世界貿易機関(WTO)World Trade Organization

Ⅰ 概要

1 住所等

Tel. +41 22 739 5111
URL http://www.wto.org/
所在地 Centre William Rappard, Rue de Lausanne 154, CH-1211, Geneva 21, Switzerland
幹部 ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ(ナイジェリア)(事務局長/Director-General)(2021年3月1日就任)

2 設立の目的

1930年代の不況以降、世界経済のブロック化が進み、各国が保護主義的貿易政策を設けたことが第二次世界大戦の一因となったという反省から、1947年に「関税及び貿易に関する一般協定(通称:GATT)」が締結され、GATT体制が1948年に発足した(日本は1955年に加入)。貿易における無差別原則(最恵国待遇、内国民待遇)等の基本的ルールを規定したGATTは、多角的貿易体制の基礎を築き、貿易の自由化の促進を通じて日本経済を含む世界経済の成長に貢献してきた。

GATTは国際機関ではなく、暫定的な組織として運営されてきたが、1986年に開始されたウルグアイ・ラウンド交渉において、貿易ルールの大幅な拡充が行われるとともに、これらを運営するため、より強固な基盤を持つ国際機関を設立する必要性が強く認識されるようになり、1994年のウルグアイ・ラウンド交渉の妥結の際に設立が合意され、1995年1月1日に発足した。

3 WTO協定

世界貿易機関の設立について定めた国際条約は、正式名称を「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定」といい、通常「WTO設立協定」又は「WTO協定」と呼ばれている。

WTO協定は本体及び附属書に含まれる各種協定からなる。附属書は1から4まであり、そのうち附属書1~3はWTO協定と一括受諾の対象とされており、WTO加盟国となるためには附属書1~3のすべてを受諾しなければならない。附属書4は一括受諾の対象ではなく、受諾国間でのみ効力を有する。

4 意思決定方式

WTOにおける意思決定はコンセンサス方式(すべての加盟国の合意によって意思決定。一つの加盟国でも反対すれば残りのすべての加盟国が賛成してもWTOとして決定は下せない)をとっている。

5 加盟国

WTOは、日本、米国、EU 加盟国、カナダ、オーストラリア、韓国、ASEAN6か国、インド、メキシコ等、76か国の加盟国をもって発足した。2020年末現在の加盟国は下記の164の国及び地域である。

アイスランド、アイルランド、アフガニスタン(2016年7月加盟)、アラブ首長国連邦、アルゼンチン、アルバニア、アルメニア、アンゴラ、アンティグア・バーブーダ、イエメン、イスラエル、イタリア、インド、インドネシア、ウガンダ、ウクライナ、ウルグアイ、英国、エクアドル、エジプト、エストニア、エスワティニ(旧スワジランド)、エルサルバドル、EU、オーストラリア、オーストリア、オマーン、オランダ、ガーナ、ガイアナ、カザフスタン(2015年11月)、カタール、カナダ、カボベルデ、ガボン、カメルーン、韓国、ガンビア、カンボジア、ギニア、ギニアビサウ、キプロス、キューバ、ギリシャ、キルギス、グアテマラ、クウェート、グレナダ、クロアチア、ケニア、コートジボワール、コスタリカ、コロンビア、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、サウジアラビア、サモア、ザンビア、シエラレオネ、ジブチ、ジャマイカ、ジョージア、シンガポール、ジンバブエ、スイス、スウェーデン、スペイン、スリナム、スリランカ、スロバキア、スロベニア、セーシェル共和国(2015年4月)、セネガル、セントクリストファー・ネビス、セントビンセント及びグレナディーン諸島、セントルシア、ソロモン諸島、タイ、台湾、タジキスタン、タンザニア、チェコ、チャド、中央アフリカ、中華人民共和国、チュニジア、チリ、デンマーク、ドイツ、トーゴ、ドミニカ共和国、ドミニカ国、トリニダード・トバゴ、トルコ、トンガ、ナイジェリア、ナミビア、ニカラグア、ニジェール、日本、ニュージーランド、ネパール、ノルウェー、バーレーン、ハイチ、パキスタン、パナマ、パプアニューギニア、バヌアツ、パラグアイ、バルバドス、ハンガリー、バングラデシュ、フィジー、フィリピン、フィンランド、ブラジル、フランス、ブルガリア、ブルキナファソ、ブルネイ、ブルンジ、米国、ベトナム、ベナン、ベネズエラ、ベリーズ、ペルー、ベルギー、ポーランド、ボツワナ、ボリビア、ポルトガル、香港、ホンジュラス、マカオ、北マケドニア、マダガスカル、マラウイ、マリ、マルタ、マレーシア、南アフリカ、ミャンマー、メキシコ、モーリシャス、モーリタニア、モザンビーク、モルディブ、モルドバ、モロッコ、モンゴル、モンテネグロ、ヨルダン、ラオス、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、リベリア(2016年7月)、ルーマニア、ルクセンブルク、ルワンダ、レソト、ロシア

なお、2020年末現在、以下の25か国が加盟申請中である。

アゼルバイジャン、アルジェリア、アンドラ、イラク、イラン、ウズベキスタン、エチオピア、キュラソー、コモロ、サントメ・プリンシペ、シリア・アラブ共和国、スーダン、赤道ギニア、セルビア、ソマリア、トルクメニスタン、バチカン、バハマ、東ティモール、ブータン、ベラルーシ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、南スーダン、リビア、レバノン

Ⅱ 組織の構成

(1)閣僚会議(Ministerial Conference

従来のGATTで年1回開催されていた総会に代わり、WTOでは、すべての加盟国の代表で構成され、WTOの最高意思決定機関である閣僚会議(Ministerial Conference)が少なくとも2年に1回開催されることとなっている。

(2)一般理事会(General Council

一般理事会(General Council)は、WTOの全加盟国の代表によって構成される組織で、閣僚会議の会合から次の会合の間において任務を遂行する実務組織であり、閣僚会議の閉会中はその機能を代行することとなっている。

(3)紛争解決機関、貿易政策検討機関(Dispute Settlement Body/Trade Policy Review Body

紛争解決機関は、WTOにおける紛争処理制度(二審制)を運営する。貿易政策検討機関は、加盟国の貿易政策の定期的な審査及び国際貿易に関する年次の監視報告書の作成を行う貿易政策検討制度(TPRM)を実施する。

(4)モノ、サービス、知的財産権全般に関する理事会(Council for Trade in Goods/Trade in Services/Trade-Related aspects of Intellectual Property rights:TRIPS)

一般理事会の下部組織として、附属書1に掲げるモノ、サービス、知的財産権全般の各協定を管理する理事会が設置されている。

(5)委員会(Committees)、特別会合(Special Sessions)等

モノ、サービス、知的財産権全般に関する理事会の下に様々な委員会(Committees)が設置されている。このほか、従来のGATTにおいても設置されていた貿易開発委員会(Committees on Trade and Development)や行財政委員会(Committees on Budget, Finance and Administration)等が設置されている。更に、貿易交渉委員会(Trade Negotiations Committee)の下にサービス理事会特別会合(Special Sessions of the Council for Trade in Services)やTRIPS理事会特別会合(Special Sessions of TRIPS Council)等が運営されている。

Ⅲ サービス分野(電気通信サービス分野等)における取組み

WTO協定は、貿易に関連する様々な国際ルールを定めており、WTOは同協定の実施・運用を行うと同時に新たな貿易課題への取組みを行い、多角的貿易体制の中核を担っている。

1960年代以降、コンピュータ等に象徴される技術進歩を背景として、金融、運輸、電気通信等のサービス貿易分野において国際間の取引が著しく増大し、世界貿易に対するサービス貿易の比重が増大した。しかし、GATTにおいては物品の貿易を想定したルールしかなかったため、広範な分野を対象として、ウルグアイ・ラウンド交渉において「サービスの貿易に関する一般協定(通称:GATS)」が締結された。

GATSはすべてのサービス(政府の権限の行使として提供されるサービスを除く)の貿易に影響を及ぼす政府の措置を対象としており、これらのサービス貿易を、①越境取引、②国外消費、③商業拠点、④人の移動の四つのモードに分類している。

加盟国は、サービス分野及び四つのモードごとに市場アクセスと内国民待遇について守るべき義務を約束(自由化約束)する。当該約束は、自由化を行う分野を各国がオファーする方式(=ポジティブリスト方式)で行われ、各国の約束表にその内容が記載されている。また、各国の約束表においては、市場アクセスと内国民待遇に関する約束以外に、追加的な約束としてサービス貿易に影響を及ぼす各国の措置を記載することができる。

特に電気通信サービス分野については、金融サービス分野と共に、ウルグアイ・ラウンド交渉において先進国側が最も重視して取り組んだ分野であり、サービス提供者による公衆電気通信網・サービスの利用について定めたGATSの電気通信に関する附属書のほか、ウルグアイ・ラウンドからの継続交渉となった基本電気通信交渉における成果として、基本電気通信サービスの規制枠組について定めた参照文書が作成された。当該参照文書については、追加的な約束として各国(有志国)の約束表に反映されている。

2001年11月から開始されたドーハ・ ラウンド交渉においても、電気通信分野はサービス貿易分野における重要な分野の一つとして認識されていたが、同ラウンド交渉は各国の意見対立により長らく停滞している状況にある。

このような状況を受け、サービス分野(電気通信サービス分野のほか、電子商取引分野も含まれる)においては、2013年6月より、21世紀に相応しい新サービス貿易協定(TiSA:Trade in Services Agreement)の締結に向けた交渉が有志国によって開始された。しかしながら、電子商取引等の分野における各国の意見対立により、2016年末を最後に交渉が中断された状況となっている。

Ⅳ 電子商取引分野における取組み

現状、WTOにおいて電子商取引に関する協定は存在していない。一方で、1998年に策定された電子商取引作業計画に基づき、加盟国は、電子商取引の貿易関連の側面(物品貿易、サービス貿易、知的財産及び開発の各側面)についての探究的な作業を行うとともに、電子的送信(オンライン・コンテンツ等)に関税を賦課しないとする関税不賦課のモラトリアムの慣行(閣僚会議ごとに次の閣僚会議までの延長を決定)を継続してきた。しかしながら、電子商取引作業計画に基づく探究的作業は長らく停滞しており、21世紀のデジタル化の時代に対応するための具体的な取組み(WTO協定のアップデート等)ができていない状況にあった。

このような中で、2017年12月に開催されたWTO第11回閣僚会議(於:アルゼンチン)において、我が国がオーストラリア及びシンガポールと主導する形で、電子商取引に関する共同声明を有志国(71か国)において発出し、将来のWTO交渉に向けた探求的作業を開始することとなった。これを受け、2018年3月より、有志国会合(我が国はオーストラリア及びシンガポールと共に共同議長国を務める)における議論が開始され、2019年1月の非公式閣僚会合(於:スイス・ダボス)においては、WTOにおける電子商取引分野の交渉開始の意思を確認するとともに、高い水準の合意と可能な限り多くのWTO加盟国の参加の実現を追求すること等を内容とした新たな共同声明が有志国(76か国)によって発出された。これにより、2019年よりWTOにおける電子商取引交渉(有志国会合における交渉)が開始され、①電子商取引の円滑化要素(貿易手続の電子化促進、電子署名の受入れ等)、②電子商取引の自由化要素(データ流通の促進、サーバ設置要求の禁止、電子的送信への関税不賦課等)、③電子商取引の信頼性要素(消費者保護、プライバシー、ソースコード保護等)、④横断的要素(サイバーセキュリティ等の政策協力、デジタル・ディバイド解消等)、⑤電気通信(基本電気通信サービスに関する参照文書のアップデート)、⑥市場アクセス(電子商取引関連のサービス(コンピュータ関連サービス、電気通信サービス等)に関する自由化約束の向上等)の各分野・イシューについて、議論が行われている。我が国は、引き続きオーストラリア及びシンガポールと共に共同議長国を務めている。

2020年末時点での有志国会合への参加国は、日本、オーストラリア、シンガポールの共同議長国のほか、米国、EU、中国、ブラジル及びロシア等を含む86か国となっている。

Ⅴ その他(WTO改革の取組み)

近年、保護主義や不公正な貿易慣行が広がりを見せる中、WTOにおいては下記のような改革が推進されている。

一般理事会は、2021年2月、ロベルト・アゼベド氏(ブラジル出身)が2020年8月末で退任して以来、不在であった事務局長に、ヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏(ナイジェリア出身)を選出し、3月1日より就任した。