3 地域力の創造

 平成20年12月19日、総務省は、縄文以来「自然との共生」を基本的な考え方としてきた我が国の歴史・文化に基づき、「人も自然界の一員」という謙虚な姿勢のもと、豊かな自然環境を大事にしながら活力ある地域社会を形成していくため、新たに、(1)定住自立圏構想の推進、(2)地域連携による「自然との共生」の推進、(3)条件不利地域の自立・活性化の支援、の3つを柱とする「地域力創造プラン」を策定・公表したところである。

ア 定住自立圏構想の推進

 中心市と周辺市町村が1対1で締結する協定に基づき役割分担し、相互に連携する定住自立圏構想については、総務大臣の下に「定住自立圏構想研究会」が開催され、平成20年5月15日に「定住自立圏構想研究会報告書〜住みたいまちで暮らせる日本を〜」が取りまとめられた。

 また、「経済財政改革の基本方針2008」(平成20年6月27日閣議決定)においては、「中心市と周辺市町村が協定により役割分担する「定住自立圏構想」の実現に向けて、地方都市と周辺地域を含む圏域ごとに生活に必要な機能を確保し人口の流出を食い止める方策を、各府省連携して講ずる」と明記された。

 これらを踏まえ、総務省は、「地域力創造プラン」の第一番目の柱として、平成20年12月26日に、定住自立圏構想の基本的な考え方を取りまとめた「定住自立圏構想推進要綱」を作成・公表した。

 同要綱の概要は、以下のとおりである。

(ア) 定住自立圏形成の目的

 定住自立圏は、中心市と周辺市町村が、自らの意思で1対1の協定を締結することを積み重ねる結果として、形成される圏域である。

 圏域ごとに「集約とネットワーク」の考え方に基づき、中心市において圏域全体の暮らしに必要な都市機能を集約的に整備するとともに、周辺市町村において必要な生活機能を確保し、農林水産業の振興や豊かな自然環境の保全等を図るなど、互いに連携・協力することにより、圏域全体の活性化を図ることを目的とする。

(イ) 中心市

 中心市は、生活に必要な都市機能について一定の集積があり、周辺市町村の住民もその機能を活用しているような、都市機能がスピルオーバーしている都市であり、人口が5万人程度以上(少なくとも4万人超)、昼夜間人口比率が1以上(合併市の場合は人口最大の旧市の値が1以上も対象)、三大都市圏の区域外等の要件を満たす市としている。

(ウ) 中心市宣言

 中心市は、地域全体における生活機能を確保し、魅力を向上させる上で、周辺市町村の意向に配慮しつつ、中心的な役割を担う意思を明示するため、地域全体のマネジメント等において、中心的な役割を担うとともに、積極的に各種サービスを提供していく意思等を記載した「中心市宣言書」を作成し、公表する。

(エ) 定住自立圏形成協定

(1) 定住自立圏形成協定について

 人口定住のために必要な生活機能の確保に向けて、中心市宣言を行った中心市と周辺市町村が1対1で、「生活機能の強化」、「結びつきやネットワークの強化」、「圏域マネジメント能力の強化」の観点から連携する取組について、関係市町村の議会の議決を経て定める。

 中心市と協定を締結する周辺市町村は、中心市と近接し、経済、社会、文化又は住民生活等において密接な関係を有する市町村であるものとし、中心市に対する通勤通学10%圏等の要素も考慮して、関係市町村において、これに該当するか否かを自主的に判断する。

 協定の期間は、原則として定めのないものとする。ただし、一方の市町村から、議会の議決を経て協定の廃止を求める旨の通告があった場合は、一定期間の経過後に廃止される旨を協定に規定する。

 中心市及び周辺市町村は、協定の締結後、直ちに公表する。

(2) 定住自立圏形成協定で規定する取組

 協定においては、3つの視点(生活機能の強化、結びつきやネットワークの強化、圏域マネジメント能力の強化)ごとに、次に掲げる政策分野のうち少なくとも1以上について、連携する具体的事項を規定する。

(a)生活機能の強化に係る政策分野

○医療、○福祉、○教育、○土地利用、○産業振興

(b)結びつきやネットワークの強化に係る政策分野

○地域公共交通、○デジタル・ディバイドの解消へ向けたICTインフラ整備、

○道路等の交通インフラの整備、

○地域の生産者や消費者等の連携による地産地消、

○地域内外の住民との交流・移住促進、

○上記のほか、結びつきやネットワークの強化に係る連携

(c)圏域マネジメント能力の強化に係る政策分野

○中心市等における人材の育成、

○中心市等における外部からの行政及び民間人材の確保、

○圏域内市町村の職員等の交流、

○上記のほか、圏域マネジメント能力の強化に係る連携

(オ) 定住自立圏共生ビジョン

 中心市は、定住自立圏形成協定の締結により形成された定住自立圏全体を対象として、当該定住自立圏の将来像や、定住自立圏形成協定に基づき推進する具体的取組を記載した「定住自立圏共生ビジョン」を策定し、公表する。

(1) 定住自立圏共生ビジョンに記載する主要事項及び期間

(a)定住自立圏の将来像

 定住自立圏における都市機能の集積状況等を示すとともに、定住自立圏全体で人口定住のために必要な生活機能を確保するため、自立のための経済基盤を培い、地域の活性化を図る観点から、将来像を提示する。

(b)定住自立圏形成協定に基づき推進する具体的取組

 将来像の実現に向けて、協定に基づき、関係市町村が連携して推進する取組を記載する。(取組内容、スケジュール、関係する市町村、根拠となる協定、等)

(c)定住自立圏共生ビジョンの期間

 期間は、おおむね5年間とし、毎年度所要の変更を行う。

(2) 策定手続き等

 関係者の意見を幅広く反映させるため、定住自立圏の取組に応じて、次のような民間や地域の関係者を構成員とし、中心市が開催する「圏域共生ビジョン懇談会」における検討を経る。その後、各周辺市町村と当該市町村に関連する部分について協議を行う。

・医療、福祉、教育、産業振興、地域公共交通等各分野の代表者

・大規模集客施設、病院等都市集積が生じている施設等の関係者 等

(カ) 施行日

 平成21年4月1日。ただし、先行実施団体及びその周辺市町村については、平成21年1月1日から取組を行うことができる。

 さらに、総務省では、定住自立圏構想を推進するため、「集約とネットワーク」の考え方に基づき、圏域全体で暮らしに必要な生活機能等を確保する取組を支援するため、定住自立圏形成協定を締結し、定住自立圏共生ビジョンを策定した中心市及びその周辺市町村の取組に対して、以下のような財政措置を講じることとしている。

(ア) 中心市及び周辺市町村の取組に対する包括的財政措置(特別交付税)

 中心市については、1市当たり年間4,000万円程度を基本として、周辺市町村については、1市町村当たり年間1,000万円程度を基本として、人口、面積等を勘案して算定。

(イ) 地域活性化事業債における「定住自立圏推進事業」の創設

 協定又はビジョンに基づく基幹的施設等であって、圏域全体で生活機能を確保するために必要不可欠なものの整備に対し、地域活性化事業債を充当(90%)。その元利償還金の35%を普通交付税措置。

(ウ) 外部人材の活用に対する財政措置

 産業振興、医療サービスの向上等、圏域外から専門性を有する民間又は行政分野の人材を確保し、活用する経費に対する特別交付税措置(圏域構成市町村当たり年間700万円を上限とし、最大3年間の措置。)。

(エ) 情報通信基盤等の整備に対する支援

 定住自立圏の取組を推進するための情報通信基盤及びこれを活用した遠隔医療等に不可欠な送受信装置等の整備に対して、地域情報通信基盤整備推進交付金により優先的に採択・支援(交付率:1/3)。

 このほか、ふるさと融資など民間主体の取組の支援に対する財政措置、地域医療等個別の施策分野における財政措置、定住自立圏の形成に対応した辺地度点数の算定要素の追加を行うこととしている。

イ 地域連携による「自然との共生」の推進

(ア) 基本的な考え方

 「自然との共生」を推進するに当たっては、以下の2点を基本的な考え方として掲げている。

(1) 都市住民が、地方における自然環境保護(森や水源の保全等)に関する実践活動に携わることを促進することにより、都市と地方のつながりを強化していく。

(2) 地方自治体における国土保全対策や地球温暖化対策を促進することにより、世界をリードする低炭素社会を実現していく。

(イ) 具体的な取組内容

(1) 働き手を都市から農山漁村へ

 意欲ある都市住民、特に若者等を、農山漁村が「地域おこし協力隊員(仮称)」として受け入れる。これにより、地方での生活を望む都市住民(若者等)のニーズに応えるとともに、地域への貢献や、人口減少・高齢化に悩む地方の活性化が期待される。さらに将来的には、協力隊員の定住や定着も期待される。

(2) 「自然との共生」に向けた協定

 都市圏や下流域の住民が、自らの生活を支える水資源や山林等の自然環境を保全するためのボランティア活動を促進するため、都市と地方、又は河川の流域単位において、地方自治体間で協定を締結する。

 また、カーボン・オフセット協定(CO2などの温室効果ガスの削減について、地方自治体間、地方自治体と企業との間等において締結する協力協定)による温室効果ガスの削減のための取組を展開する。

(3) 「自然との共生」による低炭素社会の実現

 太陽光、風力、水、森林、田畑等の地方の豊かな自然を活用しながら、資源の地域循環を図るなど、環境負荷を低減するための取組を多面的に展開する。

ウ 条件不利地域の自立・活性化の支援

(ア) 基本的な考え方

 過疎地域等の条件不利地域は、都市部の災害防止、水源の涵養、安心・安全な食料の供給、森林による二酸化炭素の吸収などにより、都市部を支えている一方、人口減少、高齢化、身近な「足」の不足、医師不足、維持が困難な集落の問題など、多くの課題が存在している。これらの状況を踏まえ、「条件不利地域と都市が共生する」という日本型の共生社会を実現することにより、都市部を含めた国民全体の安心・安全な生活を確保していくことが必要である。

(イ) 具体的な取組内容

 以下のような条件不利地域の自立・活性化への支援を着実に推進していく。

○地域医療提供体制の確保

○モデルプロジェクトによる遠隔医療の推進

○デジタル・ディバイドの解消(ブロードバンド、携帯電話)

○集落の維持・活性化対策(「集落支援員」による集落点検の促進 等)

○都市から地方への移住・交流の促進(移住・交流推進機構(JOIN)や関連NPO法人との連携、空き家活用によるU・Iターン促進対策 等)

 また、過疎地域自立促進特別措置法の期限切れを控えた、時代に対応した新たな過疎対策の検討を進める。