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愛媛大学と共同で「ビッグデータ×農業シンポジウム」を開催

 四国総合通信局は、国立大学法人愛媛大学と連携して、4月14日(火)、愛媛大学 南加記念ホールにおいて「ビッグデータ×農業シンポジウム」を開催しました。本シンポジウムは四国総合通信局と愛媛大学の連携強化のため、昨年9月2日に開催した防災・減災シンポジウムに続く第二弾として、今後、愛媛県等、四国各県においても、ICT利活用によって「高度化・高付加価値化した競争力のある農業」が実現することを目的に開催しました。

 主催者を代表して、まず、愛媛大学 大橋 裕一(おおはし ゆういち)学長から挨拶がありました。我が国の平成26年度の農業従事者の平均年齢は66.7歳と更に高齢化が進んでおり、就業人口においては平成21年度290万人であったのが227万人になる著しい減少が続いています。これに加え東日本大震災の津波による農耕地の塩害、あるいはTPP等への参加などから、従来とは異なる食料生産システムの構築が不可欠となっています。こうした背景の中、愛媛大学でも研究開発に取り組んでいる定時、定品質、定量、定価格による計画的に農産物を生産する「植物工場システム」は、その普及・拡大が期待されており、多様・大量のデータを必要とする植物工場システムへのアプローチを含め、ICTの利活用による農業の高付加価値化、高度化は、その競争力を高めていく上で極めて重要な視点と思われます。本シンポジウムが、広く農業におけるビッグデータの利用について、更には今後我が国の農業、食料生産にとっての方向性を考える有意義な機会になることを期待していると話されました。

大橋 裕一(おおはし ゆういち)
愛媛大学学長

 

 次に、元岡 透(もとおか とおる)四国総合通信局長から挨拶がありました。地域活性化を目指したICTの利活用推進に取り組む中、先進的な事例も多くでてきているがシステムを導入してもスタンドアローン端末でとどまっているなど、利活用の実態はまだまだ十分使いこなしてないのではと感じています。しかし、ネットワークによる広域利用、センサー情報の自動収集、クラウドを活用した情報蓄積、更にスマートデバイスを使用した安価なサービス利用、ビッグデータの技術を活用した隠れた知見の発見、オープンデータとして公開していくなど、こうした様々な取組を今後積み重ねていくことで利用価値はますます膨らんでいくと考えています。農業は今一番注目される分野でもあり、本日のシンポジウムが一つのきっかけとなり、愛媛の農業競争力がこれまで以上に強くなることを期待していると述べました。

元岡 透(もとおか とおる)
四国総合通信局長

 

 シンポジウムでは、最初に、総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 梶原 亮(かじわら りょう)課長補佐から「ビッグデータがもたらす農業の高付加価値化・生産性向上」と題した講演がありました。全世界のデジタルデータ量は、2005年から2020年までの15年間で約300倍に増加、2015年のスマートフォンのデータ量は2011年の約5倍と推定されるなどの流通データ量の拡大状況や、直近の政府動向として「IT総合戦略本部」におけるスマート農業の推進体制、農業ICTシステムが取り扱う環境情報のデータ項目を定めるガイドラインなどが紹介されました。また、総務省が民間企業と自治体等との連携で取り組む「スマート農業実証プロジェクト」について、農業生産指導システムの開発、蓄積した情報をビッグデータとして活用し国内及び国外で実証した結果、生産者と指導員の3/4以上が品質の向上、作業効率、指導効率の向上に効果を感じたことなどが紹介されました。

総務省情報流通行政局 情報流通振興課
梶原 亮(かじわら りょう)課長補佐
【資料1】ビッグデータがもたらす農業の高付加価値化・生産性向上(PDF 4.4MB)PDF

 

 続いて、愛媛大学植物工場研究センター 副センター長・農学部教授 羽藤 堅治(はとう けんじ)先生から、「スピーキング・プラント・アプローチ(SPA)と農業ICTに関する取り組み」と題した講演がありました。愛媛大学農学部施設生産システム学の植物工場PJが目指す次世代型植物工場について、様々な生体情報をデータ収集し、生育状態を診断した結果から工場内の環境を制御・調節することで植物の生育状態を良好にして収穫量を増やしていくことを目的に取り組んでいる、育苗、栽培・収穫、貯蔵、流通など農業全体に係る機械化・情報化の研究が紹介されました。また、生産過程における詳しい有用な生育情報は工学的にあまり使用がなく、IT技術を活用した生育診断情報の構築をはじめ、情報を活用した知能的システムの開発、最終的にはロボット化・自動化を目指した知能的植物工場の実現に向けた今後の取組や方向性が述べられました。

愛媛大学植物工場研究センター 副センター長・農学部教授
羽藤 堅治(はとう けんじ)先生
【資料2】スピーキング・プラント・アプローチ(SPA)と農業ICTに関する取り組み(PDF 5.9MB)PDF

 

 次に、愛媛大学農学部准教授・植物工場研究センター 高山 弘太郎(たかやま こうたろう)先生から「植物生体情報計測ロボットによる太陽光植物工場の知能化」と題した講演がありました。クロロフィル蛍光画像計測ロボットによる人間では把握不可能なレベルの僅かな植物の環境応答を検知する高精度植物生体情報計測技術や太陽光植物工場の技術先進国であり外貨を獲得できる強い農業手法を実施しているオランダから学ぶことが紹介されました。また、クロロフィル蛍光インダクション現象映像から、蛍光強度の強弱の変化を捉え、初期の光合成電子伝達活性を数値評価することで生育状態を診断できる実装型ロボットを開発し、その市販に至ったこと、さらに、このようなロボットを活用することにより、今後、ビッグデータの蓄積と共有による環境調節の知能化・自動化を可能とする次世代環境制御技術の開発が現実味を帯びるといったお話しをいただきました。

愛媛大学農学部准教授・植物工場研究センター
高山 弘太郎(たかやま こうたろう)先生
【資料3】植物生体情報計測ロボットによる太陽光植物工場の知能化(PDF 2.9MB)PDF

 

 最後に、農業生産法人 有限会社新福青果 代表取締役 新福 秀秋(しんぷく ひであき)氏から「ICTを活用した農業経営」と題した講演がありました。
 宮崎県都城市の農業生産法人として30年余り取り組んできた実績から、技術・経験・勘を数値化し地域におけるビッグデータを構築、活用することの重要性、スマートフォンなどのGPS機能を利用した人の安全を確保しながら、かつ効率的な人件費等の管理を行い、ムリ、ムラ、ムダをなくしたコスト削減の限界に対応した事例が紹介されました。また、食料安全保障と農業の将来を考える台湾を事例に、雇用創出などの要素を含むこれからの農業の目指すべき姿は、若い人たちが「カッコ良くて、稼ぎがあって、感動がある」新3Kで安心安全な農業が地域の中で構築できるよう意識を変え地域の連携を可能とする「農業団地」的な構築が望まれるとお話をいただきました。

農業生産法人 有限会社新福青果 代表取締役
新福 秀秋(しんぷく ひであき)氏
【資料4】ICTを活用した農業経営(PDF 7.1MB)PDF

 

 閉会の挨拶では、愛媛大学理事 仁科 弘重(にしな ひろしげ)副学長から、ICTは工学分野で開発されてきた技術であるが、スマートフォンなど身近なものとして広がり利用する側の生活を豊かにするなど、今後産業の生産性を向上させるツールとしていかに利用していくかが重要であると考えています。愛媛大学は平成28年度学部改組を行い、農学部でも、食料、生命、環境をキーワードに知能的食料生産科学特別コースを新設し、農業全般に関するICTの教育を実施し人材を育成していく予定です。愛媛大学は「地域にあって輝く大学」「地域の発展に責任を持つ大学」をキャッチフレーズに、愛媛県、四国地域における産業の発展と生活の向上を目指し様々な機関と共同していきたいと述べられました。

愛媛大学理事
仁科 弘重(にしな ひろしげ)副学長

シンポジウム会場の様子

 

 本シンポジウムには146名の方が参加し、「紹介された様々な施策の今後の将来方向は」など熱心な質問に対し、「農業情報の流通を進めていくため、ガイドライン策定に必要なデータ項目を決定したので、今後はデータ効果をやりとりするための手続方法を定めることになる。農業の抱える課題を把握しながらGPS活用にかかる制度改革を含めさらなる検討が必要。」等の説明が補強され、「高度化・高付加価値化した競争力のある農業」の実現に向けた幅広いICTの利活用について理解を深めることができました。

 四国総合通信局では今後も愛媛大学とのコラボレーションセミナーを開催し、あらゆる分野におけるICTの利活用の可能性を検討してまいります。

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