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平成31年版
地方財政白書
(平成29年度決算)

7 財政マネジメントの強化

(1)地方公会計の更なる活用の促進

地方公会計は、現金主義会計による予算・決算制度を補完するものとして、発生主義・複式簿記といった企業会計的手法を活用することにより、現金主義会計では見えにくいコスト情報やストック情報を把握することを可能とするものであり、中長期的な財政運営への活用が期待される。人口減少・少子高齢化が進展している中、財政のマネジメント強化のため、地方公会計を積極的に活用し、地方公共団体の限られた財源を「賢く使う」取組を行うことは極めて重要である。

地方公会計の整備については、「統一的な基準による地方公会計の整備促進について」(平成27年1月23日付け総務大臣通知)において、統一的な基準による財務書類等を原則として平成27年度から29年度までの3年間で全ての地方公共団体において作成するよう要請したところであり(第131図)、平成30年3月31日時点では、第54表のとおり、固定資産台帳については都道府県及び市区町村の95.3%にあたる1,704団体が、一般会計等財務書類については88.2%にあたる1,577団体が作成済みとなっている。

第131図 統一的な基準による地方公会計の整備促進について

統一的な基準による財務書類等がほぼ全ての地方公共団体において整備されたことを踏まえ、今後は、財務書類等を適切に作成して開示するとともに、経年比較や類似団体間比較、財務書類の数値から得られる指標を用いた分析等を行い、資産管理や予算編成、行政評価等に積極的に活用していくことが重要である。

平成30年3月31日時点における財務書類の活用状況については、第55表のとおり、「財務書類等の情報を基に、各種指標の分析を行った」団体が約3割、「簡易に要約した財務書類を作成するなどし、住民に分かりやすく財政状況を説明した」団体が約2割等となっており、事業別・施設別のセグメント分析や将来の施設更新必要額の推計等の取組を更に進めていくことが求められる。

地方公共団体において財務書類等の活用が更に進むよう、財務書類等の情報を基に事業別、施設別等にコスト等の分析を行うセグメント分析の手法や事例等について、「統一的な基準による地方公会計マニュアル」の充実・周知を図るとともに、財務書類等の比較可能な形による「見える化」を進めるほか、引き続き、地方公会計に関し、地方公共団体における人材育成等を支援することとしている。

(2)地方財政の「見える化」の推進

地方財政の「見える化」については、「地方財政白書」や「決算状況調」、「財政状況資料集」等により積極的な情報開示が行われてきた。

平成27年度決算からは、「財政状況資料集」において、住民一人当たりのコストについて性質別や目的別で網羅的に公表するとともに、有形固定資産減価償却率などのストックに関する情報についても、固定資産台帳の整備に合わせて、順次充実を図り、経年比較や類似団体比較を行うことができるようにしたところである。

地方公共団体においては、住民等に対する説明責任をより適切に果たし、住民サービスの向上や財政マネジメントの強化を図る観点から、「財政状況資料集」等の活用による住民等へのより分かりやすい財政情報の開示に取り組むとともに、地方公会計の整備により得られるストック情報、基金の考え方・増減の理由・今後の方針等の基金の積立状況等を含め、公表内容の充実を図っていくことが求められる。

地方単独事業(ソフト)の決算情報については、地方財政状況調査において、平成25年度決算から各都道府県・市町村の歳出額を「民生費」、「教育費」等の目的別で把握・公表し、平成28年度決算からは地方公共団体間の重複部分を控除した決算額(純計額)を把握・公表しているが、30年度においては、「基本方針2018」等を踏まえ、「地方単独事業(ソフト)の「見える化」に関する検討会」において、地方単独事業(ソフト)の決算情報について全国の状況をより詳細に把握・分析し、その「見える化」のあり方の検討を進めているところであり、今後、検討会における議論等を踏まえ、地方財政状況調査の調査内容の充実を図ることとしている。

(3)地方公営企業等の経営改革

公営企業は、料金収入をもって経営を行う独立採算制を基本原則としながら、住民生活に身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する役割を果たしている。今後の急速な人口減少等に伴うサービス需要の減少や施設の老朽化に伴う更新需要の増大など、公営企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中にあって、各公営企業が将来にわたってこうした役割を果たしていくためには、経営戦略の策定や抜本的な改革等の取組を通じ、経営基盤の強化と財政マネジメントの向上を図るとともに、公営企業会計の適用拡大や経営比較分析表の活用による「見える化」を推進することが求められる。また、第三セクター等については、財政的リスク状況を踏まえ、各地方公共団体における経営健全化のための方針の策定・公表を推進することが求められる。こうした一連の取組は、「新経済・財政再生計画 改革工程表2018」(平成30年12月20日経済財政諮問会議決定)にも位置付けられている。

ア 公営企業の更なる経営改革の推進

(ア)経営戦略の策定・改定の推進

経営戦略については、平成32年度までに策定を完了するよう平成28年1月に各地方公共団体に要請している。策定状況調査によれば、第56表のとおり、平成30年3月31日時点で策定済の事業の割合は全体の47.9%となっており、全都道府県・市町村の事業別の状況等の調査結果を公表している。

地方公共団体に向けた支援策としては、「経営戦略策定ガイドライン」(平成28年1月作成、平成29年3月改訂)を公表するとともに、経営戦略の策定・改定に要する経費に対する地方財政措置を講じるほか、地方公共団体金融機構との共催による全国ブロック単位での経営戦略の策定に係る実務講習会などを実施している。

また、策定済の経営戦略についても、取組の進捗と成果を一定期間ごとに評価、検証した上で、収支均衡を図る具体的な取組を再検討し、経営戦略の改定を行うことが必要であり、引き続き、経営戦略の策定・改定を促進するための取組を推進することとしている。

(イ)抜本的な改革の検討の推進

抜本的な改革の検討に当たっては、事業そのものの意義、提供しているサービス自体の必要性及び事業としての持続可能性について検証するとともに、経営形態のあり方について検討を行うことが必要であり、事業ごとの特性に応じて、事業廃止、民営化・民間譲渡、広域化等及び民間活用という4つの方向性を基本として検討する必要がある。

その取組状況は、第57表のとおり、平成29年度の1年間で、事業廃止99事業、民営化・民間譲渡12事業、広域化等106事業などとなっており、各事業の特性に応じた取組が行われている。これらの取組のうち、特に他の地方公共団体において参考となるよう先進・優良事例集を作成しており、毎年度更新の上、地方公共団体への周知を行っている。

水道事業及び下水道事業については、広域化等を推進するとともに、公共施設等運営権方式(コンセッション方式)を含むPPP/PFI手法の導入や民間委託の拡充など、更なる民間活用を推進することとしている。

また、病院事業については、「新公立病院改革ガイドライン」(平成27年3月31日付け総務省自治財政局長通知)を踏まえ策定した「新公立病院改革プラン」に基づき、公立病院を経営する地方公共団体において、地域医療構想の実現に向けた取組と整合を図りながら、再編・ネットワーク化、地方独立行政法人化や指定管理者制度の導入を含む経営形態の見直し、経営の効率化等を推進している。

(ウ)公営企業の経営状況の「見える化」の推進

公営企業の経営状況の「見える化」の推進については、平成26年に会計制度の全面的な見直しを行ったほか、各公営企業の経営基盤の強化等のために、公営企業会計の適用拡大及び経営比較分析表の活用を推進している。

a 公営企業会計の適用拡大

公営企業会計の適用については、「公営企業会計の適用の更なる推進について」(平成31年1月25日付け総務大臣通知)及び「公営企業会計の適用の推進に当たっての留意事項について」(平成31年1月25日付け総務省自治財政局長通知)等により、第132図の新たなロードマップのとおり、下水道事業及び簡易水道事業を重点事業とし、人口3万人以上の地方公共団体における平成31年度までの公営企業会計への移行を引き続き推進するとともに、人口3万人未満の地方公共団体においても平成35年度までに公営企業会計に移行することとするなど、一層の取組を推進することとしている。あわせて、市区町村における公営企業会計への移行が円滑に進むよう、都道府県に対して、個別の市区町村の取組状況を踏まえた助言等を要請している。

第132図 公営企業会計の適用拡大に向けた新たなロードマップ

平成30年4月時点における全都道府県・市町村等の公営企業会計適用への取組状況は第58表のとおりであるが、引き続き、各地方公共団体における取組状況のフォローアップや、外部専門家の支援の実施等により、更なる取組を促進することとしている。

b 経営比較分析表の活用

各公営企業において作成・公表している経営比較分析表については、これまで、水道事業、簡易水道事業、下水道事業、交通事業(自動車運送事業)、電気事業、観光施設事業(休養宿泊施設事業)、駐車場整備事業及び病院事業の8分野を対象としている。今後とも各公営企業の経営分析に当たって有効に活用されることが期待される。

(エ)外部専門家による支援

経営戦略の策定・改定、抜本的な改革の検討及び公営企業会計の適用等の取組を推進するため、総務省においては、各公営企業等がこれらの取組について検討を進めるに際し、公営企業等の経営に精通した外部専門家の助言等を受けることができる支援制度を設けている。

a 公営企業経営アドバイザー派遣事業

地方公共団体の要請に基づき、総務省が委嘱した公認会計士等の外部専門家を派遣し、必要な助言を行うことを目的として、平成7年度から実施している。平成31年度は、本事業を活用し、公営企業会計の適用について、人口3万人未満の市区町村等を対象としたモデル事業を創設することとしている。

b 公営企業経営支援人材ネット事業

総務省において対応可能な地域や取組分野等ごとにリスト化した外部専門家を地方公共団体が自ら招聘し、継続的な指導・助言を受けることを目的として、平成28年度から実施している。また、諸課題への対応のため、平成31年度は、外部専門家の増員等の充実を図ることとしている。

(オ)水道事業及び下水道事業における持続的経営の確保

a 水道事業

水道事業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中で、広域化の推進、アセットマネジメントの充実、着実な更新投資、料金収入の確保、民間活用の推進、ICT等の先端技術の活用などに取り組むことで持続的な経営を確保すべきである。こうした中、平成30年12月には、広域的な連携等の推進に係る都道府県の責務等を定めた「水道法の一部を改正する法律」(平成30 年法律第 92 号)が成立した。

特に広域化については、「「水道広域化推進プラン」の策定について」(平成31年1月25日付け総務省自治財政局長・厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)を発出し、都道府県において、「水道広域化推進プラン」を平成34年度までに策定するよう要請している。また、広域化を推進するため、多様な広域化に伴う施設の整備等に対する地方財政措置を講じることとしている。

加えて、大量に更新時期を迎えている大規模な事業用資産を保有している水道事業は、中長期の更新需要の見通しを踏まえた適切なアセットマネジメントに基づき、必要な施設を将来にわたり適時適切に維持・更新していくことが喫緊の課題である。総務省においては、経営条件の厳しい団体に対しても、これらの着実な更新投資を促進するため、水道管路の耐震化に係る地方財政措置を拡充することとしている。

b 下水道事業

下水道事業を取り巻く経営環境が厳しさを増すことを踏まえ、各地方公共団体における広域化・共同化、汚水処理施設の最適化、ICTの利活用、民間活用や適切なストックマネジメントに基づく老朽化対策及び公営企業会計の適用などの取組を推進することで持続的な経営を確保すべきである。

こうした取組の中でも、広域化・共同化の推進に当たっては、将来を見据えた市町村の積極的な検討が必要であるとともに、協議が円滑に進展するよう広域行政を所管する都道府県が積極的に主導し、事業の当事者間の調整に取り組む必要がある。このため、「汚水処理の事業運営に係る「広域化・共同化計画」の策定について」(平成30年1月17日付け総務省自治財政局準公営企業室長等通知)を踏まえ、都道府県において、平成34年度までに「広域化・共同化計画」を策定するよう要請している。また、広域化・共同化に伴う施設の整備費等に対する地方財政措置を講じることとしている。

イ 第三セクター等の経営改革の推進

各地方公共団体においては、財政規律の強化と財政的リスク管理の一環として、関係を有する第三セクター等について、自らの判断と責任により経営効率化・健全化に取り組むことが必要である。

総務省では、平成29年度決算における地方公共団体が出資又は出えん(以下「出資」という。)を行っている第三セクター等7,364法人の中で、地方公共団体が25%以上の出資を行っている法人のうち債務超過である法人や損失補償等を行っている1,186法人について財政的リスクの調査を実施し、地方公共団体別に、調査対象法人全ての結果を公表したところである。

調査対象法人のうち、債務超過の法人は219法人、土地開発公社で債務保証などの対象となっている5年以上の長期保有土地が標準財政規模の10%以上のものは33法人である。また、地方公共団体の標準財政規模に対する損失補償などの額の割合が実質赤字比率の早期健全化基準相当以上の法人は52法人、経常赤字又は当期正味財産額が減少している法人は473法人である。

これらのうち、「第三セクター等の経営健全化方針の策定について」(平成30年2月20日付け総務省自治財政局公営企業課長通知)により、財政的なリスクが一定の要件に該当する第三セクター等と関係を有する地方公共団体に対しては、経営健全化のための具体的な対応等を内容とする経営健全化方針を平成30年度末までに策定・公表するよう要請している。

また、第三セクター等改革などの先進事例集を平成29年3月に公表し、全国に横展開している。先進事例集には、整理・再生等の抜本的改革や損失補償の削減、債務超過の解消などの経営健全化の取組事例について、取組の背景・要因、取組内容、検討過程、効果額や他団体の参考となる点等が盛り込まれており、平成30年3月には新たに12法人の事例を追加し、公表している。

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