第百四十五回国会 参議院会議録

平成11年6月14日(月曜日)

○高橋令則君 私は、自由民主党並びに自由党を代表いたしまして、ただいま趣旨説明のありましたいわゆる地方分権一括法案について、総理及び関係大臣に質問いたします。

 我が国は今大きな岐路に立っていると思います。我が国は、明治以降、欧米先進国に追いつき追い越すことを目指し、政治、行政、経済、そして社会構造をつくり上げてきました。それは徹底的な中央集権の構造であります。

 すなわち、政治、行政では中央が地方に君臨し、経済社会においては官が民に目標を示し、規制と行政指導等によってこれを誘導していくというやり方でありました。

 このシステムが我が国の近代化、経済社会の発展に大きく貢献してきたことは否定できません。しかしながら、二十一世紀を目前に控え、我が国を繁栄に導いてきたさまざまなシステムが、今や内外の激変に適切に対応できない深刻な制度疲労に陥っております。二十一世紀に向けて新たなシステムを構築することが、今まさに喫緊の課題になっているのであります。

 私ども自由党は、自己責任原則を大前提としたフリー、フェア、オープンな社会の実現、国民一人一人の能力が最大限に発揮できる社会の構築を基本政策としております。そのため、今の行政システムの構造改革を積極的に推進しなければならないと考えております。すなわち、今回の政府による中央省庁等改革関連法案とともに、この地方分権一括法案をそのための第一歩として早期に実現する必要があると考えておるものであります。

 第二次大戦後、地方自治については、憲法の定める地方自治の本旨に基づいて制度化され推進されてきました。しかし、その実情は果たしてどのようなものになってきたのでありましょうか。新しい地方自治を標榜しながら、その実態は次第に変貌し、中央が許認可権や補助金等で地方を縛り、陳情政治や官官接待等により国民の厳しい批判を受けるなど、真の地方自治にはほど遠いものになってきたことは明らかであります。

 その意味において、平成7年の地方分権推進法の制定、地方分権推進委員会の累次にわたる勧告、地方分権推進計画の策定など、地方分権の推進に向けた取り組みが進められ、今回その一つの到達点とも言うべきこの法案が国会に提出されたことは、まことに意義深いものがあります。関係各位の御努力に対して深く敬意を表する次第であります。

 さて、これによって、今の地方自治ではなく、あるべき地方自治を想定し、これに基づいて地方分権を推進するというものでなければなりません。地方分権推進の基本理念は、国と地方公共団体の役割を明確にし、地方が国に従属する関係から、国、地方が対等となる関係に改めることにあると考えております。

 まず、総理に地方分権の推進の基本的な考え方をお聞かせいただきたいと思います。また、この法案が成立することによって地方の分権がどのように進められるか、その認識をお聞かせいただきたいと思います。

 地方分権は、国全体の行政改革に資するものでもなければなりません。この法案が成立することによって地方公共団体にさまざまな権限が移譲されることになりますが、これに伴って地方公共団体の行政機構の肥大化をもたらすことがないこと、そしてまた、地方行政の改革が引き続き推進されることが必要であります。

 今回の地方分権に伴う国、地方を通ずる行政改革の期待できる効果について、総理に所見をお聞かせいただきたいと思います。

 この法案の主たる柱の一つは、機関委任事務制度の廃止とこれに伴う事務の再編成であります。明治以来の中央集権行政システムの象徴となっていた機関委任事務を廃止することにしたのは、まさに歴史的な大転換であり、高く評価されるべきものと考えます。

 これに対して、法定受託事務が多く、自治事務の割合が少ない、あるいは国の関与が懸念される等の批判もあります。

 そこで、機関委任事務廃止の意義とともに、これらの論点について自治大臣の所見をお尋ねいたしたいと思います。

 次に、市町村合併についてであります。

 地方公共団体が地域における行政を自主的、自立的に企画、立案、実施そして調整することができるように、行財政基盤の強化と、行政経費を削減し、自立できる足類の強い地方公共団体に再編する必要があると思います。特に、真に自立できる地域社会を実現するために、基礎的な地方団体である市町村の役割が極めて重要であります。

 私ども自由党は、市町村合併を積極的に推進し、現在、全国三千二百三十二の市町村を当面千に再編し、最終的には自立した三百の市に再編すべきものと考えております。

 市町村合併推進の基本的な考え方を総理に、そしてまた、その取り組みの方策を自治大臣にお尋ねいたします。

 次に、地方分権に関連して、市町村長諸氏、都道府県知事の多選禁止の問題について であります。

 地方自治のいわゆる三ゲン、すなわち人間、権限、財源は今後さらに地方に大きく傾斜していくでありましょう。かつ、そのように進められていかなければなりません。これに伴って、大統領制度に準ずる首長制度の弊害も目立ってくるとする指摘があります。

 しかるがゆえに、この多選禁止を避けて通ることのできない問題として検討すべきものと考えますが、自治大臣の所見をお尋ねいたします。

 次に、地方分権を保障するためには、その財源の充実確保が肝要であります。

 そのため、国と地方公共団体の税財源の配分のあり方を根本的に見直す、そして地域の実情に応じた事業を推進するため、地方公共団体に対する国の補助金、負担金などをできるだけ廃止し、当該補助金などに相当する額を一定のルールに基づいて地方公共団体に一括交付することが必要であると考えます。大蔵大臣ならびに自治大臣にそのお考えをお尋ねいたします。

 次に、地方分権の推進に伴う国土の均衡ある発展の必要性についてであります。

 地方分権によって地域地域の自立発展が大いに期待されますが、一方において、国土の均衡ある発展を図るために、過疎、山村、離島等の条件不利地域においても健全な地域社会を守ることが重要であります。これらの地域の役割に応じて国の適切な支援、対応策が今後ますます必要と考えますが、総理の所見をお尋ねいたします。

 最後に、前段申し上げましたように、地方分権推進には、憲法の地方自治の本旨、地方自治法、地方分権推進法並びにこの法案のエッセンスを総括し、地方自治の理念と根本原則を明らかにすることが必要であり、かつ継続的な取り組みが求められるものと考えます。

 そのため、私ども自由党は、地方自治基本法の制定を主張していることを申し上げておきたいと思います。

 冒頭申し上げましたように、今回の地方分権一括法案は、機関委任事務の廃止を含む地方分権推進のための重要な一つのステップであります。

 この法案の早期成立を願うとともに、地方分権を今後さらに推進され、あるべき地方自治の早期実現を心から期待いたしまして、私の質問と致します。(拍手)

   〔国務大臣小渕恵三君登壇、拍手〕

○国務大臣(小渕恵三君) 高橋令則議員にお答え申し上げます。

 地方分権推進の基本的考え方及び本法案の意義についてお尋ねがありましたが、言うまでもありませんが、地方分権は、ただいま議員御指摘の基本理念を踏まえつつ、二十一世紀にふさわしい我が国の基本的な行政システムを構築するものであります。

 地方分権は今や実行の段階を迎えていると認識をしており、本法案の成立によりまして、地方分権を具体的な形で進め、明治以来形成されてきた国、都道府県、市町村という縦の関係である中央集権型行政システムを変革し、対等・協力の横の関係を構築したいと考えております。

 地方分権の推進による国、地方を通じた行政改革の期待できる効果についてのお尋ねがありました。

 地方分権の推進は、今日、我が国が取り組んでいる行政改革の大きな柱の一つであります。国と地方公共団体それぞれの役割分担が明確化し、国の関与も必要最小限に限られることとなるため、国、地方を通じた行政の簡素効率化が図られるものと考えております。

 市町村合併に係る基本的な考え方についてのお尋ねでありましたが、地方分権の成果を生かし住民サービスの向上を図るためには、市町村の主体的な取り組みのもとに市町村合併を積極的に推進し、行財政基盤の強化を図るべきであると考えております。このため、本法案に思い切った支援措置を盛り込むほか、都道府県の協力も得ながら市町村合併を総合的に推進してまいります。

 最後に、過疎、山村、離島、半島などの条件不利地域振興についての御質問がありました。

 国土の均衡ある発展は、重要な政策課題であると考えております。このため、さまざまな面で不利な条件にあるこれらの地域につきましては、その実情に応じ、地方公共団体の自主的、主体的な取り組みを支援しつつ、国としても産業基盤や生活環境の整備等の施策を進めてまいりたいと考えております。

 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)

   〔国務大臣野田毅君登壇 拍手〕

○国務大臣(野田毅君) 機関委任事務廃止の意義などについての御質問がございました。

 この法案の成立によって、中央集権型行政システムの中核的部分を形成してきたと言われる機関委任事務制度が廃止をされ、関与の抜本的な見直しとあわせて地方公共団体の自主性、自立性は大幅に高められ、国と地方公共団体の関係は上下・主従の関係から大きく転換されるものと考えております。

 また、法定受託事務の数につきましては、今回の法案作成に当たって地方分権推進委員会の勧告に即して事務区分を行ったところでありますが、将来にわたり法定受託事務の創設は厳に抑制してまいりたいと考えております。

 関与につきましては、今回の法案において、機関委任事務に係る国の包括的な指揮監督を廃止しますとともに、関与の法定主義、基本原則、手続ルールおよび係争処理制度を地方自治法に規定いたしました。さらに、個別の法律における関与につきましても見直しを行い、その整理、縮小を図ったところでございます。

 これにより、全体として関与は大幅に縮減され、地方分権の趣旨を実現するものになっていると考えております。

 次に、市町村合併の取り組みの方策についてのお尋ねでございますが、まず、本法案に、地域審議会の設置、合併特別債の創設などの思い切った支援措置を盛り込んだところであります。さらに、合併推進のための財政措置を拡充するほか、合併推進のガイドラインをお示しして、都道府県の積極的な取り組みを要請するなど、市町村合併を積極的かつ総合的に支援してまいります。

 次に、首長の多選禁止についてのお尋ねでございます。

 これは、地方分権推進計画におきまして、「首長の選出に制約を加えることの立法上の問題点や制限方式のあり方等について、幅広く研究を進めていく。」とされたわけでございます。これを踏まえ、現在、自治省におきまして学識経験者による研究会を設け、調査研究を進めておるところでございます。白地に絵をかくというのと違って、現実に該当者もあるわけでございます。そういう点で、各党各会派におかれましても、十分御議論をちょうだいいたしたいと考えております。

 国庫補助負担金を廃止し、一括交付することについてのお尋ねでございます。

 政府としては、地方分権推進計画等に基づき、地方公共団体の自主性、自立性を高める見地から、国と地方との役割分担の見直しにあわせて積極的に国庫補助負担金の整理合理化を進め、地方税、地方交付税等の地方一般財源の充実確保を図ることといたしております。

 また、第二次地方分権推進計画に基づきまして、公共事業に関し、地方公共団体が裁量的に施行できるよう、国が箇所づけしないことを基本とした統合補助金を平成12年度に創設することとしております。

 国庫補助負担金につきましては、自由党として、包括交付金方式を提唱しておられることを十分承知いたしております。

 いずれにしても、地方公共団体が自主的、主体的に事業を実施できるよう、必要な財源措置のあり方について見直しを進めてまいりたいと考えております。

 以上であります。(拍手)

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