4 優先接続の導入に関する具体的検討課題(論点整理)


(1) 我が国における優先接続導入の必要性
  1) 優先接続に関する経緯等
    優先接続については、1985年の電気通信制度改革後、長距離系NCC
   が参入した際や、それ以降にも長距離系NCCからNTTに対して、公正競
   争及び利用者利便の観点から、我が国でも優先接続を導入して欲しい旨の要
   望がなされ、事業者間協議が行われた経緯がある。(当時、米国では198
   4年のAT&T分割にあわせて優先接続を導入していたため、米国と同様の
   制度が必要ではないかという議論があった。)
    しかしながら、1985年の時点では優先接続機能の提供が不可能な旧式
   の市内交換機が存在していたことや、当時は接続ルールが必ずしも十分整備
   されておらず、事業者間で協議が整わない事項を実施することが事実上困難
   となっており、優先接続についても、費用負担等の問題でNTT、NCC間
   の協議が整わなかったことことなどからその導入が見送られた。
    その後、長距離系NCCは、利用者獲得手段として、利用者が事業者識別
   番号をダイヤリングしなくともNCCネットワークに自動的に接続する装置
   (アダプタ等)を開発・提供したため、優先接続の議論は、一時下火になっ
   ていたところである。
    しかしながら近時において、次のように、優先接続を巡る環境が変化して
   きている。

    ○ 接続ルール(注)が整備され、いわゆる不可欠設備の接続条件の約款
     化や事業者間の接続協議が整わない場合の手続きの迅速化などが実現し
     たため、優先接続について再度議論する土俵が整備されたこと。
    ○ 規制緩和による競争の進展に伴い、例えば東京通信ネットワーク、K
     DD等による中継電話サービスやワールドコム等外資系企業等による国
     際電話サービスへの新規参入などが行われつつあり、こうした事業者か
     ら優先接続導入に対する要望が出されていること。
    ○ NTTの再編成に伴い、長距離NTTに関し、公正競争条件及び利用
     者利便の確保の観点から、優先接続導入の必要性が高まっていること。
     (次の2)に詳述)

     (注)優先接続の接続ルール上の位置付け
       電気通信事業法第38条〜第39条の2に規定される接続ルールに
      おいて、優先接続は次のように位置付けられている。
       ○ NTTの地域網は、他の事業者との接続が利用者の利便の向上
        及び電気通信の総合的かつ合理的な発達に欠くことのできない
        「指定電気通信設備」と位置付けられている。
       ○ NTTは指定電気通信設備に関し、接続料及び接続の条件
        (優先接続に関するものを含む)について接続約款を定め、郵政
        大臣の認可を受けなければならない(その変更も同じ)。
       ○ 当事者が取得し、若しくは負担すべき金額又は接続の条件その
        他協定の細目(優先接続に関するものを含む)について当事者間
        の協議が整わない場合は、接続事業者は郵政大臣に裁定を申請す
        ることができる。
       ○ NTTは指定電気通信設備の機能(優先接続機能を含む)の変
        更又は追加の計画を有するときは、事前に郵政大臣に届出た上、
        公表しなければならない。郵政大臣は円滑な接続に支障が生じる
        おそれがあると認めるときは、その計画の変更を勧告することが
        できる。

  2) NTT再編成と優先接続の導入
    NTT再編後の長距離NTTのネットワークは、東西の地域NTTとの関
   係では他の長距離系NCC等のネットワークと同列に位置付けられ、競争条
   件の公平性を確保する観点からは、地域NTTの利用者が長距離NTTの
   サービスを利用する際には、他の長距離系NCC等と同じく4桁の事業者識
   別番号を追加してダイヤルする方式とすることが望ましい。
    しかし、多くの利用者に4桁の事業者識別番号を追加してダイヤルするよ
   うに求めることは、明らかなサービス利用条件の低下であり、利用者利便の
   観点からは好ましくない。
    そこで4桁の追加ダイヤルを代替する方策として優先接続を導入すること
   とし、既存NTT利用者が長距離NTTの長距離通話サービスを利用する場
   合のダイヤル方式は現状のままとすることが適当と考えられる。

    そして、長距離NTTについて優先接続を導入する場合には、競争条件の
   公平性を確保する観点から、他の長距離系NCC等についてもその仕組みの
   適用を可能とすることが必要である。


    
NTT            
長距離系NCC等        
現行  
    
06−234−5678    
市外局番−市内局番−加入者番号
00XY+06−234−5678
事業者識別番号+同上      
優先接続
導入後 
事前優先登録+        
06−234−5678    
事前優先登録+         
06−234−5678     
    したがって、NTTの再編成に伴い利用者利便を確保しつつ公正競争条件
   を確保する方策として、少なくとも長距離通話については優先接続を導入す
   ることが適当と考えられる。

   なお、市内通話、県内市外通話及び国際通話については、上記とは異なった
  事情にあり以下に別に検討する。



(2) 通話ごと選択の併用
   通話ごと選択は、優先接続を導入する場合に、加入電話の契約回線ごとの事
  前の固定的事業者選択に加えて、通話のつど事業者識別番号をダイヤルするこ
  とにより他の事業者への接続をも可能とする仕組みである。換言すると、通話
  ごと選択を併用すると、利用者は、普段は優先接続登録事業者に接続されてい
  るが、個別的な必要性に応じて登録事業者以外の事業者識別番号をダイヤルす
  れば、当該事業者に接続されるものである。
   この通話ごと選択は、利用者の利便性の観点からは、故障や災害等に備えた
  多ルート化のため、また接続事業者のサービス内容の違いに応じ通話のつど事
  業者選択を可能とするためなど、優先接続を導入する場合でも併用を可能とす
  ることが必須のものと考えられる。また、この通話ごと選択の併用を可能とす
  ることはグローバルスタンダードでもある。



(3) アダプタ等の取扱い
  1) アダプタ等の現状等
    長距離系NCCが利用者宅に設置しているアダプタ等(注)は、利用者が
   長距離系NCCを利用するため電話番号をダイヤルするつど自動的に当該事
   業者の事業者識別番号を発信する機能を有している。優先接続は基本的には
   地域網事業者の市内交換機に機能付加することにより実現されると想定され
   るが、このアダプタ等は実態的に利用者宅内の端末機において実現する優先
   接続ということもできるものである。
    このアダプタ等は長距離系NCCからの報告では、PBXへの機能付加を
   含めて1997年度末時点の3社合計で1,650万回線程度である。なお、
   長距離系NCC3社の重複を含む延べ契約回線数は約3,900万回線と
   なっている。

   (注)アダプタ等
     長距離系NCC3社は、これまで、電話機に外付けするアダプタや電話
    機やPBXに 内蔵する部品(本報告書では「アダプタ等」と呼ぶ。)によ
    り、LCR(Least Cost Routing:最も安い料金の事業者を選択すること)
    と呼称する機能を提供してきている。
     長距離系NCCは利用者に対して、LCRは最低料金事業者選択機能
    (NTTと長距離系NCC3社(3社の料金はこれまで同一であった。)
    との2つの料金表を基に、通話ごとの市外局番から距離段階別の料金を算
    出して、料金が安い方の事業者を選択。NCC側が安い場合はアダプタ等
    の提供事業者を選択。)と事業者識別番号自動発信機能(料金を比較し自社
    の回線に接続する場合は自社の事業者識別番号を市外局番の前に自 動的に
    付加してダイヤル信号を発信。)を有するものと説明し、設置の勧奨を行っ
    ていた。
     ところが、最近の多様な割引料金サービスの普及や新たな長距離電話
    サービス提供者 の出現に伴い、最も安い料金の事業者を選択するという説
    明ができなくなったことから、本年3月までに、ACR(Automatic   
    Carrier Routing:自動電話会社接続機能)等と呼 称を変更している(ハー
    ド、ソフトの機能はこれまでと同様。)。
     また、最近では東京通信ネットワーク(株)が事業者識別番号自動発信機
    能を有する アダプタの提供を行っており、第二種電気通信事業者において
    も別種の公専公アダプタの提供を行っている。

  2) ネットワークによる優先接続とアダプタ等による優先接続との比較一部の
   長距離系NCCには、これまで多くの時間とコストを投じてアダプタ等によ
   り実質的な優先接続を導入済みであり、優先接続の導入は時期を失しており
   今日では不要との意見がある。以下ではこの点について検討する。
    まず、ネットワークによる優先接続とアダプタ等による優先接続との経済
   比較であるが、今回のNTTの試算によれば、約6200万の全回線につい
   てネットワークの機能として優先接続を導入するための網改造費用、事前周
   知費用、導入初期の大量登録費用等は約300億円(導入時の投資及び費 
   用)である。一方、アダプタ等を普及させている長距離系NCCの報告では、
   約1,650万のアダプタ設置回線についてのアダプタ等の調達・工事費用
   は3社合計で年間約400億円(毎年度の費用等)である。
    したがってネットワークの機能として優先接続を導入する場合の方が、ア
   ダプタ等を設置する場合より、一般的にはかなり経済的ということができる。
   このことは、事業者が負担するコストは最終的には利用者の料金に転嫁され
   るものであり、重要なポイントである(後に(13)において詳述)。ただし、
   利用者が大規模な事業所でPBXに高度な機能を付加する場合など、個別的
   ケースによっては経済性が逆転しうることはありうる。

    また、経済性を別に置くとしても、現実にアダプタ等は多くの利用者宅に
   設置されておらず、アダプタ等による優先接続機能の利用よりもネットワー
   クによる優先接続の利用を望む利用者も想定される。
    さらに、東京通信ネットワークやKDDの中継電話サービスへの本格参入
   等に見られるように、今後とも料金、サービス競争が一層進展すると想定さ
   れるが、これらの新規参入事業者からは、ネットワークによる優先接続に対
   する強い要望が出されている。
    また、これまでのアダプタ等は、長距離系NCC3社が、圧倒的な市場シ
   ェアを有するNTTに対抗するという構造の下で、最も安い事業者を選択す
   る機能を有する機器として提供されてきたため、結果的に長距離系NCC間
   の料金の多様化競争に対する阻害要因となってきた側面があり、今後多様な
   料金競争の進展が想定される中で、アダプタのみによる優先接続では、利用
   者ニーズに的確に対応することや健全な競争を促進していくことが必ずしも
   十分ではなくなってきている。

  3) 優先接続を導入する場合のアダプタ等の取扱い
    このアダプタ等の取扱いについて、一部事業者から、以下のような意見が
   出されている。
    すなわち、ネットワークによる優先接続と現在のアダプタ等による事業者
   選択機能は基本的に両立せず、矛盾するものである。優先接続の導入後もア
   ダプタ等を併存をさせる場合は、アダプタ等が競争上優位となると考えられ、
   アダプタ設置競争を招き事業者に二重投資を強い、利用者料金の将来的な低
   廉化を阻害する要因になりかねない。また、優先接続の導入が事業者間競争
   において既存のアダプタ等の設置者に優位となり、競争中立性が阻害される
   恐れがある、というものである。

    これに対しては、今後のアダプタ等ではネットワークによる優先接続機能
   以上に小回りのきく高度な機能提供も可能であり、利用者にとりこの二つの
   方法のうちから選択することが可能であり、また、利用者によっては、同時
   に二つの方法を並行して利用することを希望することも想定され、両者が基
   本的に矛盾するとはいえないと考えられる。なお、今後の競争に与える影響
   等の問題については、次の4)及び(16)で検討する。
    また、ネットワークによる優先接続を導入する場合には、国民経済的にも、
   電気通信制度としても、アダプタ等は不要とすべきではないかということに
   ついては、以下のように考えられる。
    ○ アダプタ等に併設される一定の制約内での料金比較機能や料金表示機
     能等、利用者の電話利用の利便性を向上させる工夫は望ましいものであ
     ること
    ○ すべての場合について一概にどちらが経済的かを断じることはできな
     いこと、また、技術革新等により、今後、アダプタ等の機能向上やコス
     トの低廉化も想定されること
     ○ アダプタ等の機能を内蔵する電話機の購入者(稼働数)も約900万
     に上ると推定され、当該購入者の利益保護にも配慮する必要があること
    ○ これまで長距離系NCCは、事業者識別番号に係る競争条件の不利を
     補う必要性もあり、多額の投資を行い自助努力でアダプタ等を普及させ、
     実態上の優先接続を実現させてきたものであり、この市場実態は尊重す
     る必要があること
    ○ 第二種電気通信事業者の中でも事業規模が小さい事業者は、加入者線
     接続の形態をとるため、優先登録への参加もできず、20桁以上もの追
     加ダイヤルを省略するためのアダプタ等の提供が必須であること
    ○ アダプタ等は電気通信制度上その設置・利用が自由とされている端末
     機器に該当するものであり、技術的問題等特別な理由がない限り制度的
     な制限は困難であること。

    したがって、ネットワークによる優先接続を導入する場合でも、制度的に
   アダプタ等の設置を制限することは適当ではない。

    優先接続を導入済みの諸外国においては、我が国ほどアダプタ等が普及し
   ている例は見られないが、これは、ほぼ競争導入と機を一にして優先接続が
   導入されたため、アダプタ等を普及させるニーズが乏しかったためと考えら
   れ、諸外国の優先接続の制度においてアダプタ等の設置が禁止されているわ
   けではない。
    利用者は、現行のアダプタ等や今後の新たなアダプタ等(端末機全般を含
   む。)によるサポート機能とネットワークによる優先接続とを比較して選択
   し、今後の在り方を決定することが可能であり、アダプタ等の今後の在り方
   は、利用者の選択、市場の決定に委ねるべき問題と考えられる。

  4) ネットワークによる優先接続とアダプタ等による優先接続との併存下にお
   ける競争の在り方等
    以上検討してきたとおり、優先接続の機能をネットワークでもアダプタ等
   でも実現できるようにすることにより、事業者及び利用者の選択の幅が拡大
   するとともに、ネットワーク系及び端末系の技術革新、サービス開発競争を
   促進することが可能となると考えられる。
    なお、現在のアダプタ等を巡る競争の在り方については、次のような問題
   の指摘がある(後に(16)において詳述。)。
    ○ 事業者がアダプタ等を無料で設置する際、利用者に対してアダプタ等
      の機能説明を十分には行っていないのではないか。
    ○ 利用者が設置後一定期間内にアダプタ等の利用契約を解除する場合、
     違約金を請求されることがあるという仕組みは、競争制限的ではないか。
    ○ 競争中立性確保の観点から、固定優先接続方式(注)(利用者の選択肢
     の一つとして、アダプタ等から自動的に発信される事業者識別番号に係
     わらず、ネットワークの機能として登録先事業者に固定的に接続する優
     先接続方式)もあわせて導入するべきではないか。

   (注)固定優先接続のネーミング等
     後述のとおり固定優先接続のネーミングが分かりづらいという指摘があ
    るので、例えば以下のようにネーミングや周知方法等の工夫が必要である。
     まず、一般の優先接続は、「事業者事前登録サービス」とし、「利用者
    が通話区分(市内、市外、国際等)毎にあらかじめ利用する事業者を登録
    すれば通話の都度、事業者識別番号(「00XY」)をダイヤルしなくと
    も登録事業者に接続する。また、利用者が本サービスを利用して特定の事
    業者名を登録した後、通話毎に他の事業者の識別番号をダイヤルしたり、
    登録事業者とは異なる事業者のアダプタ等を設置している場合には、その
    事業者に接続することとなる。」と説明。
     また、固定優先接続は「特定事業者専用オプション」とし、「既にある
    事業者のアダプタ等を設置している利用者が、そのアダプタ等の機能を使
    用せず別の事業者を登録して、専らその登録事業者に接続したい場合に選
    択するもので、この場合には、利用者のアダプタ等に組み込まれている事
    業者識別番号にかかわらず、登録された事業者に接続することとなる。ま
    た、「特定事業者専用オプション」を選択した利用者が登録事業者以外の
    事業者に接続したい場合には、通話毎に「1XY」+事業者識別番号をダ
    イヤルすれば、その事業者に接続される。もちろん「特定事業者専用オプ
    ション」で登録する事業者も利用者の希望により他の事業者に変更するこ
    とができる。」と説明。なお、「1XY」+事業者識別番号の手回しを省
    略したい場合に、アダプタ等の短縮ダイヤル機能の活用によりダイヤル桁
    数の減少を図ることは可能である。

    他方、ネットワークによる優先接続を導入している米国では、後述のよう
   に、競争事業者やその代理店等が利用者の同意を得ずに優先登録先事業者を
   勝手に変更してしまうスラミングが大きな社会問題となっている。
    これらの問題については、事業者が優先接続に関する提供条件、利用条件
   をきちんと利用者に開示することや利用者の同意確認をきちんととることが
   必要であり、行政としても競争の実態を注視するとともに、必要に応じて行
   政指導等の措置を検討すべきである。
    また、現在のアダプタ等については、事実上、特定の事業者に接続するよ
   うにあらかじめ設定されてしまっており、利用者の利用要望に応じて弾力的
   に事業者を使い分ける機能が組み込まれていない点が問題であるとの指摘が
   ある。この点については、事業者から独立した中立的な事業者選択機能を有
   するアダプタ等が開発され、各事業者の料金変更等に応じて利用者が、容易
   に優先的に接続する事業者を変更したり、通話のつど複数の事業者の中から
   自由に利用者が選択できるようになることが望まれる。
    このように、アダプタ併存下における競争の在り方については、種々の論
   点があり、優 先接続の導入とアダプタの併存という本研究会での結論が事
   業者間の競争にどのような影響を与えるか、問題が生じるとすれば、それを
   解決するために、どのような措置が必要か等について、公開意見招請におい
   て寄せられた意見等を踏まえて、更に検討することとした。
    公開意見招請では、アダプタ等の今後の在り方について、大別して「アダ
   プタ等の新規設置を禁止すべき」という意見、「引き続き検討し、行政とし
   ての指針を示すべき」という意見及び「利用者の選択、市場の決定に委ね 
   る」という意見が寄せられた。
    このうちアダプタ等の新規設置を禁止すべきという意見は、優先接続制度
   導入の目的及び二重投資による国民経済的な無駄の回避を論拠とするもので
   ある。しかし、3)で検討したとおり、アダプタ等により利用者の電話利用の
   利便性の向上が可能であること、一概にアダプタ等の提供の方が不経済と断
   定できないこと、アダプタ等の提供が必須である事業者が存在すること、ア
   ダプタ等は電気通信制度上その設置・利用が自由とされていること等から、
   アダプタ等の新規設置を禁止すべきではないと考える。
    また、引き続き検討し、行政としての指針を示すべきという意見は、利用
   者利便の観点から、アダプタ等の機能について十分な説明がされていないお
   それがあること、アダプタ等は利用者の事業者選択の自由を妨げているおそ
   れがあること、更に公正競争の確保の観点から、アダプタ等解除時の違約金
   請求が競争制限的に利用されるおそれがあること、アダプタ等が新規参入事
   業者の参入障壁となる懸念が大きいこと等を理由にしている。
    また、事業者識別番号を書き換えるアダプタ等を用い、かつ、著名な商品
   等表示に該当するような特定の他社識別番号をパンフレット等に記載し、従
   来どおり「00XY」とダイヤルすればよい旨を告げるなどして営業する行
   為は、不正競争防止法上の「不正競争」に該当するとの意見もあった。
    これらはアダプタ等の営業活動の在り方に起因する問題であり、基本的に
   は適正な営業活動により克服可能と考えられる。不正競争防止法上の問題に
   関しても、アダプタ等の営業において紛らわしい表示等により利用者に混同
   を惹起させたり、著名表示を冒用する行為がなければ、問題の発生を防止で
   きるものと考えられる。

    したがって、アダプタ等の在り方については、アダプタ等の設置もこれま
   でどおり可能ということを前提として、不適正な営業活動の是正と公正な競
   争の確保の観点から、後述(14)の協議会等の場で継続して検討することが適
   当である。
    なお、固定優先接続方式の問題については、後述(16)「適正な営業活動」
   6)において詳細検討する。



(4) 優先登録の通話区分
  1) 利用者が事業者を選択して優先登録を行う場合に、「市内」から「国際」
   までの通話範囲をどう区分して取り扱うかについて検討する必要がある。
    優先接続の通話区分については、現実の接続事業者の参入実態を踏まえ利
   用者にとって選択しやすいものとするとともに、今後の新規参入事業者が多
   様な形態で参入することや既存及び新規の事業者が料金を、より柔軟に設定
   することが想定される中で、できるだけ競争中立的な区分とすることが望ま
   しい。
    具体的には、下図の競争領域の実態を踏まえ、当面、次の2)で検討するよ
   うに市内、県内市外、県間市外、国際の4区分とすることが適当であるが、
   この区分以外の通話区分を設けて欲しいという事業者や利用者の要望が今後
   出される場合には、それに柔軟に対応できるよう優先登録の仕組みを実現す
   る上で工夫すべきである。



  2) 優先登録区分の考え方
    「国際」に優先接続を導入する場合は、現時点では国際又は国内を専業又
   は主軸とする事業者が存在することから、少なくとも当面は、「国内」と
   「国際」との別に区分を設けることが適当と考えられる。
    また、「市内」に優先接続を導入する場合は、現時点では市外/長距離を
   主軸とする事業者が存在することから、少なくとも当面は、「市外」と「市
   内」との別に区分を設けることが適当と考えられる。
    また、県の内外の区分を設けるかどうかについては、地域NTTの業務範
   囲が法律により県内に限定されていることから(県内通話に限定された事業
   者の存在)、「県内市外」と「県間市外」との別に区分を設けることが適当
   と考えられる。したがって、上記登録区分案が適当と考えられる。



(5) 市内及び県内市外通話の取扱い
  1) 市内及び県内市外通話への優先接続の導入
    優先接続機能を提供する地域NTTにとり、市内及び県内市外通話は自社
   が接続事業者と競合してサービスを提供する分野であり、自社との競合が生
   じない県間市外及び国際通話分野とは、優先接続機能提供の意義に異なる面
   がある。また、諸外国においても優先接続の対象は、市内を除く長距離及び
   国際が対象となっている。したがって、我が国においても、優先接続の対象
   は長距離及び国際に限定すべきとの考え方があり得る。
    しかしながら、我が国においては、市内通話を含めた全分野で競争を促進
   する競争政策をとっており、また、接続ルールにおいても市内中継を目的と
   する場合を含め市内交換機接続や加入者回線接続のアンバンドル化を推進し
   ていくこととしている。また、こうした政策の下、現に東京通信ネットワー
   クのように市内通話を含めNTTより低廉な中継サービスを提供する事業者
   が登場しており、それらの事業者とNTTとの公正な競争を確保する観点か
   ら、市内及び県内市外通話についても優先接続を導入すべきと考えられる。

  2) 地域NTTの位置付け
    市内及び県内市外通話に優先接続を導入する場合でも、地域NTTの位置
   付けについては、別に検討する必要がある。
    まず、地域NTT自体は優先登録対象事業者からは除外すべきという意見
   がある。これは、そもそも優先接続は、ある地域網事業者が他の接続事業者
   に通話を接続する際に、あらかじめ利用者が登録している接続事業者に接続
   するものであり、自網に事業者識別番号を付与し、自網の利用者に対してま
   で登録を求めることは、優先接続の概念の混乱をもたらすこととなるだけで
   なく、地域NTTと利用者との契約内容を抜本的に変更するものであるとい
   う主張である。
    しかし、他方で、優先接続は、公正競争条件整備の観点から、現在事業者
   識別番号のダイヤルが不要なNTTと事業者識別番号のダイヤルが必要な他
   の新規参入事業者との間でダイヤル方法の公平を図るものである。したがっ
   て、競争が市内及び県内市外に導入され、市内及び県内市外通話にも優先接
   続を導入する以上、地域NTTも優先登録対象事業者とすることが適当であ
   る。地域NTTは地域網事業者という地位の他に、他事業者と競合する範囲
   内において、接続事業者と同様のサービス提供を行っている実態がある。こ
   のような地域NTTの2面性に着目すると、地域NTTが自網に事業者識別
   番号を付与し、自網の利用者に登録を求めたとしても、それをもって直ちに
   優先接続の概念に混乱をもたらし、地域NTTと利用者との契約内容を抜本
   的に変更することとなるとは断定できないと考えられる。
    次に、地域NTTに事業者識別番号を付与する必要があるとすれば、事業
   者間の公平性の観点から、直収加入者回線を有する事業者には全て事業者識
   別番号を付与すべしという議論につながったり、それにより利用者利便の低
   下を招くという指摘がある。
    しかし、専用線による直収加入者回線を利用するユーザーは、当該専用線
   の一端を特定の接続事業者の中継交換局まで設定しているので、利用者には
   当該回線による通話の全てを当該特定事業者と接続する意思があるものと考
   えられる。また、当該利用者は、一般的に大口利用者であり、各種大口割引
   サービスの恩恵を享受するためには、当該回線の通話を一括して特定事業者
   に接続する方が有利と考えられる。したがって、このような直収加入者回線
   を有する事業者を優先登録の対象とすることは、利用者の意思に反し、利用
   者利便の低下を招くものと考えられる。
    更に、市内及び県内市外通話についてまで地域NTTを優先登録の対象と
   することのメリット、デメリットについては、当該分野における競争の進展
   状況を踏まえて慎重に検討する必要があり、現状においては、必ずしも地域
   NTTを直ちに登録対象とする必要性に乏しいのではないかという意見もあ
   る。
    これについては、まず、地域NTTを優先登録の対象とすることのメリッ
   トとしては、利用者が明示的に事業者選択を行うことのできる通話区分が広
   がり、選択の余地が拡大すること、サービスが競合する事業者間で、接続事
   業者も地域NTTも優先登録対象事業者として公平に扱われ、ダイヤル桁数
   の格差が無くなることが挙げられる。
    また、デメリットとしては、市内通話等に地域NTT網を選択する番号を
   付加すると、利用者にとって従来のダイヤル習慣の大幅な変更につながるこ
   と、利用者が優先登録を行わない場合に、地域NTTを選択する際、4桁余
   分にダイヤルする必要があること、市内通話区分に競争がない場合にも、利
   用者に無用の事業者選択手続きを求めることになることが挙げられる。しか
   し、後述する(初期登録方法の項)ように、デフォルトを採用することによ
   り、これらのデメリットの減殺が可能であり、地域NTTも優先登録対象事
   業者とすることが適当である。
    なお、市内及び県内市外に優先接続を導入し、仮に地域NTTを優先登録
   対象外とした場合でも、例えば、東京通信ネットワークを登録した利用者が
   通話ごとに地域NTTを利用する場合、優先登録を解除するための番号をダ
   イヤルする必要が生じるが、優先登録を解除するための番号を設けることは、
   実質的に地域NTTに事業者識別番号を付与することと同じであると考えら
   れる。そうであればイコールアクセスの考え方を徹底させ、事業者間の公正
   競争条件を確保するため、地域NTT自身も優先登録の対象とすることが適
   当である。
    これに対しては、公開意見招請において、優先登録を解除するための番号
   は、地域NTTを優先登録対象外とした場合の不都合を補うものであり、地
   域NTTを他の登録対象事業者と同等に扱うのはなじまないとの意見が寄せ
   られている。しかし、他方、利用者から見れば、優先登録を解除するための
   番号と地域NTTの事業者識別番号は、名称が異なるだけで同一であるとの
   意見も寄せられており、また、上記ケース以外には優先登録を解除するため
   の番号の利用は考えられず(中継網の選択において優先登録の解除のみでは
   複数存在する接続事業者の選択ができないため)、実質的な地域NTTの事
   業者識別番号としての性格は強いと考えられる。



(6) 国際通話の取扱い
   国際通話については、現在でも、全事業者について通話ごとに事業者識別番
  号をダイヤルする方式がとられており、国内長距離と異なり既存事業者(NT
  T)と新規事業者(NCC)との間の4桁という大きなダイヤル格差(注)は
  ない。
   (注)国際事業者の事業者識別番号
      国際事業者の事業者識別番号については、その格差は必ずしも大き
     くはないものの、既存事業者(KDD)と新規事業者(NCC)はそれ
     ぞれ3桁と4桁になっている。これは、利用者に与える影響も考慮し、
     1985年の自由化以前からのKDDの番号が継続して使用されている
     ため生じたものである。

   また、NTTが再編成後新たに国際通信分野に進出する場合も、国際通話用
  の4桁の事業者識別番号を取得し、既存の他事業者と同様に通話ごとに事業者
  識別番号をダイヤルする方式でサービスの提供が可能である。
   したがって、国際通話については国内の長距離通話とは異なり、NTTの再
  編成を機に見直しがぜひとも必要という事情にはない。そこで、国際通話に優
  先接続を導入すべきか否かについては、国内通話とは別個の検討が必要となる。

   まず、国際通話に優先接続を導入する場合に必要なダイヤル手順については、
  国際的な番号計画との整合性を確保する観点から、新たに国際通話であること
  を示す国際プレフィックスを設定して、現行のダイヤル手順を次のダイヤル手
  順に変更することが必要となる。
   【優先登録した事業者を利用する場合】
     国際プレフィックス+相手国国番号+相手国国内番号
   【優先登録を行わない場合及び優先登録した事業者以外の事業者を利用する
    場合】
     事業者識別番号+国際プレフィックス+相手国国番号+相手国国内番号

   また、利用者の混乱を避けるため、優先接続機能を利用しない国際通信事業
  者を指定する場合、及び、携帯電話等優先接続機能を提供しない事業者を使用
  して国際通話を行う場合についても、新たな国際プレフィックスを挿入したダ
  イヤル手順とする必要がある。

   優先登録した事業者を利用する場合に利用者がダイヤルする桁数は、国際プ
  レフィックスが3桁程度と想定されることから、現行のダイヤル桁数から大幅
  に減少することにはならない。一方、いずれの事業者にも優先登録を行わない
  場合(注)や、優先登録した事業者以外の事業者を利用する場合は、事業者識
  別番号からダイヤルすることが必要であり、現行の手順よりも国際プレフィッ
  クスの分だけダイヤル桁数が多くなる。

  (注)国際通話については、常時利用する利用者は約600万程度と考えられ、
    たまにしか利 用しない人、ほとんど利用しない人などで事前に優先登録す
    る率は国内通話よりも低下すると考えられる。

   このような国際通話の特殊性及び公開意見招請において寄せられた意見等を
  踏まえつつ、以下に述べる種々の論点を検討した結果、国際通話についても国
  内と同様、優先接続を導入することが適当であると判断した。

   まず、利用者利便の観点からは、公開意見招請において、「国際通話への導
  入については慎重に検討すべき」とする立場からは、導入に当たり国際プレフ
  ィクスの設定によるダイヤル手順の変更が発生する、導入しても現行ダイヤル
  桁数が大幅に減少する訳でなく利用者利便が大幅に向上しない、優先登録を行
  わない場合や優先登録した事業者以外の事業者を利用する場合、ダイヤル桁数
  が多くなり利用者利便の観点での問題が大きい、事業者の変更費用が発生する
  等の意見が寄せられている。
   しかし、導入によるダイヤル手順の変更やダイヤル桁数が多くなる場合が発
  生することに関しては、十分な周知を行うこと、及び、国際プレフィクスを設
  定しない現行のダイヤル手順を一定期間併存させることにより、対応可能であ
  る。
   また、利用者利便については、「国際通話にも優先接続を早期に導入すべ 
  き」とする立場からは、現状の仕組みでは、利用者は非常に多くの事業者識別
  番号を記憶し、選択しなければならないこと、また、事業者数の増加に伴いダ
  イヤル桁数が増加する可能性があり、こうした不便を利用者は甘受しなければ
  ならないことから、これらの解決のためには早期に優先接続を導入すべきであ
  ると指摘されている。
   更に、事業者に費用が発生する点については、優先接続への参加は各事業者
  の任意とされていることから、不参加を選択することによりある程度回避でき
  る(注)。

   (注)ただし、国際プレフィックスが挿入された新ダイヤル手順を許容する
     ための改修は全事業者において必要となる。

   また、国内区分と国際区分を一緒に導入することで、網改造費や周知費用、
  利用者の登録費用等のコスト削減が図られることになる。加えて、優先接続導
  入に伴い一斉にダイヤル手順の変更を周知した方が、利用者にとって好ましい
  との意見もある。
   逆に国内区分と国際区分を一緒に導入すると、登録区分が増えるため利用者
  が混乱するのではないかとの意見もあるが、周知方法や説明方法の工夫により
  対応可能と考えられる。利用者への影響、コスト削減等を総合的に勘案して、
  同時導入が妥当と判断される。

   また、サービスの多様化の面については、近年、国内、国際の相互参入や、
  事業者の再編により国内・国際一貫サービス、共通割引サービスなどが登場し
  つつあり、優先登録も国内・国際の両分野に同時に導入することにより利用者
  利便の向上が図られると考えられる。これに対しては、既存国際系事業者の一
  部から、国内通話を主軸とする事業者が国内通話と国際通話の「抱き合わせ登
  録勧奨」を行えば、国際系事業者が一方的に不利になる(注)との懸念が出さ
  れたが、このような主張は競争制限的であり、利用者利益に乏しいとの反論も
  提出されている。

   (注)既存国際系事業者の一部から国内通話に比べ、トラヒック、売上高と
     もボリュームが僅かであり、一般利用者の多くにとってはまだ日常的な
     サービスとは言えない(国際通話の利用実態として、一般利用者で定常
     的な利用を行う者は年間で概ね600万人と推定。なお、国内通話の加
     入者数は約6,000万人)国際通話について国内通話と同時に優先接
     続を導入した場合には、一般利用者は国際通信の事前事業者登録につい
     ても日頃馴染みの深い国内通話を主として取り扱う事業者への登録を行
     う蓋然性が高いので、競争中立性を損なうとの意見がある。他方、これ
     に対しては、利用者が国内・国際の事業者を登録の際にそろえる動きは
     小さいのではないか、今後の事業者間の提携や競争の進展を考慮すべき
     との反論がある。

   更に、国際区分に導入せず国内のみに導入した場合、事業者は、国内につい
  ては利用者に対する優先登録の勧奨を、また、国際については事業者識別番号
  の周知を中心とした営業を行うことになるが、営業面での費用負担増を招くこ
  とになり、このコスト増は結果的に利用者に転嫁される可能性があるとの意見
  もある。

   次に、公正競争の確保の観点からは、国際通話についてはすべての事業者に
  ついて通話ごとに事業者識別番号をダイヤルすることになっており、既にある
  程度の同等性は確保されているとの意見が寄せられているが、他方、国際事業
  者の識別番号の桁数に格差が存在していることは明確であり、また、第二種事
  業者の事業者識別番号の桁数の格差が大きく、公正競争条件整備上必要との意
  見も提出されている。
   また、中継線接続の形態で電話サービスを提供する第二種電気通信事業者に
  ついては、事業者識別番号が6桁であるため、優先接続を国内区分と同様、国
  際区分にも導入するメリットが大きい(注1、注2)。また第一種電気通信事
  業者についても3桁と4桁の格差を解消するため、優先接続を導入する意義は
  認められる。

 (注1) 第二種電気通信事業者からは、優先接続がネットワークの基本機能と
     して導入され、大規模な通信事業者から小規模な通信事業者まで利用し、
     公正な競争を確保するためには、優先接続利用の前提となる事業者間接
     続が現状の大規模なインターフェースから小規模なインターフェースま
     で用意されること、及び、保留時間の長いデータ呼も考慮した接続料金
     体系が用意されること等の環境整備が必要との意見が出されている。
 (注2) これに対しては、第一種電気通信事業者と第二種電気通信事業者では
     規制内容や設備維持の負担も異なるので、番号のみ公平に扱うのは問題
     であるとの意見もあるが、他方、第二種電気通信事業者の音声通信への
     参入時にいかなる差別もされないよう、競争環境を整えるべきとの意見
     がある。

   また、諸外国の制度との整合性については、諸外国は国内、国際の区分なく
  競争が行われてきたため、双方に優先接続を導入しているのであり、それを形
  式的に見ただけで我が国の導入の在り方を決めることはどうかとの意見もある
  が、他方、国際通話を優先接続の対象とすることがグローバルスタンダードで
  あり、整合を図るべきとの意見も多く、我が国においても、国内、国際の相互
  参入等が活発化してきている状況を踏まえると、国際通話にも優先接続を導入
  することが適当である。事業者識別番号と国際プレフィックスを別にするダイ
  ヤル手順は、国際的な整合性がとれるものとなる。

   なお、国内通話に比べ、トラヒック、売上高ともにボリュームが僅かであり、
  一般利用者の多くにとってまだ日常的なサービスと言えず、国際への導入につ
  いて慎重な検討が必要との意見もあるが、基本的にはボリュームの多寡にかか
  わらず、利用者利便や公正競争の確保の観点から導入の可否を判断すべきと考
  えられる。

   具体的に国際通信に優先接続を導入する場合のダイヤル手順の導入方法につ
  いては、別途「電気通信番号に関する研究会」で検討されており、国際プレフ
  ィックスとして「「000」、「010」等「0」から始まる3桁とする」場
  合はアダプタ等に影響を及ぼすような事業者識別番号の変更は必要とならず、
  近い将来に導入する場合には比較的現実的であること、国際通信に優先接続を
  導入する場合、準備期間及び併行運用期間を設けることとなるが、複数のダイ
  ヤル手順の存続による混乱を避けるため、可能な限り速やかな新ダイヤル手順
  への移行が必要であること、標準的な期間として、純粋に技術的な観点からは、
  準備期間として2年程度、併行運用期間として半年程度の期間が必要となるこ
  と等が提言されている。

  (注)現行ダイヤル手順の併存(併行運用)期間は、PBX等の宅内機器の改
    修に必要な期間であり、プログラムの変更及びデータの変更が基本的な改
    修内容となる。プログラムの開発を優先接続導入までの事前準備期間に行
    うこととすれば、プログラム及びデータの更改作業は半年程度の期間で可
    能と考えられる。

   現行のダイヤル手順の併存に関しては、従来の市内局番の桁数増等の場合に
  比べて、宅内機器の改修費用が大きくなると考えられるため、円滑な導入を図
  る観点から、2〜3年程度の十分な期間を確保することが適当であるとの意見
  もある。また、優先接続の導入にあたっては、少なくとも現在よりダイヤル桁
  数が増えたり、複雑となるような事態をできる限り回避することが必要である
  ことを勘案すれば、ダイヤル手順の変更やダイヤル桁数が多くなる場合が発生
  する点に関して、国際プレフィックスを設定しない現行のダイヤル手順を併存
  させること等により、対応することとしているので、併存期間は利用者利便や
  円滑な移行に配慮してできる限り十分な期間を確保する必要がある。
   以上を総合的に勘案すると、少なくとも2〜3年程度の併存期間が確保され
  ることが望ましいと考えられる。

   ただし、優先接続があまり定着しない段階で併行運用を打ち切ることとなれ
  ば、優先接続を利用しない者にとっては、現行ダイヤル手順よりも3桁多くダ
  イヤルしなければならないという不便な事態になる。そこで、併存期間満了予
  定前6か月の時点で国際区分における優先登録の定着度合や普及状況等を踏ま
  えて必要があれば1年間併存期間を延長(再延長もあり)することが適当であ
  る。
   ただし、複数のダイヤル手順が長期間併存することは、番号体系上あまり好
  ましいことではないので、全体として併存期間は原則として5年までとするな
  どの歯止めが必要と考えられる(注)。
   なお、あらかじめ5年まで延長ということを前提とするのは問題があるとの
  指摘もあるので、この点については、制度の具体化を行っていく過程で利用者
  利便等を踏まえつつ再度検討すべきと考えられる。

 (注) 併存期間終了後に既存ダイヤル手順による通話が一切接続されない場合
    には、利用者に混乱が生じるため、例えばトーキーにより新ダイヤル手順
    による通話方法を周知した後に接続する方法や、併存期間終了前に再度国
    際区分への登録を周知・勧奨する方法など利用者に不都合が生じないよう
    に検討を行うことが望まれる。

   こうした措置はあくまで利用者の利便性確保に基づいたものであり、全ての
  事業者は積極的に国際共通プレヒックスを用いたダイヤル方式へ利用者が移行
  するように努めることが望ましい。

   なお、国際系事業者からは、優先接続を国内、国際に同時に導入すれば他の
  NCC等に比べ地域NTTと緊密な関係にある長距離・国際NTTが一方的に
  有利になったり、国際専業の事業者が一方的に不利になるなど競争中立性が損
  なわれたり、国際電話市場に悪影響が及ぶことへの懸念が表明されている。
   これについては、再編成後に主として優先接続機能の提供主体となる地域N
  TTと長距離・国際NTT、NCC等他事業者との間における公正競争条件が
  確保されていること−優先接続に関する地域NTTの営業行為の範囲が明確に
  されていることや優先接続登録者数等の情報開示がなされていることなど−や、
  国内、国際の事業者間の提携等が進展し国内通信と国際通信との一体的提供が
  行われるようになることなどが実現すれば、優先接続を国内、国際同時に導入
  することへの懸念は払拭することができると考えられる。
   このため、NTT再編後一定の期間経過後、これらの諸点が満たされている
  ことや優先接続導入予定時期について問題がないことを再度確認し、公正競争
  確保上の必要があれば改善等を講じた上で実施することとするのが適当である。



(7) 接続事業者の優先登録への参加
   優先接続は事業者間の電気通信設備の接続に係る網機能の問題と位置付ける
  ことができる。接続ルールの原則は、第一種電気通信事業者(本件の場合は地
  域網事業者:地域NTT)は他の電気通信事業者(本件の場合は接続事業者)
  から接続を求められた場合は基本的に接続に応じる義務がある(一定の合理的
  理由があれば拒否することも可能。)というものであり、接続を求めるか否か
  は当該電気通信事業者の任意である。したがって、優先登録への参加の取扱い
  についても、アダプタ等による代替手段もあり、必ずしも全ての接続事業者に
  優先接続への登録を義務づける必要性は乏しく、各接続事業者が利用者に自社
  を登録してもらうかどうかは、それぞれの経営判断に委ねることが適当と考え
  られる。
   なお、優先接続を含む網機能については、一定の機能についてはネットワー
  クが本来備えるべき地域網の「基本機能」と位置付けられる場合があり、その
  場合は当該網を保有する事業者を含む全接続事業者がその機能のためのコスト
  を共同して負担するものとされている。したがって、優先接続を基本機能とす
  る場合は網改造費用については優先登録に参加しない接続事業者に対しても負
  担を求めることになるが、この点については後の費用負担の項で検討する。



(8) 優先接続対象通話サービス種別
   優先接続の対象とすべき通話サービスは、原則として、通話サービスを利用
  する際に「00XY」の事業者識別番号(資料編2参照:基本接続用のものに限
  り、付加サービス用のものを除く。)をダイヤルする基本通話サービス(IS
  DNを含む。)のみと考えられる。ただし、特殊番号に関連する多様な付加的
  サービス等の一部については、対象とすべきと考えられるものもあり、対象範
  囲を明確化することが必要である。
   具体的には、「1XY」の番号の内の「184」、「177」、「136+
  3」(注)や「*XX」(短縮ダイヤル)の番号、「着信転送サービス」(ボ
  イスワープ)等については、優先接続の対象とする方向で、今後関係事業者間
  で費用負担の問題を含めて協議し、決定すべきものと考えられる。

  (注) 「184」:通話相手の電話番号の前にダイヤルすることで通話相手
            に自分の電話番号を通知しないサービス。
      「177」:天気予報(他地域の場合、当該地域の市外局番に続き「1
            77」をダイヤルする。)
      「136+3」:「136」で直近にかかってきた相手番号を表示し、
              「+3」でその相手に自動的にダイヤルするサービ
              ス。

   なお、公衆電話については、利用者が不特定なため優先接続の対象とはなら
  ないが、NTT再編に伴う地域NTTと長距離NTTの接続における事業者識
  別番号の取扱い及び他の事業者の接続要望との関連で、別に検討が必要である。



(9) 優先登録の契約関係
  1) 現在の電話サービスに係る契約関係
    電話サービスの利用に係る利用者と通信事業者との契約は、利用者宅まで
   の加入者回線を設置してサービスを提供する地域網事業者の場合は、利用者
   との間で個別に利用(加入)契約を締結する個別契約の形態をとっている。
    なお、電話サービスの場合は事業者が郵政大臣の認可を受けて定める契約
   約款及び料金表に基づく付合契約であり、利用者が申込みを行い事業者が承
   諾することで契約が成立する。
    一方、接続事業者の場合は、利用者と地域網事業者との契約関係を前提に、
   利用者との間で利用契約を締結する。また、電話の利用契約は、基本的な
   サービス内容と基本的な料金を提供条件とする通常の利用契約に加え、利用
   者の選択に従い多様な付加サービスや割引サービス等に係る付加的契約が締
   結されることも多い。接続事業者の利用契約については、現在、長距離系N
   CCは個別契約の形態をとっているが、国際系事業者の場合はいわゆる「み
   なし契約」(注)と呼ばれる契約形態をとっている。

  (注)みなし契約
     みなし契約は、具体的には、NTTの加入電話サービスの契約約款と国
    際系事業者の国際電話サービスの利用契約約款の双方の規定に基づき、N
    TTと契約した契約者は、別の意思表示をする場合を除き、同時に、国際
    系事業者の契約者となる、と構成する契約形態である。これはNTTの契
    約者が、個別の契約手続きを要せずに国際電話を利用できるようにするた
    めの仕組みであり、1985年の電気通信制度改革以前は公衆電気通信法
    に基づいていた利用方法を継続させるため、関係事業者の契約約款におい
    て取り入れられたものである。個別契約の形態をとるかみなし契約の形態
    をとるかは、接続事業者の営業方針等と関連するものであり、地域網事業
    者との協議を通じて実施することができる。

  2) 優先登録の契約関係
    優先接続を導入する場合、利用者の意思は事業者を選択する優先登録の申
   込みにより示されるが、この意思表示を上述のようなサービス利用契約との
   関係でどう位置付けるかという問題がある。
    優先登録をサービス利用契約を締結するための個別の申込みと事業者識別
   番号の自動発信機能の提供の申込みとが一体となったものと位置付ける方法
   と、サービスの利用については別にこれまでと同様な利用契約を締結するも
   のとし、優先登録はあくまで事業者識別番号の自動発信機能の提供の申込み
   と位置付ける方法とが考えられる。
    現在の長距離通話の利用者の中には、NTT及び複数の長距離系NCCと
   重複して契約している利用者も少なくなく、通話のつど事業者を選択してい
   る利用者もあり、それは国際電話についても同様である。優先登録に利用契
   約締結の効力を持たせる方法では、優先接続導入時の初期登録が現在の利用
   契約締結関係をご破算にするものとなるが、その公平かつ適正な実施方法を
   見いだすことが非常に困難な課題となる。また、優先登録への参加を各事業
   者の任意とした場合、ある利用者について優先登録非参加事業者との利用契
   約と他事業者への優先登録とが競合した場合の契約の優先順位の問題等が生
   じる。
    競争導入から間をおかず優先接続を導入した外国の例と異なり、我が国で
   は、長距離系NCCが電話サービスを開業した1987年以降10年に及ぶ
   利用・契約の実態がある。したがって、上述のような問題を回避し、優先接
   続制度を円滑に導入するためには、サービスの利用については別にこれまで
   と同様な利用契約を締結するものとし、優先登録はあくまで事業者識別番号
   の自動発信機能の提供の申込みと位置付ける方法をとることが適当と考えら
   れる。

  3) 通話ごと選択の契約関係(アダプタ等を利用する場合を含む。)
    通話ごと選択による通話は、利用者と当該事業者との間の個別契約又はみ
   なし契約に基づき利用可能とすることで、契約面での対応が可能と考えられ
   る。個別契約とするかみなし契約とするか(あるいは両方の契約形態を設け
   るか)は、各事業者の判断に委ねることが適当と考えられる。



(10) 優先登録勧奨方法
   優先登録の勧奨の方法としては、一斉投票方式と随時営業方式とが考えられ
  る。一斉投票方式は、米国やオーストラリア、韓国の一部分でとられた方式で
  あり、事前の制度周知の後、優先登録申込書を全利用者に郵送し、申込書に記
  入の上利用者に優先登録の受付窓口あて返送を求める方式である。随時営業方
  式は、カナダやドイツでとられ、EUにおける検討経過でも支持された方式で
  あり、優先接続実施日以降、順次各事業者が営業活動を行う中で自社を指定す
  る優先登録の勧奨を行う方式である。
   我が国においては競争導入後10年に及ぶ競争と利用の実態があり、地域N
  TTが実施主体となると想定される一斉投票方式よりも、各競争事業者がそれ
  ぞれの顧客との契約関係や営業体制を通じて優先登録の勧奨を行う随時営業方
  式の方が、公正競争上の問題が少ないと考えられる。また、一斉投票方式では、
  マスコミを通じた広告等が有効であり、大規模な事業者が有利になると考えら
  れる。また、一斉投票方式は、完全といえる事前周知は不可能であることもあ
  り、無投票者の取扱いが大きな問題となる(参考1、2)。
   したがって、随時営業方式とすることが適当と考えられる。

   (参考1)最近の国政選挙の投票率

       
前  回         
前々回          
衆議院議員選挙
 小選挙区  59.65 %
 選挙区   67.26 %
 比例区   59.62 %
      −      
(H8.10.20)   
(H5.7.18)    
参議院議員選挙
 選挙区   44.52 %
 選挙区   50.72 %
 比例区   44.50 %
 比例区   50.70 %
(H7.7.23)    
(H4.7.26)    

   (参考2)一斉投票方式実施国における無投票者の取扱い
       米国においては、第1回投票時の無投票者については、第1回の投
      票による得票割合で関係事業者に利用者の優先登録を配分し、その事
      業者名を通知した上で第2回目の投票の機会を設けている。オースト
      ラリアにおいては、無投票者は従来の独占事業者を選択したものとし
      て取り扱っている。韓国においては、新規参入した第二キャリアの利
      用実績が多かった全利用者数の約1/8について一斉投票を実施して
      おり、無投票者は第二キャリアを選択したものとし、その他の投票用
      紙を送付しなかった利用者についてはコールセンターへの個別の申込
      みがない限り第一キャリアを選択したものとして取り扱っている。
       また、いずれの国も、その後は随時営業方式により変更登録を実施
      している。



(11) 初期登録方法
   優先登録勧奨方法を随時営業方式とする場合には、事前周知の上で優先接続
  実施時に、特定事業者を選択したものとして取り扱う初期登録が必要となる。
   この初期登録は、事後的に意思表示があれば変更され、意思表示なき場合は
  初期登録のまま継続されるものである。
   幸い、我が国においてはNTTと接続事業者とが重複した契約を結んでおり、
  現状、NTTのサービスを利用する場合は事業者識別番号が不要であり、他の
  接続事業者のサービスを利用する場合は当該事業者の事業者識別番号をダイヤ
  ルするか当該事業者のアダプタ等を設置することで通話サービスが利用可能な
  状況にあり、この状態を継続する形で初期登録を行うことができる。つまり、
  国内通話については原則として、市内及び県内市外については、地域NTTを
  選択したものとし、県間市外については長距離NTTを選択したものとして取
  り扱う。そうすること、すなわちデフォルト(注)としてNTTを初期登録す
  ることで優先接続の円滑な導入が可能となると考えられる。しかしながら、N
  TTをデフォルトとすることによって公正競争上問題が生じないかをチェック
  する必要はある。

   (注)デフォルト
      デフォルトとは、本来の不履行や棄権の意味から、コンピュータの用
     語に転じて、ソフトウェアの利用開始時点であらかじめ決められた標準
     的な値や設定が自動的にセットされる初期設定のこと。ユーザーが実際
     に利用する際に、別の設定に変更することが可能である。

   これに関して、公開意見招請では、「NTTをデフォルトすることは適当で
  ない」とする立場から、一定の事前勧奨期間を設け十分な事前周知を行って利
  用者に意思表示を求めた上で、意思表示のない利用者については、いずれかの
  事業者識別番号をダイヤルしなければ通話できないとする意見が寄せられた。
  そうすることで利用者の自己責任に基づく選択を促すことが利用者利益の向上
  につながり、かつ真に競争が促進されるという考え方である。また、無意思表
  示者の放置は問題が多いので事業者による一層の勧奨を促すために無意思表示
  者に係る情報を優先接続対象事業者に対して開示する等の措置を講ずることが
  適当と主張している。
   しかし、この方法については、完全といえる事前周知は不可能であり、また、
  無意思表示者の減少にも限度があることから、優先接続実施時に大きな社会的
  トラブルが生じると考えられる。また、公開意見招請においても、利用者の利
  便性確保と導入初期の混乱回避の観点から、デフォルトとしてNTTを初期登
  録することに賛同する意見も多い。デフォルトを認めない場合、意思表示のな
  い利用者の取扱いを巡って、事業者間で合意が得られない可能性があること、
  また、意思表示のない利用者に事業者識別番号のダイヤルを義務づけることは、
  明らかな利用者利便の低下であり、社会的トラブルを生じる可能性があること
  が指摘されている。更に、市内及び県内市外区分についても地域NTTを優先
  登録対象事業者とすることから、デフォルトを認めない場合の混乱は非常に大
  きくなると予想され、NTTをデフォルトとすることを認めることが適当であ
  る。
   また、公開意見招請において、一斉投票を行い、無投票者は一斉投票の得票
  結果の比率で配分する米国方式を実施すべきとする意見も一部にあった。しか
  し、先に(10)で述べたとおり、一斉投票方式でなく随時営業方式とすることが
  適当であり、意見招請においても、優先接続導入にあたっては、利用者の利便
  性維持、混乱防止を第一に考えるべきであり、こうした観点から一斉投票を行
  うことは適当でない旨の意見が多数寄せられている。

   次に、先に(10)で述べた随時営業方式を変形し、優先接続実施日の前に一定
  期間の事前勧奨期間を設け、その間に意思表示があった利用者については、そ
  の意向に従い初期登録を行う方式が適当とする意見も寄せられている。これは
  デフォルト事業者の設定は利用者の混乱の最小化という利点はあるが、公正競
  争の観点からは導入の趣旨と相容れないため、優先接続実施前に相当の期間の
  随時営業期間を設け、デフォルト選択の利用者数を少なくするとの考えに基づ
  くものである。
   これについては、事前勧奨を規制する根拠もなく、基本的には自由な営業活
  動を認めるべきであるが、他方、営業活動の激化に伴う不当な営業活動の出現
  等代理店を巻き込んだ営業活動の混乱は回避すべきであること、多数の事業者
  から、長期にわたり繰り返し優先登録の勧誘が行われると、かえって利用者に
  迷惑となることにもなりかねないこと、更に、事前勧奨期間内に利用者から同
  一通話区分について複数の事業者に対して優先登録の申込みがなされる場合も
  想定され、その処理について混乱が生じる可能性があることから、円滑な優先
  接続の導入を図るためには、事前勧奨期間を導入期日前数ヶ月間に限定するこ
  とが適当である。
  また、具体的な事前勧奨期間やこのような事前勧奨期間の設定により予想され
  る混乱の防止策について、事業者間で十分協議しておくことが必要である。

   更に、NTTをデフォルトとすることは、公正競争上問題があることから、
  利用者利便を考慮する場合でも、一定期間NTTを登録事業者とするが、その
  猶予期間経過後は、当該無意思表示者の登録を取り消すべきとの意見も寄せら
  れた。
   しかし、この場合も、一定期間経過後は、意思表示のない利用者に事業者識
  別番号のダイヤルを義務づけることとなり、利用者利便の低下とともに、社会
  的トラブルを惹起させる危険性があるため、このような措置をとることは適当
  でない。
   ただし、無意思表示者についてデフォルトとして登録された事業者は、当該
  利用者に対して、登録先を確認することが、利用者の意思を尊重する観点及び
  契約を補完する観点から望ましい。したがって、利用者に対し無料変更期間を
  周知する等利用者が意思表示をする機会を確保するための措置をとった上で、
  利用者が変更を希望する場合は変更登録を行い、このような措置を講じてもな
  お無意思表示の場合に限り、デフォルトの継続を認めることとすべきである。

   また、現在長距離系NCC等のアダプタ等を利用する利用者については、初
  期登録において当該事業者を選択したものとして取り扱うことも考えられる。
  しかし、現在でも、利用者によるアダプタ等の利用の停止状況やアダプタ等の
  利用契約の解除が関係事業者において十分正確に把握できているとはいえない。
  また、アダプタを利用する利用者でも通話のつど事業者を使い分ける利用者も
  想定され、一概にアダプタ等を設置する事業者を選択したものとして取り扱う
  ことには問題が残る。また、優先登録により現行の電話利用の方法を変更する
  からには、改めて表示される利用者の明確な意思に基づくことが望ましいと考
  えられる。このため、この方法をとることは適当でないと考えられる。

   一方、先に(6)で述べたとおり、国際通話にも優先接続を導入することが
  適当であり、また、原則として少なくとも2〜3年程度の現行ダイヤル手順の
  併存が適当であると考えられているため、国際通話について、必ずしも優先接
  続導入に合わせてデフォルトを行わなければならない訳ではない。
   また、国際通話については、現在でも、全事業者について通話ごとに事業者
  識別番号をダイヤルする方式がとられているため、特定事業者をデフォルトと
  して登録することは公正競争確保の観点から問題がある。
   したがって、国際通話区分については、デフォルトを行わず、優先接続導入
  前の事前勧奨期間及び導入後随時営業を行う中で優先登録を行うことが適当で
  ある。



(12) 登録・変更に係る関係者間の手続等
  1) 優先接続機能の意義
    優先接続の機能は、一度地域NTTの市内交換機に附属するデータベース
   に加入者回線ごとに指定接続事業者を登録するだけで、その後通話のつど市
   内交換機において自動的に当該事業者の識別番号が発信されることをいう。
   その結果、利用者が当該事業者の識別番号をダイヤルしなくても当該事業者
   の網に接続されるものである。この優先接続に係るシステムは地域NTTの
   市内交換機及び附属する優先登録データベースであり、地域NTTが管理運
   営するものである。

  2) 優先接続機能の提供主体
    この優先接続機能は地域NTTの地域網の機能であり、この機能の提供主
   体は一義的には地域NTTであると考えられるが(資料編6参照)、地域N
   TTの接続約款に基づき接続事業者が仕入れて利用者に提供する機能と考え
   ることもできる。
    地域NTTが提供する場合でも、接続事業者が利用者に対する営業活動を
   行う際には、自社の電話利用契約を獲得するとともに自社を指定する優先登
   録を獲得することが当然のことであり、利用者の直接申込みに加え、接続事
   業者による申込代行を認め、接続事業者間の競争が働きやすい仕組みとする
   ことが利用者の利便でもあると考えられる。
    一方、優先接続機能を接続事業者による継続的なサービス提供と位置付け
   ることについては、利用者が電話利用契約や優先登録の事業者を変更する場
   合に契約解除通知を行うことを期待することはできず(月額の基本料金等が
   ない場合は利用者としては放置しても支障がない。)、事実上接続事業者に
   は優先登録契約の管理は不可能であるという無理がある(地域NTTが管理
   することが合理的。)。また、接続事業者のみが提供することについては、
   優先登録区分が2〜4区分となり、特に加入電話の新規加入時にワンストッ
   プショッピングができず利用者に不便をかけるなどの問題がある。
    したがって、地域NTTが提供するものとし、優先登録参加事業者の代行
   を認めることが適当と考えられる。



(13) 優先接続の費用負担方法
  1) コスト負担の考え方
    優先接続の導入に当たっては、以下に述べるような金銭的なコスト負担が
   生じる(注)。その費用については、事業者又は利用者が負担することにな
   るが、事業者が負担するものについても、利用者料金に転嫁されることもあ
   り得る。また、優先登録のための手数や一部のダイヤル方法の変更など、利
   用者にとって直接の金銭の支払いに換算しがたいコスト負担も生じる。いず
   れにしても、優先接続の導入により利用者がコストを負担することとなるが、
   これらのコストの負担は、優先接続の導入や関連するNTT再編成が目的と
   する長期的な公正競争の促進を通じた料金の低廉化、サービスの多様化等の
   利益に対応するものとも考えられるので、優先接続の導入においてはこうし
   た点について利用者の理解を十分得た上で行う必要がある。
    また、以下の2)〜4)に述べる事業者側の費用負担の在り方は、どういう方
   法をとれば関係事業者にとって公平といえるか、公正な競争を促進すること
   になるか、という問題であり慎重な検討が必要である。

    (注) NTTによるコスト試算
        今回、NTTに依頼し報告を受けたコスト試算の結果は次のとお
       りである。
         今後、費用の額や負担方法について詳細な検討が必要なものであ
       るが、一つの負担方法の例として述べれば、aの網改造費用は、年
       経費化(投資額の約1/3)の上関係事業者が応分に負担すること
       が考えられる。また、b及びcは一時期に必要な費用であり関係事
       業者が応分に負担することが考えられる。


項目           
コスト試算  
内容・説明          
a 網改造費用      
 (市内交換機に優先接続機 
 能を付加するための費用) 
             
       
約 110億円
       
       
・ソフトウエア開発投資    
・優先登録全4区分への導入を前
 提 (区分が減少しても額に大き 
 な変動 はない)        
b 周知費用       
 (利用者に対する事前周知 
 費用)          
             
       
約  70億円
       
       
・全利用者に2回周知     
・広報誌(請求書同封)への掲載 
 (3回)            
・マスコミ広告        
c 初期の登録申込みの集中
 入力費用        
             
             
       
約 100億円
       
       
・全国1ヵ所の投入データ一括処
 理システムの開発・運用    
・全国11ヵ所の投入センタの設
 置・運用           
d 変更登録費用     
 (事後の利用者の希望によ 
 る変更登録のための費用) 
       
実 費/件  
       
・登録先変更を市内交換機データ
 ベースに入力(現行局内工事料を
 準用)            

   ・cは、本文(11)にいう「初期登録」ではなく、実施日以降集中的に発生する
    と予想される接続事業者による変更登録代行申込を迅速に処理するための
    費用である。
   ・b、cは平成10年2月の発信電話番号表示サービス導入のケースを参考と
    している。
   ・dは優先接続の導入に伴う営業窓口等における制度周知等の顧客対応の変更
    等の費用は含んでいない。
   ・現時点で一定の前提の下で試算されたものであり、優先接続導入方法の具
    体化に応じ変更の可能性があるものである。

  2) 網改造費の負担方法
   先に検討したとおり、優先接続は市内〜国際までの全通話区分に導入するこ
  ととし、かつ、地域NTTも優先接続の対象とすることが適当とされた。した
  がって、事業者間の相互接続における網改造費用の負担方法としては、地域網
  事業者及び全接続事業者が共通に利用する機能(基本機能)として市内交換機
  等の網使用料に含め費用回収する方法が基本的に適当と考えられる。
   しかし、市内交換機の接続料に含める場合には、優先登録に参加しない事業
  者や地域網の優先接続機能を利用することはならない携帯電話事業者にまで負
  担を求めることとなり、負担方法の修正を検討する必要がある。
   これについては、基本機能とはするが、網使用料のうち市内交換機の接続料
  に含めるのではなく、当該機能をアンバンドルすることとし、別立ての網使用
  料として設定することで対応可能である。具体的には、接続料算定規則に基づ
  き算定した優先接続に係る網改造コストを、携帯電話事業者等を除いた全実績
  トラヒック(回数)で除して単金を設定することが適当と考えられる。

   地域NTTの費用負担については、地域NTTも優先登録の対象となり、地
  域NTTが取り扱う市内通話及び県内市外通話を疎通させるためにも優先登録
  データベースを利用することから、応分のコスト負担をするべきである。公開
  意見招請においてもこの立場からの意見が多く寄せられた。なお、その場合地
  域NTTにおいては、利用部門が管理部門に対して接続料を支払うこととなる。
   また、アダプタによる発信や手回しによる発信の場合も、後述(16)するよ
  うに、固定優先接続機能をオプションで認める場合には、当該通話を疎通させ
  るために優先登録データベースを利用するため、応分の費用負担を求めること
  が適当と考えられ、これらの呼について接続料を負担するとしても不合理では
  ない。

  3) 初期登録費の負担方法
   前述したとおり、初期登録については、事前登録勧奨期間を設け、その結果
  を初期登録することとしているので、基本的に登録費用は登録先の事業者が負
  担することが適当である。また、デフォルトとして初期登録を行う場合には、
  利用者の意思の確認がないことから、利用者に負担を求めることは適当ではな
  く、登録先事業者である地域NTT及び長距離NTTが負担することが適当で
  ある。
   この場合の事業者按分方法としては、デフォルトによりNTTに登録された
  件数も合算したベースの事業者別の登録回線数比で、事業者が応分に負担する
  ことが適当と考えられる。
   また、通話区分は、4区分あり、各区分で別の事業者を登録することも想定
  されるので、それぞれの区分ごとに分けて登録事業者の件数をカウントし、4
  区分合計の総件数に占める各事業者の割合により応分に初期登録費用を負担す
  ることが適当である。ただし、市内通話区分については、現時点で実質的に地
  域NTTと他事業者との間で競争状況が生じている地域は一部に限られており、
  このような利用実態において、市内通話区分における地域NTTの初期登録費
  用負担を通じて、市内通話利用者が結局費用負担することは、公平でない。し
  たがって、原則として市内通話区分については、地域NTTの初期登録費用負
  担をなしとすることが適当と考えられる。ただし、市内通話区分について、固
  定優先接続の登録をする場合には、地域NTTも費用負担をすることが公平で
  あり、適当と考えられる。また、県内市外通話区分は既に競争の状態にあり、
  地域NTTに初期登録の費用負担を求めたとしても不合理ではない。


            登録事業者の件数のカウント

市   内
県 内 市 外
県 間 市 外
国   際
<区分毎に登録事業者の件数をカウントする。>
(注)  
      
      
     

  (注)市内区分において、地域NTTはカウントの対象から除く。
     ただし、固定優先接続の登録をする場合はカウントする。

   なお、事前登録勧奨による接続事業者代行申込みの場合には、磁気媒体によ
  る大量入力が可能であり、登録方式に応じたコスト低減が加味された費用負担
  とすることが適当である。

  4) 変更登録費の負担方法
   変更登録は利用者の希望に基づき行うものであるから、一義的には利用者が
  負担することが適当と考えられる。事業者負担とした場合には、結局そのコス
  トは利用者が負担することになり、また、頻繁に登録変更する利用者のコスト
  を結果的には他の利用者が負担することになるからである。
   ただし、実際には営業上事業者が負担(第三者による代位弁済)することも
  ありうるものであり、その場合にひとまず負担した変更登録費用を事業者が利
  用者に対して請求するかどうかは、当該事業者の判断によるという意見も公開
  意見招請において提出されている。
   これに関して、変更登録費を事業者が肩代わりする行為は、「不当景品類及
  び不当表示防止法(以下「景表法」という。)」の景品類の禁止(注)に抵触
  するおそれがあることから認めるべきでないとの意見がある。

  (注)景表法第3条において、「公正取引委員会は、不当な顧客の誘因を防止
    するため必要があると認めるときは、景品類の価格の最高額若しくは総額、
   種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景
   品類の提供を禁止することができる」と規定されている。
    また、一般消費者に対して懸賞によらずもれなく提供される景品類の価格
   は、景品類の提供に係る取引の価額(購入額の多少を問わないで景品類を提
   供する場合の「取引の価額」は原則として100円とされている。)の10
   分の1の金額(当該金額が100円未満の場合にあっては100円)の範囲
   内とされている。

   しかし、取引価格をいくらと認識するかにより、景表法に抵触するか否か解
  釈の余地があり、また、肩代わりではなく、優先接続機能に基づく長期割引 
  サービス等各事業者の工夫により、景表法に抵触しない範囲で事業者負担とす
  る余地もありうると考えられる。したがって、変更登録費は原則利用者負担と
  するが、景表法に抵触しないよう留意しつつ、事業者において、事業者負担の
  在り方を検討することが望まれる。

   次に、デフォルトとして初期登録を行う場合には、初期登録が利用者の意思
  によるものでないため、その後の変更登録は初めての利用者の意思表示である
  ばかりでなく、場合によっては意に沿わない初期登録を正常に復させるものと
  もなる。したがって、デフォルトとして初期登録を行う場合の一定期間内の変
  更登録については、利用者負担をなしとすることが考えられ、その際はその実
  費を先に3)で述べたように関係事業者のコスト負担の全体において回収する方
  法とすることが適当と考えられる。
   ここで、一定期間としては、優先接続導入日から6ヶ月とすることが適当と
  考えられる。これは、利用者意思の確認期間として相当な期間であり、利用者
  が登録先変更の意思表示を行うに必要な期間は確保されていると考えられ、ま
  た、外国の場合も概ね6ヶ月としているためである。
   なお、本来であれば、利用者負担なしで変更登録ができるのは、一定期間内
  の1回目の変更登録のみで十分と考えられるが、地域NTTにおいて当該利用
  者の登録変更が1回目のものか2回目以降のものかを判別するシステムを作る
  コストや確認作業のコストや手間を勘案すると、6ヶ月以内の変更登録につい
  ては、それが何回目の変更登録であるかにかかわりなく、全て関係事業者が負
  担することが適当である。
   すなわち、導入6ヶ月後の各区分毎の事業者別登録者数を集計し、その比率
  に基づき、6ヶ月以内の変更登録にかかる費用を関係事業者で按分することが
  適当と考える。この場合に市内通話区分について、原則として地域NTTの登
  録費用負担をなしとすること、ただし固定優先接続の登録を行った場合は市内
  区分であっても地域NTTは登録費用を負担することは、初期登録費の場合と
  同じである。

   また、現在の料金制度では、変更登録費は、地域NTTの届出料金となるが、
  当該料金を極めて高額に設定する場合には、事実上利用者から変更登録の機会
  を奪い、競争制限的に機能するとともに、NTTをデフォルトとすることと相
  まって、公正な競争を歪めるおそれがある。公開意見招請においても、このよ
  うな観点から同趣旨の懸念が提出されている。したがって、地域NTTはこの
  ような点に十分配意した料金設定を行うことが望まれる。



(14) 優先接続の導入に伴う公正競争の確保方策
  1) 優先接続の導入に伴う公正競争の確保
    優先接続は、大きく見れば、競争事業者間でダイヤル桁数(覚えやすいと
   いう質の面を含めて)を同等にするという公正競争条件の問題であるととも
   に、できるだけダイヤル桁数を少なくするという利用者の利便の維持・向上
   の問題である。優先接続の導入は、電話サービスの利用方法や、電話サービ
   スの利用に関連する契約関係に影響を与えることから、通信事業者の営業戦
   略や市場競争の構造にも大きな影響を与えるものである。
    このため、優先接続の具体的実施方法については様々な局面で、公正競争
   上の問題が生じるものであり、関係事業者間の協議を踏まえ、長期的な利用
   者利益の向上を基本的視点として、意見調整を行う必要がある。

  2) 地域NTTによる優先登録の実施
    上述のように優先登録は地域NTTが実施することになるが、地域NTT
   は自らも他の接続事業者と競争しつつ市内及び県内市外通話サービスを提供
   する立場にある。また、長距離NTTの県間市外通話サービス等の販売業務
   を受託することも予定されている。優先登録実施者である地域NTTと他事
   業者との間の公正競争を確保するため、地域NTTの優先登録実施部門にお
   いては優先登録関連情報を適正に管理し、必要な情報の授受については自社
   の営業部門等を他の優先登録参加事業者と同等に取り扱うなど優先登録の実
   施についてできる限り公正に取扱われるようにするための措置を講じる必要
   がある。
    これに関して、情報授受等における公正競争条件を確保するため、地域N
   TTは、登録区分毎の事業者別優先登録者数を開示し、不公正な営業の有無
   等が登録数の結果によりチェックできるようにすべきであるとの提案があっ
   た。地域NTTは優先登録機関として中立的であるべきとの観点から妥当と
   考えられ、また、地域NTTに過度の負担を強いるものではないことから、
   登録区分毎の事業者別優先登録者数の開示は適当と考えられる。なお、経営
   情報にかかわるため自社の優先登録者数の開示を拒否する事業者が現れた場
   合の取扱い等も含め開示内容等の詳細は事業者間で協議することが適当であ
   る。

  3) 地域NTTによる新規加入者に対する優先登録勧奨
    優先接続導入後は、優先登録を申し込むか事業者識別番号をダイヤルしな
   ければ、優先接続を導入する通話区分(例えば県間市外通話)が不通になる
   ことから、新規電話加入申込みの際に、そのことの情報提供を含め、最大4
   区分となる優先登録の申込みの勧奨を行いワンストップショッピングを確保
   することが望ましい。これは他の事業者には困難であり地域NTTのみが実
   施しうる立場にある。
    この場合、市内及び県内市外通話については他の優先登録事業者と自社と
   が直接競合し、県間市外や国際通話はグループ会社である長距離NTTが競
   合する。このため、地域NTT窓口での具体的説明、勧奨方法や地域NTT
   の勧奨実績に対する評価を含めた費用負担の問題等、関係事業者間で十分な
   協議が必要である。
    これに関しては、利用者からのトラブルの申し出に自主的に対応したり、
   事業者から公正競争等の観点から問題提起があれば協議することを目的とし
   た「優先接続関係事業者間協議会(仮称)」を設置し、円滑な導入と公正競
   争確保に資することが適当と考えられる。
    また、加入者の移転、電話番号の変更、ISDNへの変更等の場合は、利
   用者から特段の変更申し出がない限り、優先登録されている事業者を継続し
   て登録することが望ましい。



(15) 利用者への情報提供、開示
  1) 優先接続の導入と利用者への情報提供、情報開示
    優先接続の導入の目的は、通話サービスを利用する際にダイヤル桁数の不
   便を感じることなく、利用者にとって通信事業者の選択の自由度を増すこと
   にあるということもできる。利用者利便の向上の観点からは、優先接続の具
   体的実施方法とともに選択の対象となる通信事業者のサービスに関連する情
   報が利用者の要求に応じ容易に提供されるようにすることが重要な課題であ
   る。

  2) 優先接続の導入に伴う具体的情報提供
    以下のような情報提供、情報開示が必要と考えられる。
     ○ 各優先登録参加事業者による情報提供
      ・優先接続の導入に関する事前周知
      ・問合わせ窓口の設置及び周知
      ・自社の料金、サービス内容の説明、情報開示 
      ・不当な情報提供の禁止
     ○ 登録実施者としての地域NTTによる情報提供
      ・ 優先接続の導入に関する事前、及び導入後一定期間内の制度周知、
       情報開示
      ・ 新規加入契約者に対する周知
      ・ 優先登録参加事業者の問合わせ窓口の周知
     ○ 中立的機関による情報提供
       登録実施者としての地域NTTの窓口か、中立的機関において、優
      先登録全参加事業者の会社概要、サービス内容等の基本的情報の問合
      わせに応え得る体制を整備することが望ましい。
      ・ 優先登録参加事業者に関する情報提供
      ・ 優先登録参加事業者の問合わせ窓口の周知
      ・ 各事業者の料金、サービス内容の情報提供
        (インターネットHP等を利用し、データベースを整備して利用
        者等からの情報検索を可能とすることが望ましい。)



(16) 適正な営業活動
  1) 米国における不正優先登録問題(スラミング)
    米国では1984年のAT&T分割を機に優先接続が導入されたが、その
   後10年以上を経た現在でも、「スラミング」と呼ばれる、利用者の同意を
   得ずに優先登録先事業者を変更する不正優先登録が大きな問題となっている。
    このスラミングを防止するため、連邦通信委員会(FCC)が規則を制定
   し制裁金制度が設けられているが、1997年度でもFCCに対し2万件以
   上の苦情が寄せられている。

  2) 不適正な営業活動の防止
    米国の優先登録手続きにおいては利用者からの書面によらない申込みが許
   容されており、優先登録事業者からの電話勧誘だけで処理される点がスラミ
   ングの大きな原因と伝えられている。
    したがって、優先登録手続きは書面によることを原則とすることが適当と
   考えられる。
    しかし、利用者から地域NTTに対する電話による直接申込みの場合につ
   いては、利用者利便を考慮すると、これを受け付けないこととするのは酷で
   ある。契約者本人であることを確認し、かつ、後日書面による正式申込みを
   行う等の方法により、利用者の意思確認が確実にできることを条件として、
   電話による申込みも受け付けることとすることが適当である。ただし、他事
   業者との公正競争確保の観点から、このような取扱いは例外的な取扱いとし
   て限定的に認めることが適当である。
    また、事後的な確認を容易にするため申込書には取扱事業者名、取扱担当
   者名等の記入を要することとすることや事後の確認・訂正手続き等について
   も、関係事業者間で十分な検討が必要である。

  3) 利用者からの苦情への対応等
    不適正な営業活動の結果利用者の意思に基づかない登録が行われた場合、
   利用者は地域NTTからの優先登録実施通知により、その事実を確認するこ
   とができる。不適正な営業活動を行った登録先事業者に苦情が寄せられた場
   合には当該事業者で適切な対応を行うべきことはもちろんであるが、地域N
   TTへも苦情が寄せられることが想定される。その場合、利用者と新旧登録
   先事業者と地域NTTとの4者間の連絡・協議が必要となり、その標準処理
   方法、費用負担等について関係事業者による十分な協議が必要である。

  4) 郵政省に対する意見申出制度の整備・活用
    郵政省では、1997年7月に電気通信局に電気通信利用環境整備室を設
   け、電気通信サービスに関連する利用者からの苦情・相談等の受付・対応を
   行うとともに、利用者等に対する情報提供等を行ってきている。
    また、1998年の通常国会において、第一種電気通信事業者の電気通信
   料金の原則届出制の導入に併せて、意見申出制度(注)が法定されたところ
   であり、今後この制度の活用が望まれる。

   (注)意見申出制度(電気通信事業法関連条文)
      第96条の2 電気通信事業者の電気通信役務に関する料金その他の
     提供条件又は電気通信事業者の業務の方法に関し苦情その他の意見のあ
     る者は、郵政大臣に対し、理由を記載した文書を提出して意見の申出を
     することができる。
      2 郵政大臣は、前項の申出があったときは、これを誠実に処理し、
     処理の結果を申出者に通知しなければならない。

  5) アダプタ等
    上述のとおり、優先接続後もアダプタ等の併存を許容すべきと考えられる
   が、現在のアダプタ等に関連し適正営業の面で以下のような課題がある。
    これまで周知されてきた「LCR」の最低料金事業者選択機能に限界が生
   じ、最近「ACR」と改称されたことは既述のとおりであるが、新旧アダプ
   タ等を設置する利用者に対し、その取扱い方法や機能の限界等について十分
   な情報提供、説明が必要である。また、災害時等の機能解除方法の在り方に
   ついて、関係事業者間で協議し統一した分かりやすいものとすることが望ま
   れる。
    また、外付けアダプタについては、契約解除(アダプタ取り外し)時の違
   約金の問題がある。通信事業者がアダプタの開発・調達・設置コストを回収
   するために最低利用期間内(通常1年間)の契約解除時に違約金を請求しう
   るとすることはそれ自体は是認されると考えられる。そして、通常は期間内
   に解除する場合でも違約金の請求は行われていない。しかし、特定の事業者
   との競争において違約金請求権が競争制限的に利用されることや、利用者に
   とって差別的取扱いを被る恐れが否定できない。この点や取り外し工事料の
   負担方法、取り外したアダプタの返送の問題等を含め、透明で公正な競争
   ルールが確立されるよう望まれるところである。

  6) 優先接続導入後の販売競争の展開
    これまでの長距離通話サービスを巡る事業者間競争では、顧客宅内へのア
   ダプタ等の設置が重要なポイントとなっていたが、優先接続導入後は、より
   手軽な優先登録申込書獲得が重要なポイントとなると考えられる。また、事
   業者変更が容易なことから、頻繁な変更登録の勧誘合戦が展開されることも
   考えられる。また逆に、優先登録による電話利用を長期的に囲い込むための
   割引サービス等も工夫されていくものと考えられる。
    この点にも関連し、一部の事業者から次のような意見が出されている。す
   なわち、上記の5)のアダプタ等の違約金等の問題が解決されない場合、アダ
   プタ等の利用契約の解除が困難であり利用者は希望しても優先登録ができな
   い事態が生じる。このため、利用者の選択肢の一つとして、固定優先接続方
   式も併せて提供できるようにすべきである、というものである。また、この
   固定優先接続方式については、アダプタ等を先行的に提供している事業者と
   そうでない事業者とが対等に競争できるようにするために必要であり、優先
   接続の導入と同時期に提供できるようにすべきであるという意見もある。
    これについては、優先接続の導入によって利用者の利便や公正競争が確保
   されるようにするという観点から、固定優先接続方式が利用者に具体的にど
   のようなメリットをもたらすかや、長距離NTTをデフォルトとして初期登
   録することとの関係をどう考えるか、長距離NTTを含む中継サービス事業
   の競争環境にどのような影響を及ぼすことになるかなどを含め、公開意見招
   請において寄せられる意見等を踏まえ、さらに検討していくこととした。

   公開意見招請においては、「固定優先接続を導入すべきでない」とする立場
  (以下この項において「反対論」という。)からは、まず、利用者利便に関し
  て、優先接続先の事業者が輻輳等を起こした場合に他の事業者を選択すること
  ができない等、利用者利便が低下するとの意見が出された。これについては、
  地域NTTにおいて、固定優先接続で登録された事業者以外の事業者を呼毎に
  選択できる仕組みを導入することとすれば、利用者の利便性低下を回避できる
  ものと考えられる。
   なお、固定優先接続を提供すべきとする事業者からは、この固定優先接続機
  能の解除の際に、解除の確認トーキーを入れる提案が出されたが、これについ
  ては、接続遅延をもたらし、利用者利便に反するため適当でなく、通常の接続
  と同様に接続遅延をもたらさず、かつ同様の品質とする方法により導入すべき
  と考える。
   また、反対論として、固定優先接続機能の付加にも費用が必要となり、コス
  ト増大を招くとともに利用者負担が増加する、申込書が複雑となり利用者の混
  乱を招くとの指摘があった。これに対しては、固定優先接続の登録対象となる
  か否かは、事業者の選択によるものであり、固定優先接続の登録対象となるこ
  とを選択し、その便益を受ける事業者のみが応分に費用負担することにより解
  決可能である。また、積極的な利用者利便として、市販のアダプタ内蔵型電話
  機を購入した利用者が、電話機の煩雑な操作なしに電話会社を変更できる点及
  び法人のように契約者と実際の利用者とが異なる場合に、契約者の意思が徹底
  できる点がある。また、利用者が端末に依存しない形で事業者を自由に選べる
  こととなる。申込書については、できる限り利用者に分かり易く、混乱を招か
  ないように工夫することで対応できると考えられる。
   更に、反対論として、固定優先接続はネットワークがダイヤルされた事業者
  識別番号を無効にすることと同義であり、利用者の混乱が予想される旨の指摘
  があった。これに対しては、固定優先接続は、事前に明示された契約者の意思
  に基づき事業者を選択するものであること、現実の利用者と契約者が異なる場
  合に料金の支払い義務者である契約者の意思に従っても問題はないと考えられ
  ること、また、契約者の意思により優先接続先の事業者を変更したり、呼毎に
  固定優先接続を解除することも可能であることから、利用者意思に反しないも
  のと考えられる。また、固定優先接続においてネットワークで事業者識別番号
  を変える場合に、利用者にとってどの事業者のサービスを受けているか接続遅
  延を生ずることなく認識できるようにすることは重要であるので、接続遅延を
  もたらすことなく、それができるための技術的検討を行うべきであると考えら
  れる。

   また、反対論として、固定優先接続導入を契機として、これに対抗するため
  のアダプタ等の高機能化を図るなど機能強化の競争がエスカレートし、混乱を
  招かないかとの意見が出された。これに対しては、基本的に技術革新の進展と
  競争市場の存在を前提とすれば、ネットワークと端末の機能の競争と補完が今
  後も同時進行していくものと考えられ、利用者がニーズに合わせて選択するこ
  とで利便性の向上が図られるものと考えられる。

   次に、公正競争の確保の観点からは、反対論として、デフォルトをNTTと
  して固定優先接続方式を導入すると、NTTが一方的に有利となるとの指摘が
  あった。これについては、固定優先接続は利用者が意思表示を明示した場合の
  み設定するものとし、意思表示のない利用者の初期登録としては設定しないこ
  ととすべきである。

   以上の内容を総合的に勘案すると、固定優先接続方式も優先接続のオプショ
  ンのひとつとして認めることが、利用者利益及び公正競争の確保の観点から適
  当である。

   ただし、「固定優先接続」というネーミングや具体的な機能が利用者にとっ
  て分かりにくいのではないかとの意見があるので、実施にあたっては利用者の
  視点に立って、それがどんな内容のサービス内容かが端的に分るネーミングに
  するよう工夫するとともに、利用者にとってのメリット(どんな場合に本サー
  ビスを選択すると効果があるのか)、具体的な利用方法、固定優先接続の位置
  付け等を明確にし、これについてきちんと周知徹底することが必要と考えられ
  る。行政としても、優先接続制度導入等の周知の中で、できる限りバックアッ
  プするなど、円滑な導入に向けた環境整備を行うよう努めることが望まれる。

   また、固定優先接続の導入時期については、利用者の混乱を避けるためには
  一般の優先接続とは切り離して、一定期間後に導入すべきではないかという意
  見がある。
   これに対しては、確かに利用者にとって固定優先接続と一般優先接続との違
  いがよく分からないまま一緒に導入されれば利用者が混乱するという問題が発
  生するおそれがあるが、上述のように固定優先接続の位置づけを明確にできれ
  ば、むしろ利用者の多様な利用形態(ダイヤル方法等)に対するニーズに対応
  して端末やネットワークがいかなる機能やサービスを提供可能かを同時に提示
  する方が利用者にとって望ましいという意見もある。
   利用方法の変更に伴い、ある程度の混乱が生じるのは避けがたいとしても、
  実施時期、方法や周知方法を工夫することにより、利用者の混乱を極力少なく
  することが必要である。従って、この問題については事業者間協議の場で一般
  の優先接続の周知宣伝時期と重なって固定優先接続の宣伝を行わないなど、混
  乱を回避する具体的方策について十分に検討するとともに、一般の優先接続と
  同時期に実施することによる問題点を除去できることの確認を行った上で実施
  する必要がある。

   なお、いずれにしても、優先登録獲得のための景品営業等が過熱し、かえっ
  て営業コストが増大するようなことは本来望ましいものではなく、公正で妥当
  な販売競争が展開されることが望まれる。

   更に、将来的には、割引などの時間帯に応じ、利用する電気通信事業者を変
  更したいとの利用者の要望に対し、通話区分を更に詳細な距離区分や時間帯別
  等にも分ける機能や、スラミング防止に十分配慮した上で各利用者の端末から
  登録変更ができる機能についても、事業者間で検討を行い、利用者利便の向上
  が図られるようにすることが望まれる。



(17) NTT再編から優先接続導入までの間の経過措置
   NTT再編時から優先接続導入までの間、長距離NTTの長距離通話サービ
  ス利用については、形式的に公正競争条件の確保にはもとるが、サービス利用
  の円滑な継続を重視し利用者の利便保護の観点から、現行ダイヤル方式を維持
  することが適当と考えられる。





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