アメリカ合衆国(United States of America)

通信

Ⅰ 監督機関等

米国では、連邦法と州法及びそれぞれの法律に基づく規制や決定、そして、裁判所による関連判例が通信分野及び放送分野を規律している。連邦レベルでは、連邦通信委員会(Federal Communications Commission:FCC)が「1934年通信法」(「1996年電気通信法」により改正。以下、通信法とする)に基づいて、通信・放送分野を所掌しているほか、商務省国家電気通信情報庁(National Telecommunications and Information Administration:NTIA)が大統領の主要諮問機関として情報通信政策に関する大統領への助言や連邦政府用の無線局免許付与と周波数管理等を行っている。また、連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)が競争促進政策の推進や消費者保護行政を所掌している。FTCと司法省(Department of Justice:DOJ)は反トラストの観点から、合併案件の審査や、市場支配力の乱用、競争阻害といった反競争的行為への取締りを行う。州レベルでは、各州の公益事業委員会(Public Service Commission/Public Utilities Commission:PSC/PUC)が州内の電気通信事業等の公益事業を所掌している。

1 連邦通信委員会(FCC)

Federal Communications Commission

Tel. +1 888 225 5322
URL https://www.fcc.gov/
所在地 45 L Street NE., DC 20554, U.S.A.
幹部

Brendan Carr(委員長/Chairman):共和党

Nathan Simington(委員/Commissioner):共和党

Geoffrey Starks(委員/Commissioner):民主党

Anna M. Gomez(委員/Commissioner):民主党

(委員/Commissioner):空席

所掌事務

委員会組織の独立規制機関であり、電気通信・放送分野における規則制定、行政処分の実施を所掌している。FCCの組織と所掌に関しては、主に通信法第1条(連邦通信委員会の設置)、同第4条(委員会に関する規定)、同第5条(委員会の組織及び機能)に規定されている。また同法には、制定した規則をFCCが定期的に見直すことも規定されている。

FCCの電気通信に関する所掌には、料金(制度を含む)の審理・設定、事業の拡大・縮小・廃業の認可、事業報告書の聴取、会計記録方法の制定、一般調査等がある。なお、州内通信への参入や料金にかかわる規制は各州に設置されたPSC/PUCも所掌しているが、無線通信は同法第301条によりFCCの所掌と規定されており、また、同第332条では、州または地方政府が商用移動無線業務や自営移動無線業務にかかわる参入や料金について規制するいかなる権限も持たないと規定している。有線による州際・国際通信及び無線通信に関するFCCの主な所掌事務は以下のとおりである。

FCCは、準司法機関的性格も有し、係争者による主張や反論に対して聴取したうえで裁定を下す権限が認められている。なお、審理には利害が対立する当事者からの申請や請願を裁定する審判的審理と、規則案を提示し関係者の意見を求めて裁定する規則制定審理がある。規則制定手続の主な流れは次のとおりである。

ただし、FCCが行使しているこの準立法的、準司法的権限に関しては、2024年6月に連邦最高裁判所が行政手続法をより厳格に解釈する判決を下していることから、今後は更なる議論が生じることが見込まれている。

委員会の組織は、上院の助言・同意を得て、大統領が任命する5名の委員(Commissioner)で構成され、大統領はそのうち1名を委員長(Chairman)に指名する。各委員の任期は5年であり、同一政党に属する委員の上限は3名である。委員会は、委員長を含む各委員とそのスタッフ並びに次の7局(Bureau)と11室(Office)によって構成されている。

7局

消費者政府関係局(Consumer and Governmental Affairs)

執行局(Enforcement)

宇宙局(Space)

メディア局(Media)

公共安全・国土安全保障局(Public Safety and Homeland Security)

無線電気通信局(Wireless Telecommunications)

有線競争局(Wireline Competition)

11室

行政法審判官室(Administrative Law Judges)

通信事業支援室(Communications Business Opportunities)

経済分析室(Economics and Analytics)

工学・技術室(Engineering and Technology)

法務顧問室(General Counsel)

監察長官室(Inspector General)

国際室(International Affairs)

立法関連室(Legislative Affairs)

総務室(Managing Director)

広報室(Media Relations)

職場多様性室(Workplace Diversity)

2 商務省国家電気通信情報庁(NTIA)

National Telecommunications and Information Administration

Tel. +1 202 482 2000
URL https://www.ntia.gov/
所在地 1401 Constitution Ave. NW, DC 20230, U.S.A.
幹部 空席(情報通信担当商務次官補兼NTIA長官/Assistant Secretary of Commerce for Communications and Information and NTIA Administrator)
所掌事務

「機構改革計画第1号」(1977年10月)及びそれを実施する「大統領命令第12046号」(1978年3月)に基づき、商務省(Department of Commerce:DOC)の内部部局として1978年4月に設置された。同庁は、国内及び国際情報通信政策における大統領の主要諮問機関である。長官は、上院の同意を得て、大統領により任命される。国家の情報通信基盤の維持・発展を促すために、主に以下を所掌する。

NTIAは、特に個別の法律による授権がない限り、政策を最終的に決定する権限や規制する権限は有していない。他方、最近では、上記等の権限に基づき、先端技術やプライバシー、ソフトウェアのセキュリティといった、規制には至らないまでも無視はできない分野に関して、規制の前段階の調査を行うといった役割も増えている。また、最近では、ユニバーサルなブロードバンドを実現する数百億USD規模の連邦補助金事業において、州等への資金配分の方針決定やプロジェクトの運営管理を担当する等その役割は更に拡大されている。

3 連邦取引委員会(FTC)

Federal Trade Commission

Tel. +1 202 326 2222
URL https://www.ftc.gov/
所在地 600 Pennsylvania Avenue, NW, DC 20580, U.S.A.
幹部

Andrew N. Ferguson(委員長/Chair):共和党

Melissa Holyoak(委員/Commissioner):共和党

Rebecca Kelly Slaughter(委員/Commissioner):民主党

Alvaro Bedoya(委員/Commissioner):民主党

(委員/Commissioner):空席

所掌事務

シャーマン法、クレイトン法及びFTC法からなる反トラスト法(Antitrust Law)及び関連法に基づく競争促進政策の推進や消費者保護関連各法に基づく消費者保護等を目的とする執行機関で、委員会形式の独立機関である。

FTCは、上院の助言・承認を経て、大統領が任命する5名の委員により構成され、大統領はそのうち1名を委員長として指名する。各委員の任期は7年で、同一政党に属する委員の上限は3名とされている。

電気通信分野における主な規制分野として、テレマーケティング、個人情報の保護、スパムメール等があり、モバイル・コマースやオンライン行動ターゲット広告分野についても関心を高めている。

その他、ソーシャルメディア等の大手テクノロジー企業による市場支配力乱用を通じての競争阻害に関しても取組みを行っており、2020年12月には、州検事総長グループと共に、フェイスブック(Facebook、現メタ(Meta))の個人向けSNS市場における違法な市場独占の維持や、過去の競合企業の買収案件(インスタグラム(Instagram)、ワッツアップ(WhatsApp))に関する反トラスト訴訟を連邦地方裁判所に提訴した。2021年6月に同裁判所は本訴訟棄却を求めるフェイスブックの主張を認める判決を下したが、FTCに対して訴状を再提出する機会も提供、FTCは同年8月に修正した訴状を再提出した。同裁判所は、2022年1月に本件訴訟を進める判断を下している。また、2023年9月には、17州の検事総長と共に、アマゾン(Amazon)のECサイトにおける排他的行為による違法な独占の維持に関して反トラスト訴訟を連邦地方裁判所に提訴した。

4 司法省(DOJ)

Department of Justice

Tel. +1 202 514 2000
URL https://www.justice.gov/
所在地 950 Pennsylvania Avenue, NW, DC 20530-0001, U.S.A.
幹部

Pamela Bondi(司法長官/Attorney General)

空席(副司法長官/Deputy Attorney General)

空席(反トラスト局長/Assistant Attorney General)

所掌事務

連邦法の順守を司法的手段により確保する機関である。電気通信分野は、主に反トラスト局(Antitrust Division)が所掌している。反トラスト局の電気通信分野における活動の事例として、1974年の対AT&T反トラスト訴訟が挙げられる。これは、1984年にAT&Tの再編をもたらし、米国の電気通信産業を大きく変化させることになった。

また、2011年8月、AT&TとT-モバイルUSA(現T-モバイルUS(T-Mobile US))の合併差止めの提訴を実施、AT&Tは同社買収を断念した。2013年6月には、日本のソフトバンクによるスプリント(Sprint)の買収を承認し、2013年7月に買収が完了した。更に、2019年7月には、T-モバイルUSと、スプリントの合併を条件付きで承認した。

他方、2016年10月に発表されたAT&Tとタイム・ワーナー(Time Warner)の合併について、DOJは合併を阻止すべく提訴したが、連邦地裁及び連邦控訴裁判所においてDOJの訴えは退けられ合併は承認された。

これら企業統合の審査以外にも、最近では、大手テクノロジー企業による市場支配力乱用を通じての競争阻害についても取組みを行っており、2020年10月、共和党系11州と共に、グーグル(Google)がインターネット検索市場やオンライン広告の独占を維持するために反トラスト法に違反したとして、連邦地裁に提訴した。本件に関して、同裁判所は2024年8月、同市場におけるグーグルの独占性を認める判断を下し、是正措置の検討が行われている。また、2023年1月には、カリフォルニア州等8州と共に、グーグルがデジタル広告技術の独占を行い反トラスト法に違反したとして、同社を連邦地裁に提訴した。更に、2024年3月には、アップル(Apple)によるアプリストア運営を含むスマートフォン市場等の独占性は違法として16州(後に4州追加)と反トラスト訴訟を連邦地裁に提訴した。

5 国土安全保障省(DHS)

Department of Homeland Security

Tel. +1 202 282 8000
URL https://www.dhs.gov/
所在地 U.S. Department of Homeland Security Washington, D.C. 20528, U.S.A.
幹部 Kristi Noem(長官/Secretary)
所掌事務

2001年9月11日の同時多発テロを受け、2002年11月に成立した「国土安全保障法(Homeland Security Act of 2002)」に基づき、税関局、財務省の要人警護組織、移民局、運輸省の沿岸警備隊等8連邦省庁22部局を統合してDHSが設立され、2003年1月24日から正式に業務を開始している。

DHSは、通信分野を含む、重要インフラ防護対策を総括する役割を担っている。2006年に策定、2013年に大統領命令(PPD-21)を受けて改定された「国家インフラ防護計画(National Infrastructure Protection Plan:NIPP)」では、16の重要インフラ分野を指定している。

2018年11月16日、DHSの国家保護・プログラム総局(National Protection and Programs Directorate:NPPD)のミッションを継承する新たな外局としてサイバーセキュリティ・インフラストラクチャ・セキュリティ庁(Cybersecurity Infrastructure Security Agency:CISA)が発足した。CISAは、連邦民間政府機関のサイバー防衛及び政府・産業界のパートナーと連携した重要インフラ保護を主な任務としており、重要インフラのリスク分析・管理を行う国家リスク管理センター(National Risk Management Center:NRMC)や、地方政府・重要インフラ事業者等にCISAのインシデント対応能力等を提供する統合運用本部(Integrated Operations Division:IOD)を設置している。

6 その他の関連機関

(1)議会(Congress

連邦議会は、立法機関として、電気通信関連法令の制定により米国の電気通信の基本的枠組を設定するほか、行政機関に対する予算割当を含む監督権限を持つ。提出された電気通信関連法案は、情報通信政策を所掌する上院の商業・科学・運輸委員会(Senate Committee on Commerce, Science, and Transportation)及び同通信・メディア・ブロードバンド小委員会(Subcommittee on Communications, Media, and Broadband)、下院のエネルギー・商業委員会(House Committee on Energy and Commerce)及び同通信・技術小委員会(Subcommittee on Communications and Technology)を中心に審議される。

議会はその立法権のほか、行政組織の決定や個々の行政の監督等について広範な権限を持つ。また、FCCの委員や省庁幹部職員の指名・任命は大統領が行い、上院の承認を必要とする。

(2)大統領府(Executive Office of the President

その他、関連する政策立案・調整を行う組織としては、大統領府の下に科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy:OSTP)、行政予算管理局(Office of Management and Budget:OMB)、国家安全保障会議(National Security Council:NSC)、国家サイバー長官室(Office of National Cyber Director :ONCD)等がある。

-連邦CTO。2009年に新設。連邦CTOの使命は、大統領と政権がテクノロジー、データ、イノベーションの力を活用し、米国の未来を前進させるのを支援することであり、CTOチームは、この使命をサポートする連邦政策、イニシアチブ、能力、投資の形成を支援するとともに、新たな発見や技術に付随し得る結果を予測し、それに対する予防策にも取り組んでいる。

-連邦CIO。2009年に新設。連邦CIOは、連邦政府内システムの相互運用性や情報共有の確保、情報セキュリティとプライバシー確保のため、エンタープライズ・アーキテクチャの構築、監督も行う。

-連邦CISO。2016年9月に新設。

国家サイバー長官室(ONCD)

-国家サイバー長官(National Cyber Director)。国家サイバー長官室は、「2021会計年度国防授権法(National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2021:NDAA 2021)」によって設立された組織で、その長となる国家サイバー長官は、大統領に対してサイバーセキュリティ政策及び戦略に関して助言を行う。

国家安全保障会議(NSC)

-サイバー/先端技術担当国家安全保障副補佐官(Deputy National Security Advisor for Cyber and Emerging Technology)。バイデン大統領(当時)は、その就任前から、サイバーセキュリティ強化を政権の優先課題として挙げており、2021年1月には、NSCにサイバー/先端技術担当国家安全保障副補佐官ポストを新設した。

(3)農務省ルーラル開発局(Department of Agriculture, Rural Development:RD)

主な役割は、ルーラル地域の居住者が、都市部の居住者と同様に電気、電話、水道サービスを受けられるように援助することにある。

RDは「電気通信プログラム」を通じて、通信基盤整備のための資金貸付等を行い、電気通信基盤整備を行っている。1995年以降は、ブロードバンド・サービスも支援対象となっている。また、ルーラル公益事業局(Rural Utility Service:RUS)がルーラル地域の開発関連政策の立案等を担っている。

農務省は2019年4月にルーラル地域のブロードバンド・サービス提供を支援する「ReConnect融資・補助金プログラム」を開始した。資金は、補助金、低金利融資、補助金と融資が50%ずつという三つの形式で、ブロードバンド・サービスが提供されていない地域でのインフラ構築に対し支給され、これまで同プログラムを通じておよそ51億USDが投資されている。

(4)州公益事業委員会(Public Service Commission/Public Utilities Commission:PSC/PUC)

PSC/PUCが各州に設置されている。州法により、組織、所掌範囲、規制手続等が規定されている。その規制の対象は公益事業全般にわたり、電気通信事業、ケーブルテレビ事業のほか、電気、ガス、水道、陸運、水運、航空等が含まれる。PSC/PUCの組織構成は州によって異なるが、委員は最大7名により構成されている。委員会の職員数も幅が大きく、小規模なものは20名程度、大規模なものでは1,000名に上る。

Ⅱ 法令

電気通信分野の法律としては、「1934年通信法」があり、それを受けて「FCC規則(FCC Rules and Regulations)」が制定されている。同規則は連邦規則集(Code of Federal Regulations:CFR)第47編電気通信に収められている。

1 1934年通信法(Communications Act of 1934

1934年に制定された電気通信事業に関する根拠法である。同法により、州際通商委員会(Interstate Commerce Commission:ICC)が保有していた電気通信事業者に対する規制権限と、連邦無線通信委員会(Federal Radiocommunication Commission:FRC)が保有していた無線通信に対する免許付与権限、公衆電気通信事業の規制と放送事業の規制が統合され、FCCが設立された。

2 1996年電気通信法(Telecommunications Act of 1996

1996年2月、「1934年通信法」を大幅に改正する「1996年電気通信法」が成立した。この改正では、電気通信、放送、ケーブルテレビ等の市場における競争を促進することを目的に、市内通信事業者による長距離通信市場への参入及び長距離通信事業者等による市内通信市場への参入、電気通信事業者によるケーブルテレビ・サービスの提供、放送局所有等に関する従来の規制の緩和を図っている。また、電気通信事業者の相互接続要件、ベル系地域通信事業者(Regional Bell Operating Company:RBOC)が長距離通信を提供する場合等の分離子会社要件等の規定による公正な競争環境の整備のほか、ユニバーサル・サービス条項により電気通信の高度化に伴う公共性の確保も考慮する等、その規定は広範囲にわたっている。同法の主な内容は以下のとおりである。

(1)通信法の構成

第Ⅰ編 総則(改正)*

第Ⅱ編 電気通信事業者

第1章 公衆電気通信事業者の規制(改正)

第2章 競争市場の発展(新設)

第3章 RBOCに関する特別規定(新設)

第Ⅲ編 無線に関する規定

第1章 総則(改正)

第2章 船舶の無線設備及び無線従事者(改正)

第3章 対価を得て乗客を運ぶ船舶の無線設備(改正)

第4章 公衆電気通信設備に対する支援、電気通信技術の実験、公共放送機構の所掌

第Ⅳ編 司法手続及び行政手続に関する規定(改正)

第Ⅴ編 罰則-課徴金

第Ⅵ編 ケーブル通信

第1章 総則(改正)

第2章 ケーブル・チャンネルの使用及びケーブル所有の制限(改正)

第3章 フランチャイズの付与及び規制(改正)

第4章 雑則(改正)

第5章 電気通信事業者による映像番組配信サービスの提供(新設)

第Ⅶ編 雑則(改正)

*各章の「改正」は、条項の新設によるものも含む。

(2)主要規定
規定事項 条項
定義に関する規定 第3条 定義
FCCに関する規定

第4条 委員会に関する規定

第5条 委員会の組織及び機能

第6条 予算の授権

料金に関する規定

第201条 サービス及び料金

第202条 差別及び優遇

第203条 料金表

第204条 新しい料金の適法性についての聴聞、停止

第205条 公正かつ合理的な料金を指定するFCCの権限

線路敷設権に関する規定

第214条 線路の延長

第224条 電柱添架の規制

相互接続 第251条 相互接続
相互接続協定の締結・認可 第252条 交渉、仲裁及び協定の承認の手続
ユニバーサル・サービス 第254条 ユニバーサル・サービス
RBOCによるLATA*間サービス規定 第271条 RBOCのLATA間サービスへの参入
RBOCに課されている要件 第272条 分離関連会社:保障措置
RBOCによる通信機器の製造、電子出版、警報監視サービス

第273条 RBOCによる製造

第274条 RBOCによる電子出版

第275条 警報監視サービス

外資規制 第310条 免許の所有及び移転についての制限
電気通信事業者・ケーブルテレビ関係

第651条 映像番組配信サービスの規制上の取扱い

第652条 買収の禁止

第653条 オープン・ビデオ・システムの設置

* LATA(Local Access and Transport Area):RBOCの業務区域

なお、1996年電気通信法成立以降も、1934年通信法を改正する個別の関連法案は多数成立している。

3 1962年通信衛星法(Communications Satellite Act of 1962

ケネディ大統領(当時)が1961年に発表した「米国の通信衛星政策に関する声明」に基づき制定された。同法では、商業通信衛星システムの導入を規定しており、同法により1962年に民間衛星通信会社コムサット(COMSAT)が設立された。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)認証制度

1996年改正により導入された通信法第214条「線路の延長」の規定により、「電気通信事業者(Telecommunications Carrier)は、電気通信サービス提供用の線路を敷設することが、公共の便宜及び必要に資することについて、FCCの認証(Certificate)を取得しなければ、当該線路を建設してはならない」と規定されている。また、「電気通信事業者」は、「電気通信サービスを提供するいかなる者」をも含むものと定義された。無線通信事業者は、これに加えて同第309条に規定される無線局の免許を取得しなければならない。FCCは、これら法律の規定に基づいて、詳細な手続を規制または規制の適用差控え等を通じて定めている。

(2)相互接続義務

1984年のAT&Tの地域事業者分離以降、長距離通信市場の競争は進展したが、市内通信市場での競争は進展しなかった。そこで、市内通信市場での競争促進のために、公正な条件での相互接続の確保が必要不可欠であるという認識から、既存市内通信事業者(Incumbent Local Exchange Carrier:ILEC)に対する相互接続義務と接続協定の仲裁手続について通信法により制度整備が実施された。通信法第251条では、すべての電気通信事業者に対して、相互接続義務が課されている。加えて、ILECに対しては、追加的義務として、指定されたアンバンドルされたネットワーク構成要素(Unbundled Network Elements:UNE)を競争的市内通信事業者(Competitive Local Exchange Carriers:CLEC)に対して提供することが義務付けられている。なお、同条に関する規則として、FCCは、1996年8月に「相互接続規則」を制定した。同規則については、ILEC等から行政裁判が起こされ、コロンビア特別区巡回区米国控訴裁判所(The United States Court of Appeals for the District of Columbia Circuit:D.C. Cir.)による差戻判決の結果、2003年には光ファイバに関するUNE義務のかなりの部分が撤廃された。その後、市場環境の変化に鑑み、数次にわたる規制緩和手続を経て、FCCは、2020年10月、デジタル信号(Digital Signal:DS)を伝送するデジタル銅線ループ等について規制の見直しを行い、競争のある郡でのDS1(帯域幅1.544Mbps)、DS3(同44.736Mbps)ループや、都市部等でのDS0ループ、すべての残存するナローバンド音声級ループや、競争のある回線センターでのダークファイバ局間伝送路等へのアクセスのアンバンドル義務を廃止している。

(3)外資規制

外資規制関連法としては、すべての外国企業に適用するいわゆるエクソン・フロリオ条項(Exon-Florio Provision)及び電気通信サービスを提供する米国企業を取得・合併・買収する外国企業に適用する通信法の二つがある。

エクソン・フロリオ条項は、国家安全保障の観点から外国資本による投資に対する規制を行うものである。同条項は、「1988年包括貿易・競争力法」が「1950年国防生産法」第721条を修正する形で成立し、その後、「2007年外国投資安全保障法」(2007年10月施行)によって改正され、審査基準項目の追加や情報分析活動の強化が盛り込まれた。

他方、通信法第214条は、参入する外国企業の審査に関して規定し、同第310条では外国企業による無線局免許の取得に関して規定している。なお、同第214条及び第310条は電気通信サービスを提供する米国企業を取得・合併・買収する外国企業に対して適用される場合がある。外国企業による無線局免許の取得制限は以下のとおりである。

FCCは、2013年11月に、公衆電気通信事業者にかかる外資所有率規制を採択する決定を実施した。具体的には、外資が経営に関与しない米国組織を通じて公衆電気通信事業者を所有している場合には、一律に外資比率20%までの制限を適用せず、事例ごとに公益性の審査を実施し、外資所有が公益に一致していると判断される場合には外資所有率規制を適用しないというものである。

トランプ政権(当時)は、2020年4月、外国からの電気通信サービス業への参入について評価する「米国電気通信役務部門への外国参入査定委員会」を新設する大統領命令(第13913号)に署名。これは、これまで非公式な省庁間グループとして活動していたいわゆる「チーム・テレコム」を成文化し、その手続等を定める内容。外国の脅威から電気通信業界を守ることで、FCCが交付する免許類に対する外国組織からの申請の却下、条件付加・変更、取消し等を勧告する。これを受け、FCCは9月、米国での事業展開を望む外資企業に対する国家安全保障審査の迅速化・標準化を進める案を全会一致で承認している。また、チーム・テレコムは司法省に設置され、通信事業免許の取得や移転の申請といった取引を対象とするのに対し、国家安全保障の懸念を生じさせる外国からの直接または間接投資の取引(不動産取引や企業買収等)を審査する省庁間委員会「対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States:CFIUS)」が財務省に設置されている。CFIUSに関しては、2018年8月、その審査対象を拡大し同委員会の権限を強化する立法も成立している。

2 競争促進政策

(1)長距離通信事業者と地域通信事業者の変遷

1984年に旧AT&Tは七つのRBOCに分割された。その後、RBOC内だけでなく競合する通信事業者も巻き込んで買収や合併を経ておおむね3社に再編されている。なお、センチュリーリンク(CenturyLink、現ルーメン(Lumen Technologies))は、2021年8月、その固定電話事業の一部(20州)を投資会社アポロ・グローバル・マネージメント(Apollo Global Management)の子会社が管理する基金アポロ・ファンズ(Apollo Funds)に売却することに合意したと発表、この取引は2022年10月に完了し、アポロ傘下の新たな事業者としてブライトスピード(Brightspeed)が業務を開始している。

(2)移動体通信事業者間の合併審査

全国規模の移動体通信事業者は、AT&Tコミュニケーションズ(AT&T Communications)、ベライゾン・ワイヤレス(Verizon Wireless)、T-モバイルUSとなっている。

2018年4月に、市場シェア第3位のT-モバイルUSは、第4位のスプリントの買収に合意したと発表し、2019年7月にはDOJ、11月にはFCCより合併承認された。民主党系の複数の州規制当局による買収阻止訴訟があったものの、連邦地裁判決を受けて、2020年4月に買収が完了した。

3 情報通信基盤整備政策

(1)ユニバーサル・サービス制度の概要と制度改革

ユニバーサル・サービスの制度枠組は、通信法第254条に規定されており、FCC規則により詳細規定が定められている。ユニバーサル・サービスの対象範囲は、公衆交換網への音声サービス(一般の電話サービス)、2周波トーン信号(プッシュホン)機能を有するサービス、911及びE911を含む緊急通報サービス、オペレータ・サービス、長距離通信サービス、電話帳及び番号案内、学校・図書館、ルーラル地域の医療機関への高度電気通信サービスとなっており、「高度サービスへのアクセス」を考慮するよう規定されている。これらのサービスを対象に、FCC規則に基づき、ユニバーサル・サービス基金(Universal Service Fund:USF)が設立された。同基金は、州際・国際通信サービス提供事業者(長距離通信事業者、移動体通信事業者、衛星通信事業者、IP電話事業者等)による負担金によって維持され、ユニバーサル・サービス管理会社(Universal Service Administrative Company:USAC)が管理・運用している。

同基金により、①高コスト地域支援、②低所得層支援、③学校・図書館支援、④ルーラル地域の医療機関支援の四つを柱とする支援プログラムが実施されている。なお、USFからの支援は、FCCや各州が指定する適格電気通信事業者(Eligible Telecommunications Carrier:ETC)のみが受けることが可能である。

USFの枠組みに関しては、保守系非営利団体のコンシューマーズ・リサーチ(Consumers’ Research)から、通信法第254条に基づくFCCへの授権とUSACへの再授権はFCCに立法権限を認めるもので、憲法に違反する課税であるとして複数の裁判所で訴訟が提起された。第5、第6、第11控訴裁(5th Cir.、6th Cir.、11th Cir.)小法廷では、それぞれ2023年3月、5月、12月にFCCの主張を支持する判決が下された。原告は、5th Cir.判決を不服として同裁判所大法廷での再審理を求める訴えを提起したところ、同控訴裁は2024年7月、大法廷での再審理において小法廷での判断を覆して原告の主張を支持、この問題をFCCに差し戻す判決を下した。その後、同年11月、連邦最高裁判所は、同控訴裁の判決について審理することを決定した。

(2)高コスト支援プログラム

当初、USFの高コスト地域支援プログラムは、不採算地域で固定電話サービスの赤字補てんのために利用されてきたが、FCCは、2011年10月に同基金をブロードバンド・サービスの普及促進に充てる決定を採択した。

これにより、10年間かけて既存のすべての高コスト地域支援を、遠隔地域のブロードバンド網整備とモバイル・サービス高度化のために新設される「コネクト・アメリカ基金」からの支援に置き換え、また、同基金から資金が拠出される「モビリティ基金」により3G及び4Gサービス拡大を支援することになった。

コネクト・アメリカ基金では、新たな支援体制が整うまでの期間、サービス未提供地域でのブロードバンド・ネットワーク構築支援に年間最大3億USDを割り当てる第1段階と、大手事業者による音声及びブロードバンドに対応するネットワーク構築を支援する第2段階が設定された。第2段階では、FCCから提案される支援を大手事業者が拒否する場合、その残額は他の希望する事業者にリバース・オークションで割り当てられることが決定された。

FCCは、第1段階支援として、2012~2014年まで、合計4億USDを実際に割り当てた。FCCは2015年に、第2段階支援として大手事業者に年間16億7,500万USDを10年間にわたって交付することを提案し、大手事業者は、年間15億USDの支援を受け入れた。FCCは2018年、ここで生じた差額を割り当てるリバース・オークションを実施、総額14億8,800万USDを103者に割り当て、45州のサービス未提供地点71万3,176か所を対象とする支援が10年間にわたって交付されている。

2020年2月、FCCは、このコネクト・アメリカ基金の後継となる枠組みとして、今後10年間で最大204億USDをブロードバンド展開支援に割り当てる「ルーラル・デジタル機会基金(Rural Digital Opportunity Fund:RDOF)」を設置した。FCCは、同年10月から11月にかけて160億USDを割り当てる第1段階のリバース・オークションを実施し、180者が総額92億USD超を獲得した。

ただし、その資金の交付は、FCCが定めるブロードバンド要件を満たすことが条件となっており、FCCは、2022年8月、同オークションで最大となる13億USD超を獲得したLTD Broadband、そして、同4位となる8億USD超を獲得したSpaceXの補助金申請を却下したことを発表した。

(3)モビリティ基金からルーラル・アメリカ5G基金への移行

FCCは、2012年9月にモビリティ基金の第1段階として、移動体通信サービスの提供範囲が全国平均を下回る地域で3G/4Gの移動体通信基盤構築を支援する一回性の資金として合計3億USDを交付するリバース・オークション方式による入札を実施し、33者が総額2億9,999万USDを落札した。FCCは、ここで残った未整備地域に関して、2017年2月にモビリティ基金第2段階にかかる命令を採択し、総額4億5,300万USDをリバース・オークションを通じて交付することとなっていた。しかし、FCCは、同支援を提供する地域をより現実に即した手法で選定する必要があること等を踏まえ、2019年12月、この手続を廃止して、5G整備を促進し、地方の高速接続をサポートする90億USD規模の「ルーラル・アメリカ5G基金」を新たに設立する意向を表明。2020年10月には5G基金を設立する決定を採択、公表した。2023年9月には、5G基金制度を見直す手続を開始、これを受けて、FCCは、2024年9月、第2次決定を採択、公表した。ここでは、第1段階として今後10年間で総額90億USDをリバース・オークションにより割り当て、受給者に対してサイバーセキュリティ及びサプライチェーンのリスク管理計画の実行を義務付けるとともに、オープン無線アクセス・ネットワーク(Radio Access Network:RAN)技術をネットワークに利用する受給者を優遇する枠組み等を定めた。

(4)ライフライン・プログラム

2016年3月、FCCは「ライフライン・プログラム」を現代化する計画を採択した。同プログラムは1985年に創設されたプログラムで、連邦政府の支援プログラムを受給する低所得者の固定電話の利用に対して助成金を出す。2008年には移動電話の通話サービスも助成対象に加えられ、現在は、ブロードバンド・サービスも助成対象としている。

(5)E-rateプログラム

FCCは、2014年7月にE-rateプログラムの改革にかかる命令を採択し、E-rateプログラムにより学校内のWi-Fi接続整備を支援、すべての学校と図書館を高速ブロードバンド・サービスに接続、E-rateプログラムの財務的な安定性確立、という三つの取組みを行うことを決定した。

FCCは、2023年10月、E-rateプログラムを拡大し、スクールバスが搭載するWi-Fiアクセス・ポイントも支援の対象とする宣言的裁定を採択、公表した。2024年7月にはそのための規則を修正する決定を採択、公表している。また、E-rateプログラムに関しては、2024年6月、学校・図書館向けサイバーセキュリティ・サービス及び機器購入を支援するため総額2億USDを提供するパイロット・プログラムを創設する決定を採択、公表した。

(6)USF改革に関する議会への報告書

2022年8月、FCCは、USFの将来に関する議会への報告書を公表した。これは、2021年11月に成立した「インフラ投資・雇用法(Infrastructure Investment and Jobs Act)」に基づく措置となる。報告では、USFの拠出ベースの変更に関して、具体的な提言までは踏み込まなかったものの、関係者から提出された主な改革案について長所・短所を評価。そのうえで、議会への勧告として、ブロードバンド・インターネット・アクセス・サービス(BIAS)事業者、デジタル広告、その他ブロードバンド・ネットワークから恩恵を得るオンライン・エッジ・サービスに対する拠出金を徴収するFCCの権限を明確にすること、そして、消費者の経済的負担を軽減し、拠出が求められる事業者に更なる確実性を提供し、基金とそのプログラムを長期的に維持するために、FCCが拠出方法と拠出ベースを変更する権限等を求める内容となっている。

(7)すべての米国民を安価で信頼できる高速インターネットにつなげる取組み

米国では、2020年3月以降、感染が拡大した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の一環として、複数のブロードバンド支援策が実現している。これは、感染拡大を受けて利用が急速に増加したオンラインでの活動、とりわけ遠隔医療や遠隔教育をすべての人が利用できるようにすることを目的とする施策となる。特に、「インフラ投資・雇用法」は、すべての米国民を安価で信頼できる高速インターネットにつなげる目標を達成するために650億USDの資金を提供した。このうち、NTIAには482億USDが割り当てられ、六つのブロードバンド・プログラムが新設された。その中でも最大規模となるのが、サービス未提供地域でブロードバンド・インフラの展開と導入を計画、支援する各州のプロジェクトに合計424億5,000万USDを配分するブロードバンド衡平性・アクセス・配備(Broadband Equity, Access, and Deployment:BEAD)プログラムとなる。そのほかにも、27億5,000万USDが「デジタル衡平性法(Digital Equity Act)」プログラムへ、10億USDがミドルマイルのインフラを整備するプログラムに割り当てられた。また、FCCに対しては、低所得世帯に短期的な支援を提供する安価なコネクティビティ・プログラム(Affordable Connectivity Program:ACP)を設置するため142億USDが割り当てられた。ACPは、要件を満たす低所得世帯が購入するブロードバンド・サービスに対して月30USDの補助等を提供する(2024年5月末に終了)。これら資金は、NTIA、FCC、財務省、農務省の四つの機関が主導する、インターネットへのアクセスや利用を拡大する既存プログラムへの追加となる。既存のプログラムには、COVID-19パンデミックの影響を緩和するために短期的な対策として連邦政府から資金が提供されたFCCが所管するプログラム(低所得者向けに総額32億USDの支援を提供する緊急ブロードバンド給付(Emergency Broadband Benefit:EBB)プログラム(2021年に終了)や、学校・図書館利用者向けに総額71億USDの支援を提供する緊急コネクティビティ基金(Emergency Connectivity Fund:ECF))も含まれる(2024年6月末に終了)。これらプログラムは、「Internet for All」というイニシアチブの下で運営されている。

4 ICT政策

(1)ネットワーク中立性に関する議論

オバマ大統領(当時)は、ネット中立性と呼ばれる上位レイヤ・サービスの非差別的な伝送を確保するための規則整備を後押ししていたため、FCCでは、2009年から「オープン・インターネット規則」の策定によるネット中立性の規則整備を進めた。電気通信事業者がD.C. Cir.に提訴し、同規則は2014年の判決でFCCが敗訴した。

これを受け、FCCでは、2015年2月に新たなオープン・インターネット規則を公表した。同新規則では、BIASを通信法第2編の規制が適用される電気通信サービスに分類することで、FCCの規制権限下に置き、特定のアプリケーションやサービスの伝送をブロックするブロッキング、伝送速度に制限を加えるスロットリング、有料で特定の伝送を優先化する有料優先措置の三つを明示的に禁止した。また、BIASを提供する事業者によるコンテンツ等の不当な妨害または不当に不利な取扱いを禁止する一般行為規則を設け、その違反行為については、その都度、判断すること等を定めた。

これら規則を含むFCC決定に対して、ブロードバンド事業者等からD.C. Cir.に提訴されたが、2016年6月にD.C. Cir.はFCCのネット中立性規則が合法であるとの判決を下した。なお、原告側は同判決を不服として上告したが、2018年11月に最高裁はその訴えを棄却する判断を下した。

アジト・パイFCC委員長(当時)は、オープン・インターネット規則の再検討に取り組み、2017年12月に、「インターネットの自由の回復(Restoring Internet Freedom)」にかかる決定を採択、2018年6月に発効した。同決定では、BIASを情報サービスに再度分類することで規制対象から除外した。また、スロットリング、有料優先措置、ブロッキングの三つを禁止する規制も廃止し、一般行為規則も廃止、公式の苦情処理手続についても廃止した。透明性については、2015年の規制を緩和し、2010年の規則の水準まで戻した。なお、このFCC決定について、2018年1月に、22州等の検事総長等が訴訟をD.C. Cir.に提起したが、2019年10月、D.C. Cir.は、FCCの決定を概ね支持する判断を下した。ただし、D.C. Cir.は、FCCが2018年命令よりも更に厳格な規則や要件を課すことを州に禁止したいわゆる「先占指令(Preemption Directive)」を発行する法的権限をFCCは示していないと判断、2018年決定の当該部分を無効化し、また、2018年決定における公共安全、電柱添架、低所得層支援プログラムの三つに関してFCCは十分な分析を行っていないとしてFCCに差し戻した。原告側は、2020年7月、D.C. Cir.判決を最高裁判所に上告することを断念する意向を明らかにした。

バイデン政権(当時)下のFCCは、2023年10月、オープン・インターネット規則を復活させる手続を開始、2024年4月に、ネット中立性規則を回復する決定を採択、5月にその全文を公表した。規則の内容は2015年規則を概ね踏襲する内容となっているほか、国家安全保障に脅威を与える外国企業が米国内でブロードバンド・ネットワークを運営する許可を取り消す権限をFCCが持つことも明確化した。今回のFCC規則は7月にその大半が施行予定となっていたところ、複数の事業者団体等は5月、七つの米国控訴裁判所で訴訟をそれぞれ提起、最終的に6th Cir.が審理をまとめて担当することとなった。6th Cir.は7月、同規則の施行を8月5日まで差し止める仮処分命令を下し、8月1日には同規則施行を差し止める判決を下した。6th Cir.は10月からの審理を経て、2025年1月、BIAS提供事業者は情報サービスのみを提供しているとして、FCCが電気通信規定を通じてネット中立性規則を課す法的権限を否定する判決を下した。

こうしたFCCによるBIAS分類見直しの根拠は、法律の文言が曖昧な場合には専門的知識を有する行政機関が解釈する裁量を認めるという「シェブロン法理(Chevron Doctrine)」に基づいている。シェブロン法理は1984年の最高裁判所判決によって示されたもので、これまで下級裁判所での判決も含め、多くの行政訴訟で採用されてきた。しかし、最高裁は2022年6月、その判断の重大性や重要性が甚大な場合、行政機関は議会自身にその判断を委ねる、あるいは、議会からの明確な委任があることを示す必要があるという「重要問題(Major Questions)法理」テストを審査の基準として利用することを強調する判決を下した。また、最高裁は2024年6月にも、行政手続法を厳格に適用し、シェブロン法理ではなく、重要問題法理を採用する判決を下している。

他方、州レベルでは、2018年のネット中立性廃止決定以降、独自のネット中立性規則制定の動きが広がった。全米州議会議員連盟によると、2018年10月時点で、30州において関連法案が提出され、13州で決議が採択されており、6州の知事が関連する行政命令に署名、4州(カリフォルニア州、オレゴン州、バーモント州、ワシントン州)がネット中立性規則を成立させている。また、カリフォルニア州とバーモント州はネット中立性法を成立させており、訴訟で係争中となっていたところ、カリフォルニア州法については、第9控訴裁(9th Cir.)が2022年1月にその施行を認める判断を下した。

(2)サイバーセキュリティ政策

米国におけるサイバーセキュリティ確保・強化の取組みは、連邦政府機関の保護と、重要インフラを含む民間セクターの保護という二つの側面があり、政権や議会は、法律や規則、大統領命令や行政指令といった手段を通じて、これら取組みを強化、推進、支援するための努力を続けている。また、民間企業に対して、サイバーセキュリティを強化する、情報を共有する、報告を義務付けるといった包括的なサイバーセキュリティ規制は存在しないため、官民連携も重要な手段となる。

政権において、これら取組みを主導するのは、NSCや国家安全保障局(National Security Agency:NSA)、国家情報長官室(Office of the Director of National Intelligence:ODNI)、ONCD、DHS、CISA等で、その他、サイバー犯罪の捜査や法執行を行うDOJや連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation:FBI)、近年増加するランサムウェア攻撃や資金洗浄の対策を担当する財務省、政府機関や民間セクターが順守する規格や指針を策定するDOC米国標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)やOMBといった機関も重要な役割を担っている。その他、国務省でも、2022年4月にサイバーと先端技術に関連する国際問題を担当するサイバー空間・デジタル政策局が発足した。

こうした政府横断的な取組みに加えて、国防、運輸や交通、医療、金融といった業界を所管する省庁ごとにも、その業界のサイバーセキュリティを保護・強化する取組みが行われているほか、州政府レベルでもこうした取組みは存在する。更に、サイバー犯罪取締強化の観点から、国際協力や国際連携も積極的に行われている。

重要インフラ保護という観点では、CISAは2021年8月、重要インフラをサイバー脅威から守るためアマゾン、マイクロソフト(Microsoft)、グーグルといったテクノロジー企業やセキュリティ企業(CrowdStrike、FireEye、Palo Alto Networks)、通信企業(AT&T、ベライゾン、ルーメン)と協力し、クラウド・コンピューティング・プロバイダをねらうランサムウェア攻撃やサイバー攻撃への対抗措置に焦点を当て、最終的にはサイバー防衛計画や官民の情報共有の改善を目指すイニシアチブ「共同サイバー防衛連携(Joint Cyber Defense Collaborative:JCDC)」を発表した。また、バイデン大統領(当時)は、2024年4月、重要インフラのレジリエンス強化する国家安全保障メモランダムに署名した。

連邦政府機関や重要インフラ事業者等の民間セクターが従うことが求められる、あるいは、従うことが推奨されるサイバーセキュリティ基準には、例えば、NISTが開発、更新しているサイバーセキュリティ・フレームワークや、ゼロトラスト・アーキテクチャが含まれる。NISTは、2024年2月にサイバーセキュリティ・フレームワーク第2版を公表した。また、OMBは2022年1月に、連邦政府機関が2024年9月末までにゼロトラスト・アーキテクチャに関する一定のサイバーセキュリティ基準に適合するよう求める文書を公表した。

民間セクターに対しては、サイバー攻撃やそれに伴うシステム障害、情報漏えいといったサイバーインシデントの発生を連邦政府当局に報告する一般的な義務はないが、2015年12月に成立した「2015年サイバーセキュリティ法(Cybersecurity Act of 2015)」により、サイバーセキュリティ情報の官民共有の枠組みが強化され、一定の手続に従ってこの枠組みに参加する民間企業に対して法的責任を免除するセーフハーバーの規定が設けられている。また、通信サプライチェーンのセキュリティ・リスク情報共有に関しては、NTIAは2020年7月、「通信サプライチェーン・リスク情報連携(Communications Supply Chain Risk Information Partnership:C-SCRIP)」の創設を発表した。サイバー攻撃等の報告義務に関しては、重要インフラ事業者に対して、2022年3月に成立した「2022年重要インフラ向けサイバーインシデント報告法(Cyber Incident Reporting for Critical Infrastructure Act of 2022:CIRCIA)」が、石油パイプライン、銀行、電力網、輸送システム等を運用する主要企業に対し、サイバー攻撃を72時間以内、ランサムウェアの身代金支払を24時間以内に報告するよう義務付けており、CISAは2024年4月、施行規則案を官報に掲載した。株式公開企業に対しては、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission:SEC)が2023年7月に、重大なサイバー事案を報告するよう義務付ける規則を採択しているほか、通信事業者に対しては、FCCが2023年12月、報告義務を強化する規則を採択、公表している。

バイデン大統領(当時)は、2025年1月、連邦機関や重要インフラ事業者のサイバーセキュリティを強化するための大統領命令にも署名している。

サイバーセキュリティ強化に関する最近の主な政権の取組みは次のとおり。

①国家サイバーセキュリティ戦略

バイデン政権(当時)は、2023年3月の「国家サイバーセキュリティ戦略」で、サイバーリスク管理、サイバー防衛の責任を、エンドユーザではなく、安全性に欠ける製品やソフトウェアを開発、製造する側が果たすという方針に転換するため、セキュア・バイ・デザイン/セキュア・バイ・デフォルトのコンセプト採用を明確化した。また、重要インフラ保護についても、自主的ガイダンスに依存するのではなく、既存の枠組みを用いた最低基準に適合するよう求める方針に切り替えた。ONCDは、2023年7月に同戦略実行計画、2024年5月に第2版を公表した。CISAは、セキュア・バイ・デザインを補完するため、ソフトウェアやハードウェアのサプライチェーン・リスク管理という観点から、ソフトウェア部品成分表(Software Bill of Materials:SBOM)とハードウェア部品成分表(Hardware Bill of Materials:HBOM)の開発と利用を促進する取組みを行っている。

②消費者向けIoT機器のラベリング・プログラム

ホワイトハウスは、2023年7月、2021年5月の大統領命令(第14028号)に基づき、インターネットに接続するスマートIoTデバイスのサイバーセキュリティ水準を引き上げることを目的として、基準を満たすIoT製品に政府認定ラベルを貼付する「米国サイバー・トラスト・マーク(U.S. Cyber Trust Mark)」プログラムを開始することを発表した。このプログラムは、メーカーを法的に拘束する内容を含まず、市場競争の下でメーカーによる自主的な取組みを促す内容となっている。これを受け、FCCはプログラムの実施主体として必要な手続の整備を行い、2024年12月にはUL LLC(UL Solutions)を主幹事(Lead Administrator)及びサイバーセキュリティ・ラベル管理者(Cybersecurity Label Administrator:CLA)として選定したことを発表、また、FCCは同月、CLAとして10者を追加している。NISTは消費者が使用するルータのセキュリティ要件の特定を行っている。ホワイトハウスは、2025年1月、同プログラムを開始することを公表した。

③ONCDサイバーセキュリティ規制調和意見募集

ONCDは、2023年8月、連邦政府内でのサイバーセキュリティ規制を効率的に調和させる方法に関して意見を募集する情報提供依頼書(Request For Information:RFI)を官報に掲載した。このRFIは、サイバーセキュリティを義務付ける連邦法が不在となる中、包括的なサイバーセキュリティ規則を推進することを目的としている。ONCDは2024年6月、このRFIに対して寄せられた意見をまとめた報告書を公表している。

④ICTサプライチェーン安全化

2019年5月、トランプ大統領(当時)は、ICT及びサービスのサプライチェーン安全化に関する大統領命令(第13873号)に署名した。米国企業等は、敵対的な外国が支配する企業からのICT機器やサービスの調達が禁止される。DOCは、2019年5月、国家安全保障または外交政策上の利益に反する活動に関与する企業への電子部品等の販売を原則禁止する措置を公表。ここでは、華為技術(HUAWEI)をはじめとする中国企業等100社以上が対象となった。

通信ネットワークまたは通信サプライチェーンの安全性に関して、FCCは2019年11月、国家安全保障脅威をもたらす企業が製造または提供する機器やサービスの購入や調達に対してUSF資金の使用を禁止する規則を採択した。2020年3月の「安全で信頼できる通信ネットワーク法(Secure and Trusted Communications Networks Act of 2019)」を受け、FCCは、同年12月に、国家安全保障にリスクをもたらす機器を特定、撤去、交換することを事業者に義務付け、その費用を一部償還する「安全で信頼できる通信ネットワーク償還プログラム(Secure and Trusted Communications Networks Reimbursement Program)」を創設した。

FCCは、国家安全保障に対する脅威に指定された通信機器・サービスの「対象リスト(Covered List)」も管理しており、華為技術や中興通訊(ZTE)等の中国企業10社とロシアのカスペルスキー・ラボ(Kaspersky Lab)を対象リストに加えている。

更に、FCCは、国家安全保障にリスクをもたらす企業による米国市場参入や国内・国際事業サービス提供に関しても懸念を示し、2019年5月には中国移動からの国内市場への参入申請を却下、その後、中国電信や中国聯通等の国内市場及び国際市場でのサービス認可を取り消す決定等を採択している。

FCCは、その他、2021年11月の「安全な機器法(Secure Equipment Act of 2021)」に基づき、国家安全保障リスクをもたらす主体が求める無線通信機器の機器認証申請の審査や認証手続を行わないための規則を2022年11月に採択、公表した。また、FCCは2024年5月、FCC対象リストに記載された組織のテストラボによる機器認証プロセスへの参加を禁止する提案を採択、公表している。

(3)量子情報科学技術の取組み

米国では、2018年に制定された「国家量子イニシアチブ法(National Quantum Initiative Act)」や、複数の大統領命令等の下で、量子コンピューティング技術や量子インターネットをはじめとする量子情報科学技術(Quantum Information Science and Technology:QIST)の研究開発や人材育成といった様々な取組みが行われている。

量子コンピュータが普及する時代には、現在使われている暗号技術はすべて無力化される可能性が指摘されており、連邦政府では、量子コンピュータによる暗号解析でも安全性が期待できる耐量子暗号(Post-Quantum Cryptography:PQC)技術の開発が進められている。

NISTは、2016年12月から耐量子アルゴリズムの募集を正式に開始しており、2022年7月には評価に合格した耐量子アルゴリズム4件を選定、2024年8月には、うち3件の標準化草案を発表、これらを標準化するプロセスを開始した。

(4)人工知能(AI)にかかる政策動向

米国では、2016年頃から、NSTCやOSTPが主導する形で、責任あるAI、信頼できるAIの研究開発や人材育成、規制や制度、安全性やセキュリティ、公平性、経済や雇用、国家安全保障といった観点から取組みが行われている。

2019年2月にはAIの研究開発等を促進する大統領命令(第13859号)が署名され、「AIイニシアチブ」を策定した。2020年12月には、連邦政府内での信頼できるAI利用の促進に関する大統領命令(第13960号)が署名され、政府内でのAI利用の更なる原則を規定した。また、2021年1月に成立した「国家AIイニチアチブ法(National Artificial Intelligence Initiative Act of 2020:NAIIA)」では米国の経済的繁栄と国家安全保障のためにAIの研究と応用を加速させる、連邦政府全体で協調的なプログラムを規定する「国家AIイニシアチブ(National AI Initiative:NAII)」が設置され、政権内のAIに関する取組みがまとめられた。

2022年11月には、オープンAI(OpenAI)が開発を進める生成AIモデルを活用する対話型AIチャットボットChatGPTの一般公開が開始され、世界で急速に利用が拡大している。また、文章だけでなく、現実と区別がつきにくいリアルな画像や映像を生成するモデルも開発が続けられている。

このため、米国では、このようなイノベーションを促進しつつ、いかにAIがもたらす潜在的なリスクを軽減できるかが政権や議会で議論の焦点となっている。こうしたモデルが一定の安全基準を満たしているか、特に子どもを含む教育環境での対応や適切な活用方法、プライバシーや著作権の保護、差別・偏見の助長やディープフェイクを含む偽情報・誤情報への対応、透明性の高い開発プロセスの確保、国家安全保障や経済安全保障の保護等が具体的な問題として挙げられている。AIがもたらすリスクを低減する政権の主な取組みとしては、2022年10月のOSTPによる「AI権利章典(AI Bill of Rights)」の青写真、2023年1月のNISTによる「AIリスク管理フレームワーク(AI Risk Management Framework:AI RMF)」バージョン1.0のほか、ホワイトハウスが2023年7月に公表した、AI開発企業等によるAIの安全性やセキュリティ、信頼性を確保するための自主的な約束への誓約が挙げられる。この誓約に署名しているのは、アマゾン、アンスロピック(Anthropic)、グーグル、インフレクションAI(Inflection AI)、メタ、オープンAI、アップルをはじめとする16者等となっている。

こうした様々な取組みを踏まえ、バイデン大統領(当時)は、2023年10月、AIの安全、セキュア、信頼できる開発及び利用に関する大統領命令(第14110号)に署名した。同命令は、米国のAI政策の方向を定めるこれまでの行政措置を基盤とし、大手AI開発企業等による自主的な約束に基づき、AIの安全、安心で信頼できる開発を推進、AIの安全性とセキュリティに関する新たな基準確立や新たな監視手段を導入すること等を目的としている。

同命令は、複数の連邦政府機関に対して幅広い措置の実施を指示しており、その大きな柱は、AIの安全・安心のための新基準、米国民のプライバシー保護、公平性と公民権の推進、消費者・患者・学生の支援、労働者の支援、イノベーションと競争の促進、世界での米国のリーダーシップの推進、政府による責任ある効果的なAI利用の確保、の8点となる。しかし、この命令は2025年1月に就任したトランプ大統領によって撤回され、トランプ大統領は新たに「米国のAIイノベーションに対する障壁除去」に関する大統領命令に署名した。ここでは、米国のAI優位性を維持・強化する「AI行動計画」を180日以内に開発すること等が指示されている。

その他、州レベルでは、コロラド州や、カリフォルニア州等でAIを規制するための州法が複数成立している。

また、バイデン大統領(当時)は、2025年1月、AIデータセンター建設を加速し、その電力を確保するための大統領命令に署名した。

(5)スマートシティ

2013年12月には、大統領技術革新フェロー・プログラムにおいて「Smart America Challenge」を開始、IoTにかかる24の産学連携プロジェクトを展開した。2014年9月からはNISTの主導で後継プログラム「Global City Teams Challenge(GCTC)」がスタート、現在もそのプログラムは継続しており、2024年1月には、2024年から2026年の3年間をカバーする戦略計画が公開された。同計画では、①スマートシティ・インフラ・プログラムとGCTCのための研究ベースの科学的基盤を確立する、②スマートシティの範囲とアジェンダを拡大し、現在の課題に対処し、コミュニティの住民、企業、組織に対する成果の公平な分配を実現する、③GCTCを、先進技術の開発、試験、統合に専念する、国内外の官民パートナーシップとして引き続き推進する、という三つの目標が掲げられた。

2022年8月、全米科学財団(National Science Foundation:NSF)は、四つの「工学研究センター(Engineering Research Center)」を新たに立ち上げ、5年間で1億400万USDを投資することを発表した。これらセンターは、農業、製造、健康、都市計画に影響を与える持続可能なソリューションのために技術を変革することを目標とするもので、スマートシティに関する工学研究センター「Center for Smart Streetscapes」は、道路とその周囲のリアルタイムなハイパーローカル技術を通じ、住みやすく安全で包括的なコミュニティの形成を目指す。同センターには、コロンビア大学、フロリダ・アトランティック大学、ラトガース大学等、五つの機関が参加する。

5 消費者保護関連政策

(1)個人情報保護の枠組み

米国では、オンライン、オフラインで包括的な消費者プライバシー保護を求める法制度は連邦レベルでは確立しておらず、原則として自主規制の枠組みに委ねられている。ただし、医療、金融、通信といった業界ごとに個別の立法が成立、執行されている。

自主規制の枠組みについて、FTCは、企業による不公平または欺瞞的な行為や慣行を禁止する「連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act)」第5条に基づき、広く業界の慣行を監視、取り締まる活動に従事している。加えて、FTCは、大規模なデータ侵害事案等を契機とする個別企業との和解条件に含まれる個人データ保護強化等の措置に関して、各社がその条件に違反していないか監視している。FTCと和解した企業には、フェイスブック(現メタ)やツイッター(Twitter、現X)、グーグル/ユーチューブ(YouTube)、スナップ(Snap)といった企業が含まれる。また、FTCの執行事例には、2019年7月にフェイスブック(当時)に対して同委員会過去最高額となる50億USDの罰金を科した件も含まれる。

その他、カリフォルニア州をはじめとする20州前後で包括的な個人情報保護法が成立しており、各企業はこれら州のユーザ保護が求められている。

(2)連邦プライバシー法の最近の検討
①概要

米国では、複数の連邦議会委員会、FTC、消費者・市民団体、テクノロジー企業の間で、消費者を大規模なデータ流出から守る全国共通のデータ・プライバシー法を制定することが必要との認識が高まっている。これは、欧州のデータ保護規則とある程度協調を図り、2020年1月に発効した「カリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:CCPA)」をはじめ州レベルで異なる規則が作られることによる混乱を避けるためである。

なお、州レベルでは、カリフォルニア州が、2020年11月、CCPAを更に強化拡大するための立法「2020年カリフォルニア・プライバシー権利法(California Privacy Rights Act of 2020:CPRA)」を成立させ、2023年1月1日からCCPAに代わるプライバシー関連州法となった。また、個人情報漏えいに関しては、ほぼすべての州で、民間企業や政府機関に対して、個人特定可能情報(Personally Identifiable Information :PII)を含む個人情報が漏えいした事案が発生した場合に当該個人に通知する義務が定められている。

連邦議会でも、全国共通のプライバシー保護体制を定める包括的なプライバシー保護法案の検討は続けられており、2023/2024年議会でも、下院エネルギー・商業委員会委員長を務める共和党のキャシー・マクモリス・ロジャース議員と上院商業・科学・運輸委員会委員長を務める民主党のマリア・キャントウェル議員が2024年4月、包括的なデータ・プライバシー法案「米国プライバシー権利法(American Privacy Rights Act:APRA)」草案を公表、6月に下院で提出されたが、会期終了に伴い廃案となった。

②NISTのプライバシー・フレームワーク

NISTは、企業による消費者・従業員の個人情報保護を支援するプライバシー・フレームワークの策定を進めている。プライバシー・フレームワークは、企業・団体が事業目的に合わせて個人情報を収集・保管・使用・共有することで生まれるプライバシー・リスクへの対応が主眼となる。また、家庭内で使われる機器や個人の端末等インターネットに接続する機器の増加で、製品・サービスを使った際に収集される情報についても懸念が強まっているため、プライバシー・フレームワークはこのような情報への対応も示すものとなる見込みである。NISTは、2020年1月にバージョン1.0を公表、2024年6月に同バージョン1.1概念ペーパーを公表している。

③FTCのANPRM

2022年8月には、FTCが、官報に事前規則制定提案告示(Advanced Notice of Proposed Rulemaking:ANPR)を掲載、新たなデータ・プライバシー規則を制定する手続を開始した。また、FTCは、2024年9月、大手ソーシャルメディアと動画配信サービスの個人情報収集慣行に関するスタッフ報告を公表した。報告は、従来の自主規制の枠組みは機能不全であり、更なる立法等の措置が必要等と勧告している。今回の対象となった企業は、アマゾン(ツイッチ(Twitch))、フェイスブック(現メタ)、ユーチューブ、ツイッター(現X)、スナップ、バイトダンス(ByteDance)/TikTok、ディスコード(Discord)、レディット(Reddit)、ワッツアップの9社となる。

(3)通信事業者による加入者情報の保護

FCCは、通信法第222条に基づき、通信事業者に対して加入者固有ネットワーク情報(Customer Proprietary Network Information:CPNI)を保護する義務を課している。2020年2月には、移動体通信事業者大手4社が、加入者の位置情報を適切に保護することなく第三者に販売していたとして総額2億USDの罰金を課すことを提案、2024年4月に総額2億USDの罰金を課すことを決定した。

また、FCCは、2023年12月、2017年に議会により施行が禁止されたISPプライバシー保護規則に含まれていた情報流出時の通知義務に関して、新たな規則を公表した。ここでは、電気通信事業者等は、通信法第222条により保護が要請されるCPNIに加えて、PIIといった機微な個人情報の一定の組合せ等の流出があったと合理的に判断する場合は、原則として7営業日以内に、FCCに加え、FBIやシークレット・サービスに通知を行うこと等が規定された。議会調査法(Congressional Review Act:CRA)の手続によって撤回された規則は、再度制定することは認められていないが、今回のFCCの決定はその一部を復活させるとも解釈できるため、動向が注目されている。

(4)子ども・青少年のオンライン安全確保

子どもや青少年のオンラインでの安全確保については、「1998年児童オンライン・プライバシー保護法(Children’s Online Privacy Protection Act of 1998:COPPA)」に基づいて、FTCや州検事総長が主に法執行活動を行っている。FTCは、2023年12月からCOPPA施行規則の強化に向けた手続を開始、2025年1月に修正規則を採択した。ここでは、ターゲット広告等向けに子どもの情報をサードパーティに開示する事業者は保護者からオプトインで同意取得義務や、データ保持期間に上限を設定といった内容が含まれている。

また、連邦議会ではCOPPA改正の検討が行われており、上院は2024年7月に「キッズ・オンライン安全法(Kids Online Safety Act:KOSA)」法案と、「児童・青少年オンライン・プライバシー保護法(Children and Teens’ Online Privacy Protection Act:COPPA 2.0)」法案を圧倒的多数で可決したが、会期終了に伴い廃案となった。

州レベルでは、10以上の州で子ども安全確保のためアカウント作成に年齢認証を求める等の法律が成立しているが、その施行を巡っては、メタ、グーグル、スナップ、X等が加盟する業界団体ネットチョイス(NetChoice)等が各地で訴訟を提起しており、テキサス、カリフォルニア、アーカンソー、オハイオ、ミシシッピといった州で施行を差し止める仮処分命令を勝ち取っている。

(5)ソーシャルメディア・プラットフォームの安全確保

ソーシャルメディア・プラットフォーム上では、様々なコンテンツが投稿、共有されており、その中には、暴力主義、過激主義や、児童性的虐待素材(Child Sexual Abuse Material:CSAM)、その他画像や映像を改ざん、合成、生成して作成されるフェイクニュースや、詐欺等の犯罪行為への誘引を目的とする偽情報・誤情報も含まれる。こうしたコンテンツの拡散、共有を防ぐため、ソーシャルメディア・プラットフォームを運営する事業者は、対象となるコンテンツを発見次第、フラグを立てて注意喚起を行う、削除するといったポリシーを定めて対応する自主規制の枠組みが基本となる。ただし、このようなプラットフォーム事業者によるコンテンツ・モデレーションは、国家安全保障保護や犯罪捜査といった役割を担う政府機関から通知を受けて実行される場合もある。特に、テロ対策や、政治広告を含む選挙システムの安全性、完全性を確保するという観点では、CISA、FBI、NSA、国務省といった機関が業界との連携を強化している。

①偽情報・誤情報対策

ソーシャルメディア・プラットフォーム上での偽情報や誤情報に関しては、2016年大統領選挙においてロシア国営メディア等が国家分断や選挙妨害を目的として大規模な活動を展開したことで、対策が急務という認識が高まっている。

ソーシャルメディア・プラットフォームでユーザから投稿されるコンテンツに関しては、第三者が投稿したコンテンツの法的責任を原則として免除するという通信品位法第230条に基づき、運営各社がコンテンツ・モデレーション・ポリシーを策定し、違反コンテンツを削除するといった措置を講じている。通信品位法を巡っては、両党から見直す必要性が主張されており、共和党は、ソーシャルメディアはリベラル系コンテンツに偏向しており保守系コンテンツを検閲していると不満を示す一方、民主党は、各社のコンテンツ・モデレーションは不十分で違法、有害情報が蔓延していると不満を示している。共和党のトランプ政権(当時)下では、2020年5月、オンライン・プラットフォームによる恣意的なユーザ投稿の削除等に対する規制等の検討をFCCや商務省、FTCや司法省に指示する「オンラインの検閲防止に係る大統領命令(第13925号)」が署名されたが、具体的な見直し等の結果には至らなかった。

バイデン政権(当時)は発足当初から、ソーシャルメディア・プラットフォーム事業者に対して、ワクチンやCOVID-19によるパンデミック、2020年の大統領選挙結果等に関する誤った情報を含む投稿は各社のポリシーに違反しており、それらを削除するよう要請してきた。しかし、そうした要請は憲法で保護される各社の言論の自由を侵害するとして、ミズーリ州及びルイジアナ州の検事総長と一部ユーザが2022年に政府を提訴した。連邦地方裁判所は、2023年7月、政権がソーシャルメディア・プラットフォームとオンライン・コンテンツについてやり取りすることや、政府機関がソーシャルメディア・プラットフォーム上の特定の投稿にフラグを立てる、あるいは、コンテンツを削除する取組みについての報告を求めることを禁止する仮処分命令を下した。

政府はこの判決を不服として連邦控訴裁に上訴、5th Cir.は2023年9月、政府機関は削除の強制や強く推奨することはできないと判断、また、接触禁止命令については対象となる機関を限定する等の修正を行ったが、同命令の執行は、本件が最高裁に上告されたことを受けて、2023年10月に最高裁により差し止められた。最高裁は2024年6月、原告が訴訟を提起するに足る直接的な損害は認められないとして、原告の訴えを棄却した。

また、コンテンツ・モデレーションを巡っては、テキサス州とフロリダ州で、政治的信条等に基づくコンテンツ・モデレーションを禁止する法律が成立しており、ネットチョイス等が提訴、法廷闘争が続いている。最高裁は、2024年7月、コンテンツ・モデレーション・ポリシーは憲法で保護されており、政府による削除等の強制は違憲と判断する一方、州法の有効性については下級審が適切に分析していないとして差し戻す判決を下した。

コンテンツ・モデレーションと通信品位法第230条の法的免責との関係に関しては、第3控訴裁(3rd Cir.)が2024年8月、TikTokの失神チャレンジで死亡した子どもの遺族が提起した訴訟で、7月の最高裁判決を踏まえ、アルゴリズムを使ったコンテンツ・キュレーションは企業自身の言論であり、第230条では保護されないとして、同訴訟を棄却した下級審を覆し、訴訟の進行を認める判決を下している。

②児童性的搾取対策

2024年5月、バイデン大統領(当時)は、子どもをオンライン上の性的搾取から保護することを目的とする法案「Revising Existing Procedures On Reporting via Technology ActREPORT Act)」に署名した。これは、ウェブサイトやソーシャルメディア・プラットフォームに対して、人身売買、グルーミング、児童誘因に関連する犯罪行為を全米行方不明・被搾取児童センター(National Center for Missing & Exploited Children:NCMEC)に報告することを初めて法的に義務付ける内容となっており、報告を怠った企業には高額な罰金が科される。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

(1)通信端末機器

公衆通信網に接続する電気通信端末機器の認証については、FCC規則第68部で定められている。技術基準は、補聴器との両立性については同部が規定するが、その他については端末接続管理協議会(Administrative Council for Terminal Attachment:ACTA)が定める。ACTAは、FCCが2001年1月24日に採択したR&Oに基づき設立され、それまでFCCが所掌していた端末機器認証を引き継いだ。ACTAは技術基準の策定、技術基準に適合している認定機器のデータベース作成と維持、ナンバリング及びラベリングに対する要請事項の確立、証明のための書類要求事項の確立等を所掌する。すべての認証された機器はACTAのデータベースに登録される。

通信端末機器の認証手続には、供給者適合宣言(Supplier’s Declaration of Conformity:SDoC)方式による認証と電気通信認証機関(Telecommunication Certification Bodies:TCB)による認証がある。

(2)無線機器

原則、無線機器は、FCC機器認証を取得しなければ、輸入、運用または上市、並びに電波を発射することはできない。未認証の無線機器の販売業者または流通業者に対しては、1件当たり最大1万1,000USDの罰金が科される。ただし、実験免許取得、免許不要機器のデモ展示や性能評価等の場合は、機器認証の取得前でも、条件付きで、運用することができる。

無線通信機器の認証の技術基準は、使用する無線サービスごとにFCC規則で規定される。認証は、電波の発射を目的としない無線機器の場合はSDoCによる適合性評価の認定が適用される。一方、電波の発射を目的とする無線機器や免許制の送信機の場合は、提出された機器及び測定データに基づきFCCが指定するTCBによる適合性評価の認定が行われる。

2014年11月に成立した「電子ラベル法(E-Label Act)(PL113-197)」に基づき、FCCは、新たな機器を迅速に導入できるようにすることを目的とする規則見直しを行い、2017年11月にSDoCや電子ラベリング等が導入された。

FCCの機器認証プロセスに関しては、2022年11月に国家安全保障リスクをもたらす主体が求める無線通信機器の機器認証申請の審査や認証手続を行わないとする規則を公表しているほか、2024年5月にはFCC対象リストに記載された組織のテストラボが機器の認証プロセスに参加することを禁止する提案を公表し、検討が進められている。

Ⅴ 事業の現状

1 固定電話

回線交換網による固定電話(VoIPを含む)を提供している主な事業者は、AT&Tコミュニケーションズ(2023年末現在の加入数は約750万)、ベライゾン(同約770万)、ルーメン(同約300万)となっている。その他、固定電話を提供している主な事業者としては、ケーブルテレビ事業者のコムキャスト(Comcast Corporation、同約930万)、チャーター・コミュニケーションズ(Charter Communications、同約900万)等がある。ただし、こうした大手電気通信事業者やケーブルテレビ事業者に加えて、全国で100を超える中小規模の電気通信事業者がサービス提供している。

2 移動体通信

(1)加入数等

2023年時点で、米国の移動電話加入数は約3億8,000万以上であり人口普及率は約112%である。米国は、中国(約17億)とインド(約11億)に次ぐ世界で3番目に大きい移動電話加入者のある市場である。

(2)主要事業者の概要

2023年現在、米国で全国展開を行っている大手移動体通信事業者は、AT&Tコミュニケーションズ、ベライゾン・ワイヤレス、T-モバイルUSの3社である。

米国では、全国展開を行っている移動体通信事業者のほかに、特定の市場のみの地域事業者、再販事業者もしくは仮想移動体通信事業者(MVNO)、データ・サービス事業者、衛星移動体通信事業者等の多様な事業者が、移動体通信サービスを提供している。

また、T-モバイルUSのメトロ(Metro)、AT&Tコミュニケーションズのクリケット・ワイヤレス(Cricket Wireless)、ベライゾンのトラックフォン・ワイヤレス(TracFone Wireless)等、大手がサブブランドとしてMVNOを運営している場合もある。また、近年では、ケーブルテレビ事業者が提供するMVNO事業も好調で、加入者を集めている。

2023年における5G比率は約半分となっている。ベライゾン・ワイヤレス、AT&Tコミュニケーションズ、T-モバイルUS等の大手各社はミリ波帯、ミッドバンド、ローバンドを用いて5Gサービスの利用拡大に取り組んでいる。

(3)5G
①ベライゾン・ワイヤレス

2018年10月、ベライゾン・ワイヤレスは、ミリ波帯を利用する5G固定無線サービスを開始。2019年4月には移動電話向けミリ波帯5Gサービスを開始し、2020年10月にはローバンド5G、2022年1月にはCバンド5Gサービスを開始した。2023年9月末時点の5Gサービスは、ミリ波帯で87都市、Cバンドで2億2,200万人、ローバンドで2億3,000万人が利用可能となっている。

②AT&Tコミュニケーションズ

2018年12月にミリ波による5Gモバイル・ホットスポットを開始し、移動電話向けサービスは、2019年6月にミリ波帯で法人向けに、12月にはローバンドで一般向けに、2020年2月にミリ波帯で一般向けに開始した。2022年1月にはCバンドの運用を開始した。2024年時点の5Gサービスは、ミリ波帯で90以上の大規模会場や空港、Cバンドで2億3,000万人、ローバンドで25万以上の都市で3億人以上が利用可能となっている。

③T-モバイルUS

2019年6月に6都市の一部でミリ波による5Gサービスの提供を開始した。12月には600MHz帯、2020年4月には2.5GHz帯での5Gを開始しており、2024年2月末時点の5Gサービスは、ミリ波帯で6都市、2.5GHz帯で3億人、ローバンドで3億3,000万人以上が利用可能となっている。

3 インターネット

(1)利用者数・加入者数

2023年12月現在、固定ブロードバンドの接続数は約1億3,000万以上となっている。その内訳は、ケーブルモデムが約6割、光ファイバが2割超、ADSLが1割弱である。

なお、FCCは、2024年3月にブロードバンドの最低通信速度の定義を下り100Mbps、上り20Mbpsと定めている。これは2015年に同定義を25/3Mbpsと定めて以来、9年ぶりの見直しとなる。

(2)ブロードバンド接続提供事業者

ブロードバンド接続を提供している事業者は、ADSL接続や光ファイバ・衛星接続を提供する大手電気通信事業者と、ケーブルモデムを提供するケーブルテレビ事業者とで構成されている。前者には、AT&T、ベライゾン、フロンティア・コミュニケーションズ、ルーメン等が含まれ、後者には、コムキャスト、チャーター・コミュニケーションズ、コックス・コミュニケーションズ、アルティスUSA等が含まれる。

Ⅵ 運営体

1 AT&T Corp.(AT&T)

Tel. +1 210 821 4105
URL https://www.att.com/
所在地 208 S. Akard St. Dallas, TX 75202, U.S.A.
幹部 John Stankey(最高経営責任者/CEO)
概要

旧AT&TはRBOCのSBCコミュニケーションズ(SBC Communications:SBC)により買収され、2005年11月18日に合併し、新AT&Tが設立された。同社は、米国内における固定通信、ブロードバンド、無線通信の総合電気通信事業者であり、国際通信サービスとしては、世界220か国との音声通信が可能な国際通信を提供しており、約200か国とデータローミングを行っている。世界50か国以上で拠点を持ち、350万の法人顧客を有している。

事業分野としては、AT&Tコミュニケーションズが固定通信(電話、ブロードバンド等)、移動体通信事業を手がけている。なお、同社メディア事業に関しては、2021年8月にディレクTV(DirecTV)、AT&T TV Now、U-verse事業を分離して投資会社TPGキャピタル(TPG Capital)と新会社ディレクTV(DIRECTV)を設立、AT&Tが新会社の70%を所有する取引が完了した。更に、AT&Tは2024年9月、ディレクTVの所有権を完全にTPGキャピタルに売却する合意に達したことを発表。同社は2025年後半にこの取引が完了することを見込んでいる。

2 ベライゾン

Verizon Communications

Tel. +1 212 395 1000
URL https://www.verizon.com/
所在地 140 West Street, NY 10007, U.S.A.
幹部 Hans Vestberg(会長兼最高経営責任者/Chairman and CEO)
概要

2000年6月、RBOCのベルアトランティック(Bell Atlantic)と独立系電気通信事業者GTEとの合併により設立された。1999年12月22日に、同社はRBOCとして初めて長距離通信事業への参入が承認され、2003年3月、営業区域での長距離通信への進出が完了した。また、2005年10月には長距離・国際・データ通信事業者大手のMCI買収を完了している。世界60か国の228か所に設置されたルータで構成されるグローバル網を通じて国際通信サービスも提供している総合電気通信事業者である。移動体通信は、ベライゾン・ワイヤレスの名称で提供している。

3 T-モバイルUS

T-Mobile US

Tel. +1 800 318 9270
URL https://www.t-mobile.com/
所在地 12920 SE 38th Street, Bellevue, WA 98006, U.S.A.
幹部 Michael Sievert(社長兼最高経営責任者/President and CEO)
概要

ドイツテレコム(Deutsche Telekom)傘下のT-モバイル・インターナショナル(T-Mobile International)の米国法人。

T-モバイルUSは、2002年に、ボイスストリーム・ワイヤレス(VoiceStream Wireless)を買収し、T-モバイルUSAとして設立し、カリフォルニア州とネバダ州で移動体通信サービスを開始した。2013年5月にメトロPCS(Metro PCS)と合併を完了し、新たにT-モバイルUSとなった。「アン・キャリア」戦略はそれまで業界標準とされてきた契約年数の縛りを撤廃したほか、端末アップグレードに関する制約や海外140か国における国際データローミング料を廃止する等、数々の斬新な料金体系を導入し若者層を中心とした加入者増に貢献した。

2020年4月にスプリントの買収が完了した。なお、買収条件により、MVNOへの回線の貸出しや旧スプリント傘下MVNO等のディッシュ・ネットワーク(Dish Network)への売却を行っている。

4 ルーメン

Lumen Technologies

Tel. +1 318 388 9000
URL https://www.lumen.com
所在地 100 CenturyLink Drive, Monroe, LA 71203, U.S.A.
幹部 Kate Johnson(最高経営責任者/CEO)
概要

センチュリーリンクは、2009年7月、独立系地域電気通信事業者のセンチュリーテル(CenturyTel)によるEMBARQ買収により設立された。2011年4月には、クエスト(Quest)も買収した。同社は従来の音声通話サービスに加え、ブロードバンド・インターネット、MVNOによる移動体通信サービス等も提供している。同社は、敷設したギガビット級の光ファイバ網を利用した映像配信サービスの「Prism IPTV」を2015年10月に開始した。2017年11月には、レベル3(Level 3 Communications)との合併を完了し、2020年9月にルーメンと改称した。

ルーメンは、2022年10月、同社既存市内通信事業者(ILEC)資産の一部を総額75億USD(約14億USDの負債含む)でアポロ・グローバル・マネージメントの子会社が管理する基金アポロ・ファンズに売却する取引が完了したと発表した。売却される資産には、米国中西部・南東部の20州にまたがる600万以上の一般世帯や企業をカバーする電話及びブロードバンド・インフラが含まれ、ここでの事業は2021年11月に設立されたブライトスピードが運営する。

放送

Ⅰ 監督機関等

1 連邦通信委員会(FCC)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

所掌事務

放送分野を所掌している主要部局はメディア局であるが、衛星放送の免許付与は国際局が行う。FCCの主な所掌事務は以下のとおりで、州のフランチャイズ付与当局と連邦との関係を維持する責任も有する。

2 商務省国家電気通信情報庁(NTIA)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

放送メディアに関する政策立案や分析、非商業放送事業者に交付される連邦政府基金の管理等を行う。地上デジタル放送移行支援も担当した。

3 連邦取引委員会(FTC)

(通信/Ⅰ-3の項参照)

所掌事務

虚偽の内容を含む広告放送の監視・規制、番組視聴率に関する調査等を行う。

4 司法省(DOJ)

(通信/Ⅰ-4の項参照)

所掌事務

メディア企業のM&Aについては反トラスト法に基づき反トラスト局が、刑法に抵触する猥褻な内容等については犯罪局(Criminal Division)が規制を担当する。

5 州公益事業委員会(PSC/PUC)

(通信/Ⅰ-6(4)の項参照)

所掌事務

ケーブル・フランチャイズ免許の付与等、州レベルでのケーブルテレビの規制監督を行う。

Ⅱ 法令

1 1934年通信法(Communications Act of 1934

(通信/Ⅱ-1の項参照)

2 1996年電気通信法(Telecommunications Act of 1996

(通信/Ⅱ-2の項参照)

同法による通信法改正で、電気通信、ケーブルテレビ、地上放送等の各市場への相互参入や放送局の所有規制が緩和された。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)地上放送に関する規定
①放送免許

FCCは通信法第Ⅲ編「無線に関する特別規定」に基づき、有効期間8年の無線局免許(放送免許等)を付与する。放送免許付与の細則は、FCC規則第73部と第74部に規定されている。放送免許の新規付与基準は、コミュニティが追加的な放送局を必要としているかどうか、技術的な基準に則して放送局間の干渉を防ぐ必要があるかどうかである。免許更新の際には、FCCが「公共の利益」にかなっているかどうかを審査する。ただし、特定の放送局の免許更新や売却に対して請願書を提出することで異議申立を行うことが可能となっており、一般からの意見も反映される。

通信法においてFCCは無線通信・信号に対する検閲を行うことが禁止されているため、FCCの放送番組内容に関する監督範囲は限定されているが、子どもが視聴する可能性がある際の下品な言葉や不適切な言葉の放送、特定の宝くじに関する情報の放送、虚偽の情報に基づく集金活動の放送が行われた場合には、放送免許事業者に対して罰金を科すか放送免許の取消しを行うことができる。

②商業放送と非商業・教育放送

FCCは、ラジオ局とテレビ局のそれぞれに、商業放送と非商業・教育放送の区別を設けている。通常、商業放送局は広告によって事業を運営しており、非商業・教育放送は視聴者による分担金か政府による基金により運営されている。非商業・教育放送局は、営利組織からの分担金や寄付を受け取り、その名称を放送することは可能であるが、営利組織のための広告を行ってはならない。

③外資規制

通信法第310条に基づき、外国資本による放送局への直接出資比率は資本金の20%まで、間接出資比率は25%までと制限されているが、間接出資比率についてはFCCの公益審査及び省庁間審査機関による安全保障審査で問題がないと判断されれば100%出資が可能である。経営に関与しない外国資本の出資率はFCCに懇願することなく49.99%まで引き上げることができる。外国資本による非支配持ち分が5%以下(特定の状況では20%以下)の場合はFCCの認可は不要である。

(2)ケーブルテレビに関する規定
①ケーブル・フランチャイズ

ケーブルテレビ事業へ参入する際は、通信法第621条に基づき、フランチャイズ管理当局からフランチャイズの付与を受けなければならない。フランチャイズ料は同法第622条に基づいて課され、その上限はケーブル・サービス料金収入の5%と定められている。公共・教育・政府アクセス・チャンネル(public, educational, and government access channel)の提供や自治体施設内でのケーブル・サービスの無料提供といった非金銭的な貢献も、フランチャイズ料の一部として計上可能である。

地上放送の再送信については、通信法第614条及び第615条(及びFCC規則76.55~76.62)に基づき、ケーブルテレビ事業者がその地域の商業放送及び非商業・教育放送の信号を送信する義務を負う(②の項参照)。商業放送を再送信する際には、同法第325条(及びFCC規則76.64~76.65)に基づき、地上放送局の明示の同意を得る必要がある。

②マストキャリー規則

ネットワークに属さない小規模な地上放送局の保護・育成を目的に、ケーブルテレビ事業者と有料放送サービスを提供する電気通信事業者には、原則として、その地域で視聴できるすべての地上放送局のチャンネルを無料で再送信することが義務付けられている。

衛星放送事業者は、2014年に成立した「STELA再授権法(Satellite Television Extension and Localism Act Reauthorization Act)」に基づいて区域外再送信を行っていたが、同法が2019年12月末に失効したため、2020年からは2019年12月に成立した「テレビ視聴者保護法(Television Viewer Protection Act)」と「衛星テレビコミュニティ保護及び促進法(Satellite Television Community Protection and Promotion Act)」に基づいて再送信を行っている。

ケーブルテレビ事業者をはじめとする多チャンネル映像番組配信事業者(MVPD)がマストキャリー規則に則って再送信を行う場合、地上放送局はMVPDに再送信料を請求することはできないが、地上放送局には同規則適用を拒否し、MVPDとの再送信同意交渉に基づいて再送信料を請求するオプションも用意されている。ただし、交渉が決裂した際には再送信そのものが行われないというリスクもある。

③競争規制

2015年6月、ケーブルテレビ市場における効果的な競争に関するFCC規則が見直された。旧規則は「市場は競争的ではない」という前提に立ち、当該市場でケーブルテレビ・サービスを提供する事業者がベーシック料金規制の免除を求める場合には審査手続をケース・バイ・ケースで行っていたが、新規則は「市場は競争的である」という前提に立ち、ベーシック料金の規制を行う場合はフランチャイズ当局からの当該市場が競争的ではないという具体的な反証を必要とする。

FCCは2019年10月、チャーター・コミュニケーションズの請願を受け、初めてローカル市場においてオンライン動画配信サービス(AT&T Now、現DIRECTV STREAM)とケーブル・サービス(チャーター・コミュニケーションズ)が競争的関係にあることを認めた。

④料金規制

通信法第623条において、基本サービス層(Basic Service Tier:BST)や特定契約者のみが視聴できるケーブル番組サービス層(Cable Programming Service Tier:CPST)の料金規制が定められている。

2024年3月には、MVPDが最終支払段階で消費者に追加料金を請求する慣習が問題視され、MVPDに「オールイン価格」の明示を義務付けるFCC規則が採択された。新規則は、追加料金を含めた総額、すなわちオールイン価格を請求書や宣伝用資料にはじめから記載することを義務付けている。

(3)メディア所有規制

言論の多様性や地域の独自性を確保する観点から、メディア企業にはメディア所有規制が課されている。メディア所有規制には、多数局保有の制限(multiple ownership rule)と異なるメディア所有の制限(クロス所有規制、cross ownership rule)とがある。

FCCは、オンラインメディアの台頭によりメディア市場の競争が活性化したことで言論の多様性を確保するための規制を設ける必要がなくなったとして、2017年11月に四つの規制緩和措置(同一地域内で新聞社とラジオ局またはテレビ局を相互所有することを禁じる条件の廃止、同一地域内でラジオ局とテレビ局を相互所有することを禁じる条件の廃止、同一地域内で最低八つの独立局がなければテレビ局の合併を認めない条件の廃止、同一地域内でシェア上位4テレビ局のうち2局が合併することを禁じる条件の修正)を採択し、2018年8月には、大手放送局運営会社がメディア所有権の多様性拡大に貢献した場合に規制を免除する「インキュベーター・プログラム」を発表した。しかし、3rd Cir.は2019年9月、規制緩和による女性やマイノリティの地上放送事業所有への影響が十分に考慮されていないとして、FCCの一連の規制緩和策を無効とする判決を下した。これを不服としたFCCが2020年4月に同判決を見直すよう連邦最高裁判所に申し立てたところ、連邦最高裁判所は2021年4月、規制緩和策が女性や人種的少数派に与える影響は小さいとしてFCC決定を支持する裁定を下した。これを受け、FCCは2021年6月に四つの規制緩和措置とインキュベーター・プログラムをそれぞれ復活させた。

他方で、FCCは通信法第202条に基づき、4年ごとにメディア所有規制の見直しを行い、公益に資さない規制を廃止または修正することが義務付けられている。2018年度審査は上述の訴訟問題により大幅に遅延していたが、2023年12月にようやく完了した。FCCは、オンライン・メディアの普及拡大を認めつつも、言論の多様性や地域の独自性を確保するためには、ローカルラジオ局所有規制(単一事業者によるローカル市場でのラジオ局所有数を制限)、ローカルテレビ局所有規制(単一事業者によるローカル市場でのテレビ局所有数を制限)、テレビ・ネットワーク所有規制(4大ネットワーク間の合併を事実上禁止)を維持する必要があるとの判断を下した。なお、2022年度審査は2022年12月に開始されている。

2 コンテンツ規制

(1)放送番組に関する規定

憲法修正第1条の規定に基づき、FCCは放送局の放送内容や情報収集、編集、告知、ニュースのコメントに関与できず、放送局は批判、哄笑、滑稽な内容を放送することができる。ただし、卑猥な言説については規制され得ることとされており、放送局はどの時間帯においてもこれを放送することはできない。下品な言説は同条で保護されるが、子どもが視聴する可能性がある場合には規制される。その他、以下のような規定が設けられている。

(2)広告規制

放送局は、広告主を明示することが義務付けられている。FCCが広告料等に関与することは認められていない。虚偽もしくは誤解を招く広告についてはFTCが管轄し、食と薬物に関しては食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)が管轄する。たばこ類の広告放送は禁止されているが、酒類の広告は禁止されていない。

広告放送の音量規制は2015年6月に施行された「商業広告音量軽減法(Commercial Advertisement Loudness Mitigation ActCALM Act)」の下で厳格化され、テレビ放送のCM音量が番組本編を大幅に上回ることが禁止された。

(3)子ども向け番組規制

「1990年子ども向けテレビ法(Children’s Television Act of 1990)」に基づき、FCCはテレビ放送免許の更新申請審査の際に、免許人が子どもの教育的・情報的ニーズを、そのニーズに応えるために特別にデザインされた番組を通じて満たしているかを考慮しなければならない。商業放送局が子ども向け番組中に放送できるCMは、週末は1時間当たり10.5分以下、平日は1時間当たり12分以下に制限されている。

FCCは子ども向け番組におけるウェブサイト・アドレスの表示についても規制している。商業目的のウェブサイト・アドレスを表示するプロモーション素材は広告放送と見なされ、番組枠から明確に切り離さなければならない。番組と適切な隔離措置がとられたウェブサイト上では、番組関連キャラクターを使った商品を販売することができる。

(4)アクセシビリティ規制

1990年7月に成立した「障がいを持つアメリカ人法(The Americans with Disabilities Act:ADA)」において、テレビ受像機に字幕(closed caption)を表示する機能を組み込むことが義務化された。また、「1996年電気通信法」における議会の指示に従い、FCCは、すべてではないが、大部分の放送番組に字幕を義務付ける規則を採択した。

しかし、ADAではデジタル化やブロードバンド及びモバイル・デバイス経由の映像配信に十分に対応できないとして、2010年10月、新たに「21世紀の通信と映像アクセシビリティ法(21st Century Communications and Video Accessibility Act:CVAA)」が制定された。2編構成のCVAAは、第1編で通信アクセスに関する規定、第2編で映像番組に関する規定を設けている。第2編の第202条では、テレビ局に週4時間の音声解説付与を義務付ける命令を一部修正のうえ復活させること、字幕付き放送番組をインターネットで配信する際に字幕の付与を義務付けること、緊急情報を全盲または弱視の人々のために副音声で提供することを映像番組配信事業者、映像番組供給事業者、映像番組所有者に義務付けること等が記されている。

(5)外国政府が関与するコンテンツへの規制

敵性国家からのコンテンツ流入の影響に鑑み、地上放送事業者が外国政府に放送時間を販売した場合に情報開示義務を課すFCC規則が2022年3月に施行されたが、全米放送事業者協会(National Association of Broadcasters:NAB)等がこれを不服としてD.C. Cirに提訴した。D.C. Cirはスポンサー身元確認義務の厳格化は通信法の規定を超えるものと判断し、ラジオ局のスポンサー身元確認義務は無効としたものの、外国政府が直接あるいは間接的に資金を提供したり、放送を条件に番組を無料提供したりした際にそのことを視聴者に知らせる義務については維持した。FCCは2024年6月、同規則を明確化する第2次R&Oを発表し、地上放送事業者がスポンサー身元確認義務を果たしたことを示すための選択肢を設けたほか、商業的商品・サービスや政治候補者に関する広告は規則の対象外となることを明記した。

3 公共放送関連政策

(1)公共放送機構(Corporation for Public Broadcasting:CPB)

CPBは、公共放送の促進のため「1967年公共放送法(Public Broadcasting Act of 1967)」によって設立された非政府機関である。予算は連邦政府交付金によって賄われており、CPBを通じて公共放送関係機関に配分される。CPBの2026年度の予算は5億3,500万USDである。

(2)公共放送サービス(Public Broadcasting Services:PBS)

「1967年公共放送法」に基づき、CPBと全国各地の局の出資によって、1969年に公共放送サービスを提供するPBSが設立された。PBSは全米50州及びプエルトリコ、米国領ヴァージン諸島、米国領サモア、グアム島の約330のメンバー局からなる、非商業・教育放送事業者の全国ネットワークである。

PBS自体は番組制作を実施せず、制作会社及びPBS加盟局から調達した番組を編成・伝送することが主な業務である。番組内容は教育・教養番組が中心で、番組編成権も各加盟局が持つ。加盟局を運営しているのは、地域の非営利団体、大学、州政府、地方自治体である。

PBSの財源は連邦政府資金(CPBを通して分配される放送予算、DOCから支出される放送施設改善交付金)、視聴者寄付金、州/自治体政府資金、企業協賛金、オークション売上金等多岐にわたる。

4 デジタル放送

(1)デジタルテレビ移行政策

「2005年財政赤字削減法(Deficit Reduction Act of 2005)」に定められた期限までに消費者の準備が整わないことを背景に、地上デジタル放送への移行期限は2009年6月12日まで延期された。延長期限である2009年6月12日、高出力局によるアナログ放送は停波し、地上デジタル放送への移行が完了した。なお、低出力局や中継局は、一部の例外を除き、2021年7月13日にアナログ放送を停波した。

(2)次世代地上デジタル放送規格ATSC 3.0

米国の地上デジタルテレビ放送方式「ATSC(Advanced Television Systems Committee)」の次世代規格である「ATSC 3.0」を自主的に運用開始することを認める案が2017年11月にFCCによって採択された。ATSC 3.0の運用を開始する地上放送局は、現行規格と新規格によるサイマル放送を5年間維持しなければならない。

FCCは、ATSC 3.0によって実現する「放送インターネット(Broadcast Internet、いわゆるデータ放送)」を推進するために、放送インターネットを従来のメディア所有規制の対象外とする宣言的決定とNPRMを2020年6月に全会一致で採択した。これにより、地上放送局は他局や第三者と放送インターネット・サービスを提供するための周波数リース契約を結べるようになった。また、現行規格から新規格への円滑な移行を支援するため、2023年4月にはNABとの官民パートナーシップに基づく「テレビの未来(Future of Television)」イニシアチブを始動した。その一環として、同年6月、地上放送局がサイマル放送を実施するためにプライマリチャンネルだけでなくサブチャンネルでも他局と受託放送契約を締結することを認める規則を採択した。

2024年10月現在、ATSC 3.0による放送が実施されている市場は調査会社ニールセンが画定する全210のテレビ市場(Designated Market Area:DMA)のうち76市場となり、世帯カバレッジは76%に上ると推計される。なお、ITUは2020年1月、ATSC 3.0を地上デジタル放送の国際標準の一つとして採用することを勧告した。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

(1)地上ラジオ放送

2024年6月末時点で、地上アナログ放送を行うラジオ局の総数は1万5,389である。商業放送と非商業・教育放送の両方が存在するが、サービスは商業放送を中心に行われている。

商業放送では、大規模な買収・合併による負債やスポティファイ(Spotify)に代表される音楽配信サービスとの競争で経営難に陥る事業者が相次いだ。2017年には米国第2位のキュミュラス・メディア(CumulusMedia)、2018年には第1位のアイハートメディア(iHeartMedia)が破産を申請し、債務整理後、再出発した。主な全国ネットワークには、アイハートメディアのPremiere Networksやキュミュラス・メディアのWestwood One等がある。

非商業・教育放送には、1970年に設立された全米公共ラジオ(National Public Radio:NPR)がある。PBSとは異なり、NPRは番組の調達、編成、伝送に加え、独自の取材や番組制作も実施する。メンバー局は1,000を超え、国内外に35の支局を持つ。NPRは1970年に設立された非営利組織で、連邦政府の交付金、個人の寄付金、企業の協賛金、州政府や地方自治体の交付金等で運営されている。

地上デジタルラジオ放送は2003年から実験放送が開始され、2004年に受信機の販売が開始された。伝送方式はアナログ波にデジタル波を重ねる米国独自のIn Band on Channel(IBOC)である。2020年10月には、AMラジオ局が完全デジタルのHDラジオ(HD Radio)に移行することを認める決定がFCCによって採択された。HDラジオへの移行を希望するAMラジオ局は、その30日前にFCCと一般にその旨を通知することが義務付けられるほか、移行後も緊急警報システムへの参加が義務付けられる。

(2)衛星デジタルラジオ放送

シリウスXM(SiriusXM)が2019年に音楽配信サービスのパンドラ(Pandora)を約35億USDで買収し、世界最大のオーディオ・エンターテインメント企業となった。それまでは長距離トラックドライバーを主要ターゲットとしていたが、パンドラやポッドキャスト・アプリのスティッチャー(Stitcher)買収後は、モバイル端末を利用するリスナーを増やしている。

2 テレビ

2024年6月末現在の地上放送局の総数は1,766である。商業放送と非商業・教育放送が存在するが、サービスは商業放送を中心に行われている。

(1)商業放送

商業局の総数は1,384局に上る。商業局の多くはABC、CBS、NBC、Fox、CWといった地上ネットワークに属するが、その所有・運営は、地上ネットワークが実施する場合と地上放送局運営会社が実施する場合とがある。最大手の地上放送局運営会社は2019年9月にトリビューン(Tribune)を買収したネクスター(Nexstar Media Group)で、全国視聴可能世帯率は39%に達する。同社は2022年10月、CWの株式の75%を買収し、地上ネットワーク事業への参入も果たした。

(2)非商業・教育放送

非商業・教育局は、公共放送のPBSを中心とした非商業・教育局と独立系の非商業・教育局を合わせて382局存在する。

PBSはワシントン近郊の本部と全米330余りのメンバー局で構成されている。本部は番組を制作せず、メンバー局が制作した番組や外部から調達した番組をメンバー局へ配信するが、メンバー局に本部が配信する全番組を放送する義務はない。メンバー局は非商業・教育局として免許を付与される。

3 衛星放送

1999年のディレクTVによるPrimeStar買収以降、衛星放送はディレクTVグループとディッシュ・ネットワークの2社体制が続いている。2024年9月に両社の合併計画が発表されたが、ディレクTVは同年11月、債権者の反対等によりディッシュ・ネットワークの買収を断念し、両社の合併計画は破棄された。

なお、ディレクTVは2015年以降AT&T傘下にあったが、AT&Tは2021年8月に投資ファンドTPGキャピタルと共に独立新会社ディレクTVを設立し、新会社が衛星放送を含む有料放送事業を行うこととした。新会社の株式は70%をAT&T、30%をTPGキャピタルが所有しているが、AT&Tは2024年9月、所有する株式をTPGキャピタルに完全に売却する合意に達したことを発表している。

4 ケーブルテレビ

ケーブルテレビは、ケーブル・ネットワーク事業者(番組供給事業者)が衛星を使って、MSO(Multiple System Operator)と呼ばれるケーブルテレビ事業者に番組を供給する形で行われている。加入者ベースでは、チャーター・コミュニケーションズがMSO最大手で、その後にコムキャストやアルティスUSA等が続く。ケーブルテレビ加入世帯数は、衛星放送やIPTVとの競争激化、及びオンライン動画配信サービスの普及等を背景に、減少傾向にある。2023年末現在、主要MSO 5社の加入世帯数は約3,091万である。

5 メディア・コングロマリット

米国では、通信法制定を契機に放送と通信の融合が進んだことで、出版、放送、通信等の事業を総合的に経営するメディア・コングロマリットが誕生した。2010年代後半にオンライン動画配信サービスが本格的に興隆してからは、事業者の水平・垂直統合がより一層盛んになり、メディア・コングロマリットの規模拡大が進展したが、買収合併の動きは2019年末でひと段落している。

代表的なメディア・コングロマリットには、コムキャスト、ウォルト・ディズニー(The Walt Disney Company)、Foxコーポレーション(Fox Corporation)、パラマウント・グローバル(Paramount Global、旧ViacomCBS)がある。AT&Tも2015年のディレクTV買収や2018年のタイム・ワーナー買収を通してメディア・コングロマリット化を進めていたが、2021年8月に放送事業を担当する新会社ディレクTVを設立し、2022年4月に傘下のメディア部門であるワーナーメディア(WarnerMedia)とメディア大手ディスカバリー(Discovery)を統合して新会社Warner Bros. Discoveryを設立する等、通信事業に専念する方針転換を行った。

6 オンライン動画配信

オンライン動画配信市場を牽引しているのは、ネットフリックス(Netflix)やアマゾン・プライム・ビデオ(Amazon Prime Video)に代表される定額制オンデマンド配信(Subscription Video On Demand:SVOD)であるが、近年は無料広告型のサービスであるAVOD(Advertising Video On Demand)やFAST(Free Ad-supported Streaming TV)の人気が拡大しており、Foxが提供する「Tubi」や動画配信端末大手ロク(Roku)が提供する「Roku Channel」がユーザ数を伸ばしている。このような流れの中で、広告付き廉価プランの提供を開始する大手SVODが増加している。

公共放送PBSはメンバー局の放送番組をウェブサイト「pbs.org/livestream」上で同時配信しているほか、アマゾン・プライム・ビデオや仮想多チャンネル映像番組配信事業者(virtual Multichannel Video Programming Distributor:vMVPD)のYouTube TVと提携して150チャンネル以上をオンラインで配信している。

7 国際放送

連邦政府が実施しているVoice of America(VOA)、キューバ向けのRadio-TV Martí、欧州向けのRadio Free Europe/Radio Liberty(RFE/RL)、アジア向けのRadio Free Asia(RFA)、中東向けのRadio SawaとAlhurraTVがある。「1994年国際放送法(International Broadcasting Act of 1994)」に基づき、いずれも米国グローバルメディア局(U.S. Agency for Global Media:USAGM)が管理している。USAGMによれば、国際放送サービスの週間利用者数は4億2,000万人に上る。

Ⅴ 運営体

1 ABCエンターテイメント・グループ

ABC Entertainment Group

Tel. +1 212 456 7777
URL https://abc.com/
所在地 77 West 66th Street, New York, NY 10023-6298, U.S.A.
幹部 Craig Erwich(社長/President)
概要

地上ネットワークABCや番組制作部門ABCエンターテイメントを運営する、ウォルト・ディズニー傘下の子会社。ABCは1948年にテレビ放送を開始し、1986年にCapital Citiesと合併してCapital Cities/ABCとなったが、1996年にウォルト・ディズニーに買収された。別子会社にABCニュースがある。

2 パラマウント・グローバル

Paramount Global

Tel. +1 212 258 6000
URL https://www.paramount.com/
所在地 1515 Broadway, New York, NY 10036, U.S.A.
幹部 George Cheeks(社長兼最高経営責任者/President and CEO)
概要

2019年12月に地上ネットワークCBSとユナイテッド・パラマウント・ネットワーク(United Paramount Network:UPN)を傘下に持つバイアコム(Viacom)が合併し、新会社ViacomCBSが設立されたが、2022年2月に社名をパラマウント・グローバルに変更した。

CBSは1941年にテレビ放送を開始。2000年にバイアコムと合併した後、業績悪化を背景に2006年に事業分割したが、2019年に再合併した。地上ネットワークのブランド名は引き続きCBSを使用している。2014年に4大地上ネットワークで初めてオンライン動画配信サービスを開始した。

3 NBCUniversal(NBCU)

Tel. +1 212 664 4444
URL https://www.nbcuniversal.com/
所在地 30 Rockefeller Plaza, New York, NY 10112, U.S.A.
幹部 Michael J. Cavanagh(社長/President)
概要

1941年にアメリカ・ラジオ会社(Radio Corporation of America:RCA)の子会社として放送を開始した。1986年に親会社がゼネラル・エレクトリック(General Electric Co.:GE)に買収された後、2009年に経営権がGEからケーブルテレビ最大手コムキャストに売却され、2013年にはコムキャストの完全子会社となった。長年にわたりオリンピックを独占放送しており、2032年までの大会の放送権を77億5,000万USDで獲得している。

4 Fox Corporation(Fox)

Tel. +1 212 852 7000
URL https://www.foxcorporation.com/
所在地 1211 Avenue of the Americas, New York, NY 10036, U.S.A.
幹部 Lachlan Murdoch(会長兼最高経営責任者/Executive Chairman and CEO)
概要

2019年3月のウォルト・ディズニーによる21世紀フォックス(21st Century Fox)買収に伴い誕生した。傘下に、地上ネットワークのFox(Fox Broadcasting Company)やニュース専門チャンネルのFoxニュース(Fox News Channel)、スポーツ専門チャンネルのFoxスポーツ(Fox Sports)がある。

地上ネットワークFoxは1986年にルパート・マードック氏によって設立された。マードック氏が会長兼最高経営責任者を務めていたニューズ・コーポレーション(News Corporation)が21世紀フォックスとニューズ・コープ(News Corp)に分社されたことに伴い、2013年以降は21世紀フォックスの地上ネットワーク部門として事業を展開していた。しかし、2019年3月にウォルト・ディズニーが21世紀フォックスを買収し、21世紀フォックスと入れ替わる形で新会社Foxコーポレーションが発足したことで、その傘下に入った。

5 ネクスター

Nexstar Media Group

Tel. +1 972 373 8800
URL https://www.nexstar.tv/
所在地 545 E John Carpenter Freeway, Suite 700, Irving, TX 75062, U.S.A.
幹部 Perry A. Sook(会長兼最高経営責任者/Chairman and CEO)
概要

1996年にNexstar Broadcasting Groupとして設立された後、2016年にメディアジェネラル(Media General)と合併したことで現在の社名に変更された。2019年9月にトリビューンを買収し、米国最大の地上放送局運営会社となった。2024年現在、200の地上放送局を所有・運営している。2022年10月には地上ネットワークCWを買収した。

6 シンクレア

Sinclair

Tel. +1 410 568 1500
URL https://sbgi.net/
所在地 10706 Beaver Dam Road, Hunt Valley, MD 21939, U.S.A.
幹部 David D. Smith(会長/Executive Chairman)
概要

1971年にメリーランド州の放送局チェサピーク・テレビジョン(Chesapeake Television Corporation)として事業を開始した。2024年6月に組織を再編し、放送事業を手がけるシンクレア・ブロードキャスト・グループ(Sinclair Broadcast Group)とプライベート・エクイティや不動産資産の管理を担うシンクレア・ベンチャーズ(Sinclair Ventures)を傘下に持つ持株会社シンクレア(Sinclair)を設立した。シンクレア・ブロードキャスト・グループは各地の地上放送局を買収しながら事業規模を拡大しており、2024年現在、全米で185の地上放送局を所有・運営している。

7 全米放送事業者協会(NAB)

National Association of Broadcasters

Tel. +1 202 429 5300
URL https://www.nab.org/
所在地 1 M Street SE, DC 20003, U.S.A.
幹部 Curtis LeGeyt(社長兼最高経営責任者/President and CEO)
概要

1923年に設立された商業放送事業者の全国組織で、業界の利益保護を目的に議会やFCCに対する働きかけを行うほか、番組内容の向上を目的に独自の自主規制を実施している。

8 NCTAインターネット・テレビ連盟

NCTA - The Internet & Television Association

Tel. +1 202 222 2300
URL https://www.ncta.com/
所在地 25 Massachusetts Avenue, NW - Suite 100, DC 20001, U.S.A.
幹部 Michael Powell(社長兼最高経営責任者/President and CEO)
概要

1952年に設立されたケーブルテレビ事業者の代表組織である。2001年に、ブロードバンドの普及による通信・放送の融合を反映し、名称をケーブル電気通信連盟(National Cable & Telecommunications Association)から現在の名称に変更した。

9 その他の主な事業者

事業分野 事業者 URL
衛星放送 ディレクTV https://www.directv.com/explore/
ディッシュ・ネットワーク https://www.dish.com/
ケーブルテレビ チャーター・コミュニケーションズ https://corporate.charter.com/
コムキャスト https://corporate.comcast.com/

電波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

(1)連邦通信委員会(FCC)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

電波監理に関連する主な部局は無線通信局(ほとんどの無線通信サービス)、メディア局(放送サービス)、国際局(衛星通信及び軌道位置)、執行局(電波監視)、公共安全・国土安全保障局(公共安全通信)及び工学・技術室(免許不要機器、技術支援)である。

(2)商務省国家電気通信情報庁(NTIA)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

NTIAにおける電波監理は周波数管理室(Office of Spectrum Management:OSM)が中心となる。OSMの主な役割は以下のとおり。

OSMは、省庁間無線諮問委員会(Interdepartment Radio Advisory Committee :IRAC)の支援の下、連邦政府用周波数管理を実施する。IRACに参加する連邦政府機関は以下のとおり。農務省、空軍、陸軍、放送管理委員会、沿岸警備隊、DOC、エネルギー省、連邦航空局(Federal Aviation Administration:FAA)、DHS、内務省、法務省、国立航空宇宙局、国立科学財団、海軍、国務省、運輸省、財務省、郵便公社、退役軍人省。

2 標準化機関

(1)米国標準・技術研究所(NIST)

National Institute of Standards and Technology

Tel. +1 301 975 8000
URL https://www.nist.gov/
所在地 100 Bureau Drive, Gaithersburg, MD 20899, U.S.A.
幹部 Dr. Laurie E. Locascio(局長/Director)
所掌事務

1988年に商務省の米国標準局(National Bureau of Standards:NBS)が改組して設立された。「1995年国家技術移転促進法(National Technology Transfer and Advancement Act of 1995)」の規定により、連邦政府における任意規格の利用促進に向けた調整権限がNISTに付与された。

(2)米国国家規格協会(ANSI)

American National Standards Institute

Tel. +1 202 293 8020 +1 202 293 9287
URL https://www.ansi.org/
所在地 1899 L Street, NW, 11th Floor, Washington, D.C. 20036, U.S.A.
幹部 S. Joe Bhatia(会長兼最高経営責任者/President and CEO)
所掌事務

国家規格制定権限を独占的に付与された指定法人である。ANSI理事会にNIST等関係省庁の代表者が理事として参加し、標準化活動を実施している。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理政策

(1)周波数管理

周波数の管理は、FCCとNTIAが分担し、NTIAは連邦政府の周波数管理を担当する。一方、FCCは個人、企業、地方自治体、公共安全(警察、消防、救急等)を含む非連邦政府の利用を管理する。共用する周波数帯については両者が協力する。FCCとNTIAは2022年2月に発表された周波数調整イニシアチブに従い、同年8月、締結後約20年ぶりとなる周波数調整に関する覚書を更新した。主な内容は以下のとおり。

FCCは周波数管理に関連する戦略的な目標として以下を挙げている。

(2)無線局免許

通信法第301条では、米国内でのすべての無線通信チャンネルをコントロールし、その有用性を確保するために、すべての無線機器(通信を行うものまたはエネルギー伝送を行うもの)に対して、別に定める場合を除いて、FCCの発行する免許を取得することを義務付けている。また、同第302条はFCCに、免許を受けて運用される無線通信に対して障害となる干渉を引き起こす可能性のある機器の製造・販売を規制する権限を与えている。

連邦政府の各省庁(米軍を含む)の無線局はNTIAを通じて周波数の使用許可を得る。連邦政府専用の周波数についてはNTIAが使用を許可するが、非連邦政府用との共用周波数帯の免許に関しては、NTIAが申請を受け付けFCCと協議を行う。逆の場合でも同様に協議される。この目的でNTIAとFCCはオンラインでの迅速な調整を行うシステムを構築している。

(3)免許不要機器

通信法は明示的には小電力の免許不要機器の存在を認めていないが、FCCはFCC規則15部で規制される免許不要機器が同法と十分な整合性を持っていると主張している。免許手続が免除される無線局の運用を規定する規則には、低出力無線機器(免許不要で運用できる機器)を規制するFCC規則15部、ISM(Industrial, Scientific and Medical)機器について規制する同18部、公衆電話回線に接続される端末機器を規定する同68部、同90部で規定される簡易な無線機を使用する無線サービス等がある。使用される無線機器は、原則、認証(Certification)を取得しなければならない。

(4)周波数割当

米国では、周波数割当方式として、比較聴聞(Comparative Hearing:1927年導入)及び無差別選択(Random Selection:1984年導入)が用いられてきた。その後、1986年から周波数割当におけるオークション方式の検討が開始され、「1993年包括財政調整法」により、翌1994年から同制度が導入された。同制度導入に際し、通信法第309条が改正され、第i項「無差別選択の適用」に代わり、第j項「競争入札の適用」の項が拡張された。これにより、新規に付与される免許の多くがオークションにより付与されることとなった。同法の規定により、オークション方式は、比較聴聞方式の例外規定として、「電波を使用する事業者が、その提供するサービスの対価を利用者から徴収する場合」の初期免許に対し、申請が競合する場合に限り適用される。そのため、同方式は、電力、交通、警察等への周波数割当には適用されない。

FCCがオークションを実施する権限は法律によって定められており、2022年12月29日に成立した「2023年連結歳出法(Consolidated Appropriations Act, 2023(H.R.2617))」によって、FCCのオークション権限は2023年3月9日まで延長された。

2023年3月9日以前にオークションにかけられた一部周波数に対して、落札企業へのライセンス発行を完了するために必要な権限をFCCに一時的に付与する「5G Spectrum Authority Licensing Enforcement(SALE)Act」が2023年9月に上院で可決された。権限付与の対象となる周波数帯は、2496-2690MHzとなり、FCCには法施行日から90日間に限って申請を処理することが認められる。T-モバイルUSの5Gサービスは、 2.5GHz帯を中心に展開されており、同社は落札した周波数帯のライセンス発行を強く求めてきた経緯がある。

FCCのオークション権限については、2023年5月に、下院において「2023年周波数オークション再認可法案(Spectrum Auction Reauthorization Act of 2023)」が提出された。本法案は、FCCの周波数オークション権限を更新することを主眼としており、2026年9月30日まで延長するとしていたが、会期終了に伴い廃案となった。

1994年の開始以来、2023年12月までに100回の周波数オークションが実施されている。これまで実施されたすべてのオークションの落札額の合計は約2,335億USDに達する。オークション収入は通信法の規定によって財務当局に納められる。

(5)指定事業体認定制度

競争入札において入札適格申請者として認められた者は、小規模事業者としての入札クレジットを要求することができる。これは指定事業体(Designated Entities:DE)の認定を受けることによって可能となる。指定事業体とは、小規模事業者、マイノリティ・グループや女性のメンバーによって所有されている事業者及びルーラル事業者である。指定事業体の資格(DE資格)を認められた落札者は、支払額の割引という優遇措置を受けることができる。小規模事業者の場合は売上高の規模に応じて、落札額から一定割合の入札クレジットが適用される。①過去3年間の平均売上高(average gross revenues)が400万USD以下の場合は35%、②同2,000万USD以下の場合は25%、③同5,500万USD以下の場合は15%がそれぞれ割り引かれる。

指定事業体規定によると、DE資格の認定において、「帰属持分(Attributable Interests)」と呼ばれる、資本を巡る所有関係が審査の対象となる。競争入札においてDE資格の認定を受けようとする小規模事業者は、当該事業者の企業支配権(controlling interests)を、法律上または事実上、誰が持っているかが審査される。法律上の支配とは、当該事業者の議決権株式を50%以上持っていることが根拠となる。一方、事実上の支配については、ケース・バイ・ケースによって判断され、①当該事業者の取締役会または経営委員会の50%以上を任命または指名する者、②当該事業者の日常業務を管理する上級役員の指名、昇格、降格及び解任する権限を持っている者、③当該事業者の経営上の意思決定において不可欠な役割を担っている者が誰なのかが審査される。審査に先立ち、当該事業者は資本関係の詳細な情報 をFCCに提出する義務を負う。

また、DE資格の認定では、「重要な帰属関係(Attributable Material Relation­ships:AMR)」と呼ばれる、特定の周波数リース及び再販(卸売を含む)における帰属関係も審査の対象となる。AMR規則は、小規模事業者やマイノリティに対して、オークションを通じて、周波数ベースの小売サービスの提供機会を与えることを保証するために、2006年にFCCが制度化したものである。本規則によれば、競争入札においてDE資格の認定を受けようとする小規模事業者が、独立した事業体との間で一つ以上の周波数リースまたは再販の卸売契約を締結し、それが累積ベースで小規模事業者が保有する免許の周波数容量の25%を超える場合は、独立した事業体との間において「重要な帰属関係」があると見なされ、原則的にDE資格を得ることができない。

(6)免許移転

米国では、企業結合、事業譲渡、周波数の2次取引等によって、無線局の免許や権利(周波数を使用する権利や、無線局の設置許可等を含む)を保有する法人が変わったり、株式取得によって無線局免許を保有する法人の支配権が変わったりする場合には、その旨を書面でFCCに申請し、事前にFCCの承認を得なければならない。

このようなFCCの審査権限は通信法第310条(Limitation on Holding and Transfer of Licenses)(d)項に規定され、FCCに申請し、かつ、「公共の利益、便宜及び必要(Public Interest, Convenience and Necessity)」にかなうとFCCが認めた場合を除いて、建設許可もしくは、局の免許、または、これらに基づく権利を、任意にもしくは意に反して、直接もしくは間接に、または、当該許可もしくは免許を保有する法人の支配の移転により、他の者に移転し、譲渡し、その他いかなる方法によっても処分してはならないと定められている。

(7)外資規制

米国では、外国人及び外国政府による無線局免許保有には、通信法第310条により、放送局、公衆電気通信事業者、航空機無線局または航空固定無線局の免許(broadcast or common carrier or aeronautical en route or aero nautical fixed radio station license)の免許人を直接的または間接的に支配する企業に対して、外国人投資家が25%を超える投資を行うことを禁止する一方で、FCCが公共の利益の観点から、外国人投資家にこれを超える投資を認めることができる。

2 電波開放戦略

(1)国家周波数戦略

バイデン政権(当時)は2023年11月、民間部門と連邦政府機関の双方による周波数の革新的な新利用のために、2786MHz幅の電波を特定する国家周波数戦略(National Spectrum Strategy:NSS)を発表した。また、バイデン大統領(当時)は「国家周波数政策の近代化と国家周波数戦略の確立に関する大統領覚書」を発表し、周波数が最大かつ最善の用途に役立てられるようにするため、信頼性があり、予測可能で、証拠に基づいたプロセスを促進する。国家周波数戦略は、先進的な無線技術を用いた最高のサービスをアメリカ国民に提供すると同時に、世界における米国のリーダーシップを促進するもので、これらの技術は、消費者向けの無線ネットワークだけでなく、航空、運輸、製造、エネルギー、宇宙といった重要な経済分野のサービスも向上させる。

米国政府は、最先端の無線技術の世界的リーダーであり続けるために、以下に示す周波数政策ビジョンを採択した。

NTIAは2024年3月、国家周波数戦略の目標を達成するためのロードマップである国家周波数戦略実施計画を発表した。実施計画では、特に、戦略で特定された2786MHzの周波数帯について、潜在的な新規用途への適合性を判断するための綿密な調査のスケジュール、マイルストーン、担当機関について定められている。これには、商業利用を可能にするために、3GHz帯低域の航空レーダーやその他連邦システムのリパッキング・縮帯・移転の可能性を研究することも含まれる。周波数パイプラインの構築は、公共部門及び民間部門の業務を遂行するための電波需要の増大に対応するために不可欠である。また、実施計画では、調整と計画の強化、研究開発(R&D)、人材育成の戦略的目標等、戦略の目標を達成するための成果、責任ある連邦政府機関、スケジュールが明記されている。 また、周波数政策形成のための新たな協力プロセスを構築するため、商務周波数管理諮問委員会(Commerce Spectrum Management Advisory Committee:CSMAC)を活用することを求めており、2026年9月までに国家長期周波数計画プロセスを実施する予定である。周波数帯域の調査は2024年中に開始され、技術的な調査は2025年末までに完了する予定である。 最終報告書と勧告は、以下に示すとおり、順次公開される予定である。

国家周波数戦略実施計画における周波数帯域の調査スケジュール
帯域 連邦周波数研究グループ/作業グループの開始 最終報告
37.0-37.6GHz 2024年3月 2024年11月
18.1-18.6GHz 2024年5月 2025年5月
5030-5091MHz 2025年3月 2026年3月
3GHz低域(3.1-3.45GHz) 2024年3月 2026年10月
7/8GHz(7125-8400MHz) 2024年3月 2026年10月
(2)周波数再編の取組状況

2018年10月に、「アメリカの未来のための持続可能な電波戦略の開発に関する覚書」が、当時のトランプ大統領の署名によって発効した。これは2010年6月と2013年6月にオバマ大統領(当時)が署名した覚書を廃止して、新たな国家周波数戦略を策定するもの。現在使用されていない連邦政府用周波数を民間セクターに開放するための国家戦略を策定することで、高速無線データ・ネットワークへの投資を促進することを連邦省庁に指示する覚書となっている。覚書の日付から270日以内に、NTIAは、OMB、OSTP、FCC、その他連邦政府機関と協議し、国家経済評議会、国家安全保障問題担当大統領補佐官を通じて、長期的な国家周波数戦略(立法、規制、その他政策勧告を含む)を大統領に提出しなければならない。これを受けてNTIAは2018年12月、周波数のアクセス拡大、共用体制の改善、周波数管理の拡大、研究開発の活用等を含む、「アメリカの将来の持続可能な周波数戦略の策定に関する意見募集(Request For Comments:RFC)」を行った。

本覚書の要請に対応するため、2018年1月から2019年6月までに実施された周波数再編の取組状況に関する初めての年次報告書が2019年9月に発表された。第2次年次報告書は2020年12月に発表され、周波数再編の対象となるのは全部で26の周波数帯で、最終版は2023年3月に発表された。

周波数再編の取組状況に関する年次報告書最終版(2023年3月)
周波数帯 再編の現状

512-698MHz

(完了)

放送局のデジタルテレビ移行はほぼ完了し、一部市場で無線サービスが開始。

809-817MHz

854-862MHz

(完了)

2021年4月、FCCは、800MHz移行管理者からのリバンド・プログラム完了通知を受け、800MHzリバンド・プログラムを終了する命令を採択。

896-901MHz

935-940MHz

(完了)

2020年5月、FCCは、重要なインフラストラクチャを含むブロードバンド技術とサービスの開発を促進するため、900MHz帯域を再構成する命令を発表。2021年5月、FCCは900MHzブロードバンド・セグメント免許の申請受付を開始し、2021年8月に最初の免許が発行。

1300-1350MHz

(継続中)

現在、当該帯域は主に連邦政府のレーダーに使用され、連邦政府以外のレーダーにもわずかに使用されている。連邦航空局(FAA)、国防総省(DOD)、国土安全保障省(DHS)は、少なくとも30MHz幅を目標に、無線サービスとの共用を検討。

1526-1536MHz

1627.5-1637.5MHz

1646.5-1656.5MHz

(継続中)

当該三つのサブバンドは、連邦及び非連邦の移動衛星業務(補助地上コンポーネント(ATC)を含む)に割り当てられた1525-1559MHz及び1626.5-1660MHz帯域内にある。リガド社は当該バンドでの地上運用について条件付きで承認を受けている。しかし、GPS業界と連邦政府は再考を求める嘆願書を提出、その結果、2021年度及び2022年度の国防授権法(NDAA)において、当該帯域に関連するDODの活動に言及する文言がいくつか盛り込まれ、全米科学・工学・医学アカデミー(National Academies of Science, Engineering, and Medicine)による独立した技術調査が義務付けられた。

1675-1680MHz

(継続中)

当該帯域は米国海洋大気庁(NOAA)がパイプライン計画の一部として調査しており、商業用の地上無線サービスと共用可能かどうかを判断するため、FCCの規則制定手続の対象となっている。NOAAの調査結果は、最終的な発表に向けて準備中。

1695-1710MHz

1755-1780MHz

2155-2180MHz

(完了)

FCCは2015年にAWS-3バンド(65MHz)オークションを実施し無線サービスに割り当てたが、一部の場所で連邦政府との共用が継続している。移行はほぼ完了しており、2025年までには完了する予定。

2483.5-2495MHz

(完了)

当該周波数はグローバルスター社に免許されているが、FCCはWi-Fiのプライマリーバンドに隣接する地上低出力サービスの規制緩和を実施。

2496-2690MHz

(継続中)

FCCは既存の教育ブロードバンド・サービス(EBS)の免許人に柔軟性を与えるとともに、未使用の周波数を獲得する新たな機会を追加するための規則を採択。FCCは2021年1月にオークションの入札手続についてコメントを求め、オークションでの入札は2022年7月に開始された。

3100-3550MHz

(継続中)

NTIAは2020年1月、商用サービスが既存事業に影響を与えることなく運用できるかどうかを判断するための技術的実現可能性調査を発表し、周波数共有が可能である可能性を示した。当該オークションは2022年1月に終了し、225億USD以上の資金が調達された。2021年11月15日、大統領はインフラ投資・雇用法(Infrastructure Investment and Jobs Act)に署名し、同法第90008条はDODに対し、3100-3450MHz帯を連邦政府と非連邦政府で共用するために再割当することを検討するよう指示した。DODは、国の政策立案者、既存ユーザ、産業界と協力して、3100-3450MHz帯の研究を進めている。

3550-3700MHz

(完了)

市民ブロードバンド無線サービスにおける優先アクセス免許(PAL)のオークションは2020年8月に終了し、FCCは免許申請の大半を許可した。更にFCCは、PAL及び規則で認可された一般認可アクセス(GAA)ユーザによる商用周波数利用を促進するため、六つのスペクトラム・アクセス・システム(SAS)管理者を認可した。

3700-3980MHz

(継続中)

FCCは280MHzのCバンド周波数帯を商用無線サービスに利用できるようにした。当該帯域の免許のオークションは810億USD以上の収入に達し、FCCは2021年7月に免許申請の大部分を許可した。FCCは、同帯域の移行を促進するため、移転支払クリアリングハウス、移転コーディネータ、影響を受ける利害関係者と緊密に協力してきた。FAAがレーダー高度計への干渉に対処するため複数の耐空性指令(AD)を発行したことを受け、FCC、FAA、ホワイトハウスはNTIAの技術支援を受けて、無線プロバイダの自主的な緩和策や航空機の運用制限を通じて、2023年6月30日までに5Gサービスを安全かつ迅速に展開するよう交渉した。WRC-19では、国際移動通信(IMT)/5G用の周波数帯として3.6-3.8GHzの特定をWRC-23の会議の議題とされた。

4940-4990MHz

(継続中)

FCCは、4.9GHz帯の利用を拡大する方法を模索し続けている。2020年9月、FCCは、各州で一つの事業者が、最大50MHzまでの周波数帯を、公共安全以外の運用を含む固定または移動利用のために第三者にリースすることを認める規則を採択した。しかし、FCCは2021年5月に当該命令を保留後、取り消した。同時に、FCCは当該帯域の公共安全以外の利用の可能性についてコメントを求めた。

5850-5925MHz

(継続中)

2020年11月、FCCは、移行期間の終了時に、同帯域の下部45MHzをWi-Fiを含む免許不要の使用に、上部30MHzをLTE C-V2X(Long Term Evolutions Cellular Vehicle to Everything)ITS(Intelligent Transportation Systems)技術の使用に指定した。

5925-7125MHz

(完了)

2020年4月、FCCは当該帯域で免許不要で運用できる機器の種類を拡大する報告書と命令を発表した。WRC-23では、IMT/5G用の上位100MHz(7025-7125MHz)の国際的な周波数の特定が検討された。また、ITU第1地域におけるIMT/5G用の周波数帯として、6425-7025MHzの特定も検討された。

24.25-24.45GHz

24.75-25.25GHz

(完了)

FCCは、2019年に700MHz幅のオークションを柔軟な使用規則の下で利用可能にした。WRC-19では、当該周波数帯が5G用に特定、不要輻射のレベルが検討された。

27.5-28.35GHz

(完了)

FCCは、28GHz帯の850MHz幅を柔軟な使用規則の下で利用可能とし、2019年に28GHz帯免許のオークションを完了した。

25.25-27.5GHz

(継続中)

FCCは、26GHz帯の共同利用の可能性についてコメントを求めた。FCCは「Spectrum Frontiers」手続において、当該帯域と他の帯域における柔軟な使用のために、追加のハイバンド周波数の再編を検討するため、規則制定案を通知した。WRC-19では、当該帯域が5G用であることが確認された。

37-37.6GHz

(継続中)

FCCは連邦及び非連邦機関による37GHz帯低域の共用メカニズムに関する意見募集を実施。37-43.5GHz帯はWRC-19で5Gに特定された。

37.6-38.6GHz

38.6-40GHz

47.2-48.2GHz

(完了)

FCCは、37GHz高帯域、39GHz帯及び47GHz帯で3.4GHz幅を使用可能とし、39GHz帯では既存の周波数使用権を維持しつつ、当該帯域の連続した周波数に対する新たな免許を割り当てるためのインセンティブ・オークションを実施した。

42-42.5GHz

(継続中)

FCCは42GHz帯の共同利用の可能性について意見募集を実施。当該帯域はWRC-19で5Gに特定された。

50.4-52.6GHz

(継続中)

FCCは地上業務で柔軟に使用可能とすることについて意見募集を実施し、固定衛星サービス事業者が、50.4-51.4GHz帯で送信する個別認可の地球局を運用できる規則を採択した。しかし、WRC-19では50.4-52.6GHzの割当てについては「変更なし」の状態が維持され、5Gに特定されなかった。

64-71GHz

(完了)

免許不要の57-64GHz帯に隣接する64-71GHzの7GHz帯は、免許不要での利用が可能。2021年7月、FCCは、57-64GHz帯セグメントで運用される免許不要の電界妨害センサー装置(レーダー等)の運用の柔軟性を拡大する規則を提案した。

95-3000GHz

(継続中)

FCCは95GHzから3THzまでの周波数を使用するための新たなカテゴリの実験免許を創設。これらの免許は、電波天文学のように、当該帯域に複数の国際的な1次割当を有する既存の受動的周波数利用者との調整を必要とする。

116-123GHz

174.8-182GHz

185-190GHz

244-246GHz

(完了)

FCCは、連邦及び非連邦政府が共用ベースで、当該帯域で21GHz幅以上を、免許不要で利用することを可能とした。
(3)新たな周波数の確保

2018年3月に成立した「2018年度包括歳出法(PL115-141)」の第P部「2018年レイバーム法(Repack Airwaves Yielding Better Access for Users of Modern Services Act of 2018RAY BAUM’S ACT OF 2018)」の第6編「モバイルナウ法(Making Opportunities for Broadband Investment and Limiting Excessive and Needless Obstacles to Wireless ActMOBILE NOW Act)」では、移動及び固定の無線ブロードバンド利用のために、連邦政府及び非連邦政府の周波数から合計で最低255MHz幅を特定することが規定されている。そのうち100MHz幅は8000MHz以下で免許不要で、6000MHz以下で特定された100MHz幅は免許制で、残る55MHz幅は8000MHz以下から特定し免許制、免許不要、または両者の組合せで利用できるようにする。

モバイルナウ法に基づきNITAはFCCと協力して、現在、DODやDHSのレーダーが使っている3.1-3.55GHz帯での官民周波数共用の可能性について検討し、3450-3550MHzでのDODとの周波数共用が可能であると結論付けた。これを踏まえ、ホワイトハウスとDODは、2020年8月、CBRS帯に隣接する3450-3550MHzを2022年半ばまでに全国規模で商用5G向けに開放することを発表し、2021年12月にオークションによって周波数を割り当てることを表明した。NTIAはFCCに対して連邦政府ユーザとの共用をベースとした民間への周波数割当規則を策定するよう要請、FCCは2020年9月に報告及び命令(R&O)並びに追加規則制定提案告示(FNPRM)を発表した。

2021年11月に成立した「インフラ投資及び雇用法(Infrastructure Investment and Jobs Act (H.R. 3684))」の第90008条(SPECTRUM AUCTIONS)では、3.1-3.45GHz帯をオークションにかけることが規定された。同条は、オークション実施前に、DODに対して、3.1-3.45GHz帯の官民周波数共用に関する調査等を義務付け、「周波数再編基金」から5,000万USDを、研究開発、エンジニアリング検討、経済分析、周波数移行等のため、DODに提供することを規定している。DODは21か月以内に、3.1-3.45GHz帯で官民共用可能な帯域を大統領及びFCCに報告する。これを受けて、FCCは2024年11月30日以降に特定された帯域のオークション手続を開始するが、2025年5月31日が官民共用を可能とする周波数割当計画の変更ができる最も早い時期となる。

なお、連邦政府の周波数の移転及び共用に係る費用はオークション収入によって賄われ、費用の110%に相当する金額が「周波数再編基金」に繰り入れられる。残ったオークション収入は、同法第601条によって財務省に設置された「公共安全及び安全ネットワーク基金(Public Safety and Secure Networks Fund)」に繰り入れられる。当該基金は2496-2690MHz帯及び3.1-3.45GHz帯のオークション収入を原資とし、赤字削減に充当する金額を除いた額が繰り入れられ、使途には「安全で信頼できる通信ネットワーク償還プログラム」等への支出が含まれる。

(4)周波数配分をめぐる検討
①5925-7125MHz帯

FCCは2017年8月、ミッドバンド周波数(3.7-24GHz)での無線ブロードバンドのサービス機会を拡大するための方法についてコメントを求める新たな情報請求告示(Notice Of Inquiry:NOI)を発表した。具体的には3.7-4.2GHz、5.925-6.425GHz、6.425-7.125GHzの三つのバンドを特定してコメントを求めるとともに、その他の非連邦政府用のミッドバンドについても柔軟な利用に適した帯域の拡大についてコメントを募った。

これに対して、2017年10月、アップル、シスコ(Cisco)、グーグル、フェイスブック(現メタ)、ブロードコム(Broadcom)、インテル(Intel)、クアルコム(Qualcomm)、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(Hewlett Packard Enterprise:HPE)を含む約30社が、6GHz帯での免許不要利用の帯域を拡大するよう、FCCに要求した。FCCに対する提案としては、6GHz帯に複数のサブバンドを設け、当該帯域で運用されている既存免許人を適切に保護するために、各セグメントの技術条件や干渉保護規定を定めることをFCCに要請していた。

これらの意見を反映しFCCは2018年10月、6GHz帯(5.925-7.125GHz)の1200MHz幅を、免許不要での利用に開放する提案を満場一致で採択、当該周波数帯を免許不要で開放する枠組みのR&Oを2020年4月に発出した。免許不要での利用が可能となる6GHz帯は、四つのサブバンドに区分され、標準電力と低電力の2種類のデバイスでの利用が可能となった。標準電力のデバイスが使用する合計850MHz幅の帯域(U-NII-5及び7)では、既存の固定リンクへの干渉を防ぐために、自動周波数調整(Automated Frequency Coordination:AFC)システムを導入することが求められる。AFCとは、該当するデータベースに基づいて、免許されたシステムのコーディネーション・コンターを決定し、これらのシステムへの有害な干渉を回避するために使用可能な周波数を特定するメカニズムである。免許不要デバイスは、AFCシステムが指定した周波数帯のみで運用が可能となる。FCCは2024年2月、クアルコム、ブロードコム、コムサーチ(Comsearch)、フェデレーテッド・ワイヤレス(Federated Wireless)、ソニー(Sony)、Wi-Fiアライアンス、ワイヤレスブロードバンド・アライアンスのAFCシステムを正式に承認した。

免許不要での利用が可能なデバイス・クラス

区分 デバイス・クラス 運用帯域
標準電力 AP(AFC制御)

U-NII-5(5925-6425MHz:500MHz幅)

U-NII-7(6525-6875MHz:350MHz幅)

固定クライアント(AFC制御)
AP接続クライアント
低電力 AP(屋内限定)

U-NII-5(5925-6425MHz:500MHz幅)

U-NII-6(6425-6525MHz:100MHz幅)

U-NII-7(6525-6875MHz:350MHz幅)

U-NII-8(6875-7125MHz:250MHz幅)

AP接続クライアント
②12.2-13.25GHz帯

12.7GHz帯については、FCCが2022年10月に、5Gや6Gを含む次世代サービスによる12.7GHz帯(12.7-13.25GHz)の利用に関する情報請求告示及び命令(Notice of Inquiry and Order)を発出した。12.7GHz帯は国内では1次業務として地上の移動業務に配分されているため、モバイルブロードバンドでの利用が最適であるとされている。FCCはNOIにおいて、12.7GHz帯の効率的かつ集約的な利用を促進する方策、既存免許人を保護しながら新たな用途での利用機会を提供する周波数共用の方策、既存免許人の一部またはすべてを移転する必要性、隣接帯域で運用されている既存サービスの保護レベル等について、情報を求めていた。

FCCは、12.2GHz帯について、特に成長する衛星ブロードバンド市場におけるサービスにおいて、有害な干渉等を避けるために、双方向かつ高出力の地上での移動通信の利用を許可しないとし、また、12.7GHz帯では、帯域の一部またはすべてをモバイルブロードバンドまたはその他の拡張用途に再利用することを提案していた。その後、FCCは2023年5月、12.2-12.7GHz帯を次世代衛星ブロードバンドに割り当て、同帯域での地上固定無線利用の拡大や免許不要局の導入に関するFNPRMを発表し、12.7-13.25GHz帯については、モバイルブロードバンド等の用途に再利用することを提案した。

③900MHz帯

三次元位置情報サービスを提供するNextNavは2024年4月、測位航法計時(PNT)サービスや5Gに、902-928MHz帯を開放するよう求める請願書をFCCに提出した。同社は、GPSを補完する地上型のPNTサービスを可能にするため、FCCに対して902-928MHz帯の再編を求めている。一方で、NTIAは2024年9月、再編は当面控えるべきとし、NextNavに対してフィールドテストを実施するための短期的な実験免許を付与することを提案した。NTIAは、運輸関連の既存免許人への有害な干渉懸念への対処方法を含むテスト計画の提出を義務付けるとし、テストの必要性についてはNextNavも同意している。

3 5G及び6G政策

DODは2020年5月に、5G無線通信技術に関する5G戦略を発表した。当該戦略は、5Gを保護するための国家戦略を実装するためのDODアプローチを提供し、「NDAA 2020」の第254条を根拠としている。新戦略では、次の4点に取り組む必要があるとしている。

「NDAA 2021」では、DOD全体及び民間部門との協力と統合を強化し、戦闘員への新機能の提供を加速するため、5G及び次世代CFT(Cross-Functional Team)の設立が義務付けられた。CFTは2022年3月に設立され、変革的5G及び次世代無線ネットワーク技術の採用を加速させ、あらゆる場所で国防軍が効果的に活動できるようにする。

NTIAは2024年5月、6G無線システムに関する行政府の政策決定の指針とするため、その開発状況について情報を求めるパブリック・コメントの募集を開始した。NTIAは、①6Gの実験室での試験や実地試験、商用サービス開始の時期、6Gの利用を加速させる可能性のある技術、②社会のすべての層が6Gの恩恵を受けられるようにするために米国政府がとるべき措置、③ネットワークのパフォーマンスや可用性に影響を与える自然災害、人災の発生時において、6Gによるネットワーク・レジリエンス向上の手法、について意見を募集している。ただし、6G関連の周波数問題は対象としていない。

米国下院では2024年9月、「Future Uses of Technology Upholding Reliable and Enhanced(FUTURE)Networks Act」法案が可決された。当該法案は、FCCに対して、業界関係者、公益保護団体代表、政府の専門家で構成される「6Gタスクフォース」を設置することを指示するもので、6Gタスクフォースは、「6Gにおける標準化団体の役割」「6G技術で考えられるユースケース」「サプライチェーンやサイバーセキュリティ等の潜在的脅威」「省庁間の調整と展開の促進」について取りまとめた報告書を発表することが義務付けられている。

4 周波数オークション

(1)600MHz帯

2014年5月、FCCはUHF帯の周波数について、テレビ放送からモバイルブロードバンド等の移動体通信への利用移行を促すための「インセンティブ・オークション」の規則を採択し、同年6月に規則制定文書を公表した。これにより、同オークション実施方法の大枠が確定した。

インセンティブ・オークションは、次の三つのプロセスを一体的に実行し、テレビ放送からモバイルブロードバンド等の移動体通信への周波数再割当を実現するもの。

アップ/ダウンリンク間ギャップ(デュプレックス・ギャップ)は11MHz、チャンネル37(電波天文等)とのガードバンドは3MHz、放送帯とのガードバンドは7-11MHzとし、合計20-34MHzの周波数帯で免許不要局の運用を認める。また、新たなテレビ放送周波数帯では、ワイヤレス・マイクとホワイトスペース機器が共用するチャンネル(テレビ放送局には割り当てない)を各区域において設ける。

新しい600MHz帯での移動体通信サービスについて、電波出力等の技術条件は、FCC規則27部に規定されている700MHz帯の規則を流用し、機器価格の低廉化、一体的サービスの展開を促進する。また、電気通信事業、自営網等、用途は自由とし、必要に応じてFCC規則の該当ルールに従うこととしている。また、地域によりバンドプランが異なる可能性を考慮して、端末には600MHz帯のどのチャンネルでも対応が可能であることを義務付ける。免許期間は初期12年で、更新時10年とする。免許付与から6年後までに各地域において人口の40%、12年後までに75%に対してサービス展開することを義務付ける。免許付与から6年間は、2次市場での取引について、モバイル周波数保有規則により制限が課される。

フォワード・オークションによる収入は、オークション実施によりFCCに発生した費用、周波数を返上する放送局への金銭的対価、放送継続局の周波数移行にかかわる費用の補償、全国公共安全ブロードバンド網(National Public Safety Broadband Network:NPSBN)の構築、公共安全通信網構築に向けた地方政府支援プログラム、高度公共安全無線通信に関する研究開発、NG9-1-1の展開費用、国家予算赤字の補てんに充てられる。

FCCは、2014年12月に最終的なオークション設計等に対する意見を求める公告(FCC 14-191)を発出し、利害関係者の意見を踏まえて2015年8月に、インセンティブ・オークションの開始を2016年3月とする一連の手続規定を採択した(FCC 15-78)。周波数の回収目標は42MHzから144MHzの間で、ブロック数(5MHz幅×2)は2ブロックから12ブロックを確保する方針が示された。FCCが採択した入札開始価格算出方法では、地上放送事業者から周波数を買い取る際のリバース・オークションの開始価格は最高で9億USD(ニュージャージー州のテレムンド系列局WNJU)になった。

2016年5月末から開始された第1段階のリバース・オークションでは、FCCが目標としていた126MHz帯を確保したことを明らかにし、その価値は合計864億2,000万USDにのぼると評価した。第2段階のフォワード・オークションでは、モバイルに利用可能な1GHz以下の周波数全体の3分の1以下しか保有していない事業者向けに、最大30MHz幅のリザーブ周波数が確保されているものの、3分の1以上を保有しているベライゾンとAT&Tがリザーブ周波数に入札できる地区が一部設定された。フォワード・オークションへは、T-モバイルUS、AT&T、ベライゾン・ワイヤレス等の移動体通信事業者に加え、コムキャスト、ディッシュ・ネットワーク、シンクレア・ブロードキャスト・グループや地方の事業者等100社以上が参加を表明した。2016年8月、FCCはフォワード・オークションの第1段階が27ラウンド目で終了し、落札総額が231億803万USDにとどまり、放送事業者への支払金額に満たない結果となったことを発表した。同年10月、FCCは第2回目のリバース・オークションを終えた。ここでは、対象となる周波数は126MHzから114MHzに縮小され、それらに対してテレビ局側が求める金額も約550億USDに引き下げられた。同月半ばに行われた第2回目のフォワード・オークションでは第1ラウンドの入札額が第1回目の入札額を下回る結果となり、早々に打ち切られた。

2016年11月に行われた第3回目のリバース・オークションとフォワード・オークションでも、それぞれ入札額は403億USDと197億USDにとどまり、不成立となった。同年12月に始まった第4回目のオークションでは、競売対象が84MHzまで縮小され、2017年1月13日に終了し、買取幅は84MHz幅で、落札総額は100億5,467万6,822USDとなった。これに対し、同月18日に、移動体通信事業者等が地上放送事業者の周波数に入札するフォワード・オークションの入札額が第4ラウンドで100億USDを突破したことから、リバース・オークションが終了した。フォワード・オークションの獲得フェイズ(Clock Phase)は2017年2月に終了し、その落札総額は196億USDに達した。3月から実施されていた割当フェーズ(Assignment Phase)の落札結果を加えると、オークション収入総額は197億6,843万7,378USDとなった。このうち100億5,467万6,822USDは、周波数を返還した地上放送事業者に支払われ、リパッキングによってチャンネルを移動する地上放送事業者の補償に最大17億5,000万USDが、また、60億USD超は国の負債返済に充てられた。上位落札事業者は、T-モバイルUS(80億USD)、ディッシュ・ネットワーク(62億USD)、コムキャスト(17億USD)となった。

(2)3.5GHz帯

FCCは、2012年12月、政府(海軍レーダー)が使用している3.5GHz帯(3550-3650MHz)を商業利用と共用可能な新たなCBRSとして割り当てる規則制定提案・命令書を公表し、FCC規則の改正に着手した。これにより、高出力スモールセル(商用移動体通信網含む)や免許不要等、2次アクセスや一般認可アクセスの用途として、周波数共用をベースとした周波数の有効利用を図る。

FCCが2015年4月に公表した規則制定提案では、2次アクセスを優先アクセス免許(Priority Access License:PAL)と定義し3550-3650MHz(100MHz幅)を配分、全国を国勢調査統計区に基づく約7万4,000地区に分割した地域免許を、チャンネル幅10MHz単位でオークションにより割り当て、免許期間を原則3年間とすることが提案された。一般許可アクセス(General Authorized Access:GAA)には、3550-3700MHz(150MHz幅)が割り当てられた。そのうち3650-3700MHz(50MHz幅)はGAA専用帯域として配分され、3550-3650MHzは未使用PALがある場合にGAAも利用することができる。その後FCCは2018年10月に、同帯域への投資とその効率的な利用を促すことを目的に、PALの免許単位をこれまでの国勢調査統計区からより大きな郡の規模へ拡大、免許期間を3年から10年へ延長、免許更新時の運用要件の確立、各免許区域で七つのPAL免許を確保、農村及び部族組織への入札クレジット(落札額の割引)の適用、PAL免許の帯域及び地域分割の許容(2次市場向け)、CBRS登録情報保護のためのセキュリティ要件の更新等を含む規則の変更を発表した。FCCは2019年9月、郡単位で7枠(10MHz幅/枠)のPAL免許(合計2万2,631件)のオークションを2020年6月25日に開始する方針を示した。

PAL及びGAAへのチャンネルの動的割当は、SAS管理者が運用するデータベース・システムによって行われる。SASは、他のSAS、FCCデータベース、及び電波環境検知機能(Environmental Sensing Capability:ESC)からの情報に基づき、ある地域において固定局である市民ブロードバンド無線サービス・デバイス(Citizens Broadband Radio Service Device:CBSD)が利用できるチャンネルを判断し、その最大許容伝送出力を設定して、CBSDにその情報を伝達する。SASは、CBSDのID情報と位置情報の登録及び認証を行い、該当するチャンネルでのPALまたはGAAの利用者によるCBSDの運用を管理する。

FCCは2019年4月、3.5GHz帯を使用する海軍レーダーの信号を検知するセンサ・ネットワークを提供するESCプロバイダとしてCommScope、Federated Wireless及びグーグルの3社を正式に認可し、同年7月に3社が提出したESCネットワーク・プランを承認した。また、FCCは2019年9月、SAS管理者としてグーグル、フェデレーテッド・ワイヤレス、コムスコープ(CommScope)、Amdocs及びソニーが運用するSASがFCCのラボテストを通過したと発表し、初期商用展開(Initial Commercial Deployment:ICD)の開始が承認された。FCCは、遅れていたSAS管理者の正式な承認を、2020年1月の告示によって実施し、コムスコープ、フェデレーテッド・ワイヤレス、グーグル、ソニーの4社を、3.55-3.7GHz帯のSAS管理者として認定し、2020年4月にはAmdocsを認定した。その後、2021年3月にKey BridgeがESCプロバイダ及びSAS管理者として認定された。

FCCは、2020年2月、3.5GHz帯のオークション(オークション番号105)の枠組みを決定、これまでの周波数オークションで最も多い2万2,631件の周波数免許がPALとしてオークションにかけられた。オークションは2020年7月23日に開始され、8月25日に終了した。271者が参加したオークションは76ラウンドで終了し、落札総額は45億8,566万3,345USDとなり、2万2,631件の免許のうち2万625件が落札された。落札総額が最も多かったのはベライゾンの18億9,000万USDで、次いでウェッターホーン・ワイヤレス(ディッシュ・ネットワーク)の約9億1,300万USD。以下、スペクトラム・ワイヤレス・ホールディングス(チャーター・コミュニケーションズ)が4億6,400万USD、XFワイヤレス・インベストメント(コムキャスト)が4億5,900万USD、コックス・コミュニケーションズが2億1,300万USDと続いている。T-モバイルUSの落札額は600万USD以下、AT&Tは落札していない。

(3)28GHz帯及び24GHz帯オークション

5G周波数として配分されたミリ波帯の周波数オークションは、28GHz帯については2018年11月14日から2019年1月24日まで実施され、2,965件の郡単位の免許が総額7億257万2,410USDで落札された(オークション番号101)。続けて24GHz帯の周波数オークションが2019年3月14日から同年5月28日まで実施され、2,904件のPEA(Partial Economic Area)の免許が総額20億2,426万8,941USDで落札された(オークション番号102)。

(4)37GHz、39GHz及び42GHz帯オークション

FCCは2019年4月、第3の5G周波数オークション(オークション番号103)の申請と入札手続の提案に対するコメント募集を開始した(コメントの締切は2019年5月)。本オークションは、37GHz、39GHz及び47GHzの三つのバンドを一斉にオークションにかけるもので、37GHz帯は1000MHz幅(100MHz幅×10ブロック)、39GHz帯は1400MHz幅(100MHz幅×14ブロック)、47GHz帯は1000MHz幅(100MHz幅×10ブロック)の合計3400MHz幅が割り当てられる。また、39GHz帯はインセンティブ・オークションが適用され、当該帯域をオークションのために返還する既存免許人に対して補償金を付与する。

オークション方式は、PEAの免許エリアごとに100MHz幅のブロックをオークションにかけ、クロックフェーズと割当フェーズの2段階からなる。クロックフェーズでは、各PEAの免許エリアごとに、二つのカテゴリ(37GHz/39GHz及び47GHz)において汎用ブロック(Generic Blocks)に対して入札することができる。クロックフェーズでは、汎用ブロックの落札者と、39GHz帯の周波数使用権の放棄を選択した39GHz帯既存免許人に支払われるべきインセンティブ支払額が、それぞれ決まる。また、割当フェーズでは、連続した周波数ブロックの割当てを確保しながら、特定の周波数免許に入札することができる。

当該オークションは(オークション番号103)2019年12月10日に開始され、2020年3月5日に終了した。オークションの落札総額は75億7,000万USDで、落札者を含む落札結果の詳細は2020年3月に発表され、ベライゾン、AT&T、T-モバイルUSが落札額トップ3となった。落札総額トップは、ストレートパス・スペクトラムを通じてオークションに参加したベライゾンで、PEAの411地区4,940件の免許を約34億USDで落札した。ベライゾンが落札したのは、MNバンド (37.6-38.6GHz、38.6-40GHz)のみ。ファイバタワー・スペクトラム・ホールディングスとして参加したAT&Tは、411地区で3,267件の免許を約23億8,000万USDで落札した。同社も、落札したのはMNバンドのみ。T-モバイルUSは、399地区で2,384件の免許を9億3,100万USDで落札し、同社は47GHz帯、37-39GHz帯の両方で免許を落札した。

(5)3.7-3.98GHz帯(Cバンド)オークション

FCCは、2020年2月、衛星事業者(インテルサット(Intelsat)、SES、ユーテルサット(Eutelsat)、テレサット(Telesat)、及びスターワン(Star One))に最大97億USDの周波数移転にかかる奨励金を支払うことを含むCバンド周波数オークション規則案を採択し、意見募集にかけた。Cバンドは現在、テレビ・ラジオ放送を衛星経由で伝送するためにダウンリンクとして使われているが、FCCはこの帯域を5Gに開放することが重要だとしている。今回の案では、インテルサットが最大49億USDの支払いを受けることになる。FCCは、奨励金のほかにも、既存免許人が別の帯域に移行する費用を補てんするために最大52億USDを支払うことを認めた。

FCCは、3.7-4.2GHz帯のうち、モバイル用に3.7-4.0GHzを配分し、280MHz幅(3.7-3.98GHz)をオークションにかける。隣接する3.98-4.0GHz(200MHz幅)は衛星とのガードバンドとし、現在、3.7-4.0GHzで運用中の既存衛星は4.0-4.2GHz(200MHz幅)へリパッキングされる。

衛星の移行期限は2025年12月5日であるが、リパック手続を早めることができる資格のある宇宙局オペレータは、合計で97億USDの早期移転奨励金を受け取ることができる。フェーズⅠでの支払いを受ける資格を得るには、2021年12月5日までに、46のPEAにおいて、3.7-3.8GHz(100MHz幅)から移行しなければならない。フェーズⅡの支払いを受ける資格を得るには、2023年12月5日までに、3.8-3.98GHz(180MHz幅)が移行しなければならない。これらの早期移転奨励金や合理的な移転費用は、新たな免許人が責任を負う。

フェーズⅠを満たすには、宇宙局オペレータは、既存業務をリパックし、米国全土で既存の地球局をCバンドの上部380MHz幅(3820-4200MHz)に再編しなければならない。また、2021年12月5日までに、上位50のPEAのうち46地域に関連する既存地球局への3700-3820MHz帯からの信号をブロックするためにバンドパスフィルタを提供しなければならない。フェーズⅡを満たすには、宇宙局オペレータは、既存業務をリパックし、関連する既存の地球局を隣接する米国全体のCバンド上部200MHz幅(4.0-4.2GHz)に再編し、2023年12月5日までに、米国内すべての関連する既存地球局への3700-4000MHz帯からの信号をブロックするためにバンドパスフィルタを提供しなければならない。

FCCは、これらのプロセスを管理し、かつ、既存免許人への移転基金を監督するために、移転支払クリアリングハウス(Relocation Payment Clearinghouse)を設置する。また、FCCは、宇宙局オペレータからコンテンツを受信する既存の地球局を移転させるために、移転コーディネータ(Relocation Coordinator)を設置し、移転中及び移転後のサービスが中断されないことを保証する。

更に、FCCは、柔軟な使用権を持つ新たな免許人のためのサービス及び技術規則や、既存の固定マイクロ波サービス免許人が、2023年12月5日までに、P2Pリンクを他の帯域へ移転するための規則案を採択した。

Cバンド・オークション(オークション番号107)は2020年12月8日に開始され、2021年1月15日に終了した。オークションで提供された免許5,684件すべてが落札され、落札総額は809億1,683万2,754USDとなった。特定の周波数ブロックの割当てを希望する落札者のみが参加する割当オークションは、同年2月8日から17日まで実施された。最終的な落札総額は811億6,867万7,645USDとなり、これまでの最高額であった2014年のAWS-3オークション落札総額(448億9,945万1,600USD)を大幅に上回った。

なお、Cバンドの利用に当たっては、空港周辺での5Gの電波が、航空機に搭載されている電波高度計に、干渉を与えているとの懸念が示されていた。電波高度計は4.2-4.4 GHz帯で運用され、フィルタを挿入することで干渉回避する措置がとられていたが、連邦航空局(FAA)は2022年6月、当該改修期限を1年延長することで、AT&T及びベライゾンと合意した。主な民間航空会社がフィルタ挿入やその他機能強化を行う期限は2023年7月までに延長された。FAAは、通信業界と航空業界と協力して、電波高度計の改修ペースを追跡すると同時に、主な空港周辺でのCバンドの5G利用を緩和していく方針であった。2023年9月末時点では、米国の航空会社全体が機材を改修することによってCバンドの干渉リスクを軽減するとしている。

(6)3.45GHz帯オークション

FCCは2021年6月、3.45GHz帯周波数オークションの開始を10月5日とする入札手続を定める規則を発表した。同オークションでは、PEAベースの15年間の地域免許として、10MHz幅の柔軟な使用免許4,060件が対象となる。入札手続は、クロックフェーズと割当フェーズの2段階からなり、クロックフェーズでは汎用ブロック(Generic Blocks)に対して入札を行い、割当フェーズでは汎用ブロックの割当場所に対して入札する。免許期間は15年間で更新可能とされ、免許取得者は最大四つの10MHz幅ブロックを保有することが認められる。指定事業体の認定を受けた事業者に与えられる入札クレジットの割引上限は、小規模事業者が2,500万USD、ルーラル地域事業者が1,000万USDである。また、各PEAにおける人口1人当たり1MHz当たり(MHz/POP)の最低入札価格は、PEA 1~50が0.03USD、PEA 51~100が0.006USD、その他は0.003USDである。当該帯域はDODがレーダー等の業務に干渉しない限り、周波数の共用または移転に合意しており、移転に要する費用の110%に相当する147億7,500万USDが最低落札価格として設定されている。

3.45-3.55GHz帯オークション(オークション110)は2021年10月5日に開始され、移動体通信大手3社、ディッシュ・ネットワーク、USセルラー(UScellular)を含む33社が参加し、クロックフェーズは第151ラウンドをもって2021年11月16日に終了した。落札された周波数免許は4,041件で、落札総額は218億8,800万7,794USDと史上3番目に大きい金額となった。

(7)2.5GHz帯オークション

FCCは2022年3月、5Gサービス向けの2.5GHz帯(2496-2690MHz)オークションを同年7月29日に開始すると発表した。同オークションでは、郡単位の地域免許として、柔軟な使用が可能なオーバーレイ免許が8,017件提供され、2.5GHz帯が割り当てられていないルーラル地域が主たる免許対象となっている。オーバーレイ免許とは、既存免許人(教育ブロードバンド・サービス免許人)の免許エリアを保護することを条件に、当該免許の地理的領域内のどこでも操業できるもの。オークション対象は3ブロックで、帯域幅はチャネル1が49.5MHz、チャネル2が50.5MHz、チャネル3が17.5MHzとなっている。入札手続は「クロック1」フォーマットと称されるFCCが競り上げるクロック・オークションが採用され、入札ブロックの上限はない。免許期間は10年間で、免許更新期待性が適用される。パフォーマンス要件は、①モバイルまたはポイント・ツー・マルチポイント・サービスの場合、免許付与から4年以内に人口カバレッジ50%、8年以内に80%、②固定のポイント・ツー・ポイント・サービスの場合、免許付与から4年以内に免許エリア内で5万人当たり1リンク、8年以内に2万5,000人当たり1リンクと規定され、満たせなかった場合には免許期間の2年間の短縮や免許の自動失効が適用される。指定事業体の認定を受けた事業者に与えられる入札クレジットの割引上限は、小規模事業者が2,500万USD、ルーラル地域事業者が1,000万USDである。各免許における人口1人当たり1MHz当たり(MHz/POP)の最低入札価格は0.006USDで、チャネル1及び2は50MHz、チャネル3は16.5MHzとして算定し、これらを合計した最低落札総額は1億2,849万2,400USDに設定された。

2.5GHz帯オークション(オークション108)は2022年7月29日に開始され、AT&T、ベライゾン、T-モバイルUS、USセルラーを含む82社が参加し、73ラウンドをもって2022年8月29日に終了した。落札者は63社で、そのうちの77%が入札クレジットの資格を得た小規模事業者であった。落札された免許数は7,872件で、落札総額は4億2,778万9,670USDとなった。入札クレジットが適用された割引額865万6,409USDを差し引いたオークション収入総額は4億1,913万3,261USDとなった。最大の落札者はT-モバイルUSで、落札免許数の91%に相当する7,156件の免許を3億432万5,290USDで落札、オークション収入総額の約70%に相当する。T-モバイルUSに次いで落札免許数が多かったのが北米カトリック教育プログラミング財団の107件(落札総額1,769万USD)で、一方、ベライゾンは12件、AT&Tはゼロ件であった。

5 周波数保有規制

(1)2次市場における周波数スクリーン制度

FCCは、周波数の2次取引や、企業結合等によって生じる無線局免許の移転にかかわる申請に対して、市場競争の促進、サービスの高度化、免許人の多様化、適切な周波数の利用といった幅広い観点から、公共の利益にかなうかどうかについて、個別案件ごとに審査を行う(ケース・バイ・ケースの審査)。

FCCはまず、競争への影響が懸念されるローカル市場を特定するために、「1次審査(Initial Screen)」を実施する。1次審査は、二つのパートで構成され、一つがハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(Herfindahl-Hirschman Index:HHI)に基づく審査(以下、HHIスクリーン)である。取引後に、HHIの指標が2,800以上となり、かつ100以上増加する市場、あるいは、HHIの指標にかかわらず250以上増加する市場を特定する。もう一つの審査は、周波数保有量に関する審査(以下、周波数スクリーン)で、取引後に、利用可能な周波数全体のうちの約3分の1以上を保有する市場を特定する。

HHIスクリーンによって特定された市場、周波数スクリーンによって特定された市場、双方のスクリーンによって特定された市場が重複している市場、あるいは、これらの市場が全米上位100市場以内にランクインしている市場が、市場の集中や周波数の集中の拡大の恐れがあるとして、詳細な競争分析の調査対象となる。また、取引によってもたらされる競争への影響が全国レベルに及ぶ場合には、地域市場に加えて、全国市場での審査が実施される。

(2)周波数スクリーンの対象となる総周波数量の見直し

FCCは、一部事業者による保有周波数の過度な集中を防ぐため、2014年5月に周波数保有規制の見直しに関する決定を採択し、同年6月に公表した。周波数スクリーンの対象となる周波数量の合計を645.5MHzとし、より詳細な調査の契機となるトリガーを215MHz以上(または利用可能な周波数のおよそ3分の1以上)の保有に設定したほか、10%以上のすべての支配的、非支配的持分は保有として帰属可能という整理を維持した(ただし、10%未満でも、事実上の支配に相当する場合は帰属可能)。

周波数の帯域や市場により異なる基準の適用は見送るが、今後FCCが審査する個別の取引案件で提示される潜在的な競争阻害性の分析において、一定水準を超える1GHz以下周波数の更なる集積については、2次市場取引審査における重点的な審査要件とした(申請者はより詳細な立証が必要)。

周波数保有に関する「1次審査」で周波数スクリーンの対象となる帯域
〈6GHz以下〉 (2022年12月時点)
周波数帯 対象となる帯域幅(MHz)
セルラー(850MHz) 50
SMR(800MHz、900MHz) 14
BPCS(1900MHz) 130
700MHz 70
AWS-1(1.7/2.1GHz) 90
BRS(2.5GHz) 67.5
WCS(2.3GHz) 20
AWS-4(2GHz) 40
Hブロック(1900MHz) 10
AWS-3(1.7/2.1GHz) 65
EBS(2.5GHz) 116.5
600MHz 70
3.7-4.0GHz 280
3.45-3.55GHz 100
合計 1123(トリガーは、適正を有する利用可能な周波数のおよそ3分の1以上保有)
〈ミリ波帯〉
周波数帯 対象となる帯域幅(MHz)
24GHz 700
28GHz 850
37GHz高帯域 1000
39GHz 1400
47GHz 1000
合計 4950(トリガーは1850MHz)
(3)600MHz帯インセンティブ・オークションにおける応札制限

1GHz以下の周波数が持つ特性や希少性を踏まえ、複数の事業者による十分な量の1GHz以下周波数へのアクセス確保はサービス向上に資すると判断し、600MHz帯のインセンティブ・オークションにおいては、各市場で一定の周波数量が小規模事業者等向けにリザーブされた(他方、AWS-3オークションには適用なし)。

各市場で10-30MHzがリザーブ免許となり(帯域幅は放送事業者から回収される周波数量により異なる)、この免許の割当ては、PEAベースで1GHz以下の周波数(セルラー(50MHz)、700MHz(70MHz)、SMR(14MHz)の合計134MHz)のうち45MHz(およそ3分の1)以上を保有しない者または地域事業者(非全国事業者)に限定された。

免許交付後6年間は、1GHz以下の周波数の3分の1以上を保有する結果となる600MHz免許の移転、割当て、地域/帯域分割、長期リースを禁止することに加え、免許交付後6年間、600MHzリザーブ免許への応札が認められなかった者に対して600MHzリザーブ免許を移転、割当て、地域/帯域分割、長期リースすることを禁止する。

FCCによると、ベライゾンとAT&Tの2社を合わせると、1GHz以下の周波数免許の73%を保有(セルラー免許の90%、700MHz免許の72%)していることから、600MHz帯のインセンティブ・オークションは、実質的に、ベライゾンとAT&Tの応札を制限するものとなった。

6 全国公共安全ブロードバンド網(NPSBN)

「2012年中間層課税控除及び雇用創出法」に基づき、NTIAの配下に創設されたFirstNetが、700MHz帯の免許の割当てを受け、第1応答者及びその他公共安全機関が使用する、管轄区域を超えた相互運用可能な単一のNPSBNを、LTE技術に基づいて構築する責務を負っている。

FirstNetは2017年3月、第1応答者専用のNPSBNの構築で、AT&Tを請負事業者として選定し、65億USDで契約することを発表した。NPSBNは、全米50州と五つの領土及びコロンビア特別区における数百万以上の公共安全ユーザに特化した高速ネットワークで、既存の第1応答者の通信網を近代化し、現在の無線ネットワークでは利用できないような特殊な機能を提供する。また、災害対応・復旧や大型イベント等での安全確保において、警察、消防、救急医療サービス(Emergency Medical Services:EMS)等に対して、管轄区域を超えたシームレスな通信能力を提供する。

AT&TはFirstNetとの官民インフラ投資契約によって、向こう2年間で1万人以上の雇用を生むとし、2017年後半からネットワーク整備を開始している。FirstNetとAT&Tとの間の契約は25年間に及ぶもので、以下の内容を含む。

AT&TはNPSBNのコア・ネットワークや無線アクセス・ネットワーク(Radio Access Network:RAN)等を構築する計画である一方、各州政府は州内のRAN構築を自前で行うことが可能となっていた(オプトアウト方式)。各州知事は2017年12月28日までにオプトイン方式(FirstNetにRAN構築を委託)またはオプトアプト方式のいずれかを選択することが求められていたが、56のすべての州・領がオプトイン方式の採用を表明した(2018年1月)。

2023年第4四半期時点で、2万7,500以上の公共安全機関がFirstNetに参加し、契約数は550万件以上に達している。また、FirstNetの人口カバレッジは99%以上で、国土カバレッジは76.6%(297万平方マイル)に達している。AT&TとFirstNetは2024年2月、今後10年間で80億USD以上を5G SAコアの構築やBand 14(700MHz帯)をLTEから5Gに移行するために投資することを発表、今後2年間で1,000のセルサイトを新設すること、配備可能なネットワーク資産を5G接続できるものにアップグレードすること等が含まれる。その後、FirstNet理事会は2024年6月、予備費5,000万USD、運営予算1億USD、ネットワーク再投資5億3,400万USDを含む2025年度予算を可決した。2024年10月にはFCCがFirstNetに対して4.9GHz帯の使用を承認した。これは4.9GHz帯の全国オーバーレイ免許を有するバンド・マネージャーとの共用合意を通じて当該帯域の使用が可能となる。

7 電波監視体制

FCCの執行局が電波監視を所掌。電波監視は、執行局の周波数執行部門が15か所の事務所(3か所の地域事務所(Regional Office)と12か所の地方事務所(Field Office))と協力して実施している。違法局探査は、FCCの地方事務所が主体的に行う。機器の押収についてはFCC職員だけの権限で行えるが、家宅捜索及び容疑者の拘束については、警察等他の法執行機関の協力を得て実施される。近隣に地域事務所がない地域で重大な干渉問題が発生した際には、メリーランド州コロンビア、及びコロラド州デンバーに常駐する精鋭部隊(Tiger Team)が24時間以内に出動し混信解決に当たる。

8 電波利用料制度

FCCは、その規制活動に関する事務経費を賄うことを目的に、行政手数料を無線局、放送局及び有線系電気通信事業者から徴収する。FCCが賦課する行政手数料は、行政経費の回収を目的に電波利用者以外も対象としており、電波の経済的価値を反映した電波利用料とは異なる。

「1993年包括財政調整法(Public Law 103-66)」第Ⅵ編「通信に関する免許及び周波数配分の改善」によって、「1934年通信法」に行政手数料(Regulatory Fees)に関する第9条が追加され、FCCが事務経費回収のために行政手数料を徴収することが定められた。また、それ以前の電波利用料(Charge)を規定していた第8条は申請手数料(Application Fees)と改名された。2023年度は、議会承認額に基づき、行政手数料総額として3億9,000万USD を、申請手数料総額として2,600万USDを徴収した。

連邦政府各機関による周波数利用の対価については、NTIAによる認可が必要な周波数の利用に関して、周波数の管理、解析及び運用等にかかわる費用の回収のために連邦政府各部局から徴収される。本制度の背景となったのは、1990年代に大きな政治問題となった米国の財政危機に対して打ち出された、行政経費はユーザから回収するという方針である。NTIAによる利用料額の決定は、単純に議会が承認する額を認可無線局数で割った数値となる。開始時(1996年)には1局25USDであったが、2012年度には122USDとなり、47省庁の支払総額は約3,000万USDとなった。なお、2023年度の周波数使用料(spectrum fees)の徴収総額は3,844万USD となった。

9 電波の安全性に関する基準

実効輻射電力(Effective Radiated Power:ERP)100ワット以上の実験施設や移動無線用アンテナ等、FCC規則1.1307で規定される諸設備については、免許申請・変更時に電波環境アセスメント(Environmental Assessment:EA)の審査を受けなければならない。電磁環境の規制値は、米国規格協会(American National Standards Institute:ANSI)と米国電気電子学会(Institute of Electrical and Electronics Engineers:IEEE)、国際非電離放射線防護委員会(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection:ICNIRP)、米国放射線防護測定審議会(National Council of Radiation Protection and Measurements:NCRP)により規定されているものを基準として、FCC 規則1.1310で規定されている。

FCC規則2.1091及び2.1093では移動及び携帯端末機器に対する規制を行っている。身体から20cm以内の距離で使用される機器では、上述のFCC規則1.1310の基準に従うと同時に、比吸収率(Specific Absorption Rate:SAR)として、一般公衆の場合に、全体0.08W/kg、局所1.6W/kg(手、手首等の部位では4W/kg)と規制値が決められている。これらの基準値はANSI/IEEE C95.1-1992及びNCRPの規定する値に準じている。なお、新設される5G基地局が人体に与える影響を懸念する動きに対して、FCCは2019年8月、5Gで使用される技術や周波数にかかる電磁波のばく露量について新たな制限を設ける必要はないと結論付け、2019年12月4日に現行の電磁波ばく露の安全基準を維持する方針を公表した。

Ⅲ 周波数分配状況

米国における無線通信周波数は、9kHzから275GHzまでの帯域に割り当てられている。そのうち225MHzから3700MHzまでの帯域について、独占的に割り当てられている割合は連邦政府機関が32%、非連邦政府機関が33%で、連邦政府と非連邦政府が共に1次業務として共用している割合が35%となっている。