フランス共和国(French Republic)

通信

Ⅰ 監督機関等

1 経済・財務・産業・デジタル主権省(MEFS)

Ministry for the Economy, Finance and the industrial and digital Sovereignty

Tel. +33 1 40 04 04 04
URL https://www.economie.gouv.fr/
所在地 Télédoc151 139, rue de Bercy, 75572 Paris Cedex 12, FRANCE
幹部

Bruno Le Maire(経済・財務・産業・デジタル主権大臣/Ministre de l’Economie, des Finances et de la Souveraineté industrielle et numérique)

Jean-Noël Barrot(デジタル移行・電子通信担当大臣/Ministre délégué chargé de la Transition numérique et des Télécommunications)

所掌事務

電気通信関連の政策策定は、経済・財務を担当する省の企業総局(DGE)であり、「French Tech」(Ⅲ-2(6)の項参照)等ICT産業の活性化や一般企業のデジタル化推進等を所掌する。同局の上部組織については、内閣再編に伴い名称や管理担当職が変化する場合も多い。マクロン政権下では、2017年5月、デジタル社会化を専門的に所掌する長官職が設けられた。2020年7月、特に仏経済の成長及び競争力強化を図る目的で省の名称が「経済・財務・再興省」となった。2022年の大統領選でのマクロン再選と首相の再指名とともに省庁再編が実施され、省名の再変更と4名の担当大臣(経済・財務・産業・デジタル主権省大臣の委任を受けて職務を実施)のうち1人が、電気通信及びデジタル移行を専門に担当することが決定された。

2 電子通信・郵便・出版流通規制機関(ARCEP)

Electronic Communications, Postal and Print Media Distribution Regulatory Authority

Tel. +33 1 40 47 70 00
URL https://www.arcep.fr/
所在地 14 Rue Gerty Archimède, 75012 Paris, FRANCE
幹部 Laure de La Raudière(委員長/Presidente)
所掌事務

1997年1月5日、電気通信分野の独立規制機関として、電気通信規制機関(ART)の名称で発足、事業者等の規制を所掌する。2004年7月、「郵便・電子通信法典」第Ⅱ部第4章第1節を中心に、組織及び所掌事務が再定義された。2005年5月の「郵便活動規制法」により、郵便分野が所掌に加えられ、名称が電子通信・郵便規制機関(ARCEP)に変更された。更に、2016年10月の「デジタル共和国法」(Ⅱ-2の項参照)により、通信事業者規制における権限が大幅に拡張された。また、2017年1月の「独立行政機関及び独立公的機関の一般的位置付けに関する2017年1月20日の法律第2017-55号」により、同機関は国の一般会計から年ごとの予算を割り当てられる独立規制機関としての位置を確立した。2019年11月、出版物のネット配信の興隆に伴い発効した「Bichet法」により、名称変更及び所掌の追加が実施された。また、2021年12月の「ARCEPによるデジタル環境規制の強化に関する2021年12月23日の法律第2021-1755号」から、通信網運用、通信サービス提供事業者に加え、通信端末メーカー、ネットワーク機器提供者、通信関連システム開発事業者、データ運用事業者が、通信分野での規制対象に含まれることとなった。

同機関の通信分野における主な所掌は以下のとおりである。

近年の通信・放送融合サービスの伸長に伴い、2020年からは放送事業者規制機関との連携を強化、2021年以降は毎年、デジタル・サービス利用状況に関する報告書を共同で発表している。

ARCEPの最高意思決定機関である委員会は、法律、技術、地域経済の各専門家7名からなる。うち委員長を含む3名は大統領により、2名は国民議会議長により、2名は元老院議長により指名される。各委員の任期は6年で、再選は許されない。2021年に政府から供与された活動資金額は約453万EUR、2021年12月現在の職員数は182名であった。

Ⅱ 法令

1 郵便・電子通信法典

1952年、電気通信分野の基本法令として法典化された。「法律の部」「国務院の議を経るデクレ(政令)の部」及び「デクレ(政令)の部」の3部からなる。「法律の部」第Ⅱ部の第1編が通信事業、第2編が周波数等の資源の割当てと関連施設の設置に関する規制の枠組みを構成し、デクレの部では、「法律の部」に対応する各節でその適用方法を規定している。

我が国の「政令」に類似し、主に法律を補足する命令としての機能を有する。国務院の議を経て成立するデクレと単純デクレとの2種がある。

2021年5月には、免許制度の改変やブロードバンド・サービスのユニバーサル・サービス化を主眼とする2018年12月のEU「欧州電子通信コード」の国内法制化が完了した。その他、近年に実施された主な改正としては、周波数オークション規定(2019年10月)、ユニバーサル・サービス提供条件の追加(2020年12月)、ARCEPの規制対象拡張(2021年12月、Ⅰ-2の項参照)、通信端末販売における未成年者保護(2022年3月)等がある。

2 デジタル共和国法

2014年10月、経済・産業・デジタル化省(当時)により起案、政府関係者や関連専門家のみならず、広く一般市民からの意見募集結果を反映し、2016年10月に議会での承認を得て、「2016年10月7日の法律第2016-1321号」という名称で発効した。同法は産業及び市民生活全体のデジタル化を推進し、今後のICT普及政策の原則を示すものと位置付けられ、以下の3部構成で、15の主要目標を提示、関連法規則の改正を指示している。

Ⅲ 政策動向

1 免許・認可制度

2021年5月の「郵便・電子通信法典」第L33-1条改正により、公衆電子通信網の設置・運用及び電子通信サービスの提供に際して、同条に定める通信の質の維持、相互接続、緊急通報等に関する条件の順守を条件として自由であるとされ、従来のARCEPへの事前の届出の義務は撤廃された。ただし、周波数、番号等の希少資源の利用については、ARCEPの管理下において別途利用許可を取得し、資源の割当てを受けることとされている。

外資規制について、「郵便・電子通信法典」に言及はないが、2014年5月、「事前の許可を要する外資の参入に関する2014年5月14日のデクレ第2014-479号」が公布され、国益に直接関係するとみなされる産業6分野(防衛、通信、エネルギー、水道、交通、医療)における外資の参入に関して、政府の事前の許可を取得することが義務付けられた。このデクレ上では、「外資」につき、EU加盟国とそれ以外の国に区別は設けられていない。また、参入比率については言及されていない。また、中小企業のイノベーション開発とデジタル技術導入支援を主目的とする「企業の成長と変革にかかわる2019年5月22日の法律第2019-486号」では、通信という規定はないが、政府が経済戦略上重要であると考える分野での外国企業からの投資については、事前に政府の許可を得ることが義務付けられた。

2 競争促進政策

(1)相互接続
①相互接続条件

公衆電気通信網事業者は公衆電気通信サービスの向上という観点から、欧州内の他の公衆電気通信網事業者からの相互接続の要求に対し、特に拒否すべき理由が明確でない限り、要求を受諾しなければならない。

特にSMP事業者((3)の項参照)は、他の事業者からの相互接続申請を、公平、非差別的、かつ明確な条件の下で受諾しなければならない。この条件を確保するためSMP事業者は、現行の相互接続情報すべてを公表し、新たに相互接続を提供する際の技術上・料金上の諸条件に関して詳細にわたる提案を公表しなければならない。

ARCEPは、「郵便・電子通信法典」により、当該相互接続協定が順守すべき技術的・財政的条件を規定し、事業者の提案に対し随時修正を要求することができる。また、相互接続の拒否、あるいは相互接続条件に関する当事者間の協定に対する違反等が生じた場合、係争に介入することができる。相互接続の対象には、ブロードバンド市場におけるサブローカル・ループ、移動体通信網におけるインフラ共有及びローミング、建物内の光ファイバ回線が含まれる。

また、超高速ブロードバンド(FTTHを中心とする最大接続速度30Mbps以上のインターネット接続サービス)基盤の運用者は、欧州内の他の事業者からのアクセス要求に対して交渉に応じることが義務付けられている。

ブロードバンド上の電話番号を介さない双方向通信については、基本的に相互接続契約の対象外であるが、「郵便・電子通信法典」第L34-8条により、利用人口が有意に多数であるサービスの提供事業者に対し、ARCEPはエンドユーザ間の通信に必要な場合、他の類似サービスとの互換措置を講じる義務を課すことができる。

また、同法典第L34-8-2-3条は、Wi-Fi接続ポイントの運用者は、他事業者からのアクセス要求に対し、透明かつ非差別的な条件でのアクセスを受け入れる義務があるとしている。

②相互接続料金

相互接続料金は、「郵便・電子通信法典」及びARCEPの決定により、当事者間で締結される協定で定められる。双方の事業者は、相互接続協定をARCEPに届け出なければならない。課金の条件は、公平、明確、非差別性の原則を順守しなければならず、かつ相互接続を利用する事業者に過大な負担を与えてはならない。料金額は、他のサービス料金と明確に区分され、相互接続によって提供するサービスに関連する費用に基づいて決定しなければならない。

更に、SMP事業者((3)の項参照)は、料金上の諸条件の明確化、コストベースの課金のほか、相互接続に関する会計の分離に従い、ARCEPに会計報告を提出し、監査を受ける義務を有する。

ARCEPは、上記のコストベースの課金という原則に従い、固定・移動双方の通話着信市場でSMP事業者に指定された事業者の着信卸料金基準を2008年から数段階にわたり引き下げている。移動電話では2021年7月にEUの基準とほぼ同額の0.007EUR/分で、2024年までに0.002EUR/分以下とする計画がある。固定電話では同時期に0.00077EUR/分である。

(2)卸売提供制度とMVNO推進
①光ファイバ基盤の共有推進

ARCEPは政府の超高速ブロードバンド普及計画(3(2)の項参照)推進に当たり、国内を①人口密度が高く、各事業者が単独で光ファイバ基盤に投資、事業活動を行う地域、②事業者が基盤構築に関心を示しているが、接続環境の整備には複数の事業者が協力、基盤共有が求められる地域、③人口密度等の理由で採算性が低く、自治体が公的資金により基盤構築を行わざるを得ない地域、に分類している。

2017年から、ARCEPは特に②について、すべての通信事業者がネットワーク構築に投資、共有基盤を強化するという姿勢を明確化している。またブロードバンド市場でSMP事業者に指定されたオランジュ(Orange、(3)の項参照)に対し、特に③の地域について、同社が有するネットワーク資源への非差別的なアクセス受入れを求めている。

②移動体通信基盤の共有推進

移動体通信網については、各事業者がLTEまた将来的に5Gのカバレッジ義務を遂行するため、特にルーラル地域において通信基盤を共有することが推奨されている。2021年5月の「郵便・電子通信法典」改正により、ARCEPはルーラル地域で地勢・経済的状況からエンドユーザが移動体通信サービスを受けにくいと判断される地域については、複数の事業者に共有基盤を通じたサービスを提供することを義務付けることが可能となった。

③MVNO促進

MVNOの参入促進については、2011年の800MHz帯割当てに際し、審査基準にMVNO受入れが含められ、応募事業者にはMVNOへのネットワーク開放計画の提示が求められた。また、2020年後半の5G向け周波数(3.4-3.8GHz)割当において、50MHz幅のブロックを落札した事業者にはMVNO受入義務が課せられる。なお、2022年10月現在、国内のMVNO事業者数は26である。

(3)SMP事業者の指定

「郵便・電子通信法典」第L37-1条は、ARCEPが、特に相互接続及びアクセスに関して、電子通信市場の分析を実施し、それぞれの市場において顕著な市場支配力(Significant Market Power:SMP)を有する事業者を指定するとしている(指定期間は最大3年)。SMP事業者は、EUの基準に基づき、ARCEPが個別に決定する。

最近の分析結果としては、2020年12月、オランジュが再びブロードバンド市場で2021~2023年までのSMP事業者に指定された。この決定で、ARCEPは銅線については従来どおりオランジュの開放回線へのアクセス料金基準を定めたが、光ファイバについては対称規制を採用する方向性を示した。これと同時に、今後の固定通信規制の主要課題は、10年を目途に各事業者が全回線を銅線から光ファイバに交換すること、また中小企業に優先的に光ファイバ網への接続を提供することであることが発表された。

2022年11月、ARCEPは2023年の光ファイバ卸売料金規制について、競争市場の成立している208の自治体については特に規制を設けないが、その他の自治体については、競争市場の発展状況に応じて、オランジュの設定した卸売料金が過剰でないことを確認、オランジュに当該の地域で他社がオランジュと同等のコストでFTTHサービスを提供し得るかの調査を行い、その結果をARCEPに通知することを義務付けるとした。

(4)ローカル・ループ・アンバンドリング

2022年6月現在、固定通信事業者の有する銅線のうち開放回線の割合は95%を超えている。

アンバンドリング料金基準については、2020年12月のオランジュのブロードバンド卸売市場でのSMP事業者指定時、2021~2023年まで、銅線当たりの月額料金の標準は、フルアンバンドル回線で9.65EUR、ラインシェアリング回線で1.77EURとされた。

(5)番号ポータビリティ

固定電話では2001年1月1日、移動電話では2003年7月1日から番号ポータビリティが利用可能である。移行手続は固定・移動とも、事業者共通番号「3179」への連絡により、音声ガイド及びSMSの指示に従って所定の情報を通知するだけで処理される。移行作業は元の契約の解約も含め、すべて移行先の事業者が実施するため、消費者からの解約通知等は不要とされる。

ARCEPは2021年6月、上記の手続につき、海外県・領土の住民、企業向けまた付加価値サービス向けの番号についても利用可能とする旨の公開協議を開始、2022年6月に11事業者からの回答を公開した。

2021年のポータビリティ・サービスの利用件数は、固定で前年比14.5%増の約301万、移動で前年比20.8%増の約714万であった。

またインターネット・サービスにおいては、2021年5月に創設された「郵便・電子通信法典」第L34-15条が、エンドユーザがISPを変更する場合、移行期間は1営業日以内とすること、契約の乗換えの通知から移行が終わるまで、移行元の事業者は従来のサービスを継続すること、移行元・移行先双方の事業者は当該のユーザにネット接続条件にかかわる情報を提供すること等を規定している。

(6)国際競争力強化政策

政府は、デジタル産業振興と国際競争力強化戦略の一環として、2013年末から以下を基本方針とするデジタル・ベンチャー支援プログラム「French Tech」による企業支援を実施している。

2021年にFrench Techの関連各基金から助成を受けたプロジェクトは784件、助成総額は前年比115%増の115億7,000万EURであった。うち304件がインターネット・サービス関連で、この分野での助成総額は約39億2,500万EURであった。ソフトウェア開発、情報通信分野にも108件に約21億6,100万EURの助成がなされている。

2022年9月現在、FrenchTechでは20余りのベンチャー支援プログラムを展開している。このうち、特に「DeepNum20」では、政府のイノベーション技術開発支援計画「France2030」(2021~2026年のICT分野への予算総額105億EUR)の一環として、2022年9月に5G、クラウド・コンピューティング、AI、サイバーセキュリティ等を含むICTソリューション開発プロジェクト助成に関する公募を実施した。

また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で停滞した経済の復興を目指す産業振興プログラム「France Relance」では、2020~2022年までの計画に「デジタル社会化と先端産業ベンチャー支援」が含まれ、中小企業向けに70億EURの支出が予定されている。

特に重視されているのは革新的技術開発分野で、首相府による先端産業育成プログラム「未来への投資」の枠組みで、デジタル医療システム、交通機関の脱炭素・デジタル化、クラウド・コンピューティング、5G関連技術開発、サイバーセキュリティに合計24億EURの予算が割り当てられている。

また、2021年12月までに経済・財務・再興省(当時)がサイバーキャンパス構築、地方自治体の超高速ブロードバンド普及、中小企業のデジタル化推進等に関するプロジェクトの公募を実施している。

(7)AI/IoT発展支援

政府はAI推進プログラム「国家AI戦略」により、2018~2022年に15億EURの資金を投入し、以下を実現するとしている。

2021年11月には、同戦略の第2フェーズとして、「France 2030」から7億EUR、「未来への投資」から5億7,700万EUR、更に民間の支援を得て総額20億EURの予算を投じる計画が発表された。2025年までの支援対象は以下のとおりである。

このほか、高等教育機関でAI技術を学ぶ学生向けに1人当たり781EURの研修費用を負担するとしている。

モノのインターネット(Internet of Things:IoT)については、2016年からFrench Techが九つの重点的育成産業項目の一つとして、16都市を拠点とする起業・エコシステム形成支援を行っている。首相府下の独立規制機関「戦略フランス(FRANCE STRATÉGIE)」が2021年5月、この技術の経済的影響に関する調査を開始、2022年2月にその結果を発表し、IoT産業発展のための戦略策定、国際協力、利用に関する倫理基準、認証、使用データの安全性の確保等に関する30の提言を行った。同機関の予測では、2020年から2030年の間に、世界のIoT関連機器は倍増し、うちフランス製のものが占める割合は3%、450億USD程度になるであろうとされている。

3 情報通信基盤整備政策

(1)ユニバーサル・サービス
①概要

「郵便・電子通信法典」第L35-1条は、ユニバーサル・サービス対象範囲をブロードバンド及び音声サービスへのアクセスとしている。また、障がいを持つ人々には、通信サービスを享受し得る技術上の措置あるいは代替サービスを提供するとしている。

ユニバーサル・サービス事業者の選定は公募によるが、公募により決定されない場合は、電子通信担当相が当該事業者(複数可)を指定する。ユニバーサル・サービス事業者の指定を受けた事業者は、通信担当相と協約を結び、ユニバーサル・サービスの品質とエンドユーザ向け料金基準を提示する。2020年までのユニバーサル・サービス事業者はオランジュであったが、2021年以降のユニバーサル・サービス事業者の指定は2022年9月現在、まだ行われていない。しかしながら、オランジュは2021年5月、2020年まで負ってきたユニバーサル・サービス事業者としての義務(加入者へのアクセス・サービスと社会的弱者への料金軽減)を2023年まで継続するという協約を結んでいる。

②ユニバーサル・サービス費用

年ごとのユニバーサル・サービスの純費用の算定は、「郵便・電子通信法典」第L35-5条により、ARCEPが指定する独立団体が実施する。

前年度に小売市場で1億EUR以上の売上高を計上した公衆電子通信網事業者及び公衆電子通信サービス事業者は、ユニバーサル・サービス基金への拠出義務を有する。各事業者の負担割合は、電子通信サービス(相互接続等、他の事業者に対するサービスを除く)による売上高に応じてARCEPが年ごとに決定する。

2022年4月のARCEP決定で発表された2020年のユニバーサル・サービス費用の算定では、拠出を行った事業者は14社、サービスの純費用は約318万EURであった。

③ユニバーサル・サービス基金

事業者からの拠出金は、預金供託金庫(Caisse des Dépôts:CDC)が特別会計を設定、ユニバーサル・サービス基金を運営して、会計上・財務上の管理を行う。

(2)デジタル・ディバイド解消

オランド大統領(当時)は2013年2月、2009年からの超高速ブロードバンド計画を見直し、新たなブロードバンド基盤整備目標として、「2022年末までに全国の世帯を光ファイバに接続可能にする」ことを掲げた。政府は2022年までの超高速ブロードバンド基盤整備に要する投資総額を約200億EURと見積もり、その約3分の2は通信事業者が負担すべきとしている。

政府は光ファイバ網構築の対象地域を、①人口密度が比較的高く、通信事業者が自社の投資資金で個々の通信網を構築することが可能、②複数の事業者が共同投資により構築した通信網を共有、③人口密度が低く事業者が基盤投資に関心を示さないため自治体が資金を提供し通信網構築を主導、の3通りに分類している。助成の対象となるのは主に③であり、公的予算から支出される約60億EURの助成のうち、中央政府からのものは半分の約30億EURで、残りは地方自治体予算や公的金融機関の長期貸付からとされている。中央政府からの助成の財源については、約20億EURが、2Gサービスに用いられている周波数帯域のLTE転用に伴う年間2億EURの周波数利用料収入、10億EURが国債収入からとされている。

2022年6月現在、超高速ブロードバンド(最大通信速度30Mbps以上)が接続可能な場所は前年同期比13%増の約3,503万(うちFTTHが3,200万)である。地方自治体のネットワーク構築プロジェクトによるFTTH回線数は前年同期比27%増で約950万である。また、オランジュと契約を結んだ自治体では、契約数の87%に当たる1,100万超の場所がFTTHサービス利用可能となり、XP Fibre(SFRグループに属するFTTH基盤構築・管理事業者で、2021年5月に上記のブランドを立ち上げた)と契約を結んだ自治体では、契約数の94%に当たる270万弱であった。ARCEPは地域のFTTH接続状況につき、サイト上で3か月ごとのマップを公開している。

なお、「デジタル共和国法」第71条はARCEPに対し、事業者に光ファイバ網拡張への投資を促し、光ファイバ網の整備計画を申告した地域を「ファイバ地域」として認定する権限を与えた。2021年12月までに、400以上の自治体が認定を受けている。これらの地域では、オランジュによる加入者回線の銅線から光ファイバへの転換等が優先的に実施されるかわりに、自治体政府にはビジネス向けの建造物へのファイバ設置が建物の所有者の申込みから6か月以内に行われること、FTTHサービスの質について3か月ごとにARCEPに報告する等の義務が課せられる。

地方自治体の主導するプロジェクトへの助成としては、「France Relance」が2021年1月に光ファイバ、2022年2月に無線分野での支援計画を公表、公募で選出された自治体には、接続工事の費用の補助として、1件当たり最大300EURを支給するとした。

また、モバイル・ブロードバンド利用の増大に伴い、接続端末を問わない無線網からのブロードバンド接続推進のため、移動体通信事業者にはTD-LTE網の構築また固定網の加入者のLTE網接続の受入れが求められている。

(3)移動体通信網のカバレッジ拡大

2016年8月の「郵便・電子通信法典」改正により、地方自治体には任意の移動体通信網運用事業者に、適正な料金でのモバイル・インフラ構築を委託する権利が保証された。委託を受けた事業者は、当該地域で3G以上のサービス・カバレッジを達成する義務を負う。2017年からは、50m四方の単位で4ネットワーク事業者の人口カバレッジ及びサービス評価を図示する「monreseaumobile」ポータル・サービスが実施されている。また、2018年1月には、政府と通信事業者の間で、LTE網・サービスを中心に全国的なカバレッジ拡大努力を旨とする協約「New Deal Mobile」が結ばれた。この協約に従い、2018年の900MHz/1800MHz/2.1GHz帯の再割当においては、各事業者がLTEカバレッジ義務を遂行することを条件として、免許取得料を徴収せず、「自動更新」の形式で新たに10年間の周波数使用許可が付与された。これに基づき、ARCEPは年に数回の省令によるカバー対象自治体のリストをサイト上で公表している。

「郵便・電子通信法典」第L42-2条は、周波数割当における競争入札の目的の一つに対応サービスのカバレッジ拡大を挙げ、割当条件で最優先されるものはネットワーク拡張義務であると規定している。2020年の5G向け周波数割当においても、落札事業者には一連のカバレッジ達成義務が課せられた(電波/Ⅱ-3(4)③の項参照)。

全国周波数庁(ANFR)は、5G周波数割当を受けた各事業者の対応基地局数やカバー地域に関する統計を月ごとにサイト上に掲載している。

(4)IPv6

「デジタル共和国法」第42条は、2018年以降、仏国内で販売される通信機器をすべてIPv6対応とするべきと定めている。ARCEPは2016年9月に政府にIPv6移行推進のための提言を行い、2016年から年ごとに現状報告を実施している。ARCEPは2019年2月、IPv6普及の阻害要因を分析した。これに基づき、同年11月には、通信事業者、公的機関、ICT関連企業等からなる諸問題解決のためのタスクフォースが活動を開始、継続的に諸団体の参加を呼び掛けている。2020年12月には、企業向けのIPv6移行ガイドラインが発行、2022年6月には改訂版が出されている。

2021年半ばで、仏国内のIPv6対応サイトは全体の約62%、固定網における4ネットワーク事業者のIPv6導入率はフリー(Free)で99%、オランジュで83%である一方、ブイグ・テレコム(Bouygues Telecom)は44%、SFRは4.1%となっている。移動体網でのIPv6利用可能性は、ブイグ・テレコムがアンドロイド端末利用者の87%、iPhoneで99%、オランジュはアンドロイド端末で47%、iPhoneで66%、SFRはアンドロイド端末で13%、iPhoneで90%であった。フリー・モバイルではほとんど進展が見られなかった。

(5)5Gセキュリティ対応

「国家デジタル・セキュリティ戦略」(5(2)の項参照)により、移動体通信事業者は、5G網の構築・運用に際し、国家情報システム・セキュリティ庁(Agence Nationale de la Sécurité des Systèmes d’Information:ANSSI)の指示に従い、システム防御のための一連の措置をとり、トラブルの際にはANSSIへの通知を行うことが義務付けられている。

「郵便・電子通信法典」第Ⅱ部第1編第2章第7節は、国防・国家安全保障の観点から、5G以降の無線通信網関連ハード・ソフトウェアの利用に際して、通信事業者は首相府の定める様式に従い事前に審査を受け、許可を得ることと規定している。許可の期限は最大8年である。

4 ICT政策

(1)国家デジタル化計画

2015年6月、「デジタル共和国」を目指す戦略計画を発表した。この計画の主目標は、イノベーションの自由、デジタル社会での権利の平等、デジタル・ディバイドの解消デジタル・サービス提供モデルとしての国家で、具体的政策課題には、「French Tech」の強化と国際化、オープン・データ及びオープン・イノベーションの推進、企業及び教育機関へのデジタル・サービス普及等が挙げられた。また、2016年11月には、外務・国際開発省(現欧州・外務省)が、①世界的にオープンで多様性に富み信頼性の高いデジタル世界の促進、②経済成長・基本的権利・自由とセキュリティにおいて共通した欧州モデルの構築、③仏や仏企業のデジタル分野における影響力・魅力・セキュリティ・商業的ポジションの強化を3原則とする「デジタル国際戦略」を発表している。

(2)新規制戦略

ARCEPは2015年6月、「国家デジタル化戦略」に合わせて、今後の規制の中心を競争市場調整からデジタル化への投資振興にシフトする方針を明らかにした。2016年1月には、①インフラ投資促進、②コネクテッド・サービスの普及、③オープン・インターネット、④プロ・イノベーションの育成を四つの柱とした2016~2017年の規制実施計画「新規制戦略」を公開した。

2018年以降も、「新規制戦略」の基本方針は引き継がれている。2022年6月にサイト上で公開されたマニフェストでは、ARCEPは同機関の主な役割を以下の二つにまとめている。

ARCEPはまた2020年から、「持続可能なデジタル社会」を目指し、環境保護関連機関と連携して、端末リサイクル等を推進、近年に予定されている26GHzの5Gサービス向け割当てに際しても、環境問題への取組みを審査項目の一つとすることを検討している。また一般のユーザに対して、ADSLよりエネルギー効率のよいFTTHへのプラン乗り換え、ファイルのダウンロード量の調整、機器の長期利用等、温室効果ガス減少に効果があるとされている行動を推奨している。

2022年4月には、2010年代後半からの通信事業者の温室効果ガス発生量や不要端末の回収等に関するアンケート調査結果を発表、今後も年ごとに調査を実施するとした。

(3)ネット中立性

政府は2011年8月の「郵便・電子通信法典」改正において、ネット中立性の原則を明示し、通信事業者に技術中立で最大多数のエンドユーザに情報・アプリケーション及び各種サービスへのアクセスを提供することを義務付けた。

2014年3月の「ARCEP決定第2014-0353」公布後、固定電話・インターネット接続サービスに関する事業者ごとの品質調査結果が半年ごとに発表されている。

2016年10月の「デジタル共和国法」第40条は、ARCEPをオープン・インターネットに関する政策策定・事業者管理機関と定め、ネット空間の開放原則に反する通信事業者の行為に関し、同機関は保全措置を科す権限を有するとした。

2022年7月に発表された同機関の年次活動報告で、近年の同機関の「ネット中立性」維持に関する活動は以下にまとめられている。

また、通信事業者が5G網上で多様なサービスを受け入れながら「中立性」を確保する手段としてネットワーク・スライシングを推奨している。

(4)オープン・データ

2016年10月、「デジタル共和国法」発効後、各省庁の公的データの公開が進み、2022年現在、首相府の司るオープン・プラットフォーム「https://www.data.gouv.fr」上で、11の行政分野に関する各種政府データの閲覧が可能になっている。2022年9月現在、トップページ上で重点分野に挙げられているのは、セキュリティ、地理、住宅・都市計画である。

5 消費者保護関連政策

(1)個人情報保護

個人情報保護を目的とした「情報処理、情報ファイルと自由に関する1978年1月6日付法律第78-17号」に基づき、インターネット・コンテンツ・プロバイダ等には、オンラインでの個人情報の利用について、その利用目的の明確化と関係者の同意を得ることが義務付けられている。

また、CNILは、「2012年3月30日のデクレ第2012-436号」に基づき、通信事業者に対し、自社の通話やネット接続等のサービスにかかわる事項で個人情報侵害の事実があった場合、直ちにその詳細と講じた対策について通知することを義務付けている。

「デジタル共和国法」第2部(Ⅱ-2の項参照)は、2016年4月に欧州議会で採択されたEU「データ保護規則」に準じて個人情報保護の原則を規定している。特に個人情報の自己管理権については、CNILを監督機関と定め、同機関が違反者に科す罰金額の上限を従来の15万EURから300万EURまで引き上げた。CNILはユーザが個人情報を自己管理するための啓発活動に注力しており、以下の権利に関する周知、トラブルを避ける方法、トラブル解決方法等をサイトで紹介している。①自らに関する情報を取得する権利、②自らに関する情報の他者による利用を拒否する権利、③自らに関する誤った情報を修正する権利、④検索エンジンに名前を記載しない権利、⑤自らに関する情報を消去する権利、⑥データの持ち運び(自らに関する情報データを所有し再利用する権利)、⑦データの自動処理に際し人間の目による監査を要求する権利、⑧個人情報データ利用を主導する権利、⑨警察・検察機関が有する自らに関する情報ファイルにアクセスする権利、⑩金融機関が有する自らに関する情報ファイルにアクセスする権利。

2020年9月の「情報処理、情報ファイルと自由に関する1978年1月6日付法律第78-17号」改正及びそれに基づく勧告により、CNILはウェブサイトの運営者に、個々のユーザに対し、ポップアップ・ウィンドウ等でCookie利用の是非について問い合わせ、了解を得なければ情報収集を行わないこと、ユーザがCookie利用を拒否する際の手続を簡略化することという規則を提示した。

CNILは上記を根拠として、2020年12月には、アマゾン(Amazon)及びグーグル(Google)、が、仏国内の利用者に対し、事前の同意や目的の説明なしにCookieの設定を行ったとして、総額1億3,500万EURの制裁金を科すと発表した。2021年12月にも再びグーグルに1億5,000万EUR、フェイスブック(Facebook、現メタ(Meta))に6,000万EURを科すとしている。CNILの2021~2022年の主な課題は、この規則の適用対象の拡張であり、拡張現実動画、クラウド移行、スマートフォン・アプリが特に重要としている。

また、2022年3月には、通信端末の製造、流通、輸入等にかかわる事業者に対し、当該の端末に未成年に有害なサービスやコンテンツへのアクセスをブロックする機能を付けることを義務付ける条項が「郵便・電子通信法典」に追加された。

(2)デジタル・セキュリティ

2015年10月に発表された「国家デジタル・セキュリティ戦略」は、セキュリティ関連政策の監督・執行機関を、首相府防衛・国家安全総局(Secrétariat Général de la Défense et de la Sécurité Nationale:SGDSN)及び同局下のANSSIとした。従来国防・政府機関を中心としてきたセキュリティ対象を市民生活に拡張、①国防、②デジタル・サービスの信頼性向上、③セキュリティ教育、④デジタル関連企業支援、⑤欧州内におけるサイバー空間の安定性、を主目標として、デジタル身分証明、セキュリティ教育カリキュラム、サイバー犯罪被害者救済等に関する計画が示されている。2016年11月には、電子通信産業のサイバーセキュリティ対応に関する省令が発効し、通信事業者は、SGDSN下のANSSIに対し、その有する情報システムのリストを提出、年ごとに更新報告を行う義務が課せられた。また、セキュリティ・システムに何らかのトラブルが生じた際は、その都度ANSSIに報告することとされている。2018年7月の「郵便・電子通信法」改正では、これに加え、第L34-14条で、通信事業者はシステム防御のためANSSIの指示する技術的措置をとること、関連データを6か月までの期間で保存すること、ANSSIの要求に従い加入者にセキュリティ危機についての通知を行うこと等の規定がなされた。2021年7月の同法第L34-1条改正時には更に、国防や治安維持の観点から、通信事業者は個々の加入者について、契約期間終了後もその身元については5年、契約条件、支払記録及び利用端末については1年間記録を保存すること、また首相令によりある種の通信データを1年までの期間で保存する場合が生じ得ることが定められた。

ANSSIは2020年9月以降の同機関の主要活動は、経済復興プログラム「France Relance」の枠組みに従い、民間企業と協力して公的機関のセキュリティ強化のための各種提言を行うとともに、地方自治体や病院等の公共施設のプロジェクトへの助成を実施している。また、一般企業の開発したセキュリティ・ソリューションの審査を実施、優れたシステム防御力を持つと判断された商品に「Security Visa」証明を付与している。

一方、マクロン大統領は2021年2月にサイバーセキュリティ関連企業育成策として、「サイバーセキュリティ強化戦略」を発表、2025年までの予算額を官民合同で10億EUR(うち4分の3を政府が負担)とした。主目標には、関連企業の年間売上高合計を5年間で250億EURまで引き上げること、2025年時の関連企業の従業員を2020年現在の倍以上の7万5,000人まで増やすこと等が挙げられた。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

電子通信端末機器の型式認定は、EUが1999年に発出した「R&TTE指令(1999/5/EC)」に準拠した「2001年7月25日の布告第2001-670号」及び「2003年10月8日のデクレ第2003-961号」によって国内法制化されたが、2014年5月にR&TTE指令に代わる新たな無線機器指令(Radio Equipment Directive :RE Directive(2014/53/EU))がEUにおいて公示されたため、「無線設備の市場投入に関する2016年4月21日の命令第2016-493号(Ordonnance n° 2016-493 du 21 avril 2016 relative à la mise sur le marché d’équipements radioélectriques)」により、これを国内法制化した。

なお、電子通信端末機器の適合性検査手続を実施し、適合検査証を発行する組織はARCEPが指名している。当該の組織の指定条件、検査対象となる機器の技術的条件、検査証発行の条件等は、国務院の議を経るデクレで定める。

Ⅴ 事業の現状

1 市場の概要

ARCEPは、2022年5月、2021年の電気通信事業市場動向を発表した。通信事業者の総売上高(小売)は前年比2.5%増の約316億EURである。固定部門は超高速ブロードバンド利用の拡大により微増傾向にある。移動部門は増加傾向が継続、コロナ禍での移動制限がやや緩和されてローミング・サービス利用が回復しつつあり、増加率は前年の0.8%から4.7%になった。

通信事業者の投資総額は約155億EURで、前年比4.1%減であったが、これは前年の5G向け周波数割当のようなイベントがなかったためで、周波数利用許可取得料を除いた投資額は前年比10.8%増である。

通信事業者全体の従業員数(直接雇用)は前年比4.0%減の9万8,368名で、減少傾向が続いている。

2 固定電話

2022年6月末現在、固定電話全体の加入数は約3,795万5,000、うちPSTN回線によるものは前年同期比15.5%減の約540万5,000であった。IP電話は2.9%増の約3,255万で、電話全体の約85.8%に達している。固定電話サービスを提供可能な回線数は約3,724万6,000、うち銅線は1,898万8,000で、その割合は2014年の94%から52%まで下がっている。音声電話の通話時間は、COVID-19の影響もあり、2020年4~6月期は前年同期比21.7%と大幅に増加したものの、その後は減少が続いており、2022年4~6月期は前年同期比26.2%減、1か月当たりの通話時間の平均は、PSTN回線では1時間10分、IP電話では1時間13分であった。

3 移動体通信

2022年6月現在、移動電話サービスの加入者総数は前年同期比2.9%増の約8,158万8,000(M2M対応SIMカードを除く)で、加入率は120.2%となった。うちポストペイド契約は7,407万7,000である。ポストペイドで最低契約期間のないプランへの加入については5,302万1,000で、ポストペイド全体の74.1%である。M2M対応SIMカード数は前年同期比5.0%増で約2,406万2,000となった。海外県・領土を除く事業者の種別では、ネットワーク事業者4社(オランジュ、SFR、ブイグ・テレコム及びフリー・モバイル)の個人契約合計加入数は7,361万8,000で、前年同期比6.2%増であった。MVNO加入者の合計数は648万、前年同期比9.7%減と2021年から減少傾向にあり、市場シェアは8.3%である。

LTEサービスは、オランジュとSFRが2012年11月に2.6GHz帯と800MHz帯で商用サービスを開始した。ブイグ・テレコムについては、2013年10月に2Gサービスの再利用の1800MHz帯でサービスを開始した。フリー・モバイルは2013年12月に2.6GHz帯でのLTEサービスを開始した後、2015年1月からは2014年12月に割り当てられた1800MHz帯の一部を用いて地方都市向けにLTEサービスを提供している。2022年6月現在、各事業者のLTEサービスの人口カバレッジはほぼ99%に達し、対応SIMカード数は前年同期比8.1%増の約6,827万8,000、全体に占める割合は84%になった。2020年末に開始された5Gサービスについても、加入者件数は四半期ごとに100万強のペースで増えており、2022年6月には約510万1,000である。LTEサービスの普及に伴いデータ使用量は増加し続けており、2022年4~6月は前年同期比20.7%増であった。音声通話については、2020年にはCOVID-19の影響もあり、一時は30%台の増加を見たものの、2021年には減少に転じて、2022年4~6月の通話時間合計は前年同期比9.5%減となっている。また、固定ブロードバンド接続とのバンドル利用がポストペイド契約の加入件数の約31%、プリペイド契約加入件数の約28%を占めている。

端末ではスマートフォン利用が定着し、2021年のスマートフォン普及率は世界第5位で約77.6%であった。

5Gについては、2021年9月までに、全国周波数庁(ANFR)が認可した基地局数は、700MHz帯で2万266(サービス提供はフリー・モバイルのみ)、2100MHz帯で1万5,572(サービス提供はブイグ・テレコム、オランジュ、SFR 及びOutremer Telecom)、3.5GHz帯で2万1,130(サービス提供はブイグ・テレコム、フリー・モバイル、オランジュ、SFR及びSRR)であった。

4 インターネット

(1)概要

2022年6月末現在、国内の固定ブロードバンド・サービス加入数は前年同期比2.3%増の約3,172万7,000である。うち約1,111万9,000がADSL利用であるが、超高速ブロードバンドの伸長に伴い、接続別シェアは減少を続け、40%を下回った。超高速ブロードバンド加入数は全体の63%の1,995万(FTTHが約1,629万8,000、残りは同軸ケーブル又はvDSL)、(幹線が光化されていない)ケーブル、衛星等のサービス加入数は65万8,000である。

固定ブロードバンド市場では、総合通信事業者4社でシェアの90%以上を占めており、各事業者のシェアにも数年間大きな変化はない。

モバイル・ブロードバンドについては、2021年12月現在、加入率は93.9%で、欧州では18位、OECD諸国中では25位である。

(2)FTTH

主要4事業者はいずれもFTTHの商用サービスを提供しており、インターネット接続の最高速度は8Gbpsに達している。

2022年6月現在、主要都市及びその近県、その他の人口密度の比較的低い地域でも通信事業者主体のネットワーク構築が行われている地域ではほぼ80%以上が接続可能地域になっているが、地方自治体がネットワーク構築を主導している地域では、この割合がまだ50%以下の地域も多い。FTTH回線数は全事業者合計で約3,212万6,000、うちオランジュが1,716万、SFRグループが435万程度である。光ファイバ接続可能な場所の住民は51%がFTTHサービスに加入している。

各事業者は2010年代後半に2022年までの国内の光ファイバ接続世帯数の目標を発表しており、オランジュとフリーは2,000万世帯としていたが、2022年6月現在、オレンジのFTTHサービス加入者数は約653万7,000、フリーは約421万6,000である。またSFRは2017年7月、国の助成に頼らずに2022年に国土の80%、2025年には100%を同社の光ファイバ網でカバーする計画を明らかにした。

(3)IPTV

主要4事業者はいずれもトリプルプレイ・サービス・パッケージにIPTVサービスを組み込んで提供している。2022年6月現在、IPTV視聴可能な契約の加入者は、約2,352万2,000で、ブロードバンド加入者の約74%である。接続種別では、ADSLが前年同期比16.6%減の約845万3,000、FTTH、衛星及びケーブルが19.8%%増の約1,506万9,000で、FTTHの割合が増加し続けている。

2021年12月現在、IPTVのみでテレビを視聴している世帯はテレビ視聴世帯全体の39.4%、地上デジタルや衛星と併用している世帯は約25.1%であった。

どの事業者も地上デジタルテレビ放送の無料チャンネルを含む140チャンネル以上の番組パッケージを提供、ビデオ・オン・デマンド(VOD)の利用も可能である。各事業者の有料オプションにはネットフリックス(Netflix)の動画配信サービスも含まれている。

また、2021年12月現在で、82%の世帯がネット接続可能なテレビ受像機を所有している。うちスマートテレビ機能を用いている割合は約45%である。

5 法人向けソリューション提供サービス

通信各社は近年のICT市場におけるAI/IoT技術開発の活発化に伴い、企業向けの各種ソリューション提供サービスの充実に努めている。2021年から2022年には特に、国際情勢の変化を背景にセキュリティ関連のサービスへの関心が増大した。例えばオランジュの法人向けサービス部門であるオランジュ・ビジネス・サービス(Orange Business Services)では、2021年にこの部門の売上高が前年比14%増を記録した。同社は顧客のニーズとして、職場のデジタル化による生産性向上、ビッグデータのビジネス活用、IoTイノベーション開発等があるとしているが、その実現には安全性の高いネットワークが不可欠であるとして、2022年のキーソリューションの一つにマルチアクセス+マルチアプリケーション+マルチクラウド接続環境の整備を挙げている。SFR及びブイグ・テレコムの法人向けサービス部門でも、クラウド・セキュリティが提供サービスの中心に置かれている。

Ⅵ 運営体

1 オランジュ

Orange S.A.

Tel. +33 1 44 44 22 22
URL https://www.orange.com/
所在地 78-80 rue Olivier de Serres, 75015, FRANCE
幹部 Christel Heydemann(社長/General Director)
概要

フランス・テレコム(FT、当時)は1991年に当時の郵便・電気通信省から分離され国営企業として発足、1996年に株式会社となり、2004年9月に民営化した。2021年12月の主な株主は、機関投資家が約59.6%、政府及び政府系金融機関が約23%、従業員が約7.4%で、残りが個人投資家であった。

2010年3月に就任したRichard社長は、途上国市場への積極的進出、LTEサービスの伸長を主とした5年計画「Conquest2015」「Essentiels2020」を経て、2019年12月、世界的な高齢化やCO2削減等の環境問題解決を見据えて積極的にICTソリューションの提供を図る「Engage2025」を発表した。この戦略計画の主要目標は以下のとおりである。

財務上では、2021年から2023年の間に、年間営業利益率を2%から3%引き上げる、キャッシュフローを2019年の20億EURから2023年には35億~40億EURとする等が挙げられている。

2022年4月、新社長Heydemann氏の下で、オレンジはグループの重点活動領域を、①ネットワーク拡充、②法人向けサービス、③サイバーセキュリティ、④モバイル金融サービス、⑤ベンチャー支援、⑥イノベーション推進であるとした。また、持続可能な社会参加として、世界規模でのデジタル利用環境の平等化を目指し、中近東・アフリカでデジタル・センター開設等を行うとともに、2040年までに温室効果ガス排出をゼロにするという目標を掲げ、端末リサイクルや太陽光基地局設置等を進めている。2021年のグループの連結売上高は、前年比0.6%増の約425億2,200万EUR、営業利益は前年比0.9%減の約125億6,600万EUR、純利益は前年比84.6%減の約7億7,800万EURであった。純利益の大幅な減少は、減価償却費また税金支払のためであるとされている。

2021年12月現在、同社は26か国で移動体通信を中心に事業を展開している。

世界各地における関連会社の所在 (2021年12月現在)
地域
欧州 フランス、スペイン(ADSL含む)、ポーランド(固定電話・ADSL含む)、スロバキア、ルーマニア、モルドバ、ベルギー、ルクセンブルク
中近東 ヨルダン(ADSL含む)
アフリカ ボツワナ、カメルーン、コートジボワール、セネガル(ADSL含む)、マダガスカル、マリ、ギニア・ビサウ、ギニア共和国、中央アフリカ共和国、ニジェール、チュニジア、エジプト、コンゴ民主共和国、モロッコ、モーリシャス、ブルキナファソ、シェラレオネ

出所:Orange「Document d’enregistrement universel 2021」p.6

2021年には、前年に引き続き中東・アフリカでのLTE事業が順調に進み、加入者数は合計で約4,400万になった。欧州では、通信サービスの売上高は固定・移動とも約2%の減少であったが5Gサービス地域拡張を受け、対応機器の販売額が前年同期比8.4%増となっている。また世界中でモバイル金融サービスの利用が活発化し、特に欧州では2021年の利用者が170万、取引高は12億EURを超えた。アフリカでも、継続的に送金等のサービスを利用する加入者数は前年比14.4%増の2,510万である。法人サービスの2021年の業績は、固定通信部門の落ち込みから、全体では横ばいながら、サイバーセキュリティを中心にITソリューションとモバイル・サービスの売上高は堅調な伸びを見せている。

国内事業の2021年の売上高は、個人向けサービスではFTTHや移動電話でのバンドル・サービスの伸びによる加入者1人当たりの売上高が増加傾向にあるにもかかわらず、法人サービス部門での売上高が前年比で1割近い減少を見たため前年比2.0%減の約180億9,200万EURとなった。

なお、仏国内では、2022年6月現在、通信すべての分野で第1位の地位を保ち、各種サービスの加入者は以下のとおりである。

同じく2022年6月、進出国全体での移動電話加入数は約2億3,575万、固定ブロードバンド加入数は約2,400万、欧州での固定・移動融合サービスの加入数は約1,155万となった。

2 SFR

Tel. +33 1 85 06 00 00
URL https://www.sfr.fr/
幹部 Mathieu Cocq(社長/General Director)
概要

オランダの多国籍ケーブル事業者Alticeグループの完全子会社で2022年現在、BFM/RMCのメディアグループ、ERT等、複数のエンジニアリング会社と共に「Altice France」グループを構成している。2021年の通信サービス事業の売上高は、FTTH加入の伸長等により、前年比1.8%増の98億190万EURであった。

2022年6月現在、主要サービスの加入件数は以下のとおりである。

3 イリヤッド・グループ

Tel. +33 1 73 50 20 00
URL http://www.iliad.fr/
幹部 Thomas Reynaud(社長/Director General)
概要

1991年に設立された複数の通信関連事業者グループで、ブランド名「フリー」を掲げ、単純な商品構成と徹底した低価格を集客戦略としている。2022年6月現在の固定ブロードバンド加入件数は約704万6,000、うちFTTHは約421万6,000である。移動電話加入者総数は1,385万8,000で、創立後初めて減少を記録した2021年の減少分を取り戻し、新たに46万4,000の新規加入者を得た。

2018年にはイタリアに進出、2022年6月までに約900万の移動電話加入者を得ている。2022年1月にはFTTHサービスも開始した。また、ポーランドでは2020年11月に移動体通信事業者Play、2022年4月に固定通信事業者UPCの株式のそれぞれ100%を取得した。

グループの2021年の連結総売上高は前年比29.2%増の約75億8,700万EUR、うち仏国内の売上高は前年比3.8%増の約51億9,500万EURであった。主要株主は創立者のNiel氏で、2022年3月現在、グループの持株会社の株式の71%を所有している。

4 その他の主な事業者

事業分野 事業者 URL
移動体通信 ブイグ・テレコム https://www.bouyguestelecom.fr/

放送

Ⅰ 監督機関等

1 文化省

Ministry of Culture

Tel. +33 1 40 15 80 00
URL https://www.culture.gouv.fr/
所在地 182, rue Saint-Honore, 75001 Paris, FRANCE
幹部 Rima Abdul Malak(大臣/Minister)
所掌事務

省内のメディア・文化産業総局が放送を含むメディア全般の政策立案と実施、規則・基準の制定を司る。公共放送については、事業者に対する運営規則の制定、一部の経営委員の任命、年次予算の策定等を行っている。

2 視聴覚とデジタルコミュニケーション規制機関(Arcom)

Autorité de régulation de la communication audiovisuelle et numérique

Tel. +33 1 40 50 38 17
URL https://www.arcom.fr/
所在地 Tour Mirabeau, 39-43, quai Andre-Citroen 75739 Paris cedex 15, FRANCE
幹部 Roch-Olivier Maistre(議長/President)
所掌事務

2022年1月、「デジタル時代における文化作品へのアクセスの保護と規制に関する2021年10月25日の法律第2021-1382号」に基づき、インターネットにおける著作物の頒布及び権利の保護のための高等機関(Haute autorité pour la diffusion des œuvres et la protection des droits sur Internet:Hadopi、2012年~)と放送分野の独立規制機関であった視聴覚高等評議会(Conseil supérieur de l’audiovisuel:CSA、1989年~)の統合により設立された。

運営主体となる委員会は、大統領が任命する議長のほか、国民議会議長、元老院議長による任命が各3名、国務院長、破棄院(国内の司法訴訟に関する最高裁判所)長による任命が各1名の合計9名の委員から構成される。議長を除く委員の年齢は就任時に65歳以下、任期は6年で、他の公職との兼任は不可とされている。また、両院の議長による任命の手続については、野党の意向も反映した選任を企図し、それぞれの文化委員会の委員の5分の3以上の賛成による意見に基づいて行われると規定されている。

具体的な所掌内容は以下のとおりである。

Ⅱ 法令

コミュニケーションの自由に関する1986年9月30日の法律第86-1067号(1986年視聴覚法)

放送分野の基本法令で、数年ごとに大規模な改正を受けている。特に2004年以降の改正については、地上デジタル放送の開始を考慮した電波資源の割当ての枠組みが示されており、2007年3月の改正で、地上アナログテレビ放送の停波期日が定められた。

フランス・テレビジョンの組織改革については、公共放送会社の独立性を向上させるべく、「公共放送の独立に関する法律第2013-1028号」が2013年11月に公布されている。同法により、公共放送会社の会長の選任について、規制機関がその多数決により行う方式となった。また、放送周波数割当や地上デジタル放送の有料から無料への転換の決定権等、放送分野の独立規制機関の権限が大幅に拡張されている。2015年10月の改正では、デジタル・サービスの発展に伴う周波数再編に際しての地上デジタル放送サービスの保証に関する各種規定が付け加えられた。2016年11月、2017年1月及び2月、2018年12月の改正では、番組における品位や多様性の順守が放送事業者に義務付けられ、規制機関が違反者の処罰を含みその監督に当たることが明記された。2020年12月の改正は、EUの放送規制分野の基本指令であるAVM指令の改正版である「指令2018/1808号」の国内法制化で、主として従来の放送コンテンツ規制内容のオンライン・ビデオ・サービスへの拡張を主眼としている。また2021年8月の改正では、環境保護、特にCO2削減に関する一般への情報提供を実施することや、ネット上で流通する映像作品における個人情報保護がCSAの役割に追加された。なお、「デジタル時代における文化作品へのアクセスの保護と規制に関する2021年10月25日の法律第2021-1382号」による同法の改正で、CSAは従来の所掌を保持しつつHadopiとの統合によりArcomとなった。2022年8月の補正予算法律第6条は、公共放送の受信料制度の廃止を決定した。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)概要

放送事業の開始に当たっては、国務院の議を経るデクレが定める条件に従い、各事業者にArcomとの協約によりサービス許可が付与される。

電波資源の利用許可を必要とする放送事業に関する許可の付与は、Arcomが公表する利用可能な周波数のリストに基づき、公募により実施される。地上テレビ及び地上デジタルラジオのサービスについては、許可の期間はデジタル放送で10年、アナログラジオ放送で5年を超えないものとされる。この許可は、公募を経ずに5年ごとにテレビは1回、ラジオは2回まで更新可能である。

ケーブル、IPTV等、周波数を利用しない通信網を用いて配信される番組の編集事業者については、100世帯以上を対象とするサービス配信者は、Arcomに事前の届出を実施し、サービス条件に関する協約を結ぶこととする。これらの事業者は、公共放送の番組を無料で配信する義務を有する。

上記のテレビ・サービスの付属でないオンデマンド配信サービスを提供する事業者も同様に、サービス開始前にサービス内容に関する届出を実施、Arcomと協約を結ぶこととする。

(2)1事業者による許可件数の上限

放送分野ごとのサービス許可件数の上限は以下のとおり。

(3)メディア所有規制 次の条件のうち二つ以上を備えた者には地上デジタルテレビの全国放送の許可の取得はできない。

また、次の条件のうち二つ以上を備えた者には地上デジタルテレビの地域放送の許可の取得はできない。

(4)資本所有規制

地上又は衛星テレビ放送の資本所有規制の概要は以下のとおりである。

(5)外資規制

「コミュニケーションの自由に関する1986年9月30日の法律第86-1067号」第40条により、政府が署名した国際公約を除き、外国籍の個人又は法人が、国内の地上放送事業者の資本あるいは議決権の20%以上を直接にも間接にも所有することはできない。

2 コンテンツ規制

(1)番組規制
①音楽番組

商業放送事業者の番組内容については、個々の事業者とArcomとの協約に基づき個別に規制を定める。ラジオにおいては、聴取率の高い時間帯に放送する音楽番組中の少なくとも40%がフランス語の歌曲であり、更にその半数は新人の作品あるいは新作でなければならない。事業者の性質により、以下が義務付けられる。

②映画・テレビ番組

テレビ放送のプライムタイムの番組編成において映画あるいはテレビ番組が占める割合は、少なくともその60%が欧州域内で制作されたもの、40%はオリジナル版がフランス語で制作されたものでなければならない。

③地方向け番組

スクランブルを実施しない全国向けテレビ放送事業者が放送する自社制作の地方向け番組は、特にArcomが例外を認めない限り、1日3時間を限度とする。

④社会的弱者保護

未成年者の身体的、精神的及び道徳的成長を阻害する可能性のある番組について、Arcomは個々の事業者との協約に基づき、放送時間の制限や視覚的表示による警告がなされているかについて監督し、催告を与えることができる。オンライン・プラットフォーマーに対しては、16歳以下の未成年者の映像の流出制御に関する憲章の順守状況を定期的に監督する。

放送事業者は、番組が人種、性別、宗教等についての差別的内容を含まないよう留意するものとし、催告等の措置は番組放送後に実施するものとされる。事業者が催告に従わなかった場合、放送停止や協約期間の短縮等の措置が可能である。この規定はオンデマンド方式の番組再送信サービスにも適用される。

また、全国で年間平均2.5%以上の人口が視聴する地上デジタルテレビのチャンネルについては、視聴者の多い時間の番組放送に当たっては、視覚障がい者向けの対応が義務付けられている。

(2)広告規制

Arcomは、オンデマンド・サービスを含む映像放送事業者の広告放送への規制を所掌する。規制の主目的は、人間、特に女性の尊厳の維持と若年層に健全な社会への関心を喚起、危険行動を回避させることである。規制内容には、政治団体の広告の禁止、未成年の健康に悪影響を与える材料が多量に含まれる飲食物や地球環境に悪影響を与える物品・サービスの広告の減少を図ることも含まれる 。サブリミナル広告は禁じられる。プロダクト・プレースメントについては、ニュース、宗教、青少年向け番組等では許可されない。またプロダクト・プレースメントを含む番組の放送に当たっては、事前に視聴者への通知が必要とされる。

テレビ放送における広告は、言語の指定(フランス語)や放送時間当たりの広告放送可能な時間などに制限が定められている。

3 公共放送関連政策

(1)公共放送事業者のガバナンス

「コミュニケーションの自由に関する1986年9月30日の法律第86-1067号」第47条により、国が公共放送事業者フランス・テレビジョン及びラジオ・フランスの全資本を所有する。同法第47-1条により、フランス・テレビジョンの経営委員会は、会長のほか、任期を5年間とする14名の委員で構成され、そのうち2名は国民議会及び元老院において文化事項を所管する委員会によって指名される議員、5名は国の代表、5名はArcomによって任命される独立人、2名は職員代表を充てることとされている。同法第47-2条により、ラジオ・フランスの経営委員会は、任期を5年とする12名の委員で構成され、そのうち2名は国民議会及び元老院において文化事項を所管する委員会によって指名される議員、4名は国の代表、4名はArcomによって任命される独立人、2名は職員代表を充てることとされている。それぞれの会長は、同法第47-4条により、Arcomの多数決により任命される。

国際放送については、国が全資本を所有するフランス・メディア・モンド(France Médias Monde)が国際ラジオ放送RFI及び国際テレビニュース放送France24を運営している。

このほか、ARTEフランスが、ARTEドイツ及びARTE GEIEと共に、ARTEグループを構成し、文化・教養専門のテレビ・チャンネルARTEを運営している。

公共放送機関には、3~5年間の事業計画である「目標手段契約」を政府に提出し、年ごとに実現報告を行う義務が課せられている。フランス・テレビジョンについては、2016年7月に、フィクション制作への年間4億2,000万EUR以上の投資、ビデオ配信プラットフォームの形成、ニュース専門チャンネルの放送開始の3点を中心課題とする2016~2020年の計画を提出し、以下の実現のために2020年までに合計6,300万EURの助成金増額を要求した。2021年以降については、新たな「目標手段契約」は提出されていないものの、数回のデクレにより、2020年までの計画の修正が発表されている。

2018年6月には、文化省が新たな公共放送改革案を提示、フランス・テレビジョンに対し、視聴率の低い2チャンネル(F4及びFô)の廃止を提案した。フランス・テレビジョンはこれに基づき、2020年8月に海外県・領土向け放送のFôの閉鎖を決定した。若年層向けとされていたF4については、CSA(当時)がCOVID-19の影響で学習の機会が減少した児童生徒への教育放送を評価したこともあり、チャンネルを保存しての内容再編となった「2021年6月19日のデクレ第2001-785号」は、F4の放送番組を昼間は教育、夜間は劇場や映画等のスペクタクル中継に特化したものとすることを指示している。

(2)公共放送予算

公共視聴覚負担金(受信料)は、2022年8月に廃止が決定され、2022年分は徴収されないとして、視聴者は2022年分として支払った額の払戻しを受けた。2022年9月発表の文化省向け2023年予算法律案では、公共放送運営予算として付加価値税収入の一部を充てるとしている。ここでは、2023年の公共放送向け政府支出は、2022年比3.1%増の38億1,600万EURが予定されている。文化省は重点的に資金を割り振るべき分野として、地方番組の充実、若年層向けのデジタル・プラットフォーム・サービスの定着、ラジオ番組の多様化等を挙げている。

4 地上デジタル放送

国内の地上デジタルテレビ放送(DTT)は、2005年3月に開始、2011年11月末には全土で完全停波が実現した。2015年10月には、地上デジタルの全国放送事業者に、人口カバレッジ90%以上の維持が義務付けられている。難視聴地域では、国際的な周波数調整の関連でカバーが難しいとされる東部の国境地域を中心に、アストラ(Astra)衛星による無料放送の配信が実施されている。

DTTにおけるマルチプレックスの運用については数を指定された事業者が共同でマルチプレックス事業者を指定、当該の事業者に対して周波数が割り当てられることとされている。放送送信については、マルチプレックス事業者と送信事業者との契約に基づいて実施される。

CSA(当時)は2016年4月にDTTチャンネルの画像圧縮方式をMPEG4に移行、マルチプレックス枠を8から6に再編、R5及びR8を電話サービスに開放した。これに伴い、大半の全国放送事業がHDTVに移行した。

地上デジタルラジオについては、2012年4月から2022年7月まで、地方都市を対象とした複数の公募が実施されている。2021年12月までに周波数割当を受けた局数は1,000に達している。2021年10月現在、全国の人口カバレッジは39%である。2022年から、Arcomはサイト上で県ごとのカバレッジ・マップを公開している。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

2021年、国内のラジオ受像機販売数は約320万で、その12%がDAB+対応である。

公共放送には3事業者が存在し、ラジオ・フランスは、総合編成のFrance Inter、ニュース専門のFrance Info、文化専門のFrance Culture、クラシック及びジャズ音楽のFrance Musiqueの4系統の全国放送のほか、44の地方局を結ぶFrance Bleuネットワークを全国で展開している。国際放送はFrance Media Mondeの子会社RFIがフランス語及び放送地域に合わせた15の言語で放送を実施している。また、フランス・テレビジョンの海外県・領土部門Outre-mer 1èreが9地域向けのサービスを行っている。

商業FM放送は87.5-108MHzの帯域での周波数利用許可の取得が必要とされ、サービスを実施している局は2021年12月現在1,000を超えている。商業ラジオ放送は以下に分類されている。

大手民間ラジオ事業者はほとんど⑤の分類で周波数割当を受けており、聴取者が多い局には、NRJ、RTL等がある。また、主要ラジオ局はほとんどがポッドキャスト・サービスを提供している

2 テレビ

2021年12月現在、仏世帯の91%が、テレビ受像機を所有している。地上デジタル放送を視聴している世帯は、このうちの約46.1%、地上デジタルのみがテレビ視聴手段である世帯は21.0%である。2022年10月現在、全国をカバーする無料放送チャンネル数は25(民間18、公共7)、有料放送チャンネル数は5である。ローカル放送については、2007年9月から開始され、2021年12月までに仏本土では43チャンネルが放送を実施している。

これらのチャンネルにはR1~R4、R6、R7のマルチプレックスが割り当てられており、R1は主に公共放送、R3は主に有料放送、その他は無料の商業放送中心に用いられている。

マルチプレックスの構成(2022年10月現在)
R1 France2、France3、France4、Franceinfo、ローカル放送
R2 C8、BFM TV、CStar、CNews、Gulli
R3 Canal+ Cinéma**、Canal+ Sport**、Planète**、Canal+**、LCI、Paris Première**
R4 M6、W9、France5、6ter、ARTE
R6 TF1、LCP Public Senat*、TMC、NRJ12、TFX
R7 TF1 Série Film、Chérie25、L’Equipe、RMC Story、RMC Decouverte

公共放送 **有料放送

出所:https://www.csa.fr/Informer/PAF-le-paysage-audiovisuel-francais/Les-chaines-de-la-TNT

商業放送では、多事業のコングロマリットであるブイグ・グループに属するTF1とメディア・コングロマリット、ビベンディ・グループのカナル・プリュス(Canal+)、M6(Metropole Television)の勢力が強く、上記の表中で、TF1は五つ、カナル・プリュスは七つ(無料3、有料4)、M6は五つ(無料4、有料1)の系列チャンネルを有している。

2000年代後半からフランス・テレビジョンを中心に大手事業者がキャッチアップ・サービスを開始、VODサービスの一環として、1週間~1か月の範囲で見逃した番組のネット上でのストリーミング視聴を可能にしている。

3 衛星放送

衛星放送のみを視聴している世帯は、2021年12月現在、テレビ視聴世帯全体の7.3%、地上波やIPTVと併用している世帯は約16.8%である。

主要事業者はカナル・プリュスのみで、同社はアストラ衛星を用いて基本パッケージ+専門チャンネル・シリーズで4種類のプランを提供しており、ネットフリックスの利用が可能なものもある。2007年6月から、同社はDTTチャンネルの衛星による配信にプラットフォームを提供、TNTSatの名称で無料放送を実施しており、2016年4月にはサービスをHDTVに全面移行した。

国外向けには、フランス・メディア・モンド傘下のFrance24が67か国の3億5,500万世帯を対象に、英語、フランス語、アラビア語、スペイン語の24時間放送を実施している。

また、フランス語圏を中心にTV5 モンド(フランス・テレビジョンやフランス・メディア・モンドのほか、スイスのSSRやベルギーのRTBF等が出資)が10チャンネルの送信を実施しており、13か国語で198か国、3億6,400万世帯が視聴可能である。

4 ケーブルテレビ

全国でサービスを実施している大手事業者はSFRのみであるが、同社のテレビ・サービス・プランは、技術中立で高速ブロードバンドのトリプルプレイとして提供されているため、Arcomの分類上ではIPTVに含まれている。2022年10月現在、基本パッケージは160のテレビ・チャンネルを含み、各種専門チャンネル・パッケージがオプションで利用可能である。

Ⅴ 運営体

1 フランス・テレビジョン

France Télévisions

Tel +33 1 56 22 60 00
URL https://www.francetelevisions.fr/
所在地 7, esplanade Henri de France, 75105 Paris Cedex 15, FRANCE
幹部 Delphine Ernotte Cunci(会長/President Director-General)
概要

2000年の放送法改正で同年9月に設立し、持株会社が運営してきたが、2009年1月に全国番組会社に改組し、個別に運営されていた傘下の番組制作会社を統合した。2022年10月現在、本土では5チャンネル、海外県・領土では1チャンネルのDTTサービスを実施している。

フランス・テレビジョンのDTTチャンネル
名称 主な番組内容
フランス2 ドラマやドキュメンタリーを中心とする総合番組
フランス3 ローカルニュース、総合番組
フランス4 昼間:教育、夜間:各種スペクタクル中継
フランス5 文化・教養
フランス1ère 総合番組(海外県・領土でそれぞれの制作番組を放送。本土ではニュース及び天気予報のみ視聴可能)
Franceinfo 2016年9月に発足したニュース専門チャンネル

出所:https://www.france.tv/

2018年2月からネット配信プラットフォーム・サービス「france.tv」が開始され、上記の各チャンネルの番組が過去数か月分視聴できるようになった。また、教育、ニュース、スポーツ等のオリジナル・ビデオ映像を各種デジタルメディア上で、随時無料で視聴できる10代後半~20代向けチャンネル「France.tv/slash」がサービスを開始した。

2015年8月に総裁に就任したCunci氏は、就任に先立って発表した経営改善計画「Audace2020」により、フランス・テレビジョンのチャンネルのそれぞれの役割を明確化した。

デジタル化時代への対応については、VODサービスの拡張を図り、特に若年層向け番組と国立視聴覚研究所(Institut National de l’Audiovisuel:INA)の所有するコンテンツの開放が重要だとしており、有料コンテンツの増加が今後の収入確保に欠かせないとした。

2021年の収入は27億9,400万EURで、内訳は公的資金からが85%で、広告収入は13%である。2020年と比べると、受信料等の公的資金からの収入は1.5%減、広告収入は14.3%増で、全体では1.0%の増収であった。

フランス・テレビジョンは2021年の活動につき、チャンネル合計の視聴シェアは29.1%で、国内視聴者の5人に4人が毎週同社の番組を視聴しており、「france.tv」サービスで視聴されたビデオ数は13億に上ると報告している。

2 カナル・プリュス

Canal Plus

Tel. +33 1 71 35 35 35
URL https://www.canalplus.com/
所在地 1, place du Spectacle 92863, Issy-les-Moulineaux Cedex 9, FRANCE
幹部 Maxime Saada(最高経営責任者/CEO)
概要

国内で唯一の大手有料放送事業者で、地上デジタル放送、衛星、ケーブル、IPTV等に番組を提供するほか、近年は4K映像視聴可能な衛星/IPTVデコーダやマルチスクリーン・アプリケーション「Mycanal」等、サービスのデジタル化に注力している。ビベンディが株式の100%を所有している。国内では有料放送のほか地上デジタルの無料放送3チャンネルを運用し、映画・テレビ番組の制作・販売子会社「Studiocanal」を所有している。

2021年のグループの売上高合計は、前年比4.9%増の57億7,000万EUR(うち仏国内は30億9,400万EUR)であった。

2021年12月現在のグループの加入者合計は約2,370万6,000である(うち仏国内は905万1,000、349万1,000は通信事業者との提携による)。国外市場においては、アフリカ大陸で中西部を中心に25か国で衛星放送を実施、2021年12月現在の加入数は約684万7,000である。また、南アフリカに本拠を持つアフリカ最大の有料放送事業者Multichoiceの株式の15%を所有している。欧州では、ポーランドの衛星放送事業者Cifra+の株式の51%を所有し、「Canal+ Polska」の名称でプラットフォームを提供している。2019年5月には、欧州7か国で衛星/OTTテレビ・サービス・プラットフォームを提供するM7を買収した。2021年12月現在の欧州(仏以外)の加入者合計は約565万8,000である。また、ベトナムの「K+」(株式所有は49%)、ミャンマーの「Canal+ y」(Forever社との合弁)等、アジア地域への進出を進め、アジアでの加入者合計は2021年12月現在で約131万5,000である。

3 その他の主な事業者

事業分野 事業者 URL
地上放送 TF1 https://www.tf1.fr/
M6 https://www.groupem6.fr/
放送送信 TDF https://www.tdf.fr/

電波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

(1)電子通信・郵便・出版流通規制機関(ARCEP)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

電子通信事業者の周波数利用条件の決定及び周波数利用の許可等を所掌する。

(2)全国周波数庁(ANFR)

National Frequency Agency

Tel. +33 1 45 18 72 72
URL https://www.anfr.fr/
所在地 78, Avenue du Général de Gaulle, 94704 Maisons-Alfort, FRANCE
幹部 Gilles Brégant(長官/General Director)
所掌事務

周波数管理機関として、1997年1月1日に経済・財政省(現経済・財務・産業・デジタル主権省)の下に設置された。主な所掌事務は「郵便・電子通信法」R.20-44-11条により以下のとおりである。

(3)視聴覚とデジタルコミュニケーション規制機関(Arcom)

(放送/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

放送用周波数の割当て及び管理を所掌する。

2 標準化機関

フランス標準化協会(AFNOR)

French Standardization Association

Tel. +33 1 41 62 84 93
URL https://www.afnor.org/
所在地 11, rue Francis de Pressensé, 93571 La Plaine Saint-Denis Cedex, FRANCE
幹部 Olivier Peyrat(会長/General Director)
所掌事務

経済・財務省(現経済・財務・産業・デジタル主権省)の管轄に属する公益事業体であり、情報通信関連企業等の代表により構成される。情報通信分野を含めた技術標準の策定、国際標準に関する調査、製品及びサービスに関する証明書の発行等を実施する。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理政策の概要

フランスの電波監理に関する主管庁は、電波監理機関と周波数割当機関の2層で構成されており、国家レベルの周波数分配は、電波監理機関であるANFRが所管する。「郵便・電子通信法典」第L42-1条によりARCEPは、ANFRの周波数分配を受けて、通信分野における周波数の割当業務を所管する。電子通信事業者の周波数利用に関して、同法第L42条により、ARCEPは周波数の利用の技術規則と条件を設定する。

2 無線局免許制度

無線局免許制度は、「郵便・電子通信法典」第L41-1条に定められており、第L33-3条に定められた免許不要局を除いて、信号の発信及び受信等で周波数を利用する際、免許取得が必要であると定められている。なお、周波数資源の希少性等の理由から、ARCEPは、周波数の有効利用の原則に基づき、免許件数に制限を加え、免許人の選定に比較審査やオークションを実施できることが第L42-2条に定められている。

3 周波数割当制度・電波再配分制度

「郵便・電子通信法典」第L42-3条は、周波数の譲渡あるいは無線局の位置変更に関する計画はすべてARCEPに通知・公開することとしている。周波数帯が公共サービスに利用されている場合は、ARCEPの許可が必要であるとしている。

(1)800MHz帯及び2.6GHz帯

ARCEPは、LTE等の4G移動体通信を使った「超高速モバイル(Ultra Fast Mobile)」に割り当てるため、地上デジタルテレビの周波数再編に伴い空き周波数となった800MHz帯(791-821/832-862MHz)と2.6GHz帯(2500-2570/2620-2690MHz)の周波数割当を2011年に実施した。うち2.6GHz帯については、2011年9月にブイグ・テレコム(15MHz)、オランジュ(20MHz)、フリー・モバイル(20MHz)、SFR(15MHz)が周波数の割当てを受けることになった。これらの事業者は、ネットワーク拡張義務として免許取得後4年間で25%、8年間で60%、12年間で75%の人口カバレッジを達成することとされた。

800MHz帯については、2011年12月22日にブイグ・テレコム、SFR、及びオランジュに10MHz幅が割り当てられた。割当事業者のカバレッジ義務は、全国での人口カバレッジを免許取得後12年間で98%、15年間で99.6%を達成することと、人口過疎地域(Zone de Déploiement Prioritaire:ZDP)の「優先開発地区」(人口18%、領土面積63%相当)において、免許取得後5年間で40%、10年間で90%を達成することとされた。また、800MHz帯の割当てを受けていないフリー・モバイルには、2.6GHz帯でのネットワークの人口カバレッジ25%を満たすことを条件に、他社の800MHz帯ネットワークをローミングで利用することが認められている。

(2)LTE1800

ARCEPは、2013年から、GSMに割り当てた1800MHz帯を、LTEに再割当する方針を明らかにし、2015年7月には、事業者に割り当てた1800MHz帯を再編する決定を下し、4社に割り当てられている1800MHz帯の帯域幅(オランジュ(23.8MHz幅×2)、SFR(23.8MHz幅×2)、ブイグ・テレコム(21.6MHz幅×2)、フリー・モバイル(5MHz幅×2))について、2016年5月25日から新規参入のフリー・モバイルへは15MHz幅×2、既存3社へはそれぞれ20MHz幅×2の割当てに再編することを明らかにした。このうち、フリー・モバイルについて、同年9月、15MHz(1750-1765/1845-1860MHz)の割当てが実施された。

なお、2020年末から開始された5G網構築に際し、オランジュ、SFR及びブイグ・テレコムの3社は、この帯域の基地局の一部を5Gサービス向けに活用している。

(3)700MHz帯

ARCEPは、地上放送デジタルに用いられている700MHz帯の30MHz幅×2(703-733/758-788MHz)について、2015年10月に周波数オークションを実施し、オランジュ、フリー・モバイル、SFR、ブイグ・テレコムが落札した。この帯域の利用許可の期間は20年で、許可を取得した移動体通信事業者には、2030年末までに全国網の人口カバレッジ99.6%、基幹道路のカバレッジ100%、鉄道線路のカバレッジ90%等のネットワーク拡張義務が課されている。また、2022年1月17日までに、700MHz帯を使い、指定された過疎地域の50%の人口を4Gでカバーすることが求められている。

2016年4月、フランスでは地上デジタル放送への完全移行がなされ、同年4月6日から、2,374の自治体で落札事業者が700MHz帯でのサービス実施を許可された。

700MHz帯オークション結果 (単位:EUR)
帯域 落札者 落札金額
703-708/758-763MHz 5MHz幅×2 SFR 466,000,000
708-718/763-773MHz 10MHz幅×2 オランジュ 933,078,323
718-723/773-778MHz 5MHz幅×2 ブイグ・テレコム 467,164,000
723-733/778-788MHz 10MHz幅×2 フリー・モバイル 932,734,001

出所:http://www.arcep.fr/

なお、2020年末から開始された5G網構築に際し、フリー・モバイルは、この帯域の基地局の一部を5Gサービス向けに活用している。

(4)2.6GHz帯及び3.5GHz帯

ARCEPは、2017年6月、2.6GHz帯及び3.5GHz帯の今後の利用に関する方針案を公表した。ARCEPは、2017年1月に、2.6GHz帯(TDD)、3.5GHz帯、1.4GHz帯、2.3GHz帯、700MHz帯(FDD向け一部の帯域)、400MHz帯、26GHz帯の新たな使途に分配するためのパブリック・コンサルテーション「地域、企業、5G及びイノベーションのための新たな周波数(De nouvelles fréquences pour les territoires, les entreprises, la 5G et l’innovation)」を実施しており、その結果を踏まえ、2.6GHz帯の業務用無線(Professionnal Mobile Radio:PMR)への分配、3.5GHz帯(3400-3800MHz)のルーラル固定無線ブロードバンド及び5Gへの分配を柱とする方針案にまとめたものである。同方針案の概要と最近の進展状況は以下のとおりである。

①業務用無線(PMR)

2.6GHz帯における時分割(TDD)用の40MHz幅(2575-2615MHz)をPMRに分配し、2G技術から超高速ネットワークにアップグレードする。2019年5月、割当計画の詳細についての案内文書が発行され、割当てを希望する事業者に対する相談・申請窓口が開かれた。この窓口を通して2022年9月までに70件超の申請が行われ、うち10件で割当手続が完了した。

②ルーラル固定無線ブロードバンド

有線の超高速通信が利用できない地域において、3.5GHz帯の50MHz幅(3410-3460MHz)を、無線ローカルループ(WLL)の超高速無線ネットワークに利用し、通信網をアップグレードする。2017年末には割当計画が具体化し、割当てを希望する事業者向けの相談・申請窓口が開かれた。2021年4月現在、13の県で事業者あるいは自治体が利用許可を付与されており、2件の申請が審議中である。

③5G

政府は3.5GHz帯(3400-3800MHz)のうち、上記②に割り当てられる帯域以外を5Gに分配するとしており、将来的には同帯域上の周波数を途切れのない連続したものにし、2026年までに640MHz幅を5Gシステムで連続して利用できる帯域に再編することを計画している。このためARCEPは、3400-3600MHz帯を割り当てられている既存の事業者を中心に免許内容の改正を行い、割当帯域を再編している。

3490-3800MHzの310MHz幅については、2019年11月に割当計画の概要が発表され、2020年に以下の2段階で入札が行われた。免許期間は15年とされている。

①、②を通じ、1事業者の取得可能帯域は100MHzまでとされている。また、周波数を取得した事業者には以下の義務が課せられる。

上記①で50MHz帯域幅を取得した4事業者には更に、割当時に以下を順守する協約をARCEPと交わすこととされている。

2020年4月には、既存4事業者が対応周波数へのオークションの参加申請を提出、ほかに参加事業者がなかったため、それぞれが固定価格3億5,000万EURで50MHz幅の利用権を取得することが決定した。

2020年9月には、残りの110MHz幅に対するオークションが開始、10月1日、ARCEPは最終結果を発表した。帯域10MHz当たりの落札額は1億2,600万EURであった。

同11月には更に、各事業者への利用帯域の割当てが実施され、フリー・モバイルが希望帯域取得料として310万EURを支払うことになった。このオークションで政府が得る周波数利用許可取得料は約27億8,910万EURで、各事業者には、2034年までの分割払が可能とされている。各事業者は更に、今回の取得帯域を利用したサービスから得る年ごとの売上高の1%を電波使用料として政府に支払うこととされている。

5G対応帯域オークション結果
事業者名

ブイグ・

テレコム

フリー・

モバイル

オランジュ SFR 合計
割当周波数(MHz) 3570-3640 3640-3710 3710-3800 3490-3570
帯域幅 70MHz 70MHz 90MHz 80MHz 310MHz

支払予定額

(百万EUR)

602 605.1 854 728 2,789.1

出所:ARCEP

(5)26GHz帯

ARCEPは、26GHz帯を5G展開のためのパイオニア・バンドとして位置付けており、産業界及び地方自治体や研究機関での先端サービスでの利用を期待している。2019年には、2020年からのこの帯域の開放を見越して、技術中立で実験プロジェクトの公募を開始した。2022年10月までに、通信事業者のほか、ICTサービス企業や研究機関等が15都市で実験を実施している。

(6)3.8-4.0GHz帯

(5)と同様の主旨で、ARCEPは2022年5月に同12月までの予定で3.8-4.0GHz帯での実験プロジェクトの公募を開始した。この帯域は航空その他の用途で使用されている地域もあり、利用技術に若干の制限が加えられる場合もあるものの、審査により適合ケースと認められたプロジェクトには、最大100MHz幅の利用が3年間可能になる。2022年10月現在、13件のプロジェクトが選出されており、日本のNTTも南仏Parisot市で企業向けネットワーク・サービスに関する実験を実施している。

(7)900/1800/2100MHz帯の再割当

ARCEPは、2018年8月、2021~2024年に期限を迎える900/1800/2100MHz帯の再割当を行うための入札手続を開始したが、事業者がLTEカバレッジ義務を果たすことを条件に入札は実施せず、各事業者への割当ては継続すると決定した(通信/Ⅲ-3(3)の項参照)。

(8)海外県・領土における4G周波数割当

ARCEPは、2016年11月、フランス海外県・領土における4G免許事業者を決定した。ARCEPの募集に対し25件の申請が提出され、これらの申請を審査し、地域ごとに以下の4事業者を免許人に選定した。これらの事業者には、各地域で800MHz帯と2.6GHz帯の未割当帯域、並びに新規で開放される900MHz帯、1800MHz帯、2.1GHz帯が割り当てられる。サービスは、同決定後から提供することができる。

2021年8月には、Réunionで700MHz帯及び3.4-3.8GHz帯、Mayotteで700MHz帯と900MHz帯の割当てに関する公募が開始され、12月にどちらの地域でも700MHz帯ではオランジュとTelco OI I(Iliad子会社)に10MHzデュプレックス(うち5MHzはオークションによる)、他の2事業者に5MHzデュプレックスの割当てが決定した。Réunionの3.4-3.8GHz帯については、ZEOP Mobileに80MHz幅、その他の3事業者に100MHz幅の割当てが行われるとされた。Mayotteの900MHz帯については、BJT Parteners(ブランド名:Maoré Mobile)に1.6MHzデュプレックス、Telco Oに1MHzデュプレックスの割当てが決定した。

2022年9月末、Guyane、Saint-Barthélemy及びSaint-Martinで700MHzと3.4-3.8GHz、Saint-Barthélemyで900MHzと2.1GHzの割当てに関する公募が開始され、2023年前半の割当てが予定されている。

海外県における4G事業者
海外県 事業者
Guadeloupe、Guyane、Martinique Digicel、フリー・モバイル、Orange Caraïbe、SFR Caraïbe
Saint Bartdélemy、Saint Martin Dauphin Telecom、Digicel、フリー・モバイル、Orange Caraïbe
Réunion オランジュ、SFR Réunion、Telco OI、ZEOP Mobile
Mayotte BJT Partners、オランジュ、SFR Mayotte、Telco OI

出所:https://monreseaumobile.arcep.fr/

4 電波監視体制

「郵便・電子通信法典」第L43条により、電波監視業務は、ANFRの所掌業務であり、周波数制御局が以下を主に所管している。

フランス本土における電波監視は、ランブイエ国際監視センター及び本土4か所の地方監視センター(ドンジュ、エクス-マルセイユ、トゥールーズ、ヴィルジュイフ)、東部地方間監視センター、ベルギーとの国境地帯でのアンテナで実施されている。海外県・領土においては、Antilles-Guyane に一基、Réunion – Mayotteに一基のアンテナが設置されている。

5 電波利用料制度

公衆電子通信網の運用又はサービスを目的として、ARCEPにより周波数資源の利用を許可された事業者は、「ARCEPにより周波数利用許可を付与された事業者の支払う周波数利用料に関する2007年10月24日のデクレ第2007-1532号」により、年ごとに国に対して次の2種類の料金を支払う。

・電波使用料(Redevances de mise à disposition de fréquences

電波の使用に関して徴収される料金。ARCEPが固定サービス、衛星固定サービス、GSM通信網サービス等、サービスの性質に応じてサービス区分ごとに料額を定める。

・電波管理料(Redevances de gestion de fréquences

電波の使用にかかわる管理業務に関して徴収される料金。サービス区分ごとの基本利用料額を定め、事業者が利用する周波数帯域とサービス地域に応じて事業者ごとに料額を決定する。

6 電波の安全性に関する基準

「郵便・電子通信法」第L34-9-1条は、携帯基地局やWi-Fiアクセス・ポイント等、電磁波を発する無線装置の設置に当たり、通信事業者は自治体の要求に応じて情報公開を行うことと定めている。

電磁波ばく露に関する監視業務は、「電磁波ばく露に関する制限、透明性の確保、情報公開、相談窓口に関する2015年2月9日の法律第2015-136号」に基づき、ANFRの市場・電磁波ばく露監視局が実施している。

ANFRは、基地局の設置場所や電磁界強度の測定値に関する情報を、ウェブサイト(http://www.cartoradio.fr/)で公開しているほか、「無線サイトのモデル化と公衆の安全境界に関する技術ガイド(Guide Technique modelisation des sites radioelectriques et des perimetres securite pour le public)」を公表している。

ANFRはまた、4G/5G対応端末機器につき、定期的に電磁波強度に関する調査を実施、EUの基準値を順守しない機器については市場からの引上げを指示している。また、5Gサービス開始とともに、大都市には複数の電磁波強度の測定設備を設置、サイト上でその値を公開している。

Ⅲ 周波数分配状況

周波数の分配表(Le Tableau national de répartition des bandes de fréquences :TNRBF)は以下のとおり(2022年8月発行)。