英国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)

通信

Ⅰ 監督機関等

通信分野における政策立案はデジタル・文化・メディア・スポーツ省(Department for Digital, Culture, Media and Sport:DCMS)及び、一部をビジネス・エネルギー・産業戦略省(Department for Business, Energy and Industrial Strategy:BEIS)が所掌し、規制監督は、2003年12月に発足した通信庁(Office of Communications:Ofcom)が行ってきた。2023年2月に省庁再編が行われ、DCMS、BEIS、国際通商省(Department for International Trade:DIT)が再編の対象となり、新たに、科学・イノベーション・技術省(Department for Science, Innovation and Technology:DSIT)、文化・メディア・スポーツ省(Department for Culture, Media and Sport:DCMS)、ビジネス・通商省(Department for Business and Trade:DBT)、エネルギー安全保障・ネットゼロ省(Department for Energy Security and Net Zero)の4省に再編された。これにより、スナク首相が掲げる五つの優先事項(インフレ半減、経済成長、債務削減、NHS(国民保健サービス)待機削減、不法入国禁止)に集中して対処することが目指されることとなった。

1 科学・イノベーション・技術省(DSIT)

Department for Science, Innovation and Technology

URL https://www.gov.uk/government/organisations/department-for-science-innovation-and-technology
幹部

Michelle Donelan(科学・イノベーション・技術大臣/Secretary of State for Science, Innovation and Technology)

George Freeman(閣外大臣/Minister of State)

Paul Scully(政務次官/Parliamentary Under Secretary of State)

所掌事務

2023年2月の省庁再編により、旧BEISと旧DCMSの関連部門を統合して成立。公共サービスの向上、高収入の雇用創出、経済成長につながるイノベーションを推進する。主な所掌内容は、①英国を世界の科学技術進歩の最前線に位置付けること、②生活を変え、経済成長を維持するためのイノベーションの推進、③経済、安全保障、公共サービスを支える人材育成プログラム、物理的・デジタルインフラ及び規制の推進、④研究開発資金。2023年の優先事項として、ギガビット・ブロードバンドの推進、「データ保護及びデジタル情報法案(Data Protection and Digital Information Bill)」「デジタル市場・競争及び消費者法案(Digital Markets, Competition and Consumer Bill)」「オンライン安全法案(Online Safety Bill)」等が挙げられている。

2 文化・メディア・スポーツ省(現DCMS)

Department for Culture, Media and Sport

URL https://www.gov.uk/government/organisations/department-for-culture-media-and-sport
幹部

Lucy Frazer(文化・メディア・スポーツ大臣/Secretary of State for Culture, Media and Sport)

Julia Lopez(閣外大臣/Minister of State)

所掌事務

2023年2月の省庁再編により、旧来のデジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)から「デジタル」の呼称を取り改称して成立。文化、芸術、メディア、スポーツ、観光、市民社会の支援に焦点を当て、英国経済における文化、メディア、スポーツの産業を一層活性化し、英国の文化・創造産業が引き続き世界最高水準を維持するよう支援し、21世紀にふさわしい放送・メディアシステムを構築する。

3 ビジネス・通商省(DBT)

Department for Business and Trade

URL https://www.gov.uk/government/organisations/department-for-business-and-trade
幹部 Kemi Badenoch(ビジネス・通商大臣/Secretary of State for Business and Trade)
所掌事務

2023年2月の省庁再編により、旧BEISと旧DITの関連部門を統合して成立。ビジネスと通商を統合、英国企業の力を引き出し、規制改革による負担を軽減し、EUからの離脱による自由の活用を目指す。ビジネスと政府間の連携を強化、国際的投資家への提案を強化、国内外の英国企業への支援を連携、投資の支援、輸出の拡大、貿易取引を通じた新市場の開拓を目指す。

4 内務省

Home Office

Tel. +44 20 7276 1234
URL https://www.gov.uk/government/organisations/home-office/
所在地 2 Marsham Street, London, SW1P 4DF, UNITED KINGDOM
幹部

Suella Braverman(内務大臣/Secretary of State for the Home Department)

Tom Tugendhat(閣外大臣/Minister of State/Minister for Security)

所掌事務

主な所掌分野は、移民管理のほか、犯罪対策、テロ対策、警察業務等である。情報通信関連では、法執行機関等による通信傍受や通信データの取得、オンライン上のセキュリティ、児童に対する性的搾取等に関する取組みを関係省庁と共に担当している。

5 内閣府

Cabinet Office

Tel. +44 20 7035 4848
URL https://www.gov.uk/government/organisations/cabinet-office/
所在地 70 Whitehall, London, SW1A 2AS, UNITED KINGDOM
幹部 Jeremy Quin(内閣府大臣/Paymaster General and Minister for the Cabinet Office)
所掌事務

首相及び内閣の支援等を行うとともに、省庁横断の重要施策についても担当する。現政権においては、情報通信関連では、電子政府、オープンガバメント、サイバーセキュリティ等に関する事務を関係省庁と共に担当している。

6 通信庁(Ofcom)

Office of Communications

Tel. +44 20 7981 3040
URL https://www.ofcom.org.uk/
所在地 Riverside House, 2a Southwark Bridge Road, London, SE1 9HA, UNITED KINGDOM
幹部

Melanie Dawes(長官/Chief Executive)

Michael Grade(議長/Chair)

所掌事務

通信・放送の融合を想定し、既存の五つの規制機関(電気通信事業を規制していたOftel、電波監理を行っていたRA、商業テレビ事業を規制していたITC、商業ラジオ事業を規制していたRAu、放送番組内容を審査していたBSC)が統合され、幅広い権限を持つ合議制の新規制機関として2003年12月に設立された。コンテンツ規制から周波数管理、電気通信及び放送事業に対する経済的規制まで所掌するほか、「2003年通信法」の第369条から第372条の規定に基づき、「1998年競争法(Competition Act 1998)」及び「2002年企業法(Enterprise Act 2002)」の適用における権限を持つ。2011年10月1日より、郵便サービスの規制についても、Postcommから移管された。2017年4月よりBBCの外部規制機関としての活動を開始した。

Ofcomには、中心的な統治機能を有し戦略的な方向性を打ち出すOfcom Boardのほかに、Policy and Management Board(Ofcomの経営と規制に関する会議)、Content Board(テレビやラジオの品質を管理)があり、更に各種の委員会、諮問機関がある。

7 競争・市場庁(CMA)

Competition and Markets Authority

Tel. +44 20 3738 6000
URL https://www.gov.uk/government/organisations/competition-and-markets-authority/
所在地 Victoria House, 37 Southampton Row, London, WC1B 4AD, UNITED KINGDOM
幹部

Sarah Cardell(最高責任者/Chief Executive)

Marcus Bokkerink(議長/Chair)

所掌事務

競争委員会と公正取引庁が2013年10月に統合され、2014年4月1日より業務を開始した。CMAは世界でもトップクラスの競争及び消費者組織として事業を行うことをビジョンに掲げており、以下の5点を目標としている。

8 情報コミッショナーズオフィス(ICO)

Information Commissioner’s Office

Tel. +44 303 123 1113
URL https://ico.org.uk/
所在地 Wycliffe House, Water Lane, Wilmslow, Cheshire SK9 5AF, UNITED KINGDOM
幹部 John Edwards(情報コミッショナー/Information Commissioner)
所掌事務

情報に関する権利を守るために設立された独立情報保護監督機関である。「1984年データ保護法」を受け、1984年、データ保護登録官オフィス(Data Protection Registrar’s Office)として発足。1995年EUデータ保護指令に対応すべく改正された「1998年データ保護法(Data Protection Act 1998)」を受け、2000年、データ保護コミッショナーズオフィス(Data Protection Commissioner’s Office)と改称し、「2000年情報自由法(Freedom of Information Act 2000)」を受け、2001年、情報コミッショナーズオフィス(ICO)と改称して現在に至っている。2015年9月に監督官庁が法務省からDCMSに変更された。

9 国家サイバーセキュリティ・センター(NCSC)

National Cyber Security Centre

URL https://www.ncsc.gov.uk/
所在地 London, UNITED KINGDOM
幹部 Lindy Cameron(長官/Chief Executive)
所掌事務

2016年10月1日、政府通信本部(GCHQ)傘下の一組織として、同じくGCHQの下部組織である情報セキュリティ部門CESG、国家インフラ・プロテクション・センター(CPNI)、英コンピュータ緊急対応チーム(CERT-UK)、サイバーアセスメント・センター等、政府内のサイバーセキュリティにかかわる各種機能を統合して設立された。NCSCは、サイバーセキュリティに関する知見の共有、英国内におけるサイバー関連リスクの低減、具体的サイバー攻撃事案への対処、英国内におけるサイバー攻撃事案への対処能力向上等、英国のサイバーセキュリティ対策の中心的役割を担う。

Ⅱ 法令

1 2003年通信法(Communications Act 2003

英国の情報通信分野における基本法令。EUの「2002年電子通信規制パッケージ」(「新たな規制枠組(枠組指令、アクセス・相互接続指令、認可指令、ユニバーサル・サービス指令、無線周波数決定)」)の国内法制化等を目的として、2003年7月に成立した。主な内容は以下のとおり。①Ofcomの設立、既存の五つの規制機関を統合し、単一の規制機関(Ofcom)を設立、②放送サービス規制の見直し(BBCやITV等の公共サービス放送事業者(Public Service Broadcasters)に対する一貫性のある規制の適用等)、③市場競争(公正取引庁(現CMA)同様の権限をOfcomに付与)、④コンテンツ評議会の設置、⑤電気通信システムの免許要件の廃止と電子通信ネットワーク、サービス、関連設備に対する規制枠組への変更、⑥周波数取引の導入、⑦消費者審議会の設置、⑧メディア所有規制の緩和。

2 2006年無線電信法(Wireless Telegraphy Act 2006

英国の電波管理における基本法令。本法は、Ofcomによる周波数管理に関する根拠法が、「1949年無線電信法(Wireless Telegraphy Act 1949)」「1967年無線電信法(Wireless Telegraphy Act 1967)」「1998 年無線電信法(Wireless Telegraphy Act 1998)」「1967年海事等・放送(妨害)法(Marine, etc., Broadcasting(Offences)Act 1967)」「1984年電気通信法(Telecommunication Act 1984)」(Part6)及び「2003年通信法」(Part2 Chapter2等)の6本の法律に分かれていたものを、一つの法律にまとめたものであり、わずかな例外を除いて、従来の法令の内容に変更を加えていない。本法の成立により、「1949年無線電信法」「1998年無線電信法」及び「1967年海事等・放送(妨害)法」の全部を含む、従来の関連規定はすべて削除されている。

3 2011年電子通信及び無線電信規則(Electronic Communications and Wireless Telegraphy Regulations 2011

2011年5月に、EUの指令を実装する形で、通信法の一部、無線電信法の一部をそれぞれ改正した。基となるEUの指令は、「より良い規制指令(Better Regulation Directive)」と「市民の権利指令(Citizens’ Rights Directive)」であり、新規移動電話契約とブロードバンド契約の縛りを最長でも24か月とすること、移動電話の番号ポータビリティを1営業日で実施すること、及び障がい者による緊急通報を支援すること等が含まれる。

4 2017年デジタル経済法(Digital Economy Act 2017

2017年4月に、英国がデジタル経済において世界で優位に立つことを目的として既存の基本法令の一部改正等を含む「2017年デジタル経済法(Digital Economy Act 2017)」が成立した。主な規定事項は、ブロードバンドのユニバーサル・サービス義務化、各種消費者支援策の実施(通信事業者の変更の円滑化にかかわる制度や対価に見合うサービスを受けられなかった場合の自動補償制度の導入等)、デジタル・インフラの構築支援(インフラ投資促進に向けた通信事業者と地権者を規定している電子通信コード(Electronic Communications Code:ECC)の改正等)、年齢認証義務付け等による青少年のオンラインポルノからの保護、知的財産権の保護強化(著作権侵害にかかわる罰則強化、オンライン上のデザイン意匠登録システム(ウェブマーキング)の導入等)、電子政府の推進(公共目的における行政機関による個人情報共有スキームの構築)、Ofcomの権限強化(BTのローカルアクセス部門「オープンリーチ(Openreach)」の法的分離に伴う倒産時の年金債務保証制度(Crown Guarantee)を分社化後のオープンリーチに移籍するBT社員にも適用されるようにする、Ofcomの決定に対する競争審判所(Competition Appeal Tribunal:CAT)への不服申立にかかわる審判手続の迅速化等)、迷惑電話・メール対策の効果的実施、請求ショック対策のための移動体通信事業者に対する課金上限制度の導入(2018年10月1日より施行)、オンライン上のチケット再販市場におけるいわゆる「チケット買占めボット」対策、電子書籍をカバーするための図書館の公共貸与権の範囲の拡大等、多岐にわたるものとなっている。

5 2018年データ保護法(Data Protection Act 2018

新たなデジタル時代にふさわしいデータ保護の枠組みの構築とともに、EU離脱後の英・EU間の円滑な越境データ流通の維持を目的として、従来の「1998年データ保護法」に代わる「2018年データ保護法」を制定。同法は、2018年5月25日からEU加盟各国に直接適用される一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)を国内法制化すること等を主な内容とし、データ主体の権利を強化するため「忘れられる権利」や「データ・ポータビリティの権利」「プロファイリングによる個人に関する決定の対象とならない権利」等を規定している。

6 2015年消費者権利法(Consumer Rights Act 2015

デジタル・コンテンツの不良品の返品や交換を義務付ける「2015年消費者権利法(Consumer Rights Act 2015)」が2015年10月より施行された。同法は、オンラインで購入した映画・ゲーム・音楽や電子書籍等の不良デジタル・コンテンツの返品・修理・交換が消費者権利として初めて認められたもので、購入後30日以内であれば返品及び料金の全額返済が可能となった。また、購入後30日が経過した後でも、不良品については、販売者は修理・交換の機会を消費者に提供する義務があり、消費者は修理・交換のいずれかを選択することができるようになった。更に、修理・交換が一度行われた段階で問題が解決しない場合は、返品・全額返済するか、返品せずに料金の割引を受けることができるようになっている。

7 2016年調査権限法(Investigatory Powers Act 2016

2016年11月、同年12月末までの時限立法であった「2014年データ保持及び調査権限法(Data Retention and Investigatory Powers Act 2014:DRIPA)」に代わる法律として「2016年調査権限法(Investigatory Powers Act 2016:IPA)」が成立した。IPAは、警察、保安組織及び諜報組織による調査権限の行使及び監督のあり方を定める各種法律の整合性をとりながら一本化し、デジタル時代に合わせて既存の権限をアップデートしつつ、法執行機関及び諜報機関が電気通信データにアクセスできる権限を新たに付与する内容となっている。

8 2021年電気通信(セキュリティ)法

英国の電気通信ネットワークの安全性を確保するため、2021年11月19日に「電気通信(セキュリティ)法(Telecoms (Security) Act 2021)」が成立した。通信事業者のセキュリティ義務を強化、政府にセキュリティ要件設定権限を付与、Ofcomに通信事業者が順守しない場合の強制措置の執行等の権限が付与された。政府は通信ネットワークに対して、ハイリスク・ベンダから調達した既存の機器を撤去するよう要求することができる。Ofcomは、事業者がセキュリティ義務を順守していない場合、関連する売上高の最大10%、継続的に違反を繰り返す場合には1日当たり10万£の罰金を課すことができる。

【参考】
・1984年電気通信法(Telecommunications Law 1984

旧国営通信事業者BTの民営化と電気通信市場の自由化(BTの独占終了)を実現した法律としての歴史的意義を有するが、「2003年通信法」及び「2006年無線電信法」の成立により、その規定の大部分は削除されている。

・1967年無線電信法(Wireless Telegraphy Act 1967

「2006年無線電信法」の成立により、「1949年無線電信法」及び「1998年無線電信法」は、その全部が廃止されたが、本法には、まだ一部の規定が残っている。

Ⅲ 政策動向

1 免許・認可制度

(1)EU指令による免許制度の改正

電気通信事業免許は、「1984年電気通信法」に規定されていたが、「2003年通信法」の施行により、事業内容を厳格に定めた個別免許(Individual Licenses)を含む既存免許制度は、2003年7月25日をもって廃止され、一般認可(General Authorization)制度が導入された。同制度は、すべての通信事業者に課される一般条件(General Conditions of Entitlement)と、一部の事業者に課される特別条件(Specific Conditions)によって構成され、これらの条件を満たした者に対し、電子通信ネットワーク及び電子通信サービス(Electronic Communications Networks and Services)の提供を認めるというものである。新たに規定された「電子通信(Electronic Communications)」とは、狭義の「電気通信(Telecommunication)」に代わり、通信・放送の融合を想定した概念である。

(2)外資規制

対内直接投資を規制する法的枠組は存在しない(1997年に政府はBTの黄金株を放棄した)。資本における内外無差別の原則は、「1998年競争法(Competition Act of 1998)」「2000年公共事業法(Utility Act of 2000)」「2002年企業法(Enterprise Act of 2002)」等によって法的に担保されている。一方で、2002年企業法には、国家安全保障・金融の安定・メディア多様性の確保を理由とする場合に加え、一定規模以上の英国企業の合併・買収等にかかわる場合(合併等される企業の売上高が7,000万£超の場合又は合併等によって25%以上の市場シェアが生じる若しくは増大する場合)に限っては、公共の利益を確保する観点から政府が介入できる旨の規定が盛り込まれている。

2 競争促進政策

(1)制度枠組

英国は、EUの「2002年電子通信規制パッケージ」を反映した「2003年通信法」により、Ofcomが英国内において電子通信ネットワーク又は電子通信サービスを提供するすべての事業者に対して参入条件として課するルール(「一般条件」)を策定し、更にそれに上乗せする形で、市場分析に基づき市場において顕著な支配力(Significant Market Power:SMP)を持つ事業者に対して課するSMP条件等のルール(「特別条件」)を策定することとなった。一般条件と特別条件の各内容は以下のとおりである。

【一般条件】

対象:英国内において電子通信ネットワーク又は電子通信サービスを提供するすべての者

内容:①ネットワーク機能条件、②電話番号及びその他技術条件、③消費者保護条件

【特別条件】

対象:以下の条件をそれぞれ以下の特定の事業者に対して課すことができる。

(2)新一般条件

一般条件に関しては、市民・消費者の保護とエンパワーメントを目的とした新規則が2018年10月1日から施行された。特に、迷惑電話、苦情処理、社会的に弱い立場にある消費者保護に関する項目については、通信事業者に対してこれまで以上に厳しい規則を設け順守を求める内容となっている。

(3)SMP事業者の指定

固定通信及びブロードバンド市場では、Ofcomによる市場レビューに基づき、BTが物理的な通信インフラの提供と、ブロードバンドと専用線サービス(ロンドン中心部を除く)の卸売市場において、SMP事業者と指定された(ハル地域以外、ハル地域ではKCOMがSMP事業者として認定)。傘下のローカル・アクセス会社であるオープンリーチの電信柱と地下ダクトの開放に関して監視が強化されるとともに、オープンリーチの製品に対して以下の地理的規制が導入された。①競争の激しいエリアでは規制なし、②実質的な競争がある地域では卸アクセスの提供義務、③オープンリーチが唯一の事業者である地域では投資コストを回収できるようにコストベースの料金管理。更に少なくとも2031年まで、コストベースの料金規制を導入する予定はなくなった。一方、モバイル・サービス市場では、Ofcomによる市場レビューに基づき、モバイル・プロバイダ67社がSMP事業者と指定され、アクセス義務と料金規制が課されている。

(4)ファイバ網に関する規制

Ofcomは2019年5月、ファイバ・ネットワークに対する投資と競争を促進させる目的で一連の規制を発表した。主な内容は以下のとおり。

〈新しい規制の概要〉
〈三つの地理的区分〉

市場を地理的に分けて必要に応じて異なる規制を適用する「地理的な市場アプローチ」を導入。具体的には、一般世帯及び事業者向けブロードバンド網の利用可能状況をベースに、①競争が認められるエリア(オープンリーチのほかに少なくとも2社の既存ネットワークが超々高速ブロードバンドと専用回線サービスを提供)、②潜在的に競争が認められるエリア(競争が認められるエリアほど効果的な競争が認められないものの潜在的な競争があると考えられる)、③競争が認められないエリア(代替ネットワークが利用できず将来的にネットワークが整備される可能性が低い)の三つに分類した。

上記の方針に基づき、Ofcomは、2021年3月、向こう5年間の通信固定アクセス・サービスの規制方法を定めた卸売固定通信市場レビュ-を発表した。主な内容は、①オープンリーチ提供のフルファイバ製品に価格上限を課さない、②少なくとも2031年までコストベースの規制なし、③オープンリーチの住宅用ブロードバンド製品の地理的規制、④オープンリーチの銅線ネットワークの廃止支援、⑤オープンリーチのフルファイバ製品の地理的割引の禁止あるいは監視の対象とする。

(5)番号ポータビリティ

固定電話については1996年にBTが導入、1997年に全固定通信事業者に導入が義務付けられた。移動体通信については1999年1月に導入された。Ofcomは2019年7月から、テキスト・メッセージを送信するだけで移動電話サービス事業者の乗換えが2時間以内に可能になる新制度を導入した。利用者は、事業者を乗り換える旨の通知を契約事業者に送信すれば(無料)、乗換作業に必要となる「ポーティング認証コード(Porting Authorisation Code:PAC)」が契約者に自動的に送信される。テキストで通知を受けた通信事業者は、即座に、あるいはそれが不可能な場合は2時間以内にPACを契約者に送らなければならない。新旧両方の事業者への支払いが同時に発生する問題についても、乗換完了日以降は、旧事業者は元顧客に課金することができなくなったため、消費者は新旧両方の事業者から同時に課金されることがなくなった。

3 通信インフラ整備政策

(1)ユニバーサル・サービス義務

「2003年通信法」の規定に基づき、2003年7月、「ユニバーサル・サービス命令(Universal Service Order:USO)」が制定された。非差別的なネットワーク接続の提供といった同命令の一部の規定は、一般認可制度の導入に伴い、一般条件(General Conditions of Entitlement)に含まれており、すべての事業者に適用されている。その他の部分については、Ofcomが指定するユニバーサル・サービス提供事業者(Universal Service Provider:USP)であるBTとKCOMに課されている。

従来のUSOの対象は、固定音声電話(ダイヤルアップ・モデムの利用が可能なもの)、低所得者向けの料金枠組、公衆電話(緊急通話へのフリーアクセスを含む)、障がい者向けの音声通話と同等なサービス(BTによるテキストリレー等)、番号ディレクトリ及び番号案内サービス、ユニバーサル・サービスのアンバンドル提供となっていたが、2017年4月27日に成立した「2017年デジタル経済法」により、英国内のすべての世帯・事業所に高速ブロードバンド(下り速度10Mbps以上)にアクセスできる法的権利が新たに付与されることとなった。2018年4月に規則が施行され、2019年6月にブロードバンドのUSPとして、BT及びKCOMが指定された。2020年3月から、両社はUSO接続の申請受付を開始した。

(2)ブロードバンド整備政策

DCMSは、2021年3月に到達困難な地域の世帯や企業向け「プロジェクト・ギガビット」を発表した。同プロジェクトでは、50億£の公的資金を投入し、提供最困難地域にある100万以上の世帯や企業を接続する。2億1,000万£相当のブロードバンド・バウチャー制度の拡張、1億1,000万£の最大7,000の地方の開業医院、図書館、学校の接続、衛星や5G技術を使って電波の届きにくい地域を接続等の内容となっている。これにより、全土の地域に超高速ブロードバンドを提供し、公共サービスを活性化させ、パンデミックからの回復を目指すとした。2025年までに最低85%のギガビット対応カバレッジを目標としている。

(3)5G

DCMSは2017年3月、5G分野において英国が世界のリーダーとなるべく「5G戦略」を策定し、①5Gネットワークの普及の加速化、②5Gによってもたらされる生産性・効率性の最大化、③英国内外における新たなビジネス機会の創出と国内投資の誘発、という三つの成果を追求する方向性を示した。DCMSは、同5G戦略に基づき、5G技術の研究開発や実証事業「5Gテストベッド・トライアル(5GTT)」プログラムの実施を開始した。

DCMSは、2020年2月、5GTTのための総額6,500万£の資金提供パッケージを発表した。同パッケージは、英国におけるテストベッド・トライアルに対する政府の2億£の投資の一部である。主な内容は、①ルーラルエリアにおける5G活用、②産業5G、③クリエイティブ・セクターのコンペ「5G Create」である。2021年9月、公共の街頭設置物や建物に5Gの導入を促進する、400万£規模のコンペ「デジタル・コネクティビティ・インフラストラクチャ・アクセラレータ(DCIA)」を実施した。通信事業者が公共の建物やCCTVの電柱や交通信号等のインフラを5G無線機器の設置場所として利用する際に、よりシンプルかつ迅速に対応できる方法が検討されている。

(4)オープンRAN

5Gやギガビット級ブロードバンド等のインフラのセキュリティとレジリエンスを強化することを目的として、2021年11月、「電気通信(セキュリティ)法」が成立した。これに合わせ、DCMSは、同月、「5Gサプライチェーン多様化戦略」を発表し、①既存サプライヤの支援、②新規サプライヤの参入支援、③オープンRAN等のソリューションの加速化等を推進することとした。DCMSは、2021年6月、ロンドンとブライトンに、オープンRANの加速を目的としてスマートRANオープン・ネットワーク相互運用性センター(Smart RAN Open Network Interoperability Centre:SONIC)を開設した。同ラボでは、5G無線機器のコンポーネント供給のため、既存及び新興のサプライヤが協力して相互運用可能なソリューションの実証試験が実施されている。更にDCMSは、2022年4月、英国のオープンRAN原則を発表し、①オープンな分解(異なるサプライヤからRAN要素を調達、新しい方法で実装を実現)、②標準規格に基づくコンプライアンス(すべてのサプライヤがオープンで中立的な環境において標準規格に対するソリューションのテストの実施を可能にする)、③相互運用性の実証(分割された要素が完全に機能するシステムとして少なくとも現在のソリューションの性能とセキュリティに匹敵することを保証)、④実装の中立性(サプライヤが製品の機能と性能に関して革新し差別化することを可能にする)という四つの原則を示した。

(5)6G

DCMSは、UK SPF(UK Spectrum Policy Forum)と共同でワークショップを開催し、6Gに関する検討を進めている。2021年中に、ブリストル大学で「周波数とエネルギー効率の高いワイヤレス・アクセス」、サリー大学で「無線アクセス・ネットワーク技術」、ストラスクライド大学で「ソフトウェア無線及びRF(無線周波数)サンプリング」をテーマに開催された。

4 ICT政策

(1)「英国デジタル戦略」

DCMSは2022年6月、政府横断的な戦略である「英国デジタル戦略」を発表した。英国をグローバルなテック超大国として強化し、デジタル・ビジネスの起業と成長のための欧州有数の地としての地位を築くことで経済を成長させ、より多くの高スキル・高賃金の雇用を創出することが目的。以下の六つが主要分野である。①デジタル基盤、②アイデアと知的財産、③デジタル・スキルと人材、④デジタル成長への融資、⑤繁栄の拡大とレベルアップ、⑥世界における英国の地位の向上。

(2)「国家データ戦略」

2020年9月に「国家データ戦略」が発表された。政府は優先すべき課題として、①経済全体のデータの価値を引き出すこと、②成長促進と信頼できるデータ体制の確保、③政府のデータ利用を変革して効率を高め、公共サービスを改善すること、④データが依存するインフラのセキュリティと回復力を確保すること、⑤国際的なデータフローの推進を挙げた。

(3)「英国イノベーション戦略」

BEISは、2021年7月に「英国イノベーション戦略」を発表した。「2035年までに英国をイノベーションのグローバルハブにする」との目標の下、四つの柱(①ビジネスを解き放つ、②人材、③組織と場所、④ミッションと技術)と各アクションプランを設定した。④では、変革をもたらす技術として、人工知能(AI)、量子技術、ロボット等を挙げ支援する方向性が打ち出された。

(4)人工知能(AI)

DCMSは、2021年9月に「国家AI戦略」を発表した。同戦略は、明確なルール、倫理原則、イノベーションを促進する規制環境により、AIを使って生活し、仕事をするのに英国を最適な場所とすることを目的に、10年間のビジョンを掲げている。また、「国がAIの長期的な成長に投資すること」「AIが経済のすべての部門や地域に恩恵をもたらすこと」「イノベーションや投資を促進し、国民や国の基本的な価値を保護する適切なルールによって効果的に管理されること」という三つの柱に焦点を当てている。

(5)IoT

イノベーション推進機関Innovate UKの下、デジタル・カタパルト(Digital Catapult)や未来都市カタパルト(Future Cities Catapult)が中心となり、IoT分野における英国のグローバルなリーダーシップの発揮を目指すとともに、企業・公的部門による高品質のIoT技術・サービスの開発を支援している。

(6)電子政府

政府全体のデジタル・サービス改革推進の推進役である内閣府のGDS(Government Digital Service)は、2021年5月、2021年から2024年にかけての戦略を発表し、①公共部門の情報ウェブサイト「GOV.UK」の強化、②複数の部門を横断するサービス連携、③誰もが使えるシンプルなデジタルIDの実現、④共通ツールと専門家サービスの提供、⑤部門を超えたデータの統合の提供という五つの目的を掲げた。2021年10月、「GOV.UK」のアプリ提供計画を発表した。

(7)ネット中立性

ブロードバンド政策のアドバイザリー・グループ「Broadband Stakeholders Group(BSG)」が定めた「オープン・インターネット行動規範(Open Internet Code of Practice)」による自主規制が導入されている。2016年6月に「2016年オープン・インターネット・アクセス規則」が施行され、Ofcomはオープン・インターネット・アクセス規則に基づき、事業者のネット中立性の順守を毎年モニタリングして結果を公表している。Ofcomは2019年5月に発表した「ネットワーク中立性ガイダンス」を2021年10月に見直すと発表し、2022年10月に同草案を発表した。

(8)サイバーセキュリティ

内閣府は2021年12月、「国家サイバー戦略」を発表した。従来のサイバーセキュリティ戦略から名称を変更し、より広範で包括的にサイバー空間の課題に取り組む内容となっている。五つの柱は以下のとおり。①英国のサイバーエコシステムの強化、人材とスキルへの投資、政府、学界、産業界のパートナーシップの深化、②強靭で繁栄したデジタルUKを構築し、サイバーリスクを軽減して企業がデジタル技術の経済的利益を最大化し、市民がオンラインでより安全になり、データが保護されていることを確信できるようにする、③サイバーパワーに不可欠な技術を牽引し、産業力を構築し、将来の技術を確保するための枠組みを整備する、④より安全で繁栄した開かれた国際秩序のために英国のグローバルなリーダーシップと影響力を前進させ、政府や業界のパートナーと協力し、英国のサイバーパワーを支える専門知識を共有する、⑤サイバー空間内及びサイバースペースを通じて英国のセキュリティを強化し、英国のあらゆるレバーをより統合し、創造的かつ日常的に活用するために、敵を検出、破壊、抑止する。

5 消費者保護政策

(1)消費者審議会

「2003年通信法」に基づき、通信・放送・周波数関連市場における消費者の利益保護のために、独立した政策諮問機関として設立された。同審議会は、Ofcom Boardと連携し、消費者・市民の通信市場における利害を保護・促進するため、Ofcom、政府、EU等に助言を行う。

(2)公平性確保に向けた消費者保護政策

Ofcomは、2020年10月、顧客のための公平性確保に向けた消費者保護政策として、新しいルールを公表し、2022年12月に発効した。これは、欧州電子通信コード(European Electronic Communications Code:EECC)を受けたもの。主な内容は、①モバイル事業者によるロックされた端末の販売禁止、②ブロードバンドの乗換促進のため、乗換先事業者による乗換作業の主導、③より良い契約情報とより強力な解約権の付与、④障がいを持つ顧客が他の顧客と同等に通信サービスにアクセスできるようにする。

(3)迷惑通信

英国における迷惑通信は「Nuisance calls and messages」と呼ばれ、2002年に制定された「EU電子プライバシー指令」を国内法制化した「2003年プライバシー及び電子通信規則」が軸となり、規制はOfcomとICOが所掌している。迷惑通信の類型として「生電話によるセールス」「自動呼出しによるマーケティング」「無言電話・放棄呼」「スパムテキスト」「スパムメール」「詐欺電話・メッセージ」が挙げられている。規制の方式は迷惑通信の種類によって異なり、電子メールや自動音声電話によるマーケティングについては、一定の条件を除いて、受信者の承諾を得ない通信を禁止するオプトイン方式が採用されている。一方、通常の生電話やFAXによるマーケティングについてはオプトアウト方式が採用され、受信者が通信を拒否する場合には、迷惑電話防止サービス「Telephone Preference Service(TPS)」に自身の電話番号の届出を行う。ただし、2018年9月より、誤って販売された支払保障保険(PPI)の補償に関係するセールス電話についてはオプトイン方式が導入された。

(4)個人情報保護

個人情報保護に関する規制枠組については、EUのGDPR及び2018年データ保護法に基づいており、「データ保護8原則」(①公正かつ適法な処理、②限定された目的のための処理、③目的適合性、④正確性及び最新性、⑤必要な期間に限った保管、⑥データ主体の権利に適合した処理、⑦安全性の確保、⑧十分な保護のない第三国への移転制限)が規定されている。2021年1月1日に英国の一般データ保護規則が施行された。

(5)オンライン上の安全対策

DCMSは2019年4月、内務省と共同で、イノベーション及びデジタル経済の促進を図りつつ、オンライン上の安全性を確保するための一連の方策をまとめた公開諮問文書「オンライン上の弊害に関する白書(Online Harms White Paper)」を公表した。23種類に上る幅広いオンライン上のコンテンツ(子どもに対する性的搾取・性的虐待(Child Sexual Exploitation and Abuse:CSEA)、テロ活動、組織的移民犯罪、現代奴隷、過激ポルノ、リベンジポルノ、ヘイトクライム、自殺誘因、違法商品の販売、虚偽情報、ネットいじめ等)をカバーした包括的な枠組みは世界でも初めてであるとしている。同白書を踏まえたオンライン安全法案(Online Safety Bill)が2022年3月より議会で審議されている。

(6)子どものための行動規範

ICOは2020年8月に「年齢に適した設計:オンライン・サービスのための行動規範(Age appropriate design: a code of practice for online service)(別名「子どものコード(Children’s Code))を発表し9月に発効した(移行期間は2021年9月2日までと設定)。2018年データ保護法に基づき、オンライン上の子どものプライバシー保護のため、オンライン・サービスが従うべき以下の15の基準が示された。①子どもの最善の利益、②データ保護影響評価、③年齢に適したアプリケーション、④透明性、⑤データの有害な使用、⑥ポリシーとコミュニティ基準、⑦デフォルト設定、⑧データの最小化、⑨データの共有、⑩ジオロケーション、⑪ペアレンタル・コントロール、⑫プロファイリング、⑬ナッジテクニック、⑭コネクティッド・トイとデバイス、⑮オンライン・ツール。英国に拠点を置く企業と英国の児童の個人データを処理する英国以外の企業に適用される。

Ⅳ 関連技術の動向

基準認証制度

英国では、2016年6月12日より施行された「EU無線機器指令(Radio Equipment Directive:RED(2014/53/EU))」を受け、2017年12月26日より「2017年無線機器規則(Radio Equipment Regulations 2017)」が国内法制化された。同規則の施行を受け、「2000年無線機器及び電気通信端末機器規則(Radio Equipment and Telecommunications Terminal Equipment Regulations 2000)」は廃止された。

REDは、従前適用されていた「EU無線・通信端末機器指令(Radio and Telecommunications Terminal Equipment Directive:R&TTE指令(1999/5/EC))」に代わり、EU及びEEAにおいて上市(輸入者が流通業者に出荷した段階)される無線機器の安全基準及び電磁的両立性(Electro-Magnetic Compatibility:EMC)基準等の明確化・簡素化を図ったものである。これまで対象外となっていた放送受信機を含むすべての無線機器に対象が拡大されるとともに(有線の電気通信端末機器は対象外とされた)、無線機器の定義に関する周波数範囲の下限(9MHz)が撤廃された。また、欧州委員会が指定する無線機器については共通充電器を使用しなければならないこととされたほか、経済担当者(製造者、輸入者、流通業者等)の責任の明確化及び強化が図られた。適合性評価手続については、内部生産管理(モジュールA)、型式審査(モジュールB)及び型式への適合性(モジュールC)並びに品質保証(モジュールH)に整理され、それぞれREDのAnnexⅡ、Ⅲ及びⅣに規定され、2017年無線機器規則においてもそれぞれ別表2、3及び4として規定されている。

「2017年無線機器規則」は、EU離脱後も、「2018年EU離脱法」によって当該規則の効力が維持されるとともに、「2019年製品の安全性及び計量等(修正等)(EU離脱)規則(Product Safety and Metrology etc.(Amendment etc.)(EU Exit)Regulations 2019)」が規定された。当該規則は、「2020年製品の安全性及び計量等(修正等)(UK(NI)表示)(EU離脱)規則(Product Safety and Metrology etc.(Amendment etc.)(UK(NI)Indication)(EU Exit)Regulations 2020)」によって再改正され、輸入者ラベリング(欧州経済地域からの製品)やUKCAマーキング等が規定された。UKCAマーキングの移行期間については、「2021年製品の安全性及び計量等(修正)規則(Product Safety and Metrology etc (Amendment) Regulations 2021)」によって、2022年12月31日まで延長された。その後、政府は、2022年6月20日に、UKCAマーキング及びラベリング、並びに輸入者ラベリングに関する規定を、2025年12月31日まで延長することを発表している。

Ⅴ 事業の現状

1 市場概要

2021年の電気通信サービス収入総額は311億£で、前年に比べて13億£減となった。うち小売固定電話サービス市場は136億£、小売移動体通信サービス市場は123億£、残りが卸売サービス市場の収入である。2021年の1世帯当たりの通信サービス支出額(月額平均)は前年比で3.79£減少し77.40£となった。

2 固定電話

2022年第1四半期の英国の固定音声サービスの収益は合計14億3,000万£で、前四半期比で4,400万£(3%)減少した。

3 移動体通信

(1)市場概要

2022年第1四半期の加入者当たりの平均収益は11.94£で、月額契約加入者はプリペイド加入者よりも多くの収益を生み出した(前者14.36£と後者4.87£)。大手モバイルキャリアは、O2 UK(テレフォニカ(Telefonica)傘下)、EE(総合通信事業者BTグループ傘下)、ボーダフォンUK(Vodafone UK)、3 UK(Hutchison 3G UK、香港のハチソン傘下)の4社である。16歳以上のインターネット・ユーザの88%が、インターネットを利用する際にスマートフォンを使用していた。

(2)MVNO

MVNO加入数の全移動体通信加入者に占める割合は年々増加している。主な事業者はTesco Mobile、giffgaff UK、ヴァージンメディアO2(Virgin Media O2)、スカイ(Sky)、Lycamobile UK等である。

4 インターネット

(1)固定インターネット及びブロードバンド

固定ブロードバンド・サービスの加入者の回線種別シェアは、DSLが約7割、ケーブルが約2割、光ファイバ/LANは1割未満となっている。主な小売ブロードバンド・サービス事業者は、BT、スカイ、ヴァージンメディア、TalkTalk等である。

(2)モバイル・インターネット及びブロードバンド

英国では、2019年5月にEEが英国初の5G商用サービスを開始した。続いて、同年7月にボーダフォンUKが、同年10月にO2 UKが、更に3 UKは2020年2月に、それぞれ5G商用サービスを開始した。

5 IPTV

BTが2013年にIPTVサービス「BT Vision」を新たに「BT TV」に再ブランド化し、同年8月にはスポーツ専門チャンネルである「BTスポーツ」の放送を開始した。BTスポーツは、BT VisionやYouView、スカイの衛星プラットフォーム上でサッカーのプレミアリーグ等、人気コンテンツを放送しており、BTのブロードバンド・サービス利用者は無料で視聴できる。更に2016年11月には、顧客自らによるコンテンツの録音やライブ・ストリーミング、モバイル端末のオンデマンド番組の充実、新アプリ「BT TVアプリ」の提供等、次世代サービスへの移行の開始を発表した。

大手放送・通信事業者が合弁で2012年に開始した視聴無料のIPTVサービス「YouView」は2022年10月現在、70の無料のテレビ・ラジオチャンネル、BBC iPlayer等の無料キャッチアップ・テレビ、ネットフリックス(Netflix)等の有料テレビが視聴可能となっている。

Ⅵ 運営体等

1 運営体

(1)BT Group(BT)
Tel. +44 20 7356 5000
URL https://www.bt.com/
所在地 BT Center, 81 Newgate Street, London EC1A 7AJ, UNITED KINGDOM
幹部 Philip Jansen (最高経営責任者/Chief Executive Officer)
概要

旧国営通信事業者で、1984年に民営化された。市内、長距離、国際、移動体通信、インターネットを含めた総合的な電気通信サービスを提供している。コンシューマ部門(移動体通信部門EE(2016年1月に買収)を抱える)、エンタープライズ部門、グローバル部門、アクセス網の卸売部門オープンリーチに分かれる。小売りブランドとして、BT、EE、プラスネット(Plusnet)を持つ。従業員数9万9,700人、うち8万400が英国での雇用。

2021年度の売上高は208億5,000万£(前年度比2%減)(英国国内のみでは185億7,000万£)であった。BTグローバル・サービシズ(BT Global Services)は2022年3月末現在、180か国でICTサービスを提供している。

(2)KCOM

KCOM Group Limited

Tel. +44 1482 602 711
URL https://www.kcom.com/
所在地 37 Carr Lane, Kingston upon Hull, HU1 3RE, UNITED KINGDOM
幹部 Tim Shaw(最高経営責任者/Chief Executive Officer)
概要

ハル市で市内通信サービスを行っている電気通信事業者。BTと共に、ユニバーサル・サービス義務を課されている。2021年6月、マネージド・サービス・プロバイダのNasstarに全国ICTサービス部門を売却し、以降はハル、イーストヨークシャー、ノースリンカンシャーでのフルファイバ・ブロードバンド・サービスの卸売及び小売事業に注力すると発表した。

(3)TalkTalk

TalkTalk Telecom Group PLC

Tel. +44 20 3417 1000
URL https://www.talktalkgroup.com/
所在地 11 Evesham Street, London W11 4AR, UNITED KINGDOM
幹部 Tristia Harrison(最高経営責任者/CEO)
概要

2002年に英移動電話販売大手Carphone Warehouseが買収した固定電話事業者Opal Telecomsを前身とする。2003年にCarphone Warehouse内の子会社として発足し、ブロードバンド・サービスにも参入、2010年にCarphone Warehouseから独立(会社分割)した。同年からボーダフォンの回線を利用したMVNOサービスを開始、現在は有料テレビ・インターネット・固定電話・移動電話のクアドロプル・サービスを展開している。

(4)ボーダフォン

Vodafone Group Plc

Tel. +44 1635 33251
URL https://www.vodafone.com/
所在地 Newbury, Berkshire, RG14 2FN, England, UNITED KINGDOM
幹部 Nick Read(最高経営責任者/Chief Executive)
概要

1984年にRacal Electronicsの子会社Racal Telecomとして発足した。1991年には独立しボーダフォンとなった。1999年にはAirTouch Communicationsと合併し、ボーダフォン・エアタッチ(Vodafone AirTouch)となるが、2000年に元の社名ボーダフォンに戻った。ボーダフォン・グループは2018年5月、米メディア大手リバティ・グローバル(Liberty Global)からドイツ、チェコ、ハンガリー及びルーマニアにおけるケーブルテレビ事業を184億EURで買収することで合意したことを明らかにし、2019年7月に買収を完了した。

ボーダフォンの2021年度の収入は455億8,000万£(前年度比4%増)(英国国内のみでは65億8,000万£)。うち欧州地域のコンシューマ部門(移動体通信、固定ブロードバンド、テレビ等)が52%、ビジネス部門(IoT、クラウド、セキュリティ、キャリア向け)が27%、アフリカ地域のコンシューマ部門が16%となっている。2021年12月末現在で世界21か国に進出している。

(5)ヴァージンメディアO2(Virgin Media O2)

VMED O2 UK Limited

Tel. +44 175 356 5656
URL https://www.virginmediao2.co.uk/
所在地 Griffin House, 161 Hammersmith Road, London, W6 8BS, UNITED KINGDOM
幹部 Lutz Schüler(最高経営責任者/CEO)
概要

BTの移動体通信部門が、2001年11月に分離独立して設立された。2006年3月、スペインの通信大手テレフォニカによる買収が完了し、完全子会社となった。買収は、テレフォニカがO2の株式をすべて買い取る形で行われた。買収後も、O2というブランド名は維持、事業拠点も英国内に残した。2020年5月に、ヴァージンメディア(米リバティ・グローバル傘下)との合併で合意し、CMAが2021年5月に合併の最終案を承認した。

(6)3 UK

Hutchison 3G UK Limited

Tel. +44 0800 358 8460
URL https://www.three.co.uk/
所在地 Great Brighams Mead, 1 Vastern Road, Reading, RG1 8DJ, UNITED KINGDOM
幹部 Robert Finnegan(最高経営責任者/CEO)
概要

英国における第4の移動体通信事業者として2003年3月に英国市場に参入(3Gサービス)。親会社は香港の複合企業CKハチソン・ホールディングス(CK Hutchison Holdings)(2015年6月、傘下のハチソン・ワンポア(Hutchison Whampoa)を買収)。2021年度の収入は前年度比4%増の24億4,000万£。

2 主要メーカー

ARMホールディングス

ARM Holdings

Tel. +44 1223 400 400
URL https://www.arm.com/
所在地 110 Fulbourn Road, Cambridge, GB-CB1 9NJ, UNITED KINGDOM
幹部 Rene Haas(最高経営責任者/Chief Executive Officer)
概要

1990年にエイコーン・コンピュータ(Acorn Computers)、アップル・コンピュータ(Apple Computer)、VLSIテクノロジー(VLSI Technology)の合弁事業としてケンブリッジで創業した。マイクロプロセッサにかかわるIP及び関連テクノロジー、ソフトウェア・ツール等の設計・販売を行っている。近年、クラウド、自動運転、自律型システム、IoT、メタバース分野に注力、2021年度の収入は前年度比35%増の27億USD。

放送

Ⅰ 監督機関等

2003年12月、通信・放送分野の五つの規制機関(Oftel、RA、ITC、RAu、BSC)が統合し、Ofcomが発足した。放送政策については文化・メディア・スポーツ省(DCMS)が所掌するが、事業者の規制監督についてはOfcomが担当する。

1 文化・メディア・スポーツ省(DCMS)

(通信/Ⅰ-2の項参照)

所掌事務

放送分野における具体的な所掌内容は以下のとおりである。

2 通信庁(Ofcom)

(通信/Ⅰ-6の項参照)

所掌事務

放送分野については、既存の3機関(ITC、Radio Authority、BSC)が所掌していた商業放送事業者に対する免許付与や事業内容に対する規制等を主に所掌する。

Ⅱ 法令

1 BBCに関する法規

英国放送協会(British Broadcasting Corporation:BBC)の設立・存続及び業務運営の根拠は、「特許状(Royal Charter)」及び「枠組協定書(The Framework of Agreement)」である。

2 1990年放送法(Broadcasting Act 1990

1990年11月に、商業放送に競争原理を導入する「1990年放送法」が成立した。同法は番組の質を維持する一方、放送事業者間の競争を促進することによって、視聴者により多くの選択の機会を与えることをねらいとしている。

3 1996年放送法(Broadcasting Act 1996

主に地上デジタル放送の枠組みの導入と、メディア所有規制の緩和を行う「1996年放送法」が1996年7月に成立した。地上デジタル放送の導入、BBCの一部民営化等を主な内容としている。

4 2003年通信法(Communications Act 2003

ITV(チャンネル3)やC4C(チャンネル4)、チャンネル5等BBC以外の商業放送事業者についても「公共サービス放送(Public Service Broadcasting:PSB)」を行う義務を課しており、純粋な商業目的だけではなく、公共利益を目的として地域ニュース番組や芸術性の高いテレビ番組等を放送することが義務付けられている。また、各放送事業者は、PSBとして共通に求められる要件に加えて、本法や各自の免許にPSBとして求められる具体的な要件がそれぞれ規定されている。

5 2010年デジタル経済法(Digital Economy Act 2010

クリエイティブ経済発展のためのデジタル・コンテンツの著作権保護、ラジオのアナログ放送終了時期、公共テレビ・サービスの見直し等を規定している。

6 2017年デジタル経済法(Digital Economy Act 2017

知的財産権の保護強化(ケーブル会社による再送信においては公共サービス放送にかかわる著作権は侵害されないとしていた規定の廃止)、Ofcomの権限強化(OfcomがBBCの外部規制機関になったことに伴うOfcomの権限拡大)、障がい者によるオンデマンド・テレビにかかわるアクセス保障等を規定している。

Ⅲ 政策動向

1 免許制度

(1)番組配信サービスに対する免許
①地上アナログテレビ放送
②地上デジタルテレビ放送
③地上アナログラジオ放送
④地上デジタルラジオ放送
⑤限定サービス(特別イベント、特定地域での短期間の放送等に対応)
(2)外資規制

従来、非EEA(欧州経済地域、EU加盟国とEFTA(欧州自由貿易連合)間の自由経済市場の創設を目的に、スイスを除き1994年1月に発足)諸国の個人又は団体は、放送免許が取得できず、放送メディアを所有することが禁止されていたが、「2003年通信法」により、EEA域外からの英国内への投資促進と産業発展をねらいとして外資規制を撤廃した(第348条(1))。しかし、メディア企業の買収・合併の提案が出された際には、政府はいったんOfcom等にメディアの多様性の観点から助言等を求め、それらを考慮したうえで決定を下す「多様性審査(The plurality)」(2002年企業法)の枠組みが規定されている。これは、外国企業による英国内の放送局の買収・合併が進み、英国メディアの多様性・多元性が損なわれることを回避するためである。

(3)地方自治体、宗教団体、政党への規制緩和

「2003年通信法」により、放送メディアの所有が規制されてきた地方自治体、宗教団体、政党については以下のように規定された。

(4)メディアの多元性に関する規制 

「2003年通信法」により、メディア相互所有に関するルールは、全国市場シェア20%超の全国的新聞社とITVの相互所有(独占の弊害が大きいと考えられた)を除き、すべて撤廃された。2011年6月のメディア所有省令(2011年6月14日公布、6月15日施行)によって、現在のメディア所有規制は、クロスメディア所有規制とメディア企業の買収等への国務大臣による介入のみとなっている。

2 公共サービス放送関連政策

(1)受信許可料制度

いわゆる「受信料」は英国では「受信許可料(TV licence fees)」に相当し、「2003年通信法」を根拠法としている。BBCは、2021年2月、インフレ率に応じ、2021年4月1日以降、年間157.50£から159£に引き上げることを発表した(白黒テレビは年間53£から53.50£に、目の不自由な人の受信許可料は通常の半額である年間78.75£から79.50£に引上げ)。

(2)現行特許状の内容

DCMSは2016年12月、BBCのあるべき姿を定めた特許状及び枠組協定書を発表した(特許状期間:2017年1月1日~2027年12月末(11年間))。主なポイントは以下のとおりである。

(3)OfcomによるBBCの規制動向

新特許状及び協定書に基づき、2017年4月よりOfcomはBBCの外部規制機関としての活動を開始した。OfcomによるBBCの事業免許に関する主な規制要件は、①ニュース及び時事問題のルールの強化、②子ども向け番組に関する要件の拡大、③より特色のある番組の確保、④BBCラジオを通じて社会活動キャンペーンを支援、⑤芸術・音楽・宗教等のジャンルの番組の保護、⑥幅広い価値あるジャンルの番組の支援、⑦英国の地域住民・国民・クリエイティブ産業の支援、⑧BBCに対して英国住民の多様性を十分に反映させることを求める等である。また、業績評価枠組として、①国内/国際ニュース・時事問題・ドキュメンタリーに関するコンテンツ、②学校教育に関するコンテンツ、③芸術・音楽・宗教・科学・ビジネス等の生涯教育に関するコンテンツ、④テレビ・ラジオ・BBC iPlayer・ウェブサイトにおけるコンテンツ、⑤英国内の各地域・地方におけるコンテンツ、⑥年齢・性別・社会経済グループ(SEG)・障がい・人種・宗教・信仰等にかかわるコンテンツといった各種コンテンツごとに「アベイラビリティ(Availability)」(BBCサービスにおける英国制作番組の放送時間視聴可能時間等)、「消費(Consumption)」(番組へのリーチや視聴時間等)、「影響(Impact)」(視聴者や専門家の意見等)、「背景因子(Contextual factors)」(定量的には評価できない定性的な評価)となっている。

Ofcomは、2021年7月、BBCの規制のあり方のレビューのための公開諮問を開始した。BBCは公共サービス・メディアの中心に位置しているが、メディア市場や視聴者は急速に変化しており、BBCを含む放送産業にとって大きな課題となっている。そこで、デジタル時代に沿った協定書、BBCの免許等を検討するとしている。公開諮問の結果は、中間特許状レビューのための政府への助言の基礎となる。

(4)Ofcomによる公共放送の将来による勧告

Ofcomは、2021年7月、公共放送の将来に関する政府への勧告を発表した。2003年通信法に代わる新しい法律の策定を求めるものとなっている。主な勧告内容は、①公共サービス放送(Public Service Broadcasting:PSB)から公共サービス・メディア(Public Service Media:PSM)への移行を支援するようなPSMの目的を定めるべき、②ライブでもオンデマンドでも主なテレビ・プラットフォーム上で公共サービス・コンテンツの顕在性を確保すべき、③独立制作会社への制作委託はテレビ放送だけではなくオンラインにも適用すべき、④PSM事業者の義務として視聴者がテレビ放送上でもオンライン上でもPSMから便益を得られるようにすべき、⑤既存のPSM事業者に加えてPSMコンテンツを提供する「補完的PSM事業者」も規制枠組に加えるべき、⑥政府は地域番組制作等における財政支援を検討すべき、となっている。

(5)放送白書

DCMSは、2022年4月、「放送改革のための白書(Up Next-The Government’s vision for the broadcasting sector)」を発表した。数十年来の放送規制を更新し、ストリーミング時代にふさわしいPSBシステムを構築する。主な内容は、①BBCの受信許可料凍結(2年間159£。その後インフレに応じて値上げ。次の特許状期間に受信許可料による資金調達モデルのレビューを実施)、②PSB改革(特徴的で多様な英国のコンテンツを提供するPSBの強化)、③VODサービスのコンテンツ規制(有害コンテンツ(検証されていない健康強調表示等)から視聴者を保護)、④主要スポーツイベントの放映権におけるPSBの独占的利益の促進、⑤チャンネル4の所有変更等。

3 コンテンツ規制

(1)番組・広告規制

番組規制については、BBCに関しては協定書に、商業放送に関しては「2003年通信法」の319条に、一般的な規定として、①18歳未満の者が保護されること、②犯罪行為を助長し若しくは扇動し又は不正行為を誘発しないこと、③ニュースは十分な公平性・正確性を伴い報道されること、④宗教番組の内容に関し適度の責任が果たされること、⑤攻撃的かつ有害な素材が含まれないよう公衆を十分に保護すること等が規定されている。また、広告規制に関しては、①禁止された内容の政治広告が含まれないこと、②誤解を与え有害であり又は侮辱的である可能性のある広告が含まれないこと、③広告に関し英国の国際的義務が順守されること、④番組の不適切な後援が防止されること、⑤広告の掲載を求める広告主の間に不当な差別がないこと、⑥視聴者に情報を伝達し又は視聴者の心理に影響を及ぼす可能性を悪用する技術がその使用に対する認識の有無にかかわらず使用されないこと等が規定されている。

なお、これらの規制の詳細については、Ofcomが策定する放送コード(Broadcasting Code)及び広告実践放送委員会(Broadcast Committee of Advertising Practice:BCAP)が策定する放送広告コード(The UK Code of Broadcast Advertising)に盛り込まれている。

(2)放送コードの見直し

Ofcomは2009年6月、放送コードの見直しについて公開諮問を開始し、2009年12月16日から新しい放送コードが施行された。新放送コードでは、継続して放送として何が許されるかを明らかにするとともに、18歳未満の視聴者の保護、違法あるいは有害情報、公正とプライバシー、番組中の広告といった分野をカバーし、視聴者による競争と投票、性的コンテンツに関するルール、攻撃的な言葉とテレビ番組公開時間に関するルールも明確にしている。

Ofcomは2016年5月、放送コードの第3項「犯罪」を改正し、ヘイトスピーチ及び侮蔑的な行為を含むコンテンツの放送を禁止する条項の追加を発表し、5月9日から施行された。なお、最新の放送コードは2020年12月に施行されている。

(3)メディアの多様性

Ofcomは、2021年6月、英国におけるメディアの多元性に関する規制枠組に関する証拠募集を開始した。Ofcomは、2003年通信法に基づき、テレビ及びラジオ・サービスの十分な数の事業者の確保と維持、メディア所有規則の運用を確認する義務を負う。しかし、人々がニュースや情報にアクセスする方法は大きく変化しており、従来のメディア所有規制を超えて、21世紀におけるメディアの多元性の意味を理解するための作業を開始した。証拠募集では、英国の消費者と市場にニュースを配信するためのオンライン仲介者とアルゴリズムの役割と影響、市場の変化、市場の変化によって新たな又は既存の複数の懸念が増加したかどうか、英国でのニュース消費に影響を与える可能性がある、又は複数の潜在的な懸念を引き起こす可能性があるニュース・メディア環境等に関する見解を求める。

(4)視聴覚障がい者向けアクセス・サービス
①テレビジョン・サービス分野

「2003年通信法」第303~305条「聴覚障がい者及び視覚障がい者向けのテレビジョン・サービス」に基づき、PSB、ケーブル・衛星放送事業者、地上デジタル放送事業者等に対し、視聴覚障がい者向けアクセス・サービス(字幕、手話、音声描写)の提供が義務付けられている。個々の提供義務基準についてはOfcomが「テレビ・アクセス・サービス実施コード(Code on Television Access Services)」として定め、履行状況について年2回の報告を発表している。なお、BBCには、全コンテンツに字幕提供が義務付けられており、チャンネル3及びチャンネル4に対する字幕提供義務は全コンテンツの90%となっている。Ofcomは2019年7月、2020年の提供義務を発表し、国内のテレビ・チャンネル88チャンネルに加えて、EU内4か国から配信されている19の海外チャンネルにも提供を義務付けた。

②オンデマンド番組サービス分野

Ofcomは、2018年、VOD番組サービスによる視聴覚障がい者向けアクセス・サービスを改善するための新規制について勧告を行った。具体的には、規制が発効して4年後、VOD番組サービス事業者に対して全放送番組の80%に字幕、10%に音声解説、5%に手話を提供する目標等を勧告した。更にOfcomは、2021年7月、アクセス・サービスに関する更なる勧告を発表した。主な内容は、①免除:事業者による合理的な努力にもかかわらず技術的又は運用上の重大な障害によって提供が妨げられた場合には要件を免除される、②手話:2年間の目標値を2.5%とし事業者の運営能力を高める、③新要件の導入と施行:事業者に情報提供を求めるOfcomの権限を強化する(視聴者数に関する情報等)。なお、Ofcomは、事業者が参考にすべきベストプラクティス・ガイドラインを策定中である。

4 地上デジタル放送

英国における地上放送のデジタル化は、BBC、ITV、チャンネル4の合弁事業「デジタルUK(Digital UK)」がデジタル転換の調整役を担った。デジタルUKは2011年10月、地上アナログ放送終了を2012年10月24日に決定したと発表した。英国では2008年から地域ごとにデジタル移行を進め、ロンドンでは2012年4月18日にアナログ放送が終了した。同年10月24日、最後の北アイルランドでのアナログ放送の終了をもって、全国で地デジ移行が完了した。以降、デジタルUKは、地上デジタルテレビ放送「Freeview」の提供を促進し、2021年7月には、BBCとITVの合弁事業である無料衛星放送プラットフォーム「Freesat」と合併した。なお、アナログ放送で使用していた放送周波数跡地の効率的な利用に向けて、英国政府はローカルテレビ・サービスを導入することを決定し、ローカルテレビの商業チャンネルの提供が開始された。

Ⅳ 事業の現状

1 ラジオ

英国のラジオ産業は、以下の表のように、BBC、商業局、コミュニティ局により構成されている。

英国のラジオ局(アナログ/デジタル)
ラジオ局の種類 アナログAM アナログFM DAB
ローカル商業局 39 236

マルチプレックス:58、

サービス:606

全国向け商業局 2 1

マルチプレックス:1、

サービス:23

全国向けBBC 1 4

マルチプレックス:1、

サービス:11

ローカルBBC 9 46
コミュニティ向け 24 295
合計 75 582

マルチプレックス:60

サービス:640

出所:Ofcom「Media Nations 2022」

2021年のラジオ産業の売上高は前年度比20%増の6億3,800万£であった。そのうち全国向け商業局の広告収入が3億4,600万£、ローカル商業局の広告収入が9,700万£、スポンサー収入が1億8,700万£、その他収入が8,600万£であった。

2 テレビ

2021年のテレビ産業の売上高は前年度比18%増の166億£であった。そのうち加入料が65億4,600万£、オンライン収入が52億7,500万£、テレビ広告収入が38億4,700万£、公的資金が24億600万£、その他が9億3,500万£であった。Broadcasters’ Audience Research Board(BARB)によると、テレビ・サービス加入世帯数は2021年12月末現在、2,854万である。

(1)地上デジタル・ハイビジョン放送

1998年9月にBBCが世界初の地上デジタル放送を開始した。2002年10月には、「フリービュー(Freeview)」の名称で、無料の地上デジタル放送が開始され、2022年10月現在、70超のデジタルテレビ・チャンネルが無料で提供されている。

BARBのデータによると、地上デジタル放送の加入世帯数は2021年12月末現在、1,609万となっている。

ハイビジョン放送に関しては、2008年6月からBBCによる試験サービスが開始され、2009年12月から本格的にDVB-T2方式による放送が開始されている。2022年10月現在、フリービューでは20のハイビジョン放送が実施されている。

(2)BBCの動画配信サービス「BBC iPlayer」

BBCのオンライン見逃し視聴サービス「BBC iPlayer」は、2021年度、前年比8%増の66億件のリクエストとなった。

(3)定額制動画配信サービス

2022年第2四半期の加入世帯数は、ネットフリックスが1,708万1,000、アマゾン・プライム・ビデオ(Amazon Prime Video)が1,275万6,000、Disney+が661万7,000、Now TVが207万1,000、Apple TV+が161万4.000で、何らかの定額制動画配信サービスに加入しているケースは1,918万9,000であった。

3 衛星放送

スカイが1990年11月から放送を開始しており、衛星放送市場を事実上独占している。2021年12月末現在、スカイの加入世帯数は773万である。

4 ケーブルテレビ

ヴァージンメディアが主な事業者である。加入世帯数は2021年12月末現在、401万となっている。

Ⅴ 運営体

1 英国放送協会(BBC)

British Broadcasting Corporation

Tel. +44 20 7580 4468
URL https://www.bbc.co.uk/
所在地 Broadcasting House, Portland Place, London W1A 1AA, UNITED KINGDOM
幹部

Tim Davie(会長/Director General)

Richard Sharp(理事長/Chairman)

概要

1922年に設立され、1927年に国王の「特許状」に基づく公共放送事業者となった。存立と業務運営を規定する基本法令は国王の「特許状」と「枠組協定書」である。現行の特許状の有効期間は2017年1月1日から2027年12月末までである。1995年からデジタルラジオ放送、更に1998年に世界初の地上デジタルテレビ放送を開始した。

2021年度の受信料収入は前年度比5,000万£増の38億£、その他の収入15億3,000万£(前年度は13億1,400万£)であった。BBCの商業部門はBBCスタジオ、BBCグローバル・ニュース、及びBBCスタジオワークスで構成されている。前特許状下において、BBCトラストは2016年12月、潤沢な財源を持つBBCが制作分野において外部制作会社と公平な条件で競争する環境を整備するため、社内コンテンツ制作部門を完全子会社「BBCスタジオ(BBC Studios)」として独立させる提案を承認した。2018年4月1日より、BBCワールドワイドを吸収する形で新会社「BBCスタジオ」が発足した。

BBCは、中短波やインターネットを通じた正確・公正・公平な英国的価値観に基づく情報発信を目的とした海外向け国際放送「BBCワールド・サービス」のグローバル・レベルでの視聴者を2022年までに現在の約2倍の5億人に拡大する目標を掲げている。そのため、提供言語を順次拡大しており、2022年3月末現在、日本語を含む43言語でサービスを提供している。

BBCは、PSBチャンネルとして、BBC One、BBC Two、BBC Three(2016年2月よりテレビ放送を廃止しネットでの提供のみに移行)、 BBC Four、BBC News、BBC Parliament、CBBC、CBeebies及びBBC Albaの9チャンネルを保有していたが、2019年2月より新たなPSBチャンネル「BBC Scotland」を開設した。

2017年3月に北米圏で民放最大手ITVと共同で広告なし定額制動画配信(Subscription Video On Demand:SVOD)サービス「BritBox」の提供を開始した。英国でも2019年11月からサービス提供を開始し、2022年10月現在、英国、米国、カナダ、オーストラリア、南アフリカ、北欧4か国(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド)の世界9か国で提供中である。

2 ITV(チャンネル3)

ITV plc

Tel. +44 20 7157 3000
URL https://www.itv.com/
所在地 White City Place, 201 Wood Lane, London, W12 7RU, UNITED KINGDOM
幹部

Peter Bazalgette(会長/Chairman)

Carolyn McCall(最高経営責任者/Chief Executive)

概要

国内最大の商業放送ネットワークで、全国ニュース、ドラマ、娯楽、スポーツ等の様々な番組を提供している。

2021年12月末までの年間売上高は前年度比24%増の34億5,300万£であった。このうち広告収入は同比24%増の19億5,700万£、番組コンテンツ制作部門であるITVスタジオの売上高は同比28%増の17億6,000万£であった。

3 チャンネル4

Channel 4 Television Corporation

Tel. +44 20 7396 4444
URL https://www.channel4.com/
所在地 124 Horseferry Road, London, SW1P 2TX, UNITED KINGDOM
幹部

Charles Gurassa(会長/Non-Executive Chair)

Alex Mahon(最高経営責任者/Chief Executive)

概要

政府がすべての持分を保有する非営利法人Channel 4 Television Corporationが運営する公共放送で、広告放送とスポンサーシップを財源とする。チャンネル4は、番組の調達・編成機関として設立されており、国内の独立系番組制作会社を支援するため、番組の自社制作は行わない。チャンネル4を巡っては、保有資産売却による債務削減を進める英国政府にとって魅力的な財源となり得ることから以前より民営化の憶測が絶えなかったが、DCMSのブラッドリー大臣(当時)は2017年3月、当面民営化は行わないことを明言した。一方で、地方経済の成長への貢献という観点から議論されていたロンドン本社の郊外への移転先については、2018年10月、イングランド北部のリーズに決定し、2021年9月に移転した。

2020年12月末までの年間売上高は前年度から5,100万£減の9億3,400万£であった。

4 チャンネル5

Channel 5 Broadcasting Ltd

Tel. +44 0203 580 2000
URL https://www.channel5.com/
所在地 Elephant House, 17-29 Hawley Crescent,Camden Town, London, NW1 8TT, UNITED KINGDOM
概要

「1990年放送法」で設立が認められた商業放送事業者で、1997年に放送を開始した。地上波によるカバレッジが全国の80%程度にとどまっているため、衛星も利用して国内をカバーしている。Northern & Shell社が100%所有していたが、2014年に米バイアコム(Viacom)に買収された。

5 スカイ

Sky Limited

URL https://www.sky.com/
所在地 Grant Way, Isleworth, Middlesex, TW7 5QD, UNITED KINGDOM
幹部 Jeremy Darroch(最高経営責任者/Chief Executive Officer )
概要

欧州最大手の衛星放送事業者で、英国の衛星放送市場を事実上独占している。2018年9月、米国ケーブルテレビ大手コムキャスト(Comcast)の傘下となった。

2021年12月末現在、世界6か国の2,300万の利用者に、衛星放送、ブロードバンド、モバイル・サービス等を提供している。

2021年12月末までの1年間の収入は203億USDであった。

6 ヴァージンメディア

Virgin Media Inc.

Tel. +44 1256 75 2000
URL https://www.virginmedia.com/
所在地 Media House, Bartley Wood Business Park, Hook, Hampshire RG27 9UP, UNITED KINGDOM
概要

米メディア企業のリバティ・グローバル傘下の英国最大のケーブル事業者で、2020年12月末までの年間売上は13億3,660万£(前年度は13億3,170万£)であった。英国とアイルランドでサービスを提供しており、ケーブルテレビ加入者数は401万で、ブロードバンド、モバイル、固定電話を合わせた英国の契約者数は4,930万である。2021年5月に、O2 UK(テレフォニカ傘下)との合併がCMAにより承認された(通信/Ⅵ-1(5)の項参照)。

電波

Ⅰ 監督機関等

1 監督機関

(1)英国周波数戦略委員会(UKSSC)

英国における国家レベルでの周波数の分配は、内閣府の委員会である英国周波数戦略委員会(UK Spectrum Strategy Committee:UKSSC)による正式フォーラムにおいて決定される。UKSSCは国防省(Ministry of Defense:MoD)とDCMSが議長を務め、省庁横断的な幅広いメンバー構成となっている。民生用の周波数管理を担うOfcomは政府省庁ではないため正式メンバーではないが、UKSSCの主な分科会の議長と事務局を務めており、職務上UKSSCの会議に出席し、電波政策における深い専門知識により、分科会での主導的立場に直結した重要な役割を果たしている。UKSSCの分科会は以下のとおりである。

(2)通信庁(Ofcom)

(通信/Ⅰ-6の項参照)

Ofcomは国内の民生用周波数の管理を所掌するほか、電波利用に関する国際的な会議の場において英国を代表する。

2 標準化機関

英国規格協会(BSI)

British Standards Institution

Tel. +44 345 080 9000
URL https://www.bsigroup.com/
所在地 389 Chiswick High Road, London W4 4AL, UNITED KINGDOM
幹部 John Hirst(会長/Chairman)
就任時期 2019年1月
概要

王立憲章(ロイヤル・チャーター)と政府及びBSI間の覚書により、英国規格(BS)制定権限が独占的に付与された国家規格法人である。英国内における製品標準の制定、国内外の標準化の普及、製品テストの実施及び標準化に伴う各種情報サービスを行うことにより、英国の標準化活動を推進することを目的としている。ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)や、EN(欧州規格)の制定に参画するとともに、それらと整合性のとれた各種BSを制定している。また、基準認証制度における英国内の適合性評価機関にも指定されている。

Ⅱ 電波監理政策の動向

1 電波監理政策の概要

英国では、以下の三つの周波数管理方針に従い、従来の「命令と管理(Command and Control)」と呼ばれる行政主導による周波数配分に加え、周波数の経済的価値に基づいた配分制度が推進されている。ただし、Ofcomによれば、周波数割当の主流は市場メカニズムによるも、長期的で戦略的な調和を踏まえ、現実に即した規制当局の介入を伴う、より効率的な周波数政策を追求しなければならないとしている。周波数管理方針は以下のとおり。

「2003年通信法」では周波数取引が導入され、周波数の免許移転やリースが可能となった(2003年通信法の当該規定は2006年無線電信法の成立により2007年8月2日に廃止)。モバイル用周波数を含む周波数免許も取引対象となっているが、周波数リースについては、原則、モバイル用周波数は対象外となっている。しかし、2019年7月のローカルアクセス免許(Local access licence)の制度化により、一部のモバイル周波数のリースが可能となった。

周波数の免許移転は、事前にOfcomの承認を得る必要があり、当該取引が競争を歪める恐れがあるかについて審査を実施する権限をOfcomは有している。2007年には、免許人の裁量でサービスや技術の変更が可能となるよう、「周波数使用権(Spectrum Usage Right:SUR)」(許容周波数帯域において免許を有する装置により輻射される電力束密度(Power Flux Density:PFD)値を制御する方式)と称される、隣接周波数帯域への最大干渉値を免許条件で規定する制度が導入された。

Ofcomが2021年7月に発表した「2020年代の周波数管理戦略(Supporting the UK’s wireless future – Our spectrum management strategy for the 2020s)」では、成長と革新を可能とする周波数管理ビジョンの達成を支援するために、①ワイヤレス・イノベーションの支援、②ローカル及び全国のサービスに適した免許付与、③周波数共用の促進の三つの領域が特定された。当該戦略を踏まえ、Ofcomは2022年3月に「周波数ロードマップ」を発表し、Ofcomが今後取り組む分野として、①ネットワークの進化と融合、②周波数サンドボックスを活用したイノベーションと周波数共用の促進、③より効率的な周波数管理のためのより現実世界に即したデータの獲得、を提示した。

2 無線局免許制度

無線局の開設又は使用には原則として無線局免許が必要とされ、「2006年無線電信法」を根拠にOfcomにより付与される。Ofcomが付与する無線局免許には、以下の3種類がある。

一方、無線局・機器・装置の使用が他の合法的な電波の使用に対して不当な妨害を与える恐れのない場合や免許を要することが国際的義務にそぐわない場合、Ofcomは免許の適用を免除しなければならないとされており、免許不要の無線機器には、移動電話端末等のネットワーク・ユーザ局等が含まれる。

3 電波開放戦略

(1)公共セクターの電波開放計画

英国では、財務省が2010年10月に発表した「2010年包括的歳出削減策(Spending Review 2010)」において、土地や建物等の政府資産売却の一環として、公共セクターの電波資産の売却を明確化したことを受けて、政府を含む公共セクターが保有している周波数を民間に開放する政策が進められている。

その後、当時のBIS(現BEIS)とDCMSが2010年12月に「英国超高速ブロードバンドの未来(Britain’s Superfast Broadband Future)」を共同で発表し、公共セクターが保有する5GHz以下の周波数から少なくとも500MHz幅を2020年までに民間に開放する方針を示した。これを受けてMoDは、2012年12月に2.3GHz帯(2350-2390MHz)と3.4GHz帯(3410-3480MHz、3500-3580MHz)を、Ofcomを通じて民間に売却する方針を正式に表明し、Ofcomがこれらの帯域のオークションを実施した(5(2)の項参照)。

このような公共セクターの周波数開放政策は、「公共セクター周波数開放プログラム(Public Sector Spectrum Release Programme:PSSRP)」に従って進められている。また、公共セクターの周波数再編の一元管理を行うため、財務省が100%保有する英国政府投資会社(UK Government Investments:UKGI)の配下に中央管理ユニット(Central Management Unit:CMU)が2016年4月に新設された。そして、現在の公共セクターの周波数開放の目標は、10GHz以下の周波数から750MHz幅を2022年までに、そのうち6GHz以下から500MHz幅を2020年までに開放する方針へ改定されている。

また、2016年4月にUKGIが発表したPSSRP年次報告書によると、民間への開放に向けて最優先で検討する帯域として、①MoDが使用する2.3GHz帯域から最大40MHz幅、②MoDが使用する1427-1452MHzから最大20MHz幅、③現在Airwaveが公共安全業務用に地上基盤無線(Terrestrial Trunked Radio:TETRA)システムに使用している380-385/390-395MHz(5MHz幅×2)、の三つのバンドが特定され、①と②についてはMoDが官民による周波数共用に向けた検討を行っている。また、2017年8月に発表された第2次PSSRP年次報告書によると、民間への開放又は民間との共用のために確保された帯域は合計で384MHz幅となっている。

MoDが2019年8月に発表した電磁スペクトラム・ブループリントによると、MoDは下表の周波数を民間に開放又は民間との共用を可能にした。また、内務省は13MHz幅を開放し、民間航空局は92MHz幅を民間との共用とした。

帯域 帯域幅 開放又は共用
870-872MHz、915-917MHz 4MHz 2014 開放
2025-2070MHz 45MHz 2015 共用
2.3GHz (2350-2390MHz) 40MHz 2015 開放
3.4GHz (3410-3600MHz) 190MHz 2015 開放
5.7GHz (5725-5850MHz) 125MHz 2017 共用
7.9-8.4GHz 168MHz 2019 共用
合計 572MHz    

出所:https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/833094/Electromagnetic_Spectrum_Blueprint_V1-O.pdf

更に、PSSRPは政府目標に貢献するため、以下の帯域を優先バンドと特定し、当該周波数帯の民間との共用機会について現在検討中である。

帯域 最大帯域幅
380-385MHz、390-395MHz 10MHz
406-430MHz 5MHz
1427-1452MHz 25MHz
2.3-2.35GHz 40MHz
2.7-3.1GHz 200MHz
4.8-4.99GHz 100MHz
5.350-5.470GHz 60MHz

出所:https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/833094/Electromagnetic_Spectrum_Blueprint_V1-O.pdf

(2)Ofcomの電波割当検討

Ofcomは2014年5月28日、モバイル・データ需要に対応するため、2028年までに新たに確保する予定の周波数帯の検討方針について示した戦略文書「モバイル・データ戦略(Mobile Data Strategy)」を策定した。最優先候補としては、①地上デジタルテレビ放送(DTT)に割り当てられていた700MHz帯、②MoDの管轄下にある2.3GHz帯及び3.4GHz帯、③UHF帯のホワイトスペースを挙げている。また、その他の候補として、450MHz帯から6GHz帯までの約10の周波数帯を、3段階の優先度に区分して提示している。同戦略は、2016年6月に内容がアップデートされ、5Gサービスへの今後の十分な周波数の割当てに向けた30-300GHz帯(mmWave)や3.4-3.6GHz帯及び3.6-3.8GHz帯の検討、今後の2.3GHz帯及び3.4GHz帯のオークション等が言及されている。

Ofcomによる電波割当の検討状況 (2021年11月現在)
優先順位 開放検討中の帯域 備 考
最優先 700MHz(地上放送帯域) 遅くとも2022年までに利用可能とする方針(2020年8月に再編完了、2021年4月にオークション実施)
2.3GHz、3.4GHz MoDから電波を回収し、2016年にオークション実施予定(2018年に実施済み)
UHFホワイトスペース(共用) 実施
1452-1492MHz

実施

1427-1452/1492-1518MHz(優先度を格上げ)

1980-2010/2170-2200 MHz(2GHz MSS) 除外
3.6-3.8GHz 2021年4月に3680-3800MHzのオークションを実施
5-6GHz Wi-Fi(5350-5470 MHz、5725-5925MHz)(共用) 5GHz帯のWi-Fi拡張バンドとして5725-5850MHzを配分(2017年)
中の高 1427-1452MHz(共用) MoDが使用しているが、共用ベースでの利用を検討(優先度を格上げ)
3.8-4.2GHz 現在、固定業務と固定衛星業務が使用しているが、共用アクセス免許として共用ベースで利用可能(2019年7月)
470-694MHz 地上放送帯域において、モバイル・ブロードバンドを1次業務として配分するには長期的な検討が必要
1492-1518MHz 固定無線リンクに使用されている一部を(1495-1517MHz)、SDL(Supplemental Downlink)として再割当(優先度の格上げ)
2.7-2.9GHz 除外
5.925-6.425GHz

Wi-Fiその他RLAN(

Radio Local Area Network)用に配分(2020年7月)

出所:https://www.ofcom.org.uk/__data/assets/pdf_file/0027/58347/Mobile-Data-Strategy-statement.pdf、https://www.ofcom.org.uk/manage-your-licence/radiocommunication-licences/shared-access 等

(3)周波数共用枠組

Ofcomは2016年4月14日、今後の周波数の認可決定に適用する周波数共用の新しい枠組みを示す文書「A framework for spectrum sharing」を発表した。本声明文書では、新たな共用機会が、新たな無線サービスによって市民や消費者に便益をもたらす一方で、潜在的な共用機会の個々の費用と便益を含む環境を注意深く検討する必要性があると指摘されている。周波数共用はOfcomが2014年4月に発表した「周波数管理戦略」において、今後10年間で優先的に取り上げるべき重要施策の一つとして示されたものであり、同文書の中で、異なる利用者間で周波数共用が可能か検討する要素として、①現在及び将来の利用者双方の周波数の利用特性(周波数共用の可能性及び共用のためのツールに関する情報収集)、②既存の市場ツール(周波数譲渡・リース制度)等にもかかわらず存在する現在又は将来における周波数共用を制限する障壁、③周波数共用を促進するために上記利用特性及び障壁を調和させる規制ツールや市場メカニズム、技術の有用性、の三つを挙げている。

その後、将来性のある革新的な新たなアプリケーション向けの、高度な周波数共用の候補帯域として、3.8-4.2GHzを割り当てることを検討するため、情報提供要請(Call for Input)が実施された(2016年4月14日~6月9日)。地理的に定義された免許(Geographically defined authorisations)に基づく共用を推進する一方で、既存の固定リンク及び固定衛星の既存局及び新規局の継続的な運用を許可する方針となっている。

英国では、このような周波数の管理手法を階層型認可(Tiered Authorisation)アプローチと称しており、Cバンド(3.8-4.2GHz)で初めて導入することが検討されてきた。本検討では、Cバンドを使用している既存業務(固定リンク、固定衛星)及び既存免許人(UK Broadband)をTier 1カテゴリーとして干渉から完全に保護したうえで、地域免許として新設されるTier 2カテゴリーや、機会利用型の新たなユーザであるTier 3カテゴリーへの利用を認めることが提案された。しかし、Ofcomは階層型認可アプローチに基づく共用システムの開発に時間を要する等の理由により、申請ベースで小電力(エリア単位)及び中電力(基地局単位)の免許を付与する方針を提案(2018年12月)、2019年7月に共用アクセス免許(Shared access licence)として制度化した。

なお、階層型認可アプローチを実現するための技術的な仕組みとして、周波数アクセス・システムを利用した周波数利用の動的な制御・管理が検討されている。2017年4月に成立した「2017年デジタル経済法」によって一部改正された「2006年無線電信法」のパート2Aでは、「ダイナミック周波数アクセス・サービス規則(Regulation of dynamic spectrum access services)」が新設され、ダイナミック周波数アクセス・プロバイダを管理するための規則等が規定されている。

Ofcomは2019年6月5日、共用可能な周波数を増やす計画を発表した。対象となるのは8GHz帯及び26GHz帯で、いずれも既存免許人のニーズを考慮しながら、共用化推進を目指す。8GHz帯は、MoDと共同で周波数開放に向けた作業を進めており、既に7.9GHz及び8.4GHzの間の168MHz幅の周波数が共用可能となった。26GHz帯は、5Gの屋内利用が可能で、24.25-26.5GHzの間2.25GHz幅を、共用可能な周波数として開放した。同帯域は、現在、固定無線サービスや衛星地球局が利用していることから、これらサービスと周波数を共用することになる。これに関連してOfcomは2021年12月、26GHz帯の低帯域(24.25-25.05GHz)を使用している電波天文サービス及び地球探査衛星サービスを保護するための提案について意見募集を開始した。公開諮問の結果、Ofcomは2022年7月、①26GHz帯サービスからの帯域外発射を制限、②地球探査衛星サービスを保護するため、26GHz帯の低域800MHz幅で運用する屋外の26GHz基地局の数を制限(各300km2エリア)、③電波天文サービスを保護するため、屋外の26GHz基地局は、e-MERLINアレイを構成する六つの電波天文サイト周辺での設置を禁止する一方、屋内の26GHz基地局は、帯域外発射制限が課されたことから、ジョドレルバンク及びケンブリッジの電波天文サイト周辺に設定されていた1kmの立ち入り禁止区域を、現行の26GHz帯の屋内利用の共用アクセス免許から削除することを決定した。

更にOfcomは、欧州委員会の決定(2018/661)に従って、1.4GHz帯(1492-1517MHz)帯を無線ブロードバンド・サービス用に開放する計画である。同帯域の周波数アクセス免許人は、2022年12月31日までに周波数移転を実施することになる。

テラヘルツ波(約100GHzから3THzの間)は現在、天気予報や気候変動予測のための高感度測定等限られた科学的用途に使用されているが、技術進歩によって将来的には6Gアプリケーションでの利用が見込まれている。そのためOfcomは2021年12月、テラヘルツ帯の長期的な価値を最大化する方法についての意見募集を開始し、周波数共用を選択肢の一つとする周波数管理アプローチを提案している。

(4)宇宙周波数戦略

Ofcomは2022年3月、宇宙周波数戦略案を発表した。衛星通信技術の利用を促進し、非静止軌道衛星によるブロードバンド・サービスの普及を拡大する。主な内容は以下のとおり。

その後、Ofcomは2022年6月、静止軌道及び非静止軌道衛星サービスに接続する多数の端末の展開をサポートするため、14.25-14.5GHz帯の地球局ネットワーク(Earth Station Network:ESN)の衛星免許(ESN免許)に基づく衛星サービスへのアクセスを拡張することを提案する公開諮問を実施した。Ofcomは、14.47-14.5GHz帯を使用する既存の電波天文を保護するため、同帯域での航空端末の利用を禁止し、陸上・海上端末では二つの電波天文周辺での利用を制限する等の運用制限を設けることで、ESNの利用を認める声明文書を2022年11月に発出した。

(5)商用ドローン免許の新設

Ofcomは2022年6月、ドローン事業者、特にモバイルや衛星技術を利用して目視外飛行を行う事業者のための新たな免許制度の創設に向けて公開諮問を開始した。「無人航空機システム・オペレータ無線免許」の導入により、ドローンによる商用サービスの革命への道を開く手助けをするとしている。免許を受けたオペレータに対して、現在許可されていないデータ及び映像の制御・伝送を行うための携帯端末及び衛星端末をUAS/ドローンフリートで使用する権限を与える。また、Ofcomは、UASが衝突を回避し、英国の空域に安全に統合できるようにするための安全装置の利用も許可することを提案している。ただし、免許人が公衆モバイル・ネットワークに接続するモバイル技術の使用を希望する場合は、事前に使用を希望するネットワークの運営者から許可を得る必要がある。

4 周波数割当計画の変更

(1)700MHz帯のモバイル・ブロードバンドへの割当て

Ofcomは2014年11月19日、モバイル・データ需要の増加に対応するため、現在DTT及びPMSE(Programme Making and Special Events)用に割り当てられている700MHz帯(694-790MHz)を、将来的にモバイル・ブロードバンド・サービスに割り当てると決定した(「700MHz帯をモバイル・データ向けに利用可能とする決定(Decision to make the 700MHz band available for mobile data)」)。同文書では、700MHz帯について、2022年当初にモバイル・ブロードバンド・サービス向けに利用できるよう周波数を再編し、DTT向けにはアナログ停波によって使用可能となった550-606MHzを含む470-694MHzが確保されることが決定された。なお、Ofcomは2014年11月、関係者等から提出された意見等を含め検討した結果、700MHz帯をモバイル・ブロードバンドに割り当てることで、モバイル・データ・サービスの品質が向上するとともに、安い利用料金が実現する可能性があり、便益がコストを上回ると総合的に判断したと発表した。

その後、Ofcomは2016年3月11日、上記決定に関し、2021年末までとしていた700MHz帯の利用開始時期を約18か月前倒しし、2020年第2四半期までに実現する計画を発表、関係者からの意見等を踏まえ、2016年10月17日、「700MHz再編による便益の最大化に向けて(Maximising the benefits of 700MHz clearance)」と題する文書を公表し、正式に同計画を決定した。これは、DTTマルチプレックス事業者が、他の周波数帯への移行を2020年第2四半期に完了させることができるとする計画を提案したことを受けたものであり、18か月前倒しすることによるコストは1,400万~1,500万£程度にとどまる一方、経済的効果が1,900万~6,000万£になると推計されていることから、Ofcomは前倒しをするのが適当であると判断したと説明している。具体的な実施は、現在Arqivaに付与されている600MHz帯(550-606MHz)の暫定マルチプレックス事業免許の修正を行い、同周波数帯を別の周波数帯に移行させたうえで、移行後の600MHz帯に、主な全国地上デジタルテレビ放送のマルチプレックス事業者(BBC等)を移行させることになる。

PMSEの周波数移転に関しては、Ofcomは2015年10月、新しい周波数帯を割り当てる提案を公開諮問として発表した。低出力マイクロフォン及びイン・イヤー・モニター(IEM)利用向けに新たに割当てが提案されているのは960-1164MHzで、同帯域を共用することになる航空ナビゲーションや通信システムとの間で電波障害を引き起こさないよう周波数調整の実施を義務付けることが提案されていた(2016年3月に正式決定)。

Ofcomは2017年11月24日、音声PMSEサービスについては、立ち退き期限である2020年5月1日以降も694-703MHz帯の利用を可能にすると発表した。なお、PSMEについては、960-1164MHz帯を割り当てることが再度提示されたが、2017年4月20日に発表された公開諮問文書において、694MHz以下のDTTサービスを、703MHz以上の周波数帯で提供されるモバイル・データ・サービスによって引き起こされる電波障害から守るために694-703MHz帯を「ガードバンド」として確保する考えが提案された。同公開諮問に提出された関係者等からの意見を検証した結果、提案どおり、2020年5月1日以降も、音声PMSEサービスに限ってガードバンドへのアクセスを認めることになったとOfcomは説明している。

また、Ofcomは2018年8月23日、700MHz帯から立ち退くPMSE機器の所有者への助成スキーム案を公表した。当初の予定より早くPMSE機器の所有者は現在の周波数帯から立ち退かなければならなくなったため、Ofcomと政府において当該所有者を支援する資金スキーム案(運営方法や資格要件を含む)を決定したものである。具体的には、対象要件として、①2018年4月23日以前に購入された機器を助成の対象とする、②電波干渉対策として設けられ、引き続き利用が可能となる「ガードバンド(694-703MHz帯)」については助成スキームの対象としない、③立ち退き対象となっている700MHzで利用できる機器のみを対象とし、694MHz以下の周波数帯対応機器は対象としない、④助成金申請者が所有し、現在機能している機器に限定する、⑤少なくとも機器の買替えコストの60%を支払うこと等が盛り込まれ、2018年12月13日に声明文書として確定された。

なお、財務省は2015年11月、「2015年の包括的歳出レビュー及び秋季財政声明(Spending review and autumn statement 2015)」の政策文書の中で、700MHz帯をモバイル・ブロードバンドに再編するための費用として、向こう5年間で最大5億5,000万£を投じる方針を示している。

700MHz帯からの立ち退きプロセスは2020年8月に完了した。

(2)周波数取引の対象の新規帯域

Ofcomは2015年5月、周波数取引に関する無線通信規則を一部改正し、1452-1492MHz、2350-2390MHz及び3410-3600MHzの各周波数帯を取引可能とすると発表した。同規則では、取引可能な帯域として、791-821MHz、832-862MHz、880-915MHz、925-960MHz、1710-1781.7MHz、1805-1876.7MHz、1899.9-1980MHz、2110-2170MHz、2500-2690MHzが既に規定されている。また、2017年には3600-3800MHzを取引可能とすることが提案され、最新の無線通信規則である「2019年無線電信(モバイル周波数取引)(改正)規則(Wireless Telegraphy (Mobile Spectrum Trading) (Amendment) Regulations 2019)」では、3410-3800MHz帯が取引対象として規定された。

クアルコム(Qualcomm)が保有していた1452-1492MHzは、ボーダフォン及び3 UKに売却することで2015年6月に合意、ボーダフォンは1452-1472MHzを、3 UKは1472-1492MHzを獲得できることになった。その後3社は、取引の承認を得るために、2015年8月26日に周波数取引規則に従ってOfcomへ取引申請を行った。Ofcomは、当該取引申請が競争を歪める恐れがないか審査を行った結果、既存4社(EE(現BT傘下)、ボーダフォン、O2 UK、3 UK)の移動体通信サービス向け周波数(800MHz、900MHz、1800MHz、2100MHz、2600MHz)の保有量に大きな偏りがないこと、また、当該取引に関する公開諮問で利害関係者から特段の懸念が示されなかったことから、2015年9月22日に当該取引を承認することを発表した。

BTグループの子会社EEは2020年10月16日、同社が保有する2.6GHz帯(2595-2620MHz)をO2 UK(テレフォニカUK)へ譲渡することについてOfcomへ承認を求めた。Ofcomは「2011年無線電信(モバイル周波数取引)規則」に従い審査した結果、当該取引が競争に与える影響は低いと結論付け、また、意見提出の期限である10月30日までに懸念を表明した利害関係者はいなかったことから、Ofcomは当該取引を11月5日に承認した。

(3)5G周波数

Ofcomは2015年4月、5Gを含む将来の移動体通信サービス用周波数帯の確保に向け、国際的議論を進めることを目的に、6-100GHz周波数帯の中から利用が適切と思われる4帯域6ブロックの周波数帯を候補として発表した。

Ofcomは2017年2月8日、5Gの具体的な展開に向けた周波数帯の確保に関するアップデートを目的としたステートメント「英国における5G周波数帯に関するアップデート(Update of 5G spectrum in the UK)」を発表した。欧州では5G周波数帯域として「700MHz帯」「3.4-3.8MHz帯」「24.25-27.5MHz帯(26GHz帯)」が、欧州委員会の電波政策に関する諮問機関のRSPG(Radio Spectrum Policy Group)及び欧州郵便電気通信主管庁会議(CEPT)により特定された。英国においては、既に700MHz帯、3.4-3.6GHz帯及び3.6-3.8GHz帯を5G向けに確保しており、26GHz帯についても、今後5Gに向けてどのように確保することができるか検討を開始した。

Ofcomは2017年7月28日、5G向けの周波数の3.6-3.8GHz帯及び26GHz帯それぞれについて今後の割当方針に関する公開諮問を開始した。

3.6-3.8GHz帯(200MHz幅)については、Ofcomが2016年10月に実施した同周波数帯における5Gサービスの将来的な展開を念頭に開始した公開諮問「Improving consumer access to mobile service at 3.6 to 3.8MHz」の結果として発表されたもので、英国及びEUにおいて5G向けのプライマリーバンドとして考えられている3.6-3.8GHz帯をできるだけ速やかに移動体通信サービスに割り当て、同周波数帯で現在電気通信サービスに割り当てられていない116MHz幅を移動体通信サービスに開放することを決定した(残りの84MHz幅は、UK BroadbandによるLTE網を通した無線ブロードバンド・サービスに割当済み)。現在、同周波数帯は、ポイント間通信を行う固定リンクと衛星地球局に利用されているが、固定リンク及び衛星受信地球局(受信専用地球局(Receive Only Earth Stations:ROES)向け及び常設地球局(Permanent Earth Stations:PES)向け)いずれの利用密度も極めて低い状態である。同周波数帯については700MHz帯と共に2021年4月にオークションが実施され、同帯域を利用した移動体通信サービスは多くの地域で2020年6月以降利用可能になり、全国利用は2022年までかかる見通しである。

なお、3.4-3.6GHz帯にかかわる状況については、5(2)の項を参照のこと。

Ofcomは、5G向けのミリ波帯として26GHz帯を優先的に利用する方針で、2017年7月28日に、5G向けの周波数帯として26GHz帯(24.25-27.5GHz帯の3.25GHz幅)を割り当てる計画について意見を求める情報提供要請(Call for Input:CFI)を発表した。当該帯域は欧州において5Gに最も適している高周波数帯の一つとして特定されているが、英国では現在、固定リンク(24.5-26.5GHz)、衛星受信地球局(25.5-26.5GHz)、PMSE局(24.25-24.5GHz)、短距離無線デバイス(Short Range Device:SRD)(21.65-27.0GHz)及びMoD(26.5-27.5GHz)に配分されている。Ofcomは、同周波数帯において5Gを展開したいと考えている事業者や機器製造業者等から、同周波数帯の5Gへの利用に関し、想定されるニーズやタイムスケジュール、技術特性、免許条件のあり方、既存利用者対策等について関係者等からの意見・情報を収集した。併せて、66-71GHz帯及び40.5-43.5GHz帯についても5G向けの優先的な周波数帯として検討を行った。

Ofcomは2018年3月、特に26GHz帯について、同周波数帯の国際的な議論の状況や2019年早期の利用可能性を踏まえ、革新的な利用方法についてのトライアルの実施を奨励するとし、5G関連の研究開発を促進するためのイノベーション・トライアル免許(イノベーション・研究免許とデモンストレーション・トライアル免許の2種類)を創設した。その後、Ofcomは2022年5月から7月まで、ミリ波帯の26GHz帯(24.25-27.5GHz)及び40GHz帯(40.5-43.5GHz)を、5Gを含むモバイル技術に活用できるようにするための公開諮問を実施した。

また、Beyond 5Gを見据え、Ofcomは2020年10月、超高周波数(Extremely High Frequency:EHF)の三つの帯域(116-122GHz、174.8-182GHz及び185-190GHz)を、非保護・非干渉ベースで利用可能とする周波数免許を制度化した。

(4)固定無線アクセス

Ofcomは2017年12月7日、今後5~10年の固定無線アクセスリンクに関するニーズを踏まえ、同技術の利用に関する規制枠組等を定める「固定無線周波数戦略(Fixed Wireless Spectrum Strategy)」を公開諮問として発表した。現在の英国の固定無線アクセスリンクは、1.3-86GHz帯において、基地局のバックホール、テレビ・スタジオから送信機設置場所までの放送波の送信、公共サービス(水、電気、ガス)の安全な提供のためのネットワーク監視、緊急サービス通信のバックホール、固定無線ブロードバンド等、光ファイバの利用が物理的・財政的に困難な用途向けに利用されている。Ofcomは、将来の固定無線アクセスリンクを左右する主な要因として、5G向けのバックホール利用、トラヒックの増加に伴う都市部・ルーラルエリアにおけるラストワンマイル利用、電力分野における分散型管理モデル・スマートグリッドの導入に伴うネットワークの管理・監視への対応、金融セクターにおける固定アクセスリンクの活用等を挙げ、固定無線アクセスリンクで用いられる周波数帯を20GHz帯以下、20-45GHz帯、45GHz帯以上に分類したうえで以下の提案を行っている。

Ofcomは2018年7月5日、「固定無線サービスに使用される周波数の見直し(Review of spectrum used by fixed wireless services)」に関する声明文書を発表し、60GHz帯での5G利用等を促進するため、57-66GHz帯に加えて66-71GHz帯も免許不要帯域とした。また今後の検討課題として、90GHz帯以上での大容量バックホール及びアクセス要件や、短波帯での固定無線リンクの新たな利用可能性等について提示された。その後、57-71GHz帯において、短距離広域データ伝送システム及び固定無線システムの運用を可能とするため、既存の免許条件を修正した新規則が2018年11月27日に発効した。

7.8-8.4GHz帯については、Ofcomは国防省と協力し、国防目的で使用しない168MHz幅のペアバンド(8078-8162/8286-8370MHz)を特定し、28MHz幅×2の三つのチャネルを利用可能とした(2019年12月)。当該帯域は、固定やモバイルのバックホール、放送インフラ、専用アプリケーション向けの低遅延インフラ等を含む固定無線サービスへの需要に対応することが期待されている。

5 周波数オークション及び割当て

(1)800MHz帯及び2.6GHz帯(4G向け周波数帯)

Ofcomは、「2010年無線電信法(Ofcomに対する指示)命令」の施行を受けて、4G向けの800MHz(791-821MHz、832-862MHz)帯及び2.6GHz(2500-2690MHz)帯の周波数割当に関する公開諮問を2011年3月22日に開始した(第1次公開諮問)。もともと、2.6GHz帯のオークションについては、2008年夏にオークションが実施される予定であった。しかし、オークション実施に反対するO2 UKとT-モバイルUK(T-Mobile UK(現BT傘下のEE))による訴訟が続き、また、その後、2009年6月16日に政府が「デジタル・ブリテン」最終報告書を公表し、2.6GHz帯を800MHz帯と共にオークションにかけることを勧告したことから、撤回された経緯があった。最終的に2012年11月の声明(Statement on the making of regulations in connection with the award of 800MHz and 2.6GHz spectrum bands)によりオークション規則が確定した。

4Gオークション規則(「2012年無線電信(免許付与)規則(The Wireless Telegraphy (License Award) Regulations 2012)」)においては、現在のモバイル市場における競争を維持する観点から、第4の事業者が最低限の周波数を割安な価格で獲得できるようにする留保周波数の仕組みが導入された。また、周波数資源の特定の事業者への集中を防ぐため、保有周波数の量に上限を設ける周波数キャップも導入された。また、都市部だけではなく地方でも4Gサービスが利用可能となるよう、オークション対象である800MHz帯の一部の周波数に対して、人口カバレッジ義務が課されることとなった。周波数キャップ規則の詳細は以下のとおり。

スケジュール3(周波数キャップの算定対象となる周波数)
リストA(全体の周波数) リストB(1GHz以下の周波数)
周波数帯 総周波数量 周波数帯 総周波数量

791-821MHz

832-862MHz

880.1-914.9MHz

925.1-959.9MHz

1710.1-1781.7MHz

1805.1-1876.7MHz

1920.0-1979.7MHz

2110.3-2169.7MHz

2500-2570MHz

2570-2615MHz

2620-2690MHz

576.9MHz

791-821MHz

832-862MHz

880.1-914.9MHz

925.1-959.9MHz

129.6MHz

出所:SI 2012 No. 2817, made on 9 November 2012、http://www.legislation.gov.uk/uksi/2012/2817/pdfs/uksi_20122817_en.pdf

2013年1月24日、Ofcomは4Gオークションを開始したと発表、オークションに参加したのは、EE(現BT傘下)、HKT (UK) Company、3 UK、MLL Telecom、BTグループのNiche Spectrum Ventures、Telefonica UK(O2 UK)及びボーダフォンの計7社となった。オークションにおいては、市場における競争確保の観点から、最低4事業者が周波数を取得できる仕組みとされた。結果的に、800MHz帯及び2.6GHz帯の周波数帯域において28ロットの周波数帯がオークションにかけられ、最大250MHzが新たに英国のモバイル・サービスに使用されることとなった。

2013年2月20日には、4Gオークションの落札結果が発表され、英国内で既に移動体通信サービスを提供する4事業者に1事業者を加えた、合計5事業者が周波数を取得した(合計落札総額は約23億4,000万£。追加入札を含めた最終的な落札総額は23億6,000万£)。各事業者の周波数取得状況は以下のとおり。

4G(800MHz帯/2.6GHz帯)オークション結果 (2013年2月)
落札事業者 800MHz 2.6GHz

落札金額

(£)

ブロック 条件 ブロック 条件
ボーダフォン 10MHz幅×2

20MHz幅×2

25MHz幅×1

アンペア 790,761,000
EE(現BT傘下) 5MHz幅×2 35MHz幅×2 588,876,000
O2 UK 10MHz幅×2 カバレッジ達成要件  550,000,000
3 UK 5MHz幅×2 225,000,000
Niche Spectrum Ventures

15MHz幅×2

20MHz幅×1

アンペア 186,476,000

出所:Ofcom

(2)2.3GHz帯及び3.4GHz帯

2014年11月7日、Ofcomは、MoDに割り当てられていた2.3GHz帯(2350-2390MHz)の40MHz及び3.4GHz帯(3410-3480MHz、3500-3580MHz)の150MHzの合計190MHzを、周波数オークションによって付与することを提案する公開諮問を発表した。これは、今後10年間で公共セクターの周波数約500MHzを開放するという政府のPSSRPの最初の主な動きで、Ofcomが2014年4月に発表した周波数管理戦略にも盛り込まれている。Ofcomは2017年7月11日、新たな規則案を発表した。概要は以下のとおりで、3.4GHz帯も含めて各社の合計保有周波数幅に上限を設ける等の修正が行われた。

【対象周波数帯】
【入札ロット】
【最低入札価格】
【前払金】
【保有周波数幅の上限】

2017年9月、同規則案の内容を不服として、3 UK及びBT/EEはそれぞれ高等法院に司法審査を求めて提訴したため(周波数保有上限について、3 UKは30%に制限するべきと主張、BT/EEは上限を設定すべきでないと主張)、2017年9月にも実施する予定であったオークションは先送りになった。同年12月20日、高等法院は3 UK及びBT/EEの訴えを退け、Ofcomの主張を全面的に認める判決を下した。

当該判決を受けてOfcomは2018年1月24日、できる限り速やかにオークションを実施するため、改めて規則案(「2018年無線電信(免許付与)規則案(Draft of Wireless Telegraphy(Licence Award)Regulations 2018)」)を公表(公開諮問案から特段の修正はなし)、同規則は1月31日より施行され、2月8日に申請受付が実施され、2018年4月にオークションが実施された。本オークションでは落札者に対するカバレッジ条件は課されていない。また、オークション方式については、プリンシパル段階(周波数の量を決定)と割当段階(割当場所を決定)の2段階で周波数を割り当てる2段階方式が採用された。

5G周波数オークション(2.3GHz、3.4GHz)の落札結果(2018年4月)
落札者 周波数 プリンシパル段階の価格(£) 割当段階の価格(£) 免許料の支払額(£)
EE 3540-3580MHz 302,592,000 1,002,000 303,594,000
3 UK 3460-3480MHz 151,296,000 13,133,000 164,429,000
O2 UK 2350-2390MHz 205,896,000 205,896,000
3500-3540MHz 317,720,000 0 317,720,000
ボーダフォン 3410-3460MHz 378,240,000 0 378,240,000

出所:https://www.ofcom.org.uk/__data/assets/pdf_file/0018/112932/Regulation-111-Final-outcome-of-award.pdf

(3)700MHz帯及び3.6-3.8GHz帯

Ofcomは2019年10月28日、700MHz帯及び3.6-3.8MHz帯の5G周波数オークション制度設計案改訂版の公開諮問を開始した。2018年12月18日にOfcomが発表した提案では、落札者がモバイル・カバレッジ義務を引き受ける代わりに、落札額から一定額を割り引くことが示された。しかし、4大モバイル事業者(EE、O2 UK、3 UK、ボーダフォンUK)は、最大5億3,000万£の設備投資を行うことで、4社すべてのネットワークがカバーされていない農村地域をエリア化するため、共用ルーラル・ネットワーク(Shared Rural Network:SRN)を共同で構築するコミットメントを発表した。EEはSRNの一環として2024年6月までに2,000以上の地域で4Gをアップグレードすることを2021年12月に発表し、新規及び既存の鉄塔又はインフラを既存4社で共有し、4社すべてによってカバーされていないエリアを大幅に削減する。なお、コミットメントで約束したカバレッジ条件は以下のとおり。

また、このコミットメントの提案は、Ofcomが2021年初頭に予定している5G周波数オークションではカバレッジ義務を課さないこと、また、現在全くカバーされていない地域は政府資金でエリア化することを前提としていた。これに対してDCMSは2019年10月25日、4大モバイル事業者との間で官民合わせて10億£の設備投資をすることで合意した。これにより5G周波数オークションではカバレッジ義務が課されないことが決まった。

今回の制度設計案の概要は以下のとおり。

①対象周波数帯
②ロット当たりの最低価格
③周波数キャップ

モバイル事業者が保有できる周波数幅の上限を、全周波数の37%に相当する416MHz幅とする。これにより、既存事業者に対して、BT/EEは120MHz幅、3 UKは185MHz幅、ボーダフォンは190MHz幅の獲得制限が課せられる。

④オークションのデザイン

同時複数回競り上げ(Simultaneous Multiple Round Ascending:SMRA)を採用する。プリンシパル段階と割当段階の2段階方式で、前者で入札者による競り上げによって周波数の量(ロット数)が決定され、後者で1回限りの第2位価格方式の封印入札によって各入札者のロットの割当場所が決まる。

Ofcomは、2006年無線電信法に基づき、当該制度設計を踏まえた周波数オークション規則である「2020年無線電信(免許割当)規則(The Wireless Telegraphy (Licence Award) Regulations 2020)」案についての公開諮問を実施、2020年11月3月に同規則が発効した。

オークションの入札申請の受付は2020年12月に開始され、2021年3~4月にオークションが実施された。落札結果は以下のとおり。

5G周波数オークション(700MHz、3.6-3.8GHz)の落札結果 (2021年4月)
落札者 落札周波数 落札額
EE 723-733MHz/778-788MHz 2億8,000万£
738-758MHz 400万£
3680-3720MHz 1億6,800万£
小計 4億5,200万£
Hutchison 3G UK 713-723MHz/768-778MHz 2億8,000万£
Telefonica UK 703-713MHz/758-768MHz 2億8,000万£
3760-3800MHz 1億6,800万£
小計 4億4,800万£
Vodafone 3720-3760MHz 1億7,640万£
合計 13億5,640万£

出所:https://www.ofcom.org.uk/__data/assets/pdf_file/0028/217954/notice-reg-121.pdf

(4)共用ベースのローカル免許割当

Ofcomは2019年7月25日、共用ベースで利用可能な周波数を「共用アクセス免許」又は「ローカルアクセス免許」として先着順で割り当てる声明文書を発表した。Ofcomは、新たな共用枠組の導入によるローカルアクセスの実現によって、製造、物流、農業、鉱業、健康、企業等の幅広い分野において、イノベーションの恩恵を受けることが可能になるとしている。

共用アクセス免許の対象となる帯域は、1800MHz帯、2300MHz帯、3.8-4.2GHz帯及び26GHz帯である。26GHz帯は、700MHz帯と3.6GHz帯と合わせて、EU域内で5Gパイオニアバンドとして特定されているが、そのうちの低帯域(24.25-26.5GHz)を屋内利用限定で割り当てる。共用アクセス免許の申請受付は、2019年12月9日より開始されている。

共用アクセス免許の概要
対象帯域
  • 1800MHz(1781.7-1785MHz /1876.7-1880MHz)
  • 2.3GHz(2390-2400MHz)
  • 3.8-4.2GHz
  • 26GHz低帯域(24.25-26.5GHz)
共用相手
  • 1800MHz:DECTガードバンドユーザ
  • 2.3GHz:国防省、PMSE、アマチュア無線
  • 3.8-4.2GHz:固定リンク、衛星地球局、FWA
  • 固定リンク、衛星地球局、PMSE、SRD
免許区分
  • 低出力免許(エリア単位):半径50m以内であれば複数の基地局の設置が可能。
  • 中出力免許(基地局単位):ルーラルエリアで、送信出力が高く干渉を及ぼすエリアが広い場合に、基地局単位で免許が付与。
  • 屋内利用限定のロケーション単位の免許で、低出力免許を適用。半径50m以内の一つの免許で、すべての屋内の基地局と端末局が許可。異なる免許人がオーバーラップ(周波数/エリア)しないようにチャネルを割当て(同一免許人の場合は除く)。
  • ただし、将来の5G屋外利用は排除しない。
年間無線電信免許料(12か月)
  • 1800MHz:80£(3.3MHz幅×2を共用)
  • 2.3GHz:80£(10MHz幅を共用)
  • 3.8-4.2GHz:80£/10MHz
  • チャネル幅に関係なく320£/免許
  • チャネル幅は50MHz、100MHz又は200MHz
免許条件 免許付与後6か月以内に送信を開始し、運用を継続する。この条件を満たせない場合は、1か月前に免許の取消しが通知される。
免許申請 2019年12月9日より免許申請の受付けを開始。 本声明文書発表後より免許申請の受付けが開始。

出所:Enabling wireless innovation through local licensing Shared access to spectrum supporting mobile technology, STATEMENT: Publication Date: 25 July 2019

https://www.ofcom.org.uk/__data/assets/pdf_file/0033/157884/enabling-wireless-innovation-through-local-licensing.pdf

一方、ローカルアクセス免許は、既に移動体通信事業者に割り当てられているものの、地域によって使用されていない、あるいは、向こう3年以内の使用計画がないモバイル用周波数を、新たなユーザに開放する。対象となるモバイル用周波数の帯域は、以下の9バンドである。

Ofocm声明文書の発表直後より、免許申請の受付けが開始され、申請が認められた場合は、1免許当たり950£で3年間使用することができる。

6 免許不要利用

(1)5GHz帯

Ofcomは、2015年世界無線通信会議(WRC-15)に向けた準備プロセスにおいて、新たに5350-5470MHz、5725-5850MHz及び5850-5925MHzをWi-Fiサービスへ割り当てることを提案し、5150-5925MHzまでの合計775MHz幅を免許不要帯域とする方針を示した。そして、2016年6月には、2019年世界無線通信会議(WRC-19)を待つことなく、英国独自の判断で実施可能な施策として、5725-5850MHz帯をWi-Fiに開放し、その他の帯域については引き続き検討オプションとして取り扱っていくとする計画案を公開し、意見募集を行った。Ofcomは2017年7月13日、既に同年3月に決定していた5.8GHz帯(5725-5850MHz)のWi-Fi向けの利用について、併せて公開諮問していた同周波数帯を免許不要帯域とするための2017年無線電信免許不要規則(Wireless Telegraphy Exemption Regulation 2017)の制定やスマートフォン等の無線機器のメーカーが順守すべき技術的条件(最小空中線電力を200mW/MHzとすることや固定屋外利用の禁止等)、当該条件の実施に当たってのガイダンス等について原案どおり決定したと発表した。また、Ofcomは2020年1月より6GHz帯の低帯域(5925-6425MHz)をWi-Fi及びその他のRLANで利用可能とすることについて公開諮問を開始し、2020年7月に当該帯域の免許不要での利用を認めることを決定した。更に、Ofcomは2022年9月、5150-5250MHzをWi-Fiその他のRLANに開放し、5170-5250MHzでの上空利用を許可するとともに、ITS(Intelligent Transport Systems)向けの周波数を20MHz幅拡張して5875-5925MHzを割り当てた。

(2)単距離デバイス(SRD)

Ofcomは2020年6月、短距離の無線デバイスの使用を支援するため、874-874.4MHz及び915-919.4MHzの周波数帯の使用に関する技術的な変更、無線周波数識別デバイス(RFID)やモノのインターネット(IoT)デバイスが同帯域を利用できるよう、無線電信規則(The Wireless Telegraphy (Exemption and Amendment) (Amendment) Regulations 2020)を改正した。本改正に伴い、当該帯域を使用するSRDは、Ofcomが2020年5月に公表したSRDの技術的条件を定めるインターフェース要件第2030号(IR 2030 – UK Interface Requirements Licence Exempt Short Range Devices)に従う。その後、2022年9月に、870-874.4MHz、917.3-918.9MHz及び917.4-919.4MHzの帯域(「870/915MHz帯」)でのSRDアプリケーションに係る技術的な変更が加えられた。

7 電波利用料制度

(1)概要

英国で周波数利用の対価として支払われるのは、無線電信法免許料(Wireless Telegraphy Act Licence Fee)である。無線電信免許の多くは1年で更新され、その際に初回の料金と同額の更新料を支払う。

「1998年無線電信法」の制定により、無線電信法免許料の算定に、市場原理を取り入れた「スペクトラム・プライシング」と称される、無線電信免許の免許料設定方法が導入された。スペクトラム・プライシングは、①管理的料金設定(Administrative pricing)と、②オークションによる料金設定の2本柱で構成される。

管理的料金設定は、①インセンティブ料金設定(Incentive pricing)と、②規制的料金設定(Regulatory pricing)の二つに分けられ、前者は管理インセンティブ料金設定(Administrative Incentive Pricing:AIP)と呼ばれ、電波の効率的な利用を促進するため、市場原理との関連性を持たせることを目的に、帯域幅、カバー地域、共用の度合い、地理的立地等の諸要素に基づき算出される電波利用料で経済的価値が勘案される。一方、後者は、市場原理とは無関係に周波数管理費用のみが回収される仕組みである。AIPは「2006年無線電信法」により、政府機関が使用する周波数に対しても適用されている。

(2)900MHz帯及び1800MHz帯の年間免許料

Ofcomは2014年8月1日、900MHz帯及び1800MHz帯の年間免許料(Annual Licence Fee:ALF)について、2014年10月に示した料金改定案の見直しを行い、新料金案を公開諮問にかけた。これらの帯域はGSM帯域として比較審査によって割り当てられたもので、現在、AIPが適用されている。

政府は2010年12月、900MHz及び1800MHzの年間利用料に実際の市場価値が反映されるよう、Ofcomに対する改訂実施指令(Direction)を発表した。同指令では、800MHz帯及び2.6GHz帯の入札完了後に2006年無線電信法12条「免許付与料金」で規定されている年間免許料金の改訂をOfcomに求めるとともに、見直しに当たり4G(800MHz及び2.6GHz)のオークション落札額等を特に考慮に入れるようOfcomに求めていた。

そこでOfcomは、①4G周波数オークション落札額、②海外における周波数オークションの結果、③周波数帯が持つ技術・商業的特徴等を考慮に入れ、周波数免許の市場価値を推計し、結果として2013年10月に1MHz当たりの年間免許料を、900MHz帯で199万£、1800MHz帯で119万£にするという新料金案を発表した。しかし、この新たな料額提案は、現行の5倍近い金額になることから、移動体通信事業者の強い反発を招いた。そのためOfcomは、4Gオークションの評価方法や、周波数価値を算定する際の計算式の見直し等を実施し、2014年8月に新料額案を提案した。これは前回の提案よりも2割程度引き下げられた。

その一方で、移動体通信事業者4社(O2 UK、EE(現BT傘下)、ボーダフォンUK及び3 UK)は2014年12月、移動電話の音声・テキストサービスの地理的カバレッジを2017年までに90%まで拡大すること等を盛り込んだ、総額50億£の設備投資を行うことを政府に約束した。これは4社のうち1社又は2社のみの移動体通信網しかない地域(「Partial Not-Spots」)を解消するための官民合意で、移動体通信事業者各社それぞれが90%の地理的カバレッジを達成する法的責務を負う。

総額50億£にのぼる設備投資約束と引換えに、年間免許料の料額が更に引き下げられるかが焦点になっていたが、2015年2月に提案された料額の下げ幅は前回を下回った。その後も見直し議論が続けられ、2015年6月に実施されたドイツのマルチバンド(700MHz、900MHz、1800MHz及び1500MHz)オークション結果を踏まえながら、最終的に2015年9月に料額が決定された。

上記決定について、EE(現BT傘下)は年間免許料が不当に高額であるとして高等法院に対して不服申立を行っていたが、高等法院は2016年8月、Ofcomが採用した料金算出モデルは、EEが提案したものよりも周波数の市場価値をより良く反映させたものであるとし、EEの不服申立を却下した。これに対してEE等は控訴し、控訴院は2017年11月、年間免許料の引上げはインフラ投資に関するEU法に違反しており、また、2010年12月に政府がOfcomに出した指令についてOfcomの解釈に誤りがあると述べ、EE等原告側の主張を認める判決を下した。

これによりOfcomは同免許料の再検討を行い、2018年12月17日、2019年1月31日からの新たな年間免許料案を発表した。900MHz帯が109万3,000£/MHz、1800MHz帯が80万5,000£/MHzと、2015年に決定し撤回された料額よりも若干値下げされた内容となっている。

900MHz帯及び1800MHz帯の年間免許料(1MHz当たりの単価/年)の決定経緯
Ofcom提案時期 900MHz 1800MHz
2013年10月10日 199万£ 119万£
2014年8月1日 157万£ 96万£
2015年2月19日 148万£ 84万£
2015年9月24日決定(後に撤回) 112万8,000£ 81万5,000£
2018年12月17日提案 109万3,000£ 80万5,000£

出所:http://stakeholders.ofcom.org.uk/binaries/consultations/annual-licence-fees-further-consultation/statement/statement.pdf 等

その後、高等法院は2019年5月17日、Ofcom に対して、2015年から2017年までの2年間にわたり移動電話事業者が支払った900MHz及び1800MHz帯の年間免許料の支払超過分2億2,000万£を事業者に返還するべきとの判断を下した。今回の裁判では、前回の裁判で争われていなかった支払超過分の返還が争われた。高等法院はOfcomに控訴する権利は認めるものの、Ofcom の主張が認められなければ、裁判費用を含めたコストは全額財務省から支払うよう求めた。原告(ボーダフォンUK)は、今回の裁判結果を歓迎する一方、Ofcomは、2017年の判決で争われたのはALFの値上げの正当性についてであり、超過分の返還ではなかったが、今回の裁判で既に支払われたALFがいわゆる「棚ぼた」として事業者に返還されることになったと説明している。

(3)地上デジタルテレビ放送マルチプレックスの年間免許料

Ofcomは2014年3月17日、DTTのマルチプレックス・サービス免許に課せられる年間免許料の金額を発表した。周波数の利用は、無線電信法に基づく免許の交付を通じて認められるが、Ofcomは、その免許料を設定するに当たり、①実際の周波数管理に必要なコストベースの料金、②機会費用に基づく管理インセンティブ料金、③周波数オークション、という三つの料金決定方式のうち適切なものを採用するとしている。DTTは、デジタルへの完全切替を2012年に終了したところであり、政府の方針に基づき、現在のマルチプレックス・サービス免許が期限を迎えるまで免許料は課されていなかった。

2014年の免許更新を前に、Ofcomは以降の免許料として、コストベースの料金を採用した。各マルチプレックスの年間免許料を以下のとおりに設定し、全国DTTマルチプレックスは、電波管理費用113万£をベースに均等に配分された。

ただし、ローカルテレビについては、免許料を最初の2年間は半額とし、北アイルランド・テレビ用マルチプレックスについては、英国とアイルランドとの間の協定により、免許人ではなくDCMSが免許料を支払う。

(4)3.4GHz帯及び3.6GHz帯の年間免許料

Ofcomは2019年6月7日、3.4GHz帯及び3.6GHz帯の年間免許料金(ALF)案を決定した。3.4GHz帯の40MHz幅及び3.6GHz帯の80MHz幅が対象となり、いずれも3 UKが保有している。同帯域のALFを設定するに当たりOfcomは、長期的な利用が想定されていること、周波数帯の特徴が2.3GHz帯や3.4GHz帯と似ていること等を踏まえ、2018年4月に終了した同帯域のオークション結果を参考にした。その結果Ofcomは、いずれの周波数帯も1MHz当たり43万5,000£をALFとして設定すると決定した。

(5)2.1GHz帯の年間免許料

Ofcomは2021年7月、2022年1月1日から新たに適用される2.1GHz帯の年間免許料について、ペアバンドの場合は1MHz当たり56万7,000£、アンペアバンドの場合は1MHz当たり29万£とする提案について公開諮問を開始した。2.1GHz帯は3Gサービスを提供するために、免許期間を20年とする3G免許として2000年にオークションにかけられたもの。Ofcomは2011年に政府の指示に基づき、2.1GHz帯の3G免許を無期限とし、2022年1月1日から年間免許料の支払いを新たに義務付けた。ペアバンドについては、2021年12月に年間免許料が発表され、1MHz当たり56万1,000£と設定された。本決定を受けて、既存4社は2.1GHz帯の周波数保有量に基づいて、以下の年間免許料を支払う。ただし、料額は消費者物価指数(CPI)に基づいたインフレ率に応じて毎年変動する。

なお、DCMSの2021年12月の発表によると、2G及び3Gによるモバイル・ネットワークは2033年までに段階的に廃止される。

(6)10/28/32GHz帯の年間免許料

Ofcomは2022年7月、主に固定無線サービスに使用される10GHz、28GHz及び32GHz帯の年間免許料案を発表した。

(7)無線電信免許料の徴収額

Ofcomは「2021/22年次報告書及び決算書(Annual Report and Accounts 2021/22)」を発表し、「2003年通信法」第400条の規定に基づき、2021/22年度(2021年4月1日~2022年3月31日)に徴収した免許料や制裁金に関する決算を公表した。これらは、①無線電信法免許料、②テレビ及びラジオの免許人による追加支払、③制裁金、④地理的番号、⑤政府部門の電波利用料(Government department spectrum fees)にかかわる徴収額で構成され、無線電信法免許料の徴収額は3億3,127万3,000£となった。

2021/22年度、Ofcomは18億50万£を受領したが、これには2021年4月の700MHz帯及び3.6-3.8GHz帯のオークションが含まれる。受領額のうち、8,450万£が、周波数管理や新たなオンライン安全及びビデオ共有プラットフォームの事務を含む関連支出に充当された。Ofcomは、オークション収入、無線電信法免許料、政府部門の電波利用料及び現金残高から得られる利子に係る17億1,070万£を、連結基金への支払いとしてDCMSに支払った。2022年3月に受領した残高1,100万£は、2022年4月1日に財務省に移管された。更に、Ofcomは、テレビ及びラジオの免許人による追加支払、制裁金及び地理的番号料金から得られた収入の270万£を直接連結基金へ送付した。

なお、Ofcomは2022年10月、テラヘルツ帯の周波数アクセス(「Spectrum Access:EHF」)免許や3.9GHz帯の周波数アクセス免許等の料額改定に関する「2022年無線電信(免許料)(修正)規則(Wireless Telegraphy (Licence Charges) (Amendment) Regulations 2022)」案を提案した。

Ⅲ 周波数分配状況

2017年英国周波数分配表(UK Frequency Allocation Table 2017