大韓民国(Republic of Korea)

通信

Ⅰ 監督機関等

1 科学技術情報通信部

Ministry of Science and ICT

Tel. (代)局番なしの1335 +82 44 202 4180(夜間)
URL https://msit.go.kr/
所在地 194, Gareum-ro, Sejong-si, 30121, KOREA
幹部 イ・ジョンホ/Lee Jong-Ho(長官/Minister)

2 放送通信委員会(KCC)

Korea Communications Commission

Tel. +82 2 500 9000
URL https://kcc.go.kr/
所在地 47 Gwanmun-ro, Gwacheon-si, Gyeonggi-do 13809, KOREA
幹部 ハン・サンヒョク/Han Sang-hyuk(委員長/Chairman)
省庁再編

韓国では新政権成立に合わせて省庁再編が実施される。そのため、過去20年間で情報通信分野政策所掌省庁(韓国では「部」が省に相当)は、情報通信部→放送通信委員会(KCC)→未来創造科学部→科学技術情報通信部と再編を重ねてきた。2017年の文在寅政権成立後、ICTと科学技術政策を所掌する未来創造科学部は科学技術情報通信部に名称変更された。科学技術情報通信部のICT分野における所掌事務は以下のとおりである。

KCCの所掌事務は以下のとおりである。

2013年の朴槿恵政権発足時、省庁再編を巡る国会での与野党の駆け引きにより、周波数政策は三つの政府機関、メディア政策は地上波がKCC、有料放送メディアが科学技術情報通信部という具合に複数省庁に分散され、変則的な形となっている。

Ⅱ 法令

科学技術情報通信部が所掌する主な法令は以下のとおり。

分野 法令
融合分野 知能情報化基本法、放送通信発展基本法、インターネット・マルチメディア放送事業法(IPTV法)、情報通信振興及び融合活性化等に関する特別法(ICT特別法)
通信分野 電気通信基本法、電気通信事業法、電波法、情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律(情報通信網法)、移動体通信端末装置流通構造改善に関する法律(端末流通法)、情報保護産業の振興に関する法律、クラウド・コンピューティング発展及び利用者保護に関する法律(クラウド法)
放送分野 放送法

 はKCCとの共管

KCCが所掌する主な法令は以下のとおり。

分野 法令
通信分野 電気通信事業法、情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律、位置情報の保護及び利用等に関する法律
放送分野 放送法、韓国教育放送公社法、放送広告販売代行等に関する法律、放送文化振興会法

出所:科学技術情報通信部、KCCウェブサイト

1 放送通信発展基本法

通信・放送融合環境に対応するため、「電気通信事業法」と「放送法」の基本部分を一本化した融合法として2010年に施行された。通信・放送分野の振興と、科学技術情報通信部とKCCの独自財源としての放送通信発展基金の根拠等を定めている。

2 電気通信事業法

公衆電気通信事業及び電気通信設備の運営管理、利用者に関する基本法令で、電気通信事業の分類及び許可等に関する要件、競争促進及び利用者保護、電気通信設備の設置及び保全について規定している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)免許政策の制度枠組

電気通信事業者の分類は2018年末の「電気通信事業法」改正により、従来の3種類から、基幹通信事業者と附加通信事業者の2種類に再編されると同時に、基幹通信事業が許可制から登録制に緩和された。電気通信事業者区分の詳細は次のとおりである。2022年8月現在、基幹通信事業者のうち回線設備保有事業者が76社、回線設備未保有事業者が574社登録している。

電気通信事業者の分類
区分 定義 サービス内容
基幹通信事業者(登録制) 電気通信回線設備を設置又は利用して、電話、インターネット接続等の公益性の高い基幹通信サービスを提供する事業者 電話、インターネット接続、電気通信回線設備貸出サービス
附加通信事業者(届出制)

基幹通信事業者から通信回線設備を賃貸し、基幹通信サービス以外の電気通信サービスを提供する事業者

(注:ウェブハード等一部の特殊な類型の附加通信事業は登録制)

PC通信、CRS、DB/DP(Data Base/Data Processing)等

出所:「電気通信事業法」を基に作成

(2)外資規制

「電気通信事業法」第8条により、回線設備を保有する基幹通信事業者に対する外資出資制限は49%までとされている。2013年8月の「電気通信事業法」改正により、米国や欧州連合(EU)等の自由貿易協定(FTA)締結国の外資企業は公益性審査を通過すれば基幹通信事業者の株式49%を超えて取得できるようになった。ただし、主要通信事業者のKTとSKテレコム(SK Telecom)、LG U+(LG Uplus)については、最大49%までの外資規制が維持されている。なお、間接投資拡大は、公益性審査を通じ、国家安全保障等への影響がない場合に許可される。

国内企業に海外投資家が投資を行うためには、現地に持株会社を設立することが求められる。

2 競争促進政策

(1)相互接続料

電気通信設備の相互接続の範囲及び条件、手続、算定方法の基準は科学技術情報通信部が告示「電気通信設備の相互接続基準」で詳細を定める。ボトルネック設備を保有する基幹通信事業者と、市場支配的とみなされた基幹通信事業者は、他の事業者からの要請があった場合は、相互接続の提供を義務付けられている。2004年から長期増分費用(LRIC)による接続料算定方式が導入された。固定電話及び移動電話網の接続料は、2年ごとに改定される。

(2)卸売提供制度とMVNO促進政策

2010年の「電気通信事業法」改正により、MVNOの法的根拠が整備された。移動体通信市場でシェアが最も高いSKテレコムはMVNOへの卸売提供を義務付けられており、更に、卸売料金水準についても科学技術情報通信部の告示で定められている。5Gについても卸売提供を義務付ける。

競争政策の一環として毎年ベースで卸料金引下げ、電波利用料免除、郵便局を活用した販売網拡大等のMVNO促進策が実施されている。2020年9月現在で56社のMVNO登録がある。2022年9月現在、MVNO契約数は1,226万を超え、移動電話加入者に占めるMVNO契約割合は約16%である。大企業系列と中小企業のMVNO間の公正競争上に配慮が加えられ、2014年に未来創造科学部(当時)が発表したMVNO活性化政策ではMNO系列会社のMVNOの市場シェアは合計で50%に制限する方針が盛り込まれた。一方、MVNO市場におけるMNO系列MVNOの移動電話回線ベースの加入者シェアは拡大を続け、2022年初め現在で50%を超えている。

科学技術情報通信部は2022年12月に「MVNO持続成長のための利用者保護及び市場活性化方案」を発表した。同方案では、卸料金の引下げによる料金競争の活性化や利用者保護等を推進するとしている。

(3)端末流通制度改革

通信サービスと端末の一体化販売が主流であった韓国では、2012年5月から移動体通信事業者代理店以外の多様な販売チャンネルを通じた端末販売と、海外で購入した端末の利用が可能となった。通信サービスと端末販売の分離を更に進めるため、2019年から移動体通信事業者3社から共通発売される端末は通信サービスと分離して発売されることになった。

更に、不法な端末補助金の根絶を目的として2014年10月に施行された「移動体通信端末装置流通構造改善に関する法律(端末流通法)」では、罰則の対象を移動体通信事業者に加え、メーカーと代理店にも拡大した。同法の主な内容は次のとおりである。

補助金に代わる通信料金割引率は2017年9月から25%に引き上げられ、補助金よりも通信料金割引を選択する人が増えた。

なお、端末流通法施行以降、通信事業者の補助金競争が抑制された結果、端末料金が高止まりする問題点が指摘されてきた。そのため、放送通信委員会は補助金競争誘導による端末価格引下げを図り、2021年10月に告示を改正し、通信事業者の公示補助金の変更日を火曜日と金曜日に指定するとともに、最小維持期間を現行の1週間から3~4日に短縮した。同時に、端末流通法改正を通じ、流通店が公示補助金に上乗せする追加支援金の支給限度を現行の15%から30%に拡大する方針も発表したが、2022年11月現在、端末流通法は未改正である。

3 情報通信基盤整備政策

(1)ユニバーサル・サービス

ユニバーサル・サービスの概念は「電気通信事業法」に示されており、「電気通信事業法施行令」で、その内容やユニバーサル・サービス提供事業者の指定、サービス提供による損失補てんについて規定している。ユニバーサル・サービスの内容は、次のとおりである。

ユニバーサル・サービス提供事業者は、科学技術情報通信部が指定する。サービス提供による損失分担については、売上高300億KRW以上の基幹通信事業者が、分担事業者別売上規模に応じて負担することになっている。2019年の「電気通信事業法施行令」改正により、ブロードバンドは2020年からユニバーサル・サービスとなり、提供事業者としてKTが指定された。提供されるブロードバンドのサービス品質や提供対象等については、2019年11月にまとめられた告示で次の基準を設けている。

(2)デジタル・ディバイド解消政策

デジタル・ディバイド解消政策は、「知能情報化基本法」を根拠法とし、科学技術情報通信部が所掌する。同法では、デジタル・ディバイド解消については、国家機関と地方自治体が必要な施策を講じることとしている。

情報通信戦略委員会が2020年6月に発表した「デジタル包摂推進計画」では従来のデジタル・ディバイド解消にとどまらず、国民全体のデジタル環境全般の整備計画を盛り込んだ。具体施策として、住民センターや図書館等公共施設でのデジタル基本教育実施、「全国民向けソフトウェア・AI教育拡大方案」制定、Wi-Fi整備、弱者層向けデジタル見守りサービス提供等が実施される。科学技術情報通信部ではデジタル能力強化事業を進め、全国17の広域自治体の施設1,000か所を活用し、高齢者向けスマートフォン教室等を運用している。更に、デジタル・トランスフォーメーション(DX)加速で生じる新たなデジタル・ディバイドに幅広く政府横断で対応するため、「デジタル包摂法」制定に向けた検討が進められている。

(3)情報社会化政策

政府は、「国家情報化基本法」に基づき1996年以降は5年ごとに国家情報化基本計画を策定し、ブロードバンド化や電子政府化を短期間で進めてきた。2018年12月に科学技術情報通信部がまとめた「第6次国家情報化基本計画(2018~2022年)」では、データ経済活性化や5G商用化等を盛り込んでいる。

AI時代に対応するため2020年に「国家情報化基本法」は「知能情報化基本法」に全面改正された。新法の主な内容は次のとおりである。

(4)ギガビット級ブロードバンド網構築

2009年以降進められたギガビット級ブロードバンド構築事業の結果、2018年末までに全国85市におけるカバレッジは99.06%に達し、ギガビット級ブロードバンド加入世帯は2019年後半に1,000万を超えた。2018年以降は10ギガビット級ブロードバンドの商用サービス化が進められている。「第6次国家情報化基本計画」により、10ギガビット級ブロードバンドのカバレッジを2022年までに85市基準で50%まで拡大する計画である。

(5)国家災難安全通信網構築計画

2014年4月に発生した旅客船セウォル号沈没事故を受け、朴槿恵大統領(当時)が国家災難安全通信網の構築を国民に約束し、3段階で700MHz帯利用のPS-LTE方式の全国ネットワークを構築することになった。事業の主管庁は行政安全部である。KTとSKテレコムが2018年末からネットワーク構築を手がけ、2021年5月から本格サービスが開始された。

ネットワーク本格稼動に合わせ、災難安全通信網の効率的構築と運用の根拠となる「災難安全通信網法」が2021年6月に制定され、12月から施行された。この法律により政府は5年ごとに災害安全通信基本計画を策定することとなり、2022年7月に「第1次災難安全通信網基本計画(2022~2026)」がまとめられた。

4 ICT政策

(1)尹錫悦政権で進める科学技術情報通信部の基本政策

科学技術情報通信部が尹錫悦新政権下で掲げる目標は「官民協力基盤で国家革新体制を新たに構築し、先導型技術革新とデジタル革新拡大で国家社会発展」である。目標達成に向けて今後進める五つの中核課題が2022年7月に発表された。

五つの課題は、①超格差技術力確保に向けた国家R&D体系革新、②未来革新技術先占、③技術革新主導型人材育成、④国家デジタル革新全面化、⑤全員が幸福な技術拡大、である。

ICT分野関連の施策では、6G技術開発や特許早期確保に注力するとともに、デジタル新産業(AI、メタバース、ブロックチェーン等)やサイバーセキュリティ等の公共分野ニーズ創出と海外進出支援を通じ、次世代技術の最短時間での市場進出を支援する。また、非対面・オンライン時代に対応するため、5Gの中間的データ(20ギガ台)料金プラン導入、品質改善、農漁村超高速網と無料公共Wi-Fi拡充(1万か所)、ボイスフィッシング対策等を進め、通信サービス利用者のメリットを拡大する計画である。科学技術情報通信部では今回発表された中核課題を中心に、超格差戦略技術育成方策や政府横断のデジタル国家戦略等の新政権政策をまとめる。

(2)大韓民国デジタル戦略

尹錫悦政権のデジタル国家基本戦略として、2022年9月に「大韓民国デジタル戦略(以下、デジタル戦略)」が発表された。2027年までに世界でAI三大強国、デジタル競争力3位、デジタル基盤1位を目指す。デジタル戦略は次の五つの推進戦略と19の細部課題に分けて進められる。

重点強化分野として2023年からAI、AI半導体、5G/6G、量子技術、拡張仮想世界(メタバース)、サイバーセキュリティの6分野の研究開発に集中投資する。

(3)デジタル・プラットフォーム政府

尹錫悦政権の国政課題として、すべてのデータがつながる世界最高のデジタル・プラットフォーム政府実現が盛り込まれた。すべてのデータが一つにつながるデジタル・プラットフォーム上で、国民・企業・政府が共に社会問題を解決し、新たな価値を創出する政府を意味する。デジタル・プラットフォーム政府のイメージは、国民が漏れなく公共サービスを受けられるようにカスタマイズ・サービスを提供し、申請プロセスでは1か所で一度に関連書類を提出できるようにする。目標達成に向けて大統領直属の官民有識者で構成するデジタル・プラットフォーム政府委員会が2022年9月に立ち上げられた。

(4)規制緩和

新産業・新技術に対して事前許容・事後規制方式の「包括的ネガティブ規制」への転換が図られるとともに、2019年からICT融合とFinTech分野で規制サンドボックス制度が導入された。規制サンドボックスでは臨時許可・実証のための特例の形で期間と地域を限定して弾力的に新サービスを許可する。また、地域均衡発展につなげるため、地方自治体を対象とした規制サンドボックス制度導入根拠として2018年末に「規制自由特区及び地域特化発展特区に関する規制特例法(地域特区法)」が制定された。

尹錫悦政権では、科学技術情報通信部が2022年7月にまとめた業務報告に、個別テーマ(分野)ごとの規制革新を進めることにより、時代遅れになったり、海外との不均衡につながる規制の解消に集中する方針を盛り込んだ。その一環として、2022年9月にeSIM本格導入に対応するための関連規制が改善された。更に、同年11月に発表した「デジタル産業活力向上規制革新方案」で、スマートフォンへのUWB機能搭載、5G特化網関連規制緩和等12の規制改善策を盛り込んだ。2022年中にこのうち8件の規制改善に向けた法改正を進める。

(5)個別技術・サービス促進戦略
・AI

2016年3月のアルファ碁ショックを契機として同年12月に、AI活用社会に対応するための政府横断の「第4次産業革命に対応する知能情報社会中長期総合対策」がまとめられた。

文在寅政権(当時)では2019年12月に「AI国家戦略」をまとめ、「IT強国を超えてAI強国へ」のビジョンを掲げた。2030年までにデジタル競争力世界3位、AIによる経済効果最大455兆KRW、生活の質で世界10位圏入りを目指す。目標達成に向けて九つの戦略と100の個別プロジェクトを進める。

他方、AI時代の利用者の権利と保護原則についてはKCCが2019年11月に、政府・企業・利用者が守るべき基本原則をまとめた。「AI国家戦略」に基づき、すべての社会構成員が順守すべき原則をまとめた「AI倫理基準」が2020年12月に制定された。「AI倫理基準」の具体的実践策として、科学技術情報通信部は人間中心のAI実現に向けて「信頼できるAI実現戦略」を2021年5月にまとめた。この戦略にはスタートアップ支援や、AIの信頼性向上技術開発に2022年から2026年までに総額650億KRWを投じる計画が盛り込まれた。

・クラウド促進

クラウド産業関連育成と利用者保護等を骨子とする「クラウド・コンピューティング発展及び利用者保護に関する法律(クラウド法)」が2015年9月に施行された。第4次産業革命委員会が2020年6月にまとめた「クラウド産業発展戦略」では公共分野のクラウド全面移行、中小企業のクラウド利用支援のためのバウチャー事業拡大、クラウド・フラッグシップ事業等を通じ、2023年までにクラウドによる売上げ500億KRW以上の企業10社以上、従業員数10人以上の中小企業のクラウド導入率40%以上の達成を目指す。2021年7月に行政安全部が発表した「行政・公共機関情報支援クラウド移行・統合推進計画」により、行政・公共機関の情報システムの2025年までのクラウド全面移行が進められることになった。

・データ活用の促進

データ経済活性化と産業基盤整備を目的とした「データ産業振興及び利用促進に関する法律」(以下、データ基本法)が2022年4月から施行された。データ基本法は、データ産業分野における生産・分析・連携・活用促進、人材育成、国際協力といった産業育成全体に係る基本法として世界に先駆け法制化された。データ基本法施行を受け、政府横断のデータ分野政策司令塔として国務総理を委員長とする国家データ政策委員会が2022年9月に立ち上げられた。国家データ政策委員会ではAIとデータ分野の規制改善課題を集中的に洗い出し、改善方向を第1次データ産業振興基本計画に反映する方針である。

・オープンデータ促進

政府と公共機関が保有する公共データの開放と、これらを活用した民間ビジネスを促進する目的で、2013年10月に「公共データの提供及び利用活性化に関する法律」が施行された。これにより、大部分の公共機関は保有する公共データの開放を義務付けられ、公共データ活用のアプリ開発等、民間でのビジネス創出が法的に保証される。同法に基づいて運営する公共データ戦略委員会が公共データ関連の主要政策を審議し決定する。公共データ戦略委員会は2021年4月、量を追求してきた公共データ開放を、ニーズ中心の質重視に転換するため、「公共データ開放2.0推進戦略」を発表した。韓国政府のオープンデータの取組みは世界的にも評価され、2019年OECD公共データ開放指数第1位とされている。

・IoT普及促進

政府のIoT促進基本戦略として、過去には「IoT基本計画」(2014年5月)、「IoT拡散戦略」(2015年12月)等の個別戦略があったが、近年はIoTは総合的な融合政策の中で扱われる。2017年までに医療、エネルギー、都市等6分野におけるIoT事業が重点的に進められ、規制緩和も進められた。規制緩和を追い風に、通信事業者は早期にLPWA(Low Power Wide Area)全国ネットワークを整備した。

尹錫悦政権期になってからは2022年11月に発表された「デジタル産業活力向上規制革新方案」で、IoT活性化のため、スマートフォンへのUWB機能搭載等に向けた規制改善が盛り込まれた。

・5G促進及び6G開発に向けた政策取組

2019年4月の一般向け5G本格商用化を受け、文在寅政権期(当時)には政府横断の5G活用促進戦略として「5G+(プラス)戦略」が発表された。「5G+戦略」では官民合わせて30兆KRW以上を投資、重点育成を図る5G関連10産業と、スマート工場やスマートシティ等五つの戦略サービスを指定した。

BtoB分野5G活性化のため、2021年1月、5G+戦略委員会(当時)が5G特化網(ローカル5Gに相当)政策方案を発表したことを受けて、2021年から5G特化網制度が新たに導入された。

更に、世界初の6G商用化に向けた取組みとして、科学技術情報通信部は2020年8月、「6G移動通信時代を先導するための未来移動通信R&D推進戦略(6G R&D戦略)」をまとめ、2021年から5年間で2,000億KRWの予算を投じる6G研究開発に着手した。6G研究開発は2021年から2028年まで、中核技術開発と商用化支援の2段階に分けて行われる。6G R&D戦略を通じ、6G中核標準特許で世界一、スマートフォン市場シェア世界一、機器市場で世界第2位の達成を目標に掲げる。

尹錫悦政権では「世界最高のネットワーク構築及びデジタル革新加速化」の国政課題に沿って、5G/6Gネットワーク・インフラの高度化を進める。2022年9月に発表した「大韓民国デジタル戦略」では5G/6Gを戦略育成分野の一つに指定した。同戦略で、5Gについては全国ネットワークを2024年に完成し、2026年からは6G標準特許で先行、2026年に世界初の6Gプレサービスのデモンストレーション推進を目指す。

・メタバース

2021年7月に政府がまとめた「韓国版ニューディール2.0」でオープン型メタバース・プラットフォーム構築等のメタバース産業支援が初めて盛り込まれて以降、政府のメタバース分野支援が開始された。2022年1月には政府横断総合戦略として「メタバース新産業先導戦略」が発表された。2022年に入ってからはメタバースに関する諸課題に対応するため、放送通信委員会が利用者保護等を議論する社会的協議体、科学技術情報通信部がメタバース・NFT(非代替性トークン)セキュリティ協議体とメタバース経済活性化官民専門タスクフォースを相次いで立ち上げている。更に、メタバース経済活性化に向けた特別法制定も今後進められる。

(6)電子政府

電子政府は1990年代後半から国家戦略として構築され、2002年11月から運用を開始した。2001年には「電子政府法」が制定されており、電子政府は行政安全部の所掌である。国連の電子政府ランキングで韓国は過去3回連続で世界第1位(2010~2014年)、最近も常に3位以内と高く評価されており、電子政府輸出を伸ばした。現在は電子政府のビッグデータとAI活用が進められている。

2019年10月に政府がAI・クラウド中心のDX対応戦略として「デジタル政府革新推進計画」をまとめた。これにより、各種証明書のペーパーレス化やモバイル身分証導入等が進められ、電子政府の使い勝手が継続的に改善される。2021年からは公務員証、2022年7月以降は運転免許証のスマートフォン搭載本格サービス、住民登録証のスマートフォン搭載の提供も開始された。

2021年6月に行政安全部がまとめた中長期計画としての「第2次電子政府基本計画」では、2025年までに主要公共サービスのDX率80%、行政・公共クラウド移行率100%達成を目指す。

(7)インターネット中立性問題

ネットワーク中立性問題による紛争回避のため、KCCは2011年12月、「ネットワーク中立性及びインターネット・トラヒック管理に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を発表した。ガイドラインの後続政策として、未来創造科学部(当時)は2013年12月、ネットワーク事業者の恣意的なトラヒック管理を防止し、利用者にトラヒック管理情報を公開することを主な目的とした「通信網の合理的管理・利用とトラヒック管理の透明性に関する基準」を発表した。この基準により、ネットワーク事業者はトラヒック管理情報をインターネット・ホームページ等に公開しなければならず、同基準によりトラヒック管理を施行しようとする場合には、利用約款にこれを反映した後に施行しなければならない。5G時代対応のため、2020年12月にガイドラインが改正された(施行は2021年1月)。改正ガイドラインではネット中立性の例外要件を明確化し、欧米のように特殊サービス概念等を導入した。2021年12月には科学技術情報通信部が同ガイドラインの解説書である「インターネット中立性政策の理解」を発刊した。

(8)ICT分野規制の域外適用

ICT分野において国内で適用される規制を海外事業者が免れ、国内事業者のみ負担が重くなる状況を韓国では国内外逆差別として捉え、国会、科学技術情報通信部、KCCはこの数年間、問題の解消に向けて取り組んできた。その結果として、2018年中に「電気通信事業法」と情報通信網法を改正し、規制の域外適用の根拠を整備し2019年から施行した。情報通信網法改正により、2019年3月から一定規模以上のグローバル情報通信サービス提供事業者は国内代理人の指定を義務付けられた。同時に利用者情報の第三国への再移転についても利用者同意原則を導入し、個人情報の自己決定権の担保も図られた。更に、2020年の「電気通信事業法」改正により、グローバル附加通信事業者に対しても国内代理人指定が義務付けられた。

根拠法が整備されたことで、個別ケースに焦点を当てた規制域外適用の動きが加速化している。2021年9月からの改正「電気通信事業法」施行により、アップル(Apple)やグーグル(Google)等のアプリ・マーケット事業者による特定の決済方式強制禁止を法制化し、世界から注目を集めた。

5 消費者保護政策

(1)政府横断的サイバーテロ対策

文在寅政権期(当時)の2019年4月に国家安保室が「国家サイバーセキュリティ戦略」をまとめた。これを履行するための政府横断実行計画として、同年9月に「国家サイバーセキュリティ基本計画」が決定された。基本計画はあらゆるものとつながる5G時代への対応を念頭に置き、政府は2022年までに18の重点プロジェクトと100の個別プロジェクトを進める。

(2)個人情報保護対策

韓国では公共と民間の全体をカバーする「個人情報保護法」があるが、もともとICT、金融等の産業分野ごとで個人情報保護を規定する個別法があり、個別法の規定を優先する場合もあるため個人情報保護体系が分散していた。個人情報保護の強化を図る一方でデータ活用活性化を目的としたデータ3法改正案が2020年1月に成立し8月に施行された。データ3法とは「個人情報保護法」「信用情報法」「情報通信網法」を指す。これらの法改正により、非識別個人情報の活用を制限的に許容する。また、行政安全部、KCC、金融委員会の個人情報保護機能を個人情報保護委員会に一元化し、個人情報保護委員会を中央行政機関に格上げして個人情報監督機関の独立性を確保した。

個人情報保護委員会は2022年9月、グーグルとメタ(Meta)に対して個人情報保護違反として最大規模の課徴金1,000億KRWの課徴金賦課を決定している。

(3)家計に占める通信料金引下げ及び選択肢拡大政策

李明博政権以降文在寅政権まで3代にわたる政権において、家計に占める通信料金引下げが政権公約とされ、重要政策課題の一つに位置付けられてきた。これまでの施策で移動体通信料金が下がってきたことから、尹錫悦政権では通信料金引下公約は盛り込まなかった。その代わりに5G利用者の平均的利用量を考慮した料金プランの選択肢拡大を図る目的で、5Gの20~30ギガ台の中間的なデータ料金プラン導入を国政課題に盛り込んだ。この方針を受け、2022年夏に通信事業者3社は順次中間的な5G新プランを導入した。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

電気通信設備及び無線設備(放送受信のみを目的とするものを除く)を製造又は輸入する場合、技術基準認証を受ける必要があるが、試験・研究や輸出用等の設備の場合は免除される。また、外国で製造され、輸入される通信設備については、「電波法」の規定による、国際条約や国家間の通信機器の認証に関する相互承認協定の内容に応じて、認証が免除される。

認証機関は科学技術情報通信部の傘下機関である国立電波研究院(Radio Research Agency:RRA)で、型式検定はRRAが実施し、型式登録はRRAが認定する認証機関が、適合性評価試験を実施し、試験報告書をRRAに提出する。

Ⅴ 事業の現状

1 市場概要

通信市場では、KT、 SKテレコム、LG U+の主要3社のグループによる競争が展開されている。2010年までにKTとLG U+は系列内での合併を通じて総合通信事業者となった。移動体通信最大手SKテレコムは、系列子会社として固定通信事業者SKブロードバンド(SK Broadband)、プラットフォーム事業者SKプラネット(SK Planet)等を抱える。2019年以降は通信事業者がケーブル放送を買収する形で通信事業者主導の有料放送市場再編が進んだ。

2 固定電話

国際通信が1991年、長距離通信が1996年、市内通信が1999年に自由化されているが、依然として旧国営事業者KTのシェアが大きい。市内通信市場には、KT、SKブロードバンド、LG U+の3社が存在する。各社の加入者規模は次の表のとおりで、2022年9月末現在の市内電話(PSTN)加入総数は約1,176万人である。2003年以降に番号ポータビリティが導入されてからは、KTが徐々にではあるが、加入数シェアを落としている。VoIP市場には9社が参入しており、2022年9月末現在の加入数は1,107万人。加入数による事業者の規模は、LG U+、KT、SKブロードバンド、KCTの順である。

国際電話市場では、KT、SKブロードバンド、LG U+、世宗テレコム(Sejong Telecom)、SK Telinkをはじめとする多数の事業者が価格競争を展開している。

主な市内電話事業者(2022年9月末現在)
事業者 免許付与年 事業分野 通信サービス加入者数
KT 1982年 市内・長距離・国際 944万
SKブロードバンド 1997年 市内・長距離・国際 184万
LG U+ 1982年 市内・長距離・国際 48万

出所:科学技術情報通信部

3 移動体通信

(1)主要事業者の概要

移動体通信市場にはSKテレコム、KT、LG U+の3事業者が存在する。市場シェアは長年SKテレコム、KT、LG U+の順であるが、中長期的に最大手のSKテレコムのシェアが下がってきている。

主な移動体通信事業者 (2022年9月末現在)
事業者 方式 加入者数
SKテレコム W-CDMA、LTE、5G 3,063万
KT W-CDMA、LTE、5G 1,757万
LG U+ CDMA2000(終了決定)、LTE、5G 1,586万
MVNO 1,226万
合計 7,632万

出所:科学技術情報通信部

(2)移動体通信サービス動向

韓国は移動体通信新サービスの普及速度が大変速く、スマートフォンもLTE、5Gも世界最速スピードで普及した。移動電話加入数に占めるスマートフォン加入率は9割以上である。2019年4月に世界に先駆けて移動体通信3社が同時に開始した5Gの2022年9月現在の加入数は2,623万人で、人口の半数を超えた。

3社は多様な業界との提携を通じ、スマート工場、スマートシティ、スマート病院等の5G導入BtoBビジネスモデル拡大に力を入れる。2020年以降は特に、5Gモバイルエッジ・コンピューティング基盤のサービス導入分野拡大を図っている。2018年に割り当てられた5G周波数3.5GHz/28GHz帯のうち、3.5GHz帯利用の5Gのネットワーク拡大に力が入れられた一方、28GHz帯への投資が低調であることが問題視されていた。科学技術情報通信部は5G周波数割当条件履行状況点検の結果、2022年11月にKTとLG U+の28GHz帯割当中止、SKテレコムに対しては6か月間の利用期間短縮処分を決定、その後意見聴取手続等を経て同年12月23日付で処分が確定した。LG U+とKTの28GHz帯域使用は同日付で中断されるが、既に構築が完了している28GHzをバックボーンとして活用する地下鉄Wi-Fiについては、公益的側面を考慮し、最初の割当期間である2023年11月30日まで例外的に周波数使用を許容することにした。科学技術情報通信部は取消しになった二つの帯域のうち一つの帯域に対して今後新規事業者の参入を推進する計画である。

2021年末から新たに導入されたローカル5Gに相当する5G特化網制度では、2022年12月末現在、計18機関が26か所を対象に周波数割当、又は周波数指定を受けている。5G特化網の通称は、科学技術情報通信部が公募により選定した「イウム(e-Um)5G」とされている。

4 インターネット

(1)ブロードバンド

1995年以降、韓国では政府主導で他国に先駆けてxDSLとケーブルモデムによるブロードバンド基盤が拡充された。現在はギガビット級高速ブロードバンドのサービス競争が進展している。KTとSKブロードバンドは2018年末から10Gbps級ブロードバンドの商用サービスを提供している。2022年9月末現在の固定網ブロードバンド加入総数は約2,342万で、加入数による市場シェアはKT、SKブロードバンド(SKテレコムの再販売含む)、LG U+の順であり、早くから市場競争が進展している。

(2)Wi-Fi

通信料金引下政策の観点から、2012年以降、国策として無料の公共Wi-Fi拡大が進められている。尹錫悦政権でも引き続き公共Wi-Fiの質と量の両面での拡大を図る。政府の公共Wi-Fi構築事業により、2022年度までに公共スペース4万3,000か所と市内バス2万9,000台の全国合計7万2,000か所に無料Wi-Fi拠点が整備された。

2021年10月に科学技術情報通信部がまとめた「公共Wi-Fi高度化方案」により、市内バスWi-Fiバックホールの2023年までの段階的5G置換、公共スペースの新規構築拠点での次世代規格Wi-Fi 6E段階的導入、人口密集公共スペースでの28GHz帯5GによるWi-Fiバックホール導入が進められる。

5 ICT利活用サービス

(1)通信・放送融合サービス

2007年末に制定されたIPTV法を根拠として、KT、SKブロードバンド、LG U+の通信事業者3社は2008年11月以降、リアルタイム放送IPTVを提供している。KTは衛星放送とIPTVの融合サービスも提供する。通信・放送融合サービスとして政府が導入に力を入れたIPTVは成長し、2018年には加入者数でケーブルテレビを上回り有料放送市場の主役となった。2021年下半期(6か月間平均)のIPTV加入者数は1,969万である。

移動体向けのマルチメディア放送として、国産技術で開発した無料サービスの地上DMB(移動体向け地上デジタル放送)が、地上放送事業者等により提供されている。

(2)IoT

2016年から2018年にかけて移動体通信3社が複数方式によるLPWA全国ネットワークを構築し、LPWAネットワーク活用の本格サービス競争が展開されている。SKテレコムは2016年6月にLoRa方式、2018年4月にLTE Cat.M1方式のIoT全国ネットワークを構築し、既に構築したLTE-M方式ネットワークと用途に応じて使い分けながらサービス・ラインナップを拡大している。KTとLG U+はLTE-Mに加え、2017年7月にNB-IoT方式の全国ネットワークを共同で構築し、LG U+は更に、2019年4月にLTE Cat.M1全国ネットワーク・サービスも開始している。

(3)インターネット関連サービス

インターネット・サービス最大手NAVERの主な事業分野はポータル、コマース、FinTech、コンテンツ、クラウドである。早くからブロードバンドが発達した韓国のポータル市場では、NAVER、Daum(カカオ(kakao))といった国内ポータルサイトの利用率が高いことが特徴的である。NAVERの日本法人(旧NHN Japan)は2012年1月にライブドアを吸収合併し、2013年4月にウェブ・サービス事業のLINEとゲーム事業に会社分割した。2021年3月に、Yahoo! JAPANを展開する日本のZホールディングスとLINEが経営統合を完了した。

「カカオトーク」で急成長を遂げた独立系ベンチャーのカカオがNAVERに次ぐインターネット・サービス大手である。カカオは金融・モビリティ等のサービス領域を拡大しながら成長し、国内で最も利用される総合プラットフォーム・アプリでもある。2022年10月にデータセンター火災により発生したカカオのサービス全面障害は社会的に大きな影響を与えた。政府は事故を契機に、データセンターの保護措置強化と附加通信サービスの安定確保の二局面から制度改善を進めている。科学技術情報通信部では2023年早期にデジタル・サービス安全性強化対策をまとめ、デジタル・サービス安全法制定を進める。

Ⅵ 運営体等

1 運営体

(1)KT Corporation(KT)
Tel. +82 1588 0010
URL https://www.kt.com/
所在地 90 Buljeong-ro(206 Jungja-dong), Bundang-gu, Seongnam-city, Kyeonggi-do, 13606, KOREA
幹部 ク・ヒョンモ/Hyeon-Mo Ku(最高経営責任者/CEO)
概要

1981年に逓信部(Ministry of Communications)から電気通信事業部門を分離し、韓国電気通信公社として発足した後、2002年5月に政府保有株式をすべて売却して完全民営化を果たした固定通信最大手事業者で、2009年6月に移動体通信市場第2位の子会社KTFと合併し総合通信最大手事業者となった。2021年度の売上高は前年比4.1%増の24兆8,980億KRW、営業利益は前年比41.2%増の1兆6,718億KRWである。

民営化20周年を迎え、今後5年間の成長戦略として2022年に未来計画を発表した。2026年までにネットワーク、DigiCO(デジタル・プラットフォーム企業)、ベンチャー・スタートアップ分野に27兆KRWを投資し、デジタル人材育成と同時に2万8,000人を直接雇用する方針が盛り込まれた。電気通信分野には5年間で12兆KRWを投資し、災害復旧センターの首都圏外地域拡大、ネットワーク安定性のため中核サービスの迂回経路拡大、5G/6G等デジタル・インフラ高度化に力を入れる。特に、AI、ロボット、クラウド、メディア、コンテンツ等のDigiCO分野にも12兆KRWを投じて国のDXをけん引する。

出資者の構成(2021年末)
株主 出資比率
国外投資家 43.3%
国内株主 33.9%
自社株  9.7%
国民年金 12.7%
社員持株組合  0.4%

出所:KT

(2)SKテレコム

SK Telecom Co., Ltd.

Tel. +82 2 6100 2114
URL https://www.sktelecom.com/
所在地 Euljiro 65, Jung-gu, Seoul 04539, KOREA
幹部

ユ・ヨンサン/Young Sang Ryu(SKテレコム代表理事社長/President and CEO)

パク・チョンホ/Park Jung-Ho(SKスクエア代表理事社長/President and CEO)

概要

KTの移動体通信部門である旧韓国移動体通信が前身の国内最大の移動体通信事業者である。2021年度の業績は、連結年間売上高が16兆7,486億KRWで前年比4.1%増、営業利益は5GやIPTV加入者増、テレビ・コマース等全領域の成長により前年比11.1%増の1兆3,872億KRWであった。主な系列企業には、半導体大手のSKハイニックス(SK hynix)、固定通信のSKブロードバンドとSK Telink、プラットフォーム・サービスのSKプラネット、インターネット・サービスのSKコミュニケーションズ(SK Communications)等がある。2020年4月にケーブル放送大手Tbroadを買収してSKブロードバンドと合併を完了した。

SKテレコムは企業価値を高めるため、2021年11月にテレコム会社のSKテレコムと半導体・ICT投資会社のSKスクエア(SK square)への会社分割を実施した。会社分割後のSKテレコムは事業分野を固定・移動体通信、メディア、法人、AIVERSE、コネクティッド・インテリジェンスの5分野に再編し安定的な成長を目指す。メタバース・AI半導体・量子暗号を3大Next Big-techと位置付け、2022年から海外展開を本格化する。

2022年11月には、NTTドコモと、メタバース、モバイル・ネットワーク・インフラ、メディア事業における協力を進めるための覚書を締結した。

SKスクエアは傘下にSKハイニックスをはじめ、総合セキュリティのAD CAPS、コマースの11番街、Tmapモビリティ等16社を抱える。半導体やICTプラットフォームへの投資を通じて純資産価値を2021年現在の26兆KRWから2025年には75兆KRWに成長させるビジョンを掲げる。

(3)SKブロードバンド

SK Broadband Co., Ltd.

Tel. +82 2 6266 6114
URL https://www.skbroadband.com/
所在地 SK Nam-San Green Building, 24, Toegye-ro, Jung-gu, Seoul 04637, KOREA
幹部 チェ・ジンファン/Choi Jin-Hwan(社長/CEO)
概要

1997年に設立された市場シェア第2位の固定通信事業者ハナロ・テレコムを前身とする、SKテレコムの100%子会社。音声電話及びブロードバンド、IPTV、ケーブル放送等を提供する固定通信事業者。固定・移動メディア・プラットフォームNo.1企業を目指す。2021年度の売上高は4兆491億KRW、営業利益は2,756億KRW。2020年4月にケーブル放送Tbroadとの合併を完了した。

(4)LG U+

LG Uplus Corp.

Tel. +82 2 2005 7114
URL https://www.uplus.co.kr/
所在地 32, Hangang-daero, Yongsan-gu, Seoul, KOREA
幹部 ファン・ヒョンシク/Hwang Hyeon Sik(代表理事/CEO)
概要

LGグループ内の移動体通信事業者LGテレコムと、固定通信事業者でVoIPとIPTVを提供するLG Dacomとブロードバンドを提供するLGパワーコム(LG Powercomm)の3社が2010年に合併し、現社名となった。2021年度年間売上高は13兆8,511億KRW、営業利益は9,790億KRW。合併以降、既存の通信分野の枠を超えて新市場を作り出す「脱通信」戦略を進めている。2022年には通信基盤ライフスタイル・遊び・成長ケア・Web3.0の四つのプラットフォーム強化を目指す中長期戦略を発表し、2027年までに非通信事業分野の売上げを全体の40%に拡大する目標を掲げた。2019年末にケーブル放送首位のCJハロー(CJ Hello)買収を完了しLGハロービジョン(LG HelloVision)として系列に組み込んだ。

2 主要メーカー

(1)サムスン電子株式会社

Samsung Electronics Co., Ltd.

Tel. +82 2 2255 0114
URL https://www.samsung.com/sec/
所在地 129, Samsung-ro, Yeongtong-gu, Suwon-si, Gyeonggi-do, KOREA
幹部

イ・ジェヨン/Lee Jae-yong(会長/Executive Chairman)

ハン・ジョンヒ/Jong-Hee Han(代表理事副会長/Vice Chairman and CEO)

概要

1969年創立の国内最大手メーカーである。事業部門は、2022年以降、DX(Device eXperience)とDS(Device Solutions)の2部門に再編された。移動電話や通信システム等の既存のIT & Mobile Communications(IM)部門はDX部門に統合された。研究開発組織のSamsung Researchは、海外R&Dセンター及びグローバルAIセンターで抱える1万人以上の研究スタッフと連携して次世代移動体通信等の未来技術開発を主導する。2021年末現在で74か国に進出し、世界で230か所の生産拠点・販売拠点・研究所を保有し、約27万人の社員を抱える。2020年の世界市場での移動電話端末販売台数シェアは第1位である。2021年度の売上高は約280兆KRW、営業利益は約52兆KRWである。

(2)LG電子
Tel. +82 2 3777 1114
URL https://www.lge.co.kr/
所在地 LG Twin Towers 128, Yeoui-daero, Yeongdeungpo-gu, Seoul, KOREA 150-721
幹部 チョ・ジュワン/William Cho(社長/CEO)
概要

1958年に創立され、現在の主な事業領域は、ホーム・エンターテインメント(HE)、生活家電のホーム・アプライアンス&エア・ソリューション(H&A)、ビークル・コンポネント・ソリューション(VS)、ビジネス・ソリューション(BS)の4分野である。2021年7月末付で携帯電話端末事業から撤退した。2021年度の売上高は約75兆 KRW、営業利益は3兆8,638億KRWである。世界の約130か所に事業所を展開する。

3 インターネット・サービス企業

主なポータル企業
事業者 URL
NAVER https://www.navercorp.com/
カカオ https://www.kakaocorp.com/

放送

Ⅰ 監督機関等

1 科学技術情報通信部

(通信/Ⅰ-1の項参照)

2 放送通信委員会(KCC)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

地上放送や総合編成チャンネル、報道専門チャンネル等に対する規制権限はKCCの所掌となる。IPTV、衛星放送等、有料放送事業に関する政策は科学技術情報通信部が所掌する。

3 文化体育観光部(MCST)

Ministry of Culture, Sports and Tourism

Tel. +82 4 4203 2000
URL https://www.mcst.go.kr/
所在地 Government Complex-Sejong, 388, Galmae-ro, Sejong-si 30119, KOREA
幹部 パク・ポギュン/Park Bo Gyoon(長官/Minister)
所掌事務

文化、芸術、宗教、観光、スポーツ、青少年育成等の分野を所掌しており、映像放送産業を含めた全般的コンテンツ産業の振興及び著作権政策を所掌する。

Ⅱ 法令

放送法(Broadcasting Act)

従来、個別に規定されていた放送関連の法律を一本化し、地上放送、衛星放送、ケーブルテレビを包括的に網羅する「放送法」が、2000年3月から施行された。同法によって番組の事前審議(検閲)の廃止、視聴者の権利保護の強化等が定められた。ケーブルテレビ、衛星、IPTVを同一の有料放送サービスとして同一の規制を適用するため、「インターネット・マルチメディア放送事業法(以下、IPTV法)」を「放送法」に統合する、通称統合放送法制定を目指す動きもあるが、2022年末現在、法は統合されていない。現在は主に、有料放送規制の緩和を目的とした法改正が進められている。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)放送事業免許の制度枠組

放送事業者は「放送法」により、地上放送事業者、総合有線放送事業者、衛星放送事業者、放送チャンネル使用事業者、共同体ラジオ放送事業者の5種類に分類され、それぞれ許可・承認・登録のいずれかを受けてからサービス開始が可能となる。放送チャンネル使用事業者とは、番組を編集制作し、放送を行うソフト事業者に相当する。放送事業者及び関連事業者の事業開始に当たっての手続は以下の表のとおりである。

放送事業の許可・承認・登録制度
事業者の種類 手続の手順
地上放送事業者
共同体ラジオ放送事業者
科学技術情報通信部による無線局開設審査結果を反映し、KCCが放送局に許可を付与する。
衛星放送事業者
総合有線放送事業者
中継有線放送事業者
科学技術情報通信部の許可を受ける。KCCの事前同意が必要。
電光板放送事業者
音楽有線放送事業者
伝送網事業者
科学技術情報通信部で登録する。
放送チャンネル使用事業者 総合編成や報道 KCCの承認を受ける。
ショッピング・チャンネル 科学技術情報通信部の承認を受ける。
上記以外 科学技術情報通信部で登録する。

出所:「放送法」を基に作成

2022年6月の「放送法」改正により、有料放送事業者が申告のみで伝送方式を自律的に選択できるようにする「技術中立サービス」の提供根拠が新設され、同年12月施行された。これにより、ケーブルテレビ事業者、IPTV事業者、衛星放送事業者が他事業者の伝送方式を相互使用してサービスを提供することが可能になる。本制度は有料放送事業者に伝送方式選択の自律性を許容し、急速に発展・融合している伝送技術方式を有料放送事業者が自ら選択できることで事業者間の競争を促進することを目的として導入された。

(2)メディア所有規制

2009年7月の「放送法」をはじめとするメディア関連法改正により、新聞社と大企業の放送業界進出が解禁された。法改正により、個人又は一事業者による、地上放送事業者及び総合編成又は報道に関する専門放送チャンネル使用事業者への出資制限が30%から40%に緩和された。新聞社と大企業の出資率については、地上放送は10%、総合編成・報道専門チャンネルは30%までとされた。この「放送法」改正を受けて、2011年末以降、総合編成チャンネル4社(中央日報、朝鮮日報、東亜日報、毎日経済新聞)と報道専門チャンネル1社(聯合ニュース)が開局した。

2022年には放送事業の所有・兼営規制を緩和し業界のM&Aを促進するため「放送法施行令」及びIPTV法施行令が改正された。これにより、地上放送事業者の放送チャンネル使用事業所有規制緩和、総合有線放送事業者と衛星放送事業者の放送チャンネル使用事業に対する兼営制限廃止等が進められた。

(3)外資規制

放送事業者に対する外資規制は「放送法」第14条で以下の表のとおりに定められており、地上放送事業者とラジオ放送事業者は外資を全面的に禁じられている。

2007年4月の韓米FTA合意の結果、放送チャンネル使用事業者への間接投資は100%まで拡大されることになった。ただし、放送・総合編成・ホームショッピング専門の放送チャンネル使用事業者については現状維持とされた。

事業ごとの外資規制
事業区分 外資所有制限
地上放送 禁止
総合有線放送 49%
中継有線放送 20%
衛星放送 49%
放送チャンネル使用事業 総合編成チャンネル 20%
報道専門チャンネル 10%
上記以外 49%
伝送網事業 49%

出所:「放送法」を基に作成

(4)有料放送の市場シェア制限

ケーブルテレビとIPTVに対しては、1社の加入者基準市場シェアを有料放送市場全体の3分の1までに制限している。2015年の「放送法」改正時に3年間の時限措置として、ケーブルテレビ、衛星放送、IPTVの各サービスの加入者数を合わせたシェアを3分の1までに制限する、通称「合算規制」が設けられた。この措置は、IPTVと衛星放送を系列内で保有するKTを念頭に置いたものであった。この制度の延長措置はとられなかったため、「合算規制」は2018年6月末で失効した。

(5)地上放送再送信を巡る課題

再送信義務のある地上テレビ放送チャンネルは公共放送KBS 1と教育放送EBSの二つである。通信事業者のIPTVサービス開始以降、地上放送事業者が有料放送メディアに対して再送信有料化を求めるようになり、有料放送メディアと地上放送事業者間の紛争が多発している。事業者紛争による放送中断事態を防ぐため、2015年末の「放送法」改正により、KCCが紛争事業者に対し、放送の維持・再開を命令できることになった。しかしながら、現在に至るまで契約更新時期のたびに再送信料水準をめぐる紛争が頻発している。

2 公共放送関連政策

(1)公共放送のガバナンス

韓国放送公社(KBS)の設置根拠や運営等のガバナンスは「放送法」により定められている。資本金の3,000億KRWはすべて政府が出資する。最高意思決定機関は、11名の非常任理事で構成される理事会である。理事はKCCで推薦して大統領が任命し、任期は3年である。理事会では、KBSの放送の基本運営計画、予算・決算等の財務関連事項、KBSの経営評価とその公表、定款の変更等を決定する。

執行機関は、社長1名、2名以内の副社長、8名以内の本部長及び監事1名とされており、任期は3年である。社長は理事会の要請により大統領が任命する。副社長と本部長は社長が任命するが、副社長の任命には理事会の同意が必要である。

(2)受信料制度

KBSは「放送法」を根拠に受信料制度を設けており、料額はKBS理事会の審議後、KCCを経て国会の承認を得て決定される。受信料は韓国電力の電気料金と合わせて徴収している。2021年度基準では受信料収入は収入全体の約46%を占める。受信料額は1981年から1か月2,500KRWで据え置かれているため、これまでに受信料値上案が数度にわたり国会に提出されているが、各方面からの反発で挫折を繰り返している。

3 コンテンツ関連政策等

(1)コンテンツ規制及び促進政策

クォーター制度

「放送法」で国内番組編成クォーターの根拠を定め、「放送法施行令」で国内制作番組比率の範囲を定め、KCC告示により媒体及びジャンルごとの具体的な比率を定めている。クォーターには国内制作番組クォーターと輸入番組クォーターの2種類がある。クォーターが適用される番組ジャンルは、映画、アニメ、大衆音楽の3分野である。

(2)OTT、コンテンツ産業支援等

情報通信戦略委員会が2020年6月にまとめた「デジタルメディア生態系発展方案」から、デジタルコンテンツの支援範囲に初めて国内OTT(Over The Top)の成長支援策が盛り込まれた。文化体育観光部が2023年から2027年までのOTT統合支援も含む政策方向を盛り込んだ第6次放送映像産業振興中長期計画を2022年末に発表した。今回の中長期計画ではOTT市場拡大等の環境変化に対応するため、放送映像コンテンツの競争力を強化することが目的に掲げられる。

科学技術情報通信部は関係省庁と共同で「デジタルメディア・コンテンツ産業革新及びグローバル戦略」をまとめ、今後OTT/メタバース/クリエイター・メディアの3大デジタル放送プラットフォームを集中育成する方針を2022年11月に発表している。

(3)放送規制の改善

放送通信委員会が2021年1月、時代に合わなくなった放送市場規制改善のため「放送市場活性化政策方案」を発表した。この政策パッケージには、広告や番組編成等の規制緩和に加え、国内OTT活性化、弱者層のメディア・アクセス環境改善、コンテンツ取引慣行改善等が盛り込まれた。これを受けた措置として、2021年4月の「放送法施行令」改正により、地上放送番組への中間広告解禁と番組編成規制緩和が実行された。尹錫悦政権でも国政課題である「グローバル・メディア強国実現」に向けてメディア産業全般の規制革新を進める。2022年中は第1弾として放送事業の所有・兼営規制大幅緩和等が進められた。

(4)コンテンツ使用料を巡る課題

放送コンテンツ使用料水準を巡る、有料放送事業者とコンテンツ・プロバイダであるチャンネル提供事業者間の紛争が近年多発している。科学技術情報通信部は2021年7月から、有料放送業界共存協議体で業界内での問題解決に向けて議論を開始した。コンテンツ使用料算定基準については関連ガイドライン改定、今後政府が「標準チャンネル評価基準及び手続」を提示すること等が提案された。事業者間協議過程で放送中断等の視聴者被害が発生する場合は是正命令等の措置で対処する方針である。放送チャンネル使用料算定制度改善方策については議論が継続されている。

4 デジタル放送

地上デジタル放送の伝送方式では米国方式のATSCが採用され、2001年10月、商業放送のSBSを手始めに、アジア初の地上デジタル放送が開始された。アナログ放送終了は当初2010年末であった予定を2012年に延期している。また、2012年12月31日に全国一斉終了の計画は、準備ができた地域からスケジュール前倒しで順次アナログ放送を終了する計画に変更された。その後は、地デジ移行は混乱することなく2012年末で終了している。

5 次世代高画質放送

未来創造科学部(当時)は2013年4月、高画質3D放送とUHD(4K、8K)放送等の次世代放送技術の早期導入と世界市場リードを目指し、次世代放送技術評議会を立ち上げた。ケーブルテレビは2014年4月、IPTVは2014年9月、衛星放送は2015年6月から4K本放送を開始した。更に、世界に先駆けた地上4K放送導入のため、2015年に700MHz帯がUHD放送用途に分配され、地上UHD放送標準方式は2016年に米国方式(ATSC3.0)に決定された。

世界初となる地上4K本放送は2017年5月末に首都圏、同年12月に広域市及びピョンチャン冬季五輪開催地域で開始されており、2021年に全国に拡大する計画であった。しかしながら、もともと地上波の直接受信世帯がテレビ保有世帯の5%以下と少ないことに加え、広告収入減に歯止めがかからず財政難の地上放送事業者が、地上4K放送コンテンツやインフラ投資等の免許条件を順守できないことが問題化した。KCC及び科学技術情報通信部ではこれらの環境変化や今後の見通しを踏まえ、2020年12月にまとめた「地上波UHD放送の活性化に向けた政策案」により地上波UHD放送政策を見直した。これにより、首都圏・広域市レベルまで構築された地上波UHD放送網の市・郡地域への全国拡大スケジュールを2023年までと2年延期した。このほかに、UHDコンテンツの編成義務化、視聴者のアクセシビリティ向上、サービスの活性化等の取組みが盛り込まれたが、地上4K放送を取り巻く状況は相変わらず厳しい。

Ⅳ 事業の現状

KCCが毎年度まとめる放送事業者財産状況によると、2021年度の放送事業収益は前年比7.4%増加の19兆3,502億KRWである。2019年以降は年間売上でIPTVが地上放送を上回っている。

1 ラジオ

KBSが7系統、MBCが3系統、EBSが1系統のサービスを提供している。また、SBSの2系統のほか、地方テレビ放送事業者のTBC、KBC等もサービスを提供している。2020年末現在、テレビ・チャンネルを持たずにラジオ・チャンネルのみ運営するラジオ放送事業者数は20社で、テレビとラジオ両方のチャンネルを運営する事業者数は30社である。

2 テレビ

地上テレビ放送事業者数は、地域民放を含めて30社である。このうち、公共放送についてはKBSが2系統、EBSが1系統の全国放送を行っている。また、公営放送としてMBCが1系統の全国放送を行っている。商業放送では、首都でサービスを提供している地域放送事業者のSBSが、地方の商業放送事業者とネットワークを結成して全国放送を行っている。

3 衛星放送

総合通信事業者KTの子会社であるKTスカイライフ(KT Skylife)が2002年3月から「スカイライフ」のサービス名でデジタル衛星放送を提供している。2022年9月末現在の衛星放送サービス加入世帯数は374万で、このうち4K放送加入世帯数は168万である。2020年10月にMVNOサービスを開始した。また、2021年に大手ケーブル放送事業者現代HCNの買収を完了した。

4 ケーブルテレビ

2020年末現在のケーブルテレビ事業者(SO)数は90社で、加入数200万を超える大手総合有線放送事業者(MSO)は、LGハロービジョン、SKブロードバンド(旧Tbroad)、D’LIVEで、業界最大手はLGハロービジョンである。ケーブルテレビは通信事業者のIPTVに押されて加入数が停滞している。2021年12月末現在の加入数はケーブルテレビが約1,288万、IPTVが1,989万である。

2019年以降に通信事業者によるケーブルテレビ大手の買収を通じた有料放送業界再編が進行中である。2020年上半期までにケーブルテレビ第1位(LGハロービジョン)と第2位(SKブロードバンド)の買収が完了し、2021年には業界第5位の現代HCNのKTスカイライフによる買収が完了した。業界第3位のD’LIVEと第4位のCMBも売却先を探している。

5 OTT

グローバルOTTに対抗するため国内OTTの再編とリニューアルが進んでいる。国内OTTの2強とされるのが「wavve」と「Tving」である。SKテレコムのサービス「オクスス」と地上放送事業者3社の「POOQ」が統合され、国内最大のOTTサービスwavveとして2019年9月にサービスを開始した。メディア・コンテンツ最大手CJ ENMは自社のOTTサービスTvingを2020年10月に分社した。2022年12月にTvingがKTのOTTサービス「Seezn」を吸収合併し、国内勢ではwavveを規模で上回る最大手OTTとなった。

Ⅴ 運営体

1 韓国放送公社(KBS)

Korean Broadcasting System

Tel. +82 2 781 1000
URL https://www.kbs.co.kr/
所在地 13 Yeouigongwon-ro, Youngdungpo-gu, 07235 Seoul, KOREA
幹部 キム・ウィチョル/Kim Eui-chul(社長/President and CEO)
概要

政府出資の特殊法人である。主な財源は受信料収入と広告収入である。四つの地上テレビ放送チャンネル(KBS 1、KBS 2、UHD 1、UHD 2)、二つの衛星放送チャンネル(KBS World、KBS World24)、七つのラジオ・チャンネルを運営している。このほかに、地上DMBで四つのチャンネルを提供している。KBS 1は報道・時事・スポーツ・教養・ドキュメンタリー、KBS 2は家庭・芸能・娯楽を中心に番組を編成する。KBS 1テレビとKBS 1ラジオ放送では1994年10月以降広告を廃止している。

2 文化放送(MBC)

Munhwa Broadcasting Corporation

Tel. +82 2 789 0011
URL https://www.imbc.com/
所在地 267 Seongam-ro, Mapo-gu, Seoul, 03925, KOREA
幹部 アン・ヒョンジュン(代表理事社長/President and CEO)
概要

16の系列局によって全国ネットワークを運営し、政府出資の財団である放送文化振興会が株式の70%を所有する、株式会社形態の公営放送事業者である。現在運用中のチャンネル数は、地上テレビ1、AM及びFMラジオ3、ケーブル5、衛星5、地上DMB 4である。最高意思決定機関は放送文化振興会の理事会で、理事会を構成する9人の理事はKCCにより任命される。

3 SBS

Tel. +82 2 2061 0006
URL https://www.sbs.co.kr/
所在地 161 Mokdongseo-Ro, Yangcheon-gu, 07996 Seoul, KOREA
幹部 パク・ジョンフン/Park Jeong Hun(代表理事社長/President and CEO)
概要

ソウルの商業ローカル放送事業者。1991年にAMラジオ放送・テレビ放送を、1996年にはFMラジオ放送を開始した。地方の放送事業者とネットワークを組むことで、実質的に全国放送を行っている。

4 韓国教育放送公社(EBS)

Educational Broadcasting System

Tel. +82 2 526 2300
URL https://www.ebs.co.kr/
所在地 281, Hallyuworld-ro, Ilsandong-gu, Goyang-si, Gyeonggi-do, 10393, KOREA
幹部 キム・ユヨル/Kim Yu-yeol(社長/President and CEO)
概要

1951年に開始されたKBSのラジオ学校放送を起源とする。1990年に韓国教育開発院付設教育放送としてKBSから分離し、テレビとラジオのチャンネルを持つ教育専門全国ネットワーク局EBSに改組された。1997年に衛星教育放送を開局し、2000年に公社に改組された。

電波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

(1)科学技術情報通信部

(通信/Ⅰ-1の項参照)

(2)放送通信委員会(KCC)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

電波政策については、2013年の朴槿恵政権発足に伴う省庁再編により政策機能が3機関に分散された。電波政策総括と通信周波数管理は科学技術情報通信部、放送周波数管理はKCC、新規周波数割当・再編は国務総理傘下の周波数審議委員会で所掌する。

2 標準化機関

韓国情報通信技術協会(TTA)

Telecommunications Technology Association

Tel. + 82 31 724 0114
URL https://www.tta.or.kr/
所在地 47 Bundang-ro, Bundang-gu, Seongnam-city, Gyonggi-do, 13591, KOREA
幹部 チェ・ヨンヘ(会長/President)

活動概要

1988年に設立された韓国情報通信技術協会(TTA)は、「放送通信発展基本法」に基づき、情報通信分野の標準規格の策定を行っている。TTAのメンバーには、通信事業者、サービス・プロバイダ、機器メーカー、学界、研究機関等が含まれる。TTAの活動目的は国内外の最先端技術を標準化することで、韓国経済の発展、情報通信分野の産業振興、技術優位性に寄与することにある。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 周波数割当制度

韓国では、対価割当方式と審査方式の二つの周波数割当方法が採用されてきたが、2011年からはこれに加えてオークション制度が導入された。事業者から出捐金を徴収する形の対価割当方式はこれまでに、IMT-2000(3G)、位置情報サービス(LBS)、衛星DMB、WiBroといった経済的価値が高く競争的需要があると判断された周波数の割当ての際に採用されてきた。割当対価は、周波数の割当てを受けて経営する事業の予想売上額、割当対象周波数及び帯域幅等の周波数の経済的価値を考慮して科学技術情報通信部が決定する。2011年からは、競争的需要がある場合には周波数オークションを実施し、競争的需要のない場合や特別な事情のある場合は対価割当方式を採用する。

2020年11月には、科学技術情報通信部が2021年に利用期間が終了する3G及び4Gの移動通信用周波数の再割当にかかわる利用期間及び割当対価等を定めた「移動通信周波数再割当の細部政策方案」を発表した。

現在の市場環境が4Gから5Gへの転換途上であり、通信事業者の周波数利用戦略に対する不確実性が増加していることを考慮し、市場の不確実性を解消し、5G転換を促進できるよう、周波数利用期間については、サービス・ライフサイクル分析に基づき弾力的な利用期間を設定するとともに、周波数割当対価は5G導入による市場環境、5G投資等を考慮した適正な対価を設定することにしたとしている。周波数割当対価については、5Gへの転換期であることを考慮した結果、5G無線局の構築水準によって割当対価を設定することが、再割当対象周波数の経済的価値を最もよく反映できると判断し、2022年までの5G基地局の構築数が多いほど割当対価が下がる仕組みとしている。

 2022年までキャリア3社ごとに5G基地局の数が12万局以上(キャリア3社が共同で構築した無線局を含む。以下同じ)の場合は、3兆1,700億KRW(キャリア3社の合計額。以下同じ)、10万局以上~12万局未満の場合は3兆3,700億KRW、8万局以上~10万局未満の場合は3兆5,700億KRW、6万局以上~8万局未満の場合は3兆7,700億KRWを適用。

一方、審査方式は、①電波資源利用の効率性、②申請者の財政能力、③申請者の技術的能力、④当該周波数の特性やその他周波数利用に必要な事項、の観点から審査が行われ、周波数割当が実行される。

対価割当及びオークションによる収入は、「放送通信発展基本法」による放送通信発展基金(科学技術情報通信部・KCC管理)と、「情報通信産業振興法」による情報通信振興基金(科学技術情報通信部管理)に編入される。現在二つに分かれているこれらのICT分野基金を情報通信放送発展基金として再編・一本化し、重複事業も今後見直す方針が2019年10月に発表されたが、2022年11月現在、二つの基金の統合は実現していない。

2 無線局免許制度

無線局を開設する場合は、原則、許可が必要である。ただし、移動電話用無線局等は、許可を受けたものとみなされる。また、発射する電波が弱い無線局、受信専用の無線局、又は、周波数割当を受けた者が電気通信役務を提供するために開設する無線局の場合は、届出で済む。更に、発射する電波が微弱の無線局であって、大統領令が定める無線局の場合は、届出なしに開設できる。軍や駐韓外国公館等が周波数使用承認を得た場合は、許可や届出をせずに無線局を開設できる。

3 電波振興基本計画の策定

「電波法」により5年ごとに中長期的電波政策ビジョンを示す「電波振興基本計画」が策定される。科学技術情報通信部は2019年1月、2023年までの今後5年間の「電波振興基本計画」をまとめ、四つの戦略の下に11課題を設定した。今回の基本計画ではこれまでの通信・放送事業者中心の政策を見直し、交通・製造・物流・医療等の多様な電波利用対策に重点を置いている。5Gについては2510MHz幅の周波数追加方針が示された。

更に「電波振興基本計画」を受け、①周波数免許制度一本化、②無線局開設運用の事前規制緩和、③周波数割当対価と周波数利用料を周波数免許料に一本化、④電磁波安全情報センター設置根拠を盛り込んだ「電波法」改正案を2019年11月に立法予告したが、2022年末現在、同法は未改正である。

4 新たな周波数分配

(1)中長期周波数総合計画と5Gへの周波数追加供給

2017年1月の第1回経済関係閣僚会合で、第4次産業革命に対応する中長期周波数総合計画として「K-ICTスペクトラム・プラン」がまとめられた。同プランでは今後10年間で合計40GHz幅の周波数を確保・供給する。5G用周波数帯分配計画方針も初めて盛り込まれた。5G用には2018年までに28GHz帯で最少1000MHz幅、3.5GHz帯で300MHz幅の合計1300MHz幅以上の新規周波数を確保する計画が盛り込まれた。

その結果、5G用途周波数として2018年にオークションで計2680MHz幅が割り当てられた。このときのオークションで除外扱いとされた3.4GHz帯20MHz幅は2022年7月に単独入札したLG U+に割り当てられた。

一方、移動通信3社は5G用28GHz帯の免許条件で定められたネットワーク構築基準を満たせなかった。科学技術情報通信部は5G周波数割当条件履行点検の結果、28GHz帯について、KTとLG U+は割当中止、SKテレコムは利用期間短縮という前例のない厳しい処分を決定した。割当中止となる2社の帯域のうち1帯域については新規参入を進める方針であり、新規参入促進方策と残りの帯域1枠についての政策方針も2023年初めにまとめられる見通しである。

「5G+戦略」(通信/Ⅲ-4(5)の項参照)を受けて2019年11月に科学技術情報通信部がまとめた「5G+スペクトラム・プラン」では、5G用途周波数として2026年までに最大2640MHz幅を発掘し、現在の倍の5320MHz幅に拡大する計画を盛り込んだ。同時に、次世代Wi-Fi用に6GHz帯の免許不要帯として開放する計画も盛り込まれ、2020年10月の周波数審議委員会で6GHz帯開放が最終的に決定した。

(2)700MHz帯の活用

地デジ移行跡地の700MHz帯の用途決定を巡り、通信業界と放送業界の綱引きが長らく続いたが、2015年に決着がついた。2014年11月に国家災難安全通信網に700MHz帯の20MHz幅分配が決定された。残りの用途決定については2015年に国会が介入する形となり、UHD放送30MHz幅、通信40MHz幅で分配された。

5 電波監視体制

電波監視は科学技術情報通信部傘下機関の中央電波管理所(Central Radio Management Office)が行う。中央電波管理所は電波監視のほか、無線局許可及び電波利用料徴収、周波数利用環境調査、不法機器・設備の取締り、通信事業者の登録・届出・監督等を行う。全国10か所の分所と京畿道利川市の衛星電波監視センターで構成される。

6 電波利用料制度

日本と同様に、無線局施設者に対する電波利用料制度があり、四半期ごとに利用料を徴収する。電波利用料収入は「電波法」により、電波監理に必要な経費の充当と電波関連分野振興のために利用することとされている。電波利用料は一般財源である。

Ⅲ 周波数分配状況

1 国家周波数計画

2 周波数オークション

周波数割当方法として2011年からオークション方式が導入され、2018年までに計4回のオークションが実施された。これまでに実施されたオークションは既存移動体通信事業者3社を対象とし、次の帯域を割り当てた。

2016年のLTE周波数追加を目的としたオークションではこれまでで最多の5ブロック、合計140MHz幅を対象とした。KTが1.8GHz帯、LG U+が2.1GHz帯、SKテレコムが2.6GHz帯の計80MHz幅を確保したが、700MHz帯(40MHz幅)は買い手が付かずに流札となった。2018年6月に実施された5G用周波数オークションでは、3.5GHz(280MHz幅)/28GHz(2400MHz幅)を対象とし、既存3社がそれぞれの帯域を落札した。しかしながら、28GHz帯については既述のとおり(Ⅱ-4(1)の項参照)、3社が2021年までの装置構築に関する免許条件を達成できなかったため、2022年12月に、KTとLG U+が割当取消し、SKテレコムが利用期間短縮の処分が行われた。

3 移動体通信新規参入

3社体制の移動体通信市場への第4の移動体通信事業者新規参入が2016年までに7回にわたり試みられてきたが、頓挫を繰り返してきた。以降、移動体通信市場新規参入計画は保留されてきたが、2022年11月のKTとLG U+の28GHz帯割当取消処分と同時に、このうち1枠の28GHz帯について新規参入を進める方針が発表された(Ⅱ-4(1)の項参照)。

4 ローカル5Gの導入

28GHz帯有効活用とBtoB分野5G促進をねらいとして2021年から新たにローカル5Gに相当する「5G特化網」制度(通称:イウム(e-Um)5G)が導入された。4.7GHz(100MHz幅)/28GHz(600MHz幅)を活用する5G特化網制度ではネットワークの構築主体とサービス提供対象により免許は3タイプに分類される。2022年末現在、9者が周波数割当、9者が周波数指定を受けている。

5 周波数譲渡及びリース制度

韓国では周波数譲渡及びリースの実績はない。電波資源利用の効率性向上のため、周波数譲渡・リースについての承認取消制度、衛星周波数の譲渡及びリース承認制度等が2015年の「電波法」改正により導入された。

6 周波数共用

5Gやスマートシティ等の融合サービス提供のため周波数需要の急増が見込まれる。このような背景から科学技術情報通信部は周波数共用を進めるため、具体的な手続等を盛り込んだ告示「周波数共同使用範囲と条件、手続、方法等に関する基準」を2019年12月に制定した。