第百四十五回国会衆議院
地方行政委員会議録

平成11年2月18日(木曜日)

○土肥委員 民主党の土肥隆一でございます。

 こんなに夜遅くまで、大臣も、また委員の皆様も大変御苦労さまでございます。

 地方行政委員会というのは、今まで専ら数字をいじったり、けちつけたり、あるいは根拠を問うたりしてまいりまして、頭が少し混乱しておるわけではございますけれども、私は地行に入りまして、やはりなぜ地行を選んだかということも申し上げなければいけないと思うのであります。それは、私、今も厚生委員をしておりますけれども、介護保険のことであります。

 介護保険法が成立いたしまして、もういよいよ来年の4月から公的な介護保険事業が出発するという時期に当たりまして、専ら厚生省サイドから介護保険を見てまいりました。しかし、これは、実際に保険者として仕事をなさるのは自治省を頂点とする三千三百余の市町村であります。今、介護保険の準備のために、地方自治体の職員の皆さんは猛烈な勢いで仕事をしていらっしゃるわけでありまして、もうふらふらになっていると言っても過言ではないというふうに思うのであります。

 そういう非常な苦労をして努力していらっしゃるわけでございますけれども、私がきょう申し上げたいのは、私ども厚生委員会で考えてまいりました介護保険の一番根っこの問題、介護保険がなぜ導入されたかという一番基礎的な、一番中心になる課題がどうも消えつつあるわけでございまして、それを忘れますと、そもそも介護保険は何だったのかということにもなりかねない課題であります。

 それは、地方自治体が保険者であるということをどれだけ自覚して、そして、この介護保険を何のために自治体が保険者となって市町村単位で仕事をするのか、介護、看護の仕事をするかということがあいまいになる可能性もあるわけでございまして、そういう意味で、私はきょうは、厚生省がやっておりますこの介護保険事業の準備と、そして、各自治体がそれにこたえてどういうことをしているかということの中身を問うてみたいと思うのであります。

 実は、新聞にも大々的に出ましたけれども、ことしの2月13日の日経でございますが、福岡県内の大部分の町村というふうに書いてありますが、ここで言うと七十町村が広域連合構想を持っている、そして5月中にはこの大広域連合構想に入っていくのだ、こういうふうに言うわけであります。

 私、この広域連合という言葉を聞くときに、一体、基礎自治体を担当するそれぞれの市町村が、介護保険の保険者として本当に自分のやるべき役割を自覚しておられるのかどうかということを考えるわけであります。これは非常に重大なことだと私は思うわけであります。

 この福岡の構想によりますと、広域連合で、人口の数にして百二十万人が対象になるというふうに報道されております。そして、なぜ広域かということについて、福岡県町村会長の山本文男氏、この人がいろいろなことをいろいろな新聞社に言っておりますけれども、要するに、介護保険というものは本来は国か県がやるべきであって、そして、それは地方自治体ではなく、国が面倒な事務を市町村に押しつけただけ、こう主張しているわけであります。こういうことをおっしゃって、いわば七十を超える市町村が大連合構想を持って介護保険をこなしていくということになるわけであります。こういう事態をどう認識するのか。

 これは何も福岡の話だけではなくて、北海道の空知地区でありますとか、九州の佐賀県でありますとか、あらゆるところにそういう現象が生まれておりまして、もう既に介護保険月当てに約三十を超える地域連合ができつつある、このように新聞は報道しているのでございます。一体、この現象について我々はどう考えたらいいかということでございます。

 したがいまして、このことを論ずる前に、やはり大臣、あるいは厚生省、そして自治省――特に県が指導しているという向きが非常に強いわけであります。県が地域の市町村をまとめようとしている。県がいろいろノウハウを提供するから、それを聞いてやるのだ。もちろん経費や人件費の削減もできるけれども、しかし何といっても、お互いに保険者として、つまり市町村同士が比較されたり、あるいは、地域住民にこの市町村は何もしていないじゃないかとかおくれているじゃないかというふうな比較、差別されることを嫌って、なるべく均一な、平等な介護保険事業をやりたいというようでございます。

 そうした中で、本来介護保険というのは何のために導入したのかというところから出発しませんと、このままいきますと、何かもう従来の行政手法、つまり国があって、県があって、市町村があって、そして国が隅々まで面倒を見る、市町村の面倒を見る、その中間で県がいろいろとお手伝いをして、そして、言ってみれば従来と全く変わらない行政手法が介護保険の世界にどっかりと足をおろしつつあるのではないかというふうな危惧の念も持つわけでございます。

 したがいまして、少し込み入った話になりますけれども、まずは、今度自治大臣になられました野田大臣がもともと新進党の時代には、介護保険は税でというふうに主張しておられたわけでございまして、しかしながら、これを公的な保険でやるということが法律で決定された今日、市町村、これを基礎自治体と申しますけれども、この市町村というものについて、自治大臣としてどういう認識を持っておられるか、そこからお聞きしたいと思います。

○野田(毅)国務大臣 多少、広範なお話があった後で基礎自治体ということについての御質問であるのですけれども、基礎的自治体という前に、私の認識では、もともと介護という問題を、公的な形の中で介護支援をしていく、この位置づけがなされたのはそんなに古い話ではないと思います。むしろ、それぞれ家庭の中で、どちらかというと特に女性の負担が非常に重くなってきている。場合によっては家庭崩壊にまでつながりかねない。そして、そういう要介護の方々がどんどんふえてきている。ある意味では老後の尊厳にかかわるテーマである。

 そういった中で、やはり公的セクターとしてこれは放置できない世界なんだ、まずそういう認識の中から、ヨーロッパにおけるさまざまな対応の仕方などをいろいろ厚生省も勉強されて、そのうちの一つのアイデアとして公的介護サービスを達成していく。その一つのファイナンスのあり方などとして、保険ということと組み合わせて介護保険ということになったのであって、もともとこの問題は、介護保険というワンセットの言葉で無理にスタートしたところに多少問題があるのではないか。公的介護体制という問題と保険という問題とを必ずしもリンクしなければならないのかどうか。

 特に、ドイツなどでは、給付の問題で、やはり施設や何かで十分追いつけないというようなこともあって、現金給付ということが、その是非まで含めて、介護保険ということについての見直しの議論さえ現にある。そういう背景の中で、この制度が導入をされたというふうに私は認識をいたしております。

 したがって、この問題について、今私は自治大臣という立場でありますからそれ以上のことをとやかく申し上げることは慎みたいとは思いますが、少なくとも、自民党、自由党両党の政策協議の中で、この点については、自由党からは、今申し上げましたように、介護保険制度については、負担の実質的な公平、サービスの普遍性、事務負担の軽減等を勘案し、公費負担を中心とする税方式に改めるという提案を行い、一方で自民党からは、個人の自立と連帯の精神に基づき、社会保障の根幹である医療、年金も公費と保険料の組み合わせによる社会保険方式で構築されており、介護保険制度についても同様の仕組みとすることとしていることなどから、法律で定めているとおり施行することが必要であるとの主張がありまして、その上で、両党が協議をした結果、介護制度については、平成11年度末までに、基盤整備、実施主体の状況などを点検し、円滑な実施が図られるよう、財源のあり方などを含め検討するということになったわけであります。

 したがって、問題は、公的介護体制を推進していくというこの一点では両党とも一致をしていることであり、そういう意味で、各自治体においてこの問題に全力を挙げて取り組んでいただいておるということが今日の姿であり、それを自治省としても全面的にサポートをしていきたいという今状況下にあるということを、まず、長くなって恐縮でありますが、ぜひ御理解をいただきたいと思っておるのです。

 その上で、基礎的自治体というお話がございました。これは、地方自治法にも書いてありますとおり、市町村が基礎的自治体ということは規定もされておるわけであります。それは、当然のことながら、住民により密着した仕事を一番身近な地方公共団体が担っていく、ここが当然のいわゆる地方自治の原点に近い部分であろうか、こう考えております。

 そういう点で、今るる申し上げましたのは、公的介護支援というこの仕事が、そういう意味で基礎的自治体、市町村に本当に固有の事務としてもともとなじんでいる仕事なのかどうかということについても、実はいろいろな御議論もあるのではないか。

 特に、その仕事の重要性、老後の尊厳を考えた場合に、それを担うだけの行政的、人的、その種の積み重ねなりというものが本当にあるのでしょうかという中から、今御指摘のような広域連合というものを考えていかなければ、それだけの行政サービスを担うだけの力量というものが現に備わっていないという現実を考えたら、多少、基礎的自治体である市町村自身がまずもってやらなければならぬという位置づけについては、私はそう一概には言い切れないのではないかという思いをいたすわけであります。

○土肥委員 まさに自治大臣、ずばりおっしゃっていただいて、基礎的自治体である市町村には介護保険を担う能力がまだ備わっていないのではないかという指摘でございます。

 私は、これこそ大問題であります。本当にそうなのか。そして、広域連合というのは、実は基礎的自治体がその実力を問われることを嫌って逃げているのではないかというのが私の考えでございます。介護保険が導入されて、保険者が市町村であると決めた以上は、何が何でも市町村が担わなければならないのです。実力があるかないかはやってみなければわからないし、広域連合に至る必然性はやはり自分でやってみなければ出てこないというのが私の考えでございます。

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