第3部 最近の地方財政の動向と課題

1 地方分権改革の推進

 地方分権改革は、住民に身近な行政に関する企画・決定・実施を一貫してできる限り地方自治体にゆだねることを基本として、「地方政府」の確立を目指しつつ、国と地方の役割分担を徹底して見直す取組みである。

 地方分権改革推進法(平成18年法律第111号)に基づき、平成19年4月、内閣府に地方分権改革推進委員会が設置され、同委員会は同年11月16日に「中間的な取りまとめ」を公表した後、平成20年5月28日に「第1次勧告」を取りまとめ、内閣総理大臣に提出した。

 「第1次勧告」の概要は以下のとおりである。

<第1次勧告>

ア 国と地方の役割分担の基本的な考え方

(ア) 「地方が主役の国づくり」に向けた今次分権改革の理念と課題

(1)地方政府の確立のための権限移譲、(2)完全自治体の実現、(3)行政の総合性の確保、

(4)地方活性化、(5)自治を担う能力の向上

(イ) 国と地方の役割分担の見直し

 住民に身近な行政は地方で担い、「国と地方の二重行政」を排除する観点から、現状の役割分担の類型(重複型・分担型・重層型・関与型・国専担型)に応じて国と地方の役割分担の区分けを見直し

(ウ) 広域自治体と基礎自治体の役割分担(基礎自治体優先の原則)

 市町村合併の進展等を踏まえ、都道府県から市町村へ権限移譲を推進

イ 重点行政分野の抜本的見直し

(ア) くらしづくり分野関係

(1)幼保一元化・子ども、(2)教育、(3)医療・医療保険、(4)生活保護、

(5)福祉施設の最低基準等、(6)民生委員、(7)公営住宅、(8)保健所・児童相談所、

(9)労働

(イ) まちづくり分野関係

(1)土地利用(開発・保全)、(2)道路、(3)河川、(4)防災、(5)交通・観光、(6)商工業、

(7)農業(土地利用を除く。)、(8)環境

ウ 基礎自治体への権限移譲と自由度の拡大

(ア) 基礎自治体への権限移譲の推進

64法律、359の事務権限を都道府県から市町村へ移譲

(例)

(1)まちづくり分野:宅地開発や商業施設等の開発行為の許可権限を市まで移譲

(2)福祉分野:特別養護老人ホーム、保育所等の設置認可・指導監督の権限を市まで移譲

(3)産業安全分野:高圧ガスの製造・貯蔵・販売の許可権限を市町村まで移譲

(イ) 補助対象財産の財産処分(転用、譲渡等)の弾力化

(1)原則、10年経過後の財産処分は、国庫納付不要かつ届出・報告制へ

(2)10年経過前でも、災害や市町村合併等に伴う財産処分には十分配慮

なお、関係府省は、勧告後、速やかに上記の措置を実施すること(約300以上の国庫補助金等が対象)

エ 現下の重要二課題について

 「道路特定財源の一般財源化」と「消費者行政の一元化」について、政府に対して配慮を要請した緊急提言を収録

オ 第2次勧告に向けた検討課題

 ○国の出先機関の改革の基本方向

 ○法制的な仕組みの横断的な見直し(義務付け・枠付け等)

 「第1次勧告」を受け、政府は、平成20年6月20日に地方分権改革推進本部で「地方分権改革推進要綱(第1次)」を決定した。

 地方分権改革推進委員会は、引き続き調査審議を進め、平成20年12月8日に「第2次勧告」を取りまとめ、内閣総理大臣に提出した。その間、同年8月1日に「国の出先機関の見直しに関する中間報告」、同年9月16日に「道路・河川の移管に伴う財源等の取扱いに関する意見」を取りまとめている。

 「第2次勧告」の概要は以下のとおりである。

<第2次勧告>

ア 義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大

(ア) 義務付け・枠付けの見直しの基本的考え方

(1)自治行政権、自治立法権、自治財政権を有する「完全自治体」としての「地方政府」の確立

(2)国の法令を「上書き」する範囲拡大を含む条例制定権の拡充

(3)法制的観点から、地方自治体の自主性を強化し、自由度を拡大。自らの責任で行政を実施する仕組みの構築

(イ) 義務付け・枠付けの見直しの方針

(1)義務付け・枠付けの範囲設定

自治事務のうち、国の法令によって義務付け・枠付けをし、条例で自主的に定める余地を認めていないもの(約1万条項)

(2)見直しの具体的な方針

メルクマール(判断基準)に該当しない条項については、(a)廃止(単なる奨励にとどめることを含む。)、(b)手続き、判断基準等の全部の条例委任又は条例補正(「上書き」)の許容、(c)手続き、判断基準等の一部の条例委任又は条例補正(「上書き」)の許容、のいずれかの見直しが必要。その際、(a)から(c)の順序で見直すべき

(3)義務付け・枠付けの存置を許容する場合等のメルクマールの設定

(ウ) 義務付け・枠付けのメルクマール該当・非該当の判断

 義務付け・枠付け条項全体(約1万条項)について、メルクマール該当・非該当の判断は、メルクマールに該当する条項が51.8%、メルクマールに該当しない条項が48.2%。

(エ) 義務付け・枠付けの見直しの今後の進め方

 メルクマールに該当しない条項については、(イ)(2)の方針に従って見直しを行うべき。このうち、(a)施設・公物設置管理の基準、(b)協議、同意、許可・認可・承認、(c)計画等の策定及びその手続、については特に問題。これらを中心に第3次勧告に向けて具体的に講ずべき措置を調査審議

イ 国の出先機関の見直しと地方の役割の拡大

(ア) 国の出先機関の見直しの基本的考え方

(1)国と地方の役割分担の見直し(住民に身近な行政は地方へ)、

(2)「二重行政」の弊害の徹底排除、(3)国と地方を通じた行政の簡素化・効率化、

(4)地域住民の目の届くものとする仕組み、(5)地方再生、地域振興

(イ) 事務・権限の見直しの考え方

 「国の出先機関の事務・権限の仕分けの考え方」に基づき、対象機関の事務・権限を仕分け(廃止(民営化、独立行政法人化を含む。)を検討するもの、地方への移譲を検討するもの、等)。具体的には、8府省15系統の116事項の国の出先機関の事務・権限を見直し

(ウ) 組織の見直しの考え方

(1)事務・権限の見直しに応じ、組織について見直し

(a)二重行政の弊害是正の観点からの組織の見直し

i)府省を超えた総合的な出先機関への統廃合(地方再生や地域振興の観点等から編成する総合的な出先機関)

ii)同一府省における出先機関の統廃合

iii)府県単位機関のブロック単位機関への統廃合

(b)二重行政の弊害がない場合には現行の組織を存続

〔組織改革の方向性〕

○地方農政局、経済産業局、地方整備局、北海道開発局、地方運輸局、地方環境事務所を廃止して、国に残る事務・権限を地方振興局(仮称)及び地方工務局(仮称)に統合

○都道府県労働局を廃止してブロック機関に集約し、地方厚生局と統合 等

(2)地域との連携やガバナンスの確保の仕組み

(a)府省を超えた総合的な出先機関に地元自治体から成る協議機関として地域振興委員会(仮称)を設置

(b)公共事業の適正性、透明性を確保する仕組み

(エ) 出先機関の改革の実現に向けて

○勧告の方向に沿って、改革の実現に向けた工程表となる計画を20年度内に策定することと、推進のための体制づくりを、政府に要請

○道路・河川については、第1次勧告の基準に従って地方への移管が進むよう、国と都道府県との個別協議を進め、早急に結論を出すよう要請

○これらの改革により、さらに将来的には、出先機関職員のうち、合計3万5,000人程度の削減を目指すべき

(オ) 事務・権限と組織の見直しに伴う人員・財源の取扱い

(1)人員の移管等の取扱い

仕事の地方への移譲に伴い人材や必要な財源を地方に確保すること、事務・権限の地方移譲に伴う職員の移行等、事務・権限の廃止縮小、組織の統廃合等に伴う要員規模のスリム化が必要であり、これらの円滑な実施をはかる仕組みを検討

(2)財源の手当ての取扱い

必要な財源確保に向け、引き続き検討

 「第2次勧告」の提言のうち、出先機関改革については、平成20年度内に「工程表」となる「計画」を策定することを予定している。

 現在、地方分権改革推進委員会は「第3次勧告」に向け、義務付け・枠付けの見直し、税財政改革、行政体制の整備について調査審議を進めている。政府はこれらの勧告を受けて「地方分権改革推進計画」を策定の上、「新分権一括法案(仮称)」を平成21年度中できるだけ速やかに国会に提出することとしている。