第5章 良好な視聴環境
本章においては、良好な視聴環境について考察するが、まず、実際に子どもたち
がどのように視聴しているかという実態と、ポケモン問題での健康被害と視聴環境
との関連性について厚生省の研究結果について触れる。次に、望ましい視聴環境と
して提案されている内容について、今回のポケモン問題を契機に提案されている内
容、従来から推奨されてきた内容、そして参考としてテレビ画質評価における観視
条件等を紹介し、良好な視聴環境を考える上で関係する情報をとりまとめた。
1 厚生省「光感受性発作に関する臨床研究」の研究結果
平成9年12月16日午後6時30分より放映されたアニメ番組「ポケッ
トモンスター」の視聴中に出現した健康被害の実態を把握し、症状発現の機
序を明らかにする研究成果の中から、視聴環境との関連性を示唆するものを
抽出した。
(1)小・中・高校生を対象としたアンケート実態調査結果
有効回答数9,209件のうち、当該アニメ視聴者は4,026名で回答者の43.7
%であり、健康被害の発生者数は417名で視聴者の10.4%であった。ここで
の健康被害とは、けいれん発作、目が痛くなった、気持ちが悪くなった、
頭がぼーとした、吐き気がした、画面から目がそらせなくなった、まばた
きを繰り返し次第に強くなった、などである。
ア 部屋の明るさと健康被害の発生状況
1) 健康被害の発生状況
部屋の明るさ
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対象人数
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健康被害がみら
れた人数
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健康被害の発生率
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明るい部屋で視聴
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3,757人
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355人
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9.4%
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暗い部屋で視聴
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177人
|
55人
|
31.1%
|
2) 健康被害の発生は暗い部屋でテレビを見ていた場合に有意に多かった
3) 大半の症状は明るい部屋より暗い部屋の方が発生頻度が高く、特に「手足
が震えたり、ひきつけたり、けいれんした」は暗い部屋の方が特に高頻度
であった
イ テレビとの距離と健康被害の発生状況
1) 健康被害の発生状況
テレビとの距離
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対象人数
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健康被害がみら
れた人数
|
健康被害の発生率
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1メートル以内
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816人
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126人
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15.4%
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1〜2メートル
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2,015人
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197人
|
9.8%
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2〜3メートル
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935人
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66人
|
7.1%
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3メートル以上
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236人
|
25人
|
10.6%
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2) 1メートル以内でみていた視聴者に統計的に有意に健康被害が多発してい
た
3) 大半の症状は1メートル以内に発生頻度が高い傾向があったが、「目が痛
くなった」と「気持ちが悪くなった」は距離と関係なく発生していた
4) 明るい部屋でみていた者ではテレビとの距離が離れると健康被害が減る傾
向(統計的に有意)があったが、暗い部屋で見ていた人は距離が離れても
健康被害の減少は明らかではなかった(すなわち暗い部屋ではテレビから
の距離に関係なく健康被害が多かった)
ウ テレビの見方との関係
1) 健康被害の発生状況
テレビの見方
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対象人数
|
健康被害がみら
れた人数
|
健康被害の発生率
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一人でみていた
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1,083人
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138人
|
12.7%
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他の人と一緒に
みていた
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2,926人
|
275人
|
9.4%
|
2) 一人でみていた視聴者に統計的に有意に健康被害が多発していた
(2)視聴環境データの整理
小・中・高校生に対するアンケート実態調査結果(11,368名を対象、うち
番組を見ていた者4,026名:下記1))と、症例検討研究班が実施した専門医に
よる診察(問診)結果(115症例を対象:下記2))から、視聴環境に関連する
統計的データとして以下の項目に関する数値を整理した。
ア テレビまでの距離
1) 有効回答4,002件を対象とした内訳
1メートル以内 20.4%
1〜2メートル 50.3%
2〜3メートル 23.4%
3メートル以上 5.9%
2) 有効回答158症例を対象
1.7±0.8(0.5〜7)メートル
イ 部屋の明るさ
1) 有効回答3,934件を対象とした内訳
明るい部屋が95.5%、暗い部屋が4.5%
2) 有効回答160症例を対象とした内訳
明るい部屋が96.2%、暗い部屋が3.8%
ウ テレビの見方
1) 有効回答4,009件を対象とした内訳
「一人で見ていた」が27%
「誰か他の人と一緒に見ていた」が73%
2) 有効回答154症例を対象とした内訳
「集中して見ていた」が84.4%
「他のことをしながら」が15.6%
エ テレビの大きさ(1)では未調査)
2) 有効回答153症例を対象
24.5±5.1(14〜33)インチ
2 望ましい視聴環境として提案されている内容
望ましい視聴環境については、今回のポケモン問題を契機として特に光感
受性について配慮して提案されている内容、及びテレビを視聴する環境につ
いてこれまで次のとおり広く社会に推奨されている。しかし、それぞれの項
目ごとの提案内容の中にはばらつきがみられる場合がある。
(1)光感受性について配慮した提案
視聴距離とインターレー
スフリッカーの関係
|
・インターレースフリッカー(飛び越し走査線に
よるちらつき)が目に入らないように、画面か
ら2メートル以上離れる(*1)
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視聴距離
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・ 画面から2メートル以上離れて視聴する(*1,
*2)
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周辺照明
|
・ 小さなランプをテレビの上で点灯させ、画面と
周辺の明るさの差を減らす(*1)
・ 明るい部屋で見る(*2)
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チャンネル切り替え
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・ チャンネル切り替え等のためにテレビに近づか
ない(*1)
・ 操作はテレビに近寄らずリモコンで行う(*2)
|
テレビへの接近
|
・テレビに近づく必要が生じた場合は、片目を手で
覆って、光がその目に入らないようにする(*
1)
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視聴時間
|
・長時間にわたり見続けない(*2)
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その他
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・ 視野いっぱいに見ない
・ ちらちらするような画面では片目を手でおおう
・ 何らかの異常を感じたら画面から目をそらす
・ 寝不足、疲労、便秘を避け、体調不良時には見
ない(以上*2)
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注)*1:Harding 1995
*2:名古屋大学小児科学教室ホームページ(渡邊教授)
(2)従来広く社会に推奨されてきた提案
視聴距離と画面の大き
さ・視聴距離
|
・ 13から14型テレビでは2.5メートル、19から
20型では3メートル程度。(*1)
・ 現行テレビでは画面の縦の長さの4倍から6倍。
(*2)
・ 画面の縦の5倍から7倍(*3)
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周辺照明
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・ 部屋の明るさは6畳で60ワット(電球)、20
ワット(蛍光燈)(*1)
・ 通常よりやや暗め(*2)
・ テレビ周辺の明るさはテレビ画面の最高輝度の
15%程度(*2)
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観視角度
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・上下方向に43度、左右方向に57度。(*2)
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目の高さ
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・目の高さよりやや低め(*1、*3)
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テレビ画面状態
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・視野の中に光線など入らないようにする
(*1)
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テレビ画面コントラスト
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・強すぎない(*1)
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カラー調整
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・赤みを帯びた色調は目が疲れる(*1)
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視聴時間
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・ 2,3時間まで。30分から60分毎に10分休憩を
入れる(*1)
・ 時々目を休めること(*3)
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注)*1:目にやさしいメガネ学(日比野久美子監修)
2:ITU(国際電気通信連合)
RECOMMENDATION ITU-R BT.500-7 (1974-1978-1982-1990-1992-1994-
1995)
"METHODOLOGY FOR THE SUBJECTIVE ASSESSMENT OF THE QUALITY OF
TELEVISION PICTURES"
RECOMMENDATION ITU-R BT.1127 (1994)
"RELATIVE QUALITY REQUIREMENTS OF TELEVISION BROADCAST
SYSTEMS"
RECOMMENDATION ITU-R BT.1128-1 (1994-1995)
"SUBJECTIVE ASSESSMENT OF CONVENTIONAL TELEVISION SYSTEMS"
*3:テレビメーカー取扱説明書
今後、更に視聴環境が視聴覚機能に与える影響について配慮を努め、科学的裏付
けのある具体的なガイドラインを自主的に策定し、検討していく必要がある。