国会衆議院 総務委員会議録

平成13年11月29日(木曜日)

○重野安正君
  市町村合併特例法における合併手続き過程での住民投票制度の導入という問題についてお伺いいたしますが、地方制度調査会答申は市町村合併については、一つにまさに地方公共団体の存立そのものに関わる重要な問題であること、二つに地域に限定された課題であることから、その地域に住む住民自身の意思を問う住民投票制度の導入を図ることが適当、このように言っているわけです。これを素直に読みますと、市町村合併について住民の意思を問うこと、つまり最終意思決定としての住民投票、こういうふうに読めると思うんです。また、そう読むのが妥当と考えるんですが、本改正案では合併協議会設置に関わる手続きにすり替えられている、このように私は読むんですね。大臣、この点についてはいかがでしょう。  

○遠藤副大臣
  お尋ねのようにですね、第26次の地方制度調査会答申ですけれども、重野委員のおっしゃったように、市町村合併については、まさに地方公共団体の存立そのものに関わる重要な問題である、二として地域に限定された課題であることから、その地域に住む住民自身の意思を問う住民投票制度の導入を図ることが適当である、こうあるんですけど、その後段の方に、制度化にあたっては、関係団体の意見を十分聴取の上、円滑な運用を図るものとすることが適当であると、こういうふうななお書きが入っております。それからさらにその後ですけども、地方分権推進委員会の方で御議論いただきまして、市町村合併の推進について意見におきまして、ここでは、住民発議が行われても合併協議会設置に至らない場合が多いことに鑑み、住民の意向がより反映されるよう住民発議による合併協議会設置の議案が議会で否決された場合に、合併協議会の設置を求める住民投票制度の導入を検討すると、一般的な住民投票制度の導入で行うのではなくて、合併協議会の設置を求めると、こういう問題につきまして、限定的に、この住民投票を導入することが大事だと、それからまた、住民に合併の是非そのものを問うと、こういうものは間接民主主義を否定するものになるわけですから、手続き上の問題として、手続きの一環として、この住民発議制度、さらに議会で否決された場合に、なおかつ住民の投票でそれができると、このように限定的に導入した、そういうことでございます。

○重野安正君
  なかなかよく理解できないんですが、総務省の皆さんの考えは、直接請求の要件を満たしている住民発議が議会によって否決されてしまうから、これをクリアする手段として、今回のような途中の手続き過程に住民投票を導入する、簡単に言えば、そういうことだと思うんですね。総務大臣、私はそういうふうに受け止めたんですけど、そういうことだと思いますが、いかがでしょうか。それなら要件を満たしている他の直接請求、いろいろありますね、例えば、神戸空港建設の可否に関する住民投票についての住民の直接請求なども、基本法である地方自治法において住民投票を義務づけたらいいじゃないかという意見を私は持ちますね。特定目的に限って、住民投票を義務づけるというのはね、ちょっとご都合主義的ではないかという指摘をせざるを得ないんですが、いかがでしょうか。

○片山総務大臣
  地方制度調査会の答申の読み方がいろいろあるんですけどね。昔は、昭和の大合併の時は、合併そのものを住民投票にかけたんですよ。市町村合併そのものを。ただその前提で県知事の勧告や内閣総理大臣の勧告ありましたよ。勧告をしたあと、やらないとき、長や議会が、住民投票かけたんですよ。今回も地方制度調査会はそういう意見あったんです。しかしね、合併そのものを住民投票で決めるのは、間接制民主主義をとっている我が国憲法では、いかがかなと、我々にも躊躇がありましてね、ただ、合併協議会を住民発議で出したんですから、それが議会で否決されたらね、もう一遍、ワンチャンスで協議会を置くことを住民投票で決めたらどうだろう、協議会ですから、議論する場ですから、合併するかしないかはやっぱり議会で決めてもらおう、こういうことなんですね、そこで他の直接請求がね、否決されたときは、何で住民投票しないんだと、合併は特別だと、合併は、こういう思想でございましてね、それは地方制度調査会の答申でも、そういう趣旨のこと書いておりますんで、地方制度調査会は場合によっては合併そのものもという感じがあったんですけど、それは関係団体の意見を十分聞けと、調整しろと、こういうことでございまして、関係団体の意見、地方六団体その他の意見をよく聞いて、我々も内部でよく検討した結果、協議会の設置は住民投票でやるということは今のいろんな枠組み、憲法の中では許されるんではなかろうかと、これは大変議論があるところです。それは何度も言いますけれど、立法において大いに議論していただいてね、この辺までというところを最終的には、私は何度も言いますけど、間接制と直接制の組合せ、程度は、最終的に立法政策というか、国民の選択だと、こういうふうに思っておりまして、今回は答申の趣旨を活かして、こういう制度にさせていただいたわけであります。

○重野安正君
  御都合主義と指摘をしましたが、その私の疑問を解消するだけの答弁ではないと言わざるを得ません。それでは、合併特例法の4条関係について聞きますが、総務省が強調してやまない間接民主主義からすれば、団体意思の決定機関としての議会の議決権は最も尊重されなければならないはずであります。だからこそ地方自治法は厳密にこれを規定したわけです。これを制限するようなことは、当然、許されるはずもない。調べてみますと、議会の議決を制限したものとして、新市町村建設促進法という法律があります、これ以外は、私の調べた範囲、一切ないんですね。この点についてどのように認識されてるんでしょう。

○芳山自治行政局長
  御指摘のとおりでございまして、新市町村建設促進法の中には、市町村の境界変更、町村合併に関し、区域内の選挙人の住民投票に付し、市町村の境界変更に関し、有効投票の3分の2、または町村合併に関し、選挙人の過半数の賛成があった場合には、市町村の境界変更、廃置分合の申請があったものとみなすという規定等があります。現行法で今回の合併特例法の規定のように、議会の議決とみなすというような規定は、他には存じないと理解しております。

○重野安正君
  私が指摘しましたように、今回の合併特例法改正案は、議会の議決権を制限する2番目の法律案、こういうことになる。それどころか、奇しくもとでも言いますか、どちらも合併に関する点でですね、実に私が指摘する問題点をよく示してると思うんですよね。それだけに本改正案がもたらす間接民主主義への影響は非常に大きいものがあると言わざるを得ません。そこで聞きますが4条17項で合併協議会設置協議について有効投票総数の過半数の賛成があったときは、合併協議会設置協議について、合併請求市町村の議会が可決したものとみなすとされているんですね、くどいようですが、これはなぜそうなるんですか。

○遠藤副大臣
  今回の住民投票制度は、合併協議会設置に関して、議会と住民の意思が著しく乖離していると、こういう場合に住民の意思を反映することが適当である、なぜなら市町村合併というのは住んでいる住民のために行うものであります。それから、これは地方分権推進委員会の意見を踏まえているものでございまして、住民発議で手続きの一環として行っている、住民発議が行われまして、市町村の議会が合併協議会の設置の議案を否決した場合について導入したと、こういうことですね。この場合、合併協議会は関係市町村の議会の議決を経て設置されるものであることから、合併請求市町村の議会が可決したものとみなすと、こういうことにしたところでございます。

○重野安正君
  執拗に聞きますけれど、確かに任意の場合を除きまして、法定協議会の設置は議会の議決事項であります。これは、地方自治法252条の第3項に規定されています。従って法定合併協議会も当然この対象であることは間違いありません。そうであれば、この4条17項はなおさら問題ではありませんか。そもそも議会が住民発議を否定した場合で、首長が住民投票に付することを明らかにしたとき、あるいは首長がこれを明示せず、新たに住民が連署をもってこれを請求したとき、はじめて、合併協議会設置のための住民投票がなされる。この改正案の仕組みからすれば、議会が一度否決したものを住民投票で過半数を得たら、それは議会が可決したものとみなすなどということがどうしてできるのかという、そういう私の疑問を答弁は解明していない。それでは、この間、総務省が強調します間接民主主義を自ら自己否定することになるのではないか、このように私は思えるんですね。どうですか。

○遠藤副大臣
  市町村合併をするかしないかの最終判断をするのは、これは依然として議会がこれを決定する。ただその手続きといたしまして、極めて限定的な例外として、間接民主主義の、議会の法定協議会設置を否決した場合のみ、もう一回、住民から、住民投票があり、住民発議があり、それが過半数に達する投票があったという場合だけ、法定協議会の設置を認めろと、そこの部分だけ、若干、直接民主主義が間接民主主義を上回っているとふうに理解をしていただければいいと思います。最終的には、議会の権能、合併するかしないかという最終的な判断は、依然として間接民主主義の議会が持っている、こういうことでございます。

○重野安正君
  やはり説明に私は無理があると思うんですね。ですからね、今までこういうことは2回しかやられてないということですね。このことに象徴的に表れてると思うんですね。従って、今の答弁ではなかなか納得できるものではありません。地方自治法に定める議会の権能行使として否決されたものが、住民投票に付され過半数の賛成を得たらそれは議会の可決とみなす、これは手品みたいなものです。そんなことが特例法に名を借りて、どうしてできるのか、という思いがいたしますね。間接民主主義における団体自治の議会の権能ですね、そのことと直接民主主義による効果概念、このような法形式で結合することが、果たしてつなげるものかと、そういうふうに思いますが、そういう私の指摘に対し、どう思いますか。

○片山総務大臣
  そういう意味では極めて例外的に、この場合は直接民主主義の方が間接民主主義に勝つようにした。例外的な規定だ思っていただきたいんですね。本来、議会が決めることを住民投票で代替するわけですから、ただ、ことは合併でありますしね、やはり議会と住民の意思の乖離をもう一遍どっちが正しいか確認しようと、こういうようなことのためにね、合併協議会の設置については、住民投票を認めると、住民投票の結果が議会の議決に優先すると、こういうことの制度を入れようというものでありまして、これは第26次の地方制度調査会の答申に沿ったものなんですね、地方制度調査会の答申の中には合併そのものもという意見も先ほど言ったようにあったわけなんですが、我々は、合併協議会の設置だけ住民投票にかけさせてもらおう、例外ですよ、新市町村建設促進法と2回目の例外ですよ、ただ、それが許されるかという判断は最終的には立法府でお願いしたいと、ここまでは許されると、協議会までは、答申もあるし、合併そのものを住民投票にかけるわけではありませんと、合併協議会の場を作ることを住民投票で決めてもらおうと、ここまでは許されるんじゃなかろうかと、合併そのものまではちょっと御遠慮しようと、こういうことでございますので、是非ご理解を賜りたいと思います。

○重野安正君
  ちょっと乱暴だと思いますけど。地方自治法252条の2第3項による法定協議会による議会の権能について、そのことについては、手をつけられない、一方、住民発議については議会の同意を得るのは難しく、そのため、合併が進まない、これを特例法4条17項で乗り越えよう、これが総務省の手なのかなと、そのために総務省は、私は重大な自己矛盾を生み出してると思うんですよね、これが今回の特例法の改正案の最大の特徴であり、悪しき法改正の見本だと私は決めつけさせていただきたい。前回の質問で、直接民主主義も間接民主主義も法理論上の優劣はないと総務省は認めておられる。特定課題であれ、何であれ、住民投票制度を導入するなら、その限りにおいて、一昨日、大臣は、議会権限は制限されると、答弁しているように、議会の議決権の制限を特例法ではっきり明記するか、地方自治法上に特例規定を設けるのが、私は筋ではないかと、このように思います。それができないのであれば、最終意思決定手段であるにせよ、この諮問的意思決定手段であるにせよ、地方自治法において、住民投票制度とそれに関する手続きを明確に定めるべきである、そうでないと理屈が一貫しない、そうでありませんか。いかがでしょうか。

○芳山自治行政局長
  今回の住民投票制度は、住民発議の手続きの一環として合併協議会の議案を否決した場合に合併協議会の設置の是非について、住民投票をすると、こういう制度でありますが、先程来お話ありますように、市町村合併そのものについては、地方自治法上の何ら変えたものとなっておりません。住民発議について規定する市町村合併特例法4条及び4条の2の改正を行うことにより、住民投票制度を導入することとした次第であります。なお、お尋ねありました点については、26次地方制度調査会の答申においても、自主的な市町村合併の推進という観点から「市町村合併特例法」の中で、この制度は位置づけるの適当であるという御答申をいただいております。

○重野安正君
 まだ、尽きませんが、時間が来ましたのでやめますけどね、やっぱり平成の大合併をね、何が何でもやり遂げなきゃならんというのが先にあって、それにつじつま合わせる形でこういうふうなものが出されてきてると思うんですよ。これはやはり住民自治という精神からすればね、私は歓迎されざる状況だと、このように思います。今後ともいろんな角度から議論をしていただきたいとことをお願いして終わります。


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