地域情報化の推進とスマート革命

写真:坂本 世津夫(さかもと せつお)氏
坂本 世津夫(さかもと せつお)
(総務省委嘱地域情報化アドバイザー
四国情報通信懇談会 運営委員長)

 現在は、総務省委嘱の「地域情報化アドバイザー」、「ICT地域マネージャー」として、各地で講演をおこなったり、地域情報化の支援(アドバイス)に出向いているが、実際に現地に出向く日数は月に数日しかなく、普段は自宅で分析・評価作業をおこなったり、メールや電話でサポートをおこなっている。他にも、「四国情報通信懇談会」という、四国における情報通信環境の整備やICTの利活用を促進させるための産学官連携の取組を、運営委員長として推進している。四国情報通信懇談会は、来年30周年を迎える。現在、四国四県で記念イベントを開催する準備を進めている。その他、一般財団法人全国地域情報化推進協会(APPLIC)、「ICT地域イノベーション委員会」のアドバイザーもおこなっている。現在の活動目標は、「ICT地域イノベーション」と「ICT人材の育成」である。

 最近、再びイノベーションということが言われるようになった。イノベーションとは、端的に言えば技術革新、創造的破壊である。今からちょうど100年前に、経済学者のシュンペーターが提唱した概念である。ICTを「戦略的」に活用して、既存の仕組みを見直し、革新(創造的破壊)していくこと、新結合(新しい組合せ、新しい組織)を見つけることが重要であり、その取組をいま展開しなければならないと考えている。ICTによる地域イノベーションである。

 日本における情報化社会の方向性については、平成25年版総務省「情報通信白書」を是非御覧いただきたい。情報通信白書では、「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか、が書かれている。情報通信白書は総務省のホームページからダウンロードできる。「オープンデータ」と言って、政府等が保有する様々なデータは利活用できるように順次公開される方向で整備が進んでいる。平成26年度は、四国情報通信懇談会でも自治体等のオープンデータ化について取り組んでいる。このような情報をフル活用して新たな社会を構築することこそが本来の「スマート革命」ではないかと考えている。

 スマート革命の時代だと言われているが、スマート革命の真のポイントは「人間の思考力と判断力」にあると考えている。セオドア・ローザックが1980年代後半に『コンピュータの神話学』(朝日新聞社刊)で述べているように、コンピュータ処理は、精神の「データ処理」(作業)であって、精神が思考している処理ではない。注意深い努力がなければ、単なるデータ処理にすぎない。機械が情報を処理しているときにやっていることと、精神が思考しているときにやっていることとのあいだには大きな違いがある。重要なことは、精神の思考である。その後、コンピュータ処理が高度化するにつれて、人々は次第に「精神の思考」(考える力)を失ってきているように感じる。ICTの利活用は、まさにその転換点にさしかかっているのではないかと考えている。端的に言えば、ICTを、従来の処理ツール(昔は電算処理、コンピュータ処理と言われていた)から、「思考の道具」に転換させなければならない。ICTには、以下にあげる3つの機能がある。その中で、現在において最も重要な機能は「思考の道具」としての機能である。「コミュニケーションの道具」や「処理の道具」も重要ではあるが、その前提となるのが「思考の道具」である。この機能が活用されなければ、他の道具(ツール)は十分な機能を発揮しえない。ICTに対する考え方を転換させ、考える力を養い、新たな処理方法を、新たな結合を見いださなければ、イノベーションを起こすことはできない。これがスマート革命の命題だと考えている。

ICTは、「思考の道具(ツール)」である。
考える力を養う。

ICTは、「処理の道具(ツール)」である。
新たな処理方法を考える。

ICTは、「コミュニケーションの道具(ツール)」である。
新たな結合を考える。

新結合(組合せ)

イノベーション

 地域情報化を推進するためには、日本各地でどのような情報化が行われているか、その内容を知ることが重要である。是非、インターネット検索を駆使して調べていただきたい。しかし、自治体(市町村役場)などではセキュリティのために、業務システムを使う以外は、インターネットなど外部への接続を許可していない組織が多いのではないかと感じる。ここに、自治体だけでなく、地域の情報化やICT利活用が進まない原因があるのではないかと考えている。地域情報化を進めるには、自治体の意識改革が何よりも重要である。

 「情報化」は非常に重要なテーマである。情報化時代に対応した社会環境を作っていかなければならない。また、それに対応した人材の育成も重要な課題である。しかし、一番重要なことは、リアルな空間、リアルな思考と判断である。「百聞一見にしかず」と言われるように、いくらインターネット検索を駆使して地理情報や写真、他人が作成した資料などをかき集めても、ただ一回の、自分自身のリアルな体験に勝ることはない。要は、インターネット上での情報と、旅行などのリアルな体験情報の間には、補完できない大きな差があることを認識しなければならない。ICTがあれば、何でもできると思ってはいけない。ICTの利活用は、あくまでも補完手段であることを肝に銘じる必要がある。いつも感じるのであるが、海外旅行に行く前に、現地の情報をいくら検索して調べても、あまり頭の中には入らないが、海外旅行から戻ったあとに検索すると、どんどん知識として蓄積されていく。それは、使える知識であって、単なる知識ではない。この差を理解することが重要である。コンピュータでいくら便利になっても、精神に思考をさせないと、どんどん退化していくのである。


写真:「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか

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