大韓民国(Republic of Korea)

通信

Ⅰ 監督機関等

1 科学技術情報通信部

Ministry of Science and ICT

Tel. (代)局番なしの1335 +82 44 202 4180(夜間)
URL https://msit.go.kr/
所在地 477, Galmae-ro, Sejong-si, 30109, KOREA
幹部 ユ・サンイム/Yoo Sang-Im(長官/Minister)

2 放送通信委員会(KCC)

Korea Communications Commission

Tel. +82 2 500 9000
URL https://kcc.go.kr/
所在地 47 Gwanmun-ro, Gwacheon-si, Gyeonggi-do 13809, KOREA
幹部 イ・ジンスク/Lee JinSook(委員長/Chairperson)
省庁再編

韓国では新政権成立に合わせて省庁再編が実施される。そのため、過去20年間で情報通信分野政策所掌省庁(韓国では「部」が省に相当)は、情報通信部→放送通信委員会(KCC)→未来創造科学部→科学技術情報通信部と再編を重ねてきた。科学技術情報通信部のICT分野における所掌事務は以下のとおりである。

KCCの所掌事務は以下のとおりである。

2013年の朴槿恵政権発足時、省庁再編を巡る国会での与野党の駆け引きにより、周波数政策は三つの政府機関、メディア政策は地上波がKCC、有料放送メディアが科学技術情報通信部という具合に複数省庁に分散され、変則的な形となっている。

Ⅱ 法令

科学技術情報通信部が所掌する主な法令は以下のとおり。

分野 法令
融合分野 知能情報化基本法、放送通信発展基本法、インターネット・マルチメディア放送事業法(IPTV法)、情報通信振興及び融合活性化等に関する特別法(ICT特別法)
通信分野 電気通信基本法、電気通信事業法、電波法、情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律(情報通信網法)、移動体通信端末装置流通構造改善に関する法律(端末流通法)、情報保護産業の振興に関する法律、クラウド・コンピューティング発展及び利用者保護に関する法律(クラウド法)、仮想融合産業振興法
放送分野 放送法

 *はKCCとの共管

KCCが所掌する主な法令は以下のとおり。

分野 法令
通信分野 電気通信事業法、情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律、位置情報の保護及び利用等に関する法律
放送分野 放送法、韓国教育放送公社法、放送広告販売代行等に関する法律、放送文化振興会法

出所:科学技術情報通信部、KCCウェブサイト

1 放送通信発展基本法

通信・放送融合環境に対応するため、「電気通信事業法」と「放送法」の基本部分を一本化した融合法として2010年に施行された。通信・放送分野の振興と、科学技術情報通信部とKCCの独自財源としての放送通信発展基金の根拠等を定めている。

2 電気通信事業法

公衆電気通信事業及び電気通信設備の運営管理、利用者に関する基本法令で、電気通信事業の分類及び許可等に関する要件、競争促進及び利用者保護、電気通信設備の設置及び保全について規定している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)免許政策の制度枠組

電気通信事業者の分類は2018年末の「電気通信事業法」改正により、従来の3種類から、基幹通信事業者と附加通信事業者の2種類に再編されると同時に、基幹通信事業が許可制から登録制に緩和された。電気通信事業者区分の詳細は次のとおりである。2024年9月時点で、基幹通信事業者のうち回線設備保有事業者が70社以上、回線設備未保有事業者が584社登録している。

電気通信事業者の分類
区分 定義 サービス内容
基幹通信事業者(登録制) 電気通信回線設備を設置又は利用して、電話、インターネット接続等の公益性の高い基幹通信サービスを提供する事業者 電話、インターネット接続、電気通信回線設備貸出サービス
附加通信事業者(届出制)

基幹通信事業者から通信回線設備を賃貸し、基幹通信サービス以外の電気通信サービスを提供する事業者

(注:ウェブハード等一部の特殊な類型の附加通信事業は登録制)

PC通信、CRS、DB/DP(Data Base/Data Processing)等

出所:「電気通信事業法」を基に作成

(2)外資規制

「電気通信事業法」第8条により、回線設備を保有する基幹通信事業者に対する外資出資制限は49%までとされている。2013年8月の「電気通信事業法」改正により、米国や欧州連合(EU)等の自由貿易協定(FTA)締結国の外資企業は公益性審査を通過すれば基幹通信事業者の株式49%を超えて取得できるようになった。ただし、主要通信事業者のKTとSKテレコム(SK Telecom)、LG U+(LG Uplus)については、最大49%までの外資規制が維持されている。なお、間接投資拡大は、公益性審査を通じ、国家安全保障等への影響がない場合に許可される。

国内企業に海外投資家が投資を行うためには、現地に持株会社を設立することが求められる。

2 競争促進政策

(1)相互接続料

電気通信設備の相互接続の範囲及び条件、手続、算定方法の基準は科学技術情報通信部が告示「電気通信設備の相互接続基準」で詳細を定める。ボトルネック設備を保有する基幹通信事業者と、市場支配的とみなされた基幹通信事業者は、他の事業者からの要請があった場合は、相互接続の提供を義務付けられている。2004年から長期増分費用(LRIC)による接続料算定方式が導入された。固定電話及び移動電話網の接続料は、2年ごとに改定される。

(2)卸売提供制度とMVNO促進政策

2010年の「電気通信事業法」改正により、MVNOの法的根拠が整備された。移動体通信市場でシェアが最も高いSKテレコムはMVNOへの卸売提供を義務付けられており、更に、卸売料金水準についても科学技術情報通信部の告示で定められている。

競争政策の一環として毎年ベースで卸料金引下げ、電波利用料免除、郵便局を活用した販売網拡大等のMVNO促進策が実施されている。2024年現在、MVNO市場には約70社が参入している。2024年7月現在の移動電話契約ベースのMVNO契約数は937万で、移動電話加入者に占めるMVNO契約割合は約16%である。MNO系列MVNOの加入者シェアは既に50%近い状態が続いていることが問題視されており、2024年末現在、大企業系列MVNOのシェアを60%以内に制限する「電気通信事業法」改正案が国会で審議中である。

(3)端末流通制度改革

2014年に施行された端末流通法により、端末補助金に相応する通信料金割引導入や、端末補助金水準の公示による透明化といった一定の成果があった反面、通信事業者間の競争停滞等で端末価格が高止まりする弊害が指摘されてきた。そのため、2024年初めに尹錫悦政権は同法の廃止方針を決定し、同年末に端末流通法廃止案が国会で可決され、2025年7月から施行されることになった。補助金に相応する通信料金割引制度や不当な差別禁止等の措置は「電気通信事業法」に移管される。法廃止に先駆け、同法施行令が2024年3月に改正されたことにより、事業者乗換え時の最大50万KRWの支援金支給、移動体通信事業者による公示支援金変更サイクルの短縮が実施され、補助金拡大競争が促進されている。

3 情報通信基盤整備政策

(1)ユニバーサル・サービス

ユニバーサル・サービスの概念は「電気通信事業法」に示されており、「電気通信事業法施行令」で、その内容やユニバーサル・サービス提供事業者の指定、サービス提供による損失補てんについて規定している。ユニバーサル・サービスの内容は、次のとおりである。

ユニバーサル・サービス提供事業者は、科学技術情報通信部が指定する。サービス提供による損失分担については、売上高300億KRW以上の基幹通信事業者が、分担事業者別売上規模に応じて負担する。ユニバーサル・サービスのブロードバンド提供事業者としてKTが指定されている。提供されるブロードバンドのサービス品質や提供対象等については、告示で次の基準を設けている。なお、農漁村地域へのサービス拡大に向けて、2023年11月の告示改正によりブロードバンドの損失補てん率引上げ等制度改善が図られた。

(2)デジタル・ディバイド解消政策

AIとデジタル技術の発展に伴い発生するデジタル・ディバイド解消政策を進めるため、2024年末に「デジタル包摂法」が国会で可決され、2026年1月から施行される。同法には、地域住民のためのデジタル能力センターの指定、デジタル包摂影響評価、使いやすいキオスク端末普及に向けたメーカーの義務等が盛り込まれた。

科学技術情報通信部では2020年からデジタル・ディバイド解消事業として、全国17の広域自治体の施設1,000か所を活用する形の「デジタル学び場」を設け、無人端末やスマートフォン、生成AI活用等の様々な教育を提供している。2024年事業からは従来の形式を改善し、誰でも好きなときにデジタル教育と相談を受けられる「デジタル学び場拠点センター」を36か所に構築した。

(3)国家災難安全通信網構築計画

2014年4月に発生した旅客船セウォル号沈没事故を受け、朴槿恵大統領(当時)が国家災難安全通信網の構築を国民に約束し、3段階で700MHz帯利用のPS-LTE方式の全国ネットワーク構築が進められ、2021年5月に本格サービスが開始された。事業の主管庁は行政安全部である。ネットワーク本格稼動に合わせ、災難安全通信網の効率的構築と運用の根拠となる「災難安全通信網法」が2021年12月から施行された。この法律により政府は5年ごとに災害安全通信基本計画を策定することとなり、2022年7月に「第1次災難安全通信網基本計画(2022~2026)」がまとめられた。

4 ICT政策

(1)尹錫悦政権で進める科学技術情報通信部の基本政策

科学技術情報通信部が尹錫悦政権下で掲げる目標は「官民協力基盤で国家革新体制を新たに構築し、先導型技術革新とデジタル革新拡大で国家社会発展」である。目標達成に向けて今後進める五つの中核課題が2022年7月に発表された。

五つの課題は、①超格差技術力確保に向けた国家R&D体系革新、②未来革新技術先占、③技術革新主導型人材育成、④国家デジタル革新全面化、⑤全員が幸福な技術拡大、である。

ICT分野関連の施策では、6G技術開発や特許早期確保に注力するとともに、デジタル新産業(AI、メタバース、ブロックチェーン等)やサイバーセキュリティ等の公共分野ニーズ創出と海外進出支援を通じ、次世代技術の最短時間での市場進出を支援する。また、非対面・オンライン時代に対応するため、5Gの中間的データ(20ギガ台)料金プラン導入、品質改善、農漁村超高速網と無料公共Wi-Fi拡充(1万か所)、ボイスフィッシング対策等を進め、通信サービス利用者のメリットを拡大する計画である。科学技術情報通信部では発表された中核課題を中心に個別政策をまとめる。

(2)大韓民国デジタル戦略

尹錫悦政権のデジタル国家基本戦略として、2022年9月に「大韓民国デジタル戦略(以下、デジタル戦略)」が発表された。2027年までに世界でAI三大強国、デジタル競争力3位、デジタル基盤1位を目指す。デジタル戦略は世界最高のデジタル力等五つの推進戦略と19の細部課題に分けて進められる。

重点強化分野として2023年からAI、AI半導体、5G/6G、量子技術、拡張仮想世界(メタバース)、サイバーセキュリティの6分野の研究開発に集中投資する。

(3)AIガバナンス

2024年に国のAIガバナンスが整備された。まず、国のAI政策全般を審議し調整する大統領直属の国家AI委員会が9月に立ち上げられ、AIトップ3国家入りを目指す「国家AI戦略政策方向」が発表された。これにより、大型プロジェクトとして2兆KRW規模の国家AIコンピューティングセンター構築、4年間で民間AI分野に総額65兆KRW規模投資等の政策が盛り込まれた。次に、国を代表する国家AI研究拠点が10月に開設され、国際共同研究も積極的に進められる。11月にはAI安全研究所が設立された。AI関連政策を具体化した「国家AI戦略」も策定する計画である。

更に、2024年末には、AI関連産業育成支援とAIの安全性確保の根拠を盛り込んだ「人工知能発展と信頼基盤造成等に関する基本法(以下、AI基本法)」が国会で可決され、2026年1月に施行される。これにより、韓国がEUに次いでAI基本法を制定した2番目の国となった。

(4)経済安全保障

政府は2022年から国家・経済安全保障の側面からAI・半導体・次世代移動体通信等の国家戦略技術12種と50の細部重点技術を指定し集中支援をしてきた。2023年に施行された「国家戦略技術育成に関する特別法(以下、国家戦略技術育成特別法)」に基づき科学技術情報通信部は「大韓民国科学技術主権青写真―第1次国家戦略技術育成基本計画(2024~2028)」をまとめ、戦略12技術に今後5年間で30兆KRW以上を投入する。特に、可視的効果が高い10プロジェクトとして6Gや都心航空交通(Urban Air Mobility:K-UAM)、AI半導体活用クラウド等の開発を本格的に進める。

(5)デジタル権利章典

2023年9月、尹錫悦政権の新デジタル秩序のマニフェストとして「デジタル権利章典(以下、権利章典)」を発表した。権利章典は自由・公正・安全・革新・連帯を基本5原則とし、6章28条文で構成される。2024年5月に権利章典の具体策として「新たなデジタル秩序定立推進計画(以下、推進計画)」がまとめられた。推進計画では権利章典の5原則を土台とし、52の争点解消に向けた20の政策課題を盛り込んだ。

(6)個別技術・サービス促進戦略
①AI

科学技術情報通信部が2023年9月に発表した「大韓民国人工知能(AI)跳躍方案」により、AI国際協力拡大、国民のAI日常化推進、「デジタル権利章典」策定、AI倫理・信頼性確保が進められる。すべての国民がAIを活用するAI日常化推進では、2024年に9,090億KRWの予算を投入する。

②衛星通信

2022年以降の国産ロケット打上げ成功を受け、韓国は宇宙・衛星分野の強化に本格的に乗り出した。科学技術情報通信部が2023年9月に発表した「衛星通信活性化戦略」を通じ、2030年までに衛星通信分野で30億USD以上の輸出達成を目指す。この戦略の中核事業に位置付けられている低軌道衛星通信技術開発事業では2025年から6年間で総事業費3,199億KRWを投じ、2030年初めまでに6G標準基盤の低軌道通信衛星2基を打ち上げる計画である。

③データ活用の促進

データ経済活性化と産業基盤整備を目的とした「データ産業振興及び利用促進に関する法律」(以下、データ基本法)が2022年4月から施行された。データ基本法は、データ産業分野における生産・分析・連携・活用促進、人材育成、国際協力といった産業育成全体に係る基本法として世界に先駆け法制化された。データ基本法施行を受け、政府横断のデータ分野政策司令塔として国務総理を委員長とする国家データ政策委員会が2022年9月に立ち上げられた。国家データ政策委員会ではAIとデータ分野の規制改善課題を集中的に洗い出し、改善方向を第1次データ産業振興基本計画に反映する方針である。

④IoT普及促進

近年、IoTは個別戦略ではなく総合的な融合政策の中で扱われる。尹錫悦政権期になってからは2022年11月に発表された「デジタル産業活力向上規制革新方案」で、IoT活性化のため、スマートフォンへのUWB機能搭載等に向けた規制改善が盛り込まれた。また、2023年11月には、将来の技術における韓国のリーダーシップのための「デジタル技術標準化戦略」が策定され、IoTがデジタルインフラ重要技術の一つに定められた。

⑤6G技術開発及び次世代ネットワーク戦略

世界初の6G商用化に向けた技術開発戦略として、科学技術情報通信部は2020年8月、「6G移動通信時代を先導するための未来移動通信R&D推進戦略(6G R&D推進戦略)」をまとめ、2021年から5年間で2,000億KRWの予算を投じる6G研究開発に着手した。6G研究開発は2021年から2028年まで、中核技術開発と商用化支援の2段階に分けて行われる計画で、2026年にサービス試行、2028~2030年での商用化を目指す。6G R&D推進戦略を通じ、6G中核標準特許で世界一、スマートフォン市場シェア世界一、機器市場で世界第2位の達成を目標に掲げる。

尹錫悦政権では「世界最高のネットワーク構築及びデジタル革新加速化」の国政課題に沿って、5G/6Gネットワーク・インフラの高度化を進める。2022年9月に発表した「大韓民国デジタル戦略」では5G/6Gを戦略育成分野の一つに指定した。同戦略に基づき、2026年からは6G標準特許で先行、2026年に世界初の6Gプレサービスのデモンストレーション推進を目指す。

次世代ネットワーク発展戦略として、2023年2月に「K-Network 2030」が発表された。次世代ネットワークへの積極的な投資と官民協力による産業基盤の構築のため、1)世界最高の6G 技術力の確保、2)ソフトウェアベースのネットワーク革新、3)ネットワーク・サプライチェーンの確保という三つの目標を見据えた政策課題を実行する。基幹ネットワークについては、将来のトラヒック増加に積極的に対応するために、伝送速度を2026年までに2倍、2030年までに4倍にするとしている。

⑥OpenRAN

科学技術情報通信部が2023年8月に「OpenRAN活性化政策推進方案」を発表と同時に、業界団体のOpenRAN Industry Alliance(ORIA)を設立した。これにより、商用化支援インフラ構築、技術・標準競争力確保、官民協力基盤エコシステム構築等を進める。業界支援策の一環としてOpenRAN機器の国際公認認証・試験拠点のKorea OTIC(K-OTIC)が開設された。また、国内外企業が装備の相互運用性を検証する国際イベントを年2回開催し、国際共同研究も積極支援する。ORIAは政府と連携してOpenRAN技術開発を進める。

⑦メタバース

2021年7月に政府がまとめた「韓国版ニューディール2.0」でオープン型メタバース・プラットフォーム構築等のメタバース産業支援が初めて盛り込まれて以降、政府のメタバース分野支援が開始された。2022年1月には政府横断総合戦略として「メタバース新産業先導戦略」が発表された。2023年2月にはメタバースの規制方針として、新産業の特性を考慮して民間中心の自主規制、最小規制、先制的規制革新の三つの原則のもとに「メタバース・エコシステムの活性化のための先制的規制革新方案」を発表している。これらの原則を盛り込んだ世界初のメタバース産業振興法の「仮想融合産業振興法」が制定され、2024年8月から施行された。

⑧半導体

2023年前半の日韓・日米首脳会談での半導体を含む先端技術協力強化に関する合意や政府の重点技術研究開発戦略を受け、科学技術情報通信部は同年5月、「半導体未来技術ロードマップ」を発表した。本ロードマップは、新メモリ素子開発やAI/6G/電力/車両用半導体設計技術開発等に向けた10年計画を設定し、韓国の半導体技術分野における優位性確保をねらう。

(7)電子政府

1990年代後半から国家戦略として電子政府の構築と高度化を進めてきた韓国は国連の電子政府ランキングでも高く評価されており、関連のソリューション輸出を増やした。電子政府は行政安全部の所掌である。

2019年10月に政府がAI・クラウド中心のデジタル・トランスフォーメーション(DX)対応戦略として発表した「デジタル政府革新推進計画」に基づき、各種証明書のペーパーレス化やモバイル身分証導入等が進められている。2021年から公務員証、運転免許証、在外国民証等の身分証スマートフォン搭載サービスが順次開始され、2024年末以降に住民登録証のスマートフォン搭載本格サービス提供も計画されている。2021年6月に行政安全部がまとめた中長期計画としての「第2次電子政府基本計画」では、2025年までに主要公共サービスのDX率80%、行政・公共クラウド移行率100%達成を目指す。

尹錫悦政権の国政課題では、すべてのデータがつながり国民にもれなく公共サービスを提供する世界最高のデジタル・プラットフォーム政府実現が盛り込まれた。すべてのデータが一つにつながるデジタル・プラットフォーム上で、国民・企業・政府が共に社会問題を解決し、新たな価値を創出する政府を意味する。申請プロセスでは1か所で一度に関連書類を提出できるようにする。目標達成に向けて大統領直属の官民有識者で構成するデジタル・プラットフォーム政府委員会が2022年9月に立ち上げられた。

(8)インターネット中立性問題

ネットワーク中立性問題による紛争回避のため、KCCは2011年12月、「ネットワーク中立性及びインターネット・トラヒック管理に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を発表した。ガイドラインの後続政策として、未来創造科学部(当時)は2013年12月、ネットワーク事業者の恣意的なトラヒック管理を防止し、利用者にトラヒック管理情報を公開することを主な目的とした「通信網の合理的管理・利用とトラヒック管理の透明性に関する基準」を発表した。5G時代対応のため、2020年12月にガイドラインが改正された(施行は2021年1月)。改正ガイドラインではネット中立性の例外要件を明確化し、欧米のように特殊サービス概念等を導入した。

5 消費者保護政策

(1)政府横断的サイバーテロ対策

国家安保室をサイバーセキュリティの司令塔とし、国家情報院がサイバー危機管理中心機関として機能する。国家安保室の下に官民合同組織の国家サイバー危機管理グループを設置し、国レベルで一元化された対応システムを運用している。国家安保室がサイバーセキュリティ政策の最上位指針となる「国家サイバーセキュリティ政策」をまとめる。最新版政策は2024年2月に発表された。これを履行するための政府横断実行計画が「国家サイバーセキュリティ基本計画」である。各省庁は分野ごとの個別法に基づきサイバーセキュリティ活動を実施する。

(2)個人情報保護対策

韓国では公共と民間の全体をカバーする「個人情報保護法」があるが、もともとICT、金融等の産業分野ごとで個人情報保護を規定する個別法があり、個別法の規定を優先する場合もあるため個人情報保護体系が分散していた。個人情報保護の強化を図る一方でデータ活用活性化を目的とし、「個人情報保護法」等データ関連3法改正が2020年に進められたことで、行政安全部、KCC、金融委員会の個人情報保護機能を個人情報保護委員会に一元化し、個人情報保護委員会を中央行政機関に格上げして個人情報監督機関の独立性を確保した。

(3)家計に占める通信料金引下げ及び選択肢拡大政策

李明博政権以降の歴代政権において、家計に占める通信料金引下げが重要政策課題の一つに位置付けられてきた。これまでの施策で移動体通信料金が下がってきたことから、尹錫悦政権では通信料金引下公約は盛り込まなかった。その代わりに5G利用者の平均的利用量を考慮した料金プランの選択肢拡大を図る目的で、5Gの20~30ギガ台の中間的なデータ料金プラン導入を国政課題に盛り込んだ。この方針を受け、2022年以降に通信事業者3社は順次、継続的に5G新プランを導入しており、プランの多様化が進んでいる。科学技術情報通信部は2024年3月に発表した「家計通信費負担緩和政策推進の現状及び今後の計画」で、今後は5Gプランのオプションで提供されるOTT(Over The Top)の割引も強化していく意向を表明している。

(4)デジタル・サービスの安全性強化

2022年10月にデータセンター火災により発生したインターネット・サービス大手カカオ(kakao)のサービス全面障害は社会的に大きな影響を与えた。政府は事故を契機に、データセンターの保護措置強化と附加通信サービスの安定確保の二局面から制度改善を進めている。科学技術情報通信部は2023年3月にまとめた「デジタル・サービス安全性強化方案」に具体的改善策を盛り込んだ。今後は、複数の法律に分散しているデジタル・サービス安定性関連制度を統合し「デジタル・サービス安全法」を制定する計画であり、2024年現在作業が進められている。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

電気通信設備及び無線設備(放送受信のみを目的とするものを除く)を製造又は輸入する場合、技術基準認証を受ける必要があるが、試験・研究や輸出用等の設備の場合は免除される。また、外国で製造され、輸入される通信設備については、「電波法」の規定による、国際条約や国家間の通信機器の認証に関する相互承認協定の内容に応じて、認証が免除される。

認証機関は科学技術情報通信部の傘下機関である国立電波研究院(Radio Research Agency:RRA)で、型式検定はRRAが実施し、型式登録はRRAが認定する認証機関が、適合性評価試験を実施し、試験報告書をRRAに提出する。

Ⅴ 事業の現状

1 市場概要

通信市場では、KT、 SKテレコム、LG U+の主要3社のグループによる競争が展開されている。2010年までにKTとLG U+は系列内での合併を通じて総合通信事業者となった。移動体通信最大手SKテレコムは、系列子会社として固定通信事業者SKブロードバンド(SK Broadband)等を抱える。2019年以降は通信事業者がケーブル放送を買収する形で通信事業者主導の有料放送市場再編が進んだ。

2 固定電話

国際通信が1991年、長距離通信が1996年、市内通信が1999年に自由化されているが、依然として旧国営事業者KTのシェアが大きい。市内電話(PSTN)市場には、KT、SKブロードバンド、LG U+の3社が存在する。各社の加入者規模は次の表のとおりで、2024年8月末現在の市内電話加入総数は約1,052万人である。2003年以降に番号ポータビリティが導入されてからは、KTが徐々にではあるが、加入数シェアを落としている。VoIP市場には9社が参入しており、2024年8月末現在の加入総数は1,102万人。加入数による事業者の規模は、LG U+、KT、SKブロードバンド、KCTの順である。

国際電話市場では、KT、SKブロードバンド、LG U+、世宗テレコム(Sejong Telecom)、SK Telinkをはじめとする多数の事業者が価格競争を展開している。

主な市内電話事業者(2024年8月末時点)
事業者 免許付与年 事業分野 通信サービス加入者数
KT 1982年 市内・長距離・国際 839万
SKブロードバンド 1997年 市内・長距離・国際 168万
LG U+ 1982年 市内・長距離・国際 45万

出所:科学技術情報通信部

3 移動体通信

(1)主要事業者の概要

移動体通信市場には、SKテレコム、KT、LG U+の3事業者が存在する。中長期的に最大手のSKテレコムのシェアが下がってきている。

主な移動体通信事業者(2024年8月末現在)
事業者 方式 加入者数*
SKテレコム W-CDMA、LTE、5G 2,311万
KT W-CDMA、LTE、5G 1,344万
LG U+ LTE、5G 1,095万
MVNO 942万
合計 5,692万

 *IoT、ウェアラブル端末等を除く移動電話契約数

出所:科学技術情報通信部

(2)移動体通信サービス動向

韓国は移動体通信新サービスの普及速度が大変速く、スマートフォンもLTE、5Gも世界最速スピードで普及した。2019年4月に世界に先駆けて移動体通信3社が同時に開始した5Gの2024年8月末現在の加入数は3,459万人で、移動電話加入総数の6割を超える。

移動体通信3社は、2018年に割り当てられた5G周波数3.5GHz/28GHz帯のうち、3.5GHz帯利用の5Gのネットワーク拡大に力を入れた一方、28GHz帯のインフラ整備が進まなかった。その結果、3社とも5G周波数割当条件不履行と判断され28GHz帯割当を取り消された。その後科学技術情報通信部は、回収された28GHz帯の1枠を利用して2024年初めにオークションを通じて第4の新規事業者参入を進めようとしたが、落札事業者の財務能力等が問題視され、新規参入には至らなかった。一方、5Gの全国ネットワーク整備は、「農漁村5G共同利用計画」により2021年から3社が農漁村地域でのネットワーク共用で計画的に構築を進めたことで、当初計画よりも前倒しで2024年4月に整備が完了した。

4 インターネット

(1)ブロードバンド

1995年以降、韓国では政府主導で他国に先駆けてxDSLとケーブルモデムによるブロードバンド基盤が拡充された。現在はギガビット級高速ブロードバンドのサービス競争が進展している。2024年8月末現在の固定網ブロードバンド加入総数は約2,455万で、加入数による市場シェアはKT、SKブロードバンド(SKテレコムの再販売含む)、LG U+の順であり、早くから市場競争が進展している。

(2)Wi-Fi

通信料金引下政策の観点から、2012年以降、国策として無料の公共Wi-Fi拡大が進められている。尹錫悦政権でも引き続き公共Wi-Fiの質と量の両面での拡大を図る。政府の公共Wi-Fi構築事業により、2023年末までに市内バス2万9,100台の公共Wi-FiのLTEから5Gへの置き換えが完了した。公共Wi-Fiは、2023年新規構築した公共スペース4,400か所分を含めて合計5万8,000か所での整備が進んだ。今後のインフラ整備は、耐用年数の7年を経過した老朽インフラは2025年中にWi-Fi 7に置き換え、不具合のあるWi-Fiは試験的に2024年からWi-Fi 7に置き換える方針である。

5 ICT利活用サービス

(1)生成AI・LLM

通信事業者をはじめ大手IT企業は独自LLM(Large Language Model)、生成AI技術開発に力を入れている。主要通信事業者3社は2023年以降、テレコム・カンパニーからAIカンパニーへの転換を図るスローガンを掲げ、ビジネス全体のAIシフトを図る。特に、SKテレコムはドイツテレコムやシングテル等とグローバル・キャリアAIアライアンスを結成し、通信事業者特化型のLLM共同開発を主導する。NAVERは2023年に次世代LLM「Hyper ClovaX」を開始し、生成AI基盤の検索機能も導入した。サムスン電子(Samsung)は2024年初めからスマートフォンへのオンデバイス生成AI搭載を開始し、2024年中に約2億台のGalaxy端末にAIを搭載する方針である。

(2)インターネット関連サービス

インターネット・サービス最大手NAVERの主な事業分野はポータル、コマース、FinTech、コンテンツ、クラウドで、国内のトップAI企業としても成長を続けている。早くからブロードバンドが発達した韓国のポータル市場では、NAVER、Daum(カカオ)といった国内ポータルサイトの利用率が高いことが特徴的である。NAVERの日本法人(旧NHN Japan)は2012年1月にライブドアを吸収合併し、2013年4月にウェブ・サービス事業のLINEとゲーム事業に会社分割した。2021年3月に、Yahoo! JAPANを展開する日本のZホールディングスとLINEが経営統合を完了した。「カカオトーク」で急成長を遂げた独立系ベンチャーのカカオがNAVERに次ぐインターネット・サービス大手である。カカオは金融・モビリティ等のサービス領域を拡大しながら成長し、国内で最も利用される総合プラットフォーム・アプリでもある。

Ⅵ 運営体等

1 運営体

(1)KT Corporation(KT)
Tel. +82 1588 0010
URL https://www.kt.com/
所在地 90 Buljeong-ro(206 Jungja-dong), Bundang-gu, Seongnam-city, Kyeonggi-do, 13606, KOREA
幹部 キム・ヨンソプ/Kim Young Shub(最高経営責任者/CEO)
概要

1981年に逓信部(Ministry of Communications)から電気通信事業部門を分離し、韓国電気通信公社として発足した後、2002年5月に政府保有株式をすべて売却して完全民営化を果たした固定通信最大手事業者で、2009年6月に移動体通信市場第2位の子会社KTFと合併し総合通信最大手事業者となった。2023年度の売上高は26兆3,760億KRW、営業利益は1兆6,500億KRWである。

KTは2024年2月にAIとICT中心の経営ビジョンと事業戦略を発表し、「AICT Company」への転換を掲げた。AI事業ポートフォリオ多角化に向けて、AIオペレーション、AIアシスタントによる生産性向上、AIエージェントを3大AI革新エンジンに設定した。これらの事業を通じてBtoB/BtoG/BtoC市場を攻略する。

出資者の構成(2023年末)
株主 出資比率
国外投資家 43.25%
国内株主 40.28%
自社株  4.44%
国民年金 8.08%
社員持株組合  3.95%

出所:KT

(2)SKテレコム

SK Telecom Co., Ltd.

Tel. +82 2 6100 2114
URL https://www.sktelecom.com/
所在地 Euljiro 65, Jung-gu, Seoul 04539, KOREA
幹部 ユ・ヨンサン/Young Sang Ryu(SKテレコム代表理事社長/President and CEO)
概要

KTの移動体通信部門である旧韓国移動体通信が前身の国内最大の移動体通信事業者である。2023年度の業績は、連結年間売上高が17兆6,090億KRW、営業利益は1兆1,753億KRWであった。主な系列企業には、固定通信のSKブロードバンドとSK Telink、等がある。

2022年11月には、NTTドコモと、メタバース、モバイル・ネットワーク・インフラ、メディア事業における協力を進めるための覚書を締結した。

SKテレコムは2023年9月に事業戦略として「AIピラミッド戦略」を発表し、グローバルAIカンパニーを目指すことを宣言した。同戦略では、AIインフラ/AIX/AIサービスの3領域を中心に産業と生活全領域を革新する。AI関連投資割合は過去5年間の12%から今後5年(2024~2028年)で3倍の33%に拡大し、2028年には売上25兆KRW以上達成を目指す。

(3)SKブロードバンド

SK Broadband Co., Ltd.

Tel. +82 2 6266 6114
URL https://www.skbroadband.com/
所在地 SK Nam-San Green Building, 24, Toegye-ro, Jung-gu, Seoul 04637, KOREA
幹部 パク・ジンヒョ/Park Jin-Hyo(社長/CEO)
概要

1997年に設立された市場シェア第2位の固定通信事業者ハナロ・テレコムを前身とする、SKテレコムの100%子会社。音声電話及びブロードバンド、IPTV、ケーブル放送、法人向けソリューション等を提供する固定通信事業者。固定・移動メディア・プラットフォームNo.1企業を目指す。2023年度の売上高は4兆2,747億KRW、営業利益は3,137億KRW。2020年4月にケーブル放送Tbroadとの合併を完了した。

(4)LG U+

LG Uplus Corp.

Tel. +82 2 2005 7114
URL https://www.lguplus.com/about/ko
所在地 32, Hangang-daero, Yongsan-gu, Seoul, KOREA
幹部 ホン・ボムシク/Hong Bum-Sik(代表理事/CEO)
概要

LGグループ内の移動体通信事業者LGテレコムと、固定通信事業者でVoIPとIPTVを提供するLG Dacomとブロードバンドを提供するLGパワーコム(LG Powercomm)の3社が2010年に合併し、現社名となった。2023年度年間売上高は14兆3,726億KRW、営業利益は9,980億KRW。合併以降、既存の通信分野の枠を超えて新市場を作り出す「脱通信」戦略を進めてきた。LG U+は2024年5月に新たなブランドスローガン「Growth Leading AX Company」を掲げ、AI部門の重点課題と超巨大AI戦略を発表した。同年7月にはAI中心のBtoB中長期成長戦略「All in AI」を発表し、AIデータセンター、オンデバイスAI等「AIインフラ」事業及び「AI新事業」と合わせて、AIコールセンター、法人コミュニケーション、SOHO、モビリティの4大AI応用サービスを通じてBtoB AI事業売上拡大をねらう。

2 主要メーカー

(1)サムスン電子株式会社

Samsung Electronics Co., Ltd.

Tel. +82 2 2255 0114
URL https://www.samsung.com/sec/
所在地 129, Samsung-ro, Yeongtong-gu, Suwon-si, Gyeonggi-do, KOREA
幹部

イ・ジェヨン/Lee Jae-yong(会長/Executive Chairman)

ハン・ジョンヒ/Jong-Hee Han(代表理事副会長/Vice Chairman and CEO)

概要

1969年創立の国内最大手メーカーである。事業部門はDX(Device eXperience)、DS(Device Solutions)、SDC(ディスプレイ)、Harmanで構成される。移動電話や通信システム等の旧IT & Mobile Communications(IM)部門はDX部門に統合された。研究開発組織のSamsung Researchは、海外R&Dセンター及びグローバルAIセンターで抱える1万人以上の研究スタッフと連携して次世代移動体通信等の未来技術開発を主導する。2023年末現在で76か国に進出し、世界で232か所の生産拠点・販売拠点・研究所を保有し、約27万人の社員を抱える。2023年の売上高は258兆9,354億KRW、営業利益は6兆5,669億KRWである。

(2)LG電子
Tel. +82 2 3777 1114
URL https://www.lge.co.kr/
所在地 LG Twin Towers 128, Yeoui-daero, Yeongdeungpo-gu, Seoul, KOREA
幹部 チョ・ジュワン/William Cho(社長/CEO)
概要

1958年に創立され、現在の主な事業領域は、ホーム・エンターテインメント(HE)、生活家電のホーム・アプライアンス&エア・ソリューション(H&A)、ビークル・コンポネント・ソリューション(VS)、ビジネス・ソリューション(BS)の4分野である。2021年7月末付で携帯電話端末事業から撤退した。2023年の売上高は約84兆2,278億KRW、営業利益は3兆5,491億KRWである。世界の約130か所に事業所を展開する。

3 インターネット・サービス企業

主なインターネット・サービス企業

事業者 URL
NAVER https://www.navercorp.com/
カカオ https://www.kakaocorp.com/

放送

Ⅰ 監督機関等

1 科学技術情報通信部

(通信/Ⅰ-1の項参照)

2 放送通信委員会(KCC)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

地上放送や総合編成チャンネル、報道専門チャンネル等に対する規制権限はKCCの所掌となる。IPTV、衛星放送等、有料放送事業に関する政策は科学技術情報通信部が所掌する。

3 文化体育観光部(MCST)

Ministry of Culture, Sports and Tourism

Tel. +82 4 4203 2000
URL https://www.mcst.go.kr/
所在地 Government Complex-Sejong, 388, Galmae-ro, Sejong-si 30119, KOREA
幹部 ユ・インチョン/Yu In Chon(長官/Minister)
所掌事務

文化、芸術、宗教、観光、スポーツ、青少年育成等の分野を所掌しており、映像放送産業を含めた全般的コンテンツ産業の振興及び著作権政策を所掌する。

Ⅱ 法令

放送法(Broadcasting Act

従来、個別に規定されていた放送関連の法律を一本化し、地上放送、衛星放送、ケーブルテレビを包括的に網羅する「放送法」が、2000年3月から施行された。同法によって番組の事前審議(検閲)の廃止、視聴者の権利保護の強化等が定められた。ケーブルテレビ、衛星、IPTVを同一の有料放送サービスとして同一の規制を適用するため、「インターネット・マルチメディア放送事業法(以下、IPTV法)」を「放送法」に統合する、通称統合放送法制定を目指す動きもあるが、2024年末月現在、法は統合されていない。現在は主に、有料放送規制の緩和を目的とした法改正が進められている。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)放送事業免許の制度枠組

放送事業者は「放送法」により、地上放送事業者、総合有線放送事業者、衛星放送事業者、放送チャンネル使用事業者、共同体ラジオ放送事業者の5種類に分類され、それぞれ許可・承認・登録のいずれかを受けてからサービス開始が可能となる。放送チャンネル使用事業者とは、番組を編集制作し、放送を行うソフト事業者に相当する。放送事業者及び関連事業者の事業開始に当たっての手続は以下の表のとおりである。

放送事業の許可・承認・登録制度
事業者の種類 手続の手順
地上放送事業者
共同体ラジオ放送事業者
科学技術情報通信部による無線局開設審査結果を反映し、KCCが放送局に許可を付与する。
衛星放送事業者
総合有線放送事業者
中継有線放送事業者
科学技術情報通信部の許可を受ける。KCCの事前同意が必要。
電光板放送事業者
音楽有線放送事業者
伝送網事業者
科学技術情報通信部で登録する。
放送チャンネル使用事業者 総合編成や報道 KCCの承認を受ける。
ショッピング・チャンネル 科学技術情報通信部の承認を受ける。
ラジオ放送、データ放送、VOD 科学技術情報通信部で届出をする。

出所:「放送法」を基に作成

(2)メディア所有規制

2009年7月の「放送法」をはじめとするメディア関連法改正により、新聞社と大企業の放送業界進出が解禁された。法改正により、個人又は一事業者による、地上放送事業者及び総合編成又は報道に関する専門放送チャンネル使用事業者への出資制限が30%から40%に緩和された。新聞社と大企業の出資率については、地上放送は10%、総合編成・報道専門チャンネルは30%までとされた。この「放送法」改正を受けて、2011年末以降、総合編成チャンネル4社(中央日報、朝鮮日報、東亜日報、毎日経済新聞)と報道専門チャンネル1社(聯合ニュース)が開局した。

2022年には放送事業の所有・兼営規制を緩和し業界のM&Aを促進するため「放送法施行令」及びIPTV法施行令が改正された。これにより、地上放送事業者の放送チャンネル使用事業所有規制緩和、総合有線放送事業者と衛星放送事業者の放送チャンネル使用事業に対する兼営制限廃止等が進められた。

(3)外資規制

放送事業者に対する外資規制は「放送法」第14条で以下の表のとおりに定められており、地上放送事業者とラジオ放送事業者は外資を全面的に禁じられている。2007年4月の韓米FTA合意の結果、放送チャンネル使用事業者への間接投資は100%まで拡大されることになった。

事業ごとの外資規制
事業区分 外資所有制限
地上放送 禁止
総合有線放送 49%
中継有線放送 20%
衛星放送 49%
放送チャンネル使用事業 総合編成チャンネル 20%
報道専門チャンネル 10%
上記以外 49%
伝送網事業 49%

出所:「放送法」を基に作成

(4)地上放送再送信を巡る課題

再送信義務のある地上テレビ放送チャンネルは公共放送KBS 1と教育放送EBSの二つである。通信事業者のIPTVサービス開始以降、地上放送事業者が有料放送メディアに対して再送信を有料化している。契約更新時期のたびに現在に至るまで有料放送メディアと地上放送事業者間の再送信料金水準をめぐる紛争が多発している。

2 公共放送関連政策

(1)公共放送のガバナンス

韓国放送公社(KBS)の設置根拠や運営等のガバナンスは「放送法」により定められている。資本金の3,000億KRWはすべて政府が出資する。最高意思決定機関は、11名の非常任理事で構成される理事会である。理事はKCCで推薦して大統領が任命し、任期は3年である。理事会では、KBSの放送の基本運営計画、予算・決算等の財務関連事項、KBSの経営評価とその公表、定款の変更等を決定する。

執行機関は、社長1名、2名以内の副社長、8名以内の本部長及び監事1名とされており、任期は3年である。社長は理事会の要請により大統領が任命する。副社長と本部長は社長が任命するが、副社長の任命には理事会の同意が必要である。

(2)受信料制度

KBSは「放送法」を根拠に受信料制度を設けており、料額はKBS理事会の審議後、KCCを経て国会の承認を得て決定される。2023年度基準では受信料収入は収入全体の約48%を占める。受信料額は1981年から1か月2,500KRWで据え置かれているため、これまでに受信料値上案が数度にわたり国会に提出されているが、各方面からの反発で挫折を繰り返している。2023年になると尹錫悦政権は、1994年以降電気代と一緒に徴収してきた受信料の分離徴収を進める方針を発表し、同年7月施行の改正「放送法施行令」で分離徴収が決定した。急速に進められた受信料分離徴収決定プロセスにKBSは異議を唱えて憲法裁判所の判断を仰いだが、2024年5月に合憲の判断が下された。憲法裁判所判断等を踏まえ、受信料分離徴収は2024年夏から実施された。一方、同年末に野党多数の国会本会議で受信料統合徴収を復活する内容の「放送法」改正案が可決された。

3 コンテンツ関連政策等

(1)コンテンツ規制及び促進政策

クォーター制度

「放送法」で国内番組編成クォーターの根拠を定め、「放送法施行令」で国内制作番組比率の範囲を定め、KCC告示により媒体及びジャンルごとの具体的な比率を定めている。クォーターには国内制作番組クォーターと輸入番組クォーターの2種類がある。クォーターが適用される番組ジャンルは、映画、アニメ、大衆音楽の3分野である。

(2)OTT、コンテンツ産業支援等

情報通信戦略委員会が2020年6月にまとめた「デジタルメディア生態系発展方案」から、デジタルコンテンツの支援範囲に初めて国内OTTの成長支援策が盛り込まれた。文化体育観光部は2023年から2027年までのOTT統合支援も含む政策方向を盛り込んだ「第6次放送映像産業振興中長期計画」を2022年末に発表している。科学技術情報通信部は関係省庁と共同で「デジタルメディア・コンテンツ産業革新及びグローバル戦略」をまとめ、今後OTT/メタバース/クリエイター・メディアの3大デジタル放送プラットフォームを集中育成する方針を2022年11月に発表した。

世界的な放送コンテンツIP(Intellectual Property、知的財産)保有企業育成を目指す尹錫悦政権の国政課題の一環として、2024年から科学技術情報通信部と文化体育観光部が「K-コンテンツ・メディア戦略ファンド」の設定で協力する。国内企業の資金調達とIP確保のためにファンドを活用して放送・メディア企業及び事業に投資する計画である。科学技術情報通信部は更に、2024年12月に「韓国型オンライン動画サービス(K-OTT)産業国際競争力強化戦略」をまとめ、ファンド設定やAI活用技術支援等を盛り込み、国内OTT産業支援を拡大する方針である。

(3)放送規制の改善

KCCが2021年1月、時代に合わなくなった放送市場規制改善のため「放送市場活性化政策方案」を発表し、これを受けた措置として「放送法施行令」改正により、地上放送番組への中間広告解禁と番組編成規制緩和が実行された。

尹錫悦政権でも国政課題である「グローバル・メディア強国実現」に向けてメディア産業全般の規制革新を進める。2022年には第1弾として放送事業の所有・兼営規制大幅緩和等が進められた。2024年に国務総理所属諮問機関のメディア・コンテンツ産業融合発展委員会が放送規制13種を全面的に見直し規制緩和する内容を骨子とする「メディア・コンテンツ産業融合発展方案」をまとめた。具体策として、有料放送の再許可・再承認全面廃止、放送事業参入障壁改善、映像コンテンツ制作費税控除率引上げ、官民共同の1兆KRW規模の「K-コンテンツ・メディア戦略ファンド」新設等が盛り込まれた。

4 デジタル放送

地上デジタル放送の伝送方式では米国方式のATSCが採用され、2001年10月、商業放送のSBSを手始めに、アジア初の地上デジタル放送が開始された。アナログ放送終了は当初2010年末であった予定を2012年に延期している。また、2012年12月31日に全国一斉終了の計画は、準備ができた地域からスケジュール前倒しで順次アナログ放送を終了する計画に変更された。その後は、地デジ移行は混乱することなく2012年末で終了している。

5 次世代高画質放送

高画質UHD(4K、8K)放送導入に力を入れてきた韓国で、ケーブルテレビは2014年、IPTVは2014年、衛星放送は2015年から4K本放送を開始した。更に、700MHz帯を割り当てて米国方式(ATSC3.0)の地上4K放送が世界に先駆け、2017年5月から首都圏を皮切りに段階的に開始された。当初計画では、地上4K放送の全国拡大時期は2021年を予定していたが、地方民放の財政難や地上波直接受信世帯が少ないこと等から2年間延期され2023年末とされた。しかしながらこの計画も守られず、KCCは2024年に計画を見直す方針であるが、地上4K放送の全国拡大は現実的に厳しい状況のままである。

Ⅳ 事業の現状

KCCが毎年度まとめる放送事業者財産状況によると、2023年度の放送事業収益は前年比4.7%減少の18兆9,734億KRWである。2019年以降は年間売上でIPTVが地上放送を上回っている。

1 ラジオ

KBSが7系統、MBCが3系統、EBSが1系統のサービスを提供している。また、SBSの2系統のほか、地方テレビ放送事業者のTBC、KBC等もサービスを提供している。2022年末時点で、テレビ・チャンネルを持たずにラジオ・チャンネルのみ運営するラジオ放送事業者数は25社で、テレビとラジオ両方のチャンネルを運営する事業者数は30社である。

2 テレビ

地上テレビ放送事業者数は、地域民放を含めて30社である。このうち、公共放送についてはKBSが2系統、教育放送のEBSが1系統の全国放送を行っている。また、公営放送としてMBCが1系統の全国放送を行っている。商業放送では、首都でサービスを提供している地域放送事業者のSBSが、地方の商業放送事業者とネットワークを結成して全国放送を行っている。

3 衛星放送

総合通信事業者KTの子会社であるKTスカイライフ(KT Skylife)が2002年から「スカイライフ」のサービス名でデジタル衛星放送を提供している。2024年9月末時点での衛星放送サービス加入世帯数は350万で、このうち4K放送加入世帯数は182万である。2020年10月にMVNOサービスを開始した。また、2021年に大手ケーブル放送事業者現代HCNの買収を完了した。

4 ケーブルテレビ

2022年末時点のケーブルテレビ事業者(SO)数は90社で、加入数150万を超える大手総合有線放送事業者(MSO)は、LGハロービジョン、SKブロードバンド(旧Tbroad)、D’LIVEで、業界最大手はLGハロービジョンである。ケーブルテレビは通信事業者のIPTVに押されて加入数が停滞し、2023年12月末現在の加入数は約1,254万である。

2019年以降に通信事業者によるケーブルテレビ大手の買収を通じた有料放送業界再編が進行中である。2020年上半期までにケーブルテレビ第1位(LGハロービジョン)と第2位(SKブロードバンド)の買収が完了し、2021年には業界第5位の現代HCNのKTスカイライフによる買収が完了した。業界第3位のD’LIVEと第4位のCMBも売却先を探している。

5 IPTV

通信事業者3社(KT、SKブロードバンド、LG U+)がサービスを提供する。2023年12月末現在の加入数は約2,093万である。

6 OTT

グローバルOTTに対抗するため国内OTTの再編が進んでいる。国内OTT市場はNetflixの独走状態であるが、国内勢ではメディア・コンテンツ最大手CJ ENM系列の「Tving」が最大手であり、「Coupang Play」、「wavve」が後を追う。wavveはSKテレコムと地上放送事業者3社のサービスを統合して2019年に立ち上げられた。Tvingは、2022年にKTのサービスを吸収合併した。更に、Tvingとwavveが2024年現在、合併に向けて調整を進めている。

Ⅴ 運営体

1 韓国放送公社(KBS)

Korean Broadcasting System

Tel. +82 2 781 1000
URL https://www.kbs.co.kr/
所在地 13 Yeouigongwon-ro, Youngdungpo-gu, 07235 Seoul, KOREA
幹部 パク・チャンボム/Park Jang-beom(社長/President and CEO)
概要

政府出資の特殊法人である。主な財源は受信料収入と広告収入である。四つの地上テレビ放送チャンネル(KBS 1、KBS 2、UHD 1、UHD 2)、二つの衛星放送チャンネル(KBS World TV、KBS Korea)、七つのラジオ・チャンネルを運営している。このほかに、地上DMBで四つのチャンネルを提供している。KBS 1は報道・時事・スポーツ・教養・ドキュメンタリー、KBS 2は家庭・芸能・娯楽を中心に番組を編成する。KBS 1テレビとKBS 1ラジオ放送では1994年10月以降広告を廃止している。

2 文化放送(MBC)

Munhwa Broadcasting Corporation

Tel. +82 2 789 0011
URL https://www.imbc.com/
所在地 267 Seongam-ro, Mapo-gu, Seoul, 03925, KOREA
幹部 アン・ヒョンジュン(代表理事社長/President and CEO)
概要

16の系列局によって全国ネットワークを運営し、政府出資の財団である放送文化振興会が株式の70%を所有する、株式会社形態の公営放送事業者である。現在運用中のチャンネル数は、地上テレビ1、AM及びFMラジオ3、ケーブル5、衛星5、地上DMB 4である。最高意思決定機関は放送文化振興会の理事会で、理事会を構成する9人の理事はKCCにより任命される。

3 SBS

Tel. +82 2 2061 0006
URL https://www.sbs.co.kr/
所在地 161 Mokdongseo-Ro, Yangcheon-gu, 07996 Seoul, KOREA
幹部 パン・ムンシン/Bang Moon-Sin(代表理事/President and CEO)
概要

ソウルの商業ローカル放送事業者。1991年にAMラジオ放送・テレビ放送を、1996年にはFMラジオ放送を開始した。地方の放送事業者とネットワークを組むことで、実質的に全国放送を行っている。

電波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

(1)科学技術情報通信部

(通信/Ⅰ-1の項参照)

(2)放送通信委員会(KCC)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

電波政策については、2013年の朴槿恵政権発足に伴う省庁再編により政策機能が3機関に分散された。電波政策総括と通信周波数管理は科学技術情報通信部、放送周波数管理はKCC、新規周波数割当・再編は国務総理傘下の周波数審議委員会で所掌する。

2 標準化機関

韓国情報通信技術協会(TTA)

Telecommunications Technology Association

Tel. + 82 31 724 0114
URL https://www.tta.or.kr/
所在地 47 Bundang-ro, Bundang-gu, Seongnam-city, Gyonggi-do, 13591, KOREA
幹部 ソン・スンヒョン(会長/President)

活動概要

1988年に設立された韓国情報通信技術協会(TTA)は、「放送通信発展基本法」に基づき、情報通信分野の標準規格の策定を行っている。TTAのメンバーには、通信事業者、サービス・プロバイダ、機器メーカー、学界、研究機関等が含まれる。TTAの活動目的は国内外の最先端技術を標準化することで、韓国経済の発展、情報通信分野の産業振興、技術優位性に寄与することにある。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 周波数割当制度

韓国では、対価割当方式と審査方式の二つの周波数割当方法が採用されてきたが、2011年からはこれに加えてオークション制度が導入された。事業者から出捐金を徴収する形の対価割当方式はこれまでに、IMT-2000(3G)、位置情報サービス(LBS)、衛星DMB、WiBroといった経済的価値が高く競争的需要があると判断された周波数の割当ての際に採用されてきた。割当対価は、周波数の割当てを受けて経営する事業の予想売上額、割当対象周波数及び帯域幅等の周波数の経済的価値を考慮して科学技術情報通信部が決定する。2011年からは、競争的需要がある場合には周波数オークションを実施し、競争的需要のない場合や特別な事情のある場合は対価割当方式を採用する。

2024年に第4の移動体通信事業者参入を目的とした28GHz帯オークションが実施されたが、落札事業者の財務能力が後になってから問題視され、周波数割当対象法人選定が取り消された。現行制度ではオークション前に事前審査のプロセスが設けられなかったことがネックとされる。科学技術情報通信部は今回のケースを契機に制度的不備を見直し周波数割当制度改善と今後の通信政策方向を総合的に議論するため有識者研究会を設ける。一方、審査方式は、①電波資源利用の効率性、②申請者の財政能力、③申請者の技術的能力、④当該周波数の特性やその他周波数利用に必要な事項、の観点から審査が行われ、周波数割当が実行される。

対価割当及びオークションによる収入は、「放送通信発展基本法」による放送通信発展基金(科学技術情報通信部・KCC管理)と、「情報通信産業振興法」による情報通信振興基金(科学技術情報通信部管理)に編入される。現在二つに分かれているこれらのICT分野基金を情報通信放送発展基金として再編・一本化し、重複事業も今後見直す方針が2019年に発表されたが、2024年末現在、二つの基金の統合は実現していない。

2 無線局免許制度

無線局を開設する場合は、原則、許可が必要である。ただし、移動電話用無線局等は、許可を受けたものとみなされる。また、発射する電波が弱い無線局、受信専用の無線局、又は、周波数割当を受けた者が電気通信役務を提供するために開設する無線局の場合は、届出で済む。更に、発射する電波が微弱の無線局であって、大統領令が定める無線局の場合は、届出なしに開設できる。軍や駐韓外国公館等が周波数使用承認を得た場合は、許可や届出をせずに無線局を開設できる。

3 電波振興基本計画の策定

「電波法」により5年ごとに中長期的電波政策ビジョンを示す「電波振興基本計画」が策定される。科学技術情報通信部は2024年10月、「第4次電波振興基本計画」をまとめ、電波10大重点技術確保、電波産業振興法(仮称)制定、6G周波数確保、2030年までに100の衛星網確保、電波基盤公益サービス提供、周波数利用効率評価システム整備等を進める計画を盛り込んだ。主な内容は以下のとおり。

4 新たな周波数分配

中長期周波数総合計画と5Gへの周波数追加供給

科学技術情報通信部は世界無線通信会議での決定を迅速に反映するため、2024年以降は4年周期でスペクトラム計画を策定する。最新計画は2024年9月に発表された「大韓民国スペクトラム計画(2024~2027)」である。移動体通信周波数の新規確保については、TRS(Trunked Radio System)の800MHz帯や衛星の2.1GHz/4GHz帯等他用途で活用中の帯域から最大378MHz幅を確保する。現在移動体通信サービス用途で利用中の帯域は2026年以降の利用期間終了時点で、利用状況を総合的に考慮して全体を再割当て又は一部帯域の利用終了を検討する。5G帯域追加割当については、3.5GHz帯隣接帯域と同時に700MHz/800MHz帯や1.8GHz帯についても並行して検討する。5G周波数追加割当時期は2025年下期を目処とする。なお、28GHz帯については政府研究会での議論を踏まえて活用方向を決定する計画である。

周波数需要が移動体通信以外の新産業や安全分野へと幅広く拡大している。都心航空交通等の新産業向けにも適時に周波数を開放する。今後が有望視される衛星通信用途には1,000MHz幅供給を検討する。

5 電波監視体制

電波監視は科学技術情報通信部傘下機関の中央電波管理所(Central Radio Management Office)が行う。中央電波管理所は電波監視のほか、無線局許可及び電波利用料徴収、周波数利用環境調査、不法機器・設備の取締り、通信事業者の登録・届出・監督等を行う。全国10か所の分所と京畿道利川市の衛星電波監視センターで構成される。

6 電波利用料制度

日本と同様に、無線局施設者に対する電波利用料制度があり、四半期ごとに利用料を徴収する。電波利用料収入は「電波法」により、電波監理に必要な経費の充当と電波関連分野振興のために利用することとされている。電波利用料は一般財源である。

Ⅲ 周波数分配状況

1 国家周波数計画

2 周波数オークション

周波数割当方法として2011年からオークション方式が導入され、2024年までに計5回のオークションが実施された。

2018年までに実施されたオークションは既存移動体通信事業者3社を対象とし、上記の帯域を割り当てた。しかしながら、2018年に5G用途で割り当てた28GHz帯については既述のとおり(Ⅱ-4の項参照)、3社が2021年までの装置構築に関する免許条件を達成できなかったため、2022年末から2023年にかけて3社の割当取消処分が実施された。回収した28GHz帯を利用して2024年に第4の移動体通信事業者参入を目的としたオークションが実施されたが、事後に落札事業者が割当対象取消処分となった(3の項参照)。

3 移動体通信新規参入

3社体制の移動体通信市場への第4の移動体通信事業者新規参入が2016年までに7回にわたり試みられてきたが頓挫を繰り返してきた。以降、移動体通信市場新規参入計画は保留されてきたが、2022年11月のKTとLG U+の28GHz帯割当取消処分が下されたため、このうち1枠の28GHz帯について新規参入を進めるための「5G(28GHz)新規事業者参入支援方案」が2023年1月に科学技術情報通信部より発表された。これにより、2024年1月に3社が競合する形で28GHz帯800MHz幅のオークションが実施された。MVNOのStage 5が主導するコンソーシアムのStage Xが高値で落札したものの、事後に同社の財務能力が問題視され、その結果、同年7月に周波数割当対象法人選定取消処分が確定した。今後の新規参入政策については2024年中の政府研究会での検討を踏まえ、市場参入機会は常に開放しておき、参入希望事業者がいる場合に進める方向で決定された。また、新規参入の周波数オークションでは最低入札価格以上の資本金要件を設ける等、周波数割当制度の補完策も盛り込まれた。

4 ローカル5Gの導入

28GHz帯有効活用とBtoB分野5G促進をねらいとして2021年から新たにローカル5Gに相当する「5G特化網」制度(通称:イウム(e-Um)5G)が導入された。4.7GHz(100MHz幅)/28GHz(600MHz幅)を活用する5G特化網制度ではネットワークの構築主体とサービス提供対象により免許は3タイプに分類される。2024年末現在、計36機関が76か所を対象に周波数割当又は周波数指定を受けている。

5 周波数譲渡及びリース制度

韓国では周波数譲渡及びリースの実績はない。電波資源利用の効率性向上のため、周波数譲渡・リースについての承認取消制度、衛星周波数の譲渡及びリース承認制度等が2015年の「電波法」改正により導入された。「第4次電波振興基本計画」に基づき今後は5G特化網免許事業者対象に周波数譲渡・リースの実証事業を実施する計画である。

6 周波数共用

5Gやスマートシティ等の融合サービス提供のため周波数需要の急増が見込まれる。このような背景から科学技術情報通信部は周波数共用を進めるため、具体的な手続等を盛り込んだ告示「周波数共同使用範囲と条件、手続、方法等に関する基準」を2019年12月に制定した。