第百四十五回国会衆議院会議録

平成11年5月13日(木曜日)

○春名眞章君 私は、日本共産党を代表して、地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律案に関連して、総理並びに自治大臣に質問いたします。

 まず、四百七十五本にも及ぶ法律改正を一括して提出した問題であります。

 そもそも、日本の全法律の約三分の一に当たる膨大なものを一括法として提出して、充実した審議が可能とお考えなのかどうか。国会審議の著しい軽視ではありませんか。総理の見解をまず伺うものであります。

 憲法で地方自治の本旨がうたわれて半世紀。理念として認められた自治体の行政権、財政権、自治立法権は、三割自治との言葉にあらわされるように、歴代自民党政権のもとで著しく制約されてまいりました。今、地方分権というのであれば、この国の支配、統制とそのための制度こそ廃止すべきであります。そして、憲法がうたう地方自治の本旨を構成する住民自治と団体自治を保障することこそが求められているのであります。

 ところが、あなた方の言う地方分権論は、専ら国と地方の役割分担という角度、また、行政改革のためにという視点しか聞こえてこないのであります。総理、一体あなたは、地方分権の魂をどうお考えなのでしょうか。地方自治の本旨の実現、すなわち自治体の行財政権、自治立法権を拡大することこそ必要ではないでしょうか。総理の基本認識を伺いたいと思います。

 権限と税財源の充実という点で、本法案には見るべきものがほとんどありません。しかし、今日、地方自治体の借金が百七十兆円を超え、東京、大阪、神奈川、愛知など大都市圏の自治体ですら赤字転落が現実問題となっているこの姿を見れば、税財源の移譲こそが待ったなしの課題ではないですか。一体いつまでにどのように実行するのか、明確にしていただきたいのであります。

 次に、法案の具体的な内容について伺いたいと思います。

 住民の直接選挙で選ばれた知事や市町村長を国の機関として、国の事務を行わせる機関委任事務制度の廃止は、当然のことであります。問題はその後であります。この法案では国の関与が縮小する保証がないのであります。

 第一に、機関委任事務の割り振りの問題です。分権推進委員会の中間報告では、原則として地方公共団体の自治事務とするとうたわれていました。ところが、結果は、法定受託事務が全体の四割を占めるまでに膨れ上がったのであります。なぜ、これほど法定受託事務が多くなったのですか。法定受託事務に代執行という制度が温存され、最終的に国の強い関与ができるからではありませんか。

 第二に、その少なくなった自治事務にすら代執行という仕組みが導入されていることは重大であります。政府の地方分権推進計画にも、自治事務については国の行政機関は代執行することができないと明言されていたではありませんか。これは、自治体に対する国の統制を強化するものではありませんか。

 第三に、関与の原則を規定しておきながら、その一方で、国の行政機関が自治事務と同一の事務をみずからの権限に属する事務として処理する場合の方式の規定を置いている問題であります。なぜ、このような規定が必要なのですか。この規定は、自治事務であっても、国が判断し、省令を含む法令を定めさえすれば、国のいかなる関与も認められるというものであります。これでは、関与の基本原則を法定化したといっても、その原則を定めた意味がなくなるのではありませんか。

 また、違憲の疑いのある内閣総理大臣の是正措置要求を、各大臣にまで広げたのはなぜでしょうか。これによって、例えば高知の非核港湾条例制定への政府の介入のように、港湾管理に直接権限のない外務省が、担任する事務と判断すれば、地方の事務に介入する道を正式に開くことができるのであります。総理大臣に限定されていた是正措置の権限をそれぞれの大臣に広げることは、まさに国の関与を飛躍的に強めるものではありませんか。

 第四に、現行自治法の自治大臣の技術的助言、勧告規定をそのまま改正案に盛り込んだのはなぜでしょうか。全国で荒れ狂っている自治体リストラの旗振りとなった98年11月の自治事務次官通達、国の公共事業積み増し路線に地方自治体を巻き込み、自治体財政の破綻を招いた財政課長内簡などは、この規定を根拠にして出されております。地方自治を担当する自治省こそ、率先してこうした規定を削除すべきではありませんか。

 以上の諸点について、自治大臣の明確な答弁を求めるものであります。(拍手)

 改正法案では、国の関与が縮小されない、むしろ一層国の介入、関与があからさまに強化されるようになると、今一斉に批判、心配の声が広がっています。総理、この声にどうおこたえになるのでしょうか。本法案が最大の焦点だとした関与の縮小に資しするものとなっていないのなら、一体何のための法律改正かということになるのであります。総理の見解を改めて問うものであります。

 一括法案には、関与の問題だけでなく、多数の重大問題があることを指摘しなければなりません。

 その第一は、上からの市町村合併の推進という問題であります。

 住民が主人公という地方自治の大原則に照らすなら、市町村合併問題は、何よりも住民の圧倒的多数の意思、合意が前提とならなければなりません。今、その合意形成のシステムがないもとで、合併促進の見地からのみ特例制度を拡大するならば、まずまず住民合意のない合併が推進させられることになるのではありませんか。総理は、このやり方が地方自治の形骸化をもたらすものと考えないのでしょうか。

 そもそも、地方分権と市町村合併は全く別次元の問題であります。推進委員会も、分権の受け皿としての合併は退けるとの立場だったのではありませんか。地方分権一括法に合併特例法を盛り込むこと自身、私は重大な問題だと考えますが、総理の答弁を求めるものであります。

 第二は、地方議員定数削減の問題であります。

 改正案は、法定定数の上限の見直しを行い、既に各自治体の条例によって定数削減を行われている上に、さらに二百三十七人もの定数削減を強要するものとなっています。この改悪により、人口区分によっては、五十年以上も昔の第二次世界大戦中の議員定数よりも少なくなる自治体すら出てくるのであります。

 地方議会の活性化は、地方分権の重要テーマの一つではありませんか。権限移譲が進むのであれば、それはチェックする地方議会の役割は今後ますます大きくなるのであります。なぜ定数削減なのか、国民に納得できる説明をすべきであります。地方分権に真っ向から逆行する定数削減をなぜ上から強要するのか、自治大臣の明確な答弁を求めるものであります。

 第三に、米軍用地特別措置法の改定を盛り込んでいる問題であります。

 憲法二十九条は国民の財産権を保障し、公共のためにやむを得ず私有財産を収用、使用する場合でも、公正な手続と正当な補償を厳しく求めています。この憲法規定に基づき、戦後の土地収用制度は、地方自治体の独立した機関である収用委員会の審理を経て、初めて土地の強制使用、収用ができるとしてきたのであります。

 ところが、政府は、この精神を踏みにじり、97年4月、収用委員会の裁決を経なくとも、契約期限が切れている土地であっても、手続中の土地について、暫定使用という名目で継続して使用できるという改悪を強行したのであります。

 今回の再改定案は、その上に、これまで市町村長や県知事に行わせてきた土地調書への署名捺印、いわゆる代理署名や裁決申請書の公告縦覧を、国の直接執行事務として取り上げた上に、さらに、新たな米軍基地の強制使用に際して、収用委員会が一定期間内に緊急裁決をしなかった場合、あるいは緊急裁決を却下した場合に、総理大臣みずからが使用または収用の裁決ができるとしているのであります。総理大臣が収用委員会にかわって裁決をすることになれば、収用委員会の審理は形だけのものとならざるを得ません。

 総理、この改定は、市町村長や知事の関与を完全に排除し、地主や地元関係者など、地方の意見反映の機会を根底から奪うものであります。このような改定は、地方分権の名に値しないばかりか、憲法三十一条の適法手続の原則にも反するものではありませんか。明確にお答え願いたいと思います。

 新ガイドラインで、日本は米側に対して、周辺事態への対応として、新たな基地の提供を適時適切に行う、このことを約束しています。この改悪は、こうした米側への約束を果たすためのものではありませんか。総理の明確な答弁を求め、徹底的な審議を強く主張して、私の質問を終わります。(拍手)

〔内閣総理大臣小渕恵三君登壇〕

○内閣総理大臣(小渕恵三君) 春名眞章議員にお答え申し上げます。

 まず、本法案の形式についてのお尋ねがありました。

 地方分権一括法案は、地方分権の推進を図るという同一の趣旨、目的を有するものであること、また、改正の大宗を占める機関委任事務の廃止等については、通則法としての地方自治法と関係法律が相互に関連していることなどの理由で一括法としたものであり、むしろ意味ある効果的な審議ができるものと考えております。

 住民自治と団体自治の拡充強化等が必要ではないかとのお尋ねであります。

 今回の法案は、地方公共団体の自主性、自立性を高めることによりまして、地方公共団体がみずから決定のできる範囲が広がり、団体自治という面においてはもちろん、住民自治という面におきましても、大きな意義を有するものであると考えております。さらに、今回の法改正は、行財政権、自治立法権の拡充にもつながるものと受けとめております。

 地方への権限と税財源の移譲についてお尋ねですが、今回の法案におきましては、都市計画法、森林法などの改正による権限の移譲や特例市制度の創設などを行っております。また、地方分権推進計画に沿いまして、国の地方の役割分担を踏まえ、国庫補助負担金の積極的な整理合理化や事務権限の移譲などを推進し、地方税、地方交付税等の必要な地方一般財源の確保を図ることといたしております。

 今後とも、国から地方公共団体への事務権限の移譲や地方税財源の充実確保等、地方分権の一層の推進に向けて、積極的に取り組んでまいりたいと思います。

 国の関与についてのお尋ねでありましたが、法案におきましては、機関委任事務に係る国の包括的な指揮監督権を廃止し、関与の法定主義、基本原則、手続ルール及び係争処理制度を地方自治法に規定するとともに、個別の法律における関与についても見直しを行い、その整理縮小を図ったところであります。

 市町村合併についてのお尋ねですが、行財政基盤の強化を図り、地方分権の成果を十分に生かすためにも、市町村合併を積極的に進めることが必要と考えております。その際、市町村の判断を尊重することは当然でありますが、都道府県の積極的な取り組みとあわせ、国としても、幅広い行財政措置を講じ、市町村合併を総合的支援していくことが重要であると考えております。

 最後に、駐留軍用地特措法改正についてお尋ねがありましたが、これは、地方分権推進委員会の勧告を受けまして、国と地方公共団体との役割分担を明確にするという観点から、同法の事務について国が最終的に執行責任を担保し得る仕組みを講じようとするものであります。したがいまして、同法の改正については、地方分権に背くとの指摘は当たりませんし、また、周辺事態への対応に関連して行うものでもありません。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁いたさせます。(拍手)

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