発表日  : 1998年12月 7日(月)

タイトル : 「青少年と放送に関する調査研究会」報告 〜報告書〜





青少年と放送に関する調査研究会
     −報 告 書−     




               平成10年12月
           青少年と放送に関する調査研究会


                目   次


はじめに

第1章 青少年と放送に関する論議の現状等

  1 “青少年問題”に関する論議
  2 放送分野における青少年対応策の在り方についての再検討の動き

第2章 青少年とテレビに関する調査研究

  1 我が国におけるこれまでの主な調査研究
  2 本調査研究会で実施した各種調査
  3 諸外国における調査研究

第3章 青少年のための放送分野における施策の現状

  1 我が国における対応
  2 諸外国における対応

第4章 青少年対応策検討に当たっての基本的考え方

  1 放送の先進国、児童の権利に関する条約批准国としての対応
  2 放送事業者の自律による対応
  3 送り手と受け手との相互作用の充実

第5章 青少年対応策の提言

  1 青少年向けの放送番組の充実
  2 メディア・リテラシーの向上
  3 青少年と放送に関する調査等の推進
  4 第三者機関等の活用
  5 放送時間帯の配慮
  6 番組に関する情報提供の充実
  7 Vチップ
  8 今後の進め方

青少年と放送に関する調査研究会名簿
青少年と放送に関する調査研究会開催状況

資料編





はじめに

 昨今、青少年非行の凶悪化、性の逸脱行動、さらには青少年の間に見られるいじ
め等、青少年が直面している問題は、極めて憂慮すべき状況にあり、我が国の将来
を担う青少年の健全育成は、国を挙げて取り組むべき喫緊の課題となっている。
 現下の青少年問題は、家庭、地域社会、学校、マスメディア等の青少年を取り巻
く環境、我が国経済の停滞、社会規範の低下、将来への不透明感、閉塞感等、現在
社会の様々な要因が複雑に絡み合い、生じている問題であり、我が国の社会の在り
方そのものが問われていると言うべきである。
 政府においては現下の青少年問題について、緊急の対策を講じるとともに、関係
の審議会等において中長期的視点も含め、各般の検討が行われているが、その中で、
我が国社会の情報の共有化、青少年の価値観や人生観の形成に大きな影響力を有す
る放送の今日的在り方も問われるに至っている。
 このような状況を踏まえ、「青少年と放送に関する調査研究会」は、現下の青少
年問題に対して、放送は何をなすべきか、何が出来るのかという、青少年と放送の
関係を根底から問い直す作業に着手した。本調査研究会においては、委員である放
送事業者、教育、法律、メディアの専門家からの報告に基づく議論はもとより、広
く視聴者、国民の意見等を反映させるため、「青少年アンケート調査」「青少年ヒ
アリング調査」「保護者ヒアリング調査」「インターネットアンケート調査」「有
識者ヒアリング調査」等を実施し、議論の参考とした。
 なお、本調査研究会は、最近の情報公開の要請に応えるとともに、本件に対する
視聴者、国民の関心を高め、各方面における広範な議論を喚起するため、会合はす
べて報道機関に対し公開することとした。
 青少年と放送の関係については、テレビ放送が開始されて以来、何度となく、議
論の俎上に上っているが、本調査研究会においては、現下の青少年問題を踏まえ、
放送に関わる者がそれぞれの立場から、今、何をなすべきかを問い直すことを基本
とし、真摯かつ冷静で実証的な議論を重ねてきた。本報告書は、このような議論の
集約として、放送の送り手と受け手の間の信頼関係を一層高める視点から、青少年
と放送の在り方についての基本的態度、施策の方向性を示すものである。
 今後は、この提言を踏まえ、放送事業者、視聴者団体、行政等において具体的措
置が早急に講じられることを期待する。
 また、もとより、本調査研究会の報告をもって、青少年と放送の問題がすべて解
決するものでもなければ、この議論に終止符を打つものでもない。今後とも、本報
告を一つの契機とし、視聴者、放送事業者、行政等、放送に関わる者がそれぞれの
立場から、一層活発な議論を行うことを強く念願する。


第1章 青少年と放送に関する論議の現状等

1 “青少年問題”に関する論議

  青少年問題を議論する場合に、その前提として、大方の青少年は、日々、悩ん
 だり、困難に突き当たりながらも、真摯に自分を見つめ、また社会にも目を向け
 て堅実な生活を送っていることを十分認識しておく必要がある。
  しかしながら、昨今、青少年の間の“いじめ”や不登校・学級崩壊、また性の
 逸脱行動や薬物の乱用、そして少年非行の低年齢化現象が顕在化している。特に、
 少年非行(14歳から19歳までの少年による非行)の状況は、近年、深刻化し
 ており、その原因を十分見極めながら、国民一人ひとりが解決に向けて努力しな
 ければならないことは論を待たない。
  警察庁資料によると、刑法犯で補導された少年は平成9年には15万2825
 人に上り、現在は戦後第4の波にあたると言われている。
  こうした青少年による非行等問題行動が増加している背景については、種々の
 議論があるが、基本的には、家庭、地域社会、学校、マスメディア等の青少年を
 取り巻く環境、更には、社会規範の低下、将来への不透明感、閉塞感等の社会的
 要因が、複合的・重層的に影響を及ぼしていると考えられている。
  すなわち、家庭に関する問題としては、家庭内の会話がない、子どもの行動に
 無関心など家族との「希薄な関係」や、過保護による甘やかし、保護者自身がも
 のごとの善悪を判断できないなど「親の規範意識の欠如」等が指摘されている。
 また、地域社会に関しては、コミュニティーの喪失と言われるように、近所の子
 どもに対する「無関心」や、放課後の「青少年の“居場所”の欠如」等が指摘さ
 れ、学校に関しては、生徒に対し毅然とした態度で指導できない、道徳・しつけ
 の面での「教師の自信喪失」や、学力中心の単一の尺度で子供を評価する「偏差
 値重視」等の問題が指摘されている。
  さらに、最近の我が国の風潮として、善悪の判断、社会共通のルールが曖昧と
 なり、道徳感・倫理感など社会全体の規範が低下しており、享楽的、拝金的、自
 分本位的な大人社会の様相が青少年の行動にも投影されているとの見方も一般的
 である。

2 放送分野における青少年対応策の在り方についての再検討の動き

  青少年問題は、現在社会の様々な要因が複雑に絡み合って生じており、我が国
 社会の在り方そのものが問われている問題と捉えられている。このような考え方
 に基づき、政府においては、現下の青少年問題に早急な対応を講じつつ、関係行
 政機関の審議会等において、中長期的な対応策や青少年問題の根底にある問題に
 ついても審議が行われている。内閣の「次代を担う青少年について考える有識者
 会議」、総務庁の「青少年問題審議会」、「青少年対策推進会議」では、政府と
 しての横断的な立場で、青少年の心や行動の問題、家庭、地域社会、学校の在り
 方、青少年を取り巻く環境の問題等について、中長期的視点も含め幅広い観点か
 ら検討が行われている。また、文部省の「中央教育審議会」、厚生省の「中央児
 童福祉審議会」等の各種審議会においては、現実に起こっている青少年の問題行
 動等に適切に対応していくために、教育、子育て等の観点から検討が行われてい
 る。
  こうした審議会等においては、青少年は、テレビ等のマスメディアにより夢や
 希望をかき立てられ、心を癒されるということも少なくないとしながらも、その
 「影」の部分として青少年に与える悪影響が懸念されており、青少年への対応策
 として、放送事業者の自主的な取組の強化、第三者機関の設置、放送時間帯の制
 限、Vチップ等の検討について提言が行われている。


第2章 青少年とテレビに関する調査研究

 本章では、青少年とテレビの関係についてのこれまでの調査研究、本調査研究会
で実施した各種調査及び諸外国における調査研究について概観する。

1 我が国におけるこれまでの主な調査研究

  我が国においては、NHKが、1957年(昭和32年)、1959年(昭和
 34年)に、テレビの導入による青少年の生活への影響について、日本民間放送
 連盟が1960年(昭和35年)から3年間にわたり、少年非行とテレビの関係
 等について調査を実施している。また、大学における研究では、岩男寿美子教授
 (慶應義塾大学)が1977年(昭和52年)からテレビ番組の中の暴力の描か
 れ方等、場面等の内容分析を継続的に実施している。
  このほか、メディア、教育等の観点から、種々の調査研究の成果が発表されて
 いるが、英米等に比較して、我が国はこの分野の蓄積が少なく、さらに充実させ
 ていく必要があると指摘されている。

【我が国におけるこれまでの主な調査研究】

調査研究と調査主体 
調査研究の概要                   
NHK“静岡調査” 
(1957,1959)     
          
          
静岡市の小中学生を対象に、テレビ導入による青少年の生
活への影響について調査。テレビの導入により、生活時間
の変化はあるものの、懸念される子どもの性格形成には影
響を及ぼさないと結論。               
日本民間放送連盟  
“テレビと非行少年”
等(1960〜1962)   
          
大学に委託して、小中学生を対象に、少年非行とテレビの
関係等について調査。テレビが非行の原因となったり、非
行の素因としての人格形成に作用を及ぼすことは、ほとん
どあり得ないと結論。                
岩男教授(慶應義塾大)
“「ドラマ」の内容分
析1977〜1994”(1998)
テレビ番組の中の暴力の描かれ方等、場面等の内容分析を
継続的に実施。テレビ番組の平均8割の番組に暴力が含ま
れている等との結果。                
佐々木助教授(獨協大)
(1986)       
          
中高生を対象に、暴力番組視聴と暴力的傾向等について調
査。暴力番組の視聴傾向と暴力行動の間に正の相関がある
と結論。                      
渡辺助手(国際基督教
大)(1996)     
          
中学生を対象に、暴力番組視聴と暴力的傾向等について調
査。暴力番組視聴と暴力的傾向及び脱感作度との間に正の
相関があると結論。                 

2 本調査研究会で実施した各種調査

  本調査研究会においては、青少年と放送の関係の実態を把握するとともに、視
 聴者、有識者の意見を審議の参考にするという観点から、青少年アンケート調査、
 青少年ヒアリング調査、保護者ヒアリング調査、インターネットアンケート調査
 及び有識者ヒアリング調査を実施した。

(1)青少年アンケート調査
  小学5年生、中学2年生を対象にテレビの視聴等に関するアンケート調査を実
 施し、テレビが及ぼす影響等の実証的分析を試みた。(小学5年生358人、中
 学2年生422名)
 【本調査の主な結果】
  ・37.1%の子どもが、テレビを平日に3時間以上視聴。
  ・71.4%の子どもが、ふざけて暴力をふるう友達が周辺にいると認識。そ
   の原因のひとつにテレビ番組の影響があると想像している子どもは全体の3
   8.3%。(次いで「テレビゲーム」27.1%、「マンガ」24.6%、
   「映画」15.1%、「ビデオソフト」14.0%等。また、「これらの影
   響はない」18.8%、「わからない」29.2%。)
  ・子どもの「緊張・不安状態」の介在によっては、テレビの暴力シーンとの接
   触が間接的に暴力的傾向に作用する可能性を示唆。

(2)青少年ヒアリング調査
  青少年が日常的にテレビについてどのように捉えているかという点について小
 学生(4〜6年生)と中学生(1〜2年生)を対象に、ヒアリング調査を実施し
 た。(小中学生47名)
 【本調査における主な意見】
  ・アニメ、バラエティー番組、ドラマ等をよく視聴する。
  ・バラエティー番組の物まねや格好を真似したりする人がいる。
  ・テレビ番組の暴力的行為を真似するかしないかは、受け手次第。

(3)保護者ヒアリング調査
  保護者が青少年とテレビの関係についてどのように捉えているかという点につ
 いて小中学生を子どもに持つ親を対象に、ヒアリング調査を実施した。(保護者
 21名)
 【本調査における主な意見】
  ・必要以上に過激で情報過多な番組が多く、無責任な作り方が目につく。
  ・番組制作において、表現の自由はあるが、一方で社会的責任もあるはず。
  ・親の接し方、判断基準次第で、テレビの子どもへの影響は良くも悪くもなる。

(4)インターネットアンケート調査及び有識者ヒアリング調査
  青少年と放送の在り方について、インターネットを通じて、一般から意見を募
 集(92名)するとともに、メディア、教育、法律等の専門家に、ヒアリング調
 査(23名)を実施した。
 【本調査における主な意見】
  ・テレビは子どもに良い面も悪い面も含めて影響を与えている。
  ・放送事業者が自覚と責任をもって番組を提供してほしい。
  ・放送時間帯の制限、番組内容の情報提供、Vチップ等、青少年に不適当な番
   組に対する何らかの対応策が必要。
  ・選択力がなく内容を無批判に受け入れてしまう受け手側の教育に問題がある。
  ・Vチップのように隠すのは、かえって子どもの好奇心を煽り、逆効果である。

3 諸外国における調査研究

  青少年と放送に関する調査研究については、米国が最も蓄積があり、テレビの
 草創期である1950年代から約40年間にわたり、大学等の研究機関、公衆衛
 生局、学会、放送事業者等において、テレビが青少年に与える影響、テレビ番組
 の内容分析等について、大小3500以上の研究が行われている。
  英国においてもこの問題に対する関心が高く、BBC等の放送事業者、大学等
 において、テレビ視聴と子どもの行動の関係についての種々の調査が実施されて
 いる。また、BSC(放送基準委員会:テレビ番組の暴力、性的シーンに関する
 ガイドラインの策定、苦情受付等を実施している法定機関)が1992年(平成
 4年)から、番組に関する意見・評価をモニターする制度を継続的に実施してい
 る。
  国連機関のユネスコでも、1996年(平成8年)から1997年(平成9
 年)にかけて23カ国、合計5000人以上の12歳児を対象として、アンケー
 ト調査が実施されている。

【諸外国におけるこれまでの主な調査研究】

米国におけるこれまでの主な調査
“公衆衛生局長官 
の報告”(1972)  
         
         
         
子どもの暴力番組視聴と暴力的傾向についての実験実施、子 
どもの暴力視聴と10年後の暴力的傾向の関係等について調 
査。実験により、暴力番組視聴後は暴力傾向が増し、両者の 
因果関係が明確化。また、暴力番組視聴は10年後の暴力傾 
向に影響を与えると結論。                
“NIMH(国立 
精神衛生研究所) 
”のテレビと行動 
に関する調査”  
(1982)     
1970年代の調査研究のレビューを実施。実験室での研  
究、相関関係の研究の両面において、テレビの社会的・教育 
的シーンの視聴は、実際の社会的行動にもつながる、ま   
た、テレビの暴力番組視聴により、必要以上に暴力に対して 
恐怖心を抱くと結論。                  
“米国心理学会の 
報告”(1985,1990 
,1993)      
過去の調査研究のレビューを実施。暴力番組視聴と実際の暴 
力行為の間に何らかの関係が存在することを示唆。暴力番組 
視聴が、暴力的な行動、価値観、態度に結びつくと結論。  
“UCLAのテレ 
ビ暴力に関する報 
告”(1994〜1997) 
4大ネットワークがUCLAに委託して、番組内容に関する 
分析を実施。問題となる暴力描写(暴力シーンが多く生々  
しい等)が3年間の調査で減少等の結果。         
“全米テレビ暴力 
に関する研究”  
(1994〜1997)   
         
全米ケーブルテレビ事業者連盟が、カリフォルニア大学サン 
タバーバラ校等4大学に委託して、番組内容に関する分析を 
実施。多くの暴力シーンはまだ美化されており、深刻な場面 
の多くが平凡化されている等との結果。          
英国におけるこれまでの主な調査
ベルソン教授   
(ノース・イース 
ト・ロンドン工  
大)“テレビ暴力 
と青少年”(1978) 
米国のCBSの委託で、暴力番組視聴と暴力的傾向の関係に 
ついて調査を実施。テレビの暴力シーンとの接触の多い子ど 
も達の方が、より深刻な暴力行為に関わることが多いという 
相関関係を見いだしていると結論。            
                            
BSC(放送基準 
委員会)“テレビ 
が子どもの感情面 
に及ぼす影響”  
(1996)      
BSCがロンドン大学に委託して暴力番組視聴と精神状態の 
関係について調査を実施。暴力行為を視聴した子どもが、精 
神的に不安感や恐れ、苦痛感を感じているという点で、影響 
が実際にあると結論。                  
                            
ユネスコにおけるこれまでの主な調査
ユネスコ“青少年 
とテレビに関する 
実態調査”    
(1996〜1997)   
23カ国、合計5000人以上の12歳児を対象に青少年と 
テレビに関してアンケート調査を実施。文化的違いはあるも 
のの、テレビが子どもに与える影響は基本的に共通している 
等の結果。                       


第3章 青少年のための放送分野における施策の現状

 放送分野において、現在の青少年問題に対してどのような対応ができるのか、長
期的視点に立ち、青少年の健全育成のためにどのような貢献ができるのか、といっ
た観点から検討を行うためには、前章の青少年とテレビの関係とともに、放送分野
における青少年関連施策の現状を把握する必要がある。そこで、本章では、我が国
の制度的枠組み、放送事業者の対応の現状とともに、米国、英国等主要国の青少年
関連施策の取りまとめを行った。
 なお、米国及びカナダについては、Vチップ導入方針後の状況、メディア・リテ
ラシーへの取組等を把握するため、海外調査を実施した。

1 我が国における対応

(1)制度的枠組み
  我が国の放送制度の基本理念は、憲法で保障されている表現の自由と公共の福
 祉の調和を図りつつ、放送の健全な発達を図ることである。この基本理念に基づ
 き、放送法では、放送事業者に放送番組編集の自由を保障するとともに、放送番
 組の適正を図るための番組準則の遵守、番組基準の策定・遵守、放送番組審議機
 関の設置を義務付けている。
  放送法においては、「放送による表現の自由」(放送法第1条第2号)を確保
 するため、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人から
 も干渉され、又は規律されることがない。」(放送法第3条)と定められている。
 これは、放送番組編集の自由が憲法に保障されている表現の自由の一形態である
 ことを示すとともに、放送事業者はこれを濫用してはならず、常に公共の福祉の
 ためにこれを利用する責任を負うことを明らかにしている。
  そのため、放送事業者は、放送番組の編集に当たり、放送法に規定されている
 番組準則によらなければならないと定められており、番組準則の中の「公安及び
 善良な風俗を害しないこと」(放送法第3条の2第1項第1号)により、青少年
 に対する配慮も要請されている。
  また、番組準則の遵守とともに、放送法において、各放送事業者は番組の編集
 の基準(番組基準)を策定・遵守することが義務づけられているほか、放送番組
 の適正を図るために必要な事項を審議する機関として、放送番組審議機関を設置
 することが義務付けられている(放送法第3条の3、第3条の4)。このような
 制度により、放送事業者は、自律を基本として放送番組の適正化を図ることとさ
 れている。

(2)放送事業者の対応
  放送事業者の現在の具体的な対応としては、番組基準における青少年配慮に関
 する規定、放送番組審議機関における青少年問題への対応に関する審議等があげ
 られる。
  各放送事業者が策定する番組基準に、「児童及び青少年の人格形成に貢献し、
 良い習慣、責任感、正しい勇気などの精神を尊重させるように配慮する」、「武
 力や暴力を表現する時は、青少年に対する影響を考慮しなければならない」等の
 規定が設けられ、これらに基づき、放送番組の制作・編集、放送時間帯の設定等
 に当たり児童及び青少年に対する配慮が行われている。
  また、各放送事業者が設置している放送番組審議機関は、それぞれ年10回以
 上開催されており、青少年問題への対応、放送の自主規制の在り方等について議
 論が行われているほか、視聴者からの放送番組に対する意見・苦情等に関する報
 告等が行われている。また、その審議内容については、番組制作者等にフィード
 バックされるとともに、議事の概要が公表されている。
  さらに、放送倫理の高揚と放送文化全般の発展に寄与する目的で、NHKと日
 本民間放送連盟が共同で設立している放送番組向上協議会においては、放送番組
 の在り方等を調査審議し、その内容を各放送事業者に対して周知する等の活動を
 通じて、放送番組の向上に努めている。

2 諸外国における対応

 今回、調査を実施した欧州、北米、アジアの主要国10カ国においては、青少年
に配慮した放送時間帯の制限、番組に関する情報の事前表示、あるいは放送番組を
対象としている年齢層、場面のシーンに基づいたレイティング(分類)が、法令等、
あるいは放送事業者が自主的に策定する番組基準等において規定されている。
 放送時間帯の制限については、米国、英国、仏国、独国、韓国、シンガポール、
香港、ニュージーランドの8ヶ国では、国の法令等に規定され、カナダとオースト
ラリアでは、放送事業者が策定する番組基準により規定されている。

【諸外国における放送時間帯の制限】

 国名 
    
青少年に配慮した
  放送時間帯  
        根拠規定等         
国の法令等に規定されている国
 米 国 
    
AM6:00〜PM10:00 
        
FCC(連邦通信委員会)規則により、下品な番組 
について時間帯を制限              
 英 国 
    
AM5:30〜PM9:00 
        
ITC(独立テレビジョン委員会)コードにより、 
青少年に不向きな番組について時間帯を制限    
 仏 国 
    
AM6:00〜PM10:30 
        
CSA(視聴覚最高評議会)指令により、性的な番 
組、暴力を扇動するような番組の時間帯を制限   
 独 国 
    
    
AM6:00〜PM11:00 
        
        
統一ドイツ州間協定により、青少年に不向きと思わ 
れる番組の放送可能時間帯(PM11:00〜AM6:00)を規
定                       
 韓 国 
    
PM1:00〜PM10:00 
        
青少年保護法施行令により、青少年を保護するため 
に放送時間帯を制限               
シンガポール
    
    
AM6:00〜PM10:00 
        
        
SBA(シンガポール放送庁)基準により、青少年 
の視聴に親の指導を必要とする番組の放送時間帯を 
制限                      
 香 港 
    
PM4:00〜PM8:30 
        
放送委員会の基準により、青少年に不向きな番組に 
ついて時間帯を制限               
 ニュージー 
 ランド 
AM6:00〜AM9:00, 
PM4:00〜PM7:00 
BSA(放送基準局)のコードにより、レイティン 
グとあわせて、放送時間帯を規定         
放送事業者が策定する番組基準に規定されている国
 カナダ 
    
    
AM6:00〜PM9:00 
        
        
CAB(カナダ商業放送事業者連盟)コードにより 
、成人を対象とした暴力シーンを含む番組について 
時間帯を制限                  
オーストラリア 
    
AM5:00〜PM9:00 
(商業放送)  
放送事業者がそれぞれコードを策定しており、レイ 
ティングとあわせて、放送時間帯を制限      


 事前表示、レイティングについては、韓国では、法令でレイティングの基準が規
定され、これに基づき国が実際のレイティングの作業も実施している。また、英国、
シンガポール、香港、ニュージーランドでは、事前表示、レイティングの基準は、
国の番組基準で規定され、これに基づき各放送事業者が実際の事前表示、レイティ
ングを実施している。米国、仏国、カナダ、オーストラリアでは、レイティングを
実施することは、国の法令等で規定されているものの、レイティングの基準の策定
及び実際のレイティングは、放送事業者が実施している。

【諸外国におけるレイティング、事前表示】

レイティングの基準が国の法令に規定され、これに基づき国がレイティングを実 
施。                                   
 韓 国 
     
     
放送委員会が、放送委員会審議規定に基づき、放送前に審査し、レイ
ティングを実施。(地上放送は、“青少年に不向きな番組”の1種類
。ATVは、年齢別の4段階)                 
レイティング等の基準が国の番組基準で規定され、これに基づき、放送事業者が 
レイティング等を実施。                          
 英 国 
     
ITCコードにより、制限時間帯以外に青少年に不向きな番組を放送
する場合に、警告表示することが義務化。            
シンガポール 
     
SBAの放送番組基準に基づき、事業者が自主的にレイティングを実
施。(“親の指導が必要”の1種類)              
 香 港 
     
放送委員会が定める番組基準附属書に基づき、事業者が自主的にレイ
ティングを実施。(“親の指導が必要”と“成人向け”の2種類) 
ニュージーランド
     
BSAの放送番組コードに基づき、事業者が自主的にレイティングを
実施。(年齢別3段階)                    
レイティング等の実施について法律等に規定され、これに基づき放送事業者がレ 
イティングの基準を策定し、実施。                     
 米 国 
     
     
1996年電気通信法により、Vチップの義務付けとともに、レイティン
グについても事業者が自主的に策定し、自主的に判断して実施するこ
とを規定。(年齢別6段階とシーン別5種類)          
 仏 国 
     
     
     
CSAが各放送事業者と締結する協約・規則により、レイティングの
実施を義務付け。(一部の放送事業者のみ実施)レイティングは、事
業者が自主的に策定し、自主的に判断して実施。(暴力、性的シーン
のレベルに応じて5種類)                   
  カナダ  
     
     
     
CRTC(カナダ・ラジオ・テレビジョン電気通信委員会)のPublic
Noticeにより、放送事業者がレイティングについて自主的に策定し、
実施することを規定。レイティングは、事業者が自主的に判断して実
施。(年齢別6段階)                     
 オーストラリア 
     
     
1992年放送サービス法に基づき、事業者が自主的に策定している放送
コードの中で、レイティングについて規定、自主的に実施。    
(例:商業放送5種類)                    


 さらに、米国及びカナダでは、保護者の番組選択を支援する機能を有するVチッ
プの導入が決定されている。特に米国では、1997年(平成9年)に番組のレイ
ティングが開始され、Vチップについては1999年(平成11年)7月までに1
3インチ以上のテレビ受像機の半分、2000年(平成12年)1月までに13イ
ンチ以上のテレビ受像機全てに内蔵することが義務付けられている。一方、英国に
おいては、BBC、BSC及びITC(独立テレビジョン委員会)の3機関が共同
して設置した作業グループが、Vチップその他の保護者による管理装置は有害情報
の管理という複雑な問題に対する対処療法にすぎないとしている。
 また、青少年向けのテレビ番組の充実を図るという観点から、米国及びオースト
ラリアでは、法律で青少年向けテレビ番組の放送時間に関する義務付けを実施して
いる。

【参考】米国のVチップ及びレイティングの合憲性(海外調査結果より)
  本調査研究会では、平成10年9月14日〜18日にかけて、米国及びカナダ
 の行政機関、放送事業者、研究者等を訪問して、青少年対応策等について、その
 導入の背景、実施状況について調査を行った。その中で、特に、米国におけるV
 チップ及びレイティングについて、これが憲法で保障されている“表現の自由”
 を侵害していないかという点を調査した。
  米国エール大学のJ.M.バルキン教授によると、1)放送事業者の任意的な対
 応を促すものであり、政府による事前抑制や言論の強制ではないこと、2)放送時
 間が限定される番組についても、レイティングを付すことで、いつでも放送でき
 る可能性を与えるということの二点において、合憲であり、これが米国の憲法学
 者の大方の見解であろうとのことであった。米国のように、Vチップやレイティ
 ングを実施することについて法律で規定していても、レイティングの基準の策定、
 Vチップの技術基準の策定等を放送事業者に委ねている限りは、表現の自由は保
 障されており、現にこの問題について、米国で訴訟問題になっている例はないと
 のことであった。


第4章 青少年対応策検討に当たっての基本的考え方

 これまで、諸外国の事例を含め、第2章において、青少年とテレビに関する調査
研究、第3章において、青少年のための放送分野における施策の現状について概観
したところである。
 本調査研究会では、青少年と放送の問題、青少年の健全育成は、民族、宗教、国
家の違いを超えた普遍的課題であることに留意しつつも、放送は国民の世論形成、
社会経済活動に影響を及ぼすと同時に、その国の文化、風土、社会状況さらには視
聴者、国民の価値観、意識から多大の影響を受ける文化基盤であるとの認識に立っ
て、この課題に対する我が国の基本的視点は何かについての議論を行った。すなわ
ち、青少年対応策の検討に当たり、諸外国の事例は参考としつつも、放送の先進国
にふさわしい、我が国独自の新たな放送文化、視聴者と放送事業者の新たな関係を
構築すべきではないかとの議論である。
 放送は、言うまでもなく、一方向の情報メディアであるが、視聴者に向けた表現
活動である以上、放送の送り手と受け手の間のダイアログの確立が重要な課題であ
る。
 本調査研究会は、この放送の送り手と受け手のダイアログに着目し、その相互作
用の充実を図り、もって、放送事業者、視聴者がともに放送番組の向上に責任を共
有していくべきではないか、との観点から、以下のとおり、青少年対応策の検討に
当たっての基本的考え方を取りまとめた。

1 放送の先進国、児童の権利に関する条約批准国としての対応

 放送は、我が国社会における情報の共有化、視聴者、国民の価値観の形成に大き
な役割を果たす基幹的情報メディアである。このような放送メディアが心身ともに
成長過程にある青少年の健全育成にも、有形無形の影響を及ぼしていることは当然
であり、テレビ放送開始以来、何度となく青少年と放送の在り方が議論されてきた
所以もここにある。また、本調査研究会が実施した青少年アンケート調査結果によ
ると37.1%の子どもが、平日にテレビを3時間以上視聴しているということか
らも、青少年を取り巻く環境として、放送、特にテレビの存在が如何に大きいかが
窺われる。
 現下の青少年問題は、家庭、地域社会、学校、メディア等、青少年を取り巻く
様々な環境要因が複雑に絡み合う、極めて多岐にわたる問題と考えられているが、
青少年と放送の関係も、時代の変化、視聴習慣、家庭環境等に左右されることから、
一律に論じられるほど単純ではないと考えられる。また、このことが、青少年と放
送に関する調査研究の分析、評価を困難にしており、同時に青少年対応策の検討の
困難性を示唆している。
 しかしながら、青少年非行等との直接的な関係は不分明なところがあるにしても、
また、これまでも青少年の健全育成に向けての施策が講じられてきているとはいえ、
今般の各方面における青少年問題の議論において、放送の在り方が問われているこ
とについては、真摯に受け止める必要がある。青少年の健全育成は国民共通の願望
であり、有害な環境・影響から青少年を守るという考え方は、メディアを超えて遵
守すべき共通の規範である以上、青少年に大きな影響力を有する放送には特段の配
慮が要請されると考えるからである。 
 このような観点から、今般の対応策の検討に当たっては、施策の実効性を図るこ
とはもとより、各方面の要請を踏まえ、施策内容が視聴者、国民に具体的に明らか
となるよう配意する必要がある。また、放送の先進国、そして児童の権利に関する
条約批准国として、放送の有する青少年への教育的効果の一層の発揮に留意すると
ともに、視聴者、国民の放送に対する信頼の絆を更に強化する方向での施策の検討
が望まれる。

2 放送事業者の自律による対応

 現行の放送法は、憲法に保障される表現の自由の一形態として、放送事業者の番
組編集の自由を原則としている。この原則の下、放送の公共性等に鑑み、番組の適
正を担保する必要最小限の措置として、放送法に番組準則を定めるとともに、放送
事業者に対し番組基準の策定・遵守、放送番組審議機関の設置が義務付けられてい
る。このような仕組みの下で、放送番組の適正・向上等は何よりもまず、放送事業
者の自主的取り組みに委ねられている。
 青少年対応策の検討にあたり、新たに放送法上所要の措置を講じることも、諸外
国の例や他の分野の立法例等に照らし、許容されるものと考えられるが、放送の適
正・向上等の要請は、何よりも番組制作に携わる一人ひとりが放送の公共性、社会
性を認識し、青少年への影響に対する自覚をもってはじめて達成されるというべき
である。
 また、放送事業者には、単に番組の適正・向上等の取組だけではなく、放送の効
用を青少年の健全育成にもたらす等広範な役割を積極的に果たしていくことが期待
される。
 すなわち、放送事業の公共性、社会性の発露として、放送事業者自らが、現下の
青少年問題に対し、放送として何が出来るか、何をなすべきかを考え、行動に移す
ことが、まず何よりも重要である。
 したがって、今般の青少年問題への対応については、放送法の基本精神に立脚し、
まず第一には放送事業者の自主的な対応に委ねることが適当である。

3 送り手と受け手との相互作用の充実

 放送は、一方向の情報メディアと言われるが、放送も視聴者に向けた表現活動で
あり、放送が国民の日常生活全般に広く浸透している以上、視聴者との相互作用に
よって、放送文化の向上を図っていく視点が極めて重要である。
 すなわち、放送事業者や放送番組の意図・内容が予め視聴者に周知され、また視
聴者の評価が番組に反映されるという仕組みの充実により、放送文化の向上を図っ
ていくという視点である。
 このような相互作用の仕組みを通し、商品、サービスの質を高め、ユーザーの
ニーズに応えていくことは、市場において一般的に採られる手法であるが、放送に
おいても重要な視点であり、今般の各方面の要望に応えるための基本的方向ではな
いかと考える。各界の放送に対する要望は多岐にわたるが、この根底には、少なか
らず放送の在り方に対する放送事業者と視聴者の意識、認識のギャップがあり、今
後どのようにこのギャップを解消するかが大きな課題となっているからである。
 その意味で、放送の送り手と受け手の相互作用、循環作用の充実は、放送の在り
方に対する認識ギャップの解消に資するとともに、放送事業者と視聴者の新たなダ
イアログの構築を目指すものである。


第5章 青少年対応策の提言

 本章においては、前章の基本的考え方をもとに、以下のとおり今後の放送分野に
おける青少年対応策の在り方について具体的提言を行う。放送の送り手である放送
事業者と受け手である視聴者が共に放送番組の向上に責任を共有していくとの観点
から、視聴者、青少年の視聴環境等を整備するとともに、青少年の健全育成に向け
て、放送が果たす役割、貢献の一層の発揮を期待するものである。

1 青少年向けの放送番組の充実

 青少年問題については、迂遠なようであっても、青少年の豊かな心を育むと同時
に、青少年が人間としての倫理観や道徳観を身に付けられるよう、国民一人ひとり
がそれぞれの立場で積極的に対応していくことが、解決への早道につながる。
 心身ともに成長過程にある青少年に大きな影響力を有する放送には、この面にお
ける貢献が大いに期待されるというべきであり、何よりも放送事業者には、青少年
に種々の教育的効果をもたらし、夢や希望を与えるような放送番組の充実を図って
いくことが望まれる。
 また、米国においては、ケーブルテレビ会社が番組制作会社から無料で放送番組
の提供を受け、これを小学校等の教育機関に伝送するサービス(CIC:ケーブ
ル・イン・ザ・クラスルーム)が実施されている。我が国においても、授業におけ
る教育番組の活用について一部の学校において実施されているが、今後さらに、米
国等の活動も参考にしつつ、こうした取組みを推進していくことが重要である。そ
の際、各学校等において教育番組等が容易かつ有効に活用できるよう、貸与等の仕
組みについて、著作権の問題に留意しつつ検討を進める必要がある。

2 メディア・リテラシーの向上

 青少年と放送の良好な関係の構築、また青少年のための放送の効果的な活用を促
進するためには、テレビをはじめとするメディアの持つ特性を理解し、内容を正し
く理解する能力を身につけること、すなわち青少年のメディア・リテラシーの向上
を図ることが重要である。
 近年、欧米においてはメディア・リテラシーへの認識が高まりつつあり、カナダ
のオンタリオ州では、州政府教育省がメディア・リテラシーを中学・高校の正規の
カリキュラムとして位置付け、テレビ番組における家族像や人物像の描かれ方、カ
メラ使い、音響効果、セリフの使い方等、メディアにおける現実の描き方等につい
て学ぶとともに、テレビ番組を的確に把握するのに必要な技能、知識、態度の育成
等が行われている。
 我が国においては、メディア・リテラシーの重要性について徐々に認識が高まっ
てきたものの、その活動については一部の市民団体が実施しているに過ぎず、行政、
教育機関、放送事業者等による組織的・体系的な取組は、これまで十分なされてい
ないというのが現状である。
 従って、メディア・リテラシーの充実に向けて、まずは関係行政機関において、
視聴者団体、放送事業者、教育関係者等と連携を図りながら、その方法論、役割分
担等について、諸外国の先進事例も参考にしつつ検討を行うとともに、我が国にお
ける推進体制の確立を図っていくことが必要である。

3 青少年と放送に関する調査等の推進

 青少年向け番組の充実、あるいは今後の放送分野における青少年対応策を検討し
ていく上で、青少年のテレビ視聴の実態、放送が青少年に及ぼす影響等の青少年と
放送に関する調査を実施することは必要不可欠である。
 青少年と放送に関する調査については、例えば、米国では大小3500以上の研
究が実施されているが、こうした諸外国における取組に対して、我が国においては
その蓄積が少ないのが現状である。この青少年と放送に関する調査研究は、テーマ
が多岐にわたり、種々の専門技術的アプローチが必要となることから、大学、研究
機関等の貢献が期待される。また、今後、放送事業者が調査研究の支援に取り組む
ことが必要である。
 なお、この種の調査研究はその性格上、何よりも継続性が重要であり、この点に
ついても十分留意する必要がある。さらに、行政においては、調査研究に対して支
援策等を講じるとともに、諸外国や国際機関において実施される青少年と放送に関
する調査結果等についても、引き続き動向把握に努めることが望まれる。

4 第三者機関等の活用

 放送文化の向上を図っていくためには、放送番組の送り手である放送事業者と受
け手である視聴者の相互作用の充実が重要であるという認識に立ち、視聴者の声と
評価を番組に反映させる仕組みを、今後さらに充実させることが必要となってくる。
 視聴者の意見や苦情の対応は、今までにも各放送事業者において実施されており、
寄せられた意見や苦情を社内報等を通じて、番組制作者等に通知している。しかし、
視聴者の意見、苦情等の内容や、放送事業者が講じた措置については、一般にはあ
まり公表されていないのが現状である。
 放送番組に対する視聴者の意見や苦情の対応については、最終的には個々の放送
事業者自らの判断と責任に委ねるべきものであるが、視聴者の意見の収集・分析・
評価の全てを個々の放送事業者のみによる対応に委ねることには限界があると考え
られる。従って、視聴者と放送事業者の間の一層の透明性を図り、両者のパイプ役
ともいうべき放送事業者の共通の第三者機関が、この面で一定の役割を果たしてい
くことが適当と考えられる。
 また、青少年と放送の良好な関係の構築に向けて、放送業界全体に関わる視聴者
の要望、提案などの受付窓口機関としても、部外の有識者、保護者代表等を構成員
とする、この種の機関の設立が有効であると考えられる。
 なお、既存の第三者機関である、放送と人権等権利に関する委員会機構(BR
O)、放送番組向上協議会の一層の機能発揮、活用も検討すべきであろう。
 また、視聴者団体等各種団体による、放送事業者に対して番組の向上を求める社
会的な活動は、番組の適正を図る機能を有する観点から、その役割は大きく、今後
もこうした活動に期待する。

5 放送時間帯の配慮

 放送番組の編成にあたっては、青少年の健全育成、あるいは放送が青少年に与え
る影響等を十分考慮に入れ、教育番組をはじめとする青少年向けの番組等は、青少
年が視聴している時間帯に放送を行うことが期待され、また、逆に性的シーンや暴
力シーンが多く、青少年に適当ではないと考えられる番組等は、放送時間帯に配慮
して、できるだけ青少年が視聴していないと考えられる時間帯に放送を行うことが
期待されている。
 諸外国においては、先に述べたとおり、青少年に適当ではないと考えられる番組
については、法令等で放送時間帯の制限を実施している国が多く、青少年の視聴時
間帯における番組の放送については十分に配慮されているのが通常である。
 我が国では、放送事業者が制定・公表を義務付けられている番組基準において、
青少年への配慮規定が含まれており、これに基づき青少年に不適当と考えられる放
送番組については放送する時間帯等が配慮することとされている。
 このような配慮は、青少年の健全な視聴環境を整備するという観点からも有益な
ものであることから、番組情報の一層の充実を図るとともに、現在、行われている
青少年への放送時間帯の配慮をより具体化するという意味で、放送事業者自身が自
主的に放送時間帯の設定を行うことが適当である。

6 番組に関する情報提供の充実

 放送が視聴者と放送事業者の相互作用によって、双方で責任を共有しながら放送
文化の向上を図っていくという考え方からは、本章の「4 第3者機関等の活用」
における視聴者の番組に対する評価機能の確立とともに、放送事業者による放送番
組の意図、内容に関する視聴者への事前の情報提供の実施が極めて重要である。
 番組内容に関する情報提供の形態としては、例えば、青少年の視聴が不適当と考
えられる番組、あるいは逆に青少年の視聴を奨励する番組等について、事前に表示
を行うこと等が考えられる。
 諸外国においても、番組内容に関する事前表示は、主要国で実施されているが、
先に見たように、その態様は様々である。したがって、その実施にあたっては、ま
ず、放送番組に関する分類基準や、情報提供の在り方の検討が必要であり、放送時
間帯の配慮と同様に、放送事業者の自律の精神から法令等による義務付けを待つま
でもなく、放送事業者が自主的に実施していくことが期待される。その際、視聴者
に極力混乱を引き起こさないためには、番組の分類基準と事前表示の方法等に関す
る業界のガイドラインを予め策定することが適当であり、このガイドラインに基づ
き、各々の放送事業者が自主的に番組に関する情報提供を実施することが望ましい。

7 Vチップ

 保護者の番組選択の支援技術であるVチップについては、本調査研究会が実施し
た「有識者ヒアリング調査」「インターネットアンケート調査」等において、積極、
慎重の両論の意見があった。
 また、米国も含め、諸外国においてもその有効性等の評価が分かれている状況に
ある。
 その主な理由は、Vチップが放送事業者による番組分類、評価を前提として、機
械的に番組をカットする仕組みであることから、放送事業者と視聴者の放送番組に
対する評価の尺度が調和していることが要請されるが、現状では、このような環境
が醸成されているとは言い難いからである。
 また、今後のデジタル放送においては、EPG(Electronic Program Guide:番
組検索サービス)により、詳細な番組情報(番組評価、番組分類に関する多彩な情
報)が提供されることが想定され、新たな番組選択支援技術の開発の可能性も指摘
されているところである。
 したがって、今般の青少年対応策についての実施状況、またデジタル技術の動向
等を十分に踏まえ、引き続き検討を行うことが適当であると考える。

8 今後の進め方

 上記の提言については、放送番組の関係は、放送事業者が主体となり、また、メ
ディア・リテラシー等の関係は行政、放送事業者、教育機関等が連携し、推進すべ
き課題であるが、各々、相互に関連する事項が多く、提言の実施に当たっては、関
係の向きの意見を踏まえ、多角的、専門技術的に細目の検討を要するというべきで
ある。
 したがって、行政、放送事業者においては提言の早期実施に向けて、保護者代表、
メディア、教育関係の学識経験者等を含めた、新たな検討の場(専門者会合)を速
やかに設置し、各提言の細目について早急(6ヶ月以内を目途)に具体化していく
ことが必要である。
 また、この青少年と放送の在り方に関しては、視聴者国民の関心、期待も極めて
高いことから、引き続き、行政において推進状況等を取りまとめ、明らかにしてい
く必要がある。


          青少年と放送に関する調査研究会名簿


                           (敬称略・五十音順)
 いわお すみこ
 岩男  寿美子         慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授
 うえむら えいじ
 植村  栄治         成蹊大学法学部教授
 うしじま さだのぶ
 牛島  定信         東京慈恵会医科大学教授
 うじいえ せいいちろう
 氏家  齊一郎        (社)日本民間放送連盟会長
 うすだ たいげん
 薄田  泰元         元(社)日本PTA全国協議会会長
 えびさわ  かつじ
 海老沢 勝二         日本放送協会会長
 おおひなた まさみ
 大日向 雅美         恵泉女学園大学人文学部教授
 グレゴリー・クラーク     多摩大学学長
 しずながじゅんいち
 静永  純一         (社)全日本テレビ番組製作社連盟理事長
 しみず はとこ
 清水  鳩子         主婦連合会会長
 すぎはら ただし
 杉原  正          (財)ボーイスカウト日本連盟総コミッショナー
 はまだ じゅんいち
〇濱田  純一         東京大学社会情報研究所所長
 ふくはら よしはる
 福原  義春         (株)資生堂会長
 ふるかわ ひろし
 古川  弘志         (社)電波産業会専務理事
 よしかわ ひろゆき
◎吉川  弘之         前東京大学総長
 わたなべ しんじ
 渡辺  真次         弁護士


   ◎:座長  〇:座長代理


         青少年と放送に関する調査研究会開催状況

回 数
開 催 日   
議     事                  
第1回
   
平成10年   
5月14日(木)
1) 座長選出                   
2) 青少年と放送に関連する現状【意見交換】    
第2回
   
   
   
   
   
   
   
6月15日(月)
        
        
        
        
        
        
        
1) 諸外国における放送分野の青少年関連施策    
  (米、英等10か国について大使館経由で情報収集)
2) 国内及び諸外国の青少年と放送に関する調査状況 
  (レビュー)                 
3) 民放連・米国調査団調査結果報告        
  【(社)日本民間放送連盟から発表】       
4) 日本PTA・家庭におけるテレビメディアの実態に
 ついての意識調査結果報告【薄田委員から発表】  
第3回
   
   
   
   
7月15日(水)
        
        
        
        
1) NHK及び民放における青少年と放送に関する取 
 組状況                     
  【日本放送協会、(社)日本民間放送連盟から発表】
2) 青少年と放送に関する研究結果報告       
  【岩男、牛島、大日向委員から発表】      
第4回
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
9月21日(月)
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
1) 青少年、保護者ヒアリング調査結果報告     
  (対象:小中学生47名、小中学生の保護者21名 
  、協力:(社)日本PTA全国協議会、主婦連合  
  会、(財)ボーイスカウト日本連盟)       
2) インターネットアンケート調査結果報告     
  (応募:92名)               
3) 有識者ヒアリング調査結果報告         
  (対象:メディア論、法学、教育関係等有識者2 
  3名)                    
4) 放送以外のメディアにおける青少年関連施策   
5) Vチップと表現の自由(Vチップの合憲性)   
  【濱田座長代理から発表】           
6) 青少年と放送に関する論点【意見交換】     
第5回
   
   
   
   
   
10月19日(月)
        
        
        
        
        
1) 青少年アンケート調査結果報告         
  (対象:小学5年生358名、中学2年生422  
  名、協力:文部省)               
2) 海外調査(米国、カナダ)報告         
  (団長:濱田座長代理、9/14〜9/18実施)    
3) 青少年対応策の在り方【意見交換】       
第6回
11月16日(月)
1) 調査研究会報告骨子(案)【意見交換】      
第7回
12月 7日(月)
1) 調査研究会報告書の取りまとめ