第百四十五回国会
参議院行財政改革・税制等に関する特別委員会会議録

平成11年7月8日(木曜日)

○富樫練三君 たびたびあるわけではないというのは答えにはなっていないと思うんです。

 この直接執行という制度、法律上から見ると、いわゆる裁判抜きの代執行になるんですね。すなわち、法定受託事務の場合には職務執行命令訴訟をやって、その後でいわゆる代執行、こういうことになるわけで、自治事務の並行権限による直接執行の場合は裁判抜きで一方的な直接執行が可能になる、ここが代執行と直接執行の違うところなんです。これが可能であるということ。

 何でそれが可能なのかというと、これは行政上の上下主従関係ということを前提にしなければこういう理屈は通らないはずなんです。ですから、そういう意味では今度の地方分権の中でやはり上下主従関係あるいは縦の関係というものが色濃く残っている、その一つの典型がこの直接執行、ここにあらわれていると言わなければならないと思うんです。

 さて、時間がだんだん短くなってまいりましたけれども、この統制、強化という側面の三つ目の問題でありますけれども、合併特例法、この問題であります。

 今度の改正では、都道府県知事は市町村に対して合併協議会設置の勧告ができる、こういうふうにしております。本来、合併は市町村や住民が自主的に判断することが大事だというふうに考えますけれども、総理の合併に対する基本認識をまず伺います。

○国務大臣(小渕恵三君) 市町村合併は、地域のあり方にかかわり、地域の将来や住民の生活に大きな影響を及ぼす事柄であることから、市町村や地域住民がみずから主体的、積極的に取り組むことがまず基本だと考えております。

 その上で、市町村を包括する広域の地方公共団体である都道府県には、地域全体の発展や住民生活の水準の確保という観点から、市町村合併をみずからの問題としてとらえ、積極的な役割を果たすことが期待されるところでございまして、都道府県知事の法定合併協議会設置の勧告につきましても、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するものといった都道府県の本来の役割に基づくものであると考えておるところでございます。

○富樫練三君 そこで伺うわけですけれども、今回の合併協議会設置の勧告、わざわざ勧告を入れてあるわけなんですね。勧告をするときに、どういう事態になったときに勧告をするのか、都道府県から。その基準はどういうものがあるんですか。

○国務大臣(野田毅君) 法定の合併協議会の設置については、まず合併関係の市町村同士の自主的、主体的な話し合いに基づいて設置されるケース、それから住民発議を契機として設置されるというケース、それから都道府県知事の勧告に応じた合併協議会の設置、この三つのパターンが考えられるわけですが、今の知事の勧告というのは、これは広域にわたる事務、それから市町村に関する連絡調整に関する事務といった都道府県の本来の役割、これは地方自治法の第二条第五項で規定しておるわけですが、これに基づくものである、まず基本的にはそこから発しているものである。

 そこで、具体的にどういう場合に勧告が行われるのかということを、厳密な意味でなかなかこういうケースだと断定的には申しにくいと思いますが、想定されるのは、まず合併のパターンにおいて、市町村のまとまりがあるというようなことでなければなかなかできないだろう、あるいは関係市町村で合併に向けた取り組みがなされておって、関係市町村から都道府県に対して要請がなされたような場合とか、あるいは地域の住民の中で機運が盛り上がっている、にもかかわらず関係の市町村の方が行動を起こさないような場合とか、いろんなケースが想定されるわけであります。

 いずれにしても、都道府県というのは当然のことながら地域の実情を熟知しておるわけでありまして、この合併協議会が設置され、あるいは合併自体の是非も含めてその地域で話し合いが行われることが一番望ましい。もちろん、それぞれの地元の皆さんが主役となって合併の機運を盛り上げていただくということが一番大事なことであるというふうには考えております。

 なお、これは、知事の合併協議会設置の勧告ということは現行法の中でも地方自治法の第二百五十二条の二第四項というのがあって、その中で、「公益上必要がある場合においては、」これを行うことが可能であったということでございますが、本法案における合併特例法の改正は勧告に際しての関係市町村からの意見聴取など合併協議会の重要性に応じた手続を定めようとするものであって、その地方分権の趣旨に沿ったものであるというふうに考えております。

○富樫練三君 今どういう基準があるのかということを伺いましたら、市町村がまとまりがある場合、それから市町村からの要請がある場合、機運が盛り上がっている場合、こういうわけなんですけれども、例えば市町村がまとまっていてそれぞれが自主的に合併しようではないか、こういうときは別に勧告がなくても合併協議会の設置は可能ですよね、やる気があるわけですから。市町村から要請がある場合、これはそれぞれ合併したいんだけれども、勧告がなければ合併ができない、合併協議会がどうしても必要なわけですから。

 そういうふうに考えた場合に、市町村から要請が来るということはそれぞれ意思があるということですから、これは自主的に合併協議会を設置することは可能です。それから、機運が盛り上がっている場合、これは機運が盛り上がっているわけですから、みずから合併協議会を設置すればいいわけで、何も勧告がなくても協議会ができないということではないと思うんです。

 ですから、上から勧告をして合併協議会を設置させるというふうにするというのは、実は実態としては、下からの盛り上がりは余りないんだけれども、上からむしろ合併させようというときにまさにこの勧告が発せられるのではないか。下から盛り上がっているときは別に勧告しなくたってそれは幾らでも進むわけですから。こういう性格のものではないかというふうに思うんです。

 どうも違うようですから、一言どうぞ。

○国務大臣(野田毅君) さっき厳密に申し上げたつもりです。つまり、住民サイドにおいて機運が盛り上がっている、しかし首長さんなりあるいは議会のサイドでいろんな意見があって住民の要望になかなか沿えないというケースがよくあり得るわけであります。そういった場合に勧告をするということは大変有意義なことである、私はそう考えております。

○富樫練三君 そこが住民自治や地方の自治権に対する恐らく考え方の大分違うところだろうと思うんですけれども、住民が盛り上がっているという場合には、いずれそれはそこの首長さんや議会がそういう方向で話は進んでいくはず、こういうことだと思うんです。それを焦って上から勧告をしなければ、市町村長に言うことを聞かせなければ住民の要望が実現できないんだ、こういうことではない。ここは考え方の基本が大分私はずれているというふうに思うんです。

 ところで、6月23日に全国町村会から国に対して「市町村の合併に関する緊急要望」というのが出されました。その中でこういうふうに言っております。「町村の意向を何ら聴くことなく、国会審議等様々な場において、将来の基礎的地方公共団体の数を初めから想定した議論がなされている。一律の人口規模や財政規模により合併を議論することは極めて不適切である。」、こういうふうに言っております。そしてさらに、「合併を強制することのないよう留意すること。」、こういうふうにも言っているんです。

 ですから、この地方分権の議論の中で、実は合併特例法を改定して勧告をする、こういうことについて極めて警戒をしている、市町村の考え方とはその方向は違う、こういう意思表示が明確に出されているわけなんです。

 そこで伺いますけれども、分権推進委員会の第二次勧告、この中で合併問題に触れておりますけれども、その中では合併協議会設置の勧告、これは入っておりましたか。どうですか。

○政府委員(鈴木正明君) お答えいたします。

 平成9年7月に行われました地方分権推進委員会の第二次勧告におきましては、都道府県知事による合併協議会の設置の勧告については、具体的に装置の勧告という表現はございませんが、都道府県は合併の推進のために必要な助言、調整等に務めるものとされているところでございます。

 また、昨年4月の地方制度調査会の市町村の合併に関する答申におきましては、「都道府県知事が必要と認めた場合に、関係市町村に対し合併協議会の設置を勧告し、合併についての検討・協議が幅広く行われるようすべきである。」という御提言をいただいておるところでございます。

○富樫練三君 第二次勧告については、具体的に協議会設置の勧告ということは入っていない、勧告、調整だと。助言、調査と合併協議会設置の勧告ということはかなりこれは性格が違うわけですから、そういう点では閣議決定をした分権推進計画、ここで初めて入ったのではないかというふうに思うんです。

 そういう点では、例えば地方分権推進委員会の委員長であります諸井虔さんは、こういうふうに言っておるんです。これは、先日7月1日に参考人の質疑がありましたけれども、合併を法律とか規制によってやるということではなく、ぜひ自主的に進められるようにというのが推進委員会の見解、こういうふうに言っているんです。

 にもかかわらず、政府はそれを一歩二歩も踏み込んで、法律で合併協議会の設置の勧告の権限までを規定しよう、こういうものであります。これは明らかに自主的な合併ではなくて上からの合併の押しつけだ、こういうふうに言わなければならないと思うんです。これでは全国町村会あるいは分権推進委員会の勧告、7月1日の参考人質疑で四人の方はそれぞれ自主性を尊重すべきだ、上から押しつけてはならぬ、こういう発言もしているわけでありますけれども、こういう意見やあらゆる角度からこうやって検討してきた方向とは完全に違う、まさに政府の独断で進めようというものではないでしょうか。

 こういう点で、今度の合併協議会の設置の勧告、これについて地方自治あるいは地方分権、この流れとは反対の方向なんだというふうに私は思いますけれども、総理はどういうふうに思いますか。

○国務大臣(小渕恵三君) 今回のこの法律は、こうした各市町村の合併につきましては自主的に進められるということでございまして、先ほど来自治大臣から答弁申し上げておりますように、それぞれの地域が自主的にこの問題について合併を行っていくということでございますが、国といたしましては、これをあえて強制するということではありませんけれども、そうした大きな方向性について、この国におけるそれぞれの三千を超える市町村が合併するという形の中で地方自治が守られていくという形のものとなっていくことを願って、こうした法律を出させていただいておるということでございます。

○富樫練三君 時間ですから、終わります。(拍手)

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