ドイツ連邦共和国Federal Republic of Germany

通信

Ⅰ 監督機関等

1 連邦デジタル・交通省(BMDV)

Federal Ministry for Digital and Transport

Tel.

Berlin:+49 30 18 300 0

Bonn:+49 228 99 300 0

URL https://bmdv.bund.de/
所在地

Berlin:Invalidenstraße 44, 10115 Berlin, GERMANY

Bonn:Robert-Schuman-Platz 1, 53175 Bonn, GERMANY

幹部 Volker Wissing(大臣/Federal Minister)
所掌事務

2021年12月の政権交代でデジタル関係課題を集約した連邦デジタル・交通省(Federal Ministry for Digital and Transport:BMDV)に再編され、デジタル分野における関係省庁の調整機能も担っている。内部部局は11局あり、情報通信政策は、デジタル・データ政策総局(DP)及びデジタル・コネクティビティ総局(DK)が所管する。DPには、国内・欧州及び国際的なデジタル政策(DP 1)、データ政策・デジタル・イノベーション(DP 2)、DKには、デジタル・インフラ(DK 1)、デジタル・アプリケーション(DK 2)が設置されている。

BMDVの外局として、情報通信関連では連邦ネットワーク庁(Federal Network Agency for Electricity, Gas, Telecommunication, Post and Railway:BNetzA)が置かれている。

2 連邦経済・気候保護省(BMWK)

Federal Ministry of Economic Affairs and Climate Action

Tel.

Berlin:+49 30 18 615 0

Bonn:+49 228 99 615 0

URL https://www.bmwk.de/
所在地

BMWK Berlin:Scharnhorststr. 34-37 10115 Berlin,

GERMANY

BMWK Bonn:Villemombler Str. 76 53123 Bonn,

GERMANY

幹部 Robert Habeck(大臣/Federal Minister)
所掌事務

2021年12月の政権交代で旧連邦経済エネルギー省(Federal Ministry of Economic Affairs and Energy:BMWi)から現名称への変更が行われた。主な電気通信政策はBMDVに移管された一方、標準化や人工知能(AI)等のデジタル政策、データ経済やイノベーション政策等の所掌はBMWKにとどまった。BMWKには、11局あり、情報通信政策については、第Ⅵ局デジタル・イノベーション政策局が担当している。第Ⅵ局には、デジタル政策(ⅥA)、イノベーション政策とデジタル経済(ⅥB)、標準化政策とデジタル技術(ⅥC)が設置されている。

BMWKの外局には6組織があり、ここに連邦ネットワーク庁や連邦カルテル庁(Federal Cartel Office:BKartA)等が置かれている。

3 連邦ネットワーク庁(BNetzA)

Federal Network Agency for Electricity, Gas, Telecommunication, Post and Railway

Tel.

Bonn:+49 228 14 0

Mainz:+49 6131 18 0

Berlin:+49 30 22480 0

Saarbrücken:+49 681 9330 0

URL https://www.bundesnetzagentur.de/
所在地

Bonn(本部):Tulpenfeld 4, 53113 Bonn, GERMANY

Mainz:Canisiusstr. 21, 55122 Mainz, GERMANY

Berlin:Seidelstr. 49, 13405 Berlin, GERMANY

Saarbrücken:An der Trift 40, 66123 Saarbrücken, GERMANY

幹部 Klaus Müller(長官/President)
所掌事務

1998年1月に、電気通信分野の自由化の推進、政策立案と規制監督の分離を目的に発足した独立規制機関である連邦電気通信郵便規制庁(Regulatory Authority for Telecommunications and Posts:RegTP)を引き継ぎ、2005年7月、新たにBNetzAが発足した。電力、ガス、電気通信、郵便のほか、2006年1月からは鉄道を含む社会インフラ全般を所掌している。なお、電気通信分野に関する中心的な所掌事務は以下のとおりである。

部門(Abteilung

RegTPの頃から事業者規制を実施する部署として11の「裁定室(Ruling Chambers)」があったが、所掌が電力、ガス、鉄道まで拡大し、11部門(9部門及びZ部門とITS部門)となった。情報通信関連での部門の役割分担は以下のとおりである。

Ⅱ 法令

1 電気通信法(Telecommunications Act:TKG)

(1)概要

電気通信分野の競争促進を主たる目的として「1996年電気通信法(TKG 1996)」が制定・施行され、1998年1月1日より電気通信市場の完全自由化が達成された。その後、EU指令の国内法制化に対応するためTKG 1996の改正が行われ、2004年6月に「2004年電気通信法(TKG 2004)」が施行された。電気通信市場参入のための免許制度の廃止や周波数取引の導入等、規制緩和が盛り込まれた。

(2)TKG改正

2012年5月の改正では、EUの「電子通信枠組規制(2009/136/EC、2009/140/EC)」の見直しを受け、その国内法制化を図った。具体的には、次世代網構築の促進のために投資インセンティブの刺激策や、市場支配力(Significant Market Power:SMP)を有する事業者に対して、サービス・アプリケーションへのアクセス・利用を制限するすべての要件を公表するよう義務付ける権限をBNetzAに付与する等の市場競争促進策、事業者変更に際し1営業日以内で変更手続可能な権利の保障等の消費者保護策が盛り込まれた。

2013年7月の改正では、個人データ保護に関する規定(第113条)について、危険防止や刑事訴追のために、検察、警察、諜報機関等からの要求に応じて、電気通信事業者が顧客の個人データやパスワード、IPアドレスを提供することが可能になった。

2016年7月の改正では、2017年1月よりテロ対策のため、プリペイドSIMカードの購入時に本人確認と住所登録を義務付けた。

(3)電気通信近代化法(Telecommunications Modernisation Act:TKG 2021)

TKGの改正とともに2018年末に施行された「欧州電子通信指令((EU)2018/1972)」を国内法制化する「電気通信近代化法」は、2021年5月に連邦議会で議決、翌月に官報で公布、同年12月に施行された。

現行TKGの構成は以下のとおりである。

  1. 第1章
    一般的規定
  2. 第2章
    市場規制
  3. 第3章
    消費者保護
  4. 第4章
    電気通信端末機器・放送
  5. 第5章
    インフラストラクチャとネットワーク拡張に関する情報
  6. 第6章
    周波数規制
  7. 第7章
    番号
  8. 第8章
    使用権と共同利用
  9. 第9章
    電気通信サービスの提供に対する権利
  10. 第10章
    公共安全と緊急時への備え
  11. 第11章
    BNetZA及びその他の管轄当局
  12. 第12章
    租税公課
  13. 第13章
    罰金に関する規定
  14. 第14章
    経過規定及び最終規定

2 テレメディア法(Telemedia Act:TMG)

2007年3月、「テレメディア法(Telemedia Act:TMG)」が施行された。同法は、ISPや情報提供事業者による情報やデータの送受信をまとめてテレサービスとし、これらテレサービスに関する規制を定めたもの。なお、テレサービスとは、文字、画像又は音声のような結合可能なデータの個別的な利用のために行われ、かつその基礎に電気通信を利用した伝送があるすべての電子的情報サービス及び通信サービスを意味する。したがって、既存の電気通信、放送、出版等は除かれている。

2016年7月の改正では、公衆無線LANの普及促進を目的に、公衆無線LANの提供者は、利用者の違法行為について民事上及び刑事上の責任を負わないことが定められた。

3 電気通信・テレメディアデータ保護法(Telecommunications and Telemedia Data Protection Act:TTDSG)

TKGとTMGのデータ保護規定を統合し、包括的なデータ保護法として、TTDSGが2021年12月に施行された。電気通信分野においては、TKGからデータ保護とプライバシーの規制が移管された。

TMGでの一般的な保護規律や欧州連合(EU)の「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)」の規制に加え、TTDSGでは、データ保護とプライバシー保護(第3条~第8条)、トラヒック及び位置データ(第9条~第13条)、着信通知、発信者番号通知の抑制、自動着信転送(第14条~第16条)に関する条項が含まれる。

Ⅲ 事業政策

1 免許・認可制度

2003年7月に、「EU指令(2002/20/EC)」第3条2項に基づき、電気通信分野において事業免許を取得する義務が廃止され、TKG第5条に基づく届出制度が導入された。ただし、移動体通信業務については、同第91条に基づき個別の周波数使用権を取得する必要がある。

2 競争促進政策

(1)相互接続

TKG第20条に基づき電気通信事業者には、相互接続に応じる義務を課し、同第21条の六つの類型に当たる電気通信事業者には接続義務を規定した。

(2)通信着信料規制

BNetzAは欧州委員会勧告に従い2016年12月からPureLRIC方式で移動体着信料金(Mobile Termination Rate:MTR)の引下げを行っている。

MTRは、2016年12月に0.0110EUR/分、2017年12月に0.0107EUR/分、2018年12月に0.0095EUR/分、2019年12月に0.0078EUR/分、2021年7月に0.0007EUR/分、2023年1月に0.00055EUR/分、2024年1月に0.0002EUR/分へと引き下げられた。

固定通信着信料(Fix Termination Rate:FTR)については、BNetzAが、2018年12月にドイツテレコム(Deutsche Telekom)が競争事業者に請求可能な固定通信網の相互接続料金を暫定的に承認し、FTRは20%引き下げ0.08EUR/分、発信料金は43%引き下げ0.13EUR/分とした。なお、2019年6月、欧州委員会が国内規制に代わるFTR上限規制を制定するまでの間の限定付きで継続的な引下げを承認した。2020年に0.06EUR/分、2021年に0.05EUR/分、2022年に0.03EUR/分とした。

(3)卸売供給制度とMVNO促進政策

卸売供給制度として、1998年にローカル・ループ・アンバンドリング(Local Loop Unbundling:LLU)を導入し、2002年3月には、2001年1月に施行された「LLUに関するEU規則」に準拠し、完全なアンバンドリングが実施された。2022年6月末までのLLU料金は、顧客の建物からケーブル配信ボックスまでの回線リース料金が月額7.05EUR、それよりも長い顧客から主要配信フレームまでの区間料金が月額11.19EURである。2022年7月からのLLU料金はそれぞれ、6.92EUR、10.65EURに引き下げられるが、2027年7月からはそれぞれ7.20EUR、11.08EURに引き上げられる。

ドイツのMVNO市場は、中国や米国に次ぐ市場である。既にドイツには100社を超えるMVNOが参入しており、MVNOの加入者割合は全加入者の47.3%を占める。このうちMNO大手3事業者のサブブランドでない独立系MVNO事業者が約5割を占めているため、積極的なMVNO促進政策が実施されているわけではない。

ただ、事業者間対立は存在し、規制機関に持ち込まれることはあり、2021年10月、BNetzAは、MNOがMVNOへのアクセスに関する協定を締結することを目的としてMVNOと交渉する義務があるという裁定を下した。

(4)競争制限禁止法(Competition Act:GWB)

2018年2月、BKartAはドイツのオンライン広告市場におけるOTT(Over The Top)事業者の支配的地位の濫用について調査を開始した。同庁は、特定の企業名は挙げていないが、現地の広告主及びパブリッシャーがグーグル(Google、現アルファベット(alphabet))とフェイスブック(Facebook、現メタ(Meta))が同市場において支配的地位を濫用していると訴えていた。

2024年までの主な決定は以下のとおりである。

3 情報通信基盤整備政策

(1)ユニバーサル・サービス等

TKGでは、従来のユニバーサル・サービスという文言は削除し、代わりに、電気通信サービス提供に対する消費者の権利及び事業者等への規制として再構成している。その権利を実現するために、一般的な接続規則(第20条~第23条)、支配的事業者規制(第24条~第34条)、料金規制(第37条~第46条)等を規定している。

また、インフラとネットワークを拡充するための情報収集項目(第79条~第86条)としてインフラ、ブロードバンド、将来のネットワーク、ネットワーク提供に必要な設備や土地等を挙げ、これらの情報を収集し提供するとしている。

(2)ギガビット戦略 2030

2022年7月、連邦政府は、「ギガビット戦略 2030」を発表した。デジタル化に必須の高速通信インフラの整備を図るため、全世帯を光ファイバ網に接続するとともに、国内全域に最新の移動体通信網を構築することを主眼にしている。

同戦略では、第1段階として、2025年末までに光ファイバ網を3倍に拡張し、世帯及び企業の50%が光ファイバ網に接続できるよう拡大するとしており、移動体通信網については、2026年までに国内全域で途切れない音声・データ通信を実現するとしている。更に、第2段階として、2030年までに全世帯を光ファイバ網に接続可能とし、農村部等を含む国内全域を最新規格の移動体通信網へ接続するとしている。これらを実現するための具体的な施策例として、以下を掲げている。

また、BMDVは、2023年4月から、電気通信事業者の民間進出において、キャッチアップと新調達の必要性が高い分野に資金を投入する「ギガビット・ファンディング2.0」プログラムを開始しており、同プログラムを通じて光ファイバ・インフラの全国的な普及を支援している。2024年10月現在、1,392件の助成が実施されている。

(3)5G

連邦交通デジタル・インフラ省(Federal Ministry of Transport and Digital Infrastructure:BMVI)(当時)は、2025年までにハイレベルの5G展開を完了させる目的で、周波数の開放、光ファイバ・バックホールの展開支援、製造業、交通、農業、電力、医療、エンターテインメント、スマートシティ分野のアプリケーションの開発コンペ等の実施を盛り込んだ「ドイツの5G戦略(5G Strategy for Germany)」を2017年7月に発表した。研究開発については、BMVI(当時)は、5Gアプリケーションの開発支援プログラム「5Gイノベーションプロブラム(5G-Innovationsprogramm)」を実施している。5Gアプリケーションの実証を行うモデル地域を選定し、資金援助を行うことを主な目的としており、2019年には、予算6,600万EURで医療、建設、交通、農林等にかかわる6プロジェクトが選定された。

(4)ローカル5G

「インダストリー4.0」に基づき、3.7-3.8GHz帯がローカル5G専用帯域として2019年11月から免許申請を受け付けている。公開されている免許人リストには、製造業や輸送業に加え、ソリューション提供事業者等、多様な事業者が挙がっている。2024年12月現在、442件の申請があり、441件の免許が付与されている。

26GHz帯(24.25-27.5GHz)もローカル5Gに限らず、技術中立で2021年1月から免許申請を受け付けている(電波/Ⅱ-4の項参照)。

4 ICT政策

(1)デジタル化推進

2022年8月、連邦政府は、新たなデジタル戦略を発表した。この戦略では、2030年までのデジタル技術による進歩の目標像を提示している。EUの計画(「欧州のデジタル10年:2030年のデジタル目標」)に沿って3分野(ネットワーク化されたデジタル主権社会、革新的な経済・労働・科学と研究、学習者・デジタル国家)での目標が設定されている。第1段階として、2025年までの目標は以下のとおりである。

デジタル戦略の進捗はBMDVが中心となってモニタリングしていくこととしている。2022年11月、BMDVは、モニタリングのために、ビジネス、科学、市民社会からの代表者19名で構成されるドイツ・デジタル戦略諮問委員会の設置等を発表した。

(2)データ利用の促進

2021年1月、連邦政府はドイツがデータ利用及びデータ共有の分野において、欧州で先駆的な役割を果たすことを目指す国家データ戦略を閣議決定した。同戦略によると、データ利用を拡大させることで、インダストリー4.0、IoT、AI等の分野の発展を促進することが可能であり、新たなビジネスモデルや価値の創出による成長が見込まれるとしている。

具体的には、以下の四つの分野における施策が提示されている。

(3)インダストリー4.0

ドイツ政府が産官学の総力を結集して推進してきたスマート工場を中心としたエコシステムの構築等の政策である「インダストリー4.0」について、近年外国との連携の強化が図られている。

ドイツが推進する「インダストリー4.0」に関する国際連携は拡大しており、2019年6月には「2030年のプラットフォーム・インダストリー4.0構想」を発表した。この枠組みによりオープンでデジタルなエコシステム構築を目指しており、標準化の推進、共同研究、デジタルツイン実装、欧州インフラの連携等を目指し、欧州内にとどまらず、アジア(日本、中国、韓国、インド)やアメリカ(米国、メキシコ)、オーストラリア等と個別協力協定を結んでいる。

2021年3月、「インダストリー4.0」が持続可能性に貢献できる分野や項目をまとめた報告が発表され、その中で、IoTが「インダストリー4.0」において重要な要素であり、持続可能性においても、エネルギーや資源の最適化に貢献できることが指摘されている。

2022年8月に発表された連邦政府のデジタル戦略の中で、デジタル・ネットワーク産業への変革を全面的に実現する目標の下、サプライチェーンのデジタル化を推進する「Manufacturing-X」が提言された。2022年11月、「Manufacturing-X」は連邦予算に組み込まれ、連邦政府からの長期的な支援が確保された。2023年1月、キックオフがベルリンで100名を超えるコミュニティ参加者とともに開催され、このイニシアチブの目標と活動が発表された。2023年2月には、運営委員会「Manufacturing-X(SC4MX)」が設立された。

(4)人工知能(AI)

連邦政府は2018年11月、「AI戦略(AI Strategy)」を公表した。連邦政府はこの戦略によりドイツにおけるAIの研究・開発・応用を世界トップレベルへ引き上げたいとしている。

「AI戦略」では、以下の三つの目標を掲げている。

連邦政府は、経済・社会のデジタル化の進展とともに利用価値を増すデジタル・データの扱いに関する倫理基準やそれに基づく規制のあり方を検討するデータ倫理委員会(Data Ethics Commission)を2018年7月に設置した。同委員会は、2019年10月に、AIを含むアルゴリズムを使った意思決定システム(Algorithmic Decision-Making:ADM)が及ぼす悪影響への対処について、アルゴリズムの利用のリスクを、EUの「AI法」と同様、段階に分け、それぞれに応じた措置をとることを勧告した。

  1. レベル1:
    有害性を持たない、又は被害がわずかなアプリケーション
    • 特定の規制を行わない。
  2. レベル2:
    ある程度の被害をもたらすアプリケーション
    • 公的・実質的な要件(例:透明性義務、リスク評価の公表等)を課すか、監視措置(監視機関への情報公開義務、事後規制、監査措置)を実施する。
  3. レベル3:
    周期的被害、大きな被害を生むアプリケーション
    • 事前承認手続等の追加措置を実施する。
  4. レベル4:
    深刻な被害を生むアプリケーション
    • 監視機関による常時監視等の追加措置を実施する。
  5. レベル5:
    容認できない被害を生むアプリケーション
    • アルゴリズム・システムの全面的使用禁止又は部分禁止。
    • AI標準化に関しては、2020年11月、BMWi(当時)がロードマップを公表している。
    • 2020年12月、連邦政府は戦略を更新し、AI専門家の教育・訓練と国際的に評価の高い研究成果の創出、AIエコシステムの構築と中小企業等のビジネス現場への開発技術の適用、ドイツ及び欧州レベルでの人間中心型AIの開発・普及に向けた規制枠組の構築・強化、市民社会における共有財としてのAIの活用に焦点を当てた施策を展開し、ドイツの競争力の基盤を構築しAIへのコミットメントを強化すべく、AI向け政府投資を追加し総額50億EURとした。

2023年11月、連邦教育科学省(Federal Ministry of Education and Research:BMBF)が発表した新しい「AIアクションプラン(AI Action Plan)」では、AI開発促進のため、現政権の任期中にAI分野に16億EURを投資することが宣言されている。

(5)自動運転

連邦政府は、自動車産業の国際競争力を強化するため、自動運転車とコネクテッドカーに関するイノベーション政策を推進している。

2017年6月には、世界に先駆けて、将来、完全自動運転の公道走行を実現するため、「道路交通法(StVG)」の改正を行った。改正の内容は、自動運転機能の定義、自動運転時のドライバーの権利と義務、賠償責任(死傷事故は1,000万EUR、物損事故は200万EUR)、自動運転システムのデータ処理(データ送信、位置情報及び時間情報の保存及び利用)、データ保護(セキュリティ)等である。また、施行から2年後の2019年6月にBMVI(当時)が科学的根拠に基づき、同法の適用状況を評価し、その結果を連邦議会に報告することが規定された。

2021年7月にはStVGと自賠責保険法(Pflichtversicherungsgesetzes:PflVG)の改正法が施行され、シャトル輸送等の5種類の運転に必要な認知、予測・判断、操作を自動で行うレベル4自動運転車の公道使用が解禁されることとなった。また、2022年には「道路交通法施行規則(Autonomous Vehicles Approval and Operation Ordinance:AFGBV)」も改正され、車両の適合認証等の詳細規則が整備されることとなった。

2024年12月、BMDVは道路交通における自動運転に関する戦略を策定し、2026年までに自動運転を試験運用から本運用に移行、2028年までに世界最大の自動運転車両の運行エリアを構築、2030年までに各交通モード間で連携したモビリティシステムに自動運転を統合するとされている。

(6)Beyond5G/6G

BMBFは2021年4月、2025年までに約7億EURを投じる6G研究開発イニシアチブを開始すると発表した。具体的な施策として、主に以下の三つの取組みが進められている。

5 消費者保護政策

(1)データ保護

BNetzAは2017年6月、犯罪捜査のため国内の電気通信事業者に通話とインターネット通信記録を最長10週間保管すること等を義務付ける「データ保持法(Data Retention Act、TKGの一部改正法)」の施行を延期すると発表した。

この法律は、顧客の通話やデータ通信について、日付、開始・終了時間等のトラヒック・データの記録は10週間、移動通話の位置情報は4週間にわたり保存することを義務付けていたが、行政裁判所がEUのGDPRに違反すると判断したため、BNetzAは、法的問題に決着がつくまでは、新法を施行しないとした。2022年9月、欧州司法裁判所は、「データ保持法」が規定する保持義務は、非常に広範なトラヒック・データと位置情報に適用されるものであり、一方でGDPRは、国家安全保障上の重大な脅威がある場合を除き、トラヒック・データと位置情報の一般的かつ無差別な保持を排除するものであるという判決を下した。

(2)透明性規則

2016年12月、連邦議会は、消費者保護を目的とした透明性規則(Transparency Regulation)を採択し、2017年6月1日より施行を開始した。これは、ブロードバンド・サービスの速度(最低、最高、平均)を消費者に開示することを電気通信事業者に求めるEUのネット中立性規則に従い、国内法制化したもの。これにより、電気通信事業者は顧客にブロードバンド・サービスの実効速度や顧客データの利用状況、契約内容、キャンセルにかかる費用等をわかりやすく開示しなければならない。

(3)ヘイトスピーチ規制

2017年10月、SNS上の違法なコンテンツを厳しく取り締まる法律「ネットワーク執行法(NetzDG)」が施行された。規制の対象となるコンテンツには憎悪表現(ヘイトスピーチ)、名誉毀損、中傷、児童ポルノ、テロ関係等のコンテンツが含まれる。

NetzDGは、苦情を受け付けてから、違法性が明らかなコンテンツに関しては24時間以内、議論の余地がある場合には7日間以内の削除を、SNS企業に義務付けるもの。また、これを怠った場合、法人に最大5,000万EUR、担当の幹部に最大500万EURの罰金が科せられる。国内で200万人以上の利用者を持つSNS企業が対象となる。

また、連邦政府は2020年2月、極右による犯罪が相次ぐ中、ネット上のヘイトスピーチの刑事訴追を容易にし、厳罰化するため義務付ける法案を議会に提出した。同法案は更に、刑法を改正し、脅迫、ネット上の侮辱、政治家への誹謗中傷等の犯罪に対する拘禁刑の期間を延長し、厳罰化する。本改正法は、2021年4月に施行された。

更に、2021年6月にも、NetzDGの改正が行われ、動画共有プラットフォーム・サービスが原則として規制対象に含まれること、違法コンテンツに関する苦情に対して行われたコンテンツの削除又はアクセスの無効化に関する決定の見直しに関する異議申立の機会の確保、そして公益のための科学研究に従事する研究者が、違法コンテンツの自動検出のための手段や運用方法等に関する情報等をSNS事業者に対して求めることが可能とされた。

2024年5月、EUの「デジタル・サービス法(Digital Service Act:DSA)」を国内で実施するための法律である「デジタル・サービス法(Digital Service Act:DDG)」が施行され、BNetzAがドイツにおけるデジタル・サービス・コーディネーターとしての業務を開始している。同法の施行に伴い、既存のTMGとNetzDGの大部分が適用されなくなった。

(4)ITセキュリティ規制

2021年5月、「ITセキュリティ法2.0(IT Security Act 2.0)」が施行された。主な改正は、連邦情報セキュリティ庁(Federal Office for Information Security:BSI)の機能強化と重要インフラにおける重要部品の使用についての事前届出制の導入及びその信頼性評価の実施等である。具体的には、5Gを含む重要インフラを対象に、重要インフラで使用される重要部品に関して、製造者が同部品の信頼性保証に関して連邦内務・建設・コミュニティ省(Federal Ministry of the Interior, Building and Community:BMI)に届け出ることを義務付けるとともに、当部品の利用が公共の利益に反する場合、重要インフラ事業者に同部品の使用を禁じる命令を発する権限をBMIに与える内容になっている。経済安全保障を確保することが目的とされているが、華為技術(HUAWEI)等の特定の諸外国の製造業者名を表記したうえでその製品を排除するという内容にはなっていない。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

ドイツにおけるすべての電気通信機器は、基準認証を必要とし、BNetzAが所掌している。ただし、航空機無線と船舶無線に関しては、それぞれ連邦航空局と連邦船舶局が直接監督している。BNetzAによって、EUの「電磁両立性に関する加盟国の法律の整合化のための欧州議会、並びに欧州閣僚理事会指令(2014/30/EU)」及び「無線機器指令(2014/53/EU)」に基づき、「電磁環境適合性法(Electromagnetic Compatibility Act:EMVG)」が改正されて2016年12月より発効し、また、「無線設備法(New German Radio Equipment Act:FuAG)」が成立して2017年7月より発効し、国内法制化が実施された。これらの法令に基づいて機器の試験が実施され、承認が得られれば、CEマークと承認番号を機器に表示できる。CEマークとは、「メーカー自身がEMC指令に適合していることを証明するマーク」であり、マーキングには該当するすべてのEU指令の必須要求事項に適合している必要がある。

Ⅴ 市場動向

1 市場概要

市場規模

BNetzAの2023年次報告書によれば、2023年の国内電気通信事業の売上高は、599億EUR(前年比5.6%増)となった。このうちドイツテレコムの国内売上高は全体の42.9%(前年は42.7%)を占めた。

同報告書によれば、2023年のネットワーク別の売上高は、固定通信が317億EUR、移動体通信が276億4,000万EUR、その他が5億8,000万EURである。電気通信事業者の設備投資額は2010年以降、ほぼコンスタントに増加しており、2023年に132億EURが投資された。主な投資先は、光ファイバ網の展開や5G網の展開である。2023年におけるドイツテレコムの設備投資額は56億EURで、電気通信事業者全体の442.4%を占めた。電気通信事業の従業員数は、低減傾向が続き2023年に13万2,400人となり、このうちの7万8,600人をドイツテレコムが占めた。

2 固定電話

2023年末現在、2020年末までにドイツテレコムもPSTNを終了したことから、固定電話は地域通信会社等の10万を除きほぼVoIPとなった。ドイツテレコムの主な競争事業者には、固定電話も手がける大手ケーブルテレビ会社カーベル・ドイチュラント(Kabel Deutschland)を買収したボーダフォン・ドイツ(Vodafone Germany)、テレフォニカ・ドイツ(Telefonica Deutschland)、テレコロンブス(Tele Columbus)、Tele2等がある。

3 移動体通信

(1)概要

2014年の業界3位のテレフォニカ・ドイツと4位のEプラス(E-Plus)の合併で大手3社へと寡占化が進み、合併後のテレフォニカ・ドイツが加入者数を一気に拡大し、それまで首位だったドイツテレコムが後退した。2019年には1&1ドリリッシュ(1&1 Drillisch(当時、現1&1))がオークションで5G周波数の割当てを受け5年ぶりに4社による競争になった。なお、2022年10月、BNetzAは、1&1が併業しているMVNO事業の終了期限を2025年末とする決定し、2024年8月、1&1はテレフォニカ・ドイツの周波数利用契約からボーダフォン・ドイツとのローミング契約に切り替えた。

移動体通信事業者を2024年6月時点の加入者数シェアが高い順に並べると、テレフォニカ・ドイツ、ドイツテレコム、ボーダフォン・ドイツ、1&1となる。5G加入者数シェア順では、ボーダフォン・ドイツ、テレフォニカ・ドイツ、ドイツテレコム、1&1となっている。

3大事業者の事業戦略を見ると、固定と移動体通信のバンドル化がトレンドとなっている。ドイツテレコムは「Magenta」という共通のブランド名を冠することで顧客の認知度を高め、顧客の囲い込みをしている。ボーダフォン・ドイツは「GigaKombi」を提供し、テレフォニカ・ドイツは「O2 Blue One」を提供している。

(2)5G

5G免許に関しては、2019年3月から6月にかけて、5G用周波数(2GHz帯、3.6GHz帯)オークションが実施され、既存電気通信事業者のドイツテレコム、ボーダフォン・ドイツ、テレフォニカ・ドイツに加え、1&1ドリリッシュ(当時)が落札した。BNetzAの2023年次報告書によれば、2023年末の5Gの人口カバレッジは90.0%を超えたものの、各社でドイツテレコム(77.2%)、ボーダフォン(66.5%)、テレフォニカ・ドイツ(59.2%)とばらつきがある。

また、ドイツテレコムは、2020年6月には、2.1GHz帯(最大225Mbps)での5Gの展開と動的周波数共有技術(Dynamic Spectrum Sharing:DSS)の実装により、展開を加速した。同社は当初、2021年末までに5Gによる人口カバレッジ80%、2025年までに99%を計画していたが、2021年3月末に前倒しで80%の目標を達成した。また、2022年6月にはこれまでの2.1GHz帯と3.6GHz帯に加え700MHz帯の10MHz幅を使用して3,000台の基地局を新設し、農村部での5G接続を改善すると発表した。なお、同社の5Gカバレッジは、2024年10月現在97%である。

一方、ボーダフォン・ドイツは、2019年8月に国内20都市で商用5Gサービスを開始した。また、ボッシュ(BOSCH)や華為技術と協力して2017年2月よりバイエルン州のA9高速道路で5Gの実証実験を開始している。自動運転・コネクテッドカーの分野で5G対応C-V2X技術の研究開発を積極的に行っている。また、同社は既存の3.5GHz帯及び700MHz帯に加えて、2020年7月にフランクフルトで1.8GHz帯(最大500Mbps)の5Gサービスを開始した。2024年10月現在、人口カバレッジは92%である。

テレフォニカ・ドイツは、5G網を2020年10月にベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、フランクフルト、ケルンの主要5都市で運用開始した。700MHz帯と1.8GHz帯の周波数は2021年第4四半期に運用を開始し、2021年半ばまでに2,000台の基地局で3.5GHz帯を使って約80都市でサービスインした。農村部では1.8GHz帯でDSSを使用しており、4Gと5Gの両方のサービスで3G周波数も再編成し転用している。更に、700MHz帯も用いて5Gを提供している。2024年10月現在、人口カバレッジは6%である。

(3)MVNO

代表的なMVNO事業者は、2024年6月現在でシェア順に、1&1、freenet、Congstar(ドイツテレコム系)Aldi Talk、Blau(テレフォニカ・ドイツ系)、FONIC(テレフォニカ・ドイツ系)等である。

2004年、初めてMVNO事業者が市場に参入し、料金水準は大幅に下がった。また、1か月単位で料金プランを変更できたり、複数SIMに対応するデータ共有プランを提供したりする等、3大事業者との差別化を図っている。

4 インターネット

ブロードバンド回線の主流は加入シェアの約6割を占めるDSLで、DSLの成長には、VDSL/ベクタリング技術が貢献しており、DSL加入者の約8割がVDSLである。ドイツテレコムは、VDSLからベクタリング技術と光ファイバへの移行を進めている。また、オールIP化が進展しており、2019年に同社の固定網回線は完全IP化された。

ケーブルテレビ事業者が提供するインターネット接続サービスはHFC及びDOCSIS 3.1の積極的な導入により、サービスの多様化・高速化が一層進み、新規加入者を伸ばしている。2023年末のケーブル・ブロードバンドの加入者のうち、860万は高速のHFCケーブルである。最大手ボーダフォン・ドイツは総延長40万kmを超えるHFC網を所有しており、国内13州の1,530万世帯に接続している。FTTH/FTTB契約数は2023年末に430万(2022年末は340万)に達した。

Ⅵ 運営体等

1 運営体

(1)ドイツテレコム

Deutsche Telekom

Tel. +49 228 181 4949
URL https://www.telekom.de/
所在地 Friedrich-Ebert-Allee 140, 53113 Bonn, GERMANY
幹部 Timotheus Höttges(最高経営責任者/CEO)
概要

1995年1月に政府が完全所有する株式会社となり、1996年11月に株式市場へ上場し、政府保有株式の26%を放出した。その後、更に政府保有株式を放出し、2023年9月末現在、同社の株主構成比率はドイツ復興金融公庫(KfW)が14.0%、連邦政府が13.8%、ソフトバンクが4.5%、一般の株主としては機関投資家が55.9%、個人投資家が16.8%である。

ドイツテレコム・グループは、四つの事業部門(ドイツ、米国、欧州、システムズ・ソリューションズ)に分かれている。

ドイツ事業部門は、ドイツにおけるすべての固定と移動体通信事業を包括している。米国事業部門は、2019年にはT-モバイルUS(T-Mobile US)が第4位のスプリント(Sprint)の買収を完了した。この合併効果により、2020年12月の連結決算では、売上げの6割以上が米国事業となった。

欧州事業部門は、ギリシャ、ルーマニア、ハンガリー、チェコ共和国、クロアチア、スロバキア、オーストリア、ブルガリア、アルバニア、マケドニア共和国、モンテネグロの現地子会社の移動体通信事業を包括している。システムズ・ソリューションズ事業部門は、「Tシステムズ(T-Systems)」ブランドの下で多国籍企業及び政府機関向けにICTソリューションを提供している。

2023年末のグループ全体(国外事業のすべてを含む)の売上高は1,120億EUR(前年度1,144億EUR)、国内売上高は69億EUR(前年度63億6,100万EUR)であった。

(2)ボーダフォン・ドイツ

Vodafone Germany

Tel. +49 211 533 5500
URL https://www.vodafone.de/
所在地 Ferdinand-Braun-Platz 1 40549 Düsseldorf, GERMANY
幹部 Philippe Rogge Ametsreiter(最高経営責任者/CEO)
概要

移動体通信分野及びブロードバンド分野における大手事業者。マンネスマン(MANNESMANN)とドイツ銀行(Deutsche Bank)のジョイント・ベンチャーCNIがドイツ鉄道の電気通信子会社と合併して誕生したマンネスマンArcorを英国のボーダフォンが買収してボーダフォン・ドイツとなった。2013年7月に、ケーブルテレビ最大手カーベル・ドイチュラントを買収し、2015年9月に事業統合を完了し有料テレビ市場に進出し、2019年8月には米リバティ・グローバル(Liberty Global)からユニティメディア(Unitymedia)も買収した。

2023年末現在のドイツ国内のサービス売上高は131億EURであり、このうち約半分を移動体通信が占める。各サービスの加入者数は、2023年末現在、移動体通信が3,116万、固定ブロードバンドが1,800万、ケーブルが1,176万である。

(3)テレフォニカ・ドイツ

Telefonica Deutschland Holding

Tel. +49 89 24420
URL https://www.telefonica.de/
所在地 Georg-Brauchle-Ring 50, 80992 München, GERMANY
幹部 Markus Haas(最高経営責任者/CEO)
概要

スペインを本拠とするテレフォニカが2006年にO2ドイツ、2013年にはオランダKPNグループのEプラスを買収して事業規模を拡大した。

2023年度のドイツ国内の売上高は前年比4.7%増の86億1,400万EURで、このうち移動体通信が約7割(58億9,500万EUR、同2.7%増)を占める。サービスの加入者総数は、2023年末現在、移動体通信が4,510万、固定ブロードバンドが240万であった。

2024年1月、テレフォニカにより完全子会社化手続が終了し同年4月にフランクフルト市場で上場廃止となった。

(4)1&1

1&1 AG

Tel. +49 2602 96 0
URL https://www.1und1.ag/
所在地 Elgendorfer Str. 57, 56410 Montabaur, GERMANY
幹部 Ralph Dommermuth(最高経営責任者/CEO)
概要

国内3位のISPであったユナイテッド・インターネット(United Internet)が2014年11月にバーサテル(Versatel)、2017年9月にMVNO大手の移動体通信サービス会社であるドリリッシュ(Drillisch)を買収し、2018年1月に新会社1&1ドリリッシュを設立し、移動体通信サービスに新規参入した。2021年6月には1&1と改称している。第4のMNOとして5Gサービスを2023年12月に開始した。2023年9月末現在、顧客数は1,635万(移動体1,238万、ブロードバンド397万)、2023年度の総売上は41億EURである。

2 主要メーカー

シーメンス

Siemens AG

Tel. +49 89636 00
URL https://www.siemens.com/
所在地 Werner-von-Siemens-Straße 1, 80333 Munich, Germany
幹部 Roland Busch(社長兼最高経営責任者/President and CEO)
概要

1847年創立のドイツを代表する多国籍企業である。2023年末現在、世界各地で従業員は約32万人、200か国以上に主要生産・製造工場を有するほか、世界各国に事務棟、倉庫、調査・研究施設、販売拠点等を有する。2023年度の売上高は778億EURであった。

放送

Ⅰ 監督機関等

1 連邦ネットワーク庁(BNetzA)

(通信/Ⅰ-3の項参照)

所掌事務

電波監理、放送分野の技術面の規制監督を所掌する。

2 州の首相官房

放送行政は、「ドイツ基本法」第5条第1項の放送の自由規定及び第70条~第74条の規定により連邦の権限として明記されていないことは州の権限とされ、かつ具体的に放送が明記されていないので、連邦(Bund)ではなく、16の州(Land)の首相官房(Staatskanzlei)が所管している。州間の放送政策を協議する場合は、ラインラント=プファルツ州の首相官房が幹事を務める。

3 州のメディア監督機関(Landesmedienanstalt

所掌事務

州政府から独立した商業放送の規制監督機関で、全国に14の機関がある。ベルリン州とブランデンブルク州、ハンブルク州とシュレースビヒ・ホルシュタイン州はそれぞれ共同の規制監督機関を設立しており、名称は各州によって異なる。商業放送の許認可、放送技術の研究と普及に関する支援、放送番組の内容の監督等を任務とする。財源として放送負担金(Ⅲ-3の項参照)の1.9%が各州のメディア監督機関に分配される。

全国又は州を越えた問題に関しては、14の州メディア監督機関が共同で組織する州メディア監督機関連盟(The Media Authorities:ALM)の所管となり、規制監督等に関して全国共通の方針を規定している。

ALMは、「評議会代表者会議(Conference of Chairpersons of the Decision-Taking Councils:GVK)」「総会(General Conference:GK)」「執行役会議(Conference of Directors of the Media Authorities:DLM)」「認可監督委員会(Commission on Licensing and Supervision:ZAK)」「青少年メディア保護委員会(Commission for the Protection of Minors in the Media:KJM)」「メディア分野集中審査委員会(Commission on Concentration in the Media:KEK)」の六つの委員会で構成されている。

4 メディア分野集中審査委員会(KEK)

Tel. +49 30 2064690 61
URL https://www.kek-online.de/
所在地 Gemeinsame Geschäftsstelle, Friedrichstraße 60, 10117 Berlin, GERMANY
幹部 Georgios Gounalakis(議長/Chairman)
所掌事務

1997年1月発効の「放送に関する州間協定」の第3次改正により、マスメディア集中排除規定が設けられ、商業放送における集中度を審査するための全国組織の審査機関として同年5月に設立された。各州のメディア監督機関からは独立しており、放送法と経済法の専門家6名及び州メディア監督機関からの代表者6名で構成されている。「放送とテレメディアに関する州間協定」第26条に基づいた放送事業者の合併買収に伴う資本関係の変化や番組配信状況の変化等により年間視聴率で30%を超える事業者、若しくは国内視聴世帯のカバレッジで25%を超え、メディア関連市場において支配的な事業者が出現する際には、メディア監督機関に対して報告、助言を行う。

各州が集中排除規定の審査をする場合は、KEKの判断を仰ぎ、従う義務がある。不服があれば第2審としてDLMの審査を仰ぐことが可能で、KEKの判断を4分の3の多数採決で覆すことができる。州はDLMの判断を順守する義務がある。

5 公共放送の財源需要審査委員会(KEF)

Tel. +49 6131 16 4709
URL https://kef-online.de/
所在地

KEF, Geschäftsstelle Peter-Altmeier-Allee 1

55116 Mainz, GERMANY

幹部 Martin Detzel(議長/Chairman)
所掌事務

放送負担金額の決定プロセスから政治的な影響を排除するために設立された独立委員会。16人の委員で構成され、公共放送の4年間の事業計画を審査し、放送負担金の値上げの必要性、金額、時期について、2年ごとに州政府に答申を提出する。州政府は政治不介入の観点から、十分な理由がない限り、答申の金額を変更することは認められない。現在の委員会構成員の任期は2021年10月から2026年12月までである。

Ⅱ 法令

1 ドイツ連邦共和国基本法(Basic Law for the Federal Republic of Germany

1990年の東西ドイツの統一に伴い、それまで東西異なる体制で行われてきたドイツの放送監督制度は、1992年1月に、旧西ドイツの放送制度を基礎に統合され、放送事業は基本法(憲法)により連邦の権限との明記がないため州の所掌とされている。第5条で、表現の自由、知る権利、放送及びフィルムによる報道の自由等、国民の基本権に関して規定している。

2 州公共放送法

ドイツ公共放送連盟(Association of Public Broadcasting Corporations of Germany:ARD)、ARDに加盟する九つの州放送協会、第2ドイツ・テレビジョン協会(Second German Television:ZDF)については、各州が制定した「州公共放送法」(名称は州によって異なる)、又は「ARD/ZDFに関する州間協定」が適用される。内容はいずれも各放送事業者の設立、業務、放送番組、組織、職員の権限、財務、監査等についての規定である。ただし、放送事業者の事業地域が複数の州にまたがっている場合は、「州公共放送法」ではなく、州間協定の形をとる。

3 州商業放送法

商業放送の許認可や番組コンテンツ等について規制するほか、州メディア監督機関の任務、組織、財源等についても規定している。名称は州により異なる。

4 メディア州間協定(Interstate Media Treaty:MStV)

1991年8月に、「放送に関する州間協定(Interstate Treaty on Broadcasting:RStV)」が締結された。2007年の第9次改正によりテレメディアに関する規則が盛り込まれ、「放送とテレメディアに関する州間協定(Interstate Treaty on Broadcasting and Telemedia:RStV)」に変更された。RStVは度々改正されているが、第15次改正では、従来の受信機単位の徴収から世帯単位へ変更した。また、受信料が放送負担金という名称に切り替わるとともに、「放送受信料に関する州間協定」は「放送負担金に関する州間協定(Interstate Agreement on the Financing of Broadcasting:RFinStV)」に名称が変更された。

16州の政府は2019年12月、現行の放送法に、検索エンジン、SNS、AI音声アシスタント等、情報・コミュニケーション・サービスに対する規制を組み込み「メディア州間協定(Interstate Media Treaty:MStV)」の法案を決議した。検索エンジン、動画共有プラットフォーム、SNSに対して、コンテンツの収集・選別・提示の基準やアルゴリズムの仕組みについての情報開示を義務付け、特定のコンテンツを正当な理由なく差別的に扱うことを禁じる内容となっている。また、多くのメディア関連のアプリやコンテンツを選択・利用できるスマートテレビやAmazon Alexa等のAI音声アシスタントに対し、公共的価値のあるものを見つけやすく提示するよう義務付ける。法案は、2020年10月末、すべての州議会で承認され、同年11月に発効した。

5 放送負担金に関する州間協定

放送負担金の額を決定する手続や放送負担金収入の各公共放送への配分割合等を定めている。

6 ドイチェ・べレ法(Deutsche Welle Act:DWG)

ラジオ及びテレビの国際放送を実施するドイチェ・べレ(Deutsche Welle:DW)の設立や役割等について規定している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

旧西ドイツでは、1984年1月に開始されたケーブルテレビの放送実験に商業放送事業者の参入が認められ、1986年11月には連邦憲法裁判所が商業放送を合憲と裁定した。更に1987年3月には、放送制度の再編成に関する州間協定が成立し、公共放送と商業放送の併存を目指す新放送体制が制度的に確立された。

旧東ドイツでは、1991年4月にザクセン・アンハルト州が最初に「商業放送法」を州議会で可決し、同6月にザクセン州、同7月にメクレンブルク・フォアポンメルン州及びチューリンゲン州がそれぞれ「州商業放送法」を成立させ、旧西ドイツと同じく、公共放送と商業放送の併存体制が確立された。

2 所有規制

MStV第60条では、テレビにおける意見の多様性確保のために、年間視聴率で30%を超える事業者、若しくは国内視聴世帯のカバレッジで25%を超え、メディア関連市場において支配的な事業者に対して、KEKは追加的な免許の交付や持ち分の放棄等を提案できる。

3 放送負担金制度

一般世帯については、住居ごとに放送負担金1件分が徴収される。生活保護、失業保険、連邦奨学金等の受給者及び盲ろう者は支払いが免除される。事業所については、従業員数に応じて支払額が異なる。また、営業車には2台目以降から1台につき3分の1の額が課される。学校や福祉施設等の公益施設は、従業員数に関係なく3分の1の額を支払う。

放送負担金の徴収額は、KEFの答申に基づいて16州の首相が決定し、その後全州の議会の同意を得て発効する。改定は通常4年ごとに実施し、2021年7月改訂の放送負担金は月額18.36EURである。

なお、放送負担金の軽減を目的とした改正が、2017年1月1日に発効された。主な改正点は、免除申請手続の簡便化、従業員数に応じた事業所の支払いについて非常勤従業員の常勤換算を認める、支払免除の親と同居する子どもについて支払義務の開始年齢を18歳から25歳に引き上げる等である。

放送負担金の徴収業務は、「ARD・ZDF・DLR負担金サービス(Contribution Collection Service for Public Broadcasting ARD, ZDF and DLR)」が行う。未登録や不払いが発覚した場合には、行政上の強制執行による徴収、あるいは1,000EUR以下の罰金が課せられる。

2023年度の放送負担金の総徴収額は前年比5.3%増の90億2,290万EURで、そのうち、約65億EURがARDに、約23億EURがZDFに、約3億EURがドイチュラントラジオ(Deutschlandradio:DLR)等に分配された。

4 公共放送の広告放送とスポンサーシップ

ARDの第1テレビ及びZDFにおいて、1日平均20分までの広告放送が認められているが、平日午後8時以降と日曜・祝日は認められていない。プロダクト・プレースメントは禁止されている。番組のスポンサーシップも認められているが、ニュース及び政治的時事番組では禁止されている。また、政治団体あるいは宗教団体がスポンサーとなることは禁止されている。インターネットでの広告・スポンサーシップも禁じられている。スポンサーシップが付いている番組は番組の冒頭と終わりに資金提供を受けている旨が明示される必要がある。広告放送とスポンサーシップがARDとZDFの総収入に占める割合は、2023年でARDが5%、ZDFが6%であった。

5 コンテンツ規制

MStV及び各州の「州公共放送法」「州商業放送法」が番組指針、番組基準等に関して規定している。特に人権の尊重と青少年の保護を重視しており、①人種的憎悪、非人間的な暴力行為、人間の尊厳の侵害等を促進、②戦争賛美、③猥褻表現、④青少年へ道徳的に悪影響を及ぼすもの等を禁止している。また、青少年の心身両面に悪影響を与える番組の放送は原則として禁止されているが、放送時間や他の方法の調整により、放送が認められる。「青少年保護法」により、16歳未満禁止の映画は、午後10時~午前6時まで、また18歳未満の青少年に禁止されている映画は、午後11時~午前6時までは放送が認められている。

商業放送については、RTLグループ、サット1(Sat.1)、スカイ(Sky)等が共同で立ち上げた自主規制機関「German Association for Voluntary Self-Regulation of Television:FSF」がテレビ放送とインターネット上の番組コンテンツについて審査とレーティングを行っている。

また、RStVは2020年4月にMStVに改正され、大手デジタル・プラットフォーム事業者に対し、コンテンツ収集・選別・提示の基準やアルゴリズムの仕組みについての説明義務、特定コンテンツの差別禁止等の規定が追加された。更に放送行政を所管する全16州の首相は、2022年6月、公共放送の番組やサービスの「公共放送らしさ」を明確化する目的で、MStV上の公共放送の任務規定を変更する改定案について合意した。主な変更点は、①公共放送の番組は「文化」「教養」「暮らしの助言」「娯楽」の4分野に資するものでなくてはならないと定めたうえで、「娯楽」については「公共放送としての性格に合致するもの」を任務に含める、②公共放送の内部監査機関の権限を強化する、③ADRとZDFの専門チャンネルのテレビ放送の義務付けを廃止し、公共放送の判断でインターネット配信に切り替えられるようにする、等である。

6 地上デジタル放送

ドイツでは、2002年11月にベルリン/ポツダム地区で地上デジタル放送の本放送が開始された後、州ごとに地上デジタル放送が導入され、2008年11月のバイエルン州北部を最後に地上デジタル放送への移行が完了し、それに伴い地上アナログ放送が廃止された。

公共放送は、ARDの第1テレビ(Das Erste)や第3チャンネル、ZDFのほか、様々な専門チャンネルを組み合わせて、全国で放送している。一方、商業放送のRTLグループとプロジーベンザット1(ProSiebenSat.1)は、人口の多い都市部で地上デジタル放送を実施している。

2016年5月から地上デジタル放送の次世代規格であるDVB-T2方式への移行が始まった。全国18の都市部でHD試験放送が開始され、2017年3月27日にHD本放送へ移行した。商業放送のHD放送は、地上放送の送信義務を請け負う伝送路事業者Media Broadcastが運営する有料プラットフォーム「freenet TV」上で提供されている。Media Broadcastは、かつてドイツテレコムの子会社だったが、2008年1月にフランスの同業TDFに売却された後、2016年3月からドイツの電気通信事業者freenetの完全子会社となっている。ALMがデジタル放送の進捗状況をまとめた「Digitisation in Germany」によると、2021年9月現在、地上デジタル放送を視聴している世帯は、テレビ視聴世帯数3,850万世帯のうち、6.7%(前年6.3%)であった。

デジタルラジオは、放送技術の規格にDAB+方式を採用しており、2011年8月に放送が始まった。DAB+放送は現在、全国・州域・地域放送合わせて約250系統で放送されている。2021年のDAB+放送の1日平均視聴者数は公共放送が3,450万人、商業放送が2,730万人であった。

アナログのFMラジオ放送は2015年までに終了することとされていたが、2011年10月のTKG改正により、2025年まで延長されることとなった。

ラジオ放送もデジタル化されたため、自動車でもラジオ放送が受信できるよう2019年のTKG改正により、2020年12月以降に製造される自動車に搭載されるカーラジオは地上デジタルラジオを受信できなければならないと規定された。

2019年5月~10月にバイエルン州で5Gインフラを用いたテレビ放送の実証実験が行われ、半径約60km以内にある複数の端末に同じデータを一度に送信できた。また、SIMカード不要のFeMBMS(Further evolved Multimedia Broadcast Multicast Service)方式の5G放送の検証も行われた。

また、ドイツテレコムは2024年にドイツで開催された欧州サッカー選手権の際、民間放送局RTLグループ向けに会場にはローカル5G、現地中継は5G SAのスライシングを用い、伝送部分に5Gを用いたサービスを提供している。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

公共放送は、DLRが全国向けにDeutschlandfunk(FM、ニュース・情報中心)、Deutschlandradio Kultur(FM、文化・教養中心)、インターネット・ラジオ専門局のDeutschlandfunk Nova(青年向け教育中心)の3系統で放送している。また、ARDの州放送協会が各州で4~8系統の放送を行っており、ARD全体でFM放送で53系統、DAB+放送で68系統の放送を行っている。

商業放送は、全国向け衛星ラジオや州域・地域向けFM局を合わせて全国に300近くある(2021年現在)。全国向け衛星ラジオ局は約20局あり、代表的なラジオ局としてRTLラジオやKlassik Radio等がある。ラジオ放送の多くが衛星、ケーブル、インターネットで同時放送されている。

国際ラジオ放送は、DWが短波、AM・FM、DRM(Digital Radio Mondiale)、衛星、インターネットにより30言語で実施している。

2 テレビ

公共放送の全国放送は、九つの州放送協会によって構成されるARDが1系統(第1テレビ)、ZDFが1系統の計2系統で実施している。これに、ドイツとフランスの機関が共同出資しているARTEがぞれぞれの国で放送を行っている。ドイツ側の機関はARDとZDFが50%ずつ出資するARTE Deutschland社で、フランス側はフランス・テレビジョン(45%)、フランス政府(25%)、ラジオ・フランス(15%)、フランス国立視聴覚研究所(15%)が出資するARTE France社。ARTEは1992年に放送を開始し、主にヨーロッパ文化・教養に関する番組をドイツ語、フランス語、英語、スペイン語、ポーランド語、イタリア語の6か国語でヨーロッパ10か国の公共放送がパートナー局として放送している。

商業放送は、RTLグループとプロジーベンザット1の2大メディア・グループが全国の都市圏でそれぞれ4~5チャンネルで放送している。これ以外に地域放送局が172局ある。地上テレビ放送の視聴世帯数は極少数であることから、伝送路としての地上波は補完的な役割にとどまっており、衛星放送、ケーブルテレビ、IPTVが主な基幹伝送路として使用されている。

テレビ国際放送は、DWが1953年にARDの1サービスとして開局したが、1960年に「ドイチェ・ベレ法」が制定され、海外向け放送を任務とする独自の公共放送として位置付けられた。基本チャンネルは、24時間英語のみで、南米大陸を除く全世界で放送する。地域チャンネルは、欧州向けが英語18時間とドイツ語6時間、北米向けとアジア向けがドイツ語20時間と英語4時間、中南米向けがスペイン語20時間とドイツ語4時間、中東・北アフリカ向けがアラビア語10時間と英語10時間で放送する。

3 衛星放送

大手放送事業者は、ルクセンブルクの衛星運用事業者SESアストラ(SES ASTRA)の衛星を使用して衛星放送を行っている。公共放送のARDとZDF、商業放送大手のRTLグループとプロジーベンザット1等が無料放送を行っている。有料プラットフォーム事業者には、英国スカイの子会社スカイ・ドイチュラント(Sky Deutschland)とSESアストラのHDプラス(HD+)がある。2022年現在、衛星放送の視聴世帯普及率は44.1%(約1,698万世帯)である(前年:普及率44.8%、視聴世帯数は約1,724万世帯)。衛星アナログ放送は2012年4月に終了している。

なお、公共放送ARDは2019年1月、衛星放送視聴世帯向けにすべてのチャンネルをHD化した。

4 ケーブルテレビ

ケーブルテレビは、衛星放送と並び、ドイツで最も利用されているプラットフォームである。2021年6月現在、ケーブルテレビの視聴世帯普及率は43.7%であった(前年:世帯普及率43.6%)。地上放送と衛星放送がそれぞれ2008年11月と2012年4月にデジタル化への移行を完了しており、ケーブルテレビは、2019年3月にドイツ全土でデジタル移行がほぼ完了した。

ケーブルテレビ事業者には地域網から複数の州にまたがる広域網までを一手に運営する大手事業者のボーダフォン・ドイツと大手事業者から受けた信号を加入者に小売りする小規模事業者が多数あり、更に小規模事業者が統合して成長した独立系の中規模事業者(テレコロンブス等)等がある。

Ⅴ 運営体

1 ドイツ公共放送連盟(ARD)

Association of Public Broadcasting Corporations of Germany

Tel. +49 30 8904313 11
URL https://www.ard.de/
所在地 Masurenallee 8-14, 14057 Berlin, GERMANY
幹部 Kai Gniffke(会長/Chairman)
概要

九つの地域公共放送協会から1年ごとに輪番制で幹事協会が選出され、幹事担当協会の会長がARD会長となり、総会等の業務を行う。2023年度のARD全体の総収入は72億5,440万EURで、放送負担金収入が86%、広告収入が5%を占めた。

ARD傘下の各州放送協会の最高機関は放送評議会で、社会各層を代表する委員で構成される。委員の数・任期等は放送機関により異なる。放送評議会は、会長の任免等人事に関する権限のほか、放送番組全般についての州放送協会会長への助言、番組基準の順守についての監督、予算及び決算の承認等、協会の基本的な業務について審議し、決定する。各州放送協会の業務執行の最高責任者は会長で、放送評議会が任命する。

2 第2ドイツ・テレビジョン(ZDF)

Second German Television

Tel. +49 0 6131 700
URL https://www.zdf.de/
所在地 Zweites Deutsches Fernsehen, 55100 Mainz, GERMANY
幹部 Norbert Himmler(会長/Director)
概要

全国を対象にテレビ放送を行う公共放送機関である。ZDFは、77名の多様な社会層を反映する委員で構成されるテレビ評議会を最高機関としている。テレビ評議会は、ZDFの基本的業務を審議し、会長の任免等の人事、放送番組全般に関する会長への助言、番組基準の順守についての監督、予算及び決算の承認等を行っている。ZDFの代表であり運営に関する最高責任者は会長で、テレビ評議会が任命する。2023年度のZDFの総収入は25億6,400万EURで、放送負担金収入が85%、広告収入が5%を占めた。

3 ベルテルスマン

Bertelsmann

Tel. +49 5241 800
URL https://www.bertelsmann.com/
所在地 Carl-Bertelsmann-Strasse 270, 33311 Gütersloh, GERMANY
幹部 Thomas Rabe(会長兼最高経営責任者/Chairman and CEO)
概要

総合メディア企業ベルテルスマンの子会社CLT/Ufaが2000年に英国のピアソンTV(Pearson TV)と合併してRTLグループを発足させ、ベルテルスマンがその筆頭株主(株式の75.1%を所有)となっている。RTLグループは56のテレビ局と36のラジオ局を所有する欧州最大のメディア・グループであり、国内では傘下の全国向けテレビ放送事業者RTL Television、RTL2、VOX、SuperRTL等がサービスを提供している。

4 ボーダフォン・ドイツ

Vodafone Kabel Deutschland

Tel. +49 800 27 87 000
URL https://www.vodafone.de/
所在地 Betastrasse 6-8, 85774 Unterföhring, GERMANY
幹部 Marcel de Groot(会長兼CEO/Chairma(CEO))
概要

国内全州でサービスを提供する最大手のケーブルテレビ事業者である。2013年7月に、ボーダフォン・ドイツが約77億EURでカーベル・ドイチュラントを買収し、2015年9月に社名も変更された。2018年5月、ボーダフォン・ドイツは、リバティ・グローバルからユニティメディアの買収手続を完了しケーブルテレビの全国基幹網が1社に集約された。

2022年6月末現在の同社のケーブルテレビ・サービスの契約件数は1,309万件である。

電波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

(1)連邦デジタル・交通省(BMDV)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

所掌事務

電波監理はDG局(デジタル社会)DG12課(周波数政策)が担当する。

(2)連邦ネットワーク庁(BNetzA)

(通信/Ⅰ-3の項参照)

所掌事務

公共安全及び放送用を含む周波数割当、電波干渉のない効率的な周波数利用、通信機器の基準認証、技術標準の調整等を所掌。

2 標準化機関

(1)ドイツ標準化協会(DIN)

German Institute for Standardization

Tel. +49 30 2601 0
URL https://www.din.de/
所在地 Saatwinkler Damm 42/43, 13627 Berlin, GERMANY
幹部 Christoph Winterhalter(会長/President)
所掌事務

1917年設立。映像機器、スポーツ器具、食品関連器具、電気機器等の標準化を規定したドイツ連邦規格「DIN規格」を制定する。

(2)DIN/VDEドイツ電気・電子・IT委員会(DKE)

German Commission for Electrical, Electronic and Information Technologies of DIN and VDE

Tel. +49 69 6308 0
URL https://www.dke.de/
所在地 Stresemannallee 15, 60596 Frankfurt am Main, GERMANY
幹部 Kurt D. Bettenhausen(会長/Chairman)
所掌事務

DINとドイツ電気技術者協会(Association for Electrical, Electronic and Informa­tion Technologies:VDE)の合同組織として創設され、IEC(International Elec­trotechnical Commission)、CENELEC(European Committee for Electrotechnical Standardization)、ETSI(European Telecommunications Standards Institute)等における電気技術及び電気通信にかかわる標準化作業を所掌する。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理政策の概要

BNetzAは、電波監理の分野では、効率的で干渉のない周波数利用を放送用を含む周波数帯で実現することを目的に掲げる。また、連邦議会及び連邦参議院からの各16名で構成される同庁の諮問委員会は、周波数オークションの規則、周波数分配計画等に関して提言を行う。

2 周波数分配

周波数管理については、TKG第5章第1節に規定される。その目的は「周波数の効率的かつ干渉のない使用を保証し、全国周波数分配表及び周波数利用計画を作成・管理」することにある。BNetzAは、連邦国防省(Federal Ministry of Defence:BMVg)に管理権限のある周波数以外の管理を所掌する。このために、「周波数利用計画(National Frequency Usage Plan)」を策定し、周波数分配を行っている。周波数割当では、需要が多い場合にはオークションを採用することができる。また、周波数免許の2次取引も認められている。

具体的な周波数割当の所管は、以下のとおりである。

このほかに、「EU指令(2002/20/EC)」に基づく、一般認可(General Authorization)による周波数割当(IMSバンド、短距離無線機器、WLANを含む免許不要局等)制度がある。

3 周波数オークション

BNetzAは、2015年5月から6月にかけて、700MHz、900MHz、1.8GHz及び1.5GHz(1452-1492MHz)帯のマルチバンド・オークションを実施した。900MHz帯は落札できる周波数量が1社当たり最大15MHz幅×2(ペアバンド)までの周波数キャップが課された。700MHz帯はカバレッジ義務が課され、最低10Mbpsの下り回線速度のサービスの世帯普及率を、免許付与後3年以内に、全国で98%、各州で95%、都市で99%、自動車高速道路(Bundesautobahn:BAB)・鉄道で100%に引き上げることとされた。なお、BNetzAは、3事業者すべてがカバレッジ要件を完全に満たしていなかったため2020年末まで猶予期間を与えるとともに、中間目標を設定した。同年8月、BNetzAはテレフォニカ・ドイツ及びドイツテレコムがこの中間目標を達成した旨を発表している。

ドイツのオークション落札総額の比較

実施年 オークション帯域 対象帯域幅 落札総額
2015年 700MHz、900MHz、1.5GHz、1.8GHz 270MHz 57億5,000万USD
2010年 800MHz、1.8GHz、2GHz、2.6GHz 360MHz 55億USD
2000年 2GHz(3Gオークション) 155MHz 576億2,000万USD

出所:各種資料を基に作成

マルチバンド・オークションの事業者別・周波数帯別の落札結果

免許人 周波数帯 落札幅

落札額

(EUR)

落札総額(EUR)
テレフォニカ・ドイツ 700MHz 10MHz幅×2 333,244,000 1,198,238,000
900MHz 10MHz幅×2 385,478,000
1.8GHz 10MHz幅×2 479,516,000
ドイツテレコム 700MHz 10MHz幅×2 338,216,000 1,792,156,000
900MHz 15MHz幅×2 545,104,000
1.8GHz 15MHz幅×2 744,939,000
1.5GHz 20MHz幅×1 163,897,000
ボーダフォン・ドイツ 700MHz 10MHz幅×2 328,985,000 2,090,842,000
900MHz 10MHz幅×2 415,105,000
1.8GHz 25MHz幅×2 1,180,994,000
1.5GHz 20MHz幅×1 165,758,000
合計 270MHz 5,081,236,000

出所:http://www.bundesnetzagentur.de/EN/Areas/Telecommunications/Companies/FrequencyManagement/FrequencyAward/FrequencyAward_node.html

4 5G周波数

BNetzAは2017年6月、5G用途の周波数に関する枠組文書を公表した。文書では投資の確保やセキュリティ計画と併せて、5Gへの割当てが可能な周波数帯が記載されており、具体的には2GHz帯の60MHz幅×2(1920-1980MHz/2110-2170MHz)と3.4-3.8GHz帯が挙げられている。

また、BNetzAは、5Gインフラストラクチャの展開に適した周波数として、2GHz帯や3.4-3.8GHz帯だけでなく、700MHz帯のセンターギャップ部分、26GHz帯及び28GHz帯を挙げており、追加的な将来の周波数としては、450MHz帯、1.5GHz帯の拡大、2.3GHz帯を候補として挙げている。

BNetzAは、現在、4Gや5Gで使用されている2025年12月に免許期限を迎える800MHz、1.8GHz、2.6GHz帯周波数について、円滑なサービス継続の観点からオークションを実施する代わりに、既存移動通信事業者の周波数免許を2030年まで5年間延長するポジション・ペーパーを公表し、2024年5月にパブリック・コメントで意見募集し国内で検討が進められている。

(1)5G周波数オークションの実施

BNetzAは2018年11月、2GHz帯及び3.6GHz帯の5G向け周波数オークション関連規則の最終案が承認されたことを発表し、2019年3月からオークションを実施した。2GHz帯は、2000年及び2010年にオークションによって割り当てられた帯域で、前者は2020年末に、後者は2025年末に免許期限を迎えるもの。BNetzAは、当該帯域の再割当に当たり、免許期限の異なる免許を、1920-1980MHz/2110-2170MHzの連続した帯域として、合計12ブロック(5MHz幅×2×12ブロック)を一斉にオークションにかけた。3.6GHz帯(3400-3420MHz、3420-3700MHz)は合計29ブロック(20MHz幅×1ブロック、10MHz幅×28ブロック)をオークションにかけた。52日間で全497ラウンドに及んだオークションは2019年6月に終了し、4事業者が割当てを受けた。

5G周波数(2GHz帯、3.6GHz帯)オークション結果

落札事業者 帯域 落札額(EUR)

1&1ドリリッシュ

(現1&1)

2GHz:10MHz幅×2

3.6GHz:50MHz幅

334,997,000

735,190,000

(計)1,070,187,000

テレフォニカ・ドイツ

2GHz:10MHz幅×2

3.6GHz:70MHz幅

381,104,000

1,043,728,000

(計)1,424,832,000

ドイツテレコム

2GHz:20MHz幅×2

3.6GHz:90MHz幅

851,520,000

1,323,423,000

(計)2,174,943,000

ボーダフォン・ドイツ

2GHz:20MHz幅×2

3.6GHz:90MHz幅

806,501,000

1,073,188,000

(計)1,879,689,000

合計 (割当総帯域)420MHz (落札総額)6,549,651,000

出所:BNetzA資料を基に作成

落札者は以下の下り速度以上での接続サービスを達成する義務を負うが、この周波数や5Gに限定せずに、既存の割当済みの周波数や4Gも使用することができる。

これらの義務を達成するのに当たり、ローミングやインフラ共用に関して、ネットワーク事業者から要請があった場合には、電気通信関連法及び独占禁止法の制限内で、非差別的にかつ即座に交渉を開始しなければならない。ローミングは、既存のネットワーク事業者と新規事業者間の全国ローミングと、既存ネットワーク事業者間の地域ローミングに区別される。また、インフラ共用とは、ネットワーク要素(ロケーション共有から周波数プールまで)を共同で開発・共有するものであり、競争法及び独占禁止法を順守することを条件に、協力協定の締結を通じて他の事業者と共同で経済的にネットワークを拡大できる。インフラ共用によって、将来にわたってネットワークの拡大が見込めない農村地域において、費用対効果のあるネットワークを整備することが可能となる。

2023年1月、BNetzAは移動体通信事業者が提出した報告書の審査を開始し、2022年末の適用範囲要件を満たしているかどうかを判断した。ドイツテレコム、テレフォニカ・ドイツ、ボーダフォン・ドイツはいずれも、各州の要件で世帯カバレッジ98%において100Mbpsの要件を満たしており、交通ルートでは2022年末までにほぼ完全に100Mbpsの要件を満たしていると主張している。この3社は1,000台の5G基地局を起動するという義務をほぼ達成したが、1&1はこの目標を期限内に達成できなかった。

(2)ローカル5Gの割当て

3.7-3.8GHz帯や26GHz帯の一部は、ローカル5Gアプリケーション向けに地域免許として割り当てられている。ローカル・アプリケーション向けの周波数を用いることで、経済及び社会のデジタル化を促進し、革新的なソリューションに注力し、多様なキャンパス・ネットワーク(構内網)の機会を創出し、「インダストリー4.0」等、先端ICT分野でドイツが先駆的な役割を果たすことが期待されている。

上記帯域のうち3.7-3.8GHz帯について、BNetzAは2019年11月から割当てを開始している、ローカル5G免許の申請手続を開始した。当該帯域は、主としてインダストリー4.0の分野で使用できるほか、農業や林業等でも使用できる。免許申請は、土地や建物の所有者やその賃借人等が行うことができ、電子申請によって実施される。また、周波数の割当てには、周波数の最適かつ効率的な使用を確保するために、ローカル5G免許人には割当料が課せられる。料額は以下の計算式に従うため、要求する帯域幅や対象エリアの面積によって異なる。

料金 = 1,000 + B * t * 5 *(6 a1 + a2)

26GHz帯もローカル5Gに限らず、技術中立で2021年1月から免許申請受付している。2024年12月現在24件の申請があり、24件の免許が交付されている。

周波数の割当てには、周波数の最適かつ効率的な使用を確保するために、割当料が課せられる。料額は以下の計算式に従うため、要求する帯域幅や対象エリアの面積によって異なる。

料金 = 1,000 + B * t * 0.63 *(6 a1 + a2)

5 周波数割当計画「Spectrum Compass 2020

BNetzAは、2020年8月、今後の周波数割当計画をまとめた「Spectrum Compass 2020」を公表した。2025年末及び2033年末に免許期限を迎え、再割当が予定される帯域を示すことで、電気通信事業者をはじめ、ICT業界のステークホルダーが効果的な投資計画を立てることができるようにすることを目的としている。

また、将来の高性能移動体ネットワークに活用するために、800MHz帯、1.8GHz帯、及び2.6GHz帯についての再割当に係るコンサルテーションが実施され、意見公募が2021年8月に締め切られた。特にこれらの帯域の活用は、農村地域では、ブロードバンドのカバレッジを改善することに主眼が置かれている。

6 電波監視体制

TKG第64条により、周波数使用に関する監視及び業務停止命令を規定している。同条に基づき、BNetzAが無線監視・検査業務(Radio Monitoring and Inspection Service:PMD)を実施している。周波数の効率的かつ干渉を受けない利用を確保し、電磁環境の保全を目的として、全国のBNetzA支所にある固定及び移動監視装置によって電波監視が行われている。宇宙通信用周波数帯の監視業務を目的に、BNetzAはライン川に近いリーハイムに12mのパラボラアンテナを含む大規模な施設を所有している。同施設は宇宙通信への干渉源となる人工衛星の位置決定機能も持つ。また、欧州各国への宇宙電波監視データの提供も行っている。

7 電波利用料制度

TKGに基づき徴収される電波利用料には、周波数割当手数料と周波数保護分担金があり、徴収権限はBNetzAにある。徴収の詳細は「周波数割当手数料令(Frequency Fee Ordinance:FGebV)」及び「周波数保護分担金令(Frequency Protection Contribution Ordinance:FSBeitrV)」で規定される。周波数割当手数料は、周波数割当に必要な公的業務の費用及び経費で、周波数保護分担金は、効率的で干渉のない周波数を確保するために必要な対策費に、試験及び電磁適合性の研究を含む周波数利用の計画及び維持に関する費用を加えたものである。それぞれ、毎年賦課される電波利用料は、BNetzAの運営費の回収を目的として徴収され、国庫に納入される。BNetzAには、連邦財務省から年間予算が与えられる。

8 電波の安全に関する基準

電波の安全性に関する事項は、連邦環境・自然保護・原子炉安全省(Federal Environment Ministry:BMU)及びBMWKが所掌している。電磁界における人体のばく露に関する制限値について、BMUが電磁界規制の基本法令「連邦環境汚染防止法」と「連邦環境保護規則の第26実施政令」で定めている。これらの規制値は国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の基準に沿ったものとなっている。

BNetzAは免許を付与したすべての送信局の電磁環境に関するデータベースを維持し、公開している。また、EUの「電磁両立性に関する指令(2014/30/EU)」及びその国内法によって、継続的に全国の電磁環境をモニターするとともに、無線端末機器の電磁環境特性を独自に試験している。

Ⅲ 周波数分配状況

周波数分配表(周波数利用計画)は、以下のURLから入手できる。

https://data.bundesnetzagentur.de/Bundesnetzagentur/SharedDocs/Downloads/DE/Sachgebiete/Telekommunikation/Unternehmen_Institutionen/Frequenzen/20210114_frequenzplan.pdf