フィリピン共和国(Republic of the Philippines)

通信

Ⅰ 監督機関等

1 情報通信技術省(DICT)

Department of Information and Communications Technology

Tel. +63 2 8920 0101
URL https://dict.gov.ph/
所在地 C. P Garcia Ave., Diliman, Quezon City, Metro Manila 1101, PHILIPPINES
幹部 Ivan John E. Uy(大臣/Secretary)
所掌事務

2016年6月の「共和法第10844号」に基づき設立された。情報通信技術局(Information and Communications Technology Office:ICTO)や国際コンピュータセンター(National Computer Center:NCC)といった機関がDICTに統合されたほか、電気通信委員会(National Telecommunications Commission:NTC)や国家プライバシー委員会(National Privacy Commission:NPC)等の組織が付属機関とされた。

主な所掌事務は、ICT関連の政策立案、電子政府等のICT利用の促進、ICT関連の法整備である。

2 電気通信委員会(NTC)

National Telecommunications Commission

Tel. +63 2 8924 4042
URL https://ntc.gov.ph/
所在地 NTC Bldg., BIR Road, East Triangle, Diliman, Quezon City 1104, PHILIPPINES
幹部 Ella Blanca B. Lopez(委員長/Commissioner)
所掌事務

1979年に「大統領令第546号」に基づき設立された。ガイドライン、規則を策定可能な独立規制機関であり、大統領府直属に設置されていたが、2016年6月の「共和法第10844号」により、情報通信技術省の付属機関となった。電気通信分野における主な所掌事務は以下のとおりである。

Ⅱ 法令

公衆電気通信政策法(Public Telecommunications Policy Act:PTPA、共和国法第7925号)

1995年3月に施行された。事業免許の付与条件、事業者の義務等が規定されている。電気通信設備を所有する電気通信事業者に、一定期間に一定数の加入者回線の設置を義務付ける一方、設備を保有せずにサービスを提供する付加価値サービス事業者に対しては、電気通信市場への参入を原則自由とすること等を規定している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

通信事業免許は「公衆電気通信政策法」第7条から第13条に基づき、下記の分類によりNTCより付与される。

「憲法」第12条第11項及び公共サービス法により、「公益事業」への外資比率の上限は40%と規定されており、通信事業も「公益事業」に該当し当該規定が適用されると解釈されてきたが、2022年の公共サービス法の改正により「公益事業」の定義が、電力の送配電、石油又は石油製品のパイプライン輸送システム、上下水道、港湾、公共交通車両と明確化され、それに該当しない通信事業の分野では外資資本の100%投資が可能になった。ただし、重要インフラである通信分野では相手国がフィリピン人国籍者の投資を認めていない場合は50%以上の保有が禁止される。また、安全保障等の理由により、大統領は外資による投資を個別に保留もしくは禁止する権限を有する。

2 競争促進政策

(1)新規参入

DICTは2018年1月、PLDT、グローブ(Globe Telecom)に続く第3の通信事業者を新規参入させる意向を表明。2019年7月、中国電信と国内企業3社(Mindanao Islamic Telephone Corporation、Udenna Corporation、Chelsea Logistics Holdings)が出資するDito Telecommunity(選定当時の名称はMislatel)に免許を付与した。同社は参入後5年間で2,500億PHPを投資し、5年後には84%の人口カバレッジを実現すると確約しており、2021年3月には商用サービスを開始している。

(2)SIMロック解除義務化

NTCは2019年5月に「Memorandum Circular 01-05-2019」において、移動電話のSIMロック解除についてのガイドラインを発表した。移動体通信事業者には主に以下の義務が課され、義務に違反した場合には罰則が科される可能性もある。

3 情報通信基盤整備政策

(1)ブロードバンド基盤整備

マルコス大統領は2024年4月、国家ブローバンド・プログラム(National Broadband Program:NBP)の一環として、国家ファイバ・バックボーン・プロジェクト(National Fiber Backbone project:NFB)の第1段階を開始すると発表した。このプロジェクトは、マルコス政権が推進する「デジタル都市(Bayang Digital)」構想の一環として、6段階で進行し、本第1段階では北部・中部ルソン地域、マニラ首都圏に加え、基地転換開発公社(BCDA)が保有する四つの経済区域や、二つの国家データセンター所在地域等、計14州、計1,245kmを光ファイバで結ぶ計画であり、600Gbpsの伝送要領の確保を目指している。プロジェクト全体の完了は2026年を予定しており、国内の約7,000万人を光ファイバ接続し、同カバレッジを33%から65%に引き上げる。また、1Mbps当たり5USD以下でインターネット・サービスを提供する計画である。

(2)衛星通信事業の拡大政策

DICTは2022年5月、衛星通信事業の拡大に資するための施策に着手した。DICTは衛星通信事業者が迅速に市場参加できるよう、登録、規制及び監視等の簡素化及び自由化に取り組んでおり、事業者のためのオンライン申請プラットフォームを導入する計画も示している。また、DICTは、上述の外資規制の緩和によりSpace X社のStarlinkのフィリピン国内への迅速な展開が可能になったことを評価し、外資企業による更なる投資を歓迎する姿勢を示している。更に、DICTは、地理的に孤立した地域対策としても衛星通信アクセスは重要であるとし、2023年10月にルソン島の地理的に孤立した438か所において、衛星ブロードバンドを利用するVSAT局を稼動させ、衛星ブロードバンドの提供を開始した。このVSAT局は、衛星インターネット・サービス・プロバイダであるStellarsat及びKacificによって提供されており、地域住民のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進する目的で設置されたものである。特に、学生のオンライン教育や中小企業の電子商取引への参加を支援することを目的としている。

4 ICT政策

(1)SIM登録の義務化

2022年10月10日、移動電話のSMSを用いた詐欺等の防止を目的に、すべてのSIMカードの所有者情報の登録を義務付ける「Republic Act No. 11934(SIM Card Registration Act)」が成立し、同年12月27日に施行された。同法は、通信会社とSIMカードの販売会社に対してSIMカード販売時に有効な身分証の提示を求めることを義務付けるとともに、SIMカード所有者に対して、法施行後180日以内に個人情報を通信会社に登録することを義務付けている。また、通信事業者は登録されたSIMカード登録情報を保存し、裁判所の命令又は召喚状に応じて情報を開示することが求められている。

SIMの登録期限は、2023年4月26日に設定されていたが、90日間の延長措置が講じられ、7月25日に期限を迎えた。期限までに国内の発行SIM約1億6,801万枚(当時)のうち6割を超えるSIMの登録があった。

(2)AI

通商産業省(DTI)は2021年5月、「国家AIロードマップ(National Artificial Intelligence Strategy Roadmap:NAISR)」を発表した。同施策は、フィリピン国内におけるAIの導入と活用を加速させ、産業発展の促進並びに起業家精神の創出により、国内就労者の所得を増大させることを目標としている。また、フィリピンがASEAN地域におけるAI大国となることを目指し、民間主導でAI研究の共有拠点となる国立AI研究センター(National Center for Artificial Intelligence Research:NCAIR)を設立することも発表された。

更に、DTIは2024年7月に「NAISR 2.0」を発表し、生成AI等の技術的進歩に対応すると同時に、AIの倫理的側面やガバナンスについても検討していく方針を示している。

なお、NAISRが取り上げるAIの応用分野としては、不動産、金融、モニタリング、電子商取引、教育、宇宙開発、農業、都市計画、製造、ヘルスケア、物流・輸送等があり、電子政府への活用も重要視されている。DTIは、AIを導入することにより、2030年までにフィリピンの国内総生産(GDP)を12%増加させることが可能との見解を示している。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

NTCの機器標準部(Equipment Standards Division)が、電気通信機器関連の規則制定や技術標準の普及、制定、認証を行っている。また、機器標準部では、型式検定書(Type Approval Certificate)と型式認証書(Type Acceptance Certificate)の2種類を発行している。型式検定書では、国内で機器検定試験を実施し発行する。一方の型式認証書は、海外で認められた機器が国内で検定試験を行わない場合に、型式検定書の代替となり発行されるものである。

Ⅴ 事業の現状

1 固定電話

島嶼群により国家が構成されている地理的要件から固定電話の普及水準は低い。PSTNの提供事業者はPLDT、グローブである。

2 移動体通信

移動体通信市場は、概して支配的事業者PLDT傘下のスマート(Smart Communications)と競争事業者であるグローブの複占市場である。PLDTは2011年10月に市場第3位の事業者であったディジテル(Digitel)を買収しており、この結果、移動体通信市場は現行の複占状態となった。

なお、2019年7月に中国電信系列のDito Telecommunityが第3の事業者として移動体通信市場での営業を認可され、2021年3月にダバオ及びセブで商用サービスを開始、同年5月にはルソン島、ミンダナオ島、ビサヤ諸島の主要地区でサービスを開始した。

5Gについては、NSA方式でグローブが2020年2月に、スマートが2020年7月に商用サービスを開始している。SA方式は、Dito Telecommunityが2021年3月、スマートが2021年10月、グローブが2022年12月より商用サービスを開始している。

なお、フィリピンでは移動体通信の需要拡大に対応し、無線タワー会社が数多く設立されており、2024年2月に大手独立系事業者PhilTowerとMiescor Infrastructure Development Corporation(MIDC)が合併することを発表、同年9月に合併手続が完了した。合併発表当時で、PhilTowerはルソン、ビサヤ、ミンダナオの3大地域で1,250基を超えるタワーを運営し、MIDCは主にルソン島で1,250基を超えるタワーを管理しているとされる。

3 インターネット

インターネット接続は固定通信網の設備不足を反映して低水準である。主な固定ブロードバンド提供事業者はPLDT、グローブ、光ファイバ網運営事業者のコンバージICT(Converge ICT)である。また、接続方式はFTTxが全体の7割以上を占め、DSLやケーブルモデム接続は少数派となっている。

Ⅵ 運営体

1 フィリピン長距離電話会社(PLDT)

Philippine Long Distance Telephone

Tel. +63 2 8816 8684
URL https://main.pldt.com/
所在地 Ramon Cojuangco Building, Makati Ave. corner Ayala Ave., Legaspi Village, Makati City, Metro Manila, PHILIPPINES
幹部 Manuel V. Pangilinan(会長、社長兼最高経営責任者/Chairman, President and CEO)
概要

1928年に設立され、100年間(2028年まで)の事業免許を得ている国内最大の電気通信事業者である。主に国際通信及び国内通信サービスを提供してきたが、2000年にスマートを買収し、移動体通信分野にも進出している。2011年10月には当時市場第3位の移動体通信事業者であったディジテルも買収した。2024年9月30日現在、PLDTの主要株主は、First Pacificグループ(22.03%)、NTTグループ(16.40%)、JGサミットグループ(11.23%)等となっている。

2 グローブ

Globe Telecom

Tel. +63 2 7730 2000
URL https://www.globe.com.ph/
所在地 The Globe Tower, 32nd Street corner 7th Avenue, Bonifacio Global City, Taguig, PHILIPPINES
幹部 Ernest L. Cu(最高経営責任者/President and CEO)
概要

固定電話、移動体通信及びブロードバンドを提供する国内最大の競争的総合通信事業者である。グローブは2012年12月に固定通信事業者バヤンテル(BayanTel)の株式を約98%取得したが、PLDT等の競合事業者からの反対により買収が未承認であった。2015年7月、NTCが同買収を承認し、バヤンテルを傘下に置くこととなった。

アヤラコープ(Ayala Corporation)とシングテル・グループ(Singtel Group)の合弁会社であるアジアコム・フィリピン(Asiacom Philippines)が52.33%の株式を所有。アヤラコープは直接14.61%の株式を所有し、シングテルは22.25%を所有している。

放送

Ⅰ 監督機関等

1 電気通信委員会(NTC)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

放送に関する主な所掌事務は、ケーブルテレビ、テレビ、ラジオ事業者の監督、免許付与、放送サービスに関する政策立案と規制監督である。

2 大統領府広報部(PCO)

Presidential Communications Office

URL https://pco.gov.ph/
所在地 New Executive Building, J.P. Laurel St., Malacañang, PHILIPPINES
幹部 Cesar B. Chavez(広報大臣/Secretary)
所掌事務

「2022年大統領令第2号」により設置され、政府の広報部門を担う。「大統領府広報部(Presidential Communications Operations Office:PCOO)」からOffice of Press Secretaryに改称されたが、2023年1月に更に現在の名称に改称されている。国営通信社や国営放送事業者各社を傘下に置いている。

3 映画テレビ審査格付委員会(MTRCB)

Movie and Television Review and Classification Board

URL https://midas.mtrcb.gov.ph/
所在地 MTRCB Building, No.18 Timog Avenue, Quezon City, PHILIPPINES
幹部 Diorella Maria “Lala” Sotto-Antonio(委員長/Chairperson)
所掌事務

「1985年大統領布告第1986号」により設置された大統領府の直属機関で、映画及びテレビ番組の内容の審査、分類を実施している。

Ⅱ 法令

放送事業全般に関する基本法令はなく、「1987年憲法」第19条が国家に対して放送を含むマスメディアに対する規制権限を付与している。無線ラジオ及びテレビ放送事業に対する個別の規制は、通信分野と同様に「1979年大統領令第546号」に従い、NTCが所掌している。他方、ケーブルテレビについては「1987年大統領令205号」が適用される。その他、放送局の所有に関する「1974年大統領布告第576-A号」やMTRCBの設立を規定した「1985年大統領布告第1986号」等が放送事業を規制している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

外資規制

「1987年憲法」第16条第11項で、地上テレビ放送、ケーブルテレビを含むマスメディアへの外資参入は禁止されている。

2 公共放送関連政策

「2010年大統領令第4号」により、国営放送事業者Presidential Broadcast Service - Bureau of Broadcast Services(PBS-BBS)、People’s Television Network Inc.(PTNI)、Intercontinental Broadcasting Corporation(IBC)、Radio Philippines Network(RPN)がPCO傘下に統合された。なお、PCOは2011年からRPNの株式をNine Media Corporation等の民間部門に放出し、政府のRPN保有株式は全体の20%である。

3 地上デジタル放送

NTCは2010年6月に地上デジタル放送の規格にISDB-T方式を採用することを決定、2018年1月にはPTNIがマニラ都市圏で運営しているPTV4(People’s Television 4)が地上デジタル放送を開始した。2016年3月には、地上デジタル放送受信機規格が公布され、販売店におけるデジタル放送対応の有無等のラベリングの義務や、緊急警報放送システム(Emergency Warning Broadcast System:EWBS)機能の搭載義務等が規定された。地上デジタル放送用の周波数割当計画はマニラ首都圏をはじめほぼ全国で完成し、各放送事業者への通知、免許手続が進められている。また、14-20ch帯域を新たに地上デジタル放送用に割り当てるための規則が2016年6月に規定された。2017年10月にDICTは「地上デジタル放送移行プランの枠組み」を公表、地上デジタル放送への完全移行の期限を2023年末に設定していたが、地元紙によると、2023年末に予定されていたアナログ放送の停止を延期する旨が掲載された。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

主な全国放送は、地上テレビ局が所有するネットワークのGMA Network(GMA)等である。国営放送としてPCOが運営するPBS-BBSが存在し、「Radyo Pilipinas」のブランド名で放送を実施している。

2 テレビ

全国放送を行う代表的な事業者は、商業放送のGMA、TV5 Network(PLDTが間接出資)の2社、及び国営放送のPTNI、IBCの2社である。

3 衛星放送

衛星放送事業者はCignal及びSatLite(共にPLDTが間接出資)、G Satの3社である。通信事業者コンバージICTが2024年7月にNTCから衛星直接受信(DTH)放送の事業認可を取得、韓国KT SATと提携し、主に地方部での放送を実施する計画を示している。

4 ケーブルテレビ

主要ケーブルテレビ事業者はSkyCable(ABS-CBN傘下)及びその子会社であるDestiny Cable、Global Cable(大手ニュース専門局GNN傘下)、Cablelinkで、SkyCableが半数近くの市場シェアを有している。

Ⅴ 運営体

1 ABS-CBN Broadcasting Corporation(ABS-CBN)

URL https://www.abs-cbn.com/
所在地 Sgt. E.A., Esguerra Avenue, Quezon City 1103, PHILIPPINES
幹部 Carlo L. Katigbak(会長兼最高経営責任者/President and CEO)
概要

Lopez Groupが所有する国内最大の商業テレビ放送事業者であり、地上テレビ放送1系統のほか、全国各地に多数のラジオ局を保有してきた。また、有料放送事業者SkyCableも子会社としている。国内制作の番組を中心に、スペイン語からの吹替え番組や英語番組を提供してきた。

しかし、長年にわたるドゥテルテ大統領(当時)との政治的対立を背景に、2020年5月の25年間の放送事業の免許期間終了時に、NTCはABS-CBNに対して放送停止を命令、系列局も含みABS-CBNの放送は中止されることとなった。同年7月、下院議会の立法免許委員会(Committee on Legislative Franchises)はABS-CBNの事業免許更新を70対11の圧倒的な多数で否決、同年8月には最高裁判所がNTC命令の停止嘆願を却下、同年9月にはNTCはABS-CBNに割り当てられた周波数を返還するよう命令を下したため、ABS-CBNの事業継続は困難なものとなった。

なお、NTCは2022年1月、ABS-CBNが使用していた二つの周波数帯域をメディア企業AMBS、SMNI及びAliwの3社に付与すると発表した。同社は現在、コンテンツ配信等の取り組みを進めている。

2 GMA Network(GMA)

URL https://www.gmanetwork.com/
幹部 Felipe L. Gozon(会長兼最高経営責任者/Chairman and CEO)
概要

フィリピンの大手商業テレビ放送事業者である。総合放送GMA Networkを1系統、国際放送を3系統、ニュース専門チャンネルGMA News TVを1系統で実施している。ラジオ放送もFM放送を2系統で実施している。GMAは2019年5月より、NTCにより恒久的に付与されたUHFチャンネル15を使用し、マニラ首都圏での地上デジタル放送を開始している。また、同放送は2023年2月より16:9のワイド比率での放送へと変更されている。

電波

Ⅰ 監督機関等

電気通信委員会(NTC)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

周波数分野に関する業務は、特殊免許局(Special Licensing Branch:SLB)と、委員長直下の無線周波数計画部(Radio Spectrum Planning Division:RSPD)、放送事業部(Broadcast Services Division:BSD)及び機器標準部(Equipment Standard Division:ESD)が所掌する。特殊免許局は、特殊無線事業部(Special Radio Services Division:SRSD)と安全無線事業・STCW認証部(Safety Radio Services and STCW Compliance Division:SRSSCD)の2部からなる。周波数分野におけるNTCの主な所掌事務は以下のとおりである。

無線通信機器を含む電気通信及び放送機器に関する標準規格の策定制定についてもNTCが所掌している。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理政策の概要

「公衆電気通信政策法」に示された電波政策における基本的方針に基づき、NTCが希少な公共資源である電波の効率使用のための電波監理を担っており、「実施規則」に基づき周波数使用の許可や無線局及び電気通信設備の管理監督を実施する。

2 無線局免許制度

無線局及び無線通信に関する規制の原則は、「無線通信規制法」で定められており、無線局の運用には、基本的には無線局免許が必要となる。無許可での無線通信局の設置や無線局免許の譲渡を禁止しているが、会社自体の売却は許容されている。また、第三者に無線通信サービスを提供するためには、電気通信営業許可(フランチャイズ)の取得が前提となり、放送サービスを提供するためには公共性の観点からパブリック・ヒアリングが実施されたうえで免許が交付される。

3 共用通信塔

DICTは2020年6月、各移動体通信事業者が自ら建設していた通信塔を第三者に建設させることで競争原理を導入し、通信基盤構築の加速化を図るためのガイドライン「Department Circular 008-2020」を発表した。この施策は、DICTが、既存の通信サービスのカバレッジ拡大に加え、5Gの導入環境の整備には、基地局数を既存の1万9,000から約5万に増加させる必要があると判断していることを反映している。

同ガイドラインにおいて「共用パッシブ通信タワー・インフラ(Shared Passive Telecommunications Tower Infrastructure)」と称される共用通信塔は、通信事業者ではない「独立タワー事業者(Independent Tower Companies:ITC)」により建設、運用されることとなる。ITCはDICTによる許認可事業者であり、認可期間は5年で、更新継続が可能である。

ITCが運用する共用通信塔には、移動体通信事業者全社及びDICTが、同一の通信塔を使用して、もれなく無線通信設備を運用することが可能なスロットを確保することが義務付けられている。また、コロケーション料金についても、同一で合理的な料金を設定することが義務付けられている。

4 電波監視体制

NTCが国内を14の地域に分け、地方局(Regional Office)を設置して電波監視を実施している。

5 電波利用料制度

電波利用料の徴収については「公衆電気通信政策法」第15条によって規定されている。電波利用料に当たる電波使用者負担金(Spectrum User Fees:SUF)が、NTCが策定した規則「Memorandum Circular 10-10-97」「Memorandum Circular 11-12-2001」(2G等に対するSUF)及び「Memorandum Circular 07-08-2005」(3Gに対するSUF)に基づき、毎年徴収される。SUFは、基本的には、無線局による使用帯域幅、提供サービスの種類、無線局数、カバー地域及びその地域の経済分類等に基づいて決定される。

なお、アマチュア無線、船舶と航空安全確保のための無線、放送サービスについては、電波利用料は徴収されない。

Ⅲ 周波数分配状況

周波数分配表(National Radio Frequency Allocation Table:NRFAT)については、「Memorandum Circular 3-3-96」に基づき、NTCが策定する。周波数割当はNRFATに基づいて実施される。