発表日 : 1999年 2月 1日(月)
タイトル : 「情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会」報告書(概要)
−「情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会」報告書− インターネットの普及等情報通信の高度化により、情報の受発信の範囲が飛躍的 に広がるなど利用者の利便性が向上する一方で、情報通信を不適正に利用し、無用 なメールの大量送信、誹謗中傷情報の発信など、他人の権利利益を侵害する迷惑通 信や違法有害な情報の流通等が社会的に問題となっています。 こうした問題への対応を検討するため、郵政省では、平成10年(1998年) 7月から、「情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会」(座長: 堀部 政男中央大学教授)を開催し、情報通信サービスの不適正利用の現状とそれ による苦情の効果的な解決を図るための対応策等について検討してきましたが、こ のたび、別添のとおりその報告書が取りまとめられました。 報告書の概要は別紙1、研究会の構成員は別紙2のとおりです。 連絡先:通信政策局政策課 (担当:金子補佐、佐藤補佐、松田係長) 電 話:03−3504−4045 別紙1 誰もが安心して情報通信を利用できる社会をめざして −情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会報告書概要− 第1章 情報通信の不適正利用の現状 1 本報告書における情報通信の不適正利用の対象範囲 (1) 1)他人の権利利益を侵害するような情報通信の利用、2)違法・有害なコンテ ントを不特定又は多数人の閲覧に供する情報通信の利用を中心的に取り上げ る。 (2) 対象メディアは、インターネット、パソコン通信、電話、FAX。 2 情報通信の不適正利用の傾向 (1) インターネット、パソコン通信などに係る不適正な利用に関する苦情につい ては年々増加傾向。 (2) ホームページ、電子掲示板関係では、個人情報の無断公開、誹謗中傷、名誉 毀損は深刻な被害を生じることがあり、わいせつな情報掲載、ねずみ講への勧 誘、ネットワーク上での売買に関する苦情が多い傾向。電子メール関係では、 最近、不必要な広告電子メールが問題化。 (3) 電話の不適正利用については、態様に大きな変化はないが、インターネット、 パソコン通信のアクセス手段として利用されることから、これらと結びついた 形で問題のある利用形態が出現。また、電子掲示板に氏名・電話番号が掲載さ れたため、迷惑電話が生じる例が出現。 3 各種アンケート等による不適正利用の現状 (1) 郵政省ホームページで受け付けた情報通信の不適正利用の例 電子メール関係が多いのが特徴 (2) 電気通信サービスモニターアンケート調査結果 平成9年度第2回アンケート調査(平成10年3月結果公表)では、有害な 情報への対応策(複数回答)に関して、「プロバイダーによる情報発信者への 警告及び削除」は61.9%、「違法・有害な情報発信に対する法律規制」は 60.4%、「発信者の氏名等をプロバイダーに開示させるための法的整備」 は、54.1%。 第2章 情報通信の不適正利用に関する諸外国の制度と取組 1 アメリカ (1) 発信内容・発信方法に関する規制 迷惑通信(電話・インターネット等)を通信法(第223条、第227条)、FC C規則、州法レベルで禁止 (2) 苦情対応・紛争処理に関する取組 オンライン・オンブズ・オフィスやバーチャル・マジストレイト・プロジェ クトのように、オンライン上での諸活動に伴う紛争・苦情を解決する取組があ る。 (3) 発信者情報の保護と開示に関する制度 ・発信者情報は、通信法(1934年制定)及び電子通信プライバシー法(1986 年制定、刑法の一部)で保護。 ・同法は、捜査機関が発信者情報を入手する際の規律等を定める。 2 EU 発信者情報は、電気通信分野における個人データ処理及びプライバシー保護に 関する欧州議会及び欧州理事会指令(1997年制定)で保護。一方、同指令におい て、迷惑通信があった際には、発信者情報を開示する手続の制度化を加盟国に義 務付け。 3 イギリス (1) 発信内容・発信方法に関する規制 迷惑通信(電話・インターネット等)を電気通信法第43条で禁止。 (2) 苦情対応・紛争処理に関する取組 BTのマリシャスコールセンターは、従来から電話に関して苦情対応業務を 行っている。また、インターネット上の児童ポルノその他の違法な文書につい ての苦情の受付、及びレイティングシステムの開発の支援を目的とした団体と してインターネット監視財団(IWF)が活動中。 (3) 発信者情報の保護と開示に関する制度 発信者情報は電気通信法(1984年制定)第45条で保護。電気通信の不適正 利用があった場合等は、刑事手続として、発信者情報を開示。 4 ドイツ (1) 苦情対応・紛争処理に関する取組 いわゆるマルチメディア法に基づき、マルチメディア自主規制協会(FS M)がサービスプロバイダーの自主規制団体として設立され、活動中。 (2) 発信者情報の保護と開示に関する制度 発信者情報は、電気通信法(1996年制定)で保護。電気通信法において、脅 迫電話又は嫌がらせ電話について、発信者情報を電気通信事業者から被害者に 開示するための手続等を規定。 5 フランス (1) 発信内容・発信方法に関する規制 悪意による電話呼出しを刑法で禁止 (2) 発信者情報の保護と開示に関する制度 郵便電気通信法典L32−3条で発信者情報を保護。同法典34−10条で 迷惑電話の場合の発信者情報開示に関して規定。 第3章 情報通信の不適正利用の態様と取組 情報通信の不適正利用に関する課題と取組を表1にまとめる。この表の取組の 部分を集約すると、以下の1)〜5)のようになる。 1)情報発信に対する社会的なルール、自己防衛についての情報の周知。 2)国及び電気通信事業者による被害予防、不適正利用対応のための技術開発・導 入。 3)情報通信の不適正利用がなされている一定の場合に、加害者である発信者の氏 名等の情報を被害者に開示する制度の創設。 4)情報通信の不適正利用に関して、電気通信事業者による警告・削除等の対応 (公然性を有する通信の場合)への助言や不適正利用の事例を収集・分析する など、電気通信事業者の取組を支援・補完する仕組みの創設。 5)苦情対応に関係する電気通信事業者間の連携のルール作りや複数の電気通信事 業者の円滑な連携を仲介する仕組みの創設。 このうち3)の発信者情報開示については、発信者情報の開示機関の創設も含め て、第4章で検討。 4)、5)は主として情報通信の不適正利用への苦情対応に関するものである。こ れらは一括して実現されなければならないものではなく、可能なものから順次実 現していくことが必要。 表1 不適正利用に関する課題と取組
不適正利用の例 課題 取組 社 会 的 法 益 侵 害 公然性を 有する通 信 ○わいせつ情報を ホームページに 掲載 ○ねずみ講をホー ムページで勧誘 ○毒物・薬物をホーム ページで販売勧誘 ○事業者が自らの顧客に対して対応が消極的 ○電気通信事業者の削除等の対応を促進する仕 組み、あるいは警告等の措置を電気通信事業 者に代わって行う仕組みの創設 ○事業者等による削除等の判断が困難 ○事業者が不適正利用の削除等の対応を行うに 際して助言等を行う仕組みの創設 ○違法・有害情報の常時モニタリングは困難 ○事業者の対応を支援する仕組みの創設(苦情 対応ホットライン)、対応支援技術の開発 ○事業者間をまたがる対応が曖昧になる ○事業者間の連携のルール作りや複数の電気通 信事業者の円滑な連携を仲介する仕組みの創 設 − ○情報発信に対する社会的なルールの周知 個 人 的 法 益 侵 害 ○他人の誹謗中傷 を掲示板に書き 込み ○他人の著作物を 無断で掲載 ○他人の個人情報 を無断で公開 (上記に加えて) ○「通信の秘密」のために発信者を開示できな いと被害者は賠償請求できない (上記に加えて) ○発信者情報を被害者に開示する制度の創設 1対1の 通信 (電子 メール) ○広告・勧誘等受 信者にとって不 要・不快なメール ○メール爆弾 ○被害防止のための技術・サービス開発が進ん でいない。 ○技術・サービス開発・導入 ○事業者間をまたがると対応が曖昧になる ○事業者間の連携のルール作りや複数の電気通 信事業者の円滑な連携を仲介する仕組みの創 設 ○「通信の秘密」のために発信者を開示できな いと被害者は賠償請求できない ○発信者情報を被害者に開示する制度の創設 − ○情報発信に対する社会的なルール、自己防衛 についての情報の周知 1対1の 通信 (電話・ FAX) ○迷惑電話、 迷惑FAX ○事業者間をまたがると対応が曖昧になる ○事業者間の連携のルール作りや複数の電気通 信事業者の円滑な連携を仲介する仕組みの創 設 ○「通信の秘密」のために発信者を開示できな いと被害者は賠償請求できない ○発信者情報を被害者に開示する制度の創設 − ○情報発信に対する社会的なルール、自己防衛 についての情報の周知第4章 発信者情報の開示について 1 発信者情報開示の検討 不適正利用の問題は、電気通信の匿名性によって、発信者の民事上の責任追及 が困難であることも要因の一つ。したがって、不適正利用の発信者を探索し、発 信者情報を開示する制度は、対策として有効。 平成10年11月のアンケート結果によると、有効回答数302のうち、情報 通信の不適正利用があった場合の発信者情報の開示について、「賛成する」が5 9.6%、「どちらともいえない」が29.5%、「反対する」が7.0%、そ の他が4.0%。また、平成10年(1998年)11月27日から12月17 日に実施した「電気通信サービスの不適正利用に係る発信者情報の開示について の考え方」に対する意見募集に対しては、103通の意見が寄せられたが、電気 通信サービスの不適正利用に対して発信者情報の開示という手段をとることに反 対する意見は1割未満。 2 発信者情報と「通信の秘密」 基本的には、憲法の基本的人権の規定は、公権力との関係で国民の権利・自由 を保護するものであると考えられ、憲法上の「通信の秘密」は私人である電気通 信事業者等へは直接的な適用はなく、電気通信事業法等の「通信の秘密」に関す る規定が適用されると考えられる。また、他人の権利利益を侵害する場合につい ては電気通信事業法等の「通信の秘密」によって保護されない場合があり、この 場合電気通信事業者が発信者情報を開示しても社会的相当行為として違法性が阻 却されると考えられる。ただし、いわゆる公然性を有する通信と1対1の通信の 場合等、個別の事例を分析し、どのような場合に発信者情報が保護されるか明確 化することが必要。 3 行政上の制度としての発信者情報開示手続の創設 司法手続による発信者情報開示は、実体法上・手続法上ともに困難であり、こ れ以外での発信者情報開示制度も検討すべき。これには、事業者の約款による、 現行の法規定の解釈による、立法によるといった選択肢がある。約款、解釈によ るものは、実効性の問題はあるものの一定の効果は望めるが、開示可能な場合を 明確にすること、発信者を保護するための手続の重要性から、立法化を含めた検 討が必要。 4 立法による措置の検討 (1) 「発信者情報開示機関」 発信者情報開示を可能とするだけでは、開示可能な場合であっても開示され ない場合も想定し得る。他方、電気通信事業者等に開示義務を課すことは、開 示の判断の中立性や事業者等の開示作業の負担の問題がある。したがって、 「発信者情報開示機関」(以下、「開示機関」という。)が発信者情報を開示 する仕組みを検討。 (2) 開示機関の主体 開示機関の主体としては、行政の関与の仕方によって、民間法人(指定法 人)とする案、行政機関とする案、行政委員会等による案が考え得る。これら の案については、憲法上の「通信の秘密」との関係、機関の判断に関する訴訟 提起の可能性、開示についての判断能力及び機関の新設の可能性のうち、いず れかの点で問題が存在するところであり、開示機関は、発信者情報が開示可能 か否かを確実に判断する必要がある点に留意し、どの主体が適当かについてさ らに検討することが必要である。 5 発信者情報開示の要件・手続等 (1) 開示の要件 「他人の権利利益を侵害した場合」が想定されるが、具体的には、例えば、 1)反復継続した発信又は大量若しくは大容量の発信を行う行為 2)他人の個人情報、名誉を毀損する事項、侮辱する事項を不特定又は多数の者 に発信する行為 については対象となるように定めることが必要であろう。ただし、発信者の権 利を不当に侵害することのないように留意することが必要。 (2) 開示の手続 開示の際には、申立てによる開示手続開始、発信者への告知・反論の機会付 与といった手続が必要。 (3) 開示機関による調査 開示機関には電気通信事業者等に対し、申立てがあった場合、通信履歴の保 存・情報提供請求をする権能を付与し、電気通信事業者は正当な理由がなくこ れを拒むことができないとする義務付けが必要。ただし、電気通信事業者等の 情報提供者の他の業務に支障が生じることのないよう配慮が必要。 6 その他の課題 本手続と刑事手続との関係の整理、開示の義務付けの範囲等の制度的な論点 の検討の他、海外から、又は海外を経由してくる通信の場合、事実上発信者の 特定が困難な場合、施策の実効性に課題が残るが、可能な範囲から対策を整備 し、施策の実効性を上げていく努力が求められよう。 7 小括 発信者情報開示については、その必要性については多くの賛同が得られたが、 その手続、要件、開示機関等について法的な論点が多く指摘されており、今後、 これらの検討を継続して行うことが必要。 別紙2 情報通信の不適正利用と苦情対応の在り方に関する研究会(仮称)構成員 (五十音順、敬称略) ほりべ まさお 座長 堀 部 政 男 中央大学教授 にいみ いくふみ 座長代理 新 美 育 文 明治大学教授 おおやま ながあき 大 山 永 昭 東京工業大学 教授 おきはし としお 起 橋 俊 男 日本移動通信株式会社 取締役 かとう まさよ 加 藤 真 代 主婦連合会 副会長 こみやま たいよう 小見山 太 洋 NEC BIGLOBEパーソナル販売本部長 さえき ひとし 佐 伯 仁 志 東京大学教授 すずき みゆき 鈴 木 深 雪 日本女子大学教授 たがや かずてる 多賀谷 一 照 千葉大学教授 にのみや ひろし 二ノ宮 博 東京都消費生活総合センター所長 はせべ ゆきこ 長谷部 由起子 学習院大学教授 ふじた きよし 藤 田 潔 日本電信電話株式会社取締役法務考査部長 みよし たかみち 三 膳 孝 通 IIJ企画本部技術企画部長 むらかみ とおる 村 上 透 国際電信電話株式会社総務部法務室長 やまかわ たかし 山 川 隆 ニフティ株式会社常務取締役 よこやま てつお 横 山 哲 夫 日本弁護士連合会消費者問題対策委員会幹事 報告書