ロシア連邦(Russian Federation)

通信

Ⅰ 監督機関等

1 デジタル発展・通信・マスコミ省(Minkomsvyaz)

Ministry of Digital Development, Communications and Mass Media of the Russian Federation

Tel. +7 495 771 81 00
URL https://digital.gov.ru/
所在地 Presnenskaya Embenkment 10, building 2, Moscow 123112, RUSSIA
幹部 Maksut Shadayev(大臣/Minister)
所掌事務

2000年3月に通信・情報化省として発足し、3度の省庁再編を経て2008年5月に情報技術・通信省と文化・マスコミュニケーション省が統合、通信・マスコミ省となった。2018年の省庁再編によりデジタル経済化推進の役割を明確化するためデジタル発展・通信・マスコミ省に改名された。

通信、情報技術、電子メディア、出版の政策立案及び規制監督の総合機関で、公的サービスの電子化、ICT産業の発展推進、インターネット・サービス、メディア・コンテンツへのイコール・アクセスを主目標とする。配下に規制当局として、連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology, and Mass Media:Roskomnadzor)と連邦出版・マスコミ局(Federal Agency for Press and Mass Communications:FAPMC)を所管する。

機器認証、番号資源、ユニバーサル・サービス義務の順守監視、衛星通信システムの整備、郵便事業等については連邦通信局(Federal Communications Agency:Rossvyaz)が所掌していたが、同局の機能は2021年2月にデジタル発展・通信・マスコミ省に移管された。

2 連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(Roskomnadzor)

Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology, and Mass Media

Tel. +7 495 587 44 68
URL https://rkn.gov.ru/
所在地 Kitaigorodskiy Proezd 7, building 2, Moscow 109074, RUSSIA
幹部 Andrei Lipov(長官/Head)
所掌事務

電気通信分野を直接的に監督する規制当局。事業者への免許付与、周波数割当、電波利用料の設定等を所掌する。

Ⅱ 法令

1 2003年通信法(Federal Law on Communications, No.126-FZ, July 7, 2003

周波数割当、相互接続、免許付与を目的とした入札規則の設定、ユニバーサル・サービス基金(Universal Service Fund:USF)の設立と加入者料金への従量制導入に関する規定等を定めている。

2005年の改正により、長距離通信市場が自由化された。また、2012年には移動電話番号ポータビリティ(Mobile Number Portability:MNP)、2015年にはチャンネル番号、2018年には違法SIMカード、2019年にはインターネット・セキュリティ、2020年にはユニバーサル・サービス提供条件、2021年にはRoskomnadzorのデジタル・プラットフォームのブロック権等に関する改正がそれぞれ行われた。

2 2006年情報、情報技術及び情報保護に関するロシア連邦法(Federal Law on Information, Information Technologies, and Information Protection, No.149-FZ, July 27, 2006

情報の取得、保存、移転、配布、保護に関する規定を定めている。同法の施行により「1995年情報・情報化及び情報保護に関するロシア連邦法(Federal Law on Information, Informatization and Information Protection, No.24-FZ, February 20, 1995)」は廃止された。

3 2006年個人情報保護法(Federal Law on Personal Data, No.152-FZ, July 27, 2006

個人情報取扱者の義務や安全管理措置に関する規定を定めている。2014年に改正され、事業者はロシア国民である顧客や従業員等に関する個人情報を収集、記録、保管等を行うデータベースをロシア国内で管理すること等が義務付けられた(2015年9月1日施行)。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)概要

国内での電気通信サービス提供に際しては、連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁への免許申請、許可の後、所定の免許料を支払うことが必要とされる。申請に当たっては、所定の様式に従い、サービス地域、使用するネットワークの種類、予定するサービス期間、(周波数を利用する場合)当該サービスに対応する周波数帯等を明らかにすることとされている。

(2)外資規制

「2008年国防及び国家安全保障の確保のために戦略的意義を有する経済団体への外国投資の実施に関するロシア連邦法(2017年7月改正)」において、電気通信分野の一部が規制対象とされ、国外投資家がロシアの電気通信事業者の議決権のある株式の25%以上を取得する場合には、国外投資家監視委員会の許可を得ることとされた。また、2021年7月、大統領は、国内で1日当たりのユーザ数が50万人を超える外国製オンライン・サービス提供事業者に対し、同年内の現地支社又はロシア法人の設立を義務付ける法案に署名した。

2 競争促進政策

(1)相互接続

「2003年通信法」第18条において、電気通信事業者の相互接続義務が定められている。一方で、地域固定通信事業者は移動体通信事業者に対して、定められた限度内で金額の異なる接続料金を会社ごとに設定することが認められている。連邦反独占庁(Federal Antimonopoly Service:FAS)の要求により、2010年10月にモバイル・テレシステムズ(Mobile TeleSystems:MTS)、メガフォン(MegaFon)、PJSCビンペルコム(PJSC VimpelCom)はロシアと独立国家共同体内での接続料を70%以下にすることを宣言した。

2015年9月、FASは政府に対し、固定電話は移動電話その他の電気通信施設で代替できるという立場から、市内及び長距離固定電話を規制から外すことを提案した。更に、移動電話料金が着実に下がっているのに対し、固定電話料金は値上がりしていると指摘し、規制よりも自由競争のほうが効果的であると述べた。2014年に行われたパイロットケースによれば、39州で料金規制を解除したところ、移動体通信事業者と直接競争することになった固定通信事業者の料金は、規制の下で「実際の費用に基づく」料金を徴収していた頃より明らかに安くなったという。FASはこの結果を引用し、効率的運営と消費者保護のためには、競争が最も有効であると述べた。また、国営固定通信事業者であるロステレコム(Rostelecom)は、現在の技術と市場の状況に鑑み、固定電話が様々な他の電気通信手段と競争する現状では、国家が固定電話の料金を規制する必要は既にないと主張してきた。

固定電話市場の規制を解除する動きは更に進み、2016年1月には通信・マスコミ省(当時)も相互接続料金の規制解除提案を支持した。相互接続に関する政府の決定草案はロステレコムによって提出された後、FASの承認を受けている。連邦通信局(当時)は2019年3月、固定電話市場における料金規制撤廃に関する法案を政府に提出した。

一方、デジタル発展・通信・マスコミ省は2021年2月、固定電話市場での主要4社が、同1月に相互接続料金基準を1分当たり0.95RUBから15RUBに引き上げることで同意したことに対し、当該の同意を解消するようにとの警告を発した。

(2)卸売提供制度とMVNO推進

2020年4月の「2003年通信法」改正により、電気通信事業者はユニバーサル・サービス提供を目的とした自社インフラへの他事業者からのアクセス要求に非差別的条件で応じることとされ、ロステレコムは既存のユニバーサル・サービス向け施設をコストベース料金で他社に開放することを義務付けられた。

仮想移動体通信事業者(MVNO)については、専用の局番が2011年9月から提供され、多数の事業者が市場に参入している。一般的に、MVNOの免許は5年間有効(更新可能)で、事業者は免許取得後2年以内にサービスを開始することが要求される。

2012年6月の移動体通信事業者へのLTE対応周波数割当に伴い、割当てを受けた事業者には、独立系MVNOへのネットワーク開放が義務付けられた。更に2017年8月、通信・マスコミ省(当時)は、MVNOが移動体通信事業者の設定した接続ポイントを利用できるようにする決定を発行、MVNOの参入促進を図った。2021年1月には、FASが、5G網運用事業者は他事業者に非差別的条件でネットワークへの接続を受け入れ、MVNOにインフラを提供することという規定を発表した。

(3)民営化

1993年、政府は電気通信の現業部門を分離し、長距離・国際通信を行う国営事業者ロステレコム、市内通信事業者、ロシア衛星通信会社(Russian Satellite Communications Company:RSCC)等を設立した。1995年、市内通信事業者72社の持株会社としてスヴャジインベスト(Svyazinvest)を設立し、政府保有株を同社に移管した。

2009年5月、運輸・通信政府委員会は、スヴャジインベスト傘下の地域固定通信事業社7社と長距離通信事業者ロステレコムを合併し、1社(新「ロステレコム」)にする再編案を承認、2013年10月までに、スヴャジインベストと、ロステレコムやスヴャジインベストが管理する20の合資会社が連邦法人登記から解除され、ロステレコムと合併された。

2021年3月現在、ロステレコムにおける政府の株式所有率は2年前の48.71%から38.2%まで下がり、代わりに国営VTB(対外貿易銀行)及びその関連機関の持株が約30%となった。また、約29%が市場公開されている。

ロステレコムの移動体通信事業については、2013年12月、ロステレコムの移動体通信事業とVTBが所有するテレ2ロシア(Tele2 Russia)の合併と、新合弁会社T2 RTKホールディング(T2 RTK Holding)の設立を、ロステレコムの取締役会が承認した。2015年6月には、両社の傘下にあった33の移動体通信事業者が、T2 RTKホールディングの完全子会社であるT2モバイル(T2 Mobile)に統合された。T2モバイルは、「テレ2ロシア」のブランド名で、移動体通信サービスを提供する。

2020年3月、ロステレコムはVTB等のT2モバイル株式所有者からすべての同社株式を買収、T2モバイルに対する持株比率を45%から100%に引き上げた。

(4)移動番号ポータビリティ(MNP)

2010年3月、通信・マスコミ省(当時)は地域事業者に対して、MNP導入に関する提案を行った。2013年12月、まず地域レベルで導入された後、2014年4月、全国でMNPサービスが開始されている。

MNP移転数は、2016年3月に300万に到達した後、急増し、連邦通信局(当時)によれば2020年12月までに1,700万の電話番号がMNPによって移転された。

(5)国内ローミング料金

FASは2017年から国内ローミング・サービスにおける利用者への料金徴収に関する調査を実施、2018年には大手移動体通信事業者に対し、国内ローミング料金の消費者への請求を中断するように要求した。法規則上では、2018年12月に関連法案が議会で可決、2019年1月から国内ローミング・サービスは無料と規定された。

3 情報通信基盤整備政策

ユニバーサル・サービス

「2003年通信法」は、国内のすべての電気通信事業者が四半期ごとに収入の1.2%をUSFに拠出することを定めている。「2014年3月26日付政府指示第437-r号」により、ロステレコムがユニバーサル・サービス提供事業者に指定された。連邦通信局(当時)は2014年5月にロステレコムと10年契約で、人口500人以下の1万3,800自治体への高速インターネット・アクセス、約15万の公衆電話設置、約2万の公共インターネット・アクセスポイントの設置に関し、USFから1,680億RUBを支出するとした。これに加えて、「2015年4月2日付政府決定第312号」は同社に対し、低所得世帯向けのインターネット接続料金軽減等を義務付けている。ロステレコムは2018年末までにWi-Fiを通じた高速インターネット・アクセスを76地方の8,200自治体で可能にしたと発表した。2021年4月には、同年内に人口100~249人の集落に383か所、人口250~500人の集落に794か所のインターネット接続ポイントを設置、全国の社会的重要施設(学校、医療助産センター、州・市庁舎、消防署、警察署等)をインターネットに接続するとした。同時に、人口1,000人以上の集落におけるすべての公衆電話と人口1,000人未満の集落で月間利用時間が1分未満だった公衆電話を2021年内に撤去することも決定された。

2020年4月には、「2003年通信法」の一部改正により、人口100人以上の村落への移動電話サービス/Wi-Fi提供がユニバーサル・サービスの対象とされ、ロステレコム以外の事業者がこれを行い、基金からの出資を受けることも可能とされた。これに先立ち、2019年12月には、ロステレコムが83地域へのサービス提供を目的として、2.3-2.4GHz帯の一部の周波数割当を受けている。ロステレコムは2021年4月、デジタル発展・通信・マスコミ省との協約に基づき、人口100~500人の小規模集落を対象とした携帯基地局整備計画を発表、2.3-2.4GHz帯を使って、2021年末までに1,198集落、2030年までに2万4,000集落にLTEサービスを提供するとした。

4 ICT政策

(1)国家プログラム「情報社会」

「2010年10月20日付政府指示第1815-r号」により承認された2011年から2020年までの10か年計画で、「2014年4月15日付政府決定第313号」により改訂された。電子政府の構築、テクノパークの構築、テレビ・コンテンツ産業の発展を見込み、①デジタルテレビの普及率を2015年に99%、②ブロードバンド世帯普及率を2020年に80%、③ICT分野の成長率を2020年に7.1%、④ICT製品輸出額を2020年に81億USD、⑤2014年までにすべての行政サービスの電子化を達成、という目標を掲げていた。

2020年3月には、「2020年3月31日付政府支持第386-20号」により2024年までの新たな計画が提示され、以下の四つのサブ・プログラムにつき、関係各省庁が協力してデジタル・サービスの普及とデジタル産業の発展に寄与することが求められている。

(2)2017~2030年のロシア連邦における情報社会発展戦略

「2017年5月9日付大統領令第203号:2017~2030年のロシア連邦における情報社会発展戦略について」が公表されたことで、「2008年2月7日付第Pr-212号」により大統領に承認された「ロシア連邦における情報社会発展戦略」が更新された。

旧戦略では、電気通信網へのアクセス確保やICT利用の拡大、ICT産業の競争力確保等の取組みを通じて、2015年までに世界の情報社会のリーダー20位以内となることが目標として掲げられた。新戦略では、これらに加えて、デジタル経済やサイバー空間における国益保護、情報過多の社会における伝統的価値観の保護等が謳われている。

ICT分野発展の基本路線としては、電気通信網の同質化、5G網、ビッグデータ解析、人工知能(AI)、電子認証技術、クラウド・フォグ・コンピューティング、遠隔就業、行政サービス向上、デジタル・デモクラシー、電子的な世論調査や国勢調査の実施、生活の全分野にわたる管理・監視システムが掲げられている。

また、外国企業の活動については、国内の法律を順守しない事業者はアクセスをブロックされること、国内組織と協力する場合には全データを国内サーバで保管し、国内の決済システムを使って支払いを行うこと、外国企業が国民に金融サービスを提供してはいけないこと、外国のICT企業が国内で活動する場合には国内企業と合弁会社を作ること、外国から国内に配送されるネット通販商品は国内の認証制度に合致しなければならないこと、そのための税関管理体制が構築されること、外国製の電気通信機器・ソフトウェアの導入に際しては国産代替品も調達できる態勢を整えること等が挙げられている。

国内でのメディア規制に関しては、SNS、ニュース・ポータル、メッセンジャー・アプリ、インターネット・テレビ等、マスメディアとして登録されていないが類似した役割を担うサービスにも、情報拡散の規制を受ける仕組みが整備されている。

(3)「ロシア連邦デジタル経済」プログラム

「2017年7月28日付政府指示第1632-r号」によって承認され、「2017~2030年のロシア連邦における情報社会発展戦略」を実現するために策定されたプログラムである。プログラムの目的は、デジタル経済のエコシステムの創出、制度・基盤の必要十分条件の創出、グローバル市場における国内経済全体の競争力の向上である。

このプログラムでは、2024年までのロシア連邦のデジタル経済発展のため、法的規制、人材・教育、研究能力と技術的蓄積の形成、情報基盤、情報セキュリティという5分野における方針が説明されている。また、具体的な達成の指標として、グローバル市場で競争力のある先進的な事業者が10社以上活動する、ICTにかかわる分野の高等教育機関の卒業生が年間12万人となる、世界平均レベルのICT分野の技能を有する中等・高等職業機関の卒業生が年間80万人になる、デジタル・スキルを有する人口の割合が40%になる、ブロードバンド・インターネット接続を持つ世帯の割合が97%になる、すべての大都市(人口100万人以上)で安定して5G以上をカバーする等が掲げられている。

このプログラムに基づき、デジタル発展・通信・マスコミ省は2019年11月に国内85地方の7万9,000の自治体への高速光ファイバ網構築に関するオークションを実施した。その結果、ロステレコムが44地方、ER-Telecomが13地方、MTS/Moscow City Telephone Network(MGTS)がモスクワ及びサンクトペテルブルクを含む9地方等、すべての地域で請負事業者が決定した。この計画への助成予算合計は約500億RUBで、各事業者は2021年末までに構築を完了することとされた。

5 消費者保護

(1)インターネット規制

個人情報保護、セキュリティ確保等、多様な観点から連邦内におけるインターネット規制が推進されている。

個人情報保護については、「2006年個人情報保護法」改正(2015年9月施行)によって、国民の個人情報を国内で管理することが義務付けられた。個人情報の越境移動は、本人の書面による事前承認がある、国際条約に基づく等の場合を除いて、十分なレベルの保護が認められる国(欧州評議会条約第108条締約国とその他当局が認めた国)以外への移転は禁止された。2016年11月、この法律に違反するものとして、連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁はLinkedinへの接続を遮断した。また、消費者啓発活動の一環として、同機関の個人情報保護活動に関するポータルサイトを開き、事業者向けガイドライン等を発表している。

セキュリティ確保という観点からは、「2016年テロ対策及び公共の安全維持を目的とする追加的手段の導入に関するロシア連邦法刑法典及びロシア連邦刑事訴訟法典の改正に関するロシア連邦法(通称ヤロヴァヤ法)」により、①電気通信事業者、②インターネットで情報を拡散する組織に対し、利用者のテキスト・メッセージ、通話音声、画像、動画等の半年間保存を義務付けた。また、送受信、メッセージ・通話の配信の事実(メタデータ)について、①に対し3年間、②に対し1年間の保存を義務付けた(2018年7月施行)。2017年5月には、②が必要とする事業者登録を行っていないとして、連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁はLINEを含む複数のメッセージ・サービスへの接続を遮断した。また、「2006年情報、情報技術及び情報保護に関するロシア連邦法」の改正(2017年11月施行)により、政府がブロックした違法サイトへの接続を可能とするVPNサービス等が禁止された。2019年5月には、国外からの脅威が深刻化した場合、政府は一般のインターネット利用を制限し、トラヒックの中央管理、ドメイン・ネーム・システムの変更等を実施し得るとする「2019年通信法及び情報・情報技術・情報保護法改正法(通称主権インターネット法)」が発効した。

通信監視(検閲)については、「ロシア連邦憲法」が通信の秘密の保護について規定(第23条)する一方で、法による国民権利の制限についても規定(第55条第3項)している。連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁は、インターネット上の児童の発育に有害な情報、知的財産権を侵害している情報、大規模な暴動、過激主義的行動及び違法な街頭行動に対する参加を呼びかける情報等の違法情報をブラックリストに掲載し、それらへの接続を遮断している。なお、「2003年通信法」等の規定に基づき、連邦保安庁は「SORM」と呼ばれるシステムを用いて電気通信事業者のネットワーク上で捜査活動を実施しており、加入者の一部については通信傍受を行っていると報道された。

(2)プラットフォーマー規制

競争法的な観点からは、2015年2月に、ヤンデックス(Yandex)がアンドロイド端末へのグーグル(Google)検索のプリインストールが競争法違反であるとして提訴した。同年9月、FASはグーグルが競争法に違反していると認定した。以後グーグルとFASで論争と相互訴訟が続いたが、2017年4月に両者が和解し、グーグルが4億3,800万RUBの罰金を支払い、アンドロイド端末利用者が最初に検索エンジンを選択することとなった。その他、FASは2018年4月、消費者が購入した端末上のプリインストール・アプリを自由に削除することを可能にする「2003年通信法」改正案や、標準的な国産アプリをスマートフォンにプリインストールすることを義務付ける法改正案を提案した。更に2019年8月には、iOS上の一部のアプリで、アップル(Apple)が競合商品のiOS上での利用契約を不当に拒否したという訴えに基づき、FASが同社の市場支配力濫用に関する審査を行うと発表した。2020年8月、FASは、iOS12リリース時にアップルが自社アプリのプリインストールで市場支配力を濫用したと判断し、3か月以内に自社アプリを他社の開発したアプリに先んじて市場に流通させる行為を止め、他社による類似アプリのApp Storeでの流通を阻止しないことを要求したが、2021年4月には、アップルの商行為に変化が見られないとして、9億RUB超の罰金を科すと発表した。2021年8月、FASは更に、アップルがiOS関連デバイスやアプリをApp Store外で購入可能であるという情報を公開しなかった行為を反競争的であるとして、同年9月末までに情報公開を行うようにとの警告を発している。

映像の流通に関しては、2021年4月から、FASを中心とする複数の政府機関が、グーグルがYouTubeの映像配信可否にかかる判断やアカウントの一方的な削除を恣意的に行っており、競争法の原則に反するとして提訴の準備を行っている。FASは2021年9月、デジタル市場の競争的な発展促進を目的に、同機関が提示するプラットフォーム事業者の市場行為の原則に従い市場の自主規制を司る団体の創設を計画していると発表した。

租税徴収については、2017年1月から国内で電子サービスを提供する外国企業に対し18%の付加価値税の課税が開始された(通称グーグル税)。しかしながら、2021年10月、世界の136か国による協議の結果、2023年を目途に協議の参加国に共通のデジタル・サービス税(Digital Service Tax:DST)を導入するという国際的合意が成立、巨大プラットフォーマーを対象とした各国ごとの課税は廃止されることとなった。

(3)違法SIMカード対応

電気通信事業者と消費者との契約に基づく販売・登録が義務付けられているSIMカード売買規定に反し、路上や交通機関内で闇取引されたSIMカード数が増加していることに鑑み、2018年の「2003年通信法」改正で、登録者不明のSIMカード所有に対する罰金措置が導入された。更に、2020年12月の同法改正では、契約時の番号割当・番号登録者管理の厳格化のため、カード同定・認証システムの導入が規定され、2021年6月から稼動している。このシステムの登録対象にはM2M/IoTサービス対応SIMカードも含まれる。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

電気通信機器の基準認証は、デジタル発展・通信・マスコミ省及び連邦技術規則・計量庁(Rosstandart(電波/Ⅰ-2(1)の項参照))が行う。デジタル発展・通信・マスコミ省は主に電気通信機器の機能及びロシアの電気通信網との互換性の観点から審査を実施する。一方、連邦技術規則・計量庁は主に電気通信機器の安全性及び消費者保護の観点から審査を実施する。

Ⅴ 事業の現状

1 固定電話

(1)概況

固定電話加入数は2008年をピークに減少している。市内通信はロステレコムとMTSが全国PSTN回線数の90%以上を所有する。長距離・国際通信はロステレコムがほぼ独占していたが、2006年1月に市場が自由化され、現在はPJSCビンペルコム(ブランド名:Beeline)やTransTeleCom(TTK)等がサービスを提供している。

2 移動体通信

(1)概況

MTS、メガフォン、PJSCビンペルコム、テレ2ロシアの4社でMNO市場シェアの約98%以上を占める。MVNOは多数参入しているものの市場シェアは低い。

政府は2021年10月、国内の3Gサービスの提供を2023年から順次終了し、2025年には完全終了する方針を発表した。ただし、2Gについては、IoT接続に低速網が用いられることから、今後10年ほどはサービスを維持するとしている。

(2)LTE

2021年3月末現在、LTEサービスの人口カバレッジは85%を超え、加入数は微増傾向にある。LTE-Aに関しては、2014年2月にメガフォン、8月にPJSCビンペルコム、2015年5月にMTSが商用サービスを開始した。

(3)5G

MTSが2020年7月に24.25-24.65GHz帯で全国レベルの5Gサービス免許を取得し、2021年4月現在、首都とサンクトペテルブルクの十数か所が試験運用地域となっている。また、同社は2021年4月、華為技術(HUAWEI)と共同で5G活用によるスマートシティ計画「50City」を推進しており、その第1段階としてモスクワ市内の14か所に5Gパイロット・サイトを立ち上げたと発表した。

一方でPJSC ビンペルコム、メガフォン、ロステレコムは2021年6月3日、5G網の共同構築を目的とした合弁会社「New Digital Solutions」を、3社同率の出資で創設することで正式に合意したと発表した。

なお、5Gを巡り米中が覇権競争を繰り広げる中、ロシアは中国との関係強化を進めている。2020年8月に開催された5G技術関連フォーラムでは、セルゲイ・ラブロフ外務大臣が華為技術を支持し、5G技術協力を推進していく方針を明言した。ただし、「2019年8月14日付命令第1809-p号」及び「2019年12月26日付命令第3202-r号」の下、学校、医療助産センター、州・市庁舎、消防署、警察署等といった社会的重要施設に移動体通信サービスや固定通信サービスを提供する事業者に対しては、原則としてロシア製電気通信機器を使用することが義務付けられている。国営コングロマリットであるロステック(Rostec)は2021年8月、5G対応機器の国産化を目指す政府の意向を受け、4G、5G、5G以降の通信機器ベンダとして完全子会社のSpectrumを設立したと発表した。

3 インターネット

(1)概況

2021年3月末現在のブロードバンド世帯普及率は約6割である。

2011年4月、ロステレコムがスヴャジインベスト系事業者と合併して以来、ロステレコムが最大の事業者となったが、そのシェアは減少傾向にあり、2019年3月には4割を下回った。ER-Telecom、MTS、PJSCビンペルコム、TTKの4社がこれに次ぎ、2021年3月現在の5社のシェア合計は約8割である。いずれもDSL及びLAN/FTTxサービスを提供している。ケーブル事業者にはAKADO等がある。

(2)バンドル・サービス

FTTxサービス等の伸長に伴い、ブロードバンド事業者間の競争が激化しつつあり、各事業者はサービスの差別化の手段としてバンドル・サービスの導入に注力している。特に固定/移動融合サービスについては、従来からの総合電気通信事業者であるMTSやPJSCビンペルコムに続き、ロステレコムやER-Telecomも移動体通信事業者との連携によるサービス開発を活発化させている。近年、各社は映像サービスの充実に注力しており、固定網でのIPTVのほか、マルチスクリーン・サービス開発が進められている。ロステレコムの「Wink TV Online」では、オンライン動画配信事業者との連携により、300以上のチャンネルと6万のビデオが視聴可能である。また、ER-Telecomはメガフォンとの連携により、モバイルテレビ・チャンネル視聴サービスを実施している。

(3)Wi-Fi

ロステレコムがユニバーサル・サービス・プロジェクトの一環として、ルーラル地域への光ファイバ網構築とともに、地域住民向けの無料Wi-Fi接続サービス普及を進め、2021年内に人口250~500の自治体に合計で1万3,800のホットスポットを設置する計画を遂行中である。このほかにも各社が都市部でのホットスポット設置を進めている。ER-Telecomは全国の大都市での拠点整備を進め、1,200万の利用者を得ている。

(4)IoT

2018年から、ER-TelecomがLoRaWan技術を用いたIoT網を構築して、企業や公共機関向けの接続を提供しており、2021年8月現在、52都市のスマートシティ計画に協力、街灯や監視カメラの管理等のサービスを提供している。

移動体通信事業者もNB-IoT規格を用いたプラットフォーム拡張に注力している。MTSは、2020年4月に25の自治体とスマートシティ構築計画で合意、2021年半ばには全国各地でスマートメーターや各種モニタリング・サービスが可能になっている。メガフォンは国内主要都市で接続サービスを提供している。

Ⅵ 運営体

1 ロステレコム

Rostelecom

Tel. +7 499 995 9780
URL https://www.company.rt.ru/
幹部 Mikhail Oseevskiy(社長/President)
概要

旧通信省から分離・独立し、1993年9月に現社名に変更した。国内最大の長距離・国際通信事業者。

バックボーン事業者として全国で約50万kmの光ファイバ基幹網と2,600kmのローカル網を有する。17の国際ケーブルに接続、約70か国と直接接続が可能である。近年はブロードバンド加入者向けのバンドル・サービスのほか、複数のICT関連子会社を通じて、電子政府支援、サイバーセキュリティ、クラウド・コンピューティング、スマートシティ構築等の法人向けICTサービス・ソリューション提供にも力を入れている。2021年4月に発表した2025年までの成長戦略の要は「スマートな成長」であり、固定回線運用コストの削減により、ネットワーク投資資金を増大させることが目指されている。

なお、同社は移動体通信事業を行っていないが、テレ2ロシアを提供するT2モバイルを完全子会社としている(詳細についてはⅢ-2(3)の項参照)。

2020年12月現在のサービス加入数は、固定電話(市内):1,400万、ブロードバンド:1,240万、有料放送:1,080万(うちIPTVが630万)、MVNO:280万等である。2020年のグループ連結売上高は前年比15.0%増の約5,469億RUBであった。

2 モバイル・テレシステムズ(MTS)

Mobile TeleSystems

Tel. +7 916 761 02 23
URL https://moskva.mts.ru/
幹部 Nikolaev Vyacheslav (社長/President)
概要

1993年設立。国内最大の移動体通信事業者。移動体通信事業をアルメニア、ベラルーシでも展開し、2020年の加入数合計は約8,640万であった。

近年の中心戦略は、3D(Data、Digitalization、Dividends)サービスの充実で、他社に先駆けて5G周波数の割当てを受けている。また、傘下のMTS銀行を通じてモバイル金融サービス開発にも取り組んでいる。

2020年の国内事業の売上高は、前年比5.2%増の4,949億RUBであった。2020年6月現在の最大株主はロシア最大の複合企業システマ(Sistema)グループの投資会社で、株式の約55.7%を保有している。

3 メガフォン

MegaFon

Tel. +8 499 755 21 55
URL https://www.megafon.ru/
幹部 Khachaur Pombukhchan(社長/General Director)
概要

投資会社USMグループとスウェーデンの電気通信事業者テリアソネラ(TeliaSonera、現テリア(Telia))の出資により発足、移動体通信を中心に事業を展開している総合電気通信事業者。2019年7月、USMグループは一般公開株をすべて再取得し、株式の70.3%を所有することとなった。2021年6月現在、同社の株主構成はUSMテレコムが50%、USMグループに属するAF Telecom Holdingsが50%となっている。2020年末の移動電話加入数は約7,210万である。デジタルテレビやオンライン動画配信事業のほか、ビッグデータ分析やクラウド・コンピューティング、IoT等のICTソリューション提供も実施している。2020年の連結総合売上高は前年比約4.8%減の約3,322億RUBであった。

4 PJSCビンペルコム

PJSC VimpelCom

Tel. +8 800 700 06 01
URL https://moskva.beeline.ru/
幹部 Alexander Torbakhov(最高経営責任者/CEO)
概要

投資会社グループのアルファ(Alfa)とノルウェー電気通信大手テレノール(Telenor)の出資による総合電気通信事業者であるVEON(2017年にビンペルコム(VimpelCom)より改名)が所有するロシア国内の移動体通信事業者。VEONグループの本拠はオランダのアムステルダムにあり、旧CIS諸国のほか、アルジェリア、パキスタン、バングラデシュでも事業を展開している。Beelineはロシアのほか、ウズベキスタン、キルギスタン、アルメニア、カザフスタン、ジョージアでのブランドである。2020~2021年には4都市で5Gのパイロット・サービスを開始するとともに、前年に引き続き、クラウド・コンピューティング、IoT、ビッグデータ分析等企業向けサービスの拡充に努めた。

PJSCビンペルコム株式は2020年12月現在、すべてVEONが所有している。2020年のロシア国内事業での売上高は前年比5.3%減の約2,745億RUBであった。

放送

Ⅰ 監督機関等

1 デジタル発展・通信・マスコミ省(Minkomsvyaz)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

所掌事務

放送事業者への免許付与や放送サービスの普及推進を所掌する。

2 連邦出版・マスコミ局(FAPMC)

Federal Agency for Press and Mass Communications

Tel. +7 495 629 00 92
URL https://fapmc.gov.ru/rospechat.html/
所在地 Strastnoy bulvar, building 5, Moscow 127994, RUSSIA
幹部 Schalneva Nadezhda(Deputy Chief of Office of Broadcasting and Mass Communications/放送・マスコミ室長)
所掌事務

2004年3月設立。出版及びマスメディア、マスコミュニケーション分野の公共サービスの提供や国有財産管理等を行っている。

Ⅱ 法令

1 1991年マスメディアに関するロシア連邦法(Law of the Russian Federation No.2124-1 On Mass Media of December 27, 1991

放送に関する基本法令であり、マスメディアの活動と組織、マスメディアと市民及び団体との関係、ジャーナリストの権利及び義務、国際協力、法令違反に対する責任等を規定する。2011年11月に改正され、テレビやラジオ放送のユニバーサル・ライセンスに関する規定が改定されたほか、海外メディアは登録を義務付けられた。またウェブサイトもメディアの一つとして扱われることとなった。

2014年10月には外資規制にかかわる改正が行われた(2016年1月1日施行)。

2 広告に関するロシア連邦法(Federal Law No.38-FZ of the Russian Federation on Advertising, of March 13, 2006

広告の公平性及び正確性の確保、特定のテレビ番組については広告放送を制限若しくは禁止する等、広告に関する規定を定めている。

Ⅲ 政策動向

1 免許政策

外資規制

2016年1月に施行された「1991年マスメディアに関するロシア連邦法」の改正により、外国政府、国際機関、外国法人、外資系の出資のあるロシア法人、外国人、無国籍者、又は二重国籍を有するロシア人は、ロシアでマスメディアを設立することができなくなり、外国企業がロシアのメディアの株式20%以上を保有してはならないと定められた。この法改正により、2015年末までにCTC Mediaや「モスクワのこだま(Ekho Moskvy)」(ラジオ局)が経営を刷新した。また、ナショナル・メディア・グループ(National Media Group:NMG)が、米ディスカバリー(Discovery)、Turner、スウェーデンViasat等の株主になった。

2 コンテンツ規制

「2012年健康と発達に有害な情報からの児童の保護に関するロシア連邦法」が、テレビ放送事業者に対して、各放送番組が想定している視聴児童の年齢を表記することを義務付けている。成人向け番組の放送は、午後11時~午前4時に制限されている。

「2006年広告に関するロシア連邦法」がテレビ広告の放送時間比率や酒・たばこ広告を規制している。2014年の改正では、ケーブル・衛星テレビ・チャンネルでの広告が原則として禁止された。2018年の改正では、それまで1時間当たり15%以内とされていた広告放送時間が20%に引き上げられたほか、子ども向け番組や教養番組で子ども向けではない商品の広告を放送することが禁じられた。

3 国営・公共放送関連政策

(1)受信料制度

受信料制度は存在しない。国営放送の全ロシア国営テレビ・ラジオ会社(All Russian State Television and Radio Broadcasting Company:VGTRK)と第1チャンネルは、連邦予算と広告収入によって運営されている。一方、2013年5月に放送を開始した公共放送のロシア公共テレビ(Public Television of Russia:PTR)は商業広告を放送せず、政府から年間15億RUBの予算を充てられている。また、残りの財源を民間の寄付や基金から集めることになっているが、資金不足のため広告を放送する案も検討されている。

(2)国営放送のガバナンス

ソ連テレビ・ラジオ国家委員会を母体として継承したVGTRKは、全国及びCIS諸国にテレビ・ラジオ放送を行う。同社株はロシア政府が100%保有する。第1チャンネルの株式の71%も政府が保有している。

4 地上デジタル放送

(1)免許付与状況

第1多重周波数帯(Multiplex:MUX)で第1チャンネル、VGTRKの4チャンネル、PTRのほか、四つの商業チャンネル、第2MUXで商業放送10チャンネルが提供されている。

(2)標準

「2004年5月25日付政府指令第706-r号」により、DVB-T方式に定められていたが、2011年9月にDVB-T2方式への変更が決定し、旧方式で放送が開始されていた地域でも切替えが進められた。デジタル用の通信放送網は2018年末に完成した。

(3)サービス開始時期

2010年2月、ハバロフスク周辺の中国国境地域においてデジタル放送が開始した。デジタル放送への移行期限は当初の2015年から2019年に延期されていたが、2019年10月に完了した。

5 動画配信サービス

「2006年情報、情報技術及び情報保護に関するロシア連邦法」の2017年の改正を受け、2020年12月に「視聴覚サービス(Audiovisual Service:AVS)」リストが導入された。AVSリストは1日当たりのロシア国内ユーザが10万人を超える動画配信サービスを登録するもので、登録されたサービスは国内法を順守し、過激主義コンテンツを禁止する条項等に準拠しなければならない。2021年12月には米国のネットフリックス(Netflix)が外国製サービスとして初めてリストに登録された。なお、インターネット映像協会(Internet Video Association)が国営通信TASSに明らかにしたところによると、同法第10.5条に基づき、外国製サービスに国営放送20チャンネルの配信を義務付ける新たな規制が2022年3月より施行される予定である。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

国営放送については、VGTRKが運営する全国放送として、ラジオ・ロシア(Radio Rossii)、ラジオ・マヤーク(Radio Mayak)、ニュース専門のヴェスチFM(Vesti FM)、ラジオ・クリトゥーラ(Radio Kultura)がある。

商業放送については、ヨーロッパ・プラス(Europe plus)等がある。1990年4月、ロシア初の商業FM局としてフランスとの合弁で設立されたヨーロッパ・プラスは、音楽番組を中心に24時間放送や旧ソ連圏での放送を行っている。1995年8月にスタートしたロシア・ラジオ(Russkoe Radio)は、ロシア語の歌謡曲のみをロシアや旧ソ連圏、北米で放送する。1990年8月開局の「モスクワのこだま」は、政府と密接な関係を持つガスプロム・メディア(Gazprom Media)傘下で、ニュース、情報・討論番組を中心に放送する。

国際放送については、VGTRK系列の「Radio Sputnik」が20か国以上、約30の言語で放送を実施している。

2 テレビ

国営放送については第1チャンネルとVGTRKが、公共放送についてはPTRが全国放送を行う。

商業放送については、ガスプロム・メディアが運営するNTVやTNT、NMGが所有する第5チャンネルやRen TV等がある。

国際放送については、第1チャンネル国際放送及びVGTRKの「Russia RTR」が欧州、中東、北アフリカ、米国等でロシア語放送を行っている。NTVミール(NTV-mir)もロシア語放送を行っている。

3 衛星放送

衛星放送サービスは、トリコロールTV(Tricolor TV)、オリオン・エクスプレス(Orion Express)、NTVプラス(NTV Plus)及びMTSの4プラットフォーム事業者が実施している。2019年時点の衛星放送加入者数は約1,946万であった。

4 ケーブルテレビ

ロステレコム、MTS、ER-Telecom等、電気通信事業者の多くがテレビ・サービス向けのネットワークを運営している。

Ⅴ 運営体

1 第1チャンネル

The First Channel

Tel. +7 495 617 73 87
URL https://www.1tv.ru/
幹部 Konstantin Ernst(社長/Director General)
概要

1994年に設立された国営テレビ放送事業者である。2002年9月より「第1チャンネル」の名称で放送を実施しており、サービスエリアは人口の99.8%である。ニュース、娯楽、教育、音楽、スポーツ等の番組を放送している。

2 全ロシア国営テレビ・ラジオ会社(VGTRK)

All Russian State Television and Radio Broadcasting Company

Tel. +7 495 234 86 00
URL https://vgtrk.com/
幹部 Oleg Doborodeyev(総裁/Director General)
概要

1990年7月、ソ連テレビ・ラジオ国家委員会の解体により設立され、1993年に国営放送事業者になった。テレビ放送では、「ロシア1」「culture」「ロシア24」のほか、国際放送Russia RTR、約80の地域放送チャンネルを運営している。また、ラジオ放送やマルチスクリーン・サービス「Digital TV Russia」等も提供している。

3 ガスプロム・メディア

Gazprom-Media

Tel. +7 495 789 68 00
URL https://www.gazprom-media.com
概要

1998年にエネルギー企業ガスプロムの子会社として設立。その後中小の放送メディア会社の買収を続け、2021年現在、NTVをはじめとする地上テレビ9系統、ラジオ局11局、衛星プラットフォーム一つ等を所有している。

電波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

(1)デジタル発展・通信・マスコミ省(Minkomsvyaz)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

所掌事務

電気通信分野における政策立案、規制監督を行う。「2008年6月2日付政府決定第418号」において、周波数の監督が所掌業務として規定されている。

同省内には、国家周波数委員会(The State Commission for Radio Frequencies:SCRF)がSCRF規則に基づいて設置されている。SCRFは通信大臣が議長を務める委員会で、2021年9月現在、関係省庁の代表者24名で構成され、合議制の下に運用される。SCRFによって、国家レベルの周波数分配の計画や省庁間の周波数調整、民生用周波数の割当て等が決定される。

(2)連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(Roskomnadzor)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

周波数割当や電波利用料制度等を所掌する。また、配下に、総合電波監理局(General Radio Frequency Centre:GRFC)及び連邦管区電波監理局(Radio Frequency Centre:RFC)から構成される、電波管理局(Radio Frequency Service:RFS)を置く。GRFCは、専門的観点から、また国防省、連邦警護庁、連邦保安庁との合意を踏まえて、無線局全般の管理や国際的な周波数調整等の業務を行う。一方、RFCは、七つの連邦管区(中央連邦管区:モスクワ、北西連邦管区:サンクトペテルブルク、南部連邦管区:ロストフ・ナ・ドヌー、ヴォルガ連邦管区:ニジニ・ノヴゴロド、ウラル連邦管区:エカテリンブルク、シベリア連邦管区:ノヴォシビルスク、極東連邦管区:ハバロフスク)に設置され、無線局の申請窓口となっているほか、電波監視やフィールド試験等の業務を担う。

2 標準化機関

(1)連邦技術規則・計量庁(Rosstandart)

Federal Agency on Technical Regulating and Metrology

Tel. +7 495 547 51 51
URL https://www.rst.gov.ru/portal/gost
所在地 Presnenskaya embankment 10, building 2, Moscow, 123112, RUSSIA
幹部 Anton Shalaev(局長/Head)
所掌事務

産業商務省の所轄下にある。「2004年5月20日付政府決定第649号」に基づいて、国内標準の策定や基準認証業務を行っている。

(2)連邦単一企業・ロシア無線通信研究所(FSUE NIIR)

Federal State Unitary Enterprise Radio Research and Development Institute

Tel. +7 499 261 36 94
URL https://niir.ru/
所在地 Kazakova street 16, Moscow 123317, RUSSIA
幹部 Valery Butenko(理事長/Director General)
所掌事務

デジタル発展・通信・マスコミ省傘下の研究機関で、国際電気通信連合(International Telecommunication Union:ITU)、欧州郵便電気通信主管庁会議(European Conference of Postal and Telecommunications Administrations:CEPT)、欧州電気通信標準化機構(European Telecommunications Standard Institute:ETSI)において標準化活動を行っている。また、SCRFで周波数分配を検討する際に要請される技術的な干渉検討を実施している。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理政策の概要

周波数割当は審査又は入札により行われる。周波数を用いた電気通信サービスで、地理的区域での利用可能な周波数容量により事業者数を制限する必要がある場合、競売・入札が適用される。テレビ・ラジオ放送のための周波数割当には競売・入札は適用されない。また、周波数を無線局により使用する場合には、所定の使用許可の手続を経なければならない。無線局関連の電気通信設備・機器について、政府の指定する種類のものには登録義務が課せられる。政府は電波監視、周波数移転、他の周波数へ無線設備を移転する等の目的で、周波数利用者が使用する帯域、割当数、当該事業者の使用技術に応じ、シグナル料金及び年間の電波利用料を徴収する。民生用の無線機器の電磁的な適合性を確保するための技術的要件の策定や、電磁環境の測定等は、GRFCが実施する。

2 周波数割当

(1)オークション

ロシア初の周波数オークションは2015年に実施された。1710-1785MHz/1805-1880MHzで九つの地域免許がオークションにかけられ、MTS、メガフォン、ビンペルコム(当時)、テレ2ロシアが落札した。2016年2月には2.6GHz帯(2570-2595/2595-2620MHz)のオークションが実施され、落札総額は83億RUBとなった。

(2)LTE周波数

通信・マスコミ省(当時)及びSCRFは2017年7月、UMTSサービスに使用されていた1920-1980MHz、2010-2025MHz及び2110-2170MHzを、LTE網の構築のために使用することを認めた。また、SCRFは2018年12月、450MHz帯をLTEに配分することを決定した。2020年12月には、791-798.5MHz及び832-839.5MHzをセヴァストポリ地方のLTEサービスに利用することが認められた。

(3)5G周波数

政府が2019年1月に発表したアクションプランでは、2020年に人口100万以上の都市の少なくとも一つで5Gサービスを開始し、2025年までに人口30万以上の都市のすべてをカバーすることが目指されていた。しかし、2021年11月現在、5G商用化は実現していない。

デジタル発展・通信・マスコミ省は2019年4月、5G/IMT-2020技術の導入のための周波数割当計画の変更に向け、以下の周波数範囲の使用可能性と使用条件について検討し、5G網構築のための周波数割当案をSCRFに提出する方針を示した。

4400-4435MHz、4790-4800MHz、4990-5000MHz、5570-5650MHz、5650-5670MHz、6425-7075MHz、7075-7100MHz、10.4-10.6GHz、14.5-15.35GHz、24.25-25.25GHz、27.5-29.5GHz

SCRFは2019年6月、5G試験用の周波数範囲について、ミリ波帯を25.25-27.5GHz帯から25.25-29.5GHz帯に拡大した一方で、4.8-4.99GHz帯については現状維持とした。同年11月には、地上放送デジタル化に伴う700MHzの空き周波数を2022年半ばまでに5G向けに割り当てる計画を明らかにした。2020年3月のSCRF会議(議事録番号20-54)では、5G/IMT-2020規格のために、694-790MHz、2300-2400MHz、2570-2620MHzについて周波数再編が必要であることを確認した。また、5G周波数として、4400-4990MHzが利用可能であることや、24.25-24.65GHzを電気通信事業者へ割当可能であることが確認された。2021年には、6GHz帯での5G展開を試験する目的で、8月に6700-6800MHz、11月に6425-6825MHzがそれぞれFSUE NIIRに割り当てられた。11月には、PJSCビンペルコム、メガフォン、ロステレコムの合弁会社であるDigital New Solutionsに、主要都市における5G実証実験用として4400-4555MHz及び4630-4990MHzを割り当てることも決定した。同周波数帯及び隣接周波数帯は、連邦警護庁(Federal Security Service)、連邦航空局(Federal Air Transport Agency)、国防省(Ministry of Defence of the Russian Federation)、国営宇宙開発企業ロスコスモス(Roscosmos State Corporation for Space Activities)によって使用されているため、周波数共用が可能かどうかを調査する。

ロシア初となる5G免許は、2020年7月に、連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁によってMTSへ付与された。割当周波数は24.25-24.65GHzで、免許期限は2025年7月16日まで。当該免許は83の地域をカバーするもので、免許取得時にMTSは企業顧客向けに5Gベースのソリューション(製造、農業・パルプ/製紙・石油/ガス、ヘルスケア、小売及びロジスティクス)を立ち上げる計画を発表した。

(4)テレマティクス向け周波数

2020年7月のSCRF会議(議事録番号22-55)で、ロシア連邦運輸省に、モバイル・ブロードバンド無線アクセスのために、350-370MHz帯を割り当てることを決定した。これは、ロシア連邦の領土内に連邦輸送テレマティクス・システムのネットワークを構築することを目的としている。政府は2018年4月、インターネット接続を提供する事業者は同時にテレマティクス・サービスの免許を得ることとした規則を発表しており、2021年4月現在、免許の取得者は約7,540に達している。

(5)IoT向け周波数

2017年にSCRFはLTE向けに割り当てられた周波数を各種IoT/M2Mサービス用途で利用することを許容する旨の決定を発行した。その後2021年3月に国内初のIoT網標準が決定されたのに伴い、SCRFはロシア製のIoT機器製造促進を主目的として、国内の機器間のIoT通信に限定した周波数帯を300-400MHz内に定め、割当てを実施する計画を明らかにした。

Ⅲ 周波数分配状況

周波数分配表は4年に1回、無線電子機器が使用できる周波数計画は10年に1回改定される。

全周波数のうち、民間利用が9%、公共機関と軍による共用が69%、軍のみの利用が22%とされている。