アルゼンチン共和国(Argentine Republic)

通信

Ⅰ 監督機関等

1 公共イノベーション庁

Secretaría de Innovación Pública

Tel. +54 11 5985 8600
URL https://www.argentina.gob.ar/jefatura/innovacion-publica/
所在地 Av. Roque Sáenz Peña 511 (Entrepiso) - Ciudad Autónoma de Buenos Aires, C1035AAA, ARGENTINA
幹部 Micaela Sánchez Malcolm(Secretaría/長官)
所掌事務

2015年12月、マウリシオ・マクリ政権の発足と同時に、連邦計画・公共投資及びサービス省を廃止し、通信・放送・郵便事業を一元的に所管する行政機関として通信省を発足した。2017年8月の省庁再編で通信省は副大臣組織に降格され、行政最新化省の管轄となった。更に、2018年9月にマクリ政権下(当時)で2度目の省庁再編が行われ、これまでの20省から11省に再編され、行政最新化省は内閣府に併合された。

2019年12月10日、アルベルト・フェルナンデス新大統領の就任に伴い、19日付官報にて「政令第50/2019号」が発表され、内閣府の再編が行われた。行政最新化省は、公共イノベーション庁に置き換えられ、所掌事務はそのまま引き継がれた。

公共イノベーション庁は、情報通信基盤(ブロードバンド普及促進によるデジタル・ディバイド解消等)の整備、行政機関のIT化、オープンデータやソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)の推進といった分野を所掌する。

通信・放送・郵便分野の規制機関である国家コミュニケーション機関(National Communications Agency:ENACOM)、衛星運営事業者Empresa Argentina de Soluciones Satelitales Sociedad Anónima(Arsat)、アルゼンチン郵便株式会社(Correo Argentino)を管轄下に置く。

2 国家コミュニケーション機関(ENACOM)

National Communications Agency

Tel. +54 11 4347 9830
URL https://www.enacom.gob.ar/
所在地 Peru 103(C1067AAC), Buenos Aires, ARGENTICA
幹部 Claudio Ambrosini(長官/President)
所掌事務

2016年1月、マクリ政権(当時)は、連邦視聴覚コミュニケーション・サービス機構(Autoridad Federal de Servicios de Comunicación Audiovisual:AFSCA)を廃止し、連邦情報通信技術省(Autoridad Federal de Tecnologías de la Información y las Comunicaciones:AFTIC)に統合して、新たに通信・放送・郵便事業を一元的に規制・監督する機関として、ENACOMを発足させた。AFTIC(通信・郵便分野)とAFSCA(放送分野)が所掌していた事務は、ENACOMが引き継いでいる。

Ⅱ 法令

1 アルゼンチン・デジタル法(Argentina Digital Act、法律第27.078号)

2014年12月、「アルゼンチン・デジタル法」と呼ばれる「1972年電気通信法」の改正法案が可決・成立した。新法は、固定通信・移動体通信、テレビ、ラジオ及びインターネット事業の各種サービス間に設けられていた参入規制の撤廃等、新たな規制枠組を提示している。

2 電気通信サービス免許規則(Regulation of Telecommunications Services License、規則第764/2000号)

2000年9月、従来はサービスごとに付与していた免許を一つに集約し、全国ですべての通信サービスの提供を可能にする免許制度を導入した。このほかに、回線相互接続に関する規則、ユニバーサル・サービス基金(Fondo Fiduciario de Servicio Universal:FFSU)の創設等について規定している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

2000年9月、基本電気通信分野に競争を導入するため、「電気通信サービス免許規則」が公布された。附則Ⅰ第5条において免許の付与方法が一本化され、固定通信、移動体通信、市内電話、国際電話等のサービス区分が廃止されたほか、一つの免許ですべての通信サービスを提供することが可能になった。免許は全国で有効となる、期間を限定しない恒久免許とした。また、事業権の付与に関して許可制を廃止し、届出制へと移行した。新規事業者は回線設備の設置の有無に関係なく参入できることになり、技術中立原則の下、最適と考えられる技術を自由に選択することができる。

2 競争促進政策

(1)民営化

1990年11月、政府は「政令第731/89号」(1989年9月発効)に基づき、国営通信事業者Empresa Nacional de Telecomunicaciones(Entel)を民営化した。政府はEntelの民営化に際して同社の営業地域を、ブエノスアイレス首都圏を含む南部と、ブエノスアイレス首都圏を含む北部に2分割し、前者の営業権をスペインの通信大手テレフォニカ(Telefonica)が出資するテレフォニカ・アルゼンチン(Telefonica de Argentina:TdA)に、後者の営業権をイタリアの通信大手テレコム・イタリア(Telecom Italia)とフランスの通信大手フランス・テレコム(France Telecom、現オランジュ(Orange))が共同出資していたテレコム・アルゼンチン(Telecom Argentina)に売却した。両社には各営業地域における1997年11月までの独占権が与えられたが、その後、1999年11月までの独占権延長を認め、TdAとテレコム・アルゼンチンによる株式持合いを禁じた。

(2)自由化

1998年3月に施行された「電気通信サービス自由化計画(政令第264/98号)」に基づき、政府は公衆電話を1998年3月、市内電話を1998年6月、データ通信を1999年内、長距離・国際電話を1999年10月にそれぞれ個別に自由化した。1999年11月にはTdAとテレコム・アルゼンチンに課されていた営業地域に関する規制が撤廃され、競争相手の営業地域での全面的な事業展開が可能になった。これにより、2000年11月よりアルゼンチンの電気通信市場は完全自由化された。

(3)仮想移動体通信事業者(MVNO)促進政策

MVNOの導入については、2000年に検討が開始され、長い間議論されてきた。2014年10月に実施された周波数オークション規則では、移動体通信事業者(MNO)に対しネットワークのアクセス要件(reference offer)提示義務やネットワーク容量の5%開放義務が定められた。しかし、その後も新規参入事業者が現れなかったため、2016年5月にENACOMはMVNOの更なる普及促進のための決議を採択した。

(4)番号ポータビリティ

2000年9月に番号ポータビリティに関する法令が発行されたが、国内の経済危機の影響や技術的問題等により導入は再三延期されていた。2010年8月、当時のフェルナンデス大統領により2011年8月までに移動電話の番号ポータビリティ(MNP)を実施することが発令されたが、実際にMNPが導入されたのは2012年3月末からであった。

番号ポータビリティ規則には、顧客がMNPを申請してから5営業日以内に手続が完了するよう、手続期間を短縮するとともに(2017年1月以降は即日開通を義務付け)、すべての事業者が通信業界で単一の電子フォームを使用することで、より透明性と安全性を確保して手続を行えるよう規定している。

ブエノスアイレス等の大都市において固定電話の番号ポータビリティ制度の導入が2018年7月より開始され、2019年12月に全国展開を完了した。

(5)ローカル・ループ・アンバンドリング

ローカル・ループ・アンバンドリング(LLU)に関する制度的枠組は2000年に整備されたが、2001年から2002年にかけて発生した経済破たんの影響により、新制度導入は棚上げされ、2021年現在もその状態が続いている。

(6)業界再編

2018年6月、アルゼンチンの国家競争保護委員会(Comisión Nacional de Defensa de la Competencia:CNDC)は、テレコム・アルゼンチンと国内最大手のケーブルテレビ事業者であるケーブルビジョン(Cablevision)との合併計画について、事業の一部売却や競合事業者へのブロードバンド網の卸提供等の条件付きで承認した。

この合併はENACOMからの承認を2017年に取り付けているが、その際、現行規則では企業1社につき保有可能な周波数の上限が140MHzであるため、超過分である80MHz幅を政府へ返還することが義務付けられた。

(7)国際ローミング料金廃止

2019年7月、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4か国は、メルコスール(南米南部共同市場)内のローミング料金の廃止に合意した。4か国の在住者は今後、追加ローミング料金を支払うことなくメルコスール内で移動電話を使用することが可能となる。今後は各国議会の承認が必要となるが、2020年8月にはウルグアイ議会が他国に先立ちローミング料金廃止を承認した。

メルコスールとは別に、アルゼンチンはチリとの二国間で、2020年8月29日より国際ローミング料金を廃止することに合意した。

(8)料金規制

ENACOMは、2020年12月21日付の「決議第1466/20」により、2020年1月1日以降の料金値上げ幅に対し制限をかけている。固定通信事業者、移動体通信事業者、インターネット・サービス接続事業者(ISP)は小売価格の値上げ幅を5%以内に制限される。一方、公営企業等の小規模通信事業者は8%の値上げが可能である。

3 情報通信基盤整備政策

(1)ユニバーサル・サービス

ユニバーサル・サービス基金(FFSU)の創設は、2000年9月に公布された「電気通信サービス免許規則」(Ⅱ-2の項参照)で決定していたが、その後アルゼンチンの政治経済情勢が悪化したため、2007年7月まで創設が延期されていた。2007年6月に公布された「決議第80/2007号」により固定通信事業者、移動体通信事業者、ISPは年間収入の1%をユニバーサル・サービス税として拠出することが決定。2008年3月には、「政令第558/2008号」が公布され、すべての通信事業者及びISPは月間収入の1%をFFSUに拠出することに変更された。2008年5月にはユニバーサル・サービス基金運営委員会(Comite de Organizacion del Fondo Fiduciario del Servicio Universal:COFFU)が設立された。

(2)国家ブロードバンド政策

フェルナンデス政権(当時)は2010年10月にブロードバンド未整備地域解消に向けた5年計画プロジェクト「アルゼンチン・コネクティッド(Argentina Connected)」を発表し、5年間で人口の85%がブロードバンド網に接続可能な環境を整備するという目標を立てた。また、同計画には「Red Federal de Fibra Optica(REFEFO)」と呼ばれる光ファイバ・バックボーン整備も含まれている。

REFEFOでは、2010~2011年の間に3億700万USDを投資し、光ファイバ網を全国1,200の市町村に接続する。ArsatがローカルのISPや協同組合、市町村、中小企業に対し卸売事業を提供する等の目標が掲げられた。REFEFOが完成した際には、総延長約3万3,000km(5万8,000kmから規模縮小された)に及び、人口の90%をカバーすることが可能となる。2021年1月現在3万1,259kmの光ファイバ回線の敷設が完了した。

2018年7月には、ENACOMはFFSUからの資金調達により、REFEFOではカバーできない住民500人未満の市区を含むルーラル地域115か所に無料公共Wi-Fiを提供する計画を承認した。同プロジェクトには2億ARPが投じられ、最終的には全国のルーラル地域280市区、3万5,000~4万2,000人の住民が無料Wi-Fiを利用可能になる。

更に、2018年10月にはマクリ大統領(当時)及び内閣府により「通信とインターネットの国家計画(Plan Nacional de Telecomunicaciones y Conectividad)」が発表され、全国における固定ブロードバンド網の早期構築とLTE網の拡充を主なねらいとして、2019年末までに人口の93%を占める2,790の市町村にLTE網を敷設するほか、インターネット接続料金の低廉化を目指すとされていた。

2021年10月には、エネルギー庁が「連邦電気輸送計画(Plan Federal de Transporte Eléctrico)」の一環で敷設された光ファイバ網のうち、未使用の光ファイバ回線4,405kmへのアクセスを許可した。この光ファイバ網は14州にまたがり、REFEFOを補完するものとなる。

4 通信・放送融合政策

2013年10月、「視聴覚コミュニケーション・サービス法(法律第26.552号)」(通称:メディア法)が施行された。同法は、支配的な通信事業者や電力会社が有料放送市場に直接参入することを禁止しているが、放送事業者との提携を通じての有料放送サービスの提供は認めている。他方、2014年12月に成立した「アルゼンチン・デジタル法」(Ⅱ-1の項参照)では通信事業者による有料放送事業(衛星放送を除く)への参入を認めているため、矛盾が指摘されていた。

この矛盾を解決するため、2016年末にENACOMは、「政令第1340/2016号」を発効した。この政令の中で、移動体通信市場への新規参入の促進が挙げられ、ENACOMに対し、同政令発効後6か月以内に移動体通信サービス向け周波数分配のため国内外の企業を対象とした競争入札を実施することが要請された。また、通信事業者が2018年1月から衛星放送以外の有料放送事業に参入することを認めているほか、衛星放送事業者に対してもインターネット事業への参入を認めた。この政令に基づき、2018年1月には、移動体通信事業者のクラロ・アルゼンチン(Claro Argentina)、テレフォニカ・モビレス・アルゼンチン(Telefónica Móviles Argentina、ブランド名:モビスター・アルゼンチン(Movistar Argentina))、テレコム・パーソナル(Telecom Personal)が有料放送市場への参入を許可されている。

Ⅳ 関連技術の動向

基準・認証制度

(1)概要

厚生労働経済省による「国家電気通信令(政令第1185/1990号)」及び「電気通信サービス免許規則」の実施に伴い、アルゼンチン政府は、通信機器の認定(承認、成文化及び認可)プロセスを施行し、これらの製品を製品化する会社の登録責任を負う公的機関として、国家通信委員会(Comisión National de Communications:CNC、現ENACOM)を指定した。アルゼンチン政府は、無線通信又は電気通信の中で使用されるすべての機器は、公衆電話網に接続され、電波を放射し、通信に関連するものと定めており、商業化する前に認定を得ることを義務付けている。認定された国内製造業者・輸入業者の情報と製品情報は、電気通信活動及び材料の登録(Registro de Actividades y Materiales de Telecomunicaciones:RAMATEL)に登録され、ENACOMによって規制される。

(2)無線機器の認証制度

ENACOMによって与えられる通信機器の認定には、次の三つのタイプがある。

(3)法的なフレームワーク

認定審査で適合性が確認されると、ENACOMから登録番号を付与される。登録された国内製造業者又は輸入業者は、当該機器に対して、認定プロセスに基づき実行する責任を負う。

二つの輸入業者が同じ製品を輸入する場合、それぞれが認定試験を受け、個別の登録番号が付与される。

ENACOMによる認定がない機器の販売は不適合と判定され、違反をした場合は、「消費者保護法」第24240号による罰則規定(罰金、差押え、設備等の閉鎖等)が適用される。

(4)マーキング

認証されたすべての電気通信機器に、認証ラベルの表示が要求される。ENACOMは、2020年8月6日付で認証ラベルを新たな様式に変更する旨を公表した。猶予期間は2年間で、新規だけでなく既存の認証機器も新しい認証ラベルに変更する必要がある。

Ⅴ 事業の現状

1 固定電話

2000年の通信自由化以降も、旧国営通信事業者Entelの資産を引き継いだ既存事業者と呼ばれるTdAとテレコム・アルゼンチンの2社で約9割のシェアを占めている。競合事業者には、約250社からなる地元の小規模な協同組合で構成される公営企業FecotelやFecosurに加えて、外資系アメリカ・モビル(America Movil)傘下の固定通信事業テルメックス・アルゼンチン(Telmex Argentina)等がある。このほかに、移動体通信事業者のモビスター・アルゼンチンやテレコム・パーソナル、クラロ・アルゼンチン等がルーラル地域向け固定無線アクセス(FWA)サービスを提供している。

2 移動体通信

国内移動体通信市場はこれまで安定した成長を続けてきたが、デフォルト(債務不履行)の危機が深刻化した2013年以降、通信インフラへの設備投資が減少したこともあり市場が縮小した。2015年12月にはマクリ政権(当時)が誕生し、アルゼンチン経済の健全化が図られ、移動体通信市場も一旦持ち直したように見えたが、2021年現在も縮小傾向に歯止めがかかっていない。

同国の移動体通信市場はここ数年、クラロ・アルゼンチン、モビスター・アルゼンチン、テレコム・パーソナルの3社の寡占状態が続いている。2021年6月現在、各社の市場シェアは、およそ30%前後で拮抗しているが、近年はモビスター・アルゼンチンからの加入者の流出傾向が続いている。

これ以外に、テレコム・アルゼンチン傘下のFiberCorp(旧ネクステル・アルゼンチン(Nextel Argentina))が法人向けサービスを提供しているが、同社のシェアは1%にも満たない。ネクステル・アルゼンチンは1998年に米国のNIIホールディングスにより設立されたが、経営難から同社の経営権はアルゼンチンのメディア大手クラリン・グループ(Grupo Clarin)、ケーブルビジョンと移り、最終的には2019年1月にテレコム・アルゼンチンの法人向けサービス部門FiberCorpに吸収された。

モビスター・アルゼンチンは2017年11月に国内で最初の5Gサービスの実証実験を行った。実験はエリクソン(Ericsson)の協力の下、28GHz帯を使用しブエノスアイレスで行われた。同社は2021年から5Gの商用サービスを開始する。一方、ライバルのテレコム・パーソナルは2018年4月に5Gサービスの実証実験を実施し、2021年2月には動的周波数共有(Dynamic Spectrum Sharing:DSS)方式による5Gサービスをブエノスアイレスで提供開始しており、本格的な5Gサービスの運用は2021~2022年頃を計画している。

同国のMVNO市場は、政府による積極的な競争政策にもかかわらず、発展途上にある(Ⅲ-2(3)の項参照)。MVNO事業者には、協同組合のFecosur(ブランド名:Nuestro Movil)や、モビスター・アルゼンチンのサブブランド「Tuenti Movil」などがいる。また、協同組合のCatel、ケーブルテレビのSupercanal、TeleCentro、Teledifusora、ヴァージン・モバイル(Virgin Mobile Latin America)がそれぞれMVNO免許を保有しているが、2021年10月現在サービス開始には至っていない。

3 インターネット

飽和状態にある移動体通信市場と比べて、アルゼンチンのブロードバンド市場はまだ十分に開発が進んでおらず、成長の余地がある。近年では、ケーブルモデム及び光ファイバの利用が顕著に増加しており、特にケーブルモデムは2021年6月現在、5割超のシェアを獲得している。これにADSL、光ファイバ、無線ブロードバンドが続く。

アルゼンチンのブロードバンド市場は、TdAと、2018年1月にケーブルビジョンとの合併が完了した最大手テレコム・アルゼンチンの複占状態にあり、両社を合わせたシェアは6割に及ぶ。アメリカ・モビル系のテルメックス・アルゼンチンは加入者の獲得に苦戦しており、光(FTTH)サービスの展開で巻き返しを図ろうとしている。2021年6月現在、加入者シェアのトップはテレコム・アルゼンチンで、この後にテルメックス・アルゼンチ、TdAが続く。このほかの競合事業者としては、ケーブルテレビ事業者のTeleCentro、Supercanal、IPLAN(LiV)がいる。

2021年10月には、ブエノスアイレスを拠点とするB2B接続プロバイダのダトコ・グループ(Grupo Datco)が3.5GHz帯を使用した5G固定無線アクセス(FWA)の試験運用を実施した。

Ⅵ 運営体

1 テレフォニカ・アルゼンチン

Telefonica Argentina S.A.

URL https://www.movistar.com.ar/
所在地 Avenida Ingeniero, Huergo 723, Piso 7
Buenos Aires C1107AOT, ARGENTINA
幹部 Alfonso Gómez Palacio(中南米事業最高経営責任者/CEO Hispam)
概要

スペインの通信大手テレフォニカの完全子会社である。固定電話及びブロードバンド事業はTdA、移動体通信及び有料放送事業はテレフォニカ・モビレス・アルゼンチンが提供している。テレフォニカ・アルゼンチンは2018年4月にTdAとテレフォニカ・モビレス・アルゼンチンを合併し、合併を機にすべてのサービスを「モビスター」ブランドで展開するようになった。「アルゼンチン・デジタル法」が施行されるまでは、衛星放送のディレクTVアルゼンチン(DirecTV Argentina)と提携し、固定通信サービスとバンドルして提供していたが、2014年にこの提携を解消し、現在は独自の有料放送サービスを立ち上げている。

2 テレコム・アルゼンチン

Telecom Argentina S.A.

URL https://hogares.telecom.com.ar/
所在地 Alicia Moreau de Justo 50
Buenos Aires 1107, ARGENTINA
幹部 Roberto D. Nobile(最高経営責任者/CEO)
概要

アルゼンチン第2位の電気通信事業者である。移動体通信の子会社にテレコム・パーソナルがある。2018年1月にケーブルテレビ最大手のケーブルビジョンとの合併が完了し、これにより固定電話、移動体通信、ブロードバンド、有料放送の4種類のサービスを統合した事業展開が可能となった。

2021年10月、同社は「Telecom」「Flow」「Personal」を中心にブランド再編計画を実施した。今後、「Telecom」はB2B事業に、「Flow」はエンターテインメント・サービス(ケーブルテレビ事業を含む)に、「Personal」はモバイル及び固定ブロードバンド・ソリューションに使用されることになる。

2021年6月30日現在、テレコム・アルゼンチンの株主構成は、Fintech Telecomが40.95%、ケーブルビジョン・ホールディング(CVH)が18.89%、VLG(CVHの完全子会社)が20.19%となっている。

3 クラロ・アルゼンチン

Claro Argentina

URL https://www.claro.com.ar/
所在地 Avenida de Mayo 878
Buenos Aires 1084, ARGENTINA
概要

メキシコに本社を置く中南米の移動体通信事業者であるアメリカ・モビルの完全子会社。アルゼンチンの移動体通信市場では最大手である。姉妹会社として、固定通信サービスを提供するテルメックス・アルゼンチンがある。

4 テレフォニカ・モビレス・アルゼンチン

Telefonica Moviles Argentina S.A.

URL https://www.movistar.com.ar/
所在地 Avenida Ingeniero, Huergo 723, Piso 7
Buenos Aires C1043, ARGENTINA
概要

テレフォニカ・アルゼンチンの移動体通信事業者。2018年4月に姉妹会社のTdAと正式に合併した。「モビスター」ブランドを冠してサービスを提供しており、移動体通信市場では3位。

5 テレコム・パーソナル

Telecom Personal

URL https://www.personal.com.ar/
所在地 Alicia Moreau de Justo 50, 10th Floor
Buenos Aires 1107, ARGENTINA
概要

テレコム・アルゼンチンの移動体通信子会社。テレコム・アルゼンチンが同社の株式の99.99%を保有している。パラグアイの移動体通信事業者Núcleoの資本の67.5%を所有している。

放送

Ⅰ 監督機関等

1 公共イノベーション庁

(通信/Ⅰ-1の項参照)

2 国家コミュニケーション機関(ENACOM)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

放送分野では、免許の付与及び更新、放送免許事業者の監督、放送内容に対する規制を所掌している。

3 メディア・パブリックコミュニケーション事務局

Secretaría de Medios y Comunicación Pública

URL https://www.argentina.gob.ar/mediosycontenidos/
所在地 Leandro N. Alem 339. Ciudad Autónoma de Buenos Aires
C1003AAD, ARGENTINA
幹部 Valeria Zapesochny(長官/Secretary)
所掌事務

2015年12月、地上デジタル放送や国営放送を所管する組織として、内閣府(Jefatura de Gabinete)に連邦公共メディア・コンテンツ機構が設立された。現在の組織名はメディア・パブリックコミュニケーション事務局である。

Ⅱ 法令

視聴覚コミュニケーション・サービス法(Audiovisual Communication Services Law:法律第26.522号)

メディアの寡占状態を解消することを目的に、「1980年放送法(法律第22.285号)」に代わる「視聴覚コミュニケーション・サービス法」が2009年10月に成立し、2013年10月に施行された。

メディア法を巡っては、施行停止を求めるメディア大手クラリン・グループと政府の間で対立が続き、最高裁は2010年10月、同法の一部条項について財産権侵害の疑いがあるとして、施行停止を命じた。2012年12月、最高裁は施行停止を解除する決定を下したが、クラリン側の反訴によって解除には至らなかった。2013年9月には、最高裁がこれまでの判断を一転させ、同法を合憲であると判決し、クラリン側の敗訴が決定した。

2015年12月、マクリ政権(当時)はメディア法の一部を改正する政令を官報に公示し、メディア規制緩和を施行した。放送事業への新規参入で競争を促すことで、サービス品質の向上と多様化を図ることを意図している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

「視聴覚コミュニケーション・サービス法」が免許の付与条件を規定している。

2 コンテンツ規制

OTT規制

マクリ政権(当時)は経済改革案の一つとして税制改革を提案している。2018年4月には、「政令第354/2018号」を官報に公示し、NetflixやSpotify等の海外に事業拠点のあるオーバー・ザ・トップ(OTT)サービスに付加価値税を導入することを決定した。これはケーブルテレビ等の有料放送が課税対象となっているのに対し、同じように動画や音楽配信事業を行っているOTTサービスが非課税であるのは合理性に欠けるとの判断によるものである。2018年4月25日より海外からインターネットを通じてストリーミング又はダウンロードしたデジタル・コンテンツ等に対し基本税率21%が課税されている。税額分はユーザがクレジットカードで支払う視聴料金から徴収される。なお、デジタル課税については、2021年10月8日にOECDは新たな国際的課税ルールについて最終合意に達したと発表した。136か国・地域が新ルールを支持し、アルゼンチンも合意した。売上高が世界全体で200億EUR以上で、利益率が10%を超えるグローバル企業を対象に、これら企業の売上高の10%を超えた税引き前利益の25%を課税の対象として売上高に応じてサービスの利用者がいる国に配分するというもの。既に独自のデジタル税を導入している国は、2023年を目処に廃止する方向で準備を進める。

3 地上デジタル放送

2006年6月、ブラジルが地上デジタル放送方式に日本方式のISDB-T採用を決定したことを受け、2009年8月、アルゼンチンもISDB-Tを採用することを公表し、同31日には、ISDB-T採用に関する「政令第1148/2009号」を公布した。

2010年4月から国営放送Television Publica Argentina(TV Publicaから名称を変更)がブエノスアイレスで地上デジタル放送を開始した。政府は、地上デジタル放送と衛星デジタル放送の二つの無料デジタル放送を合わせて「オープン・デジタル・テレビ(Televisión Digital Abierta)」と呼んでおり、地上波でカバーしきれないルーラル地域を衛星放送で補完することで全土をカバーする計画である。アルゼンチン政府は2019年3月、アナログ放送からデジタル放送への完全移行期限を、当初予定の2019年から2021年8月31日に延期した。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

ラジオは、アルゼンチン・ラジオ・テレビ国営放送(Radio y Televisión Argentina:RTA)がRadio Nacionalという名称で全国50局以上のネットワーク局を使って放送を行っている。商業放送局ではクラリン・グループのRadio Mitreが最も人気のあるラジオ局である。国際放送は、RTAがRadiodifusión Argentina al Exterior(RAE)の名称でドイツ語や日本語を含む8か国語で実施している。

2 テレビ

全国向け地上放送は、国営放送RTAが運営するTelevision Publica Argentinaと商業放送の5社(Telefe、El Trece、El Nueve、Net TV、America)が実施している。地上放送のチャンネルはすべて衛星経由で全国のケーブルテレビ事業者に配信されている。

米国のメディア大手Viacom傘下のTelefeと、国内最大手メディア企業クラリン・グループ傘下のEl Treceが2大人気チャンネルとなっている。

3 衛星放送

米国系のディレクTVアルゼンチンが1998年、Red IntercableのInTVが2010年に衛星直接受信(DTH)サービスを提供開始した。2018年3月には、Interam SRLがDTH免許を取得し、2019年3月よりサービスを開始している。ディレクTVアルゼンチンは、アルゼンチンでは2番目に契約数の多い有料放送プラットフォームである。ENACOMによると2021年3月現在、有料放送契約件数は約961万件である。このうち衛星放送の契約件数は約226万件、世帯加入率は15.9%である。

4 ケーブルテレビ

アルゼンチンでは歴史的に地上放送よりもケーブルテレビ等の有料放送が優勢であった。しかし、近年の経済危機の影響やOTTサービスの隆盛で、ケーブルテレビ業界の成長は鈍化傾向にある。ENACOMによると、2021年6月現在、ケーブルテレビ契約件数は約735万件、世帯加入率は51.7%である。

ケーブルテレビ事業者は、テレコム・アルゼンチンとの合併が発表されたケーブルビジョンをはじめ、Supercanal、Telecentro、Red Intercableがビッグ4と呼ばれている。

Ⅴ 運営体

1 Radio Nacional

URL http://www.radionacional.com.ar/
幹部 Alejandro Pont Lezica(局長/Executive Director)
概要

1937年設立。2001年に国営テレビ局のカナル7(Canal 7)と共に、国営メディア事業を統括するRTAの傘下に入る。全国50局の国営ラジオ局を統括しており、RAEの呼称で国際放送を実施している。

2 Television Publica Argentina

URL https://www.tvpublica.com.ar/
幹部 Rosario Lufrano(RTA議長/RTA’s Chairwoman)
Claudio Martínez(局長/Director)
概要

1951年設立。2001年、国営ラジオRadio Nacional、国営通信社Telemと共に、RTAの傘下に入った。教育・教養番組を主体とした総合編成チャンネルで、財源は、商業放送事業者に課される事業者税、政府交付金、番組販売収入、広告収入、寄付金等である。

電波

Ⅰ 監督機関等

国家コミュニケーション機関(ENACOM)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

周波数政策や無線局監理はENACOMによって行われている。2017年8月と2018年9月、2019年12月の3度の政府組織再編により、現在は公共イノベーション庁の傘下にある。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 無線局免許制度

(1)免許手続等

「アルゼンチン・デジタル法」(通信/Ⅱ-1の項参照)では、第5章第27条で電波の免許、管理、調整はAFTIC(当時)が行うこと、第6章で電波の利用には電波利用料が必要であることを定めている。現在、この業務はENACOMが行っている。

無線局の周波数利用の認可及び/又は免許の付与は、「電気通信サービス免許規則(規則第764/2000号)」付属資料4に定められている。詳細は以下のとおりである。

また、同付属資料4の第10条によれば、無線局免許の期間は5年以内となっているが延長できる。第11条では、無線局免許の譲渡は、当局の許可が必要とされている。

(2)周波数オークション
①4Gオークション(2014年)

2014年10月、CNC(現ENACOM)は、マルチ・オークションを実施した。対象周波数は4G用として700MHz帯及びAWS(1.7/2.1GHz)帯、2G及び3G用として850MHz帯及び1.9GHz帯であった。クラロ・アルゼンチンは3G用として、1892.5-1895MHz/1972.5-1975MHz(地域Ⅰ)、1870-1875MHz/1950-1955MHz(地域Ⅱ)及び1867.5-1870MHz/1947.5-1950MHz(地域Ⅲ)、また4G用として、1720-1730 MHz/2120-2130MHz(全国)を獲得した。テレコム・パーソナルは3G用として、1890-1892.5MHz/1970-1972.5MHz(地域Ⅰ)、830.25-834MHz/875.25-879MHz(地域Ⅱ)及び1862.5-1867.5MHz/1942.5-1947.5MHz(地域Ⅲ)、4G用として、1730-1745MHz/2130-2145MHz(全国)を獲得した。モビスター・アルゼンチンは4G用として1710-1720MHz/2110-2120MHz(全国)を獲得したが、3G用周波数の入札には参加しなかった。

また、2015年6月には、これらの周波数についての免許を、支払期限を満たさず権利を放棄したArlinkを除きオークションの結果どおりに交付した。

②600MHz帯(未実施)

ENACOMは、将来の移動体通信用周波数とするために、有料放送事業者が現在持っている512-698MHz(600MHz帯)の周波数を開放する「決議第2531/2016号」を2016年5月に発表した。これにより有料放送事業者は、2018年までに12.2-12.7GHzの帯域に移行することが決まったが、2021年11月以降、新たな動きは見られない。

③2.6GHz帯(2017年)

2017年1月、ENACOMは「政令第1340/2016号」において、2017年中のオークションを目指した周波数再編を行うことを表明した。

更に、ITUと共調した移動体通信用周波数を確保するため、2017年1月30日の「決議第171-E/2017号」により、450-470MHz、698-960MHz、2300-2400MHz、2500-2600MHzを高度な通信サービス用に確保するとした。

2017年5月11日の「決議第3687-E/2017号」でENACOMは、2500-2690MHz帯(FDD:5MHz幅8チャンネル、TDD:5MHz幅4チャンネル)の周波数オークションをFDD 3チャンネルからなるAブロック(2500-2515MHz/2620-2635MHz)とBブロック(2515-2530MHz/2635-2650MHz)、FDD 2チャンネル(2560-2570MHz/2680-2690MHz)とTDD 4チャンネル(2575-2595MHz)からなるCブロックの三つのブロックにより行うことを決定し、2017年6月にオークションが実施された。その結果、モビスター・アルゼンチンはAブロック、クラロ・アルゼンチンはBブロック、テレコム・パーソナルがCブロックを獲得した。

④Arsat周波数帯の再利用(2019年)

2019年1月23日、ENACOMは、地域振興及び市場競争を促進するため、Arsatに割り当てる予定であった周波数帯(700MHz帯/1700MHz帯/1900MHz帯)の再利用を決定した。Arsatに十分な周波数を再割当すると同時に、Arsatが保有する周波数の20%以上に地域の小規模通信事業者がアクセスできるようにする。

⑤5Gの動向

ENACOMは2021年3月15日~19日にかけてブエノスアイレスの本部で政府関係者、専門家、業界関係者を集めて5G技術のデモを実施した。このデモでは、5G技術が国内の産業、教育、娯楽の各分野にどのようなメリットをもたらすかを検討した。使用する周波数帯は不明。なお、ENACOMはこれまでにモビスター・アルゼンチンとテレコム・パーソナルに対し、5Gの実証実験に28GHz帯を使用することを許可している。今のところアルゼンチン政府はどの周波数帯を5G用にオークションにかけるのか明らかにしていない。

(3)デジタル・アジェンダ

2018年に公布された「デジタル・アジェンダ2030(決議第996/2018号)」では、2030年を目指して、すべての人のデジタル・インフラへのアクセスを可能にする等の目標がある。周波数関係の課題としては、通信サービスのより良い品質の達成を目指した周波数配分の長期計画の立案が掲げられている。

2 周波数割当制度

「電気通信サービス免許規則」付属資料4の第7条に周波数利用における認可条件が定められている。

3 電波監視体制

電波監視及び電波放射の監視は、「電気通信サービス免許規則」付属資料4で規定され、ENACOMが実施する。

4 電波利用料制度

政府は、周波数の使用に対し、権利金又は電波利用料の支払いを周波数利用者に要求できる(「アルゼンチン・デジタル法」第6章)。利用料額は、周波数利用による経済的価値を反映して設定される。経済的価値の評価には、周波数帯、帯域幅、周波数の使用効率、位置等が使用される(「CNC決議第10/95号」「改訂ENACOM決議第2017-137号」)。

5 電波の安全に関する基準

電磁界における人体のばく露に関する制限値は、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインに基づいて、健康社会行動省(Ministerio de Salud y Desarollo Social:MSAS)が「決議第202/1995号」を制定している。

この決議に沿って、ENACOMが電気通信システムのばく露の規制として「決議第530/2000号」を制定している。また、ENACOMは既存の放送局の電磁波評価を報告させる「決議第3690/2004号」を制定し、これにより、電波利用者のために測定法を提供している。更に、健康社会行動省は、公衆ばく露の制限値を決める「決議第1994/2015号」を制定している。

Ⅲ 周波数分配状況

「電気通信サービス免許規則」付属資料4の第13条に基づき、周波数分配表が策定されている。周波数分配票(2021年版)は、以下のURLから取得できる。