平成11年10月1日から無線局の開設者に対して、電波防護に一層配慮することが求められています。
総務省では安全な電波利用の一層の徹底を図るため、無線局の開設者に電波の強さに対する安全施設を設けることを義務づけており、より安全で安心できる電波利用環境が整備されています。
電波の強さに対する安全施設
人が通常、出入りする場所で無線局から発射される電波の強さが基準値を超える場所がある場合には、無線局の開設者が柵などを施設し、一般の人々が容易に出入りできないようにする必要があります。
なお、適用が除外される無線設備として以下のものが上げられます。
局種 | 基準値を超えるおそれのある範囲 |
---|---|
携帯・自動車電話基地局 (900MHz帯、96W) | アンテナから指示方向に0.25m以内 アンテナから上方に0.7m以内 アンテナから下方に0.7m以内 |
PHS基地局 (1.9GHz帯、2W) | アンテナから0.03m以内(垂直コリニアアアレー) アンテナから0.2m以内(パッチ(平面)アンテナ) |
中波放送 (594kHz、300kW) | アンテナから15m以内 |
短波放送 (17.9MHz、300kW、カーテンアンテナ) | アンテナから前方に55m以内 |
FM放送 (ERP44kW) | アンテナから27m以内 |
TV放送(大出力局) (UHF、ERP85kW) (UHF、ERP110kW) | アンテナから28m以内(VHF)
アンテナから23m以内(UHF) |
TV放送(サテライト局) (VHF、ERP50W) (UHF、ERP50W) | アンテナから0.69m以内(VHF) アンテナから0.31m以内(UHF) |
電波とは
現在、通信や放送に使われている電波は、可視光線(光)と同様に物質の原子を電離させるほどのエネルギーを持っていない電磁波です。
電磁波には送電線から生じる周波数が低く波の性質が極めて少ないものから、エックス線やガンマ線のように周波数がきわめて高く、強いエネルギーを持っているため物質の原子を電離させる作用があるもの(電離放射線)もあります。
電波の人体に与える影響について
これまで40年以上の研究により、人体が強い電波にさらされると体温が上昇する作用や、周波数が低い場合には体内におこされた電流が神経を刺激する作用があること、また、電波の強さによる人間の健康への影響が明らかにされています。
このような科学的な知見に基づき、十分な安全率を考慮した基準値(電波防護指針)が策定され、わが国のみならず世界各国で活用されています。
この電波防護指針値を満たせば人間の健康への安全性が確保されるというのが国際的な考えとなっています。
国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の声明(携帯無線電話機の使用と基地局に関する健康問題)
世界保健機構(WHO)と協力して電波防護指針を策定しているICNIRPは、平成8年4月に「これまでの研究結果を調査した結果、国際機関等が定めた防護指針値以下の電波により、がんを含め健康に悪影響が発生するとの証拠はない」との声明を発表しています。
わが国の電波防護指針値
わが国の指針については総務大臣の諮問機関である電気通信技術審議会から答申が出されています。
この答申は、動物実験等の結果に基づき、影響が生じる閾値に約50倍の安全率をみて、一般の人々の指針値(一般環境)を定めています。
平成5年度には、答申の指針を踏まえた民間標準規格が策定され、無線局の開設者や工事関係者等のガイドラインとして運用されてきました。
平成2年度「電波利用における人体の防護指針」(電気通信技術審議会答申)
電波が人体に悪影響を及ぼさない範囲を策定。
平成9年度「電波利用における人体防護の在り方」(電気通信技術審議会答申)
平成2年答申の指針値の妥当性を確認
携帯電話端末等、身体の近くで使用する機器に対する指針(局所吸収指針)
平成27年度「電波利用における人体防護の在り方」(情報通信技術審議会答申)
低周波領域(10kHz以上10MHz以下)の指針値改訂。
この制度で用いる基準値
この制度では、基準値として一般環境の指針値を採用しています。
この基準値は、国際機関における検討結果に基づくもので、諸外国における基準値と同等の値となっています。
周波数 f |
電界強度の実行値 E[V/m] |
磁界強度の実行値 H[A/m] |
電力束密度の実効値 S[mW/cm²] |
---|---|---|---|
100kHzから3MHz | 275 | 2.18/f‐1 | |
3MHzから30MHz | 824/f‐1 | 2.18/f‐1 | |
30MHzから300MHz | 27.5 | 0.0728 | 0.2 |
300MHzから1.5GHz | 1.585f1/2 | f1/2/237.8 | f/1500 |
1.5GHzから300GHz | 61.4 | 0.163 | 1 |
周波数 f |
電界強度の実行値 E[V/m] |
磁界強度の実行値 H[A/m] |
磁束密度の実効値 [T] |
---|---|---|---|
10kHzから10MHz |
83
|
21 | 2.7×10‐5 |
表2及び表3に示した、電界強度、磁界強度、電力束密度及び磁束密度のそれぞれが、1つでも値を超えている場所には、人が立ち入らないよう柵等の安全施設を設ける必要があります。
本制度により、無線局の開設者は、免許申請時に基準値への適合を確認するとともに、次のことに注意する必要があります。
無線局の免許申請時
人が通常、出入りする場所における電波の強さが、表2に示した基準値以下であることの確認を行い、その結果、基準値を超えるおそれがあるときには安全施設を設けることとした上で、工事設計書の「その他の工事設計」欄に電波法第3章に規定する条件に合致している旨を記載してください。
免許申請時には、原則として、検討資料や施設の図面を提出する必要はありませんが、総務省での審査に際し必要があると認めるときは資料の提出を求められることがあります。
無線局の検査時
検査の際には、基準値に適合していることの確認が行われます。
また、落成後の検査が省略されている無線局についても、基準値に適合していることの確認のため、免許後に臨時検査が行われる場合があります。
基準値への適合を確認する方法については、総務省の告示で示されていますが、基本的な考え方は次のとおりです。
無線設備から発射される電波の強さの基準値への適合を確認する方法は、基本的には十分な安全率をみた算出によることとし、算出結果が基準値を超える場合は測定により確認することができます。
アンテナ入力電力P(W)、最大輻射方向のアンテナの絶対利得をGとすると、距離R(m)の位置での電力束密度S(mW/平方センチメートル)は、
で示され、これを基本算出式とします。
電束密度S(mW・平方センチメートル)、電界強度E(V/m)及び磁界強度H(A/m)は、次式により相互に換算します。
強い反射を生じさせる物体がある場合で、算出した結果が基準値から6dB低い値を超える場合には、測定により確認を行うことができます。