資料32 京都議定書における国家間協力



資料32-1 共同実施・共同実施活動・クリーン開発メカニズム

1 共同実施(Joint Implementation)
   各国が有する地球温暖化防止に関する技術、ノウハウ、資金等を組み合わせ
  ることにより世界全体として地球温暖化防止対策を費用効果的に実施すること
  を目的として、気候変動枠組条約の交渉段階において提案されたものである。
   具体的には、同条約第4条2 (a)(先進締結国が温室効果ガスの排出量を2000
  年に1990年レベルに戻すことを目指して政策・措置をとることを約束)におい
  て、先進国(附属書I締結国)が「(温暖化防止のための)政策及び措置を他の
  締結国と共同して実施すること並びに他の締結国によるこの条約の目的、特に、
  この(a)の規定の目的の達成への貢献について当該締結国を支援することもあり
  得る。」と規定された。ただし、共同実施の参加国をはじめとする具体的な実
  施方法等の基準は条約において規定されず、同条約第4条2 (d)により「締結国
  会議は、第1回会合において共同の実施のための基準等に関する決定を行う。」
  とされた。実際の第1回締結国会議(COP1:ベルリン:1995/03-04)では、共同実
  施を進めるための諸条件についての国際合意が得られず(先進国−途上国間の
  対立が主因)、代わって次に示す「共同実施活動」が行われることとなった。
   そして、1997年末に開かれた第3回締結国会議(COP3:京都:1997/12)では、
  先進国間での共同実施*について国際合意が得られた(京都議定書第6条)。ま
  た、先進国と途上国の間では、共同実施とよく似た「クリーン開発メカニズ
  ム」を採用することが決まった。

  *議定書では「共同実施」という表現ではなく「排出削減単位量の移転及び取
   得」という表現(第6条)になっている。

2 共同実施活動(Activities Implemented Jointly)
   COP1で国際合意の得られなかった「共同実施」に代わるものとして導入され
  た概念であり、その要点は以下のとおり。
 ・ 附属書I締結国(先進国)間、または希望するその他の国の自主的な参加を認
  めること。
 ・ 附属書I締結国の温室効果ガス抑制に関する約束を果たすものではないこと。
 ・ 技術移転に関する附属書I締結国の約束の履行に寄与すること。
 ・ プロジェクトの資金は附属書II締結国(附属書I締結国から経済移行期諸国
  (東欧、ロシア等)を除いた国々)に課せられた資金面の義務に対して追加的
  なものであり、かつ現行のODAに対して追加的なものでなければならないこと。
 ・ 1990年代末までをパイロット・フェーズ(試験的実施期間)とし、条約締結国
  会議ではその継続について決定できるようにSBSTA(Subsidiary Body for 
  Scientific and Technological Advice: 科学上及び技術上の助言に関する補助
  機関)がまとめる統合報告書に基づき進捗状況のレビューを行うこと。
 ・ パイロット・フェーズでの経験、検討を踏まえて2000年以降に見直しを行うこ
  と。

 現在、共同実施活動に主体参加しSBSTAに報告を行っている国は、次の12カ国である。

 オーストラリア*、カナダ*、コスタリカ、ドイツ、日本、メキシコ、オランダ*、
 ノルウェー、ポーランド、スウェーデン、スイス、米国
  *を付した国は1996年以降新しい報告を行っていない。

  また、SBSTAにプロジェクトベースで報告が提出されている共同実施活動プ
 ロジェクトは次の62件である。

  分野  
     
  参加国  
       
期間
(年)
  期待効果  
  (CO2換算t)  
植林   
米国,コスタリカ  
 25
   21,776,749
植林   
米国,ロシア   
 40
     292,728
農業   
米国,メキシコ   
 10
       437
エネルギー効率
スウェーデン,エストニア 
 10
      2,000
エネルギー効率
スウェーデン,ラトビア 
 10
     30,850
エネルギー効率
スウェーデン,ラトビア 
 10
     40,000
エネルギー効率
ノルウェー,ブルキナファソ
  6
    1,450,000
エネルギー効率
オランダ,ルーマニア  
  5
    1,092,000
エネルギー効率
オランダ,ハンガリー 
 20
     240,000
エネルギー効率
ノルウェー,メキシコ  
 4.5
     531,000
エネルギー効率
オランダ,ロシア   
  -
        -
エネルギー効率
スウェーデン,エストニア 
 10
      3,900
エネルギー効率
スウェーデン,ラトビア 
 10
      4,120
エネルギー効率
スウェーデン,ラトビア 
 10
       800
エネルギー効率
ドイツ,ロシア   
  -
        -
エネルギー効率
スウェーデン,エストニア 
 10
      3,700
エネルギー効率
スウェーデン,エストニア 
 10
      3,000
エネルギー効率
スウェーデン,エストニア 
 10
      8,500
エネルギー効率
スウェーデン,ラトビア 
 10
      3,350
エネルギー効率
スウェーデン,ラトビア 
 10
      2,100
エネルギー効率
スウェーデン,エストニア 
 10
      9,100
エネルギー効率
スウェーデン,エストニア 
 10
      7,000
エネルギー効率
スウェーデン,エストニア 
 10
      2,200
エネルギー効率
スウェーデン,エストニア 
 10
     40,000
森林保護 
米国,コスタリカ  
 16
    1,342,733
森林保護 
オランダ,チェコ   
 15
    9,834,120
森林保護 
米国,インドネシア 
 40
     206,800
森林保護 
米国,ベリーズ  
 40
    4,801,478
森林再生 
米国,コスタリカ  
 40
    7,216,000
森林再生 
ノルウェー,コスタリカ  
 25
     846,405
森林再生 
     
米国,メキシコ   
       
 30
  
     55,000-
    1,210,000

  分野   
       
  参加国  
       
期間
(年)
 期待効果 
(CO2換算t)
森林再生   
米国,コスタリカ  
 51
18,480,000
燃料転換   
ノルウェー,ポーランド
 17
 2,408,886
燃料転換   
オランダ,ハンガリー 
 20
   7,400
ガス回収    
米国,ロシア   
 25
30,000,666
ガス回収    
オランダ,ロシア  
  -
     -
再生可能エネルギー
米国,コスタリカ  
 20
  36,194
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  254,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  132,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  86,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  130,000
再生可能エネルギー
米国,コスタリカ  
 15
  210,566
再生可能エネルギー
米国,ニカラグア 
 40
19,765,628
再生可能エネルギー
スウェーデン,エストニア
 10
  124,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  38,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  24,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  94,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,エストニア
 10
   8,100
再生可能エネルギー
スウェーデン,エストニア
 10
  81,000
再生可能エネルギー
米国,コスタリカ  
 21
  222,538
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  24,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  39,000
再生可能エネルギー
米国,ホンジュラス 
 24
  17,192
再生可能エネルギー
スウェーデン,エストニア
 10
  98,000
再生可能エネルギー
米国,コスタリカ  
 13
  118,611
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  44,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,エストニア
 10
  64,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  30,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,ラトビア
 10
  24,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,エストニア
 10
  98,000
再生可能エネルギー
スウェーデン,エストニア
 10
  114,000
再生可能エネルギー
ドイツ,エストニア  
 10
  12,579

 出典:国連気候変動枠組条約事務局資料
   我が国では、平成7年(1995年)11月の「地球環境保全に関する関係
  閣僚会議幹事会」及び「総合エネルギー対策推進閣僚会議」の合同会議におい
  て「気候 変動枠組条約に係るパイロット・フェーズにおける共同実施活動に向
  けた我が国の基本的枠組み(共同実施活動ジャパン・プログラム)」を申し合
  わせ、平成8年(1996年)7月には、それに基づく共同実施活動として、
  次の11件のプロジェクトが認定されている(我が国はこの取組についてCO
  Pに国家プロジェクトとして報告し、共同実施活動に向けての取組であると認
  定されているが、プロジェクトベースの報告をSBSTAにまだ提出していな
  いため、上記リストに下記のプロジェクトは含まれていない)。

  プロジェクト名  
           
           
 国内の参加主体 
         
         
 国外の参加主体 
         
         
プロジェクトの 
対象とする 
温室効果ガス
中国大連市における小 
型石炭ボイラーの燃焼 
改善 事業       
北九州市     
         
         
中華人民共和国  
大連市(環境保護局)
         
CO2   
      
      
インドネシアにおける太
陽電池パネルを利用した
地域電化事業     
ソーラーネット  
         
         
インドネシア   
(YAMASANGENI)  
         
CO2   
      
      
中国におけるコークス 
炉乾式消化設備モデル 
事業         
新エネルギー・  
産業技術     
総合開発機構(NEDO)
中華人民共和国  
(冶金工業部)  
         
CO2   
      
      
タイにおける既設火力 
発電所の運用改善による
熱効率修復事業(運転操
作、保守管理面からの 
省エネ診断と改善提案)
関西電力(株)    
中部電力(株)    
電源開発(株)    
         
         
タイ国発電公社  
 (EGAT)      
         
         
         
CO2   
      
      
      
      
インドネシアにおける 
地方電化事業     
           
           
           
           
東京電力(株)    
関西電力(株)    
(E7が共同推進)  
E7:東電、関電、独 
 、仏、伊、米、加
の各国主要電力会社
インドネシア   
(科学技術応用庁) 
         
         
         
         
CO2   
      
      
      
      
      
マレーシア国サバ州に 
おける植林事業    
(財)国際緑化推進 
  センター   
マレーシア    
(サバ州林業公社)
CO2   
      
インドネシア共和国ヌサ
テンガラ州における植林
事業         
(財)国際緑化推進 
  センター   
         
インドネシア   
(林業省造林総局)
         
CO2   
      
      
ケニア共和国における郷
土樹種による森林造成 
事業         
(財)ニッセイ緑の 
  財団     
         
ケニア      
ケニア林業研究所 
(KEFRI)      
CO2   
      
      
インドネシア共和国バリ
州における火山性荒廃地
の植林事業      
(財)ニッセイ緑の 
  財団     
         
インドネシア   
(林業省造林総局)
         
CO2   
      
      
インドネシア共和国東 
カリマンタン州における
実験林造成事業    
           
住友林業(株)    
         
         
         
インドネシア   
KUTAI TIMBER   
INDONESIA社 及び 
林業省研究開発庁 
CO2   
      
      
      
中国内モンゴル自治区サ
ハラ砂漠周辺域における
植林事業       
地球緑化センター 
         
         
内モンゴル    
(伊金霍洛旗人民 
 政府)     
CO2   
      
      
 出典:環境庁編「日本の環境対策は進んでいるかII」(1997)


3 クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism)
   クリーン開発メカニズムは、COP3において、ブラジルから提案されてい
  た罰金の考え方と、先進国・途上国間の共同実施の考え方を組み合わせたメカ
  ニズムとして採択されたものである。
  クリーン開発メカニズムの目的は、「途上国が持続可能な発展を達成すると共
  に、気候変動枠組条約の究極の目的に貢献するよう支援し、先進国が温室効果
  ガスの削減目標を達成することを支援すること」にあり、そのため、先進国 
  は、途上国における事業による温室効果ガス削減量を目標達成に算入すること
  ができるとされている(京都議定書第12条)。
   ただし、先進国間の共同実施についてと同様に、クリーン開発メカニズムに
  ついても、その方法、ガイドライン等の詳細についてはCOP4(ブエノスア
  イレス:1998/11)と同時に開かれる京都議定書第1回締結国会議(MO
  P1)以降に決定が先送りされた。



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