第23号)


7.市場化テストの推進

 「公共サービス改革法」54に基づく市場化テストの積極的な導入を推進し、国・地方における公共サービスの質の維持向上と経費削減を図る。

54 「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(平成18年法律第51号)


【改革のポイント】

1.対象事業の抜本的拡大:市場化テストの対象事業の抜本的拡大に向けて、重点分野を定めて集中的に取り組む。

2.独立行政法人等の市場化テスト:独立行政法人改革と歩調を合わせ、市場化テストを実施する。また、地方公共団体についても、指定管理者制度の導入とともに拡大する。

3.各府省の取組の評価:各府省の市場化テストへの取組状況について評価を行う。


【具体的手段】

(1)対象事業の抜本的拡大

 監理委員会が平成19年2月に選定した「ハローワーク等」、「統計調査」、「公物管理」、「窓口」、「徴収」、「施設・研修等」の6つの重点分野を中心に、各府省・独立行政法人において、監理委員会と十分に協議しつつ、市場化テストの対象事業の拡大について自主的・積極的な検討を行い、検討結果を平成19年の「公共サービス改革基本方針」の改定に反映する。


(2)ハローワーク

 東京23区内のハローワーク2か所における無料の職業紹介について、利用者の立場に立ち官と民のイコールフッティングが実質的に確保されるよう、所要の法改正を行うとともに監理委員会の審議を経た上で、平成20年度を目途に市場化テストを行う


(3)統計調査関連業務

 統計調査関連業務について、統計調査の民間開放を促すためのガイドラインの改定等を踏まえ、「統計法」55の本格施行を視野に入れて、市場化テストの導入を積極的に推進する

55 「統計法」(平成19年法律第53号)


(4)各府省の取組の評価

 監理委員会は各府省の市場化テストへの取組状況を定期的に質・量両面からスコアで評価し、公表するとともに、これを経済財政諮問会議に報告することを通じて、市場化テストへの取組強化を促す。


8.地方分権改革

 戦後レジームから脱却するため、国が地方のやるべきことを考え、押し付けるという、今までの国と地方の関係を大胆に見直し、「地方が主役の国づくり」を目指す。あわせて、地方分権改革の総仕上げである道州制実現のための検討を加速する。


【改革のポイント】

1.「新分権一括法案」(仮称。以下同じ。)を3年以内に国会に提出する。このため、「地方分権改革推進委員会」において、「基本的な考え方」56に基づき、国と地方の役割分担等について検討を進める。

56 「地方分権改革推進にあたっての基本的な考え方―地方が主役の国づくり―」(平成19年5月30日)

2.地方財政全体が地方分権にかなった姿になるよう、国・地方の財政状況を踏まえつつ、国庫補助負担金、地方交付税、税源配分の一体的な改革に向け地方債を含め検討する。あわせて、地方間の税源の偏在を是正する方策について検討する。

3.地方支分部局を大胆に合理化する抜本改革に向けた検討を行う。

4.道州制の本格的な導入に向けた「道州制ビジョン」を策定する。


【具体的手段】

(1)「新分権一括法案」の提出

 「地方分権改革推進法」57に基づいて、必要な法制上又は財政上の措置等を定めた「地方分権改革推進計画」を策定し、「新分権一括法案」を3年以内に国会に提出する。このため、「地方分権改革推進委員会」において、「基本的な考え方」に基づき、国と地方の役割分担や国の関与の在り方の見直し等について検討を進め、平成19年秋に中間的な取りまとめを行うとともに、おおむね2年以内を目途に順次勧告を行う。

57 「地方分権改革推進法」(平成18年法律第111号)


(2)地方税財政改革の推進

 国・地方の財政状況を踏まえつつ、国庫補助負担金、地方交付税、税源移譲を含めた税源配分の見直しの一体的な改革に向け地方債を含め検討する。あわせて、法人二税を中心に税源が偏在するなど地方公共団体間で財政力に格差があることを踏まえ、地方間の税源の偏在を是正する方策について検討し、その格差の縮小を目指す。

 地方公共団体が自ら税を徴収し、住民が負担との見合いで行政サービスを選択することができるようにするため、「住民の選択が機能し、地方公共団体の努力がいきる税財政にする」、「地方分権の時代にふさわしい国税・地方税の設計にする」、「国から地方への財源配分は、予見性・安定性・透明性を重視する」ことが重要であり、このため、「地方分権改革推進委員会」は、「基本的な考え方」に基づき、地方税財政改革を検討する。

 また、「ふるさと」に対する納税者の貢献や、関わりの深い地域への応援が可能となる税制上の方策の実現に向け、検討する。


(3)地方支分部局の抜本改革

 地方支分部局の抜本改革に向け、「地方分権改革推進法」に沿った地方への移譲と合理化を「地方分権改革推進委員会」において検討する。


(4)道州制実現のための検討の加速

 「道州制ビジョン」の策定に向け、「道州制ビジョン懇談会」において、平成19年度中に道州制の理念や大枠等について論点を整理した中間報告を取りまとめる。


第4章 持続的で安心できる社会の実現

 次の世代に自信を持って引き継げる社会をつくるために、以下に取り組む。

 第1に、地球環境問題に積極的に対応し、「京都議定書」58の目標達成、2013年以降の国際枠組みづくりに貢献する。

58 「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」(平成9年12月11日)

 第2に、未来を担うすべての子どもたちのために、社会総がかりで教育再生に取り組む。

 第3に、仕事と両立させながら安心して子育てができる社会にし、また失敗しても何度でも再挑戦できる社会にする。

 第4に、すべての人にとって分かりやすく親切で信頼でき、かつ持続可能で安全・安心な質の高い社会保障サービスを構築する。

 第5に、世界に誇れる治安を取り戻し、自然災害等にも強靭な社会にする。また、エネルギー政策を戦略的に推進する。

 第6に、多様なライフスタイルを支える環境づくりを行う。

 このため、下記1.〜6.の施策を重点的に実施するとともに、「『子どもと家族を応援する日本』重点戦略検討会議」の中間報告、「教育再生会議」の第二次報告、「『多様な機会のある社会』推進会議」、「青少年育成推進本部」の下に設置した「キャリア教育等推進会議」の取りまとめ59を踏まえた取組を行う。

59 「再チャレンジ支援総合プラン」(平成18年12月25日)
 「再チャレンジ支援策の今後の方向性」(平成19年5月31日)
 「キャリア教育等推進プラン」(平成19年5月29日)


1.環境立国戦略

 「21世紀環境立国戦略」60に示された生物多様性保全、持続可能な資源循環の確保などの戦略を推進しつつ、地球温暖化問題に積極的に取り組み、環境保全と経済成長を実現する。

60 「21世紀環境立国戦略」(平成19年6月1日閣議決定)


【改革のポイント】

1.京都議定書削減目標の確実な達成に向け、取組を加速する。

2.世界全体の温室効果ガス排出量を現状に比して2050年までに半減することを目指し、リーダーシップを発揮する。


【具体的手段】

(1)京都議定書削減目標の確実な達成に向けた取組の加速

・政府は、庁舎のグリーン化など温室効果ガスの削減に率先して取り組むとともに、自治体に実行計画の公表を要請する。

・産業部門等については、環境省及び各所管府省として、サービス業を中心とした未策定業種での自主行動計画61の策定・公表を要請するとともに、既策定業種での目標引上げ、目標の定量化等を促進する。また、中小企業における排出削減対策を推進する。

61 京都議定書目標達成計画上位置付けられている、産業界が業種ごとに自主的に作成する排出削減計画

・業務・家庭部門等については、住宅・建築物の省エネ性能の向上、省エネ機器の普及促進を図るとともに、政府として、「1人1日1kg」の温室効果ガスの削減をモットーとして、ライフスタイルの見直しや、家庭と職場での努力や工夫を呼びかけ、新しい提案の公募を行いながら、国民運動を展開する。

・国民運動の一環として、サマータイムあるいはそれに準じた取組(勤務・営業時間の繰上げ)の早期実施について検討する。その実施が残業時間の延長につながらないようワーク・ライフ・バランスの取組を並行して進める。

・バイオマス等新エネの導入、「美しい森林づくり推進国民運動」の展開を始めとする森林の整備・保全等の森林吸収源対策の着実な実施、京都メカニズムの活用等を進める。

・以上を踏まえた「京都議定書目標達成計画」62の見直しを平成19年度中に行う。また、その基本的内容を平成19年夏までに明らかにする。

62 「京都議定書目標達成計画」(平成17年4月28日閣議決定)


(2)2013年以降の国際枠組み構築に向けたリーダーシップの発揮等

・「2050年半減」の長期目標の実現に向けて、「革新的技術の開発」とそれを中核とする「低炭素社会づくり」という長期のビジョンとその実現への道筋を平成20年の北海道洞爺湖サミットに向けて明らかにする。

「美しい星50」63に示された3提案64・3原則65に基づき、我が国のリーダーシップの下で成功した、平成19年のハイリゲンダムサミットでの合意を基礎として、平成20年の北海道洞爺湖サミットにおいて、2013年以降の具体的枠組みづくりに成果を挙げられるよう取り組む。

63 「美しい星へのいざない―Invitation to Cool Earth 50」(平成19年5月24日)

64 「美しい星50(Cool Earth 50)」3つの提案
 提案(1):世界全体の排出量削減のための長期戦略の提唱
 提案(2):2013年以降の国際枠組み構築に向けた「3原則」の提唱
 提案(3):京都議定書の目標達成に向けた国民運動の展開

65 2013年以降の温暖化対策の具体的枠組みを設計するための3原則
 第1:主要排出国がすべて参加し、京都議定書を超え、世界全体での排出削減につながること。
 第2:各国の事情に配慮した柔軟かつ多様性のある枠組みとすること。
 第3:省エネなどの技術をいかし、環境保全と経済発展とを両立すること。

・同原則を実現していくため、途上国支援のためのある程度の長期で相当規模の新たな「資金メカニズム」の構築を検討し、国際社会にも同調を呼びかけ、協調して行う。また、エネルギー効率の向上に関する国際的取組を世界に拡大するとともに、原子力の安全で平和的な利用拡大のための国際的取組・支援を推進する。さらに、途上国の公害対策と温暖化対策の一体的取組のための協力方策や、排出量取引、経済的インセンティブなどの手法を、施策の効果や経済への影響など幅広い観点から検討する。

・上記の地球温暖化問題への取組に加え、3R66、エコイノベーション67、環境教育、農林水産業の環境保全機能の発揮、水不足・水質汚濁等世界の水問題への対応、違法伐採対策及びヒートアイランド対策等を含め、低炭素社会、循環型社会及び自然共生社会を実現するための取組を統合的に推進する。

66 3R:廃棄物の発生抑制:Reduce、再使用:Reuse、再生利用:Recycle

67 我が国の強みである「ものづくり」と「環境・省エネ」の技術力を梃子に、持続可能な社会の実現に向けた技術革新と社会システム面での改革を一体的に推進するもの。


 2.教育再生

 資源の乏しい我が国が少子高齢社会の下でも国際社会を生き抜くには、人材に期待しなければならない。すなわち、教育の基本である知・徳・体の原点に立ち戻り、基礎学力と規範意識を持った優れた人材を育成することは、必要不可欠な国家戦略である。勤勉な労働力と研究開発能力の上に経済成長が可能となることを考えれば、その基礎をなす国公私を通じた初等教育から高等教育までを重点とした教育再生は、最優先の課題として取り組まなければならない。

 およそ60年ぶりの教育基本法の改正68により、新しい時代の教育の基本理念が明確になった。この実現に向け、関係法令を改正し、真に必要な予算を確保し、教育に携わる者の意識改革を行うことによって、「教育新時代」は開かれる。

68 「教育基本法」(平成18年法律第120号)

 このため、教育再生会議の第二次報告等を踏まえ、社会総がかりで、教育の再生に全力で取り組むこととし、残された課題については、今後、教育再生会議において第三次報告に向けて検討するなど取組を進める。


【改革のポイント】

1.学力向上を目指し、夏休み等の短縮、朝の15分授業、1日の時間数の増、学校週5日制を基本とした、必要に応じた土曜日の授業などを各学校の裁量で行うことにより授業時数10%増を図る。【平成19年度中に学習指導要領などの改訂】

2.小学校で1週間の自然体験、中学校で1週間の社会体験を実施し、高等学校で奉仕活動を必修化する。また、徳育を「新たな枠組み」により、教科化し、多様な教科書・教材を作成する。【平成19年度中に学習指導要領などの改訂】

3.良き教師を確保するため、メリハリのある教員給与体系を実現する。【平成20年4月を目途に「教員給与特別措置法」69などの改正】

69 「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(昭和46年法律第77号)

4.国際化を通じた「大学・大学院改革」を進める観点から、教員の国際公募、外国人教員比率の増、英語による授業、国家戦略としての留学生政策を推進する。また、大学の4月入学原則を一層弾力化する。大学の取組を支援し全国立大学の9月入学枠設定を実現する。【平成19年度中に学校教育法施行規則の改正、国立大学の中期目標策定時のガイドライン、運営費交付金等で支援】

5.予算面では、第3章の「1.歳出・歳入一体改革の実現」と整合性を取りつつ、効率化を徹底しながら、メリハリをつけて教育再生に真に必要な予算について財源を確保する。


【具体的な手段】

(1)学力向上の取組

 (1) 授業時数の10%増

 夏休み等の活用、朝の15分授業の実施、40分授業にして7時間目の実施など弾力的な授業時間設定、学校週5日制を基本としつつ、必要に応じた土曜日の授業の実施。


 (2) 分かりやすく、魅力のある授業

 教科書の質量両面での充実、国語、英語などの充実、社会の要請に対応した教育内容・教科再編、全教室でITを授業に活用、発達障害児など特別な支援の必要な子どものための教員・支援員の適正配置や外部専門家の活用などすべての子ども一人ひとりに応じた教育。


 (3) 教員の質の向上及び教員が子どもと向き合う時間の大幅な増加

 社会人採用のための特別免許状の活用促進、教員免許更新制導入に向けた取組、授業内容改善のための教員研修の充実、メリハリのある教員給与体系を実現する中でのがんばる教員の処遇の充実、副校長・主幹等の教職員の適正配置、事務の共同実施体制の整備・事務の外部委託・地域の人材協力・教育現場のIT化等を通じた教員の事務負担の軽減、設備・教材の充実、学校施設耐震化など教育環境の向上。


 (4) 学校が抱える課題への機動的な対処

 学校の危機管理体制の整備、学校問題解決支援チームの創設、学校・教育委員会の説明責任の導入、全国学力・学習状況調査の結果の徹底的な検証及びその活用による教員定数や予算面での支援。


 (5) 学校現場の創意工夫による取組への支援

 学級編制基準の弾力化、習熟度別指導・少人数指導の教員や小学校高学年での専科教員の適正配置、定数の適正化、地域の実情に応じた学校選択制の普及、教材開発など教員のチームによる取組の支援、図書の充実。


(2)心と体の調和の取れた人間形成

 (1) すべての子どもたちに高い規範意識を身につけさせる取組

 徳育を教科化し、現在の「道徳の時間」よりも指導内容、教材を充実。


 (2) 体験活動の推進

 すべての子どもが自然体験(小学校で1週間)、社会体験(中学校で1週間)、奉仕活動(高等学校で必修化)を経験、そのための指導者の活動支援、専門高校や専修学校等が地域社会と連携して行う特色のある職業教育の取組の積極的支援。


 (3) 親の学びと子育てを応援する社会

 学校と家庭、地域の協力による徳育の推進、家庭教育支援や育児相談の充実、科学的知見の積極的な情報提供、幼児教育の将来の無償化の検討など幼児教育の充実、保護者に対する啓発活動による有害情報対策。


 (4) 地域ぐるみの教育再生にむけた拠点づくり

 「放課後子どもプラン」の全国での実施、地域ボランティアにより学校運営を支援する体制づくり、学校運営協議会の設置促進。


 (5) 社会総がかりでの教育再生のためのネットワークの構築

 校長、教育委員会の意識改革、コーディネーターの養成・確保。


(3)「教育新時代」にふさわしい財政基盤の在り方

 社会総がかりで、教育の基本にさかのぼった改革を推進し、「教育新時代」を開くためにも、教育予算の内容の充実は重要である。このため、教育予算については、効率化を徹底しながら、メリハリをつけて教育再生に真に必要な教育予算について財源を確保する必要がある。

・初等中等教育再生のための3つの具体策

 全国どこでも教育の機会均等を実現する。

 i)必要なところに重点的な支援

 ii)メリハリある教員給与体系の実現

 iii)地方における教育費の確保


 (4)大学・大学院改革(第2章参照)


3.少子化対策の推進・再チャレンジ支援

(1)少子化対策の推進

 少子化対策については、国や社会の存立基盤に関わる最重要政策課題であるという認識の下、「『子どもと家族を応援する日本』重点戦略検討会議」中間報告に示された基本的考え方に基づき、平成19年内に重点戦略を策定するなど、取組を強化する。


【基本的な考え方】

 (1) 働き方の改革によるワーク・ライフ・バランスの実現

 今後の人口減少社会における子育て世代の就業促進等による労働力確保と、結婚や出産に関する国民の希望の実現による出生率回復の要請とを同時に満たすため、「憲章」及び「行動指針」を策定し、社会全体でワーク・ライフ・バランスを推進する。


 (2) 包括的な次世代育成支援の制度的な枠組みの構築

 様々な働き方・ライフスタイルに対応し、特に3歳未満児に対する家庭的保育(保育ママ)や事業所内保育施設を含めた多様で弾力的な保育サービスの拡充、地域の子育て支援サービスの面的整備を進めるとともに、育児休業から保育への円滑な移行など利用者本位の切れ目のない支援を提供できる包括的な制度的枠組みを構築する。あわせて、児童虐待や障害など困難な状況にある子どもや家族に対する支援の強化を図る。


 (3) 施策の有効性の点検・評価

 利用者の視点に立って施策の有効性を点検・評価するための手法を開発するとともに、それに基づき、数値目標の見直しを含む「子ども・子育て応援プラン」70の改定等を進め、PDCAサイクルを定着させることにより、効果的かつ計画的に施策を遂行する。

70 「子ども・子育て応援プラン」(平成16年12月24日)


 (4) 少子化対策の財源の検討

 有効な少子化対策の実施のためには、一定規模の効果的な財政投入の検討も必要であると考えられる。この場合、次世代育成支援の財源については、税制改革や社会保障制度改革の中で総合的に検討を進める必要がある。また、次世代の負担によって費用を賄うことのないよう、現時点で手当しなければならない。個別施策の実効性や現物給付・現金給付のバランスに配慮しつつ、諸外国の企業拠出を含めた財源措置も参考にしながら、実効ある持続可能な家族政策のための財源規模や負担の在り方について、税制改革の議論と並行して国民的議論を行う。


(2)再チャレンジ支援

 勝ち組と負け組が固定化せず、働き方、学び方、暮らし方が多様で複線化している社会、すなわち、チャンスにあふれ、誰でも何度でもチャレンジが可能な社会を創り上げる。


【改革のポイント】

1.長期デフレ等による就職難、経済的困窮等からの再チャレンジ:フリーターの常用雇用化やニートの職業的自立を促進するとともに、多重債務者や事業に失敗した人などが再チャレンジできるよう支援する。

2.機会の均等化:様々な事情や困難を抱える人が就労や学習に積極的にチャレンジできるよう支援する。

3.複線型社会の実現:高齢者・団塊世代の活躍の場や社会人の学び直しの機会の拡大、二地域居住やUJIターンへの支援等を推進する。


【具体的手段】

(1)「再チャレンジ支援総合プラン」の着実な実行

 「再チャレンジ支援総合プラン」「再チャレンジ支援策の今後の方向性」に基づき、次の事項を中心に引き続き再チャレンジ支援を一体的かつ総合的に推進する。

地域において支援を必要とする若者を対象に、(1)すべての若者に対応、(2)1人の人があらゆる悩みに対応、(3)アウトリーチ(訪問支援)、(4)ネットワークの構築、(5)早期の対応、という5原則の下、支援を拡充する。

・二地域居住やUJIターン等の「暮らしの複線化」を推進するため、(1)社会的気運の醸成、(2)民間ビジネスとしての展開、(3)地域における活動の場の提供、(4)地域の受入れや交流促進のための仕組みの整備等の取組を強化する。


(2)キャリア教育等の推進

 すべての若者が主体的に進路を選択することができるよう、「キャリア教育等推進プラン」に基づき、関係施策を推進する。


4.質の高い社会保障サービスの構築

 社会保障は、人生のリスクに対するセーフティネットである。自立の精神を大切にしつつ、分かりやすく親切で信頼でき、かつ国民のニーズにこたえた安全・安心で質の高いサービスを安定的に提供する持続可能な制度を構築する。


【改革のポイント】

1.医療・福祉等について、医師確保対策、医療制度改革、「新健康フロンティア戦略」71、がん対策、障害者施策等を推進し、国民のニーズにこたえた質の高いサービスを安定的に提供する。また、自殺者の減少に取り組む。

71 「新健康フロンティア戦略」(平成19年4月18日)

2.年金について、社会保険庁改革、年金記録問題への対応、被用者年金制度の一元化、パート労働者への適用拡大等を推進する。

3.社会保障の情報化を進め、国民が自らの給付と負担の情報等を容易に入手・管理できる仕組みの導入を目指す。


【具体的手段】

(1)医療・福祉等

「緊急医師確保対策について」72に基づき、医師不足地域に対する国レベルの緊急臨時的医師派遣システムの構築、病院勤務医の過重労働を解消するための勤務環境の整備、女性医師等の働きやすい職場環境の整備、研修医の都市への集中の是正のための臨床研修病院の定員の見直し、医療リスクに対する支援体制の整備、医師不足地域や診療科で勤務する医師の養成の推進など、医師確保のための緊急対策に取り組む。また、看護師、助産師等の確保対策を推進する。

72 「緊急医師確保対策について」(平成19 年5月31 日)

小児医療周産期医療の提供体制の充実やドクターヘリを含む救急医療体制の整備を進める。

・後期高齢者医療制度の施行、生活習慣病対策や介護予防の推進、療養病床の転換支援を含む地域ケア体制の整備、在宅ケアや終末期医療を含む地域における医療提供体制の整備等を進めるなど、医療制度改革を着実に推進する。

「新健康フロンティア戦略」を推進するため、平成19年内に実施計画を策定する。また、「がん対策推進基本計画」73に基づき、10年以内にがんの死亡率74を20%減少させる等の目標達成に向け、放射線療法及び化学療法の推進並びにこれらを専門的に行う医師等の育成、治療の初期段階からの緩和ケアの実施、がん登録の推進を重点としつつ、がん対策に総合的に取り組むとともに、難病対策や肝炎対策の充実に取り組む。

73 「がん対策推進基本計画」(平成19年6月15日閣議決定)

74 年齢調整死亡率(75歳未満)

・原爆被爆者対策を総合的に推進する。

・「障害者基本計画」75に基づく重点施策実施計画を平成19年内に見直し、教育、就労、地域生活などへの支援を含む障害者施策全般を推進するとともに、障害者の自立と社会参加を促進する。また、発達障害児・者に対する支援や精神障害者の地域移行を推進する。

75 「障害者基本計画」(平成14年12月24日閣議決定)

中国残留邦人に対する新たな支援策を講ずる。

「自殺総合対策大綱」76に基づき、10年間で自殺率を20%以上減少させるため、自殺対策を総合的に推進する。

76 「自殺総合対策大綱」(平成19年6月8日閣議決定)


(2)年金

・社会保険庁の「廃止・解体6分割」を図り、国の責任の下に、公的年金の新たな事業運営体制を構築する。

・年金記録問題については、加入者・受給者全員が、本来受け取ることができるはずの年金を全額間違いなく受け取ることができることを旨とし、正確かつ効率的な年金事務処理体系の確立を図り、信頼を確立する。このため、上記に加え、過去の記録の全体像を踏まえ、名寄せ等の作業を効率的に進めるとともに、作業の進ちょく状況を定期的に公表する。あわせて、相談体制・広報を強化する。その際、社会保険庁の本庁及び現場の職員は、精力的に取り組む。さらに、総務省に検証委員会を設置し、年金記録問題発生の経緯、原因、責任の所在等についての調査・検証を早急に行う。

i)基礎年金番号に統合されていない約5,000万件の記録については、直ちにシステム開発等を行い、1年以内にすべての名寄せを完了した上で、同一人の可能性のある方々等との間において、年金記録の確認を行うこととし、そのためのお知らせは、現に年金を受けている方は平成20年8月までに、これから年金を受け取る方は平成21年3月までに完了する。また、現に年金を受けている方については、名寄せされた方以外についても、全員に平成21年3月までに加入履歴をお知らせする。

ii)社会保険庁のマイクロフィルム記録(厚生年金の旧台帳を含む。)や市町村の記録と、オンライン記録との照合調査についても、進ちょく状況を公表しつつ、計画的に実施する。

iii)現在既に自己の記録に不安や疑問がある方々には速やかに対応することとし、無料電話相談の導入、来訪相談の受付時間の延長等の相談体制の拡充を図る。

iv)領収書等の証拠がない方については、総務省に設置する第三者委員会における公正な判断を踏まえ、社会保険庁はこれを尊重して記録の訂正を行う。

 なお、記録訂正に伴い年金額が増加した場合、既に年金を受給している方については、消滅時効が完成していても支払い、今後年金を受給する方については、自動的に時効消滅させないこととし、正しい年金額を速やかに全額支給できるようにする必要がある。

・コンピュータシステムの刷新や新たな年金記録管理システムの構築を図る。

・平成20年度から、これから年金を受け取る加入者すべてに対し、保険料納付実績や年金額の見込みを定期的に通知する「ねんきん定期便」を送付するなど、国民に対する年金情報の提供を強力に推進する。

被用者年金制度の一元化パート労働者への社会保険の適用拡大を実現する。

基礎年金国庫負担割合については、「平成16年改正法」77に基づき、所要の安定的な財源を確保する税制の抜本的な改革を行った上で、平成21年度までに2分の1に引き上げる。

77 「国民年金法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第104号)


(3)社会保障の情報化の推進

・情報通信技術を利用し、国民が質の高いサービスを効率的に利用できるよう、「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイン」78を推進する。

78 「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイン」(平成19年3月27日)

・個人が自分の健康情報、年金や医療等の給付と負担等の情報を簡単にオンライン等で入手・管理できるとともに、社会保障に関する手続を安全かつ簡単に行うことができる仕組みの構築を目指す。このため、「電子私書箱」(仮称)79を検討し、平成22年頃のサービス開始を目指すとともに、「健康ITカード」(仮称)80の導入に向けた検討を行い、平成19年内を目途に結論を得る。これらについては、密接な連携をとって一体的な推進を図ることとし、平成19年度内に、個人情報の保護等に留意しつつ、全体的な基本構想を作成する。

79 「IT新改革戦略政策パッケージ」(平成19年4月5日)による構想

80 「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」(平成19年5月15日)による構想


5.治安・防災、エネルギー政策等の強化

 国民の安全と安心の確保は安定した経済成長の基盤である。政府は、治安再生、防災・減災対策、エネルギー政策等を戦略的に推進し、世界の模範となる安全・安心な国づくりを実現する。


【改革のポイント】

1.「世界一安全な国、日本」の復活に向けた治安再生を推進するとともに、我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定の確保に努める。

2.集中豪雨の増加等の自然環境の変化も考慮しつつ、災害から国民の生命、財産及び生活を守るため、防災・減災対策を着実に推進する。

3.国民の身近なところでの事故やトラブル等に対処するため、公共交通や道路交通の安全対策を強化する。また、住まいや身近な施設、製品、食品等の安全性を確保するとともに、多重債務者対策に取り組み、安全・安心な暮らしを実現する。

4.「海洋基本法」81等の成立を踏まえ、海洋政策を総合的に推進し新たな海洋立国の実現を目指す。

81 「海洋基本法」(平成19年法律第33号)


(エネルギー政策)

 エネルギーの安全保障を確保するため、内外情勢の変化等を踏まえ、戦略的なエネルギー政策を推進する。


【具体的手段】

・「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」82、「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」83等に基づき地域と連携しつつ非行や犯罪から子どもを守る取組犯罪被害者等への支援の充実を図るほか、銃器対策の強化組織犯罪、国際的な犯罪、サイバー犯罪等への対策を推進する。また、G8北海道洞爺湖サミット等を見据えつつ、テロ等の未然防止と緊急事態発生時の対処に万全を期する。

82 「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(平成15年12月18日)

83 「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」(平成17年6月28日)

・「少年法」84の改正、「更生保護法」85の成立等を踏まえ、刑務所・少年院からの出所者の再犯を防止する観点から、入所中及び出所後の指導監督・支援を充実強化する。

84 「少年法」(昭和23年法律第168号)

85 「更生保護法」(平成19年法律第88号)

・外国人の入国・在留管理体制の強化と不適正な在留活動の防止を図る。

・我が国をめぐる安全保障情勢を踏まえ、「防衛計画の大綱」86に基づき、弾道ミサイル等の新たな脅威や多様な事態への実効的な対応等を図りつつ、効率的な防衛力の整備を推進する。また、有事に備えた国民保護施策を推進する。

86 「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成16年12月10日閣議決定)

・「国家安全保障に関する官邸機能強化会議報告書」87を踏まえ、国家安全保障に関する官邸の司令塔機能の強化に向けた体制の整備を行う。あわせて、平成18年12月に設置した「情報機能強化検討会議」の結果を取りまとめ、内閣の情報機能の強化を図る。

87 「国家安全保障に関する官邸機能強化会議報告書」(平成19年2月27日)

大規模地震、大規模水害・土砂災害、津波・高潮、豪雪等への対策を推進する。その際、学校の耐震化等防災拠点の機能強化の推進、ハザードマップの普及促進等ハード・ソフトの連携を図る。また、消防等地域の災害応急対応力の充実を図る。

・宇宙に関する基本法制の整備に向けた動き及び「地理空間情報活用推進基本法」88の成立を踏まえ、宇宙の利用・産業化を推進し、衛星を活用した測位・監視やインテリジェンス機能の強化、災害情報共有システム等の治安・防災等に資する科学技術の研究開発・利活用を図る。

88 「地理空間情報活用推進基本法」(平成19年法律第63号)

・飲酒運転対策、公共交通機関の総合的な安全対策、ITS89の活用等「第8次交通安全基本計画」90に基づく取組を着実に推進する。

89 ITS(Intelligent Transport Systems):高度道路交通システム

90 「第8次交通安全基本計画」(平成18年3月14日)

・生活に密着した施設・製品の事故等の防止等を図るため、事故情報の収集・公開や安全対策の強化、官と民との新たなパートナーシップの構築等に取り組む。また、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」91に掲げる目標の達成に向けてバリアフリー環境の整備に取り組む。

91 「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成18年12月15日)

・科学に基づいたリスク評価・管理等食の安全と信頼の確保、食料をめぐる国際的な状況の変化を踏まえた食料供給力の維持・向上を図る。カネミ油症研究を推進する。「新型インフルエンザ対策行動計画」92に基づく取組等新たな感染症への対応を行う。

92 「新型インフルエンザ対策行動計画」(平成19年3月2日改訂)

・政府機関の情報セキュリティ人材の重点確保、緊急対応体制の強化(全府省庁参加によるGSOC93の運用)等「セキュア・ジャパン2007」94の取組を推進する。

93 GSOC(Government Security Operation Coordination team):政府横断的な情報収集機能、攻撃等の分析・解析機能等の事案対策促進機能

94 「セキュア・ジャパン2007」(平成19年6月14日)

・裁判員制度の円滑な導入、民事法律扶助や国選弁護に対応する日本司法支援センターの体制の充実等の司法制度改革を推進する。

・全国的な相談窓口の整備、ヤミ金融の取締りの強化等「多重債務問題改善プログラム」95を推進する。

95 「多重債務問題改善プログラム」(平成19年4月20日)

大陸棚調査の推進、海上保安の確保等海洋に関する施策に総合的に取り組む。


(エネルギー政策)

・環境にやさしい資源循環型のバイオマスエネルギーなどの新エネや省エネを強力に推進する。また、「次世代自動車・燃料イニシアティブ」96等による運輸エネルギーの次世代化、安全で平和的な原子力利用の推進、資源外交、アジア環境・エネルギー協力の展開等に取り組む。

96 「次世代自動車・燃料イニシアティブ」(平成19年5月28日)


6.多様なライフスタイルを支える環境整備

 国民一人ひとりが豊かな生活を実感し、活力ある経済社会を実現するためには、多様なライフスタイルを追求できることが重要である。このため必要な基本的な環境整備に取り組む。


【具体的手段】

・幼児教育の将来の無償化について、歳入改革にあわせて財源、制度等の問題を総合的に検討しつつ、当面、就学前教育についての保護者負担の軽減策を充実するなど、幼児教育の振興を図る。

・いじめ、不登校、児童虐待や「キレる」言動、非行などの問題行動への対応等を進めるとともに、「青少年育成施策大綱」97に基づき、次代を担う青少年の健全育成を図るための施策を推進する

97 「青少年育成施策大綱」(平成15年12月9日)

・改正教育基本法の目指すところに従い、我が国の文化力の向上、伝統の継承に必要な措置を講ずる。また、文化財の保存・活用の強化、日本文化の戦略的発信の推進等を図る。

・誰もがスポーツに親しめる環境の整備を進め、生涯スポーツ社会の実現を図る。トップレベル競技者の育成強化を図り、我が国の国際競技力を向上させるとともに、国際競技大会の積極的な国内開催を図る。さらに、子どもが外遊びやスポーツに親しむ習慣や意欲の育成、環境の整備などを通じ、著しく低下している児童生徒の運動能力や体力の向上を図る。

・「食育推進基本計画」98に基づき、「日本型食生活」99の実践など、国民運動として食育を推進する。

98 「食育推進基本計画」(平成18年3月31日)

99 「日本型食生活」:日本の気候風土に適した米を中心に農産物、畜産物、水産物等多様な副食から構成され、栄養バランスが優れた食生活

・地球環境にやさしく、安全・安心でゆとりある住生活を実現するため、住宅の長寿命化(200年住宅)に向けた取組を進めるとともに、高齢者、子育て世帯等の居住の安定確保を図る。

・農山村や海辺の暮らしを守るため、有害鳥獣対策を推進する。

・NPO、社会的起業家、自治会等コミュニティ活動を行う主体などの「公」の担い手の活動やネットワーク化を促進する環境整備を進める。


第5章 平成20年度予算における基本的考え方

1.今後の経済動向と当面の経済財政運営の考え方

・我が国経済は、平成19年度において、世界経済の着実な回復が続く下、企業部門・家計部門ともに改善が続き、自律的・持続的な経済成長が実現することが見込まれる。平成20年度においても、こうした成長が持続することが期待される。

・人口減少社会下で、成長を持続させて生活の質を高めるため、「進路と戦略」で示された「新成長経済」の実現に向け、本「基本方針2007」に基づき、改革への取組を加速・深化する。

・再びデフレに戻ることのないよう、民間需要主導の持続的な成長と両立する安定的な物価上昇率を定着させる必要がある。このため、政府と日本銀行は、マクロ経済運営に関する次の基本的視点を共有する。

 (1) 民需主導の持続的成長を実現する

 (2) 物価の安定を実現する

 (3) 中期的な課題と整合的な政策運営を行う

 (4) 透明性と説明責任を徹底する

 このことを前提に、日本銀行には、政府の政策取組や経済の展望と整合的なものとなるよう、金融政策運営において、物価の安定を確実なものとし、持続的な成長を支えていくことを期待する。

・なお、経済情勢によっては、大胆かつ柔軟な政策運営を行う。


2.平成20年度予算の方向

 平成20年度予算は、歳出改革を軌道に乗せる上で極めて重要な予算である。歳出全般にわたって、これまで行ってきた歳出改革の努力を決して緩めることなく、国、地方を通じ、引き続き「基本方針2006」に則り、最大限の削減を行う。


(1)メリハリの効いた予算編成

 成長力強化と財政健全化の双方を車の両輪とする「経済・財政一体改革」の考え方の下、上記の基本姿勢に沿って、改革努力を継続する厳しい概算要求基準を設定し、メリハリの効いた歳出の見直しを行う。「第2章 成長力の強化」、「第4章 持続的で安心できる社会の実現」に述べた取組を推進する。そのため、予算面において所要の対応を行うことを含め、予算配分の重点化・効率化を行う。


(2)予算原則に沿った規律ある財政運営

 第3章で示した予算編成の原則に沿って、規律ある財政運営を行う。各府省は、この原則を踏まえ、新規施策の予算要求に当たっては、既存施策の廃止・縮減を行う。


(3)中期目標との整合性についての点検

 平成20年度予算が財政健全化の中期目標の確実な達成と整合的であるかどうかについて点検を行う。


(4)予算におけるPDCAの強化

 厳しい財政状況の下で、予算の重点化・効率化を一層進めるため、各府省の予算要求に当たっては、成果目標を掲げ、事後評価を十分行い得る基盤を整備するとともに、その必要性、効率性、有効性等を吟味する。また、実績が事前の評価を下回った事例等を十分に把握し、予算の重点化に活用するなど、適切に対応する。


(5)行政のスリム化・効率化等

 「行政改革推進法」に基づき、事業の仕分け・見直しを行いつつ、行政のスリム化・効率化を一層徹底し、総人件費改革や特別会計改革、資産債務改革等について、平成20年度予算に適切に反映させる。また、法令遵守等を徹底しつつ、民間活力の活用や市場化テストを推進すること等により、公共サービスの質の向上及び経費削減を図る。財政投融資については、民業補完の原則の下、対象事業の重点化・効率化に努める。

 (別表)

 EPA工程表

国・地域 現状 目標
シンガポール 協定本体は、2002年11月30日に発効。2007年3月19日に改正議定書に署名。 発効済み。改正議定書の早期の発効を目指す。
メキシコ 協定本体は、2005年4月1日に発効。日墨経済連携協定議定書は2007年4月1日発効。 発効済み。
マレーシア 2006年7月13日に発効。 発効済み。
フィリピン 2006年12月6日に国会で承認。 フィリピン上院の承認を得て発効する。
タイ 2007年4月3日に署名。 2007年中の可能な限り早期の発効を目指す。
チリ 2007年3月27日に署名。 2007年中の可能な限り早期の発効を目指す。
ブルネイ 2007年6月18日に署名。 2007年中の可能な限り早期の発効を目指す。
インドネシア 2006年11月に大筋合意。 2007年中の可能な限り早期の署名を目指す。
ASEAN全体 2005年4月に交渉開始。 ASEAN側の協力を得つつ、2007年中の可能な限り早期の実質的な交渉妥結を目指す。
韓国 2004年11月以来交渉中断。 交渉再開に向け、引き続き粘り強く韓国側に働きかける。
湾岸諸国
(GCC)
2006年9月に交渉開始。 可能な限り早期に交渉の主要点についての実質的な妥結を目指す。
ベトナム 2007年1月に交渉開始。 可能な限り早期に交渉の主要点についての実質的な妥結を目指す。
インド 2007年1月に交渉開始。 交渉開始からおおむね2年間のうちの可能な限り早期に交渉を実質的に終了させることを目指す。
スイス 2007年5月に交渉開始。 物品の貿易のみならず、投資・サービス貿易、知的財産等、幅広い分野においてハイレベルのルール作り及び経済関係の強化を目指す。
オーストラリア 2007年4月に交渉開始。 農林水産業の重要性を十分認識し、守るべきものは守るとの方針の下、我が国にとって最大限のメリットを獲得することを目指す。