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松山市で「第一次産業×ICTに関する技術セミナー」を開催
≪ドローン・IoT利活用による有害生物対策とエコシステム≫

 四国総合通信局は、四国情報通信懇談会、国立大学法人愛媛大学と共催で、平成28年6月30日(木)に松山市において「第一次産業×ICTに関する技術セミナー」を開催しました。

 少子高齢化と人口減少が進む地域において、地域産業の中心となる第一次産業分野へのICT利活用の期待が高まっています。
 政府においては、「農業情報創成・流通促進戦略」に基づき、我が国農業の産業競争力強化に向けて農業情報の創成・流通促進の取組を進めており、総務省においてもこれと連携する形で、ICTを活用した地域課題の解決に資する研究開発の促進をおこなっています。
 本セミナーでは、四国内で実施されている第一次産業分野でのICTによる地域課題の解決に資する研究開発の状況を紹介し、特に問題が懸念されている有害生物対策に関する技術動向について御理解いただくとともに、新たな課題解決方法等について考える機会とするため開催したものです。

 最初に、四国で実施されている第一次産業分野に関する戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)による研究開発から2つの講演を行いました。
 講演の1番目は、愛媛大学 南予水産研究センターの清水 園子(しみず そのこ)准教授が、「養殖現場と連携した双方向『水産情報コミュニケーションシステム』による赤潮・魚病対策技術の開発」について講演しました。
 講演では、養殖現場において多発する赤潮と魚病は、計画的な養殖生産を妨げる大きな要因となるということで、赤潮・魚病被害の予防および早期対策につなげることを目的とした、生産者、研究機関、宇和海周辺の自治体が連携した双方向の『水産情報コミュニケーションシステム』の研究・開発の状況について報告がありました。
 愛媛県は養殖生産日本一で養殖業は南予の基幹産業となっていますが、宇和海海域では毎年大きな赤潮被害を受けています。赤潮はこれまで顕微鏡観察で観測していましたが、遺伝子検査(モニタリング)では赤潮発生前から検出可能となるということで、愛媛県愛南町と共同で、「愛南町水域情報ポータルサイト」で遺伝子モニタリングを基にした赤潮発生予測情報等を定期的に発信し、さらに、赤潮発生時には、愛南町から町内の養殖業者に、メールでも情報発信をおこなっている(愛南方式)との御説明がありました。この愛南方式により平成27年は、愛南町では周辺自治体より被害が少なくなっているということです。
 しかし、現在の定期的調査では短期的、局所的対応が困難なため、双方向のコミュニケーションシステムとして、昨年は、赤潮の現場情報収集支援システム(海域情報収集支援、海水サンプル取得支援)と水産情報管理配信支援システムを構築し、今後は、さらに赤潮だけでなく、魚病早期発見のために水中ドローンも活用するなど養殖生け簀を可視化して、遺伝子情報、行動、疾病との関連性を解析し、赤潮情報に魚病情報を加えて発信する、双方向水産情報コミュニケーションシステムを構築したいと、話されました。

清水(しみず)講師の御講演の様子

 

 講演の2番目は、愛媛大学 植物工場研究センター副センター長の有馬 誠一(ありま せいいち)教授が「ICT利用による情報化農業確立のための害虫発生モニタリングシステムの開発」について講演しました。
 講演では、太陽光利用型植物工場における害虫発生状況の時系列データを得るための、害虫発生モニタリングシステムの研究・開発の状況について報告がありました。
 既に広く普及している害虫捕殺粘着シートを自律走行ロボット搭載のデジタルカメラで撮影し、画像処理技術を用いて捕殺された害虫のカウントを行い、これにより多地点・広範囲・高頻度で害虫発生の状況把握が可能となると共に、害虫発生状況のマップ化によって、害虫の分布と拡大の傾向、発生源の特定、栽培環境との関係を提示することができるということです。
 光、風、通路の状況によって様々な外部環境変化に影響を受ける太陽光利用型の植物工場において、様々な情報を収集して農業の中でPDCAサイクルを回していくことを考えており、総合的病虫害防除(IPM)では、粘着シート等の物理的防除法などにより化学農薬をできるだけ用いずに、病害虫の密度を低く制御するが、防除を適切に行うためには、害虫発生状況のモニタリングが必要となります。
 実際のシステムとして、粘着シートに捕らえられた害虫をロボットにより自動撮影し、機械学習を用いて害虫をカウントする害虫発生モニタリングシステムを開発し、植物工場内の害虫の発生状況を害虫マップとして蓄積するとともに、気流循環などの環境情報を、その他の生産物情報等とあわせて、知識ベースとして蓄積する研究を進めているとの御説明がありました。

有馬(ありま)講師の御講演の様子

 

 続いて、第一次産業分野でのICTによる地域課題の解決に資する研究開発についての講演を行いました。
 3番目となる講演は、国立研究開発法人 情報通信研究機構 ワイヤレスネットワーク総合研究センター ワイヤレスシステム研究室の小野 文枝(おの ふみえ)主任研究員が「ICT有害鳥獣対策活用の実証実験結果について」と題して講演しました。
 情報通信研究機構では、無人航空機を活用した無線通信システムの研究開発を実施しており、四国総合通信局主催のもと、徳島県佐那河内村の協力を得て、株式会社サーキットデザインと協力し、畑等の農作物に被害を及ぼすニホンザルを効率的、早期に検知するために、小型無人航空機を活用した実証実験を実施しました。本講演では、実証実験の結果について御紹介いただきました。
 サル検知の一般的な方法では、サルに装着した発信器からの電波を地上から車で移動しながら探索するため、時間がかかり、山間部では電波が届きにくくなるが、新たな方法では、小型無人航空機で上空から移動しながら電波を検出し、地上へ中継するため、サルのGPS位置がタブレット上の地図でリアルタイムに確認できるということです。
 事前の実験では、上空から発信器の電波を受信し、その位置を検出できることを確認しましたが、今回の実験では、民家の上を飛行するフライトが許可されていないことから、これを避けた飛行ルートを設定して実験をおこなったところ、首輪型発信器の電波を受信することができなかったとのことで、後日発信器を回収してGPSログを分析した結果、当日はサルが飛行ルートから遠く離れた受信出来ない場所にいたことが判明したとの御説明がありました。
 技術課題として、検出可能距離の拡大や上空からの効率的な検出方法の確立、動物自身に破壊されない発信器やアンテナの開発などがあり、今後も研究開発と実証実験を実施し、精度向上や方法の確立などを検討していくということです。

小野(おの)講師の御講演の様子

 

 4番目となる講演は、愛媛県 農林水産研究所 企画・新品種戦略室の菊池 隆展(きくち たかひろ)主任研究員が「鳥獣害対策における情報通信技術(ICT)の活用」と題して講演しました。
 講演では、野生鳥獣による被害や捕獲現場などの画像や動画ファイルに、位置情報や撮影日時、鳥獣種などの情報を登録し、鳥獣害の状況を地図に描画するとともに、被害・捕獲・目撃・防護柵の設置位置などの鳥獣害情報を管理するPC用ソフトウェアの開発について、御説明いただきました。
 始めに松山市銀天街のアーケード内を走るイノシシの映像が上映され、西日本には特にイノシシがたくさん生息しており、全国で約140万頭といわれているが、これは愛媛県の人口と同等の数である。また、全体の3割となる約40万頭を毎年駆除しているが、イノシシの自然増加率は1.48であり、駆除により100万頭に減っても1年後には148万頭になるという印象的なお話がありました。
 駆除だけでなく、えさとすみかを排除する必要があり、地域ぐるみで取り組み、全体で情報を共有する必要があるということで、鳥獣害の「見える化」へ向けて、愛媛県農林水産研究所と(株)環境シミュレーション研究所が共同で、鳥獣害の画像をマッピングするツール(Animal PicMa!)を開発したということです。
 多くの人は鳥獣害の状況を知らないため、知っていただくことが必要。まず場所の情報が重要で、アニマル・ピクマ通信のWebサイトに鳥獣害の情報を掲載しており、写真から地図へリンクして見られるほか、写真に捕獲方法や性別等のタグをつけて情報を活用できる。パソコンの世帯普及率は7割を越し、写真は携帯やスマホでも撮れるなど、道具はすでに持っている状況。今後は集落全体で取り組む必要があり、どこでどう行うかが問題と話されました。

菊池(きくち)講師の御講演の様子

 

 5番目となる講演からはビジネスにつながる話となり、NECソリューションイノベータ株式会社 西日本支社 第二ソリューション事業部の橋岡 孝(はしおか たかし)マネージャーが「高品質果実生産新技術の導入によるカンキツブランド化推進のための産地支援ICT基盤」と題して講演しました。
 講演では、産地の活性化、作物の高品質安定生産、農業知識・技術の共有を目的とし、これまで愛媛県、香川県で取り組んできた農業ICT領域における実証内容や成果、関連する製品・サービス事業について紹介するとともに、現在継続中の実証と今後の展望についても御紹介いただきました。
 ICTを活用したカンキツブランド化推進のための実証プロジェクトの取組について、露地栽培では、収穫前に水分ストレスをかけるために、木の根元に透湿性マルチシートを敷いて水を控えることを行うが、日照りが多いと過度に水分ストレスがかかることになる。
 一方、透湿性マルチシートと点滴かん水チューブを使って水分ストレスを適度に制御できるマルドリ方式は、木の根元を環境制御するもので、天候に応じた栽培管理で高品質カンキツ生産ができ、収益性の向上に貢献できる。
 また、営農指導支援、産地情報共有及び農業技術学習支援に係る産地支援ICT基盤の構築によって、従来の農家の持つ暗黙知を見える化して共有し、新規担い手の技術指導支援と産地全体の技術力の高位平準化に向けて、産地全体での利用を目指しているということで、各農家の持つノウハウを共有するためには、ノウハウの知財化にも取り組んでいきたい、と話されました。

橋岡(はしおか)講師の御講演の様子

 

 6番目となる講演は、株式会社パルソフトウエアサービス 営業部の曽根 博一(そね ひろかず)チームリーダーが「ICTで害獣被害を観光資源へ」と題して講演しました。
 講演では、イノシシやシカなど、甚大な被害を発生させている害獣を、駆除するだけでなくジビエとして有効活用するために、安全で簡易な捕獲システム「ハンティングマスター」の開発とハンティングマスターを利用し、捕獲された害獣をジビエ料理やお土産として観光資源へ流通させるための施策をお話しいただきました。
 一昨年度の野生鳥獣による農作物への被害額は、日本国内で約200億円。このうち食べることができる肉としてジビエ対象になる害獣の被害額は9割の約180億円。一方で国の害獣被害対策予算は約95億円にのぼる。また、愛媛県内の被害は約3.8億円で、うちイノシシ被害が7割の2.7億円であり、害獣被害をプラスにできないかということで観光資源化を考えている。
 ICTを活用した捕獲技術向上の取組として、被害を減らして安全に駆除するとともに良質な肉を確保するために、カメラ映像を見ながら害獣を捕獲するシステムであるハンティングマスターを開発したということです。
 ジビエ観光化の取組については、ヨーロッパでは定期的にジビエを食べる習慣があり、海外からのお客様がジビエ料理を食べたくなるかもしれない。すでに愛媛のイノシシが東京で食べられており、テレビでも紹介されているので、今後流行になるのではないかと思われる。定着のためには、若い人の育成や高齢者にも使いやすいものとすることが必要。
 また、若い人がいないとか、農業への理解が浅いということは徐々にクリアーされつつあるが、ジビエそのものに対する認知が少ないことが課題であり、適切に処理すればおいしいということを知っていただく必要がある、と話されました。

曽根(そね)講師の御講演の様子

 

 講演の後は、四国情報通信懇談会 運営委員長であり、ICT研究交流フォーラム 幹事でもある、愛媛大学大学院 理工学研究科の都築 伸二(つづき しんじ)准教授をコーディネーターに、講師の皆様をパネリストとして、「ドローン・IoT利活用による有害生物対策とエコシステム」のテーマで、有害な鳥・獣・虫・微生物と、経済活動との共存を図るためのエコシステムについて、ドローン・IoTなどのICTの利活用の観点からパネルディスカッションを行いました。
 パネルディスカッションでは、赤潮観測のリアルタイム化の可能性やICT、IoTの活用とマーケットに関する意見がかわされ、IoTはセンシングの中での社会基盤ととらえ、漁業者からの情報なども積み上げていくことで、実態がよくわかっていない赤潮の原因や黒潮の影響などもわかるようになる可能性があり、被害の低減につながるのではないかとの話がありました。
 一方で、有害鳥獣対策が必要な山奥では、携帯電話を含め通信の社会基盤が確立していない場所もあり、インフラが整備され、通信経費がさらに安くなれば広がりが出てくるのではないかとの話もありました。
 また、IoTでは全然違う目的で集めたデータが思わぬところで役に立ち、いろいろな情報を集めることでビッグデータとなり、別の因果関係がわかればそのためのセンサーを置かなくても済むようになるが、IoT、ICTやドローンは法律が追いついていないところがあり、コストの面での課題もある。
 ビジネスとして考えるとコストをどう削減するかだが、おいしいものが採れるとの情報発信や、どこでどれだけイノシシが捕れるかという情報が身近になればビジネスにもつながるのでは、との話があり、最後に、虫が来ない野菜は食べたくない。虫は来るが制御されている。消費者の啓蒙も含めて、上手に共存しコントロールすることが重要と締めくくられました。

都築(つづき)コーディネーターによるパネルディスカッションの様子


パネルディスカッションの様子

 

 今回の技術セミナーでは、第一次産業に関わる身近な地域での課題解決に向け、ICT、IoT、ドローンなどを共通のツールとして活用した、最新の研究開発や実用に関わるお話を聞くことができたほか、パネルディスカッションやその後の情報交流会を通じて、普段関わることの少ない研究者や企業の方との新たなつながりや課題解決の手がかりを生む貴重な機会となりました。

表:第一次産業×ICTに関する技術セミナー 講演資料
演題 講師 資料ダウンロードURL
養殖現場と連携した双方向『水産情報コミュニケーションシステム』による赤潮・魚病対策技術の開発 国立大学法人愛媛大学
 南予水産研究センター
 准教授
 清水 園子(しみず そのこ)氏
資料(PDF 2.4MB)PDF
ICT利用による情報化農業確立のための害虫発生モニタリングシステムの開発 国立大学法人愛媛大学
 植物工場研究センター
 副センター長・農学部教授
 有馬 誠一(ありま せいいち)氏
資料(PDF 7.8MB)PDF
ICT有害鳥獣対策活用の実証実験概要 小型無人機を用いたニホンザル探査実験 国立研究開発法人情報通信研究機構
 ワイヤレスネットワーク総合研究センター ワイヤレスシステム研究室
 主任研究員
 小野 文枝(おの ふみえ)氏
資料(PDF 10MB)PDF
鳥獣害対策における情報通信技術(ICT)の活用 愛媛県農林水産研究所
 企画 新品種戦略室
 主任研究員
 菊池 隆展(きくち たかひろ)氏
Animal_PicMa!(アニマル・ピクマ)通信別ウィンドウで開きます

研究報告第8号 09:鳥獣害対策における情報通信技術(ICT)の活用(菊池隆展、小平佳延)別ウィンドウで開きます
高品質果実生産新技術の導入によるカンキツブランド化推進のための産地支援ICT基盤 NECソリューションイノベータ株式会社 西日本支社
 第二ソリューション事業部
 マネージャー
 橋岡 孝(はしおか たかし)氏
資料(PDF 3.5MB)PDF
ICTで害獣被害を観光資源へ 株式会社パルソフトウエアサービス
 営業部
 チームリーダー
 曽根 博一(そね ひろかず)氏
資料(PDF 3.2MB)PDF

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