地方自治・新時代セミナー‘99 IN 中・四国
〜 新しい自治のかたち 〜
(平成11年11月11日(木)に広島市内で開催。約500名が参加)
― contents ―
(主催者あいさつ)松浦自治大臣官房審議官
(地元県あいさつ)西村広島県副知事
(基調講演)西尾勝 国際基督教大学教授
ディスカッション
◆ 主催者あいさつ
松浦 正敬(自治大臣官房審議官)
今年7月8日地方分権一括法が成立したことで、地方分権はいよいよ実行の段階。地方分権は日本がこれから発展していくためには必要な流れであり、21世紀を迎えるに当たってふさわしい流れである。分権のキーワードは「自立」。この「自立」とは役割 を分担していくことであり、社会が一定の成熟をして、さらに発展していく場合には適 切な役割分担が不可欠になってくる。
「権限」、「人間」、「財源」の「三ゲン」は地方分権の三要素と言われている。
「権限」については、自立という観点からすれば、今回の改正で国の関与が廃止・縮小されたことでかなりの部分が実現されたのではないか。
「人間」については、地方自治体職員の意識改革はもちろんのこと、同時に地方自治を支える住民の参加が重要になってくる。住民自治の改革は今後の課題であるが、住民自治は単に制度を変えるだけではなく、情報公開やインターネットの活用、NPOによる地域お こしなど、地方公共団体が創意工夫を凝らすことにより住民参加はどんどん広がってい くのではないか。
「財源」について、地方公共団体の税財源の充実・確保の問題は今後に残された課題であるが、まず考えなければならないのは統合補助金の問題。地方税財源の国からの委譲という観点からすると補助金は原則廃止すべきであるが、統合化される対象、地方公 共団体への配分枠の決定の仕方について、工夫していく必要がある。地方の裁量権の拡 充という観点からも地方の声を国に向けて発していただきたい。
地方公共団体においては、一括法の施行にあわせて条例の制定・改廃等の必要があるが、各県の先進的な取組事例を紹介する機会を設けようと考えているところである。
地方行革の推進のため、行革大綱の見直しをお願いする。その際には、数値目標を設定し、これを住民に公開して住民参加のもとに地方行革を進めてほしい。市町村での見直し作業が遅れているが、是非真剣に取り組んでほしい。
分権一括法で市町村合併特例法の改正が行われたが、この改正で現在考えられる措置をすべて措置したつもりである。市町村合併についても実行の段階と言える。
地方が自立していく、地方分権を進めていくためには市町村合併はどうしても必要。 少子高齢化、介護保険、環境など新しい問題に対応するためには、地方公共団体の行財政基盤を強固にする必要がある。
合併を進める中でよく指摘されるのが「過疎地域・過疎団体が合併によってますます寂れていくのではないか」ということであるが、合併により市町村全体の力をつけないと過疎問題についても有効に対応できなくなる。
我々が考えている市町村合併においては、昭和28年の合併促進法の時とは異なり、合併による一体化とコミュニティーの活性化は相反するものと考えていない。今後はコミュニティーが市町村を支えていくことになっていくと思われるので、双方満足できる ような形で合併を考えていく必要がある。そのためにも市町村の力をつけていかなけれ ばならない。
今年8月の「市町村の合併の推進についての指針」のなかで、都道府県には来年末までに合併の要綱の作成、特にパターンの作成をお願いしている。パターンは、地理的状況、歴史的な状況から複数の組み合わせもあり得るが、都道府県自らの問題として積極 的に取り組んで欲しい。
先の通常国会で住民基本台帳法が改正され、住民基本台帳システムのネットワークシステムに関する事務は都道府県の事務となった。システム構築まで残された期間は3年足らずであることから御努力をお願いする。今年11月1日、都道府県の事務の委託先 として(財)地方自治情報センターを指定したところであるが、今年中に事務の委託手 続を完了したいので、手続を進めてほしい。
◆ 地元県あいさつ
西村 清司 氏(広島県副知事)
去る7月に自治体関係者が待ち望んでいた地方分権推進一括法が成立し、いよいよ来年から新しい地方自治の時代が始まろうとしている。
平成7年7月に発足した地方分権推進委員会がその年の11月に第1回の「一日地方分権推進委員会」を開催した会場がこの広島国際会議場であった。新しい地方自治の姿、分権型社会とはどういうものなのかと手探りしていた当時と比べると、それから4年が経ち、今まさに新しい時代の幕開けを目の前にしていること自体が夢のようであり、また、今日ここ国際会議場で改めて新しい時代の自治体のあり方についてセミナーが開かれることは、ある因縁を感じるとともに、ここから新しい時代のスタートを始めていかなければならないという思いを強くしている。
広島県としても、新しい国と地方の関係、都道府県と市町村の関係がスタートしようとするこの時期を、大きな転換期、我々行政の新しい姿への脱皮のチャンスと考え、広島県の行財政改革、広島県内における県と市町村の間の新しい自治システムの構築に向けた改革に取り組んでいるところである。また、市町村の今後の広域行政のあり方について専門的な検討を行う「広域行政検討委員会」を設け、検討を開始しており、合併推進要綱の策定に向けた具体的な作業も始めようとしているところである。
地方自治のこれからの発展がわが国全体の国の将来像に関わるものであるということを胸におきながら、これからの広島の自治のあり方を考えていきたいと思っている。
今日のセミナーを有意義なものとして、それぞれの地域の自治の発展のために役立てていただきたい。
◆ 基 調 講 演
「新しい自治のかたち」
西尾 勝 氏(国際基督教大学教授)
戦後の日本の地方自治制度は、多くの仕事が都道府県・市町村に委ねられていながら実質的な決定権は国の中央省庁が握っているという「集権的」な側面と、地方自治体が行う仕事に地方自治体としての仕事と国の下部機関として行う国の仕事(機関委任事務)が「融合」している側面がある。私はこれを「集権融合型システム」といっているが、今回の改革の最大のねらいは、都道府県、市町村の自己決定権を拡大することにある。
自治体の自己決定権を拡大するためには、(1)「事務権限の委譲」、(2)「関与の縮小・廃止」という二つの方策があるが、地方分権委員会が勧告した事項の95〜96%は「関与の縮小・廃止」に当たる勧告である。これは、自治体の事務に対しての国の法律、政令、省令、通達などによる縛りが厳しければ、厳しいほど市町村には自由がなく、全国画一的な行政となることから、地域の諸条件に一番合ったかたちで政治行政を展開するという地方自治の本来の姿にするためであった。
関与を大きく分けると3つの類型に分けることができる。
関与の類型の第一は「事務事業の執行方法に対する関与」であり、その典型は通達行政である。この通達行政の根幹にあるのは国が包括的に指揮監督権を留保している機関委任事務制度であり、この通達行政を大幅に緩めるための最善の戦略は、機関委任事務制度を全面廃止することであり、それに関連する国の関与を極力縮小することである。このことから、我々は機関委任事務制度の全面廃止を打ち出した。
関与の類型の第二は「事務事業の執行体制に対する関与」であり、いわゆる必置規制と呼ばれるものである。これは自治体の組織編成権、定員管理権、人事権に対して制約を加えているものであることから、自治体の自由度を増やすために79項目ほどの具体的な必置規制について勧告を行った。
関与の類型の第三は「資金の交付に伴う関与」であり、いわゆる補助金行政である。補助金の交付申請は自治体に義務づけられているわけではないが、交付が決定すると補助金要綱や補助金要領であまりにも細かく画一的な条件が決められているので、自治体は必ずしも合理的でない条件を満たしながら、無駄なものをつくらざるを得ない面がある。これが、三つの類型のなかで一番縛られているものではないか。これを何とかして縮小しなければ本物の自治にならない。
今回の分権改革は、これら三つの関与いずれについても完全なものではなく、私自身、第1次の分権改革だと考えており、第2次分権改革、第3次分権改革により、徹底して自治体の自己決定権を拡大しなければならないと考えている。
第一の「事務事業の執行方法に対する関与」については、国の法令を大綱化、ガイドライン化させて、自治体の条例制定権の範囲を拡大させることが第2次改革の大きな課題。
第二の「事務事業の執行体制に対する関与」については、突破できなかったものが多数残っているので、さらに縮小・緩和を求めて改革しなければならない。
第三の「資金の交付に伴う関与」は、地方分権推進委員会にとって一番成果が上げられなかった分野。一番手っ取り早い方法は補助事業そのものを廃止し、それにより浮いてくる国の財源をはじめから地方の財源とする方法だが、各省は「政策誘導の手段を失う」と強く抵抗している。
財政構造会議では国の財政再建を図るという観点から、制度そのものを見直すことで補助金の整理を図っていく「制度的補助金」と、今後3年間毎年度10%ずつ削減していく「その他補助金」に分類して補助事業の整理を行う方策を打ち出したが、各省はほとんどの補助金を「制度的補助金」と主張したため、結局削減総額も何千億円単位にもならなくなり、国と地方の財源配分の規模の話ではなくなった。
地方分権推進委員会においては、国が義務として出す「負担金的補助金」と、大幅に廃止していく対象とした「奨励的補助金」と区分して考えていたが、連立与党の会議で小規模に止まる補助事業の削減が決定されてしまったので、『3年間は「その他補助金」の1割カットを確実にしてください。その後も引き続き補助金の整理・削減を進めてほしい。その際には負担金的なものと補助金的なものを区分けしてほしい。』と言うに止まってしまった。
地方分権推進委員会の勧告は地方税財源の充実確保については十分な勧告でなかったと批判されているが、我々の考えと違っているところがある。現在の国・地方を通じた厳しい財政危機状況の下で、地方税財源を今よりも豊かにすることは当分の間望みのないこと。しかし、検討の余地がないわけではない。ただ、地方税財源を充実確保する前提として、自治体が補助金に依存する体質から抜け出そうと決意しなければならない。自治体が国の補助金に手を出さなければ補助金は廃止されていくので、その廃止された補助金を地方財源に変えるということを地方側の大戦略とすべきである。
補助金、負担金に依存することは住民に直接負担をかけずに住民サービスを展開していこうとする手法だが、放っておけば事務事業は拡大する一方であり、国も自治体もできなくなっている。だから、多い負担で高いサービス水準か、サービス水準と負担ともに現状維持か、住民が決めることが地方自治の本来の姿ではないか。住民にどれだけ税金を負担してもらうのかというところからが自治の議論。そして、その税金をどのよう なサービスに使うことが一番いいのか議論するのが、本来の自己決定であり、自己責任ではないか。
景気変動に大きく左右されてしまう税収構造は、地方自治の税収構造としては向いていない。景気に対して中立的、安定的な地方税制に組みかえるとともに、税収の地域間格差が大きくならないように税制を変えていくことが非常に重要であり、それに伴って国税と地方税の配分を変えていくことが必要ではないか。このような見直しを行いながら、補助金に依存する体質から徐々に抜け出していくことが今後の大きな課題である。
自治体に自己決定権を与えたということは、地域住民が決める自由が生じたということである。改革で与えられた自由を自治体が使い始める。使われていく中で国民に分権改革が理解されていく。住民の中で議論が起こってくるのには10年ぐらいはかかると思うが、次の改革は草の根からの分権改革要求が出されて、国が動くという分権改革になってほしい。正直言って、3,200有余の市町村が燃えるような熱意を持って我々の委員会を強く後ろから押してくれたという実感はほとんどなかった。
ディスカッション
コーディネーター
山 田 吉 孝 氏(前NHK解説委員)
パネリスト
山 下 三 郎 氏(廿日市市長)
〃
丸 山 勇 三 氏(愛媛県双海町長)
〃
安 藤 周 治 氏(中国・地域づくり交流会副会長)
〃
上 田 みどり 氏(広島経済大学教授)
〃
久 保 信 保 (自治省行政局振興課長)
山田前解説委員:
このシンポジウムでは地方の声が高らかに響くように、そして厳しさを覚悟の上で分権が前進できるように、また、非常に難しい問題を持っている合併問題もみなさんが真剣に取り組んでいけるようになったらという思いをもっている。
では、パネラーの皆さん一人一人から話を伺いたい。
山下市長:
明治維新、戦後の改革に次ぐ「第3の改革」と言われている今回の地方分権に非常に期待している。国と地方の関係が上下、主従から対等、協力に変わることについては評価している。
議員のときに昭和の大合併を経験したが、当時と比べると交通・情報の発達で住民の日常生活圏の拡大が著しく、地方分権の推進、少子高齢化、厳しい財政状況など市町村を取り巻く情勢も変化してきていることから、各自治体の努力だけでは市民のニーズに応えられないし、また行政サービスの向上や市民が期待する豊かなまちづくりは難しい状況ではないか。自治体が自主性・自立性を強化していくためには、組織力、財政力のレベルアップを図り、住民サービスに徹することができるよう国・自治体双方の行政システムの改革を行うことが急務と認識している。
地方分権は権限、財源、人間の三ゲンの委譲と言われており、この三ゲンを整理することは大変重要であるし、自治体職員の意識改革、あるいは住民側の意識改革を進めていかなければならないと思っている。
地方分権が進み、一部事務組合や広域連合が多くなれば、その延長線上には合併という課題があるのではないか。市町村合併には次の5つの項目が必要と認識している。
(1) 地域の主役である住民の主体性に基づいて進めること。
(2) 市民が効率的かつ効果的な行政サービスが受けられるための適正な規模。
(3) 財政基盤の強化。合併特例債の時限措置は解除すべき。
(4) 国、県の積極的な人材派遣あるいは支援。
(5) 県の合併、道州制の検討。
丸山町長:
戦後50年余りが経過して、人々の価値観の多様化、長寿社会の到来、車社会の発達による住民行動範囲の拡大、一番身近な経済団体である農協の急速な合併、少子化、イノベーションと様々な変化が遂げられている。
このような状況の中で行政の範囲はここ40年ぐらい変わっていない。しかし、市町村合併は、将来にわたってそれぞれの住民の生活に大きな影響を及ぼすので、地域住民の意思を十分に尊重していくことが一番の基本事項であり、極めて重大な問題であると受け止めている。
国の厳しい財政事情もあるが、それぞれの立場で一番大事なことは、基本的な方向・問題として今日の社会の状況というものをどう見るのかということであると思う。市町村の合併については、様々な厳しい問題もあるが、私としては時代の潮流にあるのではないかと認識している。避けて通れないという実感を持っている。今日の厳しい財政事情等を勘案すると、合併する合併しないは別として、検討することが現実的ではないかと思っている。
安藤副会長:
来年4月1日から地方分権一括法が実施されていくが、独自に自分たちで何かやっていこうという意欲ある町が極めて少ないこと、チェック機関でもあり政策提案もできる議会が余りにも力がないということを各地で見てきたこともあり、地方自治体は本当にやっていけるのか、我々住民の付託に応えていけるのか不安がある。自治能力を如何に高めるか、地域住民の民主主義能力をどう高めていくか、あるいは政治能力をどう高めていくかというところまで発想を広げてほしい。
我々市民も行政任せにしてきたツケが今出てきたと思う。そのツケを清算して、まさに自立していく方向での行政と住民のパートナーシップを根本から組み変えていく取組をしてほしい。
財源難で行政サービスが低下していくであろうこれから、公共サービスの質を落とさずにもっと豊かに暮らすためにボランティアやNPOが行政の肩代わりをする部分は拡大していくのではないか。その意味でNPOの育成について、身近なところで検討してほしい。そのことで有権者である住民も問題意識を持ってくるし、あるいは新しい働きかけの場としてのNPOも育ってくるのではないか。何も仕掛けがない中では、地域住民が行政に参加していく、あるいは住民が主体的に物事を判断していくことはできない。
行政の業務委託をNPOに任せるという取組が各地で展開していけば、コミュニティーの再生につながるのではないか。
上田教授:
戦後教育の中で自由の裏の責任について、また権利の裏にある義務についてきちんと教えて来なかったことで無責任時代というような風潮になっているように思う。価値観の多様化が現象としてみられるが、多様化がいいことなのか、別なものに変えていくのか大人の指針がはっきりしていない。
農村と町の関係では、例えば生産地と消費地ということで何となく分離してしまって、うまくいっていないのではないか。ものを生産することに余り労力を使いたくないという人間が増え、サラリーマンの方が楽ではないかという考え方に変わってきた。スイスの中学生の9割近くは、みんなプライドを持って親の職業を継ぐそうであるが、日本ではその辺を子供たちに教えていないのではないか。そのコミュニティーに何をしてもらえるかということよりも、コミュニティーに何ができるのかということから教えていかなければならない。そのような人の集まりであってこそ、町、村全体が生きてくる。
交付税が減ると好き嫌いにかかわらず合併をしなければならないように追い込まれてしまい、嫌々ながら合併するところも出てくるのではないか。そうなると、私たちのコミュニティーはこれで生き残りたいというものを何か一つもっていることが大事である。
自分たちで治めるという意識とタックスペイヤーであるという自意識を一人一人が確認した上でのまちづくりが大事である。法律がどうだという前に、生き生きとした生き方はどのようなものなのかというところから、もう一度見つめ直す必要がある。
久保振興課長:
「なぜ、いま国が市町村合併を強く推進するのか」とよく聞かれるが、最大の理由は、地方分権によっていろいろなことができるようになったときに、市町村の行政体制のあり方が問われていることにある。
明治の大合併の際は内務大臣訓令で「五つの町村を一つにする」、昭和の大合併の際は町村合併促進法で「概ね8,000人以上の規模にする」と適正規模が明らかにされていたが、今回は合併においては、市町村の自主性を重んじる中での合併推進であることから、国が適正標準を示すのは難しく、国の強力なリーダーシップというのは従来とは若干異なったかたちで発揮せざるを得ない。
少子高齢化、危機的な財政状況などを総合し、国としても市町村の合併の推進を何とか後押ししていきたい。
山田前解説委員:
コミュニティーの個性を大事にすれば、必ずしもサイズを大きくすることはないのではないかと受け取ったが、町村合併について上田さんはどう考えているか。
上田教授:
町とか都市には、ちょうどいいサイズというものがある程度あると思う。イギリスでは行政と地域の商店街、ボランティアが町ぐるみで社会的弱者を手助けするショップモビリティーという制度を取り入れ、町の活性化を図っている例があり、万に満たないような小さなコミュニティーがいっぱいある。余り大きくなるとこのようなことはできない。
ただ単に大きくなればいいということではなく、快適なソフトの部分とハードの部分の両方を踏まえたトータルな考え方を持てば、サバイバルの道が見つかるのではないか。
山田前解説委員:
NPOが支え柱になり、行政と共同することで新しいコミュニティーや自治体をつくっていくことができると考えているか。
安藤副会長:
できると思う。合併しか生きる道がないのではない。NPOが行政の一部を受け持つことで、もっと質の高い公共サービスが提供でき、コスト削減も図れる。行政がスリムになることで、合併を回避できる自治体も出てくるのではないか。今まで通りの合併をすると周辺部は確実に切り捨てられる。これはJAの合併を見ても明らか。
そうしないためには、コミュニティーを核にしてもう一つの役場をつくること。もう一つの役場、事業体を大字単位、旧村単位でつくり、そこで自営の組織をかたちづくって合併の論議のステージに上がってもらいたい。
皆さんが地域を守るプロフェッショナルだと本当に思っているのであれば、周辺部に足を運んで、新しい自治能力を持ったNPOをどうつくっていくかということに汗を流して欲しい。その調査研究をするのは国や県ではなく、自治体の仕事。もう陳情の時代ではない。国のために自治体があるのではなく、地域の1人1人の住民のために自治体があるのだから、それをどう守っていくのか知恵を出してほしい。10年先では遅い、3年でがんばってほしい。そうでなければ地域は絶対に守れない。
山田前解説委員:
オーストラリア、ニュージーランドやイギリスの一部で進められている、行政の領域をできるだけ小さくしつつ、住民に対するサービスを確保する方法、New pubulick management が日本でも紹介され、真剣に議論されている。受け皿としてはNPO、ボランティア、住民の意識改革による行政との共同参画になってくると思うが、行政が全部抱え込まなければならないのかということをもう一度真剣に考えてみたらどうか。
次に、市町村合併は不可避とのことであったが、その辺をもう少し話してほしい。
丸山町長:
今年の8月、愛媛県の市町村振興協会が70市町村の首長と議長全員にアンケート調査を行ったところ(回答率100%)、「市町村合併は必要である。」と「どちらかといえば必要。」が140人中99人(70.7%)であった。しかし、いざとなると総論賛成、各論反対ではないかと感じている。広域行政をもっと活用すべきではないか、その中から将来合併という道も見えてくるのではないかという意見がかなり根強い。ほとんどの方が合併は避けて通れないと考えている反面、自分の町、村がどうなるのかという不安を抱えており、正面切って大反対もしなければ、正面切ってやろうという市町村もないような実態である。
そこで、県の果たす役割が非常に重要。こんな案がある、メリットもあるがデメリットもあると県からPRしないと議論が沸き上がってこない。
何もしなくても交付税が入ってくるので当面今の状況のままでいくと判断するのか、それとも、このままでは現状の住民サービスが維持できないと判断するのか、大事なのは社会の状況をどう読むかである。住民が今のままでいいと言うならそれでいいと思うが、今のままでいくことは厳しいというのが大きな悩み。
山田前解説委員:
自主的な合併、適正規模に関してもう少し聞かせてほしい。
山下市長:
合併は各市町村間の広域行政の進捗状況で変わってくる。廿日市市の場合、し尿処理、消防、火葬場など広域行政が進んでおり、その中でこれからの自治体のあり方が議論されれば、合併はあり得るのではないか。しかし、どのような町をつくるのか、まちづくりの目標がなければ合併すべきではない。
これからの行政にはボランティアとどのようにパートナーシップを組んでいくのか求められる。6月29日の集中豪雨の災害復旧では、ボランティアの方々に総出で協力していただいた。平成10年度にワークショップ方式により住民主体で議論してもらった上で公園を整備したところ、住民が掃除から何から一生懸命やっている。住民とどのように関わり合うかがこれからの行政には大事であろう。
山田前解説委員:
最後に全体の感想と自治省としての考えを話してほしい。
久保振興課長:
某新聞が自治省は合併推進のために交付税をムチとして使っているとの報道されたことがあったが、これは地方交付税の簡素簡明化、国民がより納得できるようなかたちにすべきであるという要請により見直したものであり、合併を推進するために変えたのではない。
税源が一部移譲されるかわからないが、移譲された場合には、担税力のある納税者が多い団体では有利に働くが、そうでない団体はむしろ不利に働くこともある。財政面において47都道府県、3,229市町村が皆バラ色になるとは言えない。
コミュニティーの活性化と合併問題とは無縁ではない。平成9年に地方制度調査会が行ったアンケート調査結果によれば、合併した後の地域間格差が不安であるということが一番多かった。このことについては、今回の特例法の改正において旧市町村単位で地域審議会を設置できる規定を加えた。また、交付税を合併後5年間合併前の状態を維持させてその後の5年間で段階的に縮小するという合併算定替えについて、合併後10年間は合併前の状態を維持することとした。さらに、過疎債とほぼ同じ合併特例債を設け、地域が一体的になる、あるいは旧市町村単位で振興を図るための基金の積み立てに充てることができるようにした。
旧町村間で廃れるところが出てくるのではないかといった懸念が一番大きな阻害要因であるが、それぞれが工夫をして、知恵を出してもらいたい。そこで、制度化できることがあれば、何らかの措置を講ずることとができる。
8月6日に策定した「市町村の合併の推進についての指針」の中で、特定の場合には広域行政はそれなりに有効であるが、複数の団体で処理する場合には責任の所在が不明確となり、関係団体との連絡調整に相当程度の時間や労力を要することもあるので、そのような場合には合併の方が望ましいと自治省として考え方を整理をしている。広域行政圏計画の策定指針に取りかかろうとしているが、この広域行政圏施策と合併との関わり合いをどのようにするか悩んでいるところ。
山田前解説委員:
今までの話を聞いて、お集まりの皆さんに考えていただき、YES・NO、あるいは新しい道を探っていただきたい。地域の基礎的自治体である市町村は、憲法で保障されている国民主権、住民主権の枠組みをつくっているところである。その市町村の大きさ、デザインについて、それぞれの自治体で考えていただきたい。
自治省や県には、市町村にアカウンタビリティーを果たし、積極的にPRするようお願いしたい。
−了−