第3部 最近の地方財政の動向と課題

1 地域主権の確立

(1)地域主権の基本的考え方

ア これまでの取組

 政府は、これまでに、住民に身近な行政に関する企画・決定・実施を一貫してできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、国と地方の役割分担を見直す取組を進めてきた。地方分権改革推進法(平成18年法律第111号)に基づき、平成19年4月、内閣府に地方分権改革推進委員会が設置され、同委員会により4次にわたる勧告が行われた。これらの勧告では、「国と地方の役割分担の考え方」、「基礎自治体への権限移譲」をはじめ、地方行財政に関する全般的・抜本的な改革の必要性が挙げられている。

 また、政府は、市町村の行財政基盤の強化のため、市町村の合併の特例に関する法律(昭和40年法律第6号)及び市町村の合併の特例等に関する法律(平成16年法律第59号。以下「現行特例法」という。)に基づき、市町村合併を推進してきた結果、平成11年3月31日には3,232であった市町村数は、平成22年3月31日には1,730となる見込み(平成22年2月19日現在の状況)である。なお、全国的な合併推進運動は、現行特例法が失効する平成22年3月31日をもって一区切りとすることとし、市町村が自主的に合併をする場合の障害除去を中心とした内容の改正案を第174回国会に提出したところである。

イ 地域主権の基本的考え方

 政府は、こうしたこれまでの取組をさらに進め、住民による行政の実現、すなわち、地域のことは地域に住む住民が決める「地域主権」の確立を目指して、国の権限や財源を精査し、地方公共団体への移譲を進めていくこととしている。

 具体的には、住民に最も身近な基礎的自治体を重視した分権改革を推進し、基礎自治体が担えない事務事業は広域自治体が担い、広域自治体が担えない事務事業を国が担うという「補完性の原則」に基づき、基礎自治体の能力・規模に応じた権限と財源の移譲、国と地方の二重行政の解消等の実施により、地域主権を推進していくこととしている。

(2)地域主権戦略会議

 地域のことは地域に住む住民が決める「地域主権」を早期に確立する観点から、「地域主権」に資する改革に関する施策を検討し、実施するとともに、地方分権改革推進委員会の勧告を踏まえた施策を実施するため、平成21年11月17日の閣議決定に基づき、内閣総理大臣を議長とし、関係閣僚、首長、学識経験者等により構成される「地域主権戦略会議」が内閣府に設置された。

 平成21年12月14日に第1回会議が開催され、地域主権改革のための諸課題と検討に際しての視点、地域主権戦略の工程表(国と地方の協議の場の法制化、義務付け・枠付けの見直し、ひも付き補助金の一括交付金化、直轄事業負担金の廃止等)、地方分権改革推進計画(案)等について議論・意見交換が行われ、地方分権改革推進計画については、翌15日に閣議決定された。

 地方分権改革推進計画では、地域のことは地域に住む住民が責任を持って決めることのできる活気に満ちた地域社会をつくっていかなければならないとの観点から、地域主権改革の第一弾として、義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大、国と地方の協議の場の法制化、今後の地域主権改革の推進体制について、以下のとおり所要の取組を推進することとされた。

ア 義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大

 地方分権改革推進委員会の第3次勧告を尊重し、地方公共団体から要望のあった事項を中心に、「1 施設・公物設置管理の基準の見直し」、「2 協議、同意、許可・認可・承認の見直し」、「3 計画等の策定及びその手続の見直し」及び「4 その他の義務付け・枠付けの見直し」に掲げる事項について必要な法制上その他の措置を講ずる。

イ 国と地方の協議の場の法制化

 国と地方の協議の場については、法制化に向けて、地方とも連携・協議しつつ、政府内で検討し成案を得て法案を提出する。

ウ 今後の地域主権改革の推進体制

 内閣総理大臣を議長とする地域主権戦略会議(平成21年11月17日閣議決定)を中心に、地域主権改革の推進に資する諸課題について更に検討・具現化し、改革の実現に向けた工程を明らかにした上で、スピード感をもって改革を実行する。

 同会議については、内閣を助ける明確な権限と責任とを備えた体制とすることにより、地域主権改革をより一層政治主導の下で推進していくため、必要な法制上その他の措置を講ずる。


 地域主権改革を総合的かつ計画的に推進するため、地域主権戦略会議の設置の法制化、及び地方公共団体に対する事務処理の方法の義務付けを規定している関係法律の改正等を行うため、「地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案(仮称)」を第174回国会に提出する方針である(平成22年2月19日現在の状況)。

 また、今後、地域主権戦略会議の場を中心に地域主権改革のための諸課題についての検討を進め、本年夏を目途に「地域主権戦略大綱(仮称)」を策定することとされている。

(参考)地域主権戦略の工程表(案)


地域主権の実現に向け、期限を限って集中的かつスピーディに取り組む。

段階を区切り、明確な目標を設定して、戦略的かつ効果的に実現していく。


◎地域主権戦略フェーズI〔概ね平22年夏まで〕

 〔推進体制の確立から「戦略大綱」の策定へ〕

○地域主権戦略会議の設置(閣議決定→法制化(22年夏施行、3年後に見直し))

○当面の課題と進め方の概定(「工程表」(案)の提示、具体化)

○国と地方の協議の場の始動と法制化(21.11 始動→法制化)

○義務付け・枠付けの見直し(地方要望分を「分権計画」に盛り込み、法制化)

⇒「地域主権戦略大綱」の策定(平22 夏)


◎地域主権戦略フェーズII〔概ね平22年夏〜25年夏〕

 〔「戦略大綱」を通じたマニフェスト事項の実現から「地域主権推進基本法」の制定へ〕

⇒「地域主権戦略会議」と「国と地方の協議の場」を通じて、「戦略大綱」の各事項を順次実現


<規制>関連

○義務付け・枠付けの見直し(地方要望分に続き、残る事項の処理・法制化)

○基礎自治体への権限移譲(都道府県から市町村へ事務権限を移譲)


<予算>関連

○補助金の一括交付金化(ひも付補助金の廃止、23年度から段階的実施)

○地方税財源の充実確保(地方の自主財源の充実強化)

○直轄事業負担金の廃止(維持管理分の廃止、建設分の扱い)

○緑の分権改革(関連施策の予算化、実施)


<法制>関連

○「地方政府基本法」の制定(地方自治法の抜本改正の検討。一部は前倒し改正)

○自治体間連携(その自発的な形成等)

○出先機関改革(事務権限見直し、一括交付金化、自治体間連携の形成等を踏まえ検討)

 (→この間、地域主権推進一括法案(第2次)のほか、一括交付金化の関連法案を提出)


⇒3年後見直しとして関連改革を総レビューし、「地域主権推進大綱(仮称)」を策定(平25 夏)。更なる展開へ

(3)国と地方の協議の場の法制化

 地域主権の確立を推進するに当たり、国は、地方公共団体の自主性・自立性を阻害することのないよう努め、地方公共団体の代表者から現場の実態と感覚とを聴取し、国と地方の適切な役割分担の実現に取り組んでいく必要がある。

 このことを踏まえ、国と地方の協議の場の法制化に向けて関係閣僚(国)と地方六団体の代表者(地方)とによる実質的な協議が開催され、その下に設けられた国・地方双方の代表からなる実務検討グループにおいて検討が行われた。その検討結果を踏まえ、「国と地方の協議の場に関する法律案」を第174回国会に提出する方針である(平成22年2月19日現在の状況)。

(4)「ひも付き補助金」の一括交付金化

 現在、国から各地方公共団体に対して、社会保障、教育、公共事業等様々な行政上の目的をもって国庫補助負担金が交付されているが、地域主権の確立のためには、地域の自主性を伸ばし、地方の自主財源の充実、強化に努める必要がある。このため、国から地方へのいわゆる「ひも付き補助金」は廃止し、基本的に地方が自由に使える一括交付金を順次スタートできるよう検討が進められている。具体的には、「地域主権戦略の工程表(案)」において、「補助金の一括交付金化」について、「平成23年度から段階的実施」とされており、今後、同会議において、具体的な検討がなされる予定である。

(5)義務付け・枠付けの見直し

 地方公共団体が行う自治事務の中には、国が法令で事務の実施やその方法について義務付けや枠付けを行っているものが存在する。地域主権の確立のためには、法制的な観点からも地方公共団体の自主性を強化し、政策や制度の問題も含めて自由度を拡大するとともに、自らの責任において条例を制定し、行政を実施する仕組みを構築することが求められる。現在、関係省間において、地方分権改革推進計画(平成21年12月15日閣議決定)に基づき、「義務付け・枠付け」の廃止・縮小に向けた取組が進められている。

(6)直轄事業負担金制度の廃止

 直轄事業負担金制度の見直しについて、平成21年11月2日、三大臣(国土交通大臣、農林水産大臣、総務大臣)と全国知事会との間で意見交換会が開催された。これを受けて、11月9日、直轄事業負担金問題を関係省間で検討するため、国土交通省・農林水産省・総務省・財務省の政務官で構成する「直轄事業負担金制度等に関するワーキングチーム」(以下「ワーキングチーム」という。)が発足し、知事会からのヒアリングや論点整理などを行ったところである。関係省間の協議を経て、最終的には、直轄事業負担金制度廃止への第一歩として、平成22年度から維持管理に係る負担金制度を廃止することとなった。ただし、経過措置として、平成22年度に限り、安全性の確保等のために速やかに行う必要のある特定の維持管理に要する費用として、地方から負担金を徴収することとし、平成23年度には、維持管理費負担金を全廃することとされた。

 平成22年1月24日にワーキングチームにおいて決定された工程表(素案)において、直轄事業負担金の問題は、平成22年度から平成25年度までの間に、「国と地方の役割分担の在り方や今後の社会整備資本の在り方等(略)との整合性を確保しながら、関連する諸制度の取扱いを含めて検討を行」うこととされており、引き続き、工程表(素案)に沿って、ワーキングチーム等の場での検討が行われる。

(7)地方行財政検討会議

 地域主権の確立を目指した地方自治法の抜本的な見直しの具体案について、総務大臣をトップとし、政府関係者、地方公共団体関係者、有識者をメンバーとする「地方行財政検討会議」において検討することとしており、平成22年1月20日に初会合が開催されたところである。

 今後、同会議において成案の得られた検討結果を「地域主権戦略の工程表(案)」に沿って、地方自治法改正案として取りまとめていくこととされている。