3 地域力の創造

 活力ある地域社会を形成し、地域主権型社会を構築するため、地域で様々な主体が協働・連携して地域資源を活用し、地域力を高めるための多様な取組を展開できるよう、「緑の分権改革」、「定住自立圏構想」の推進や過疎地域などの条件不利地域の自立・活性化の支援を行っている。

(1)緑の分権改革

ア 基本的な考え方

 「緑の分権改革」とは、豊かな自然環境、再生可能なクリーンエネルギー、安全で豊富な食料、歴史文化資産などの地域資源を最大限活用する仕組を、地方公共団体と市民、NPO等の協働・連携により創り上げ、地域の活性化、絆の再生を図ることにより、地域から人材、資金が流出する中央集権型の社会構造を分散自立・地産地消・低炭素型に転換し、「地域の自給力と創富力(富を生み出す力)を高める地域主権型社会」を構築しようとする取組である。

イ 緑の分権改革の推進

 緑の分権改革の推進に向けてはこれまで、横断的な推進体制である「緑の分権改革推進本部」(本部長・総務大臣)や担当組織である「緑の分権改革推進室」を設置し、推進体制の整備を図るとともに、施策の展開におけるそれぞれの段階に応じた事業を行ってきたところである。

 具体的には、まず平成21年度において、緑の分権改革の推進のための基礎的条件整備として、地域におけるクリーンエネルギー資源の賦存量の調査やフィージビリティ調査、固定価格買取の仕組みや住民共同出資の活用等を含めた事業化方策の調査を実施した。

 次に、平成22年度においては、組織体制の構築、再生可能エネルギー以外の地域資源の発掘、事業化の可能性の検討など、先行的・総合的な取組を行う団体を募集し、ソフト面を中心とした調査を実施した。また、先進的な事例に基づく改革のモデル例の検討と提示、事業化検討の流れや再生可能エネルギー等の賦存量調査等についての統一的なガイドラインの作成等を行った。

 そして平成23年度は、前年度までの調査等を踏まえ、各地方公共団体において、「再生可能エネルギー」、「農林水産業・食品」及び「文化・観光・地域間交流」の個別分野ごとに緑の分権改革のモデルとなり得る取組を具体的に実施し、実証的な調査を行ったところである。今後はその成果や課題を抽出し対応策等について検討を深めた上で、実証的で使いやすい改革モデルをとりまとめ、全国の地方公共団体に対し提示していくこととしている。

 さらに、平成24年度においては、23年度までのモデル的な調査等の成果に基づき、改革モデルの全国展開を図るため、アドバイザーの派遣やプラットフォームの構築等を総合的に実施することとしている。また、離島や辺地等の条件不利地域の集落においては、他の地域とは異なる課題が見られることから、そうした地域の課題解決に向けたモデル的な取組の実証調査を行うこととしている。

ウ 取組の具体例

 平成23年度緑の分権改革調査事業の例として、以下のようなものがあげられる。

a 岩手県釜石市

 多数の被災者が自家用車を失ったことから、移動の利便性向上のため、太陽光発電装置・蓄電池を設置し、電動アシスト自転車シェアリングを実施している。また、林地残材、がれき木材を燃料とする薪ボイラーを設置し、地域コミュニティの核として足湯を設け、市街地のにぎわいを復活させる。

b 秋田県男鹿市

 温泉郷で「温泉排熱利用のヒートポンプによるハウス栽培」を軸とした改革モデルを企画・実証し、県外から供給されていた野菜類の地域での自給を図るとともに、新たな「食・農・観」サービスによる男鹿温泉郷の集客とにぎわいの強化を図っている。

c 群馬県川場村

 農産物の規格外品を地域資源として活用するため、惣菜、菓子等への加工に向けた研究開発を行うとともに、縁組提携の世田谷区との連携を通じて、都市部住民の定住促進を図っている。

d 新潟県十日町市

 過去の芸術祭のネットワークや作品、残された空家、廃校等を活かし、継続して集落との交流を進めている作家、団体、サポーター等と集落が協力して、都市農村交流、交流人口の拡大を図っている。

エ 被災地における緑の分権改革

 東日本大震災の被災地の復興には、自然環境や再生可能エネルギー等の地域資源を最大限活用し、域内循環を進めることにより、自立的な地域づくりを行うことが重要である。特に、東日本大震災の発生後、再生可能エネルギー等を活用する必要性が高まっているが、地域の視点に立てば、これを真に自立的な地域づくりにつなげるため、住民参画の下、エネルギーの地産地消、事業化による経済効果の域内循環などを一体的に進めていくことが重要と考えられる。

 また、「東日本大震災からの復興の基本方針」では、復興施策として「災害に強い地域づくり」が掲げられており、その中で「地域資源の活用と域内循環により地域の自給力と創富力を高める取組」について「地域主体の取組を支援する」こととされている。

 こうした観点から、平成23年度補正予算(第3号)において、東日本大震災により被災した地方公共団体におけるモデル的な取組の実証調査を行い、復興へ向けて地域の自給力と創富力を高める取組を推進することとしている。

(2)定住自立圏構想

ア 基本的な考え方

 我が国は、今後、総人口の減少及び少子化・高齢化の進行が見込まれており、特に地方圏においては、大幅な人口減少と急速な少子化・高齢化が見込まれている。このような状況を踏まえ、地方圏において安心して暮らせる地域を各地に形成し、地方圏から三大都市圏への人口流出を食い止めるとともに、三大都市圏の住民にもそれぞれのライフステージやライフスタイルに応じた居住の選択肢を提供し、地方圏への人の流れを創出することが求められている。

 「定住自立圏構想」とは、中心市と周辺市町村が、自らの意思で1対1の協定を締結することを積み重ねる結果として圏域を形成し、圏域ごとに「集約とネットワーク」の考え方に基づき、互いに連携・協力することにより、圏域全体の活性化を図ることで、地域住民のいのちと暮らしを守るため圏域全体で必要な生活機能を確保し、地方圏への人口定住を促進する政策である。

イ 経緯

 地方圏において人口の定住を進め、地方の活性化を図るため、平成20年1月から5月にかけて、「定住自立圏構想研究会」を開催し、日常に必要な機能を備える圏域のあり方等について、検討を行った。具体的な制度設計に当たっては、定住自立圏の形成に先行して取り組む先行実施団体との意見交換を行い、平成20年12月26日に、定住自立圏構想の基本的な考え方、定住自立圏形成の具体的な手順等を記載した「定住自立圏構想推進要綱」を公表した。

 具体的には、人口5万人以上(少なくとも4万人超)の市が、圏域として必要な生活機能の確保について中心的な役割を担う意思を有すること等を明らかにする中心市宣言を実施し、中心市と隣接し、経済、社会、文化又は住民生活等において密接な関係のある周辺市町村と定住自立圏形成協定を結ぶことになる。中心市は、圏域の将来像や推進する具体的取組を記載した定住自立圏共生ビジョンを策定し、これに取り組むことになる。

 平成24年2月10日時点では、73団体が中心市宣言を行っており、64の定住自立圏が形成されている。また中心市47団体が周辺市町村218団体と定住自立圏形成協定を締結しており、58団体が定住自立圏共生ビジョンを策定済みとなっている。

ウ 取組

 「定住自立圏構想の推進に関する懇談会」において、文化芸術、地域医療、産業振興の3分野について重点的に取り組むこととされ、これらの分野を中心として多様な取組が実施されている。取組事例としては以下のようなものが挙げられる。

a 文化芸術鑑賞等の機会の提供(瀬戸・高松広域定住自立圏)

 圏域内市町で共同して文化芸術事業を主催し、高松市の文化芸術ホールで開催される公演に圏域内の児童・生徒等を招待するとともに、美術館学習や周辺町への出前公演を実施し、圏域内の住民に優良な文化芸術鑑賞等の機会を提供する。

b ドクターカー運行事業(八戸圏域定住自立圏)

 八戸市を中心市として、8つの市町村で定住自立圏が形成され、圏域内の中核的な医療機関にドクターカーを配置し、ドクターヘリとの一体運営を行い、救急医療体制の充実を図っている。

c 地場産業振興センターの運営(南信州定住自立圏)

 圏域産業の中核的な支援機関である地場産業振興センターの施設及び人材を充実させ、圏域内外の企業に対し人材育成、新事業展開、新規創業等の支援を行うことにより、企業の経営及び技術の革新並びに産業クラスターの形成を目指している。

(3)過疎対策等の条件不利地域の自立・活性化の支援

ア 基本的な考え方

 過疎地域等は、都市部の災害防止、水源の涵養、安心・安全な食料の供給、森林による二酸化炭素の吸収などにより、都市部を支えている一方、人口減少、高齢化、身近な生活交通の不足、医師不足、維持が危ぶまれる集落の問題など、多くの課題が存在している。

 平成12年に制定・施行された過疎地域自立促進特別措置法(平成12年法律第15号)においては、経済性・効率性と都市文化を育む都市地域と並び、過疎地域を多様で豊かな自然環境、広い空間、伝統文化等を有する個性的な地域として位置づけ、両者の共生・対流により相互に機能を補完し合いつつ発展し、美しく品格ある多様性に富んだ国土を持つ国を目指すことを目的としている。

 これらのことを踏まえ、条件不利地域と都市が共生するという日本型の共生社会を実現するとともに、都市部を含めた国民全体の安心・安全な生活を確保していくことが必要である。

イ 具体的な取組内容

 条件不利地域の自立・活性化への支援を着実に推進していくため、以下のような取組を進めている。

ウ 過疎法に基づく施策

 過疎地域は、「過疎地域自立促進特別措置法」に基づき市町村毎に「人口要件」及び「財政力要件」により指定され、過疎地域に対しては、過疎対策事業債等の支援が行われる。

 平成22年4月1日に「過疎地域自立促進特別措置法の一部を改正する法律」(平成22年法律第3号)が施行され、「過疎地域自立促進特別措置法」の失効期限の6年間の延長、過疎地域の要件の追加、過疎対策事業債のソフト事業への拡充及び対象施設の追加などの改正が行われた。

 同法等の改正により過疎対策事業債について、ハード事業においては太陽光その他自然エネルギーを利用するための施設、認定こども園・市町村立の幼稚園、図書館などの施設についても支援対象に追加されるとともに、地域医療の確保、住民に身近な生活交通の確保、集落の維持及び活性化など、住民の安全・安心な暮らしの確保を図り、過疎地域の自立促進に資するソフト事業に対しても広く対象とすることとなった。

 また、平成24年度においては、前年度に引き続き、過疎地域等自立活性化推進交付金により、先進的で波及性のあるソフト事業、定住のための空き家改修や団地の整備及び廃校舎等の遊休施設を活用して行う地域間交流施設等の整備に対して支援措置を講じることとしている。

 なお、平成23年10月11日現在での過疎関係市町村は775市町村となっており、過疎地域市町村の割合は45.1%となっている。