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平成29年版
地方財政白書
(平成27年度決算)

3 財政マネジメントの強化等

(1)公共施設等の適正管理の推進

ア 公共施設等総合管理計画及び個別施設計画の策定促進

我が国においては、高度経済成長期に大量の公共施設等が建設されており、今後、それらの公共施設等が一斉に更新時期を迎えることが見込まれている。一方、地方財政は依然として厳しい状況にあり、各地方公共団体において、所有している全ての公共施設等の維持補修・更新財源を確保していくことは、一層困難となる可能性がある。また、人口減少や少子高齢化等により、公共施設等の利用需要が変化していくことが見込まれるため、各地方公共団体は、地域における公共施設等の最適配置の実現に向けて取り組んでいく必要がある。

そのため、総務省においては、平成26年4月に総務大臣通知により、各地方公共団体に対し、平成28年度までに公共施設等総合管理計画を策定し、公共施設等の総合的かつ計画的な管理を推進するよう要請した。平成28年10月1日時点の調査によれば、都道府県及び政令指定都市では100%、市区町村でも99.6%の団体において、平成28年度末までに同計画の策定が完了する予定となっている(第53表)。

平成25年11月に関係省庁が取りまとめた「インフラ長寿命化基本計画」では、地方公共団体を含む全てのインフラの管理者において、インフラ長寿命化計画(行動計画)及び個別施設ごとの長寿命化計画(個別施設計画)を策定することとされている。公共施設等総合管理計画は、この行動計画に該当するものであり、同計画を策定した地方公共団体においては、これに基づき、各施設について、集約化・複合化を行い新たな施設として活用していくか、現在の施設を引き続き有効活用していくかなど、今後の在り方を十分に検討し、個別施設計画の策定を着実に進める必要がある。

イ 公共施設等の適正管理の推進に係る取組

平成27年度以降、公共施設等総合管理計画に基づいて実施される既存の公共施設の集約化・複合化事業や転用事業を支援していくため、公共施設最適化事業債や転用事業に係る地域活性化事業債といった地方債措置が講じられてきた。

今後は、公共施設等総合管理計画について、上記のとおり、ほぼ全ての団体において平成28年度中に策定が完了することを受け、個別施設計画に基づく施設の維持管理・更新等に係る取組が本格化することが見込まれている。加えて、熊本地震の被害状況を踏まえ、これまで公共施設最適化事業債等の対象とされてこなかった行政庁舎について災害時の機能確保等の必要性が高まっていることなどにも対応する必要がある。

このことから、総務省においては、地方公共団体における公共施設等の適正管理の取組を支援するため、平成29年度から、「公共施設最適化事業債」、転用事業に係る「地域活性化事業債」及び除却事業に対する地方債措置を再編し、長寿命化対策、コンパクトシティの推進及び災害時の市町村の庁舎機能の確保に係る取組に対する措置を追加するなど内容を拡充し、「公共施設等適正管理推進事業債」として地方債措置を講じることとしている。

各地方公共団体においては、この地方債措置を活用しながら、公共施設等の適正管理に係る取組を積極的に進めていくことが期待される。

(2)地方公会計の整備と活用の促進

地方公会計は、現金主義会計による予算・決算制度を補完するものとして、発生主義・複式簿記といった企業会計的手法を活用することにより、現金主義会計では見えにくいコスト情報やストック情報を把握することを可能とするものであり、中長期的な財政運営への活用が期待できるものである。人口減少・少子高齢化が進展している中、財政のマネジメント強化のため、地方公会計を予算編成等に積極的に活用し、地方公共団体の限られた財源を「賢く使う」取組を行うことは極めて重要である。

地方公会計の整備については、平成18年5月に地方公共団体が参考とすべき財務書類の作成方式として基準モデルと総務省方式改訂モデルが示されて財務書類の作成が推進されてきた。しかし、複数の方式が存在しており、比較可能性が十分に確保されていないほか、多くの地方公共団体において既存の決算統計データを活用した簡便な作成方式である総務省方式改訂モデルが採用されたため、本格的な複式簿記が導入されず、公共施設マネジメントにも資する固定資産台帳の整備が十分でないことから、事業別や施設別のセグメント分析が十分にできていないといった課題があった。

このため、平成22年9月から「今後の新地方公会計の推進に関する研究会」を開催して議論を進め、平成26年4月に固定資産台帳の整備と複式簿記の導入を前提とした財務書類の作成に関する統一的な基準を示し、平成27年1月には、当該基準による財務書類の作成手順や資産の評価方法、固定資産台帳の整備手順、連結財務書類の作成手順、事業別・施設別のセグメント分析をはじめとする財務書類の活用方法等を示した具体的なマニュアルを公表したところである(第130図)。また、「統一的な基準による地方公会計の整備促進について」(平成27年1月23日付け総務大臣通知)において、当該基準による財務書類等を、原則として平成27年度から平成29年度までの3年間で全ての地方公共団体において作成し、予算編成等に積極的に活用するよう要請したところであり、平成28年3月31日時点で都道府県及び市区町村の98.8%に当たる1,766団体が平成29年度までに一般会計等財務書類の作成を完了する予定となっている(第54表)。

第130図 統一的な基準による地方公会計の整備促進について

さらに、これからの地方公会計は、財務書類を単に「作って見せる」だけではなく、「活用」していくことが重要である。平成28年度は、4月から「地方公会計の活用のあり方に関する研究会」を開催し、先進団体の活用事例の収集や地方公会計の整備により得られる指標についての検討を行い、10月に報告書を公表したところである。

(3)地方財政の「見える化」の推進

地方財政の「見える化」については、これまでも「地方財政白書」や「決算状況調」、「財政状況資料集」等により積極的な情報開示が行われてきたところであるが、「基本方針2015」において、「2018年度(平成30年度)までの集中改革期間に、地方公共団体の行政コストやインフラの保有・維持管理情報等の『見える化』を徹底して進め、誰もが活用できる形での情報開示を確実に実現する。」とされ、さらに「経済財政運営と改革の基本方針2016」(平成28年6月2日閣議決定)においても、「平成27年度決算より、経年比較や類似団体比較を含めて住民一人当たりコストについて性質別・目的別に網羅的な『見える化』を実施する。また、ユーザーが様々な条件を設定して自治体間比較ができるデータベースの早期実現に取り組む。」とされたことを踏まえ、今後、決算情報等の更なる「見える化」を図っていくこととしている。

まず、決算による行政コスト情報の「見える化」である。これまで人件費、普通建設事業費及び公債費に限られていた住民一人当たり行政コストについて、平成27年度決算からその範囲を拡大し、性質別・目的別で網羅的に「見える化」を行うこととしている。これにより、人件費、物件費、維持補修費といった性質別の住民一人当たり行政コストと、民生費、衛生費、教育費といった目的別の住民一人当たり行政コストが全て「見える化」されることとなる。また、その経年比較や類似団体比較などを踏まえた各団体による財政分析の内容が新たに「見える化」されることとなる(第131図)。

第131図 地方財政の「見える化」1 〜決算情報の「見える化」の徹底〜

次に、地方公共団体のストック情報の「見える化」である。これまで分からなかった公共施設等の経年の程度を示す指標、施設類型ごとのストック情報について、地方公会計に必要な固定資産台帳の整備に合わせて、平成27年度決算から順次、財政状況資料集等において公表していくこととしている。この取組により、地方公共団体の保有施設全体及び施設類型ごとに保有量や「有形固定資産減価償却率」といったストック情報が「見える化」されることとなる。また、各団体が保有する未利用地や売却可能地をはじめとする土地情報なども「見える化」されることとなる(第132図)。

第132図 地方財政の「見える化」2 〜新たな課題への積極的な対応〜

(4)地方公共団体の健全化判断比率と地方債制度の見直し

地方公共団体財政健全化法の全面施行(平成21年)以来、地方公共団体の財政健全化指標は一定の改善が見られる。その一方で、必ずしも現行制度では捉え切れていない地方公共団体の財政リスクについて指摘されていたことから、平成26年11月から「地方財政の健全化及び地方債制度の見直しに関する研究会」を開催し、平成27年12月に同研究会が取りまとめ公表した報告書の提言に沿って、平成28年3月に「地方交付税法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第14号)により地方公共団体財政健全化法の一部を改正し、地方公共団体が行う公有地信託や地方公共団体からの第三セクター等に対する反復・継続的な短期貸付金については、平成28年度決算から将来負担比率に算入することとした。

各地方公共団体においては、改正後の地方公共団体財政健全化法に基づき、自らの財政状況について、より精緻な情報開示を行い、議会や住民に対して説明責任を適切に果たすことが必要である。また、反復・継続的な短期貸付金については、必要な見直しを行い、なかでも出納整理期間の趣旨に反したものについては、特に見直しを図ることが重要である。

なお、地方債制度についても、地方交付税法等の一部を改正する法律等により地方財政法等の一部を改正し、平成28年度から、将来負担比率に係る協議不要基準について緩和するとともに、協議不要基準額を廃止するほか、特別転貸債及び国の予算等貸付金債を新たに届出制の対象とすることとした。

(5)地方公営企業等の経営改革

人口減少等に伴う料金収入の減少や施設の老朽化に伴う更新需要の増大など地方公営企業を取り巻く厳しい経営環境を踏まえ、経営基盤の強化と財政マネジメントの向上を図るため、事業廃止、民営化、広域化等及び民間活用といった抜本的な改革の検討並びに経営戦略の策定を推進するとともに、これらについてより的確に取り組むため、公営企業会計の適用拡大や経営比較分析表の活用等による公営企業の経営状況の「見える化」を推進している。こうした一連の取組は、「経済・財政再生アクションプログラム」における「改革工程表」にも位置付けられている。

ア 抜本的な改革の検討の推進

抜本的な改革の検討の推進については、平成28年5月に「公営企業の経営のあり方に関する研究会」を開始した。本研究会では、各事業における抜本的な改革の方向性や改革の検討に資する経営指標等について、有識者や自治体の代表者等による検討が行われており、平成28年度末までに報告書が取りまとめられる予定である。また、抜本的な改革等に係る先進・優良事例集を平成28年度中に作成・公表し、各公営企業の抜本的な改革の検討を推進することとしている。

抜本的な改革の推進に当たり、水道事業及び下水道事業については、広域化等を推進するとともに、公共施設等運営権制度(いわゆるコンセッション方式)を含むPPP/PFI手法の導入や民間委託の拡充など更なる民間活用を推進することとしている。特に、水道事業の広域化等については、「市町村等の水道事業の広域連携に関する検討体制の構築等について」(平成28年2月29日付け総務省自治財政局公営企業課長・公営企業経営室長通知)を踏まえ、各都道府県における広域化等の検討体制を活用し、できる限り平成30年度までを目途に検討を行うよう要請している。下水道事業の広域化等については、関係省庁が推進している持続的な汚水処理システム構築に向けた都道府県構想の見直し状況も踏まえつつ、最適化・広域化・共同化の検討を踏まえた経営戦略の策定を各地方公共団体に要請している。また、病院事業については、「新公立病院改革ガイドライン」を踏まえ、病院事業を設置する地方公共団体において策定した新公立病院改革プランに基づき、地域医療構想の実現に向けた取組と整合を図りながら、再編・ネットワーク化、地方独立行政法人化や指定管理者制度の導入を含む経営形態の見直し、経営の効率化等を推進している。

イ 経営戦略策定の推進

経営戦略策定の推進については、平成32年度までに策定するよう平成28年1月に各地方公共団体に要請を行ったところであり、平成28年3月31日時点での経営戦略の策定状況調査を実施した。調査結果によれば、第55表のとおり「平成32年度までに策定予定」の事業の割合は「策定済」の事業を含み74.5%となっている一方で、「策定予定年度未定」の事業の割合は25.5%である。調査結果については、全都道府県・市町村の事業別の策定状況を含め、総務省HPにおいて公表している。

地方公共団体に向けた支援策としては、「経営戦略策定ガイドライン」(平成28年1月公表)を取りまとめるとともに、総務省が委嘱した公認会計士等の専門家を経営アドバイザーとして派遣する「地方公営企業等経営アドバイザー派遣事業」や、総務省でリスト化した専門的知識・ノウハウを有する人材から地方公共団体が指導・助言を受けるための費用に対して地方財政措置を講じる「公営企業経営支援人材ネット事業」(平成28年度運用開始)などを用意している。こうした支援策の周知・活用を図ることで、経営戦略策定を促進しているところである。

ウ 公営企業の経営状況の「見える化」の推進

公営企業の経営状況の「見える化」の推進については、昭和41年以来のほぼ半世紀ぶりとなる会計制度の全面的な見直しを行ったほか、公営企業会計の適用拡大や経営比較分析表の活用の推進等に取り組んでいる。

(ア)地方公営企業会計制度の見直し

地方公営企業の会計制度については、まず資本制度の見直しにより、利益処分や資本の取扱い等に関する制約が廃止され、議会の議決又は条例のもとで、経営判断に基づく処分等が可能となった(平成24年4月施行)。

また、地方公営企業の経営実態をより的確に把握できるようにするとともに、損益計算書及び貸借対照表を他の地方公営企業や他の公的セクターや民間企業等と比較しやすく、住民等にも分かりやすいものとするため、地方公営企業会計基準の見直しを行い、新しい会計基準は平成26年度の予算及び決算から適用されている。

(イ)公営企業会計の適用拡大及び経営比較分析表の活用の推進

各公営企業が経営基盤の強化等により的確に取り組むためには、公営企業会計を適用し、貸借対照表や損益計算書等の財務諸表や固定資産台帳の作成等を行うとともに、経営比較分析表を活用することによって、各公営企業が自らの経営状況を的確に把握し、経営に活かすことが重要である。

a 公営企業会計の適用拡大

公営企業会計の適用拡大については、「公営企業会計の適用の推進について」(平成27年1月27日付け総務大臣通知)、「公営企業会計の適用の推進に当たっての留意事項について」(平成27年1月27日付け総務省自治財政局長通知)等を踏まえ、平成31年度までの集中取組期間において、下水道事業及び簡易水道事業を重点事業として公営企業会計への移行に適切に取り組むよう要請している。

平成28年4月時点における全都道府県・市町村等の個々の団体における公営企業会計適用の取組状況を調査した結果、第56表のとおり、人口3万人以上の団体のうち、「適用済」及び「取組中」の団体の割合が、下水道事業で92.9%、簡易水道事業で86.0%となっており、平成27年10月時点と比較して取組が進捗している。引き続き、各地方公共団体における取組状況のフォローアップや、アドバイザー派遣事業等を活用し、公営企業会計の適用拡大の取組を促進していく。

b 経営比較分析表の活用

平成28年2月に水道事業及び下水道事業の経営比較分析表の作成・公表を開始し、抜本的な改革の検討や経営戦略の策定への活用を促している。経営比較分析表の作成・公表対象事業を水道及び下水道以外の事業に拡大すること及び事業ごとの経営指標案について、「公営企業の経営のあり方に関する研究会」において検討が行われている。

エ 第三セクター等の経営改革の推進

各地方公共団体においては、財政規律の強化と財政的リスク管理の一環として、関係を有する第三セクター等について、自らの判断と責任により経営効率化・健全化に取り組むことが必要である。

総務省では、平成27年度決算における地方公共団体が出資・出捐をしている第三セクター等7,410法人のうち、地方公共団体が実際に損失補償などを行っている1,193法人について財政的リスクの調査を実施し、地方公共団体別に、調査対象法人全ての結果を公表したところである。

調査対象法人のうち、地方公共団体の標準財政規模に対する損失補償などの額の割合が実質赤字の早期健全化基準と同じ率に達している法人は73法人、債務超過の法人は125法人、経常赤字の法人は410法人である。調査対象の土地開発公社479法人のうち、債務保証などの対象となっている5年以上の長期保有土地が標準財政規模の10%以上の法人は62法人となっている。

第三セクター等が経営破たんした場合に財政負担を負うリスクが高い水準に達している地方公共団体や、こうした財政的リスクを正確に把握していない地方公共団体にあっては、当該第三セクター等の抜本的改革を含む経営健全化に速やかに取り組むことが求められる。

また、第三セクター等改革などの先進事例集を平成28年度中に作成・公表し、全国に横展開することとしている。先進事例集には、整理・再生等の抜本的改革や損失補償の削減、債務超過の解消などの経営健全化の取組事例について、取組の背景・要因、取組内容、検討過程、効果額や他団体の参考となる点等を盛り込むこととしている。

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