ネパール連邦民主共和国(Federal Democratic Republic of Nepal)

通信

Ⅰ 監督機関等

1 通信情報技術省(MoCIT)

Ministry of Communications and Information Technology

Tel. +977 1 4211556
URL https://mocit.gov.np/
所在地 Singh Durbar, Kathmandu, NEPAL
幹部 Gyanendra Bahadur Karki(大臣/Minister)
所掌事務

電気通信分野における政策策定のほかに、先進技術の導入促進、国際市場におけるネパールのプレゼンス向上活動、周波数管理等を所掌する。2015年に旧情報通信省(Ministry of Information and Communications:MOIC)からMoCITに名称変更した。

2 ネパール電気通信庁(NTA)

Nepal Telecommunications Authority

Tel. +977 1 5355474
URL https://www.nta.gov.np/
所在地 Kantipath, Jamal, Kathmandu, G.P.O. Box No. : 9754, Kathmandu, NEPAL
幹部 Purushottam Khana(長官/Chairman)
所掌事務

「1997年電気通信法(Telecommunication Act, 1997 A.D.)」の施行により1998年に設立された独立規制機関で、主な所掌は以下のとおりである。

Ⅱ 法令

1 1997年電気通信法(Telecommunication Act, 1997 A.D.)

電気通信分野の多様なサービス提供や、NTAの設立等を規定する。2001年に改正されている。

2 1957年電波法(Radio Act, 1957 A.D.)

無線機器(Radio Machine)の保有、製造及び使用に関する免許の発行、料金等を規定している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

電気通信事業免許は、①基本通信サービス(Basic Telecommunications Services)、②移動体通信サービス(Cellular Mobile Services)、③ルーラル通信サービス(Rural Telecommunications Services)及び④その他付加価値サービスに区分される。このうち、付加価値サービスの免許数制限はない。2021年現在、各種免許を取得した事業者総数は200件に達している。

なお、2012年1月に政府の法案委員会は電気通信法の改定を承認し、すべての電気通信事業者やISPの免許の有効期限が5年から10年へ延長された。

免許付与状況(2021年11月現在)
免許区分 免許取得事業者(数)
基本通信サービス
  • ネパール・テレコム(Nepal Doorsanchar Company Limited:NDCL)
  • Nepal Satellite Telecom Pvt. Ltd.(NSTPL)
GSM移動体通信
サービス
  • NDCL
  • Ncell Axiata Limited
ルーラル通信サービス
  • C. G. Communications Pvt. Ltd.
その他サービス ネットワーク・サービス・プロバイダ(20)、VSATユーザ(8)、GMPCS(2)、国際トランク電話(1)、ルーラルVSATユーザ(26)、基本電話サービス(2)、ルーラルISP(3)、インターネット電子メール(133)

出所: https://nta.gov.np/en/licensee-list/

2 競争促進政策

(1)自由化

政府は「1999年電気通信政策(Telecommunications Policy, 1999)」によって、すべての電気通信サービス分野に民間事業者を参入させ、競争を導入している。

2003年にはFWA技術を利用するUTLが基本電話サービス市場に参入し、2004年にはSNPL(現Ncell)がセルラー移動体通信免許を付与された。

(2)ネパール・テレコムの民営化

ネパール民営化委員会(Privatization Committee of Nepal)の下、国営事業者ネパール・テレコム(Nepal Telecom:NDCL)の民営化が進められ、2004年にネパール電気通信公社(Nepal Telecommunications Corporation:NTC)から、株式会社組織のNDCLとなった。同社株式は政府が91.49%、従業員及びその他一般株主はそれぞれ4.68%、3.83%を保有しているが、政府は同社株式の持分を最終的に51%まで引き下げる予定としており、2021/22年度予算で22%を売却することを検討している。

3 情報通信基盤整備政策

(1)ユニバーサル・サービス

NTAは、ユニバーサル・サービスを実現するための資金として、ルーラル電気通信開発基金(Rural Telecommunications Development Fund:RTDF)を設立し、ISPを含むすべての免許保有者に年間売上高の2%を基金へ納付するよう義務付けている。

(2)ナショナル・ブロードバンド・ポリシー2014

ネパール政府は2014年11月、「ナショナル・ブロードバンド・ポリシー2014(National Broadband Policy 2014)」を公表した。主な目標として、2018年までにブロードバンドの世帯加入率を30%に引き上げることや、70%の農村にブロードバンドを整備すること、20%の公立高校に1Mbps以上に達するアクセス・サービスを提供すること等が盛り込まれている。

(3)ICTプロジェクトの実施

NTAは2015年8月、RTDFから、現行会計年度について14億8,000万NPRを支出し、下記四つのICTプロジェクトを実施する計画を承認した。この計画に対する支出総額はRTDF全体の14%強に及ぶものである。

4 ICT政策

(1)NTA10か年マスタープラン(2011~2020年)

NTAが策定した10年にわたるICT政策の方針を示した長期計画で、ユニバーサル・サービス・アクセスの整備や生活水準の向上へ向けたICTの活用、ICTを有効に活用するための人的資源開発等が含まれている。代表的な取組みとして、サイバーセキュリティの強化、MNPの導入、全国ブロードバンド網の展開、対災害早期警戒システムの導入、災害時における通信網の早期復旧を実現するための災害対策計画の策定等がある。

(2)2019 年デジタル・ネパール・フレームワーク

MoCITは、2019年5月、ネパールのデジタル戦略をまとめた「2019年デジタル・ネパール・フレームワーク」(Digital Nepal Framework)を発表した。インターネットの普及とモバイル・ブロードバンドを活用し、8分野(デジタル基礎、農業、医療、教育、エネルギー、観光、金融、都市インフラ)におけるデジタル化を推進し、ネパールの経済成長と社会厚生の増進を図るとしている。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

ネパール規格評議会(Nepal Council Standards:NCS)が品質、規格、検査、計測にかかわる国家規格の策定・改正を行っている。また、NCSを監督する機関として、商工供給省(Ministry of Industry, Commerce and Supplies)の下にあるネパール標準計量局(Nepal Bureau of Standards and Metrology:NBSM)が、国家規格の案出、製品認証マークの管理、検査施設・測定認定サービスの提供、製品品質に関する消費者意識向上プログラムの実施等の業務を行っている。標準化活動に関する根拠法は、1980年に採択された「ネパール標準(認証マーク)法(Nepal Standard(Certification Mark)Act)」である。

Ⅴ 事業の現状

1 固定電話

NDCLが固定電話サービスを提供しており、NTAによれば、2021年9月現在、固定電話加入者数は81万2,118。内訳は、PSTN加入者が54万6,805、WLLが11万7,625、FTTH経由音声が14万7,602、VSATが86である。

国際通信には、主にインテルサット衛星が利用されている。また、2021年11月現在、NTAは山岳地帯を中心にルーラル地域の電気通信基盤の整備を行うため、26社にルーラル・エリアでのVSATの免許を付与している。

2 移動体通信

移動体通信サービスは既存事業者のNepal Doorsanchar Company Limited(NDCL)、Ncell、Smart Telecom(STPL)がサービスを提供している。NTAによれば、2021年9月現在、移動電話の加入者数は、GSM・CDMAが3,999万4,000、4Gが1,217万である。

NDCLは1999年以降、GSM、CDMA2000 1x、W-CDMA HSDPA方式の移動電話サービスを順次開始し、2005年9月にGSM900/1800方式による商用サービスを開始したSNPLは、2010年3月よりNcellのブランド名に変更してサービスを提供している。2012年にGSM免許を取得したSTPLは、東部を除く地域においてネットワークを構築し、2015年以降サービスを提供開始した。

移動電話の加入者数(内訳)(2021年9月現在)
事業者 GSM CDMA 3G 4G
NDCL 20,824,643 320,943 10,212,726 6,268,039
Ncell 16,489,679 2,435,275 5,725,780
STPL 2,359,272 176,686

出所:NTA MIS Report

2002年9月には衛星経由の移動電話サービスも可能となり、2021年9月現在のGlobal Mobile Personal Communications System(GMPCS)事業者は2社で、加入者合計は2,986である。

3 インターネット

1995年にインターネット接続サービスが開始され、サービスの方式は、ダイヤル・アップのほかに、ADSL、モバイル・インターネット(GPRS、W-CDMA、CDMA 1x EVDOなど)、WiMAX、ケーブルモデムなどがある。NTAによれば、2021年9月現在の加入者総数は3,345万8,900に達している。

主な固定ブロードバンド加入者数(内訳)(2021年9月現在)
有線/無線 サービス 事業者
NDCL その他ISP
有線 ADSL 661,606 661,606
ケーブル/FTTH 679,613 6,951,950 7,631,563
インターネット専用線 1,211 1,211
無線 無線(Wi-Fi) 118,862 118,862
WiMAX 90,587 90,587

出所:NTA MIS Report

Ⅵ 運営体

ネパール・テレコム(NDCL)

Nepal Doorsanchar Company Limited

Tel. +977 1 424 6034
URL https://www.ntc.net.np/
幹部 Dilliram Adhikari(社長/Managing Director)
概要

基本電話サービスのほか、インターネット・サービス、移動体通信サービス等を展開している。前身は、1975年に国営事業者として設立されたNepal Telecommunications Corporation。2004年にNepal Doorsanchar Company(ブランド名:ネパール・テレコム)に改編された。

放送

Ⅰ 監督機関等

通信情報技術省(MoCIT)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

所掌事務

放送、出版等のメディア規制を所掌する。

Ⅱ 法令

1 1993年国家放送法(National Broadcasting Act 1993)

2001年、2006年、2010年に改正された。衛星放送、ケーブルテレビ及びFM放送に関する免許付与や地球局設置基準、事業者の義務や禁止事項、民間事業者の参入条件等を規定する。

2 1995年放送規則(National Broadcasting Regulation 1995)

1993年放送法の施行令。

3 ネパール・テレビジョン規則(Nepal Television Regulations

地上テレビに関する法令。

Ⅲ 政策動向

2005年2月、ギャネンドラ国王(当時)が反政府武装勢力である毛沢東主義派(マオイスト)との平和交渉や総選挙準備の失敗を理由に、報道や表現の自由を大幅に制限したが、その後、2006年4月、民主化運動の結果、新政府は国王の発布した「コミュニケーション関連諸法令修正の布告(通称「メディア布告」)」を破棄。2019年にMoCITによりメディア規制機関を新設する法案が、また、国営放送を公共放送へ移行する公共放送(PSB)法案が、2020年6月に議会に提出されている。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

ラジオの世帯普及率は約87%となっている。国営放送のラジオ・ネパール(Radio Nepal)がAMで全国向けに総合編成1系統のサービスを行っており、1995年にはFM放送も開始した。1999年以降、VSATを利用して番組伝送が行われるようになった。また、2006年5月より、ネパール軍による全国向けのFM放送も開始されるようになった。

2 テレビ

国営放送ネパール・テレビジョン(NTV)による地上1系統の全国放送と首都圏向け1系統(NTV Plus)がある。このほかに、ネパール最大のメディア企業グループKantipur Media Group(KMG)傘下の地上商業テレビKTV(Kantipur TV)と2003年にサービスを開始したImage Group of Companies(IGC)がそれぞれ1系統を提供している。

電力の普及の遅れや山岳地帯という地理的条件により地上テレビが視聴可能な人口は全体の70%程度である。

3 衛星放送

サテライト・チャンネル(Satellite Channel)が、Dish Home TVの名称でサービスを提供している。チャンネル数は約200。そのほか、Sagarmatha TV、NTV、KMG、IGC等が衛星放送チャンネルを提供している。

4 ケーブルテレビ

STN(Space Time Network)が最大手事業者で、首都圏のケーブルテレビ市場シェアの5割以上を占める。シャングリラTV(Shangri-La TV)がそれに次ぐほか、Subisu Cablenetが2014年からデジタル・ケーブルテレビ・サービスを提供している。

Ⅴ 運営体

1 ラジオ・ネパール

Radio Nepal

Tel. +977 1 4211910
URL https://radionepal.gov.np/
幹部 Buddhi Bahadur K.C.(局長/Executive Director)
概要

1951年に設立された国営放送事業者で、財源は広告収入と政府交付金である。現在、サービス提供中の短波放送は、ネパール全土、中波放送及びFMは人口の70~80%をカバーしている。1日18時間の放送を行っており、2006年12月以降、ラジオ番組のインターネット配信も開始した。

2 ネパール・テレビジョン(NTV)

Nepalese Television Corporation

Tel. +977 1 4200348
URL https://ntv.org.np/
概要

1985年に放送を開始した国営放送事業者で、財源は広告収入と政府交付金であり、局長を含む幹部全員がMoCITによって指名される。放送は世界50か国以上、国内の人口の72%に発信されている。

電波

Ⅰ 監督機関等

1 通信情報技術省(MoCIT)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

電気通信分野を所掌する主要政策担当官庁。電波政策の制定、周波数管理等を主管するのは、同省の周波数管理・技術分析課(Frequency Management and Technology Analysis Division)であるが、実際の周波数政策及び周波数分配の決定については、「1997年電気通信法」第49条において、MoCIT大臣を委員長とし、内務省次官、国防省次官、観光・公共事業省次官、MoCIT次官、NTA長官により構成される周波数政策決定委員会(Radio Frequency Policy Determination Committee:RFPDC)が決定機関である旨、規定されている。

2 ネパール電気通信庁(NTA)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

「1997年電気通信法」第3条により1998年に設立された独立規制機関で、電気通信事業に対する免許付与、事業者からの免許料等の徴収、通信機器・無線機器の基準認証、標準化、電気通信技術の研究開発、周波数関連業務、電気通信業務の人材育成等を所掌する。なお、周波数に関する業務は、RFPDCの決定に従うことが規定されている。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理政策の概要

周波数政策、周波数分配、周波数料金、国際協調に関する政策事項は、MoCIT大臣を委員長としたRFPDCが決定する。無線設備の保有・利用に関する無線局免許のほか、無線機器の製造・販売に関しても免許の取得が求められる。また、周波数利用の監視はNTAが実施する。

2 無線局免許制度

電気通信事業者への免許の付与はNTAが所掌する。「1957年電波法」及び「1992年制定の無線通信(免許)規則(The Radio Communication (License) Regulation, 2049 (1992))」では下記を除くすべての無線設備の設置・使用に免許が必要である旨が規定されている。

なお、免許の取得には免許料の納付が義務付けられている。無線関連の主な事業免許料は以下のとおりである。

主な事業免許料(2021年現在)(単位:1,000NPR)
免許種類 取得料 更新料
VSATネットワーク事業者 2,500 2,250
VSATユーザ 50 45
無線呼出ネットワーク 1,250 1,125
無線呼出ネットワーク(東部・中部開発地域(カトマンズを除く) 500 450
無線呼出ネットワーク(カトマンズ) 500 450
無線呼出ネットワーク(西部開発地域) 300 270
無線呼出ネットワーク(中西部・西部遠隔地域) 200 180
無線呼出ネットワーク(村落開発地域) 75 67.5
無線呼出ネットワーク(その他地域) 250 225
トランク移動無線 125 112.5
GMPCS 1,500 1,400

出所:NTA資料

2012年11月、政府は「ネパール電気通信無線周波数(分配及び料金設定)政策2069 B.S.(Nepal Telecommunications Radio Frequency(distribution and pricing)Policy 2069 B.S.)」を発表し、3G及び4G等の新しいサービスと基本サービスの周波数分配と周波数料金について設定した。

3 周波数割当制度・電波再分配制度

事業者が限られた資金を事業投資に集中できるように、周波数の分配はオークション方式ではなく、MoCITの審査により実施されているが、2021年7月に「国家周波数戦略案」が公表され、2022年7月~2023年7月に700MHz帯、2.3GHz帯、2.6GHz帯のオークションを実施し、2024年7月~2025年7月に3.6GHz帯のオークションを実施することが提案されている。また、同戦略案では、2.3GHz帯及び2.6GHz帯を5G用の主要帯域と位置付けるが、5G技術・市場の成熟までLTEへの割当てを検討するとしている。そのほか、2022年に850MHz帯のCDMAへの割当て、2.6GHz帯の固定衛星(Fixed Satellite Service:FSS)への割当てが提案されている。

なお、周波数を含む通信免許の譲渡に関しては、事前にNTAの承認が必要である。

4 電波利用料制度

電波利用料は事業者の年間売上高に一定の割合を乗じて徴収され、NTAの運営資金に充てられている。

5 電波の安全に関する基準

NTAは、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインを基準に、送信アンテナからの電波強度を制限するガイドライン案(NTA Guidelines on Erection of Antenna Structures and Protection from Non-Ionizing Radiation from Radio Base Stations)に関して、2010年2月から一般からのコメント募集を実施した。