発表日  : 1998年 6月18日(木)

タイトル : 情報通信の利用による高齢者・障害者の生活支援〜「ライフサポート(生活支援)情報通信システム推進研究会」報告〜





  ◆◆「高度情報通信の活用による人にやさしい社会の実現」◆◆  
      情報通信の利用による高齢者・障害者の生活支援     
 〜「ライフサポート(生活支援)情報通信システム推進研究会」報告〜

 郵政省と厚生省は、平成9年(1997年)11月より「ライフサポート
(生活支援)情報通信システム推進研究会(座長:酒井善則 東京工業大学
教授)」を開催してきましたが、このたびその検討結果を報告書として取り
まとめました。
 本報告書では、高齢者・障害者の利便を向上させる情報通信システム(ラ
イフサポート(生活支援)情報通信システム)の望ましい発展の方向性を検
討し、その実現方策について提言を行っています。
 本報告を受け、郵政省、厚生省は連携を図りつつできる限り早期に提言内
容の実現を図るよう検討を行っていくこととします。
 報告書の主な内容は以下のとおりです。

1 情報通信は、社会福祉の転換の基盤の一つであるととも
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  に高齢者・障害者の自立、社会参加を促進
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 情報通信は、利用者の希望を尊重した福祉サービスの効率的な提供を可能
とするなど、社会福祉の転換の基盤の一つであるとともに、高齢者・障害者
に新たなコミュニケーションの手段を提供することでこれらの方々の自立、
社会参加を促進。

2 システムの望ましい発展の方向性(将来像)を提示
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 システム導入の現状を調査し、機能ごとに次の2つに類型化。
  1)福祉サービス提供・支援システム
   在宅健康管理、訪問看護婦支援など利用者の希望を尊重した福祉サー
   ビスの効率的な提供を可能とするシステム
  2)社会参加支援システム
   音声ナビゲーションシステムや障害者パソコンネットワークなど、高
   齢者・障害者の社会参加を支援するシステム
 さらに、その望ましい発展の方向性(将来像)を、それぞれのシステムご
とに提示。
 また、高齢者の約8割、障害者の約7割がインターネットの利用経験がな
いなど、高齢者・障害者による情報通信利用状況を紹介。

3 電気通信設備のアクセシビリティ指針の策定
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 ユニバーサルデザイン(すべての人が使えるようにデザインするという考え
方)の理念に基づき、高齢者・障害者の情報通信の円滑な利用を可能とするた
めに電気通信設備が備えるべき機能を示す「電気通信設備のアクセシビリ
ティ指針」を策定。更にその普及と定期的見直し等を実施する協議会の設立
を提言。
(参考)アクセシビリティ  利用者が電気通信を円滑に利用することが可能で
    あること米国においては、電気通信法第255条において、指針の策定
    を義務付け

4 3つの観点からの普及方策
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                  郵政省 連絡先:通信政策局情報企画課 
                     (担当:大西課長補佐、安永係長)
                      電 話:03-3504-4954     
                                     
                  厚生省 連絡先:大 臣 官 房 政 策 課 
                         情報化・地域政策推進室 
                     (担当:柳澤室長補佐、富田係長)
                      電 話:03-3595-2159     



    「ライフサポート情報通信システム推進研究会」構成員    

                           (敬称略、五十音順)
 あんどう とよき
 安藤 豊喜  財団法人全日本聾唖連盟 理事長

 いのうえ あきら
 井上 皎  社団法人テレコムサービス協会 事務局長

 い は ら まさみ
 伊原 正躬  財団法人長寿社会開発センター 専務理事


 おおしま まりこ
 大島眞理子  シニアライフアドバイザー

 かがみ たかし
 加々見 隆  内閣総理大臣官房 参事官(総理府障害者施策推進本部担
        当室長)

 かわじり たかお
 川尻 禮郎  財団法人全国老人クラブ連合会 事務局長

 さかい よしのり
◎酒井 善則  東京工業大学工学部 教授

 たかおか  ただし
 高岡 正  社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事長

 たかはし ひろし
 高橋 紘士  立教大学社会学部 教授

 つのだ かねひさ
 角田 兼久  社団法人日本ケーブルテレビ連盟 専務理事

 はまだ じゅん
 浜田 淳  総務庁長官官房 参事官(高齢社会対策担当)

 はやし よしお
 林 喜男  日本人間工学会 会長/慶應義塾大学 名誉教授

 ふるかわ ひろし
 古川 弘志  社団法人電波産業会 専務理事

 ますざわ たかよし
 増澤 孝吉  通信機械工業会 常務理事

 まつお さかえ
 松尾 榮  社会福祉法人日本身体障害者団体連合会 会長

 まつお たけまさ
 松尾 武昌  社会福祉法人全国社会福祉協議会 常務理事

 みずの ただし
 水野 忠  高齢者・障害者支援情報通信提供・開発協議会

 みやはら ひであき
 宮原 英明  社団法人電気通信事業者協会 専務理事

 むらたに まさひろ
 村谷 昌弘  社会福祉法人日本盲人会連合 会長

◎座長



「ライフサポート(生活支援)情報通信システム推進研究会」報告書概要



第1章 目的                                                            
 高齢化の急速な進展等の社会状況の変化、情報通信技術の進展を背景に、高齢
者・障害者の利便の増進を図る手段としての情報通信の利用が注目されている。
 現在、高齢者の健康データを福祉関係機関等に送信し、健康管理を行っている例、
パソコン通信を利用し、障害者間又は障害者とその他の者間で情報交換等を行って
いる例、高齢者を主たる構成員とし、パソコン通信等によりお互いの交流を図って
いる団体を自主的に運営している例など全国各地で様々な取組が行われているが、
その効果、活用の在り方等については整理されていない。
 そこで、高齢者・障害者の利便を向上させるシステムをライフサポート(生活支
援)情報通信システムと定義し、その意義、現状等について調査、検討すると共に、
今後の発展の方向性、その実現方策等について検討、提言する。
 本調査研究により、情報通信の活用は、高齢者・障害者の方々の自立・社会参加
とそれを通じた生活の質の向上に極めて有意義であることが明らかになったところ
であり、本調査研究での提言の実行等により、今後高齢者・障害者の生活に情報通
信システムが根付き、その活用により、これらの方々が健康に、あるいはそれ以外
の者と同等に、生きがいを持ち、安心して過ごせる社会を実現していくことが望ま
れる。

第2章 ライフサポート(生活支援)情報通信システムを取り巻く環境        
1 高齢者・障害者を取り巻く環境
 少子・高齢化の進展や障害者数の増加、多様化を背景に、福祉サービスの範囲の
拡大と質の向上への要求が高まっている。
 こうした中で、社会福祉の在り方が、誰もが、自らの意思と選択に基づく利用者
の希望を尊重した質の高い福祉サービスを総合的に受けられる方向へ変化しつつあ
る。
 また、高齢者人口の8割を占める、健康な高齢者の生きがいづくりと社会参加の
支援が重要な課題となっている。

2 最近の情報通信の動向
 近年の情報通信は、加入者系の光ファイバの整備、移動体通信の高速化・グロー
バル化、放送のデジタル化等を通じて、使いやすく多彩で高機能なものへと進展し
ている。
 具体的には、高速大容量の情報を、個人単位で、双方向に、高い信頼性のもとで
やりとりすることが可能となりつつある。

3 ライフサポート(生活支援)情報通信システムの意義と機能
(1)高齢者・障害者のライフサポート(生活支援)情報通信システムの意義
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 1) 社会福祉の転換の基盤のひとつとしての情報通信
   情報通信の利用は、地方自治体、福祉サービス提供機関間での情報の共有、
  福祉情報の円滑な提供等を通じ、自らの意志と選択に基づく利用者の希望を尊
  重した福祉サービスをそのニーズに応じ、きめ細かく効率的に提供することを
  可能とする。
  即ち、情報通信は、社会福祉の転換の基盤のひとつとして位置付けられる。
  さらに、情報通信の利用により、高齢者・障害者のニーズに対応した新たな
  サービスの提供も可能となる。
 2) 社会参加支援のための情報通信
   情報通信は、高齢者・障害者にとって、新たなコミュニケーションの手段と
  なりうる。
   これにより、移動やコミュニケーション能力に制約を持つ高齢者・障害者の
  自立、社会参加を促進し、これらの方々がその他の者と同等に生活、活動でき
  る社会の実現に大きな役割を果たす。

(2)ライフサポート(生活支援)情報通信システムの類型
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 高齢者・障害者のライフサポート(生活支援)における情報通信の意義をかんが
み、ライフサポート(生活支援)情報通信システムの類型を整理すれば、以下のよ
うになる。
 1) 福祉サービス提供・支援システム
 ア 福祉サービス支援システム
   地方自治体、福祉サービス提供機関間での情報共有や円滑な情報の提供を可
  能とするシステム
 イ 福祉サービス提供システム
   高齢者・障害者のニーズに対応した新たなサービスを提供するシステム
 2) 社会参加支援システム
   高齢者・障害者に、新たなコミュニケーションの手段等を提供し、その社会
  参加を支援するシステム

(3)アクセシビリティの確保
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 ライフサポート(生活支援)情報通信システムが円滑に機能するためには、高齢
者・障害者自身による情報通信の利用が前提となる。そのため、高齢者・障害者が、
障害等にかかわらず円滑に情報通信を利用できること(アクセシビリティ)の確保
が必要である。

(4)「情報バリアフリー」環境の実現
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 情報化社会においては、高齢者・障害者等の「情報弱者」とそうでない人との間
に情報通信の利便を享受できなかったり、大量の情報流通の中で必要な情報を選
択・判断できないといった「情報格差」が発生し、それが社会的・経済的な格差に
つながる恐れがある。
 ライフサポート(生活支援)情報通信システムの開発、普及及びアクセシビリテ
ィの確保は、こうした格差を生じさせず、全ての人が情報通信の利便を享受できる
「情報バリアフリー」環境を実現するためにも有効である。

4 我が国のこれまでの取組
 政府は、「保健医療福祉分野における情報化実施指針」を策定し、保健医療福祉
分野の情報化を総合的に推進している。
 郵政省は、平成5年に「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者
利用円滑化事業の推進に関する法律」を制定し、これに基づき字幕番組・解説番組
の制作支援等に取り組んでいるほか、先進的なシステムの開発・普及に向けた施策
を行っている。

5 海外の動向
(1)ユニバーサルデザインの概念
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 高齢者・障害者をはじめとしたすべての人々が使えるようにデザインするという
考え方をユニバーサルデザインという。本概念は、海外では、高齢者・障害者のた
めだけでなく一般的な研究開発や情報通信利用環境の整備を推進する際に考慮すべ
き考え方として重視され、普及しつつある。
 本概念に基づき、電気通信のアクセシビリティの確保、高齢者・障害者が利用可
能な情報通信システムの研究開発、普及促進等が戦略的に展開されている。 

(2)指針の策定
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 欧米では、ユニバーサルデザインを普及させるための施策として、ユニバーサル
デザイン実現の機能的基準、方策等を示す指針が策定・公表されている。
 アメリカでは、1996年に成立した電気通信法第255条において、電気通信サービス
へのアクセスと利用の機会を障害を持つ個人に対して確保するよう電気通信事業者
に対して義務づけており、これを担保するため電気通信端末及び電気通信設備のア
クセシビリティに関する指針が策定されている。
 同様の動きが、W3C(World Wide Web Consortium:WWWの進展及び相互運
用性の確保を目的として設立された国際的コンソーシアム)等でも見られる。

(3)研究開発の実施
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 欧米においては、ユニバーサルデザインの概念の普及を図る観点から、高齢者・
障害者向け情報通信システム等の研究開発への公的機関による支援が行われている。
 欧州では、欧州委員会により、TIDE(Telematics for the Integration of 
Disabled and Elderly people)プログラムが推進されている。
 米国では、「テクノロジー関連の身体不自由者に対する援護法」に基づく研究開
発が推進されている。


第3章 ライフサポート(生活支援)情報通信システムの現状と課題について  
1 現状と課題
 全国における先進事例を調査したところ、現在ライフサポート(生活支援)情報
通信システムとしてその有効性が認められるものは以下のとおり。
(システムの概要は別紙1)
 1) 福祉サービス提供・支援システム
   在宅健康管理システム、緊急時対応システム、福祉情報等提供システム
 2) 社会参加支援システム
   障害者向けパソコン通信ネットワーク、オンラインショッピング、その他高
  齢者・障害者社会参加支援システム
   これらのシステムは、人員・費用の効率化、社会参加の促進等に一定の成果
  をあげている。
   しかし、現在はモデル事業が中心であり、本格的な普及・定着を図ることが
  今後の課題である。そのために、個人情報開示の基準等の制度的課題、イン
  ターフェースの向上等の技術的課題の解決が必要である。

2 高齢者・障害者の情報通信の利用状況
 ライフサポート(生活支援)情報通信システムが円滑に機能するためには、高齢
者・障害者自身が情報通信を円滑に利用可能であることが前提となる。
 しかし、パソコン通信、インターネットの利用について、高齢者は約8割、障害
者は約7割の人が利用経験が無いなど、特に新たな情報通信サービスに関して、高
齢者・障害者の利用は進展していない。その原因は、インターネット等そのものに
対する認識不足、通信端末の費用の高さなどである。
 また、高齢者・障害者は、情報通信端末の操作が複雑であると感じている。
 しかし、「情報バリアフリー」環境実現の観点からも、高齢者・障害者の情報通
信の利用を促進することが望ましく、そのために、
 1) 情報通信を利用することの有益性、利用方法等の周知・啓発
 2) 電気通信を円滑に利用可能とするための基準の策定
等が必要である。
 なお、高齢者・障害者共に潜在的には福祉サービス提供・支援情報通信システム
等に対する要望は強い。


第4章 ライフサポート(生活支援)情報通信システムの今後の展開          
1 ライフサポート(生活支援)情報通信システムの発展の方向性
(1)ライフサポート(生活支援)情報通信システムの将来モデルについて
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 高齢者・障害者を取り巻く状況と、情報通信システムの意義を踏まえれば、ライ
フサポート(生活支援)情報通信システムは、情報通信技術の高度化、情報通信基
盤の整備に伴い、システムの機能の高度化、統合化を図りながら、普及していくも
のと予想される。
 今後、普及・発展が予想されるシステムは以下のとおり。
 (システム概要は別紙1)。
 1) 福祉サービス提供・支援システム
 ア 福祉サービス支援システム
   在宅健康管理システム、訪問看護婦等支援システム
   介護保険関連システム
 イ 福祉サービス提供システム
   緊急時対応システム、無障壁(バリアフリー)情報提供システム
 2) 社会参加支援システム
   音声ナビゲーションシステム
   生活コミュニケーションネットワークシステム

(2)ライフサポート(生活支援)情報通信システムを円滑に機能させる環境
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 ライフサポート(生活支援)情報通信システムが将来普及し、円滑に機能するた
めには、制度的側面、情報通信基盤等に関し以下のような環境整備が必要である。
 1) 制度的側面
 ア 情報の共通化・共有化
   福祉関連機関が個別に蓄積する利用者情報(健康履歴等)をそれぞれ関連機
  関が必要に応じて共通利用できるようにしておくことが必要
 イ プライバシーへの配慮
   情報の標準化・共有化の進展に伴い、プライバシー情報の保護に関する問題
  が発生。技術的対応とともに、個人情報の利用規定の整備等の制度的対応が必
  要
 ウ 人的な支援
   高齢者・障害者が情報通信を利用する際にアドバイス等を行う人的支援が必
  要。そのための人材(アドバイザー)の育成を行うべき。
 2) 情報通信基盤面
   通信インフラ等の整備と費用
   光ファイバー等大容量通信網の早期整備と、誰もが利用しやすい料金体系の
  確立が必要
 3) その他
   コンテントの充実
   高齢者・障害者に魅力あるコンテントを提供できる環境の整備

2 アクセシビリティ指針の策定(別紙2)
 高齢者・障害者自身による情報通信の円滑な利用を実現するため、ユニバーサル
デザインの概念の我が国での普及・定着を図ることが重要。こうした観点から、電
気通信のアクセシビリティを確保するための指標としての電気通信設備の機能の基
準を示す「電気通信アクセシビリティ」指針を策定し、その周知、啓発を図る。

第5章 提言                                                            
1 国の果たすべき役割
 福祉サービス提供・支援システムについては、公共的なアプリケーションであり、
国が率先して開発、普及を行っていくべきである。
 その他のライフサポート(生活支援)情報通信システムの開発・普及は基本的に
は民間主導で行われることが望ましい。しかし、公共性は高いが、技術的困難さ、
市場の狭隘性等から、民間単独では開発・普及が難しいシステムの開発・普及等に
ついては、国が支援していくことが望ましい。
 また、「情報バリアフリー」環境の整備等のシステムを円滑に機能させるための
環境整備についても、国が率先して推進していく必要がある。 

2 提言
(1) ライフサポート(生活支援)情報通信システムの普及方策
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 1) 普及を図る上での課題の解決に資するモデル事業・実証実験の実施
   ライフサポート(生活支援)情報通信システムの本格的な普及に当たっての
  技術面、制度面及び運営面での課題を抽出すると共に、統一的な対応策を検討
  するためのモデル事業、実証実験の実施。

 2) ボランティア等の非営利活動に対する支援
   パソコンボランティア、ネットワークボランティア等高齢者・障害者の社会
  参加支援、情報通信の利用支援等に大きな役割を果たしている非営利団体の活
  動環境整備、支援の実施。

(2) 高度なライフサポート(生活支援)情報通信システムの実現方策
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 1) ライフサポート(生活支援)情報通信システムに関する研究開発の実施
   様々な障害に対応したメディア変換技術など、高度なライフサポート(生活
  支援)情報通信システム実現に必要な研究開発を推進。
   採算性等の問題から民間企業単独では充分な研究開発が期待できないことか
  ら、公的機関の支援が必要。

 2) 電気通信設備のアクセシビリティ指針の運営協議会の設置と普及支援
   今回策定した指針の定期的な見直しを行い、その内容の充実を図る。
   また、関係機関への幅広い周知、関係機関による協議会の設置、本指針を実
  現するために必要な研究開発の支援などによりその普及を図る。
 3) 企業におけるユニバーサルデザインの理念の普及促進
   ユニバーサルデザインの普及を戦略的に展開している欧米の動向を踏まえ、
  我が国でもユニバーサルデザインの考え方の普及・啓発に努める。

 4) 高齢者・障害者の情報通信利用特性に関する総合的な調査研究
   使い勝手の良いライフサポート(生活支援)情報通信システムの実現のため、
  公的機関を中心に高齢者・障害者の情報通信利用特性を体系的、総合的に調査
  し、こうした知識の蓄積、体系化を行う。

 5) システムの互換性・相互接続性確保のための企業間調整
   システムの互換性・相互接続性を確保するために、共通の技術基準の策定を
  民間企業に働きかけるなど、必要に応じて公的機関が調整を行う。

(3) ライフサポート(生活支援)情報通信システムが有効に機能する環境の実現
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  方策
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 1) アドバイザーの育成、カリキュラムの開発等の人的支援体制の整備
   高齢者・障害者の情報通信の円滑な利用を促進する人的な支援が必要。支援
  を行う人材(アドバイザー)の育成、カリキュラム作成等を推進する。

 2) 高齢者・障害者の情報リテラシーの向上支援
   情報化社会の意義、情報通信の利便性に関する周知、使いやすい情報通信設
  備の紹介、情報通信の利用に当たっての相談への対応等、多様な情報を提供し、
  高齢者・障害者等の情報リテラシーの向上を図る。
   また、郵便局の施設等を利用して開催している高齢者向けパソコン教室の充
  実等も必要。
 
 3) 福祉関係機関と情報通信関係機関の密接な連携
   ライフサポート(生活支援)情報通信システムの開発、普及及び運営に当た
  って、郵政省・厚生省等が情報の共有化と積極的な連携を図っていく必要があ
  る。

 4) ネットワークインフラの整備
   地域間格差の是正に配意しつつ、ネットワークインフラの総合的な整備を早
  急に推進する。
   同時に情報の料金、通信料金、端末設備の料金等を含んだ情報通信の利用に
  係る料金全体が、適正なものとなるよう配慮する。


                                  別紙1
   ライフサポート(生活支援)情報通信システムの現状と将来像(概要)
[1 福祉サービス提供・支援システム]
システムの名称  
現在のシステムの概要  
将  来  像      
1 在宅健康管理シ
ステム      
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
1) 健康相談システム  
電話または市販のテレ  
ビ会議システムを利用  
し、要介護者宅と病   
院、健康管理セン    
ター、健康福祉機関間  
等を結び、要介護者と  
医師や保健婦との健康  
相談、健康に関する講  
習会等を行うシステ   
ム。          
            
2) 健康管理システム  
健康管理用専用データ  
端末とCATV網を利  
用し、在宅の要介護者  
の健康データ(血圧、  
脈拍等)を定期的に健  
康管理センターに送   
信、そのデータを見な  
がら保健婦が健康相   
談、健康指導等を行う  
システム。       
            
3) 個人健康データ、ケア
記録等の共有システム  
健康管理システムで得  
たデータやケア記録等  
をデータベース化し、  
福祉機関とオンライン  
で結ぶことによりデー  
タを共有し、訪問看護  
や在宅介護サービス時  
に利用するシステム。  
1) 在宅健康管理システム 
(統合システム)     
現在の1)〜3)が統合化さ  
れる。          
要介護者宅と福祉関係機  
関間をネットワークで接  
続、映像を含む要介護者  
の健康管理データ、ケア  
記録等を基にした健康相  
談、福祉サービス提供が  
可能となる。       
             
2) 訪問看護婦等支援システ
ム            
要介護者宅を訪問する看  
護婦等が、携帯する小型  
端末を利用して映像を含  
むデータを遠隔地のデー  
タベースから取り込み、  
また看護の状況等を伝送  
し蓄積するシステム。   
これによりきめが細かい  
効率的なサービスを提   
供。           
             
3) 介護保険関連システム 
介護保険導入により発生  
する各種事務を効率的に  
処理するシステム。    
             
             
             
             
             
2 緊急時対応シス
テム       
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
1) 緊急通報システム  
独居老人宅等に緊急事  
態が生じた場合に、介  
護センター、親類等に  
通報(ペンダント型等  
の緊急通報ボタンを押  
下)を行い、受けた者  
は電話により通報者状  
況を把握した後、必要  
に応じ消防初等に連絡  
するなどの対応を行う  
システム。       
            
2) 行方不明老人等安全確
認システム       
徘徊癖のある老人等が  
外出し行き先が不明と  
なった場合、老人等に  
所持させた現在位置が  
確認できる通信端末   
(PHS改造型等)に  
より、その位置情報を  
無線回線網を利用して  
探索者に伝送、迅速な  
保護を可能とするシス  
テム。         
 現在は、実験段階。  
1) 緊急通報システム   
緊急事態が発生した場合  
に、自動的に福祉関連セ  
ンター等に通報し、即座  
に対処するシステムに発  
展。           
また、屋外での緊急時に  
も対応可能となる。    
             
             
             
             
             
2) 行方不明老人等安全確認
システム         
老人等が装着する端末の  
小型・軽量化によりシス  
テムが実用化される。   
GPS、D-GPSを利用したシ  
ステムが出現。      
家族等から情報端末を遠  
隔操作して近辺の画像情  
報等を伝送することで、  
近辺の状況の把握が可能  
となる。         
システムは、広域での対  
応が可能。        
3 福祉情報等提供
システム     
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
地方自治体、社会福祉協 
議会等がインターネット 
等を利用して福祉情報  
(デイサービスの空き情 
報等)、生活情報(求人 
情報等)、行政情報等  
を、提供するシステム。 
            
            
            
            
            
            
            
            
            
            
            
○ 無障壁(バリアフリー)
情報提供システム     
高齢者・障害者がネット  
ワークを通じて社会参加  
ができる情報提供システ  
ムが出現。        
データ放送、インター   
ネット等様々な伝送路に  
より、行政情報、福祉情  
報をはじめとする高齢者  
や障害者に有用な情報   
を、通信端末を利用して  
何時でも不自由なく(メ  
ディア変換機能)を利   
用)入手することが可能  
となる。         
対話型システムでエー   
ジェント機能も持つ。   

[2 社会参加支援システム]
システムの名称  
現在のシステムの概要 
将  来  像      
1 障害者向けパソ
コン通信ネットワー
ク        
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
パソコン通信・インター
ネットを利用して障害者
同士または障害者と健常
者間で情報交換・交流を
行うことにより障害者に
情報を提供するシステ 
ム。         
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
○ 生活コミュニケーション
ネットワークシステム   
高齢者・障害者の情報リ  
テラシー向上、システム  
のユニバーサルデザイン  
化等に伴い、参加者、機  
能ともに拡充。      
高齢者や障害者の社会と  
のコミュニケーションの  
手段となり、これを通じ  
自立、社会参加が図られ  
る。           
高齢者同士の情報交換等  
の他、趣味ネットワー   
ク、ボランティアの紹   
介、障害者の就労支援等  
の機能が拡充。      
インターネットの利用が  
主流となる。       
2 オンライン  
ショッピング   
         
         
         
         
         
         
インターネットを利用 
し、外出が困難な高齢 
者・障害者が在宅で商品
を注文、購入を可能とす
るシステム。特別に端末
を高齢者・障害者の利用
に配慮したシステムがあ
る。         
○ 社会の情報化の進展に伴
い、特に移動の困難な高齢 
者・障害者に広く普及。  
  高齢者・障害者にとって
の使い勝手も向上。    
             
             
             
3 音声ナビゲー 
ションシステム  
         
         
         
         
         
視覚に障害を持つ高齢者
や障害者が屋外で他人の
支援を受けず1人で活動
をするために現在地情報
等を通信端末を利用して
音声により確認するシス
テム。        
○ 端末、システムの機能の
高度化等に伴い普及が進展。
  周辺状況の提供や三次 
元音場を利用した情報提供 
により、視覚障害者の活動 
範囲が拡大。       
             
その他、ボランティアを募集する団体とボランティアを希望する者との「ボランテ
ィア活動の仲介」、通所授産設備等の障害者に対する「マルチメディア制作支援に
よる就業支援」等のインターネット等を利用した高齢者・障害者の社会参加支援シ
ステムが存在するが、これらのシステムについても他のシステムとの統合化、機能
の高度化がなされていくと考えられる。






                                  別紙2

          電気通信設備のアクセシビリティ指針

 高齢者・障害者をはじめとした全ての人が情報通信の利便を享受できる「情報バ
リアフリー」な環境を実現するためには、電気通信事業者等の民間事業者は、アク
セシビリティの確保に配慮しつつ情報通信ネットワークの構築・提供を行う必要が
ある。その際の指針となるべき基準を、電気通信設備の機能面から整理して策定し
たものが本指針である。
 本指針に準拠した電気通信設備が提供されることにより、高齢者・障害者を始め、
全ての人が円滑に電気通信を利用することが可能となり、「情報バリアフリー」な
環境の整備が進展することが期待される。
 なお、本指針は社会の変化、技術の変化などに対応できるものとするため、定期
的に見直されなければならない。また、見直しにあたっては、関係者の意見を幅広
く反映できるような仕組みとなっていることが必要である。

第1 目的
 電気通信のアクセシビリティを確保するための指標としての電気通信設備の機能
の基準を示すことにより、高齢者・障害者に配慮した情報通信利用環境を整備する
こと。

第2 定義
 本指針において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定めると
ころによる。
1 「電気通信設備」とは、電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気
 的設備をいう。
2 「アクセシビリティ」とは、利用者が円滑に電気通信を利用することが可能で
 あることをいう。

第3 アクセシビリティを確保するために必要な機能的基準
1 障害に関わらず入力を可能とするための基準
 電気通信設備は、視覚や聴覚に機能の低下がみられる者や知的障害者等の入力を
可能にするように配慮したものであると共に、以下の事項を満たす必要がある。
(a) 視覚に頼らなくても入力可能であること
(b) 色の識別を必要とせずに入力可能であること
(c) 聴覚に頼らなくても入力可能であること
(d) 限られた運動機能でも入力可能であること
(e) 義肢により入力可能であること
(f) 時間制限を設けることなく入力可能であること
(g) 発話に頼らなくても入力可能であること

2 障害に関わらず出力結果を利用するための基準
 電気通信設備は、それを利用するのに必要な情報の出力および表示に関し、視覚
や聴覚に機能の低下がみられる者の利用に配慮したものであると共に、以下の事項
を満たす必要がある。
(a)視覚的な情報を視覚に頼らない機能で提供可能であること
(b)動画方式の情報を静止させる機能を提供可能であること
(c)聴覚的な情報を聴覚に頼らない機能で提供可能であること

3 入出力の容易性を確保するための基準
 電気通信設備は、その入出力の容易性を確保するために、以下の事項を満たす必
要がある。
(a)入出力操作に必要なキー、ボタン等の位置が容易に確認できること
(b)基本的な通信環境の設定を、一つの指定・動作で行うことが可能であること
(c)操作中にいつでも初期状態または任意の状態に戻すことが可能であること
(d)ネットワークや通信相手との接続過程が、表示されること
(e)少なくとも一つの特定相手先へは、一つの指定・動作で接続可能であること
(f)一度入力した接続相手番号、接続相手アドレスなど接続に必要な相手先の情報を
登録し、再利用することが可能であること
(g)ユーザインターフェースのカスタム化が可能であること
(h)代替性および選択可能性
 電気通信設備の入出力機能は、複数の方式で利用できるようにすること。また、
入出力の際に希望の方式を選択できること

第4 相互接続性の確保
 電気通信設備が第3の1から3の事項を満たすことが困難なときは、当該設備は、
障害者等が通常使用している、障害を補いコミュニケーションを支援するための機
能を有する設備と相互接続性を有する必要がある。
 なお、これらの設備を接続する際には、当該設備に対して電波障害等の妨害を与
えないようにする必要がある。

第5 その他の配慮事項
1 設計、開発、評価
  電気通信設備の設計、開発にあたっては、アクセシビリティおよび相互接続性
 を評価し、できる限り早期にその評価を反映する必要がある。
2 仕様に関する情報・マニュアル
  電気通信設備の仕様に関する情報とマニュアルは、できる限り公開され、かつ
 媒体としてすべての人が容易にアクセス可能なものとする必要がある。
3 アクセシビリティおよび相互接続性の維持 
  電気通信設備のアクセシビリティおよび相互接続性については、製品の変更後
 も、本指針が定めている基準を引き続き満たす必要がある。