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平成30年版
地方財政白書
(平成28年度決算)

2 地方創生の推進

(1)地方創生の動き

我が国は世界に先駆けて「人口減少・超高齢社会」を迎えており、「人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人口減少を加速させる」という悪循環の連鎖に陥る可能性が高い。地方が弱体化すれば、地方からの人材流入が続く大都市もいずれは衰退し、我が国全体の競争力が弱まることは避けられない。

国は、平成26年9月にまち・ひと・しごと創生本部を設置し、同年11月には、地方創生の目的、理念、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下「総合戦略」という。)の策定等を定めた「まち・ひと・しごと創生法」(平成26年法律第136号)及び活性化に取り組む地方公共団体を国が支援する「地域再生法の一部を改正する法律」(平成26年法律第128号)が成立するとともに、同年12月には、日本の人口の現状と将来の姿を示し、2060年に1億人程度の人口を確保する長期展望を提示する「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及び今後5か年の目標や施策等を提示する総合戦略を決定した。

総合戦略においては、<1>「地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」、<2>「地方への新しいひとの流れをつくる」、<3>「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」、<4>「時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する」の4つの基本目標の下、成果指標や政策パッケージを示している。

平成29年度は総合戦略の中間年に当たり、各施策のKPI等の総点検を実施し、有識者から成る検証チームにより、基本目標<2>「地方への新しいひとの流れをつくる」については、地方と東京圏の転出入の均衡という目標に対して、現時点では施策の効果が十分に発現していないが、地方創生の根幹的な目標であることから、見直しを行うべきではなく、一層の取組強化により達成を目指すべきと提言された。そこで、平成29年12月に、総合戦略を改訂し、「キラリと光る地方大学づくり」等の地方における若者の修学・就業の促進等、ライフステージに応じた政策メニューの充実・強化に取り組むこととした。

また、地方においては、ほぼ全ての地方公共団体が「地方版総合戦略」を策定しており、国は意欲と熱意のある地方公共団体の取組を、情報、人材、財政の「地方創生版・三本の矢」で引き続き支援していくこととしている。情報面では、地域経済分析システム(RESAS)の普及促進により政策立案への支援を行うとともに、人材面では、地方創生カレッジや地方創生人材支援制度を通じて、人材の確保・育成を支援している。財政面では、平成30年度当初予算においても地方公共団体の先駆的な取組を支援する地方創生推進交付金を引き続き1,000億円確保するとともに、地方からの強い要望を踏まえ、交付上限額の引上げやハード事業に係る要件緩和等を行う。また、首長のリーダーシップの下、産官学連携により、地域の中核的産業の振興や専門人材育成などを行う優れた取組を新たな交付金により重点的に支援することなどを含む「地方大学・地域産業創生事業」を100億円計上した。これに加え、平成29年度補正予算において生産性革命等につながる先導的な施設整備等の取組を進めるための地方創生拠点整備交付金を600億円確保したほか、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)等の税制措置を講じている。

さらに、地方公共団体が地域の実情に応じ、自主的・主体的に地方創生に取り組むことができるよう、平成27年度以降、地方財政計画の歳出に計上している「まち・ひと・しごと創生事業費」について、平成30年度においても引き続き1兆円を確保した。

あわせて、平成30年通常国会において、地域における大学振興・若者雇用創出のための交付金制度の創設、特定地域内の大学等の学生の収容定員の抑制、地域における若者の雇用機会の創出等を内容とする「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律案」及び、地方拠点強化税制における移転型事業について、近畿圏・中部圏中心部を支援対象地域に追加することや地方税を課税免除した場合も地方交付税による減収補てんの対象とすること等を内容とする「地域再生法の一部を改正する法律案」を提出しているところである。

(2)地域資源を活用した地域雇用創出と消費拡大の推進

地域経済の好循環を拡大するためには、地域の資源を活用し、地域における雇用の創出と消費拡大の推進を図ることが重要であり、こうした観点から、以下の取組を実施している。

ア ローカル10,000プロジェクト

産学金官の連携により、地域の資源と地域金融機関の資金を活用して、雇用吸収力の大きい地域密着型企業を立ち上げる「ローカル10,000プロジェクト」を推進している。

具体的には、地域の金融機関から融資を受けて事業化に取り組む民間事業者が、事業化段階で必要となる初期投資費用について、都道府県又は市町村が助成を行う場合において、それに要する経費の一部又は全部を交付することとしている。平成28年度までに323事業が交付決定されており、地域経済への様々な波及効果が期待されている。

また、平成30年度からは、地域活性化のためのファンド等による出資を受ける事業も試験的に対象とするなど、制度の改善を図り、支援することとしている。

イ 分散型エネルギーインフラプロジェクト

地方公共団体を核として、需要家、地域エネルギー会社及び金融機関等、地域の総力を挙げて、バイオマス、廃棄物等の地域資源を活用した地域エネルギー事業を立ち上げるマスタープランを策定する団体を支援する「分散型エネルギーインフラプロジェクト」について、平成28年度までに39団体がマスタープランを策定している。

また、平成30年度においても引き続き、関係省庁タスクフォースと連携して、マスタープラン策定を支援するとともに、「事業化ワンストップ相談窓口」でコンサルティングを行うことにより、事業化に向けた支援を行うこととしている。

ウ 住民総活躍・地域の消費拡大サイクル構築プロジェクト

マイナンバーカードを活用して<1>公共施設等の利用者カードを1枚にし、<2>地方公共団体のボランティアポイント等とのクラウドでの管理や、<3>クレジットカードのポイント等を地域経済応援ポイントとして合算する「住民総活躍・地域の消費拡大サイクル構築プロジェクト」について、地域金融機関との連携も図りながら、平成30年度においても全国での導入に向けた取組を推進することとしている。

エ シェアリングエコノミー活用推進事業

人口減少社会においては、人、モノなどあらゆる資源を最大限有効に活用することが重要であることから、近年、シェアリングエコノミーという新たな経済の動きが生まれ、様々な分野で活用が始まっている。平成30年においては、シェアリングエコノミーを活用して、失われつつある「共助の仕組み」を再構築し、地域での社会課題解決や生活産業の創出による経済活性化を図るため、地方公共団体による取組を支援するモデル事業を実施する「シェアリングエコノミー活用推進事業」を展開する。

(3)地域の人材、組織の育成強化

地域経済の好循環の拡大に向け、地域の人材、組織の育成強化を図り、地域への「ヒト・情報」の流れを創出するため、以下の取組を実施している。

ア チャレンジ・ふるさとワーク

地域経済の好循環の更なる拡大に向け、地域への「ヒト・情報」の流れを創出するため、平成28年度より、「チャレンジ・ふるさとワーク」を推進しており、29年度においては、「ふるさとワーキングホリデー」、「お試しサテライトオフィス」などを推進している。

「ふるさとワーキングホリデー」とは、若者などが、一定期間地域に滞在し、働いて収入を得ながら、地域住民との交流や学びの場などを通じて地域での暮らしを体感する取組である。

「お試しサテライトオフィス」とは、都市部企業等のサテライトオフィスの開設を推進するために実施する、「お試し勤務」の誘致・勤務場所の提供・活動の支援等の取組である。

平成30年度においては、これらの取組を更に推進するため、実施団体が一堂に会する説明会や総合広報を実施する「ふるさとワーキングホリデー推進事業」及び地方公共団体と企業とのマッチング機会を提供する「サテライトオフィス・マッチング支援事業」等を実施する。

さらに、地域と多様に関わる地域外の「関係人口」に着目し、地域づくりに関わる機会を提供したり、地域課題の解決等に向けた協働実践活動等に取り組む地方公共団体をモデル的に支援する「「関係人口」創出事業」などを推進する。

イ 地域おこし協力隊の拡充など地域への人材還流の促進

地方公共団体が都市住民を受け入れ、一定期間以上、農林漁業の応援、水源保全・監視活動、住民の生活支援などの各種の地域協力活動に従事してもらいながら、当該地域への定住・定着を図る取組である「地域おこし協力隊」は、平成28年度には全国886の地方公共団体で4,090人の方々が活躍している。

制度創設から10年目を迎える平成30年度においては、地域おこし協力隊の更なる拡充のため、全国サミットの開催等により広く制度の周知を行うとともに、隊員・地方公共団体双方への研修の充実等により、隊員の円滑な活動を支援し、地域への人材還流を推進する。

ウ 「移住・交流情報ガーデン」の充実など地方への移住・交流の推進等

地方移住を希望する国民の様々なニーズに応え、地方移住を考える人へのしごと・すまい・生活環境等についてのワンストップ相談体制を一層充実させるため、平成27年3月に開設した「移住・交流情報ガーデン」では、28年度に約6,800件にのぼる移住あっせんを行っている。

平成30年度においても、地方公共団体が実施する移住希望者に対する移住関連情報の提供や相談支援について、引き続き、「移住フェア」の実施等により、移住希望者や地域と多様に関わる者(関係人口)等への情報提供体制の更なる強化を支援していく。

子供の農山漁村における農林漁業体験・宿泊体験を推進する「子ども農山漁村交流プロジェクト」については、平成30年度は、送り手側・受入れ側の地方公共団体双方が連携して行う実施体制の構築に係るモデル的な支援について、小学校に加え、中学校や、学校教育活動以外の農山漁村交流を対象とするなど拡充することとしている。

(4)新たな圏域づくり

人口減少・少子高齢化の時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域の連携を図るため、「集約とネットワーク」の考え方に基づき、以下の新たな圏域づくりに取り組む。

ア 連携中枢都市圏構想の推進

「連携中枢都市圏構想」とは、人口減少・少子高齢社会にあっても、地域を活性化し経済を持続可能なものとし、国民が安心して快適な暮らしを営んでいけるようにするために、地域において、相当の規模と中核性を備える圏域の中心都市が近隣の市町村と連携し、コンパクト化とネットワーク化により「経済成長のけん引」、「高次都市機能の集積・強化」及び「生活関連機能サービスの向上」を行うことにより、人口減少・少子高齢社会においても一定の圏域人口を有し活力ある社会経済を維持するための拠点を形成する政策である。本構想は、第30次地方制度調査会「大都市制度の改革及び基礎自治体の行政サービス提供体制に関する答申」を踏まえて制度化したものであり、平成26年度から全国展開を行っている。

平成30年1月現在では、30市が中心都市として圏域を形成する意思を宣言し、24の圏域(延べ211市町村)が形成されるなど、全国で着実に連携中枢都市圏構想による取組が進んでいる。また、平成28年度に創設した「複眼型連携中枢都市圏」を活用した圏域や県境を越えた圏域が形成されるなど、多様な形態の圏域が形成されている。

今後も、連携中枢都市圏構想を推進するため、圏域での取組に対して、引き続き地方財政措置を講じ、圏域全体の経済成長のけん引や高次都市機能の集積・強化を図る取組等を支援することとしている。

イ 定住自立圏構想の推進

「定住自立圏構想」とは、地方圏において安心して暮らせる地域を各地に形成し、地方圏から三大都市圏への人口流出を食い止めるため、人口5万人程度以上の中心市と近隣市町村が連携・協力し、「生活機能の強化」「結びつきやネットワークの強化」及び「圏域のマネジメント能力の強化」を行うことにより、圏域全体で必要な生活機能を確保し、地方圏への人口定住を促進する政策であり、平成21年度から全国展開を行っている。

平成29年12月現在では、130市が中心市として圏域を形成する意思を宣言し、119の圏域(505市町村)が形成されるなど、全国で着実に定住自立圏構想による取組が進んでいる。

今後も、定住自立圏構想を推進するため、圏域での取組に対して、引き続き地方財政措置を講じ、地域住民の生活実態やニーズに応じ、生活に必要な機能の確保を支援することとしている。

ウ 集落ネットワーク圏の形成

「集落ネットワーク圏」とは、過疎地域をはじめとした条件不利地域の持続可能な暮らしを実現するため、基幹集落を中心に周辺の複数集落とネットワーク化を図り圏域全体での集落機能を確保する政策である。平成30年度においても、過疎地域等自立活性化推進交付金等により、地域運営組織をはじめとする「くらし」を支える多様な主体の包摂・連携による生活支援の取組や「なりわい」を創出する活動について引き続き支援する。

(5)ふるさと納税の活用

ふるさと納税は、平成20年の制度創設以来、ふるさとや地方公共団体の様々な取組を応援する気持ちを橋渡しし、支え合う仕組みとして、多くの方々に活用され、28年度のふるさと納税の受入額は2,844億円と着実に伸びてきた(第127図)。

また、近年多発する災害時における被災地への支援をはじめとして、自らの意思で寄附を行うことを通じて、我が国における寄附文化の醸成にも貢献している。

今後、ふるさと納税を行う方の裾野を拡大し、ふるさと納税で得られた資金をそれぞれの地域で更に有効に活用するためには、各地方公共団体において、ふるさと納税を活用する事業の趣旨や内容、成果をできる限り明確にする取組やふるさと納税をした方と継続的なつながりを持つ取組を進めることが重要である。

こうした地方公共団体の取組を積極的に後押しするため、総務省において、新たな3つの支援策が展開されている。

1つ目は、地域に「仕事」を作り出して「人」を呼び戻すため、クラウドファンディング型ふるさと納税を活用して、地域における起業を支援する「ふるさと起業家支援プロジェクト」である(第128図)。起業家に対し、ふるさと納税を財源に補助する金額に上乗せして独自に補助を行う場合には、特別交付税措置を講じることとしている。

第128図 ふるさと納税の活用(ふるさと起業家支援プロジェクト)

2つ目は、高齢化や人口流出が進む地域に「人」を呼び込むため、クラウドファンディング型ふるさと納税を活用して、地方公共団体の移住・定住の取組を支援する「ふるさと移住交流促進プロジェクト」である(第129図)。寄附者を含めた移住希望者に対して行う移住・定住対策の取組に要する経費については、引き続き特別交付税措置を講じることとしている。

第129図 ふるさと納税の活用(ふるさと移住交流促進プロジェクト)

3つ目は、「優良事例集の作成による横展開」である。ふるさと納税で得られた資金を活用して地域の活性化に成果を挙げている取組が全国に広がるよう、好事例を紹介していくこととしている。

各地方公共団体においては、これらの支援策を活用しつつ、ふるさと納税の更なる活用に向けて、創意工夫にあふれた取組を進めることが期待されている。

(6)若者定着に向けた地方大学の振興等

地方からの若い世代の流出が大学進学時と卒業後の最初の就職時において顕著であることを踏まえると、「地方への新しいひとの流れをつくる」ためには、地方大学の振興や地方における雇用創出・若者の就業支援は重要な課題であり、総合戦略にも位置付けられているところである。

これを踏まえ、総務省と文部科学省が連携し、平成27年度から、「奨学金(「地方創生枠」等)を活用した大学生等の地方定着の促進」及び「地方公共団体と地方大学の連携による雇用創出・若者定着の促進」の取組を支援しており、29年度においては、前者については13県6市、後者については13県18市6町が対象となっている。今後も、地方公共団体には一層積極的な取組が期待される。

(7)過疎対策の推進

過疎地域は、都市部の災害防止、水源の涵養、安心・安全な食料の供給、森林による二酸化炭素の吸収などにより、都市部の生活と成長を支えている一方で、従来より、人口減少、高齢化、身近な生活交通の不足、医師不足、維持が危ぶまれる集落の問題など、多くの課題が存在している。過疎地域と都市部は、共生・対流により相互に機能を補完し合いつつ発展し、美しく品格ある多様性に富んだ国土を持つ国を目指すことが必要であり、こうした観点から、以下の取組を実施している。

ア 過疎対策事業債

過疎対策事業債においては、平成27年度より、地域の特性を生かした創業の促進・事業活動の活性化により魅力ある就業機会の創出を図るため、ハード事業のうち、民間雇用の創出や産業振興に資する事業を新たに「地方創生特別分」として位置付け、優先して取り組むこととしている。

イ 過疎地域等自立活性化推進交付金

平成30年度においては、29年度に引き続き、過疎地域等自立活性化推進交付金により、廃校舎等の遊休施設を活用して行う地域間交流施設等の整備、基幹集落を中心に複数の集落で構成される集落ネットワーク圏の形成、先進的で波及性のあるソフト事業及び定住のための空き家改修や団地の整備に対して支援措置を講じることとしている。

なお、平成12年に制定・施行された「過疎地域自立促進特別措置法」(平成12年法律第15号)は、平成22年、24年、26年及び29年の法改正を経て、平成33年3月までの期限延長、国勢調査結果による過疎地域の要件の追加、過疎対策事業債の対象施設の見直しとソフト事業への拡充等、経済・社会情勢に応じて所要の見直しが行われてきた。

過疎地域は、過疎地域自立促進特別措置法に基づき市町村毎に「人口要件」及び「財政力要件」により判定され、過疎地域に対しては、過疎対策事業債等の支援が行われる。平成29年4月1日現在での過疎関係市町村は817市町村となっており、過疎関係市町村の割合は47.6%となっている。

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