第2章 情報通信の不適正利用に関する諸外国の制度と取組

1 はじめに

  第1章で取り上げた情報通信の不適正利用は様々な態様を含むものであり、こ
 れに関する諸外国の法制度も、刑法その他で処罰するものから通信法体系の中で
 一定の行為を禁止するなど国により様々であり、その規定の仕方も異なっている。
  本章では、情報通信の不適正利用禁止に関する、発信の規制や発信された後の
 対応に関する規律を中心として、我が国における状況を紹介した後に、諸外国に
 おける状況を概観する。
  我が国においては、例えば迷惑電話についての刑法の適用については、いわゆ
 るいやがらせ電話により精神衰弱症に陥らせた行為が傷害罪(刑法第204条)
 に当たるとされた事例(東京地判昭和54年8月10日)や飲食店への度重なる
 無言電話が業務妨害罪(刑法第233条)の偽計を用いた場合に当たるとされた
 事例(東京高判昭和48年8月7日)が知られている。一方、迷惑電話を規制す
 る条例として、千葉県、香川県、大分県において、「公衆に著しく迷惑をかける
 暴力的行為等の防止に関する条例」の中に、電話による通話において粗野若しく
 は乱暴な言語により著しく不安又は迷惑を覚えさせるような行為等の禁止が定め
 られている。
  インターネット・パソコン通信においては、わいせつな画像を不特定多数の者
 の閲覧に供する行為等にわいせつ物図画公然陳列罪(刑法第175条)の成立を
 認めた判例がいくつか出てきている。また、ホームページ上の掲示板に実在の女
 性の実名や電話番号とともに男性を誘うようなみだらな文言を書き込んだ行為や
 実在の女性の実名や電話番号とともに当該女性が不倫を望んでいるかのような内
 容の文言を書き込んだ行為に侮辱罪(刑法第231条)の成立を認めた判例もあ
 る。
  以上にあげた例のほか、ある情報の出版、広告、陳列、伝達等が情報通信を用
 いて行われた場合にも違法となり得るものは多数あると考えられる。

2 発信内容の規制等に関する諸外国の法制度 

 (1) アメリカ
  ア 通信法
    アメリカにおいては、通信法により、不適正利用と思われるいくつかの情
   報の発信行為を禁止している。
    まず、1996年電気通信法は、その中の「第V編 わいせつ及び暴力」
   にインターネット等の電気通信を規制する規定を設けた。この第V編は、
   「1996年通信品位法」(Communications Decency Act of 1996:以下
   「CDA」という。)と称されている。このCDAにより、1934年通信
   法(合衆国法典第47編)第223条等が改正され、以下の通信又は行為を
   意図的に行うこと等が刑罰をもって禁止されている。
   1) 電気通信装置(電話、ファックス、パソコン等)により、わいせつ性の
    ある又は下品な(indecent)情報を、いやがらせ、脅迫等の目的で作成し
    発信する行為、又は受信者が18歳未満であることを知りながら作成し発
    信する行為(受信者からの要求に応じた場合も処罰の対象)。((a)項(1)
    (A)(B))
   2) 嫌がらせ、強迫の目的で、自分の身元を明示せずに、電気通信装置によ
    る通信を行う行為(1度でも処罰の対象)。(自分の身元を明示しても)
    嫌がらせをする目的で反復し又は継続して電気通信装置による通信を行う
    行為((a)項(1)(C)(E))
   3) 嫌がらせの目的で、反復又は継続して、相手方の電話の呼出音を鳴らし
    又は鳴らし又は鳴らさせる行為((a)項(1)(D))
   4) 双方向コンピュータ・サービスにおける、現代の社会的標準に照らして
    明らかに不快な(patently offensive)用語による、性的な又は排泄の行為
    又は器官を文脈上描写し記述する画像その他の通信((d)項(1))、等

    ただ、この (a)(1)(B)と同条(d)について、この条文で用いられている「下
   品な」(indecent)及び「明らかに不快な」(patently offensive)という
   基準の具体性については裁判で争われ、1997年6月、連邦最高裁判所は、
   同条項が言論の自由を保障する憲法修正第1条に違反する旨の判決を下した。
   ただ、違憲とされたのは、CDAのうち、「下品な」(indecent)及び「明
   らかに不快な」(patently offensive)情報の発信に対する規制の部分のみ
   であり、「わいせつな」(obscene)及び「卑猥な」(lewd)情報の発信に対
   しては、依然として規制が残っており、また、以下のプロバイダーの責任に
   関する規定も残っていることに注意を要する。
    通信法第230条は、不快な素材についての私的な阻止及び選択の保護に
   ついて定める。その中で、インターネット等の双方向コンピュータ・サービ
   スの提供者又は利用者は、わいせつ情報等の好ましくないと判断した情報へ
   のアクセスを、誠意により、自主的に制限しても、その措置に関して責任を
   問われない旨が規定されている。

  イ チャイルド・オンライン保護法(Child Online Protection Act)
    インターネットの商業用のポルノ・サイト等に子供がアクセスすることが
   できないように措置するもので、通信品位法(CDA)においては、芸術関
   係その他の全てのサイトを対象として、未成年者に有害な情報を禁じたもの
   であったのに対し、チャイルドオンライン保護法(COPA)においては、
   あくまで対象をポルノ・サイトに限定し、アクセスする側に未成年でないこ
   とを証明する義務を課すこととしたものである。
    COPAは、1998年10月に可決され、大統領署名も得ており、11
   月20日から施行されることとなっていた。しかし、米市民団体等がこの法
   律の合憲性に疑義があると主張し、その主張を容れたフィラデルフィア連邦
   地裁は、本法施行を差し止める仮決定を下した。施行差止めは、当初199
   8年12月4日までとされていたが、その後延長されている。

  ウ 迷惑電子メールを規制するメリーランド州法
    メリーランド州では、他人を嫌がらせる(harass)目的をもって、若しく
   は「卑猥な」(lewd)、「みだらな」(lascivious)又は「わいせつな」
   (obscene)内容を送るための電子メールの使用を刑罰をもって禁止する州法
   が1998年4月に成立している。ただ、本法は、政治的な見解を述べるた
   め又は他に対して情報を提供する平穏な活動のための電子メールには適用さ
   れないとしている。

 (2) イギリス
   1984年電気通信法第43条は電気通信システムの不適正な利用
  (Improper use of telecommunicaitons system)について定める。同条(1)項
  (a)により、公衆電気通信システムにより、甚だしく不快な又は下品、わいせつ
  若しくは脅迫的な性格の通信その他のものを送る行為は刑罰をもって禁止され
  ている。
   また、同条(1)項(b)により、他人に迷惑、不便若しくは不必要な不安を引き
  起こす目的をもって、公衆電気通信システムにより、偽りと知っているメッ
  セージを送る行為、又は上記の目的のために、公衆電気通信システムを執拗に
  使用する行為は刑罰をもって禁止されている。
  
 (3) ドイツ
  ア 連邦政府「情報・通信サービスに関する基本条件の規制のための法律」
   (Gesetz zur Regelung der Rahmenbedingungen fur Informations 
    und Kommunikationsdienste、ドイツ・マルチメディア法)
    1997年7月、インターネット等による電子商取引等を含むマルチメデ
   ィアサービスの利用に関する環境整備を図る法律が成立している。
    この法律は3つの新法と刑法改正をはじめとする6つの法律改正からなっ
   ているが、新法の1つである「テレサービスの利用に関する法律」は、文字、
   画像、音声など組み合わせ可能なデータを電気通信によって送り、個人に利
   用させる電子的情報・通信サービスとして「テレサービス」(Teledienste)
   と称する概念を設け(2条(1))、以下この「テレサービス」に関するサービ
   ス提供の自由、サービス提供者の責任・義務等を規定している。この「テレ
   サービス」の内容としては、第2条に、インターネット接続サービス、交通、
   天気、環境、市況に関する情報提供、テレバンキング等を含むいくつかの例
   が示されている。
    テレサービスの利用に関する法律第5条は、サービス提供者の責任につい
   て、1)自ら提供するコンテントについては、一般法の規定に従って責任を負
   うこと、2)第三者が提供する情報については、その内容を知りかつその利用
   を防止することが技術的に可能で相当である場合に限り責任を負うこと、3)
   アクセスを提供するだけの場合、第三者の情報には責任を負わないこと、等
   を規定している。
    また、テレサービスの利用に関する法律第6条は、サービス提供者はその
   営業上のサービス提供について、氏名(名称、団体の場合は代表者の氏名)
   及び住所を表示しなければならない旨規定している。
    さらに、マルチメディア法は、「刑法」、「秩序違反法」、「青少年に有
   害な文書の流布に関する法律」の改正を行っている。「青少年に有害な文書
   の流布に関する法律」の改正により、電子的情報通信サービスを事業として
   一般公衆に対して行う者は、未成年者に有害なコンテントを含む可能性があ
   る場合は、利用者との接触窓口となり、問題となったサービス提供者に助言
   するため、青少年保護担当者を指名し、あるいは任意の自主管理組織(注)
   にこの機能を委ねるかしなければならないこととなっている(第7条a項)。
   また、以下に述べる「メディアサービスに関する州際協定」第8条第4項も、
   これと同様のことを規定している。

   (注)マルチメディア自主規制協会(FSM;Freiwillige Selbskontrolle 
      Maltimedia-Diensteanbieter c.V)が設立され、テレサービスのみな
      らずメディアサービスをも対象としている。

  イ 州政府「メディアサービスに関する州際協定」
   (Lander-Sttatsvertrag uber mediendienste (Mediendienste-
    Staatsvertrag))
    本州際協定は、第2条で「メディアサービス」(Mediadienste)を定義し、
   「テレサービス」でも放送でもないものとして把握しており、無線又は有線
   により頒布される、文字、音声又は図画による公衆に向けられた情報通信
   サービスとしている。その例として、テレショッピング、天気情報、テレビ
   やラジオのテキスト放送等があげられている。これらは、不特定多数の人に
   向けた、決まった時間に行われるという点において放送の形式をとるもので
   あるが、コンテントが、世論形成に寄与する要素が少ない、あるいは示唆的
   な内容に欠けているため、従来の「放送」ではないサービスと解釈されてい
   るものである。また、同協定では、利用者の呼び出しによって利用に供され
   るサービスであって、公衆に向けられたもの、例えば、ビデオ・オン・デマ
   ンドや電子新聞なども「メディアサービス」の例としてあげられている。
    「メディアサービス」は「放送」ではないが、放送的なサービスとされて
   いるため、それと類似の規制が規定されており、編集責任者の氏名と住所の
   表示(第6条第2項)、時事報道の真実性の注意義務、解説と報道からの区
   別、解説者の氏名表示(第7条)、不適切な内容(人種排斥、戦争称賛、ポ
   ルノ)の年齢不問の禁止(第8条)、広告とスポンサーシップ(第9条)、
   反論権(第10条)などがあげられる。
    「テレサービス」との区別については、「テレサービス」は個人的利用の
   ためのものであり、「メディアサービス」は公衆に向けられたものでコンテ
   ントがマスコミ的性格を持つかどうかで区分されると解釈されている。した
   がって、個人的なホームページなどはテレサービスになるが、企業による時
   事報道情報等などはメディアサービスとなる。

 (4) フランス
    「通信の自由に関する法律」は、1996年に一部改正が行われ、事前の
   届出を要する視聴覚通信事業(インターネットプロバイダーを含むと解され
   ている)について規定がおかれている。これは、1)当該視聴覚通信を提供す
   る者に対し、特定のサービスに対するアクセスを制限し又はこれを選別する
   ことのできる技術的手段の提供の加入者への申出の義務づけ(第43条の
   1)、2)テレマティック高等評議会という独立行政委員会による倫理規定遵
   守勧告、苦情受付、検察官への通知などの規律(第43条の2)、3)当該視
   聴覚通信を提供する者について、1)の規定をコンテントに起因する犯罪につ
   いての刑事免責(第43条の3)について定める。
   しかし、2)については、テレマティック高等評議会に無制約の倫理規定提案
   権限を与えていること等から、憲法院によって違憲であるとされ、また、3)
   についても、2)と不可分であることから同様に違憲とされている。

3 発信方法の規制に関する諸外国の法制度

 (1) アメリカ
  ア 通信法
    本法第227条により、以下のような行為が禁止されている。
   1) 病院、消防機関等の緊急用電話回線、病院の病室等に自動ダイヤリン
    グ・システム又は合成音声若しくは録音音声で電話をかけること((B)項
    (1)(A))
   2) 被呼者による事前の明示の同意なしに、メッセージを伝達するために、
    合成音声又は録音音声を使用して、住宅電話回線に対して電話通話を発信
    すること((B)項(1)(B))
   3) 電話ファクシミリ機に対して非依頼広告を送るために、電話ファクシミ
    リ機、コンピュータその他の機器を使用すること((B)項(1)(C))

  イ FCCルール
    FCCルールも午前8時以前及び午後9時以降の住宅用電話回線への電話
   勧誘の禁止等を定めている。

  ウ 広告電子メールを規制する州法
    アメリカにおいては、受取人から求められていない広告電子メールが問題
   となっており、連邦レベルでもこれを規制するいくつかの法案が出されてい
   る。州法レベルでは、すでにネバダ州(1997年7月成立)、ワシントン
   州(1998年3月成立)、カリフォルニア州(1998年9月成立)など
   があり、さらにいくつかの州で法案が審議中である。
    ネバダ州の州法は、要求されない広告電子メールについて、送信者の適法
   な氏名・住所・電子メールアドレス、以後広告電子メールの受信を拒絶する
   ことができる旨とその手続の告知を要求する。
    ワシントン州の州法は、求められていない広告電子メールにおいては、第
   三者のインターネット・ドメイン・ネームの使用、送信地点、送信経路を偽
   ってはならないことや、サブジェクト欄に虚偽又は誤解を導く情報を含んで
   はならないことを要求している。
    カリフォルニアの州法は、プロバイダーが、受取人から求められていない
   広告電子メールに対して禁止や制限についての方針を定め得るとし、それに
   違反して州内に設置されたプロバイダーの機器を利用したり、他者の利用せ
   しめることを禁止するものである。それに違反して広告電子メールの送信ま
   たは送信せしめる者に対し、プロバイダーが訴訟を提起し得るとする。また、
   受取人から求められていない広告電子メールに対しては、受取人が以後の広
   告電子メールを拒絶するための無料電話の番号又は電子メールアドレスをメ
   ッセージの冒頭に示さねばらないとしている。そして、受取人から求められ
   ていない広告メールのタイトルの冒頭に、単なる広告メールの場合と18歳
   以上の者を対象とする場合とに分けて、それぞれ特定の表示("ADV:"、"ADV:
   ADLT")をしなければならない旨規定している。

 (2) フランス
   「刑法典」第222−16条により、悪意による電話呼出し又は音による攻
  撃は、他人の平穏を害する目的をもって反復される場合、処罰される旨規定し
  ている。

4 諸外国における情報通信の不適正利用に関する苦情対応・紛争処理に関する取組

  ここでは、諸外国における情報通信の不適正利用に関する苦情対応・紛争処理
 に関する主な取組例を紹介する。インターネットに関しては、公的な位置付けを
 もっているものもあるが、ほとんど自主的な対応として行われているものであり、
 大体の傾向としては、アメリカにおいては、利用者同士の紛争の解決を行うもの
 が中心であるのに対して、ここに紹介するヨーロッパ諸国においては、不適正な
 コンテントの掲載に関する通報を受け、プロバイダー等に通知するような対応方
 法をとっている。

 (1) アメリカ
  ア オンライン・オンブズ・オフィス(Online Ombuds Office)
    オンライン・オンブズ・オフィスは、1996年6月からオンライン上で
   の諸活動から生じる紛争・苦情の解決を行っている。これは、電子メール等
   で、紛争・苦情の申立を受けた場合、オンブズパーソン(ombusperson)と呼
   ばれる者が両方又は一方の当事者から事情を聞いた上で紛争解決に向けて調
   停を行うが、相手方の協力が得られない場合には、苦情申立人に対して、紛
   争解決に向けてのアドバイスを行うという処理内容になっている。その他、
   ホームページに紛争解決に役立つ情報を掲載している。

  イ バーチャル・マジストレイト・プロジェクト(The Virtual
   Magistrate Project)
    これは、オンライン上で仲裁(arbitration)を行う取組であり、オンライ
   ン上での著作権・商標侵害、職業上の秘密の悪用、名誉毀損、詐欺、わいせ
   つな内容等の不適正な映像素材、プライバシーの侵害、その他不適正なコン
   テントに関する苦情を扱うものであり、裁判所などの関与に基づく公的なも
   のではない紛争当事者の合意に基づく紛争解決の取組である。この取組では
   電子メール等で苦情を受けた場合、正式に受ける前にその内容を検討し、か
   つすべての当事者から紛争処理手続への参加についての同意を取り付けた後、
   弁護士等から仲裁人(Magistrate)を選定し、紛争の解決に当たらせること
   になる。紛争当事者は、紛争毎個別に開設された"grist"と呼ばれるオンライ
   ン上の議論の場においてお互いの立場の主張を行い、仲裁人は議論が適正に
   行われるように指導しながら、情報の収集、和解の勧告等を行う。この手続
   は、正式に受け付けた後、72時間以内に事案を処理することを目標として
   いる。

 (2) イギリス
  ア マリシャスコールセンター
    BTのマリシャスコールセンターは、1)迷惑電話(malicious calls)に対
   する相談・アドバイス、2)改番の受付、3)逆探知の実施、4)裁判での証拠提
   出、証言、などの電話についての業務を行っている。
    BTによれば、ほとんどの迷惑電話は、国内からの私設電話、公衆電話、
   移動通信であれば逆探知が可能であるとのことである。対応にあたっては、
   迷惑通信が刑罰をもって禁止されていることから、特別に訓練されたBTの
   職員が警察と協力しつつ行っている。
       
  イ インターネット監視財団(IWF)
    イギリスでは、インターネット上の児童ポルノその他の違法な文書につい
   ての苦情の受付け、及びイギリス内の利用者に適した格付(レイティング)
   システムの開発の支援を目的とした自主規制団体として、インターネット監
   視財団(IWF、Internet Watch Foundation)が設立されている。これは、プロ
   バイダ−の団体であるインタ−ネット・サ−ビス・プロバイダ−協会(ISPA、
   Internet Service Provider Association)、ロンドン・インタ−ネット・エ
   クスチェンジ(LINX、 London Internet Exchange)及びセイフティネット財
   団によって提案され、政府関係部門の討議の結果、1996年9月に作成さ
   れた自主規制スキーム(R3セイフティネット)の運営を行う団体である。
    IWFでは、まず、ホットラインによる苦情を通じて報告された違法の可
   能性のあるコンテントを、常勤スタッフであるホットラインマネージャーが、
   審査基準に基づき評価する。そして、違法の可能性があると評価されると、
   インターネットサービスプロバイダーに対して当該コンテントを削除するよ
   う電子メールを送信する。そして、NCIS(UK National Criminal 
   Intelligence Service、国家犯罪情報部)に対しても報告を行い、NCIS
   はコンテントが掲示された場所に管轄を持つイギリス国内外の警察当局に報
   告を行う。インターネットサービスプロバイダーが当該コンテントを削除し
   ない場合、IWFの規約のもとに、IWFが訴訟を起こすことも可能である。

 (3) ドイツ
   ドイツにおいては、FSM(Freiwillige Selbskontrolle
  Maltimediadiensteanbieter c.V)がいわゆるマルチメディア法等に基づきサー
  ビスプロバイダーの自主規制団体として設立され、1997年8月から活動を
  開始している。この団体は、犯罪をあおるコンテント、暴力的な内容、人種差
  別的な内容、ファシストの文書、児童ポルノを含むポルノ等、ドイツ発のオン
  ラインのコンテントのみを対象としており、通報を受けた場合、内部に設置し
  た委員会において審議し、事案の程度に応じて処置を決定する。決定内容とし
  ては、1)改善策要求付きの指摘(ホームページの作成者がわかっている場合は
  その者、作成者がわからない場合はプロバイダーに指摘)、2)非難の意を伝え
  る、3)作成者への非難のメンバーのプロバイダーのホームページへの公表、と
  いう段階があるが、いずれの段階おいても委員会は警察に通報することはない。
   また、1995年に設立されたドイツ国内のインターネットサービスプロバ
  イダーの事業団体である経済商業フォーラム(ECO、Economic Commerce 
  Forum)内に設置されたニュースウォッチ(Newswatch)は、1998年4月から、
  特にニュースグループに関するインターネット・コンテントの継続的な監視及
  び格付けを行っている。ウェッブ・コンテントとオンラインサービスについて
  は、FSMがすでにその対象としているため、ECOではこれらの分野を取り
  扱わないが、FSMとは協力をしていくとしている。ECOのニュースウォッ
  チでは、報酬を受け研修を受けた法学専攻の学生がニュースグループの記事を
  見て、どのようなコンテントが存在するかという調査と3レベル(1)問題なし、
  2)有害の可能性あり、3)違法の可能性あり)の最初の格付けを行う。その後、
  定期的に再調査を実施し、利用者又はインターネットサービスプロバイダーか
  ら苦情があった場合にはその都度精査することとなっている。監視により収集
  した情報を警察に提出することはしないが、法を著しく逸脱しているものがあ
  れば、インターネットサービスプロバイダーに対し収集情報を提供することと
  なっている。

 (4) その他
   オランダにおいては、児童ポルノに関するコンテントの通報を受け、掲載者
  への削除警告やプロバイダーや警察に通報するMeldpunt Kinderpornoeが活動し
  ている。また、ノルウェーにおいても、児童ポルノに関するコンテントの通報
  を受け違法性を検討し、警察に通報するRedd Barnaと児童オンブズマンの共同
  プロジェクトがある。

5 諸外国における発信情報の保護と開示に関する制度 

 (1) アメリカ
  ア 通信の秘密に関する法制度
    通信法第705条は、通信の無権限な公表に関するもので、1)州際・国際
   通信に関する通信の存在、内容、実質、趣旨、効果又は意味の、当該通信の
   送受信に関与した者等による漏示・公表の原則的禁止、2)無権限者による無
   線通信の傍受及び傍受した通信の存在、内容、実質、趣旨、効果又は意味の
   漏示・公表の原則的禁止等を定める。
    また、通信法第222条は、顧客情報に関するもので、電気通信事業者が、
   顧客のネットワーク情報をサービスの提供に必要な範囲を越えて使用・開示
   することを禁止している。
    以上の他、電子通信プライバシー法は、以下のように合衆国法典第18編
   (刑法及び刑事手続法)の一部をなしており、捜査機関が電気通信等に関し
   て情報を入手する際の規律を定める。
   (ア)  第119章「有線及び電子的通信の傍受並びに口頭通信の傍受」
     第2510条以下
      口頭や電話による会話、電子的通信の傍受及び傍受の結果得られた情
     報の漏示の禁止等を定める。ここに、電子的通信とは、「記号、信号、
     文書、画像、音声、データ又はあらゆる性質の情報の伝達であって、そ
     の全体又は一部が、有線、無線、電磁的、光電子的又は写真光学的シス
     テムによりなされるもの」 を意味する。
   (イ) 第121章「蓄積された有線及び電子的通信並びに取引記録へのアクセ
     ス」第2701条以下
      電子的に蓄積された有線又は電子的通信の無権限アクセスの禁止等を
     定める。ここに、電子的蓄積とは、「1)有線又は電子的通信の電子的伝
     送に伴う当該通信の一時的、中間的蓄積、又は、2)電子的通信サービス
     による有線又は電子的通信のバックアップ保護目的での蓄積をいう」 
     (2510条(17))を意味する。
   (ウ) 第206章「ペンレジスター及び逆探知装置」第3121条以下
      ダイヤルされた電話番号等の信号を記録するペンレジスター及び逆探
     知装置の設置・使用の禁止等を定める。

    これらの規定は、電話等の従来型の通信サービスだけでなく、電子メール
   やホームページ・電子会議室等のインターネット上のサービスも対象として
   いる。

  イ 発信者情報の保護と開示に関する手続等
    以上の通信法第705条、第222条及び合衆国法典第18編(刑法及び
   刑事手続法)の(ア)〜(ウ)は、発信者情報をも保護していると解されるが、そ
   れぞれその例外となる場合を各種にわたり詳細に規定する。そして、通信法
   第705条においては、特に上記(ア)の第119章「有線及び電子的通信の傍
   受並びに口頭通信の傍受」によって許可される場合が例外に該当する旨明文
   で規定されている。

      表2.1 電子通信プライバシー法の原則と例外(抜粋)

       
      原 則      
    例 外(抜粋)    
第119章「有
線及び電子的通
信の傍受並びに
口頭通信の傍 
受」     
第2511条(1)で有線・口頭又
は電子的通信の故意の傍受   
(注1)、傍受の結果得られた 
情報の漏洩・使用の禁止等   
               
同条(2)に1)通信事業者の業務 
上又は権利・財産の防衛の必 
要、2)捜査機関の適法な活動へ
の協力、3)当事者の一方の同意
がある場合、等       
第121章「蓄
積された有線及
び電子的通信並
びに取引記録へ
のアクセス」 
       
第2702条は、公衆に対して 
電子的サービスを提供する人又 
は団体が、当該サービスにより 
電子的に蓄積されている内容  
(注2)を他の人又は団体に漏 
示することを禁止       
同条に1)当事者の一方の適法な
同意がある場合、2)当該サービ
スの提供又は当該サービスの提
供者の権利若しくは財産の保護
に必要な場合、等      
              
第206章「ペ
ンレジスター及
び逆探知装置」
       
       
       
       
第3121条(a)(d)でペンレジ 
スター・逆探知装置の設置又は 
使用の禁止          
               
               
               
               
同条(a)(b)に1)通信サービス事
業者の財産・権利を守ることに
関係する場合、2)サービスの違
法使用・不正使用からサービス
利用者を守ることに関係する場
合、3)サービス利用者の同意が
ある場合、等        
  (注1)「傍受」は、2510条(4)で「電子的、機械的又はその他の機器に
      よる、有線、口頭又は電子的通信の内容の聴覚又はその他の方法によ
      る捕捉」と定義されている。
  (注2)「内容」は、2510条(8)で、「有線、口頭又は電子的通信に関して
      用いられる場合には、それらの通信の実質、趣旨又は意味についての
      情報を含む」とされている。

 (参考)1996年にジョージア州は匿名又はペンネームによるインターネット
    の通信を禁じる法を発効させたが、ACLU(American Civil Liberties 
    Union;アメリカ市民自由連合)等は、同法の違憲性を主張して提訴し、1
    997年6月、裁判所は同法の効力を暫定的に差し止める命令を出してい
    る。

 (2) 欧州連合(EU)

  ア EU委員会報告「インターネット上の違法・有害コンテント」
    EUでは、1996年に出された「インターネット上の違法・有害コンテ
   ント」において、インターネットの匿名的利用に関する記述があり、ユーザ
   が匿名的な利用を望む理由(表明した見解への報復の懸念や、受信者が送信
   者の個人情報を利用する方法に信頼を持てないことなどが含まれる)のよう
   な匿名性の正当な必要性と法的な探知可能性の原理の調和を図るべきである
   と指摘している。

  イ 電気通信分野における個人データ保護指令
    1997年に成立した「電気通信分野における個人データ処理及びプライ
   バシー保護に関する欧州議会及び欧州理事会指令」9条(a)において、「悪意、
   あるいは迷惑な通信があった際に、その逆探知を加入者が要請するのに応え
   るためには、発信者IDの非通知を覆すことを可能とする方法に関して、透
   明な手続きが存在するよう確保しなければならない。」とし、併せて「この
   場合には、国内法の規定に従って、公衆通信網キャリアあるいは電気通信 
   サービス事業者は、発信者IDを含むデータを蓄積し、利用することができ
   る。」としている。

 (3) イギリス

  ア 通信の秘密に関する法制度
    通信の秘密の保護については、電気通信法第45条で保護されており、公
   衆電気通信システムの運営に従事する者が、1)公衆電気通信システムによる
   伝送の過程において傍受された通信の内容、2)公衆電気通信システムによっ
   て他の者に提供される電気通信サービスの使用に関する情報、を意図的に他
   人に開示した者は有罪とされる。
    この電気通信法第45条は、電話の他、電子メール、ホームページや電子
   掲示板のようなインターネット上のサービスについても適用がある。

  イ 発信者情報の保護
    発信者情報については、電気通信法第45条により保護される電気通信
   サービスの使用に関する情報であると解せられる。また、それに加えて発信
   者情報の保護に関して、プロバイダーを含む事業者が考慮しなければならな
   い事項としては、データ保護法がある。

  ウ 発信者情報の開示に関する手続等
    電気通信法第45条は、「公衆電気通信システムによって他人のために提
   供される電気通信サービスの利用が行われたことに関する情報」を例外的に
   開示できる場合を規定しており、1)犯罪の防止、捜査又は刑事手続の目的の
   場合、2)国家安全の利益のため又は裁判所の命令に従って行う場合、には開
   示されるとしている。このようなことからBTのマリシャスコールセンター
   が、従来から電話についてではあるが逆探知を実施している。
    イギリスにおいては、迷惑通信自体が電気通信法第43条で犯罪を構成す
   ることとされていることと、データ保護法の存在により、発信者情報の開示
   については全般的に刑事手続になると解される。
    刑事の手続について、警察は、まず"letter"(1984年データ保護法第
   28条(3)を引用したもので新法施行後も同様である。)をプロバイダーに提
   出し、情報の開示を求める。プロバイダーが協力しない場合には、令状
   (warrant)により開示を求めることとなる。これらについて、被害者は告訴
   があった時点で加害者を知るのが通例で、これはインターネットの場合も同
   様のようである。

 (4) ドイツ

  ア 通信の秘密に関する法制度
    憲法的レベルにおける保護として、ボン基本法第10条第1項は通信の秘
   密の不可侵を定めるが、同条2項では、制限は法律の根拠にのみ基づいてこ
   れを命ずることが許されるとしている。
    一方、法律レベルとしては、電気通信法第85条は、1)電気業務関係者へ
   の「電気通信の秘密」保護の義務づけ、2)電気業務関係者が電気通信の内容
   や具体的な状況に関する情報の必要な範囲を越えた入手の禁止、等を規定し
   ている。

    テレサービスについては、マルチメディア法の中のテレサービス・データ
   保護法第4条(2)に、利用者がテレサービスを第三者に知られることがないよ
   うに利用できる措置をサービス提供者に義務づける規定がある。 

  イ 発信者情報の保護
    電気通信法第85条は、電気通信の内容及び電気通信の詳細な情況、特に
   ある人がある電気通信に参加している、あるいは参加したという事実を電気
   通信の秘密としており、これは電話のほか、電子メールにも適用される。
    また、ホームページやテレサービスにおける利用者の利用に関する情報に
   ついては、以上に述べたテレサービス・データ保護法第4条(2)や利用プロフ
   ィールの取扱いを定める同条(4)などで保護されていると解される。一方、テ
   レサービスを商業的に提供する者については、氏名及び住所等の表示義務が
   あり、メディアサービスについてもメディアサービスに関する州際協定第6
   条により同様に編集責任者の氏名及び住所の表示が義務付けられている。

  ウ 発信者情報の開示に関する手続等
   1)電気通信全般について
     電気通信設備法第12条は、犯罪捜査のため、裁判官及び危険が差し迫
    っている場合は検察庁も、電気通信に関する情報を要求することができる
    としており、基本法第10条の基本権はこの範囲で制限されるとしている。
   2)電話について
     1996年7月に成立した電気通信法の第89条はデータ保護を定める
    が、電話についての不適正利用の場合の発信元の電話番号並びにこの電話
    番号から被害者への発信を、当該電話番号の加入者の名前と住所を含めて
    被害者に通知するための手続等を定めている。この手続は、1)当該利用者
    が書面により、脅迫電話又は嫌がらせ電話を受けていることを訴え、2)当
    該利用者があらかじめ問題の電話の日付と時刻を特定した場合、3)盗聴の
    濫用を排除できる方法の範囲内においてとられる。この通知を行った場合、
    当該加入者に対して、原則としてそのような通知を行った旨を後から知ら
    せることとしている。

 (5) フランス

  ア 通信の秘密に関する法制度
    郵便・電気通信法典L32−3条では、「公営事業者、一般に開かれたネ
   ットワークの設置を許可された者、電気通信サービスの提供者並びにこれら
   の従業者は、通信の秘密を遵守するものとする」とされている。
    また、電気通信を通じて、発信・伝搬あるいは受信された通信内容の傍受、
   盗聴は刑罰の対象となることも法律に定められている(刑法典第226−1
   5条)。この手続の中で規定される例外は、司法当局による盗聴又は首相に
   より許可された国家保安の盗聴のみである。

  イ 発信者情報の保護について
    郵便・電気通信法典L32−3条で保護される通信の秘密については、通
   信の内容ばかりではなく、通信の経路、料金の請求、顧客や通信の管理に関
   する技術的・商業的な情報に対しても適用される。

  ウ 発信者情報の開示について
    電話については、郵便・電気通信法典34−10条に関連する規定があり、
   公衆ネットワークの全ての加入者は、電話による発信者情報表示に反対する
   ことができる旨規定しているが、迷惑電話を回避する場合はこの例外として
   いる。この点に関する政令D−98は、発信者情報(番号又は姓名)の非表
   示機能の無料提供等を定めるとともに、この非表示機能が、電話の受け手の
   平穏等の理由から特別に抹消される措置も行われる旨も規定している。ただ、
   この規定の実際の運用は、警察の関与がある場合に限定されており、被害者
   は警察に申し出ることが必要であるようである。


戻る