シンガポール共和国(Republic of Singapore)

通信

Ⅰ 監督機関等

1 情報通信省(MCI)

Ministry of Communications and Information

Tel. +65 6837 9655
URL https://www.mci.gov.sg/
所在地 140 Hill Street #01-01A, Old Hill Street Police Station, 179369, SINGAPORE
幹部 Josephine Teo(大臣/Minister)
所掌事務

2012年11月に情報通信芸術省から情報通信分野に関する部門を分離し、創設。情報通信技術の発展推進等を所掌する。MCIの傘下機関は、サイバーセキュリティ庁(Cyber Security Agency of Singapore:CSA)、情報通信メディア開発庁(Infocomm Media Development Authority:IMDA)、国立図書館局(National Library Board:NLB)、及び個人データ保護委員会(Personal Data Protection Commission:PDPC)。

2 情報通信メディア開発庁(IMDA)

Infocomm Media Development Authority

Tel. +65 6377 3800
URL https://www.imda.gov.sg/
所在地 10 Pasir Panjang Road #03-01, Mapletree Business City, 117438, SINGAPORE
幹部 LEW Chuen Hong(長官/Chief Executive)
所掌事務

メディア開発庁(Media Development Authority:MDA)と情報通信開発庁(Info-communications Development Authority:IDA)を再編し、2016年10月に正式に発足。

シンガポールの情報通信及びメディア産業の効率性、競争力及び発展の促進、関連技術の研究開発や人材育成の促進等を所掌する。

3 サイバーセキュリティ庁(CSA)

Cyber Security Agency of Singapore

URL https://www.csa.gov.sg/
所在地 5 Maxwell Road #03-00 Tower Block, MND Complex,069110 SINGAPORE
幹部 KOH Tee Hian David(長官/Chief Executive)
所掌事務

2015年4月、首相府の直下組織として、情報通信省の法定機関である情報通信開発庁(IDA(現IMDA))のセキュリティ部門と内務省の法定機関である情報技術セキュリティ庁(SITSA)を合併して、CSAを設置。

シンガポールのサイバー空間の安全確保のため、サイバー脅威の継続的な監視、必要不可欠サービスを提供する重要情報インフラ(CII)防護、サイバーリスク分析及び適切な対策の措置等を所掌する。

4 政府技術庁(GovTech)

Government Technology Agency of Singapore

Tel. +65 6211 0888
URL https://www.tech.gov.sg/
所在地 10 Pasir Panjang Road, #10-01 Mapletree Business City, 117438, SINGAPORE
幹部 Goh Wei Boon(長官/Chief Executive)
所掌事務

2016年11月に旧IDAから公共部門における情報化を推進する部門を分離、設置された。首相府に設置された「スマートネーション・デジタル政府局(Smart Nation and Digital Government Office:SNDGO)」と連携し、省庁横断的な基盤構築や全体のセキュリティ構築等を所掌する。政府部門の共通認証基盤であるSingPass、個人情報基盤であるMyInfo等を運用している。

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Ⅱ 法令

電気通信法(第323章)(Telecommunications ActCHAPTER 323))

電気通信事業分野における免許付与及び規制、これに関するIMDAの役割について規定している。「2011年電気通信改正法」により、罰則の強化、通信確保のための通信基盤に対する情報通信大臣の権限拡大、競争促進のための市場に対する介入権限の情報通信大臣への付与が新たに規定された。これに加えて、例えば「2002年電気通信(クラス免許)規則」や「2002年電気通信(無線通信)規則」等、個別分野の下位規則が存在する。また、省庁再編に伴い施行された「2016年情報通信メディア開発庁法」により、監督機関としてIMDAが規定された。

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Ⅲ 政策動向

1 免許制度

シンガポールの通信事業免許は、電気通信設備を所有する設備ベース事業者(Facilities-Based Operator:FBO)と設備を所有しないサービス・ベース事業者(Services-Based Operator:SBO)に大別される。MVNOや設備を持たずにIP電話を提供する事業者は、SBO個別免許(許可制)が必要である。2023年11月時点でFBO免許人数は80社。

なお、シンガポールでは、通信事業免許に外資規制は存在しない。

シンガポールの事業免許付与分類
免許区分 設備ベース事業者(FBO) サービス・ベース事業者(SBO)
定義 電気通信設備を保有し、サービスを提供 FBO事業者の設備を利用してサービスを提供
免許形態 個別免許(許可制) 個別免許(許可制)、クラス免許(届出制)
免許期間 10、15、20年 個別免許は5年、クラス免許はなし

出所:IMDAウェブサイト

2 競争促進政策

IMDAが策定する「電気通信競争コード(Telecom Competition Code)」は、免許人が従うべき事前義務と事後規定を含む包括的な競争管理枠組で、免許分類、免許人の義務、相互接続、不可欠設備、公正競争要件等が定められている。

2012年4月23日に「次世代全国ブロードバンド網(Next Gen National Broadband Network:NGNBN)」の提供事業者に関して同コードの適用を規定した「2012年電気通信競争コード(Telecom Competition Code 2012)」が発効した。また、2014年7月2日、「2012年個人データ保護法(Personal Data Protection Act 2012:PDPA)」の施行に伴い、同コードのエンドユーザ情報に関する規定は、PDPAを優先するよう改められた。更に、共同溝ネットワークを相互接続関連サービス(Interconnection Related Service:IRS)に組み入れるため、2019年12月13日に改正電気通信競争コードが発効した。

同第6条に基づき支配的事業者であるシングテル(SingTel)には相互接続約款(Reference Interconnection Offer:RIO)の策定が義務付けられ、約款に相互接続提供に関する料金を掲載する必要がある。なお、事業者間の接続協定には、①RIOによる協定、②現存の相互接続協定の継続、③当事者間の個別相互接続協定、の三つの選択肢があることが、コードにより規定されている。また、③の個別協定での交渉については、事前・事後を問わずIMDAが紛争調停処理を行うことが制度化されている。

同様にスターハブ(StarHub)は市内ブロードバンド接続サービス市場及び卸売ブロードバンド接続サービス市場について支配的事業者に指定されており、これらの相互接続料金をコードに基づき開示している。

3 情報通信基盤整備政策

高速ブロードバンド基盤整備に関して、シンガポールでは2006年から2015年までの情報通信基本計画「インテリジェント・ネーション2015(iN2015)」によりNGNBNが構築された。NGNBNは設備提供事業者(NetCo)であるネットリンク・トラスト(NetLink Trust)、サービス卸売事業者(OpCo)であるニュークリアス・コネクト(Nucleus Connect)が共同で運用し、ISP事業者各社が加入者に対して提供するFTTPサービスである。ネットリンク・トラストは、NGNBNの管路・局舎等の受動設備基盤の管理事業者であったが、2014年10月にそれまでNGNBNのNetCoであったオープンネット(OpenNet)を経営統合し、通信設備の運用を担うこととなった。免許要件や接続約款等の規定をオープンネットから引き継いでいる。2017年より、政府が新たに設立したNetCoであるネットリンクNBNトラスト(NetLink NBN Trust)の一部門となっている。

2015年、IMDAは新たな情報通信基本計画「インフォコム・メディア2025(ICM2025)」を発表し、固定ブロードバンド網であるNGNBNに加え、以下の情報通信基盤を構築し、情報通信の可用性を拡大していくとした。

4 ICT政策

(1)情報通信基本計画「インフォコム・メディア2025」

シンガポール政府は2015年8月、2006年から2015年までの情報通信基本計画であった「iN2015」に代わる新たな情報通信基本計画である「インフォコム・メディア2025(ICM2025)」を発表した。

新計画では、iN2015の「専門性の高い人材開発」により「情報通信産業の生産性を拡大」し、「経済的、社会的な変容」を誘発するという基本ヴィジョンを継承しつつ、同時期のコンテンツ振興政策であった「シンガポール・メディア融合計画(Singapore Media Fusion Plan)」の内容を取り入れ、設備及び技術基盤とアプリケーションやコンテンツのエコシステム構築を強調する内容となっている。

また、新計画では「ビッグデータの運用能力拡大」や「ヒューマン・セントリックな技術開発」を戦略分野として掲げ、首相府主導のスマートシティ計画「スマートネーション(Smart Nation)」構想との連携により、シンガポール市民の「クオリティ・オブ・ライフ」の向上を目指すことを強調している。

(2)スマートネーション構想

リー・シェンロン首相は2014年8月の施政方針演説(National Day Rally)においてスマートネーション構想を発表、国家単位でのスマートシティ構築を目指すと表明した。

これに伴い、同首相は首相府内局としてスマートネーション・デジタル政府局(Smart Nation and Digital Government Office:SNDGO)(旧称スマートネーション・プログラム局)を新設、同構想を政府全体で推進する役割を与えた。同時に、同構想に基づき運用される情報通信設備基盤の整備は、民間部門はIMDA、公的部門はGovTechが所掌することとした。GovTechはSNDGOの実施機関という位置付けであり、SNDGO及びGovTechを合わせてスマートネーション・デジタル政府グループ(Smart Nation and Digital Government Group:SNDGG)としている。

GovTechは2017年8月にスマートネーション構想の促進に向けた国家戦略プロジェクトを発表し、以下の具体的な課題に取り組むことを明らかにした。2022年6月のGovTechの発表によると、AI、センサ、データ・サイエンスに係るアプリケーション・システムや、商用クラウド上での政府機関向けのアプリケーション・システム等のために、2023年度のICT関連調達費用として、約33億SGDを投じることを発表している。

(3)サイバーセキュリティ政策

2014年7月、「2012年個人データ保護法(PDPA)」が施行され、新たに設立された個人データ保護委員会(PDPC)により、通話拒否登録制度(Do Not Call Registry:DNC)の運用が開始された。

2016年10月、CSAは、以下の四つを重要領域とする「シンガポール・サイバーセキュリティ戦略(Singapore’s Cybersecurity Strategy)」を発表した。

2018年3月2日、国家サイバーセキュリティの監視と維持のための法的根拠である「サイバーセキュリティ法(Cybersecurity Act)」が成立した。これにより、国内の重要情報インフラ(Critical Information Infrastructure)として情報通信、エネルギー、水道等の11分野を指定するとともに、これら重要情報インフラの所有者は、サイバー対策に係る実施基準等の報告やインシデント発生時の報告が義務付けられた。

IMDAでは「電気通信サイバーセキュリティ実践コード(Telecommunication Cybersecurity Code of Practice)」を策定し、シンガポールの主要ISPに対して同コードの順守義務を課しており、適用範囲にはインターネット・サービスを提供するためのネットワーク設備が含まれている。

(4)AI政策

2019年1月、民間セクターがAIソリューションを簡単に導入できるようにするためのガイダンスであるAIガバナンス・フレームワーク(Model AI Governance Framework)の初版を策定。翌年の2020年1月に第二版を策定。2024年1月には生成AIに対応したAIガバナンス・フレームワーク(Model AI Governance Framework for Generative AI)の案を公表。

2023年6月、責任あるAIの実現に資するAIモデル・テストツールを開発運営するためAI Verify Foundationを設立。IMDA、Aicadium、IBM、Microsoft、Google等の大手テック企業を含む7社のプレミアムメンバーの他、60社以上がジェネラルメンバーとして参加。2023年10月には、生成AI評価の標準的アプローチを確立するためのサンドボックス(Generative AI Evaluation Sandbox)を公表。

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Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

電気通信機器(有線端末機器及び無線通信機器)の販売及び使用には、機器供給者によるIMDA基準への適合性認定実施の「供給者適合宣言(Supplier’s Declaration of Conformity)」に基づく、IMDAへの機器登録(Equipment Registration)が必要となる。

登録手続には、主に以下の三つが設けられている。

機器の登録料はGERが350~500SGD、SERが100SGD、ESERが無料で、登録期間は5年間で更新料は50SGDとなっている。IMDAは、機器登録手続の合理化を目的とし、2013年4月25日付で機器登録手続の変更を発表。機器登録の手続や料額を含む「電気通信機器登録ガイドライン(IMDA GUIDE EQR)」の最新版は2023年9月第1版Rev.8となっている。

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Ⅴ 事業の現状

1 固定電話

2005年度以降、固定電話の加入率は減少傾向にあり、2021年末の加入率は前年度比0.2%増の34.6%である。市場シェアはシングテルが2023年6月時点で約56.9%(108.5万回線)を有するが、2014年12月末には81.2%であり、独占度は縮小しつつある。

2 移動体通信

移動体通信市場は、シングテル、スターハブ、M1の設備事業者3社を中心に構成されているが、2016年12月に4番目の事業者としてTPGテレコム(TPG Telecom)に周波数が割り当てられた(電波/Ⅱ-2の項参照)。TPGテレコムは2022年4月にSIMBAテレコム(SIMBA Telecom)に社名が変更された。2023年6月時点の市場シェアはシングテルが45.7%、M1が23.8%、スターハブが23.1%、SIMBAテレコムが7.4%である。

LTEについては、M1が2011年6月、シングテルが2011年12月に、スターハブが2012年9月にLTEサービスを開始している。2022年6月時点のLTE加入者数は811万で、移動体加入者全体の約81.7%を占めている。また、同時点でのLTEの市場シェアはシングテルが45.5%、M1が23.3%、スターハブが19.6%、SIMBAテレコムが11.6%である。2023年7月にはIMDAより、Singtel、StarHub、M1が2024年7月末までに3Gネットワークを完全に廃止し、5G利用のために周波数帯が解放されるとの計画が発表されている。

5Gについては、スターハブが2020年8月、シングテル及びM1が同年9月よりサービスを開始し、SIMBAテレコムは2021年9月から試験サービスを開始した。2023年6月時点の5G加入者数は約144万で、市場シェアはスターハブが35.4%、シングテルが34.0%、M1が22.2%、SIMBAテレコムが8.3%である。

移動体通信サービスを提供しているMVNO事業者は2023年10月時点で、CMLink Singapore、Giga、redONE、GOMO Mobile、Liberty Wireless(ブランド名:Circles.Life)、Blue Wireless、MyRepublic、Zero1、ViviFi等である 。

3 インターネット

IMDA統計によれば、固定有線ブロードバンドの接続方式別の加入者数は、ケーブル・ブロードバンドの唯一の提供事業者であるスターハブが2019年9月末にケーブルテレビも含めたHFC網によるサービスを終了したことから光ファイバの加入者数が増加しており、2023年6月時点で、156万3,800となっている。

また、2023年6月末時点の固定ブロードバンドの市場シェアはシングテルが46.2%、スターハブが36.9%、M1が15.2%と設備ベース事業者3社で市場の98.3%を占めている。

[https://www.imda.gov.sg/、各社ウェブサイト]

Ⅵ 運営体

1 シンガポール・テレコム(SingTel)

Singapore Telecommunications

Tel. +65 6838 3388
URL https://www.singtel.com/
所在地 31 Exeter Road, #19-00, Comcentre 239732, SINGAPORE
幹部 Yuen Kuan Moon(最高経営責任者/CEO)
概要

旧国営事業者で、1993年11月にシンガポール株式取引所に上場した。2023年5月31日時点で、政府系持株会社であるTemasek Holdingsが株式の52.0%を所有している。固定通話、DSL及びFTTHによる固定ブロードバンド、LTEをはじめとする移動体通信事業等、包括的に通信事業を展開している。5Gについては、スタンドアロン(SA)方式5G網の全国カバレッジが、2022年7月に95%に達した。

なお、シングテルは国外への投資に積極的であることで知られ、2022年3月末時点、シンガポールやオーストラリアをはじめ、インド、インドネシア、フィリピン、タイ、アフリカの新興市場を含む21か国、7億7,000万人以上に移動体通信サービスを提供している。2022年3月末現在、シングテルが出資している主な海外事業者は以下のとおりである。

海外出資状況
事業者 国名 出資比率
オプタス(Optus) オーストラリア 100.0%
Advanced Info Service(AIS) タイ  23.3%
Bharti Airtel インド  29.4%
Globe Telecom フィリピン  22.3%
Pacific Bangladesh Telecom バングラデシュ  45.0%
PT Telekomunikasi インドネシア  35.0%

出所:Singtel Annual Report 2023

2 スターハブ(StarHub)

Tel. +65 6825 5000
URL https://www.starhub.com/
所在地 67 Ubi Avenue 1 #05-01 StarHub Green 408942, SINGAPORE
幹部 Olivier Lim(会長/Board Chairman)
Nikhil Eapen(最高経営責任者兼常務取締役/Chief Executive and Executive Director)
概要

2000年4月に、通信市場の自由化により新規参入事業者として固定及び移動体通信サービスを開始した。2002年に国内唯一のケーブルテレビ事業者Singapore Cable Visionと合併し、ケーブルテレビ配信事業及び自社アクセス網によるブロードバンド接続事業を展開することとなった。

また、2009年4月に、NGNBNの卸売サービスについて料金等設定・運用を担う事業者(OpCo)として選定されたニュークリアス・コネクトを新規完全子会社とし2010年8月より事業を開始した。スターハブやシングテルは2010年9月よりNGNBNの小売サービス事業者としてサービス提供を開始している。

スターハブはNGNBNによる超高速ブロードバンド・サービスや移動体通信サービス、また法人に対する固定通話、データ通信サービス等を提供している。なお、HFC網によるサービスは2019年9月末に終了した。SA方式5G網のカバレッジは、2022年7月時点で95%となった。

2022年3月時点で、Asia Mobile Holdingsが55.82%所有しており、日本のNTTコミュニケーションズも9.91%の株式を所有する。

3 M1

Tel. +65 6655 1111
URL https://www.m1.com.sg/
所在地 10 International Business Park, 609928, SINGAPORE
幹部 Manjot Singh Mann(最高経営責任者/CEO)
概要

1997年に「モバイルワン(MobileOne)」として移動体通信事業を開始した競争事業者である。2010年4月に社名をモバイルワンからM1に変更した。主としてW-CDMA/HSPA及びLTE規格による移動体通信サービスを行っているが、ブロードバンドや国際通信では固定サービスも提供している。2012年9月には東南アジアで初めて全国に4Gサービスを展開した事業者となった。SA方式5G網のカバレッジは2022年9月時点で90%を超えている。

M1は2019年3月に上場廃止となった後、2021年10月に、Keppel Corp、SPH(Singapore Press Holdings)及びKeppel DC REITが資産を保有する新たな合弁会社であるM1ネットワークの設立を発表し、Keppel Corpの子会社となった。

[各社ウェブサイト 等]

放送

Ⅰ 監督機関等

1 情報通信省(MCI)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

2 情報通信メディア開発庁(IMDA)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

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Ⅱ 法令

放送法(第28章)(Broadcasting ActCHAPTER 28))

1994年10月1日に施行された放送法は、放送サービスの運営と保有について規定しており、IMDAに放送事業免許の付与権限や放送・広告コードの設定等の権限を与えている。また、省庁再編に伴い施行された「2016年情報通信メディア開発庁法」により、監督機関としてIMDAが規定された。

[https://www.imda.gov.sg/ 等]

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)概要

IMDAは放送免許を「放送法」第8条により、放送事業者に付与する。また、衛星放送免許については、IMDAから衛星通信にかかわる通信免許を取得する必要がある。付与可能な放送免許は「放送法」附則2により20分類が規定されている。同法に基づき、「全国無料(Free-to-air)テレビ放送サービス免許」「全国無料ラジオ放送サービス免許」がメディアコープ(MediaCorp)に付与されている。

現状で申請可能なテレビ放送免許は「全国契約テレビ放送サービス免許」「特定(Niche)テレビ放送サービス免許」の2種である。「全国契約テレビ放送サービス免許」は実質的にリニア放送のIPTVを対象とする免許であり、スターハブ、シングテルのmioTV、M1のMibox、メディアコープのToggleが主な付与対象である。また、「特定テレビ放送サービス免許」は小規模事業者に対して付与され、「個々のチャンネルの視聴者が1日当たり10万以下」及び「提供チャンネル全体での視聴者数が1日当たり25万以下」であることを免許要件とし、ネット動画配信やビデオ・オン・デマンド(VOD)も免許対象のサービスとしている。

(2)外資規制

「放送法」第44条は、放送免許付与条件として、外資比率が49%を超えない、又は、該当事業者ないし持株会社の議決権の49%を超えない、「外国性(foreign sourse)」を持つ役員が半数以下、又は、慣例的や義務的に外国の指示等を受けないことを規定している。「放送法」第43条第9項は、外国性を、シンガポール国外の政府、あるいはその代理人、シンガポール法で設立されたものでない法人、シンガポール国籍を持たない個人としている。

(3)オンライン・メディア

IMDAが2013年6月にインターネット上でシンガポールに関するニュース情報を配信するウェブサイトに対して、放送や新聞と同様に免許制度を導入した。この免許は「放送(クラス免許)告示(BroadcastingClass LicenceNotification)」によって「インターネット・コンテンツ・プロバイダ・クラス免許」として規定されており、国内の月間アクセス数が2か月以上にわたり5万を超えるサイトに取得が義務付けられる。

当地ウェブサイトのジ・オンライン・シチズン(The Online Citizen)は、外資による影響を防ぐことを目的とした資金源情報の報告義務を順守しなかったことから、2021年10月、免許が取り消された。

なお、同月、オンライン・サービス等を通じた国内政治への外国の干渉に対抗することを目的として、オンライン・サービス提供事業者等に対し情報開示やコンテンツ削除等を求めることを可能とする外国介入対策法(Foreign InterferenceCountermeasuresAct)が可決、成立した。

2 コンテンツ規制

(1)コンテンツ・コード

テレビ放送番組は、IMDAが規定する「無料テレビ放送」「契約テレビ放送」「特定契約テレビ放送」等の事業免許分類に対応したコンテンツ・コードを順守する必要がある。このコンテンツ・コードには、テレビ放送に対するもののほか、「ネット動画配信」や「VOD」に対するものも存在する。

また、IMDAは、コンテンツの流動化を企図して、2011年8月1日より有料テレビ放送の独占放映権(Exclusive Carriage Agreements:ECA)を廃止し、競合他社の契約者に対しても番組を開放することを義務付けている。

(2)悪質なコンテンツへの対策

2023年2月1日、「オンライン安全法」(Online Safety (Miscellaneous Amendments)Act)が施行された。オンライン通信サービス上の悪質なコンテンツを規制しオンライン安全性を高めることを目的とし、放送法を改正する内容となっている。悪質なコンテンツには、シンガポールで人種的・宗教的不和を引き起こす可能性のあるコンテンツやテロリズムを擁護するコンテンツ、自傷行為や性的暴力を擁護するコンテンツ、公衆衛生上のリスクをもたらすコンテンツ等が含まれる。本法律によりIMDAは、オンライン通信サービス上で見つかった悪質なコンテンツの閲覧等を無効にする指示をサービス提供事業者に出すことが可能となる。施行段階では、ソーシャルメディアサービス(SMS)としてFacebook、HardwareZone、Instagram、TikTok、X(旧Twitter)及びYouTubeが規制対象となっており、IMDAは2023年6月、SMSに対するオンライン安全性に関する実践規範を策定した。

(3)フェイクニュース対策

インターネットを通じた虚偽情報の拡散及び虚偽情報による社会のへの影響を阻止するため、2019年10月2日に「オンライン虚偽情報及び情報操作防止法」(Protection forOnline Falsehood and Manipulation ACT:POFMA)が施行された。

本法律では、公共の安全に害を及ぼす虚偽情報等をインターネットを通じて流布する行為は禁止されており、政府は、そうした虚偽情報に該当すると判断した場合、当該情報の訂正や停止の指示、あるいは当該情報を配信するサイトへのアクセスブロックを指示することができる。

3 公共放送関連政策

旧国営放送事業者のシンガポール放送協会が1994年に廃止されたため、公共放送事業者は存在しない。

4 地上デジタル放送

デジタル放送の伝送規格は、欧州方式のDVB-Tを採用している。メディアコープが2008年2月から本放送を開始、2013年12月末にすべてのチャンネルでデジタル化が完了した。DVB-T2は2013年に開始され、HD番組の視聴や、HbbTV(Hybrid broadcast broadband TV)対応サービスとしてキャッチアップTVやVODが利用できる。DVB-T2ではメディアコープの六つのチャンネルが視聴できるほか、車等でのモバイル受信も可能である。なお、アナログ放送は2019年1月1日に停波された。

[https://www.imda.gov.sg/ 等]

Ⅳ 事業の現状

1 テレビ

地上テレビ放送は、メディアコープの独占状態にある。英語系のチャンネル5、中国語系のチャンネル8及びチャンネルU、マレー語系のSuria、タミール語系のVasantham、英語系ニュース専門チャンネルのChannel News Asia(CNA)の計6系統の放送が提供されている。

2 衛星放送

個人による衛星放送の直接受信は禁止されている一方で、外国衛星放送については税制上の優遇措置を与えて誘致を進めている。

3 ケーブルテレビ

伝統的な同軸ケーブルによるケーブルテレビ配信事業はスターハブ子会社のスターハブTV(旧スターハブ・ケーブルビジョン)1社の独占市場であったが、スターハブは2019年9月末にインターネットも含めたケーブルテレビ網によるサービスを終了した。

これにより、有料テレビ市場はシングテル(ブランド名:SingTel TV)、スターハブ(ブランド名:StarHub TV)及びM1の移動体通信3大事業者によるIPTVサービス中心となるが、NetflixをはじめメディアコープによるmeWATCH等のビデオ・ストリーミング・プラットフォームによるOTT(Over The Top)サービスの利用者の増加により、有料テレビの世帯普及率は低下すると予想されている。

4 ラジオ

無料によるラジオ事業者は現在3局ある。メディアコープ傘下のメディアコープ・ラジオ(MediaCorp Radio)が11系統のFM放送を提供し、meLISTENというオンライン・ラジオでも聴取できる。その他、国軍予備役協会によるSo Drama! Entertainment(旧SAFRA Radio)及びSingapore Press Holdings傘下のSPH Radioが存在する。また、BBC World Serviceが唯一の外国放送として国内向けに放送されている。

[各社ウェブサイト 等]

Ⅴ 運営体

メディアコープ

MediaCorp

Tel. +65 6333 3888
URL https://www.mediacorp.sg/
所在地 1 Stars Avenue 138507, SINGAPORE
幹部 Tham Loke Kheng(最高経営責任者/CEO)
概要

国営放送を前身とする複合メディア企業で、傘下にメディアコープTV、メディアコープTV12、メディアコープ・ニュース、メディアコープ・ラジオ等がある。地上テレビ放送に関しては、独占的な地位を保持している。

[https://www.mediacorp.sg/]

電波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

(1)情報通信省(MCI)

(通信/Ⅰ-1の項参照)

(2)情報通信メディア開発庁(IMDA)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

周波数政策の施行は、競争・基盤開発局(Competition and Enabling Infrastructure Development Wing)下の政策・競争部(Policy and Competition Development)の資源管理・標準課(Resource Management and Standards)が所掌し、国際及び地域的な周波数使用の計画並びに協調、国内の周波数割当及び管理、電波干渉の監視及び解決等を行う。

2 標準化機関

エンタープライズ庁

Enterprise Singapore

Tel. +65 6898 1800
URL https://www.enterprisesg.gov.sg/
所在地 230 Victoria Street, Level 9, Bugis Junction Office Tower, 188024, SINGAPORE
幹部 Lee Chuan Teck(長官/CEO)
所掌事務

国際エンタープライズ庁(International Enterprise Singapore)及び規格生産性・革新庁(SPRING Singapore)が統合し、エンタープライズ庁(Enterprise Singapore)が2018年4月1日に新たに発足した。同庁が国家標準化機関及び認定機関としての役割を担う。

[https://www.enterprisesg.gov.sg/ 等]

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理政策の概要

IMDAは、電波監理上の責任を有し、国際、地域、地域圏での周波数利用の計画・調整、国内での周波数割当、電波干渉の監視と解決を行う。国際レベルではITUの世界無線通信会議(World Radiocommunication Conference:WRC)、アジア・太平洋地域ではアジア・太平洋電気通信共同体(APT)で決定される枠組みに従い、また、マレーシア及びブルネイとの3か国間で定期的に会合を持ち、周波数の調整について協議を行っている。この会議は、シンガポール・マレーシア・ブルネイ周波数割当委員会(Frequency Assignment Committee, Singapore, Malaysia and Brunei Darussalam:FACSMAB)と呼ばれる。更にインドネシアとの間では、インドネシア・シンガポール技術調整委員会(Indonesia Singapore Technical Coordination Committee:ISTCC)が国境周辺の周波数調整及び干渉について検討する。

周波数管理政策の詳細は、IMDAが策定する「周波数管理手引書2022年6月版(Spectrum Management Handbook, Issue 1 Rev 2.16 – June 2022)」に記述されているほか、産業界や関連団体に電波監理政策や近い将来の周波数配分及び再分配、無線通信技術動向を周知するために、「周波数基本計画2014年8月版(Radio Spectrum Master Plan(IDA RSMP, Version 2.7, August 2014))」が策定されている。2023年4月時点で、本基本計画はIMDAにより更新作業中である。

周波数の割当てには、比較審査方式と、オークションによる周波数の有効利用を目的とした市場ベースの割当方式の両者が採用されている。

2 周波数オークション

IMDAは2016年11月、新規参入周波数オークション(New Entrant Spectrum Auction:NESA)を実施し、当時オーストラリアを本拠地とする通信事業者であったTPGテレコム(現SIMBAテレコム)が、オークション対象である900MHz帯20MHz幅及び2.3GHz帯40MHz幅を落札し、国内第4の移動体通信事業者となることを発表した。同社の免許は2017年4月から発効し、18か月以内に屋外で、30か月以内に屋内及び道路トンネルで、54か月で地下鉄路線全域において、4Gサービスを提供することが義務付けられている。

オークションの第2段階として、IMDAは2017年4月、既存事業者であるシングテル、スターハブ、M1も入札可能な一般周波数オークション(General Spectrum Auction:GSA)を実施し、総計175MHzをシングテル、スターハブ、M1及びSIMBAテレコムの4事業者に割り当てたことを発表した。落札額は総額11億4,500万SGDであった。IMDAは700MHz幅帯については2018年初頭から、900MHz帯及び2.5GHz帯については2017年7月からサービスを開始することを各社に求めている。事業者別に見ると、シングテルには700MHz帯が10MHz幅×4、900MHz帯が10MHz幅×2、2.5GHz帯が5MHz幅×3の総計75MHz幅、スターハブには700MHz帯が10MHz幅×3、900MHz帯が10MHz幅、2.5GHz帯が5MHz幅×4の総計60MHz幅、M1には700MHz帯が10MHz幅×2、900MHz帯が10MHz幅の総計30MHz幅、SIMBAテレコムには2.5GHz帯が5MHz幅×2の計10MHz幅が割り当てられている。

3 5Gトライアル向け周波数

IMDAは5Gの技術及びサービスのトライアルを促進するため、2019年12月末まで周波数利用料を免除した。トライアルには技術トライアル(Technical Trial:TT)と市場トライアル(Market Trial:MT)があり、前者は機器試験やR&Dを実施する一方、後者は商用化されていない新たな技術、サービス、製品の商用可能性を評価するためのもので、トライアル・サービスの参加者に課金することが可能である。免除期間は当初2019年12月末であったが、一部のトライアルについては2021年6月末まで延長され、その対象となる5Gトライアルで周波数利用料が免除される帯域は以下のとおりである。

1-6GHz:3400-3650MHz(3.5GHz)

6GHz以上:24.25-27.5GHz(26GHz)、27.5-29.5GHz(28GHz)

4 5G周波数

2020年6月、5G使途の周波数として3.5GHz帯とミリ波帯(26/28GHz帯)が比較審査によって割り当てられた。スターハブとM1は入札に当たり合弁事業コンソーシアム(JVCo)を結成し、当該周波数を共同で取得した。3.5GHz帯の割当事業者はSA方式5G網で2022年末までに50%、2025年末までに100%の国土をカバーすることが義務付けられている。なお、比較審査では五つの評価指標(ネットワークの設計と回復力、ネットワークの展開とパフォーマンス、周波数の価格、財務能力、卸売サービス)について審査が行われた。IMDAは5G網に対する包括的なセキュリティや回復力を要件としているが、事業者によるベンダの選択は商業上の決定であって、制度上は特定のベンダを排除していない。

IMDAは、2021年末に免許期限を迎える2.1GHz帯の3G免許をSA方式5Gサービス向けの免許として、2021年11月にオークションによって既存MNO 3者に割り当てた。シングテルとJVCoは25MHz幅×2を、SIMBAテレコムは10MHz幅×2を落札した。シングテルとJVCoの落札周波数には、既存の3Gサービスを継続するための5MHz幅×2が含まれる。SIMBAテレコムは、2.1GHz帯のSA方式5G網について、2023年末までに50%、2026年末までに100%の国土をカバーすることが義務付けられている。

シンガポールにおける5G周波数の割当事業者と取得帯域幅
事業者 JVCo シングテル SIMBA
テレコム
M1 スターハブ
3.5GHz帯 100MHz幅 100MHz幅
ミリ波帯 800MHz幅 800MHz幅 800MHz幅 800MHz幅
2.1GHz帯 25MHz幅×2 25MHz幅×2 10MHz幅×2

既存の3Gサービスを継続するための5MHz幅×2を含む。

出所:情報通信メディア開発庁

IMDAは5Gサービスの推進領域として、①海事(Maritime)、②都市交通(Urban Mobility)、③スマート不動産(Smart Estates)、④インダストリー4.0(Industry 4.0)、⑤消費者アプリケーション(Consumer Applications)、⑥政府アプリケーション(Government Applications)の六つの領域を指定している。IMDAは2022年8月、シンガポール海事港湾庁(Maritime and Port Authority:MPA)と共同で、世界初及び最大級のSA方式5G海洋テストベッド「5G@SEA」を構築すると発表した。IMDAは、今後10年間の海洋5Gユースケースの開発・商用化を目的として、2025年半ばまでに港湾の完全な5Gカバレッジを目指すとしている。SA方式5G網を提供するのは、移動体通信大手M1である。

2023年5月、シンガポールの5GネットワークとNBNの補完のため、Wi-Fi 用に6 GHz帯(5,925~6,425MHz)の500 MHzスペクトルを割り当てることがIMDAより発表された。ユースケースとして、相互接続されたデバイスや自律移動性を備えたロボットの導入、より高速なデータ転送を伴う生成 AI の適用、複数の関係者が参加するより没入型のオンライン エクスペリエンスを備えた拡張現実(AR)または仮想現実(VR)の導入が進むと期待される。

5 6G研究開発

IMDAは、6G等未来通信技術の研究開発や人材育成を推進するため未来通信研究開発プログラム(Future Communications Research & Development Programme:FCP)において2021年から2024年にかけて7千万SGD規模の予算を投じるとしている。

このFCPの一環として、2022年9月、IMDAはSUTD(Singapore University of Technology and Design)と提携し、東南アジアで初の6G研究開発ラボとなるFuture Communications Connectivity(FCC)ラボを設立した。当該ラボは、6Gの研究開発とSUTDの人工知能(AI)メガセンターとを組み合わせることで、未来の通信技術の最先端の研究を加速させ、6G研究のブレークスルーを引き出し、次世代の自動運転車やドローンをサポートするホログラフィック通信やインテリジェント・センシング機能等の新技術をサポートすることを目的としている。また、国立研究財団(National Research Foundation:NRF)の支援も受け、マルチアクセス・エッジ・コンピューティング、ネットワーク・オーケストレーション、非地上波ネットワーク、セキュリティ等の研究分野をカバーする。

なお、FCPの取組事項には、6G研究開発における主な機関との国際パートナーシップ構築も含まれており、フィンランドの6Gフラッグシップや韓国通信情報科学院(Korean Institute of Communications and Information Sciences:KICS)等と既にパートナーシップを締結している。

[https://www.imda.gov.sg/]

Ⅲ 周波数分配状況

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