日本標準産業分類の変遷と第12回改定の概要

1.日本標準産業分類の作成要旨とその変遷

   日本標準産業分類は,統計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として,事業所において社会的な分業として行われる財及びサービスの生産又は 提供に係るすべての経済活動を分類するものであり,統計の正確性と客観性を保持し,統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として,昭和24年10 月に設定されたものである。
   ここに刊行した「日本標準産業分類(平成19年11月改定)」は,平成14年3月の前回改定以降の情報通信の高度化,経済活動のサービス化の進展, 事業経営の多様化に伴う産業構造の変化に適合するよう全面的に見直したものであり,昭和24年10月の設定後の改定としては12回目の改定に当たる。
   ここで昭和24年10月の日本標準産業分類設定までの経緯及び平成14年3月の第11回改定までの経緯を述べれば,概略次のとおりである。
   我が国の産業分類が初めて作られたのは,昭和5年(1930年)第3回国勢調査のときであった。これより先,大正9年(1920年)第1回国勢調査 のときに職業分類が作られているが,これは産業と職業が混在したような分類であって,明確に二つの分類に分けられたのは,昭和5年とするのが適当である。 この産業分類は内閣訓令第3号をもって各省が統一的に使用するように規定されたが,十分には効果を挙げることができなかった。
   その後,経済統計の発達に伴い,工業分類,農業分類等部分的な産業分類も作成されたが,これらの間の分類上の統一性が欠けており,解釈も区々であっ たため,同一の事業所が調査によって異なる産業に分類されることもあり,利用上多大の不便があった。このため,昭和15年(1940)第5回国勢調査のと きに,我が国の標準産業分類を作成することとなり,関係各省庁の専門家の協力により,統一分類が作成され,各省次官の申合せにより,この産業分類の共通使 用が図られた。
   しかしながら,このときも,分類に関する細部の運営要領や大綱に関する定義などが理論的に確定されていなかったので,形式的な統一のみに止まり,調査の結果数字に多大の差異が発見され,理路整然とした標準産業分類の必要性が痛感されていた。
   戦後,国際連合が提唱した1950年世界センサスに呼応して,我が国でも大規模な各種センサスを実施することとなったのを機会に,統計委員会の下に 1950年センサス中央計画委員会が設置され,センサス実施の研究と基礎事業である各種分類の研究が進められることとなり,各種の専門部会が設けられた。
   この専門部会の一つである産業分類専門部会によって,標準産業分類の作成作業が昭和24年3月から開始され,同年10月に日本標準産業分類が完成した。そして,指定統計を始め多くの重要な統計調査に使用されることとなった。
   日本標準産業分類の統一的使用については,昭和24年12月23日第12回統計委員会及び昭和25年4月28日の第17回統計委員会において審議された結果,統計法に基づく政令が制定されることとなった。
   日本標準産業分類の統一的使用を政令に基づいて義務化するに当たり,第一に考慮されたのは,日本標準産業分類が,数多くの統計調査に対し,どの程度 無理なく適用できるかという点であった。そこで,日本標準産業分類が昭和24年設定以降実地に使用された結果や,我が国産業構造の変化を検討した結果,こ の標準分類の改定の必要性が認められた。改定作業は産業分類専門部会で,産業部門別に設けられた小委員会ごとに行われ,昭和26年3月に成案を得た。こう して,昭和26年4月30日政令第127号「統計調査に用いる産業分類並びに疾病,傷害及び死因分類を定める政令」(参考資料1参照)が公布され,同時に 日本標準産業分類の第1回改定が行われた。
 その後,我が国産業の変化などにより,本分類を更に我が国の実情に合致させる必要が生じたため昭和28年3月に第2回の改定が行われ,また,武器製造業を新設するために昭和29年2月に第3回の改定が行われた。
 なお,この間に統計委員会は,昭和27年8月に行われた行政機構改革に伴い,行政管理庁に統合された。そして,行政管理庁に附置された統計審議会の下に設けられた産業分類専門部会が,標準産業分類に関する諸問題の審議に当たることとなった。上記第3回改定は,昭和 27年9月18日の第1回統計審議会において,行政管理庁長官から統計審議会会長にあてた諮問第1号(統計調査に用いる産業分類の基準の設定について)に対する第1回答申に基づくものである。
 その後も,我が国産業構造の変化等を反映して各種統計調査での使用上多くの問題が生じてきたので,昭和32年1月に第4回の改定,昭和38年1月に第5 回の改定,昭和42年5月に第6回の改定,昭和47年3月に第7回の改定,昭和51年5月に第8回の改定,昭和59年1月に第9回の改定,平成5年10月 に第10回の改定,平成14年3月に第11回の改定が行われ今日に至った。
 なお,上記第4回の改定は,諮問第1号の第2回答申に基づいて行われたが,その後の改定では,その都度,改めて統計審議会に対し改定に関する諮問が行われている。
 参考のため,設定及び改定について,統計審議会に対する諮問番号,諮問及び答申の時期並びに政令に基づく告示及びその適用の年月日を示せば,次のとおりである。

  統計審議会関係 告示関係
諮問番号 諮問日 答申日 告示日 適用日
設定 (昭24.10)
第1回 (昭26.3) 昭26.4.30 昭26.5.1
第2回 (昭28.3) 昭28.3.31 昭28.4.1
第3回 第1号 昭27.9.18 (1)昭29.2.12 昭29.2.27 昭29.3.1
第4回 (2)昭32.4.26 昭32.5.1 昭33.1.1
第5回 第92号 昭37.11.19 昭37.12.14 昭38.1.12 昭38.4.1
第6回 第105号 昭41.2.18 昭42.2.17 昭42.5.1 昭43.1.1
第7回 第139号 昭46.6.16 昭47.2.1 昭47.3.31 昭47.4.1
第8回 第164号 昭50.12.5 昭51.4.1 昭51.5.15 昭52.1.1
第9回 第195号 昭57.12.17 昭58.4.15 昭59.1.10 昭60.4.1
第10回 第233号 平3.6.14 平5.7.9 平5.10.4 平6.4.1
第11回 第268号 平13.2.16 平14.1.11 平14.3.7 平14.10.1
第12回 第320号 平19.4.13 平19.9.14 平19.11.6 平20.4.1

2. 日本標準産業分類の改定要旨と主要な改定点

(1) 日本標準産業分類改定に関する統計審議会への諮問
   (諮問第320号 日本標準産業分類の改定について)PDF

(2) 統計審議会答申
   (諮問第320号の答申 日本標準産業分類の改定について)PDF

(3) 主要な改定点

 今回の改定の概要は以下のとおりである。

ア 改定の基本的視点

(ア)  情報通信の高度化,経済活動のサービス化の進展等に伴う産業構造の変化への適合

(イ)  統計の利用可能性を高めるための的確な分類項目の設定と概念定義の明確化

(ウ)  産業に関する国際的な分類との比較可能性の向上

 

イ 改定に伴う分類項目数の増減

区分 大分類 中分類 小分類 細分類
現行項目数(A) 19 97 420 1,269
現行項目数(B) 20 99 529 1,455
増減(B-A) 1 2 109 186
 

ウ 改定の主な内容

 平成14年3月の改定以降の産業構造の変化に適合させるため,大分類項目の新設のほか,中・小・細分類項目の新設,廃止等の見直し及びこれまで企業内の 主要な経済活動と同一として取扱ってきた本社等の管理,補助的活動を行う事業所について,新たに分類項目を設けるなど全面的に見直し。

(ア) 大分類項目の見直し

1) 「農業,林業」の統合・新設

・ 全産業に占める農業及び林業の割合及び農業と林業に係る施策の現状等を踏まえ,「農業」と「林業」を統合し,大分類「農業,林業」を新設。

2) 「鉱業,採石業,砂利採取業」への名称変更

・ 「鉱業」における「採石業,砂・砂利・玉石採取業」の事業所数が約84%と大半を占める状況を踏まえ,名称を「鉱業,採石業,砂利採取業」に変更。

3) 「運輸業,郵便業」の統合・新設

・ 郵便事業株式会社の発足及び活動の方針を踏まえ,I−運輸業に中分類「郵便業」を新設し,その多くが運輸業関係者である「信書送達業」を,H−情報通信業から分離,統合し,新設。

4) 「不動産業,物品賃貸業」の統合・新設

・ ファイナンス・リースを含む「物品賃貸業」の活動が,売買,賃貸,管理といった「不動産業」の活動により近くなったこと,近年,不動産 リースが行われていることなどを踏まえ,Q−サービス業(他に分類されないもの)」の中分類「物品賃貸業」とL−不動産業を統合し,新設。

5) 「学術研究,専門・技術サービス業」及び「生活関連サービス業,娯楽業」の新設

 Q−サービス業は,前回改定後による分割後も増加を続け,事業所数は全産業の約5分の1,従業者数は約6分の1を占め,各種経済活動が混在

・ 学術研究,専門・技術サービス及び広告に関する分野は,事業経営の高度・専門化及び多様化等に伴い,産業規模が拡大していることなどから,Q−サービス業から分離して,大分類を新設。
・ 生活関連サービス業,娯楽業に関する分野は,生活様式の変化に伴う消費者ニーズ多様化,余暇時間の増大等に伴い,産業規模が増大していることから,Q−サービス業から分離して新設。

6) 「宿泊業,飲食サービス業」の統合・再編

・ 客の注文で調理した飲食品を提供するテイクアウト・デリバリーサービス等の比率が高くなったことを踏まえ,J−卸売・小売業からそれらを分離し,M−飲食店,宿泊業と統合し,新設。

○ 大分類項目の新設により,国際的な産業分類との比較可能性が向上

日本標準産業分類(JSIC)
第12回改定
国際標準産業分類(ISIC)
Rev.4 2007
北米産業分類システム
(NAICS)2002
H−運輸業,郵便 H−運輸・保管業(※) 48-49運輸及び倉庫業(※)
K−不動産業,物品賃貸 不動産,レンタル及びリース業
L−学術研究,専門・技術サービス業 M−専門,科学及び技術サービス業 54専門的・科学的・技術的サービス業
M−宿泊業,飲食サービス業(※2) I−宿泊業,飲食 72宿泊及び飲食業
(※)この大分類には「郵便業」が含まれている。
(※2)今回の改定でテイクアウト,デリバリーによる飲食サービスを加えたことにより範囲が一致した。
 

(イ) 中分類項目の見直し(新設34項目,廃止32項目)

1) 新設

i)   「はん用機械器具製造業」,「生産用機械器具製造業」及び「業務用機械器具製造業」

・ 機械器具の生産構造の変化に適合させるため,F−製造業の中分類「一般機械器具製造業」,同「精密機械器具製造業」同「その他の製造業」の小分類「武器製造業」を統合,再編

ii)  「郵便業(信書便事業を含む)」

・ 日本郵政公社の民営分社化により郵便事業を主業とする郵便事業株式会社が発足し,その事業活動が物流の領域まで広がっていくであろうことを踏まえ,I−運輸業に新設

iii)  「無店舗小売業」

・ 情報通信技術の高度化等に伴い,店舗を有することなく消費者に商品を流通させる事業所が増加している事を踏まえ,その実態を把握するため新大分類「卸売業,小売業」に新設

iv)  「技術サービス業(他に分類されないもの)」

・ 事業経営の多様化等に伴い専門的技術サービスを提供する事業所が増加している事を踏まえ,その実態を把握するため新大分類「学術研究,専門・技術サービス業」に新設

v)    「持ち帰り・配達飲食サービス業」

・ 消費者ニーズの多様化に伴う飲食サービス業の変化の実態を把握するため新大分類「宿泊業,飲食サービス業」に中分類を新設

vi)  「職業紹介・労働者派遣業」

・ 事業経営の多様化に伴う雇用形態の変化の実態を把握するため新大分類「サービス業(他に分類されないもの)」に新設

2) 廃止

i)   「繊維工業(衣服,その他の繊維製品を除く)」,「衣服・その他の繊維製品製造業」

・ F−製造業の中分類「繊維工業(衣服,その他の繊維製品を除く)」,「衣服・その他の繊維製品製造業」を廃止し,中分類「繊維工業」とする。

ii)  「郵便貯金取扱機関,政府関係金融機関」

・ K−金融・保険業の中分類「郵便貯金取扱機関,政府関係金融機関」を廃止して,細分類「郵便貯金銀行」,「政府関係金融機関」して位置付け

 

(ウ) 小・細分類項目の見直し

1) 小分類(新設178項目,廃止69項目)

i)   新設

・ 「生活関連産業用機械製造業」,「半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置製造業」,「通信販売・訪問販売小売業」,「金融商品取引業」,「金融代理業」,「配達飲食サービス業」等

ii)   廃止

・ 「眼鏡製造業(枠を含む)」,「米穀類小売業」,「政府関係金融機関」等

2) 細分類(新設360項目,廃止174項目)

i)   新設

・ 「すし・弁当・調理パン製造業」,「再生骨材製造業」,「鉄骨系プレハブ住宅製造業」,「携帯電話機・PHS電話機製造業」,「ゲーム ソフトウェア業」,「ポータルサイト・サーバ運営業」,「投資運用業」,「郵便貯金銀行」,「ドラッグストア」,「ホームセンター」,「純粋持株会社」, 「居住支援事業」等

ii)   廃止

・ 「製綿業」,「練炭・豆炭製造業」,「ほうろう鉄器製造業」,「石綿製品製造業」,「マッチ製造業」,「魔法瓶製造業」,「生糸・繭卸売業」等

 

(エ) 産業全般に関連する分類項目

1) 主な中分類ごとに,小分類「管理,補助的経済活動を行う事業所」を設定

・ 統計データの継続性,統計利用上の利便性の向上を図るなどの観点から,これまで企業内の主たる経済活動と同一としていた「管理,補助的経済活動を行う事業所」を主活動から分離

2) 小分類「経営コンサルタント業,純粋持株会社」及び細分類「純粋持株会社」を新設

・ 統計データの継続性,統計利用上の利便性の向上を図るなどの観点から,これまで企業グループ内の主たる経済活動と同一としていた「純粋持株会社」を分離

 

(オ) 産業分類に係る基本的事項等について

1) 複数の分類項目に該当する経済活動を行っている事業所の産業の決定方法

 従来の「生産される財貨,取扱われる商品又は提供されるサービスの収入額又は販売額の最も多いもの」から,国際分類に倣い,原則として「販売又は出荷する財,あるいは他の事業所又は消費者に提供されるサービスの付加価値額」に変更。
 付加価値額によることが困難な場合には,付加価値を代理する指標として,産出額,販売額,収入額,従業者数等を用いる。

2) 製造小売業の取り扱いの整理

 製造小売業については,店舗を構えている場合は小売業,無店舗の場合は製造業に分類することとして整理。

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