タイ王国(Kingdom of Thailand)

通信

Ⅰ 監督機関等

1 デジタル経済社会省(MDES)

Ministry of Digital Economy and Society

Tel. +66 2086657
URL https://www.mdes.go.th/
所在地 120 Moo 3, Prathunam Bldg, 6-9 floors, Government Complex, Thanon Chaeng Watthana, Thung Song Hong, Khet Laksi, 10210, THAILAND
幹部 Prasert Chandraruangthong(大臣/Minister)
所掌事務

2016年9月、省庁再編に伴い設立された。前身である情報通信技術省(Ministry of Information and Communications Technology:MICT)から概ねすべての部局と権限を引き継ぎ、以下を設立目的とする。

同省は、通信、放送、電子取引、データ・プライバシー、コンピュータ犯罪、インターネット・コンテンツを所掌する。また、所掌業務を補完する外局として電子取引開発庁(Electronic Transactions Development Agency:ETDA)、デジタル経済振興庁(Digital Economy Promotion Agency:DEPA)を有するほか、国有通信事業者National Telecom(NT)(Ⅲ-2(1)の項参照)、タイ郵便(Thailand Post)も同省の所管である。

2 国家放送通信委員会(NBTC)

National Broadcasting and Telecommunications Commission

Tel. +66 2670 8888
URL https://www.nbtc.go.th/
所在地 87 Phaholythin 8 (Soi Sailom), Samsen Nai, Phayathai, Bangkok 10400, THAILAND
幹部 Sarana Boonbaichaiyapruck (委員長/Chairman)
所掌事務

NBTCの前身である国家通信委員会(National Telecommunications Commission:NTC)は「1997年タイ王国憲法」第40条を受けて2000年3月に公布された「NTC-NBC法」に基づき、2004年10月に設立、同年11月1日より業務を開始した。2010年12月には、通信事業と放送事業を監督するNBTCの設置を規定する法律「NBTC法」(Ⅱ-1の項参照)が施行され、2011年9月にはNBTCの委員が選出された。NBTCの主な所掌事務は以下のとおりである。

NBTCの委員数は従来11名であったが、2016年改正で7名となった。2022年に委員改選が実施され、2024年11月時点では定員7名が選出されている。

Ⅱ 法令

1 周波数割当及び放送・電気通信規制のための組織に関する法律(Act on Organizations to Assign Radio-Frequency Spectrum and to Regulate Sound Broadcasting, Television Broadcasting and Telecommunication Services:NBTC法)

2010年12月施行。電気通信事業と放送事業を監督するNBTCの設置及び所掌業務等を規定している。NBTCの主な所掌業務には、当該分野での政策立案及び電気通信部門のマスタープランの策定、 周波数の利用免許付与及び規制、電気通信事業の免許付与及び規制、電気通信サービスのための標準化と技術仕様の決定、相互接続の規則及び手続の規定の策定、消費者保護の規則と手続の規定の策定、公正で自由な競争のための規定の策定等がある。

2017年6月及び2019年一部改正。2017年改正でNBTCが既存の免許人から未使用又は利用率の悪い周波数を再割当のために回収し、免許人と他の関係者間で周波数を共有できるようなった。また、周波数需要が逼迫していなければ、周波数オークションは免除可能となった。

2 電気通信事業法(Telecommunications Business Act

2001年施行、2006年及び2019年一部改正。事業免許、市場競争のセーフガード、相互接続、料金、ユニバーサル・サービス、線路敷設権に関する手続の整備等、市場競争の環境整備について規定している。

3 憲法

2007年憲法第47条では、放送分野及び通信分野の規律、周波数監理を行う単一の機関の設置を規定している。その後、新憲法が2017年4月に施行された。2017年憲法第60条では、周波数と衛星軌道を国家資産と位置付け、同第274条でNBTCがこれらの国家資産の管理を行うと規定している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)事業免許

「電気通信事業法」第7条において、電気通信分野の事業免許は、以下の3種類が規定されている。

同法によると、NTC(現NBTC)は以下の3種類の免許について免許取得条件を定め、「電気通信事業法」施行以前からの既存事業者には免許を発行しなければならないと規定している。なお、同法の各免許基準については、NBTCが詳細を規定する。

事業免許種類

免許 定義

第1種

事業免許

  • 非設備ベースのサービス
  • 自由なサービス提供が妥当と思われる性格のサービス
  • NTC(現NBTC)への届け出後、認可

第2種

事業免許

  • 非設備ベース、あるいは設備ベースのサービス
  • 特定の利用者に提供されるサービス
  • 自由で公正な競争、公の利益、消費者保護の観点から、重大な影響のないサービス
  • NTC(現NBTC)が定めた免許条件に事前に完全に合致後、認可

第3種

事業免許

  • 事業者が基盤として運営する設備をベースとするサービス
  • 一般公共に対して提供されるサービス
  • 自由で公正な競争、公の利益の観点から、重大な影響のあるサービス、消費者を保護する理由のあるサービス
  • NTC(現NBTC)による審査後、認可
(2)免許条件とユニバーサル・サービス基金

2012年にユニバーサル・サービス基金制度の改革が実施された。従来のユニバーサル・サービス基金をNBTC基金(the Broadcasting and Telecommunications Research and Development Fund for the Public Interest)へ移管し、用途についても高速インターネットに拡大するものとされた。任期3年の11名の基金管理委員会がユニバーサル・サービス基金の管理を担うことになった。

2 競争促進政策

(1)新国有事業者National Telecom(NT)の設立

政府系事業の合理化のために、 国有事業者のTOTとCAT Telecomの統合と新事業者NTの設立が進められ、タイ内閣が2020年1月にこれを承認し、2021年1月7日に新会社として登記された。これに伴い、旧CAT Telecomと旧TOTの通信ネットワーク・インフラを含め新会社に移管された。なお、合併後の資産はMDESが保有する。

(2)事業者合併

総合通信事業者Trueと移動体通信事業者DTACの両社は2021年11月、事業統合で合意した。DTACの親会社ノルウェーのテレノール(Telenor)グループと、Trueの親会社であるタイのコングロマリットCPグループが新通信会社設立へ向けて覚書に署名したことによるもの。NBTCは、同事業者合併に関し、国内通信市場や業界への影響等について調査を実施し、2022年10月、両社の合併を認める決定を下した。両社の合併後、新事業者の加入者ベースの国内市場シェアは54%となり、これまでの第1位の事業者AISのシェア44%を超えるため、NBTCは、料金上限及び平均コストに基づく料金設定等の規制を行うこととしている。また、新会社が現在の事業者名を3年間使用することも合併承認の条件としている。2023年3月、両社は合併プロセスを完了し、新たに「True Corporation(True Corp)」が設立された。

また、2022年7月に、移動体通信大手AISが、ブロードバンド事業大手Triple T Broadband(TTTBB)の買収と、Jasmine Broadband Internet Infrastructure Fund(JASIF)への出資を表明し、2023年11月にNBTCが株式の取得の承認を決議し、AISは買収と出資が完了したことを公表した。これにより、AISの子会社であるAdvances Wireless Network(AWN)とTTTBBが合併した。

(3)外資規制

「電気通信事業法」では、第2種事業免許及び第3種事業免許の事業者の外資規制は、25%と規定されていた。2012年7月、NBTCは外資規制に関する規制の改正を承認し、電気通信事業における外資の優越の防止を図った。その一方で、国内の電気通信事業に対して、「電気通信事業法」及び「外国人事業法(Foreign Business Act)」を順守し、改めて外資の上限比率は50%未満という指針を示した。

(4)MVNO

2012年以降、NBTCはMVNO法により移動体通信事業者(MNO)に対しネットワーク容量の10%をMVNOに提供するよう義務付けるとともに、MVNOに対して以下の項目を順守することを要求している。

また、NBTCは2024年1月に、MNO以外の通信サービスへのアクセス機会を拡大するために、1地域にMVNO 1社を設立する「One Region, One MVNO」体制を構築する方針を明らかにした。同方針に従い2026年にMVNO 4社が新設されるとしている。

3 情報通信基盤整備政策

(1)デジタル経済社会開発計画

2016年2月、政府は、デジタル経済社会開発計画案を作成し、同年4月に閣議がこれを承認した。20年間で計四つのフェーズで進められる長期計画であり、1年半の期間の第1フェーズでは、デジタル基盤を構築、5年目までの第2フェーズでは、すべての人がデジタル技術の恩恵が受けられるように包括性を向上させ、10年目までの第3フェーズでは、デジタル技術とイノベーションにより国を変革する、20年目までにデジタル・リーダーシップを獲得し、先進国となるという計画である。戦略的な取組領域は六つ設定されており、①全国に大容量のデジタル・インフラの構築、②デジタル技術による経済活性化、③知識駆動型のデジタル社会の創出、④デジタル政府への変革、⑤デジタル時代に対応した労働力の育成、⑥デジタル技術の利用における信頼の構築となっている。

(2)「Thailand 4.0」ビジョン

タイ政府は、2016年にデジタル技術を活用して経済社会開発を加速させる政策ビジョン「Thailand 4.0」を打ち出した。20年間にわたる長期戦略計画により、創造性、イノベーション、技術を重視して、経済政策と構造改革を実施していくとしている。対象となる産業分野としては、①次世代自動車、②スマート・エレクトロニクス、③メディカル&ウェルネス・ツーリズム、④農業・バイオ技術、⑤食品加工、新しい産業として⑥ロボティックス、⑦バイオ燃料・バイオ化学、⑧航空・ロジスティックス、⑨医療ハブ、双方に跨がる産業として⑩デジタルが挙げられている。なお、首相府広報局(Government Public Relation Department:PRD)の記事によると、タイの発展は以下の3段階を経ており、「Thailand 4.0」はその次の発展段階を指すものとされている。

(3)デジタルパークタイランド(EECd)の開発

MDES等が中心となり、チョンブリ県シラチャにデジタル産業の集積エリア(デジタル産業・スタートアップ企業のサポートやイノベーション拠点、教育用施設等を含む)を構築するプロジェクトで、2021年10月には、デジタル産業の振興を目的に、新たなテクノロジーの試験・開発拠点「デジタル・イノベーション・センター」の開設に向けて詳細を発表した。デジタル・イノベーション・センターは、面積4万m2の敷地に、5G、AI、IoT、VR/AR、クラウド技術に関する設計・開発・試験等の設備を開設する。

(4)2023年電気通信開発戦略

MDESは、2023年9月、「電気通信開発の方向と利用に関する提案」を公表した。今後5年間(2024~2028年)の電気通信サービスや技術の提供・利用に関する将来予測(Foresight)を踏まえ、開発・活用の方向性について検討したもので、タイにおける通信・デジタル技術の活用を促進するエコシステムを構築するうえで必要となる政策目標として「あらゆる地域をカバーするブロードバンド・ネットワークの構築と利用を推進」「電気通信の発展に有益な情報開示の推進」「産業におけるデジタル技術の活用に適したインフラの整備」等が掲げられている。

4 ICT政策

(1)2024年デジタル経済政策

MDESは2024年1月、同年に展開するデジタル経済への取組骨子を発表した。経済成長の15~30%をデジタル化で担い、国民所得増加の基盤づくりを進めることを基本コンセプトに、以下の施策を実施するとしている。

(2)電子政府

デジタル政府開発庁(Digital Government Development Agency:DGA)は2022年9月に、「外国人向け次世代政府サービス・ロードマップ(Next of Digital Government Service for Foreigners Roadmap)」を策定した。2022~2027年の間に、観光客、外国人の労働者、ビジネス訪問者・投資家、長期滞在者が、入国から出国までに必要とする公的情報を提供するデジタル・サービス・プラットフォームを構築するもので、外国人滞在者に関係する31の公的機関サービスをワンストップで提供することを目指している。ビザ、観光、医療、公共安全、金融・税、ビジネスにかかわる既存サービスをデジタル技術で改善するほか、これら分野に新たに38種のサービスを追加し、単一ポータルで提供する。

5 消費者保護政策

タイ政府はオンライン詐欺対策を強化するため、2023年11月に「アンチオンライン詐欺業務センター(AOC1441)」を開設した。政府報告によれば、2022年3月から2023年9月までの間のオンライン詐欺の被害状況は、被害件数33万件、被害総額450億THBと深刻さを増しており、オンライン犯罪の防止と被害の解決を図るために専門機関の設置に至ったとしている。同センターは、MDESの所管の下、以下の業務を実施する。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

「電気通信事業法」及び「無線通信法」の規定に基づいて、NBTCが電気通信機器の技術規則の制定を行う。NTC(現NBTC)は2007年に無線機器を含む電気通信機器の新しい基準認証制度を発表した。機器はNBTCが定める技術規則を満たしたことをNBTC又は外部の試験認証機関によって証明された後、NBTCによる登録(Class A)又は認証(Class B)を受けて市場に出される。また、短距離無線機器等の簡易な機器については、供給者適合宣言(Supplier’s Doclaration of Conformity:SDOC)での販売が可能である。

Ⅴ 事業の現状

1 固定電話

固定電話回線数は2023年末現在約408万であり、年々減少傾向にある。NTが最大の事業者となっている。

2 移動体通信

(1)概要

国内初の商用LTEサービスは、旧True(現True Corp)が2013年5月に2.1GHz帯を利用して開始し、2016年に商用LTE-Aサービスを開始した。AISは2016年1月、1800MHz帯及び2100MHz帯のLTE-Advanced (LTE-A)サービスを開始した。一方、旧DTACは2015年11月に従来の2100MHz帯のLTEサービスを拡張し、バンコク都内で1800MHz帯のLTEサービスを開始した。また、国有事業者NTに統合される以前の旧CAT Telecomと旧TOTが、それぞれ2016年11月と2018年6月からLTE方式でのサービスを開始した。

5Gについては、AISが2020年2月に2.6GHz帯、旧Trueが同年3月に2.6GHz帯、旧DTACが同年8月に26GHz帯及び700MHz帯でそれぞれサービスを開始した。

(2)MVNOの動向

主要MVNOはFeels、The White Space Co(Penguin SIM)、i-Koolである。

3 インターネット

主な固定ブロードバンド事業者はAIS、NT、True Corpである。AISは、2023年11月に固定ブロードバンド大手であったTTTBBを統合し、これを契機に加入者シェアを拡大した。

伝送技術は、2018年までDSLが主流であったが、その後光ファイバのシェアが増加している。

Ⅵ 運営体

1 National Telecom Public Company Limtied(NT)

Tel. +66 2 104 1999
URL https://www.ntplc.co.th/
所在地 99 Chaengwattana Road, Thung Song Hong Subdistrict, Lak Si District, Bangkok 10210, THAILAND
幹部 Sapphachai Huvanandan(社長/President)
概要

国有通信事業者CAT Telecom及びTOTの合併により、2021年1月に設立された新事業者。MDES傘下の国有企業として旧CAT Telecom・旧TOTの事業を継承する。資産管理はMDESが所管する。

2 その他の主な事業者

事業分野 事業者 URL
移動体通信等 AIS https://www.ais.th/
True Corp https://www.true.th/home
衛星通信 Thaicom https://www.thaicom.net/

放送

Ⅰ 監督機関等

1 国家放送通信委員会(NBTC)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

「2007年憲法」では、通信事業と放送事業を監督するNBTCの設置が規定され、2010年12月には設置のための法律「NBTC法」(通信/Ⅱ-1の項参照)が施行され、放送事業の監督、周波数監理等を担うこととなった。

2 首相府広報局(PRD)

Government Public Relations Department

Tel. +66 2 618 2323
URL https://thailand.prd.go.th/
所在地 Rama VI Rd., Soi 30, Bangkok 10400, THAILAND
所掌事務

政府の広報的役割を所掌している。放送、出版及びマルチメディア政策を通じて政府の広報活動を行っている。教育放送的性格を有する国営地上テレビ放送と国営ラジオ放送を所有している。財源は国庫交付金のほか、広告時間帯の使用料収入である。

Ⅱ 法令

1 2008年ラジオ・テレビ放送法

2008年3月に同法が制定された。同法では、放送免許の枠組みを定めている。2017年一部改正。

2 周波数割当及び放送・電気通信規制のための組織に関する法律(通称:NBTC法)(2010年・2017年改正)

(通信/Ⅱ-1の項参照)

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

「2008年放送法」に基づき、放送免許は三つ(公共サービス用、地域サービス用、商業サービス用)に分類されている。放送免許体系では、設備免許とネットワーク免許とは別に、個別の放送系統を提供するサービス免許枠が設けられており、放送サービスの系統を提供する場合には、サービス免許も合わせて取得する必要がある。

2 コンテンツ規制

「2008年放送法」では、民主主義体制、国家の安全、国民の良心、道徳、健康を脅かす番組は禁止されている。

3 デジタル放送

NBTCは、2012年にデジタル放送の方式を欧州方式(DVB-T2)と決定、2013年12月末に高画質(HD)バラエティ7局、標準画質(SD)バラエティ7局、報道7局、子ども・教育局3局の合計24局分の放送免許についてオークションを実施した。

2014年4月から、公共サービス部門の3系統と商業サービス部門の24系統(2015年12月以降は22系統)の地上デジタル放送が、バンコク都、チェンマイ県、ナコンラーチャシーマー県等で開始された。その後、2015年に商業2系統が終了し、また2019年に7系統がNBCTに返納されている。2019年10月のデジタル放送事業は、13商業事業(15系統)、4公共事業(5系統)。

4 放送事業基本計画

NBTCは2020年9月、「第2次放送事業基本計画(2020~2025)(Notification of The NBTC on the Second Broadcasting Master Plan B.E. 2563–2568(2020-2025))」を公示した。①放送サービスの運用のための周波数の利用免許と認可、②ラジオ放送・テレビ放送サービスにおける自由で公正な競争の開発と推進、③非営業目的及び市民向けでのラジオ・テレビ放送用周波数の利用推進を原則に、以下の目標を達成することとしている。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

NBTCが3種類のラジオ放送免許を交付している。2019年8月時点、コミュニティ向け、公共サービス・ラジオを合わせ、4,000局以上の免許が交付されている。

主なラジオ放送事業者は、PRD直轄のタイ国営放送局(National Broadcasting Service of Thailand:NBT)が運営するRadio Thailandである。

国際放送は、NBTが海外向けサービスとして、12言語で「Radio Thailand World Service」を提供している。

2 テレビ

デジタル放送開始時には27系統で始まったが、その後、新規参入や退出が相次ぎ、競争激化で経営状態の悪い局が出てきたため、2018年5月23日、タイ国家平和秩序評議会(National Council for Peace and Order:NCPO)は2017年憲法44条に基づき、NBTCに対してデジタルテレビ事業権料の支払いが困難な放送事業者に3年の猶予を設ける命令を発出した。2019年8月に4系統、9月に3系統が放送を終了した。2019年末時点、公共サービス部門の5系統と商業部門の15系統のサービスを提供している。

3 衛星放送・ケーブルテレビ

衛星放送とケーブルテレビ・サービスのプラットフォーム事業者は、True VisionsやPSI(Poly Satellite Industry)等がある。最大手事業者は、2003年に設立されたCPグループ傘下のTrue Visionsで、2006年には1998年設立のUBCを合併した。PSIはIPTVも提供している。

また、メディア企業のプージャッガーンが保有するASTV(Asia Satellite TV)がNSS6衛星を使用している。ASTVでは、規格に合致した衛星アンテナを設置することで、国内外の放送を無料で受信できる。

Ⅴ 運営体

1 首相府広報局(PRD)

(Ⅰ-2の項参照)

概要

PRDが、NBT、Radio Thailandを所有している。

2 タイ公共放送(TPBS)

Thai PBS

Tel. +66 2790 2000
URL https://www.thaipbs.or.th/
所在地 Head Office Building, 145 Vibhavadi Rangsit Road Bangkhen Market Subdistrict Laksi., Bangkok 10210, THAILAND
幹部 Wilasinee Pipitkul(会長/Director General)
概要

2007年10月に成立、2008年1月に施行された「公共放送機構法」により設置されたタイで唯一の公共放送。広告は入れず、財源は酒税とたばこ税による税収総額の1.5%で20億THBを超えない額と定められている。

3 タイ・マスコミ公団(MCOT)

Mass Communication Organization of Thailand Public Company Limited

Tel. +66 2201 6000
URL https://www.mcot.net/
所在地 63/1 Rama IX Rd., Huay Kwang, Bangkok 10310, THAILAND
幹部 Phatiyuth Jaiswang(総裁代理/Acting Director - General)
概要

地上デジタル・チャンネル(9 MCOT HD チャンネル30)を提供している。タイ国営企業資本法(Capital of State Enterprise Act)BE 2542(1999年)により株式会社化され、2004年8月にタイ証券取引所に上場した。発行済株式の66%を財務省が、12%を政府貯蓄銀行が保有しており「公団」の名称は続いている。

電波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

国家放送通信委員会(NBTC)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

2 標準化機関

タイ産業標準機構(TISI)

Thai Industrial Standards Institute

Tel. +66 2430 6815
URL https://www.tisi.go.th/
所在地 75/42 Rama VI Rd., Ratchathewi, Bangkok 10400, THAILAND
幹部 Wanchai Phanomchai(事務総長/Secretary General)
所掌事務

消費者保護、自然環境保護、産業育成、標準化の推進による貿易の推進を目的として、1966年に設立された。TISIは、「1968年産業製品標準法(Industrial Products Standards Act B.E. 2511(1968))」「2008年国家標準化法(National Standardization Act B.E.2551(2008))」や工業省(Ministry of Industry)の政策及びマスタープラン、政府の政策等に基づき活動を行っている。

標準化関連では以下の活動を行っている。

なお、ISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議:International Organiza­tion for Standardization/International Electrotechnical Commission)の委託を受けて、同規格の標準設定・審査も行っている。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理の概要

NBTCは、2011年に発足後、2012年4月には、「電波管理・通信・放送基本計画」を施行した。同計画は、周波数管理、通信分野、放送分野における基本計画を定めたものである。その中で周波数管理については「2012年周波数管理基本計画」が定められ、国民に対して最高の利益を生み出すように周波数管理を行うこととして、自由で公正な競争を考慮し、公共の利益に関する多様な事業にあまねく周波数利用を普及させるとのビジョンに基づいて、次の六つの目標を掲げている。

2 無線局免許制度

「NBTC法」第41条及び第45条により、すべての無線機器の製造、保有、輸出入、売買、利用には、別に定める場合を除いて、免許を必要とする。一部移動電話、コードレス電話、CB無線機器等については、個別に省令で定めることによって、免許不要での使用を許可している。なお、旧法で認められた免許不要局は継続して有効であり、Wi-Fi機器については、2004年1月に、ワイヤレス・マイク、コードレス電話機、GSM端末、ISM機器、2.4-2.5GHzで100mW以下の無線機器等の免許不要での使用が認定された。また、RFIDについてはUHF帯(920-925MHz)が割り当てられているが、出力0.5W以上では免許が必要である。

3 周波数割当

タイでは、NBTCが設立される2011年以前は、国有企業の旧TOTと旧CAT Telecomに対してのみ、周波数が割り当てられていた。一方で、民間企業(AIS、旧DTAC、旧True等)は、BTO(Build-Transfer-Operate)方式により、国有企業からモバイル事業権(mobile concession)を付与されることによって、モバイル・サービスを提供していた。BTO方式は、民間企業が整備したインフラ資産は国有企業が保有し、民間企業の収益はレベニュー・シェアによって国有企業へその一部が還元される仕組みで、現在でも存続している。

2011年のNBTC設立により、民間企業に対してオークションによって周波数を割り当てる権限がNBTCに付与され、民間企業が周波数免許を保有することが認められるようになった。同国初となる周波数オークションは2012年12月に実施され、既存事業者3社(AIS、旧DTAC、旧True)が2100MHz帯(1920-1965MHz/2110-2155MHz)の15MHz幅×2の3枠を獲得、3G免許が付与され、2013年5月からサービスが開始された。更に、NBTCは1800GHz帯(1710-1740MHz/1805-1835MHz)を4Gに割り当てるための周波数オークションを2015年11月に実施、15MHz幅×2の2枠を旧TrueとAISの2社が落札した。1800MHz帯4Gの免許期間は18年間で、4Gの人口カバレッジは2年以内に50%、4年以内に80%を達成するほか、3G料金よりも安く、低所得者向けには特別料金でLTEを提供することが求められる。なお、旧CAT Telecomは優先的に20MHzの帯域を割り当てられている。

900MHz帯(895-915MHz/940-960MHz)の4Gオークションは、2015年12月に実施され、10MHz幅×2の2枠を旧Trueと旧Jas Mobile Broadbandが落札した。旧Jas Mobile Broadbandは支払期限までに免許料を用意できず免許を取得できなかった。2016年5月に900MHz帯のオークションが再び行われ、AISが756億5,000万THBで落札し900MHz帯の免許を取得した。

また、NBTCは、2018年8月に、1800GHz帯(45MHz幅×2)と、900MHz帯(5MHz幅×2)のオークションを一緒に実施した。1800MHz帯は、AISと旧DTACがそれぞれ、一つのロット(5MHz幅×2)を125億1,100万THBで落札した。一方、900MHz帯は、近接する帯域に、NBTCが高速列車の移動体通信システムとして使用するとして運輸省と了解覚書を締結している帯域があり、入札条件には入札者が干渉対策をすることとなっていること等から敬遠され、応札者がなかった。

NBTCは落札されなかった900MHz帯の再オークションを2018年10月に実施、旧DTAC 1社が入札に応じ、379億8,000万THBで落札した。

なお、政府は5G投資促進政策のため、通信大手3社に対し、2019年6月に実施する700MHz帯の周波数割当に参加して2020年までの5Gの商用化を約束すれば、4Gの周波数ライセンス料の支払期限を従来の2021年から最長2026年まで延長することを認めた。

2020年2月、NBTCは、700MHz、2600MHz、及び26GHz帯域のオークションを行い、48の落札があり1,005億THBを得た。うち、AISが23、旧Trueが計17、旧TOTが4、旧DTAC及び旧CAT Telecomがそれぞれ2の免許を取得した。なお、旧CAT Telecomは700MHz帯を、旧TOTは26GHz帯を割り当てられており、新統合事業者NTが両事業者の統合後も、これら割当周波数を引き継いだ。

また、NBTCは、2024年10月、850MHz、2100MHz、2300MHz、3500MHz帯の周波数オークションを実施する意向を明らかにしている。うち3500MHz帯を除く周波数に関しては2025年に免許期限を迎えるとしており、これらの周波数オークションを2025年第2四半期に実施し、3500MHz帯については、2029年までデジタルテレビに割り当てられており、2027年にオークションを実施するとしている。

4 周波数取引

「NBTC法」第43条及び第46条において、通信放送事業における周波数免許の取引を禁じている。

5 電波利用料制度

「NBTC法」第42条及び第45条において、NBTCが電波利用料額の設定と徴収の権限を有することが定められている。NBTCは電波の利用目的、利用周波数、帯域幅等に比例する電波利用料を徴収している。料額は定期的に見直される。

ただし、政府は適用が除外されているほか、3か月以下の短期利用、試験研究用、国連等の傘下にある専門機関、大使館及び領事館も除外される。基本的な計算式は、以下のとおり。

6 電波の安全性に関する基準

電磁界ばく露に関する基準は整備されていないが、公衆衛生省(Ministry of Public Health:MOPH)の医療科学部(Department of Medical Science:DMSc)を中心に検討されている。

その結果、NBTCは、安全基準及び測定法を策定したほか、地域センターで電界強度の測定も実施している。

Ⅲ 周波数分配状況

NBTCにより国家周波数分配表(2017年)が掲載されている。